説明

X線装置及びX線測定方法

【課題】 試料を支持する試料板からの回折X線の影響を排除して、試料に関する正確なX線回折測定をできるようにする。
【解決手段】 単結晶試料板21によって支持する試料SにX線を照射し、試料Sから発生する回折X線を2次元X線検出器2によって検出し、検出された回折X線の座標及び強度をX線読取り装置によって読み取り、そしてその読取り結果に基づいて演算を行って回折X線強度分布を求めるX線測定装置である。単結晶試料板21から出る回折X線が2次元X線検出器2によって検出される座標位置を、回折X線強度分布の演算に寄与させないブランク領域として認識する。単結晶試料板21からの回折X線がX線強度の演算に算入されないので、試料Sからの回折X線だけに関して正確にX線強度分布を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、X線を用いて試料の結晶構造等に関する測定を行うX線装置及びX線測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】X線を用いて試料の内部状態を非破壊で測定する装置、すなわちX線装置では、測定対象である試料を所定位置に置く必要がある。この必要に応えるため、従来、試料を試料板に装填した状態でその試料板をX線光路に対して所定位置に置くという方法が知られている。
【0003】このような試料板として、従来、ガラスによって形成されたガラス試料板が知られている。しかしながらこのガラス試料板によって微量試料を支持して測定を行う場合には、試料が微量であるが故にその試料に向けられたX線がガラス試料板にも入射してしまい、ガラスのハロー(非晶質散乱)によってバックグラウンドが上昇し、そのため、P/B比(すなわち、Peak/Background比)が低下して測定精度が低下するという問題があった。
【0004】また、従来の試料板として、Si(シリコン)等の単結晶によって形成した、いわゆる単結晶試料板も知られている。この単結晶試料板は、試料に入射するX線が回折しないような結晶格子面を有する単結晶物質によって形成されるものであり、これを用いれば試料が微量であるためにX線が単結晶試料板に入射する場合でも、その単結晶試料板から回折X線が出ることを防止でき、その結果、高いP/B比を得ることができる。
【0005】ところで、従来、図7に示すような微小部X線回折装置が知られている。このX線回折装置では、ω回転装置53によって微小試料Sをω軸線の回りに回転させることにより、微小試料Sへ入射する入射X線R0 の入射角度を所定値に設定した状態で、試料Sをχ(カイ)回転装置51によってχ軸線の回りに回転させ、さらにφ回転装置56によってφ軸線の回りに回転すなわち面内回転させる。そして、試料Sから発生する回折X線R1を1次元検出器としてのPSPC(Position Sensitive Proportional Counter:位置感応型X線検出器)57によって検出する。
【0006】このように試料Sをχ軸回転及びφ軸回転させるのは、微小試料Sに関してはその内部に含まれる結晶の数が少ないので、その試料Sを不動の状態に保持したままでX線回折測定を行うと、データとしての回折X線を得ることができないおそれがあるので、そのような場合に試料Sをχ軸回転及びφ軸回転の直交2軸の回りに回転させることによってその試料SをX線に対してランダムに移動させる必要があるからである。
【0007】直交2軸回転によって試料Sをランダムに動かすということは、微小部X線回折装置に限られず、種々のX線回折測定において必要になる場合があるが、このような場合に上記の単結晶試料板を用いると、試料Sを直交2軸回転させるためにその単結晶試料板を同じく直交2軸回転させる必要があり、そのときに、単結晶試料板の結晶格子面が入射X線に対して回折条件を満足してしまう状態が出現し、測定対象である試料Sとは別に単結晶試料板から強度の強い回折X線が発生して、それが測定対象である試料Sからの回折X線と重なることにより正確な測定ができなくなるおそれがある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の問題点に鑑みて成されたものであり、試料を支持する試料板からの回折X線の影響を排除して、試料に関して非常に正確なX線回折測定を行うことができるX線装置及びX線測定方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】(1) 上記の目的を達成するため、本発明に係るX線装置は、試料にX線を照射してその試料から発生する回折X線を検出するX線露光部と、そのX線露光部で検出した回折X線を読み取るX線読取り部とを有するX線装置である。そして、前記X線露光部は、単結晶物質によって形成されていて試料を支持する単結晶試料板と、その試料に向けてX線を放射するX線源と、その試料板の周りに配設された2次元X線検出器とを有する。そして、前記X線読取り部は、前記2次元X線検出器内のデータを平面的に読み取って信号として出力するX線読取り手段と、そのX線読取り手段の出力信号に基づいて回折X線強度分布を演算によって求める演算手段とを有する。そして、その演算手段は、前記単結晶試料板から出る回折X線が前記2次元X線検出器によって検出される座標位置を、試料からの回折X線強度分布の演算に寄与させないブランク領域として認識することを特徴とする。
【0010】このX線装置によれば、単結晶試料板から発生する回折X線がブランク領域として認識されて演算から除外されるので、単結晶試料板によって支持される試料に関してX線測定を行う際、その単結晶試料板からの回折X線の影響を排除して試料に関して非常に正確なX線回折測定を行うことができる。
【0011】X線検出器としては、PC(Proportional Counter:比例計数管)、SC(Scintillation Counter:シンチレーション計数管)等のようにX線を点状に取り込む構造の、いわゆる0次元X線検出器や、PSPCのようにX線を直線状に取り込む構造の、いわゆる1次元X線検出器等がある。上記構成における2次元X線検出器とは、それらの0次元X線検出器や1次元X線検出器と異なって、平面内の任意の点においてX線を検出できるX線検出器のことである。このような2次元X線検出器としては、例えばX線フィルム、輝尽性蛍光体等が考えられる。
【0012】「ブランク領域」とは、回折X線強度分布の演算に寄与させない領域のことであり、この領域を実現するための具体的な処理は種々考えられる。例えば、通常の演算では2次元X線検出器における同一の回折角度(2θ)部分内の強度データを積分するという演算が行われることが多いが、その場合にはブランク領域に相当する座標位置にデータとして“0”を挿入しておくという方法が考えられる。
【0013】(2) 上記構成のX線装置に関しては、前記試料を面内回転させるφ回転手段を設けることができる。こうすれば、試料が微少量である場合でもその試料から発生する回折X線を、面内回転の間のいずれかのタイミングで捉えることができる。
【0014】(3) 上記構成のX線装置に関しては、前記試料の試料面を前記2次元X線検出器に対して傾斜移動させる傾斜移動手段と、前記試料に対するX線入射角度を変化させるためにその試料を回転させるω回転手段とを設けることができる。傾斜移動手段を設ければ、2次元X線検出器に対する試料の角度位置を適正位置に調節でき、さらにω回転手段を設ければ、試料に対する入射X線の入射角度を適正位置に調節できる。
【0015】(4) 上記構成のX線装置において、前記2次元X線検出器は輝尽性蛍光体によって形成されることが望ましい。この輝尽性蛍光体は、エネルギ蓄積型の放射性検出器であり、輝尽性蛍光物質、例えばBaFBr:Er2+ の微結晶を可撓性フィルム、平板状フィルム、その他の部材の表面に塗布等によって成膜したものである。この輝尽性蛍光体は、X線等をエネルギの形で蓄積することができ、さらにレーザ光等といった輝尽励起光の照射によりそのエネルギを外部に光として放出できる性質を有する物体である。
【0016】つまり、輝尽性蛍光体にX線等を照射すると、その照射された部分に対応する輝尽性蛍光体の内部にエネルギが潜像として蓄積され、さらにその輝尽性蛍光体にレーザ光等といった輝尽励起光を照射すると上記潜像エネルギが光となって外部へ放出される。この放出された光を光電管等によって検出することにより、潜像の形成に寄与したX線の回折角度及び強度を測定できる。この輝尽性蛍光体は従来のX線フィルムに対して10〜60倍の感度を有し、さらに105〜106に及ぶ広いダイナミックレンジを有する。
【0017】(5) 上記構成のX線装置において、前記試料の試料面は、前記2次元X線検出器の中心軸線に対して45°傾斜することが望ましい。こうすれば、試料からの試料面接線方向に沿って出る回折X線及び試料面垂直方向に沿って出る回折X線の両方を2次元X線検出器によって確実に検知できるようになる。つまり、2次元X線検出器による回折X線の取込み範囲を広くとることができる。
【0018】(6) 次に、本発明に係るX線測定方法は、単結晶物質によって形成された単結晶試料板によって試料を支持し、その試料にX線を照射し、その試料から発生する回折X線をその試料の周りに配設した2次元X線検出器によって検出し、その2次元X線検出器によって検出された回折X線の座標及び強度をX線読取り手段によって読み取り、そしてそのX線読取り手段の出力信号に基づいて演算手段によって演算を行って回折X線強度分布を求めるX線測定方法であって、前記演算手段は、前記単結晶試料板から出る回折X線が前記2次元X線検出器によって検出される座標位置を、試料からの回折X線強度分布の演算に寄与させないブランク領域として認識することを特徴とする。
【0019】このX線測定方法によれば、単結晶試料板から発生する回折X線がブランク領域として認識されて演算から除外されるので、単結晶試料板によって支持される試料に関してX線測定を行う際、その単結晶試料板からの回折X線の影響を排除して試料に関して非常に正確なX線回折測定を行うことができる。
【0020】(7) 上記構成のX線測定方法においては、試料を支持しない状態の単結晶試料板にX線を照射してその単結晶試料板からの回折X線を前記2次元X線検出器によって検出し、そのときに得られた回折X線の座標位置を前記ブランク領域と設定し、その後、単結晶試料板によって試料を支持して測定を行うことができる。
【0021】(8) また、上記構成のX線測定方法においては、前記試料を面内回転させながら測定を行うことができる。こうすれば、試料が微少量である場合でもその試料から発生する回折X線を、面内回転の間のいずれかのタイミングで捉えることができる。
【0022】(9) また、上記構成のX線測定方法において、前記2次元X線検出器は輝尽性蛍光体によって形成することができる。こうすれば、X線フィルム等を用いる場合に比べて、より高精度な測定を行うことができる。
【0023】(10) また、上記構成のX線測定方法において、前記試料の試料面は、前記2次元X線検出器の中心軸線に対して45°傾斜した状態で測定を受けることが望ましい。こうすれば、試料からの試料面接線方向に沿って出る回折X線及び試料面垂直方向に沿って出る回折X線の両方を2次元X線検出器によって確実に検知できるようになる。つまり、2次元X線検出器による回折X線の取込み範囲を広くとることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】図1及び図3は、本発明を微小部X線回折装置に実施した場合のX線装置の一実施形態を示している。この微小部X線回折装置は、図1に示すX線露光部R及び図3に示すX線読取り部Tによって構成される。
【0025】X線露光部Rは、X線を放射するX線源すなわちX線焦点Fと、X線焦点Fから放射されるX線を単色化するモノクロメータ3と、モノクロメータ3で単色化されたX線を微小断面径の平行X線ビームとして取り出すコリメータ4と、試料Sを支持する試料支持装置1と、そして、試料Sのまわりに円筒状に配置された2次元X線検出器としての輝尽性蛍光体2とを有する。
【0026】X線焦点Fは、例えばポイントフォーカスのX線焦点として形成される。また、モノクロメータ3は、例えば平板グラファイト結晶によって構成される。また、コリメータ4は、例えば断面径が10〜100μmの平行X線ビームを形成する。また、輝尽性蛍光体2はその内面が蛍光面となっている。
【0027】試料支持装置1は、φ軸線を中心として試料Sを回転すなわち面内回転させるφ回転装置6と、試料Sを試料中心Xの回りにアーク回転させるアーク揺動機構7と、そしてω軸線を中心として試料Sを回転させるω回転装置8とを有する。試料Sは試料板21に装填された状態でφ回転装置6に取り付けられる。本実施形態の場合は、ω回転装置8の上にアーク揺動機構7が載り、そのアーク揺動機構7の上にφ回転装置6が載っている。
【0028】試料板21は、図4に示すように、凹部23が形成された枠部材22と、その凹部23の底部に設けた単結晶板24とを有する。枠部材22は例えばステンレスによって形成され、単結晶板24は例えばSi(シリコン)単結晶板によって形成される。試料Sは、単結晶板24の上方の凹部23内に装填される。
【0029】図3に示すX線読取り部Tは、輝尽性蛍光体2を平面状に支持する支持台11と、レーザ光を放出するレーザ光源14と、レーザ光源14から放出されるレーザ光を反射する光反射部材13aと、支持台11に対向して配設されていて光反射部材13aからの光を受け取る走査光学系12と、そして光反射部材13bからの光を受け取るレーザ光検出器16とを有する。レーザ光検出器16は、例えば光電変換器を含んで構成される。
【0030】走査光学系12は走査駆動装置17によって駆動されて輝尽性蛍光体2の表面をX−Yの直交2方向すなわち平面方向へ走査する。走査光学系17は任意の平行移動機構を用いて構成できる。レーザ光検出器16は、光を受け取ってその光強度に対応した信号を出力する。そして、レーザ光検出器16の出力端子にはX線強度演算回路18が接続される。
【0031】演算装置26は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)28及びメモリ29を有する。CPU28は、バス27に接続された各種装置を制御するための演算を行う。また、メモリ29は、CPU28が使用するプログラムを格納するメモリ領域や、CPU28のためのワークエリアやテンポラリファイル等として作用するメモリ領域等を含むものであり、具体的には、半導体メモリ、ハードディスク、その他各種の記憶媒体によって形成できる。
【0032】上記のX線強度演算回路18及び走査駆動装置17は、ぞれぞれ、入出力インターフェース31を通してCPU28に接続される。また、入出力インターフェース31には、情報を映像として表示するためのCRTその他のディスプレイ32及び情報を紙等の印材上にプリントするためのプリンタ33が接続される。
【0033】以下、図1に示すX線露光部R及び図3に示すX線読取り部Tから成るX線装置の動作について説明する。なお、本X線装置を用いた測定では、初めに単結晶試料板21の単結晶板24に関して予備測定を行い、その後、単結晶試料板21に試料Sを装填した状態で本測定を行い、その本測定の結果を予備測定の結果によって補正することによって最終的な測定結果を得るという一連の処理が実行される。以下、各処理を個別に説明する。
【0034】(単結晶試料板21に関する予備測定)まず、図1のX線露光部Rにおいて、円筒状の輝尽性蛍光体2をその中心軸線がω軸線に一致するように設置する。また、試料Sが装填されていない試料板21を試料支持装置1のφ回転装置6の所定位置に取り付け、本測定時の測定条件と同じになるように単結晶板24すなわち単結晶試料板21の位置関係を調整する。
【0035】具体的には、図2に示すように、ω回転装置8を作動して単結晶試料板21の試料面に対するX線の入射角度θ0 を所定角度、例えば20°〜30°に設定する。ここで、単結晶試料板21の試料面とは、単結晶試料板21に試料Sを装填した場合にその試料Sの試料面と一致する面のことである。
【0036】次に、図1において、アーク揺動機構7を作動して単結晶試料板21の試料面が輝尽性蛍光体2の中心軸線従ってω軸線に対して傾斜角度θ1 、例えば略45°となるように調整する。この調整は、本実施形態では手動によって行うことにするが、アーク揺動機構7にモータその他の駆動源を付設することによって自動的に行うこともできる。
【0037】このように、単結晶試料板21の試料面を輝尽性蛍光体2に対して略45°で傾斜させるのは、試料Sに関して本測定を行う際にその試料Sから試料面接線方向に沿って出る回折X線R3 及び試料垂直方向に沿って出る回折X線R4 の両方が輝尽性蛍光体2によって検知できるようにするためである。よって、輝尽性蛍光体2の軸線方向(図の上下方向)の長さが長い等の理由により、試料面の傾斜角度が45°からずれる場合でも接線方向回折X線R3 及び垂直方向回折X線R4 の両方を輝尽性蛍光体2で検知できる場合には、必ずしも正確に45°に設定しなくても良い。
【0038】以上の設定の終了後、φ回転装置6を作動して単結晶試料板21従って単結晶板24をφ軸線を中心として回転すなわち面内回転させながら、X線焦点Fから放射されてモノクロメータ3及びコリメータ4を通過したX線を面内回転する単結晶板24へ入射させる。このとき、入射したX線と単結晶板24の結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると単結晶板24でX線の回折が生じる。
【0039】単結晶板24は単結晶物質によって形成されているので、回折X線は極限られた部位からだけ発生し、よって、輝尽性蛍光体2の表面には図5(a)に示すような、いくつかの回折点が得られる。図5(b)は、それらの回折点と回折角度との関係を示している。図中、■、■、■、………は各回折点に対応する等回折角度線を示している。
【0040】この輝尽性蛍光体2を図3のX線読取り部Tの支持台11に装着し、走査光学系12をX−Y平面内で走査移動させながらレーザ光を照射して読取りを行えば、CPU28の演算により、図5(a)の回折点すなわち回折X線像のX−Y平面内での座標位置を求めることができる。
【0041】CPU28は、そのようにして求められた単結晶板24に関する回折X線像の強度を等回折角度線ごとに合計、例えば積分することにより、図5(c)に示すように、各回折角度(2θ)ごとのX線強度を演算することができる。図5(c)において、■、■、■、………は図5(b)における各等回折角度線に対応している。
【0042】なお、本実施形態においてCPU28は、単結晶板24に関する回折X線像、すなわち各回折点Bの座標位置をブランク領域としてメモリ29(図3参照)に記憶する。
【0043】(試料Sに関する本測定)次に、図4に示すように単結晶試料板21に試料Sを装填し、その試料板21を図1のφ回転装置6の所定位置に取り付ける。そして、予備測定の場合と同じ光学条件の下でφ回転装置6を作動して試料Sをφ軸線を中心として回転すなわち面内回転させながら、X線焦点Fから放射されてモノクロメータ3及びコリメータ4を通過したX線を面内回転する試料Sの微小部へ入射させる。このとき、入射したX線と試料Sの結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると試料SでX線の回折が生じる。
【0044】試料Sに入射するX線は微小部に限られるので、その照射野に含まれる結晶粒は数が少ない。それ故、それらの結晶粒から発生する回折X線は特定の回折角度方向へ進むことになり、よって、SC(シンチレーション計数管)等といった0次元X線検出器や、PSPC(位置敏感型比例計数管)等といった1次元X線検出器ではそれらの回折X線を取り込むためにそれらのX線検出器を走査移動、すなわちχ軸回転させなければならない。これに対し、本実施形態によれば、試料Sをχ軸回転させることなくφ軸回転させるだけで、従来のχ軸及びφ軸の2軸線に関する回転と同様の測定を行うことができる。
【0045】また、φ軸回転に加えてχ軸回転させなければならない従来の方法では、それら2軸線の交差誤差に起因して試料SにおけるX線の照射野の広がりが大きくなってしまうことが多く、微小部領域をX線によって精度高く照射することに関して不十分であった。これに対し、χ軸線回りの回転が不要となってφ軸線回りの1軸回転だけで足りる本実施形態によれば、X線の照射野が広がることを防止でき、よって測定精度の低下を回避できる。
【0046】また、本実施形態では、試料のための回転駆動系を1つ省略できるので、装置の構造を簡単にできる。さらに、2次元X線検出器を用いるので、0次元X線検出器及び1次元X線検出器を用いる場合に比べて測定時間を短縮することができる。
【0047】図1のX線露光部Rにおいて上記のような露光処理が行われると、輝尽性蛍光体2の表面には、図6R>6(a)に示すように、試料Sからの回折X線によって露光される位置に回折点a、b、c、………、fが形成される。そしてさらに、試料Sを支持する単結晶板24(図4参照)からの回折X線に対応して図5(a)に示す回折点が『×』で示すように重ねて形成される。
【0048】図6(b)は、それらの回折点と図5(b)で示した等回折角度線■、■、■、………との関係を示している。試料Sに対応する回折点a、b、………、fは、等回折角度線■、■、■、………に載るものもあるし、それらから外れるものもある。
【0049】露光処理を終了した輝尽性蛍光体2は、図3R>3に示すX線読取り部Tにおいて読取り処理を受ける。そして、演算装置26内のCPU28は、輝尽性蛍光体2の表面に形成された回折X線像のX−Y座標位置及びX線強度を個々に求め、さらに同一の回折角度に属するX線強度の合計を演算、例えば積分によって求める。
【0050】今仮に、何等の補正も行うことなく、■、■、■、………あるいはその他の各等回折角度の個々に関してX線強度の積分を行えば、図6(c)に示すように、単結晶板24及び試料Sの両方からの回折X線が同一の回折角度である場合にはそれらが加算されて高いピークとなり、また、試料Sからの回折X線の回折角度が単結晶板24からの回折X線の回折角度と異なるときには、等回折角度線■、■、■、………、■と異なる位置に新たなピークが現れる。
【0051】図6(c)に示すX線強度分布は、単結晶板24の回折X線情報も含んでいるので、試料Sに関する正しいX線強度分布を示すものではない。この不都合を解消するため、CPU28は、先の予備測定においてブランク領域B(図5参照)として設定した座標位置を上記の積分演算に算入しないものとして取り扱い、試料Sからの回折X線だけを等回折角度線ごとに積分演算する。
【0052】この結果、図7に示すようなX線強度分布、すなわち、図6(c)の重複分布曲線から図5(c)の単結晶板相当の分布曲線を除いたものに相当するX線強度分布が得られる。観察者は、図7のグラフにおけるピーク位置及びピーク高さを調べることにより、試料Sの結晶構造等を知ることができる。
【0053】以上のように、本実施形態では、図4において試料Sを支持する単結晶板24からの回折X線をブランク領域と設定して積分演算の対象から除外するので、単結晶板24からの回折X線に影響されることなく試料Sからの回折X線だけに基づいてX線強度分布を正確に求めることができる。また、試料板としてガラスを用いる場合のようなハローによるP/B比の低下も見られない。
【0054】(その他の実施形態)以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0055】例えば、図1の実施形態では試料Sをω軸線に対して45°傾斜させた状態で測定を行うことにしたが、試料Sは45°以外の傾斜角度に設定することもできるし、あるいは傾斜角度0すなわち水平状態に設定することもできる。
【0056】また、図1の実施形態では、試料Sに照射するX線のビーム径を微小径に規制すること及び試料Sをφ軸線回りに面内回転させることを条件とする微小部X線回折測定を例に挙げたが、本発明はそのような微小部X線回折測定に適用されることに限定されず、試料Sを試料板によって支持する必要がある任意の種類のX線回折測定に対して適用できるものである。
【0057】また、図3に示すX線読取り部Tは単なる一例であり、具体的な構造はその他の種々の構造を採用できる。
【0058】また、図4に示す単結晶試料板21の実施形態では、単結晶板24と枠部材22を別体として形成したが、単結晶板24だけで試料板21の全体を形成することもできる。
【0059】また、図5(c)、図6(c)、図7に示したグラフは、回折X線強度分布を分かり易く示すための一例であり、ピークの分布状況及びピーク高さは試料Sの種類に応じて種々に変化するものである。
【0060】さらに、上記実施形態では、試料に関する本測定を行う前に単結晶試料板に関する予備測定を行うようにしたが、単結晶試料板に関する回折X線の回折角度が予め分かっている場合には、予備測定を行うことなく、その分かっている回折角度情報をキーボード等といった入力装置を介して演算装置へ入力し、その入力された領域をブランク領域と設定することもできる。
【0061】
【発明の効果】本発明に係るX線装置及びX線測定方法によれば、試料を支持するための試料板を単結晶物質を用いて形成するので、ガラスを用いて試料板を形成する場合に比べて、バックグラウンドを低減して高精度の測定を行うことができる。
【0062】また、X線検出器として2次元X線検出器を用いるので、試料が微少量である場合それを面内回転すなわち1軸回転させるだけで回折X線を捉えることができるようになり、従来のように試料を2軸回転させる必要が無くなる。2軸回転系においてはそれらの2軸の交差点を正確に1点に一致させることが難しく、そのため、試料に対するX線の照射野の面積が大きくなって微小部測定という本来の測定目的が達成できなくなるおそれがある。これに対し本発明では、用いられる回転系が1軸だけであるので試料に対するX線の照射野が広がることがなく、よって、測定対象である微小部だけにX線を正確に入射させることができる。
【0063】さらに、単結晶試料板から発生する回折X線がブランク領域として認識されて演算から除外されるので、測定対象である試料に入射するX線が単結晶試料板に入射する場合でも、単結晶試料板からの回折X線の影響を排除して試料に関するX線回折測定を非常に正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るX線装置の主要部であるX線露光部の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のX線露光部の平面図である。
【図3】本発明に係るX線装置の他の主要部であるX線読取り部の一実施形態を示す斜視図である。
【図4】図1のX線露光部で用いられる単結晶試料板の一例を示す側面断面図である。
【図5】単結晶板に関して2次元X線検出器の表面に形成される回折X線像の一例を示す図であり、(a)はその回折X線像だけを示し、(b)はその回折X線像と等回折角度線との関係を示し、(c)はX線強度分布線図を示している。
【図6】試料及びそれを支持する単結晶板の両方に関して、2次元X線検出器の表面に形成される回折X線像の一例を示す図であり、(a)はその回折X線像だけを示し、(b)はその回折X線像と等回折角度線との関係を示し、(c)はX線強度分布線図を示している。
【図7】図6に示す回折X線像に基づいて演算によって求められる、試料のみに関する回折X線強度分布図の一例を示すグラフである。
【図8】従来のX線装置、特に従来の微小部X線回折装置の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 試料支持装置
2 輝尽性蛍光体
3 モノクロメータ
4 コリメータ
6 φ回転装置
7 アーク揺動機構
8 ω回転装置
11 支持台
12 走査光学系
14 レーザ光源
16 レーザ光検出器
21 試料板
22 枠部材
23 凹部
24 単結晶板
B ブランク領域
F X線焦点
R X線露光部
S 試料
T X線読取り部
X 試料中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】 試料にX線を照射してその試料から発生する回折X線を検出するX線露光部と、そのX線露光部で検出した回折X線を読み取るX線読取り部とを有するX線装置において、前記X線露光部は、単結晶物質によって形成されていて試料を支持する単結晶試料板と、その試料に向けてX線を放射するX線源と、その試料板の周りに配設された2次元X線検出器とを有し、前記X線読取り部は、前記2次元X線検出器内のデータを平面的に読み取って信号として出力するX線読取り手段と、そのX線読取り手段の出力信号に基づいて回折X線強度分布を演算によって求める演算手段とを有し、その演算手段は、前記単結晶試料板から出る回折X線が前記2次元X線検出器によって検出される座標位置を、試料からの回折X線強度分布の演算に寄与させないブランク領域として認識することを特徴とするX線装置。
【請求項2】 請求項1において、前記試料を面内回転させるφ回転手段を有することを特徴とするX線装置。
【請求項3】 請求項1又は請求項2において、前記試料の試料面を前記2次元X線検出器に対して傾斜移動させる傾斜移動手段と、前記試料に対するX線入射角度を変化させるためにその試料を回転させるω回転手段とを有することを特徴とするX線装置。
【請求項4】 請求項1から請求項3の少なくともいずれか1つにおいて、前記2次元X線検出器は輝尽性蛍光体によって形成されることを特徴とするX線装置。
【請求項5】 請求項1から請求項4の少なくともいずれか1つにおいて、前記試料の試料面は、前記2次元X線検出器の中心軸線に対して45°傾斜することを特徴とするX線装置。
【請求項6】 単結晶物質によって形成された単結晶試料板によって試料を支持し、その試料にX線を照射し、その試料から発生する回折X線をその試料の周りに配設した2次元X線検出器によって検出し、その2次元X線検出器によって検出された回折X線の座標及び強度をX線読取り手段によって読み取り、そしてそのX線読取り手段の出力信号に基づいて演算手段によって演算を行って回折X線強度分布を求めるX線測定方法であって、前記演算手段は、前記単結晶試料板から出る回折X線が前記2次元X線検出器によって検出される座標位置を、試料からの回折X線強度分布の演算に寄与させないブランク領域として認識することを特徴とするX線測定方法。
【請求項7】 請求項6において、試料を支持しない状態の単結晶試料板にX線を照射してその単結晶試料板からの回折X線を前記2次元X線検出器によって検出し、そのときに得られた回折X線の座標位置を前記ブランク領域と設定し、その後、単結晶試料板によって試料を支持して測定を行うことを特徴とするX線測定方法。
【請求項8】 請求項6又は請求項7において、前記試料を測定中に面内回転させることを特徴とするX線測定方法。
【請求項9】 請求項6から請求項8の少なくともいずれか1つにおいて、前記2次元X線検出器は輝尽性蛍光体によって形成されることを特徴とするX線測定方法。
【請求項10】 請求項6から請求項9の少なくともいずれか1つにおいて、前記試料の試料面は、前記2次元X線検出器の中心軸線に対して45°傾斜することを特徴とするX線測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2000−258364(P2000−258364A)
【公開日】平成12年9月22日(2000.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−66531
【出願日】平成11年3月12日(1999.3.12)
【出願人】(000250339)理学電機株式会社 (206)
【Fターム(参考)】