説明

X線CT装置

【課題】断層像の座標変換を伴うことなくリングアーチファクトを除去することを可能とし、断層像の精度を低下させることなく確実にリングアーチファクトを除去した断層像を得ることのできるX線CT装置を提供する。
【解決手段】互いに対向配置されたX線発生装置1とX線検出器2の対と、これらの間に配置された試料ステージ3とを相対回転させることにより、複数の角度での対象物WのX線投影データを収集し、その投影データを用いて回転軸Rに直交する面に沿った断層像を構築するX線CT装置において、断層像を構成する各画素について、当該断層像上で回転軸Rに相当する位置を中心とした扇形状のコンボリューションフィルタカーネルを用いてフィルタ処理を施すことにより、断層像に現れるリングアーチファクトを抽出し、その抽出した画像をフィルタ処理を施す前の画像から減算することにより、リングアーチファクトを実空間において除去または低減することを可能とし、当初の断層像の精度を維持したままリングアーチファクトの除去を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線CT装置に関し、更に詳しくは、断層像に現れるリングアーチファクトを除去することのできるX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置においては、一般に、X線発生装置とX線検出器とを対向配置し、これらの間に対象物を載せるための試料ステージを配置するとともに、X線発生装置とX線検出器の対と試料ステージとを相対回転させる回転機構を備えた構造を採る。
【0003】
CT撮影に際しては、X線発生装置からのX線を試料ステージ上の対象物に照射しながら回転機構を駆動し、一定の微小回転刻みでX線検出器の出力、つまり対象物のX線投影データを取り込む。そして、このようにして収集された互いに異なる複数の角度でのX線投影データを用いた再構成演算により、回転機構の回転中心軸に直交する平面に沿った断層像を構築する。
【0004】
このようなX線CT装置においては、素子の特性のばらつき等に起因して、再構成演算された断層像上にリング状や円弧状の誤差、いわゆるリングアーチファクトが現れることがある。
【0005】
このようなリングアーチファクトを除去する方法として、従来、断層像上のリングアーチファクトが、CT撮影時の回転中心に相当する位置(アイソセンタ)を中心としたリング状ないしは円弧状に現れることを利用し、断層像をx−y座標からr−θ座標(原点は回転中心軸の位置とする)に座標変換することにより、原画像のリングアーチファクトを変換後のr−θ画像で直線状に現れるようにし、そのr−θ画像に2次元もしくは1次元のフィルタ処理を施すことによってアーチファクトを抽出し、その抽出した像を変換前の原画像から差し引く方法が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2001−95793号公報
【特許文献2】特開2006−26390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、以上の各提案のうち、特許文献1に記載の提案では、x−y座標系の断層像をr−θ座標系に変換し、そのr−θ座標系の画像上で直線に現れるアーチファクトを抽出した後、その抽出画像をx−y座標系に変換したうえで、原画像から減算するため、アーチファクトの抽出時の座標系と、その抽出されたアーチファクトを除去するときの座標系とが互いに異なるために、正確にアーチファクトを除去しきれないという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載の提案では、x−y座標系の断層像をr−θ座標系に変換し(これを中間画像と称している)、そのr−θ座標系の中間画像上で直線に現れるアーチファクトを抽出するとともに、その抽出画像を、r−θ座標系の中間画像から減算してアーチファクトを除去した後、x−y座標系に変換しており、アーチファクトの抽出時の座標系とこれを除去する時の座標系とを同一として、上記の問題を解決できるとしている。
【0008】
しかしながら、この特許文献2に記載の技術においても、x−y座標系からr−θ座標系、r−θ座標系からx−座標系と、2度の座標変換を行うため、画像の精度が低下してしまうという問題がある。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、座標変換を伴うことなくリングアーチファクトを除去することができ、もって断層像の精度を低下させることなく、確実にリングアーチファクトを除去した断層像を得ることのできるX線CT装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のX線CT装置は、互いに対向配置されたX線発生装置とX線検出器の間に、対象物を搭載するための試料ステージが設けられ、上記X線発生装置とX線検出器の対と試料ステージとを回転機構により相対的に回転させて収集した複数の角度でのX線投影データを再構成することにより、上記回転機構の回転軸に直交する面に沿った断層像を構築するX線CT装置において、上記断層像を構成する各画素の画素値を、当該断層像上で上記回転機構の回転中心に相当する位置を中心とする扇形状のコンボリューションフィルタカーネルを用いてフィルタ処理を施すことにより、当該断層像に現れるリングアーチファクトを抽出した画像を生成するフィルタ処理手段と、そのフィルタ処理手段により生成された画像を上記断層像から差し引く減算手段を備えていることによって特徴づけられる。
【0011】
本発明は、コンボリューションフィルタカーネルを扇形とすることにより、座標変換することなく、リング状ないしは円弧状のアーチファクトを抽出して原画像から除去することで、課題を解決しようとするものである。
【0012】
すなわち、断層像に現れるリングアーチファクトは、前記したようにCT撮影時の回転中心に相当する位置を中心とするリング状ないしは円弧状であり、特許文献1、2ではこれを直線状にするために座標変換し、1次元もしくは2次元のマトリクス状のカーネルを用いたフィルタ処理を施して直線状になったアーチファクトを抽出しているが、本発明では、リングアーチファクトをリング状ないしは円弧状のまま、CT撮影時の回転中心を中心とする扇形のコンボリューションフィルタカーネルを用いることで、そのリング状ないしは円弧状のアーチファクトのみを残した画像を得ること、つまりアーチファクトの抽出を可能としている。
【0013】
そして、このようにして得られたアーチファクトの抽出画像を、抽出前の元の断層像から減算することで、リングアーチファクトのない断層像を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、再構成演算により得られた断層像を構成する各画素の画素値を、CT撮影時における回転中心に相当する位置を中心とする扇形状のコンボリューションフィルタカーネルを用いてフィルタ処理を行うことによって、CT撮影時における回転中心の位置を中心として現れるリングアーチファクトを抽出し、その抽出したリングアーチファクトを、フィルタ処理を行う前の断層像から減算することによって、断層像からリングアーチファクトを除去するため、従来の2度の座標変換を行ってリングアーチファクトを除去した断層像を得る手法に比して、座標変換に伴う画像の精度低下を防止することができ、元の断層像の解像度を維持したまま、確実にリングアーチファクトの除去ないしは低減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図である。
【0016】
X線発生装置1はそのX線光軸が水平方向に向くように配置され、そのX線発生装置1に水平方向に対向してX線検出器2が配置されている。そして、これらの間に、対象物Wを搭載するための試料ステージ3が設けられている。この例においては、試料ステージ3がX線光軸に直交する鉛直の回転軸Rを中心として回転する。また、この試料ステージ3は移動機構(図示略)の駆動によりX線光軸を含む互いに直交する3軸方向に移動させることができ、この移動により撮影倍率や撮影範囲を設定することができる。また、X線発生装置1はコーンビーム状のX線を発生し、X線検出器2は2次元X線検出器である。
【0017】
CT撮影は、X線発生装置1からのX線を対象物Wに向けて照射しつつ、試料ステージ3を回転させ、その微小回転角度ごとにX線検出器2の出力を収集することによって行われる。
【0018】
すなわち、CT撮影中においては、試料ステージ3の微小回転角度ごとにX線検出器2の出力が画像データ取り込み回路10を介してデータ記憶部11に取り込まれ、各投影角度でのX線投影データとして記憶される。
【0019】
CT撮影の終了後、すなわち例えば360°分のX線投影データがデータ記憶部11に記憶された時点で、そのX線投影データは再構成演算部12による再構成演算に供される。再構成演算部12では、公知の手法によってX線投影データを再構成することにより、試料ステージ3の回転軸Rに直交する任意のスライス面に沿った断層像を構築する。構築された各断層像は、断層像記憶部13に記憶される。
【0020】
断層像記憶部13に記憶された断層像は、フィルタ処理部14で後述するフィルタ処理に供されることにより、断層像に現れるリングアーチファクトが抽出された画像とされ、そのリングアーチファクト抽出画像は、フィルタ処理部14によるフィルタ処理に供される前の断層像(以下、元画像と称する)とともに減算部15に送られる。減算部15では元画像からリングアーチファクト抽出画像を減算することにより、元画像に現れているリングアーチファクトを除去ないしは低減した画像、つまり補正画像を得る。その補正画像は表示器16に表示される。
【0021】
上記した画像データ取り込み回路10、データ記憶部11、再構成演算部12、断層像記憶部13、フィルタ処理部14、減算部15および表示器16は、システム制御部17の制御下に置かれている。ここで、これらは実際にはコンピュータとその周辺機器によって構成され、インストールされているプログラムに基づく機能を実現するのであるが、図1では説明の便宜上、その主だった機能ごとのブロックで表している。また、システム制御部17は、前記したX線発生装置1に対して供給すべき管電流および管電圧を制御するX線コントローラ18も制御下においているとともに、試料ステージ3の回転機構並びに移動機構についても、軸制御部19を介して制御する。更に、システム制御部17にはマウスやキーボード、ジョイスティック等からなる操作部20が接続されており、この操作部20の操作によって試料ステージ3を移動させたりX線条件を変更するなど、装置に対する各種指令を与えることができる。
【0022】
次に、フィルタ処理部14におけるフィルタ処理について説明する。このフィルタ処理部14では、断層像を構成する各画素の画素値(濃度値)について、当該断層像上の回転軸Rに相当する位置を中心とする扇形状のカーネルを用いたコンボリューションフィルタを用いてフィルタ処理を施す。フィルタカーネルは、図2に模式的に示すように、断層像上で回転軸Rに相当する位置Rを中心とした一定角度θの広がりを持ち、かつ、その位置Rから遠ざかる方向への距離rが一定の扇形状のものとし、フィルタ処理すべき全ての画素について、例えば該当の画素p1,p2を中心とするフィルタカーネルFC1,FC2を当てはめて処理をする。
【0023】
この扇形状のフィルタカーネルを用いた処理は、例えば前記した特許文献1において、断層像をx−y座標系からr−θ座標系に変換し、その変換後の画像の各画素について矩形のマトリクス状のフィルタカーネルを用いて処理をするのと数学的には等価であり、引用文献1では変換により直線化されたアーチファクトを抽出するのに対し、この実施の形態ではリング状ないしは円弧状のまま抽出することができる。
【0024】
このようにしてリングアーチファクトを抽出した画像は、減算部15において元の画像から減算する処理に供され、これによってリングアーチファクトを除去ないしは低減した、いわば補正された画像を得る。
【0025】
図3にその過程を模式的に示す。Poは元画像であり、この元画像PoにおいてWpは対象物Wの断層像、Apはリングアーチファクトを表し、この元画像Poの各画素について、コンボリューションフィルタカーネルFCを用いたフィルタ処理を施すことによって、リングアーチファクトApのみを抽出した抽出画像Ppを得る。その抽出画像Ppを元画像Poから減算することにより、元画像Poに現れていたリングアーチファクトApが除去ないしは低減され、補正画像Pcを得ることができる。
【0026】
以上の実施の形態において特に注目すべき点は、元画像である断層像を座標変換することなく、実空間上でフィルタ処理を施してリングアーチファクトを抽出し、その抽出した画像をそのまま元画像から減算することによって、リングアーチファクトが除去ないしは低減された画像を得る点であり、これにより、従来の手法に比べて座標変換に伴う画像の精度劣化をなくすることができる。
【0027】
なお、以上の実施の形態においては、X線発生装置とX線検出器の対に対して試料ステージを回転させた例を示したが、X線発生装置とX線検出器の対を試料ステージを中心として回転させてもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態で用いるフィルタカーネルの模式的説明図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるリングアーチファクトの抽出と、その抽出されたリングアーチファクトを除去する過程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1 X線発生装置
2 X線検出器
3 試料ステージ
10 画像データ取り込み回路
11 データ記憶部
12 再構成演算部
13 断層像記憶部
14 フィルタ処理部
15 減算部
16 表示器
17 システム制御部
18 X線コントローラ
19 軸制御部
20 操作部
W 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置されたX線発生装置とX線検出器の間に、対象物を搭載するための試料ステージが設けられ、上記X線発生装置とX線検出器の対と試料ステージとを回転機構により相対的に回転させて収集した複数の角度でのX線投影データを再構成することにより、上記回転機構の回転軸に直交する面に沿った断層像を構築するX線CT装置において、 上記断層像を構成する各画素の画素値を、当該断層像上で上記回転機構の回転中心に相当する位置を中心とする扇形状のコンボリューションフィルタカーネルを用いてフィルタ処理を施すことにより、当該断層像に現れるリングアーチファクトを抽出した画像を生成するフィルタ処理手段と、そのフィルタ処理手段により生成された画像を上記断層像から差し引く減算手段を備えていることを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−8278(P2010−8278A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169125(P2008−169125)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】