説明

n型及びヘテロ接合型有機薄膜トランジスタ

【課題】π電子系の発達した平面性の高い分子骨格をもつ有機化合物の両端に、電子吸引基を導入した高性能のn型有機半導体材料を基板上の半導体層に用いた低電圧駆動の有機薄膜トランジスタ(TFT)を提供する。
【解決手段】下記式で示される化合物。ここで、Xは、水素、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基、又はアルキルシリルエチニル基などを表わす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低電圧動作のn型半導体材料として有用なアントラジチオフェン骨格を有する有機化合物を用いたn型有機薄膜トランジスタ、並びにヘテロ接合型有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、多結晶シリコンやアモルファスシリコンなどに代表されるようにアクティブマトリクス液晶ディスプレイの画素駆動素子として広く用いられている。このシリコンTFTを使ったアクティブマトリクス駆動は最近活発化している有機ELディスプレイにも適用され、11インチクラスの有機ELテレビも商品化されている。しかし、これらシリコン系TFTの製造は複雑でまた高温のプロセスを経る必要があり、低コスト化でかつ省エネルギー化の時代要請に合っていない。これに対し、作製プロセスの簡単化と低温化を目指し有機化合物を半導体層に用いたTFTの研究が続けられている。低温プロセスはコスト面だけでなく、プラスティックフィルム上へのTFT構築を可能にする。プラスチック基板はガラス基板を使ったものに比べ、柔軟で軽量なディスプレイが実現できる。
【0003】
有機TFTに関する初期の研究はポリアセチレンやポリピロールなどの高分子を用いたもので、得られたキャリア移動度の値は小さく、10-5−10-6cm/Vsの範囲で、とても実用的に使えるものではなかった。しかし、低分子のα‐セキシフェニルを活性層に用いた有機TFTで10-2−10-1 cm2/Vsが報告された(非特許文献1参照)。さらには、多環芳香族であるペンタセン蒸着膜で1cm2/Vs以上のアモルファスシリコンを越える電界効果移動度が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、オン/オフ比も106という値が実現できている。世の中で報告されている有機TFTの大多数は有機半導体中を流れる荷電キャリアがホールであるp型で、電子が流れるn型の有機TFTの例は非常に少ない。これまでに報告されている例としては、フッ素化フタロシアニン、フッ素化ペンタセン、ペリレン誘導体、最近では、チアゾロチアゾール骨格やビチオフェン骨格の両側に電子吸引基を導入した有機半導体がある。
【0004】
ここで、n型有機TFTについて説明する。有機TFTの基本構造は図1に示すトップコンタクト型とボトムコンタクト型がある。有機半導体はゲート絶縁膜上に30nmから100nmの厚みで形成される。ゲート電極に電圧を印加することでソース電極から電子が有機半導体層に注入されゲート絶縁層界面に蓄積される。その状態でドレイン電極にプラス電圧を加えることでソース電極側からドレイン電極側へゲート電圧に対応した電子が流れる。また、現在までに報告されているn型有機TFTの動作する電圧はかなり高く、閾値電圧としては50−70Vとなっている(非特許文献3〜5参照)。
【非特許文献1】G. Horowitz, D. Fichou, X. Z. Peng, Z. G. Xu, F. Garnier, Solid State Commun. 72, 381 (1989)
【非特許文献2】Y.-Y. Lin, D. J. Gundlach, S. F. Nelson, and T. N. Jackson, IEEE Electron Device Letters, 18, 606 (1997)
【非特許文献3】S. Ando, R. Murakami, J. Nishida, H. Tada, Y. Inoue, S. Tokito, and Y. Yamashita, J. Am. Chem. Soc. 127, 14996 (2005)
【非特許文献4】S. Tatemichi, M. Ichikawa, T. Koyama, and Y. Taniguchi, Appl. Phys. Lett. 89, 112108 (2006)
【非特許文献5】D. Kumaki, S. Ando, S. Shimono, Y. Yamashita, T. Umeda and S. Tokito, Appl. Phys. Lett. 90, 053506 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで報告されている有機半導体の多くはp型であり、n型の例は、非常に少ない。今後、p型とn型を組み合わせたCMOS等、あるいは集積回路等への応用を考慮すると、高性能なn型有機半導体の開発が不可欠である。従って、いかにして、電子移動度が高く、低い電圧で動作する有機TFTを開発するかが求められており、これが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
有機半導体薄膜での移動度を高めるには分子間の電子軌道の重なりを高める必要がある。そのためにはスタック構造を取りやすい平面性の高い分子骨格が有効である。電極からの電子注入障壁を低減するには最低非占有分子軌道(LUMO)が深い方が望ましい。一般にはHOMO−LUMOのエネルギーギャップが小さい方がLUMO準位は深くなる。そのため、π電子共役系が発達した分子構造をとる必要がある。そこで、代表的なπ電子系であるアントラセンを中心にしてチオフェン環が縮環したアントラジチオフェン骨格を有する有機化合物(例えば、J. G. Laquindanum, H. E. Katz, and A. J. Lovinger, J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 664参照)に着目した。この構造の両端に電子吸引的なトリフルオロメチルベンゼンを置換することでn型的な特性が期待できる(T. Yasuda, M. Saito, H. Nakamura, and T. Tsutsui, Appl. Phys. Lett. 89, 182108 (2006)参照)。アントラセンの両側へのチオフェン環の付加は、ベンゼン環との捩れを回避でき、平面構造を保持できる。
【0007】
また、そのアントラジチオフェン骨格の5、11位に、嵩高い置換基を導入することで有機溶媒への溶解性が向上し、溶液からの塗布が可能となるため、そのような塗布法により容易に薄膜を形成できることを見出した。このことはインクジェット法やフレキソ印刷法などでの有機TFT作製を可能とする。
【0008】
本発明は、π電子系の発達した平面性の高い分子骨格をもつ有機化合物の両端に、電子吸引基を導入した高性能のn型有機半導体材料を基板上の半導体層に用いた低電圧駆動の有機薄膜トランジスタ(TFT)を提供する。
【0009】
即ち、本発明によれば以下のものが提供される。
[1] 下記式[化1]で表わされる化合物のシン、アンチ異性体混合物を、基板上の半導体層に用いたことを特徴とするn型有機薄膜トランジスタ。
【0010】
【化1】

【0011】
(但し、Xは水素、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基、又はアルキルシリルエチニル基を示す。)
[2] [1]に記載の化合物のシン、アンチ異性体混合物をn型有機半導体層として用い、これにp型有機半導体層を組み合わせ、構成させたことを特徴とするヘテロ接合型有機薄膜トランジスタ。
【発明の実施の形態】
【0012】
本発明は、アントラジチオフェン骨格を有する有機化合物であって、その長軸方向の両端に電子吸引性のフルオロメチルベンゼンを置換した前記式[化1]で表わされる化合物である。主として、電子輸送性に優れた電子物性を示す。ここで、置換基Xは、水素、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の中でも特にフッ素)、シアノ基、アルキル基(特に、炭素数1〜20のアルキル基、例えば、メチル基、ヘキシル基など)、アルコキシ基(特に、炭素数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、など)、又はアルキルシリルエチニル基(特に、炭素数1〜20のアルキル基を有するもの、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基などを有するもの)などを示す。
【0013】
さらに具体的に、好ましい分子構造の例を以下に示す。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
本発明のn型アントラジチオフェン誘導体を半導体層に用いた有機TFTとしては、図1に示すように、ゲート電極、ドレイン電極、ソース電極と、ゲート絶縁膜、及びその半導体層とを積層してなるTFTが例示できる。微細な有機TFTの点では、ボトムコンタクト型が有利であり、フォトリソプロセスでソース電極とドレイン電極を形成後に、有機半導体層を成膜する。
【0018】
また、図2に示すように本発明のn形有機半導体とp型有機半導体、たとえばペンタセンを2層に積層することでバイポーラ的、つまりCMOS的な特性を示すヘテロ接合型有機トランジスタも構築できる。
【0019】
本発明に係わるゲート電極としては、金、白金、クロム、パラジウム、アルミニウム、インジウム、モリブデン、低抵抗ポリシリコン、低抵抗アモルファスシリコン等の金属や錫酸化物、酸化インジウムおよびインジウム・錫酸化物(ITO)等を用いるのが一般的であるが、もちろんこれらの材料に限られるわけではなく、また、これらの材料を2種以上使用しても差し支えない。ここで、電極を形成する方法としては蒸着、スパッタリング、メッキ、各種CVD成長の方法がある。又、使用目的に応じて、ゲート電極と基板を兼ね、シリコンウエハー、ステンレス板、銅版等の導電性の板を用いることも可能である。
【0020】
本発明に係わるソース電極、ドレイン電極としては、金、白金、パラジウム、アルミニウム、クロム、チタン、モリブデン、インジウム、低抵抗ポリシリコン、低抵抗アモルファスシリコン等の金属や錫酸化物、酸化インジウムおよびインジウム・錫酸化物(ITO)等を用いるのが一般的であるが、もちろんこれらの材料に限られるわけではなく、また、これらの材料を2種類以上使用しても差し支えない。ここで、電極を形成する方法としては蒸着、スパッタリング、メッキ、各種CVD成長の方法がある。
【0021】
本発明に係わるゲート絶縁膜としては、絶縁性のものであれば無機、有機の何れの材料でも使用可能であり、一般的には酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリアクリロニトリルおよび各種絶縁性樹脂等が用いられ、これらの材料を2つ以上併せて用いてもよい。これらの絶縁膜の作製法としては特に制限はなく、例えばCVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法、スピンコーティング法、ディッピング法、クラスタイオンビーム蒸着法およびLB法などが挙げられ、何れも使用可能である。また、シリコンウエハーをゲート電極と基板を兼ねて用いる場合には、ゲート絶縁膜としてはシリコンの熱酸化法等によって得られる酸化シリコン膜が好適である。
【0022】
半導体層となる有機半導体薄膜の作製法としては、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法等のドライプロセスが使用できる。有機溶剤に可溶で薄膜形成できる有機半導体の場合は、スピンコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、インプリント法などの塗布法が利用できる。有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、一般に50nm程度が好ましい。
【0023】
本発明に係わるp型有機半導体材料としては、ペンタセン、アントラジチオフェン、セキシチオフェン又はポリチオフェン等を用いるのが一般的であるが、もちろんこれらの材料に限られるわけではない。
【0024】
本発明に係わる基板には絶縁性の材料であればいずれも使用可能であり、具体的には、ガラス、アルミナ焼結体やポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリフェニレンスルフィド膜、ポリパラキシレン膜などの各種絶縁性プラスチックなどが使用可能である。以下に、さらに具体的な実施例を述べるが、もちろんこれをもって本発明を限定するものではない。
【0025】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタに用いられるアントラジチオフェン骨格を有する化合物の合成方法を、以下の通り説明する。
まず、スキーム1として、
【0026】
【化5】

【0027】
に示すように、化合物(1)を、化合物(2)とパラジウム触媒の存在下で反応させることにより、化合物(3)を得る。
スキーム1で用いるパラジウム触媒は、Pd(PPh3)4、PdCl2(PPh3)2、PdCl2(dppf)などを使用でき(ここで、PPh3はトリフェニルフォスフィン、dppfはジフェニルフォスフィノフェロセンである)、合成時間及び収率の点で、特にPd(PPh3)4が好ましい。また、化合物(2)のMは、アルキルスズ、ジヒドロキシホウ素などの有機金属置換基を示す。特には、ジヒドロキシホウ素が好ましい。化合物(2)の使用量は、化合物(1)に対して、1.0当量以上5.0当量以下、好ましくは1.1当量以上1.5当量以下である。また、用いる溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミドなどであり、好ましくはテトラヒドロフランである。反応温度としては、0℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上70℃以下である。反応時間は、1時間以上20時間以下、好ましくは10時間以上15時間以下である。反応終了後は、有機溶媒により抽出を実施し、精製を行うことによって、目的化合物(3)を得ることができる。精製方法には、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィーが含まれる。
【0028】
さらに、スキーム2として、
【0029】
【化6】

【0030】
に示すように、化合物(3)を、1,4−シクロヘキサンジオンと塩基の存在下で反応させることにより、化合物(4)を得る。
スキーム2で用いる塩基は、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液などを使用できるが、反応性を高める観点から、水酸化カリウム水溶液が好ましい。その水溶液の濃度は、1%以上20%以下、好ましくは5%以上10%以下である。また、用いる溶媒としては、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノールなどの水溶性の溶媒があるが、好ましくはエタノールである。反応温度は、0℃以上50℃以下、好ましくは10℃以上20℃以下である。反応時間は、1時間以上20時間以下、好ましくは5時間以上15時間以下である。反応終了後は、有機溶媒による洗浄を実施し、精製を行うことによって、目的化合物(4)を得ることができる。精製方法には、有機溶媒による洗浄、昇華が含まれる。
【0031】
得られた生成物は、類似のアントラジチオフェンの合成に関する報告文献(J.G. Laquindanum, H. E. Katz and A. J. Lovinger, J. Am. Chem. Soc., 120. 664 (1998)参照)に記述されているように、シン、アンチ異性体混合物であると予想されるが、その分離、分析は困難であるため、異性体混合物のまま、次の反応に使用する。
【0032】
次に、スキーム3として
【0033】
【化7】

【0034】
に示すように、化合物(4)を金属アルミニウムの存在下で還元することにより、化合物(5)を得る。
スキーム3で用いる金属は、アルミニウム若しくはアルミニウムを含む金属が好ましく、その形状としては、塊状や粒状のものよりも、直径0.5mm以上1.0mm以下のワイヤが好ましい。また、用いる溶媒としては、アルコールであるが、好ましくはシクロヘキサノールである。反応開始剤としては、CCl4が好ましい。反応温度は、50℃以上200℃以下、好ましくは100℃以上150℃以下である。反応時間は、10時間以上50時間以下、好ましくは10時間以上20時間以下である。である。反応終了後は、スキーム2同様、有機溶媒による洗浄を実施し、精製を行うことによって、目的化合物(5)を得ることができる。精製方法には、有機溶媒による洗浄、昇華が含まれる。
【0035】
次に、スキーム4として
【0036】
【化8】

【0037】
に示すように、化合物(4)をトリイソプロピルシリルエチニルリチウムと反応させることにより、化合物(6)を得る。
スキーム4で用いる溶媒としては、エーテル系溶媒があるが、好ましくはテトラヒドロフランである。リチオ化の際の反応温度は、−90℃以上−50℃以下、好ましくは−80℃以上−70℃以下である。リチオ化物と(4)との反応の際の反応温度は、−90℃以上−0℃以下、好ましくは−50℃以上−10℃以下である。リチオ化の際の反応時間は、1時間以上10時間以下、好ましくは1時間以上2時間以下である。リチオ化物と(4)との反応の際の反応温度は、5時間以上20時間以下、好ましくは5時間以上10時間以下である。反応終了後は、有機溶媒により抽出を実施し、精製を行うことによって、目的化合物(6)を得ることができる。精製方法には、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィーが含まれる。
【0038】
本発明は、以下の実施例によって、さらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例1】
【0039】
【化9】

【0040】
500mL 2口フラスコを窒素置換し、5−ブロモチオフェン−2,3−ジカルボアルデヒド(1)(1.35g、6.16mmol)、4−(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(2)(1.29g、6.78mmol)、Pd(PPh3)4(356mg、(1)に対して5mol%)、リン酸三カリウムn水和物(7.0g、関東化学製特級試薬)、および無水テトラヒドロフラン(130mL)を仕込み、還流下で12時間反応させた。塩化アンモニウム水溶液を加え反応を停止した後、反応溶液を酢酸エチルで抽出し、有機相を無水マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を、ヘキサン:酢酸エチル4:1の混合溶媒を移動相とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、薄黄色固体として、5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)チオフェン−2,3−ジカルボアルデヒド(3)(1.0g、収率57%)を得た。
mp.>300℃; 1H NMR (300MHz, CDCl3) δ7.74(d, 2H, J = 8.40 Hz, ArH), 7.81(d, 2H, J = 8.40 Hz, ArH), 7.89(s, 1H, ThH), 10.42(s, 1H, CHO), 10.51(s, 1H, CHO); 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ123.68(q, J = 272.4 Hz), 126.18, 126.46(q, J = 3.8 Hz), 126.72, 131.55, 131.99, 135.31, 144.40, 146.47, 150.69, 182.20(CHO), 184.43(CHO); 19F NMR (282 MHz, CDCl3) δ-62.84; EI-MS法, m/z = 284(M+)
【0041】
【化10】

【0042】
500mL 2口フラスコに、5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)チオフェン−2,3−ジカルボアルデヒド(3)(800mg、2.81mmol)、1,4−シクロヘキサンジオン(157mg、1.41mmol)、エタノール(120mL)を加えた。そこへ、5%KOH水溶液(5.0mL)を滴下し、室温で12時間反応させた。その後、エタノールをロータリーエバポレーターで留去し、濃縮液に水を加えた後、ろ過を行った。メタノール、へキサンで洗浄後、真空乾燥し、茶色固体として2,8−ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)アントラジチオフェン−5,11−ジオン(4)(680mg、79%)を得た。
mp.>300℃; EI-MS法, m/z = 608(M+)
【0043】
【化11】

【0044】
100mL 3口フラスコに、アルミニウムワイヤ(500mg)、塩化水銀(10mg)、四塩化炭素(0.5mL)、無水シクロヘキサノール(15mL)を入れ、100℃で、2時間攪拌した。そこへ、2,8−ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)アントラジチオフェン−5,11−ジオン(4)(500mg、0.821mmol)を加え、140℃で12時間反応させた。6N HCl(20mL)を加え、1時間攪拌後、ろ過を行った。水、メタノール、テトラヒドロフランで洗浄し、粗生成物を180mg得た。得られた粗生成物を昇華精製(アルゴンフロー、30Pa、500℃)により精製し、赤紫色固体として、上記の2,8−ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)アントラジチオフェン(5)(80mg、17%)を得た。
mp.>300℃; MALDI-TOFMS法, m/z = 578(M+)
【0045】
【化12】

【0046】
50mL 3口フラスコを窒素置換し、トリエチルシリルアセチレン(420mg、2.30mmol)、無水テトラヒドロフラン(10mL)を加え、反応溶液を−78℃に冷却した。1.54Mのブチルリチウムヘキサン溶液(1.34mL、2.07mmol)を滴下し、1時間攪拌した。次いで、−20℃の反応溶液に、2,8−ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)アントラジチオフェン−5,11−ジオン(4)(350mg、0.575mmol)のTHF懸濁液(10mL)を滴下し、室温で7時間反応させた。その後、水(1.5mL)を加え反応を停止し、1N HCl(6mL)に溶解させたSnCl・2HO(259mg、1.15mmol)を滴下し、30分間攪拌させた。その後、テトラヒドロフランをロータリーエバポレーター留去した後、その濃縮液をクロロホルムで抽出し、有機相を無水マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、ロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣を、ヘキサン:クロロホルム3:1の混合溶媒を移動相とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、黒紫色固体として、[2,8−ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−5,11−ジ(トリイソプロピルシリルエチニル)]アントラジチオフェン(6)(80mg、収率15%)を得た。
mp.>300℃; 1H NMR (300MHz, CDCl3) δ1.37(m, 42H, i-Pr), 7.73(d, 4H, J = 8.10 Hz, ArH), 7.74(s, 2H, ThH), 7.92(d, 4H, J = 8.10 Hz, ArH), 9.11 (s, 2H, ArH), 9.14(s, 2H, ArH); MALDI-TOFMS法, m/z = 938(M+)
実施例において、得られた化合物の各種測定について、1H−NMR、13C−NMRおよび19F-NMR測定は、BRUKER社のUltra Shield 300を、質量分析は、株式会社島津製作所のGCMS-QP2010、あるいはMALDI-TOFMS AXIMA-CFR plusを用いて測定した。
【実施例2】
【0047】
有機薄膜トランジスタの実施例として、本発明の有機半導体を用いたトップコンタクト型の有機TFTを試作した。基板およびゲート電極として高ドープn型シリコンウエハーを用いた。ゲート絶縁層にはシリコンウエハー上に形成された厚み200nmの熱酸化膜(SiO2)を用いた。この熱酸化膜表面を酸洗浄した後に、ヘキサメチルジシラザンで表面処理した。この基板を真空蒸着装置にセットして真空度10−6Torrまで排気後に本発明の有機半導体(即ち、上記の化合物(5)で示される、2,8−ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)アントラジチオフェンである。)を蒸着により厚み30nmに成膜した。最後に、その成膜上にシャドーマスクを用いて真空蒸着で、厚み50nmの金のソース、ドレイン電極を形成した。なお、この場合のチャネル幅は1000μm、チャネル長は50μmとした。
【0048】
図3に有機半導体を成膜する際の基板温度が室温の場合と、80℃の場合のトランジスタ特性を示す。ドレイン電圧80V印加時において、ゲート電圧を-10Vから80Vまで掃引したときのドレイン電流値を測定した。基板温度が室温では閾値電圧が33Vであったが、80℃では18Vまで低下した。従来の閾値電圧に比べてかなり低い。同時にドレイン電流の増大が観測され、比較的高い移動度として0.1cm2/Vsが得られた。電流値のオン・オフ比は5 x 105であった。表1に各トランジスタの性能値を示す。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】有機TFTの基本構造を示す図である。
【図2】ヘテロ接合型有機TFTの基本構造を示す図である。
【図3】実施例2で作成したTFTのトランジスタ特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表わされるシン、アンチ異性体混合物を、基板上の半導体層に用いたことを特徴とするn型有機薄膜トランジスタ。
【化1】

(但し、Xは水素、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基、又はアルキルシリルエチニル基を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物のシン、アンチ異性体混合物をn型有機半導体層として用い、これにp型有機半導体層を組み合わせ、構成させたことを特徴とするヘテロ接合型有機薄膜トランジスタ。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−56476(P2010−56476A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222746(P2008−222746)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】