説明

アイドル回転数上昇制御装置および車両姿勢判定装置

【課題】 より簡素な構成で、かつ経時劣化による影響がより小さいアイドル回転数上昇制御装置を得る。
【解決手段】 エンジンのスロットル弁をバイパスして吸入空気を流通するバイパス空気通路に、傾斜開閉弁6を設ける。この傾斜開閉弁6は、弁座11aと、車両が水平姿勢であるときには着座しかつ傾斜姿勢であるときには離座する弁体8とを有し、当該弁体8の離着座によってバイパス空気通路が開閉される。よって、かかる傾斜開閉弁6により、車両が傾斜姿勢であるときにエンジンのアイドル回転数を上昇制御することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドル回転数上昇制御装置および車両姿勢判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアイドル回転数上昇制御装置として、特許文献1に開示されるものが知られている。この特許文献1に開示されるシステムは、トルクコンバータおよび自動変速機を備える車両が登坂路で停止しているときにクリープ力が不足して車両が後退しないよう、エンジンのアイドル回転数を上昇させるものであり、傾斜角を検知する傾斜角センサと、アイドル回転数を制御する制御手段とを備え、当該傾斜角センサによって登坂路であることが検知されると、制御手段がエンジンのアイドル回転数を上昇させるようになっている。
【特許文献1】特開平11−294232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のシステムに装備される傾斜角センサは複雑な構造を有する電子式センサであるため、システムが高価になる上、傾斜角センサの経時劣化による出力値の変化により、システムが正常に動作しなくなるおそれもあった。
【0004】
そこで、本発明は、より簡素な構成で、かつ経時劣化による影響がより小さいアイドル回転数上昇制御装置、ならびに当該アイドル回転数上昇制御装置を利用した車両姿勢判定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかるアイドル回転数上昇制御装置は、エンジンのスロットル弁をバイパスして吸入空気を流通するバイパス空気通路と、弁座と、車両が水平姿勢であるときには着座しかつ傾斜姿勢であるときには離座する弁体とを有し、当該弁体の離着座によって上記バイパス空気通路を開閉する傾斜開閉弁と、を備え、車両が傾斜姿勢であるときにエンジンのアイドル回転数を上昇させることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アイドル回転数上昇制御装置において、車両の傾斜に応じて離着座する比較的簡素な構成の傾斜開閉弁によってバイパス空気通路を開閉するようにしたので、システムをより簡素化してより安価に構成することができるとともに、経時劣化による影響がより小さくなるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1〜図4は本発明の第1実施形態を示しており、図1は、本実施形態にかかるアイドル回転数上昇制御装置を組み込んだシステムの概略構成図、図2は、アイドル回転数上昇制御装置に含まれる傾斜開閉弁の一構成例およびその動作を示す断面図、図3は、アイドル回転数上昇制御装置の動作を利用した車両姿勢判定装置の制御ブロック図、また、図4は、車両が登坂路で停止した場合の車速、エンジン回転数、およびアイドルスピードコントロールの制御量の経時変化の一例を示す図である。なお、本実施形態では、自動変速機およびトルクコンバータを備える車両に適用されるシステムを例示する。
【0008】
図1に示すように、内燃機関としてのエンジン1の吸気管3には、燃焼室2に供給される吸入空気流量を調整するスロットル弁4が設けられており、さらに、このスロットル弁4をバイパスするバイパス空気通路5と、該バイパス空気通路5を開閉する傾斜開閉弁6とが設けられている。傾斜開閉弁6が開くとバイパス空気通路5が開通し、吸入空気はこのバイパス空気通路5を経由して流通することができる一方、傾斜開閉弁6が閉じると吸入空気はバイパス空気通路5を経由して流通することができなくなる。
【0009】
傾斜開閉弁6は、具体的には、図2に示すように、例えば鋼球または樹脂ボールからなる略球形の弁体8と、車両前後方向の中央位置(水平姿勢での最下点)から車両前方および後方の双方に向けて上りとなる弁体8の円弧状移動路を形成する弁支持板7と、を備えている。そして、弁支持板7の中央位置には、当該弁支持板7を貫通する流通口11が形成され、さらに、この流通口11の移動路側の面取り部分が弁座11aとしてある。
【0010】
したがって、図2の(a)に示すように、車両が水平姿勢にあるときには、弁体8は移動路の最下点に設けられる弁座11aに着座したままであり、弁座11aにつながる流通口11が閉じるため、吸入空気は流通しない(FR:車両前方、UPR:車両上方)。
【0011】
一方、図2の(b)に示すように、車両が傾斜姿勢(所定角度より前上がりまたは前下がり;同図では前上がり)にあるときには、弁体8は弁座11aから離座して移動路の最下点まで移動するため、流通口11が開放し、該流通口11を介してバイパス空気通路5の上流側に接続される入口9と下流側に接続される出口10とが連通して、吸入空気が流通する(α:傾斜角)。
【0012】
このように、傾斜開閉弁6は、車両が水平姿勢にあるときにはバイパス空気通路5を閉じ、傾斜姿勢にあるときにはバイパス空気通路5を開く。一方、吸気管3には吸入空気流量検出部15(図3;例えばエアフローメータ)が設けられており、吸入空気流量が増大するほど燃料噴射弁(図示せず)からの燃料噴射量が増量される。したがって、車両が傾斜姿勢で停止している状態では、水平姿勢で停止している状態に比べて、エンジン1のアイドル回転数が増大することになる。
【0013】
よって、自動変速機およびトルクコンバータを備える車両が登坂路で停止した場合に、クリープ力の低下による車両の後退を防止することができる。
【0014】
なお、バイパス空気通路5の吸入空気流量は、傾斜開閉弁6に設けたオリフィスによって調整するのが好適である。本実施形態では、オリフィスとして設けられる流通口11の形状(直径および深さ)を適切な値に設定することで、開弁時に流通する吸入空気流量を規定するようにしている。
【0015】
そして、本実施形態にかかる車両には、上述した傾斜開閉弁6によるアイドル回転数上昇を利用して車両の姿勢を判定する車両姿勢判定装置が搭載されている。かかる装置は、アイドル回転数の上昇が傾斜開閉弁6の開弁よるものか否かを区別することで、車両が傾斜姿勢にあるか水平姿勢にあるかを判定するものである。
【0016】
図3は、この車両姿勢判定に関連した具体的な構成を示すものである。ここで、ISCを実行するアイドル回転数制御部12は、車速検出部14から取得した車速Vや、吸入空気流量検出部(例えばエアフローメータ等)15から取得した吸入空気流量、エンジン回転数検出部(例えばクランク角センサ等)16から取得したエンジン回転数Ne、水温、スロットル弁の開度等から、吸入空気流量調整部(例えば電子制御スロットル弁の制御回路等)13に対する制御量(制御指令)Cを算出する。具体的には、例えば、アイドル時のエンジン回転数Neが低い場合には、制御量Cを増大させることで吸入空気流量を増大させ、エンジン回転数Neを高くする。逆に、アイドル時のエンジン回転数Neが高い場合には、制御量Cを減少させることで吸入空気流量を減少させ、エンジン回転数Neを低くする。こうして、アイドル回転数制御部12は、アイドル時のエンジン回転数を目標回転数n0±α(α:許容誤差)に収めるよう、吸入空気流量調整部13を制御する。
【0017】
一方、登坂路等に停止して傾斜開閉弁6が開弁した場合の目標回転数n1±β(β:許容誤差)は、上記オリフィスの調整により、ISCの目標回転数n0±αより高い値に設定される。したがって、車両姿勢判定部17は、基本的には、アイドル時のエンジン回転数Neが、傾斜開閉弁6が開弁したときの目標回転数n1±βに収束していることを検出すれば、傾斜開閉弁6が開弁状態にあること、すなわち、車両が傾斜姿勢にあると判定することができる。
【0018】
しかしながら、車両が傾斜姿勢になく水平姿勢にある場合にも、エンジン回転数Neが何らかの外乱によって一時的にn1±βの範囲内まで上昇している場合も想定される。ただし、この場合には、外乱が収束するか或いはアイドル回転数制御部12が正常に動作すれば、エンジン回転数Neが通常時の目標回転数n0±αまで低下することになる。
【0019】
そこで、本実施形態では、アイドル回転数制御部12による制御量Cを用いて判定精度の向上を図っている。すなわち、車両姿勢判定部17は、図4に示すように、制御量Cが下限値(つまり、アイドル回転数を最大限低くする値:Cmin)であり、かつエンジン回転数Neが傾斜姿勢での目標回転数n1±βである状態が所定期間(例えば期間T0)維持された場合に、車両が傾斜姿勢であると判定するようにしている。これにより、上述したような、水平姿勢にある状態で外乱による回転上昇が後に収束する場合や、ISC制御によって回転上昇が後に収束する場合等を、傾斜姿勢と誤判定するのを防止することができる。
【0020】
また、車両姿勢判定部17は、この制御量Cを利用して、車両が水平姿勢にあることも判定する。すなわち、エンジン回転数Neが通常時の目標回転数n0±αであり、かつ制御量Cが通常の制御範囲内(つまり、通常のISC制御における下限値Cminから上限値Cmaxまでの間;図4)にある状態が所定期間(ただし、上記T0とは別の値としてもよい)維持された場合に、車両が水平姿勢であると判定するようにしている。
【0021】
かかる車両の姿勢判定により、次のような効果が得られる。まず、車両が傾斜姿勢にあることが判定された場合には、例えば、前照灯の光軸を可変制御する機構を備える場合には、傾斜判定時に当該光軸を下げることで、対向車等に対する防眩効果がある。
【0022】
また、車両が水平姿勢にあることが判定された場合には、例えば、電子的な傾斜センサ(例えば加速度センサ等)の水平点調整(0点調整、オフセット調整)に利用することができる。すなわち、自動変速機およびトルクコンバータを搭載する車両では、所謂Dレンジで停止しているときに、変速機内の電磁クラッチを解放する制御(所謂ニュートラル制御)を実行し、エンジン負荷を低減させて、燃費を向上させる場合があるが、当該制御で傾斜センサを用いる場合がある。つまり、車両が登坂路で停止した状態で当該ニュートラル制御を行うと、クリープ力が不足して車両が後退してしまうおそれがあり、これを防止するために、上記電子的な傾斜センサを備え、傾斜姿勢であることが検出された場合には、当該ニュートラル制御を行わないようにしているのである。
【0023】
かかる傾斜センサの水平点調整は、従来は出荷時にしか実行する機会がなかったが、上述したように傾斜開閉弁6によるアイドル回転数上昇を利用して車両の水平姿勢を判定すれば、出荷後も随時、水平点調整を実行することができ、傾斜センサの検出精度および信頼性の向上につながる。
【0024】
以上説明したように、本実施形態によれば、車両の傾斜に応じて離着座する比較的簡素な構成の傾斜開閉弁によってバイパス空気通路を開閉させ、傾斜姿勢時に吸入空気流量を増量するようにしたので、傾斜姿勢時にアイドル回転数を上昇させるシステムをより簡素化してより安価に構成することができるとともに、経時劣化による影響がより小さくなるという効果が得られる。
【0025】
また、本実施形態では、傾斜開閉弁に、アイドル回転数を上昇させるのに必要なバイパス空気通路の流通空気量を規定するオリフィスを設けたので、バイパス空気通路の他の位置に別途設ける場合に比べて、より容易に流通空気量を設定することができる。
【0026】
また、本実施形態では、エンジン回転数とISCの制御量とを用いて車両の姿勢判定を行うようにしたので、より確実に傾斜開閉弁の開閉を検出して、車両の姿勢判定を行うことができる。これにより、電子的な傾斜センサの水平点調整を実行する機会が増え、当該電子的な傾斜センサを用いた制御の精度が向上する上、傾斜時に前照灯の光軸を下げ、防眩効果を得ることもできる。
【0027】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に種々の改変を施すことができる。例えば、上記実施形態では、車両の姿勢判定に関連して、電子制御スロットル弁の開弁度を可変制御するISCを例に挙げて説明したが、スロットル弁をバイパスするISC弁の開閉を制御するタイプのISCの場合も全く同様に適用可能である。また、傾斜開閉弁の構成も、上記実施形態に例示したものには限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態にかかるアイドル回転数上昇制御装置を組み込んだシステムの概略構成図。
【図2】本発明の実施形態にかかるアイドル回転数上昇制御装置に含まれる傾斜開閉弁の一構成例およびその動作を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態にかかるアイドル回転数上昇制御装置の動作を利用した車両姿勢判定装置の制御ブロック図。
【図4】本発明の実施形態にかかる車両が登坂路で停止した場合の車速、エンジン回転数、およびアイドルスピードコントロールの制御量の経時変化の一例を示す図。
【符号の説明】
【0029】
1 エンジン
2 燃焼室
4 スロットル弁
5 バイパス空気通路
6 傾斜開閉弁
8 弁体
11 流通口(オリフィス)
11a 弁座
12 アイドル回転数制御部(アイドル回転数制御手段)
17 車両姿勢判定部(姿勢判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのスロットル弁をバイパスして吸入空気を流通するバイパス空気通路と、
弁座と、車両が水平姿勢であるときには着座しかつ傾斜姿勢であるときには離座する弁体とを有し、当該弁体の離着座によって前記バイパス空気通路を開閉する傾斜開閉弁と、
を備え、
車両が傾斜姿勢であるときにエンジンのアイドル回転数を上昇させるアイドル回転数上昇制御装置。
【請求項2】
前記傾斜開閉弁に、アイドル回転数を上昇させるのに必要なバイパス空気通路の流通空気量を規定するオリフィスを設けたことを特徴とする請求項1に記載のアイドル回転数上昇制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアイドル回転数上昇制御装置と、
エンジン回転数を検知する回転数センサと、
前記回転数センサによる検知結果に基づいてエンジンのアイドル回転数を制御するアイドル回転数制御手段と、
前記回転数センサによる検知結果とアイドル回転数制御手段による制御量とに基づいて、該制御量がエンジン回転数を低下させるものであるにも拘わらずエンジン回転数が通常時のアイドル回転数より高い状態で維持された場合には、車両が傾斜姿勢であると判定する姿勢判定手段と、
を備える車両姿勢判定装置。
【請求項4】
前記姿勢判定手段は、前記制御量が通常の制御範囲内の値であり、かつエンジン回転数が通常時のアイドル回転数である場合には、車両が水平姿勢であると判定することを特徴とする請求項3に記載の車両姿勢判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−77669(P2006−77669A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262242(P2004−262242)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】