説明

アクティブマトリクス基板、電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器

【課題】電気光学装置の大型化や高精細化を可能にするべく、対向電極の低抵抗化を図ったアクティブマトリクス基板、電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器を提供する。
【解決手段】アクティブ素子を有する基体上に、絶縁性材料からなる隔壁150により隔てられた複数の画素電極141と、画素電極141上に配置された発光層140Bを含む積層体と、積層体上に配置された対向電極154と、を備えた電気光学装置である。隔壁150上には、画素電極141とは絶縁された導電部151が配置されている。この導電部151は対向電極154と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブマトリクス基板、電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに替わる自発発光型ディスプレイとして、発光層に有機物を用いた電気光学装置が提供されている。このような電気光学装置としては、現在のところスイッチング素子となるTFT(薄膜トランジスタ)を形成するTFT基板に透明基板が用いられ、発光層で発光された光がこの透明基板を透過することにより、外部に光を出射させるものが一般的である。
【0003】
ところで、前記の光が透明基板を透過するタイプの電気光学装置では、TFT基板上にスイッチング素子となるTFTが形成されていることから、このTFT部分に光を透過させることができず、したがって開口率が低いことにより、これを用いたディスプレイの大型化(大画面化)が困難であるといった課題がある。
すなわち、大型化した場合には、各配線、例えば走査線や信号線などの抵抗を下げるため配線幅を広げる必要があるが、そのようにすると開口率がより低くなってしまい、所望する良好な画質が得られにくくなってしまうからである。
【0004】
そこで、このような課題を解決してディスプレイの大型化(大画面化)を可能にするべく、光が透明基板を透過するタイプでなく、TFT基板と反対の側に光を出射させるタイプのものの、実用化が図られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板と反対の側に光を出射させるタイプのものでは、発光層からの光が出射する側の電極、すなわち対向電極を、透明な導電材料によって形成する必要がある。
しかしながら、透明な導電材料で、かつ実用に耐えられものとしては、十分に低抵抗な材料がなく、したがって基板と反対の側に光を出射させるタイプの電気光学装置においても、その大画面化、さらにはその高精細化が困難であるといった課題がある。
【0006】
すなわち、例えば有機EL素子からなる電気光学装置は、その駆動方式が電流によるものであることから、例えば電圧による駆動方式の液晶素子に比べて、画素間で均一な表示を行わせ、これにより面内均一性を確保するためには、各画素に流れる電流がより均一になるような制御を行う必要がある。
【0007】
しかしながら、有機EL素子からなる電気光学装置では、前述したようにこれを大型化(大画面化)する場合、配線の末端側にまで電流が流れにくくなることから、配線抵抗を十分に下げ、これにより配線末端側にまで電流が均一に流れるようにする必要がある。また、高精細化する場合にも、走査のための選択時間を短くする必要上、やはり配線抵抗を十分に下げる必要がある。しかして、前述したように現状では、透明な導電材料でかつ実用に耐えられものとして十分に低抵抗な材料がなく、したがって大型化や高精細化を達成し得ないのである。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、電気光学装置の大型化や高精細化を可能にするべく、対向電極の低抵抗化を図ったアクティブマトリクス基板、電気光学装置、電気光学装置の製造方法、及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため本発明のアクティブマトリクス基板では、アクティブ素子を有する基体上に、絶縁性材料からなる隔壁により隔てられた複数の画素電極を備えたアクティブマトリクス基板であって、前記隔壁上の前記画素電極とは絶縁された位置に導電材料が配置されていることを特徴としている。
【0010】
このアクティブマトリクス基板によれば、隔壁上に導電材料が配置されているので、例えばこれを対向電極とは別に形成し、かつ該対向電極に接続した状態に設けておくことにより、対向電極に導電材料が合わされた実質的な対向電極の抵抗が低下し、これにより配線末端までの電流の均一化が可能となる。
【0011】
また、前記アクティブマトリクス基板においては、前記アクティブ素子が薄膜トランジスタであるのが好ましい。
このようにすれば、アクティブマトリクス基板の薄厚化、小型化が可能になる。
【0012】
また、前記アクティブマトリクス基板においては、前記導電材料がストライプ状あるいは格子状に形成されてなることを特徴としている。
このようにすれば、各画素に対してほぼ均等に影響するように、対向電極を低抵抗化することができることから、画素間で均一な表示を行わせ、これにより面内均一性を確保するのに有利となる。
【0013】
また、前記アクティブマトリクス基板においては、前記隔壁の上面に凹部が形成され、この凹部内に前記導電材料が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、例えばインクジェット法によって導電材料を前記凹部内に吐出し塗布した場合に、導電材料が隔壁上面から流れ落ちて、画素電極と導通してしまうといった不都合を防止することができる。
本発明の他のアクティブマトリクス基板はアクティブ素子の上方に平坦化膜が形成され、前記平坦化膜上に複数の画素電極が配置されていることを特徴とする。
このアクティブマトリクス基板において、前記複数の画素電極は、絶縁性材料からなる隔壁により隔てられてもよい。さらに、前記隔壁上に導電材料が配置されていてもよい。このアクティブマトリクス基板上に電気光学素子として、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子を配置し、電気光学装置とすることもできる。この電気光学装置は画素電極が平坦化膜が設けられているので、有機エレクトロルミネッセンス素子から発した光が散乱など散逸することなく取り出すことができる。特にアクティブマトリクス基板と反対側に光を取り出す場合には特に効果がある。
【0014】
本発明の電気光学装置では、アクティブ素子を有する基体上に、絶縁性材料からなる隔壁により隔てられた複数の画素電極と、前記画素電極上に配置された発光層を含む積層体と、前記積層体上に配置された対向電極と、を備えてなり、前記隔壁上には、前記画素電極とは絶縁された導電部が配置され、該導電部は前記対向電極と接続されていることを特徴としている。
【0015】
この電気光学装置によれば、隔壁上に導電部を配置しているので、対向電極に導電部が合わされた実質的な対向電極の抵抗が低下し、これにより配線末端までの電流の均一化を可能にし、例えば電気光学装置としてのディスプレイの大型化(大画面化)、高精細化を図ることができる。
【0016】
また、前記電気光学装置においては、前記アクティブ素子が薄膜トランジスタであるのが好ましい。
このようにすれば、装置の薄厚化、小型化が可能になる。
【0017】
また、前記電気光学装置においては、前記導電部がストライプ状あるいは格子状に形成されているのが好ましい。
このようにすれば、各画素に対してほぼ均等に影響するように、対向電極を低抵抗化することができることから、画素間で均一な表示を行わせ、これにより面内均一性を確保するのに有利となる。
【0018】
また、前記電気光学装置においては、前記発光層は有機エレクトロルミネッセンス材料であるのが好ましい。
このようにすれば、電気光学装置が有機エレクトロルミネッセンス素子からなるものとなる。
【0019】
また、前記電気光学装置においては、前記導電部の形成材料が、前記対向電極の形成材料より導電性が高い材料であるのが好ましい。
このようにすれば、導電部による対向電極の実質的な抵抗低下の度合いを高めることができる。
【0020】
また、前記電気光学装置においては、前記隔壁の上面に凹部が形成され、この凹部内に前記導電部が形成されてなるのが好ましい。
このようにすれば、例えばインクジェット法によって導電材料を前記凹部内に吐出し塗布した場合に、導電材料が隔壁上面から流れ落ちて、配置される画素電極と導通してしまうといった不都合を防止することができる。
【0021】
また、前記電気光学装置においては、前記発光層の、前記画素電極と対向電極のうちの陽極として機能する電極側に、正孔注入層又は正孔輸送層が設けられてなるのが好ましい。
このようにすれば、正孔注入層又は正孔輸送層によって発光層の発光能が高くなり、より良好な発光特性が得られる。
【0022】
また、前記電気光学装置においては、前記発光層からの光が対向電極側を経由して取り出されるのが好ましい。
このようにすれば、基体と反対の側から光が出射することにより、基体として透明でないものを用いることができる。
【0023】
また、前記電気光学装置においては、前記画素電極がアクティブ素子上に配置されているのが好ましく、さらには、前記アクティブ素子上に平坦化膜が形成され、この平坦化膜上に画素電極が配置されているのが好ましい。
このようにすれば、アクティブ素子に影響されることなく画素電極を形成することが可能になり、特に平坦化膜上に画素電極が配置されている場合、デザインルールの限界まで画素電極を大きくすることが可能になる。
【0024】
また、前記電気光学装置においては、前記発光層からの光が画素電極側を経由して取り出されるのが好ましい。
このようにすれば、基体側から光が出射することにより、対向電極として透明でないものを用いることができる。
【0025】
本発明の電気光学装置の製造方法では、請求項6記載の電気光学装置を製造するに際し、基体上に画素電極と画素間を隔てる隔壁と該隔壁上の導電部とを形成した後、前記隔壁により区画された領域に発光層を形成することを特徴としている。
【0026】
この電気光学装置の製造方法によれば、導電部を形成した後、発光層を形成するので、発光層に影響を与えることなく、導電部の形成プロセスを行うことができる。また、導電部を形成することにより、実質的な対向電極の抵抗を低下させることができることから、配線末端までの電流の均一化を可能にし、例えば電気光学装置としてのディスプレイの大型化(大画面化)、高精細化を図ることができる。
【0027】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、前記隔壁により区画された領域発光層を構成する材料をインクジェット法で塗布することにより、前記発光層を形成することができる。このようにすれば、発光層の材料を選択的に吐出し塗布することができ、したがって、例えば赤、緑、青の各色を発光する材料を打ち分けることにより、フルカラー表示の電気光学装置を容易に製造することができる。
インクジェット法の代わりにスピンコート法やディップコート法、あるいは蒸着法なども使用することもできる。
【0028】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、前記隔壁の上面に凹部を形成し、この凹部内に導電部の材料をインクジェット法で塗布することにより、前記導電部を形成するができる。
このようにすれば、導電材料が隔壁上面から流れ落ちて、画素電極と導通してしまうといった不都合を防止することができる。
インクジェット法の代わりにスピンコート法やディップコート法、あるいは蒸着法なども使用することもできる。
【0029】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、前記隔壁の上面を親液処理するとともに側面を撥液処理しておき、液状に調製した導電部の材料に前記隔壁の上面部を浸して該隔壁の上面に導電材料を付着させ、その後この導電材料を硬化させて導電部とするのが好ましい。
このようにすれば、隔壁上への導電部の形成を比較的容易に行うことができる。
【0030】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、隔壁と該隔壁上の導電部とを形成するに際して、隔壁形成材料を成膜し、次に該隔壁形成材料からなる膜の上に導電材料を成膜し、次いで導電材料からなる膜をパターニングして導電部を形成し、その後得られた導電部をマスクにして隔壁形成材料からなる膜をパターニングし、隔壁を形成するのが好ましい。
このようにすれば、例えばフォトリソグラフィー工程によってパターニングを行う場合に、このフォトリソグラフィー工程を隔壁形成と導電部の形成とでそれぞれに行うことなく、1度ですませることができ、したがって工程の簡略化を図ることができる。
【0031】
また、前記電気光学装置の製造方法においては、前記隔壁により区画された領域に対して、前記画素電極と対向電極のうちの陽極として機能する電極側に、正孔注入層又は正孔輸送層の材料をインクジェット法で塗布することにより、正孔注入層又は正孔輸送層を形成するのが好ましい。
このようにすれば、隔壁により区画された領域に正孔注入層又は正孔輸送層の材料を選択的に吐出し塗布することができる。また、このようにして正孔注入層又は正孔輸送層を形成することにより、発光層の発光能を高くすることができ、したがってより良好な発光特性を得ることができる。
【0032】
本発明の電子機器は、前記電気光学装置、あるいは前記製造方法によって得られた電気光学装置を用いてなることを特徴としている。
この電子機器によれば、隔壁上に導電部が形成されていることにより、実質的な対向電極の抵抗が低下した電気光学装置を用いたものであるから、配線末端までの電流の均一化が可能となっていることにより、その大型化(大画面化)、高精細化が可能となる。
【0033】
また、前記の電子機器においては、前記電気光学装置の光出射側に反射防止フィルムが設けられているのが好ましい。
このようにすれば、隔壁上に形成した導電部での反射に起因する表示性能の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を詳しく説明する。
まず、本発明の電気光学装置について、その概略構成を説明する。
図1、図2は本発明のアクティブマトリクス基板およびこれを用いた電気光学装置を、アクティブマトリクス型のディスプレイに適用した場合の一例を示すもので、これらの図において符号1はディスプレイである。
【0035】
このディスプレイ1は、回路図である図1に示すように基板(図示せず)上に、複数の走査線131と、これら走査線131に対して交差する方向に延びる複数の信号線132と、これら信号線132に並列に延びる複数の共通給電線133とがそれぞれ配線されたもので、走査線131及び信号線132の各交点毎に、画素(画素領域素)1Aが設けられて構成されたものである。
【0036】
信号線132に対しては、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、アナログスイッチを備えるデータ側駆動回路3が設けられている。
一方、走査線131に対しては、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査側駆動回路4が設けられている。また、画素領域1Aの各々には、走査線131を介して走査信号がゲート電極に供給される第1の薄膜トランジスタ142と、この第1の薄膜トランジスタ142を介して信号線132から供給される画像信号を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画像信号がゲート電極に供給される第2の薄膜トランジスタ143と、この第2の薄膜トランジスタ143を介して共通給電線133に電気的に接続したときに共通給電線133から駆動電流が流れ込む画素電極141と、この画素電極141と反射電極154との間に挟み込まれる発光部140と、が設けられている。
【0037】
このような構成のもとに、走査線131が駆動されて第1の薄膜トランジスタ142がオンになると、そのときの信号線132の電位が保持容量capに保持され、該保持容量capの状態に応じて、第2の薄膜トランジスタ143の導通状態が決まる。そして、第2の薄膜トランジスタ143のチャネルを介して共通給電線133から画素電極141に電流が流れ、さらに発光部140を通じて反射電極154に電流が流れることにより、発光部140は、これを流れる電流量に応じて発光するようになる。
【0038】
ここで、各画素1Aの平面構造は、図2(a)に示すように平面形状が長方形の画素電極141の四辺が、信号線132、共通給電線133、走査線131及び図示しない他の画素電極用の走査線によって囲まれた配置となっている。なお、図2(a)では対向電極や隔壁を取り除いた状態で示している。また、画素1A近傍の内部構造は、図2(a)における、画素1A近傍でのA−A線矢視断面図である図2(b)に示すように、第2の薄膜トランジスタ143の上方に隔壁150が形成され、この隔壁150上に導電部151が形成され、さらにこれら隔壁150および導電部151を覆って反射電極154と封止層160が形成された構造となっている。なお、図2(b)において符号143は薄膜トランジスタ、170はゲート絶縁膜、140Aは正孔注入層、140Bは発光層、140Cは電子輸送層である。
【0039】
次に、このようなディスプレイ1の製造方法について、図3〜図5を用いて説明する。なお、図3〜図5では、説明を簡略化するべく、単一の画素1Aについてのみ図示する。
まず、基板を用意する。ここで、本発明のディスプレイ1は、後述する発光層による発光光を、基板(TFT基板)と反対の側、すなわち対向電極側から取り出すタイプに構成されるものであり、したがって発光光を基板側から取り出す場合と異なり、基板材料として透明ないし半透明なものを用いる必要がない。ただし、透明材料であっても、例えば安価なソーダガラスなどを用いてもよい。その場合に、これにシリカコートを施すのが、酸アルカリに弱いソーダガラスを保護する効果を有し、さらに基板の平坦性をよくする効果も有するため好ましい。
また、基板として不透明なものを用いる場合、アルミナ等のセラミックスや、ステンレス等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0040】
本例では、基板として図3(a)に示すようにソーダガラス等からなる基板(TFT基板)121を用意する。そして、これに対し、必要に応じてTEOS(テトラエトキシシラン)や酸素ガスなどを原料としてプラズマCVD法により厚さ約200〜500nmのシリコン酸化膜からなる下地保護膜(図示せず)を形成する。
【0041】
次に、基板121の温度を約350℃に設定して、下地保護膜の表面にプラズマCVD法により厚さ約30〜70nmのアモルファスシリコン膜からなる半導体膜200を形成する。次いで、この半導体膜200に対してレーザアニールまたは固相成長法などの結晶化工程を行い、半導体膜200をポリシリコン膜に結晶化する。レーザアニール法では、例えばエキシマレーザでビームの長寸が400mmのラインビームを用い、その出力強度は例えば200mJ/cm2とする。ラインビームについては、その短寸方向におけるレーザ強度のピーク値の90%に相当する部分が各領域毎に重なるようにラインビームを走査する。
【0042】
次いで、図3(b)に示すように、半導体膜(ポリシリコン膜)200をパターニングして島状の半導体膜210とし、その表面に対して、TEOSや酸素ガスなどを原料としてプラズマCVD法により厚さ約60〜150nmのシリコン酸化膜または窒化膜からなるゲート絶縁膜220を形成する。なお、半導体膜210は、図2に示した第2の薄膜トランジスタ143のチャネル領域及びソース・ドレイン領域となるものであるが、異なる断面位置においては第1の薄膜トランジスタ142のチャネル領域及びソース・ドレイン領域となる半導体膜も形成されている。つまり、図3〜図5に示す製造工程では二種類のトランジスタ142、143が同時に作られるのであるが、同じ手順で作られるため、以下の説明ではトランジスタに関しては、第2の薄膜トランジスタ143についてのみ説明し、第1の薄膜トランジスタ142についてはその説明を省略する。
【0043】
次いで、図3(c)に示すように、アルミニウム、タンタル、モリブデン、チタン、タングステンなどの金属膜からなる導電膜をスパッタ法により形成した後、これをパターニングし、ゲート電極143Aを形成する。
次いで、この状態で高濃度のリンイオンを打ち込み、半導体膜210に、ゲート電極143Aに対して自己整合的にソース・ドレイン領域143a、143bを形成する。なお、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域143cとなる。
【0044】
次いで、図3(d)に示すように、層間絶縁膜230を形成した後、コンタクトホール232、234を形成し、これらコンタクトホール232、234内に中継電極236、238を埋め込む。
次いで、図3(e)に示すように、層間絶縁膜230上に、信号線132、共通給電線133及び走査線(図3に示さず)を形成する。ここで、中継電極238と各配線とは、同一工程で形成されていてもよい。
【0045】
そして、各配線の上面をも覆うように層間絶縁膜240を形成し、中継電極236に対応する位置にコンタクトホール(図示せず)を形成し、そのコンタクトホール内にも埋め込まれるように例えばアルミニウム等の金属からなる反射膜を蒸着法等によって形成する。そして、この上にITO(インジウム・スズ酸化物)膜を形成し、さらにこれら反射膜及びITO膜をパターニングして、信号線132、共通給電線133及び走査線(図示せず)に囲まれた所定位置に、ソース・ドレイン領域143aに電気的に接続する画素電極141を形成する。この画素電極141は陽極として機能するもので、ITOからなる透明電極141aと、アルミニウム等からなる反射電極141bとによって構成されたものとなる。
ここで、画素電極141の表面側にITOからなる透明電極141aを用いているのは、これの上に形成される正孔注入層または正孔輸送層に対して、ITOは十分に正孔を供給できるエネルギー準位にある材料となっているからである。また、信号線132及び共通給電線133、さらには走査線(図示せず)に挟まれた部分が、後述するように正孔注入層(又は正孔輸送層)や発光層の形成場所となっている。
【0046】
次いで、図4(a)に示すように、前記の形成場所を囲むように隔壁150を形成する。この隔壁150は仕切部材として機能するもので、例えばポリイミド等の感光性の絶縁性有機材料を成膜し、露光、現像後にキュア(焼成)することにより形成される。隔壁150の膜厚については、例えば1〜2μmの高さとなるように形成する。このような隔壁150により、正孔注入層(又は正孔輸送層)や発光層の形成場所、すなわちこれらの形成材料の塗布位置とその周囲の隔壁150との間には、十分な高さの段差111が形成されるようになる。
【0047】
次いで、形成した隔壁150の上面を覆った状態にアルミニウム等の金属による導電材料を蒸着法等によって形成し、続いてこの導電膜を例えばホトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることにより、図4(b)に示すように隔壁150上に導電部151を形成し、本発明のアクティブマトリクス基板の一例を得る。ここで、導電部151を形成するための導電材料としては、後述する対向電極の形成材料より導電性の高い材料が用いられる。また、この導電部151は、本例では隔壁150の平面視した状態での形状(隔壁150の平面形状)に沿って格子状に形成される。ただし、本発明はこれに限ることなく、例えばストライプ状に形成してもよい。
【0048】
次いで、図4(c)に示すように、基板121の上面を上に向けた状態で、インクジェットヘッド法によって正孔注入層の形成材料をインクジェットヘッド10より、前記隔壁150に囲まれた塗布位置に選択的に塗布する。
ここで、インクジェットヘッド10は、図6(a)に示すように例えばステンレス製のノズルプレート12と振動板13とを備え、両者を仕切部材(リザーバプレート)14を介して接合したものである。ノズルプレート12と振動板13との間には、仕切部材14によって複数の空間15と液溜まり16とが形成されている。各空間15と液溜まり16の内部はインクで満たされており、各空間15と液溜まり16とは供給口17を介して連通したものとなっている。また、ノズルプレート12には、空間15からインクを噴射するためのノズル孔18が一列に配列された状態で複数形成されている。一方、振動板13には、液溜まり16にインクを供給するための孔19が形成されている。
【0049】
また、振動板13の空間15に対向する面と反対側の面上には、図6(b)に示すように圧電素子(ピエゾ素子)20が接合されている。この圧電素子20は、一対の電極21の間に位置し、通電するとこれが外側に突出するようにして撓曲するよう構成されたものである。そして、このような構成のもとに圧電素子20が接合されている振動板13は、圧電素子20と一体になって同時に外側へ撓曲するようになっており、これによって空間15の容積が増大するようになっている。したがって、空間15内に増大した容積分に相当するインクが、液溜まり16から供給口17を介して流入する。また、このような状態から圧電素子20への通電を解除すると、圧電素子20と振動板13はともに元の形状に戻る。したがって、空間15も元の容積に戻ることから、空間15内部のインクの圧力が上昇し、ノズル孔18から基板に向けてインクの液滴22が吐出される。
なお、インクジェットヘッド10のインクジェット方式としては、前記の圧電素子20を用いたピエゾジェットタイプ以外の、公知の方式のものを採用してもよい。
【0050】
このような構成のインクジェットヘッド10を用いて、本例では図4(c)に示したように隔壁150内に正孔注入層の形成材料をインクとして塗布する。
正孔注入層の形成材料としては、ポリマー前駆体がポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1,1−ビス−(4−N,N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム等が挙げられる。なお、正孔注入層に代えて正孔輸送層を形成するようにしてもよく、その場合に、正孔輸送層の形成材料としては、例えばピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等が用いられる。また、これら正孔注入層あるいは正孔輸送層の形成材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン、またはポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子系材料も使用可能である。
このようにしてインクジェットヘッド10を用いて形成材料11Aを塗布すると、液状の形成材料114Aは流動性が高いため、水平方向に広がろうとするものの、塗布された位置を囲んで隔壁150が形成されていることにより、隔壁150を越えてその外側に広がることが防止される。
【0051】
次いで、図5(a)に示すように加熱あるいは光照射により液状の形成材料114A中の溶媒を蒸発させて、画素電極141上に、固形の正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aを形成する。
次いで、正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aの形成の場合と同様にして、インクジェットヘッド10よりインクとして発光層の形成材料(発光材料)を前記隔壁150内の正孔注入層(又は正孔輸送層)140A上に選択的に塗布する。
【0052】
発光層の形成材料としては、例えば共役系高分子有機化合物の前駆体と、得られる発光層の発光特性を変化させるための蛍光色素とを含んでなるものが好適に用いられる。
共役系高分子有機化合物の前駆体は、蛍光色素等とともにインクジェットヘッド10から吐出されて薄膜に成形された後、例えば以下の式(I)に示すように加熱硬化されることによって共役系高分子有機EL層となる発光層を生成し得るものをいい、例えば前駆体のスルホニウム塩の場合、加熱処理されることによりスルホニウム基が脱離し、共役系高分子有機化合物となるもの等である。
【0053】
【化1】

【0054】
このような共役系高分子有機化合物は固体で強い蛍光を持ち、均質な固体超薄膜を形成することができる。また、このような化合物の前駆体は、硬化した後には強固な共役系高分子膜を形成することから、加熱硬化前においては前駆体溶液を後述するインクジェットパターニングに適用可能な所望の粘度に調整することができ、簡便かつ短時間で最適条件の膜形成を行うことができる。
【0055】
このような前駆体としては、例えばPPV(ポリ(パラ−フェニレンビニレン))またはその誘導体の前駆体が好ましい。PPVまたはその誘導体の前駆体は、水あるいは有機溶媒に可溶であり、また、ポリマー化が可能であるため光学的にも高品質の薄膜を得ることができる。さらに、PPVは強い蛍光を持ち、また二重結合のπ電子がポリマー鎖上で非極在化している導電性高分子でもあるため、高性能の有機EL素子を得ることができる。
【0056】
このようなPPVまたはPPV誘導体の前駆体として、例えば化学式(II)に示すような、PPV(ポリ(パラ−フェニレンビニレン))前駆体、MO−PPV(ポリ(2,5−ジメトキシ−1,4−フェニレンビニレン))前駆体、CN−PPV(ポリ(2,5−ビスヘキシルオキシ−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)))前駆体、MEH−PPV(ポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシルオキシ)]−パラ−フェニレンビニレン)前駆体等が挙げられる。
【0057】
【化2】

【0058】
PPVまたはPPV誘導体の前駆体は、前述したように水に可溶であり、成膜後の加熱により高分子化してPPV層を形成する。前記PPV前駆体に代表される前駆体の含有量は、組成物全体に対して0.01〜10.0wt%が好ましく、0.1〜5.0wt%がさらに好ましい。前駆体の添加量が少な過ぎると共役系高分子膜を形成するのに不十分であり、多過ぎると組成物の粘度が高くなり、インクジェット法による精度の高いパターニングに適さない場合がある。
【0059】
さらに、発光層の形成材料としては、少なくとも1種の蛍光色素を含むのが好ましい。これにより、発光層の発光特性を変化させることができ、例えば、発光層の発光効率の向上、または光吸収極大波長(発光色)を変えるための手段としても有効である。すなわち、蛍光色素は単に発光層材料としてではなく、発光機能そのものを担う色素材料として利用することができる。例えば、共役系高分子有機化合物分子上のキャリア再結合で生成したエキシトンのエネルギーをほとんど蛍光色素分子上に移すことができる。この場合、発光は蛍光量子効率が高い蛍光色素分子からのみ起こるため、発光層の電流量子効率も増加する。したがって、発光層の形成材料中に蛍光色素を加えることにより、同時に発光層の発光スペクトルも蛍光分子のものとなるので、発光色を変えるための手段としても有効となる。
【0060】
なお、ここでいう電流量子効率とは、発光機能に基づいて発光性能を考察するための尺度であって、下記式により定義される。
ηE=放出されるフォトンのエネルギー/入力電気エネルギー
そして、蛍光色素のドープによる光吸収極大波長の変換によって、例えば赤、青、緑の3原色を発光させることができ、その結果フルカラー表示体を得ることが可能となる。
さらに蛍光色素をドーピングすることにより、EL素子の発光効率を大幅に向上させることができる。
【0061】
蛍光色素としては、赤色の発色光を発光する発光層を形成する場合、赤色の発色光を有するローダミンまたはローダミン誘導体を用いるのが好ましい。これらの蛍光色素はPPVと相溶性がよく、均一で安定した発光層の形成が容易である。このような蛍光色素として具体的には、ローダミンB、ローダミンBベース、ローダミン6G、ローダミン101過塩素酸塩等が挙げられ、これらを2種以上混合したものであってもよい。
【0062】
また、緑色の発色光を発光する発光層を形成する場合、緑色の発色光を有するキナクリドンおよびその誘導体を用いるのが好ましい。これらの蛍光色素もPPVと相溶性がよく発光層の形成が容易である。
【0063】
さらに、青色の発色光を発光する発光層を形成する場合、青色の発色光を有するジスチリルビフェニルおよびその誘導体を用いるのが好ましい。これらの蛍光色素は水・アルコール混合溶液に可溶であり、またPPVと相溶性がよく発光層の形成が容易である。
【0064】
また、青色の発色光を有する他の蛍光色素としては、クマリンおよびその誘導体を挙げることができる。これらの蛍光色素はPPVと相溶性がよく発光層の形成が容易である。このような蛍光色素として具体的には、クマリン、クマリン−1、クマリン−6、クマリン−7、クマリン120、クマリン138、クマリン152、クマリン153、クマリン311、クマリン314、クマリン334、クマリン337、クマリン343等が挙げられる。
【0065】
さらに、別の青色の発色光を有する蛍光色素としては、テトラフェニルブタジエン(TPB)またはTPB誘導体を挙げることができる。これらの蛍光色素はPPVと相溶性がよく発光層の形成が容易である。
以上の蛍光色素については、各色ともに1種のみを用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
これらの蛍光色素については、前記共役系高分子有機化合物の前駆体固型分に対し、0.5〜10wt%添加するのが好ましく、1.0〜5.0wt%添加するのがより好ましい。蛍光色素の添加量が多過ぎると発光層の耐候性および耐久性の維持が困難となり、一方、添加量が少な過ぎると、前述したような蛍光色素を加えることによる効果が十分に得られないからである。
【0067】
また、前記前駆体および蛍光色素については、極性溶媒に溶解または分散させてインクとし、このインクをインクジェットヘッド10から吐出するのが好ましい。極性溶媒は、前記前駆体、発光色素等を容易に溶解または均一に分散させることができるため、インクジェットヘッド10のノズル孔18での発光層形成材料中の固型分が付着したり目詰りを起こすのを防止することができる。
【0068】
このような極性溶媒として具体的には、水、メタノール、エタノール等の水と相溶性のあるアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒または無機溶媒が挙げられ、これらの溶媒を2種以上適宜混合したものであってもよい。
【0069】
さらに、前記形成材料中に湿潤剤を添加しておくのが好ましい。これにより、形成材料がインクジェットヘッド10のノズル孔18で乾燥・凝固することを有効に防止することができる。かかる湿潤剤としては、例えばグリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられ、これらを2種以上混合したものであってもよい。この湿潤剤の添加量としては、形成材料の全体量に対し、5〜20wt%程度とするのが好ましい。
なお、その他の添加剤、被膜安定化材料を添加してもよく、例えば、安定剤、粘度調整剤、老化防止剤、pH調整剤、防腐剤、樹脂エマルジョン、レベリング剤等を用いることができる。
【0070】
このような発光層の形成材料をインクジェットヘッド10のノズル孔18から吐出すると、この形成材料は隔壁150内の正孔注入層140A上に塗布される。
ここで、形成材料の吐出による発光層の形成は、赤色の発色光を発光する発光層の形成材料、緑色の発色光を発光する発光層の形成材料、青色の発色光を発光する発光層の形成材料を、それぞれ対応する画素1Aに吐出し塗布することによって行う。なお、各色に対応する画素1Aは、これらが規則的な配置となるように予め決められている。
【0071】
このようにして各色の発光層形成材料を吐出し塗布したら、発光層形成材料中の溶媒を蒸発させることにより、図5(b)に示すように正孔注入層140A上に固形の発光層140Bを形成し、これにより正孔注入層140Aと発光層140Bとからなる発光部140、すなわち本発明における積層体を得る。ここで、発光層形成材料114B中の溶媒の蒸発については、必要に応じて加熱あるいは減圧等の処理を行うが、発光層の形成材料は通常乾燥性が良好で速乾性であることから、特にこのような処理を行うことなく、したがって各色の発光層形成材料を順次吐出塗布することにより、その塗布順に各色の発光層140Bを形成することができる。
なお、本例では積層体となる発光部140を、正孔注入層140A(あるいは正孔輸送層)と発光層140Bとから形成したが、さらに発光層140B上に電子輸送層を形成し、三層構造としてもよい。
【0072】
その後、図5(c)に示すように、基板121の表面全体に透明導電材料を蒸着法等によって成膜し、陰極として機能する対向電極154を前記導電部151と接した状態に形成する。透明導電材料としては、特に限定されることなく種々のものが採用可能であるが、例えばカルシウムが用いられる。なお、カルシウムを用いた場合、透明性を確保するうえで、これを厚さ数十nm程度の薄膜に形成するのが好ましい。また、このようにカルシウムを薄膜に形成した場合、さらにこれの上にアルミニウムや金等の材料で保護膜(図示せず)を形成するのが好ましい。保護膜として用いるアルミニウムや金等については、やはりその厚さを透明性が損なわれない程度に十分薄い厚さ、例えば数十nm程度とする必要がある。また、この保護膜については、単一の材料からでなく、複数の材料を積層することによる、複合膜としてもよい。
そして、さらにこの対向電極154上を公知の封止材料によって封止することにより、本発明の電気光学装置の一実施形態例となるディスプレイを得る。
【0073】
このように、本例の電気光学装置(ディスプレイ1)にあっては、隔壁150上に、例えばカルシウムからなる対向電極154より導電性の高い材料(例えばアルミニウム)による導電部151を、該対向電極154に接した状態で設けたので、導電部151と対向電極154とを合わした実質的な対向電極の抵抗が低下して配線末端までの電流が均一化し、よってディスプレイ1の大型化(大画面化)、高精細化が可能になる。
【0074】
また、正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aを設けているので、該正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aによって発光層140Bの発光能を高くすることができ、したがってより良好な発光特性を得ることができる。
また、前記画素電極141を、ITOからなる透明電極141aとこれの基板(TFT基板)121側に形成した反射電極141bとから構成しているので、反射電極141bによって発光層140Bからの光を反射することにより、基板121と反対側に出射する光の量を増大させることができる。また、反射電極141bを金属で形成することにより、透明電極141aが比較的高抵抗であるITOによって形成されているにもかかわらず、画素電極141全体の抵抗を低くすることができる。また、正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aに対し十分に正孔を供給できるエネルギー準位にあるITOにより、透明電極141aを形成しているので、正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aの機能を高めて発光層140Bによる発光特性を良好にすることができる。
【0075】
また、前記電気光学装置を形成するためのアクティブマトリクス基板にあっては、前述したように隔壁150上に導電部151を設けたので、導電部151と対向電極154とを合わした実質的な対向電極の抵抗が低下して配線末端までの電流が均一化し、これによりこれを用いてなる電気光学装置(ディスプレイ1)の大型化(大画面化)、高精細化を可能にすることができる。
【0076】
また、前記電気光学装置の製造方法にあっては、基板121上に画素電極141と画素間を隔てる隔壁150と該隔壁150上の導電部151とを形成した後、隔壁150内に正孔注入層(又は正孔輸送層)140A、発光層140Bを形成しているので、有機材料からなる正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aや発光層140Bに影響を与えることなく、導電部151の形成プロセスを行うことができる。
【0077】
また、隔壁150内に正孔注入層(又は正孔輸送層)140A、発光層140Bの形成材料をそれぞれインクジェット法で塗布しているので、隔壁150内にこれら材料を選択的に吐出し塗布することができ、したがって、各材料、例えば発光層材料として赤、緑、青の各色に対応する材料を打ち分けることにより、フルカラー表示の有機EL素子を容易に製造することができる。
【0078】
なお、本発明の有機EL素子及びその製造方法については、前記例に限定されることなく、例えば図7に示すように隔壁150の上面に凹部150aを形成し、この凹部150a内に導電部の材料をインクジェット法で塗布することにより、導電部151を形成するようにしてもよい。
すなわち、隔壁150の形成時において、隔壁150の上面に該隔壁150の形状に沿ってその中央部に凹部が形成されるようにレジストパターン(図示せず)を形成し、これを用いてエッチングすることにより、図7に示したように隔壁150上に凹部150aを形成する。そして、この凹部150a内に導電部151の材料をインクジェット法で塗布することにより、導電部151を形成する。
【0079】
このようなインクジェット法による塗布が可能な導電材料としては、例えば銀コロイド分散液や金コロイド分散液を用いることができる。このようなコロイド液を図6(a)、(b)に示したインクジェットヘッド10より吐出し、凹部150a内に塗布した後、これを加熱等の処理を施すことにより、図7に示したように導電部151を形成することができる。
このようにして導電部151を形成すれば、導電材料が隔壁150上面から流れ落ちて隔壁150内に至り、画素電極141と導通してしまうといった不都合を防止することができる。
【0080】
また、導電部151の形成については、このようなインクジェット法に代えてドブ漬け法を採用することもできる。すなわち、図4(a)に示したように隔壁150を形成した後、この隔壁の上面を親液処理するとともにその側面を撥液処理しておく。そして、この隔壁150の上面部を液状に調製した導電材料(例えば前記の銀コロイド分散液や金コロイド分散液)に浸し、該隔壁150の上面に導電材料を付着させる。その後、加熱処理等によってこの導電材料を硬化させ、導電部151とする。ここで、隔壁150の側面に撥液性を発現させるためには、例えば隔壁150の表面(側面)にCF4、SF5、CHF3などのフッ素系化合物を塗布し、さらにこれをプラズマ処理するといった手法が採用される。また、隔壁150の上面に親液性を発現させるためには、先に撥液処理した面(上面)に対しUV照射処理するといった手法が採用される。
【0081】
このようにして隔壁150の上面を親液処理し、側面を撥液処理した後、この隔壁150の上面部を液状に調製した導電部の材料に浸すと、この液状の材料が隔壁150の側面に付着することなく、上面にのみ選択的に付着するようになる。したがって、このような処理により、隔壁上への導電部の形成を比較的容易に行うことができる。
【0082】
また、導電部151の形成については、特に正孔注入層(又は正孔輸送層)や発光層の形成に先立って行うのであればいつでもよく、例えば隔壁150の形成材料を成膜した後、導電部の形成材料を続けて成膜し、その後、これらの膜を同じレジストパターンを用いてエッチングし、導電部151、隔壁150を形成するようにしてもよく、また、先に形成される導電部151をマスクにして隔壁形成材料からなる膜をエッチングし、これをパターニングして隔壁150を形成するようにしてもよい。
このようにして導電部151および隔壁150の形成を行えば、フォトリソグラフィー工程によってパターニングを行う場合に、このフォトリソグラフィー工程を隔壁形成と導電部の形成とでそれぞれに行うことなく、1度の工程ですませることができ、したがって工程の簡略化を図ることができる。
【0083】
また、画素電極141の形成に先立って隔壁150を形成しておき、その状態から例えばアルミニウムを全面に成膜し、その後、このアルミニウム膜をパターニングすることにより、画素電極141における反射電極141aと導電部151とを同時に形成するようにしてもよい。
【0084】
また、前記実施形態例では、画素電極141を陽極として、対向電極154を陰極としてそれぞれ機能させるよう構成したが、逆に、画素電極141を陰極として、対向電極154を陽極としてそれぞれ機能させるように構成することもできる。その場合、正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aについては、陽極として機能する電極側、すなわち対向電極側に設けることになる。また、このように構成する場合には、画素電極141を、例えばその内面側(発光層側)にカルシウム等からなる電極を配置するとともに、外側(基板側)に保護膜としても機能するアルミニウム等の反射電極を配置することによって形成し、一方、対向電極154を、透明導電材料であるITOによって形成するようにすればよい。
【0085】
また、本発明の電気光学装置にあっては、図2(a)、(b)に示した形態に代えて、例えば図8(a)、(b)に示すような形態にしてもよい。図8(a)、(b)に示した電気光学装置が図2(a)、(b)に示したものと異なるところは、主に第1の薄膜トランジスタ(図示せず)、第2の薄膜トランジスタ143の上に平坦化膜180を形成し、この平坦化膜180上に画素電極141を配置した点にある。
すなわち、第2の薄膜トランジスタ143上に層間絶縁膜(図示せず)を介して平坦化膜180を形成し、この平坦化膜180上に隔壁150および画素電極141を形成し、以下、図2(b)に示した例と同様にして、各構成要素を形成している。なお、図8(a)において符号182は平坦化膜180中に形成した中継電極である。
【0086】
このように構成すれば、薄膜トランジスタ143に影響されることなく画素電極141を形成することができるようになり、また、特に平坦化膜180上に画素電極141を形成配置することにより、デザインルールの限界まで画素電極141を大きくすることが可能になる。
なお、図8(a)、(b)に示した例においても、画素電極141を陽極、対向電極154を陰極としてそれぞれ機能させてもよく、また、逆に、画素電極141を陰極、対向電極154を陽極としてそれぞれ機能させるように構成することもできる。その場合、先の例と同様に、正孔注入層(又は正孔輸送層)140Aについては、陽極として機能する電極側、すなわち対向電極側に設けることになる。
【0087】
また、前記実施形態例では、発光層による発光光を、基板と反対の側、すなわち対向電極を経由させて取り出すタイプに構成したが、このような場合、光の取り出し効率を向上させるためには、画素電極を平坦化膜上に設けることが好ましい。もちろん、本発明はこれに限定されることなく、画素電極側を経由させて取り出すタイプに構成してもよい。その場合には、基板および画素電極としてそれぞれ透明性のものを用いる必要があるものの、対向電極については非透明のものを用いることができる。
【0088】
次に、前記例のディスプレイとなる電気光学装置が備えられた電子機器の具体例について説明する。
図9(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図9(a)において、500は携帯電話本体を示し、501は図1、図2、あるいは図8に示したディスプレイ(電気光学装置)を備えたEL表示部(表示手段)を示している。
図9(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図9(b)において、600は情報処理装置、601はキーボードなどの入力部、603は情報処理本体、602は前記の図1、図2、あるいは図8に示したディスプレイ(電気光学装置)を備えたEL表示部(表示手段)を示している。
図9(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図9(c)において、700は時計本体を示し、701は前記の図1、図2、あるいは図8に示したディスプレイ(電気光学装置)を備えたEL表示部(表示手段)を示している。
図9(a)〜(c)に示す電子機器は、前記ディスプレイ(電気光学装置)が備えられたものであるので、優れた表示品質が得られる表示手段を備えた電子機器となる。
なお、電子機器に用いられる電気光学装置については、特にその光出射側に例えば偏光板と(λ/4)板とからなる反射防止フィルムを設けるのが好ましく、このようにすれば、隔壁150上に形成した導電部151での反射に起因する表示性能の低下を防止することができる。
【0089】
以上説明したように本発明のアクティブマトリクス基板は、隔壁上に導電材料が配置されたものであるから、例えばこれを対向電極とは別に形成し、かつ該対向電極に接続した状態に設けておくことにより、対向電極に導電材料が合わされた実質的な対向電極の抵抗を低下させ、これにより配線末端までの電流の均一化を図ることができる。
【0090】
本発明の電気光学装置は、隔壁上に導電部を配置したものであるから、対向電極に導電部が合わされた実質的な対向電極の抵抗が低下し、これにより配線末端までの電流の均一化が図られたものとなる。したがって、このように電流の均一化が可能となることにより、この有機EL素子を備えてなるディスプレイの大型化(大画面化)、高精細化を図ることができる。
【0091】
本発明の電気光学装置の製造方法は、導電部を形成した後、発光層を形成する方法であるから、発光層に影響を与えることなく、導電部の形成プロセスを行うことができる。また、導電部を形成することにより、実質的な対向電極の抵抗を低下させることができることから、配線末端までの電流の均一化を可能にし、例えば電気光学装置としてのディスプレイの大型化(大画面化)、高精細化を図ることができる。
【0092】
本発明の電子機器は、隔壁上に導電部が形成されていることにより、実質的な対向電極の抵抗が低下した電気光学装置を用いたものであるから、配線末端までの電流の均一化が可能となっていることにより、その大型化(大画面化)、高精細化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明のディスプレイの配置部を示す回路図である。
【図2】(a)は画素部の平面構造を示す拡大平面図、(b)は(a)のA−A線矢視要部断面図である。
【図3】(a)〜(e)は本発明の有機EL素子の製造方法を工程順に説明するための要部側断面図である。
【図4】(a)〜(c)は図3に続く工程を順に説明するための要部側断面図である。
【図5】(a)〜(c)は図4に続く工程を順に説明するための要部側断面図である。
【図6】インクジェットヘッドの概略構成を説明するための図であり、(a)は要部斜視図、(b)は要部側断面図である。
【図7】隔壁及び導電部についての、別の製造例を説明するための要部側断面図である。
【図8】(a)は画素部の平面構造を示す拡大平面図、(b)は(a)の要部断面図である。
【図9】ディスプレイが備えられた電子機器の具体例を示す図であり、(a)は携帯電話に適用した場合の一例を示す斜視図、(b)は情報処理装置に適用した場合の一例を示す斜視図、(c)は腕時計型電子機器に適用した場合の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0094】
1…ディスプレイ、1A…画素、10…インクジェットヘッド、121…基板(TFT基板)、140…発光部(積層体)、140A…正孔注入層(又は正孔輸送層)、140B…発光層、141…画素電極、150…隔壁、凹部、150a,151…導電部、154…対向電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブ素子を有する基体上に、絶縁性材料からなる隔壁により隔てられた複数の画素電極を備えたアクティブマトリクス基板であって、
前記隔壁上の前記画素電極とは絶縁された位置に導電材料が配置されていることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項2】
前記アクティブ素子が薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項1記載のアクティブマトリクス基板。
【請求項3】
前記導電材料がストライプ状あるいは格子状に形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載のアクティブマトリクス基板。
【請求項4】
前記隔壁の上面に凹部が形成され、この凹部内に前記導電材料が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクティブマトリクス基板。
【請求項5】
アクティブ素子の上方に平坦化膜が形成され、前記平坦化膜上に複数の画素電極が配置されていることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項6】
請求項5に記載のアクティブマトリクス基板において、前記複数の画素電極は、絶縁性材料からなる隔壁により隔てられていることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項7】
請求項6に記載のアクティブマトリクス基板において、前記隔壁上に導電材料が配置されていることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアクティブマトリクス基板上に電気光学材料が配置されたことを特徴とする電気光学装置。
【請求項9】
請求項5乃至7のいずれかに記載のアクティブマトリクス基板上に有機エレクトロルミネッセンス材料を含む有機エレクトロルミネッセンス素子が配置され、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発した光が前記アクティブマトリクス基板とは反対側から取り出されることを特徴とする電気光学装置。
【請求項10】
アクティブ素子を有する基体上に、絶縁性材料からなる隔壁により隔てられた複数の画素電極と、前記画素電極上に配置された発光層を含む積層体と、前記積層体上に配置された対向電極と、を備えた電気光学装置であって、
前記隔壁上には、前記画素電極とは絶縁された導電部が配置され、該導電部は前記対向電極と接続されていることを特徴とする電気光学装置。
【請求項11】
前記アクティブ素子が薄膜トランジスタであることを特徴とする請求項10記載の電気光学装置。
【請求項12】
前記導電部がストライプ状あるいは格子状に形成されてなることを特徴とする請求項10又は11記載の電気光学装置。
【請求項13】
前記発光層は有機エレクトロルミネッセンス材料であることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項14】
前記導電部の形成材料は、前記対向電極の形成材料より導電性が高い材料であることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項15】
前記隔壁の上面に凹部が形成され、この凹部内に前記導電部が形成されてなることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項16】
前記発光層の、前記画素電極と対向電極のうちの陽極として機能する電極側に、正孔注入層又は正孔輸送層が設けられてなることを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項17】
前記発光層からの光は対向電極側を経由して取り出されることを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項18】
前記画素電極がアクティブ素子上に配置されていることを特徴とする請求項17記載の電気光学装置。
【請求項19】
前記アクティブ素子上に平坦化膜が形成され、この平坦化膜上に画素電極が配置されていることを特徴とする請求項18記載の電気光学装置。
【請求項20】
前記発光層からの光は画素電極側を経由して取り出されることを特徴とする請求項10〜19のいずれかに記載の電気光学装置。
【請求項21】
請求項10記載の電気光学装置を製造するに際し、
基体上に画素電極と画素間を隔てる隔壁と該隔壁上の導電部とを形成した後、前記隔壁により区画された領域に発光層を形成することを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項22】
発光層の材料をインクジェット法で塗布することにより、前記発光層を形成することを特徴とする請求項21記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項23】
前記隔壁の上面に凹部を形成し、この凹部内に導電部の材料をインクジェット法で塗布することにより、前記導電部を形成することを特徴とする請求項21又は22記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項24】
前記隔壁の上面を親液処理するとともに側面を撥液処理しておき、液状に調製した導電部の材料に前記隔壁の上面部を浸して該隔壁の上面に導電材料を付着させ、その後この導電材料を硬化させて導電部とすることを特徴とする請求項21又は22記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項25】
隔壁と該隔壁上の導電部とを形成するに際して、隔壁形成材料を成膜し、次に該隔壁形成材料からなる膜の上に導電材料を成膜し、次いで導電材料からなる膜をパターニングして導電部を形成し、その後得られた導電部をマスクにして隔壁形成材料からなる膜をパターニングし、隔壁を形成することを特徴とする請求項21又は22記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項26】
前記発光層となる位置に対して、前記画素電極と対向電極のうちの陽極として機能する電極側に、正孔注入層又は正孔輸送層の材料をインクジェット法で塗布することにより、正孔注入層又は正孔輸送層を形成することを特徴とする請求項21〜25のいずれかに記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項27】
請求項8〜20のいずかに記載の電気光学装置、あるいは請求項21〜26のいずれかに記載の製造方法によって得られた電気光学装置を用いてなる電子機器。
【請求項28】
前記電気光学装置の光出射側に反射防止フィルムが設けられていることを特徴とする請求項27記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−108737(P2008−108737A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297633(P2007−297633)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【分割の表示】特願2001−389671(P2001−389671)の分割
【原出願日】平成13年12月21日(2001.12.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】