説明

アクティブ制御トルクロッド

【課題】共振に起因する大きな騒音の発生を有効に防止できるアクティブ制御トルクロッドを提供する。
【解決手段】一端1を振動発生部材側に、他端3を振動伝達部材側に、ともに弾性部材4,5を介して連結され、一端と他端との間の前後方向の往復振動を吸収するアクチュエータ6を中間部に具えるものであって、振動発生部材側に連結軸部9を介して連結される一端2側の弾性部材の、前記前後方向のばね定数を、該前後方向と直交する上下方向および左右方向のいずれのばね定数よりも小さくしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アクティブ制御トルクロッドに関するものであり、とくには、出願人等の先願に係る特願2010−185728号(以下「先願」という)に係る発明の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクロッドの一端と他端との間の前後方向、たとえば車両の前後方向の高周波振動の、上述したようなアクティブ制御トルクロッドによる防振は、振動発生部材側に弾性部材を介して連結されるトルクロッドの一端側で、その弾性部材をもって前後方向の共振周波数を十分低い周波数とするとともに、低い周波数のその共振を、トルクロッドの中間部に設けたアクチュエータの相殺作用によって吸収等することにより行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、振動発生部材側に連結される、トルクロッドの一端側の弾性部材は、多くは、トルクロッドの連結構造との関連の下で、平面形状がほぼ「八字状」をなす形態に形成されていて、前後方向および、前後方向と直交する上下方向および左右方向のそれぞれのばね定数の相対関係により、前後方向の共振周波数を低減させるべく、その前後方向のばね定数を低下させると、上下方向および左右方向の共振周波数もまた低減されることになって、アクチュエータによっては吸収等することができないそれらの共振周波数が、振動発生部材側から入力される振動の周波数領域内に含まれることになるため、振動および騒音に及ぼす影響が大きくなるという問題があった。
【0004】
この発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、それの目的とするところは、とくに、トルクロッドの前記一端側に適用される弾性部材につき、多くはゴム材料からなる該弾性部材に形態上の工夫を加えることで、トルクロッドの前後方向のばね定数だけを、他の方向のばね定数にほとんど影響を及ぼすことなく所要に応じて低下させることで、その弾性部材をもって、前後方向の共振周波数を、アクチュエータによって十分に吸収できる程度の低周波数とする一方で、前後方向と直交する、上下方向および左右方向の、アクチュエータによっては吸収等することができないそれぞれの共振周波数を、振動発生部材側から入力される振動の周波数域よりもはるかに高く(たとえば200〜300Hzに)保つことで、それらの上下方向および左右方向の共振の顕在化を弾性部材それ自体で防止するとともに、それらの共振に起因するエンジンのこもり音の発生を有効に防止できるアクティブ制御トルクロッドを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のアクティブ制御トルクロッドは、一端を振動発生部材側に、他端を振動伝達部材側に、ともに、多くはゴム材料からなる弾性部材を介して連結され、一端と他端との間の前後方向の往復振動を吸収するアクチュエータを中間部に具えるものであって、振動発生部材側に連結軸部を介して連結される一端側の弾性部材の、前記前後方向の、たとえば剪断ばね定数を、該前後方向と直交する上下方向および左右方向の、たとえば圧縮および引張りばね定数より小さくしてなるものである。
【0006】
ここで、振動発生部材側に連結される弾性部材は、平板状および柱状等に形成し得ることはもちろんであるが、好ましくは、一端側もしくは他端側に凸となる山形形状とし、この場合より好ましくは、弾性部材の、凸となる側とは反対側に凹部を設ける。
【0007】
ところで、連結軸部は、弾性部材の任意の位置から、任意の方向に向けて突出形成するを可とするも、好ましくは、弾性部材の凸の頂部もしくは、凹部の最深底部から、振動発生部材側に向けて直線状に突出させて設ける。
【0008】
また、連結軸部は、一端および他端のそれぞれの弾性部材の中心および、アクチュエータの中心を通る軸線に対していずれかの方向にオフセットさせて設けることも可能であるが、より好ましくは、連結軸部を、その軸線上に配設する。
【0009】
なお、トルクロッドの中間部に配設されるアクチュエータは、ハウジング内に取付けられて前後方向に延びるシャフトと、該シャフトを取り囲む筒状マス部材と、筒状マス部材の内側でシャフトに固定したコイルおよび巻芯と、筒状マス部材の内周面に取付けた永久磁石と、筒状マス部材の少なくとも一端部をシャフトに連結する弾性連結部材とを具えるものとし、外部制御手段によって前記コイルに通電することでコイル巻芯と永久磁石との間に発生する磁界によって、筒状マス部材に、該マス部材の軸線方向の変位を生じさせて、振動発生部材側からの、シャフトへの前後方向振動入力とは逆位相の振動駆動力を、シャフトを取付けたハウジングに付与するリニア可動型アクチュエータとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明のアクティブ制御トルクロッドでは、振動発生部材側に連結される一端側の弾性部材の、前後方向のばね定数を、たとえば、ゴム材料からなるその弾性部材の剪断方向の変形に基き、上下方向および左右方向の、たとえば、ゴム材料からなるその弾性部材の圧縮および引張り変形に基くばね定数より小さくして、前後方向のばね定数を所要に応じて低下させて、前後方向の共振周波数をアクチュエータをもって十分に吸収できる低周波数としてなお、上下方向および左右方向のばね定数を高く維持して、それらのそれぞれの方向の共振周波数をともに、振動発生部材側から入力される振動の周波数域を越えた高い周波数とすることで、上下方向および左右方向のそれぞれの共振の発生をともに効果的に防止して、振動および騒音のそれぞれを十分小さく抑えることができる。
【0011】
ここで、振動発生部材側に連結される弾性部材を、一端側もしくは他端側に凸となる山形形状としたときは、該弾性部材の質量との関連の下で、前後方向および上下・左右方向の所要のばね定数を容易に実現することができる。
そしてこの場合にあって、弾性部材の凸となる側とは反対側に凹部を設けたときは、弾性部材の前後方向の振動を、トルクロッドの他の構成部材との干渉なしに円滑に行わせることができ、また、弾性部材それ自体、ひいては、トルクロッドをコンパクトなものとするとともに、トルクロッドの重量の増加を有効に防止することができる。
【0012】
またここで、弾性部材に、凸の頂部もしくは、凹部の最深底部から、振動発生部材側へ直線状に突出する連結軸部を設けた場合は、連結軸部を、弾性部材の任意の位置から任意の方向に向けて突設する場合に比し、各方向のばね定数の、所要の値への調整を簡易に行うことができ、また、弾性部材への意図しない捩れ変形等の発生を防止して、弾性部材の耐久性の低下のおそれを取り除くことができる。
そしてこれらのことは、連結軸部を、一端および他端のそれぞれの弾性部材の中心および、アクチュエータの中心を通る軸線上に配設した場合により顕著である。
いいかえれば、連結軸部を上記軸線に対してオフセットさせて配設する場合は、前後方向、上下方向および左右方向等の入力に対し、弾性部材に複数種類の変形が複合的に発生するおそれがあり、各方向のばね定数の調整が複雑になる他、弾性部材の捩れ変形等に起因する耐久性の低下のおそれが生じることになる。
【0013】
また、トルクロッドの中間部に配設されるアクチュエータを、先に述べたようなリニア可動型アクチュエータとしたときは、コイルに通電するだけの簡易な制御により、筒状マス部材に、ハウジングに取付けられて前後方向に延びるシャフトの周りで、そのシャフトへの入力振動とは逆位相の往復運動を行わせて、相殺駆動力を、ハウジングに常に安定的に付与することで、振動発生部材側から入力された高周波振動を、前記弾性部材での、共振周波数の低周波化および、低周波化された共振の、該アクチュエータによる吸収等によって効果的に防振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態を示す略線斜視図および、アクチュエータの内部機構を省いて示す略線縦断面斜視図である。
【図2】この発明の他の実施形態を示す略線斜視図および一端側の弾性部材を示す正視図である。
【図3】一端側の弾性部材の変形例を示す正面図である。
【図4】アクチュエータを模式的に例示する拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下にこの発明の実施形態を図面に示すところに基いて説明する。
図1に示すアクティブ制御トルクロッド1は、一端2を、振動発生部材側、たとえば、エンジンおよびトランスミッションを含む図示しないパワーユニット側に、他端3を、振動伝達部材側、たとえば、これも図示しない車体側に、ともに、ゴム製とすることができるそれぞれの弾性部材4,5を介して連結し、それらの一端1と他端2との間の中間部に、前記一端1と他端2との間の前後方向の往復振動を吸収する、後に詳述するアクチュエータ6を、ハウジング7内に収納して設けることで使用に供することができる。
【0016】
図示のトルクロッド1では、一端2側の弾性部材4をパワーユニットに連結するべく、金属リング等の高剛性リング8の内周面に固着されて、その一端2側に凸となる山形形状に形成した弾性部材4の頂部から、図示しないパワーユニット側へ直線状に突出する、金属その他の高剛性部材からなる連結軸部9を弾性部材4に植設するとともに、他端3側の弾性部材5を車体に連結するべく、該弾性部材5を、ともに剛性部材からなり、中心軸線を、連結軸部9の中心軸線と直交する、図では上下方向に向けて配置した内筒10の外周面および外筒11の内周面のそれぞれに、加硫等によって固着させてなる。
【0017】
このような構造のトルクロッド1は、たとえば、一端2側で、連結軸部9の先端部の貫通孔に、パワーユニット側のボルト等を水平に貫通させて締め込むとともに、他端3側で、内筒10内へ車体側の軸部を挿通等させて固定することその他によって、パワーユニットおよび車体のそれぞれに組付けることができる。
【0018】
なおここで、連結軸部9は、一端側および他端側のそれぞれの弾性部材の中心および、アクチュエータの中心を通る軸線上に配設することが好ましく、また、一端側の弾性部材4の、凸となる側とは反対側に、図1(b)に示すような凹部12を形成することが、弾性部材4が前後方向に振動するときの自由振動を十分に許容するとともに、トルクロッド1の重量増加を抑える上で好ましく、また、前後、上下および左右のそれぞれの方向のばね定数を所要の値に設定する上で好ましい。
【0019】
ところで、前後方向、上下方向および左右方向のそれぞれのばね定数は、図2に例示するように、弾性部材4の所要の位置に貫通穴13を設けることによっても調整することができる。
図3は、弾性部材4への貫通穴13の形成態様の変更例を示すものであり、図3(a)に示すものは、図2に示すものに比し、図の上下方向および左右方向の変形に対してばね定数を小さくすることができる。
【0020】
また、図3(b)に示すものは、図の上下方向の変形に対してばね定数を小さくすることができる一方で、所定量以上の変形に対しては、弾性ストッパ部14を、高剛性リング8の内周面に、ライニング弾性層を介して間接的に当接させることでばね定数を高めることができ、そして、図3(c)に示すものは、図の左右方向の変形に対してはばね定数を小さくする一方で、所定量を越える変形に対しては、弾性ストッパ部15を、高剛性リング8の内周面に、ライニング弾性層を介して間接的に当接させることでばね定数の増加をもたらすものである。
【0021】
以上、一端2側の弾性部材4について説明したが、該弾性部材4は一方側に凸となる山形形状部分を有しない、平坦板状、柱状等の形態を有するものとすることもでき、また他端3側に凸となる山形形状を有し、一端2側に凹部を有するものとすることもできる。
そしてこれらのいずれの場合にあっても、弾性部材4の中央位置、凹部にあっては、中央位置の最深底部から連結部材を突出形成することが好ましい。
【0022】
ここにおいて、トルクロッド1の中間部のハウジング7内に収納配置されるアクチュエータ6は、たとえば、図4に拡大縦断面図で例示するように、シャフト21を、ハウジング7内で両弾性部材4,5の中心を通る前後方向の中心線分C上に延在させた姿勢でそのハウジング7に取り付け、該シャフト21上に巻芯22およびコイル23を固定するとともに、該シャフト21の周りに、巻芯22およびコイル23を取り囲んで筒状マス部材24をシャフト21と同軸に配置して、内周面上に極性の異なる二種類の永久磁石25a,25bを配設したこの筒状マス部材24の少なくとも一端部、図では一端部だけを、たとえば、放射状、円板状の形態とすることができる弾性連結部材26によってシャフト21に連結してなる。
【0023】
このように構成してなるリニア可動型アクチュエータ6では、図示しない外部制御手段からの信号に基き、リード線27を介してコイル23に通電することで、巻芯22が電磁石として機能することになり、コイル23への通電方向に応じて、マス部材内周面の永久磁石25a,26bに対し、異なった極性の磁力を及ぼすことになる。
【0024】
この場合、シャフト21に固定した巻芯22と、フローティング構造の筒状マス部材24の永久磁石25a,25bとの間に、巻芯22の極性に応じて発生する排斥力および吸引力に基き、マス部材24は、図4に仮想線で跨張して示すように、中心軸線方向でシャフト21に対して弾性部材4側へ、そして、それとは逆方向へ往復変位することになる。
従って、筒状マス部材24のこのような往復変位に基いて、図示しないパワーユニットから、弾性部材4を経てトルクロッド1のハウジング7へ入力される前後方向の振動とは逆位相の振動駆動力を、弾性連結部材26およびシャフト21を介してハウジング7に付与することで、パワーユニットからハウジング7への入力振動を有効に相殺することができる。
【0025】
ここで筒状マス部材24の所要に応じた変位は、コイル23に交番電流、脈動電流等を付与すること、コイル23への通電を停止すること等によってもたらすことができる。
なお図示はしないが、筒状マス部材24は、その両端部でシャフト21に連結することもでき、このことによれば、筒状マス部材24の中心軸線方向への変位をより安定したものとすることができる。
【0026】
以上のようなアクティブ制御トルクロッド1によれば、パワーユニット側に連結される、ゴム製とすることができる弾性部材4を、パワーユニットからの前後方向の振動に対して剪断変形させてばね定数を小さくすることで、その前後方向の共振周波数を、トルクロッド1をもって十分吸収し得る低周波数とする一方で、その前後方向と直交する、上下方向および左右方向のそれぞれの振動に対しては、弾性部材4を圧縮および引張り変形させることで高いばね定数を実現して、それらの方向の共振周波数をともに、パワーユニットから入力される振動の周波数よりも十分高く設定することができるので、上下方向および左右方向の入力振動による共振の発生を効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 アクティブ制御トルクロッド
2 一端
3 他端
4,5 弾性部材
6 アクチュエータ
7 ハウジング
8 高剛性リング
9 連結軸部
10 内筒
11 外筒
12 凹部
13 貫通穴
14,15 弾性ストッパ部
21 シャフト
22 巻芯
23 コイル
24 筒状マス部材
25a,25b 永久磁石
26 弾性連結部
27 リード線
C 中心線分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端を振動発生部材側に、他端を振動伝達部材側に、ともに弾性部材を介して連結され、一端と他端との間の前後方向の往復振動を吸収するアクチュエータを中間部に具えるアクティブ制御トルクロッドであって、
振動発生部材側に連結軸部を介して連結される一端側の弾性部材の、前記前後方向のばね定数を、該前後方向と直交する上下方向および左右方向のいずれのばね定数よりも小さくしてなるアクティブ制御トルクロッド。
【請求項2】
振動発生部材側に連結される弾性部材を、一端側もしくは他端側に凸となる山形形状としてなる請求項1に記載のアクティブ制御トルクロッド。
【請求項3】
前記弾性部材の、凸となる側とは反対側に凹部を設けてなる請求項2に記載のアクティブ制御トルクロッド。
【請求項4】
前記弾性部材に、凸の頂部もしくは、凹部の最深底部から、振動発生部材側へ直線状に突出する連結軸部を設けてなる請求項2もしくは3のいずれかに記載のアクティブ制御トルクロッド。
【請求項5】
前記連結軸部を、一端および他端のそれぞれの弾性部材の中心および、アクチュエータの中心を通る軸線上に配設してなる請求項4に記載のアクティブ制御トルクロッド。
【請求項6】
前記アクチュエータを、ハウジング内に取付けられて前後方向に延びるシャフトと、シャフトを取り囲む筒状マス部材と、筒状マス部材の内側でシャフトに固定したコイルおよび巻芯と、筒状マス部材の内周面に取付けた永久磁石と、筒状マス部材の少なくとも一端部をシャフトに連結する弾性連結部材とを具え、外部制御手段によって前記コイルに通電することでコイル巻芯と永久磁石との間に発生する磁界によって、筒状マス部材に、該マス部材の軸線方向への変位を生じさせて、振動発生部材側からの、シャフトへの前後方向振動入力とは逆位相の振動駆動力を、シャフトを取付けたハウジングに付与するリニア可動型アクチュエータとしてなる請求項1〜5のいずれかに記載のアクティブ制御トルクロッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−251642(P2012−251642A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126644(P2011−126644)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】