説明

アクリル系ブロック共重合体製造における溶媒精製方法

【課題】 アクリル系ブロック共重合体の製造における溶媒を精製・リサイクル利用する。
【解決手段】アクリル系ブロック共重合体の製造において、変性・精製工程に移行する前にアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液より、未反応のアクリル系化合物および未反応のメタクリル系化合物含む重合溶媒(B−2)を回収し、回収された重合溶媒(B−2)から、未反応のアクリル系化合物、未反応のメタアクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離し、中和処理したのち、これらをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーとして、もしくはゴムや熱可塑性樹脂などに対する添加剤として利用することができる、耐熱性に優れたアクリル系ブロック共重合体の製造に際して、重合溶媒をリサイクル利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタアクリル酸メチルなどをハードセグメント、アクリル酸ブチルなどをソフトセグメントに有するアクリル系ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての特性を有することが知られている。アクリル系ブロック共重合体においては、ブロック体を構成する成分を適宜選択することで、スチレン系ブロック体などの他の熱可塑性エラストマーに比べて極めて柔軟なエラストマーを与えることが可能である。
【0003】
メタアクリル系重合体ブロックおよびアクリル系重合体ブロックを含有するアクリル系ブロック共重合体を製造する方法のひとつとして原子移動ラジカル重合法があげられる。
【0004】
原子移動ラジカル重合法とは、ハロゲン化有機化合物を重合開始剤、遷移金属錯体を触媒、として使用した重合法であり、重合体の分子設計の制御が容易なことなどから工業化に適した重合法である。(特許文献1)。
【0005】
原子移動ラジカル重合により重合体を製造する場合、通常、重合時には溶媒が使用され、前記アクリル系熱可塑性エラストマーなどのアクリル系ブロック共重合体の製造においても重合時に溶媒が用いられる。
【0006】
近年は、製造コストの低下および環境に対する配慮等から、重合体の製造プロセスにおいて、これら重合溶媒、並びに未反応の化合物を回収し、再利用する技術が求められている。(例えば、特許文献2)
重合溶媒及び未反応化合物を回収して再利用する方法としては、各ブロック重合工程毎に溶媒等を蒸発回収する方法が考えられる。この方法によれば、各ブロックの重合溶媒並びに未反応化合物を別々に回収することが可能である。しかしながら、この方法では、重合活性を維持したまま重合溶媒並びに未反応化合物を蒸発回収することとなり、重合体間のカップリング反応等の問題が生じるおそれがある。また、各ブロックの重合反応を連続して行う場合と比較して、製造工程が煩雑となり、生産効率が低下する懸念がある。
【0007】
一方、各ブロックの重合反応を連続して行い、全重合工程が終了した後(精製工程を経た後)、重合溶媒及び未反応化合物をそれぞれ蒸留分離して回収し、再利用する方法として、回収後、各工程において使用した溶媒の重量比を調整した後再利用する方法が提案されている。(特許文献3)
特許文献3開示の技術は、回収した溶媒を再利用して製造されたアクリル系ブロック共重合体が、通常の未使用溶媒を使用した方法により製造されたアクリル系ブロック共重合体と比較して遜色のない特性を有するというものであるが、特許文献3中に記載の実施例からもわかるように、小スケール下での技術であり、スケールアップに際しては未だ改善の余地を残すものであった。
【特許文献1】特表平10−509475号公報
【特許文献2】特開平10−087740号公報
【特許文献3】特開2006−219549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、回収した溶媒、未反応化合物を使用したアクリル系ブロック共重合体の製造方法に関し、更には、工業的に実施可能で、通常の未使用溶媒を使用した方法により製造されたアクリル系ブロック共重合体と同等の性能を有するアクリル系ブロック共重合体を得ることが可能な、回収した溶媒、未反応化合物を使用したアクリル系ブロック共重合体の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アクリル系ブロック共重合体の製造において、未反応の(メタ)アクリル系化合物および重合溶媒を回収し再利用を可能にする製造方法について鋭意検討した結果、変性・精製工程に移行する前にアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液より、未反応のアクリル化合物および未反応のメタクリル化合物含む重合溶媒(B−2)を回収し、回収された重合溶媒(B−2)から、未反応のアクリル系化合物、未反応のメタアクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離し、これらをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することで、工業的に実施可能で、通常の未使用溶媒を使用した方法により製造されたアクリル系ブロック共重合体と同等の性能を有するアクリル系ブロック共重合体を得ることが可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、
(I).重合触媒として遷移金属錯体を使用する原子移動ラジカル重合法によって得られるアクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法であって、
工程(1):重合溶媒(B−1)中でアクリル系化合物からアクリル系重合体ブロック(a)を重合する工程、
工程(2):工程(1)で得られた重合体溶液にメタアクリル系化合物を添加し、メタアクリル系重合体ブロック(b)を重合する工程、
工程(3):工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液を変性および精製する工程、
から構成され、工程(3)に移行する前にアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液より、未反応のアクリル化合物および未反応のメタクリル化合物含む重合溶媒(B−2)を回収することを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(II).回収された重合溶媒(B−2)から、未反応のアクリル系化合物、未反応のメタアクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離し、これらをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することを特徴とする(I)記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(III).回収された重合溶媒(B−2)を中和処理し、pHが6〜8とした後、未反応のアクリル系化合物、未反応のメタクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離し、これらをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することを特徴とする(I)〜(II)のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(IV).単離した重合溶媒(B−3)を中和処理しpHが6〜8とした後、これをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することを特徴とする(I)〜(III)のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(V).回収された重合溶媒(B−2)中に含まれるアルコール類の濃度が1000ppm以下であることを特徴とする(I)〜(III)のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(VI).工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液中に含まれる重合溶媒の量が、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して10〜300重量部であり、共重合体溶液中に含まれるメタアクリル系化合物の量が、メタアクリル系化合物の添加量に対して2〜15重量%であることを特徴とする(I)〜(V)のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(VII).重合触媒として使用される遷移金属錯体が重合開始剤、遷移金属、ポリアミン化合物からなり、遷移金属と重合開始剤のモル比(遷移金属/重合開始剤)が0.1〜20、ポリアミン化合物と重合開始剤のモル比(ポリアミン/重合開始剤)が0.1〜4であることを特徴とする(I)〜(VI)のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法、
(VIII).(I)〜(VII)の製造方法によって得られたアクリル系ブロック共重合体からなる成形体、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアクリル系ブロック共重合体の製造における溶媒精製方法を用いることにより、重合溶媒および未反応単量体を容易にリサイクル利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でいう溶媒とは、重合時に使用する重合溶媒(バージンの溶媒、重合時に再利用する溶媒、希釈溶媒)、重合溶液から蒸留等により回収した溶媒をいい。重合時に再利用する溶媒、回収した溶媒においては、未反応のアクリル系化合物および未反応のメタクリル系化合物を含んでいてもよい。
【0013】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0014】
<アクリル系ブロック共重合体(A)>
本発明に係る方法で製造されるアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の構造は、特に問うものではなく、線状ブロック共重合体であってもよく、分岐状(星状)ブロック共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。ブロック共重合体(A)の構造は、必要とされるブロック共重合体(A)の物性に応じて使いわければよい。また、その分子量や、アクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、要求されるブロック共重合体(A)を含有する組成物の、成型時の形状の保持や溶融性、エラストマーとしての弾性等の物性から適宜決定される。
【0015】
<アクリル系重合体ブロック(a)>
アクリル系重合体ブロック(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする化合物を重合してなるブロックであり、このようなものとして、例えば、アクリル酸エステルおよびこれらと共重合可能なビニル系化合物とからなるものが挙げられる。
【0016】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸−2−アミノエチル、アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどがあげられる。
【0017】
これらは単独でまたはこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。いずれの化合物を用いるかは、ゴム弾性や低温特性、圧縮永久歪み等の諸物性およびコスト等を勘案して、適宜決定する。
【0018】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系化合物としては、たとえば、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげられる。
【0019】
メタアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸−n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸−n−ペンチル、メタアクリル酸−n−ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸−n−ヘプチル、メタアクリル酸−n−オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸トルイル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸−2−メトキシエチル、メタアクリル酸−3−メトキシブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸−2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン、メタアクリル酸のエチレンオキサイド付加物、メタアクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチル、メタアクリル酸パーフルオロメチル、メタアクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどがあげられる。
【0020】
芳香族アルケニル化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどをあげられる。シアン化ビニル化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどがあげられる。共役ジエン系化合物としては、たとえば、ブタジエン、イソプレンなどがあげられる。ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどがあげられる。ケイ素含有不飽和化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどがあげられる。不飽和ジカルボン酸化合物としては、たとえば、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステルなどがあげられる。ビニルエステル化合物としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどがあげられる。マレイミド系化合物としては、たとえば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどがあげられる。
【0021】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系化合物は、アクリル系重合体ブロック(a)に要求されるガラス転移温度および耐油性、メタアクリル系重合体ブロック(b)との相溶性などのバランスの観点から、好ましいものを選択することができる。
【0022】
アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、エラストマー組成物のゴム弾性の観点から、好ましくは25℃以下、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度が、エラストマー組成物の使用される環境の温度より高いとゴム弾性が発現されにくい傾向がある。
【0023】
<メタアクリル系重合体ブロック(b)>
メタアクリル系重合体ブロック(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分とする化合物を重合してなるブロックであり、このようなものとして、例えば、メタアクリル酸エステルおよびこれと共重合可能なビニル系化合物とからなるものが挙げられる。
【0024】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系化合物として例示されたメタアクリル酸エステルと同様の化合物が挙げられる。
【0025】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加工性、コストおよび入手しやすさの点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。また、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシルなどを共重合させることによって、ガラス転移点を高くすることができる。更には、耐熱性を上げる為に、酸無水物を導入する際の前駆体としてメタアクリル酸−t−ブチルが好ましい。
【0026】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系化合物としては、たとえば、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド化合物などがあげられる。
【0027】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとして例示されたアクリル酸エステルと同様の化合物が挙げられる。
【0028】
芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物としては、アクリル系重合体ブロック(a)を構成する化合物として例示したものと同様の化合物があげられる。
【0029】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系化合物は、メタアクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度の調整、アクリル系重合体ブロック(a)との相溶性などの観点から好ましいものを選択することができる。
【0030】
(b)のガラス転移温度は、エラストマー組成物の熱変形の観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。(b)のガラス転移温度がエラストマー組成物の使用される環境の温度より低いと、凝集力の低下により、熱変形しやすくなる傾向がある。
【0031】
<ブロック共重合体(A)の製造方法>
アクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法としては、特に限定されないが、制御重合を用いることが好ましい。制御重合としては、リビングアニオン重合、連鎖移動剤を用いるラジカル重合および近年開発されたリビングラジカル重合をあげることができる。リビングラジカル重合がブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに架橋性官能基を有する化合物を共重合できる点から好ましい。
【0032】
リビング重合とは、狭義においては、末端が常に活性を持ち続ける重合のことを示すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれ、本発明におけるリビングラジカル重合は、重合末端が活性化されたものと不活性化されたものが平衡状態で維持されるラジカル重合であり、近年様々なグループで積極的に研究がなされている。
【0033】
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(Journal of American Chemical Society,1994年,第116巻,7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules,1994年,第27巻,7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さなどから原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0034】
原子移動ラジカル重合は、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される。(例えば、Matyjaszewskiら,Journal of American chemical Society,1995,117,5614、Macromolecules,1995,28,7901、Science,1996,272,866、またはSawamotoら,Macromolecules,1995,28,1721)
【0035】
これらの方法によると、一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いMw/Mn=1.1〜1.5程度の重合体が得られ、分子量はモノマーと開始剤の仕込み時の比率によって自由にコントロールすることができる。
【0036】
原子移動ラジカル重合法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物としては、一官能性、二官能性、または、多官能性の化合物を使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができる。ジブロック共重合体を製造する場合は、一官能性化合物が好ましい。a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体を製造する場合は二官能性化合物を使用することが好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は多官能性化合物を使用することが好ましい。
【0037】
前記原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属錯体としてはとくに限定はないが、好ましいものとして、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケルの錯体をあげることができる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
【0038】
前記原子移動ラジカル重合は、無溶媒(塊状重合)または各種溶媒中で行なうことができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒などをあげることができ、これらは単独で又は二種以上を混合して用いることができる。反応制御の観点から、これらのうち、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてはアセトニトリル、メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒としてはアセトニトリルとトルエンの混合溶媒が好ましく用いられる。溶媒を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする攪拌効率の関係から適宜決定することができる。
【0039】
また、原子移動ラジカル重合は、室温〜200℃で行うのが好ましく、50〜150℃の範囲で行なうのがより好ましい。原子移動ラジカル重合温度が室温より低いと、粘度が高くなり過ぎて反応速度が遅くなる場合があり、200℃を超えると安価な重合溶媒を使用できない場合がある。
【0040】
原子移動ラジカル重合によりブロック共重合体を重合する方法としては、化合物を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次のブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法などがあげられる。これらの方法は、目的に応じて使い分けることができる。重合工程の簡便性の点から、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤としてつぎのブロックを重合する方法が好ましい。
【0041】
重合工程について以下に詳細に説明する。
<アクリル系重合体ブロック(a)の重合工程(1)>
アクリル系重合体ブロック(a)の重合工程(1)の具体例を以下に示す。本発明におけるアクリル系重合体ブロック(a)の重合工程では、例えば、反応槽に撹拌型耐圧反応槽を用いて、反応槽内を十分に窒素置換し、酸素を取り除いた状態にして、アクリル系化合物、重合触媒である遷移金属触媒、重合溶媒および重合開始剤をそれぞれ所定量順次仕込み、前記の温度範囲(例えば原子移動ラジカル重合であれば、好ましくは室温〜200℃)で所定量の触媒配位子を添加してラジカル重合を開始する方法(前記制御重合)にてアクリル系重合体ブロックが製造される。
【0042】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合における反応槽の種類は、特に限定されないが、低粘性から高粘性に至る条件における重合体溶液の十分な混合と重合体溶液の迅速な昇温および冷却と重合反応中の重合体溶液からの発熱の除去が必要となることから、撹拌型反応槽を使用することが製法上有利である。
【0043】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合における原料の仕込み順序は、溶液中に遷移金属触媒を十分に分散させることが重合反応の安定性に著しく寄与することから、触媒を最も良く分散できる順序で仕込むことが肝要である。この場合、触媒は最初に添加するよりも溶液が反応槽に仕込まれた状態で添加することが好ましく、より好ましくは溶液を撹拌している状態に添加することが好ましい。また重合溶媒として触媒を凝集させる性質を持つ溶媒を使用する場合には、触媒を添加後に触媒を凝集させる溶媒を添加することが好ましい。
【0044】
触媒配位子を添加してラジカル重合を開始する際の溶液温度は、重合活性を十分に発現し得る温度となる60℃以上で、かつラジカル重合特有の強い初期発熱を抑えるためには85℃以下とすることが製造上有利となる。従って、本発明においては重合開始時の溶液温度は60℃〜85℃であることが好ましく、重合反応の安定化には70℃〜80℃がより好ましい。
【0045】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合を行う工程(1)においては、アクリル系化合物の転化率が99%を超えるとラジカル同士のカップリング、不均化などの副反応により反応のリビング性が損なわれ、設計通りの重合体が得られない場合が見られる。一方、アクリル系化合物の転化率を90%以下として終了すると未反応アクリル系化合物が次の重合工程へのコンタミとなって製品物性を低下させたり、未反応アクリル系単体量の回収を煩雑化させる場合がある。従って、アクリル系化合物の転化率は90%〜99%とすることが好ましく、コンタミ低減や、副反応の低減のためには95〜99%とすることがより好ましい。
【0046】
アクリル系重合体ブロックの重合反応時間は、アクリル系化合物の重合転化率の追跡上および目標の転化率(90〜99%)で終了させるために1時間以上とし、また生産性から8時間以下とすることが好ましく、重合コントロールのし易さから3〜6時間とすることがより好ましい。
【0047】
また、重合中の重合体溶液温度は、重合反応速度を安定させることを目的に、目標温度から±10℃以内に制御することが好ましく、精度向上のためには±5℃以内とすることがより好ましい。重合終了後は、アクリル系重合体ブロックの重合進行を抑制するために、可能な限り迅速に工程(2)の実施に移る必要がある。
<メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程(2)>
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程(2)の具体例を以下に示す。工程(1)と同様、重合溶媒、重合触媒である遷移金属触媒、およびメタアクリル系化合物をそれぞれ所定量順次反応槽に導入し、所定の温度範囲で所定量の触媒配位子を添加する。これにより、ラジカル重合が開始される。この場合、アクリル系重合体ブロックのカップリング、不均化などの副反応を抑制するために、重合溶媒添加による溶液の希釈を速やかに行うことが好ましい。
【0048】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合における原料の添加順序は、特に限定されないが、遷移金属触媒を添加するにあたり、重合体溶液中に触媒を十分に分散させることが反応の安定化に必要であることから、前記のように重合溶媒を添加して重合体溶液を低粘性とした後に遷移金属触媒を添加することが好ましい。また遷移金属触媒を添加後は、アクリル系重合体ブロックのカップリング反応等の副反応を低減するために、速やかに(10分以内)メタアクリル系化合物を添加することが好ましい。
【0049】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合反応時間は、アクリル系重合体ブロック重合工程と同様に、メタアクリル系化合物の重合転化率の追跡を可能にし、目標の転化率で終了させるために1時間以上とし、また生産性から8時間以下とすることが好ましく、重合コントロールのし易さから3〜6時間とすることがより好ましい。また重合中の重合体溶液温度も、アクリル系重合体ブロック重合工程と同様に重合反応速度を安定させることを目的に、目標温度から±10℃以内に制御することが好ましく、精度向上のためには±5℃以内とすることがより好ましい。
【0050】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合を行う工程(2)においては、未反応メタアクリル系化合物が多量に残った状態で重合を終了すると溶媒回収工程の煩雑化や溶媒回収時におけるメタアクリル系化合物の劣化によってリサイクル使用が困難となる場合があるため、90%を超える高転化率とすることが望ましい。一方、転化率が99%を超えると、ラジカル同士のカップリング、不均化などの副反応により反応のリビング性が損なわれ、設計通りの重合体が得られない場合があるため、実用的にはメタアクリル系化合物の転化率は85〜98%であることが好ましく、副反応の抑制のためには95〜99%がより好ましい。
【0051】
また、メタアクリル系化合物の重合を高転化率とするためには、重合溶媒の重量をメタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して300重量部以下とするのが望ましく、より重合活性を高めるには重合体溶液中のメタアクリル系化合物の濃度を高くするのがよい。しかしながら、重合溶媒量が10重量部未満となると、60%を超える転化率になった時に、重合体溶液粘度が著しい増加を示し、反応活性を維持するために添加するポリアミン化合物の重合体溶液中への混合・拡散が著しく悪化するために、高転化率を実現できない場合がある。従って、メタアクリル系重合体ブロックの重合工程において、メタクリル系化合物の転化率を85〜98%とするためには、重合溶媒の量を、(b)メタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して10〜300重量部とすることが好ましく、混合・拡散および反応活性のアップのためには、(b)メタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して150〜250重量部とすることがより好ましい。
【0052】
重合開始剤に対する遷移金属触媒の添加量は、可能な限り削減することが原料費のコストダウンから重要である。開始剤のハロゲン基に対して遷移金属添加量が0.1倍モル未満では、反応活性が低いばかりでなく発現しない場合もある。また、20倍モルを超える触媒添加は、反応活性向上に寄与しないばかりでなく、重合反応終了後の触媒除去工程を煩雑化させる場合がある。従って、遷移金属触媒の添加量は、重合開始剤に対して0.1〜20倍モルにすることが好ましく、十分な反応性と制御性を確保するためには0.5〜10倍モルがより好ましい。
【0053】
触媒活性は、ポリアミン化合物の添加量によっても制御可能である。錯体形成における必要量以上のポリアミン化合物の添加は、分子量分布を増大させるだけでなく、触媒除去工程にも悪影響となるため可能な限り削減することが好ましい。遷移金属錯体として銅化合物を使用する場合には、通常の原子移動ラジカル重合の条件では、遷移金属の配位座の数と、配位子の配位する基の数から決定され、ほぼ等しくなるように設定される。たとえば、通常、2,2’−ビピリジルおよびその誘導体を銅化合物に対して加える量がモル比で2倍であり、ペンタメチルジエチレントリアミンの場合はモル比で1倍であり、金属原子が配位子に対して過剰になる方が好ましい。本発明の場合は、ポリアミン化合物量が原子移動ラジカル重合反応時に加える重合開始剤に対して、0.1倍モル未満では充分な重合活性が得られず、重合開始剤に対して4倍モルを超えると重合反応が速すぎて制御できない場合がある。また、遷移金属触媒錯体へのポリアミン化合物の過剰な配位により、反応が進行しなくなるなどの問題が生じる場合がある。以上のことから、好ましいポリアミン化合物の添加量は重合開始剤に対して0.1〜4倍モルが好ましく、十分な反応性と制御性を確保するためには0.2〜3倍モルがより好ましい。
【0054】
<アクリル系ブロック共重合体溶液の変性・精製工程(3)>
重合によって得られた重合体溶液は、重合体および触媒である金属錯体を含んでいるため、重合活性を消失させるとともに、これら金属錯体を分離除去する必要がある。金属錯体の分離除去の方法としては、有機酸を添加して金属錯体を失活させた後にこれを除去する方法がある。本発明で使用することができる有機酸は、特に限定されないが、カルボン酸基、もしくは、スルホン酸基を含有する有機物であることが好ましい。その中でも、溶媒への分散しやすさ、酸と金属錯体の反応との生成物の性状、入手しやすさなどから、ベンゼンスルホン酸もしくはその誘導体が好ましく、それらの中ではp−トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0055】
なお、耐熱性を上げる為にブロック共重合体中に酸無水物基、カルボン酸基等の反応性官能基を導入する場合には、アクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸−t−ブチルなどの化合物を導入する。これらの化合物を含むブロック共重合体は、有機酸存在下、例えば100〜200℃程度に加熱すると、酸分解反応により酸無水物基、カルボン酸基が導入される。
【0056】
引き続き塩基性物質を添加して、溶液を中和するのが、溶液の取り扱い上望ましい。塩基性物質としては、塩基性活性アルミナ、塩基性吸着剤、固体無機酸、陰イオン交換樹脂、セルロース陰イオン交換体などをあげることができる。塩基性吸着剤としては、キョーワード500SH(協和化学製)などがあげられる。固体無機酸としては、Na2O、K2O、MgO、CaOなどがあげられ、陰イオン交換樹脂としては、スチレン系強塩基性陰イオン交換樹脂、スチレン系弱塩基性陰イオン交換樹脂、アクリル系弱塩基型陰イオン交換樹脂などがあげられる。
【0057】
前記金属錯体および塩基性物質の分離方法としては、濾過、遠心分離、沈降分離、液体サイクロン等の種々の分離方式が適用可能である。分離の際、重合体溶液に溶媒を添加し、液粘度を下げることにより、分離を容易に行うことができる。本発明では、溶媒としては重合体の溶解性の面でトルエンが特に好ましい。
【0058】
<アクリル系ブロック共重合体溶液から重合溶媒、未反応のアクリル系化合物およびメタアクリル系化合物を回収・中和・単離する工程>
本発明のアクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法は、前記アクリル系ブロック共重合体溶液の変性・精製工程(3)前にアクリル系ブロック共重合体(A)溶液から、未反応のアクリル化合物および未反応のメタアクリル系化合物を含む重合溶媒を回収し、中和処理を実施して単離したのち再利用することを特徴とする。
【0059】
これは前記アクリル系重合体ブロックの重合工程(1)、メタアクリル系重合体ブロックの重合工程(2)において、開始剤として有機ハロゲン化物、触媒として臭化銅や塩化銅を用いることから、変性工程や精製工程においてハロゲン酸の生成が懸念される理由による。つまり、ハロゲン酸は重合溶媒中(B−2)に共存する水に容易に溶解する性質を有し、工程(1)(2)で重合溶媒(B−1)に使用するアセトニトリルと水は共沸混合物となるため、回収した重合溶媒(B−3)中にハロゲン酸が含まれると、分離工程を経てもハロゲン酸を除去することは非常に困難となることによる。
また、ハロゲン酸を含む溶媒を重合溶媒に使用した場合、工程(I)(II)の重合反応を阻害したり、分離に用いる蒸留塔や凝縮器を腐食するなどの問題が懸念される。
【0060】
前記問題点は、回収された溶媒中のハロゲン酸を中和処理等で除去することで回避できるが、中和処理においては回収溶媒中にモノマーを含むため、単純にアルカリ水と接触させるような処理は難しく、また、キョーワード等のような固体塩基を用いて中和するとしても原料費のアップ、中和設備の設置、タイムサイクルの悪化などデメリットとなることが多い。これらの事から、本発明では、ハロゲン酸の生成前に溶媒や未反応モノマーを回収する方法を採用する。
【0061】
本発明の未反応のアクリル化合物および未反応のメタアクリル系化合物を含む重合溶媒(B-2)を回収する方法としては、重合槽内を減圧とし、撹拌下加熱しながら溶媒を気化させて、系外に取り出した後、凝縮器を用いて液化して回収したり、重合溶媒を水中で分散剤などと共にけん濁させ、蒸気吹き込み加熱により水蒸気と共に溶媒蒸気を取り出し、凝縮器で液化して回収する方法などがあげられる。
【0062】
なお、回収した重合溶媒(B−2)中に含まれるアルコール類の濃度は1,000ppm以下であることが好ましい。これは次工程(変性工程)において、アルコール存在下で変性反応を行うと、ポリマー側鎖のエステル交換反応が生じ、ポリマー構造に支障をきたす懸念があることによる。
【0063】
また、回収した重合溶媒(B-3)を中和処理する方法としては、NaOHのようなアルカリ水と接触させ、中和反応により中和する方法やキョーワードのような固体塩基による吸着処理方法などが挙げられる。
【0064】
中和処理後の重合溶媒(B−3)のpHは6〜8であることが好ましい。これは、重合系中に酸が存在すると、触媒であるトリアミンが酸と反応して失活したり、トリアミンが銅と配位するのを阻害するといった、触媒活性に悪影響を及ぼす懸念があることによる。
【0065】
以下に、回収した重合溶媒(B-2)から、未反応のアクリル化合物、未反応のメタアクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離す工程について詳細に記載する。
【0066】
回収された重合体溶媒(B−2)には、重合溶媒、希釈溶媒だけでなく、未反応のアクリル系化合物、メタアクリル系化合物が含まれる。このため、これを、そのままアクリル系重合体ブロック(a)の重合工程(1)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程(2)にリサイクル使用することは、重合反応制御の点で困難である。この理由について以下に記す。
【0067】
重合反応には、前述した種々の重合溶媒が利用可能であるが、本系では、反応制御の点から、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてはアセトニトリル、メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒としてはアセトニトリルとトルエンの混合溶媒が好ましく用いられる。この場合、蒸発回収溶媒はアセトニトリルとトルエンの混合溶媒となっている。
この回収溶媒をアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてそのまま使用した場合、反応制御が困難で分子量分布が広くなる傾向がある。
また、回収溶媒には、更に、アクリル系、メタアクリル系の未反応の化合物が含まれている。従って、回収重合溶媒をアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてそのまま使用した場合、未反応のメタアクリル系化合物も共重合し、重合体ブロックの組成制御が困難となる場合がある。
【0068】
前記理由により回収重合溶媒をリサイクル使用するため、本発明では回収重合溶媒の蒸留を実施する。例えば、重合溶媒としてアセトニトリルとトルエンを用いた場合、これらは共沸混合物となり、蒸留でも完全に分離することは不可能である。しかし、このような場合であっても、重合溶媒中のアセトニトリル/トルエンの重量比を0.5以上とすることにより、これをアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒として再使用した場合に、重合反応を容易に制御することが可能になる。アセトニトリル/トルエンの重量比が0.5以上である留分を回収した後は、留出溶媒中のアセトニトリルの含有量が次第に低下し、ついにはアセトニトリルがほぼ消失する。このアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒は、先に述べた理由からアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としては適さない。
【0069】
本蒸留法では、蒸留前のアセトニトリルの全量がアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒として回収されず、蒸留を繰り返すたびにアセトニトリルの回収量が減少していく。この問題を解決する手段として、前述したアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒を回収重合溶媒に添加して再蒸留するとよい。このような操作を施すことによって、アセトニトリルの回収率を一定にしたリサイクルが可能となる。
【0070】
また、これらアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒は回収重合溶媒に添加するだけでなく、希釈溶媒として使用しても問題はない。その他、重合体溶液を精製する際に添加するp−トルエンスルホン酸などの固体有機酸の溶解用溶媒として好適である。
【0071】
固体成分の使用は製造工程を煩雑にすることが多いが、溶液状とすることにより工程の煩雑化を避けることが可能になる。これらアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒は、ある程度の極性を有しているため、p−トルエンスルホン酸に代表される固体有機酸を溶解することが可能である。なお、固体有機酸を溶解するためにアセトニトリル/トルエンの重量比は0.01以上であることが好ましい。このため、蒸留操作では留出液中のアセトニトリル/トルエンの重量比が0.01までの溶媒をまとめて分離回収するのが望ましい。
【0072】
アセトニトリル/トルエンの重量比が0.01未満の溶媒はメタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒および精製時の希釈溶媒としても利用可能である。これらの溶媒は必要に応じて、更に蒸留を継続し、これらを分離した後に使用してもよい。回収溶媒中に高沸点の化合物などが存在する場合、重合体ブロックの化合物組成によっては混入を防止する必要が出てくる。この場合、高沸点の化合物の濃縮された蒸留残液は精製時の希釈溶媒として使用することが好ましい。精製工程では重合反応は既に停止しているため、化合物が存在しても重合体ブロックの組成に影響することはない。
【0073】
また、蒸留により、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒へのメタアクリル系化合物の混入も低減することができる。メタアクリル系化合物がアクリル系重合体ブロック(a)に共重合した場合、メタアクリル系化合物が多量に含まれるとブロック共重合体としての物性を低下させる。重合体物性へ影響を与えないメタアクリル系化合物濃度としては、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒中の濃度として5重量%以下が好ましい。
一方、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒以外は、いずれもメタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒、及び精製時の希釈溶媒であるため、ブロック共重合体の組成に大きな変化を与えることなくリサイクル使用が可能である。
【0074】
なお、以上においては、アセトニトリルとトルエンを重合溶媒としてアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)を製造する場合について述べたが、アセトニトリルとトルエン以外の溶媒を用いた場合も、同様に処理することにより、ブロック共重合体の組成に大きな変化を与えることなく、溶媒をリサイクル使用することが可能となる。
【0075】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例におけるBA、EA、MEA、MMA、TBMAはそれぞれ、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸−t−ブチルを表わす。また、実施例中に記載した機械物性・分子量は以下の方法に従って行った。
<機械物性の評価法>
ブロック共重合体100重量部に対して、イルガノックス1010(チバガイギー(株)製)0.3重量部を配合し、240℃に設定したラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて50rpmで12min間溶融混練して、塊状のサンプルを得た。得られたサンプルを、設定温度240℃で熱プレス成形し、厚さ2mmのシート状の成形体を得た。
【0076】
これらのシートを島津製作所製島津オートクラフAG−A型シリーズを用いて機械強度を測定した。
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
<アクリル系ブロック共重合体の製造>
(製造例1) MMA−b−BA−b−MMA(BA/MMA=70/30重量%)型アクリル系ブロック共重合体(以下「BA0T7」と略称する。なお、「MMA−b−BA−b−MMA」は、MMAを主成分とするブロックと、BAを主成分とするブロックと、MMAを主成分とするブロックから成るアクリル系ブロック共重合体を意味する。)の合成
窒素置換した後真空脱揮した500L反応機に、アセトニトリル 5,880gおよびBA 9,387gを予め混合しておいた溶液を、反応機内を減圧にした状態で仕込んだ。次に臭化第一銅675.4gを仕込み、68℃に昇温して30分間攪拌した。その後、BA 38,889gおよび酢酸ブチル952.6gの混合溶液、ならびに2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル339.0gをアセトニトリル2,587.2gに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温しつつさらに30分間攪拌を行った。
【0077】
ペンタメチルジエチレントリアミン81.6gを加えて、第一ブロックとなるBAの重合を開始した。転化率が96%に到達したところで、トルエン85,372.6g、塩化第一銅466.1g、MMA31,094.8gを仕込み、ペンタメチルジエチレントリアミン81.6gを加えて、第二ブロックとなるMMAの重合を開始した。
転化率が60%に到達したところで、トルエン60,620gを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却して重合を停止させた。
【0078】
得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが10,5300、分子量分布Mw/Mnが1.38であった。得られたブロック共重合体溶液に対しトルエンを加えて重合体濃度を22wt%になるよう調整した後、p−トルエンスルホン酸を1,209g加え、反応機内を窒素置換し、室温で3時間撹拌した。反応液をサンプリングして中和処理を行い、溶液が無色透明になっていることを確認して反応を停止させた。その後溶液を払い出し、固液分離を行って固形分を除去した。このブロック共重合体溶液に対し、固体塩基としてキョーワード500SH(協和化学工業(株)製)1,260gを加え、反応機内を窒素置換し、室温で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認したのち反応を停止させた。その後溶液を払い出し、固液分離を行って吸着剤を除去した。
【0079】
上記重合体溶液に、ブロック共重合体100重量部に対してイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を0.6部添加し、ベント口付き横形蒸発機に供給し溶媒及び未反応モノマーの蒸発を行うことで重合体を単離した。蒸発機の胴部ジャケット及びスクリューは熱媒で180℃に温度調節し、蒸発機内部は真空ポンプにより約0.01MPa以下の減圧状態を保持した。このようにしてブロック共重合体のペレットを作成するとともに、溶媒及び未反応モノマーはコンデンサーにて凝縮し回収した。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
従来の精製工程実施後ではなく、メタアクリル系化合物の重合終了後に重合体溶液から重合溶媒及び未反応のアクリル系化合物の一部を蒸発分離した。この回収液を蒸留・分離し、アクリル系及びメタアクリル系重合体ブロックの重合に用いた。
分子量(Mn):75,300、反応時間:483分、機械物性は破断強度:9.3MPa、伸び257%など従来(新品溶媒使用品)と同等のものが得られた。重合に用いた回収溶媒のPHは、8〜9であった。
(実施例2)
リサイクル実験として、実施例1に用いた溶媒及び未反応モノマーを回収し、蒸留・分離後、アクリル系及びメタアクリル系重合体ブロックの重合に再利用した。
分子量(Mn):70,700、反応時間:551分、機械物性は破断強度:8.2MPa、伸び233%など従来(新品溶媒使用品)と同等のものが得られた。重合に用いた回収溶媒のPHは、8〜9であった。
(実施例3)
従来通り、アクリル系重合体溶液を精製後、重合溶媒及び未反応アクリル化合物の一部を蒸発分離した。この回収液を蒸留・分離した後、一部に固体塩基としてキョーワード500(対溶媒重量比:2部添加)を用いて浸漬・中和処理した。この液を濾過した後、アクリル系重合体ブロックの重合に用いた。分子量(Mn):67,700、反応時間:527分、機械物性は破断強度:7.3MPa、伸び231%など従来(新品溶媒使用品)と同等のものが得られた。重合に用いた回収溶媒のPHは、7〜8であった。
(比較例1)
実施例3同様、アクリル系重合体溶液を精製後、重合溶媒及び未反応アクリル化合物の一部を蒸発分離し、この回収液を蒸留・分離した。この一部をアクリル系重合体ブロックの重合に用いたところ、重合が大幅に遅延し所定の分子量に到達しなかった。重合に用いた回収溶媒のPHは2〜3であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合触媒として遷移金属錯体を使用する原子移動ラジカル重合法によって得られるアクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法であって、
工程(1):重合溶媒(B−1)中でアクリル系化合物からアクリル系重合体ブロック(a)を重合する工程、
工程(2):工程(1)で得られた重合体溶液にメタアクリル系化合物を添加し、メタアクリル系重合体ブロック(b)を重合する工程、
工程(3):工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液を変性および精製する工程、
から構成され、工程(3)に移行する前にアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液より、未反応のアクリル化合物および未反応のメタクリル化合物含む重合溶媒(B−2)を回収することを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
回収された重合溶媒(B−2)から、未反応のアクリル系化合物、未反応のメタアクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離し、これらをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することを特徴とする請求項1記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
回収された重合溶媒(B−2)を中和処理し、pHが6〜8とした後、未反応のアクリル系化合物、未反応のメタクリル系化合物および重合溶媒(B−3)を単離し、これらをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
単離した重合溶媒(B−3)を中和処理しpHが6〜8とした後、これをアクリル系ブロック共重合体(A)の製造の際に再利用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
回収された重合溶媒(B−2)中に含まれるアルコール類の濃度が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の共重合体溶液中に含まれる重合溶媒の量が、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して10〜300重量部であり、共重合体溶液中に含まれるメタアクリル系化合物の量が、メタアクリル系化合物の添加量に対して2〜15重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項7】
重合触媒として使用される遷移金属錯体が重合開始剤、遷移金属、ポリアミン化合物からなり、遷移金属と重合開始剤のモル比(遷移金属/重合開始剤)が0.1〜20、ポリアミン化合物と重合開始剤のモル比(ポリアミン/重合開始剤)が0.1〜4であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の製造方法によって得られたアクリル系ブロック共重合体からなる成形体。

【公開番号】特開2009−51993(P2009−51993A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222423(P2007−222423)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】