説明

アテローム性動脈硬化症および脂質代謝異常の治療を目的としたセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用

本発明は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を用いてアテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常、他の心血管系疾患および糖尿病などの関連疾患を治療する方法に関する。本発明は、場合によっては他の医薬品と共にセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を含む医薬組成物およびキットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度リポタンパク質(HDL)−コレステロールを含む一定の血漿脂質のレベルを上昇させ、かつ低密度リポタンパク質(LDL)−コレステロールおよびトリグリセリドなどの他の血漿脂質レベルを低下させ、かつこれにより低HDLコレステロールレベルおよび/または高LDL−コレステロールおよび高トリグリセリドレベルにより影響されるアテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、心血管系疾患および糖尿病などの関連疾患などの疾患を治療するためにセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤である化合物を用いる方法に関する。本発明は、SPT阻害剤および第2の治療薬を含む医薬組成物およびキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症およびその関連冠動脈疾患(CAD)は、先進工業国における主要な死因である。副次的危険因子(例えば、喫煙、肥満、運動不足)を調節しようという試みおよび食餌の調節および薬物療法による脂質代謝異常の治療にも関わらず、冠動脈心疾患(CHD)は米国における最も一般的な死因であり続け、同国では心血管系疾患は全死亡の44%を占め、このうち53%はアテローム硬化性冠動脈心疾患と関連している。
【0003】
アテローム性動脈硬化症および冠動脈心疾患に至る病理的シークエンスは周知である。このシークエンスの最も早い段階は頚動脈、冠動脈および脳動脈および大動脈における「脂肪線条」の形成である。これらの病変は、主として平滑筋細胞内部および動脈および大動脈内膜のマクロファージに認められる脂質沈着の存在のために黄色である。さらに、脂肪線条内に認められるコレステロールのほとんどは、脂質を含む内膜平滑筋細胞の蓄積からなり、かつ細胞外脂質、コラーゲン、エラスチンおよびプロテオグリカンによって囲まれた「線維プラーク」の発生をさらに誘発すると仮定される。細胞およびマトリクスは、より深部に蓄積した細胞残渣およびより多くの細胞外脂質を覆う線維のキャップを形成する。脂質は主として、遊離したコレステロールおよびエステル化したコレステロールである。線維プラークは緩慢に形成され、いずれは石灰化および壊死して動脈閉塞および重度アテローム性動脈硬化症を特徴付ける壁在血栓症および動脈筋痙攣の傾向の原因である「複合病変」に進行する可能性がある。
【0004】
アテローム性動脈硬化症および関連心血管疾患の発症リスクは、一定の血漿脂質レベルと強く相関することが示されている。近年、指導的な医療専門家らは血漿コレステロールレベル、および特に低密度リポタンパク質(LDL)−コレステロールの低下を改めて強調している。現在「正常」の上限は以前に予測されていたものを大きく下回っていることが知られている。その結果、現在西洋人集団の大部分が特に高いリスクを有することが認識されている。このような独立危険因子は糖不耐性、左室肥大、高血圧および男性であることを含む。心血管系疾患は、少なくとも部分的にはこの集団に複数の独立危険因子が存在することにより、糖尿病患者の間で特に有病率が高い。従って一般集団、および特に糖尿病患者における高脂質血症の治療の成功は医学的に特別に重要である。
【0005】
高LDL−コレステロールの上昇は最も認識された脂質代謝異常の形態と思われるが、これは決してCHDに対する唯一の有意な脂質関連寄与因子ではない。低HDL−CもCHDの危険因子として知られている(D.J.
Gordonら、"High-density Lipoprotein Cholesterol and Cardiovascular
Disease," Circulation (1989) 79: 8-15)。LDL−コレステロールおよびトリグリセリドレベルは心血管系疾患の発病リスクと正の相関を示すのに対し、高HDL−コレステロールレベルの負の相関を示す。従って、脂質代謝異常はCHDのまとまったリスクプロフィールではなく、1つまたはそれ以上の脂質異常から構成されると思われる。
【0006】
完全に満足できる脂質調節療法は存在しない。ナイアシンはHDL−コレステロールを有意に増加させるが、コンプライアンスを減少させる重大な忍容性の問題を有する。フィブレートおよびHMG−CoAレダクターゼ阻害剤はLDL−コレステロールを低下させるが、HDL−コレステロールはわずかに上昇させるに過ぎない(約10〜12%)。その結果、血漿LDLレベルを低下および/または血漿HDLレベルを上昇させ(すなわち患者の血漿脂質プロフィールを改善し)、これによりアテローム性動脈硬化症を回復またはその進行速度を低下することのできる忍容性の良好な薬物に対する満たされない重大な医学的ニーズが存在する。
【0007】
このように、種々の抗アテローム性動脈硬化症療法があるが、アテローム性動脈硬化症および脂質代謝異常を治療するための代替的治療法についてはニーズが存在し続け、研究が続いている。
【0008】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)は、スフィンゴ脂質合成に最初に関わる段階を触媒する(図1)。SPTはパルミトイル−コエンザイムAのパルミチン酸とセリンを縮合し、全てのスフィンゴ脂質を特徴付ける特異なアミノ脂質骨格の最初の前駆体であるケトスフィンガニンを産生する(K.
Hanadaら、J. Biol.Chem. 1997;272(51):32108-14)。SPTは2つの異なるサブユニットLCB1およびLCB2より構成される(B.
Weissおよび W. Stoffel, Eur.J.Biochem. 1 997;249(1):239-47;国際公開番号WO99/49021号も参照されたい)。LCB1およびLCB2遺伝子は細胞の生存に不可欠であり、SPT活性の変化はミバエおよび糸状菌の発達障害(J.
Chengら、Mol. Cell. Biol. 2001; 21 (18):6198-209;およびT. Adachi-Yamadaら、Mol. Cell.
Biol. 1999;19(10):7276-86)、およびヒトにおけるI型遺伝性知覚神経症(J.L. Dawkinsら、Nat. Genet. 2001;
27(3):309-12;およびK. Bejaouiら、Nat. Genet. 2001 ;27(3):261-2)を引き起こす。
【0009】
スフィンゴミエリンは血漿リポタンパク質および細胞膜における主要なリン脂質の1つである。In vitro試験により、スフィンゴミエリンおよび関連スフィンゴ脂質は種々の環境において催アテローム発生性であることが証明され、かつ血漿スフィンゴミエリン(SM)含有量と冠動脈疾患の発生率の正の相関が特定されている(X.
Jiangら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2000; 20:2614-2618;およびR.D. Williamsら、J.
Lipid Res. 1986. 27:763-770)。SMおよびその誘導体はヒトおよび実験的アテローム硬化症性病変に蓄積する(S.L. Schisselら、J
Clin Invest. 1996;98(6):1455-64)。特に、SM合成の中間体であるセラミドも独立した催アテローム発生性を有する。セラミドはリポタンパク質蓄積において重要な役割を果たし、かつ泡沫細胞の形成を促進することがある(K.J.
WilliamsおよびI. Tabas,
Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 1995;15:551-561)。
【0010】
SMとアテローム性動脈硬化症との直接的機序の関連は確立していないものの、入手できるin vitroデータより、SMは次に述べる催アテローム発生性を有するらしいことが示唆される。第1に、例えばHDLおよびトリグリセリドに富んだリポタンパク質中のSM含有量が増加すると、例えばそれぞれレクチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)(D.J.
Bolin およびA. Jonas, J.Biol. Chem. 1996; 271 (32):19152-8)およびリポタンパク質リパーゼ(LPL)(I.
Arimotoら、J. Lipid Res. 1998; 39 (1):143-51; I. Arimotoら、Lipids 33:773-779
(1996);およびH. Saitoら、Biochimica et Biophysica Acta 1486 (2000) 312-320)の活性を阻害することにより、コレステロールの逆輸送およびトリグリセリドに富んだリポタンパク質のクリアランスを遮断することが示されている。マクロファージ細胞膜中のSMはコレステロール逆輸送を阻害することも証明されている(A.R.
Leventhalら、J. Biol. Chem. 2001;276(48):44976-83)。
【0011】
第2に、SMに富んだリポタンパク質は動脈壁中のスフィンゴミエリナーゼによって泡沫細胞基質に変換されることができ(S.L.
Schisselら、J. Biol. Chem. 1998;273(5):2738-46)、これにより泡沫細胞形成を促進する。
【0012】
第3に、セラミドおよびSM合成および分解関連生成物は細胞増殖、活性化およびアポトーシスの強力な調節因子であるため(M.
Maceykaら、Biochim. Biophys. Acta. 2002;1 585(2-3):193-201)、プラークの成長および安定性に影響することがある。
【0013】
スフィンゴ脂質の他の催アテローム発生性作用は、LDL中のSMが動脈壁内のマクロファージが放出するスフィンゴミエリナーゼとLDLとの反応性を促進するという所見(Ts.
Jeongら、J.Clin.Invest. 1998;101 (4):905-912)を含む。このプロセスによりLDLが蓄積した後、泡沫細胞が形成される(S.L.
Schisselら、J Clin Invest. 1996;98(6):1455-1464)。形質膜内のスフィンゴミエリン含有量が増加すると、細胞コレステロールのHDLへの転換を阻害することによるコレステロール逆輸送が減少することも知られている(R.
Kronqvistら、Eur.J.Biochem. 1999;262:939-946)。さらに、プラークの不安定化を促進する可能性のあるFasを介したアポトーシスにおけるSPTの活性化が強く示唆される。Fasの活性化はマクロファージ(P.M.
YaoおよびI. Tabas、J.Biol.Chem. 2000;275:23807-23813)および平滑筋(A.C. Knappら、Athero.
2000;152:217-227)においてアポトーシスを引き起こす。Fasの活性化はSPT生成物でありかつSM前駆体であるセラミドの新たな合成に依存する(A.
Cremestiら、J. Biol. Chem. 2001;276:23954-23961)。
【0014】
コレステロール合成を調節する遺伝子は、そのプロモーター領域にステロール調節要素(SRE)を含有する(J.D.
Horton、J.L. GoldsteinおよびM.S. Brown、J. Clin. Invest. 2002;109(9):1125-31)。SREはいくつかの中間的段階を経て細胞内遊離コレステロールにより調節される(M.S.
BrownおよびJ.L. Goldstein、Cell. 1997;89(3):331-40)。形質膜の主成分であるSMは遊離コレステロールに対して高い親和性を示す(T.S.
Worgallら、J. Biol. Chem. 200;277(6):3878-85;およびV. Puriら、J. Biol. Chem.
2003;278(23):20961 -70)。スフィンゴミエリナーゼ療法によるSMの枯渇は、小胞体(endoplastic reticulum)へのコレステロールの移動の増加およびSREBP開裂の抑制を引き起こすことが報告されている(S.
Sheek、M.S. BrownおよびJ.L. Goldstein、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1
997;94(21):1 1179-83)。最近の所見より、チャイニーズハムスター卵巣細胞においてスフィンゴ脂質の生合成を阻害すると脂質生成遺伝子の発現が抑制されることが証明された(T.S.
Worgallら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2004; 24: 943-948)。
【0015】
SPT阻害剤はセラミドの産生、およびこれによる心筋細胞(D. Dyntarら、Diabetes
2001;50:2105-2113)およびインスリン産生膵β細胞(M. Shimabukuroら、Proc.Nat.Acad.Sci.
1998;95(5):2498-2502)のアポトーシスを阻害することが知られている。SPTの阻害により前糖尿病fa/faラットの島細胞のアポトーシスが予防される(M.
Shimabukuroら、J. Biol. Chem. 1998;273(49):32487-90)。また最近の所見より、パルミチン酸エステルがセラミドの生合成を通じた前プロインスリン遺伝子の発現を阻害することも証明された。SPTの阻害によりラット島細胞培養における前プロインスリンの発現が回復し、インスリン産生が回復した(C.L.
Kelpeら、J. Biol. Chem. 2003;278(32):30015-21)。
【0016】
ミリオシンは真菌(Y. Miyakeら、Biochem. Biophys. Res.
Commun. 1995;211 (2):396-403)より分離された既知のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤であり(K. Hanadaら、Biochem.Pharmacol.
2000;59:1211-1216;およびJ.K. Chenら、Chemistry & Biology 1999;6:221-235)、市販品でありかつ強力な免疫抑制活性を有することが知られている(T.
Fujitaら、J. Antibiot. (Tokyo) 1994;47(2):208-15)。ミリオシンはそのSPT阻害能と無関係に、かつT−リンパ球発育阻害を介して免疫調節能を有することが証明されている。
【0017】
国際公開番号WO01/80903号は血漿スフィンゴミエリン濃度に基づいたアテローム性動脈硬化症の検出および治療を開示する。
【0018】
国際公開番号WO02/074924号および米国特許第2002/0197654号、Thromb.
Haemost., 2001;86:1320-1326は、哺乳類細胞におけるセリンパルミトイルトランスフェラーゼの正常および過剰増殖的発現のレベルを比較測定するための方法、および癌の検出または再狭窄の治療などのその使用を開示する。
【0019】
米国特許第2003/9996022号は、スフィンゴ脂質およびその代謝物、特にスフィンゴシン(SPH)およびスフィンゴシン1−リン酸(S−1−P)の産生および/または生物学的活性を阻害する薬物の使用による心血管系または脳血管系疾患の治療または予防に有用な方法および組成物を開示する。
【0020】
国際公開番号WO01/80715号は、患者における急性臨床血管事象の予防に有用な化合物を特定するための方法を開示する。
【0021】
米国特許第6,613,322号、米国特許第2003/0026796号および国際公開番号WO99/11283号は、患者の細胞外亜鉛スフィンゴミエリナーゼ活性を減少させるのに有効な量の亜鉛スフィンゴミエリナーゼ阻害剤を患者に投与することを含む、アテローム性動脈硬化症を患う患者を治療するための方法を開示する。
【0022】
Tae-Sik Parkら、Circulation. 2004;110:3465-3471はApo−Eノックアウトマウスにおけるスフィンゴミエリン合成の阻害によるアテローム形成の減少を記載する。
【0023】
草稿M412348200として2004年12月6日に刊行されたJBC Papers in Pressの論文でM. HojjatiらはapoE-欠損マウスにおける血漿スフィンゴ脂質代謝およびアテローム性動脈硬化症に対するミリオシンの作用を記載している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は以下の治療法を提供する:必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む血漿脂質を低下させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む高密度リポタンパク質(HDL)粒子を増加させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む超低密度リポタンパク質(VLDL)粒子および低密度リポタンパク質(LDL)粒子を低下させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む血漿トリグリセリド粒子を低下させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む血清総コレステロールレベルを低下させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む血漿脂質プロフィールを改善するための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むプラーク形成を阻害するための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むプラークのサイズを減少させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むアテローム性動脈硬化病変のサイズを減少させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むマクロファージ泡沫細胞のサイズを減少させるための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むプラークの破裂を予防するための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む脂質代謝異常を治療するための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むアテローム性動脈硬化症を治療するための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む糖尿病を治療するための方法、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含むメタボリック症候群を治療するための方法、および最後に、必要のある哺乳類に治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することを含む炎症を治療するための方法。より詳細には、本発明はSPT阻害剤がミリオシンであるこのような方法を提供する。
【0025】
さらに、本発明はa)セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤である化合物、およびb)アテローム性動脈硬化症または脂質代謝異常に有用な第2の化合物を含む医薬組成物を提供する。より詳細には、本発明は第2の化合物がHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、HMG−CoAシンターゼ阻害剤、HMG−CoAレダクターゼ遺伝子発現阻害剤、HMG−CoAシンターゼ遺伝子発現阻害剤、CETP阻害剤、胆汁酸捕捉剤、コレステロール吸収阻害剤、コレステロール生合成阻害剤、スクアレン合成阻害剤、フィブレート、ナイアシン、ナイアシンとロバスタチンの組み合わせおよび抗酸化薬であるような組成物を提供する。より詳細には、本発明は第2の化合物がHMG−CoAレダクターゼ阻害剤であるような組成物を提供する。最も詳細には、本発明は第2の化合物がロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトロバスタチン、リバスタチン、ロスバスタチンまたはピタバスタチンであるような組成物を提供する。本発明は、第2の化合物はCETP阻害剤であるような組成物も提供する。より具体的には、本発明は第2の化合物がトルセトラピブであるような組成物を提供する。本発明は、SPT阻害剤がミリオシンであるような組成物も提供する。
【0026】
また、本発明はa)第1の単一剤形においてセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤および薬学的に許容できる担体、賦形剤または希釈剤、b)第2の単一剤形においてアテローム性動脈硬化症または脂質代謝異常の治療に有用である第2の化合物および薬学的に許容できる担体、賦形剤または希釈剤、およびc)第1および第2の単一剤形を含む手段を含むキットも提供する。より詳細には、本発明は第2の単一剤形において第2の化合物がHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、HMG−CoAシンターゼ阻害剤、HMG−CoAレダクターゼ遺伝子発現阻害剤、HMG−CoAシンターゼ遺伝子発現阻害剤、CETP阻害剤、胆汁酸捕捉剤、コレステロール吸収阻害剤、コレステロール生合成阻害剤、スクアレンシンセターゼ阻害剤、フィブレート、ナイアシン、ナイアシンとロバスタチンの組み合わせおよび抗酸化薬、および薬学的に許容できる担体、賦形剤または希釈剤であるようなキットであって、第1および第2の化合物の量により治療効果が生じるキットを提供する。より詳細には、本発明は第2の化合物がHMG−CoAレダクターゼ阻害剤であるようなキットを提供する。最も詳細には、本発明は第2の化合物がロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトロバスタチン、リバスタチン、ロスバスタチンまたはピタバスタチンであるようなキットを提供する。さらに、本発明は第2の化合物はCETP阻害剤であるようなキットを提供する。より詳細には、本発明は第2の化合物がトルセトラピブであるようなキットを提供する。また、本発明はSPT阻害剤がミリオシンであるようなキットも提供する。
【0027】
本発明は、上述のように必要がある哺乳類の治療のための薬物の製造または調製のためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)の使用も提供する。
【0028】
上述のように、臨床試験において血漿スフィンゴミエリン(SM)レベルは、血漿コレステロールレベルには依存せずに、冠動脈心疾患の発生と相関している。ミリオシンは、セラミドおよびスフィンゴミエリン(SM)生合成における律速酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)の強力な阻害剤である。本発明においては、ApoEノックアウト(KO)マウスにおいて、ミリオシンを用いた新規SM生合成の阻害により脂質プロフィールが改善し、かつアテロームの発生が減少することが確認されている。従って、本発明はアテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常および関連疾患を治療するためのSPT阻害剤の使用に向けられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤である化合物を用いて、アテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常、他の心血管系疾患および糖尿病などの関連疾患を治療する方法に関する。さらに、本発明はセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を含む医薬組成物およびキットを提供する。
【0030】
本発明によると、アテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常、他の心血管系疾患および糖尿病などの関連疾患は、このようなリスクを有するまたはリスクの高い患者に対して治療的に有効な量のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤を投与することにより治療することができる。
【0031】
以下の実施例に示すように、本発明において西洋型食餌を給餌されたApoE KOマウスの血漿、肝臓および大動脈においては、標準飼料を給餌されたApoE KOおよびC57BI/6J対照マウスと比較して、SM含有量および産生が比例的に増加することが示されている。特異的SPT阻害剤であるミリオシンは、肝臓および大動脈において新規SM合成を阻害し、これはSM/PC比率の変化を伴わない血漿SMおよびセラミドの減少と関連していた。SM合成の阻害は、血漿コレステロールおよびトリグリセリドの低下に至った。これらの変化はin vivoにおける劇的な抗アテローム硬化症効果と関連していた。
【0032】
SMの枯渇はHDLの上昇とも関連していた。In vitroデータより、リポタンパク質中のSM含有量の増加によってリポタンパク質代謝に関与する重要な酵素を阻害することができることが示唆されている。マクロファージ細胞膜中のSMはコレステロールの逆輸送を阻害することも知られている。SMの枯渇はコレステロール逆輸送の活性化に至り、かつHDLコレステロールの上昇に寄与すると考えられ、このことは本発明からの所見と一致する。
【0033】
本発明においては、SM合成の阻害はApoE KOマウスのアテローム性動脈硬化症病変形成の有意な減少と関連することが証明されている。ApoE KOマウスにおけるプラーク形成は脂質に誘導されるので、確認された抗アテローム発生効果は、肝臓によるSM合成の阻害の結果としての血漿脂質の正常化による間接的なものである可能性が高い。しかし、大動脈におけるSM産生の局所的阻害も示されている。ミリオシンを投与して西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスは、標準飼料を給餌したApoE KOマウスと同様の血漿脂質プロフィールを示したが、その病変は有意に小さくなった。あわせて考えると、これらの所見よりミリオシンの抗アテローム発生効果は部分的に動脈壁におけるSPTの局所的阻害による可能性があると示唆される。
【0034】
このように、ApoE KOマウスにおけるミリオシンによるSPT阻害によって、血漿脂質プロフィールの改善および有意な抗アテローム発生活性と関連する効果であるSM合成が効果的に阻害された。SMは冠動脈心疾患の独立リスク因子であり、かつ冠動脈疾患の血漿マーカーであると指摘した臨床報告は、これらの所見と一致した。本発明より、SPTおよびSM合成を調節する可能性のある他の重要な酵素は、脂質代謝異常、アテローム性動脈硬化症および関連疾患の予防のための新たな分子ターゲットクラスを示す可能性がある。
【0035】
用語「治療的に有効な量」は、疾患を治療、特別な疾患の1つまたはそれ以上の症状を改善、緩和または消散、または疾患の1つまたはそれ以上の症状の発症を予防または遅延する化合物または化合物の組み合わせの量を意味する。
【0036】
用語「患者」はイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ガチョウおよびヒトなどの動物を意味する。詳細には、特に好ましい患者は男女のヒトを含む哺乳類である。
【0037】
用語「薬学的に許容できる」は、物質または組成物が製剤の他の成分と適合しなければならず、かつ患者にとって有害であってはならないことを意味する。
【0038】
用語「治療すること」「治療する」または「治療」は、防止的(例えば、予防的)かつ待機的な治療を含む。
【0039】
用語「セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤」は、酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)を阻害または遮断する化合物または薬学的に許容できるその塩を意味する。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤と共に使用されるあらゆる追加的薬学的活性化合物は、追加的活性化合物の薬学的に許容できる塩であってもよいと考えられている。用語「SPT阻害剤」は、例えば他のタンパク質または核酸と比較して約20倍またはそれ以上の親和性でセリンパルミトイルトランスフェラーゼと結合する合成または天然アミノ酸ポリペプチド、タンパク質、低分子量合成有機分子、またはデオキシまたはリボ核酸配列を含む。例えば、セリンパルミトイルトランスフェラーゼタンパク質またはそのペプチドフラグメントに対して生成したポリクローナルまたはモノクローナル(古典的またはファージ提示抗体を含む)抗体、またはセリンパルミトイルトランスフェラーゼmRNAとハイブリッド化した核酸プローブは、本発明で使用するのに適しているが、これらに限定するものではない。
【0040】
用語「選択的」は、他の受容体との結合親和性と比較して、リガンドがある特定の受容体と大きな親和性で結合することを意味する。好ましくは、そのリガンドの第1の受容体に対する結合親和性は第2の受容体に対する結合親和性よりも約50%またはそれ以上大きい。より好ましくは、そのリガンドの第1の受容体に対する結合親和性は第2の受容体に対する結合親和性よりも約75%またはそれ以上大きい。最も好ましくは、そのリガンドの第1の受容体に対する結合親和性は第2の受容体に対する結合親和性よりも約90%またはそれ以上大きい。
【0041】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、例えば化合物ライブラリのスクリーニングによって特定することができる。酵素阻害物質を同定するための方法は当業者に周知である。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害物質を同定するために用いることのできる具体的な方法は、国際公開番号WO01/80913号、米国特許第2002/0197654号、K.
Hanada, T. HaraおよびM. Nishijima,
J. Biol. Chem., 24 Mar. 2000; 275(12):8409-15;およびK. Gableら、J. Biol. Chem., 17
Mar. 2000; 275(11):7597-603などの他の刊行物に提示されている(これらを本願に引用して援用する)。新規阻害物質は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ酵素活性を測定する方法を用いて発見される。
【0042】
既知のセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害物質の例は、市販されているミリオシン、D−シクロセリン、スフィンゴフンギンB、スフィンゴフンギンCおよびビリディオフンギンを含む。例えば国際公開番号WO01/80903号に開示されているリポキサマイシンおよびハロアラニンなどの他のSPT阻害剤が当業者に知られるであろう(J.K.
Chen, Chemistry & Biology, April 1999, Vol. 6:221-235;および米国特許第2002/0197654号)。
【0043】
用語「薬学的に許容できる塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激性、アレルギー反応などを伴わずに患者での使用に適しており、妥当な利益/リスク比に対応し、かつその意図する用途に有効である化合物の塩、および可能であればその化合物の両性イオン性形態を含む。
【0044】
用語「塩」は化合物の無機および有機塩を指す。これらの塩は化合物の最終分離および精製の際にその場で、または別途精製した化合物を適切な有機または無機酸または塩基と適宜反応させ、これにより形成された塩を分離することにより調整することができる。代表的な塩は臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリル酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、ベシル酸塩、エシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩およびラウリル硫酸塩などを含む。これらは、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属に基づく陽イオン、およびアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどを含むがこれらに限定されない非毒性アンモニウム、四級アンモニウム、およびアミン陽イオンを含むこともある。例えばS.M.
Bergeら、"Pharmaceutical Salts," J Pharm Sci, 66:1-19 (1977)を参照されたい。
【0045】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、非対称性またはキラル中心を含んでもよく、従って異なる立体異性体の形態で存在してもよい。全ての立体異性体型およびラセミ混合物を含むその混合物は本発明の一部を構成すると考えられている。さらに、本発明では全ての幾何および位置異性体も考慮する。例えば化合物が二重結合を含む場合、シスおよびトランス型および混合物が考慮される。
【0046】
立体異性体を含む異性体の混合物は、クロマトグラフィーおよび/または分画結晶化などの当業者に周知の方法により、その物理化学的差異に基づいて各異性体に分離することができる。エナンチオーマーは、エナンチオーマー混合物を適切な光学活性化合物(例えば、アルコール)との反応によりジアステレオマー混合物に変換し、ジアステレオマーを分離し、各ジアステレオマーを対応する純粋なエナンチオーマーに変換(例えば、加水分解)することにより分離することができる。また、本発明医の化合物の一部はアトロプ異性体(例えば、置換ビアリル)であってもよく、これも本発明の一部とみなされる。
【0047】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、非溶媒和型で存在してもよく、水、エタノールなどの薬学的に許容できる溶媒による溶媒和型で存在してもよい。本発明は溶媒和型および非溶媒和型のいずれも考慮しかつ包含する。
【0048】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、異なる互変異体の形態で存在してもよい。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の全ての互変異体が考慮される。
【0049】
本明細書に開示される本発明は、合成化学者にとって周知であるような実験室的方法を用いてin vitroで合成される、または代謝、発酵、消化などのin vivo法を用いて合成される化合物を包含することも意図している。化合物はin vitro法とin vivo法の組み合わせを用いて合成してもよいと考えられている。
【0050】
本発明は、通常自然界に最も豊富に認められる原子量または質量数と異なる原子量または質量数を有する原子により1つまたはそれ以上の原子が置換されていることを除いて、非同位体標識化合物と同一である同位体標識化合物も含む。本発明によって特定される化合物に取り込むことのできる同位体の例は、それぞれH、H、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、135Iおよび36Clなどの水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素および塩素の同位体を含む。前述の同位体および/または他の原子の他の同位体を含有するSPT阻害剤および薬学的に許容できるその塩は、本発明の範囲内である。例えばHおよび14Cなどの放射性同位体が取り込まれた本発明のある種の同位体標識化合物は、薬物および/または基質の組織分布分析に有用である。トリチウム化すなわちHおよび炭素−14すなわち14C同位体は、その調製の容易さおよび検出性により特に好まれる。さらに、重水素すなわちHなどの重い同位体によって置換すると、例えばin vivo半減期の延長などの代謝安定性の上昇およびまたは必要用量の減少によって一定の治療上の利益が得られるため、ある環境下では好まれることがある。一般に、同位体標識化合物は非同位体標識試薬を容易に入手できる同位体標識試薬で置換することによって調製される。
【0051】
メタボリック症候群はX症候群またはインスリン抵抗性としても知られ、内蔵肥満、高脂血症、脂質代謝異常、高血糖、高血圧、および潜在的高尿酸症および腎機能不全を含む他の障害と関連した高インスリン濃度の存在として定義される一般的な臨床的障害を指す。
【0052】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、治療的に有効な量で患者に投与される。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、単独でまたは薬学的に許容できる組成物の一部として投与することができる。さらに、化合物または組成物は例えばボーラス注射などのように一度に全部投与することも、一連の錠剤のように複数回投与することも、または例えば経皮送達を用いて一定時間に渡ってほぼ均一に送達することもできる。化合物の用量は時間の経過と共に変動できることも指摘される。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、速放製剤、放出制御製剤またはその組み合わせを用いて投与することができる。用語「放出制御」は、持続放出、遅延放出およびその組み合わせを含む。
【0053】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤および他の薬学的活性化合物は、望まれる場合は、患者に対して経口、直腸、非経口(例えば静脈内、筋肉内、または皮下)、槽内、膣内、腹腔内、膀胱内、局所(例えば粉末剤、軟膏または滴剤)、または口腔内または鼻腔スプレーで投与することができる。
【0054】
非経口注射に適した組成物は、生理学的に許容できる無菌水溶液または非水溶液、分散液、懸濁液または乳濁液を含むこともあり、または再溶解して無菌注射液または分散液とする無菌粉末を含むこともできる。適切な水性および非水性担体、希釈液、溶媒または賦形剤の例は、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールなど)、適切なその混合物、オリーブ油などの植物油を含むトリグリセリド、またはオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルを含む。適切な担体はミグリオール(登録商標)である。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合の必要な粒子径の維持および/または界面活性剤の使用などにより維持される。
【0055】
これらの組成物は保存、湿潤、乳化、および/または分散剤のような添加剤を含むこともある。組成物の微生物汚染の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの種々の抗菌および抗真菌剤の添加によって達成される。例えば糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤を含めることが望ましいこともある。注射可能な医薬組成物の長時間吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよび/またはゼラチンなどの吸収を遅延させることのできる物質の使用によって実現することができる。
【0056】
経口投与用固形剤形は、カプセル、錠剤、粉末剤および顆粒剤を含む。このような固形剤形においては、活性化合物はクエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性の慣習的賦形剤(または担体)または(a)デンプン、乳糖、ショ糖、マンニトールまたはケイ酸などの充填剤または増量剤、(b)カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖またはアラビアゴムなどの結合剤、(c)例えばグリセロールなどの湿潤剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種の複合ケイ酸塩、または炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(e)例えばパラフィンなどの溶液遅延剤、(f)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(g)例えばセチルアルコールまたはモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、(h)例えばカオリンまたはベントナイトなどの吸着剤、および/または(i)例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムまたはその混合物などの滑沢剤と混合される。カプセルまたは錠剤の場合は、剤形には緩衝化剤も含まれる。
【0057】
軟ゼラチンまたは硬ゼラチン充填カプセルにおいても、ラクトースまたは乳糖および高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用して、充填剤として同様の種類の固形組成物が使用されることもある。
【0058】
錠剤、糖衣錠、カプセル、および顆粒剤などの固形剤形は、腸溶コーティングおよび当技術分野で周知の他のものなどのコーティングまたはシェルにより調製することができる。これらは乳白剤を含むこともでき、かつこれらが有効化合物または複数の化合物を遅延的に放出するような組成物とすることもできる。使用することができる包埋組成物の例は、ポリマー性物質およびワックスである。有効組成物は、適切ならば、1つまたはそれ以上の上述の賦形剤によりマイクロカプセル形態とすることもできる。
【0059】
経口投与用の液状剤形は、薬学的に許容できる乳剤、溶液、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤を含む。液状剤形は、活性化合物の他に水または他の溶媒などの当技術分野で一般的に使用される不活性溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、ミグリオール(登録商標)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステルまたはこれらの物質の混合物などの可溶化剤および乳化剤などを含有してもよい。
【0060】
組成物は、このような不活性希釈剤の他に、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味料、風味剤および香料などの添加剤も含むことができる。
【0061】
懸濁剤は、活性化合物の他に例えばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールまたはソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、またはトラガントまたはこれらの物質の混合物などの懸濁化剤を含有してもよい。
【0062】
直腸または膣内投与用組成物は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤および何らかの追加的化合物を、通常の室温で固形であるが体温では液状であるため、直腸または膣内で融解し、化合物を放出するカカオバター、ポリエチレングリコールまたは座薬用ワックスなどの適切な非刺激性の賦形剤または担体と混合することにより調製することができる。
【0063】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の局所投与用剤形は、軟膏、粉末剤、スプレーおよび吸入剤を含む。化合物は、無菌条件下で生理学的に許容できる担体、および何らかの防腐剤、緩衝液および/または必要と思われる噴射剤と混合される。眼科製剤、眼軟膏、粉末剤および溶液も本発明の範囲内と考えられている。
【0064】
セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、約0.1から約7,000mg/日の範囲内の用量レベルで患者に投与することができる。好ましい用量範囲は約1から約100mg/日である。具体的な用量および使用できる用量範囲は、患者の要請、治療する状態または疾患の重症度および投与する化合物の薬理活性などの多くの要素に依存する。用量範囲および各患者に対する最適な用量の決定は、本発明の観点より当業者の通常の技量の範囲内で十分である。
【0065】
本発明はアテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常および他の心血管系疾患を治療するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用に関する。本発明の治療方法は、アテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常または他の心血管系疾患の治療に有用な他の薬学的活性化合物をセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤と組み合わせて使用する併用療法を含むこともできる。
【0066】
本発明の1つの実施形態においては、アテローム性動脈硬化症リスクを有するまたはリスクが高い患者に対し、1)セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤、および2)アテローム性動脈硬化症、脂質代謝異常、または他の心血管系疾患の治療に有用な追加的化合物、またはこれらの疾患の治療に有用な化合物の組み合わせを投与することができる。
【0067】
さらに、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、コレステロール生合成阻害剤およびコレステロール吸収阻害剤などの他の医薬品、特にHMG−CoAレダクターゼ阻害剤およびHMG−CoAシンターゼ阻害剤、HMG−CoAレダクターゼおよびシンターゼ遺伝子発現阻害剤、CETP阻害剤、胆汁酸捕捉剤、フィブレート、ACAT阻害剤、スクアレンシンセターゼ阻害剤、抗酸化薬およびナイアシンなどと組み合わせて投与することができる。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、血漿コレステロールレベルを低下するよう作用する天然生成化合物と組み合わせて投与することもできる。これらの天然生成化合物は一般にニュートラシューティカルと呼ばれ、例えばニンニク抽出物、ベネコール(登録商標)およびナイアシンなどを含む。徐放型ナイアシンは入手可能であり、ニアスパンとして知られている。ナイアシンは、HMG−CoAレダクターゼ阻害剤であるロバスタチンおよび以下にさらに記載する他の治療薬と組み合わせて投与することができる。この併用療法は、アドビコール(商標)(コス・ファーマシューティカルズ社)として知られている。
【0068】
本発明の併用の態様において、第2の化合物としてあらゆるコレステロール吸収阻害剤を使用することができる。用語コレステロール吸収阻害は、ある化合物が腸管内腔内に含まれるコレステロールが腸管細胞に入ることおよび/または通過して血流に至ることを防止する能力を指す。このようなコレステロール吸収阻害活性は、標準的分析に従い当業者によって容易に測定される。(例えば、J. Lipid Res. (1993) 34:
377-395)。コレステロール吸収阻害物質は当業者にとって既知であり、かつ例えば国際公開番号WO94/00480号に記載されている。最近承認されたコレステロール吸収阻害剤はゼチア(商標)(エゼチミブ)(メルク/シェリング・プラウ)である。
【0069】
本発明の併用療法の態様において、追加的化合物としてあらゆるHMG−CoAレダクターゼ阻害剤を採用することができる。用語HMG−CoAレダクターゼは、酵素HMG−CoAレダクターゼが触媒するようなヒドロキシメチルグルタリル−コエンザイムAからメバロン酸への生体内変化を阻害する化合物を指す。このような阻害は、標準的な分析法に従い当業者によって容易に測定される(例えば、Methods
of Enzymology, 71: 455-509 (1981);および本明細書に引用された参照文献)。これらの種々の化合物が以下に記載および引用されている。米国特許第4,231,938号は、ロバスタチンなどのAspergillus属に属する微生物の培養後に分離されるいくつかの化合物を開示する。また、米国特許第4,444,784号はシンバスタチンなどの前述の化合物の合成誘導体を開示する。さらに、米国特許第4,739,073号はフルバスタチンなどのいくつかの置換インドールを開示する。さらに、米国特許第4,346,227号はプラバスタチンなどのいくつかのML−236B誘導体を開示する。さらに、欧州特許第491,226号はリバスタチンなどのいくつかのピリジルジヒドロキシヘプタン酸を教示する。また米国特許第4,681,893号および第5,273,995号は、アトロバスタチンおよびそのヘミカルシウム塩(リピトール(登録商標))などのいくつかの6−[2−(置換−ピロール−1−イル)−アルキル]−ピラン−2−オンを開示する。他のHMG−CoAレダクターゼ阻害剤は、ロスバスタチンおよびピタバスタチンなどのように当業者の知るところとなるであろう。本発明の化合物と組み合わせて使用することのできるHMG−CoAレダクターゼ阻害剤を含む市販品の例は、バイコール(登録商標)、レスコール(登録商標)、リピトール(登録商標)、メバコール(登録商標)、プラバコール(登録商標)、およびゾコール(登録商標)を含む。
【0070】
本発明の併用療法の態様において、第2の化合物としてあらゆるHMG−CoAシンターゼ阻害剤を使用することができる。用語HMG−CoAシンターゼ阻害剤は、酵素HMG−CoAシンターゼに触媒される、アセチルコエンザイムAおよびアセトアセチルコエンザイムAからのヒドロキシメチルグルタリル−コエンザイムAへの生合成を阻害する化合物を指す。このような阻害は、標準的な分析法に従い当業者によって容易に測定される(例えば、Methods
of Enzymology, 35: 155-160 (1975);Methods of Enzymology, 110: 19-26 (1985);および本明細書に引用された参照文献)。これらの種々の化合物が以下に記載および引用されている。米国特許第5,120,729号はいくつかのβ−ラクタム誘導体を開示する。米国特許第5,064,856号は微生物MF5253の培養により調製されるいくつかのスピロラクトン誘導体を開示する。米国特許第4,847,271号は11−(3−ヒドロキシメチル−4−オキソ−2−オキシエチル)−3,5,7−トリメチル−2,4−ウンデカジエン酸誘導体などのいくつかのオキセタン化合物を開示する。他のHMG−CoAシンターゼ阻害剤は当業者の知るところとなるであろう。
【0071】
本発明の併用療法の態様において、追加的化合物としてHMG−CoAレダクターゼ遺伝子発現を減少させるあらゆる化合物を使用することができる。これらの物質は、DNAの転写を遮断するHMG−CoAレダクターゼ転写阻害剤であっても、またはHMG−CoAレダクターゼをコードするmRNAのタンパク質への翻訳を阻害する翻訳阻害剤であってもよい。このような阻害剤は、転写または翻訳に直接影響することもあれば、コレステロール生合成カスケードの1つまたはそれ以上の酵素によって前述の特性を有する化合物に生体変換されることもあれば、または前述の活性を有するイソプレン代謝物の蓄積に至ることもある。このような調節は、標準的分析に従い当業者によって容易に測定される。(Methods of
Enzymology, 110: 9-19 1985)。このような化合物のいくつかは以下に記載および引用されているが、他のHMG−CoAレダクターゼ遺伝子発現阻害剤も当業者の知るところとなるであろう。米国特許第5,041,432号はいくつかの15置換ラノステロール誘導体を開示する。HMG−CoAレダクターゼの生合成を抑制する他の酸素化ステロールは、E.I.
Mercerによって考察されている(Prog. Lip. Res., 32:357-416 1993)。
【0072】
本発明の併用療法の態様において、CETP阻害剤としての活性を有するあらゆる化合物を第2の化合物とすることができる。用語CETP阻害剤は、コレステリルエステル転移タンパク質(CETP)を介した種々のコレステリルエステルおよびトリグリセリドのHDLからLDLおよびVLDLへの輸送を阻害する化合物を指す。このようなCETP阻害活性は、標準的なアッセイ法に従い当業者によって容易に測定される。(例えば、米国特許第6,140,343)。例えば本発明の譲受人に譲渡された米国特許番号第6,140,343および本発明の譲受人に譲渡された米国特許第6,197,786号に開示されている種々のCETP阻害剤が当業者の知るところとなるであろう。これらの特許に開示されたCETP阻害剤は、トルセトラピブとしても知られる[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステルなどの化合物を含む。米国特許第5,512,548号はCETP阻害剤としての活性を有するいくつかのポリペプチド誘導体を開示し、一方J.
Antibiot., 49(8): 815-816 (1996)、およびBioorg. Med. Chem. Lett.; 6:1951 -1954
(1996)にはいくつかのCETP阻害性ロセノノラクトン誘導体およびリン酸を含むコレステリルエステル類似体がそれぞれ開示されている。
【0073】
本発明の併用治療の態様において、あらゆるACAT阻害剤を追加の化合物とすることができる。用語ACAT阻害剤は、酵素アシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼによる食物中のコレステロールの細胞内エステル化を阻害する化合物を指す。このような阻害は、Journal
of Lipid Research., 24:1127 (1983)に記載されたHeiderらの方法などのような標準的な分析法に従い当業者によって容易に測定される。このような種々の化合物が以下に記載および引用されているが、他のACAT阻害剤も当業者の知るところとなるであろう。米国特許第5,510,379号はいくつかのカルボキシスルホン酸を開示する一方で、国際公開番号WO96/26948号およびWO96/10559号はいずれもACAT阻害活性を有する尿素誘導体を開示する。
【0074】
本発明の併用療法の態様において、スクアレンシンセターゼ阻害剤としての活性を有するあらゆる化合物を追加的化合物として使用することができる。用語スクアレンシンセターゼ阻害剤は、酵素スクアレンシンセターゼによって触媒される反応であるファルネシルピロリン酸2分子の縮合によるスクアレンの生成を阻害する化合物を指す。このような阻害は、標準的な方法論に従い当業者によって容易に測定される(例えば、Methods
of Enzymology, 15: 393-454 (1969);およびMethods of Enzymology, 110: 359-373
(1985);および本明細書に引用された参照文献)。スクアレンシンセターゼ阻害剤の概要は、Curr. Op.Ther. Patents, 861-4,
(1993)に編纂されている。
【0075】
高コレステロール血症を含む高脂血症向けに市販された化合物であって、かつアテローム性動脈硬化症の予防および治療を助けることを目的とした他の化合物は、ウェルコール(登録商標)、コレスチド(登録商標)、ロコレスト(登録商標)およびクエストラン(登録商標)などの胆汁酸捕捉剤およびアトロミド(登録商標)、ロピッド(登録商標)およびトリコール(登録商標)などのフィブリン酸誘導体を含む。これらの化合物はセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤と組み合わせて使用することもできる。
【0076】
SPT阻害はアテローム性動脈硬化症のみならず、2型糖尿病、脂質毒性およびインスリン感受性などの状態に対しても有益である可能性がある。肥満または高血糖による脂肪酸への長期的曝露により膵β細胞のアポトーシス(脂質毒性)およびセラミドの生成によるインスリン反応の障害が起こることが示されている(M.
Shimabukuroら、Proc Natl Acad Sci USA. 1998;95:2498-502)。
【0077】
糖尿病は、糖尿病(特に2型糖尿病)、インスリン抵抗性、糖耐性障害など、またはニューロパシー、腎症、網膜症または白内障などの糖尿病合併症のいずれかを有する患者に対し、治療的に有効な量のSPT阻害剤を糖尿病の治療に使用できる他の薬物(例えば、インスリン)と組み合わせて投与することにより治療することができる。これは以下に記載する抗糖尿病薬群(および各薬物)を含む。
【0078】
あらゆるグリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤は、第2の薬物として本発明のSPT阻害剤と組み合わせて使用することができる。用語グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤は、酵素グリコーゲンホスホリラーゼによって触媒されるグリコーゲンからグルコース−1−リン酸への生体変換を阻害する化合物を指す。このようなグリコーゲンホスホリラーゼ阻害活性は、標準的なアッセイ法に従い当業者によって容易に測定される。(例えば、J. Med. Chem. 41(1998) 2934-2938)。種々のグリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤は、国際公開番号WO96/39384号およびWO96/39385号に記載されるものを含めて当業者に周知である
【0079】
あらゆるアルドースレダクターゼ阻害剤は、本発明のSPT阻害剤と組み合わせて使用することができる。用語アルドースレダクターゼ阻害剤は、酵素アルドースレダクターゼによって触媒されるグルコースからソルビトールへの生体変換を阻害する化合物を指す。アルドースレダクターゼ阻害は、標準的なアッセイに従い当業者によって容易に測定される。(例えば、J. Malone, Diabetes, 29:861-864 (1980).
"Red Cell Sorbitol, an Indicator of Diabetic Control")。種々のアルドースレダクターゼ阻害剤は当業者に周知である。
【0080】
あらゆるソルビトールデヒドロゲナーゼ阻害剤は、本発明のSPT阻害剤と組み合わせて使用することができる。用語ソルビトールデヒドロゲナーゼ阻害剤は、酵素ソルビトールデヒドロゲナーゼによって触媒されるソルビトールからフルクトースへの生体変換を阻害する化合物を指す。このようなソルビトールデヒドロゲナーゼ阻害活性は、標準的なアッセイに従い当業者によって容易に測定される。(例えば、Analyt. Biochem (2000) 280: 329-331)。種々のソルビトールデヒドロゲナーゼ阻害剤が既知であり、例えば米国特許第5,728,704号および第5,866,578号は酵素ソルビトールデヒドロゲナーゼを阻害することによる糖尿病合併症を治療または予防するための化合物および方法を開示する。
【0081】
本発明のSPT阻害剤と組み合わせてあらゆるグルコシダーゼ阻害剤を使用することができる。グルコシダーゼ阻害剤は、グリコシドヒドラーゼ、例えばアミラーゼまたはマルターゼなどによる複合糖質を例えばグルコースなどの生体で利用できる単糖に変換する酵素的加水分解を阻害する。特に高レベルの炭水化物を摂取した後のグルコシダーゼの迅速な代謝作用により、脂肪過多症または糖尿病患者においてはインスリン分泌の亢進、脂肪合成の亢進および脂肪分解の減少に至る食事性高血糖の状態を引き起こす。このような高血糖に続いて、過剰レベルのインスリンの存在による低血糖症がしばしば起こる。さらに、胃に残った糜粥が胃液の産生を促進し、これが胃炎または十二指腸潰瘍の発症を開始または促進することも知られている。従って、グルコシダーゼ阻害剤は胃を通る炭水化物の通過を高め、かつ腸からのグルコースの吸収を阻害する上で有用性を有することが知られている。さらに、これにより炭水化物の脂肪組織の脂質への変換およびこれに続く食物性脂肪の脂肪組織貯蔵物への取り込みが減少または遅延し、同時にこれによって生じる有害な異常を減少または予防する上で有益となる。このようなグルコシダーゼ阻害活性は、標準的なアッセイ法に従い当業者によって容易に測定される(例えば、Biochemistry (1969) 8: 4214)。
【0082】
一般的に好まれるグルコシダーゼ阻害剤はアミラーゼ阻害剤を含む。アミラーゼ阻害剤は、デンプンまたはグリコーゲンのマルトースへの酵素的分解を阻害するグルコシダーゼの阻害剤である。このようなアミラーゼ阻害活性は、標準的なアッセイに従い当業者によって容易に測定される。(例えば、Methods Enzymol. (1955) 1:
149)。このような酵素的分解の阻害は、グルコースおよびマルトースを含む生体利用可能な糖の量およびこれらによって同時に起こる有害な状態の減少において有益である。
【0083】
種々のグルコシダーゼ阻害剤は当業者に周知でありかつ実施例を以下に示す。好ましいグルコシダーゼ阻害剤は、アカルボース、アジポシン、ボグリボース、ミグリトール、エミグリテート、カミグリボース、テンダミステート、トレスタチン、プラジミシン−Qおよびサルボスタチンからなる群から選択される阻害剤である。グルコシダーゼ阻害剤アカルボースおよびこれと関連する種々のアミノ糖誘導体は、米国特許第4,062,950号および第4,174,439号にそれぞれ開示されている。グルコシダーゼ阻害剤アジポシンは、米国特許第4,254,256号に開示されている。グルコシダーゼ阻害剤ボグリボース、3,4−ジデオキシ−4−[[2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ]−2−C−(ヒドロキシメチル)−D−エピ−イノシトールおよびこれに関連する種々のN−置換擬似アミノ糖は、米国特許第4,701,559号に開示されている。グルコシダーゼ阻害剤ミグリトール(2R,3R,4R,5S)−1−(2−ヒドロキシエチル)−2−(ヒドロキシメチル)−3,4,5−ピペリジントリオールおよびこれに関連する種々の3,4,5−トリヒドロキシピペリジンは、米国特許第4,639,436号に開示されている。グルコシダーゼ阻害剤エミグリテートである、p−[2−[(2R,3R,4R,5S)−3,4,5−トリヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)ピペリジノ]エトキシ]−安息香酸エチルおよびこれに関連する種々の誘導体および薬学的に許容できるその酸付加塩は、米国特許第5,192,772号に開示されている。グルコシダーゼ阻害剤MDL−25637である、2,6−ジデオキシ−7−O−β−D−グルコピラノ−シル−2,6−イミノ−D−グリセロ−L−グルコ−へプチトール、これに関連する種々のホモ二糖類および薬学的に許容できるその酸付加塩は、米国特許第4,634,765号に開示されている。グルコシダーゼ阻害剤カミグリボース、メチル6−デオキシ−6−[(2R,3R,4R,5S)−3,4,5−トリヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)ピペリジノ]−α−D−グルコピラノシドセスキ水和物、これに関連するデオキシノジリマイシン誘導体、薬学的に許容できるその種々の塩およびその調製のための合成方法は、米国特許第5,157,116号および第5,504,078号に開示されている。グルコシダーゼ阻害剤サルボスタチンおよびこれに関連する種々の擬似糖は、米国特許第5,091,524号に開示されている。
【0084】
種々のアミラーゼ阻害剤が当分野の技術者に公知である。アミラーゼ阻害剤テンダミスタットおよびそれに関連する種々の環状ペプチドは米国特許第4,451,455号に開示されている。アミラーゼ阻害剤AI−3688およびそれに関連する種々の環状ポリペプチドは、米国特許第4,623,714号に開示されている。トレスタチンA、トレスタチンBおよびトレスタチンCの混合物からなるアミラーゼ阻害剤トレスタチンおよびそれに関連する種々のトレハロースを含有するアミノ糖は、米国特許第4,273,765号に開示されている。
【0085】
本発明のSPT阻害剤と組み合わせて第2の化合物として使用することができる追加的抗糖尿病化合物は、例えば以下のビグアナイド(例えば、メトホルミン)、インスリン分泌促進薬(例えば、スルホニル尿素およびグリニド)、グリタゾン、非グリタゾンPPARy作動薬、PPA
Rβ作動薬、DPP−IV阻害剤、PDE5阻害剤、GSK−3阻害剤、グルカゴン拮抗薬、f−1,6−BPアーゼ阻害剤(メタバシス/三共)、GLP−1/類似体(AC2993、エキセンディン−4としても知られる)、インスリンおよびインスリンミメティク(メルク天然産物)を含む。その他の例はPKC−β阻害剤およびAGE破壊剤を含むであろう。
【0086】
上述のように、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤は、単独で投与することもまたは他の医薬活性化合物と共に投与することもできる。他の医薬活性化合物は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤と同じ疾患または異なる疾患を治療することを意図することができる。患者が複数の医薬活性化合物の投与を受けようとする、または受けている場合、化合物は同時に投与することもまたは任意の順で連続的に投与することもできる。例えば錠剤の場合、活性化合物は1つの錠剤内にあることもまたは異なる複数の錠剤にあることもあり、これらは一度に投与することも任意の順で連続的投与することもできる。さらに、組成物は異なる形態を取ることができることを認識しなければならない。例えば、1つまたはそれ以上の化合物が錠剤により送達される一方で、他の化合物は注射またはシロップとして経口投与されることもある。全ての組み合わせ、送達法および投与の順が考慮されている。
【0087】
本発明の態様の1つは、別に投与してもよい医薬活性物質との組み合わせで引用されている疾患の治療を考慮しているので、本発明はさらにキット形態の別の医薬組成物を組み合わせることに関する。例えば、あるキットは、1)セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害物質および2)第2の医薬活性化合物からなる2つの異なる医薬組成物を含んでもよい。キットは、分別瓶または分別ホイル包装など別個の組成物のための容器も含む。容器のさらなる例は、シリンジ、箱、袋などを含む。通常、キットは別個の成分の投与についての説明書を含む。別個の成分が異なる剤形(例えば、経口および非経口)で好ましく投与され、異なる投与間隔で投与される場合、またはその組み合わせの個々の成分の用量の漸増が処方医師によって望まれる場合、キット形態は特に有利である。
【0088】
キットの例はブリスターパックである。ブリスターパックは包装産業で周知であり、かつ医薬品単一剤形(錠剤、カプセルなど)の包装向けに幅広く使用されている。ブリスターパックは、一般に好ましくは透明プラスチック材料であるホイルで被覆された比較的に硬い材料のシートからなる。包装の工程中、プラスチックホイルに陥凹が形成される。陥凹は包装する錠剤またはカプセルの大きさおよび形状を有する。次に、錠剤またはカプセルを陥凹に入れ、陥凹が形成されている側と反対にあるプラスチックホイルの面で、比較的に硬い材料のシートをホイルに密封する。その結果、錠剤またはカプセルはプラスチックホイルとシートの間の陥凹に密封される。好ましくは、シートの強度は、手で陥凹に加圧することで陥凹面のシートに開口が形成されることにより、錠剤またはカプセルをブリスターパックから取り出せるようなものである。ついで、前記の開口部より錠剤またはカプセルが取り出せる。
【0089】
キット上に、錠剤またはカプセルと並んで、例えば番号の形態により、その番号が錠剤またはカプセルを摂取するよう指定された治療計画上の日付に対応するようなメモリーエイドを提供することが望ましいこともある。このようなメモリーエイドの他の例は、例えば「第1週、月、火、(中略)、第2週、月、火」などのようにカード上に印刷したカレンダーである。メモリーエイドの他のバリエーションは容易に明らかになるであろう。「1日用量」は所与の1日に摂取する単一の錠剤またはカプセルであってもまたは数種類の錠剤またはカプセルであってもよい。また、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の1日用量が1つの錠剤またはカプセルから構成されてもよい一方で、第2の化合物の1日用量が数個の錠剤またはカプセルからなっていてもよく、またその逆であってもよい。メモリーエイドはこのことを反映し、かつ活性成分の正確な投与を補助しなければならない。
【0090】
本発明の他の実施形態においては、その意図された使用の順序で1日用量を一回ずつ投与するようデザインされたディスペンサーが提供される。好ましくは、ディスペンサーには投与計画のコンプライアンスをさらに促進するようメモリーエイドが搭載されている。このようなメモリーエイドの実施例は、投与された1日用量の数を表示する機械的計数器である。このようなメモリーエイドの他の例は、液晶表示を有するバッテリー電源を用いたマイクロチップメモリ、または例えば最後の1日用量が摂取された日付を読み取る、および/または次の用量を摂取する時を知らせる音声リマインダー信号である。
【0091】
本明細書に引用された全ての文書は、本願に引用して援用する。
【0092】
以下に示す実施例は発明の具体的な実施形態を例示することを意図し、かつ請求項を含む本明細書の範囲をいかなる様態でも制限しないことを意図している。
【0093】
本願に使用されている略語の一部を以下に示す:
SM、スフィンゴミエリン
SPT、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ、
LCAT、レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ、
LPL、リポタンパク質リパーゼ、
PC、血漿ホスファチジルコリン、
RT−PCR、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
ApoE、アポリポタンパク質E、
WD、西洋型食餌飼料を給餌したApoEノックアウトマウス、
WD+mry、西洋型食餌飼料+ミリオシンを給餌したApoEノックアウトマウス、
Normal、正常または標準飼料を給餌したApoEノックアウトマウス、
C57BI/6J、正常または標準飼料を給餌した野生型対照マウス、
KO、ノックアウト、
TG、トリアシルグリセロール、
SRE、ステロール調節要素、
SREBP、ステロール調節要素結合タンパク質、
STD、標準飼料、
LC/MS、液体クロマトグラフィー/質量分析
【実施例】
【0094】
(材料)
コレステロールR1,トリグリセリド試薬およびウシ血清アルブミン(BSA、脂肪酸をほとんど含まない)はロシュダイアグノスティクス社(インディアナ州インディアナポリス)より購入した。スペロース6HRクロマトグラフィーカラムはファルマシアバイオテク社(英国バッキンガムシャー州)より購入した。スフィンガニン、スフィンゴミエリン(脳)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよびセラミドはAvanti Polar Lipids社(アラバマ州アラバスター)より購入した。ミリオシン、1,2−ヘキサデカンジオール、プシコシン、セリン、パルミトイルCoAおよびオイルレッドOはシグマ社(ミズーリ州セントルイス)より入手した。IHC亜鉛−トリス固定液はファーミンジェン社(カリフォルニア州サンディエゴ)より購入した。齧歯類用正常飼料および西洋型食餌飼料はResearch Diet社(ニュージャージー州ニューブランズウィック)より入手した。HPLC等級精製水、アセトニトリル、および(ノルマル)ブチルアルコールはマリンクロート社(ケンタッキー州パリ)より入手した。ギ酸(90%)はアルドリッチ社(ウィスコンシン州ミルウォーキー)より入手した。酢酸アンモニウム(F.W.77.09)、トリメチルペンタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジクロロメタンおよび2−プロパノールはイーエムサイエンス社(ニュージャージー州Gibbstown)より入手した。マウス用血清アミロイドA
ELISAキットはバイオソース社(カリフォルニア州カマリロ)より入手した。
【0095】
(動物実験)
雄性C57BI/6JおよびC57BI/6JをバックグラウンドとするApoE KOマウスは、ジャクソン研究所(メリーランド州バーハーバー)またはタコニック社(ニューヨーク州ジャーマンタウン)より入手した(ApoE KOマウスのプラーク形成は脂質で誘導した(A.S.
Plumpら、Cell. 1992;71 (2):343-53))。ミリオシンはコレステロール0.21%および脂肪21%を含有する西洋型食餌と混合した。8〜12週齢のマウスにミリオシン0.3mg/kg/日を12週間投与した(表1)。10〜12週齢のApo
KOマウス(N=8)に予め西洋型食餌を2週間給餌し、さらにマウスに様々な濃度のミリオシンを飼料に混入して4週間投与した。対照群は正常飼料またはミリオシンを含有しない西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスおよび正常飼料を給餌したC57BI/6Jマウスより構成した。体重および飼料を毎週測定して飼料摂取量を検討した。大腿動脈カフモデルについては、8〜10週齢雄性Apo
KOマウスを麻酔して右大腿動脈をその周囲より切り離した。非構成的ポリエチレンカフ(ポルテックス、内径0.40mm、外径0.80mm、および長さ1.5mm)を右大動脈周囲に緩く巻いた。
【表1】

【0096】
(SPT発現および活性)
総RNAは、トリゾール(インビトロジェン社、カリフォルニア州)を用いて肝臓および大動脈より分離した。LCB1およびLCB2mRNAレベルは、ABIプリズム7900HTシークエンス検出システム(アプライドバイオシステム社、フォスターシティ、カリフォルニア州)上でリアルタイム(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により測定した。以下のプライマーおよびプローブセットを使用した:LCB1、順プライマー、5’−CCGCTCCTTCGTGGTTGA−3’:逆プライマー、5’−GAGGTAACGAAGCAGAAAAGCAG−3’:プローブ、5’FAM−TCAGCGGCTCTCCGGTCAAGGAT−3’;LCB2,順プライマー、5’−CTGGATGAGGCTCACAGCATT−3’、逆プライマー、5’−CCTCAGGATCCAGGCCAA−3’、プローブ、5’FAM−CCTTCAGGGCGAGGCGTGGTAGAT−3’。各遺伝子産物が均一に増幅されるように最適なサイクル数を設定した。各mRNAレベルは18sリボソームRNDに対する比率またはGAPDH
RNAに対する比率として表される。
【0097】
各群から採取した肝組織をホモジナイズし、14C−セリンおよびパルミトイルCoAを基質として用いかつ薄層クロマトグラフィー(TLC)によりSPT活性を測定した(K.
Gableら、J. Biol. Chem. 2000;275(11):7597-603)。
【0098】
(LC/MSおよびHPLCによるスフィンゴ脂質およびリン脂質の分析)
総脂質はBligh-Dyer抽出の変法により抽出した(E.G. BlighおよびW.J. Dyer, Can. J.
Med. Sci. 1959;37:911-917;およびD.K. Perry, A. BielawskaおよびY.A. Hannun, Methods Enzymol. 2000;312:22-31)。MassLynx(商標)バージョン3.5オペレーティングソフトで電子スプレー陽イオン化モードに設定した標準的Z−スプレー(商標)イオン源を接続したマイクロマス(ウォーターズ社、マサチューセッツ州ミルフォード)Quattr Ultima tandem四重極質量分析計を、全ての定量分析に用いた。典型的にはイオン源条件は以下の通りである:キャピラリー3.5kV、イオン源温度110℃、および脱溶媒温度325℃。増倍管は650Vに設定し、各被検体についての滞留時間は100ミリ秒とした。前駆体−生成物イオン転移は、各化合物を質量分析計に直接注入して確認した。定量には以下のイオン転移を用いた:スフィンゴミエリン(704→184m/z)、スフィンガニン(302→284m/z)、セラミド(566→264m/z)および内部標準としてプシコシン(462→282m/z)。機器については衝突セル圧2×10−3ミリバールアルゴンで以下のコーンおよびコリジョン電圧とした:スフィンゴミエリン(45V、25eV)、スフィンガニン(45V、15eV)、セラミド(45V、25eV)およびプシコシン(45V、25eV)。
【0099】
液体クロマトグラフィー系はSCL−lOAvpコントローラ(流速0.2mL/分)を接続した島津(メリーランド州コロンビア)LC−10ADvp
HPLCポンプ2台、およびLEAPテクノロジー(ノースカロライナ州Carrboro)CTC PALオートサンプラーより構成した。定量法については、分析用カラムはPhenomenex(カリフォルニア州トランス)Polar−RP(2.0×150mm、4μm)とし、MetaChem(カリフォルニア州トランス)MetaGuard PolarisC8
2.0mmダイレクトコネクト(5μm)ガードカラムを取り付けた。移動相Aは水/アセトニトリル/ギ酸(60/40/0.1)より構成し、かつ移動相Bはプロパノールとした。HPLCポンプは各インジェクションにつき移動相A98%(0〜1分)、移動相A30%(1〜2分)移動相A30%(2〜4分)および移動相A98%(4〜4.5分)を送達するようにグラジエントプログラムした。サンプル容量2μLをLC/MS/MS系に注入した。スフィンゴミエリン、スフィンガニン、プシコシン(内部標準)およびセラミドの最終的クロマトグラフィー保持時間はそれぞれ4.84分、5.43分、4.92分および5.31分であった。液状抽出物をHPLCおよび気化光散乱検出器で分析して血漿スフィンゴミエリンおよびホスファチジルコリン(PC)レベルを測定した(R.
HomanおよびM.K. Anderson, J. Chromatogr. B. Biomed. Sci. Appl. 1998;708:21-6)。
【0100】
(血漿脂質および血清アミロイドA測定)
マウスをCO吸入により屠殺し、心穿刺により血液を採取した。コレステロールR1およびトリグリセリド試薬法を用いて、Cobas Mira Plus自動分析装置上で総コレステロールおよびトリグリセリドの血漿濃度をそれぞれ酵素的に測定した(ロシュダイアグノスティクス社、米国インディアナ州)。呈色変化は500nmで測定した。リポタンパク質は、Superose6HRカラムを用いた高速タンパク質液体クロマトグラフィーによりマウス血漿より分離した。リポタンパク質中のコレステロール分布はインラインポストカラム分析により測定した(K.A.
Kieft, T.M. BocanおよびB.R. Krause, J. Lipid Res. 1991; 32:859-66)。血漿中の血清アミロイドA(SAA)タンパク質は、メーカー(バイオソース社)の指示に従いELISAによって測定した。
【0101】
(血管の生理学)
アテローム性動脈硬化症病変被覆の定量分析については、屠殺したマウスを生理食塩水で灌流し、細い分岐動脈を切断しかつ外膜を切除して心臓から腸骨分岐部までの大動脈を摘出した。大動脈を10%緩衝ホルマリン液で24時間固定した後長軸方向に開き、黒いワックスの上でピン留めした。オイルレッドOで脂質を染色し、写真を撮影した。オイルレッドOで染色された大動脈の百分率を、画像分析ソフトイメージプロプラスにより測定した。
【0102】
組織学分析用にマウスを灌流して亜鉛トリス固定液で固定した。切片をパラフィンに包埋してマッソントリクローム染色した。内膜のマクロファージは、ヴァーヘフ弾性組織染色で対比染色したMAC−2抗体(Cedarlane Laboratories Limited製クローンM3/38)を用いて免疫組織化学染色した。ラットCD3抗体(クローンCD3−12,セロティック)でTリンパ球を免疫組織化学染色した。イメージプロプラスソフトにより病変の厚みおよびマクロファージが占める面積を測定した。
【0103】
(統計)
結果は平均±SEMとして表示する。平均値間の差の統計的有意性は対応のあるt検定で分析した。いくつかの群の間の比較は、PRISM2.01を用いたダンネットの事後分析による一元配置分散分析により判定した。群間に有意差が見られた場合、分散を用いない多元比較を実施して群間の有意性を確認した。SEMが等しくない場合は、ノンパラメトリック検定(マン−ホイットニー)を用いて有意水準を算出した。P<0.05で結果を有意とみなした。
【0104】
以下の方法は指示された図面において用いられる:
【0105】
(図1)
スフィンゴミエリン生合成経路。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)は、スフィンゴ脂質生合成の最初の律速段階である。ミリオシンはSPT反応を特異的に阻害する。
【0106】
(図1−A、1−B、1−C、1−D、および1−E)
SPT遺伝子発現および酵素活性。マウスに、ミリオシン0.3mg/kg/日を西洋型食餌飼料に混入して投与した。肝臓を摘出し、総mRNAおよび細胞を含まないホモジネートを調製した。SPTのmRNA発現は定量的RT−PCRにより定量した。発現はLCB1(A)またはLCB2(B)mRNAと18sRNAまたは齧歯類GAPDH
RNAとの比率として記載した(n=5、P>0.05)。細胞を含まないホモジネート(C)のSPT活性は、14C標識セリンおよびパルミトイルコエンザイムAを基質として測定し、TLCにより分析した。3−ケトスフィンガニンの相対量は、デンシトメトリースキャンによって測定した。報告した数値は平均値±SEMである(n=3、P<0.05)。
【0107】
(図2)
西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの血漿リポタンパク質分布。ミリオシンを飼料に混入して4週間投与した後、マウスを屠殺してリポタンパク質組成用に血漿を採取した。βVLDL(A)、LDL(B)およびHDL(C)リポタンパク質は、Superose6HRカラムを用いた高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)によってマウス血漿より分離した。リポタンパク質中のコレステロール分布は、インラインポストカラム分析により測定した(Kieft,
K.A., T.M.A. BocanおよびB.R. Krause, J. Lipid Res. 1991; 32:859-866)。報告した数値は平均値±SEMである(n=8、P<0.01)。
【0108】
(図3)
西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの血漿コレステロールおよびトリグリセリド。ミリオシンを飼料に混入して4週間投与した後、マウスを屠殺して血漿を採取した。コレステロールR1およびトリグリセリド試薬法を用いて、Cobas Mira Plus自動分析装置上で総コレステロール(A)およびトリグリセリド(B)の血漿濃度をそれぞれ酵素的に測定した。呈色変化は500nmで測定した。報告した数値は平均値±SEMである(n=8、P<0.01)。
【0109】
(図4)
西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの血漿および肝スフィンゴミエリン。ミリオシンを飼料に混入して4週間投与した後、マウスを屠殺して血漿および肝臓を採取した。総脂質は、クロロホルム:メタノール:水(1:1:0.9)で抽出した後、相分離した。血漿(A)および肝(B)スフィンゴミエリンレベルはLC/MSにより測定した。報告した数値は平均値±SEMである(n=5、P<0.05)。
【0110】
(図5)
西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの大腿動脈カフにおける病変の発生。マウスに麻酔して右大腿動脈をその周囲より切り離した。非構成的ポリエチレンカフ(ポルテックス、内径0.40mm、外径0.80mm、および長さ1.5mm)を右大動脈周囲に緩く巻いた。カフ加圧ApoE KOマウスにミリオシンを様々の濃度で混入した西洋型食餌を4週間給餌した。マウスを屠殺し、大腿動脈を摘出してパラフィンに包埋した。大腿動脈の断面をマッソントリクロームまたはマックII抗体で染色した。イメージプロプラスソフトを用いることにより大腿動脈におけるアテローム性動脈硬化症病変(黒い棒)およびマクロファージのサイズ(灰色の棒)を定量した(図5A)。血清アミロイドAレベルは呈色ELISAにより測定した(図5B)。報告した数値は平均値±SEMであった(n=6〜8、P<0.05)。棒は100μmを表す。
【0111】
(図6)
西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの血漿リポタンパク質分布。ミリオシンを飼料に混入して12週間投与した後(0.3mg/kg/日)、マウスを屠殺してリポタンパク質組成用に血漿を採取した。βVLDL(A)、LDL(B)およびHDL(C)リポタンパク質は、Superose6HRカラムを用いた高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)によってマウス血漿より分離した。リポタンパク質中のコレステロール分布は、インラインポストカラム分析により測定した(Kieft,
K.A., T.M.A. Bocan およびB.R. Krause, J. Lipid Res. 1991; 32:859-866)。報告した数値は平均±SEMである(n=5、P<0.01、西洋型食餌対他の試験群;n=5、#P<0.05、西洋型食餌+ミリオシン対正常飼料)。
【0112】
(図7)
血漿中のコレステロールおよびトリグリセリド濃度。ミリオシンを12週間投与した後、マウスを屠殺して血漿を分離した。コレステロールR1およびトリグリセリド試薬法を用いて、Cobas Mira Plus自動分析装置上で総コレステロール(A)およびトリグリセリド(B)の血漿濃度をそれぞれ酵素的に測定した。呈色変化は500nmで測定した。報告した数値は平均値±SEMである(n=5、P<0.01)。
【0113】
(図8)
肝臓、血漿および大動脈中のスフィンゴミエリン濃度。ミリオシンを12週間投与した後、マウスを屠殺して血漿、肝臓および大動脈を採取した。総脂質は改変Blier−Dyer法により抽出した。肝(A)、血漿(B)および大動脈(C)のスフィンゴミエリンはLC/MSにより測定した。報告した数値は平均値±SEMである(n=5、P<0.05)。
【0114】
(図9)
肝臓および大動脈中のスフィンガニン濃度。ミリオシンを12週間投与した後、マウスを屠殺して血漿、肝臓および大動脈を採取した。総脂質は改変Blier−Dyer法により抽出した。LC/MSにより肝臓(A)および大動脈(B)のスフィンガニンレベルを測定した。報告した数値は平均値±SEMである(n=5、P<0.05)。
【0115】
(図10)
西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの大動脈における脂質沈着。ApoE KOマウスに対し、ミリオシンの非存在下または存在下で12週間西洋型食餌を給餌した。マウスを屠殺し、10%緩衝化ホルマリン液で24時間固定した。心臓から腸骨分岐部までの大動脈を摘出し、腹側面を縦に開いて黒色ワックス背景上にピンで固定した。蓄積した脂質をオイルレッドO染色により可視化した。アテローム性動脈硬化症病変面積はイメージプロプラスで定量し、総大動脈面積に対する病変面積の百分率として示した。報告した数値は平均±SEMである(n=4、WD対WD+ミリオシンまたは正常飼料、*P<0.01;正常対WD+ミリオシン、#P<0.01)。棒は1cmを表している。
【0116】
(図11および12)
大動脈根および腕頭動脈におけるアテローム性動脈硬化症の形成。ミリオシンの存在下または非存在下で西洋型食餌を給餌したApoE KOマウス、および正常飼料を給餌したApoE KOマウスおよびC57BI/6Jマウスを屠殺して亜鉛−トリスで固定した。腕頭動脈の断面をマッソントリクロームおよびヴァーヘフ弾性組織染色で対比染色したMAC−2抗体で染色した。イメージプロプラスソフトを用いることにより腕頭動脈および大動脈根におけるアテローム性動脈硬化症病変(黒い棒)およびマクロファージのサイズ(灰色の棒)を定量した。報告した数値は平均±SEMである(n=5、*p<0.01、WD対WD+ミリオシン;#P<0.01、正常対WD+ミリオシン)。棒は100μmを表す。
【0117】
(図13)
血漿中のSM/PC比およびセラミド濃度。HPLCを用いてSMおよびPCの血漿濃度を測定し、SM/PC比(図13A)を算出した。血漿セラミドレベルはLC/MS/MSにより分析した(図13B)。報告した数値は平均±SEMである(n=5、p<0.01、西洋型食餌対西洋型食餌+ミリオシン;#P<0.05、標準飼料対西洋型食餌+ミリオシン)。
【0118】
(図14)
大動脈根病変へのTリンパ球の取り込み。大動脈根の断面をラットCD3抗体で染色し、ジアミノベンジジン(褐色)で現像して取り込まれたTリンパ球を検出した。切片をハリスヘマトキシリン(青色)で対比染色した。Tリンパ球の取り込みは、大動脈根内膜のTリンパ球の個数を計測することにより定量した(図14)。報告した数値は平均±SEMである(n=5、*p<0.05、西洋型食餌対標準飼料;#P<0.05、西洋型食餌+ミリオシン対標準飼料)。棒は50μmを表す。
【0119】
以下の結果は参照された図面に示された方法で得られた:
【0120】
(SPT遺伝子発現および酵素活性)
RT−PCR分析により、ミリオシンは肝臓のLCB1およびLCB2 mRNA(図1A、B、DおよびE)の発現に影響しないことが証明された。C57BI/6Jマウスと比較すると、西洋型食餌および正常飼料を12週間給餌したApoE KOマウスのSPT活性はそれぞれ60%(n=3、P<0.05)および43%(n=3,P<0.05)高くなった(図1C)。ミリオシンは、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの肝臓におけるSPT活性を劇的に低下させた(非投与西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと比較するとき66%減少、かつC57BI/6J対照群と比較するとき48%減少(n=3,P<0.05))。ミリオシン投与は肝臓においてSPT発現には影響しないが、SPT酵素活性低下には極めて効果的であった。
【0121】
(脂質組成)
ミリオシン投与によりコレステロールおよびTGの血漿レベルは用量依存的に有意に低下した(図3)。血漿コレステロールレベルはスフィンゴ脂質生合成の阻害によって有意に影響された。ミリオシン0.1mg/kg/日では、血漿コレステロールは非ミリオシン対照と比較して46%減少し、ミリオシン0.3mg/kg/日用量では最大76%の減少に達した(図3A)。ミリオシンによるTGの低下作用の程度はコレステロールと比較して小さかった。0.1mg/kg/日では血漿TGレベルに対するミリオシンの影響はなかったが、0.3mg/kg/日では血漿TGレベルは44%低下した(図3B)。さらに、ミリオシンはVLDL−およびLDL−コレステロールを最大でそれぞれ83%および63%と劇的に低下させた(図2A、B)。対照的に、SM合成の阻害によってHDL−コレステロールは2.1倍上昇した(図2C)。従って、血漿脂質プロフィールはSPT阻害剤ミリオシンによって有意に影響された。
【0122】
ミリオシンのスフィンゴ脂質生合成に対する影響を検討するために、LC/MSにより血漿および肝臓のスフィンゴミエリン(SM)レベルを測定した。血漿中では、ミリオシン1mg/kg/日投与によりSMレベルが70%低下した(図4A)。対照的に、ミリオシン0.1mg/kg/日で肝臓中のSMレベルが最大46%減少した。肝臓においては、SMレベルは1mg/kg/日で非投与群と比較してほぼ同じであった(図4B)。従って、SPTを4週間阻害すると血漿および肝臓中の全般的な脂質レベルが用量依存的に低下した。
【0123】
ミリオシンがスフィンゴミエリン生合成の低下に効果的であるか否か検討するために、Apo
KOマウスに対して種々の濃度のミリオシンを4週間投与して血漿SMレベルを測定した。血漿脂質のHPLC分析により、ミリオシンは血漿SMレベルを用量依存的に劇的に低下させることが証明された(表2)。ミリオシン最大用量(1mg/kg/日)では、血漿スフィンゴミエリンレベルは非ミリオシン対照と比較するとき70%減少した。従って、飼料中のミリオシンはスフィンゴミエリン生合成の阻害および血漿スフィンゴミエリンレベルの低下に有効であった。リン脂質に対するSMレベルは冠動脈疾患の危険因子とみなされているため、HPLC分析により血漿PCレベルを測定した。血漿SMレベルには有意な変化があったものの、血漿PCレベルはミリオシンにより同程度には変化しなかった。その結果、SM/PCモル比はミリオシンにより用量依存的に低下した(表2)。従って、ミリオシンはPC生合成または分解に有意に影響することなく強いSM低下作用を発揮した。
【表2】

【0124】
(カフ加圧大腿動脈におけるアテローム形成)
ミリオシンの脂質低下のアテローム形成に対する影響を判定するために、非収縮性ポリエチレンカフを用いてApoE KOマウスの大腿動脈を加圧した。高脂質含有飼料(西洋型食餌)に加えて動脈をカフ加圧することによりアテローム性動脈硬化症の発症が促進される。西洋型食餌を4週間給餌した後、ApoE KOマウスのカフ加圧大腿動脈には、アテローム性動脈硬化症様病変ないし内腔がほとんど主としてマクロファージより構成される閉塞が発生した。(図5)。対照的に、ミリオシン投与(0.1mg/kg/日)によりアテローム性動脈硬化症病変およびマクロファージ蓄積がそれぞれ43%および47%減少した(図5A)。ミリオシン0.3mg/kg/日用量では、非ミリオシン対照と比較して病変の面積が98%以上減少した(図5A)。炎症反応の関与を反映する血漿SAAレベルも測定した。ミリオシン投与により血漿SAAが84%低下した(図5B)。従ってミリオシンは、脂質低下作用および炎症性タンパク質レベルの減少を介してApoE KOマウスのカフ加圧大動脈のアテローム形成を減少させた。
【0125】
(血漿コレステロールおよびトリグリセリド)
リポタンパク質代謝に対するミリオシンの作用を測定するために、分離血漿を用いてFPLC(高速液体クロマトグラフィー)によりリポタンパク質中のコレステロールプロフィールを測定した。ミリオシン療法により、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと比較するとき、βVLDL−およびLDL−コレステロールがそれぞれ51%および35%低下した(図6AおよびB)。対照的に、HDL−コレステロール含有量は54%増加した(図6C)。標準飼料を給餌したApoE KOマウスのリポタンパク質中のコレステロール分布は、ミリオシンを投与したApoE KOマウスのそれとほぼ同じであった。WT C57BI/6Jマウスは、ApoE KOマウスと比較して血漿中で非常に低い総コレステロールを示した。C57BI/6Jマウスにおけるコレステロール含量の大半はHDLに認められた(総血漿コレステロール中55.3mg/dL、58.4mg/dL)。さらに、ミリオシンは血漿apoB100レベルを低下させ、これは標準飼料群とほぼ同じであった。LDL中の血漿apoBレベル、特にapoB100レベルはアテローム発生と相関しているので(K.
Skalenら、Nature. 2002;417:750-4)、apoB低下作用はミリオシンによるアテローム発生阻害に寄与していると思われる。従って、スフィンゴ脂質生合成の阻害は血漿中のリポタンパク質中のコレステロールの分布に対して有意な影響を有する。
【0126】
リポタンパク質のSM含有量はin vitroで脂質代謝に関与する酵素活性に影響するため、スフィンゴ脂質生合成の阻害が血漿中の総コレステロールおよびトリグリセリド(TG)レベルに影響するか否かは疑問であった。血漿コレステロール(図7A)およびTG(図7B)は西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスで最高であり、対照C57BI/6Jマウスで最低であり、標準飼料を給餌したApoE KOマウスはその中間であった。ミリオシンは、両パラメータを標準飼料を給餌したApoE KOマウスのレベルにすることにより有意な脂質低下活性を示した。ミリオシンは血漿コレステロールおよびTGをそれぞれ41%および45%低下させた(図7)。従って、脂質代謝に関与する酵素活性に影響することによりミリオシンは全般的な脂質レベルを低下させたと思われる。
【0127】
(スフィンゴ脂質生合成)
SMレベルは合成および分解によって決定されるものの、本実験系ではSMの変動は全般的にSPT活性およびスフィンガニン産生と関連するため、SPT依存性合成経路の役割が強調される。具体的には、C57BI/6Jマウスの肝臓のSMレベルは西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスよりも有意に低かった(ミリオシン投与および標準飼料給餌も同様)。ミリオシン投与により、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと比較して肝臓におけるSM蓄積が有意に低下した(図8A)。
【0128】
さらに、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスは血漿SMレベルがC57BI/6Jの33倍高く、かつ標準飼料を給餌したApoE KOマウスの2倍を超す最高値を示した(図8B)。ミリオシン投与は、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの血漿SMを64%低下させ、標準飼料を給餌したマウスのレベルになった。
【0129】
種々の治療法の大動脈間でわずかな違いが認められた。しかし、西洋型食餌を給餌したApo
KOと対照C57BI/6Jマウスの間には統計的に有意な差があった。ミリオシン投与によりSMレベルが20%減少した(図8C)。従って、ミリオシンによるSPT阻害は肝臓、血漿および大動脈におけるSMの産生および蓄積に劇的に影響した。
【0130】
SMのいくつかの特徴は、アテローム性動脈硬化症におけるその運命および潜在的役割を決定する可能性がある。分泌SMアーゼは、SMの加水分解によりリポタンパク質の凝集および泡沫細胞の形成を促進するセラミドの生成を引き起こすことが知られている(S.L.
Schisselら、J. Biol. Chem. 1998;273:2738-46)。リポタンパク質の高いSM/PC比は、そのSMアーゼに対する感受性を決定する。血漿SM/PC比はHPLCを用いて測定した。西洋型食餌給餌群と比較して、血漿SMおよびPCレベルはミリオシン投与群において相当低下したものの、ミリオシンは血漿SM/PC比率に影響しなかった(図13A)。一方、ミリオシン投与によりセラミドレベルは60%減少し、これは標準飼料群とほぼ同じであった(図13B)。最も低いセラミドレベルはC57BI/6J対照群に認められた。従って、ミリオシンの誘導によるSM蓄積の減少にはセラミドレベルの相当な減少が伴い、かつSM/PC比におけるいかなる変化とも関連しなかった。
【0131】
(SM合成、蓄積および特徴)
SPT活性の阻害がSM産生の阻害に翻訳されるか否か判定するために、SM合成中間体(図1)でありかつSmアーゼを介したSM分解に影響されることのない密接に関係するSPT活性の下流マーカーであるスフィンガニンの量を測定した。肝臓においては、西洋型食餌および正常飼料を給餌したApo
KOマウスでは、対照C57BI/6Jマウスと比較してスフィンガニンレベルが有意に上昇し、このアテローム性動脈硬化症モデルにおけるSM合成速度の亢進を示した。ミリオシン投与により、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと比較して肝臓におけるスフィンガニンレベルが42%低下した(図9A)。
【0132】
大動脈においては、ミリオシン投与ApoE KOマウス、正常飼料を給餌したApoE KOマウスおよび対照C57BI/6Jマウスにおけるスフィンガニンレベルは、西洋型食餌を給餌した群と比較してそれぞれ45%、54%および63%低下した(図9B)。血漿スフィンガニンは検出レベルを下回った。従って、ミリオシン投与により肝臓においても大動脈においてもSM合成経路が阻害された。
【0133】
(アテローム性動脈硬化症)
大動脈正面のオイルレッドO染色により、西洋型食餌を給餌されたApoE KOマウスにおいて、ミリオシン投与によりアテローム性動脈硬化症病変の被覆が93%減少したことが判明した。正常飼料を給餌したApoE KOマウスと比較するとき、ミリオシンを投与したApoE KOマウスのアテローム硬化症病変は75%減少した(図10)。
【0134】
さらに、腕頭動脈および大動脈弁領域におけるアテローム性動脈硬化症病変の成長も有意に阻害された(図11および12)。大動脈根においては、ミリオシン投与により病変の面積は44%減少し、マクロファージ面積は31%減少した。対照的に、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと正常飼料を給餌したものとの間には変化が認められなかった(図11)。
【0135】
腕頭動脈においては、ミリオシン投与により病変面積は76%減少し、マクロファージ面積は74%減少した(図12)。留意すべき点としては、ミリオシンを投与した西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの病変には壊死核が発生しなかった。T細胞の蓄積はミリオシン投与による影響を受けなかった(図14)。従ってSPT阻害は相当な脂質低下および抗アテローム発生作用を有した。
【0136】
本出願に引用された、発行された特許、特許出願および雑誌記事を含むがこれに限定されない全ての刊行物は、それぞれその全文を本願に引用して援用する。
【0137】
本発明は上に開示された実施形態を参照して記載されているものの、当業者は詳述された具体的な実験は本発明の例示に過ぎないことを容易に認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0138】
本発明を、その短い説明が以下に示されている添付の図1〜14に関係する以下の非限定的実施例によってさらに記述する。
【0139】
本発明においては、阻害のバイオーマーカーとして血漿および組織スフィンゴミエリン、セラミドまたはスフィンガニンを測定することによりさらにSPT阻害を評価している。本試験は、アテローム性動脈硬化症感受性モデルであるApoEノックアウト(KO)マウスにおける、特異的かつ市販されたSPT阻害剤であるミリオシンの脂質低下およびアテローム硬化症予防に対する作用に関係する。
【0140】
【図1】(図1)スフィンゴミエリン生合成経路。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)は、スフィンゴ脂質生合成の最初の律速段階である。ミリオシンはSPT反応を特異的に阻害する。(図1−A,1−B,1−C,1−D,1−E)SPT遺伝子発現および酵素活性。
【図2】西洋型食餌を4週間給餌したApoE KOマウスの血漿リポタンパク質分布に対するミリオシンの効果。HDL−高密度リポタンパク質(図2−C)、LDL−低密度リポタンパク質(図2−B)、VLDL−超低密度リポタンパク質(図2−A)。 SPT阻害剤ミリオシンを、西洋型食餌を4週間給餌したApo KOマウスに0(対照)、0.1、0.3および1.0mg/kg/日の用量で飼料に混入して投与した。ミリオシンによりHDL−Cが用量依存的に上昇し、かつapoBを含有するリポタンパク質LDLおよびVLDLが低下した(図2)。
【図3】ミリオシンの存在下で西洋型食餌を4週間給餌したApoE KOマウスの血漿中の総コレステロールおよびトリグリセリド濃度。 対照ApoE KOマウスには西洋型食餌のみを給餌した。ミリオシンにより総血漿コレステロール(図3A)およびトリグリセリド(図3B)も減少した。
【図4】西洋型食餌を4週間給餌したApoE KOマウスの血漿および肝スフィンゴミエリンに対するミリオシンの効果。 LC/MSによりスフィンゴミエリンを分析した。さらに、血漿および肝スフィンゴミエリン濃度(潜在的機序に基づくバイオマーカー)は用量依存的に減少した(図4)。
【図5】西洋型食餌を4週間給餌したApoE KOマウスのカフ加圧大腿動脈における病変発生に対するミリオシンの効果。 脂質プロフィールの変化には、大腿動脈カフモデルにおけるアテローム性動脈硬化症病変の有意な減少が伴った(Arteriosclerosis and Thrombosis,Vol.13,1874-1884,1993)(図5A)。血漿血清アミロイドAレベルも測定した(図5B)。大腿動脈におけるアテローム性動脈硬化症病変(黒い棒)およびマクロファージのサイズ(灰色の棒)を定量した。
【図6】西洋型食餌を12週間給餌したApoE KOマウスの血漿リポタンパク質分布に対するミリオシンの効果。 単用量試験において、西洋型食餌を12週間給餌したApoE KOマウスに対し、SPT阻害剤ミリオシン(0.3mg/kg)を飼料に混入して投与した。分離血漿を用いてFPLCによりリポタンパク質中のコレステロールプロフィールを測定した。ミリオシン療法により、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと比較して、それぞれVLDL−およびLDL−コレステロールが低下し、かつHDLは増加した(図6A、BおよびC)。ミリオシンを投与したApoE KOマウスのリポタンパク質中のコレステロールレベルは、正常飼料を給餌したApoE KOマウスとほぼ同じであった。C57BI/6J対照マウスは、非常に低い血漿中総コレステロールを示した。
【図7】西洋型食餌を12週間給餌したApoE KOマウスの総コレステロールおよびトリグリセリド濃度に対するミリオシン(0.3mg/kg、飼料に混入)の効果。 西洋型飼料とミリオシンを給餌したApo KOマウスの血漿における総コレステロールレベルは、西洋型食餌給餌群と比較して低下した(図7A)。さらに、ミリオシン投与により血漿トリグリセリドレベルが低下した(図7B)。ミリオシンを投与したApoE KOマウスの血漿中の総コレステロールおよびトリグリセリドレベルは、正常飼料を給餌したApoE KOマウスとほぼ同じであった。一方、野生型C57BI/6Jマウスは低血漿総コレステロールレベルおよび低トリグリセリドレベルを示した。
【図8】西洋型食餌を12週間給餌したApoE KOマウスの肝臓、血漿および大動脈のスフィンゴミエリン(SM)濃度に対するミリオシン(0.3mg/kg、飼料に混入)の効果。 ミリオシン投与により肝臓におけるSM蓄積が低下した(図8A)。西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスは血漿SMレベルが最高を示した。ミリオシン投与により西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの血漿SMが低下した(図8B)。大動脈では治療法によりわずかな違いが認められた。しかし、西洋型食餌を給餌したApo KOとC57BI/6J対照マウスの間には統計的に有意な差が見られ、ミリオシンにより大動脈中のSMレベルが減少した(図8C)。
【図9】西洋型食餌を12週間給餌したApoE KOマウスの肝および大動脈スフィンガニン濃度に対するミリオシン(0.3mg/kg、飼料に混入)の効果。 西洋型食餌を給餌したおよび正常飼料を給餌したApo KOマウスにおいては、対照C57BI/6Jマウスと比較してスフィンガニンレベルが有意に上昇した。ミリオシン投与により西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスと比較して肝臓におけるスフィンガニンレベルが低下した(図9A)。大動脈においては、ミリオシン投与ApoE KOマウス、正常飼料を給餌したApoE KOマウスおよびC57BI/6J対照マウスにおけるスフィンガニンレベルは、西洋型飼料を給餌したApoE KOマウスよりも低かった(図9B)。
【図10】西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスの大動脈における脂質沈着に対するミリオシンの効果。 正面大動脈のオイルレッドO染色により、西洋型食餌を給餌したApoE KOマウスにおいて、ミリオシン投与によってアテローム性動脈硬化症病変の被覆が減少したことが判明した(図10)。
【図11】大動脈根における総病変およびマクロファージ領域の形成に対するミリオシン(0.3mg/kg、飼料に混入)の効果。
【図12】腕頭動脈における総病変およびマクロファージ領域の形成に対するミリオシン(0.3mg/kg、飼料に混入)の効果。 ApoE KOマウスに対し、ミリオシンの非存在下または存在下で西洋型食餌を給餌した。ApoE KOマウスおよびC57BI/6J対照マウスに正常飼料を給餌し、屠殺した。大動脈根および腕頭動脈の断面におけるアテローム性動脈硬化症病変(黒い棒)およびマクロファージサイズ(灰色の棒)を、イメージプロプラスを用いて定量した(図11〜12)。
【図13】血漿中のSM/PC比およびセラミド濃度。 ミリオシン投与によりセラミドレベルが減少したが、SM/PC比におけるいかなる変化とも関連しなかった。
【図14】大動脈根病変へのTリンパ球の取込み。 T細胞の蓄積はミリオシン投与による影響を受けなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要のある哺乳類における高密度リポタンパク質(HDL)粒子の上昇を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項2】
必要のある哺乳類における超低密度リポタンパク質(VLDL)粒子および低密度リポタンパク質(LDL)粒子の低下を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項3】
必要のある哺乳類における血漿トリグリセリド粒子の低下を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項4】
必要のある哺乳類における血清総コレステロールレベルの低下を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項5】
必要のある哺乳類における血漿脂質プロフィールの改善を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項6】
必要のある哺乳類におけるプラークサイズの減少を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項7】
必要のある哺乳類におけるアテローム性動脈硬化症病変サイズの減少を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項8】
必要のある哺乳類における脂質代謝異常、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、メタボリック症候群または炎症から選択される疾患または状態の治療を目的とした薬物を調製するためのセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤の使用。
【請求項9】
SPT阻害剤がミリオシンである先行の請求項1〜8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項10】
医薬組成物であって、
a)セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤である化合物、および
b)アテローム性動脈硬化症または脂質代謝異常の治療に有用な第2の化合物を含む医薬組成物。
【請求項11】
キットであって、
a)第1の単一剤形におけるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)阻害剤および薬学的に許容できる担体、賦形剤または希釈剤、
b)第2の単一剤形におけるアテローム性動脈硬化症または脂質代謝異常の治療に有用な第2の化合物および薬学的に許容できる担体、賦形剤または希釈剤、および
c)第1および第2の単一剤形を収容する手段を含むキット。
【請求項12】
請求項10に記載の組成物または請求項11に記載のキットであって、前記第2の化合物がHMG−CoAレダクターゼ阻害剤、HMG−CoAシンターゼ阻害剤、HMG−CoAレダクターゼ遺伝子発現阻害剤、HMG−CoAシンターゼ遺伝子発現阻害剤、CETP阻害剤、胆汁酸捕捉剤、コレステロール吸収阻害剤、コレステロール生合成阻害剤、スクアレンシンセターゼ阻害剤、フィブレート、ナイアシン、ナイアシンとロバスタチンの組み合わせ及び抗酸化薬、ならびに第2の単一剤形における薬学的に許容できる担体、賦形剤または希釈剤であり、第1および第2の化合物の量が治療効果をもたらす組成物またはキット。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物またはキットであって、前記第2の化合物がロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトロバスタチン、リバスタチン、ロスバスタチンまたはピタバスタチンから選択されるHMG−CoAレダクターゼ阻害剤である組成物またはキット。
【請求項14】
請求項12に記載の組成物またはキットであって、前記第2の化合物がトルセトラピブであるCETP阻害剤である組成物またはキット。
【請求項15】
請求項10に記載の組成物または請求項11に記載のキットであって、前記SPT阻害剤がミリオシンである組成物またはキット。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2007−530528(P2007−530528A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504503(P2007−504503)
【出願日】平成17年3月21日(2005.3.21)
【国際出願番号】PCT/IB2005/000733
【国際公開番号】WO2005/092325
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(503181266)ワーナー−ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー カンパニー (167)
【Fターム(参考)】