説明

アルミナ焼結体、その製法及び半導体製造装置部材

【課題】一般的なアルミナ粉末で作製された成形体を低温で焼結する。
【解決手段】本発明のアルミナ焼結体の製法は、(a)少なくともAl23とMgF2との混合粉末又はAl23とMgF2とMgOとの混合粉末を所定形状の成形体に成形する工程と、(b)該成形体を真空雰囲気下又は非酸化性雰囲気下でホットプレス焼成してアルミナ焼結体とする工程であって、Al23100重量部に対するMgF2の使用量をX(重量部)、ホットプレス焼成温度をY(℃)としたときに下記式(1)〜(4)を満たすようにホットプレス焼成温度を設定する工程と、を含む。
1120≦Y≦1300 …(1),0.15≦X≦1.89 …(2)
Y≦−78.7X+1349 …(3),Y≧−200X+1212 …(4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体、その製法及び半導体製造装置部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体ウエハの搬送、露光、成膜プロセス(化学的気相成長法、物理的気相成長法、スパッタリング等)、微細加工、洗浄、プラズマエッチング、ダイシング等の工程において、半導体ウエハをクーロン力やジョンソン・ラーベック力を利用して吸着・保持するためのウエハ載置台が用いられている。ウエハ載置台としては、静電チャックや高周波印加用のサセプタなどが挙げられる。こうしたウエハ載置台には、平板電極を埋設した緻密な焼結体が用いられている。例えば、特許文献1では、次の手順でウエハ載置台を製造している。すなわち、予め焼結した第1アルミナ焼結体の片面を研磨する。次に、その研磨した面に電極ペーストを印刷する。続いて、第1アルミナ焼結体のうち電極ペーストを印刷した面上にアルミナ粉末を成形してアルミナ成形体としたあとホットプレス焼結を1400〜1650℃で行うことにより、アルミナ成形体を焼成して第2アルミナ焼結体とすると共に電極ペーストを焼成して平板電極とする。その後、第1アルミナ焼結体のうち第2アルミナ焼結体とは反対側の面を研磨してウエハ載置面とする。この結果、直径約200mmのウエハ載置台において、ウエハ載置面から平板電極までの厚みのバラツキを表す厚み変動度が0.50mm以下に収まるものを得ることができる。こうして得られたウエハ載置台は、最終的には、第1アルミナ焼結体が誘電体層、第2アルミナ焼結体が支持体層となり、誘電体層と支持体層の間に平板電極が埋設されたものとなる。
【0003】
ここで、予め焼結した第1アルミナ焼結体の電極ペーストを印刷した面にアルミナ粉末を成形してアルミナ成形体としたあと1400〜1650℃でホットプレス焼結を行う場合、アルミナ成形体の焼結温度が高いため第1アルミナ焼結体にわずかな変形が発生することがあった。こうした変形を抑制する対策として、アルミナ成形体の焼結温度を低くすることが考えられる。例えば、特許文献2には、900〜1200℃でアルミナ成形体を焼結する技術が開示されている。具体的には、平均粒径が5〜50nmのアルミナ粉末90重量%とマグネシア10重量%との混合粉末で成形体を作製し、これを分圧にして0.7気圧の水蒸気を含む雰囲気中にて900〜1200℃で焼成することによりアルミナ焼結体を得ている。アルミナ成形体の焼結温度を低くする技術は、特許文献1のように第1アルミナ焼結体の上にアルミナ成形体を積層したあとその成形体を焼結する場合に有用であるほか、それ以外の場合であっても、焼結温度が低いため焼結時のエネルギー消費量が少なく、アルミナ焼結体の製造コストを低減することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−343733号公報
【特許文献2】特許第2666744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のアルミナ成形体の焼結温度を低くする技術では、平均粒径が5〜50nmのアルミナ粉末を使用することが必須であるが、このようなナノレベルのアルミナ粉末は非常に取り扱いが難しいという問題があった。更に、経済性の面からも、原料粉末を大量に必要とするような焼結材料においては、ナノレベル粉末を主原料として工業的に利用することは進んでいない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、ナノレベルのアルミナ粉末を使用しなくてもアルミナ粉末の低温焼結を可能にすることを目的の一つとする。また、緻密で耐食性の高いアルミナ焼結体を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、一般的なAl23にMgF2を添加した混合粉末を所定形状の成形体に成形し、その成形体を真空雰囲気下又は非酸化性雰囲気下でホットプレス焼成したところ、1120〜1300℃という低温であっても緻密なアルミナ焼結体が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のアルミナ焼結体の製法は、
(a)少なくともAl23とMgF2との混合粉末又はAl23とMgF2とMgOとの混合粉末を所定形状の成形体に成形する工程と、
(b)該成形体を真空雰囲気下又は非酸化性雰囲気下でホットプレス焼成してアルミナ焼結体とする工程であって、Al23100重量部に対するMgF2の使用量をX(重量部)、ホットプレス焼成温度をY(℃)としたときに下記式(1)〜(4)を満たすようにホットプレス焼成温度を設定する工程と、
を含むアルミナ焼結体の製法。
1120≦Y≦1300 …(1)
0.15≦X≦1.89 …(2)
Y≦−78.7X+1349 …(3)
Y≧−200X+1212 …(4)
【0009】
本発明のアルミナ焼結体は、マグネシウムとフッ素を含有し、構成する結晶相が実質的にAl23のみからなるか、アルミナ以外の構成相としてMgF2又はMgF2とMgAl24を含み、開気孔率が0.1%未満、嵩密度が3.95g/cm3以上、室温において2kV/mm印加1分後の電流値から算出した体積抵抗率が1×1014Ωcm以上のものである。こうしたアルミナ焼結体は、上述したアルミナ焼結体の製法によって製造されたものであってもよい。
【0010】
本発明の半導体製造装置部材は、上述したアルミナ焼結体を用いて作製されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミナ焼結体の製法によれば、ナノレベルのアルミナ粉末を使用しなくてもアルミナ粉末を低温で焼結することができる。また、1300℃以下で緻密なアルミナ焼結体が得られるため、高温で焼結する場合に比べて焼結時のエネルギー消費量が少なく、アルミナ焼結体の製造コストを低減することができる。更に、特許文献1のように予めアルミナ粉末を焼結した第1アルミナ焼結体の上にアルミナ成形体を積層しそのアルミナ成形体を焼結して第2アルミナ焼結体とする場合に本発明の製法を適用すれば、第1アルミナ焼結体が変形するのを防止することができる。
【0012】
本発明のアルミナ焼結体は、緻密で耐食性が高いため、半導体製造装置部材(例えば静電チャックや高周波印加用のサセプタなどのウエハ載置台)として有用である。本発明のアルミナ焼結体は、フッ素系プラズマ中で非常に高い耐食性を示すMgF2を添加しているため、フッ素系プラズマ中で使用するのに適している。また、本発明のアルミナ焼結体は、上述したアルミナ焼結体の製法によって製造されている場合には、焼結時の製造コストが低減される分、低価格で提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Al23100重量部に対するMgF2の使用量X(重量部)と、ホットプレス焼成温度Y(℃)と、得られたアルミナ焼結体の良否との関係を示すグラフである。
【図2】実施例7のSEM写真である。
【図3】実施例12のSEM写真である。
【図4】実施例14と実施例17のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミナ焼結体の製法において、工程(a)では、少なくともAl23とMgF2との混合粉末又はAl23とMgF2とMgOとの混合粉末を所定形状の成形体に成形する。ここで、MgF2の使用量は、Al23100重量部に対して0.15〜1.89重量部とすることが好ましい。MgF2 の使用量がこの範囲であれば、ホットプレス焼成温度を上記式(1)〜(4)を満たすように設定することにより、緻密なアルミナ焼結体を低温で得ることができる。また、MgOの使用量は、特に限定するものではないが、例えばAl23100重量部に対して好ましくは0.02〜0.5重量部、より好ましくは0.04〜0.2重量部である。
【0015】
工程(a)で使用するAl23は、特に限定するものではないが、平均粒径が0.1〜1μmのα―Al23であることが好ましい。こうした粒径サイズであれば、市販されているため容易に入手することができるし、ナノ粒子ほど微粉末ではないため取り扱いやすい。また、使用するAl23は、高純度のものが好ましく、例えば純度99%以上のもの、特に純度99.9%以上のものが好ましい。使用するMgF2やMgOは、特に限定するものではないが、平均粒径が0.1〜1μm、純度が99%以上のものが好ましい。
【0016】
工程(a)で混合粉末を所定形状の成形体に成形するにあたっては、例えば、混合粉末を有機溶媒中で湿式混合することによりスラリーとし、該スラリーを乾燥して調合粉末とし、この調合粉末を成形してもよい。なお、湿式混合を行う際は、ポットミル、トロンメル、アトリッションミルなどの混合粉砕機を使用してもよい。また、湿式混合の代わりに乾式混合してもよい。調合粉末を成形する際には、板状の成形体を製造する場合には、金型プレス法を使用してもよい。成形圧力は、保型が可能であれば、特に限定されない。粉末の状態でホットプレスダイス中に充填することも可能である。
【0017】
本発明のアルミナ焼結体の製法において、工程(b)では、Al23100重量部に対するMgF2の使用量をX(重量部)、ホットプレス焼成温度をY(℃)としたときに上記式(1)〜(4)を満たすようにホットプレス焼成温度を設定する。ホットプレス焼成時のプレス圧力は、低すぎると緻密化しないおそれがあり、高すぎても特に弊害は無いが、設備上の制限等を考慮して、少なくとも焼成時の最高温度においてプレス圧力を30〜300kgf/cm2とすることが好ましく、50〜200kgf/cm2とすることがより好ましい。また、ホットプレス焼成温度が低すぎると緻密化しないおそれがあり、高すぎると焼結後のアルミナ粒子が大きくなりすぎたり、気孔が増大したりすることで低強度化するおそれがあるが、本発明者らが鋭意実験を重ねた結果、緻密なアルミナ焼結体を得るのに好適なホットプレス焼成温度Y(℃)はAl23100重量部に対するMgF2の使用量X(重量部)に依存していることがわかった。すなわち、ホットプレス焼成温度Y(℃)は、上記式(1)〜(4)を満たすように設定する必要があることがわかった。このようにして設定したホットプレス焼成温度で焼成した場合には、緻密なアルミナ焼結体、具体的には閉気孔率が0.1%未満、嵩密度が3.95g/cm3以上、室温において2kV/mm印加1分後の電流値から算出した体積抵抗率が1×1014Ωcm以上のものを得ることができる。成形体にMgOが含まれている場合には、MgOが含まれていない場合に比べて焼結体の平均粒径が小さくなりやすく、その分、強度が高くなりやすい。ホットプレス焼成は、真空雰囲気下、又は非酸化性雰囲気下で行う。非酸化性雰囲気では、窒素やアルゴンガスが使用できる。本発明のアルミナ焼結体の製法においてホットプレス焼成が必須となる理由は、焼結過程でMgF2の一部から、及び/又は、MgF2とアルミナとの反応によってF成分を含む液相が形成されて本材料の緻密化が促進されると考えられるが、この過程でホットプレスの型内に本材料が気密性高く収納されていることによって、緻密化に必要なF成分の材料外への揮発が抑制されるからと考えられる。焼成にホットプレスを用いない真空雰囲気や、通常の大気雰囲気下での焼成においては、MgF2のF成分の多くが飛散してしまう、又は、酸化してしまうため、好ましくない。焼成温度で保持する時間は、組成や焼成温度などを考慮して適宜設定すればよいが、例えば0.5〜10時間の範囲で設定すればよい。
【0018】
本発明のアルミナ焼結体の製法において、工程(a)では、前記混合粉末を前記成形体に成形するとき又は成形したあと、Ni及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とWCとAl23とを含む第1電極原料又はNi及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とAl23とを含む第2電極原料を所定形状に整えて前記成形体に埋設又は積層してもよい。例えば、別途作製したアルミナ焼結体の上に第1電極原料又は第2電極原料を所定形状に整えて成形体を積層してもよいし、成形体を2つ用意して一方の成形体の上に第1電極原料又は第2電極原料を所定形状に整えたあと他方の成形体を積層してもよい。こうした第1電極原料又は第2電極原料を用いれば、工程(b)の1120〜1300℃という低い焼成温度でも電気抵抗率の低い電極をアルミナ焼結体に埋設又は積層することができる。ここで、電極としては、例えばアルミナ焼結体を加熱する際に使用するヒータ電極やアルミナ焼結体の一方の面に静電気的な力でウエハなどを吸着する際に使用する静電チャック電極などが挙げられる。特に、この製法で作製される電極は、低温焼成でも電気抵抗率を低くすることが可能なため、ヒータ電極として有用である。ヒータ電極を埋設したアルミナ焼結体を半導体製造装置用部材として用いる場合、その半導体製造装置用部材においては、アルミナ基材の表面を均熱化することができ、ウエハー温度の均一化につながる。
【0019】
また、第1電極原料は、WCを主成分としてもよいし、遷移金属を主成分としてもよい。WCを主成分とする場合、WCと遷移金属との重量和を100重量部としたときに遷移金属を1.5重量部以上(好ましくは5重量部以上)用いることが好ましい。こうすれば、低い焼成温度においても電極を緻密化することができ、その電気抵抗率を十分低くすることができるからである。このとき、Al23 は2重量部以上30重量部以下とすることが好ましい。こうすれば、アルミナ焼結体とAl23を含む電極との界面強度が高まるからである。但し、Al23を過剰に添加すると、電極の電気抵抗率が高くなることから、前記の添加量範囲が好ましい。
【0020】
一方、第2電極原料は、主成分をNi又はCoとするものである。Ni又はCoは、第1電極原料に比較してより低い電気抵抗率を有するため、Al23 を混合して電極を形成した場合においても低い電気抵抗率を得ることができる。Al23 の添加量は、Ni又はCo100重量部に対して5重量部以上50重量部以下とすることが好ましい。5重量部未満では、焼成後にアルミナ焼結体と電極との界面結合力が低く、界面にて部分的に剥離が生じるおそれがあるため好ましくなく、50重量部を超えると、電極の電気抵抗率が十分低くならないため好ましくない。なお、第1又は第2電極原料を所定形状に整えて成形体に埋設する場合、第1又は第2電極原料の全体を成形体に埋設してもよいし、第1又は第2電極原料の一部を成形体に埋設してもよい。
【0021】
本発明のアルミナ焼結体は、マグネシウムとフッ素を含み、構成する結晶相がAl23のみであるか、アルミナ以外の構成相としてMgF2又はMgF2とMgAl24を含み、開気孔率が0.1%未満、嵩密度が3.95g/cm3以上、室温において2kV/mm印加1分後の電流値から算出した体積抵抗率が1×1014Ωcm以上のものである。こうしたアルミナ焼結体は、上述したアルミナ焼結体の製法によって製造されたものであってもよい。ここで、マグネシウムとフッ素を含み、構成する結晶相がAl23のみであるとは、X線回折プロファイルで、実質的にAl23に一致するピークのみが存在し、含有するマグネシウムやフッ素に由来する結晶質のピークが同定できないことをいう。なお、マグネシウムとフッ素を含むものの結晶相がAl23のみでありMgF2が現れない具体例としては、MgF2の含有量が微量で、MgF2の融点を越える1300℃近くで焼成した場合などのように、添加したMgF2の一部が散逸したり、Al23に固溶したり、非晶質化したりして、結晶としてほとんど残っていない場合などが挙げられる。また、アルミナ以外の構成相として含まれるMgF2又はMgF2とMgAl24は、フッ素系プラズマ耐食性が高く、特に半導体製造装置用部材の構成成分として好適である。したがって、耐食性の観点からこれら以外の構成相を含まないことが好ましいが、本発明材料のアルミナ焼結体が有する耐食性や、低温焼結性などの諸特性を悪化させない程度の異相を含んだり、X線回折プロファイルで確認されない程度の微量の不純物が混入していても構わない。本発明のアルミナ焼結体において、開気孔率を0.1%未満、嵩密度を3.95g/cm3以上、室温において2kV/mm印加1分後の電流値から算出した体積抵抗率を1×1014Ωcm以上としたのは、これらの条件を満たさない場合には半導体製造装置の部品として用いたときに電流がリークする原因となるため好ましくない。なお、開気孔率及び嵩密度はいずれも純水を媒体としてアルキメデス法により測定するものとする。
【0022】
本発明のアルミナ焼結体は、相対密度が99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましい。こうすれば、半導体製造装置の部品として用いたときに電流がリークするのをより確実に防止することができる。なお、相対密度は、以下の手順で求めることとする。すなわち、製造時に混合した各原料(Al23やMgF2、MgO)がすべてアルミナ焼結体内にそのままの状態で残存していると仮定して、各原料の理論密度と各原料の使用量(重量部)とから焼結体の理論密度を求める。その後、アルキメデス法で求めた嵩密度を焼結体の理論密度で除し、それに100を乗じた値を焼結体の相対密度(%)とする。したがって、各原料の使用量が同じであれば、嵩密度が大きいほど相対密度は大きくなる。
【0023】
本発明のアルミナ焼結体は、強度が200MPa以上であることが好ましく、300MPa以上であることがより好ましい。強度が200MPa以上あれば、半導体製造用部材として用いるのに適している。本発明のアルミナ焼結体を上述した本発明のアルミナ焼結体の製法により製造する場合、強度を高くするには、ホットプレス焼成温度を1120〜1200℃に設定するか、あるいは、混合粉末にMgOを添加するのが好ましい。ホットプレス焼成温度が1120〜1200℃に設定した場合には、1200℃を超える場合に比べて、焼結体の粒子が大きくなり過ぎず、十分な強度が得られる。また、混合粉末にMgOを添加した場合には、MgOを添加しない場合に比べて、焼結体の粒子の成長が抑制されるため、十分な強度が得られる。
【0024】
本発明のアルミナ焼結体は、Mgを0.03〜0.8wt%、Fを0.01〜1.2wt%含有することが好ましい。Mg及びFの含有量がこの範囲であれば、従来の高密度アルミナを得ることが可能な焼結温度よりも低い1300℃以下で緻密なアルミナ焼結体を得ることが可能となる。
【0025】
本発明のアルミナ焼結体は、Ni及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とWCとAl23とを含む第1電極又はNi及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とAl23とを含む第2電極が埋設又は積層されていてもよい。なお、第1電極又は第2電極は、全体がアルミナ焼結体に埋設されていてもよいし、一部がアルミナ焼結体に埋設されていてもよい。こうした第1電極又は第2電極は、本発明のアルミナ焼結体の製法において、工程(a)で、混合粉末を成形体に成形するとき又は成形したあと、Ni及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とWCとAl23とを含む第1電極原料又はNi及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とAl23とを含む第2電極原料を所定形状に整えて成形体に埋設又は積層し、その後の工程(b)で、その成形体を1300℃以下でホットプレス焼成することにより、成形体をアルミナ焼結体にするのと同時に第1電極原料又は第2電極原料を第1電極又は第2電極とすることができる。なお、工程(a)で第1電極原料又は第2電極原料を所定形状に整えて成形体に埋設又は積層するにあたり、例えば、別途作製したアルミナ焼結体の上に第1電極原料又は第2電極原料を所定形状に整えて成形体を積層してもよいし、成形体を2つ用意して一方の成形体の上に第1電極原料又は第2電極原料を所定形状に整えたあと他方の成形体を積層してもよい。
【0026】
本発明のアルミナ焼結体は、上述した本発明のアルミナ焼結体の製法によって製造されていることが好ましい。こうすれば、本発明のアルミナ焼結体を比較的簡単に得ることができる。
【0027】
本発明の半導体製造装置部材は、上述した本発明のアルミナ焼結体を用いて作製されたものである。半導体製造装置部材すなわち半導体製造装置に用いられる部材(部品)としては、静電チャックやセラミックヒータ、サセプタなどが挙げられる。
【0028】
本明細書では、電極の製法として、Ni及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とWCとAl23とを含む第1電極原料又はNi及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とAl23とを含む第2電極原料を所定形状に整えたあと、1120〜1300℃で焼成する製法も開示している。この電極の製法によれば、1200℃前後で低温焼結されるセラミックス成形体に、所定形状に整えられた第1電極原料又は第2電極原料を埋設したり積層したりしたあと、そのセラミックス成形体と第1電極原料又は第2電極原料とを1200℃前後で低温焼結することが可能となる。
【実施例】
【0029】
A.実施例1〜26,比較例1〜20
1.原料粉末
原料粉末は、以下のものを使用した。Al23粉末は、純度99.99%以上の平均粒径0.1〜0.2μmの市販粉末(A)、純度99.995%以上の平均粒径0.4〜0.6μmの市販粉末(B)、もしくは純度99.5%以上の0.3〜0.5μmの市販粉末(C)を使用した。MgF2粉末は、市販の純度99.9%以上の粉末を使用し、0.3〜1μmに予備粉砕したものを使用した。CaF2粉末及びAlF3粉末についても同様である。なお、予備粉砕は溶媒をイソプロピルアルコールとし、ジルコニア製玉石を使用してポットミル粉砕した。またMgO粉末は、市販の純度99.9%以上、平均粒径1μm以下のものを使用した。
【0030】
2.調合粉末
各粉末を表1及び表2に示す重量部となるように秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、φ5mmのアルミナ玉石を用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した。その後30メッシュの篩に通し、調合粉末とした。なお、混合の際の溶媒はイオン交換水を用いてもよく、ロータリーエバポレーターを用いて乾燥し、100メッシュの篩に通して、調合粉末とするか、スプレードライヤー等を利用して造粒粉末を得ることも可能である。なお必要に応じて、調合粉末を450℃で5時間以上、大気雰囲気中で熱処理し、湿式混合中に混入したカーボン成分を焼失除去した。
【0031】
3.成形
調合粉末を、30kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、φ50mm、厚さ20mm程度の円盤状成形体を作製し、焼成用黒鉛モールドに収納した。成形圧力は特に制限は無く、形状が保持できればよく、焼成時に用いるカーボンの焼成冶具へ粉で充填してもよい。
【0032】
4.焼成
焼成はホットプレス法を用いた。プレス圧力は表1及び表2に示すように200kgf/cm2とし、焼成終了まで真空とした。最高温度での保持時間は4〜8時間とした。
【0033】
5.評価
得られた焼結体を各種評価用に加工し、以下の評価を行った。
(1)開気孔率・嵩密度
純水を媒体としたアルキメデス法により測定した。測定には3mm×4mm×40mmの抗折棒を使用し、表面は引張面のみ#800、それ以外は#400で仕上げた。
(2)相対密度
表1及び表2に示した組成が焼成後も保持されているとして算出した。具体的には、製造時に混合した各原料(Al23,MgF2など)がすべて焼結体内にそのままの状態で残存していると仮定して、各原料の理論密度と各原料の使用量(重量部)とから焼結体の理論密度を求めた。その後、アルキメデス法で求めた嵩密度を焼結体の理論密度で除し、それに100を乗じた値を焼結体の相対密度(%)とした。計算に用いた各密度は、Al23:3.987g/cm3、MgF2:3.2g/cm3、MgO:3.58g/cm3、CaF2:5.8g/cm3、AlF3:2.88g/cm3
(3)強度
JIS R1601に準じて4点曲げ試験を行い、強度を算出した。なお、表1及び表2中の数字は1桁目を四捨五入して表記した。
(4)体積抵抗率
JIS C2141に準じた方法により、大気中、室温にて測定した。試験片形状はφ50mm×0.5〜1mmとし、主電極は直径20mm、ガード電極は内径30mm、外径40mm、印加電極は直径40mmとなるよう各電極を銀で形成した。印加電圧は2kV/mmとし、電圧印加後1分時の電流値を読み取り、その電流値から室温体積抵抗率を算出した。
(5)結晶相
結晶相はX線回折装置により同定した。測定条件はCuKα、40kV、40mA、2θ=10−70°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス製 D8 ADVANCE)を使用した。
(6)化学分析
Mgの含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光スペクトル分析によって求めた。なお、Mg含有量の測定下限は1ppmである。また、Fの含有量は、熱加水分解分離−イオンクロマトグラフ法によって求めた(JIS R9301−3−11)。なお、F含有量の測定下限は10ppmである。
(7)平均粒径
線分法にて求めた。具体的には、各焼結体の破面を電子顕微鏡にて観察して得たSEM写真に対して任意の本数の線を引き、平均切片長さを求めた。線と交わる粒子の数が多い程精度が高くなる為、その本数は、粒径によって異なるが、おおよそ60個程度の粒子が線と交わる程度の本数を引く。その平均切片長さに粒の形状により決定される係数をかけて平均粒径を推定した。なお、今回はその係数は1.5とした。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
実施例1〜26及び比較例1〜16は、Al23とMgF2との混合粉末、Al23とMgF2とMgOとの混合粉末又はAl23粉末単味を用いて成形体を作製し、その成形体を種々の温度でホットプレス焼成した。これらの結果を表1、表2及び図1にまとめた。図1は、Al23100重量部に対するMgF2の使用量X(重量部)と、ホットプレス焼成温度Y(℃)と、得られたアルミナ焼結体の良否との関係を示すグラフである。図1において、得られたアルミナ焼結体が開気孔率0.1%未満、嵩密度3.95g/cm3以上、相対密度99.5%以上、体積抵抗率1×1014Ωcm以上という条件をすべて満たすときには「○」(良好)、これらの条件の一部を満たさないときには「△」(一部不良)、これらの条件をすべて満たさないときには「×」(不良)とした。図1から、下記式(1)〜(4)を満たすようにホットプレス焼成温度Y(℃)を設定すれば、良好なアルミナ焼結体が得られると考えられる。
1120≦Y≦1300 …(1)
0.15≦X≦1.89 …(2)
Y≦−78.7X+1349 …(3)
Y≧−200X+1212 …(4)
【0037】
実施例11では、Al23とMgF2との混合粉末(MgO添加せず)を用いて成形体を作製し、1150℃でホットプレス焼成してアルミナ焼結体を得たのに対して、実施例12,13では、Al23とMgF2とMgOとの混合粉末を用いて成形体を作製した以外は実施例11と同様にしてアルミナ焼結体を得た。そうしたところ、実施例11〜13ではいずれも良好なアルミナ焼結体が得られたが、強度は実施例11に比べて実施例12,13の方が約1.5倍高くなっていた。同様の傾向は、1200℃でホットプレス焼成した実施例14と実施例16、17や、1300℃でホットプレス焼成した実施例15と実施例25との間でもみられた。このようにMgOの添加により強度が高くなったのは、MgOを添加した場合にはMgOを添加しない場合に比べてアルミナ焼結体の平均粒径が小さくなったことによると考えられる。MgOを添加していない場合と添加した場合のSEM写真を図2及び図3に示す。図2は実施例7(MgO未添加)のSEM写真、図3は実施例12(MgO添加)のSEM写真である。図2に比べて図3は平均粒径が細かいことがわかる。また、MgOを添加していない場合と添加した場合のX線回折プロファイルを図4に示す。図4において、実施例14(MgO未添加)ではAl23のピークとMgF2のピークが見られるのに対して、実施例17(MgO添加)ではAl23のピークとMgF2のピークのほかにMgAl24のピークも見られる。こうしたことから、成形体に含まれていたMgOはホットプレス焼成によってMgAl24に変化した可能性が高い。またMgF2ピーク強度はMgF2添加量や焼成温度によって変化し、MgF2添加量が少ないか、焼成温度が高くなるとそのピーク強度は減少した。焼成温度の高温化に伴うMgF2のピーク減少は、添加したMgF2の一部が散逸したか、アルミナ粒子に固溶したか、非晶質化したことによって生じた可能性が考えられる。
【0038】
比較例1、2及び6では、Al23粉末のみで成形体を作製し、その成形体をそれぞれ1200℃〜1400℃でホットプレス焼成したところ、いずれも良好なアルミナ焼結体は得られなかった。また比較例3では、比較的良好な焼結体が得られるものの、焼成毎に相対密度に0.4%程度のばらつきがあり、低いもので3.95g/cm3未満となるものがあり、安定して良好な焼結体が得られなかった。そのため、比較例4、5に示したように、MgF2を添加しない場合、良好な焼結体を得るためには少なくとも1350℃以上の焼成温度が必要である。比較例17,18では、Al23とMgF2との混合粉末を用い、金型成形で予備成形したのち、5t/cm2のCIP成形した成形体を作製したものの、ホットプレス焼成を採用しなかったため、良好なアルミナ焼結体は得られなかった。特に、比較例17では真空焼成を採用しているがホットプレスを用いていないため、焼成中に多くのF成分が消失し緻密化不良になるとともに、残留したMgO成分によって多量のMgAl24の生成が認められた。比較例18の大気焼成材料では、成形密度からほとんど変化しなかった。この比較例18では、比較例17と同様、F成分の消失による緻密化不良とMgAl24の生成が顕著に認められた。比較例19、20では、MgF2以外のフッ化物としてCaF2やAlF3を添加し、実施例1と同様の製造条件でホットプレス焼成を行ったが、良好なアルミナ焼結体は得られなかった。このことから、低温でホットプレス焼成したときに良好なアルミナ焼結体を得るには、成形体を作製するAl23粉末にフッ化物を添加すればよいのではなく、MgF2を添加することが重要であると考えられた。
【0039】
B.実施例27〜57,比較例21〜26
1.第1アルミナ焼結体の作製
第1アルミナ焼結体として、ここでは純度99.5%のアルミナ粉末(平均粒径1μm)に添加剤としてMgOを0.04wt%加え、1700℃で4時間ホットプレス焼結し、緻密化したものを使用した。なお、第1アルミナ焼結体は特に前述のように限定するものではなく、市販材や他の添加材を加えたアルミナであってもなんら問題ない。
【0040】
2.第1アルミナ焼結体の加工
次に、第1アルミナ焼結体を研削加工し、直径50mm、厚さ5mmの円板を作製した。この際、一方の面を電極ペーストの印刷面として、表面研削により、表面粗さRaが0.8μm以下で表面平坦度が10μm以下の平滑面とした。
【0041】
3.電極パターンの形成
検討した電極は、大別して、(WC−Ni,Co)−Al23系電極と(Ni,Co)−Al23系電極の2種類とした。電極原料粉末には、表3中に記載のものを使用した。すなわち、Ni粉末としては、市販品で平均粒径1μm又は0.2μm、純度99.5%以上のものを用いた。Co粉末としては、市販品で平均粒径1μm、純度99.8%以上のものを用いた。WC粉末としては、市販品で平均粒径0.6μm又は1.5μm、純度99.9%以上のものを用いた。Al23粉末としては、市販品で平均粒径0.1μm,純度99.99%以上、又は、平均粒径0.6μm、純度99.4%以上のものを用いた。
【0042】
電極ペーストは、表3の電極原料粉末と有機溶媒とバインダ等を添加し、混合・混練して調製した。バインダ/有機溶媒には、ポリビニルブチラール/ジエチレングリコールモノブチルエーテル(約1:4(重量比))を使用したが、これに限定するものではなく、他の有機溶媒を使用することもできる。この電極ペーストを用いて、第1アルミナ焼結体の表面にスクリーン印刷法にて、幅5mm、厚さ約40μmの短冊が4本平行に並ぶように電極パターンを印刷した。このとき、隣り合う短冊同士の間隔は5mmとした。印刷後、大気中にて120℃で乾燥させた。なお、実際の半導体製造装置においては、設計パターンに応じた形状の電極を埋設することは言うまでもない。
【0043】
4.第2アルミナ焼結体(本発明のアルミナ焼結体に相当)及び平板電極の作製
第1アルミナ焼結体のうち電極パターンが形成された面上に、第2アルミナ成形体を積層した。第2アルミナ成形体は、実施例16にしたがって作製した。すなわち、Al23100重量部、MgF20.62重量部、MgO0.08重量部を使用して調合粉末を調製し、この調合粉末を、30kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形し、直径50mm、厚さ10mm程度の円盤状成形体を作製し、電極パターンが形成された第1アルミナ焼結体上にセットした。これにより、第1アルミナ焼結体/電極パターン/第2アルミナ成形体という3層構造の積層体が得られた。このとき、電極パターンをなす各短冊は、第1アルミナ焼結体と接している面を除き第2アルミナ成形体に埋設された状態となった。続いて、ホットプレス用のカーボン焼成治具内部に前記積層体を載置し、ホットプレス焼成した(二次焼成)。二次焼成では、プレス圧力は200kgf/cm2、雰囲気は真空とし、表3に記載の焼成温度(最高温度)で4時間保持した。なお、実施例41,42,56,57については、窒素雰囲気(150kPa)での焼成を行った。その結果、第2アルミナ成形体及び電極パターンが焼結して第2アルミナ焼結体及び短冊状の電極となると共に第1アルミナ焼結体と電極と第2アルミナ焼結体とが固着して電極内蔵の一体型アルミナ焼結体となった。この一体型アルミナ焼結体から第2アルミナ焼結体を切り出し、密度、気孔率、体積抵抗率、強度、平均粒径の各種特性を評価したところ、電極埋設しないものと同等であった。このことから、電極パターンを積層した第2アルミナ成形体も、低温焼成により良好に緻密化し、各種特性を発現することがわかった。
【0044】
なお、比較例21のみ、表3に示すように、第2アルミナ原料としてAl23100重量部、MgO0.04重量部を使用した調合粉末を用い、1700℃で高温焼成した。この高温焼成の条件は、プレス圧力が200kgf/cm2、最高温度1700℃で4時間保持、雰囲気は500℃までを真空雰囲気でその後窒素加圧雰囲気(150kPa)とした。
【0045】
5.評価
(1)電気抵抗率
得られた電極内蔵の一体型アルミナ焼結体から試験片を切り出した。試験片は、幅7mm×厚み5mm×長さ25mmの直方体とした。この試験片に内蔵された電極は、幅5mm×厚み約20μm×長さ25mmである。また、試験片は、電極の幅方向の中心と試験片の幅方向の中心とが一致しており、長さ方向の両端には電極を露出させた。抵抗測定方法としては、試験片の長さ方向の両端(電極露出面)に液体金属InGaペーストを塗り、両電極露出面を純Cu板(無酸素銅C1020)を用いて圧力を加えて挟み込み、回路を作製した。測定条件は、大気中、室温にて、微小電流を100mA〜10mAで印加し、その際の微小電圧値を測定して電極抵抗Rを算出した。その後、電気抵抗率ρをρ=R×S/L(R:抵抗、S:電極露出面の面積、L:電極の長さ)を用いて算出した。
【0046】
(2)界面せん断強度
上述した1.〜4.の手順に準じて、別途、試験片を作製した。この試験片は、直径9.9mm×高さ20mmの円柱で、第1アルミナ焼結体と電極と第2アルミナ焼結体とが高さ方向に積層された構造とした。ここでは、電極は短冊状ではなく、第1アルミナ焼結体と第2アルミナ焼結体の間で、□1mmの電極非印刷部が縦横に□1mm間隔で格子状に設けられた構造とした。なお電極の厚みは約20μmとした。この試験片の第1アルミナ焼結体と第2アルミナ焼結体の界面せん断強度をマイクロドロップ法により測定した。測定装置は複合材界面特性評価装置(東栄産業社製)を使用した。
【0047】
【表3】

【0048】
(3)結果
(a)高温焼成技術
比較例21では、第2アルミナ原料としてAl23とMgOとの混合粉末(MgF2を含まない)を用い、電極原料としてWCとAl23との混合粉末(遷移金属を含まない)を用い、焼成温度1700℃の高温でWC−Al23電極を十分焼結したところ、電極の電気抵抗率は2.7×10-5Ω・cm、界面せん断強度は70MPaであった。この結果より、電気抵抗率が5.0×10-5Ω・cm以下であることを焼結十分な電気抵抗率の基準とし、この基準を満たせばヒータ電極として好適に使用可能と判断することとした。また、界面せん断強度については70MPa以上であることを基準とし、この基準を満たせばアルミナ焼結体と電極との間の界面結合力が十分高いと判断することとした。
【0049】
(b)低温焼成技術(WC系電極を使用)
比較例22,23では、第2アルミナ原料として実施例16の混合粉末(Al23とMgOとMgF2との混合粉末)を用い、電極原料としてWCとAl23との混合粉末(遷移金属を含まない)を用い、焼成温度1300℃以下(低温)で焼成した。比較例22では、比較例21の条件の電極原料を用いて1200℃で焼成を行ったが、脱粒が激しく、電極抵抗率の測定ができなかった。また、比較例23では、細粒のWCとAl23との混合粉末を用いたが、電極の緻密化が不足しており、電気抵抗率や界面せん断強度は基準を満たさなかった。これに対して、実施例27〜42では、電極原料としてWCと遷移金属(Ni又はCo)とAl23との混合粉末を用いたところ、焼成温度が1300℃以下でも電気抵抗率はいずれも5.0×10-5Ω・cm以下であり、基準を満たした。微構造観察の結果、遷移金属を添加した場合には、WC原料が緻密に焼結して連結した組織になっており、これが低抵抗化に寄与していると推察された。なお、遷移金属を添加しなかった場合には、そのような組織がみられなかった。また、添加する遷移金属が同一量の場合、Ni、Coの順に低抵抗化の効果があった。一方、界面せん断強度については、実施例27〜30,37〜40ではいずれも基準を満たした。焼成温度を変えた実施例31〜36では界面せん断強度を測定しなかったが、実施例27〜30,37〜40と同様、界面せん断強度の基準を満たすと予測される。また、窒素雰囲気焼成を行った実施例41,42でも、真空雰囲気焼成品と同様に電気抵抗率、界面せん断強度共に基準を満たすものであった。
【0050】
(c)低温焼成技術(Ni、Co系電極を使用)
比較例24−26では、第2アルミナ原料として実施例16の混合粉末(Al23とMgOとMgF2との混合粉末)を用い、電極原料としてNi粉末又はCo粉末(Al23を含まない)を用い、焼成温度1300℃以下(低温)で焼成したところ、電気抵抗率は基準を満たしたものの、界面せん断強度が低く基準を満たさなかった。微構造観察から、電極と第2アルミナ焼結体との界面に部分的に剥離が認められ、界面結合が十分でないことがわかった。これに対して、実施例43〜57では、電極原料としてNi又はCoとAl23との混合粉末を用いたところ、焼成温度が1300℃以下でも電気抵抗率はいずれも5.0×10-5Ω・cm以下であり、十分低い値となった。なお、焼成温度が同じ場合、Al23添加量の増加に伴い電気抵抗率が高くなる傾向が見られた。一方、界面せん断強度については、実施例43〜46ではいずれも基準を満たした。微構造観察より、電極と第2アルミナ焼結体との界面に剥離は認められず、電極にAl23を添加したことにより電極の熱膨張係数が低くなる効果と共に、添加したAl23を介して第2アルミナ焼結体と電極との界面結合力が向上した効果が得られたと考えられた。なお、実施例47〜52では界面せん断強度を測定しなかったが、実施例43〜46と同様、界面せん断強度の基準を満たすと予測される。また、窒素雰囲気焼成を行った実施例56,57も、真空雰囲気焼成品と同様に電気抵抗率、界面せん断強度共に基準を満たすものであった。
【0051】
更に、電極内蔵後の一体型アルミナ焼結体の体積抵抗率についても、「A.実施例1〜26,比較例1〜20」の「5.評価」の(4)の手法に準拠し、測定した。なお、印加電極には内蔵した電極を使用し、第1アルミナ焼結体及び第2アルミナ焼結体の厚みが0.5mmとなるよう試料を作製した。実施例28,38,41,42,45,55−57を代表材料として選択し評価した結果、第1及び第2アルミナ焼結体の体積抵抗率は、いずれも1.0×1014Ω・cm以上であり、埋設電極がアルミナ焼結体の絶縁性を低下することがないことが確認された。また、電極界面近傍のEPMA解析の結果、電極成分の第1及び第2アルミナ焼結体への顕著な拡散は見られず、第2アルミナ添加材のMgやF成分の電極側への拡散も認められなかった。これらの結果からも、電極埋設によって、アルミナ焼結体の電気抵抗率の変化が生じなかったと考えられた。
【0052】
C.実施例58
成形体/平板電極/成形体からなる積層体を用いてアルミナ焼結体(本発明のアルミナ焼結体に相当)を作製した。まず、第1アルミナ成形体を、実施例16にしたがって作製した。その後、第1アルミナ成形体上に、Ni−Al23系電極を印刷し、大気中にて120℃で乾燥した。ここで、電極原料には、平均粒径1μmのNi100重量部に対し、平均粒径0.1μmのAl23添加量を11重量部を用いた。次に、電極が形成された面上に、実施例16と同原料を用いて作製した第2アルミナ成形体を積層し、成形体/平板電極/成形体からなる積層体を得た。この積層体の焼成は実施例16と同様にして実施した。その結果、第1アルミナ成形体、第2アルミナ成形体及び電極パターンが焼結し、電極内蔵アルミナ焼結体が得られた。このアルミナ焼結体の特性評価は実施例16と同様に実施した。
【0053】
このアルミナ焼結体から、第1及び第2アルミナ成形体にそれぞれ由来する第1及び第2アルミナ焼結部を切り出し、密度、気孔率、体積抵抗率、強度、平均粒径の各種特性を評価したところ、実施例16と同等の特性が得られた。また、電極内蔵アルミナ焼結体の特性についても、電極抵抗1.8E−5Ωcm、界面せん断強度95MPaが得られ、良好なことを確認した。したがって、本発明内の異なるアルミナ原料組成、電極組成の組合せにおいても、本実施例と同様に成形体/平板電極/成形体からなる積層体を用いてアルミナ焼結体を作製した場合、各種の特性において良好な結果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、半導体製造装置に関する分野、例えば半導体ウエハをクーロン力やジョンソン・ラーベック力を利用して吸着・保持するためのウエハ載置台を製造する材料に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくともAl23とMgF2との混合粉末又はAl23とMgF2とMgOとの混合粉末を所定形状の成形体に成形する工程と、
(b)該成形体を真空雰囲気下又は非酸化性雰囲気下でホットプレス焼成してアルミナ焼結体とする工程であって、Al23100重量部に対するMgF2の使用量をX(重量部)、ホットプレス焼成温度をY(℃)としたときに下記式(1)〜(4)を満たすようにホットプレス焼成温度を設定する工程と、
を含むアルミナ焼結体の製法。
1120≦Y≦1300 …(1)
0.15≦X≦1.89 …(2)
Y≦−78.7X+1349 …(3)
Y≧−200X+1212 …(4)
【請求項2】
工程(a)では、前記混合粉末を前記成形体に成形するとき又は成形したあと、Ni及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とWCとAl23とを含む第1電極原料又はNi及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とAl23とを含む第2電極原料を所定形状に整えて前記成形体に埋設又は積層する、
請求項1に記載のアルミナ焼結体の製法。
【請求項3】
マグネシウム及びフッ素を含有し、構成する結晶相がAl23のみからなるか、アルミナ以外の構成相としてMgF2又はMgF2とMgAl24を含み、開気孔率が0.1%未満、嵩密度が3.95g/cm3以上、室温において2kV/mm印加1分後の電流値から算出した体積抵抗率が1×1014Ωcm以上である、
アルミナ焼結体。
【請求項4】
相対密度が99.5%以上である、
請求項3に記載のアルミナ焼結体。
【請求項5】
強度が300MPa以上である、
請求項3又は4に記載のアルミナ焼結体。
【請求項6】
Mgを0.03〜0.8wt%、Fを0.01〜1.2wt%含有する、
請求項3〜5のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体。
【請求項7】
マグネシウム及びフッ素を含有し、構成する結晶相がAl23のみからなるか、Al23とMgF2であるか又はAl23とMgF2とMgAl24であり、他の結晶相を含まない、
請求項3〜6のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体。
【請求項8】
Ni及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とWCとAl23とを含む第1電極又はNi及びCoからなる群より選ばれた1種以上の遷移金属とAl23とを含む第2電極が埋設又は積層されている、
請求項3〜7のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体。
【請求項9】
請求項1に記載のアルミナ焼結体の製法によって製造された、請求項3〜7のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体。
【請求項10】
請求項2に記載のアルミナ焼結体の製法によって製造された、請求項8に記載のアルミナ焼結体。
【請求項11】
少なくとも一部が、請求項1又は2に記載のアルミナ焼結体の製法によって製造されたアルミナ焼結体で構成されている、半導体製造装置部材。
【請求項12】
請求項3〜10のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体を用いて作製された、半導体製造装置部材。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168472(P2011−168472A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56466(P2010−56466)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】