説明

アルミニウム−炭化珪素質複合体及びその製造方法

【課題】パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体を提供すること。
【解決手段】アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末20〜40体積%と、平均粒子径が50〜300μmの炭化珪素粉末60〜80体積%を混合した後、離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形することを特徴とする、板厚2〜6mmの板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体及びそれを用いた放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体素子の高集積化、小型化に伴い、発熱量は増加の一途をたどっており、いかに効率よく放熱させるかが課題となっている。そして、高絶縁性・高熱伝導性を有する例えば窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板等のセラミックス基板の表面に、銅製又はアルミニウム製の金属回路を、また裏面に銅製又はアルミニウム製の金属放熱板が形成されてなる回路基板が、パワーモジュール用回路基板として使用されている。
【0003】
従来の回路基板の典型的な放熱構造は、回路基板の裏面(放熱面)の金属板、例えば銅板を介してベース板が半田付けされてなるものであり、ベース板としては銅が一般的であった。しかしながら、この構造においては、半導体装置に熱負荷がかかった場合、ベース板と回路基板の熱膨張係数差に起因するクラックが半田層に発生し、その結果放熱が不十分となって半導体素子を誤作動させたり、破損させたりするという課題があった。
【0004】
そこで、熱膨張係数を回路基板のそれに近づけたベース板として、アルミニウム−炭化珪素質複合体が提案されている。このベース板用のアルミニウム−炭化珪素質複合体の製法としては、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金の溶湯を加圧含浸する溶湯鍛造法(特許文献1)、炭化珪素の多孔体にアルミニウム合金の溶湯を非加圧で浸透させる非加圧含浸法(特許文献2)が実用化されている。一方、コスト面からは、アルミニウム粉末と炭化珪素粉末を混合して、加熱成形する粉末冶金法が有利であり、同製法によるアルミニウム−炭化珪素質複合体の検討も行われている(特許文献3,4)。しかし、粉末冶金法によるアルミニウム−炭化珪素質複合体は、溶湯鍛造法のものに比べ、熱伝導率等が低いという課題がある。
【特許文献1】特許3468358号
【特許文献2】特表平5−507030号公報。
【特許文献3】特開平9−157773号公報
【特許文献4】特開平10−335538号公報
【0005】
ベース板は、放熱フィンと接合して用いることが多く、その接合部分の形状や反りもまた重要な特性として挙げられる。例えば、ベース板を放熱フィンに接合する場合、一般に高熱伝導性の放熱グリースを塗布してベース板の周縁部に設けられた穴を利用して放熱フィンや放熱ユニット等にねじ固定するが、ベース板に微少な凹凸が多く存在すると、ベース板と放熱フィンとの間に隙間が生じ、高熱伝導性の放熱グリースを塗布しても、熱伝達性が著しく低下し、その結果セラミックス回路基板、ベース板、放熱フィン等で構成されるモジュール全体の放熱性が著しく低下してしまうという課題があった。
【0006】
そこで、ベース板と放熱フィンとの間に出来るだけ隙間が出来ないように、予めベース板に凸型の反りを付けたものを用いることが行われている。この反りは通常、所定の形状を有する治具を用い、加熱下、ベース板に圧力を掛けることで反りを付与する技術が提案されている(特許文献5)。この方法によって得られた反りは、ベース板表面にうねりがある場合、形状が一定でなく品質が安定しないという課題があった。また、反り形状のバラツキや表面の凹凸により、放熱フィンとの間に大きな隙間が生じるといった課題があった。
【特許文献5】特許3792180号
【0007】
ベース板表面を機械加工により切削することで反りを付ける方法もあるが、アルミニウム−炭化珪素質複合体は非常に硬いため、ダイヤモンド等の工具を用い多くの研削が必要となり、コストが高くなるという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、パワーモジュール用ベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、アルミニウム−炭化珪素質複合体において、炭化珪素粉末の粒度、含有量を適正化し、アルミニウムの融点近傍の温度域にて加圧成形することで、熱伝導率を向上せしめ得るとの知見を得て本発明を完成した。更に、加熱成形時の金型形状の調整、或いは、加熱プレスによるクリープ変形により、板状のアルミニウム−炭化珪素質複合体の反り形状を制御できるとの知見を得て本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末20〜40体積%と、平均粒子径が50〜300μmの炭化珪素粉末60〜80体積%を混合した後、離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形することを特徴とする、板厚2〜6mmの板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末20〜40体積%と、平均粒子径が50〜300μmの炭化珪素粉末60〜80体積%を混合した後、離型処理を施した金型に、厚みが0.1〜0.5mmでVfが3〜20体積%のセラミックス繊維を両主面に配置して前記混合粉末を充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形することを特徴とする、両主面に厚み0.1〜0.3mmのアルミニウム−セラミックス繊維複合体層を具備してなる板厚2〜6mmの板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0012】
更に、本発明は、加熱プレス成形時に、200mmあたり50〜500μmの凹型の反りを具備してなる金型を用い、一主面に200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0013】
加えて、本発明は、板状のアルミニウム−炭化珪素質複合体に、一定曲率に撓む様に10kPa以上の応力を掛けた状態で、温度400〜550℃で30秒以上加熱処理することによりクリープ変形させて、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、気孔率が2〜10体積%であり、温度25℃〜150℃の熱膨張係数が5×10-6〜9×10-6/Kであり、温度25℃の熱伝導率が150〜300W/mKであり、3点曲げ強度が100〜350MPaであることを特徴とする板状アルミニウム−炭化珪素質複合体である。
【0015】
更に、本発明は、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体に、取り付け穴を加工した後、めっき処理を行い、一主面がセラミックス回路基板に半田付け又はロウ付け接合され、他の一主面が放熱面として用いられるパワーモジュール用ベース板である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、低熱膨張、並びに高熱伝導という特性を有する。本発明は、アルミニウム粉末等の金属粉末と炭化珪素粉末を加熱成形して得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体において、炭化珪素粉末の粒度及び含有量を適性化することにより、得られる複合体の熱伝導率等の特性を著しく改善することができ、高信頼性を要求される半導体素子を搭載するパワーモジュールのベース板として好適なアルミニウム−炭化珪素質複合体を安価に供給するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、主成分がアルミニウムであるアルミニウム合金からなる第一の成分と、主成分が炭化珪素からなる第二の成分からなる。本発明のような異種の材料を複合化した複合体では、異種の材料の界面が強固に結びつくことでお互いに熱のやり取りが可能となる。このため、界面の密着性が悪い場合は、複合体の熱伝導率はマトリックス材(本発明ではアルミニウム合金)に支配され、強化材(本発明では炭化珪素)自体の熱伝導率が如何に高くても、複合体全体の熱伝導特性はマトリックス材以下となる。本発明の基本的な考え方は、複合体において如何に金属成分と強化材を強固に密着させるかであり、その手法として、金属成分を溶融状態で加圧成形することで両者の界面を強固なものとし、目的とする特性を達成するものである。
【0018】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の特に重要な特性は、熱伝導率と熱膨張係数である。このため、用いる強化材としては、素材自体の熱伝導率が高く且つ熱膨張係数が小さいことが必要であり、炭化珪素が好適である。更に、炭化珪素とアルミニウムでは、その熱伝達機構が異なる。このため、両素材の界面での熱伝達ロスが複合体の熱伝導率を大きく左右し、この界面の面積を少なくすること(粒子径の大きい炭化珪素粉末を用いること)が、得られる複合体の熱伝導率の向上に効果的である。
【0019】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体に用いる強化材としては、平均粒子径50〜300μmの炭化珪素粉末60〜80体積%である。炭化珪素粉末の粒度に関しては、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率の点から、平均粒子径が50μm以上である。一方、平均粒子径が300μmを超えると、アルミニウム−炭化珪素質複合体の表面粗さが低下すると共に、強度特性が低下するため好ましくない。炭化珪素粉末の含有量が60体積%未満では、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下し、熱膨張係数が大きくなり好ましくない。一方、炭化珪素粉末の含有量が80体積%を超えると、アルミニウム−炭化珪素質複合体の緻密化が不足し、強度、熱伝導率が低下して好ましくない。また、炭化珪素粉末の含有量を上げ、且つ、緻密化を達成するためには、平均粒子径の異なる炭化珪素粉末を粒度配合することが好適である。この場合、炭化珪素粉末の平均粒子径は、個々の炭化珪素粉末の平均粒子径と含有量より算出する。このため、粒度配合を行う場合には、平均粒子径が50μm未満及び/又は300μmを超える粉末も、使用することができる。更に、球形状に近い炭化珪素粉末を使用することは、含有量を上げるために効果的である。
【0020】
本発明に用いる金属粉末は、アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末である。この金属粉末としては、(1)金属粉末を混合して用いる、(2)金属粉末と合金粉末を混合して用いる(例えば、アルミニウム粉末、珪素粉末及びアルミニウム−マグネシウム合金粉末を用いる)、(3)3成分を所定量含有する合金粉末を用いることが可能である。珪素成分が5質量%未満又は20質量%を超えると、3成分からなる合金の融点が高くなり、緻密化が進まない場合があり好ましくない。また、珪素成分が5質量%未満では、得られる合金の熱膨張係数が大きくなり、その結果、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱膨張係数が大きくなり好ましくない。一方、珪素成分が20質量%を超えると、得られる合金の熱伝導率が低下し、その結果、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下し好ましくない。マグネシウム成分は、得られる合金と炭化珪素の濡れ性を向上させる効果があり、0.5質量%未満では、その効果が不足し、熱伝導率、強度等の特性が低下して好ましくない。一方、マグネシウム成分が3質量%を超えると、複合化時に炭化アルミニウム(Al)を生成し易くなり、熱伝導率、強度の面で好ましくない。
【0021】
これらの金属粉末の含有量は、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体に対して、20〜40体積%である。ここで、金属粉末の含有量(体積%)は、金属粉末の平均密度を2.7g/cmとして含有量(体積%)を規定している。20体積%未満では、加熱プレス成形時の溶融合金量が不足し、アルミニウム−炭化珪素質複合体の緻密化が不足するため好ましくない。一方、40体積%を超えると、緻密なアルミニウム−炭化珪素質複合体を得ることはできるが、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱膨張係数が大きくなり過ぎて好ましくない。これらの金属粉末の粒度に関しては、平均粒子径が10〜200μm程度が好適である。平均粒子径が10μm未満では、金属粒子表面の酸化により緻密化が阻害され好ましくない。また、平均粒子径が200μmを超えると、混合の均一化が阻害され特性が低下することがあり好ましくない。
【0022】
本発明の原料粉末の混合方法に関しては、個々の原料が均一に混合される方法であれば特に制約はない。ボールミル混合、ミキサーによる混合等が可能である。混合時間に関しては、原料粉末の酸化及び粉砕が進まない程度の時間が好ましく、混合方法及び充填量にもよるが、15分〜5時間程度が一般的である。混合時間が短いと、アルミニウム-炭化珪素質複合体の緻密化不足が発生したり、複合体組織の不均一が発生し好ましくない。一方、混合時間が長すぎると原料粉末の酸化及び粉砕による微粉化が起こり、その結果、アルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下する場合があり好ましくない。また、加熱プレス成形時の加熱段階で除去可能なものであれば、必要に応じて保形用バインダー等の使用が可能である。
【0023】
本発明の加熱プレス成形で用いる金型は、強度の点から、鋳鉄、ステンレス等の鉄製の材料が適しており、高価ではあるが窒化珪素等のセラミックスも用いることができる。更に、黒鉛製の金型も用いることができる。金型は、加熱プレス成形で得られる複合体との離型性の面より、表面に離型剤を塗布して用いる。この離型剤としては、黒鉛、アルミナ、窒化硼素等の離型剤が適している。また、金型にアルミナ等の薄膜を形成した後、離型剤を塗布することにより、優れた離型性を得ることが出来ると共に、金型の寿命を延ばすことができる。また、必要に応じて金型と製品の間に、黒鉛シート等の離型板を用いることもできる。
【0024】
本発明では、金属粉末と炭化珪素粉末の混合粉末を金型内に充填し、加熱プレス成形することにより、緻密化した板厚2〜6mmの板状アルミニウム−炭化珪素質複合体とする。この場合、得られる板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の板厚は、金型に充填する混合粉末量により調整する。板厚2mm未満では、パワーモジュール用のベース板として用いる場合、面方向の熱伝達が不足し、パワーモジュール全体の放熱特性が低下し好ましくない。一方、板厚が6mmを超えると、板厚の増加によりベース板自体の熱抵抗が大きくなり、その結果、半導体素子の温度が上がり過ぎてしまい好ましくない。更に好ましい板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の板厚は、3〜5mmである。
【0025】
本発明では、混合粉末を離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱する。この加熱温度は、用いる金属粉末の融点以上であることが好ましい。温度600℃未満では、用いる合金組成によっては、未溶融となり、アルミニウム−炭化珪素質複合体の緻密化が不足して好ましくない。一方、加熱温度が、750℃を超えると、アルミニウムと炭化珪素が反応して、炭化アルミニウム(Al)を生成し易くなり、熱伝導率、強度の面で好ましくない。
【0026】
加熱プレス成形時の成形圧力は、10MPa以上である。加熱プレス成型時の圧力が、10MPa未満では、緻密化が不足すると共に、加熱プレス成形時に金属成分と強化材を強固に密着させることが出来ず、熱伝導率、強度等の特性が低下するため好ましくない。また、プレス圧の上限については、特性面からの制約はないが、金型の強度、装置の力量より、300MPa以下が適当である。アルミニウム−炭化珪素質複合体は、融点以下の温度で減圧した後、室温まで冷却する。なお、複合化時の歪み除去の目的で、アルミニウム−炭化珪素質複合体のアニール処理を行うこともある。
【0027】
複合化時の歪み除去の目的で行うアニール処理は、400℃〜550℃の温度で10分以上行うことが好ましい。アニール温度が400℃未満であると、複合体内部の歪みが十分に開放されずに機械加工後の熱処理で形状が変化してしまう場合がある。一方、アニール温度が550℃を越えると、複合体中のアルミニウム合金が溶融する場合がある。アニール時間が10分未満であると、アニール温度が400℃〜550℃であっても複合体内部の歪みが十分に開放されず、機械加工後の熱処理で形状が変化してしまう場合がある。
【0028】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、表面がアルミニウムを主成分とする金属層で覆われており、このアルミニウム−炭化珪素質複合体をめっき処理するのに好適である。更に、この表面層は、積層時に離型処理を施した金型に、厚みが0.1〜0.5mmでVf(セラミックスの含有量)が3〜20体積%のセラミックス繊維を両主面に配置して、金属粉末と炭化珪素粉末の混合粉末を充填し、加熱プレス成形することで、調製することができる。上記製造方法により得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、両主面に厚み0.1〜0.3mmのアルミニウム−セラミックス繊維複合体からなる表面層が形成される。
【0029】
このアルミニウム−セラミックス繊維複合体層は、めっき性の関係より、アルミニウム合金以外の含有量は、30体積%未満であることが好ましい。このため、金型内に配置するセラミックス繊維として、厚みが0.1〜0.5mmでVfが3〜20体積%とする。セラミックス繊維の厚みが、0.5mmを超えると、加熱プレス成形によって、十分に緻密化したアルミニウム−セラミックス繊維複合体層が得られず好ましくない。セラミックス繊維の厚みの下限については、特性状の制約はないが、ハンドリング性の点より0.1mm以上であることが好ましい。また、セラミックス繊維のVfが、20体積%を超えると、得られるアルミニウム−セラミックス繊維複合体層のアルミニウム合金以外の含有量が30体積%を超え、めっき性が低下し好ましくない。Vfの下限については、特性状の制約はないが、ハンドリング性の点より3体積%以上であることが好ましい。セラミックス繊維としては、特に限定されないが、耐熱性の面より、アルミナ繊維、シリカ繊維、ムライト繊維等のセラミックス繊維が好ましく使用できる。
【0030】
また、アルミニウム−炭化珪素質複合体の両主面の形成されるアルミニウム−炭化珪素質複合体層の厚みは、0.1〜0.3mmであることが好ましい。アルミニウム−炭化珪素質複合体層の厚みが0.1mm以上であれば、めっき性を確保することができる。一方、アルミニウム−炭化珪素質複合体層の厚みが0.3mmを超えると、熱伝導率が低下すると共に熱膨張係数が増加し好ましくない。
【0031】
本発明では、加熱プレス成形時に、200mmあたり50〜500μmの凹型の反りを具備してなる金型を用いて、加熱プレス成形することで、一主面に200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することができる。この場合、金型表面を機械加工により、反り量が50〜500μmの凹型形状とすることにより、得られる板状アルミニウム−炭化珪素質複合体は、理想的な球面形状の放熱面を得ることが可能であり、良好な放熱特性を得ることができる。本発明の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体を、パワーモジュール用ベース板として用いる場合、その反り量が、長さ200mmあたり50μm未満では、その後のモジュール組み立て工程でベース板と放熱フィンとの間に隙間が生じ、たとえ高熱伝導性の放熱グリースを塗布しても、熱伝達性が著しく低下し、その結果セラミックス回路基板、ベース板、放熱フィン等で構成されるモジュールの放熱性が著しく低下してしまう場合がある。一方、反り量が500μmを超えると、放熱フィンとの接合の際のネジ止め時に、ベース板、又はセラミックス回路基板にクラックが発生してしまう場合があり好ましくない。
【0032】
本発明の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の反りを形成する方法として、板状アルミニウム−炭化珪素質複合体を、200mmあたり100〜1000μmの反りとなる曲率に撓む様に10kPa以上の応力を掛けた状態で、温度400〜550℃で30秒以上加熱処理することによりクリープ変形させて、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することもできる。加熱処理時に加える応力が10kPa未満では、撓み量が不足し目的とする反り量を得ることができない。また、処理温度が400℃未満又は処理温度が400〜550℃でも処理時間が30秒未満では、十分なクリープ変形を起こすことが出来ず、目的とする反り量を得ることができない。処理温度が550℃を超えると、複合体中の金属成分の移動に伴う密度低下等の問題が発生して好ましくない。
【0033】
次に、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の加工方法の例を説明する。アルミニウム−炭化珪素質複合体は非常に硬い難加工性材料であるが、ウォータージェット加工機により、外周部及び/又は穴部を加工することができる。その結果、得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、外周部及び/又は穴部にアルミニウム−炭化珪素質複合体が露出する構造となる。ここで、上記穴部は、他の放熱部品にネジ止めできるよう、上下面を貫くように設けられていればよい。また、外周部と連結したU字形状のような形状に加工することで、加工コストを削減することもできる。
【0034】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は導電性材料であるので、放電加工機を用いても、外周部及び/又は穴部の加工を行うことができる。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、外周部及び/又は穴部にアルミニウム−炭化珪素質複合体が露出する構造となる。なお、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、通常のダイヤモンド工具等を用いた加工も可能ではあるが、非常に硬い難加工性材料であるため、工具の耐久性や加工コストの面から、ウォータージェット加工機又は放電加工機による加工が好ましい。更に、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、必要に応じて主面を研磨又は研削加工することもできる。
【0035】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体をパワーモジュール用のベース板として用いる場合、特に重要な特性は、熱伝導率と熱膨張係数である。このため、用いる強化材としては、素材自体の熱伝導率が高く且つ熱膨張係数が小さい炭化珪素を選択し、更に、炭化珪素とアルミニウムでは、その熱伝達機構が異なるため、両素材の界面での熱伝達ロスを抑えるべく、この界面の面積を少なくすること(粒子径の大きい炭化珪素粉末を用いること)及びその配合比を適性化することで、熱伝導率を向上させ、熱膨張係数を制御している。本発明では、用いる金属粉末の融点以上の温度で、10MPa以上の成形圧力で加熱プレス成形することで、強化材である炭化珪素粉末とアルミニウム合金をその界面で強固に密着させ、アルミニウム−炭化珪素質複合体の気孔率を制御すると共に強度特性を改善している。
【0036】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の温度25℃での板厚方向の熱伝導率は、150〜300W/mKである。熱伝導率が、150W/mK未満では、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合に十分な放熱特性が得られず好ましくない。熱伝導率の上限に関しては、特性面からの制約はないが、炭化珪素自体の特性より300W/mK以下となる。
【0037】
本発明では、アルミニウム−炭化珪素質複合体を、加熱プレス成形して作製するため、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体には、原料粉末の配向により不可避的に特性の異方性が発生する。本発明の複合体は、熱伝導率の高い炭化珪素の配向により、主面方向の熱伝導率が板厚方向の熱伝導率より大きく、板厚方向の熱伝導率が主面方向の熱伝導率の80%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の温度25℃から150℃の熱膨張係数は、5×10-6〜9×10-6/Kである。パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合、接合されるセラミックス回路基板との熱膨張係数のマッチングが非常に重要である。熱膨張係数が、5×10-6/K未満又は9×10-6/Kを超えると、半導体素子作動時の熱負荷により、接合層(半田層等)やセラミックスの破壊が起こり、放熱特性が低下する場合があり好ましくない。
【0039】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の気孔率は2〜10体積%である。気孔率が、10体積%を超えると熱伝導率等の特性が低下すると共に、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合に、使用環境からの水分の透過等によるモジュール自体の耐食性に問題が発生し好ましくない。気孔率の下限については、本発明の目的とする高熱伝導且つ低熱膨張のアルミニウム−炭化珪素質複合体を得るため、強化材である炭化珪素粉末の粒度及び配合比の関係より2体積%以上となるが、特性面からは、むしろ2体積%以下であることが好ましい。
【0040】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体の3点曲げ強度は100〜350MPaである。アルミニウム−炭化珪素質複合体を、パワーモジュール用のベース板等の放熱部品として用いる場合、3点曲げ強度が100MPa未満では、ネジ止めする際の割れや、使用時の振動等の影響による欠けの問題があり好ましくない。3点曲げ強度の上限に関しては、特性状の制約はないが、3点曲げ強度を極端に向上させるためには、炭化珪素の添加量の増加及び微粉化が必要となり、その結果、得られるアルミニウム−炭化珪素質複合体の熱伝導率が低下するため、350MPa以下であることが好ましい。
【0041】
本発明に係るアルミニウム−炭化珪素質複合体は、パワーモジュール用ベース板として用いる場合、取り付け穴等を加工した後、セラミックス回路基板と半田付けにより接合して用いられるのが一般的である。このため、アルミニウム−炭化珪素質複合体表面には、Niめっきを施すことが必要である。めっき処理方法は特に限定されず、無電解めっき処理、電気めっき処理法のいずれでもよい。Niめっきの厚みは1〜20μmであることが好ましい。めっき厚みが1μm未満では、部分的にめっきピンホールが発生し、半田付け時に半田ボイド(空隙)が発生し、回路基板からの放熱特性が低下する場合がある。一方、Niめっきの厚みが20μmを超えると、Niめっき膜と表面アルミニウム合金との熱膨張差によりめっき剥離が発生する場合がある。Niめっき膜の純度に関しては、半田濡れ性に支障をきたさないものであれば特に制約はなく、リン、硼素等を含有することができる。更に、Niめっき表面に金めっきを施すことも可能である。
【0042】
本発明に係わるアルミニウム−炭化珪素質複合体とセラミックス回路基板との接合は、活性金属ロウ材を介してロウ付けすることもできる。活性金属ロウ材は、ペースト状のものも使用可能であるが、取り扱い上合金箔が好ましい。この場合、活性金属ロウ材は、アルミニウム−炭化珪素質複合体の金属成分としての合金よりも融点の低いものが好ましい。例示すればCu1〜6質量%のAl−Cu合金箔、Cu4質量%とMg0.5%質量を含む2018合金箔、0.5質量%のMnを含む2017合金箔、更にはJIS合金の2001、2003、2005、2007、2011、2014、2024、2025、2030、2034、2036、2048、2090、2117、2124、2218、2224、2324、7050、7075等の合金箔が使用可能である。また、Mg、Zn、In、Mn、Cr、Ti、Bi等の第三成分を、合計で5質量%まで含むものの使用も可能である。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製/平均粒子径:150μm、密度:3.2g/cm):102g(35体積%)、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製/平均粒子径:50μm、密度:2.2g/cm):102g(35体積%)、アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm):64.2g、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm):8.9g、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)0.7gを、ボールミルにて1時間混合した。次に、図1に示す鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0044】
次に、この積層体を電気炉にて、大気雰囲気下、温度650℃に加熱して15分間保持して、積層体の温度を650℃とした。加熱した積層体は、厚み5mmの断熱材を介して、油圧プレスにて面圧:50MPaで5分間、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却した。次に、金型2を外し、油圧プレスにて金型3を押し込み成形体を取り出した後、離型用に配置した黒鉛シートを剥がして、140×130×5mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0045】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、ウォータージェット加工機(スギノマシン製アブレッシブ・ジェットカッタNC)により、圧力250MPa、加工速度50mm/minの条件で、研磨砥粒として粒度100μmのガーネットを使用して、縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴を加工した後、外周部分を加工して、127mm×137mm×5mmの形状とした。
【0046】
次に、このアルミニウム−炭化珪素質複合体に反りを付与するため、カーボン製で曲率半径が15mの球面を設けた凹凸型を準備した。この凹凸型を熱プレス機に装着し、加熱して型の表面温度を510℃とした。この凹凸型の間に前記複合体を配置し40KPaでプレスした。この際、当該複合体の側面に熱電対を接触させ測温した。複合体の温度が500℃になった時点から3分間保持後、加圧を解除し、50℃まで自然冷却した。次に、得られた複合体は、反り付け時の残留歪み除去のために、電気炉で350℃の温度で30分間アニール処理を行った。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の放熱面の形状を接触型二次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)にて測定し、200mmあたりの反り量を測定した結果、200mmあたりの反り量は、190μmであった。
【0047】
次いで、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行い、複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。得られためっき品は、肉眼で確認されるピンホールはなく良好であった。
【0048】
加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体から、研削加工により板厚方向の熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)及び熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)及びを作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。その結果、温度25℃の板厚方向の熱伝導率は230W/mKであり、温度25℃〜150℃の熱膨張係数は、6.5×10−6/Kであった。更に、実施例1の混合粉末量を3倍とし、同様の手法で140×130×15mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を作製し、研削加工により主面方向の熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)を作製し、熱伝導率を測定した結果、温度25℃の主面方向の熱伝導率は250W/mKであった。
【0049】
アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した結果、240MPaであった。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した結果、気孔率は、3.5体積%であった。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同様にして、炭化珪素粉末A、炭化珪素粉末B、アルミニウム粉末、珪素粉末及びマグネシウム粉末の混合粉末を作製した。次に、図2に示す鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面にVfが10体積%で厚み0.2mmのアルミナ繊維のシートを配置して、前記混合粉末を充填し、混合粉末の上部にアルミナ繊維のシートを配置した。更に、その上に混合粉末と接する面を、200mmあたり200μmの凹型の反り量となる様に、一定の曲率で機械加工した金型3(139.9×129.9×60mm)に離型剤を塗布して積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0051】
この積層体を実施例1と同様の手法により、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却し、140×130×5mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、温度500℃で1時間保持し、室温まで徐冷するアニール処理を実施した。次に、アルミニウム−炭化珪素質複合体を、放電加工機により、加工速度10mm/minの条件で縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴を加工した後、外周部分を加工して127mm×137mm×5mmの形状とした。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体の放熱面の形状を接触型二次元輪郭形状測定機(東京精密社製;コンターレコード1600D−22)にて測定し、200mmあたりの反り量を測定した結果、200mmあたりの反り量は、210μmであった。
【0052】
次いで、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行い、複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。得られためっき品は、肉眼で確認されるピンホールはなく良好であった。
【0053】
加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体から、研削加工により板厚方向の熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)及び熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。その結果、温度25℃の板厚方向の熱伝導率は210W/mKであり、温度25℃〜150℃の熱膨張係数は、6.4×10−6/Kであった。
【0054】
さらに、アルミニウム−炭化珪素質複合体から、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製した。曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した結果、220MPaであった。アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し気孔率を算出した結果、気孔率は3.3体積%であった。
【0055】
(実施例3〜8、比較例1〜3)
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製/平均粒子径:150μm、密度:3.2g/cm):102g(35体積%)、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製/平均粒子径:50μm、密度:2.2g/cm):102g(35体積%)及び、アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm)、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm)、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)、アルミニウム−マグネシウム合金粉末(平均粒子径:80μm)、マグネシウム−珪素粉末/MgSi(平均粒子径:70μm)、アルミニウム−珪素−マグネシウム合金粉末(平均粒子径:40μm)を、表1に示す配合で、合計73.8gを、ボールミルにて1時間混合した。次に、実施例1と同様の手法にて、鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0056】
【表1】

【0057】
次に、この積層体を実施例1と同様の手法により、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却し、140×130×5mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、研削加工により板厚方向の熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)及び熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。また、アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例3〜8の加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体を、ウォータージェット加工機(スギノマシン製アブレッシブ・ジェットカッタNC)により、圧力250MPa、加工速度50mm/minの条件で、研磨砥粒として粒度100μmのガーネットを使用して縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴を加工した後、外周部分を加工した。その後、マシニングセンターでダイヤモンド工具を用いて、4カ所にφ10−4mmの皿穴を加工して、127mm×137mm×5mmの形状とした。
【0060】
次いで、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―Pめっきを行い、複合体表面に6μm厚のめっき層を形成した後、無電解Auめっきを行い、0.2μmのAuめっき層を形成した。得られためっき品は、肉眼で確認されるピンホールはなく良好であった。
【0061】
(実施例9〜13、比較例4〜7)
アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm):435g、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm):60g、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)5gを、ボールミルにて10分間混合して金属粉末の混合粉末を作製した。この金属粉末と、炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製/平均粒子径:150μm)、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製/平均粒子径:50μm)、炭化珪素粉末C(大平洋ランダム社製/平均粒子径:1000μm)、炭化珪素粉末D(大平洋ランダム社製/平均粒子径:300μm)、炭化珪素粉末E(屋久島電工社製/平均粒子径:15μm)を、表3に示す配合比で、ボールミルにて1時間混合した。ここで、金属粉末の混合粉末は、平均密度2.7g/cmとして計算した。次に、図1に示す鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面に黒鉛シートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部に黒鉛シートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0062】
【表3】

【0063】
次に、この積層体を実施例1と同様の手法により、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却し、140×130×5mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、研削加工により板厚方向の熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)及び熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。また、アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
加熱プレス成形で得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体は、ウォータージェット加工機(スギノマシン製アブレッシブ・ジェットカッタNC)により、圧力250MPa、加工速度50mm/minの条件で、研磨砥粒として粒度100μmのガーネットを使用して、縁周部6カ所に直径7mmの貫通穴を加工した後、外周部分を加工して、127mm×137mm×5mmの形状とした。
【0066】
次いで、圧力0.4MPa、搬送速度1.0m/minの条件でアルミナ砥粒にてブラスト処理を行い清浄化した後、無電解Ni―P及びNi−Bめっきを行い、複合体表面に8μm厚(Ni−P:6μm+Ni−B:2μm)のめっき層を形成した。実施例9〜13及び比較例4と6のめっき品は、肉眼で確認されるピンホールはなく良好であった。比較例5は、表面の凹凸が激しく、肉眼で確認できるめっきのピンホールが認められた。また、比較例7は、緻密化不足に起因する薬液のシミが認められた。
【0067】
(実施例17〜20、比較例9〜11)
炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製/平均粒子径:150μm、密度:3.2g/cm):102g(35体積%)、炭化珪素粉末B(大平洋ランダム社製/平均粒子径:50μm、密度:2.2g/cm):102g(35体積%)、アルミニウム粉末(アルコア社製/平均粒子径:25μm):64.2g、珪素粉末(エルケム社製/平均粒子径:20μm):8.9g、マグネシウム粉末(平均粒子径:50μm)0.7gを、ボールミルにて1時間混合した。次に、実施例1と同様の手法にて、鋳鉄製の金型1(外形:200×200×50mm、内径:140×130×50mm)及び金型2(下部:200×200×20mm、上部:139.9×129.9×10mm)に離型剤として黒鉛及び窒化硼素を塗布した後、積層して金型2の上面にVfが5体積%で厚み0.2mmのアルミナ繊維のシートを配置して、前記混合粉末を充填した。更に、混合粉末の上部にアルミナ繊維のシートを配置し、同様に離型剤を塗布した金型3(139.9×129.9×60mm)を積層し、油圧プレスにて面圧:10MPaで予備成形を実施した。
【0068】
次に、この積層体を電気炉にて、大気雰囲気下、表5に示す温度に加熱して15分間保持して、積層体の温度を表5に示す温度とした。加熱した積層体は、厚み5mmの断熱材を介して、油圧プレスにて表5に示す面圧で5分間、加熱プレス成形を行った後、圧力を開放して室温まで冷却した。次に、金型2を外し、油圧プレスにて金型3を押し込み成形体を取り出した後、離型用に配置した黒鉛シートを剥がして、140×130×21mmtのアルミニウム−炭化珪素質複合体を得た。
【0069】
【表5】

【0070】
得られたアルミニウム−炭化珪素質複合体から、研削加工により板厚方向の熱伝導率測定用試験体(直径11mm厚さ3mm)及び熱膨張係数測定用試験体(3×3×10mm)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。また、アルミニウム−炭化珪素質複合体より、研削加工により3点曲げ強度測定用試験体(3×4×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した。更に、アルミニウム−炭化珪素質複合体の密度をアルキメデス法で測定し、気孔率を算出した。結果を表6に示す。
【0071】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】アルミニウム−炭化珪素質複合体の作製方法を示す説明図(実施例1,複合化前の積層状態)
【図2】アルミニウム−炭化珪素質複合体の作製方法を示す説明図(実施例2,複合化前の積層状態)
【符号の説明】
【0073】
1 金型1
2 金型2
3 金型3
4 金属粉末、炭化珪素粉末及び黒鉛粉末の混合粉末
5 黒鉛シート
6 セラミックス繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末20〜40体積%と、平均粒子径が50〜300μmの炭化珪素粉末60〜80体積%を混合した後、離型処理を施した金型に充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形することを特徴とする、板厚2〜6mmの板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム77〜94.5質量%、珪素5〜20質量%及びマグネシウム0.5〜3質量%を含有する金属粉末20〜40体積%と、平均粒子径が50〜300μmの炭化珪素粉末60〜80体積%を混合した後、離型処理を施した金型に、厚みが0.1〜0.5mmでVfが3〜20体積%のセラミックス繊維を両主面に配置して前記混合粉末を充填し、温度600〜750℃に加熱して、圧力10MPa以上で加熱プレス成形することを特徴とする、両主面に厚み0.1〜0.3mmのアルミニウム−セラミックス繊維複合体層を具備してなる、板厚2〜6mmの板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項3】
加熱プレス成形時に、200mmあたり50〜500μmの凹型の反りを具備してなる金型を用い、一主面に200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする請求項1又は2記載の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項4】
板状のアルミニウム−炭化珪素質複合体に、一定曲率に撓む様に10kPa以上の応力を掛けた状態で、温度400〜550℃で30秒以上加熱処理することによりクリープ変形させて、200mmあたり50〜500μmの凸型の反りを付与することを特徴とする請求項1又は2記載の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項5】
気孔率が2〜10体積%であり、温度25℃〜150℃の熱膨張係数が5×10−6〜9×10−6/Kであり、温度25℃の熱伝導率が150〜300W/mKであり、3点曲げ強度が100〜350MPaであることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項記載の製造方法で得られる板状アルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項6】
請求項5記載の板状アルミニウム−炭化珪素質複合体に、取り付け穴を加工した後、めっき処理を行い、一主面がセラミックス回路基板に半田付け又はロウ付け接合され、他の一主面が放熱面として用いられるパワーモジュール用ベース板。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24077(P2010−24077A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186226(P2008−186226)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】