説明

アルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体及びその製造方法

【課題】熱膨張係数、熱伝導率、耐酸化性、めっき性などの点で優れた特性を維持しながら強度特性を顕著に改善された、LEDパッケージの基板として好適なアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体を提供する。
【解決手段】黒鉛粉末を60〜90体積%、平均粒径が100μm以下の炭化珪素粉末を10〜40体積%を含み、気孔率が10〜30体積%である成形体に、アルミニウム又はアルミニウム合金を溶湯鍛造法により加圧含浸させてなることを特徴とするアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。該複合体は、熱膨張係数が12×10−6/K以下であり、気孔率が5体積%以下であり、かつ密度が2.2〜2.6g/cmであり、熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、かつ曲げ強度が40MPa以上という優れた特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDパッケージの基板などとして好適なアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料を含む金属複合材料には、金属成分マトリックスに炭素粒子又は炭素繊維を強化材料として分散、配列する金属基複合材料や、押出法、型込法、及びCIP法で成形した炭素成形体に金属成分を分散する炭素基金属複合材料が知られている。また、黒鉛粉と金属粉から粉末冶金法による製造方法も知られている(特許文献1、2を参照)。
これらの炭素材料を含む金属複合材料は、炭素材料自体に脆く強度が低いという特性があるため、複合材料としての強度も低く、ハンドリング時や放熱フィンへの取り付け時に欠けやすいという問題があった。
【特許文献1】特許第3351778号公報
【特許文献2】特許第3673436号公報
【0003】
一方、LEDの発光効率の改善が急激に進み、新しい省エネルギー型光源として期待されているが、LEDの高輝度化に伴い熱の発生量が増加するため、十分な放熱対策がとられないとLEDの信頼性が低下してしまう。そこで、LEDパッケージの放熱性を高めるために、LEDを実装する基板部分には熱伝導率が高い銅やアルミニウム等の金属材料が用いられているが、高出力のLEDにおいては基板だけでは放熱が不十分であり金属製のヒートシンクを用いて放熱対策をとっているものもある。
【0004】
従来の炭素材料を含む金属複合材料は放熱特性に優れる反面、強度面に問題があり、放熱フィンの取り付けの際や、自動車のヘッドランプ等に使用した際の振動によって、カケ等の不良が起こることがある。そこで、放熱特性に優れ強度にも優れた材料の開発が切望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、熱膨張係数、熱伝導率、耐酸化性、めっき性などの点で優れた特性を維持しながら強度特性(特に曲げ強度)を顕著に改善した、LEDパッケージの基板などとして好適なアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を進めたところ、上記の目的を良好に達成しうる以下の要旨を有する本発明に到達した。
【0007】
1.黒鉛粉末を60〜90体積%、平均粒径が100μm以下の炭化珪素粉末を10〜40体積%を含み、気孔率が10〜30体積%である成形体に、アルミニウム又はアルミニウム合金を溶湯鍛造法により加圧含浸させてなることを特徴とするアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
2.黒鉛粉末が、コークス系炭素を黒鉛化した人造黒鉛であり、固定炭素分が98.5%以上である上記1に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
3.黒鉛粉末が、鱗片状黒鉛粉末を20〜100質量%含む上記1又は2に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【0008】
4.炭化珪素粉末の平均粒径が20μm以下である上記1〜3のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
5.熱膨張係数が12×10−6/K以下であり、気孔率が5体積%以下であり、かつ密度が2.2〜2.6g/cmである上記1〜4のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
6.熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、かつ曲げ強度が40MPa以上である上記1〜4のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
7.成形体の成形方向に対し、垂直方向の熱伝導率が250W/(m・K)以上であり、かつ水平方向の熱伝導率が垂直方向の熱伝導率の30〜70%である上記1〜6のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素複合体。
【0009】
8.黒鉛粉末60〜90体積%と、平均粒径が100μm以下である炭化珪素粉末を10〜40体積%との混合粉末を成形し、気孔率が10〜30体積%である成形体を形成し、次いで、該成形体を不活性雰囲気中において予熱し、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金を20MPa以上の圧力で加圧含浸することを特徴とするアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
9.混合粉末を成形治具に充填し、20MPa以上の圧力でプレス成形し、得られた成形体を成形治具から取り出さずにアルミニウム又はアルミニウム合金を溶湯鍛造法により加圧含浸する上記8に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
10.炭化珪素粉末の平均粒径が20μm以下である上記8又は9に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
11.黒鉛粉末が、コークス系炭素を黒鉛化した人造黒鉛粉末であり、固定炭素分が98.5%以上である上記8〜10のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
【0010】
12.黒鉛粉末が、鱗片状黒鉛粉末を20〜100質量%含む上記8〜11のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
13.上記1〜7のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の厚み0.5mm〜5.0mmの板状体からなる放熱部品。
14.板状体の表面にめっきを施してなる上記13に記載の放熱部品。
15.上記13又は14に記載の放熱部品に、絶縁部材及び電気的に接続される金属部材を介して、LEDチップが搭載されたLEDパッケージ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱膨張係数、熱伝導率、耐酸化性、めっき性などの点で優れた特性を維持しながら強度特性(特に、曲げ強度)が顕著に改善された、高輝度LEDパッケージの基板などとして好適なアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体及び溶湯鍛造によるその製造方法が提供される。また、鱗片状黒鉛粉末を含む黒鉛粉末を使用する場合は、成形体の成形方向に対して垂直方向の熱伝導率が顕著に向上したアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体となるので、高輝度LED用基板等の放熱部品としてさらに優位なアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
金属とセラミックスの複合体の製造方法は、大別すると粉末冶金法と含浸法の2種類がある。粉末冶金法は熱伝導率等の特性面に十分なものを得るのが難しいことから、実際には含浸法を用いるものが多い。含浸法には非加圧含浸法と溶湯鍛造法やダイキャスト法等の加圧鋳造法などがあるが、本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は生産性や品質安定化の点から溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金を用いる溶湯鍛造法により製造される。
【0013】
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体に含有される黒鉛粉末は、熱伝導性が高い石油コークス系炭素(例えばニードルコークス)を黒鉛化した人造黒鉛を粉砕したものが好ましい。また、黒鉛粉末の固定炭素分は好ましくは98.5質量%以上、より好ましくは99.0質量%以上のものが好適である。固定炭素分が98.5質量%よりも低いと得られる複合体の熱伝導率が低下するので好ましくない。
黒鉛粉末の粒子形状については、人造黒鉛粉末等の破砕粉形状、好ましくは石油コークス系炭素を黒鉛化した人造黒鉛の破砕粉は、針状のニードルコークスを含むので配向しやすく、成形方向に対して垂直方向の熱伝導率を良好にするので好適である。特に、鱗片状黒鉛は配向しやすく、成形方向に対して垂直方向が極めて大きい熱伝導率を有する成形体が得られるので好ましい。また、押出黒鉛材の場合は配向方向が押出方向(1方向)であるのに対して、成形方向に対して垂直方向(2方向)に黒鉛が配向しやすく、板状の放熱基板として好適である。
鱗片状黒鉛は、使用される黒鉛粉末全体の好ましくは20質量%以上、特に好ましくは40質量%以上使用されるのが好適である。鱗片状黒鉛が過度に使用される場合には、強度が低くなるので、好ましくは80質量%以下、特には70質量%以下であるのが好ましい。特に本発明では、鱗片状黒鉛が使用される場合、他の黒鉛粉末は、人造黒鉛粉末であるのが好適である。
【0014】
本発明で使用される炭化珪素(SiC)粉末は、気相法、アチソン法等のいずれの製造方法による粉末を用いることができる。炭化珪素粉末の平均粒径は重要であり、100μm以下である必要がある。ここで、平均粒径とは、粉体をある粒子径から2つに分けた場合、大きい側と小さい側が等しい体積量となる直径のことで、メディアン径(D50とも標記される)で表されるものである。
炭化珪素粉末の平均粒径が100μmよりも大きいと、得られるアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の機械加工性が悪化するとともに、加工工具の消耗が激しくなったり、強度発現性に乏しくなる場合がある。炭化珪素粉末の平均粒径はより好ましくは70μm以下、特に好ましくは20μm以下であると、得られる複合体の強度が顕著に大きくできるので好適である。炭化珪素粉末の平均粒径は小さい方が好ましいが、通常は、1μm以上である。
【0015】
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の形成に使用される、黒鉛と炭化珪素の成形体中の炭化珪素粉末の含有量は好ましくは10〜40体積%、より好ましくは15〜25体積%である。この含有量が10体積%より少ないと、複合体の強度が40MPa以上にするのが困難であり、また、40体積%より多いと得られる複合体の機械加工性が悪化するとともに200W/(m・K)以上の熱伝導率が発現しにくくなる。
また、本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の形成に使用される、黒鉛と炭化珪素の成形体中の黒鉛粉末の含有量は好ましくは60〜90体積%、より好ましくは75〜85体積%である。この含有量が60体積%より小さい場合には、熱伝導率が低下してしまい、また、90体積%よりも大きい場合には、強度特性が低下してしまい、いずれも本発明の目的とを達成できない。
【0016】
本発明で使用されるアルミニウムとしては、アルミニウムの純金属でもよいが、例えばシリコンを好ましくは7〜25質量%、より好ましくは7〜17質量%含有するアルミニウム合金が好ましい。アルミニウム合金の場合には、その溶融金属は湯流れがよく(粘性が低い)、成形体への加圧含浸の際に空隙内や粒子内の気孔に十分に浸透するためである。アルミニウム合金中には、アルミニウム、シリコン以外の金属成分のほかに、極端に特性が変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えば、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、鉄、クロム及びチタン等が含まれていてもよい。
【0017】
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、黒鉛粉末と炭化珪素粉末との混合粉末を成形して成形体を形成し、次いで、該成形体に溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金を溶湯鍛造法により加圧含浸することにより製造される。成形体における、黒鉛粉末の含有量が60〜90体積%、好ましくは75〜85体積%であり、炭化珪素粉末の含有量が10〜40体積%、好ましくは15〜25体積%である。黒鉛粉末と炭化珪素粉末の含有量をそれぞれ上記の範囲にする理由は、かかる成形体に含まれる黒鉛粉末の量と炭化珪素粉末の量の比率が最終的に得られるアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体における量の比率になるからである。なかでも、成形体における、黒鉛粉末の含有量が好ましくは75〜85体積%であり、炭化珪素粉末の含有量が好ましくは15〜25体積%であるのが好適である。
上記の成形体を得るための成形方法は特に限定されるものではなく、プレス成形、押出し成形、鋳込み成形等の公知の方法が使用できる。上記成形体の形状は、板状、円盤状、角柱状、円柱状、円筒状、角筒状、球状などの最終的に製造される複合体の用途に適した形状が採用される。成形する場合の成形圧力は、好ましくは20MPa以上、より好ましくは50〜200MPaの圧力が選ばれる。
【0018】
成形体を得る場合、成形直後の保形性や、成形体における高い粉体の充填率(以下、Vfともいう)を維持するために、ポリビニルアルコール(PVA)、エポキシ樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂などのバインダー(結合剤)を使用することができる。Vfは,好ましくは70体積%以上、特には75体積%以上が好ましい。
本発明では、上記黒鉛粉末と炭化珪素粉末との混合粉末を使用する場合。この混合粉末を金属、セラミックス製などの成形治具に充填し、好ましくは20MPa以上の圧力でプレス成形し、次いで、成形体を抜き出さずにそのままの状態で成形治具と一緒にアルミニウム又はその合金を含浸することで、バインダーを使用せずに高いVfの成形体を得ることもできる。成形圧力は20MPa以上でないと、混合する炭化ケイ素粉末によってはVfが70体積%を満たさない場合がある。
この際、成形後の後工程でのVfの変化を抑制するために、成形治具を溶接やボルト等で固定してもよい。また、溶融したアルミニウム又はその合金が金型内に容易に注入できるように、穴を開けた治具を使用してもよい。
【0019】
上記成形体の気孔率は好ましくは10〜30体積%、より好ましくは15〜25体積%が好適である。気孔率が10体積%より低いと溶融したアルミニウム又はその合金が成形体の中に十分に含浸せず、気孔が残ってしまうため、最終的に得られる複合体の物性が低下したり、又は不均一になる場合がある。また、気孔率が30体積%より高いと黒鉛粉末の含有量が低下するため熱伝導性が低下したり、最終的に得られる複合体の熱膨張係数が大きくなり過ぎる場合がある。なお、ここで、成形体の気孔率はVfの残部になることから、100体積%からVfを引くことで求めることができる。
【0020】
得られた成形体には、次いで、溶融したアルミニウム又はその合金を注湯し溶湯鍛造によりアルミニウム又はその合金を加圧含浸させる。この場合、成形体は金型内に配置された後、好ましくは不活性雰囲気において、金型と一緒に予備加熱される。不活性雰囲気としては、アルゴンガス、窒素ガスなどが使用できる。また、予備加熱は、アルミニウム又はその合金の融点以上の温度、好ましくは融点よりも100℃以上高い温度、さらに好ましくは融点より100〜250℃高い温度に保持することにより行われる。
【0021】
次いで、予備加熱した成形体に対して、アルミニウム又はその合金を融点よりも好ましくは100〜150℃高い温度で溶融し、注湯する。溶融金属は加圧装置を用いて加圧し溶湯鍛造により溶融したアルミニウム又はその合金を成形体に加圧含浸させる。この場合の加圧の大きさは10MPa以上、好ましくは20〜100MPaである。圧力が、10MPaより小さいと効率よく溶融金属の含浸が行われず、金属充填率が低下するおそれがある。
【0022】
本発明では、溶融したアルミニウム又はその合金の加圧含浸時に基因する得られる複合体の歪み除去のために好ましくはアニール処理が施される。アニール処理は、含浸に用いたアルミニウム又はその合金の溶融温度未満の温度でアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理は、400〜550℃の温度で10分以上行うのが好ましい。アニール温度が400℃未満であると、複合体内部の歪みが十分に開放されず形状が大きく変化してしまう場合がある。一方、アニール温度が550℃を超えると、含浸に用いたアルミニウム又はその合金が溶融する場合がある。アニール時間が10分未満であると、アニール温度が400℃〜550℃であっても複合体内部の歪みが十分に除去できない場合がある。また、降温は急冷より徐冷の方が歪み除去には好適であり、5℃/min以下の速度が好ましい。アニール回数は単数より、複数回行った方がより内部の歪みまで開放できるためより好ましい。
【0023】
得られたアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体を、必要に応じて板状に加工する場合、その方法については特に限定されず、公知のバンドソーやダイヤモンドカッターによる加工やワイヤーカットで加工してもよい。その際の切り代をできるだけ少なくする方法としてはワイヤーカットを使用することで、切り代を0.1〜0.2mm程に低減でき、より高い収率で板状のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体を得ることができる。
【0024】
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は必要に応じてめっき処理を行うことができる。めっき処理方法は特に限定されず、無電解めっき処理、電気めっき処理法のいずれでもよい。めっきの種類についてはNi、Cu、Ni+Cu等の一般的なめっきがあげられ、密着性が確保されるめっきであれば特に制限はない。また、めっきの厚みは1〜20μmであることが好ましい。めっき厚みが1μm未満では、めっきのピンホールが多く発生し、外観上の不都合が生じる場合がある。一方、めっきの厚みが20μmを超えると、めっき膜とアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体との熱膨張係数の違いによりめっき剥離が発生する場合がある。
【0025】
上記のようにして得られた本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の気孔率は好ましくは5体積%以下、より好ましくは3体積%以下である。気孔率が5体積%を超えると、熱伝導率や強度等が低下する場合がある。また、その密度は好ましくは2.2〜2.6g/cmのより好ましくは2.3〜2.5g/cmである。
本発明において、黒鉛粉末として、コークス系炭素を原料として黒鉛化した人造黒鉛粉末を用いたアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、熱膨張係数が12×10−6/K以下であり、気孔率が5体積%以下であり、密度が2.2〜2.6g/cmであり、熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、かつ、強度が40MPa以上という優れた特性を有する。
また、黒鉛粉末として、上記の人造黒鉛粉末と鱗片状黒鉛粉末との混合物を用いたアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、熱膨張係数が12×10−6/K以下であり、気孔率が5体積%以下であり、密度が2.2〜2.6g/cmであり、かつ成形体の成形方向に対して垂直方向の熱伝導率が250W/(m・K)以上、水平方向の熱伝導率が垂直方向の熱伝導率の30〜70%であり、かつ強度が20MPa以上という優れた特性を有する。
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、上記のように、優れた熱膨張係数、熱伝導率、耐酸化性とともに、強度特性が顕著に改善され、特にLEDパッケージの基板などとして好適である。
すなわち、LEDを実装する基板部分の熱伝導率はLEDの輝度、寿命に大きな影響を及ぼし、基板部分の熱伝導率が低いとLEDのチップ部分の温度が上昇し、輝度や寿命の低下に繋がる。本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、熱伝導率として、200W/(m・K)以上、特に、250W/(m・K)以上を有するのでLEDパッケージの基板材料として極めて有用である。
【0026】
また、LEDを実装する際のハンドリング時のカケや、放熱フィン装着時の締付けによる破損、更には自動車等の振動がある過酷な使用環境下でのカケを抑制する必要があるが、本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、曲げ強度が20MPa以上、特には40MPa以上有するので極めて有用である。
【0027】
さらに、LEDのチップ部分又はセラミックスからなる電子回路部と基板部分との熱膨張係数差が大きいと、使用時の温度上昇に伴う熱膨張差により接合部分が剥離する場合があるが、本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、熱膨張係数が12×10−6/K以下であるので十分に機能する。
【0028】
また、本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体を用いた放熱部品は、放熱フィン等に装着する際に必要な強度を兼ね備えており、また、放熱性に優れるためLEDの基板材料として用いることにより、LEDチップ部分の温度上昇が少なく、LED自体の高輝度化及び、超寿命化の効果を奏する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるべきではないことはもちろんである。
【0030】
(実施例1)
人造黒鉛粉末(小林商事社製:DSC−A、固定炭素分:99.25%)1000gと、炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NC2000、平均粒径:7μm)365g(20体積%)とを10分間手混合した。次いで、その混合物を、円筒状(内径100mm、高さ150mm)の鉄製容器内に充填し、湯口用の穴があいた鉄板で上下を挟み込んだ状態でVfが80体積%になるように、圧力80MPaでプレス成形することにより、円柱状(直径100mm、高さ90mm)成形体を得た。なお、成形後に上記鉄製容器と、該容器の上下に配置していた鉄板とを溶接し密封した。
【0031】
得られた成形体を鉄製容器内に保持した状態で、窒素雰囲気下で、700℃、2時間予熱した。次にそれを予め加熱しておいた円筒状(内径200mm、高さ300mm)のプレス型内に収め、アルミニウム合金(日本軽金属社製AC3A、融点580℃)の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で10分間加圧して成形体にアルミニウム合金を含浸させた。
室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて鉄製容器を切断し、含浸時のひずみ除去の為に450℃で3時間アニール処理を行いアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を得た。
【0032】
得られたアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体から、研削加工により熱膨張係数測定用試験体(縦20mm、横4mm、厚み4mmの板状体)、熱伝導率測定用試験体(縦5mm、横5mm、厚み1mmの板状体)、強度測定用試験体(縦40mm、横4mm、厚み3mmの板状体)を作製した。
それぞれの試験体を用いて、25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(株式会社リガク製;TMA8310)により、25℃の熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;TC−7000)により、25℃の3点曲げ強度を抗折強度計(今田製作所製;SV−301)により測定した。密度はアルキメデス法にて算出した。気孔率はアルキメデス法により求めた密度を理論密度で除して、相対密度を算出し求めた。結果を表1に示す。
【0033】
また、上記で得られたアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体をダイヤモンドカッターで板状に加工し、縦80mm、横80mm、厚み1mmの板状体を切り出した。さらに、この板状のアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体に絶縁層として、厚み80μmのラムダイト及び、厚み35μmのCu箔を貼り付け後、エッチングで回路を形成し、LEDチップを接着剤で接合した後、ワイヤーボンディングで外部導出用導電パターンと接合して、LEDパッケージを製作した。
【0034】
(実施例2)
上記実施例1で得られた板状のアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体の表面を、ブラスト表面研磨機を用いてアルミナ砥粒で表面研磨(圧力:0.2MPa、搬送速度:1.0m/min)した後、めっき処理を行った。該めっき処理により複合体の表面に無電解Ni−Pを9μm施した。このめっき処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてLEDパッケージを勢作した。
【0035】
(実施例3)
実施例1において、成形体を得る場合に使用した炭化珪素粉末の使用量を10体積%としたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、その評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
(実施例4)
実施例1において、成形体を得る場合に使用した炭化珪素粉末の使用量を30体積%としたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例5)
実施例1において、成形体を得る場合に使用した炭化珪素粉末の使用量を40体積%としたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例6)
実施例1における人造黒鉛粉末の代わりに、固定炭素分が98.5%の人造黒鉛粉末(東洋炭素社製:人造黒鉛粉末#20〜#30)を1000g使用したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例7)
実施例1における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が48μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NC#280)を365g使用としたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例8)
実施例1における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が12μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NC#1000)を365g使用したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例9)
実施例1における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が2μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NC#6000)を365g使用したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例10)
実施例1において、人造黒鉛粉末(小林商事社製:DSC−A、固定炭素分:99.25%)1000gの代わりに、この人造黒鉛粉末300gと、鱗片状黒鉛粉末(伊藤黒鉛工業社製:Z+80、固定炭素分:99.7%)700gとの混合物(鱗片状黒鉛粉末添加量:70質量%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
(実施例11)
実施例10において、鱗片状黒鉛粉末の添加量を20質量%としたこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0044】
(実施例12)
実施例10において鱗片状黒鉛粉末の添加量を50質量%としたこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
(実施例13)
実施例10において、鱗片状黒鉛粉末を100質量%使用したこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
(実施例14)
実施例10における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が48μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NC#280)を使用したこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
(実施例15)
実施例10における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が12μmの炭化珪素粉末(NC#1000)を使用したこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
(実施例16)
実施例10における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が2μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NC#6000)を使用したこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
(比較例1)
実施例1における炭化珪素粉末の代わりに、平均粒径が150μmの炭化珪素粉末(大平洋ランダム社製:NG#100)を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例2)
実施例1における炭化珪素粉末の使用量を70体積%としたこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。また、この比較例2で得られたアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体は切断加工時のダイヤモンドカッターの砥石の磨耗が激しく、更に通常のバンドソーでは金属刃の磨耗が激しすぎて平板に切断することができなかった。
【0051】
(比較例3)
実施例1において炭化珪素粉末を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例4)
実施例1において、黒鉛粉末と炭化珪素粉末を使用した成形体の代りに、押出成形黒鉛体(東海カーボン社製:G159、100mm×100mm×100mmの板状体)を使用して鉄製の簡易治具内に積層したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛質複合体を作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例5)
添加する炭化珪素粉末を大平洋ランダム社製:NG#100、平均粒径:150μmとしたこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛−炭化珪素質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
(比較例6)
実施例10において、炭化珪素粉末を添加しなかったこと以外は、実施例10と同様にしてアルミニウム合金−黒鉛質複合体を作製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体は、熱膨張係数、熱伝導率、耐酸化性、めっき性などの点で優れた特性を維持しながら、かつ顕著に改善した強度特性(特に曲げ強度)を有するので、LEDパッケージの基板、混合集積回路用のベース板等の放熱板などとして広範な分野で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粉末を60〜90体積%、平均粒径が100μm以下の炭化珪素粉末を10〜40体積%を含み、気孔率が10〜30体積%である成形体に、アルミニウム又はアルミニウム合金を溶湯鍛造法により加圧含浸させてなることを特徴とするアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【請求項2】
黒鉛粉末が、コークス系炭素を黒鉛化した人造黒鉛であり、固定炭素分が98.5%以上である請求項1に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【請求項3】
黒鉛粉末が、鱗片状黒鉛粉末を20〜100質量%含む請求項1又は2に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【請求項4】
炭化珪素粉末の平均粒径が20μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【請求項5】
熱膨張係数が12×10−6/K以下であり、気孔率が5体積%以下であり、かつ密度が2.2〜2.6g/cmである請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【請求項6】
熱伝導率が200W/(m・K)以上であり、かつ曲げ強度が40MPa以上である請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体。
【請求項7】
成形体の成形方向に対し、垂直方向の熱伝導率が250W/(m・K)以上であり、かつ水平方向の熱伝導率が垂直方向の熱伝導率の30〜70%である請求項1〜6のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素複合体。
【請求項8】
黒鉛粉末60〜90体積%と平均粒径が100μm以下の炭化珪素粉末を10〜40体積%の混合粉末を成形し、気孔率が10〜30体積%である成形体を形成し、次いで、該成形体を不活性雰囲気中において予熱し、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金を20MPa以上の圧力で加圧含浸することを特徴とするアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項9】
混合粉末を成形治具に充填し、20MPa以上の圧力でプレス成形し、得られた成形体を成形治具から取り出さずにアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸する請求項8に記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のアルミニウム−黒鉛−炭化珪素質複合体の厚み0.5mm〜5.0mmの板状体からなる放熱部品。
【請求項11】
板状体の表面にめっきを施してなる請求項8に記載の放熱部品。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の放熱部品に、絶縁部材及び電気的に接続される金属部材を介して、LEDチップが搭載されたLEDパッケージ。

【公開番号】特開2009−248164(P2009−248164A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101080(P2008−101080)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(000127592)株式会社エー・エム・テクノロジー (9)
【Fターム(参考)】