アルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材
【目的】軸方向の圧縮荷重が負荷された場合、安定して座屈変形しながら確実にエネルギーを吸収することが可能な軽量のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材を提供する。
【構成】調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材の外殻部の形状は断面正方形または長方形で、中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2のものであり、中空形材の断面には、それぞれ1000〜4000mm2の断面積を有しリブで区画された中空部が2つ以上設けられており、中空形材における各辺の平均肉厚をt(mm)、中空形材の外郭部とリブとの結合部のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足することを特徴とする。
【構成】調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材の外殻部の形状は断面正方形または長方形で、中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2のものであり、中空形材の断面には、それぞれ1000〜4000mm2の断面積を有しリブで区画された中空部が2つ以上設けられており、中空形材における各辺の平均肉厚をt(mm)、中空形材の外郭部とリブとの結合部のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材、詳しくは、自動車が衝突した場合の衝突エネルギーを吸収して搭乗者の安全を確保するために、車体の上部構造などに取付けられるアルミニウム合金中空形材製の自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材に関する。
【0002】
従来、衝突時のエネルギーを吸収して搭乗者の保護を図るためのエネルギー吸収部材は、鋼の板材をプレス成形し、スポット溶接などにより箱形状に形成されている。この部材は、衝撃により軸方向の圧縮荷重を受けた場合、図10の圧縮荷重−部材変位線図に示すように、最大圧縮荷重に達すると急速に荷重が減少し、部材の端部から蛇腹状に変形し、塑性座屈が進行して衝撃エネルギーを吸収する。この場合、圧縮荷重−部材変位線図における平均圧縮荷重(以下、単に平均荷重という)が高いほど、より多くのエネルギーを吸収することが可能である。
【0003】
近年、環境問題から自動車車体重量の軽減が提唱されており、車体構成部材である衝撃エネルギー吸収部材についても、従来の鋼板製の箱形部材に代わり、さらに軽量で且つエネルギー吸収の高い部材が要求され、この要求を満たすためにアルミニウム合金の使用が試みられている。断面形状設計の自由度が高いアルミニウム合金中空形材をエネルギー吸収部材として使用する場合、軽量で且つ平均荷重が高いほど単位質量当たりのエネルギー吸収量が大きくなる。
【0004】
一般的に、平均荷重を大きくして優れたエネルギー吸収効率を得るためには、平均荷重と中空形材の断面積の比、(平均荷重/中空形材断面積)が高い方が望ましく、中空形材の断面に2つ以上の中空部を設ける手法があり、例えば、長方形の外郭部に対して、中空部をリブで区画した日型断面形状の中空形材においては、図11に示すように、リブを境界として外郭部が交互に蛇腹変形することにより、良好なエネルギー吸収特性を得ている(非特許文献1参照)。
【0005】
アルミニウム合金押出角管においては、アルミニウム合金押出角管の角部の内側肉厚を辺部の肉厚より大きくして、(平均荷重/中空形材断面積)の増大、すなわち単位重量当たりの平均荷重を大きくして、エネルギー吸収特性を向上させることも提案されている(特許文献1参照)が、角管形状のものではエネルギー吸収量が小さく、十分なエネルギー吸収特性の向上を得るには限界がある。
【0006】
また、Al−Mg−Si系合金からなる断面矩形状の中空押出材において、四辺の最大肉厚と最小肉厚の肉厚比を1〜1.4、幅厚比(平均肉厚/各辺の平均幅(=長さ))を0.1以下とすることにより、軸圧壊特性に優れたエネルギー吸収部材(特許文献2参照)も提案されており、軸方向の圧縮荷重を受けたとき、圧壊割れを生じることなく蛇腹変形可能な特定組成と特定組織を有するAl−Mg−Si系合金の押出材(特許文献3参照)も提案されているが、より軽量で且つより高いエネルギー吸収をそなえたメンバーに対する要請をこたえるためには、さらに改善の必要がある。
【非特許文献1】住友軽金属技報、第37巻、第3号、第4号(1996年)、190〜200頁
【特許文献1】特開平9−254808号公報
【特許文献2】特開平11−193433号公報
【特許文献3】特開2002−285272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、アルミニウム合金押出形材からなるエネルギー吸収部材における上記従来の問題点を解決するために、先に、従来提案されているエネルギー吸収部材をベースとして、肉厚、各辺の長さや断面積等と吸収エネルギー、変形形態の関係について検討を加えた結果として、調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材は1つの中空部を有する断面正方形または長方形で、2mmを越える肉厚をそなえ、中空部を除く断面積は350mm2 以上のものであり、中空形材の断面における各辺の平均長さをa、コーナー部の半径をR、各辺の平均肉厚をtとしたとき、0<R/a≦0.2、t/a≦0.2、R/a<5×(t/a)−0.37の関係を満足することを特徴とするアルミニウム合金製自動車フレーム用エネルギー吸収部材を提案した(特願2003−357416号)。
【0008】
本発明は、上記提案のエネルギー吸収部材をさらに改良したものであり、その目的は、軸方向の圧縮荷重を受けたとき、安定して座屈変形し、さらにエネルギー吸収量を大きくすることを可能とするアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の請求項1によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材の外殻部の形状は断面正方形または長方形で、中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2のものであり、中空形材の断面には、それぞれ1000〜4000mm2の断面積を有しリブで区画された中空部が2つ以上設けられており、中空形材における各辺の平均肉厚をt(mm)、中空形材の外郭部とリブとの結合部のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足することを特徴とする。
【0010】
請求項2によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、請求項1において、前記中空形材に対して軸方向の圧縮荷重を負荷したときの単位断面積当たりの平均荷重が110N/mm2 以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項3によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、請求項1または2において、前記リブで区画された中空部が断面正方形または長方形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸方向の圧縮荷重が負荷された場合、安定して座屈変形しながら効率よくエネルギーを吸収することが可能な軽量のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなる。熱処理型アルミニウム合金としては、例えばAl−Zn−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金が適用され、これらのアルミニウム合金は押出後の調質としてT5処理あるいはT6処理を施すのが好ましい。
【0014】
図11に示すように、中空形材1は、リブ2で区画された2つ以上(図2では2つ)の中空部3、3を有する外殻の断面形状が正方形または長方形のもので、中空形材1の中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2、中空部3、3の断面積はそれぞれ1000〜4000mm2であり、中空形材1の各辺の平均肉厚をt(mm)、外殻部4とリブ2との結合部5のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足するよう設計される。
【0015】
各辺の平均肉厚tが3.2mmより大きいと、部材全体の重量が必要以上に増加して軽量化の妨げとなり、蛇腹変形時に中空形材に発生する応力が大きくなって割れが生じ易くなる。平均肉厚が1.5mm未満では、軸方向への圧縮変形に対して各辺が弾性座屈して平均荷重が低くなり、その結果、一般的な自動車に必要とされるエネルギー吸収特性を得ることが難しくなる。より好ましい各辺の平均肉厚は3.2mm≧t≧2.4mmであり、さらに効果的にエネルギーを吸収することができる。
【0016】
外殻部4とリブ2との結合部5のコーナー部の半径Rと平均肉厚tの比は3.5≧R/t≧1.5の関係を有することが好ましく、結合部5の剛性が大きくなって、蛇腹変形時の平均荷重を高くすることが可能となり、図11に示すように、結合部5が複雑に折り畳まれながら蛇腹変形する。
【0017】
R/tが3.5より大きいと、結合部5の剛性は高くなり過ぎて、リブ2を境界として外殻部4が交互に蛇腹変形することができず、安定したエネルギー吸収特性を得ることが難しくなり、R/tが1.5未満では、結合部5の剛性を高める効果が不十分となり、平均荷重の上昇量も少なくなる。
【0018】
中空部3を含む全断面積が3000mm2未満の場合、中空部3の断面積が4000mm2を超える場合には、中空形材の実質的な断面積が小さくなって平均荷重が低くなり、その結果、一般的な自動車に必要とされるエネルギー吸収特性を得ることが難しくなる。一方、中空部3を含む全断面積が8000mm2を超える場合、中空部3の断面積が1000mm2を未満の場合には、部材全体の質量が必要以上に増加し、軽量化の効果が小さくなる。
【0019】
中空形材1の中空部3は断面正方形または長方形に形成するのが好ましく、安定して蛇腹変形し、確実にエネルギーを吸収することができる。また、中空部材を自動車フレーム用エネルギー吸収部材として適用する場合には、軸方向の圧縮荷重を受けたときの単位断面積当たりの平均荷重は110N/mm2以上とすることが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
表1に示す組成を有するアルミニウム合金のビレットを、図1〜8に示す形状、表2に示す寸法の日型断面形状の中空形材に押出加工し、押出加工後、T6調質して長さ300mmに切断して試験材とした。試験材は、図1のものが発明材1、図2のものが発明材2、図3のものが発明材3、図4のものが発明材4、図5のものが比較材1、図6のものが比較材2、図7のものが比較材3、図8のものが比較材4である。
【0022】
得られた試験材について、試験速度1mm/秒で静的軸圧縮試験を行った。インストロン型万能試験機の台座に各試験材を設置して、加圧盤により圧縮荷重を負荷し、加圧盤にかかる荷重−変位線図を記録した。なお、使用する試験機は、圧縮荷重を負荷することが可能であれば、どのような試験機を使用しても同様の結果が得られること、また試験機台座と加圧盤は、試験材への接触面が平行であれば、形状にかかわらず同様な結果が得られることが確認されている。
【0023】
試験結果を表3および図9に示す。本発明に従う試験材の発明材1〜4はいずれも、表3および図9にみられるように、安定して蛇腹変形し、単位重量当たりの平均荷重も110N/mm2を超える値を示しており、優れたエネルギー吸収特性を有することが確認された。なお、外殻部の断面が正方形または長方形またはこれらに近い形状であれば、外殻部のコーナーの半径Rの大きさにかかわらず、本発明の効果が得られること、また、押出加工後にT5調質した場合にも本発明の効果が得られることが確認された。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
これに対して、試験材の比較材1は、軸圧縮変形中に蛇腹変形形態が乱れて横折れ変形したため、安定したエネルギー吸収特性を得ることができなかった。比較材2〜4は、安定した蛇腹変形が生じたものの、R/tが1.5未満であるため、外殻部4とリブ2との結合部5の剛性が十分でなく、平均荷重が低くなっており、エネルギー吸収特性が劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図2】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図5】比較材を示す断面図である。
【図6】比較材を示す断面図である。
【図7】比較材を示す断面図である。
【図8】比較材を示す断面図である。
【図9】試験材の単位断面積当たりの平均荷重を示す図である。
【図10】中空状のエネルギー吸収部材が衝撃により縦方向の圧縮荷重を受けた場合における圧縮荷重−部材変位線図である。
【図11】本発明によるエネルギー吸収部材の概略断面と軸方向の圧縮荷重を受けた場合における変形形態を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 中空部材
2 リブ
3 中空部
4 外殻部
5 結合部
R 外殻部とリブの結合部のコーナー部の半径
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材、詳しくは、自動車が衝突した場合の衝突エネルギーを吸収して搭乗者の安全を確保するために、車体の上部構造などに取付けられるアルミニウム合金中空形材製の自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材に関する。
【0002】
従来、衝突時のエネルギーを吸収して搭乗者の保護を図るためのエネルギー吸収部材は、鋼の板材をプレス成形し、スポット溶接などにより箱形状に形成されている。この部材は、衝撃により軸方向の圧縮荷重を受けた場合、図10の圧縮荷重−部材変位線図に示すように、最大圧縮荷重に達すると急速に荷重が減少し、部材の端部から蛇腹状に変形し、塑性座屈が進行して衝撃エネルギーを吸収する。この場合、圧縮荷重−部材変位線図における平均圧縮荷重(以下、単に平均荷重という)が高いほど、より多くのエネルギーを吸収することが可能である。
【0003】
近年、環境問題から自動車車体重量の軽減が提唱されており、車体構成部材である衝撃エネルギー吸収部材についても、従来の鋼板製の箱形部材に代わり、さらに軽量で且つエネルギー吸収の高い部材が要求され、この要求を満たすためにアルミニウム合金の使用が試みられている。断面形状設計の自由度が高いアルミニウム合金中空形材をエネルギー吸収部材として使用する場合、軽量で且つ平均荷重が高いほど単位質量当たりのエネルギー吸収量が大きくなる。
【0004】
一般的に、平均荷重を大きくして優れたエネルギー吸収効率を得るためには、平均荷重と中空形材の断面積の比、(平均荷重/中空形材断面積)が高い方が望ましく、中空形材の断面に2つ以上の中空部を設ける手法があり、例えば、長方形の外郭部に対して、中空部をリブで区画した日型断面形状の中空形材においては、図11に示すように、リブを境界として外郭部が交互に蛇腹変形することにより、良好なエネルギー吸収特性を得ている(非特許文献1参照)。
【0005】
アルミニウム合金押出角管においては、アルミニウム合金押出角管の角部の内側肉厚を辺部の肉厚より大きくして、(平均荷重/中空形材断面積)の増大、すなわち単位重量当たりの平均荷重を大きくして、エネルギー吸収特性を向上させることも提案されている(特許文献1参照)が、角管形状のものではエネルギー吸収量が小さく、十分なエネルギー吸収特性の向上を得るには限界がある。
【0006】
また、Al−Mg−Si系合金からなる断面矩形状の中空押出材において、四辺の最大肉厚と最小肉厚の肉厚比を1〜1.4、幅厚比(平均肉厚/各辺の平均幅(=長さ))を0.1以下とすることにより、軸圧壊特性に優れたエネルギー吸収部材(特許文献2参照)も提案されており、軸方向の圧縮荷重を受けたとき、圧壊割れを生じることなく蛇腹変形可能な特定組成と特定組織を有するAl−Mg−Si系合金の押出材(特許文献3参照)も提案されているが、より軽量で且つより高いエネルギー吸収をそなえたメンバーに対する要請をこたえるためには、さらに改善の必要がある。
【非特許文献1】住友軽金属技報、第37巻、第3号、第4号(1996年)、190〜200頁
【特許文献1】特開平9−254808号公報
【特許文献2】特開平11−193433号公報
【特許文献3】特開2002−285272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、アルミニウム合金押出形材からなるエネルギー吸収部材における上記従来の問題点を解決するために、先に、従来提案されているエネルギー吸収部材をベースとして、肉厚、各辺の長さや断面積等と吸収エネルギー、変形形態の関係について検討を加えた結果として、調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材は1つの中空部を有する断面正方形または長方形で、2mmを越える肉厚をそなえ、中空部を除く断面積は350mm2 以上のものであり、中空形材の断面における各辺の平均長さをa、コーナー部の半径をR、各辺の平均肉厚をtとしたとき、0<R/a≦0.2、t/a≦0.2、R/a<5×(t/a)−0.37の関係を満足することを特徴とするアルミニウム合金製自動車フレーム用エネルギー吸収部材を提案した(特願2003−357416号)。
【0008】
本発明は、上記提案のエネルギー吸収部材をさらに改良したものであり、その目的は、軸方向の圧縮荷重を受けたとき、安定して座屈変形し、さらにエネルギー吸収量を大きくすることを可能とするアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の請求項1によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材の外殻部の形状は断面正方形または長方形で、中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2のものであり、中空形材の断面には、それぞれ1000〜4000mm2の断面積を有しリブで区画された中空部が2つ以上設けられており、中空形材における各辺の平均肉厚をt(mm)、中空形材の外郭部とリブとの結合部のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足することを特徴とする。
【0010】
請求項2によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、請求項1において、前記中空形材に対して軸方向の圧縮荷重を負荷したときの単位断面積当たりの平均荷重が110N/mm2 以上であることを特徴とする。
【0011】
請求項3によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、請求項1または2において、前記リブで区画された中空部が断面正方形または長方形であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸方向の圧縮荷重が負荷された場合、安定して座屈変形しながら効率よくエネルギーを吸収することが可能な軽量のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材は、調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなる。熱処理型アルミニウム合金としては、例えばAl−Zn−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金が適用され、これらのアルミニウム合金は押出後の調質としてT5処理あるいはT6処理を施すのが好ましい。
【0014】
図11に示すように、中空形材1は、リブ2で区画された2つ以上(図2では2つ)の中空部3、3を有する外殻の断面形状が正方形または長方形のもので、中空形材1の中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2、中空部3、3の断面積はそれぞれ1000〜4000mm2であり、中空形材1の各辺の平均肉厚をt(mm)、外殻部4とリブ2との結合部5のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足するよう設計される。
【0015】
各辺の平均肉厚tが3.2mmより大きいと、部材全体の重量が必要以上に増加して軽量化の妨げとなり、蛇腹変形時に中空形材に発生する応力が大きくなって割れが生じ易くなる。平均肉厚が1.5mm未満では、軸方向への圧縮変形に対して各辺が弾性座屈して平均荷重が低くなり、その結果、一般的な自動車に必要とされるエネルギー吸収特性を得ることが難しくなる。より好ましい各辺の平均肉厚は3.2mm≧t≧2.4mmであり、さらに効果的にエネルギーを吸収することができる。
【0016】
外殻部4とリブ2との結合部5のコーナー部の半径Rと平均肉厚tの比は3.5≧R/t≧1.5の関係を有することが好ましく、結合部5の剛性が大きくなって、蛇腹変形時の平均荷重を高くすることが可能となり、図11に示すように、結合部5が複雑に折り畳まれながら蛇腹変形する。
【0017】
R/tが3.5より大きいと、結合部5の剛性は高くなり過ぎて、リブ2を境界として外殻部4が交互に蛇腹変形することができず、安定したエネルギー吸収特性を得ることが難しくなり、R/tが1.5未満では、結合部5の剛性を高める効果が不十分となり、平均荷重の上昇量も少なくなる。
【0018】
中空部3を含む全断面積が3000mm2未満の場合、中空部3の断面積が4000mm2を超える場合には、中空形材の実質的な断面積が小さくなって平均荷重が低くなり、その結果、一般的な自動車に必要とされるエネルギー吸収特性を得ることが難しくなる。一方、中空部3を含む全断面積が8000mm2を超える場合、中空部3の断面積が1000mm2を未満の場合には、部材全体の質量が必要以上に増加し、軽量化の効果が小さくなる。
【0019】
中空形材1の中空部3は断面正方形または長方形に形成するのが好ましく、安定して蛇腹変形し、確実にエネルギーを吸収することができる。また、中空部材を自動車フレーム用エネルギー吸収部材として適用する場合には、軸方向の圧縮荷重を受けたときの単位断面積当たりの平均荷重は110N/mm2以上とすることが望ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
表1に示す組成を有するアルミニウム合金のビレットを、図1〜8に示す形状、表2に示す寸法の日型断面形状の中空形材に押出加工し、押出加工後、T6調質して長さ300mmに切断して試験材とした。試験材は、図1のものが発明材1、図2のものが発明材2、図3のものが発明材3、図4のものが発明材4、図5のものが比較材1、図6のものが比較材2、図7のものが比較材3、図8のものが比較材4である。
【0022】
得られた試験材について、試験速度1mm/秒で静的軸圧縮試験を行った。インストロン型万能試験機の台座に各試験材を設置して、加圧盤により圧縮荷重を負荷し、加圧盤にかかる荷重−変位線図を記録した。なお、使用する試験機は、圧縮荷重を負荷することが可能であれば、どのような試験機を使用しても同様の結果が得られること、また試験機台座と加圧盤は、試験材への接触面が平行であれば、形状にかかわらず同様な結果が得られることが確認されている。
【0023】
試験結果を表3および図9に示す。本発明に従う試験材の発明材1〜4はいずれも、表3および図9にみられるように、安定して蛇腹変形し、単位重量当たりの平均荷重も110N/mm2を超える値を示しており、優れたエネルギー吸収特性を有することが確認された。なお、外殻部の断面が正方形または長方形またはこれらに近い形状であれば、外殻部のコーナーの半径Rの大きさにかかわらず、本発明の効果が得られること、また、押出加工後にT5調質した場合にも本発明の効果が得られることが確認された。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
これに対して、試験材の比較材1は、軸圧縮変形中に蛇腹変形形態が乱れて横折れ変形したため、安定したエネルギー吸収特性を得ることができなかった。比較材2〜4は、安定した蛇腹変形が生じたものの、R/tが1.5未満であるため、外殻部4とリブ2との結合部5の剛性が十分でなく、平均荷重が低くなっており、エネルギー吸収特性が劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図2】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明によるエネルギー吸収部材の実施例を示す断面図である。
【図5】比較材を示す断面図である。
【図6】比較材を示す断面図である。
【図7】比較材を示す断面図である。
【図8】比較材を示す断面図である。
【図9】試験材の単位断面積当たりの平均荷重を示す図である。
【図10】中空状のエネルギー吸収部材が衝撃により縦方向の圧縮荷重を受けた場合における圧縮荷重−部材変位線図である。
【図11】本発明によるエネルギー吸収部材の概略断面と軸方向の圧縮荷重を受けた場合における変形形態を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 中空部材
2 リブ
3 中空部
4 外殻部
5 結合部
R 外殻部とリブの結合部のコーナー部の半径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材の外殻部の形状は断面正方形または長方形で、中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2のものであり、中空形材の断面には、それぞれ1000〜4000mm2の断面積を有しリブで区画された中空部が2つ以上設けられており、中空形材における各辺の平均肉厚をt(mm)、中空形材の外郭部とリブとの結合部のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足することを特徴とするアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材。
【請求項2】
前記中空形材に対して軸方向の圧縮荷重を負荷したときの単位断面積当たりの平均荷重が110N/mm2 以上であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材。
【請求項3】
前記リブで区画された中空部が断面正方形または長方形であることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材。
【請求項1】
調質された熱処理型アルミニウム合金中空形材からなり、該中空形材の外殻部の形状は断面正方形または長方形で、中空部を含む全断面積は3000〜8000mm2のものであり、中空形材の断面には、それぞれ1000〜4000mm2の断面積を有しリブで区画された中空部が2つ以上設けられており、中空形材における各辺の平均肉厚をt(mm)、中空形材の外郭部とリブとの結合部のコーナー部の半径をR(mm)としたとき、3.2mm≧t≧1.5mm、3.5≧R/t≧1.5の関係を満足することを特徴とするアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材。
【請求項2】
前記中空形材に対して軸方向の圧縮荷重を負荷したときの単位断面積当たりの平均荷重が110N/mm2 以上であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材。
【請求項3】
前記リブで区画された中空部が断面正方形または長方形であることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム合金製自動車フレーム用軸圧縮エネルギー吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−30647(P2007−30647A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215268(P2005−215268)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】
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