説明

アンカー層形成用塗工液およびバリア性基板、ならびにそれらの製造方法

【課題】 本発明は、耐熱性、寸法安定性に優れ、線膨張係数の低い特定のプラスチック基材への塗工適性が良好であり、かつ、プラスチックおよび金属や金属酸化物等との密着性に優れるアンカー層を形成可能なアンカー層形成用塗工液、ならびに、例えば有機EL表示装置等に使用可能であり、プラスチック基材および金属や金属酸化物等の無機膜との密着性に優れ、酸素や水蒸気に対するバリア性の良好なバリア性基板を提供することを主目的とする。
【解決手段】 本発明は、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂を重合させてなるアンカー剤を含有し、赤外分光法により測定した、上記シラン変性エポキシ樹脂に対する上記アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が5%〜60%の範囲内であることを特徴とするアンカー層形成用塗工液をことにより、上記目的を達成する。
【化1】


(ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機エレクトロルミネッセント表示装置等に用いられるバリア性基板に使用することが可能な、シラン変性エポキシ樹脂を用いたアンカー層形成用塗工液、およびそれを用いて形成されたアンカー層を有するバリア性基板、ならびにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエポキシ樹脂系組成物は、耐水性、密着性、耐薬品性等が比較的優れていることから、各種コーティング剤、接着剤、シーリング剤などの用途で賞用されてきた。しかしながら、近年、エポキシ樹脂系組成物が、有機エレクトロルミネッセント(以下、ELと略すことがある。)表示装置等の酸素や水蒸気に弱い部材を有する表示装置に適用されるにつれ、上記エポキシ樹脂系組成物を用いて得られる樹脂膜の、ガラス、金属またはプラスチック等の基材に対する密着性、耐熱性、透明性などの要求水準が高まってきた。
【0003】
このような要求を満たすため、例えば特許文献1には、耐熱性、耐溶剤性、ガラス、金属またはプラスチック等の基材への密着性、耐候性などに優れたコーティング剤や接着剤として用いられるシラン変性エポキシ樹脂組成物が提案されている。このシラン変性エポキシ樹脂を用いて得られる樹脂膜は、ガラス、金属またはプラスチック等の基材との密着性、耐熱性、透明性などに優れるという利点を有する。しかしながら、基材の種類によってはシラン変性エポキシ樹脂組成物の塗工適性が劣るという問題があった。
【0004】
また、近年では表示装置の薄型・軽量化に伴い、プラスチック基材の使用が検討されており、このプラスチック基材には、表面の平滑性および透明度に加え、ディスプレイを製造する際の熱に耐えうる高いレベルの耐熱性が要求される。また、寸法安定性の高さや線膨張係数の低さも要求される。
【0005】
このような耐熱性に優れ、寸法安定性が良く、線膨張係数の低いプラスチック基材に対しては、特に上記シラン変性エポキシ樹脂組成物の塗工適性が悪い場合があり、バリア性基板に適用した際にはバリア性が低下するという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−226770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、耐熱性、寸法安定性に優れ、線膨張係数の低い特定のプラスチック基材への塗工適性が良好であり、かつ、プラスチックおよび金属や金属酸化物等との密着性に優れるアンカー層を形成可能なアンカー層形成用塗工液、ならびに、例えば有機EL表示装置等に使用可能であり、プラスチック基材および金属や金属酸化物等の無機膜との密着性に優れ、酸素や水蒸気に対するバリア性の良好なバリア性基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂を重合させてなるアンカー剤を含有し、赤外分光法により測定した、上記シラン変性エポキシ樹脂に対する上記アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が5%〜60%の範囲内であることを特徴とするアンカー層形成用塗工液を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0011】
本発明によれば、上記シラン変性エポキシ樹脂を重合させ、グリシジル基を所定の範囲で開環反応させたアンカー剤を含有することにより、耐熱性や寸法安定性に優れる特定のプラスチック基材に対して、アンカー層形成用塗工液の塗工適性を向上させることができる。また、上記のようなシラン変性エポキシ樹脂を用いるので、プラスチック基材および金属や金属酸化物等の無機膜との密着性が良好であるという利点を有する。
【0012】
上記アンカー層形成用塗工液は、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を含有することが好ましい。上記シラン変性エポキシ樹脂を重合させる際に、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を用いることが好ましいからである。
【0013】
また、上記アンカー層形成用塗工液は、粘度が25℃において5mPa・s〜100mPa・sの範囲内であることが好ましい。アンカー層形成用塗工液の粘度を上記範囲とすることにより、特定のプラスチック基材に対する塗工適性を良好にすることができるからである。
【0014】
本発明は、また、脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合してなるポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線の照射を行うことにより得られるポリカーボネート系樹脂基材と、上記ポリカーボネート系樹脂基材上に形成されたアンカー層と、上記アンカー層上に形成された蒸着膜とを有するバリア性基板であって、上記アンカー層が、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂の硬化物であることを特徴とするバリア性基板を提供する。
【0015】
【化2】

【0016】
ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0017】
本発明によれば、上記のビスフェノール化合物を用い、さらに電離放射線の照射を行うことにより、耐熱性に優れ、寸法安定性が良く、線膨張係数の低いポリカーボネート系樹脂基材とすることができる。上記シラン変性エポキシ樹脂の硬化物であるアンカー層は、このようなポリカーボネート系樹脂基材と密着性が良好であり、さらに蒸着膜との密着性にも優れる。したがって、本発明のバリア性基板は水蒸気や酸素に対して良好なバリア性を得ることができる。
【0018】
上記発明においては、上記アンカー層の線膨張係数が、50℃〜150℃において100ppm/℃以下であることが好ましい。線膨張係数が上記範囲であることにより、アンカー層の剥離、歪みなどを抑制することができるからである。
【0019】
また本発明においては、上記アンカー層の全光線透過率が80%以上であることが好ましい。本発明のバリア性基板を例えば有機EL表示装置に用いた際にバリア性基板側から光を取り出す場合には、全光線透過率が上記範囲であることが好ましいからである。
【0020】
さらに本発明においては、上記ビスフェノール化合物が、下記化学式(2)で示されるものであってもよく、下記化学式(3)で示されるものであってもよい。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
ここで、式(2)中、RおよびRは互いに独立に、水素、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜12のアラルキル基であり、Xは炭素であり、mは4または5であり、RおよびRは各Xに対して独立に選ばれ、そして互いに独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、少なくとも1個のX原子上でRおよびRは同時にアルキル基を示す。
また、式(3)中、R〜Rは水素、または炭素数1〜7のアルキル基、アラルキル基もしくはアルコキシ基であり、R〜Rのそれぞれは同一でも異なってもよい。
このようなビスフェノール化合物を用いることにより、ガラス転移温度(Tg)を比較的高くすることができ、耐熱性をより向上させることができるからである。
【0024】
さらに本発明は、上述したバリア性基板と、上記バリア性基板上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上に形成され、少なくとも発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上に形成された第2電極層とを有することを特徴とする有機EL表示装置を提供する。
【0025】
本発明によれば、上述したバリア性基板を用いるので、酸素や水蒸気に対して良好なバリア性を有し、ダークスポットの発生を抑制することができる。これにより、良好な画像表示が可能な有機EL表示装置とすることができる。
【0026】
また本発明は、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の一部を開環反応させることによりアンカー層形成用塗工液を調整することを特徴とするアンカー層形成用塗工液の製造方法を提供する。
【0027】
【化5】

【0028】
ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0029】
本発明によれば、シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の一部を開環反応させることにより、特定のプラスチック基材に対する塗工適性を良好なものとすることができる。また、本発明のアンカー層形成用塗工液を用いて形成されたアンカー層は、プラスチック基材および金属や金属酸化物等の無機膜との密着性が高いという利点を有する。
【0030】
上記発明においては、上記開環反応により、上記シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基を5%〜60%の範囲内で開環させることが好ましい。グリシジル基の開環の割合を上記範囲とすることにより、特定のプラスチック基材に対して、アンカー層形成用塗工液の塗工適性を向上させることができるからである。
【0031】
また、上記開環反応の際に、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を用いることが好ましい。
【0032】
本発明は、また、脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合させることによりポリカーボネート系樹脂膜を形成し、上記ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射することによりポリカーボネート系樹脂基材を形成するポリカーボネート系樹脂基材形成工程と、
上記ポリカーボネート系樹脂基材上に、上述したアンカー層形成用塗工液の製造方法により得られるアンカー層形成用塗工液を塗布して硬化させることによりアンカー層を形成するアンカー層形成工程と、
上記アンカー層上に蒸着膜を形成する蒸着膜形成工程と
を有することを特徴とするバリア性基板の製造方法を提供する。
【0033】
本発明によれば、上記のビスフェノール化合物を用いることにより耐熱性を向上させることができ、また、ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射することにより、寸法安定性および線膨張係数を改善することができる。このため、耐熱性に優れ、寸法安定性が良く、線膨張係数の低いポリカーボネート系樹脂基材を得ることができる。また、連続したシート状のポリカーボネート系樹脂基材を容易に作製することが可能である。さらに、上述したアンカー層形成用塗工液を用いてアンカー層を形成するので、上記ポリカーボネート系樹脂基材への塗工適性が良好であり、上記ポリカーボネート系樹脂基材および蒸着膜との密着性を高めることができる。また、アンカー層の形成によってポリカーボネート系樹脂基材表面を平滑化することができ、緻密な蒸着膜が形成可能である。したがって、酸素や水蒸気に対して良好なバリア性を有するバリア性基板を得ることが可能である。
【0034】
上記発明においては、上記ビスフェノール化合物が、下記化学式(2)で示されるものであってもよく、下記化学式(3)で示されるものであってもよい。
【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
ここで、式(2)中、RおよびRは互いに独立に、水素、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜12のアラルキル基であり、Xは炭素であり、mは4または5であり、RおよびRは各Xに対して独立に選ばれ、そして互いに独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、少なくとも1個のX原子上でRおよびRは同時にアルキル基を示す。
また、式(3)中、R〜Rは水素、または炭素数1〜7のアルキル基、アラルキル基もしくはアルコキシ基であり、R〜Rのそれぞれは同じでも異なってもよい。
【0038】
さらに本発明においては、上記ポリカーボネート系樹脂基材形成工程にて、上記電離放射線の照射を脱酸素雰囲気中で行なうことが好ましい。電離放射線の照射を脱酸素雰囲気中で行なうため、酸素による架橋の抑制を避けることが可能となるからである。
【0039】
この際、上記ポリカーボネート系樹脂基材形成工程にて、上記電離放射線の照射を加熱下で行なうことが好ましい。電離放射線の照射を脱酸素雰囲気中、加熱下で行なうため、寸法安定性の向上、特に、線膨張係数の低下を促進することが可能となるからである。
【0040】
また本発明においては、上記ポリカーボネート系樹脂基材形成工程にて、上記電離放射線の照射の後に、脱酸素雰囲気中での加熱を行なうことが好ましい。電離放射線の照射の後に、脱酸素雰囲気中での加熱を行なうため、寸法安定性のより一層の向上、特に、線膨張係数のより一層の低下を実現することが可能となるからである。
【発明の効果】
【0041】
本発明においては、シラン変性エポキシ樹脂を重合させ、グリシジル基を所定の範囲で開環反応させることにより、耐熱性および寸法安定性に優れる特定のプラスチック基材に対して、アンカー層形成用塗工液の塗工適性を向上させることができるという効果を奏する。また、このアンカー層形成用塗工液は、プラスチック基材および金属や金属酸化物等の無機膜との密着性が良好であるという利点を有する。このようなアンカー層形成用塗工液を用いることにより、例えば有機EL表示装置等に用いられるバリア性基板に好適なアンカー層を形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明のアンカー層形成用塗工液、バリア性基板、およびそれを用いた有機EL表示装置について詳細に説明する。さらには、アンカー層形成用塗工液およびバリア性基板の製造方法について説明する。
【0043】
A.アンカー層形成用塗工液
まず、本発明のアンカー層形成用塗工液について説明する。本発明のアンカー層形成用塗工液は、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂を重合させてなるアンカー剤を含有し、赤外分光法により測定した、上記シラン変性エポキシ樹脂に対する上記アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が5%〜60%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0044】
【化8】

【0045】
ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0046】
本発明によれば、上記シラン変性エポキシ樹脂を重合させ、グリシジル基を所定の範囲で開環反応させたアンカー剤を含有することにより、耐熱性および寸法安定性に優れるプラスチック基材、特に後述の「B.バリア性基板」の項に記載するポリカーボネート系樹脂基材に対して、アンカー層形成用塗工液の塗工適性を向上させることができる。一般的にはシラン変性エポキシ樹脂を重合させると塗工液の粘度が高くなるので塗工適性が損なわれると考えられるが、本発明においてはグリシジル基の一部を開環反応させ、ある程度シラン変性エポキシ樹脂を重合させることによって、塗工適性を向上させることができる。これは、シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基と特定のポリカーボネート系樹脂との親和性が低いためであると考えられる。一方、グリシジル基の開環の割合を増加させると、グリシジル基の開環反応とともにシラン変性エポキシ樹脂のゾルゲル反応も起こると考えられるので、塗工液の粘度が高くなり過ぎて逆に塗工適性が劣ってしまう。そこで本発明においては、上記シラン変性エポキシ樹脂に対するアンカー剤のグリシジル基の開環の割合を所定の範囲としたのである。
【0047】
本発明に用いられるアンカー剤は、赤外分光法により測定した、上記シラン変性エポキシ樹脂に対する上記アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が5%〜60%の範囲内であり、好ましくは10%〜55%の範囲内であることが好ましい。アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が少なすぎると、本発明のアンカー層形成用塗工液を特定のポリカーボネート系樹脂基材に塗布した際に塗布ムラが発生する可能性があるからである。一方、アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が多すぎると、上述したようにシラン変性エポキシ樹脂のゾルゲル反応の進行によりアンカー層形成用塗工液の粘度が高くなり塗工適性が悪化する場合があるからである。
【0048】
なお、上記グリシジル基の開環の割合は、以下のようにして測定する。すなわち、まず赤外線吸収スペクトルにて、ビスフェノールAのベンゼン環に由来する吸収帯(1510cm−1付近)の強度を100として、重合前後のグリシジル基に由来する吸収帯(920cm−1付近)の強度をそれぞれ測定する。このように測定した重合前のグリシジル基に由来する吸収帯の強度をA、重合後のグリシジル基に由来する吸収帯の強度をBとしたとき、
(A−B)/A×100 (%)
で表される値を、グリシジル基の開環の割合とする。また、赤外線吸収スペクトルは、日本分光社製610型赤外分光光度計を用いて測定したものである。
【0049】
本発明のアンカー層形成用塗工液は、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を含有することが好ましい。これは、本発明に用いられるアンカー剤が、上記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂を重合させてなるものであり、上記シラン変性エポキシ樹脂を重合させる際に、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を用いることが好ましいからである。
以下、このようなアンカー層形成用塗工液の各構成について説明する。
【0050】
1.アンカー剤
本発明に用いられるアンカー剤は、上記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂を重合させてなるものである。
以下、シラン変性エポキシ樹脂およびアンカー剤の作製方法について説明する。
【0051】
(1)シラン変性エポキシ樹脂
本発明に用いられるシラン変性エポキシ樹脂は、上記化学式(1)で示されるものである。ここで、上記式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。また、繰り返し単位数aの平均値は0.3〜5.8であり、繰り返し単位数bの平均値は2〜7である。
【0052】
このようなシラン変性エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアルコキシシラン部分縮合物とを脱アルコール縮合反応させることにより得られる。なお、シラン変性エポキシ樹脂の作製方法については、特開2002−226770号公報などに記載されている。
また、シラン変性エポキシ樹脂の市販品としては、コンポセランE(商品名、荒川化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0053】
(2)アンカー剤の作製方法
本発明においては、上記シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の一部を開環反応させることによりアンカー剤を調製することができる。
【0054】
反応温度としては、開環反応によってグリシジル基を所定の範囲で開環させることができる温度であれば特に限定されるものではない。また、反応温度は、後述するエポキシ硬化剤やシラン硬化触媒の種類や含有量、後述する反応時間などによって異なるが、通常50℃〜150℃程度であり、好ましくは70℃〜120℃の範囲内である。
【0055】
また、反応時間としては、上記と同様に、開環反応によってグリシジル基を所定の範囲で開環させることができる時間であれば特に限定されるものではない。また、反応時間は、後述するエポキシ硬化剤やシラン硬化触媒の種類や含有量、上記の反応温度などによって異なるが、通常1分〜2時間程度であり、好ましくは10分〜1時間の範囲内である。
【0056】
このようにして得られたアンカー層形成用塗工液の粘度としては、特定のプラスチック基材、中でも特定のポリカーボネート系樹脂基材に対して塗工適性の良好な粘度であれば特に限定されるものではない。また、アンカー層形成用塗工液の粘度は、後述するエポキシ硬化剤などの種類や含有量等によって異なるが、具体的には25℃における粘度が、5mPa・s〜100mPa・sの範囲内であり、好ましくは10mPa・s〜50mPa・sの範囲内である。
【0057】
2.エポキシ硬化剤
本発明においては、シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の開環反応を促進するためにエポキシ硬化剤が用いられる。
【0058】
エポキシ硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されているものを使用することができる。例えばノボラック樹脂系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤等を用いることができる。具体的には、ノボラック樹脂系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ポリp−ビニルフェノール等が挙げられる。また、イミダゾール系硬化剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチルへキシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウム・トリメリテート、2−フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート等が挙げられる。さらに、酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸が挙げられる。またさらに、ジシアンジアミド、ケチミン化合物等の硬化剤を用いることができる。
これらの中でも、エポキシ硬化剤の反応性や、アンカー層形成用塗工液の塗工適性を考慮すると、ノボラック樹脂系硬化剤を用いることが好ましく、特にフェノールノボラック樹脂が好適である。
【0059】
上記エポキシ硬化剤の含有量としては、エポキシ硬化剤の種類によって異なるが、ノボラック樹脂系硬化剤の場合は、上記アンカー剤を作製する際に、上記シラン変性エポキシ樹脂100重量部に対して、5〜60重量部の範囲内、好ましくは10〜30重量部の範囲内である。ノボラック樹脂系硬化剤の含有量が少なすぎると、グリシジル基の開環反応が適度に進行しない可能性があるからである。一方、ノボラック樹脂系硬化剤の含有量が多すぎると、本発明のアンカー層形成用塗工液を用いてアンカー層を形成した際に、得られたアンカー層が黄色くなる場合があり、有機EL表示装置等に用いられるバリア性基板のアンカー層など、透明性が要求される部材に適用することが困難となるからである。
【0060】
また、イミダゾール系硬化剤または酸無水物系硬化剤の場合は、上記アンカー剤を作製する際に、上記シラン変性エポキシ樹脂100重量部に対して、10〜50重量部の範囲内、好ましくは15〜30重量部の範囲内で含有されていることが好ましい。イミダゾール系硬化剤または酸無水物系硬化剤の含有量が少なすぎると、グリシジル基の開環反応が適度に進行しない可能性があるからである。一方、イミダゾール系硬化剤または酸無水物系硬化剤の含有量が多すぎると、反応性が速くなり、アンカー層形成用塗工液の粘度の調整が困難となる場合があるからである。
【0061】
また、グリシジル基の開環反応を促進させるために、上記エポキシ硬化剤に加えて、硬化促進剤を含有させることもできる。このような硬化促進剤としては、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などを挙げることができる。
【0062】
上記硬化促進剤は、上記アンカー剤を作製する際に、上記シラン変性エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01〜0.5重量部の範囲内で含有させるとよい。
【0063】
3.シラン硬化触媒
本発明においては、シラン変性エポキシ樹脂のアルコキシシラン部位のゾルゲル反応を促進するためにシラン硬化触媒が用いられる。
【0064】
シラン硬化触媒としては、酸または塩基性触媒、金属系触媒など、一般的なものを用いることができる。例えば、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム等の有機金属塩などが挙げられる。また、オクチル酸錫やジブチル錫ジラウレートは、活性が高く、かつ溶解性に優れている点で好ましい。
【0065】
上記シラン硬化触媒の含有量としては、用いるシラン硬化触媒の活性、上記エポキシ硬化剤の種類により適宜選択される。通常はシラン硬化触媒が、上記アンカー剤を作製する際に、上記シラン変性エポキシ樹脂100重量部に対して、10〜50重量部の範囲内、好ましくは15〜30重量部の範囲内で含有される。
【0066】
4.その他
本発明においては、上記アンカー剤を作製する際に、上記シラン変性エポキシ樹脂などを溶媒に溶解または分散させてもよい。溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール等、またはそれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0067】
上記溶媒は、通常、上記シラン変性エポキシ樹脂などの固形分濃度が0.5〜20重量%程度となるように配合される。
【0068】
また、本発明のアンカー層形成用塗工液を塗布に適した粘度や濃度に調整するために、上記溶媒を用いることもできる。
【0069】
さらに、本発明のアンカー層形成用塗工液は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、充填剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、粘度調節剤、可塑剤、抗菌剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤、カップリング剤等を含有していてもよい。
【0070】
B.バリア性基板
次に、本発明のバリア性基板について説明する。
本発明のバリア性基板は、脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合してなるポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線の照射を行うことにより得られるポリカーボネート系樹脂基材と、上記ポリカーボネート系樹脂基材上に形成されたアンカー層と、上記アンカー層上に形成された蒸着膜とを有するバリア性基板であって、上記アンカー層が、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂の硬化物であることを特徴とするものである。
【0071】
【化9】

【0072】
ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0073】
図1は、本発明のバリア性基板の一例を示す概略断面図である。本発明のバリア性基板は、ポリカーボネート系樹脂基材1上に、アンカー層2および蒸着膜3がこの順に形成されたものである。
【0074】
本発明におけるポリカーボネート系樹脂基材は、上記のビスフェノール化合物を用いているため耐熱性に優れ、本発明のバリア性基板を用いて例えば有機EL表示装置を作製する際の加熱工程または有機EL表示装置の使用時の温度上昇に曝されても、変質または劣化を起こし難い。また、ポリカーボネート系樹脂基材は、電離放射線の照射を行うことにより得られるため、温度変化に対する寸法安定性に優れ、線膨張係数が低く、剥離や歪みを起こし難い。
【0075】
また本発明においては、上記シラン変性エポキシ樹脂の硬化物をアンカー層として用いることにより、上記のような特性を有するポリカーボネート系樹脂基材との密着性が高いアンカー層とすることができ、さらに蒸着膜との密着性も良好なものとすることができる。このため、水蒸気や酸素に対するバリア性の高いバリア性基板とすることができる。
以下、このようなバリア性基板の各構成について説明する。
【0076】
1.アンカー層
本発明に用いられるアンカー層は、後述するポリカーボネート系樹脂基材上に形成されるものであり、上記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂の硬化物である。
【0077】
上記アンカー層は、50℃〜150℃における線膨張係数が100ppm/℃以下であり、好ましくは80ppm/℃以下である。線膨張係数が上記範囲であることにより、アンカー層の剥離、歪みなどを抑制することができるからである。
【0078】
なお、上記線膨張係数は、理学電子(株)製 熱機械分析装置TMA8310を利用し、1g荷重、3℃/分の割合で昇温し、測定した値とする。
【0079】
また、上記アンカー層の全光線透過率が80%以上、中でも90%以上であることが好ましい。本発明のバリア性基板を例えば有機EL表示装置に用いた際にバリア性基板側から光を取り出す場合には、全光線透過率が上記範囲であることが好ましいからである。
【0080】
なお、上記全光線透過率は、波長380nm〜800nmの範囲内において、島津製作所(株)社製 UV−3100を用いて測定した値の平均値である。
【0081】
アンカー層の膜厚としては、上述した性質を満たすことができれば特に限定されるものではないが、具体的には0.01μm〜5μm程度で設定することができ、好ましくは0.01μm〜2μmの範囲内である。アンカー層の膜厚が薄すぎると、ポリカーボネート系樹脂基材や蒸着膜との密着性が不十分であったり、歪みやすくなったりする可能性があるからである。一方、アンカー層の膜厚が厚すぎると、アンカー層形成時にクラックが生じるおそれがあるからである。また、アンカー層を形成するために用いるエポキシ硬化剤の種類によって黄色くなる場合があり、本発明のバリア性基板を例えば有機EL表示装置等に用いる際にはアンカー層に透明性が要求されることがあるので、適用困難となるからである。
【0082】
本発明に用いられるアンカー層は、上述したアンカー層形成用塗工液を用いて形成することが好ましい。上述したように、上記アンカー層形成用塗工液は、後述するポリカーボネート系樹脂基材に対する塗工適性が良好であるという利点を有するからである。これにより、上記アンカー層形成用塗工液の塗布ムラの発生を抑制できるので、バリア性を高めることができる。
【0083】
なお、シラン変性エポキシ樹脂については上述した「A.アンカー層形成用塗工液 1.アンカー剤」の項に記載したものと同様であり、またアンカー層の形成方法については後述する「E.バリア性基板の製造方法」の項に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0084】
2.ポリカーボネート系樹脂基材
本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂基材は、脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合してなるポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線の照射を行うことにより得られるものである。
【0085】
ポリカーボネート系樹脂基材を得るために用いられるビスフェノール化合物としては、具体的には下記化学式(2)または下記化学式(3)で示されるものが挙げられる。
【0086】
【化10】

【0087】
ここで、式(2)中、RおよびRは互いに独立に、水素、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜12のアラルキル基であり、Xは炭素であり、mは4または5であり、RおよびRは各Xに対して独立に選ばれ、そして互いに独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、少なくとも1個のX原子上でRおよびRは同時にアルキル基を示す。
【0088】
【化11】

【0089】
ここで、式(3)中、R〜Rは水素、または炭素数1〜7のアルキル基、アラルキル基もしくはアルコキシ基であり、R〜Rのそれぞれは同じでも異なってもよい。
【0090】
上記化学式(2)で示されるビスフェノール化合物としては、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−シクロヘキサン、もしくは1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロペンタンを挙げることができる。これらの中でも、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサンが特に好ましい。また、これらのうちから1種もしくは2種類以上を選択して使用することができる。
【0091】
このように上記化学式(2)で示されるビスフェノール化合物は、単独で用いてもよいが、上記化学式(2)で示されるビスフェノール化合物以外のビスフェノール化合物と組み合わせて使用することもできる。上記化学式(2)で示されるビスフェノール化合物と組み合わせて用いることができるビスフェノール化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンを挙げることができる。
【0092】
一方、上記化学式(3)で示されるビスフェノール化合物としては、例えば9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)フルオレン、もしくは9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレンを挙げることができる。また、これらの中でも9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが特に好ましい。また、これらのうちから1種もしくは2種類以上を選択して使用することができる。
【0093】
このように上記化学式(3)で示されるビスフェノール化合物は、単独で用いてもよいが、上記化学式(2)で示されるビスフェノール化合物以外のビスフェノール化合物と組み合わせて使用することもできる。上記化学式(3)で示されるビスフェノール化合物と組み合わせて用いることができるビスフェノール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[通称ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン[通称ビスフェノールS]、もしくは4,4−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4−ジヒドロキシビフェノールなどのビスフェノールを挙げることができる。
【0094】
さらに、下記化学式(4)〜(10)で示されるビスフェノール化合物も用いることができる。
【0095】
【化12】

【0096】
【化13】

【0097】
ここで、上記化学式(4)〜(8)におけるR〜Rは、上記化学式(3)におけるものと同じであり、また、上記化学式(9)、(10)におけるMeはメチル基を示す。
【0098】
上記のビスフェノール化合物も、1種もしくは2種類以上を選択して使用することができ、また、これら以外のビスフェノール化合物と組み合わせて使用することもできる。
【0099】
本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂基材は、上記のビスフェノール化合物を重合してなるポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線の照射を行うことにより得ることができる。このポリカーボネート系樹脂膜は、上記のビスフェノール化合物をエステル交換法もしくはホスゲン法の常法により重合させてポリカーボネート系樹脂を得た後、得られたポリカーボネート系樹脂を用いて溶融押出し法もしくは流延法によって成膜することができる。本発明においては、電離放射線の照射を受ける前に、長尺の連続シートとしてポリカーボネート系樹脂膜を作成し、後述する電離放射線の照射を、連続シート(ポリカーボネート系樹脂膜)を走行させつつ行なうことができるので、最終的に、長尺の連続シート状のポリカーボネート系樹脂基材を得ることができる。
【0100】
本発明のバリア性基板を用いて有機EL表示装置とする場合には、バリア性基板に凹凸が存在すると、有機EL層に厚みムラが生じて、発光ムラを生じるため、ポリカーボネート系樹脂膜の形成時のキャスティングベルトとして、平滑度を向上させたものを用いることが好ましい。またこの際、流延法によってポリカーボネート系樹脂膜を成膜することが好ましい。
【0101】
上記ポリカーボネート系樹脂膜の厚みとしては、50μm〜500μmであることが好ましい。
【0102】
また、ポリカーボネート系樹脂膜は、脂肪族環状炭化水素基を有するビスフェノール化合物を原料としていることから、特に、2個のヒドロキシフェノールが付着する部分がプロパンであるビスフェノールAを原料としたものに比べ、ガラス転移温度(Tg)を向上させることができる。これにより、耐熱性を向上させることができるのである。さらには、ポリカーボネート系樹脂膜への電離放射線照射により、特性の向上、特に、寸法安定性および線膨張係数の点の改善を行なうことができる。
【0103】
利用可能な電離放射線としては、紫外線、電子線、γ線、α線、中性子線、もしくはX線を挙げることができるが、ポリカーボネート系樹脂膜への透過性、ポリカーボネート系樹脂膜を電離する電離作用、および取扱いの容易さから、電子線加速器による電子線、もしくはコバルト60によるγ線が好ましく、電子線が特に好ましい。
電離放射線の照射量としては、1Gy〜5Gy程度であり、電子線の加速電圧としては、0.1MeV〜5MeV程度である。また、装置が小型で比較的簡易であり、遮蔽等の問題の無い点で紫外線も好ましい。
【0104】
本発明において、ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射すると、寸法安定性の向上、特に、線膨張係数の低下が生じるので、液晶表示装置や有機EL表示装置等の基板として用いるのに適したポリカーボネート系樹脂基材を得ることができる。一般に、ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線の照射を行うと、高分子鎖中の結合の切断が生じる場合と、高分子間の架橋が生じる場合とがあるが、本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂膜は、その原料に由来して耐熱性が高いため、架橋が優先して生じていると考えられる。
【0105】
電離放射線の照射は、空気中でも行ない得るが、空気中の酸素の存在により、上記の架橋が抑制されることを避けるため、電離放射線の照射を脱酸素雰囲気中、例えば、窒素中もしくは不活性ガス中で行なうか、または真空中で行なうことが好ましい。
【0106】
また、ポリカーボネート系樹脂膜は、加熱下で電離放射線の照射を受けることが好ましい。加熱下で電離放射線の照射を行なうことにより、寸法安定性の向上、特に、線膨張係数の低下が促進されるからである。さらに、ポリカーボネート系樹脂膜は、電離放射線の照射を受ける際に、空気中にあるよりは、脱酸素雰囲気中、例えば、窒素中もしくは不活性ガス中にあることが好ましい。
【0107】
本発明においては、ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射した後に、さらに加熱することが好ましく、中でも脱酸素雰囲気中で加熱することが好ましい。この加熱により、内部歪みを一層緩和して、寸法安定性のより一層の向上、特に、線膨張係数のより一層の低下を実現することができるからである。
【0108】
3.蒸着膜
本発明に用いられる蒸着膜は、上記アンカー層上に形成され、酸素や水蒸気に対するバリア性を有するものである。本発明に用いられる蒸着膜としては、一般的に有機EL表示装置等のバリア層として用いられる蒸着膜を用いることができる。また、本発明のバリア性基板を有機EL表示装置に用いた際に、バリア性基板側から光を取り出す場合は、蒸着膜は透明性を有している必要がある。
【0109】
このような蒸着膜に用いられる材料としては、例えば酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化インジウム合金等の無機酸化物;窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化窒化ケイ素等の無機窒化物;アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、チタン等の金属;などを挙げることができる。
【0110】
また、上記の材料の中でも、酸化ケイ素または酸化窒化ケイ素であることが好ましい。これらの材料は、アンカー層との密着性が良好であるからである。このような酸化ケイ素の薄膜は、有機ケイ素化合物を原料として形成することができる。この有機ケイ素化合物として、具体的には、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。また、上記有機ケイ素化合物の中でも、テトラメトキシシラン(TMOS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用いることが好ましい。これらは、取り扱い性や蒸着膜の特性に優れるからである。
【0111】
上記蒸着膜は、単一層であってもよく、バリア性を向上させるために複数積層してもよい。また、積層する場合の組み合わせとしては、同種、異種を問わない。
【0112】
このような蒸着膜の膜厚は、水蒸気や酸素に対するバリア性、および透明性を有するような膜厚あれば特に限定されるものではなく、上述した材料により適宜選択される。通常は5nm〜5000nmの範囲内であり、好ましくは50nm〜1000nmの範囲内、特に100nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。また、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を用いた場合は、10nm〜300nmの範囲内であることがより好ましい。蒸着膜の膜厚が薄すぎるとバリア性の低下が見られ、一方、蒸着膜の膜厚が厚すぎると蒸着膜形成時にクラック等が入る可能性があり、また透明性が低下する場合があるからである。
【0113】
上記蒸着膜は、例えばスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)や、化学的気相成長法(CVD)などにより形成することができる。これらの中でも、蒸着膜形成時におけるポリカーボネート系樹脂基材およびアンカー層への熱の影響を比較的少なくすることができ、生産速度が速く、均一な薄膜を得やすい点では、化学的気相成長法(CVD)が好ましい。
【0114】
4.オーバーコート層
本発明においては、例えば図2に示すように、蒸着膜3上にオーバーコート層4が形成されていてもよい。オーバーコート層で蒸着膜を被覆することによって、酸素や水蒸気に対するバリア性を向上させることができるからである。一般に蒸着膜には、結晶成長の過程で結晶同士の間に密度の低い部分が生じる場合があり、これにより微視的欠陥が存在し、かかる欠陥によってバリア性が低下するおそれがある。本発明においては、蒸着膜に微視的欠陥が存在する場合であっても、バリア性の高い樹脂からなるオーバーコート層で蒸着膜を被覆することによって蒸着膜の微視的欠陥部分が補われるので、バリア性が向上すると考えられる。
【0115】
オーバーコート層に用いられる材料としては、上記の性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば一分子内にエポキシ基を2個を有するエポキシ樹脂(以下、「多官能エポキシ樹脂」という。)を含有する熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。多官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂を硬化してなるオーバーコート層は、高いバリア性を有すると共に、透明性、耐熱性に優れており、表示装置を作製する際の加熱工程や表示装置の使用時の温度上昇に曝されても変色やバリア性の低下等の変質または劣化を起こし難いという利点を有するからである。また、このようなオーバーコート層は、蒸着膜との密着性や加熱または温度変化に対する寸法安定性にも優れており、剥離や歪みを起こし難く、さらに蒸着膜の剥離や亀裂を防止する効果があるからである。上記ポリカーボネート系樹脂基材は可撓性を有するのでフレキシブル化も可能であり、このような場合、オーバーコート層や蒸着膜の剥離、歪み、亀裂等を防止する効果が特に有利である。
【0116】
また、多官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂は、支持体の上に塗布した際に他の被転写面に転写可能な適度な粘着性を有する塗膜(熱硬化性樹脂膜)となるという利点を有している。このため、蒸着膜上に、多官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂を直接塗布する方法によらず、予め別の支持体上で塗膜(熱硬化性樹脂膜)にしてから転写する方法で蒸着膜上に積層し、これを硬化させることでオーバーコート層を形成することができる。このような蒸着膜上に熱硬化性樹脂膜を転写する方法は、熱硬化性樹脂に含有される溶剤によって蒸着膜が損傷するおそれがない。また、蒸着膜上に塗工機を用いずにオーバーコート層が形成可能であるので、蒸着膜が塗工機のヘッド等の部材と接触して損傷するおそれもない。したがって、熱硬化性樹脂を蒸着膜上に直接塗布する場合と比べて、バリア性を向上させることができる。
【0117】
さらに、オーバーコート層の表面が転写体の支持体と同等の平滑性を有することとなるので、熱硬化性樹脂を蒸着膜上に直接塗布することにより形成されたものと比べて、平滑性が高くなる。これにより、本発明のバリア性基板を用いて例えば有機EL表示装置とした場合、厚みの薄い電極層が破壊されにくくなるので、ダークスポットの発生を防止することができる。
このように、多官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂は、蒸着膜上を被覆するオーバーコート層として非常に適している。
【0118】
本発明に用いられる多官能エポキシ樹脂としては、例えば、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等を用いることができる。
【0119】
特に転写性の良好な多官能エポキシ樹脂としては、高分子量化した多官能エポキシ(すなわちエポキシ基を2つ以上有する)重合体を用いることが好ましい。高分子量化したエポキシ重合体を得るためには、例えば、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類とを原料として、エーテル化触媒を用いて、合成反応溶媒中で交互に重合させる二段法を用いることが好ましい。高分子量化したエポキシ重合体の合成原料である二官能エポキシ樹脂は、分子内に二個のエポキシ基をもつ化合物であれば特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物、および、それらのハロゲン化物、水素添加物等がある。これらの化合物の分子量は限定されず、互いに重合していても、分子内に二個のエポキシ基を有すればよい。また、これらの化合物は何種類かを併用して用いることができる。さらに、二官能エポキシ樹脂以外の成分を含んでいても構わない。
【0120】
高分子量化したエポキシ重合体の合成原料である二官能フェノール類は、二個のフェノール性水酸基をもつ化合物であれば特に限定されない。例えば、単環二官能フェノールであるヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、多環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルスルホンおよびこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体、異性体等がある。これらの化合物の分子量は限定されず、互いに重合したり他の化合物と重合していても、分子内に二個のフェノール性水酸基を有すればよい。これらの化合物は何種類かを併用して用いることができる。また、二官能フェノール類以外の成分を含んでいても構わない。
【0121】
多官能エポキシ樹脂の分子量および粘度は、これを含有する熱硬化性樹脂の成膜性および粘着性に影響を与え、転写体に設けられた熱硬化性樹脂膜の転写性を変化させるので、適切な範囲に調整するのが好ましい。かかる観点から、多官能エポキシ樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は、10,000〜500,000の範囲が好ましく、50,000〜300,000の範囲が特に好ましい。また、多官能エポキシ樹脂の粘度は1〜50Pa・sの範囲が好ましく、5〜30Pa・sの範囲が特に好ましい。
【0122】
熱硬化性樹脂は、多官能エポキシ樹脂のみからなる場合もあるが、多官能エポキシ樹脂に必要に応じて硬化剤等の他の成分を配合しても良い。硬化剤は、従来からエポキシ樹脂に配合されているものの中から適宜選択して用いることができ、例えば、酸無水物系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、触媒型硬化剤等の硬化剤を用いることができる。
【0123】
この中で酸無水物系硬化剤としては具体的に、無水マレイン酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸等の脂肪族ジカルボン酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸無水物等を挙げることができる。
【0124】
熱硬化性樹脂中の多官能エポキシ樹脂の量は特に限定されないが、通常は熱硬化性樹脂中に、80重量%程度の割合で配合される。
【0125】
また、熱硬化性樹脂は溶剤を用いて溶解または分散させ、塗布に適した濃度に調整してもよい。溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール等、またはそれらの混合溶剤等を用いることができる。
熱硬化性樹脂を含有するオーバーコート層形成用塗工液は、通常、固形分濃度が10〜50重量%程度となるように調整される。
【0126】
熱硬化性樹脂は、転写体上にロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、ディップコーター等の一般的な方法で塗布することができる。
そして、得られた熱硬化性樹脂膜を熱硬化反応が起こらない程度の温度、例えば50〜100℃の温度範囲に加熱して乾燥する。この際、熱硬化性樹脂膜の厚みは、最終的に形成したいオーバーコート層の厚さを考慮して調整する。
【0127】
本発明に用いられるオーバーコート層は以下のようにして形成される。
すなわち、アンカー層および蒸着膜が形成されたポリカーボネート系樹脂基材の蒸着膜と、転写体の熱硬化性樹脂膜とが向き合うように重ね合わせると、熱硬化性樹脂膜は粘着性を有するために蒸着膜に接着する。この状態で転写体の支持体を引っ張ると、熱硬化性樹脂膜は蒸着膜上に残り、支持体が剥離される。このようにして、熱硬化性樹脂膜が蒸着膜上に転写される。
熱硬化性樹脂膜は、自己の粘着力によって蒸着膜に接着するので、通常はアンカー層および蒸着膜が形成されたポリカーボネート系樹脂基材と転写体とをドライラミネーションすることで熱硬化性樹脂膜の転写を行うことができる。また、必要に応じて熱硬化性樹脂膜または蒸着膜の上に接着剤を薄く塗布してウェットラミネーションにより熱硬化性樹脂膜の転写を行ってもよい。この際、アンカー層および蒸着膜が形成されたポリカーボネート系樹脂基材と転写体とを重ね合わせたときに適度に加圧することにより、熱硬化性樹脂膜'の転写性を高めることができる。また、転写体に用いる支持体の材質等にもよるが、アンカー層および蒸着膜が形成されたポリカーボネート系樹脂基材と転写体とを重ね合わせてから指で軽く押す程度の圧力でも、熱硬化性樹脂膜を十分に蒸着膜の上に転写することができる。
そして、このように蒸着膜上に転写された熱硬化性樹脂膜を熱硬化させることによってオーバーコート層を形成することができる。熱硬化性樹脂膜は、エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂を硬化させる一般的な温度条件で硬化させることができる。具体的には、オーブン等の加熱手段を用いて、120〜180℃程度の範囲で5分〜1時間加熱することによって熱硬化を行うことができる。
【0128】
5.その他
本発明においては、蒸着膜とオーバーコート層とが交互に2回以上形成されていてもよい。これにより、特に優れたバリア性が得られるからである。また、蒸着膜とオーバーコート層とを交互に設ける場合には層間の密着性が良好なので、蒸着膜を厚くまたは重ねて形成する場合とは異なり、剥離や亀裂が生じにくいからである。蒸着膜とオーバーコート層とを重ねて設ける場合には、通常は2重〜4重程度の繰り返しで十分なバリア性が得られる。
【0129】
本発明のバリア性基板のバリア性としては、酸素ガス透過率(OTR)が1cc/m/day/atm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5cc/m/day/atm以下、特に0.1cc/m/day/atm以下であることが好ましい。また、水蒸気透過率(WVTR)が1g/m/day以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/m/day以下特に0.1g/m/day以下であることが好ましい。酸素ガス透過率および水蒸気透過率が上述した範囲であることにより、バリア性の高いものとすることができ、本発明のバリア性基板を、酸素や水蒸気に弱い部材を有する有機EL表示装置等に好適に用いることができるからである。
【0130】
なお、上記酸素透過率は、測定温度23℃、湿度90%Rhの条件下で、酸素ガス透過率測定装置(MOCON社製、OX−TRAN 2/20:商品名)を用いて測定した値である。また、上記水蒸気透過率は、測定温度37.8℃、湿度100%Rhの条件下で、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、PERMATRAN−W 3/31:商品名)を用いて測定した値である。
【0131】
本発明のバリア性基板は、ディスプレイ基板および表示装置に適用することができる。例えば、バリア性基板上に、赤色、緑色および青色のカラーフィルタ層を所定の配置となるように形成して、カラーフィルタ基板とすることができる。また例えば、バリア性基板上に、ITO(酸化インジウム錫)等の薄膜を形成し、必要に応じてフォトリソグラフィー法によりパターニングして透明電極層を形成することにより、ディスプレイ基板とすることもできる。さらに、本発明のバリア性基板は、有機EL表示装置および液晶表示装置に適用することができる。これらの中でも、酸素や水蒸気に弱い部材を有する有機EL表示装置に好適に用いられる。
【0132】
C.有機EL表示装置
次に、本発明の有機EL表示装置について説明する。本発明の有機EL表示装置は、上述したバリア性基板と、上記バリア性基板上に形成された第1電極層と、上記第1電極層上に形成され、少なくとも発光層を含む有機EL層と、上記有機EL層上に形成された第2電極層とを有することを特徴とするものである。
【0133】
本発明によれば、上述したバリア性基板を用いるので、酸素や水蒸気に対してバリア性を有し、ダークスポットの発生を抑制することができる。よって、良好な画像表示が可能な有機EL表示装置とすることができる。
以下、このような有機EL表示装置の各構成について説明する。
【0134】
1.有機EL層
本発明に用いられる有機EL層は、少なくとも発光層を含む1層もしくは複数層の有機層から構成されるものである。すなわち、有機EL層とは、少なくとも発光層を含む層であり、その層構成が有機層1層以上の層をいう。通常、塗布による湿式法で有機EL層を形成する場合は、溶媒との関係で多数の層を積層することが困難であることから、1層もしくは2層の有機層で形成される場合が多いが、溶媒への溶解性が異なるように有機材料を工夫したり、真空蒸着法を組み合わせたりすることにより、さらに多数層とすることも可能である。
【0135】
発光層以外に有機EL層内に形成される有機層としては、正孔注入層や電子注入層といった電荷注入層を挙げることができる。さらに、その他の有機層としては、発光層に正孔を輸送する正孔輸送層、発光層に電子を輸送する電子輸送層といった電荷輸送層を挙げることができるが、通常これらは上記電荷注入層に電荷輸送の機能を付与することにより、電荷注入層と一体化されて形成される場合が多い。その他、有機EL層内に形成される有機層としては、キャリアブロック層のような正孔あるいは電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めることにより、再結合効率を高めるための層等を挙げることができる。
以下、このような有機EL層の各構成について説明する。
【0136】
(1)発光層
本発明に用いられる発光層は、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものである。上記発光層を形成する材料としては、通常、色素系発光材料、金属錯体系発光材料、または高分子系発光材料を挙げることができる。
【0137】
色素系発光材料としては、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどを挙げることができる。
【0138】
また、金属錯体系発光材料としては、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等、中心金属に、Al、Zn、Be、Ir、Pt等、またはTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等を挙げることができる。具体的には、トリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)を用いることができる。
【0139】
さらに、高分子系発光材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記色素系発光材料および金属錯体系発光材料を高分子化したものも挙げられる。
【0140】
本発明に用いられる発光材料としては、上記の中でも、金属錯体系発光材料または高分子系発光材料であることが好ましく、さらには高分子系発光材料であることが好ましい。また、高分子系発光材料の中でも、π共役構造をもつ導電性高分子であることが好ましい。このようなπ共役構造をもつ導電性高分子としては、上述したようなポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、およびそれらの共重合体等を挙げることができる。
【0141】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定はされなく、例えば1nm〜200nm程度とすることができる。
【0142】
また、発光層中には、発光効率の向上、発光波長を変化させる等の目的で蛍光発光または燐光発光するドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体等を挙げることができる。
【0143】
発光層の形成方法としては、高精細なパターニングが可能な方法であれば特に限定されるものではない。例えば蒸着法、印刷法、インクジェット法、またはスピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、および自己組織化法(交互吸着法、自己組織化単分子膜法)等を挙げることができる。中でも、蒸着法、スピンコート法、およびインクジェット法を用いることが好ましい。また、発光層をパターニングする際には、異なる発光色となる画素のマスキング法により塗り分けや蒸着を行ってもよく、または発光層間に隔壁を形成してもよい。このような隔壁を形成する材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂、および無機材料等を用いることができる。さらに、これらの隔壁を形成する材料の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
【0144】
(2)電荷注入輸送層
本発明においては、第1電極層と発光層との間、あるいは発光層と第2電極層との間に電荷注入輸送層が形成されていてもよい。ここでいう電荷注入輸送層とは、上記発光層に第1電極層もしくは第2電極層からの電荷を安定に輸送する機能を有するものであり、このような電荷注入輸送層を、第1電極層と発光層との間、もしくは発光層と第2電極層との間に設けることにより、発光層への電荷の注入が安定化し、発光効率を高めることができる。
【0145】
電荷注入輸送層としては、陽極から注入された正孔を発光層内へ輸送する正孔注入輸送層、陰極から注入された電子を発光層内へ輸送する電子注入輸送層とがある。以下、正孔注入輸送層および電子注入輸送層について説明する。
【0146】
(i)正孔注入輸送層
本発明に用いられる正孔注入輸送層としては、発光層に正孔を注入する正孔注入層、および正孔を輸送する正孔輸送層のいずれか一方であってもよく、正孔注入層および正孔輸送層が積層されたものであってもよく、または、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0147】
正孔注入輸送層に用いられる材料としては、陽極から注入された正孔を安定に発光層内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン誘導体等を用いることができる。具体的には、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0148】
また、正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されないが、具体的には0.5nm〜1000nmの範囲内、中でも10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
【0149】
(ii)電子注入輸送層
本発明に用いられる電子注入輸送層としては、発光層に電子を注入する電子注入層、および電子を輸送する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、電子注入層および電子輸送層が積層されたものであってもよく、または、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層であってもよい。
【0150】
電子注入層に用いられる材料としては、発光層内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層の発光材料に例示した化合物の他、アルミリチウム合金、フッ化リチウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ストロンチウム、カルシウム、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、リチウム、セシウム、フッ化セシウム等のようにアルカリ金属類、およびアルカリ金属類のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体等を用いることができる。
【0151】
また、電子注入層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されない。
【0152】
一方、電子輸送層に用いられる材料としては、第1電極層もしくは第2電極層から注入された電子を発光層内へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、またはトリス(8−キノリノール)アルミニウム錯体(Alq)等を挙げることができる。
【0153】
さらに、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一の層からなる電子注入輸送層としては、電子輸送性の有機材料にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属をドープした金属ドープ層を形成し、これを電子注入輸送層とすることができる。上記電子輸送性の有機材料としては、例えばバソキュプロイン、バソフェナントロリン、フェナントロリン誘導体等を挙げることができ、ドープする金属としては、Li、Cs、Ba、Sr等が挙げられる。
【0154】
2.第1電極層および第2電極層
本発明に用いられる第1電極層および第2電極層は、互いに対向する電極であれば陽極であっても陰極であってもよい。また、透明性を有していても有さなくてもよいが、光の取出し面あるいは受取り面等によって適宜選択される。例えば第1電極層側から光を取り出す場合は、第1電極層は透明または半透明である必要がある。
【0155】
陽極としては、正孔が注入し易いように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましく、具体的にはITO、酸化インジウム、金のような仕事関数の大きい金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子等を挙げることができる。
【0156】
一方、陰極としては、電子が注入しやすいように仕事関数の小さい導電性材料を用いることが好ましく、例えばMgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Caをはじめとするアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類、または、アルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金などが挙げられる。
【0157】
陽極および陰極のどちらにおいても抵抗が小さいことが好ましく、一般には金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
【0158】
このような第1電極層および第2電極層は、一般的な電極層の形成方法を用いて形成することができ、例えばスパッタリング法、真空蒸着法等が挙げられる。
【0159】
D.アンカー層形成用塗工液の製造方法
次に、本発明のアンカー層形成用塗工液の製造方法について説明する。本発明のアンカー層形成用塗工液の製造方法は、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の一部を開環反応させることによりアンカー層形成用塗工液を調整することを特徴とするものである。
【0160】
【化14】

【0161】
ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0162】
本発明においては、例えばシラン変性エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、シラン硬化触媒および溶媒を含有するシラン変性エポキシ樹脂組成物を、所定の温度・時間で反応させ、シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の一部を開環反応させることによりアンカー層形成用塗工液を得ることができる。このようにして得られたアンカー層形成用塗工液は、反応前のシラン変性エポキシ樹脂組成物と比較して、特定のポリカーボネート系樹脂基材に対する塗工適性が良好である。また、本発明のアンカー層形成用塗工液を用いて上述したバリア性基板のアンカー層を形成した場合には、ポリカーボネート系樹脂基材および蒸着膜との密着性が良好なものとすることができる。
【0163】
本発明においては、上記シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の開環反応により、グリシジル基を所定の範囲で開環させることが好ましい。なお、グリシジル基の開環の割合については、上述した「A.アンカー層形成用塗工液」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0164】
また、シラン変性エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤、シラン硬化触媒および溶媒等については上述した「A.アンカー層形成用塗工液」の項に記載したものと同様であり、さらに反応条件については上述した「A.アンカー層形成用塗工液 1.アンカー剤 (2)アンカー剤の作製方法」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0165】
E.バリア性基板の製造方法
次に、本発明のバリア性基板の製造方法について説明する。本発明のバリア性基板の製造方法は、脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合させることによりポリカーボネート系樹脂膜を形成し、上記ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射することによりポリカーボネート系樹脂基材を形成するポリカーボネート系樹脂基材形成工程と、
上記ポリカーボネート系樹脂基材上に、上述したアンカー層形成用塗工液の製造方法により得られるアンカー層形成用塗工液を塗布して硬化させることによりアンカー層を形成するアンカー層形成工程と、
上記アンカー層上に蒸着膜を形成する蒸着膜形成工程と
を有することを特徴とするバリア性基板の製造方法を提供する。
【0166】
本発明によれば、ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射することにより、耐熱性が高く、寸法安定性および線膨張係数が改善されたポリカーボネート系樹脂基材を得ることができる。また、ポリカーボネート系樹脂膜をシート状に成形する際には、常法を利用でき、連続シート状のポリカーボネート系樹脂基材の作製を容易に行なうことが可能である。
【0167】
また本発明においては、上述したアンカー層形成用塗工液を用いるので、上記の特性を有するポリカーボネート系樹脂基材への塗工適性が良好であり、塗布ムラによるバリア性の低下を回避することができる。また、アンカー層はこのアンカー層形成用塗工液を塗布することにより形成されるので、ポリカーボネート系樹脂基材表面を平滑化することができる。このため、緻密な蒸着膜を形成することが可能となる。さらに、上記アンカー層形成用塗工液を用いることにより、上記ポリカーボネート系樹脂基材および蒸着膜との密着性が高いアンカー層を得ることができる。したがって、酸素や水蒸気に対して良好なバリア性を有するバリア性基板を得ることが可能である。
【0168】
なお、ポリカーボネート系樹脂基材形成工程および蒸着膜形成工程については、上述した「B.バリア性基板」のポリカーボネート系樹脂基材および蒸着膜のそれぞれの項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。以下、アンカー層形成工程について説明する。
【0169】
1.アンカー層形成工程
本発明におけるアンカー層形成工程は、上記ポリカーボネート系樹脂基材上に、上述したアンカー層形成用塗工液の製造方法により得られるアンカー層形成用塗工液を塗布して硬化させることによりアンカー層を形成する工程である。
【0170】
アンカー層形成用塗工液の塗布方法としては、ポリカーボネート系樹脂基材上に塗布可能であれば特に限定されないが、例えばバーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、キャスティング法、ディッピング法、インクジェット法、フレキソ印刷法等が挙げられる。
【0171】
このように塗布したアンカー層形成用塗工液を硬化させる際の温度としては、アンカー層形成用塗工液を完全に硬化させることができる温度であれば特に限定されるものではなく、シラン変性エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒の種類や含有量、ならびに反応時間によって異なるが、通常80℃〜180℃程度、好ましくは100℃〜160℃の範囲内である。また、加熱時間としては、上記と同様にアンカー層形成用塗工液を完全に硬化させることができる時間であれば特に限定されるものではなく、シラン変性エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒の種類や含有量、ならびに反応温度によって異なるが、5分〜2時間程度で設定することができ、好ましくは10分〜1時間の範囲内である。
このような反応条件でアンカー層形成用塗工液を完全に硬化させることにより、アンカー層を形成することができる。
【0172】
なお、アンカー層形成用塗工液については、上述した「A.アンカー層形成用塗工液」および「D.アンカー層形成用塗工液の製造方法」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0173】
2.オーバーコート層形成工程
本発明においては、蒸着膜上にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成工程が行われてもよい。このオーバーコート層形成工程は、アンカー層および蒸着膜が形成されたポリカーボネート系樹脂基材と、支持体に多官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂膜を設けた転写体とを、上記蒸着膜と上記熱硬化性樹脂膜とが向き合うように重ね合わせる配置工程と、上記転写体の支持体を剥離して熱硬化性樹脂膜を蒸着膜上に転写する転写工程と、転写した熱硬化性樹脂膜を熱硬化させてオーバーコート層を形成する硬化工程とを有することが好ましい。
【0174】
このようなオーバーコート層形成工程は、多官能エポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂が、蒸着膜上を被覆するオーバーコート層として非常に適していることに加えて、支持体の上に塗布した時に他の被転写面に転写可能な適度な粘着性を有する塗膜(熱硬化性樹脂膜)となることを利用するものである。
【0175】
上記のオーバーコート層形成工程によれば、蒸着膜上に熱硬化性樹脂を直接塗布する方法ではなく、予め別の支持体上で塗膜(熱硬化性樹脂膜)にしてから転写する方法で蒸着膜上に積層し、これを硬化させることでオーバーコート層を形成することができる。そのため、オーバーコート層形成工程において、蒸着膜が、熱硬化性樹脂に含有される溶剤と接触せず、また、塗工機のヘッド等の部材とも接触しないので、これらの接触による損傷のおそれがない。したがって、熱硬化性樹脂を蒸着膜上に直接塗布する場合と比べて、バリア性を向上させることができる。
【0176】
なお、オーバーコート層形成工程については、上述した「B.バリア性基板 4.オーバーコート層」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0177】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0178】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
下記化学式で示されるポリカーボネート系樹脂からなるポリカーボネート系樹脂基材(バイエル社製、バイホールDP1202(アペックフィルム)、200μm厚)上に、下記のアンカー層形成用塗工液を塗布し、硬化させてアンカー層を形成した。
【0179】
【化15】

【0180】
(アンカー層形成用塗工液の調製)
・シラン変性エポキシ樹脂:47重量%のシリカハイブリッド(荒川化学工業(株)製 コンポセランE) …100重量部
・エポキシ硬化剤:100重量%の4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化(株)製 リカシッド) … 26重量部
・シラン硬化触媒:100重量%のオクチル酸スズ(四国化成(株)製 2E4MZ)
…0.9重量部
上記のシラン変性樹脂、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を混合し、80℃で30分間攪拌して反応させ、アンカー層形成用塗工液を得た。
【0181】
[実施例2]
実施例1において、アンカー層形成用塗工液を調製する際に反応時間を10分間とした以外は、実施例1と同様してアンカー層を形成した。
【0182】
[実施例3]
実施例1において、アンカー層形成用塗工液を調製する際に反応時間を1時間とした以外は、実施例1と同様してアンカー層を形成した。
【0183】
[比較例1]
実施例1において、アンカー層形成用塗工液を調製する際に反応させなかった以外は、実施例1と同様してアンカー層を形成した。
【0184】
[評価]
実施例1〜3および比較例1でのアンカー層形成用塗工液の塗工状態を観察した。表1に、アンカー層形成用塗工液の粘度および塗工適性、アンカー層形成用塗工液でのシラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の開環の割合、ならびにポリカーボネート系樹脂基材上にアンカー層が形成された積層体の酸素ガス透過率および水蒸気透過率を示す。
なお、塗工適性は、均一に塗布可能であるものを「○」、膜厚にムラが生じるため干渉縞が見られ、目視でも塗布が均一でないものを「△」、完全にはじかれるものを「×」で示した。
また、シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の開環の割合、酸素ガス透過率および水蒸気透過率は、上述した方法により測定した。
【0185】
【表1】

【0186】
[実施例4]
実施例1で得られた積層体上に、SiO膜をスパッタ法により成膜し、このSiO膜上に、オーバーコート層として日本触媒社製 FX−C310L202(商品名)を膜厚2μmで形成した。さらに、オーバーコート層上にSiO膜をスパッタ法により成膜し、このSiO膜上に上記と同様のオーバーコート層を形成し、フレキシブル有機ELディスプレイ用バリア性基板を作製した。
得られたバリア性基板は、水蒸気透過率が0.01g/m/day以下、酸素ガス透過率が0.01cc/m/day/atm以下であり、良好なバリア性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明のバリア性基板の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明のバリア性基板の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0188】
1 … ポリカーボネート系樹脂基材
2 … アンカー層
3 … 蒸着膜
4 … オーバーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂を重合させてなるアンカー剤を含有し、赤外分光法により測定した、前記シラン変性エポキシ樹脂に対する前記アンカー剤のグリシジル基の開環の割合が5%〜60%の範囲内であることを特徴とするアンカー層形成用塗工液。
【化1】

(ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を含有することを特徴とする請求項1に記載のアンカー層形成用塗工液。
【請求項3】
粘度が25℃において5mPa・s〜100mPa・sの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンカー層形成用塗工液。
【請求項4】
脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合してなるポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線の照射を行うことにより得られるポリカーボネート系樹脂基材と、前記ポリカーボネート系樹脂基材上に形成されたアンカー層と、前記アンカー層上に形成された蒸着膜とを有するバリア性基板であって、
前記アンカー層が、下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂の硬化物であることを特徴とするバリア性基板。
【化2】

(ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
前記アンカー層の線膨張係数が、50℃〜150℃において100ppm/℃以下であることを特徴とする請求項4に記載のバリア性基板。
【請求項6】
前記アンカー層の全光線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のバリア性基板。
【請求項7】
前記ビスフェノール化合物が、下記化学式(2)で示されるものであることを特徴とする請求項4から請求項6までのいずれかの請求項に記載のバリア性基板。
【化3】

(ここで、式(2)中、RおよびRは互いに独立に、水素、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜12のアラルキル基であり、Xは炭素であり、mは4または5であり、RおよびRは各Xに対して独立に選ばれ、そして互いに独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、少なくとも1個のX原子上でRおよびRは同時にアルキル基を示す。)
【請求項8】
前記ビスフェノール化合物が、下記化学式(3)で示されるものであることを特徴とする請求項4から請求項6までのいずれかの請求項に記載のバリア性基板。
【化4】

(ここで、式(3)中、R〜Rは水素、または炭素数1〜7のアルキル基、アラルキル基もしくはアルコキシ基であり、R〜Rのそれぞれは同一でも異なってもよい。)
【請求項9】
請求項4から請求項8までのいずれかの請求項に記載のバリア性基板と、前記バリア性基板上に形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成され、少なくとも発光層を含む有機エレクトロルミネッセント層と、前記有機エレクトロルミネッセント層上に形成された第2電極層とを有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項10】
下記化学式(1)で示されるシラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基の一部を開環反応させることによりアンカー層形成用塗工液を調整することを特徴とするアンカー層形成用塗工液の製造方法。
【化5】

(ここで、式(1)中、R〜Rはメチル基またはエチル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項11】
前記開環反応により、前記シラン変性エポキシ樹脂のグリシジル基を5%〜60%の範囲内で開環させることを特徴とする請求項10に記載のアンカー層形成用塗工液の製造方法。
【請求項12】
前記開環反応の際に、エポキシ硬化剤およびシラン硬化触媒を用いることを特徴とする請求項10または請求項11に記載のアンカー層形成用塗工液の製造方法。
【請求項13】
脂肪族環状炭化水素基を含むビスフェノール化合物を重合させることによりポリカーボネート系樹脂膜を形成し、前記ポリカーボネート系樹脂膜に電離放射線を照射することによりポリカーボネート系樹脂基材を形成するポリカーボネート系樹脂基材形成工程と、
前記ポリカーボネート系樹脂基材上に、請求項10から請求項12までのいずれかの請求項に記載のアンカー層形成用塗工液の製造方法により得られるアンカー層形成用塗工液を塗布して硬化させることによりアンカー層を形成するアンカー層形成工程と、
前記アンカー層上に蒸着膜を形成する蒸着膜形成工程と
を有することを特徴とするバリア性基板の製造方法。
【請求項14】
前記ビスフェノール化合物が、下記化学式(2)で示されるものであることを特徴とする請求項13に記載のバリア性基板の製造方法。
【化6】

(ここで、式(2)中、RおよびRは互いに独立に、水素、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、または炭素数7〜12のアラルキル基であり、Xは炭素であり、mは4または5であり、RおよびRは各Xに対して独立に選ばれ、そして互いに独立に水素または炭素数1〜6のアルキル基を示し、少なくとも1個のX原子上でRおよびRは同時にアルキル基を示す。)
【請求項15】
前記ビスフェノール化合物が、下記化学式(3)で示されるものであることを特徴とする請求項13に記載のバリア性基板の製造方法。
【化7】

(ここで、式(3)中、R〜Rは水素、または炭素数1〜7のアルキル基、アラルキル基もしくはアルコキシ基であり、R〜Rのそれぞれは同じでも異なってもよい。)
【請求項16】
前記ポリカーボネート系樹脂基材形成工程にて、前記電離放射線の照射を脱酸素雰囲気中で行なうことを特徴とする請求項13から請求項15までのいずれかの請求項に記載のバリア性基板の製造方法。
【請求項17】
前記ポリカーボネート系樹脂基材形成工程にて、前記電離放射線の照射を加熱下で行なうことを特徴とする請求項16に記載のバリア性基板の製造方法。
【請求項18】
前記ポリカーボネート系樹脂基材形成工程にて、前記電離放射線の照射の後に、脱酸素雰囲気中での加熱を行なうことを特徴とする請求項13から請求項17までのいずれかの請求項に記載のバリア性基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−89651(P2006−89651A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278533(P2004−278533)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】