アンボンドPC鋼材、アンボンドPC鋼材の製造方法及びアンボンドプレストレス構造
【課題】
簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材および当該アンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造を提供する。
【解決手段】
シース1内にPC鋼材2を設置する。シース1とPC鋼材2との間の隙間3内に粘性防錆剤4を充填する。シース1には高付着性を有するワイデングシースやポリエチレンシース等を用いる。PC鋼材2にはPC鋼棒、PC鋼より線または異形PC鋼棒、高強度鉄筋などを用いる。そして、防錆剤4には粘性のものを用いる。
簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材および当該アンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造を提供する。
【解決手段】
シース1内にPC鋼材2を設置する。シース1とPC鋼材2との間の隙間3内に粘性防錆剤4を充填する。シース1には高付着性を有するワイデングシースやポリエチレンシース等を用いる。PC鋼材2にはPC鋼棒、PC鋼より線または異形PC鋼棒、高強度鉄筋などを用いる。そして、防錆剤4には粘性のものを用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材、当該PC鋼材の製造方法および当該アンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アンボンドPC鋼材はPC構造、PRC構造、RC構造、SRC構造などの柱、梁、スラブ等の部材内に配置され、コンクリートの硬化後に緊張してコンクリートに圧縮力(プレストレス)を与えることにより長期荷重下でも曲げひび割れ等の発生しないようなロングスパン架構を構築するために用いられることが多い。
【0003】
アンボンドプレストレス構造においては、PC鋼材緊張後のグラウトを行わないので、PC鋼材の表面にあらかじめアスファルト等の腐食防止用の防錆剤が塗着されている。
【0004】
この場合の防錆剤には、(1)PC鋼材の緊張時にPC鋼材の伸びに自由に追随できて付着抵抗および摩擦抵抗を発生させず、PC鋼材の応力分布が一定になること、(2)長期間のある程度の温度変化に対して防錆剤自身の劣化が少ないこと、(3)さらにコンクリート、PC鋼材、シース管に化学的な悪影響を及ぼさないこと、(4)防錆剤が長期間防水性、遮水性を有してPC鋼材が錆びないこと等の特性が求められる。
【0005】
このため、従来のアンボンドプレストレス構造においては、PC鋼材が長期間にわたって十分な防水・防錆性能を有することと、PC鋼材緊張時に防錆剤がPC鋼材に十分に追従できること等に重点がおかれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−169363号公報
【特許文献2】特開平11−172761号公報
【特許文献3】特開2001−90253号公報
【特許文献4】特開2002−4418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、当出願人が行ったこれまでの研究によると、表面形状の凹凸が大きなPC鋼材と、粘度の高い防錆剤(以降「粘性防錆剤」という)を組み合せたアンボンドPC鋼材のPC鋼材−粘性防錆剤間に動的に変形を発生させると、PC鋼材−粘性防錆剤間の摩擦抵抗と付着抵抗によりエネルギー消費が起り付加減衰を稼ぐことがわかった。
【0008】
また、付加減衰の大きなアンボンドPC鋼材を用いた場合でも、PC鋼材の緊張時にPC鋼材の応力分布が一定になり、緊張時の部分的な応力集中が避けられることも確認された。
【0009】
つまり、アンボンドPC鋼材を構成する材料を工夫することにより、アンボンドPC鋼材自身が簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つことが分かった。
【0010】
しかしながら、アンボンドPC鋼材を制震ダンパーとして利用する検討は、これまでほとんど行われておらず、実際に十分なエネルギー消費を有する組み合せがあるのかどうか未知数であった。
【0011】
本発明は、これらの課題を鑑み、付加減衰アンボンドPC鋼材の開発に着目してなされたもので、簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材、アンボンドPC鋼材の製造方法および当該アンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載のアンボンドPC鋼材は、シースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加する粘性防錆剤とから構成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明は、PC鋼材−粘性防錆剤間の変形に伴うPC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗と付着抵抗によってエネルギー消費を期待するものである。
【0014】
例えば、建築構造物や土木構造物などで、柱や梁などの構造部材にアンボンドPC鋼材が利用された場合、PC鋼材が風、地震、交通振動などの動的載荷により伸縮すると、PC鋼材と粘性防錆剤間に変形が発生し、風や地震などのエネルギーが消費される。
【0015】
すなわち、この場合アンボンドPC鋼材は、応力を伝達する構造部材として機能するだけでなく、風や地震エネルギー等を消費させる制震ダンパーとしての機能も併せ持つ部材であるといえる。
【0016】
従来のアンボンドPC鋼材では、摩擦抵抗性の小さな材料が用いられていたため、PC鋼材と防錆剤との間に変形が発生してもエネルギー消費は見込めなかったが、高粘度で最適な粘性防錆剤、最適なPC鋼材およびシースを用いた本発明のアンボンドPC鋼材では、PC鋼材と粘性防錆剤間に変形が発生すると、PC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗、付着抵抗によってエネルギー消費が発生する。
【0017】
当出願人は、このようなアンボンドPC鋼材のエネルギー消費に着目し、最適なアンボンドPC鋼材の組み合せを検討するために、アンボンドPC鋼材の実大動的付着実験を行い、実現性があることを検証した。
【0018】
図8(a)〜(d)はその実験結果を示し、(a)は粘度の高い粘性防錆剤と異形PC鋼材を組み合せた場合を、(b)は粘度の低い粘性防錆剤と異形PC鋼材を組み合せた場合を、(c)はやや粘度の高い粘性防錆剤と異形PC鋼材を組み合せた場合を、そして、(d)は粘度のやや高い粘性防錆剤とPC丸鋼を組み合せた場合をそれぞれ示したものである。
【0019】
この実験結果から、粘度の高い粘性防錆剤と表面形状の凹凸状の大きなPC鋼材を組み合せると、大きなエネルギー消費を有するアンボンドPC鋼材が形成されることが分かった。また、アンボンドPC鋼材のエネルギー消費は、PC鋼材の種類よりも粘性防錆剤の種類に大きく依存することが分かった。
【0020】
さらに、高強度、高付着性を有するPC鋼材と高流動性、無収縮性、高強度、高付着、高防錆などの性質にすぐれた粘性防錆剤を用いたアンボンドPC鋼材を使用することにより、PC鋼材の腐食防止だけでなく、PC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗と付着抵抗によるエネルギー消費を期待でき、簡易な制震ダンパーとして使用する場合には風、地震、交通振動などの動的載荷による外力に対して付着減衰を確保する等の有益な作用を有することがわかった。
【0021】
また、高付加減衰を期待する場合は、PC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗や付着抵抗によるエネルギー消費能力が最も大きな組み合せを選択すればよいが、PC鋼材と粘性防錆剤の組み合せ、PC鋼材の長さおよびアンボンド区間の設定などの組み合せにより、付加減衰をコントロールすることが可能であることもわかった。
【0022】
なお、この場合のPC鋼材には、従来主にPC構造で用いられているPC鋼棒(丸鋼)やPC鋼より線、異形鉄筋、異形PC鋼棒、インデント付PC鋼より線などを用いることができる。
【0023】
また、粘性防錆剤には、高流動性、無収縮性、高付着、高粘度、防錆性を有するグリース、ワックス、エポキシ、アスファルト、ゴム、ウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、液状炭化水素樹脂各種ゴムブレンド等、またはその他の化学物質や混合物などを用いることができる。
【0024】
さらに、シースには、表面の凹凸状などの高付着を有するワイデングシース、ポリエスチレンシース、鋼管、断面に凹凸をつけたコンクリートモルタル面などを用いることができる。
【0025】
本発明のアンボンドPC鋼材の製作方法としては、シースの中にPC鋼材を挿通した後、当該シースとPC鋼材との間の隙間に高粘性防錆剤を充填する方法、シースの中にPC鋼材を挿通する前、あらかじめ当該PC鋼材の表面に粘性防錆剤を直接塗布または巻き付け、その後PC鋼材をシース管の中に挿入する方法、さらに、PC鋼材の表面に粘性防錆剤を直接塗布または巻き付け、その上に硬化してシースとなるポリエスチレン樹脂などを塗着する方法などがある。
【0026】
請求項2記載のアンボンドPC鋼材は、請求項1記載のアンボンドPC鋼材において、粘性防錆剤の付着応力度が0.001MPa以上10MPa以下、もしくは25°Cにおける粘度が1.0×103Pa〜1.0×1012Paとなるウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、ワックス、液状炭化水素樹脂等、ゴム、または稠度(ちょう度)200以下のグリース、ちょう度400以下のエポキシン、針入度150以下のアスファルト、またはそれらの混合物を含む粘性防錆剤であることを特徴とするものである。
【0027】
ここで、ちょう度とは、JISK2220で規格化されている材料の硬さを測定するちょう度試験の試験値であり、ちょう度試験は、規定円すいを試料中に侵入させ、侵入した長さにより試料の硬さを表す。ちょう度の値は、1/10mmがちょう度1になり、値が大きいほど柔らかな材料で、針入度試験よりもさらに柔らかな材料を測定する際に用いられる。
【0028】
請求項3記載のアンボンドPC鋼材は、請求項1または2記載のアンボンドPC鋼材において、シースに凹凸が設けられてなることを特徴とするものである。
【0029】
請求項4記載のアンボンドPC鋼材は、請求項1〜3のいずれか一に記載のアンボンドPC鋼材において、特にPC鋼材に凹凸が設けられてなることを限定したものである。
【0030】
請求項5記載のアンボンドPC鋼材の製造方法は、PC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付け、次に当該粘性防錆剤の上にシースを被せることを特徴とするものである。
【0031】
PC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付ける方法としては、例えば粘性防錆剤をあらかじめ帯状に形成し、これをPC鋼材の外周に巻き付ける等の方法がある。
【0032】
また、粘性防錆剤の上にシースを被せる方法としては、シースとして鋼管を利用する他、粘性防錆剤の表面に塗着後に硬化してシースとなる樹脂材を、粘性防錆剤の表面に塗る等の方法がある。
【0033】
請求項6記載のアンボンドPC鋼材の製造方法は、請求項5記載のアンボンドPC鋼材の製造方法において、特に粘性防錆剤の外周に凹凸を設けることを限定したものである。
【0034】
請求項7記載のアンボンドプレストレス構造は、構造体にアンボンドPC鋼材を設置してなるアンボンドプレストレス構造において、前記アンボンドPC鋼材はシースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加できる粘性防錆剤とからなることを特徴とするものである。
【0035】
本発明は特に、建築構造物や土木構造物などで、PC構造、PRC構造、RC構造、SRC構造などの柱、梁、スラブ等の部材に適用することで、長期荷重下でも曲げひび割れ等の発生しないようなロングスパン化が可能であるとともに、構造物の制震化も図ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、アンボンドPC鋼材のPC鋼材に付着性状がよく、緊張力を十分に受け持つことのできる異形棒鋼である高強度鉄筋、PC鋼より線、インデントを付加したPC鋼より線、PC鋼棒および異形PC鋼棒などのあらゆる種類のPC鋼材またはPC線材を用い、粘性防錆剤には高流動性、無収縮性、高強度、高付着、高防錆などの性質にすぐれたグリース、ワックス、エポキシ、アスファルト、ゴム、ウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、液状炭化水素樹脂各種ゴムブレンドまたはそれらの混合物や化合物などのあらゆる種類の粘性防錆剤を用いることにより、PC鋼材と粘性防錆剤間に相対変位が発生したときに、PC鋼材と粘性防錆剤の間でエネルギー消費が可能な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材を作成することができる。
【0037】
また、アンボンドPC鋼材のPC鋼材と粘性防錆剤の組み合わせ、PC鋼材の長さ、ボンド・アンボンド区間の設定などの組み合わせによりエネルギー消費能力および付加減衰を自由にコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
図1〜図4は、本発明に係るアンボンドPC鋼材の一例を示し、図において、シース1内にPC鋼材2が設置され、当該シース1とPC鋼材2との間の隙間3内に粘性防錆剤4が設置されている。
【0039】
シース1には、例えば図1(a),(b)にそれぞれ図示するような、表面が凹凸状をなして高付着性を有するワイデングシースやポリエチレンシース等が用いられている。
【0040】
また、例えば図1(c)に図示するようにコンクリートまたはモルタルからなる躯体に設けられた透孔5の内周に凹凸5aを形成してPC鋼材2を設置するためのシース1とすることもできる。
【0041】
さらに、PC鋼材2の外周に粘性防錆剤4を塗着または巻き付ける等して先付けし、その上に塗着後に硬化してシース1となるポリエチレン樹脂などを塗着してもよい。
【0042】
PC鋼材2には、例えば図2(a),(b),(c)にそれぞれ図示するようなPC鋼棒2a、PC鋼より線2b、異形PC鋼棒2cなどが用いられ、特にPC鋼より線には例えば図3(a)〜(c)に図示するような、PC鋼線の表面にインデント(凹部)22eを有するインデント付きPC鋼より線が用いられることもある。
【0043】
粘性防錆剤4は、シース1内にPC鋼材2を挿通した後から、シース1とPC鋼材2との間の隙間3内に充填することにより、あるいはPC鋼材2をシース1に挿通する前、あらかじめ紐状に加工されたものをPC鋼材2の外周に巻き付ける等としてシース1とPC鋼材2との間に設置されている。
【0044】
図4は、PC鋼材2の端部の定着部を示し、PC鋼材2の端部は支圧部材6と定着用ナットなどの定着部材7によって定着されている。
【0045】
また、図5(a),(b)は、PC鋼材2の外周に粘性防錆剤4を取り付ける方法の一例を示し、図5(a)に図示するように、PC鋼材2を回転させながら、あらかじめ紐状に加工された粘性防錆剤4をPC鋼材2の外周にスパイラル状に巻き付け、その後から粘性防錆剤4の表面を加工機械8によって凹凸状に形成する。
【0046】
図6と図7は、本発明のアンボンドPC鋼材をRC構造物などの柱と梁との接合部に設置する方法を示したものである。
【0047】
図6(a)〜(c)に図示する方法の場合、まず、工場などであらかじめ製作された、上記した構成のアンボンドPC鋼材9を、現地で配筋が完了した柱10とその両側の梁11,11との接合部に懸垂曲線状にセットする。
【0048】
次に、柱10とその両側の梁11,11のコンクリートを打設する。そして、当該コンクリートが十分に硬化した後、PC鋼材2を緊張用ジャッキ12で緊張してポストテンションを与え、端部を定着する。
【0049】
また、図7(a)〜(d)に図示する方法の場合は、柱10とその両側の梁11,11をそれぞれ、柱用と梁用のプレキャストコンクリート(以下「PCa」という)部材として工場生産する。その際、これらのPCa部材のコンクリート内にアンボンドPC鋼材のシース1のみをあらかじめ埋め込んでおく。そして、これらのPCa部材を現地に搬入し、組み立てる。
【0050】
次に、柱10とその両側梁11,11のシース1内にPC鋼材2を連続して挿通するとともに、PC鋼材2を緊張用ジャッキ12によって緊張して所定のポストテンションを与え、両端部を定着して柱10とその両側の梁11,11とを一体的に接合する。そして、シース1とPC鋼材2との間の隙間に粘性防錆剤4を圧入充填する。なお、粘性充填材4はPC鋼材を緊張する前に充填してもよい。
【0051】
図9、図10および図11は、本発明のアンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造の建物の一例を示し、各柱13、梁14および/またはスラブ15のコンクリート内に、それぞれの軸方向に沿ってアンボンド構造のPC鋼材9が複数設置されている。
【0052】
また、そのうち図9(b),(c)と図10(a)の例においては、梁14の上端側に設置されたPC鋼材9が懸垂曲線状に設置され、図11(a)の例においては、スラブ15内に設置されたPC鋼材9が懸垂曲線状に設置されている。
【0053】
また、図10(b)の例においては、梁14に設置されたPC鋼材9のうち、各柱13の梁14との接合部とその両側または片側の梁14の一定区間L1がアンボンド構造をなし、梁14の中間部分の区間L2は梁14と一体な構造(ボンド構造)になっている。
【0054】
さらに、図9(c)と図10(a),(c)の例においては、各柱13と梁14との接合部にも、双方の部材間に跨ってアンボンド構造のPC鋼材9が複数設置され、そのうち図9(c)と図10(c)の例においては、PC鋼材9は懸垂曲線状に設置されている。なお、各柱13と梁14との接合面部には目地モルタル23が充填されている。
【0055】
また、図11(b)の例においては、建物中央の1階と2階の梁14,14間に壁16が配置され、この壁16と上下の梁14,14間にアンボンド構造のPC鋼材9が複数設置されている。
【0056】
また、図11(c)の例においては、建物中央の柱13の上端部からその両側の桁行き方向に、複数のケーブル17が放射状に設置され、当該ケーブル17の先端側はアンボンド構造のPC鋼材9を介して基礎24にそれぞれ定着されている。
【0057】
図12(a)は斜張橋を示し、各塔18の上端部から橋桁18間に複数のケーブル17が斜めに張出され、当該ケーブル17の先端側はアンボンド構造のPC鋼材9を介して桁19にそれぞれ定着されている。
【0058】
また、図12(b)は、広場などに設置されたスタジアムの屋根を示し、各塔18に桁20を斜めに設置するための斜材にアンボンド構造のPC鋼材9が用いられている。
【0059】
そして、図13(a),(b)は枕木などとして製造されたコンクリート部材を示し、図13(a)の例においては、プレテンション部材21のコンクリート内に全長がアンボンド構造のPC鋼材9が設置されている。また、図13(b)の例においては、ポストテンション部材22の中間部分の一定区間L3にアンボンド構造のPC鋼材9が設置されている。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、建築構造物や土木構造物で応力を伝達する構造部材としてだけでなく簡易な制震ダンパーとして広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a),(b),(c)は、アンボンドPC鋼材の軸方向の断面図である。
【図2】(a),(b),(c)は、アンボンドPC鋼材の軸直角方向の断面図である。
【図3】(a)はインデント付PC鋼より線を示す一部側面図、(b)はその端面図、(c)はインデント付PC鋼より線の単線を示す一部側面図である。
【図4】PC鋼材の定着部を示すアンボンドPC鋼材端部の軸方向の断面図である。
【図5】(a)はPC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付ける方法を示す側面図、(b)は粘性防錆剤の表面に凹凸を付ける方法を示す軸方向の断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材の設置方法を示す柱・梁接合部の側面図である。
【図7】(a)〜(d)は、アンボンドPC鋼材の設置方法を示す柱・梁接合部の側面図である。
【図8】(a)〜(d)は、アンボンドPC鋼材の実大動的付着実験の結果を示す図である。
【図9】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材が使用された建物を示す正面図である。
【図10】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材が使用された建物を示す正面図である。
【図11】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材が使用された建物を示す正面図である。
【図12】(a)は、橋桁を吊るケーブルにアンボンドPC鋼材が使用された斜張橋を示す正面図、(b)はスタジアムの正面図である。
【図13】(a),(b)はそれぞれ、ポストテンション部材、プレテンション部材の断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 シース
2 PC鋼材
2a PC鋼棒
2b PC鋼より線
2c 異形PC鋼棒
2d インデント付PC鋼より線
2e インデント(凹)
3 シースとPC鋼材との間の隙間
4 粘性防錆剤
5 透孔
5a 凹凸
6 支圧部材
7 定着具
8 加工機械
9 アンボンドPC鋼材
10,13 柱
11,14 梁
12 緊張用ジャッキ
15 スラブ
16 壁
17 ケーブル
18 塔
19 橋桁
20 桁
21 プレテンション部材
22 ポストテンション部材
23 目地モルタル
24 基礎
25 鉄筋
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材、当該PC鋼材の製造方法および当該アンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アンボンドPC鋼材はPC構造、PRC構造、RC構造、SRC構造などの柱、梁、スラブ等の部材内に配置され、コンクリートの硬化後に緊張してコンクリートに圧縮力(プレストレス)を与えることにより長期荷重下でも曲げひび割れ等の発生しないようなロングスパン架構を構築するために用いられることが多い。
【0003】
アンボンドプレストレス構造においては、PC鋼材緊張後のグラウトを行わないので、PC鋼材の表面にあらかじめアスファルト等の腐食防止用の防錆剤が塗着されている。
【0004】
この場合の防錆剤には、(1)PC鋼材の緊張時にPC鋼材の伸びに自由に追随できて付着抵抗および摩擦抵抗を発生させず、PC鋼材の応力分布が一定になること、(2)長期間のある程度の温度変化に対して防錆剤自身の劣化が少ないこと、(3)さらにコンクリート、PC鋼材、シース管に化学的な悪影響を及ぼさないこと、(4)防錆剤が長期間防水性、遮水性を有してPC鋼材が錆びないこと等の特性が求められる。
【0005】
このため、従来のアンボンドプレストレス構造においては、PC鋼材が長期間にわたって十分な防水・防錆性能を有することと、PC鋼材緊張時に防錆剤がPC鋼材に十分に追従できること等に重点がおかれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−169363号公報
【特許文献2】特開平11−172761号公報
【特許文献3】特開2001−90253号公報
【特許文献4】特開2002−4418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、当出願人が行ったこれまでの研究によると、表面形状の凹凸が大きなPC鋼材と、粘度の高い防錆剤(以降「粘性防錆剤」という)を組み合せたアンボンドPC鋼材のPC鋼材−粘性防錆剤間に動的に変形を発生させると、PC鋼材−粘性防錆剤間の摩擦抵抗と付着抵抗によりエネルギー消費が起り付加減衰を稼ぐことがわかった。
【0008】
また、付加減衰の大きなアンボンドPC鋼材を用いた場合でも、PC鋼材の緊張時にPC鋼材の応力分布が一定になり、緊張時の部分的な応力集中が避けられることも確認された。
【0009】
つまり、アンボンドPC鋼材を構成する材料を工夫することにより、アンボンドPC鋼材自身が簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つことが分かった。
【0010】
しかしながら、アンボンドPC鋼材を制震ダンパーとして利用する検討は、これまでほとんど行われておらず、実際に十分なエネルギー消費を有する組み合せがあるのかどうか未知数であった。
【0011】
本発明は、これらの課題を鑑み、付加減衰アンボンドPC鋼材の開発に着目してなされたもので、簡易な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材、アンボンドPC鋼材の製造方法および当該アンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載のアンボンドPC鋼材は、シースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加する粘性防錆剤とから構成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明は、PC鋼材−粘性防錆剤間の変形に伴うPC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗と付着抵抗によってエネルギー消費を期待するものである。
【0014】
例えば、建築構造物や土木構造物などで、柱や梁などの構造部材にアンボンドPC鋼材が利用された場合、PC鋼材が風、地震、交通振動などの動的載荷により伸縮すると、PC鋼材と粘性防錆剤間に変形が発生し、風や地震などのエネルギーが消費される。
【0015】
すなわち、この場合アンボンドPC鋼材は、応力を伝達する構造部材として機能するだけでなく、風や地震エネルギー等を消費させる制震ダンパーとしての機能も併せ持つ部材であるといえる。
【0016】
従来のアンボンドPC鋼材では、摩擦抵抗性の小さな材料が用いられていたため、PC鋼材と防錆剤との間に変形が発生してもエネルギー消費は見込めなかったが、高粘度で最適な粘性防錆剤、最適なPC鋼材およびシースを用いた本発明のアンボンドPC鋼材では、PC鋼材と粘性防錆剤間に変形が発生すると、PC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗、付着抵抗によってエネルギー消費が発生する。
【0017】
当出願人は、このようなアンボンドPC鋼材のエネルギー消費に着目し、最適なアンボンドPC鋼材の組み合せを検討するために、アンボンドPC鋼材の実大動的付着実験を行い、実現性があることを検証した。
【0018】
図8(a)〜(d)はその実験結果を示し、(a)は粘度の高い粘性防錆剤と異形PC鋼材を組み合せた場合を、(b)は粘度の低い粘性防錆剤と異形PC鋼材を組み合せた場合を、(c)はやや粘度の高い粘性防錆剤と異形PC鋼材を組み合せた場合を、そして、(d)は粘度のやや高い粘性防錆剤とPC丸鋼を組み合せた場合をそれぞれ示したものである。
【0019】
この実験結果から、粘度の高い粘性防錆剤と表面形状の凹凸状の大きなPC鋼材を組み合せると、大きなエネルギー消費を有するアンボンドPC鋼材が形成されることが分かった。また、アンボンドPC鋼材のエネルギー消費は、PC鋼材の種類よりも粘性防錆剤の種類に大きく依存することが分かった。
【0020】
さらに、高強度、高付着性を有するPC鋼材と高流動性、無収縮性、高強度、高付着、高防錆などの性質にすぐれた粘性防錆剤を用いたアンボンドPC鋼材を使用することにより、PC鋼材の腐食防止だけでなく、PC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗と付着抵抗によるエネルギー消費を期待でき、簡易な制震ダンパーとして使用する場合には風、地震、交通振動などの動的載荷による外力に対して付着減衰を確保する等の有益な作用を有することがわかった。
【0021】
また、高付加減衰を期待する場合は、PC鋼材と粘性防錆剤間の摩擦抵抗や付着抵抗によるエネルギー消費能力が最も大きな組み合せを選択すればよいが、PC鋼材と粘性防錆剤の組み合せ、PC鋼材の長さおよびアンボンド区間の設定などの組み合せにより、付加減衰をコントロールすることが可能であることもわかった。
【0022】
なお、この場合のPC鋼材には、従来主にPC構造で用いられているPC鋼棒(丸鋼)やPC鋼より線、異形鉄筋、異形PC鋼棒、インデント付PC鋼より線などを用いることができる。
【0023】
また、粘性防錆剤には、高流動性、無収縮性、高付着、高粘度、防錆性を有するグリース、ワックス、エポキシ、アスファルト、ゴム、ウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、液状炭化水素樹脂各種ゴムブレンド等、またはその他の化学物質や混合物などを用いることができる。
【0024】
さらに、シースには、表面の凹凸状などの高付着を有するワイデングシース、ポリエスチレンシース、鋼管、断面に凹凸をつけたコンクリートモルタル面などを用いることができる。
【0025】
本発明のアンボンドPC鋼材の製作方法としては、シースの中にPC鋼材を挿通した後、当該シースとPC鋼材との間の隙間に高粘性防錆剤を充填する方法、シースの中にPC鋼材を挿通する前、あらかじめ当該PC鋼材の表面に粘性防錆剤を直接塗布または巻き付け、その後PC鋼材をシース管の中に挿入する方法、さらに、PC鋼材の表面に粘性防錆剤を直接塗布または巻き付け、その上に硬化してシースとなるポリエスチレン樹脂などを塗着する方法などがある。
【0026】
請求項2記載のアンボンドPC鋼材は、請求項1記載のアンボンドPC鋼材において、粘性防錆剤の付着応力度が0.001MPa以上10MPa以下、もしくは25°Cにおける粘度が1.0×103Pa〜1.0×1012Paとなるウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、ワックス、液状炭化水素樹脂等、ゴム、または稠度(ちょう度)200以下のグリース、ちょう度400以下のエポキシン、針入度150以下のアスファルト、またはそれらの混合物を含む粘性防錆剤であることを特徴とするものである。
【0027】
ここで、ちょう度とは、JISK2220で規格化されている材料の硬さを測定するちょう度試験の試験値であり、ちょう度試験は、規定円すいを試料中に侵入させ、侵入した長さにより試料の硬さを表す。ちょう度の値は、1/10mmがちょう度1になり、値が大きいほど柔らかな材料で、針入度試験よりもさらに柔らかな材料を測定する際に用いられる。
【0028】
請求項3記載のアンボンドPC鋼材は、請求項1または2記載のアンボンドPC鋼材において、シースに凹凸が設けられてなることを特徴とするものである。
【0029】
請求項4記載のアンボンドPC鋼材は、請求項1〜3のいずれか一に記載のアンボンドPC鋼材において、特にPC鋼材に凹凸が設けられてなることを限定したものである。
【0030】
請求項5記載のアンボンドPC鋼材の製造方法は、PC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付け、次に当該粘性防錆剤の上にシースを被せることを特徴とするものである。
【0031】
PC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付ける方法としては、例えば粘性防錆剤をあらかじめ帯状に形成し、これをPC鋼材の外周に巻き付ける等の方法がある。
【0032】
また、粘性防錆剤の上にシースを被せる方法としては、シースとして鋼管を利用する他、粘性防錆剤の表面に塗着後に硬化してシースとなる樹脂材を、粘性防錆剤の表面に塗る等の方法がある。
【0033】
請求項6記載のアンボンドPC鋼材の製造方法は、請求項5記載のアンボンドPC鋼材の製造方法において、特に粘性防錆剤の外周に凹凸を設けることを限定したものである。
【0034】
請求項7記載のアンボンドプレストレス構造は、構造体にアンボンドPC鋼材を設置してなるアンボンドプレストレス構造において、前記アンボンドPC鋼材はシースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加できる粘性防錆剤とからなることを特徴とするものである。
【0035】
本発明は特に、建築構造物や土木構造物などで、PC構造、PRC構造、RC構造、SRC構造などの柱、梁、スラブ等の部材に適用することで、長期荷重下でも曲げひび割れ等の発生しないようなロングスパン化が可能であるとともに、構造物の制震化も図ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、アンボンドPC鋼材のPC鋼材に付着性状がよく、緊張力を十分に受け持つことのできる異形棒鋼である高強度鉄筋、PC鋼より線、インデントを付加したPC鋼より線、PC鋼棒および異形PC鋼棒などのあらゆる種類のPC鋼材またはPC線材を用い、粘性防錆剤には高流動性、無収縮性、高強度、高付着、高防錆などの性質にすぐれたグリース、ワックス、エポキシ、アスファルト、ゴム、ウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、液状炭化水素樹脂各種ゴムブレンドまたはそれらの混合物や化合物などのあらゆる種類の粘性防錆剤を用いることにより、PC鋼材と粘性防錆剤間に相対変位が発生したときに、PC鋼材と粘性防錆剤の間でエネルギー消費が可能な制震ダンパーとしての機能を併せ持つアンボンドPC鋼材を作成することができる。
【0037】
また、アンボンドPC鋼材のPC鋼材と粘性防錆剤の組み合わせ、PC鋼材の長さ、ボンド・アンボンド区間の設定などの組み合わせによりエネルギー消費能力および付加減衰を自由にコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
図1〜図4は、本発明に係るアンボンドPC鋼材の一例を示し、図において、シース1内にPC鋼材2が設置され、当該シース1とPC鋼材2との間の隙間3内に粘性防錆剤4が設置されている。
【0039】
シース1には、例えば図1(a),(b)にそれぞれ図示するような、表面が凹凸状をなして高付着性を有するワイデングシースやポリエチレンシース等が用いられている。
【0040】
また、例えば図1(c)に図示するようにコンクリートまたはモルタルからなる躯体に設けられた透孔5の内周に凹凸5aを形成してPC鋼材2を設置するためのシース1とすることもできる。
【0041】
さらに、PC鋼材2の外周に粘性防錆剤4を塗着または巻き付ける等して先付けし、その上に塗着後に硬化してシース1となるポリエチレン樹脂などを塗着してもよい。
【0042】
PC鋼材2には、例えば図2(a),(b),(c)にそれぞれ図示するようなPC鋼棒2a、PC鋼より線2b、異形PC鋼棒2cなどが用いられ、特にPC鋼より線には例えば図3(a)〜(c)に図示するような、PC鋼線の表面にインデント(凹部)22eを有するインデント付きPC鋼より線が用いられることもある。
【0043】
粘性防錆剤4は、シース1内にPC鋼材2を挿通した後から、シース1とPC鋼材2との間の隙間3内に充填することにより、あるいはPC鋼材2をシース1に挿通する前、あらかじめ紐状に加工されたものをPC鋼材2の外周に巻き付ける等としてシース1とPC鋼材2との間に設置されている。
【0044】
図4は、PC鋼材2の端部の定着部を示し、PC鋼材2の端部は支圧部材6と定着用ナットなどの定着部材7によって定着されている。
【0045】
また、図5(a),(b)は、PC鋼材2の外周に粘性防錆剤4を取り付ける方法の一例を示し、図5(a)に図示するように、PC鋼材2を回転させながら、あらかじめ紐状に加工された粘性防錆剤4をPC鋼材2の外周にスパイラル状に巻き付け、その後から粘性防錆剤4の表面を加工機械8によって凹凸状に形成する。
【0046】
図6と図7は、本発明のアンボンドPC鋼材をRC構造物などの柱と梁との接合部に設置する方法を示したものである。
【0047】
図6(a)〜(c)に図示する方法の場合、まず、工場などであらかじめ製作された、上記した構成のアンボンドPC鋼材9を、現地で配筋が完了した柱10とその両側の梁11,11との接合部に懸垂曲線状にセットする。
【0048】
次に、柱10とその両側の梁11,11のコンクリートを打設する。そして、当該コンクリートが十分に硬化した後、PC鋼材2を緊張用ジャッキ12で緊張してポストテンションを与え、端部を定着する。
【0049】
また、図7(a)〜(d)に図示する方法の場合は、柱10とその両側の梁11,11をそれぞれ、柱用と梁用のプレキャストコンクリート(以下「PCa」という)部材として工場生産する。その際、これらのPCa部材のコンクリート内にアンボンドPC鋼材のシース1のみをあらかじめ埋め込んでおく。そして、これらのPCa部材を現地に搬入し、組み立てる。
【0050】
次に、柱10とその両側梁11,11のシース1内にPC鋼材2を連続して挿通するとともに、PC鋼材2を緊張用ジャッキ12によって緊張して所定のポストテンションを与え、両端部を定着して柱10とその両側の梁11,11とを一体的に接合する。そして、シース1とPC鋼材2との間の隙間に粘性防錆剤4を圧入充填する。なお、粘性充填材4はPC鋼材を緊張する前に充填してもよい。
【0051】
図9、図10および図11は、本発明のアンボンドPC鋼材を用いたアンボンドプレストレス構造の建物の一例を示し、各柱13、梁14および/またはスラブ15のコンクリート内に、それぞれの軸方向に沿ってアンボンド構造のPC鋼材9が複数設置されている。
【0052】
また、そのうち図9(b),(c)と図10(a)の例においては、梁14の上端側に設置されたPC鋼材9が懸垂曲線状に設置され、図11(a)の例においては、スラブ15内に設置されたPC鋼材9が懸垂曲線状に設置されている。
【0053】
また、図10(b)の例においては、梁14に設置されたPC鋼材9のうち、各柱13の梁14との接合部とその両側または片側の梁14の一定区間L1がアンボンド構造をなし、梁14の中間部分の区間L2は梁14と一体な構造(ボンド構造)になっている。
【0054】
さらに、図9(c)と図10(a),(c)の例においては、各柱13と梁14との接合部にも、双方の部材間に跨ってアンボンド構造のPC鋼材9が複数設置され、そのうち図9(c)と図10(c)の例においては、PC鋼材9は懸垂曲線状に設置されている。なお、各柱13と梁14との接合面部には目地モルタル23が充填されている。
【0055】
また、図11(b)の例においては、建物中央の1階と2階の梁14,14間に壁16が配置され、この壁16と上下の梁14,14間にアンボンド構造のPC鋼材9が複数設置されている。
【0056】
また、図11(c)の例においては、建物中央の柱13の上端部からその両側の桁行き方向に、複数のケーブル17が放射状に設置され、当該ケーブル17の先端側はアンボンド構造のPC鋼材9を介して基礎24にそれぞれ定着されている。
【0057】
図12(a)は斜張橋を示し、各塔18の上端部から橋桁18間に複数のケーブル17が斜めに張出され、当該ケーブル17の先端側はアンボンド構造のPC鋼材9を介して桁19にそれぞれ定着されている。
【0058】
また、図12(b)は、広場などに設置されたスタジアムの屋根を示し、各塔18に桁20を斜めに設置するための斜材にアンボンド構造のPC鋼材9が用いられている。
【0059】
そして、図13(a),(b)は枕木などとして製造されたコンクリート部材を示し、図13(a)の例においては、プレテンション部材21のコンクリート内に全長がアンボンド構造のPC鋼材9が設置されている。また、図13(b)の例においては、ポストテンション部材22の中間部分の一定区間L3にアンボンド構造のPC鋼材9が設置されている。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、建築構造物や土木構造物で応力を伝達する構造部材としてだけでなく簡易な制震ダンパーとして広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a),(b),(c)は、アンボンドPC鋼材の軸方向の断面図である。
【図2】(a),(b),(c)は、アンボンドPC鋼材の軸直角方向の断面図である。
【図3】(a)はインデント付PC鋼より線を示す一部側面図、(b)はその端面図、(c)はインデント付PC鋼より線の単線を示す一部側面図である。
【図4】PC鋼材の定着部を示すアンボンドPC鋼材端部の軸方向の断面図である。
【図5】(a)はPC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付ける方法を示す側面図、(b)は粘性防錆剤の表面に凹凸を付ける方法を示す軸方向の断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材の設置方法を示す柱・梁接合部の側面図である。
【図7】(a)〜(d)は、アンボンドPC鋼材の設置方法を示す柱・梁接合部の側面図である。
【図8】(a)〜(d)は、アンボンドPC鋼材の実大動的付着実験の結果を示す図である。
【図9】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材が使用された建物を示す正面図である。
【図10】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材が使用された建物を示す正面図である。
【図11】(a)〜(c)は、アンボンドPC鋼材が使用された建物を示す正面図である。
【図12】(a)は、橋桁を吊るケーブルにアンボンドPC鋼材が使用された斜張橋を示す正面図、(b)はスタジアムの正面図である。
【図13】(a),(b)はそれぞれ、ポストテンション部材、プレテンション部材の断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 シース
2 PC鋼材
2a PC鋼棒
2b PC鋼より線
2c 異形PC鋼棒
2d インデント付PC鋼より線
2e インデント(凹)
3 シースとPC鋼材との間の隙間
4 粘性防錆剤
5 透孔
5a 凹凸
6 支圧部材
7 定着具
8 加工機械
9 アンボンドPC鋼材
10,13 柱
11,14 梁
12 緊張用ジャッキ
15 スラブ
16 壁
17 ケーブル
18 塔
19 橋桁
20 桁
21 プレテンション部材
22 ポストテンション部材
23 目地モルタル
24 基礎
25 鉄筋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加する粘性防錆剤とからなることを特徴とするアンボンドPC鋼材。
【請求項2】
粘性防錆剤の付着応力度が0.001MPa以上10MPa以下、若しくは25°Cにおける粘度が1.0×103Pa〜1.0×1012Paとなるウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、ワックス、液状炭化水素樹脂、ゴム、または稠度(ちょう度)200以下のグリース、ちょう度400以下のエポキシ、針入度150以下のアスファルト、またはそれらの混合物を含む粘性防錆剤であることを特徴とする請求項1記載のアンボンドPC鋼材。
【請求項3】
シースに凹凸が設けられてなることを特徴とする請求項1または2記載のアンボンドPC鋼材。
【請求項4】
PC鋼材に凹凸が設けられてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のアンボンドPC鋼材。
【請求項5】
PC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付け、次に当該粘性防錆剤の上にシースを被せることを特徴とするアンボンドPC鋼材の製造方法。
【請求項6】
粘性防錆剤の外周に凹凸を設けることを特徴とする請求項5記載のアンボンドPC鋼材の製造方法。
【請求項7】
構造体にアンボンドPC鋼材を設置してなるアンボンドプレストレス構造において、前記アンボンドPC鋼材はシースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加する粘性防錆剤とからなることを特徴とするアンボンドプレストレス構造。
【請求項1】
シースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加する粘性防錆剤とからなることを特徴とするアンボンドPC鋼材。
【請求項2】
粘性防錆剤の付着応力度が0.001MPa以上10MPa以下、若しくは25°Cにおける粘度が1.0×103Pa〜1.0×1012Paとなるウレタン、シリコーン、オイル、ポリオレフィン系ポリオール、ワックス、液状炭化水素樹脂、ゴム、または稠度(ちょう度)200以下のグリース、ちょう度400以下のエポキシ、針入度150以下のアスファルト、またはそれらの混合物を含む粘性防錆剤であることを特徴とする請求項1記載のアンボンドPC鋼材。
【請求項3】
シースに凹凸が設けられてなることを特徴とする請求項1または2記載のアンボンドPC鋼材。
【請求項4】
PC鋼材に凹凸が設けられてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のアンボンドPC鋼材。
【請求項5】
PC鋼材の外周に粘性防錆剤を取り付け、次に当該粘性防錆剤の上にシースを被せることを特徴とするアンボンドPC鋼材の製造方法。
【請求項6】
粘性防錆剤の外周に凹凸を設けることを特徴とする請求項5記載のアンボンドPC鋼材の製造方法。
【請求項7】
構造体にアンボンドPC鋼材を設置してなるアンボンドプレストレス構造において、前記アンボンドPC鋼材はシースと、当該シース内に設置されたPC鋼材と、当該PC鋼材と前記シース間の隙間に設置され、前記PC鋼材との摩擦抵抗または付着抵抗により減衰性を付加する粘性防錆剤とからなることを特徴とするアンボンドプレストレス構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−40052(P2007−40052A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227743(P2005−227743)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
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