説明

アンモニアガスセンサ及びその製造方法

【課題】短時間にて簡易に形成してなる感応層を有するアンモニアガスセンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アンモニアガスセンサの製造にあたり、感応層40は、YSZ粉末及びWO3粉末を互いに別々に併行して作製した後、これらYSZ粉末及びWO3粉末を混合して混合物とし、この混合物からなるペーストを基板10の電極表面側部位に一対の電極20、30を介しスクリーン印刷して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガスに含まれるアンモニア成分を、感応体の特性の電気的変化に応じて検出するようにしたアンモニアガスセンサ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンモニアガスセンサとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたアンモニアセンサが提案されている。このアンモニアセンサでは、感応層が、一対の櫛歯電極を介し基板上に形成されている。
【0003】
ここで、上述した感応層の形成は次のようにしてなされている。即ち、オキシ硝酸ジルコニウム及び硝酸イットリウムの水溶液にアンモニア水を加えて作製した水酸化ジルコニウム溶液に水酸化イットリウムを混合した後、乾燥及び焼成の処理を経て仮焼成状態のYSZ粉末を作製する。
【0004】
然る後、アンモニア水によりpH調整を施したタングステン酸アンモニウムの水溶液に、上述の仮焼成状態のYSZ粉末(ZrO2粉末)を含浸担持させて蒸発乾固した後、乾燥及び焼成を経て、固体超強酸物質であるWO3/YSZ(WO3/ZrO2)を感応材として作製する。
【0005】
次に、当該WO3/YSZに有機溶剤及び分散剤を加えてスラリー化処理によりペーストを作製し、このペーストを基板上に一対の電極を介しスクリーン印刷して焼成することで、感応層を形成する。
【特許文献1】特開2005−114355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記アンモニアセンサにおいては、感応層の形成材料であるWO3/YSZが、上述のごとく、前もって作製した仮焼成状態のYSZ粉末をタングステン酸アンモニウムの水溶液に含浸担持させた上で作製される。
【0007】
このため、感応層の形成、ひいては、当該アンモニアセンサの製造に時間がかかるという不具合が発生する。
【0008】
また、上述のごとく、仮焼成状態のYSZ粉末をタングステン酸アンモニウムの水溶液に含浸担持させることが必須であるため、WO3/YSZの作製が面倒であるという不具合を招く。
【0009】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、短時間にて簡易に形成してなる感応層を有するアンモニアガスセンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決にあたり、本発明に係るアンモニアガスセンサは、請求項1の記載によれば、
一対の電極(20、30)と、当該一対の電極に接するように設けられて被検出ガス中のアンモニア成分に応じて電気的に変化する特性を有する感応体(40)とを備える。
【0011】
当該アンモニアガスセンサにおいて、感応体は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成されることを特徴とする。
【0012】
このように、感応体は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成される。従って、少なくとも2種の酸化物を互いに別々に併行して作製した上で混合することで、感応体の形成が可能となる。その結果、感応体、ひいては、当該アンモニアガスセンサが、短時間にて提供され得る。
【0013】
しかも、感応体の形成にあたり、上述のごとく、少なくとも2種の酸化物を互いに別々に併行して作製した上で混合すればよいので、従来のように仮焼成状態のYSZ粉末をタングステン酸アンモニウムの水溶液に含浸担持させる必要がなく、感応体、ひいては、当該アンモニアガスセンサが簡易に提供され得る。
【0014】
以上より、少なくとも従来と同様のアンモニア成分に対する検出特性を備えたアンモニアガスセンサが短時間にて簡易に提供され得る。
【0015】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、一対の電極(20、30)に接するように感応体(40)を形成してなるアンモニアガスセンサの製造方法において、
感応体は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成されることを特徴とする。
【0016】
このように、感応体は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成される。従って、感応体は、少なくとも2種の酸化物を互いに別々に併行して作製した上で混合することで形成され得る。このことは、感応体が短時間にて形成され得ることを意味する。その結果、当該アンモニアガスセンサの短時間の製造が可能となる。
【0017】
しかも、感応体の形成にあたり、上述のごとく、少なくとも2種の酸化物を互いに別々に併行して作製した上で混合すればよいので、従来のように仮焼成状態のYSZ粉末をタングステン酸アンモニウムの水溶液に含浸担持させる必要がなく、感応体の形成、ひいては、当該アンモニアガスセンサの製造が簡易になされ得る。
【0018】
以上より、少なくとも従来と同様のアンモニア成分に対する検出特性を備えたアンモニアガスセンサが短時間にて簡易に製造され得る。
【0019】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項2に記載のアンモニアガスセンサの製造方法において、上記少なくとも2種の酸化物は、IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物及びVIA族に属する元素を含む酸化物であることを特徴とする。
【0020】
このように、上記少なくとも2種の酸化物は、IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物及びVIA族に属する元素を含む酸化物であることで、請求項2に記載の発明の作用効果を達成し得るのは勿論のこと、アンモニアガスの検出特性に優れた感応体を形成することができる。
【0021】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項3に記載のアンモニアガスセンサの製造方法において、
IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物は、ZrO2、TiO2、Al23及びSiO2のうちの少なくとも1種の酸化物であり、
VIA族に属する元素を含む酸化物は、WO3及びMoO3のうちの少なくとも1種の酸化物であることを特徴とする。
【0022】
これにより、請求項3に記載の発明の作用効果がより一層向上し得る。
【0023】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項3或いは4に記載のアンモニアガスセンサの製造方法において、IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物のための安定化材は、IIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物であることを特徴とする。
【0024】
これにより、IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物が、安定化材であるIIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物でもって安定化される。その結果、請求項3或いは4に記載の発明の作用効果を達成し得るのは勿論のこと、感応体の特性、ひいては、当該アンモニアガスセンサの検出特性が、耐熱性等において変化を伴うことなく、安定に維持され得る。
【0025】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項5に記載のアンモニアガスセンサの製造方法において、
IIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物は、CaO、MgO、Y23、Yb23及びGa23のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0026】
これにより、請求項5に記載の発明の作用効果がより一層向上し得る。
【0027】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形状に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。
【0029】
図1〜図3は、本発明に係るアンモニアガスセンサの一実施形態を示しており、このアンモニアガスセンサは、アルミナ製基板10と、両櫛歯状電極20、30と、感応層40とを備えている。なお、当該アンモニアガスセンサは、例えば、自動車等に搭載のディーゼルエンジンの排気ガス系統に配設してなるNOx選択還元触媒システムに適用される。
【0030】
一対の電極20、30は、図2或いは図3から分かるように、基板10の表面のうち図3にて図示右側表面部位(以下、電極側表面部位ともいう)上に櫛歯状に交差して形成されている。
【0031】
また、一対の電極20、30は、その各接続端子21、31(図2或いは図3参照)にて、両リード11、12の各内端部上に重畳されて電気的に接続されている。なお、両リード11、12は、基板10の表面のうち図3にて図示左側表面部位(以下、リード側表面部位ともいう)上に互いに並行に形成されている。
【0032】
感応層40は、図1及び図2にて示すごとく、アンモニアガス用感応材(例えば、粉末状のYSZと粉末状のWO3との混合物)からなるもので、この感応層40は、一対の電極20、30を覆蓋するように当該一対の電極20、30を介し基板10の上記電極側表面部位上に形成されている。なお、本実施形態では、一対の電極20、30及び感応層40が、当該アンモニアガスセンサのセンサ素子を構成する。
【0033】
また、当該アンモニアガスセンサは、図2にて示すごとく、測温抵抗体50及びヒータ60を備えており、これら測温抵抗体50及びヒータ60は、基板10に内蔵されている。
【0034】
測温抵抗体50は、白金抵抗体からなるもので、この測温抵抗体50は、基板10内にて感応層40の近傍直下に位置している。また、ヒータ60は、例えば、アルミナを含有する白金ペーストの焼結体でもって蛇行パターン状に形成されており、このヒータ60は、測温抵抗体50よりも図2にて図示下側にて基板10に内蔵されている。しかして、このヒータ60は、測温抵抗体50の抵抗値(温度に対応する)に基づき、感応層40を一定温度に制御するようになっている。
【0035】
以上のように構成したアンモニアガスセンサでは、交流電圧が交流電源(図示しない)から両リード11、12を介し一対の電極20、30間に印加されることで、当該一対の電極20、30間に生ずるインピーダンスが測定される。なお、当該インピーダンスは、感応層40の外面に接触する被検出ガス(ディーゼルエンジンの排気ガス)中のアンモニア成分の濃度に応じて変化する。
【0036】
次に、以上のように構成した当該アンモニアガスセンサの製造方法について説明する。
1.両リード11、12及び両櫛歯状電極20、30の作製
測温抵抗体50及びヒータ60を内蔵してなるアルミナ製基板を基板10として準備する。しかして、両リード11、12を基板10の上記リード側表面部位上に互いに並行に形成する。然る後、電極材料(例えば、金(Au))からなるペーストを用いて、一対の電極20、30の櫛歯状に対応する電極パターンを、基板10の上記電極側表面部位上にスクリーン印刷により形成する。
【0037】
このように電極パターンを形成してなる基板10を、55(℃)にて1(hr)の間乾燥し、然る後、1000(℃)にて1(hr)の間焼き付けを行って、基板10の上記電極側表面部位上に一対の電極20、30を作製する。
2.感応層40の形成
図4にて示すオキシ硝酸ジルコニウム及び硝酸イットリウムの溶解工程100において、オキシ硝酸ジルコニウム及び硝酸イットリウムを水に溶解させて、オキシ硝酸ジルコニウム及び硝酸イットリウムの混合溶液を作製する。
【0038】
ついで、図4の水酸化混合物作製工程110において、上述したオキシ硝酸ジルコニウム及び硝酸イットリウムの混合溶液にアンモニア水を加えて当該混合溶液の水素イオン指数をpH8に調製し、水酸化ジルコニウム及び水酸化イットリウムからなる水酸化混合物の溶液を作製する。
【0039】
然る後、濾過洗浄工程120において、このようにして作製された水酸化ジルコニウム及び水酸化イットリウムからなる水酸化混合物の溶液から当該水酸化混合物を吸引して濾過し、洗浄する。
【0040】
ついで、乾燥工程130において、上述のように濾過洗浄した水酸化混合物を、乾燥機により、110(℃)にて24(hr)の間乾燥する。
【0041】
然る後、次の仮焼成工程140において、上述のように乾燥した水酸化混合物を、焼成炉により、400(℃)にて24(hr)の間、仮焼成し、ついで、本焼成工程150において、仮焼成した水酸化混合物を、800(℃)にて、5(hr)の間、本焼成する。これにより、粉末状のYSZ(以下、YSZ粉末ともいう)が作製される。なお、当該YSZ粉末は、50(m2/g)の高い比表面積の形状になっている。
【0042】
一方、このようなYSZの作製工程とは別途、タングステン酸アンモニウム水溶液作製工程200(図4参照)において、タングステン酸アンモニウムを水に溶解させてタングステン酸アンモニウム水溶液を作製する。
【0043】
ついで、タングステン酸アンモニウム水溶液pH調整工程210において、上述のように作製したタングステン酸アンモニウム水溶液にアンモニア水を加えて、当該タングステン酸アンモニウム水溶液の水素イオン指数をpH10〜pH11に調整する。
【0044】
然る後、乾燥工程220において、上述のように作製したタングステン酸アンモニウムの溶液を、乾燥機により、110(℃)にて24(hr)の間乾燥し、ついで、焼成工程230において、焼成炉により、800(℃)にて5(hr)の間焼成する。これにより、粉末状のタングステン酸化物WO3が(以下、WO3粉末ともいう)作製される。
【0045】
上述のように、YSZ粉末及びWO3粉末が別々に作製されると、ペースト作製工程300において、当該YSZ粉末及びWO3粉末を、有機溶剤及び分散剤と共に乳鉢に入れ、らいかい機で4(hr)の間分散混合した後、バインダーを添加し、さらに4(hr)の間湿式混合を行ってYSZ粉末及びWO3粉末の混合物からなるスラリー状のペーストを作製する。
【0046】
然る後、印刷工程310において、上述のように作製したYSZ粉末及びWO3粉末の混合物からなるペーストを、一対の電極20、30を覆うように当該一対の電極を介して基板10の上記電極側表面部位上にスクリーン印刷し、次の焼き付け工程320において、600(℃)にて、1(hr)の間焼き付ける。これにより、感応層40が形成され、当該アンモニアガスセンサの製造が終了する。
【0047】
このようにして製造されたアンモニアガスセンサにおいては、上述のごとく、YSZ粉末及びWO3粉末を互いに別々に併行して作製した後、これらYSZ粉末及びWO3粉末を混合して混合物とし、この混合物からなるペーストでもって感応層40を形成するようにした。
【0048】
従って、従来のアンモニアガスセンサの感応層の形成とは異なり、YSZ粉末及びWO3粉末を別々に併行して作製する分だけ、感応層の形成、ひいては、当該アンモニアガスセンサの製造に要する時間が大幅に短縮され得る。
【0049】
しかも、上述のようにYSZ粉末及びWO3粉末を混合すればよいので、従来のように仮焼成状態のYSZ粉末を作製してタングステン酸アンモニウムの水溶液に含浸担持させる必要がなく、感応層40の形成が簡易になされ得る。
【0050】
ちなみに、モデルガス発生装置を評価装置として用いて、上述のように製造したアンモニアガスセンサ及び比較例の特性を次の測定条件でもって測定し評価してみた。
【0051】
上記測定条件:
上記モデルガス発生装置で発生するガスの温度は280(℃)とする。また、当該アンモニアガスセンサ及び上記比較例の温度は400(℃)とする。
【0052】
また、上記モデルガス発生装置で発生するガスの組成は、10(体積%)の酸素(O2)、5(体積%)の二酸化炭素(CO2)、5(体積%)の水(H2O)、0(ppm)〜1500(ppm)の範囲以内の濃度のアンモニア(NH3)、濃度(100ppm)の各妨害ガス(C36、CO、NO及びNO2)及び窒素とする。
【0053】
また、上記評価にあたり、上記比較例は、次のようにして製造されている。上述した当該アンモニアガスセンサの製造工程のうち、両リード11、12及び両櫛歯状電極20、30の作製工程及びオキシ硝酸ジルコニウム及び硝酸イットリウムの溶解工程100〜仮焼成工程140(図4及び図5参照)を経ることで、仮焼成状態のYSZを作製する。
【0054】
然る後、上述したタングステン酸アンモニウム水溶液作製工程200及びタングステン酸アンモニウム水溶液pH調整工程210(図4及び図5参照)を経て、上述と同様にタングステン酸アンモニウムの溶液を作製する。
【0055】
ついで、図5のYSZ含浸工程400において、上述の仮焼成状態のYSZを、上述のように作製したタングステン酸アンモニウム水溶液に含浸担持させる。然る後、この含浸担持した仮焼成状態のYSZを、乾燥工程410において、エバポレータにより蒸発乾固した後、乾燥機により110(℃)にて12(hr)の間乾燥する。
【0056】
この乾燥が終了すると、次の本焼成工程420において、上述のように乾燥した含浸担持後のYSZを焼成炉により800(℃)にて5(hr)の間本焼成する。これにより、粉末状の固体超強酸物質(10(重量%)WO3/YSZ)が作製される。
【0057】
このようにして、粉末状の固体超強酸物質が作製されると、次のペースト作製工程430において、当該粉末状の固体超強酸物質を、有機溶剤及び分散剤と共に乳鉢に入れ、らいかい機で4(hr)の間分散混合した後、バインダーを添加し、さらに4(hr)の間湿式混合を行ってWO3/YSZからなるスラリー状のペーストを作製する。
【0058】
ついで、印刷工程440において、上述したWO3/YSZからなるペーストを、一対の電極20、30を覆うように当該一対の電極を介して基板10の電極側表面部位上にスクリーン印刷し、次の焼き付け工程450において、600(℃)にて、1(hr)の間焼き付ける。これにより、上記比較例が製造される。
【0059】
上述のような測定条件のもとに、当該アンモニアガスセンサ及び上記比較例を、上記モデルガス発生装置の上記ガス組成のガス中に配置した。そして、当該アンモニアガスセンサの一対の電極間及び上記比較例の一対の電極間にそれぞれ所定周波数(400(Hz))の交流電圧を印加することで、当該アンモニアガスセンサの一対の電極間及び上記比較例の一対の電極間にそれぞれ生ずるインピーダンスを測定した。ここで、アンモニアの濃度=0(ppm)のときのインピーダンスをベースインピーダンスとする。なお、このインピーダンスの測定は、上記ガス組成のガス中で、アンモニア(NH3)の濃度を、0(ppm)〜150(ppm)の範囲以内にて変えて行った。
【0060】
このような測定結果によれば、図6にて示す各グラフ1、2及び図7にて示す各グラフ3、4が得られた。図6において、グラフ1は、当該アンモニアガスセンサのインピーダンスとアンモニア(NH3)の濃度との間の関係を示し、グラフ2は、上記比較例のインピーダンスとアンモニア(NH3)の濃度との間の関係を示す。なお、グラフ1は、図6において、横軸とこの横軸上のアンモニア濃度=0(ppm)を通る縦軸とからなる座標面上に示されている。また、グラフ2は、図6において、横軸とこの横軸上のアンモニア濃度=200(ppm)を通る縦軸とからなる座標面上に示されている。
【0061】
また、図7においてグラフ3は、当該アンモニアガスセンサのアンモニア感度とアンモニア(NH3)の濃度との間の関係を示し、グラフ4は、上記比較例のアンモニア感度とアンモニア(NH3)の濃度との間の関係を示しており、当該両関係は互いにほぼ一致している。
【0062】
なお、アンモニア感度、即ちインピーダンスの変化率は、次の式(1)でもって定義される。
【0063】
アンモニア感度={(Zb−Z)/Zb}×100(%)・・・(1)
但し、Zbはベースインピーダンスであり、Zはアンモニア添加時のインピーダンスである。
【0064】
図6及び図7のグラフによれば、当該アンモニアガスセンサのベースインピーダンスは、図6にて示すごとく、上記比較例のベースインピーダンスに比べ若干小さくなるものの、当該アンモニアガスセンサのアンモニア感度は、上記比較例のアンモニア感度とほぼ一致している(図7参照)。
【0065】
従って、アンモニア成分に対する当該アンモニアガスセンサの検出特性はアンモニア成分に対する上記比較例の検出特性と実質的に変わらないことが分かる。
【0066】
次に、当該アンモニアガスセンサの熱耐久性を評価するために、当該アンモニアガスセンサに対し上記比較例とともに熱耐久試験を行った。具体的には、上述したモデルガス発生装置により、上記測定条件のもとに、大気中にて当該アンモニアガスセンサ及び上記比較例の各ヒータを500(℃)に加熱することで、アンモニアの濃度=100(ppm)の時のアンモニア感度が耐久時間の経過に伴いどのように変化するかについて熱耐久試験した。
【0067】
この熱耐久試験の結果、図8にて示す各グラフ5、6が得られた。グラフ5は、当該アンモニアガスセンサのアンモニア感度の耐久時間との間の関係を示し、グラフ6は、上記比較例のアンモニア感度の耐久時間との間の関係を示しており、当該両関係はほぼ一致している。
【0068】
これによれば、当該アンモニアガスセンサのアンモニア感度は、上記比較例のアンモニア感度と同様に、耐久時間1000(hr)の経過後も、殆ど低下しないことが分かる。従って、当該アンモニアガスセンサの熱耐久性は、上記比較例と実質的に同様であることが分かる。
【0069】
次に、当該アンモニアガスセンサの感応層及び上記比較例の感応層に対しラマン測定(Raman測定)を施してみたところ、図9にて示すような各グラフ7、8が得られた。ここで、グラフ7は、当該アンモニアガスセンサの感応層におけるスペクトル強度とラマンシフトとの関係を示し、グラフ8は、上記比較例の感応層におけるスペクトル強度とラマンシフトとの関係を示す。
【0070】
これらグラフによれば、ラマン測定では、当該アンモニアガスセンサの感応層は、結晶化したWO3に対し活性であり、各波数723(cm-1)及び819(cm-1)の各近傍において、WO3の各ピーク(図9にて各ライン7−1、7−2の近傍参照)を発現していることが分かる。これに対し、上記比較例の感応層のようにWO3とZrO2とが化学結合している場合には、WO3は析出されず当該のWO3ピークは発現しない。
【0071】
このように、当該アンモニアガスセンサの感応層では、上述の通り、上記比較例の感応層とは異なり、WO3のピークをラマン測定により確認することができる。従って、当該アンモニアガスセンサは、上記比較例の感応層とは同じ材料からなる感応層であっても、異なる化学結合が含まれていることが分かる。
【0072】
また、当該アンモニアガスセンサ及び上記比較例に対する各妨害ガスの影響について調べてみた。ここで、当該各妨害ガスは、上述したC36、CO、NO及びNO2である。
【0073】
これによれば、図10にて示すような各棒グラフ9−1、9−2が得られた。ここで、グラフ9−1は、当該アンモニアガスセンサの濃度100(ppm)におけるアンモニア感度と、アンモニア(NH3)及び上記各妨害ガスとの関係を示す。また、グラフ9−2は、上記比較例の濃度100(ppm)におけるアンモニア感度と、アンモニア(NH3)及び上記各妨害ガスとの関係を示す。
【0074】
各グラフ9−1、9−2によれば、当該アンモニアガスセンサ及び上記比較例の双方において、アンモニア感度が、アンモニアに対しては、76(%)程度であるが、上記各妨害ガスに対しては零である。従って、当該アンモニアガスセンサの妨害ガスに対する依存性は、上記比較例の妨害ガスに対する依存性と同様の結果にて示されていることが分かる。これにより、当該アンモニアガスセンサのアンモニアに対する検出選択性は、上記比較例のアンモニアに対する検出選択性と同様に、上記各妨害ガスの影響を受けることなく良好に確保されることが分かる。
【0075】
以上の説明から分かるように、当該アンモニアガスセンサの感応層を、上記比較例の感応層とは異なり、上述のように、本焼成のYSZ粉末及びWO3粉末を混合して作製することで、上記比較例と同様の長期安定性及び良好なアンモニア検出特性を有するアンモニアガスセンサが短時間にて簡易に製造され得る。
【0076】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)主成分であるジルコニア(YSZ)及び副成分である酸化タングステン(WO3)をそれぞれ硝酸塩及びアンモニウム塩から合成しているが、これらジルコニア及び酸化タングステンとして市販の酸化物を用いても、上記実施形態と同様に、アンモニアガスセンサを製造することができる。但し、上記主成分の比表面積は10(m2/g)以上であることが望ましい。
(2)感応層40の形成材料の一方であるYSZは、これに限ることなく、当該YSZ(即ち、ZrO2)、TiO2、Al23及びSiO2のうちの少なくとも1種であってもよい。
(3)感応層40は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成するようにしてもよい。
【0077】
ここで、上記少なくとも2種の酸化物は、IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物及びVIA族に属する元素を含む酸化物であってもよい。
【0078】
また、上述したIVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物は、ZrO2、TiO2、Al23及びSiO2のうちの少なくとも1種の酸化物であり、VIA族に属する元素を含む酸化物は、WO3及びMoO3のうちの少なくとも1種の酸化物であってもよい。
【0079】
また、上述したIVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物に対する安定化材として、IIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物を用いれば、当該IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物は、安定化され、感応層の特性、ひいては、当該アンモニアガスセンサの検出特性が、耐熱性等において変化を伴うことなく、安定に維持され得る。
【0080】
ここで、上述したIIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物は、CaO、MgO、Y23、Yb23及びGa23のうちの少なくとも1種であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明を適用したアンモニアガスセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1にて2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1のアンモニアガスセンサの分解斜視図である。
【図4】図1のアンモニアガスセンサの主たる製造工程を示す図である。
【図5】上記実施形態における比較例の主たる製造工程を示す図である。
【図6】上記実施形態におけるアンモニアガスセンサ及び比較例の各インピーダンスとアンモニアの濃度との関係をそれぞれ示すグラフである。
【図7】上記実施形態におけるアンモニアガスセンサ及び比較例の各アンモニア感度とアンモニアの濃度との関係をそれぞれ示すグラフである。
【図8】上記実施形態におけるアンモニアガスセンサ及び比較例の各アンモニア感度と耐久時間との関係をそれぞれ示すグラフである。
【図9】上記実施形態におけるアンモニアガスセンサ及び比較例の各感応層のラマン測定におけるスペクトル強度とラマンシフトとの関係をそれぞれ示すグラフである。
【図10】上記実施形態におけるアンモニアガスセンサ及び比較例の各アンモニア感度(100ppmの濃度を有する)とアンモニア及び各妨害ガスとの関係をそれぞれ示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
10…基板、20、30…電極、40…感応層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、当該一対の電極に接するように設けられて被検出ガス中のアンモニア成分に応じて電気的に変化する特性を有する感応体とを備えるアンモニアガスセンサにおいて、
前記感応体は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成されることを特徴とするアンモニアガスセンサ。
【請求項2】
一対の電極に接するように感応体を形成してなるアンモニアガスセンサの製造方法において、
前記感応体は、電荷の偏り部分を発現させるような配位数の異なる少なくとも2種の酸化物を混合して形成するようにしたことを特徴とするアンモニアガスセンサの製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも2種の酸化物は、IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物及びVIA族に属する元素を含む酸化物であることを特徴とする請求項2に記載のアンモニアガスセンサの製造方法。
【請求項4】
前記IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物は、ZrO2、TiO2、Al23及びSiO2のうちの少なくとも1種の酸化物であり、
前記VIA族に属する元素を含む酸化物は、WO3及びMoO3のうちの少なくとも1種の酸化物であることを特徴とする請求項3に記載のアンモニアガスセンサの製造方法。
【請求項5】
前記IVA族、IIIB族及びIVB族のいずれかの族に属する元素を含む酸化物のための安定化材は、IIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物であることを特徴とする請求項3或いは4に記載のアンモニアガスセンサの製造方法。
【請求項6】
前記IIA族及びIIIA族のいずれかに属する元素を含む酸化物は、CaO、MgO、Y23、Yb23及びGa23のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のアンモニアガスセンサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−155529(P2007−155529A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351913(P2005−351913)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】