アンモニアガスセンサ
【課題】電気的絶縁体上に電極を設ける構成に工夫を凝らし、電極の電気的絶縁体に対する密着性を強固に確保するようにしたアンモニアガスセンサを提供する。
【解決手段】アンモニアガスセンサは、電気的絶縁基板10の右側表面部位に設けたガラス層20を有する。櫛歯状の両電極30、40は、ガラス層20の表面に設けられている。感応層50は、両電極30、40を覆蓋するようにガラス層20の表面に積層されている。
【解決手段】アンモニアガスセンサは、電気的絶縁基板10の右側表面部位に設けたガラス層20を有する。櫛歯状の両電極30、40は、ガラス層20の表面に設けられている。感応層50は、両電極30、40を覆蓋するようにガラス層20の表面に積層されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出雰囲気中に含まれるアンモニアガスを検出するに適したアンモニアガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンモニアガスセンサとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたアンモニアセンサが提案されている。このアンモニアセンサは、絶縁基板と、この絶縁基板上に設けた一対の櫛歯電極と、この一対の櫛歯電極を介し絶縁基板上に設けた感応層とを備えている。ここで、感応層は、固体超強酸物質を含む感応材料でもって形成されている。
【特許文献1】特開2005−114355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記アンモニアセンサを、例えば、自動車の排気ガス中において、実際に使用するにあたり、電極の絶縁基板に対する密着性が不十分であると、当該電極が、排気ガスの流速や自動車の機械的振動の影響を受けて、絶縁基板から剥離するおそれがある。
【0004】
このように当該電極が絶縁基板から剥離すると、アンモニアセンサが良好には機能しなくなってしまう。従って、上述した電極は、絶縁基板上に強固に密着していることが要請される。
【0005】
しかしながら、上述のアンモニアセンサのように電極が単に絶縁基板上に設けられているだけでは、電極の絶縁基板に対する密着性が適正には確保され得ないという不具合が生ずる。
【0006】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、電気的絶縁体上に電極を設ける構成に工夫を凝らし、電極の電気的絶縁体に対する密着性を強固に確保するようにしたアンモニアガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決にあたり、本発明に係るアンモニアガスセンサは、請求項1の記載によれば、
電気的絶縁体(10)と、この電気的絶縁体上に形成される電極(30、40)と、当該電極を覆蓋するように電気的絶縁体上に形成されて固体超強酸物質材料なる感応体(50)とを備える。
【0008】
当該アンモニアガスセンサにおいて、電気的絶縁体と電極との間に設けられたガラス層(20)を具備することを特徴とする。
【0009】
このように、電気的絶縁体と電極との間に設けられたガラス層を具備することで、電極は、当該アンモニアガスセンサの長期間の使用においても、剥離することなく、ガラス層により、十分な強度でもって、電気的絶縁基板上に密着されて保持され得る。
【0010】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のアンモニアガスセンサにおいて、電極は、貴金属のみで形成されていることを特徴とする。
【0011】
これにより、請求項1に記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、ガス選択性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。
【0012】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1に記載のアンモニアガスセンサにおいて、電極は、貴金属と、少なくともZrO2、Al2O3、SiO2、CeO2の一種とから形成されていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、請求項1に記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、請求項2に記載の発明と同様に、ガス選択性に優れ、さらには電極の表面に凹凸が形成されることで電極と感応体との密着性も向上する。
【0014】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサにおいて、感応体を形成する上記固体超強酸物質材料には、シリコン成分が均一に分散して含有されていることを特徴とする。
【0015】
これによれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、アンモニアガスセンサとしての出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行われ得る。
【0016】
なお、「シリコン成分が均一に分散して含有する」とは、感応体の表面付近のシリコン成分の含有量と感応体のガラス層付近のシリコン成分の含有量とを比較した場合、含有量の差が測定器の検出精度以下であることをいう。
【0017】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1〜4のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサにおいて、感応体を形成する上記固体超強酸物質材料には、0.1(%)以下のシリコン成分が含有されていることを特徴とする。
【0018】
これによれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、請求項4に記載の発明と同様に、アンモニアガスセンサとしての出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行われ得る。
【0019】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形状に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るアンモニアガスセンサの一実施形態を示しており、このアンモニアガスセンサは、図2及び図3にて示すごとく、アルミナ製の電気的絶縁基板10と、ガラス層20と、櫛歯状の両電極30、40と、感応層50とを備えている。なお、当該アンモニアガスセンサは、例えば、自動車等に搭載のディーゼルエンジンの排気ガス系統に配設してなるNOx選択還元触媒システムに適用される。
【0022】
ガラス層20は、図1にて示すごとく、電気的絶縁基板10の表面のうち右側表面部位に沿い設けられている。
【0023】
両電極30、40は、図2或いは図3から分かるように、ガラス層20の表面上に櫛歯状に交差して設けられている。ここで、電極30の各電極部31が、電極40の各電極部41と櫛歯状に交差するように設けられている。
【0024】
また、両電極30、40は、その各接続端子32、42(図3参照)にて、両リード11、12の各内端部上に重畳されて、当該両リード11、12に電気的に接続されている。なお、両リード11、12は、図1及び図3にて示すごとく、電気的絶縁基板10の表面のうち左側表面部位に沿い互いに並行に形成されている。
【0025】
感応層50は、アンモニアガス用感応材料からなるもので、この感応層50は、図2にて示すごとく、両電極30、40を覆蓋するようにしてガラス層20の表面に積層されている。なお、本実施形態では、両電極30、40及び感応層50が、当該アンモニアガスセンサのセンサ素子を構成する。
【0026】
また、当該アンモニアガスセンサは、図2にて示すごとく、測温抵抗体60及びヒータ70を備えており、これら測温抵抗体60及びヒータ70は、電気的絶縁基板10に内蔵されている。
【0027】
測温抵抗体60は、白金抵抗体からなるもので、この測温抵抗体60は、電気的絶縁基板10内にて感応層50の近傍直下に位置している。また、ヒータ70は、例えば、アルミナを含有する白金ペーストの焼結体でもって蛇行状に形成されており、このヒータ70は、図2にて示すごとく、測温抵抗体60よりも下側にて電気的絶縁基板10に内蔵されている。しかして、このヒータ70は、測温抵抗体60の抵抗値(温度に対応する)に基づき、感応層50を一定温度に制御するように駆動される。
【0028】
以上のように構成したアンモニアガスセンサによれば、交流電圧が交流電源(図示しない)から両リード11、12を介し両電極30、40間に印加されることで、当該両電極30、40間に生ずるインピーダンスが、アンモニアガスの濃度として検出される。なお、当該インピーダンスは、感応層50の外面に接触する被検出雰囲気(例えば、ディーゼルエンジンの排気ガス雰囲気)中のアンモニアガスの濃度に応じて変化する。
【0029】
次に、以上のように構成した当該アンモニアガスセンサの製造方法について説明する。
1.ガラス層20及び両電極30、40の作製
測温抵抗体60及びヒータ70を内蔵してなるアルミナ製の電気的絶縁基板を電気的絶縁基板10として準備する。なお、両リード11、12は、電気的絶縁基板10の焼成前に上記左側表面部位に沿い互いに並行に作製され、電気的絶縁基板10と同時に焼成される。
【0030】
然る後、ガラスペーストを、電気的絶縁基板10の上記右側表面部位に厚膜状にスクリーン印刷し、55(℃)にて、1時間(hr)の間乾燥してガラスペースト層として形成する。ここで、上述のガラスペーストは、例えば、SiO2、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料を用いて作製されている。なお、上記主成分のうち、Rは、アルカリ土類金属である。
【0031】
ついで、電極材料(例えば、金(Au))からなるペーストを用いて、スクリーン印刷により、両電極30、40の櫛歯状に対応する電極パターンペースト層として上記ガラスペースト上に厚膜状に形成して、55(℃)にて1時間(hr)の間乾燥する。なお、上記電極パターンペースト層のうち、電極30の電極部31に対応する部位と電極40の電極部41に対応する部位との間の間隔が、100(μm)となるように、上述した電極パターンペースト層のスクリーン印刷がなされる。
【0032】
然る後、以上のように電気的絶縁基板10に形成乾燥したガラスペースト層及び電極パターンペーストを、1000(℃)にて1時間(hr)の間、同時焼き付けする。これにより、ガラス層20及び櫛歯状の両電極30、40が電気的絶縁基板10の上記右側表面部位に作製される。
2.感応層50の作製
アンモニアガスの感応材料である固体超強酸材料(10(%)WO3/ZrO2)、有機溶剤及び分散剤を、乳鉢に入れてらいかい機でもって4時間(hr)の間分散混合し、然る後、バインダーを添加して、さらに4時間(hr)の間湿式混合を行ってスラリーとし、粘度調整を行い、感応材料ペーストを作製する。
【0033】
ついで、このように作製した感応材料ペーストを、上述のように作製した両電極30、40を覆蓋するようにして、ガラス層20の表面に厚膜状にスクリーン印刷して、感応ペースト層として形成する。然る後、この感応ペースト層を、60(℃)にて乾燥し、ついで、600(℃)にて焼き付け処理を行って、感応層50として作製する。これにより、当該アンモニアガスセンサの製造が終了する。
【0034】
ちなみに、このようにして製造されたアンモニアガスセンサについて、電極の密着性評価試験、耐久性評価試験及びガス選択性評価試験を行ってみた。
(1)電極の密着性評価試験
この密着性評価試験は、第1〜第7の密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例を準備して、これら各密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例に対し、メンディングテープによる剥離試験方法を適用することで行うこととした。
【0035】
まず最初に、各密着性評価用実施例は、上述のように構成したアンモニアガスセンサのうち両リード11、12及び感応層50を除いた構造体、即ち、電気的絶縁基板にガラス層及び両電極を焼き付けたものである。これら各密着性評価用実施例のガラス層は、その主成分、熱膨張係数、転移点及び軟化点を、次のごとく、互いに異にする(図4の図表参照)。
【0036】
即ち、第1及び第2の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第1の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、79×10-7、725(℃)及び880(℃)とするのに対し、第2の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数及び転移点を、それぞれ、80×10-7及び720(℃)とし、軟化点を、第1の密着性評価用実施例の場合と同様に、880(℃)とする。なお、上記主成分において、Rは、上述のごとく、アルカリ土類金属である。
【0037】
第3及び第4の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2、ZnO及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第3の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、73×10-7、670(℃)及び770(℃)とするのに対し、第4の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、72×10-7、655(℃)及び805(℃)とする。
【0038】
また、第5及び第6の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第5の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、67×10-7、765(℃)及び925(℃)とするのに対し、第6の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、66×10-7、660(℃)及び850(℃)とする。
【0039】
また、第7の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2、B2O3、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第7の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、53×10-7、695(℃)及び790(℃)とする。
【0040】
また、密着性評価用比較例は、上述のように構成したアンモニアガスセンサのうち両リード11、12及び感応層50を除いた構造体において、さらにガラス層をなくして、櫛歯状の両電極を電気的絶縁基板に直接形成したものである。
【0041】
上記剥離試験方法:
メンディングテープとしては、コクヨ株式会社製T−112型メンディングテープ(12(mm)×35(mm))を採用した。そして、当該メンディングテープを、各密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例の基板の表面の全体(3.7(mm)×6.4(mm))に亘り電極及びガラス層を介し貼り付けて指で強く押しつけた後、当該メンディングテープを剥がすようにした。
【0042】
判定方法:
上述のようにメンディングテープを剥がした箇所を観察し、電極の剥離が明らかである場合には、密着不良であるとみなすことで判定した。なお、上記剥離試験方法は、JIS H 8504「めっきの密着性試験方法」を参考にしたものである。
【0043】
しかして、密着性評価用比較例は、密着性評価試験によれば、図4の図表にて×印で示すごとく、電極の剥離が観察された。これに対し、第1〜第7の密着性評価用実施例では、密着性評価試験によっては、図4の図表にて○印で示すごとく、電極の剥離は観察されなかった。従って、第1〜第7の密着性評価用実施例では、電極が、密着性評価用比較例とは異なり、電気的絶縁基板との間において、ガラス層を介し、十分な密着性を有することが分かる。
【0044】
また、本実施形態において、図4の図表では、第1〜第7の密着性評価用実施例の電極の試作性に関する評価が、付随的に記載されている。この評価は、電極の櫛歯状電極パターンの外観検査の結果を示している。
【0045】
これによれば、第5〜第7の密着性評価用実施例では、電極の電気的絶縁基板に対する密着性自体は、上述のように十分であっても、電極及びガラス層を同時に焼き付けた後の電極形状に、いわゆる「にじみ」や「きれ」の発生が見られた。
【0046】
これは、ガラス層の形成材料の熱膨張係数と、電気的絶縁基板の形成材料の成分であるアルミナの熱膨張係数(約78×10-7)との差がより大きいために、ガラス層の良好な形成が阻害され、その結果、電極の櫛歯形状に悪影響を及ぼして、上述の「にじみ」や「きれ」の発生を招いたものと推測される。
【0047】
従って、アンモニアガスセンサとしての使用を考慮した場合、電極の試作性やアンモニアガスセンサとしての特性のばらつきを低減させるという観点から、電気的絶縁基板の形成材料であるアルミナの熱膨張係数にできる限り近い熱膨張係数を有するガラス材料が、ガラス層の形成材料として採用されることが望ましい。例えば、ガラス層の形成材料としては、アルミナの熱膨張係数の±10(%)以内の熱膨張係数を有するガラス材料を採用することが望ましい。
【0048】
なお、密着性に対し効果があるガラス材料の種類としては、上述のガラス材料に限ることなく、さらに、電極の焼き付け温度に応じた適切な軟化点、融点、組成、熱膨張係数等のファクターを適宜調整したガラス材料を採用することが望ましい。これによれば、電極が電気的絶縁基板に対しより一層良好に形成され得るのは勿論のこと、電極の電気的絶縁基板に対する密着性がより一層良好に確保され得る。
(2)耐久性評価試験
この耐久性評価試験にあたり、第1〜第4の耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例を準備した。そして、当該耐久性評価試験は、これら各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例に対し、下記の耐久方法、耐久条件及びアンモニア感度の測定条件のもとに、ベースインピーダンス、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス及びアンモニア感度の変動を測定することで行った。 なお、第1〜第4の耐久性評価用実施例は、それぞれ、上述した第1〜第4の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料を用いて上述した構成のアンモニアガスセンサを作製したものである。また、耐久性評価用比較例は、ガラス層を無くして櫛歯状の両電極を電気的絶縁基板に直接形成したアンモニアガスセンサを作製したものである。
【0049】
但し、アンモニア感度とはインピーダンスの変化率をいい、このアンモニア感度は、次の式(1)でもって定義される。
【0050】
アンモニア感度={(Zb−Z)/Zb}×100(%)・・・(1)
ここで、Zbはベースインピーダンスであり、Zは濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスである。また、ベースインピーダンスは、アンモニアの濃度=0(p.p.m)のときのインピーダンスをいう。
【0051】
耐久方法:
この耐久方法としては、大気中において第1〜第4の耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例を机上に載置してヒータでもって連続的に加熱する方法を採用した。
【0052】
耐久条件:
耐久温度は600(℃)とし、耐久時間は約1500(hr)とする。
【0053】
評価方法:
この評価方法としては、耐久時間の任意の経過時ごとに、アンモニア感度を、下記の測定条件のもとに測定し、当該アンモニア感度の変動を評価する方法を採用した。
【0054】
アンモニア感度の測定条件:
ガス温度は280(℃)とし、各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例の制御温度は400(℃)とする。また、ガス流量は18(リットル/min)とし、ガス流速は0.015(m/sec)とする。
【0055】
また、ガス組成は、10(体積%)の酸素(O2)、5(体積%)の二酸化炭素(CO2)、5(体積%)の水(H2O)、0(p.p.m)〜150(p.p.m)の範囲以内の濃度のアンモニア(NH3)及び窒素とする。
【0056】
上述の耐久性評価試験を行う前に、各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例を評価装置に配置して、所定の周波数(400(Hz))の交流電圧を当該各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例に印加して、当該各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例の各インピーダンスを測定した。
【0057】
然る後、各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例に対し、上述の耐久性評価試験を施した。その結果、第1の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ1−1及び1−2(図5参照)並びにグラフ1−3(図6参照)が得られ、第2の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ2−1及び2−2(図7参照)並びにグラフ2−3(図8参照)が得られた。
【0058】
第3の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ3−1及び3−2(図9参照)並びにグラフ3−3(図10参照)が得られ、第4の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ4−1及び4−2(図11参照)並びにグラフ4−3(図12参照)が得られた。
【0059】
また、耐久性評価用比較例に対しては、各グラフ5−1及び5−2(図13参照)並びにグラフ5−3(図14参照)が得られた。なお、図5、図7、図9、図11及び図13において、座標面の縦軸は、インピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスの双方に相当)を示し、横軸は耐久時間を示す。また、図6、図8、図10、図12及び図14において、座標面の縦軸はアンモニア感度を示し、横軸は耐久時間を示す。
【0060】
上記各グラフのうち、耐久性評価用比較例に対する各グラフ5−1及び5−2(図13及び図14参照)によれば、ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスの双方が、約800(hr)の耐久時間の経過後から大幅に上昇する一方、アンモニア感度が低下することが分かる。
【0061】
また、耐久試験後において、耐久性評価用比較例の外観を調査したところ、感応層が、部分的に、電極から浮き上がって脱落している様子が観察された。さらに、詳細に調べたところ、電極が電気的絶縁基板から剥離していることが分かった。
【0062】
これによれば、ガラス層を有さない耐久性評価用比較例では、上述のような電極の電気的絶縁基板からの剥離が原因となって、当該耐久性評価用比較例のアンモニアガスセンサとしての特性が大幅に変化したものと考えられる。このことは、アンモニアガスセンサの耐久性向上のためには、電極の電気的絶縁基板に対する密着性向上が必須の課題であることを示している。
【0063】
また、第1の耐久性評価用実施例に対する各グラフ1−1及び1−2(図5参照)並びにグラフ1−3(図6参照)、並びに第2の耐久性評価用実施例に対する各グラフ2−1及び2−2(図7参照)並びにグラフ2−3(図8参照)によれば、耐久時間が1200(hr)経過しても、ベースインピーダンス、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス及びアンモニア感度は、共に、殆ど変化することなく、順調に推移することが分かる。
【0064】
また、第3の耐久性評価用実施例に対する各グラフ3−1及び3−2(図9参照)並びにグラフ3−3(図10参照)によれば、ベースインピーダンス及びアンモニア感度は、耐久時間の経過に伴い、緩やかに低下するが、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスは、第1及び第2の耐久性評価用実施例と同様に、殆ど変化しないことが分かる。
【0065】
また、第4の耐久性評価用実施例に対する各グラフ4−1及び4−2(図11参照)並びにグラフ4−3(図12参照)によれば、ベースインピーダンス、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス及びアンモニア感度は、耐久時間の経過に伴い、かなり低下することが分かる。
【0066】
次に、第1〜第4の耐久性評価用実施例につき、上述の耐久試験の後において、電子線プローブマイクロアナライザー(いわゆるEPMA)を用いて分析してみた。これによれば、第1及び第2の耐久性評価用実施例では、SiO2成分が感応層に存在する様子を観察することはできなかった。
【0067】
これに対し、第3の耐久性評価用実施例では、若干のSiO2成分が感応層に存在している様子が観察され、また、第4の耐久性評価用実施例では、大量のSiO2成分が感応層に存在している様子が観察された。これは、ガラス層に含有されるSiO2成分が、耐久試験による長い耐久時間の間の加熱処理に伴い、感応層に拡散するためであると推測される。なお、第3及び第4の耐久性評価用実施例の劣化は、SiO2成分の拡散による感応層の被毒に起因するものと推測される。
【0068】
ちなみに、第1〜第4の耐久性評価用実施例について、感応層のSiO2成分の含有量を、Wave Length Dispersive X-ray Spectgroscopy(いわゆるWDS)により分析することで定量してみた。その結果、感応層のSiO2成分の含有量は、第1の耐久性評価用実施例では、0.04(%)であり、第2の耐久性評価用実施例では、0.10(%)であり、第3の耐久性評価用実施例では、0.18(%)であり、第4の耐久性評価用実施例では、1.99(%)であった。
【0069】
これによれば、第3及び第4の耐久性評価用実施例では、感応層のSiO2成分の含有量が、第1及び第2の耐久性評価用実施例よりも大幅に増大していることが分かる。従って、第3及び第4の耐久性評価用実施例では、劣化が、第1及び第2の耐久性評価用実施例よりも非常に大きいと推測される。
【0070】
これは、第3及び第4の耐久性評価用実施例の各ガラス層のガラス材料のガラス転移点が、第1及び第2の耐久性評価用実施例の各ガラス層のガラス材料のガラス転移点に比べて、約50(℃)低く、第3及び第4の耐久性評価用実施例の各ガラス層の熱安定性が、第1及び第2の耐久性評価用実施例の各ガラス層の熱安定性に比べて低いことによるものと予想されるためである。
【0071】
その結果、感応層のSiO2成分の含有量が、0.1(%)以下であれば、当該アンモニアガスセンサの出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行えることが分かった。
【0072】
また、上述のように、感応層のSiO2成分の含有量が、0.1(%)以下でなくても、SiO2成分が感応層に均一に分散していれば、当該アンモニアガスセンサとしての出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行えることも分かった。
【0073】
ここで、ガラス層の形成材料であるガラス材料としては、密着性及び熱膨張係数に加え、耐熱安定性を有する材料であることが望ましい。例えば、第1及び第2の耐久性評価用実施例のガラス層の形成材料であるガラス材料であれば、ガラス層による電極の密着性向上の効果が得られると同時に、ガラス層のSiO2成分が原因となる感応層の劣化も特にみられず、耐久性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。なお、本実施形態において、ガラス層20は、上述したように、SiO2、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料からなるため、電極の密着性向上及び耐久性に優れたアンモニアガスセンサとしての成立要件が満たされている。
(3)ガス選択性評価試験
このガス選択性評価試験は、ガス選択性評価用実施例及びガス選択性評価用比較例を準備して行った。なお、ガス選択性評価用実施例としては、上述した第1の耐久性評価用実施例において、電極の電極材料として貴金属のみからなる材料を採用した構成を有するものを準備した。また、ガス選択性評価用比較例としては、上述した耐久性評価用比較例において、電極の電極材料として密着性向上のための添加材を含有する材料を採用した構成を有するものを準備した。このガス選択性評価用比較例の電極の形成材料は、密着性向上のため、鉛、ホウ素、チタン或いは銅からなる金属酸化物を含有している。
【0074】
当該ガス選択性評価試験の結果によれば、図15及び図16にて示す棒グラフが得られた。ここで、図15の棒グラフは、ガス選択性評価用実施例の各種ガスに対する感度特性を示し、図16の棒グラフは、ガス選択性評価用比較例の各種ガスに対する感度特性を示す。
【0075】
なお、図15及び図16の各棒グラフは、アンモニアの濃度100(p.p.m)に対する感度を100に規格化して、各種ガスの濃度と感度比とでもって示されている。また、各種ガスとしては、NH3ガス、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスが採用されているが、C3H6ガスの濃度が100(p.p.mC)であるのに対し、残りのNH3ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスの濃度は、100(p.p.m)である。
【0076】
しかして、ガス選択性評価用比較例では、上述のごとく、電極の形成材料が金属酸化物を含有しているために、電極の電気的絶縁基板に対する密着性は良好であった。しかし、図16のグラフから分かるように、NH3ガス以外のC3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスに対しても、ある程度の感度(感度比)が発現される。
【0077】
これは、次のような理由に基づくものと推測される。即ち、両電極に加えた金属酸化物が、COガスやNOガス等の還元性ガスの吸着でもって抵抗変化を起こし、アンモニアガスセンサとしての検出出力が、アンモニアガス以外のガス種、即ち、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスの存在によって、変化するためであると推測される。これによれば、両電極30、40の電極材料は、上述の金属酸化物を含有することなく、貴金属のみからなることが望ましいといえる。
【0078】
一方、ガス選択性評価用実施例では、図15の棒グラフによれば、NH3ガス以外のC3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスに対しては、殆ど、感度(感度比)が発現されていない。
【0079】
従って、図15及び図16の各棒グラフを比較すれば、ガス選択性評価用実施例は、ガス選択性評価用比較例に比べて、アンモニアガスの選択性に優れていることが分かる。
【0080】
なお、ガス選択性評価用比較例の電極は、上述のごとく、貴金属のみからなるものとしたが、これに限らず、当該電極は、貴金属と、少なくともZrO2、Al2O3、SiO2、CeO2の一種とから形成されていても、貴金属のみからなる電極と同様に、ガス選択性に優れたアンモニアガスセンサとすることができる。具体的には、貴金属とイットリア部分安定化ジルコニアとからなる電極が挙げられる。
【0081】
以上述べたことから明らかなように、本実施形態によれば、両電極30、40と電気的絶縁基板10との間にガラス層20が設けられているから、両電極30、40は、当該アンモニアガスセンサの長期間の使用においても、剥離することなく、ガラス層20により、十分な強度でもって、電気的絶縁基板10上に密着されて保持され得る。これに伴い、感応層50も、同様に、十分な強度でもって、電気的絶縁基板10上に密着されて保持され得る。また、両電極30、40が貴金属のみで形成されているから、ガス選択性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。
【0082】
なお、本発明の実施にあたり、電気的絶縁基板10は、板に限ることなく、電気的絶縁体であればよく、電気的絶縁基板10の形成材料は、アルミナに限ることなく、電気的絶縁材料であればよい。また、両電極30、40は、櫛歯状に限ることなく、どのような形状のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を適用したアンモニアガスセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1にて2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1のアンモニアガスセンサの分解斜視図である。
【図4】上記第1実施形態における第1〜第7の密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例のガラス層の形成材料の主成分、熱膨張係数、転移点、軟化点、剥離試験結果及び電極の試作性を示す図表である。
【図5】上記実施形態における第1の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図6】上記実施形態における第1の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図7】上記実施形態における第2の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図8】上記実施形態における第2の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図9】上記実施形態における第3の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図10】上記実施形態における第3の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図11】上記実施形態における第4の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図12】上記実施形態における第4の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図13】上記実施形態における密着性評価用比較例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図14】上記実施形態における密着性評価用比較例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図15】ガス選択性実施例のNH3ガス、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスと感度比との関係を示す棒グラフである。
【図16】ガス選択性比較例のNH3ガス、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスと感度比との関係を示す棒グラフである。
【符号の説明】
【0084】
10…電気的絶縁基板、20…ガラス層、30、40…電極、50…感応層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出雰囲気中に含まれるアンモニアガスを検出するに適したアンモニアガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンモニアガスセンサとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたアンモニアセンサが提案されている。このアンモニアセンサは、絶縁基板と、この絶縁基板上に設けた一対の櫛歯電極と、この一対の櫛歯電極を介し絶縁基板上に設けた感応層とを備えている。ここで、感応層は、固体超強酸物質を含む感応材料でもって形成されている。
【特許文献1】特開2005−114355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記アンモニアセンサを、例えば、自動車の排気ガス中において、実際に使用するにあたり、電極の絶縁基板に対する密着性が不十分であると、当該電極が、排気ガスの流速や自動車の機械的振動の影響を受けて、絶縁基板から剥離するおそれがある。
【0004】
このように当該電極が絶縁基板から剥離すると、アンモニアセンサが良好には機能しなくなってしまう。従って、上述した電極は、絶縁基板上に強固に密着していることが要請される。
【0005】
しかしながら、上述のアンモニアセンサのように電極が単に絶縁基板上に設けられているだけでは、電極の絶縁基板に対する密着性が適正には確保され得ないという不具合が生ずる。
【0006】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、電気的絶縁体上に電極を設ける構成に工夫を凝らし、電極の電気的絶縁体に対する密着性を強固に確保するようにしたアンモニアガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決にあたり、本発明に係るアンモニアガスセンサは、請求項1の記載によれば、
電気的絶縁体(10)と、この電気的絶縁体上に形成される電極(30、40)と、当該電極を覆蓋するように電気的絶縁体上に形成されて固体超強酸物質材料なる感応体(50)とを備える。
【0008】
当該アンモニアガスセンサにおいて、電気的絶縁体と電極との間に設けられたガラス層(20)を具備することを特徴とする。
【0009】
このように、電気的絶縁体と電極との間に設けられたガラス層を具備することで、電極は、当該アンモニアガスセンサの長期間の使用においても、剥離することなく、ガラス層により、十分な強度でもって、電気的絶縁基板上に密着されて保持され得る。
【0010】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のアンモニアガスセンサにおいて、電極は、貴金属のみで形成されていることを特徴とする。
【0011】
これにより、請求項1に記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、ガス選択性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。
【0012】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1に記載のアンモニアガスセンサにおいて、電極は、貴金属と、少なくともZrO2、Al2O3、SiO2、CeO2の一種とから形成されていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、請求項1に記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、請求項2に記載の発明と同様に、ガス選択性に優れ、さらには電極の表面に凹凸が形成されることで電極と感応体との密着性も向上する。
【0014】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサにおいて、感応体を形成する上記固体超強酸物質材料には、シリコン成分が均一に分散して含有されていることを特徴とする。
【0015】
これによれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、アンモニアガスセンサとしての出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行われ得る。
【0016】
なお、「シリコン成分が均一に分散して含有する」とは、感応体の表面付近のシリコン成分の含有量と感応体のガラス層付近のシリコン成分の含有量とを比較した場合、含有量の差が測定器の検出精度以下であることをいう。
【0017】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1〜4のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサにおいて、感応体を形成する上記固体超強酸物質材料には、0.1(%)以下のシリコン成分が含有されていることを特徴とする。
【0018】
これによれば、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明の作用効果が達成され得るのは勿論のこと、請求項4に記載の発明と同様に、アンモニアガスセンサとしての出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行われ得る。
【0019】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形状に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るアンモニアガスセンサの一実施形態を示しており、このアンモニアガスセンサは、図2及び図3にて示すごとく、アルミナ製の電気的絶縁基板10と、ガラス層20と、櫛歯状の両電極30、40と、感応層50とを備えている。なお、当該アンモニアガスセンサは、例えば、自動車等に搭載のディーゼルエンジンの排気ガス系統に配設してなるNOx選択還元触媒システムに適用される。
【0022】
ガラス層20は、図1にて示すごとく、電気的絶縁基板10の表面のうち右側表面部位に沿い設けられている。
【0023】
両電極30、40は、図2或いは図3から分かるように、ガラス層20の表面上に櫛歯状に交差して設けられている。ここで、電極30の各電極部31が、電極40の各電極部41と櫛歯状に交差するように設けられている。
【0024】
また、両電極30、40は、その各接続端子32、42(図3参照)にて、両リード11、12の各内端部上に重畳されて、当該両リード11、12に電気的に接続されている。なお、両リード11、12は、図1及び図3にて示すごとく、電気的絶縁基板10の表面のうち左側表面部位に沿い互いに並行に形成されている。
【0025】
感応層50は、アンモニアガス用感応材料からなるもので、この感応層50は、図2にて示すごとく、両電極30、40を覆蓋するようにしてガラス層20の表面に積層されている。なお、本実施形態では、両電極30、40及び感応層50が、当該アンモニアガスセンサのセンサ素子を構成する。
【0026】
また、当該アンモニアガスセンサは、図2にて示すごとく、測温抵抗体60及びヒータ70を備えており、これら測温抵抗体60及びヒータ70は、電気的絶縁基板10に内蔵されている。
【0027】
測温抵抗体60は、白金抵抗体からなるもので、この測温抵抗体60は、電気的絶縁基板10内にて感応層50の近傍直下に位置している。また、ヒータ70は、例えば、アルミナを含有する白金ペーストの焼結体でもって蛇行状に形成されており、このヒータ70は、図2にて示すごとく、測温抵抗体60よりも下側にて電気的絶縁基板10に内蔵されている。しかして、このヒータ70は、測温抵抗体60の抵抗値(温度に対応する)に基づき、感応層50を一定温度に制御するように駆動される。
【0028】
以上のように構成したアンモニアガスセンサによれば、交流電圧が交流電源(図示しない)から両リード11、12を介し両電極30、40間に印加されることで、当該両電極30、40間に生ずるインピーダンスが、アンモニアガスの濃度として検出される。なお、当該インピーダンスは、感応層50の外面に接触する被検出雰囲気(例えば、ディーゼルエンジンの排気ガス雰囲気)中のアンモニアガスの濃度に応じて変化する。
【0029】
次に、以上のように構成した当該アンモニアガスセンサの製造方法について説明する。
1.ガラス層20及び両電極30、40の作製
測温抵抗体60及びヒータ70を内蔵してなるアルミナ製の電気的絶縁基板を電気的絶縁基板10として準備する。なお、両リード11、12は、電気的絶縁基板10の焼成前に上記左側表面部位に沿い互いに並行に作製され、電気的絶縁基板10と同時に焼成される。
【0030】
然る後、ガラスペーストを、電気的絶縁基板10の上記右側表面部位に厚膜状にスクリーン印刷し、55(℃)にて、1時間(hr)の間乾燥してガラスペースト層として形成する。ここで、上述のガラスペーストは、例えば、SiO2、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料を用いて作製されている。なお、上記主成分のうち、Rは、アルカリ土類金属である。
【0031】
ついで、電極材料(例えば、金(Au))からなるペーストを用いて、スクリーン印刷により、両電極30、40の櫛歯状に対応する電極パターンペースト層として上記ガラスペースト上に厚膜状に形成して、55(℃)にて1時間(hr)の間乾燥する。なお、上記電極パターンペースト層のうち、電極30の電極部31に対応する部位と電極40の電極部41に対応する部位との間の間隔が、100(μm)となるように、上述した電極パターンペースト層のスクリーン印刷がなされる。
【0032】
然る後、以上のように電気的絶縁基板10に形成乾燥したガラスペースト層及び電極パターンペーストを、1000(℃)にて1時間(hr)の間、同時焼き付けする。これにより、ガラス層20及び櫛歯状の両電極30、40が電気的絶縁基板10の上記右側表面部位に作製される。
2.感応層50の作製
アンモニアガスの感応材料である固体超強酸材料(10(%)WO3/ZrO2)、有機溶剤及び分散剤を、乳鉢に入れてらいかい機でもって4時間(hr)の間分散混合し、然る後、バインダーを添加して、さらに4時間(hr)の間湿式混合を行ってスラリーとし、粘度調整を行い、感応材料ペーストを作製する。
【0033】
ついで、このように作製した感応材料ペーストを、上述のように作製した両電極30、40を覆蓋するようにして、ガラス層20の表面に厚膜状にスクリーン印刷して、感応ペースト層として形成する。然る後、この感応ペースト層を、60(℃)にて乾燥し、ついで、600(℃)にて焼き付け処理を行って、感応層50として作製する。これにより、当該アンモニアガスセンサの製造が終了する。
【0034】
ちなみに、このようにして製造されたアンモニアガスセンサについて、電極の密着性評価試験、耐久性評価試験及びガス選択性評価試験を行ってみた。
(1)電極の密着性評価試験
この密着性評価試験は、第1〜第7の密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例を準備して、これら各密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例に対し、メンディングテープによる剥離試験方法を適用することで行うこととした。
【0035】
まず最初に、各密着性評価用実施例は、上述のように構成したアンモニアガスセンサのうち両リード11、12及び感応層50を除いた構造体、即ち、電気的絶縁基板にガラス層及び両電極を焼き付けたものである。これら各密着性評価用実施例のガラス層は、その主成分、熱膨張係数、転移点及び軟化点を、次のごとく、互いに異にする(図4の図表参照)。
【0036】
即ち、第1及び第2の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第1の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、79×10-7、725(℃)及び880(℃)とするのに対し、第2の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数及び転移点を、それぞれ、80×10-7及び720(℃)とし、軟化点を、第1の密着性評価用実施例の場合と同様に、880(℃)とする。なお、上記主成分において、Rは、上述のごとく、アルカリ土類金属である。
【0037】
第3及び第4の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2、ZnO及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第3の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、73×10-7、670(℃)及び770(℃)とするのに対し、第4の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、72×10-7、655(℃)及び805(℃)とする。
【0038】
また、第5及び第6の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第5の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、67×10-7、765(℃)及び925(℃)とするのに対し、第6の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、66×10-7、660(℃)及び850(℃)とする。
【0039】
また、第7の密着性評価用実施例では、ガラス層の形成材料は、SiO2、B2O3、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料からなる。但し、第7の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料は、その熱膨張係数、転移点及び軟化点を、それぞれ、53×10-7、695(℃)及び790(℃)とする。
【0040】
また、密着性評価用比較例は、上述のように構成したアンモニアガスセンサのうち両リード11、12及び感応層50を除いた構造体において、さらにガラス層をなくして、櫛歯状の両電極を電気的絶縁基板に直接形成したものである。
【0041】
上記剥離試験方法:
メンディングテープとしては、コクヨ株式会社製T−112型メンディングテープ(12(mm)×35(mm))を採用した。そして、当該メンディングテープを、各密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例の基板の表面の全体(3.7(mm)×6.4(mm))に亘り電極及びガラス層を介し貼り付けて指で強く押しつけた後、当該メンディングテープを剥がすようにした。
【0042】
判定方法:
上述のようにメンディングテープを剥がした箇所を観察し、電極の剥離が明らかである場合には、密着不良であるとみなすことで判定した。なお、上記剥離試験方法は、JIS H 8504「めっきの密着性試験方法」を参考にしたものである。
【0043】
しかして、密着性評価用比較例は、密着性評価試験によれば、図4の図表にて×印で示すごとく、電極の剥離が観察された。これに対し、第1〜第7の密着性評価用実施例では、密着性評価試験によっては、図4の図表にて○印で示すごとく、電極の剥離は観察されなかった。従って、第1〜第7の密着性評価用実施例では、電極が、密着性評価用比較例とは異なり、電気的絶縁基板との間において、ガラス層を介し、十分な密着性を有することが分かる。
【0044】
また、本実施形態において、図4の図表では、第1〜第7の密着性評価用実施例の電極の試作性に関する評価が、付随的に記載されている。この評価は、電極の櫛歯状電極パターンの外観検査の結果を示している。
【0045】
これによれば、第5〜第7の密着性評価用実施例では、電極の電気的絶縁基板に対する密着性自体は、上述のように十分であっても、電極及びガラス層を同時に焼き付けた後の電極形状に、いわゆる「にじみ」や「きれ」の発生が見られた。
【0046】
これは、ガラス層の形成材料の熱膨張係数と、電気的絶縁基板の形成材料の成分であるアルミナの熱膨張係数(約78×10-7)との差がより大きいために、ガラス層の良好な形成が阻害され、その結果、電極の櫛歯形状に悪影響を及ぼして、上述の「にじみ」や「きれ」の発生を招いたものと推測される。
【0047】
従って、アンモニアガスセンサとしての使用を考慮した場合、電極の試作性やアンモニアガスセンサとしての特性のばらつきを低減させるという観点から、電気的絶縁基板の形成材料であるアルミナの熱膨張係数にできる限り近い熱膨張係数を有するガラス材料が、ガラス層の形成材料として採用されることが望ましい。例えば、ガラス層の形成材料としては、アルミナの熱膨張係数の±10(%)以内の熱膨張係数を有するガラス材料を採用することが望ましい。
【0048】
なお、密着性に対し効果があるガラス材料の種類としては、上述のガラス材料に限ることなく、さらに、電極の焼き付け温度に応じた適切な軟化点、融点、組成、熱膨張係数等のファクターを適宜調整したガラス材料を採用することが望ましい。これによれば、電極が電気的絶縁基板に対しより一層良好に形成され得るのは勿論のこと、電極の電気的絶縁基板に対する密着性がより一層良好に確保され得る。
(2)耐久性評価試験
この耐久性評価試験にあたり、第1〜第4の耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例を準備した。そして、当該耐久性評価試験は、これら各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例に対し、下記の耐久方法、耐久条件及びアンモニア感度の測定条件のもとに、ベースインピーダンス、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス及びアンモニア感度の変動を測定することで行った。 なお、第1〜第4の耐久性評価用実施例は、それぞれ、上述した第1〜第4の密着性評価用実施例のガラス層の形成材料を用いて上述した構成のアンモニアガスセンサを作製したものである。また、耐久性評価用比較例は、ガラス層を無くして櫛歯状の両電極を電気的絶縁基板に直接形成したアンモニアガスセンサを作製したものである。
【0049】
但し、アンモニア感度とはインピーダンスの変化率をいい、このアンモニア感度は、次の式(1)でもって定義される。
【0050】
アンモニア感度={(Zb−Z)/Zb}×100(%)・・・(1)
ここで、Zbはベースインピーダンスであり、Zは濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスである。また、ベースインピーダンスは、アンモニアの濃度=0(p.p.m)のときのインピーダンスをいう。
【0051】
耐久方法:
この耐久方法としては、大気中において第1〜第4の耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例を机上に載置してヒータでもって連続的に加熱する方法を採用した。
【0052】
耐久条件:
耐久温度は600(℃)とし、耐久時間は約1500(hr)とする。
【0053】
評価方法:
この評価方法としては、耐久時間の任意の経過時ごとに、アンモニア感度を、下記の測定条件のもとに測定し、当該アンモニア感度の変動を評価する方法を採用した。
【0054】
アンモニア感度の測定条件:
ガス温度は280(℃)とし、各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例の制御温度は400(℃)とする。また、ガス流量は18(リットル/min)とし、ガス流速は0.015(m/sec)とする。
【0055】
また、ガス組成は、10(体積%)の酸素(O2)、5(体積%)の二酸化炭素(CO2)、5(体積%)の水(H2O)、0(p.p.m)〜150(p.p.m)の範囲以内の濃度のアンモニア(NH3)及び窒素とする。
【0056】
上述の耐久性評価試験を行う前に、各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例を評価装置に配置して、所定の周波数(400(Hz))の交流電圧を当該各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例に印加して、当該各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例の各インピーダンスを測定した。
【0057】
然る後、各耐久性評価用実施例及び耐久性評価用比較例に対し、上述の耐久性評価試験を施した。その結果、第1の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ1−1及び1−2(図5参照)並びにグラフ1−3(図6参照)が得られ、第2の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ2−1及び2−2(図7参照)並びにグラフ2−3(図8参照)が得られた。
【0058】
第3の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ3−1及び3−2(図9参照)並びにグラフ3−3(図10参照)が得られ、第4の耐久性評価用実施例に対しては、各グラフ4−1及び4−2(図11参照)並びにグラフ4−3(図12参照)が得られた。
【0059】
また、耐久性評価用比較例に対しては、各グラフ5−1及び5−2(図13参照)並びにグラフ5−3(図14参照)が得られた。なお、図5、図7、図9、図11及び図13において、座標面の縦軸は、インピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスの双方に相当)を示し、横軸は耐久時間を示す。また、図6、図8、図10、図12及び図14において、座標面の縦軸はアンモニア感度を示し、横軸は耐久時間を示す。
【0060】
上記各グラフのうち、耐久性評価用比較例に対する各グラフ5−1及び5−2(図13及び図14参照)によれば、ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスの双方が、約800(hr)の耐久時間の経過後から大幅に上昇する一方、アンモニア感度が低下することが分かる。
【0061】
また、耐久試験後において、耐久性評価用比較例の外観を調査したところ、感応層が、部分的に、電極から浮き上がって脱落している様子が観察された。さらに、詳細に調べたところ、電極が電気的絶縁基板から剥離していることが分かった。
【0062】
これによれば、ガラス層を有さない耐久性評価用比較例では、上述のような電極の電気的絶縁基板からの剥離が原因となって、当該耐久性評価用比較例のアンモニアガスセンサとしての特性が大幅に変化したものと考えられる。このことは、アンモニアガスセンサの耐久性向上のためには、電極の電気的絶縁基板に対する密着性向上が必須の課題であることを示している。
【0063】
また、第1の耐久性評価用実施例に対する各グラフ1−1及び1−2(図5参照)並びにグラフ1−3(図6参照)、並びに第2の耐久性評価用実施例に対する各グラフ2−1及び2−2(図7参照)並びにグラフ2−3(図8参照)によれば、耐久時間が1200(hr)経過しても、ベースインピーダンス、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス及びアンモニア感度は、共に、殆ど変化することなく、順調に推移することが分かる。
【0064】
また、第3の耐久性評価用実施例に対する各グラフ3−1及び3−2(図9参照)並びにグラフ3−3(図10参照)によれば、ベースインピーダンス及びアンモニア感度は、耐久時間の経過に伴い、緩やかに低下するが、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンスは、第1及び第2の耐久性評価用実施例と同様に、殆ど変化しないことが分かる。
【0065】
また、第4の耐久性評価用実施例に対する各グラフ4−1及び4−2(図11参照)並びにグラフ4−3(図12参照)によれば、ベースインピーダンス、濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス及びアンモニア感度は、耐久時間の経過に伴い、かなり低下することが分かる。
【0066】
次に、第1〜第4の耐久性評価用実施例につき、上述の耐久試験の後において、電子線プローブマイクロアナライザー(いわゆるEPMA)を用いて分析してみた。これによれば、第1及び第2の耐久性評価用実施例では、SiO2成分が感応層に存在する様子を観察することはできなかった。
【0067】
これに対し、第3の耐久性評価用実施例では、若干のSiO2成分が感応層に存在している様子が観察され、また、第4の耐久性評価用実施例では、大量のSiO2成分が感応層に存在している様子が観察された。これは、ガラス層に含有されるSiO2成分が、耐久試験による長い耐久時間の間の加熱処理に伴い、感応層に拡散するためであると推測される。なお、第3及び第4の耐久性評価用実施例の劣化は、SiO2成分の拡散による感応層の被毒に起因するものと推測される。
【0068】
ちなみに、第1〜第4の耐久性評価用実施例について、感応層のSiO2成分の含有量を、Wave Length Dispersive X-ray Spectgroscopy(いわゆるWDS)により分析することで定量してみた。その結果、感応層のSiO2成分の含有量は、第1の耐久性評価用実施例では、0.04(%)であり、第2の耐久性評価用実施例では、0.10(%)であり、第3の耐久性評価用実施例では、0.18(%)であり、第4の耐久性評価用実施例では、1.99(%)であった。
【0069】
これによれば、第3及び第4の耐久性評価用実施例では、感応層のSiO2成分の含有量が、第1及び第2の耐久性評価用実施例よりも大幅に増大していることが分かる。従って、第3及び第4の耐久性評価用実施例では、劣化が、第1及び第2の耐久性評価用実施例よりも非常に大きいと推測される。
【0070】
これは、第3及び第4の耐久性評価用実施例の各ガラス層のガラス材料のガラス転移点が、第1及び第2の耐久性評価用実施例の各ガラス層のガラス材料のガラス転移点に比べて、約50(℃)低く、第3及び第4の耐久性評価用実施例の各ガラス層の熱安定性が、第1及び第2の耐久性評価用実施例の各ガラス層の熱安定性に比べて低いことによるものと予想されるためである。
【0071】
その結果、感応層のSiO2成分の含有量が、0.1(%)以下であれば、当該アンモニアガスセンサの出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行えることが分かった。
【0072】
また、上述のように、感応層のSiO2成分の含有量が、0.1(%)以下でなくても、SiO2成分が感応層に均一に分散していれば、当該アンモニアガスセンサとしての出力の低下を招くことなく、アンモニアガスの検出が良好に行えることも分かった。
【0073】
ここで、ガラス層の形成材料であるガラス材料としては、密着性及び熱膨張係数に加え、耐熱安定性を有する材料であることが望ましい。例えば、第1及び第2の耐久性評価用実施例のガラス層の形成材料であるガラス材料であれば、ガラス層による電極の密着性向上の効果が得られると同時に、ガラス層のSiO2成分が原因となる感応層の劣化も特にみられず、耐久性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。なお、本実施形態において、ガラス層20は、上述したように、SiO2、Al2O3及びROを主成分とするガラス材料からなるため、電極の密着性向上及び耐久性に優れたアンモニアガスセンサとしての成立要件が満たされている。
(3)ガス選択性評価試験
このガス選択性評価試験は、ガス選択性評価用実施例及びガス選択性評価用比較例を準備して行った。なお、ガス選択性評価用実施例としては、上述した第1の耐久性評価用実施例において、電極の電極材料として貴金属のみからなる材料を採用した構成を有するものを準備した。また、ガス選択性評価用比較例としては、上述した耐久性評価用比較例において、電極の電極材料として密着性向上のための添加材を含有する材料を採用した構成を有するものを準備した。このガス選択性評価用比較例の電極の形成材料は、密着性向上のため、鉛、ホウ素、チタン或いは銅からなる金属酸化物を含有している。
【0074】
当該ガス選択性評価試験の結果によれば、図15及び図16にて示す棒グラフが得られた。ここで、図15の棒グラフは、ガス選択性評価用実施例の各種ガスに対する感度特性を示し、図16の棒グラフは、ガス選択性評価用比較例の各種ガスに対する感度特性を示す。
【0075】
なお、図15及び図16の各棒グラフは、アンモニアの濃度100(p.p.m)に対する感度を100に規格化して、各種ガスの濃度と感度比とでもって示されている。また、各種ガスとしては、NH3ガス、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスが採用されているが、C3H6ガスの濃度が100(p.p.mC)であるのに対し、残りのNH3ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスの濃度は、100(p.p.m)である。
【0076】
しかして、ガス選択性評価用比較例では、上述のごとく、電極の形成材料が金属酸化物を含有しているために、電極の電気的絶縁基板に対する密着性は良好であった。しかし、図16のグラフから分かるように、NH3ガス以外のC3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスに対しても、ある程度の感度(感度比)が発現される。
【0077】
これは、次のような理由に基づくものと推測される。即ち、両電極に加えた金属酸化物が、COガスやNOガス等の還元性ガスの吸着でもって抵抗変化を起こし、アンモニアガスセンサとしての検出出力が、アンモニアガス以外のガス種、即ち、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスの存在によって、変化するためであると推測される。これによれば、両電極30、40の電極材料は、上述の金属酸化物を含有することなく、貴金属のみからなることが望ましいといえる。
【0078】
一方、ガス選択性評価用実施例では、図15の棒グラフによれば、NH3ガス以外のC3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスに対しては、殆ど、感度(感度比)が発現されていない。
【0079】
従って、図15及び図16の各棒グラフを比較すれば、ガス選択性評価用実施例は、ガス選択性評価用比較例に比べて、アンモニアガスの選択性に優れていることが分かる。
【0080】
なお、ガス選択性評価用比較例の電極は、上述のごとく、貴金属のみからなるものとしたが、これに限らず、当該電極は、貴金属と、少なくともZrO2、Al2O3、SiO2、CeO2の一種とから形成されていても、貴金属のみからなる電極と同様に、ガス選択性に優れたアンモニアガスセンサとすることができる。具体的には、貴金属とイットリア部分安定化ジルコニアとからなる電極が挙げられる。
【0081】
以上述べたことから明らかなように、本実施形態によれば、両電極30、40と電気的絶縁基板10との間にガラス層20が設けられているから、両電極30、40は、当該アンモニアガスセンサの長期間の使用においても、剥離することなく、ガラス層20により、十分な強度でもって、電気的絶縁基板10上に密着されて保持され得る。これに伴い、感応層50も、同様に、十分な強度でもって、電気的絶縁基板10上に密着されて保持され得る。また、両電極30、40が貴金属のみで形成されているから、ガス選択性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。
【0082】
なお、本発明の実施にあたり、電気的絶縁基板10は、板に限ることなく、電気的絶縁体であればよく、電気的絶縁基板10の形成材料は、アルミナに限ることなく、電気的絶縁材料であればよい。また、両電極30、40は、櫛歯状に限ることなく、どのような形状のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を適用したアンモニアガスセンサの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1にて2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1のアンモニアガスセンサの分解斜視図である。
【図4】上記第1実施形態における第1〜第7の密着性評価用実施例及び密着性評価用比較例のガラス層の形成材料の主成分、熱膨張係数、転移点、軟化点、剥離試験結果及び電極の試作性を示す図表である。
【図5】上記実施形態における第1の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図6】上記実施形態における第1の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図7】上記実施形態における第2の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図8】上記実施形態における第2の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図9】上記実施形態における第3の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図10】上記実施形態における第3の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図11】上記実施形態における第4の密着性評価用実施例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図12】上記実施形態における第4の密着性評価用実施例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図13】上記実施形態における密着性評価用比較例のインピーダンス(ベースインピーダンス及び濃度100(p.p.m)のアンモニアの投入時のインピーダンス)と耐久時間との関係を示す各グラフである。
【図14】上記実施形態における密着性評価用比較例のアンモニア感度と耐久時間との関係を示すグラフである。
【図15】ガス選択性実施例のNH3ガス、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスと感度比との関係を示す棒グラフである。
【図16】ガス選択性比較例のNH3ガス、C3H6ガス、COガス、NOガス及びNO2ガスと感度比との関係を示す棒グラフである。
【符号の説明】
【0084】
10…電気的絶縁基板、20…ガラス層、30、40…電極、50…感応層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的絶縁体と、この電気的絶縁体上に形成される電極と、当該電極を覆蓋するように前記電気的絶縁体上に形成されて固体超強酸物質材料なる感応体とを備えるアンモニアガスセンサにおいて、
前記電気的絶縁体と前記電極との間に設けられたガラス層を具備することを特徴とするアンモニアガスセンサ。
【請求項2】
前記電極は、貴金属のみで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項3】
前記電極は、貴金属と、少なくともZrO2、Al2O3、SiO2、CeO2の一種とから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項4】
前記感応体を形成する上記固体超強酸物質材料には、シリコン成分が均一に分散して含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項5】
前記感応体を形成する前記固体超強酸物質材料には、0.1(%)以下のシリコン成分が含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項1】
電気的絶縁体と、この電気的絶縁体上に形成される電極と、当該電極を覆蓋するように前記電気的絶縁体上に形成されて固体超強酸物質材料なる感応体とを備えるアンモニアガスセンサにおいて、
前記電気的絶縁体と前記電極との間に設けられたガラス層を具備することを特徴とするアンモニアガスセンサ。
【請求項2】
前記電極は、貴金属のみで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項3】
前記電極は、貴金属と、少なくともZrO2、Al2O3、SiO2、CeO2の一種とから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項4】
前記感応体を形成する上記固体超強酸物質材料には、シリコン成分が均一に分散して含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項5】
前記感応体を形成する前記固体超強酸物質材料には、0.1(%)以下のシリコン成分が含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のアンモニアガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−322184(P2007−322184A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150790(P2006−150790)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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