説明

アンモニアガスセンサ

【課題】NH3ガスが、被検出雰囲気中において、NO2等の他のガスと共存していても、NH3ガスに対するガス選択性を良好に維持するようにしたアンモニアガスセンサを提供する。
【解決手段】アンモニアガスセンサは、絶縁基板10と、一対の櫛歯状電極20、30と、感応層40とを備えている。一対の櫛歯状電極20、30は、金属酸化物でもって形成されており、これら櫛歯状電極20、30は、絶縁基板10上に櫛歯状に設けられている。感応層40は、一対の櫛歯状電極20、30を介し絶縁基板10上に積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出雰囲気中のアンモニアガスを検出するに適したアンモニアガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアンモニアガスセンサにおいては、例えば、下記特許文献1に開示されたアンモニアガスセンサがある。このアンモニアガスセンサは、一対の櫛歯電極と、これら一対の櫛歯電極を介し絶縁基板上に積層した感応層とを備えている。ここで、一対の櫛歯電極は、絶縁基板上に積層した金(Au)等の貴金属材料でもって形成されている。また、感応層は、固体超強酸物質を主成分として形成されている。
【特許文献1】特開2005−114355公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したアンモニアガスセンサは、一般的な排ガス組成に対しNH3ガスを加えたガス組成においては、NH3ガスに対し、高いガス選択性を示す。
【0004】
しかしながら、一般的な排ガス組成において、NH3ガスがHCガス、COガス、NOガス或いはNO2ガスと共に共存する環境、特に、NH3がNO2と共に共存する環境では、上記アンモニアガスセンサのNH3ガスに対するガス選択性が不十分となる。その結果、当該アンモニアガスセンサのNH3ガスに対する検出機能が低下するという不具合を生ずることが分かってきた。
【0005】
このような不具合の発生原因について検討してみた。これによれば、一対の櫛歯電極が上述のごとく貴金属材料でもって形成されているために、NH3ガスとNO2ガスとの間の反応が、主に一対の櫛歯電極の表面において、上記貴金属材料の触媒作用によって起こる。その結果、NH3ガスの濃度が低下することで、当該アンモニアガスセンサのNH3ガスに対する検出機能が低下するものと考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、以上のようなことに対応するため、NH3ガスが、被検出雰囲気中において、NO2ガス等の他のガスと共存しても、NH3ガスに対するガス選択性を良好に維持するようにしたアンモニアガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決にあたり、アンモニアガスセンサの電極を形成する材料として、ある種の酸化物材料を用いれば、NH3ガスがNO2ガス等の他のガスと共存する環境においても、他のガスがNH3ガスに与える影響を低減させ得ることが、本発明者等によってみいだされた。
【0008】
このような前提のもと、本発明に係るアンモニアガスセンサは、請求項1の記載によれば、
一対の電極(20、30、50、60)と、当該一対の電極に接するように設けられた感応体(40、70)とを備え、当該感応体の主成分は、固体超強酸物質である。
【0009】
当該アンモニアガスセンサにおいて、一対の電極の主成分は、金属酸化物であり、
当該金属酸化物が、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物であることを特徴とする。
【0010】
このように一対の電極の主成分が金属酸化物であることにより、従来のアンモニアガスセンサのように電極の材料として金(Au)等の貴金属材料を用いるのに比べて、NH3ガスに対するNO2ガス等の他のガスの共存による影響が低減され得る。その結果、当該アンモニアガスセンサの実際の使用環境が、NH3ガスに対するNO2ガス等の他のガスの共存という環境にあっても、NH3ガスに対する検出機能、ひいては検出精度が良好に確保され得る。
【0011】
なお、「感応体の主成分」とは当該感応体中に最も多く含まれる物質をいい、「電極の主成分」とは当該電極中に最も多く含まれる物質をいう。
【0012】
ここで、NH3ガスに対するNO2ガス等の他のガスの共存という環境にあっても、一対の電極の形成材料として金属酸化物を用いることで、上述した共存の影響が低減される根拠について詳細に説明する。
【0013】
まず、NO2ガス等の他のガスのうち、例えばNO2ガスが、NH3ガスと共存する環境において、従来のアンモニアガスセンサによるNH3検出機能が低下する原因について説明する。
【0014】
従来のアンモニアガスセンサによる場合、NH3が、主に、当該アンモニアガスセンサの電極の表面に起こるNO2との反応によって消費される。これに伴い、当該アンモニアガスセンサの電極と感応層との界面の近傍におけるNH3濃度が、被検出雰囲気中のNH3濃度に比べて減少する。その結果、従来のアンモニアガスセンサによるNH3検出機能が低下する。
【0015】
これに対し、電極の表面にて起こるNH3とNO2との反応を抑制する目的で種々の検討を行った。この結果によれば、上述のごとく、アンモニアガスセンサの電極を形成する材料として、ある種の酸化物材料を用いれば、NH3ガスがNO2ガスと共存する環境においても、NO2ガスによりNH3ガスに与えられる影響が低減することが分かった。
【0016】
このようなことにより、上述のように、一対の電極の主成分が金属酸化物であることで、上述したNH3とNO2との反応が抑制される。その結果、NH3ガスのNO2ガスとの共存による影響が、従来のアンモニアガスセンサと比較して、低減され、アンモニアガスセンサとしての検出機能が良好に確保され得る。
【0017】
特に、一対の電極の表面が、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物に固有の表面形態になるとともに、当該一対の電極のガスに対する吸着特性が、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物に固有の吸着特性となる。このような一対の電極の表面形態や吸着特性は、貴金属材料、例えば、金(Au)とはかなり異なっている。これにより、一対の電極の形成材料による触媒活性が、NH3ガスとNO2ガス等の他のガスとの反応に対して、小さくなる。その結果、NH3ガスとNO2等の他のガスとの共存による影響が良好に低減され、上述の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0018】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載のアンモニアガスセンサにおいて、
上記複合酸化物は、一般式A1-xA'xBO3-δでもって特定されており、
上記一般式において、上記Aは、希土類元素のうちの少なくとも1種の元素であり、
上記A’は、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及び硼素(Ba)のうちの少なくとも1種の元素であり、
上記Bは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びガリウム(Ga)のうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする。
【0019】
このような構成の複合酸化物でもって一対の電極を形成することにより、NH3ガスとNO2等の他のガスとの共存による影響が低減されて、NH3ガスに対するガス選択性が向上し得る。
【0020】
この点につき詳細に述べれば、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物は、一般式ABO3で表される。通常、この一般式において、Aサイトには、1〜3価のイオン半径の比較的大きい元素が配置されるとともに、Bサイトには、イオン半径の比較的小さい3〜5価の元素が配置される。
【0021】
Aサイトには、希土類元素或いはアルカリ土類元素を配置する構造が一般的である。Aサイトを、A1-xA'xのように、欠損型とすることにより、キャリア濃度を制御することができる。換言すれば、Aサイトにおいてその一部の元素には例外があるものの、基本的には3価の陽イオン(A)を2価の陽イオン(A')で置換することで、キャリア濃度を制御することができる。このことは、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物が、電極の形成材料として良好に機能し得ることを意味する。
【0022】
また、AサイトとBサイトの各イオン半径の差が大きくなれば、AサイトとBサイトとの置換が起こりにくくなるため、A'サイトには、Aサイトと比較的イオン半径の近いストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及び硼素(Ba)が選択された。
【0023】
また、Aサイトには、ランタン(La)に限ることなく、希土類元素の大部分を占めるランタノイドが内遷移元素を構成し化学的性質もランタン(La)と互いによく似ているため、その他の希土類元素を適用しても、同様の効果が得られる。
【0024】
ここで、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を表す上記一般式中、A'サイトの置換量は0<x<1の範囲をとり得るが、格子欠陥を導入し、構造を安定化させるためには、特に0.1≦x≦0.5の範囲であることが好ましい。なお、上記一般式A1-xA'xBO3-δにおいて、δは上記複合酸化物の電荷が中性であるような数である。
【0025】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項2に記載のアンモニアガスセンサにおいて、
上記複合酸化物は、上記一般式において上記Aをランタン(La)とし、上記A’をストロンチウム(Sr)とし、上記Bをコバルト(Co)としてなるLa1-xSrxCoO3-δの群から選択されることを特徴とする。
【0026】
これにより、請求項2に記載の発明の作用効果がより一層良好に達成され得る。
【0027】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項3に記載のアンモニアガスセンサにおいて、
上記複合酸化物は、上記一般式においてxを0.2としてなるLa0.8Sr0.2CoO3-δであることを特徴とする。
【0028】
これにより、請求項3に記載の発明の作用効果がより一層良好に達成され得る。
【0029】
また、本発明に係るアンモニアガスセンサは、請求項5の記載によれば、請求項1に記載のアンモニアガスセンサにおいて、
上記複合酸化物は、一般式A1-xA'x1-yB'y3-δでもって特定されており、
上記一般式において、上記Aは、希土類元素のうちの少なくとも1種の元素であり、
上記A'は、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及び硼素(Ba)のうちの少なくとも1種の元素であり、
上記Bは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びガリウム(Ga)のうちの少なくとも1種の元素であり、
上記B'は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、銅(Cu)及びインジウム(In)のうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする。
【0030】
このように、一対の電極の形成材料が、上記一般式A1-xA'x1-yB'y3-δで特定され、上記Aが、希土類元素のうちの少なくとも1種の元素(La、Ce、Pr、Nd等)であり、上記A'はアルカリ土類元素であるストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及び硼素(Ba)のうちの少なくとも1種の元素であり、上記Bは遷移金属元素であるコバルト(Co)、マンガン(Mn)及びガリウム(Ga)のうちの少なくとも1種の元素であり、上記B'は鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、銅(Cu)及びインジウム(In)のうちの少なくとも1種の元素であるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有する。
【0031】
これにより、NH3ガスとNO2等の他のガスとの共存による影響が低減され、当該アンモニアガスセンサのNH3ガスに対するガス選択性が良好に確保され得る。
【0032】
この点につき詳細に述べれば、上記一般式A1-xA'x1-yB'y3-δにおいて、Aサイトには、上述のごとく、1〜3価のイオン半径の比較的大きい元素が配置されるとともに、Bサイトには、遷移金属元素の中で、2価あるいは3価の元素であるCo、Mn、Gaを配置し、Fe、Ni、Cr、V、Cu(B')で置換することで、B1-yB'yのように欠損型としてキャリア濃度を制御し得る。このことは、上記複合酸化物が電極の形成材料として良好に機能することを意味する。
【0033】
また、Bサイトに置換する元素を適宜選択することによって、電極の形成材料の熱膨張係数を変化させることが可能である。これにより、電極の形成材料と感応体との間の剥離が防止され、アンモニアガスセンサの長期安定性の向上を図ることができる。
【0034】
ここで、B'サイトの置換量は0<y<1の範囲をとり得るが、結晶構造の安定性を維持しつつ、より高い電子伝導性を得るためには0.1≦y≦0.6の範囲であることが好ましい。
【0035】
このように、AサイトやBサイトを任意の原子で置換したペロブスカイト型電極材料を一対の電極の形成材料として用いることで、電子伝導性が良好で、かつNH3ガスに対するガス選択性に優れたアンモニアガスセンサの提供が可能となる。
【0036】
また、上記ペロブスカイト型酸化物は、アンモニアガスセンサの実際の使用時の温度領域である400(℃)〜700(℃)の高温に晒しても劣化しない物質であるため、常にNH3濃度の正確な検出が可能となる。なお、上記一般式A1-xA'x1-yB'y3-δにおいて、δは上記複合酸化物の電荷が中性であるような数である。
【0037】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項5に記載のアンモニアガスセンサにおいて、
上記複合酸化物は、上記一般式において前記xを0.2とし、上記yを0.6とし、かつ、上記Aをランタン(La)とし、上記A’をストロンチウム(Sr)とし、上記Bをコバルト(Co)とし、上記B’を鉄(Fe)としてなるLa0.8Sr0.2Co0.4Fe0.63-δであることを特徴とする。
【0038】
これにより、請求項5に記載の発明の作用効果がより一層良好に達成され得る。
【0039】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項5に記載のアンモニアガスセンサにおいて、
上記複合酸化物は、上記一般式において上記xを0.3とし、上記yを0.3とし、かつ、上記Aをランタン(La)とし、上記A‘を硼素(Ba)とし、上記Bをマンガン(Mn)とし、上記B’を銅(Cu)及びインジウム(In)からなるCu0.2In0.1としてなるLa0.7Ba0.3Mn0.7Cu0.2In0.13-δであることを特徴とする。
【0040】
これによっても、請求項5に記載の発明の作用効果がより一層良好に達成され得る。
【0041】
また、本発明に係るアンモニアガスセンサは、請求項8の記載によれば、
一対の電極(20、30、50、60)と、当該一対の電極に接するように設けられた感応体(40、70)とを備え、当該感応体の主成分は固体超強酸物質である。
【0042】
当該アンモニアガスセンサにおいて、上記一対の電極が、Co34からなることを特徴とする。
【0043】
このように、上記一対の電極の形成材料として、遷移金属酸化物であるCo34を用いることで、NH3ガスとNO2等の他のガスとの共存による影響が低減されて、NH3ガスに対するガス選択性が良好に確保され得る。
【0044】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の各実施形態を図面により説明する。
【0046】
(第1実施形態)
図1〜図3は、本発明に係るアンモニアガスセンサの第1実施形態を示しており、このアンモニアガスセンサは、アルミナ製絶縁基板10と、一対の櫛歯状電極20、30と、感応層40とを備えている。なお、当該アンモニアガスセンサは、例えば、自動車等に搭載のディーゼルエンジンの排気ガス系統に配設してなるNOX選択還元触媒システムに適用される。
【0047】
一対の櫛歯状電極20、30は、金属酸化物でもって形成されており、これら櫛歯状電極20、30は、図1〜図3から分かるように、絶縁基板10の表面のうち図1にて図示右側表面部位(以下、電極側表面部位ともいう)上に櫛歯状に交差して設けられている。ここで、電極20の各電極部21が、電極30の各電極部31と櫛歯状に交差している(図3参照)。
【0048】
また、一対の電極20、30は、その各接続端子22、32(図3参照)にて、一対のリード11、12の各内端部上に重畳されて電気的に接続されている。なお、一対のリード11、12は、絶縁基板10の表面のうち図1にて図示左側表面部位(以下、リード側表面部位ともいう)上に互いに並行に形成されている。
【0049】
感応層40は、アンモニアガス検出材料である固体超強酸物質を主成分として形成されており、この感応層40は、図1〜図3にて示すごとく、一対の電極20、30を覆蓋するように絶縁基板10の電極側表面部位上に積層形成されている。なお、本第1実施形態では、一対の電極20、30及び感応層40が、当該アンモニアガスセンサのセンサ素子を構成する。
【0050】
以上のように構成したアンモニアガスセンサでは、交流電圧が交流電源(図示しない)から一対のリード11、12を介して一対の電極20、30間に印加されることで、当該一対の電極20、30間に生ずるインピーダンスを検出する。ここで、当該インピーダンスは、感応層40の外面に接触するディーゼルエンジンの排気ガス中のアンモニアガスの濃度に応じて変化する。このことは、当該アンモニアガスセンサは、上記インピーダンスに対応してアンモニアガスの濃度を検出することを意味する。
【0051】
次に、以上のように構成した当該アンモニアガスセンサの製造方法について説明する。本第1実施形態では、当該アンモニアガスセンサは、以下に説明するように、実施例1、実施例2、実施例3或いは実施例4として製造される。但し、これら実施例1〜実施例4において、一対の櫛歯状電極20、30の形成材料としては、上述の金属酸化物のうちの互いに異なる材料が用いられている。なお、各実施例1〜実施例4の製造にあたり、絶縁基板10及び一対のリード11、12の作製並びに感応層40の作製は同様であるので、各実施例2〜実施例4の製造説明においては、主として、一対の櫛歯状電極20、30の作製につき詳細に説明する。
実施例1:
(1)絶縁基板10の作製
従来と同様の方法(例えば、特開2005−114355号公報に記載の方法)で作製された一対のリード11、12をリード側表面部位上に互いに並列に形成してなるアルミナ製絶縁基板を絶縁基板10として準備する。
(2)一対の櫛歯状電極20、30の作製
乳鉢に金属酸化物と有機溶剤及び分散剤を入れてらいかい機で4時間分散混合した後、バインダーを添加してさらに4時間湿式混合を行った上で、粘度調整をして、電極ペーストを作製する。当該実施例1では、上記金属酸化物として、第1のペロブスカイト型酸化物LSCの1つであるLa0.8Sr0.2CoO3-δでもって特定される組成の材料が採用されている。
【0052】
なお、上述のペロブスカイト型酸化物とは、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物をいう。また、上述のLa0.8Sr0.2CoO3-δにおいて、「δ」は、当該複合酸化物の電荷が中性であるような数を表す。また、上述のLSCにおいて、「L」はランタン(La)を表し、「S」はストロンチウム(Sr)を表し、(C)は、コバルトCoを表す。
【0053】
上述のように電極ペーストを作製した後、当該電極ペーストを用いて、一対の電極20、30の櫛歯状に対応する電極パターンを、絶縁基板10の上記電極側表面部位上にスクリーン印刷する。
【0054】
このように電極パターンをスクリーン印刷してなる絶縁基板10を、60(℃)にて、1時間、乾燥後、1000(℃)にて、1時間、焼き付けを行って、絶縁基板10の上記電極側表面部位上に一対の電極20、30を作製する。
(3)感応層40の作製
上述の固体超強酸物質、例えば、10(重量%)WO3/4YSZ材を感応層ペーストとして作製し、この感応層ペーストを、スクリーン印刷により、一対の電極20、30を介し、絶縁基板10の電極側表面部位上に所定形状にて厚膜印刷し、然る後、600(℃)で1(hr)間焼付けて、感応層40を形成する。以上により、当該アンモニアガスセンサの実施例1としての製造が終了する。
実施例2:
一対のリード11、12を備えた絶縁基板10を実施例1と同様に作製した後、一対の櫛歯状電極20、30は、次のようにして作製される。
【0055】
この実施例2では、上記金属酸化物として、第2のペロブスカイト型酸化物であるLSCFの1つであるLa0.8Sr0.2Co0.4Fe0.63-δでもって特定される組成の材料を採用し、この材料を用いて、実施例1と同様に電極ペーストを作製する。なお、上述のLSCFは、実施例1におけるLSCに、鉄(Fe)を表す「F」を付加して表されている。また、上述のLa0.8Sr0.2Co0.4Fe0.63-δにおいて、「δ」は、第2のペロブスカイト型酸化物の電荷が中性であるような数を表す。
【0056】
このように電極ペーストを作製した後、実施例1と同様に、当該電極ペーストを用いて、一対の電極20、30の櫛歯状に対応する電極パターンを絶縁基板10の上記電極側表面部位上にスクリーン印刷し、絶縁基板10の上記電極側表面部位上に焼き付けて一対の電極20、30を作製する。ついで、上記実施例1と同様に、上述の固体超強酸物質を、一対の電極20、30を介し絶縁基板10の電極側表面部位上に所定形状にて厚膜印刷して焼き付けて、感応層40を形成する。以上により、当該アンモニアガスセンサの実施例2としての製造が終了する。
実施例3:
一対のリード11、12を備えた絶縁基板10を実施例1と同様に作製した後、一対の櫛歯状電極20、30は、次のようにして作製される。
【0057】
この実施例3では、上記金属酸化物として、第3のペロブスカイト型酸化物であるLBMCIの1つであるLa0.7Ba0.3Mn0.7Cu0.2In0.13-δでもって特定される組成の材料を採用し、この材料を用いて、実施例1と同様に電極ペーストを作製する。なお、上述のLBMCIにおいて、「L」は、上述と同様にランタンLaを表し、「B」は硼素(Ba)を表し、「M」はマンガン(Mn)を表し、「C」は銅(Cu)を表し、「I」はインジウム(In)を表す。また、上述のLa0.8Sr0.2Co0.4Fe0.63-δにおいて、「δ」は、第3のペロブスカイト型酸化物の電荷が中性であるような数を表す。
【0058】
上述のように電極ペーストを作製した後、当該電極ペーストを用いて、実施例1と同様に、絶縁基板10の上記電極側表面部位上に一対の電極20、30を作製する。ついで、上述の固体超強酸物質でもって、実施例1と同様に、感応層40を形成する。以上により、当該アンモニアガスセンサの実施例3としての製造が終了する。
実施例4:
一対のリード11、12を備えた絶縁基板10を実施例1と同様に作製した後、一対の櫛歯状電極20、30は、次のようにして作製される。
【0059】
この実施例4では、上記金属酸化物として、遷移金属酸化物であるCo34を採用し、この材料を用いて、実施例1と同様に電極ペーストを作製する。
【0060】
上述のように電極ペーストを作製した後、当該電極ペーストを用いて、実施例1と同様に、絶縁基板10の上記電極側表面部位上に一対の電極20、30を作製する。ついで、上述の固体超強酸物質でもって、実施例1と同様に、感応層40を形成する。以上により、当該アンモニアガスセンサの実施例4としての製造が終了する。
【0061】
以上のようにアンモニアガスセンサとして製造した実施例1〜実施例4のいずれかによれば、被検出雰囲気中においてNH3ガスが他のガス例えばNO2ガスと共存していても、一対の電極20、30の形成材料が、第1〜第3のペロブスカイト型酸化物のいずれか或いは遷移金属酸化物であることから、アンモニアガスに対するガス選択性が良好に確保され得る。
【0062】
その結果、アンモニアガスセンサとしての検出機能、ひいてはNH3ガスの濃度の検出精度が良好に確保され得る。特に、被検出雰囲気においてNO2ガスが過剰に存在していても、NH3ガスの濃度が精度よく検出され得る。なお、当該アンモニアガスセンサは自動車等の内燃機関や焼成炉等からの排気ガス中のNH3濃度の検出に良好に利用できる。
【0063】
ちなみに、モデルガス発生装置を用いて、上述のようにして製造した当該アンモニアガスセンサの実施例1〜実施例4としての検出特性及び比較例の検出特性を、次の測定条件のもとに、測定した。なお、上記検出特性は、上記各実施例或いは上記比較例のインピーダンスとアンモニア(NH3)の濃度との関係を表す特性をいう。また、上記比較例は、一対の櫛歯状電極の形成材料として貴金属系電極材料の1つである金(Au)を用いた点を除き、上記各実施例と同様に製造されている。
【0064】
上記測定条件:
上記モデルガス発生装置で発生するガスの温度、流量及び流速は、それぞれ、280(℃)、18(リットル/min)及び0.015(m/s)である。なお、上述の各実施例及び比較例の各制御温度は400(℃)とする。
【0065】
また、ベースガス組成は、10(体積%)の酸素(O2)、5(体積%)の二酸化炭素(CO2)、5(体積%)の水(H2O)及び窒素(N2)とする。
【0066】
ここで、上記モデルガス発生装置で発生するガスの組成は、第1ガス組成及び第2ガス組成とする。
【0067】
上記第1ガス組成は、上記ベースガス組成に対し、0(ppm)〜150(ppm)の範囲以内の濃度のアンモニア(NH3)を追加したものとする。また、上記第2ガス組成は、上記ベースガス組成に対し、100(ppm)の濃度の二酸化窒素(NO2)及び0(ppm)〜150(ppm)の範囲以内の濃度のアンモニア(NH3)を追加したものとする。
【0068】
このような測定条件のもとで、上記各実施例及び上記比較例を、上記モデルガス発生装置の第1ガス組成或いは第2ガス組成のガス中に配置した。そして、所定の電圧(2V)及び周波数(400Hz)を有する交流電圧を、上記各実施例の一対の電極間及び上記比較例の一対の電極間にそれぞれ印加することで、上記各実施例の一対の電極間及び上記比較例の一対の電極間にそれぞれ生ずるインピーダンスを測定した。但し、ベースインピーダンス(以下、ベースインピーダンスZbという)を、NH3=0(ppm)で得られる値とする。なお、上述のインピーダンスの測定は、上記第1ガス組成及び第2ガス組成のガス中で、アンモニア(NH3)の濃度を、0(ppm)〜150(ppm)の範囲以内にて変えて行った。
【0069】
そして、上記各実施例及び上記比較例について、NH3ガスの投入時のインピーダンス(以下、インピーダンスZという)を測定した上で、次の式(1)を用いて、上記実施例1及び上記比較例の各NH3感度を計算した。
【0070】
NH3感度={(Zb−Z)/Zb}×100・・・(1)
このようにして求めた上記各実施例及び上記比較例の各NH3感度に基づき、上述の第1及び第2のガス組成におけるNO2ガスのNH3ガスに対する共存の影響に関し、評価を行ってみたところ、図4にて示すような評価が得られた。
【0071】
但し、図4において、上記比較例及び実施例1〜実施例4の各NH3感度は、100(ppm)のNH3ガスに対するNH3感度を100と規格化したときの感度規格値でもって、示されている(各棒グラフ1〜5参照)。従って、図4によれば、当該感度規格値が100に近い程NO2ガスの影響が小さいことが示されている。例えば、NO2ガスの影響が全く無ければ、当該感度規格値は100を示す。
【0072】
以上のような前提のもと、図4の棒グラフ1によれば、上記比較例の感度規格値は約87である。従って、NH3ガスがNO2ガスと共存する雰囲気(上記第2ガス組成の雰囲気)中においては、感度規格値は、本来の値よりも小さく、NH3ガスに対するNO2ガスの共存の影響を受けていることが分かる。
【0073】
一方、上記各実施例においては、NH3ガスに対するNO2ガスの共存時の感度規格値は、上記比較例と比較して大きな値を示している(図4の破線参照)。従って、当該各実施例によれば、NH3ガスに対するNO2ガスの共存の影響が改善されていることが分かる。ここで、NH3ガスに対するNO2ガスの共存の影響が最も小さい実施例は、実施例1であり、このNO2ガスの共存の影響は、上記比較例よりは小さいものの、実施例2〜実施例4にかけて順次大きくなっている。
【0074】
さらに、NH3ガスに対するNO2ガスの共存の影響が最も小さい上記実施例1及び上記比較例について、インピーダンスが、上記第1及び第2のガス組成におけるNH3感度の変化に伴いどのように変化するかについて調べてみたところ、図5及び図6に示す各折れ線グラフ6〜9が得られた。
【0075】
図5において、折れ線グラフ6は、上記第1ガス組成のもとで、上記実施例1のインピーダンスとNH3感度との関係を示す。また、折れ線グラフ7は、上記第2ガス組成のもとで、上記実施例1のインピーダンスとNH3感度との関係を示す。
【0076】
一方、図6において、折れ線グラフ8は、上記第1ガス組成のもとで、上記比較例のインピーダンスとNH3感度との関係を示す。また、折れ線グラフ9は、上記第2ガス組成のもとで、上記比較例のインピーダンスとNH3感度との関係を示す。
【0077】
上述した両折れ線グラフ6、7によれば、折れ線グラフ7は、NH3ガスに対するNO2ガスの共存にもかかわらず、NH3ガスに対するNO2ガスの共存のない折れ線グラフ6に接近していることが分かる。従って、上記実施例1によれば、NH3ガスに対するNO2ガスの共存にもかかわらず、NH3ガスに対する検出感度が良好に確保され得る。
【0078】
一方、上述した両折れ線グラフ8、9によれば、折れ線グラフ9は、NH3ガスに対するNO2ガスの共存に影響されて、NH3ガスに対するNO2ガスの共存のない折れ線グラフ8からかなり離れていることが分かる。従って、上記比較例によれば、NH3ガスに対するNO2ガスの共存時には、NH3ガスに対する検出感度がかなり低下するといえる。
【0079】
以上のことから、上記比較例では、NH3ガスに対する検出精度が、NH3ガスに対するNO2ガスの共存時には、かなり低下するのに対し、上記実施例1では、NH3ガスに対するNO2ガス共存のもとでも、NO2ガスの共存に影響されることなく、NH3ガスの検出精度が低濃度から高濃度に亘りかなり向上する。
(第2実施形態)
図7〜図9は、本発明に係るアンモニアガスセンサの第2実施形態を示している。この第2実施形態にいうアンモニアガスセンサは、上記第1実施形態にて述べたアンモニアガスセンサにおいて、一対の櫛歯状電極20、30及び感応層40に代えて、一対の平板状電極50、60及び感応層70を採用した構成を有する。
【0080】
一対の平板状電極50、60は、上述した一対の櫛歯状電極20、30の形成材料である金属酸化物でもって形成されている。具体的には、当該一対の平板状電極50、60は、上記第1実施形態にて述べた第1〜第4の各実施例のいずれかにおけるLa0.8Sr0.2CoO3-δでもって特定される組成の材料、La0.8Sr0.2Co0.4Fe0.63-δでもって特定される組成の材料、La0.7Ba0.3Mn0.7Cu0.2In0.13-δでもって特定される組成の材料、或いは遷移金属酸化物であるCo34でもって、上記第1実施形態にて述べたと同様にして形成されている。
【0081】
しかして、平板状電極50は、図7〜図9から分かるように、下側電極として、上記第1実施形態にて述べた絶縁基板10の電極側表面部位上に設けられている。一方、平板状電極60は、後述する感応層70を介し平板状電極50に対向するように感応層70に積層されている。なお、平板状電極50は、その接続端子51にて、上記第1実施形態にて述べたリード11の内端部に電気的に接続されており、一方、平板状電極60は、その接続端子61にて、上記第1実施形態にて述べたリード12の内端部に電気的に接続されている。
【0082】
感応層70は、上記第1実施形態にて述べた感応層40と同様の形成材料でもって、平板状電極50を覆うように上記第1実施形態にて述べた絶縁基板10の電極側表面部位上に積層形成されている。その他の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0083】
以上のように構成した本第2実施形態においては、アンモニアガスセンサが、上述したごとく、上記第1実施形態にて述べたアンモニアガスセンサの電極構造である一対の櫛歯状電極とは異なり、一対の平板状電極という電極構造を有するが、このような電極構造においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が達成され得る。
【0084】
なお、本発明の実施にあたり、上述したLSCに関しては、1100(℃)にて、1時間、焼き付けを行った場合、及び1200(℃)にて、1時間、焼き付けを行った場合のいずれにおいても、上記各実施形態と同等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係るアンモニアガスセンサの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1において2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1のアンモニアガスセンサの分解斜視図である。
【図4】上記第1実施形態における比較例及び各実施例のNH3ガスのNO2ガスとの共存下における影響を感度規格値で示す棒グラフである。
【図5】第1実施形態における実施例1の一対の電極間インピーダンスとNH3濃度との関係を、第1及び第2の各ガス組成をパラメータとして示す折れ線グラフである。
【図6】第1実施形態における比較例の一対の電極間インピーダンスとNH3濃度との関係を、第1及び第2の各ガス組成をパラメータとして示す折れ線グラフである。
【図7】本発明に係るアンモニアガスセンサの第2実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7において8−8線に沿う断面図である。
【図9】図7のアンモニアガスセンサの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0086】
10…絶縁基板、20、30…櫛歯状電極、40、70…感応層、
50、60…平板状電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、当該一対の電極に接するように設けられた感応体とを備え、
当該感応体の主成分は固体超強酸物質であるアンモニアガスセンサにおいて、
前記一対の電極の主成分は、金属酸化物であり、
当該金属酸化物が、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物であることを特徴とするアンモニアガスセンサ。
【請求項2】
前記複合酸化物は、一般式A1-xA'xBO3-δでもって特定されており、
前記一般式において、前記Aは、希土類元素のうちの少なくとも1種の元素であり、
前記A’は、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及び硼素(Ba)のうちの少なくとも1種の元素であり、
前記Bは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びガリウム(Ga)のうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項3】
前記複合酸化物は、前記一般式において前記Aをランタン(La)とし、前記A’をストロンチウム(Sr)とし、前記Bをコバルト(Co)としてなるLa1-xSrxCoO3-δの群から選択されることを特徴とする請求項2に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項4】
前記複合酸化物は、前記一般式においてxを0.2としてなるLa0.8Sr0.2CoO3-δであることを特徴とする請求項3に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項5】
前記複合酸化物は、一般式A1-xA'x1-yB'y3-δでもって特定されており、
前記一般式において、前記Aは、希土類元素のうちの少なくとも1種の元素であり、
前記A'は、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)及び硼素(Ba)のうちの少なくとも1種の元素であり、
前記Bは、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びガリウム(Ga)のうちの少なくとも1種の元素であり、
前記B'は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、銅(Cu)及びインジウム(In)のうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項6】
前記複合酸化物は、前記一般式において前記xを0.2とし、前記yを0.6とし、かつ、前記Aをランタン(La)とし、前記A’をストロンチウム(Sr)とし、前記Bをコバルト(Co)とし、前記B’を鉄(Fe)としてなるLa0.8Sr0.2Co0.4Fe0.63-δであることを特徴とする請求項5に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項7】
前記複合酸化物は、前記一般式において前記xを0.3とし、前記yを0.3とし、かつ、前記Aをランタン(La)とし、前記A' を硼素(Ba)とし、前記Bをマンガン(Mn)とし、前記B’を銅(Cu)及びインジウム(In)からなるCu0.2In0.1としてなるLa0.7Ba0.3Mn0.7Cu0.2In0.13-δであることを特徴とする請求項5に記載のアンモニアガスセンサ。
【請求項8】
一対の電極と、当該一対の電極に接するように設けられた感応体とを備え、
当該感応体の主成分は固体超強酸物質であるアンモニアガスセンサにおいて、
前記一対の電極が、Co34からなることを特徴とするアンモニアガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−216186(P2008−216186A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57230(P2007−57230)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】