イオン注入装置
【課題】 イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くする。
【解決手段】 このイオン注入装置は、イオン源2の引出し電極13をY方向において複数の引出し電極片30に分割して構成している。かつ、プラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を各引出し電極片30ごとに独立して制御することができる引出し電源42と、イオンビーム8のY方向のビーム電流密度分布を測定するビームモニタ56と、ビームモニタ56からの測定データに基づいて引出し電源42を制御して、上記電位差Vd をそれぞれ制御することによって、ビームモニタ56で測定するビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う制御装置60とを備えている。
【解決手段】 このイオン注入装置は、イオン源2の引出し電極13をY方向において複数の引出し電極片30に分割して構成している。かつ、プラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を各引出し電極片30ごとに独立して制御することができる引出し電源42と、イオンビーム8のY方向のビーム電流密度分布を測定するビームモニタ56と、ビームモニタ56からの測定データに基づいて引出し電源42を制御して、上記電位差Vd をそれぞれ制御することによって、ビームモニタ56で測定するビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う制御装置60とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン源から、X方向の寸法よりも当該X方向と実質的に直交するY方向の寸法が大きい、いわゆるリボン状(これはシート状または帯状とも呼ばれることがある。以下同様)のイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン源から、X方向の寸法よりも当該X方向と実質的に直交するY方向の寸法が大きい、いわゆるリボン状のイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置は、従来から種々提案されている。例えば、特許文献1参照。
【0003】
イオン源は、プラズマを生成するプラズマ生成部と、当該プラズマ生成部内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えている。引出し電極系は、通常、複数枚の電極を有している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−115511号公報(段落0029−0039、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のイオン注入装置では、そのイオン源の引出し電極系を構成する各電極は、それぞれ、Y方向に長い1枚の電極であり、そのような構成の引出し電極系を用いて、Y方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを引き出している。
【0006】
ここで、Y方向に着目すると、イオン源のプラズマ生成部内で生成するプラズマ密度のY方向における分布は、必ずしも均一ではない。従って、上記のような構成の引出し電極系を有するイオン源からY方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを引き出す場合、プラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布の不均一性の影響を受けて、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性が良くないという課題がある。これは、ターゲットに対するY方向における注入均一性悪化の原因となる。
【0007】
そこでこの発明は、イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができるイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るイオン注入装置は、イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、プラズマを生成するプラズマ生成部と、当該プラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系であって最プラズマ側に配置されたプラズマ電極およびその下流側に配置されていてプラズマ電極との間の電位差によってプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極を有する引出し電極系とを備えるイオン源から、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、前記引出し電極をY方向において複数の引出し電極片に分割して構成しており、かつ、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を各引出し電極片ごとに独立して制御することができる引出し電源と、前記イオンビームを受けて当該イオンビームのY方向のビーム電流密度分布を測定するビームモニタと、前記ビームモニタからの測定データに基づいて前記引出し電源を制御して、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御することによって、前記ビームモニタで測定するビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴としている。
【0009】
イオン源から引き出されるイオンビームのビーム電流密度は、プラズマ電極と引出し電極との間の電位差に大きく依存している。従って、この発明のように、イオン源の引出し電極をY方向において複数の引出し電極片に分割しておき、ビームモニタからの測定データに基づいて制御装置によって、プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御して、ビームモニタで測定するビーム電流密度分布を均一に近づけることによって、イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。
【0010】
前記制御装置は、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する機能を有していても良い。
【0011】
前記制御装置は、(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、全測定電流密度の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有していても良い。
【0012】
前記制御装置は、(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の内の一つの測定領域の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記複数の測定領域の内の残りの各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記残りの各測定領域に対応する前記各引出し電極片とプラズマ電極との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有していても良い。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、イオン源の引出し電極を上記のように複数の引出し電極片に分割して構成しており、かつ上記のようなビームモニタおよび制御装置を備えているので、イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が上記のような制御機能を有しているので、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布を、設定電流密度に近づけると共に許容範囲内に収めることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が上記のような本調整機能に加えて上記のような粗調整機能を有していて、粗調整によってビーム電流密度分布全体を平均的に素早く設定電流密度に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度に近づけると共に許容範囲内に収めることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が上記のような本調整機能に加えて上記のような粗調整機能を有していて、粗調整によってビーム電流密度分布全体を代表値を用いて素早く設定電流密度に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度に近づけると共に許容範囲内に収めることができる。しかも、本調整時は、粗調整時に用いた測定領域以外の測定領域についての制御を行えば良いので、そのぶん、制御内容が簡単になり、制御に要する時間を短縮することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、引出し電極の各分割部をX方向に対して斜めに配置しているので、仮に分割部の影響で分割部の下流においてビーム電流密度に乱れが生じたとしても、その乱れのパターンは、ターゲットの機械的走査によってターゲット上では平均化される。換言すれば、緩和または薄められる。従って、ターゲット上では上記乱れの影響を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略側面図である。この明細書および図面においては、イオンビーム8の進行方向をZ方向とし、このZ方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。また、イオンビーム8を構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
【0019】
このイオン注入装置は、イオン源2から、図2にも示すように、X方向の寸法WX よりもY方向の寸法WY が大きいリボン状のイオンビーム8を引き出して、当該イオンビーム8をターゲット50に照射する構成をしている。イオン源2からターゲット50およびビームモニタ56までのイオンビーム8の輸送経路は、図示しない真空容器内にあって真空雰囲気に保たれる。
【0020】
イオンビーム8は、リボン状と言ってもX方向の寸法WX が紙や布のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム8のX方向の寸法WX は30mm〜80mm程度、Y方向の寸法WY は、ターゲット50の寸法にも依るが、300mm〜500mm程度である。このイオンビーム8の大きい方の面、即ちYZ面に沿う面が主面8aである。
【0021】
ターゲット50は、例えば、半導体基板、ガラス基板、その他の基板である。その平面形状は円形でも良いし、四角形等でも良い。
【0022】
ターゲット50は、この実施形態では、ターゲット駆動装置54の保持部52に保持されて、ターゲット駆動装置54によって、矢印Cに示すように、イオンビーム8の主面8aと交差する方向に、例えばX方向に沿う方向に、機械的に走査(往復駆動)される。イオン源2から引き出すイオンビーム8のY方向の寸法WY はターゲット50のY方向の寸法よりも大きく、これとターゲット50の上記走査とによって、ターゲット50の全面にイオンビーム8を入射させてイオン注入を行うことができる。
【0023】
イオン源2は、例えばアーク放電、高周波放電等によってガス(蒸気の場合を含む)を電離させてプラズマ6を生成するプラズマ生成部4と、このプラズマ生成部4内のプラズマ6から電界の作用でイオンビーム8を引き出す引出し電極系10とを備えている。
【0024】
引出し電極系10は、少なくともプラズマ電極12および引出し電極13を有している。より具体的にはこの実施形態では、図3も参照して、最プラズマ側から下流側にかけて配置されたプラズマ電極12、引出し電極13、抑制電極14および接地電極15を有している。この実施形態では、プラズマ電極12はプラズマ生成部(より具体的にはそれを構成する容器)4と同電位にされている。図1に示す引出し電極系10は、図3のA−A視図に相当する。
【0025】
各電極12〜15は、図3に示すように、相対応する位置に、イオンビーム8を引き出すためのイオン引出し孔16〜19をそれぞれ有している。各イオン引出し孔16〜19は、図3に示す例ではスリット状のものであるが、それに限らない。例えば、図14、図15に示すイオン引出し孔17のように、一列または複数列に配置された多数の孔(例えば円孔)でも良い。
【0026】
各イオン引出し孔16〜19をスリット状にする場合、それらを図3に示す例のように各電極12〜15のY方向の上端から下端まで設けても良いし、そのようにせずに上端付近および下端付近には設けないようにしても良い。図3に示す例の場合は、各電極12〜15のX方向の左右の電極片は、導体21〜24でそれぞれ電気的に導通させておく(導体22については図4参照)。
【0027】
プラズマ電極12は、引き出すイオンビーム8のエネルギーを決めるための電極であり、直流の加速電源40から接地電位を基準にして正の加速電圧Va が印加される。引出し電極13は、プラズマ電極12のすぐ下流に配置されていてプラズマ電極12との間の電位差Vd によってプラズマ6からイオンビーム8を引き出す電極であり、この例では直流の引出し電源42からプラズマ電極12の電位を基準にして負の引出し電圧Ve が印加される。即ち、プラズマ電極12と引出し電極13との間に、引出し電極13を負極側にして引出し電源42を接続している。抑制電極14は、下流側からの逆流電子を抑制する電極であり、直流の抑制電源44から接地電位を基準にして負の抑制電圧Vs が印加される。接地電極15は、接地電位の位置を定める電極であり、電気的に接地されている。
【0028】
そして、このイオン注入装置は、図4も参照して、引出し電極13を、Y方向において複数n個の引出し電極片30に分割して構成している。図示例では七つに分割しているので、n=7であるが、これに限られるものではない。Y方向において隣り合う二つの引出し電極片30間には分割部32がそれぞれあり、ここでは電気的に分離されている。X方向にイオン引出し孔17を挟んで並んでいる二つの引出し電極片30が導体22でそれぞれ電気的に導通されているのは前述したとおりであり、この二つは電気的には一つの電極片である。このことは図14の例を参照すればより明らかである。
【0029】
引出し電源42は、この実施形態では、複数(引出し電極片30と同数)あって各引出し電極片30にそれぞれ接続されていて、各引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve をそれぞれ独立して制御することができる。それによって、プラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を、各引出し電極片30ごとに独立して制御することができる。但し、複数の引出し電源42は、必ずしも別個のものである必要はなく、それらを一つにまとめて、各引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve をそれぞれ独立して制御することのできる一つの引出し電源としても良い。
【0030】
なお、このイオン注入装置は、上記のように引出し電極13を複数の引出し電極片30に分割し、各引出し電極片30とプラズマ電極12との間の電位差Vd を各引出し電極片30ごとに独立して制御することができるようにしているので、上記電位差Vd および引出し電圧Ve は、各引出し電極片30ごとに値が異なる場合がある。そこで、この電位差Vd 、引出し電圧Ve を各引出し電極片30ごとに特に区別して説明する必要がある場合は、電位差Vdi、引出し電圧Veiというように添字iを付すことにし、特に区別して説明する必要がない場合は添字iは付さない。iは1からnの自然数である。nは、上述した引出し電極13の分割数である。
【0031】
この実施形態の引出し電極系10の電位の一例を図5に示す。上記電位差Vd は、この実施形態では、各引出し電源42から出力する引出し電圧Ve によってそのまま決定される。即ちVd =Ve である。引出し電極13の電位設定可能範囲Ps は、プラズマ電極12の電位と抑制電極14の電位との間である。即ち、引出し電極13の電位は、接地電位より高く設定することも低く設定することも可能であるので、その電位設定可能範囲Ps は広い。
【0032】
なお、上記引出し電源42を引出し電極13と接地電位部との間に接続して、引出し電極13を正電位にすることは好ましくない。そのようにすると、イオンビーム8を引き出すときにイオンが引出し電極13に当たると、引出し電源42に逆電流が流れることになるからである。
【0033】
引出し電極系10から引き出されるイオンビーム8のエネルギーは、プラズマ電極12と接地電極15との電位差である加速電圧Va で決まるため、各引出し電極片30とプラズマ電極12との間の電位差Vd が各引出し電極片30ごとに異なっても、引き出されるイオンビーム8のエネルギーはどこも同じ(即ち均一)である。
【0034】
再び図1を参照して、このイオン注入装置は、更に、イオンビーム8を受けて当該イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を測定するビームモニタ56を備えている。ビームモニタ56は、この実施形態では、ターゲット50にイオンビーム8を入射させてイオン注入を行う注入位置の近傍に設けられていて、当該注入位置に相当する位置におけるイオンビーム8のY方向のビーム電流密度分布を測定するものである。
【0035】
ビームモニタ56が図示例のように注入位置の下流側に設けられている場合は、測定時はターゲット50および保持部52を測定の邪魔にならない位置に移動させれば良い。ビームモニタ56が注入位置の上流側に設けられている場合は、ターゲット50へのイオン注入時には、ビームモニタ56を注入の邪魔にならない位置に移動させれば良い。
【0036】
ビームモニタ56は、この例では、イオンビーム8のビーム電流密度を測定する多数の測定器(例えばファラデーカップ)をY方向に並設して成る多点ビームモニタであるが、一つまたは複数の測定器を移動機構によってY方向に移動させる構造のものでも良い。
【0037】
このイオン注入装置は、更に、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて上記各引出し電源42を制御して、各引出し電源42から引き出す引出し電圧Ve をそれぞれ制御することによって、即ちプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd をそれぞれ制御することによって、ビームモニタ56で計測するY方向のビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う機能を有している制御装置60を備えている。この制御装置60からの制御信号ラインはn本あり、制御装置60からの制御信号は各引出し電源42にそれぞれ与えられる(図4参照)。
【0038】
イオン源2から引き出されるイオンビーム8のビーム電流密度は、プラズマ電極12と引出し電極13との間の電位差Vd に大きく依存している。より具体的には、上記ビーム電流密度は、公知のチャイルド・ラングミュアの式より、上記電位差Vd の3/2乗に比例する(このことは3/2乗の法則とも呼ばれる)。
【0039】
従って、このイオン注入装置のように、イオン源2の引出し電極13をY方向において複数の引出し電極片30に分割しておき、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて制御装置60によって、プラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd をそれぞれ制御して、ビームモニタ56で測定するビーム電流密度分布を均一に近づけることによって、イオン源2のプラズマ生成部4内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。より具体的には、ターゲット50に対する注入位置付近でのイオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。
【0040】
制御装置60が有している制御機能のより具体例を以下に説明する。
【0041】
まず、ビームモニタ56で測定するイオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布の一例を図6に示す。以下においては、ビームモニタ56による測定領域を、各引出し電極片30に対応しているY方向の複数の測定領域Mi に分けて考える。i=1からnである(以下同様)。nは前述したように引出し電極13の分割数である。例えば、図1、図6に示す例のように、七つの測定領域M1 〜M7 に分ける。
【0042】
制御装置60は、図6を参照して、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、各測定領域Mi ごとの平均電流密度Ji と所定の設定電流密度Jset との電流密度差ΔJi をそれぞれ求めて、当該電流密度差ΔJi に応じて、当該電流密度差ΔJi が全て所定の許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vdiをそれぞれ制御する機能を有している。上記設定電流密度Jset および許容範囲εは、制御装置60に設定される。許容範囲εは、例えば、設定電流密度Jset に対して±何%というような範囲のものである。
【0043】
制御装置60における上記制御内容をフローチャートで示すと図7に示すようになる。一番目の測定領域M1 から測定・制御を始めるとして、i=1とする(ステップ100)。
【0044】
次に、i番目の測定領域Mi における電流密度差ΔJi を次式に従って求める(ステップ101)。Ji は、i番目の測定領域Mi における平均のビーム電流密度(平均電流密度)である。測定領域Mi 内の1点のビーム電流密度ではなく、当該測定領域Mi 内の複数点の平均のビーム電流密度を用いるのは、その方が、各引出し電極片30との対応が取りやすいからである。
【0045】
[数1]
ΔJi =Ji −Jset
【0046】
次に、上記電流密度差ΔJi が許容範囲ε内にあるか否かを判断する(ステップ102)。許容範囲ε内にあればステップ104に進み、許容範囲ε内になければステップ103に進む。
【0047】
ステップ103では、電流密度差ΔJi が許容範囲ε内に入る方向に、測定領域Mi に対応している引出し電極片30に印加する引出し電圧Veiを制御して、上記電位差Vdiを制御する。即ち、平均電流密度Ji が設定電流密度Jset よりも大きい場合は電位差Vdiを小さくし、平均電流密度Ji が設定電流密度Jset よりも小さい場合は電位差Vdiを大きくする制御を行う。より具体例を挙げると、制御前の電位差をVdi、制御後の新たな電位差をVdi′とすると、新たな電位差Vdi′を次式から求めてそれになるように制御する。次式は、前述したチャイルド・ラングミュアの式を応用したものである。後述する数4も同様である。
【0048】
[数2]
Vdi′=αVdi(Jset /Ji )2/3 +β
【0049】
αは、イオンビーム8中のイオン存在比に依存する補正係数である。βは、イオン源2からビームモニタ56までの距離やレンズの有無等の、ビームラインの構造に依存する補正係数である。イオン源2の直近で測定する場合は、通常はα=1、β=0となる。後述する数4においても同様である。
【0050】
ステップ103の後はステップ101に戻り、電流密度差ΔJi が許容範囲ε内に入るまで、ステップ101〜103の制御を繰り返す。
【0051】
ステップ104では、iがn(即ち最終番目)か否かを判断し、nでなければステップ105に進んでiを1増やした後にステップ101に戻って、iがnになるまで上記制御を繰り返す。
【0052】
上記のような制御によって、全ての測定領域Mi の電流密度差ΔJi を許容範囲ε内に入れることができる。即ち、全ての測定領域Mi の平均電流密度Ji を、設定電流密度Jset に対して許容範囲ε内に入れることができる。このようにして、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を、設定電流密度Jset に近づけると共に許容範囲ε内に収めることができる。
【0053】
制御装置60を、(a)ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、全測定電流密度(即ち、ビームモニタ56によって測定する全ての測定点の電流密度)の平均電流密度Jave と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJave を求めて、当該電流密度差ΔJave に応じて、当該電流密度差ΔJave が許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)当該粗調整後に、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、各測定領域Mi ごとの平均電流密度Ji と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJi をそれぞれ求めて、当該電流密度差ΔJi に応じて、当該電流密度差ΔJi が全て前記許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vdiをそれぞれ制御する本調整機能とを有しているものにしても良い。
【0054】
この場合の制御装置60における制御内容をフローチャートで示すと図8に示すようになる。ステップ110〜112が粗調整、ステップ113〜118が本調整である。
【0055】
粗調整では、まず、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、全測定電流密度の平均電流密度Jave と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJave を次式に従って求める(ステップ110)。
【0056】
[数3]
ΔJave =Jave −Jset
【0057】
次に、上記電流密度差ΔJave が許容範囲ε内にあるか否かを判断する(ステップ111)。許容範囲ε内にあれば本調整のステップ113に進み、許容範囲ε内になければステップ112に進む。
【0058】
ステップ112では、電流密度差ΔJave が許容範囲ε内に入る方向に、全ての引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve を一律に制御して、上記電位差Vd を一律に制御する。即ち、平均電流密度Jave が設定電流密度Jset よりも大きい場合は電位差Vd を一律に小さくし、平均電流密度Jave が設定電流密度Jset よりも小さい場合は電位差Vd を一律に大きくする制御を行う。より具体例を挙げると、一律制御前の電位差をVd 、一律制御後の新たな電位差をVd′とすると、新たな電位差Vd′を次式から求めてそれになるように制御する。
【0059】
[数4]
Vd′=αVd(Jset /Jave )2/3 +β
【0060】
ステップ112の後はステップ110に戻り、電流密度差ΔJave が許容範囲ε内に入るまで、ステップ110〜112の制御を繰り返す。
【0061】
本調整のステップ113〜118の制御内容は、それぞれ、図7に示したステップ100〜105の制御内容と同じであるので、重複説明を省略する。
【0062】
制御装置60における制御機能を上記のように粗調整と本調整とに分けると、粗調整によってビーム電流密度分布全体を平均的に素早く設定電流密度Jset に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度Jset に近づけると共に許容範囲ε内に収めることができる。
【0063】
制御装置60を、(a)ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、上記複数の測定領域の内の任意の一つの測定領域Mr の平均電流密度Jr と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJr を求めて、当該電流密度差ΔJr に応じて、当該電流密度差ΔJr が許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)当該粗調整後に、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、上記複数の測定領域の内の残りの各測定領域Mi ごとの平均電流密度Ji と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJi をそれぞれ求めて、当該電流密度差ΔJi に応じて、当該電流密度差ΔJi が全て許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御して前記残りの各測定領域Mi に対応する各引出し電極片30とプラズマ電極12との間の電位差Vdiをそれぞれ制御する本調整機能とを有しているものにしても良い。
【0064】
この場合の制御装置60における制御内容をフローチャートで示すと図9に示すようになる。ステップ120〜122が粗調整、ステップ123〜128が本調整である。
【0065】
粗調整では、まず、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、複数の測定領域の内の任意の一つの測定領域Mr の平均電流密度Jr と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJr を次式に従って求める(ステップ120)。なお、図9では、一例として、上記任意の一つの測定領域Mr を、一番端の測定領域M1 とした場合、即ちr=1の場合を示している。
【0066】
[数5]
ΔJr =Jr −Jset
【0067】
次に、上記電流密度差ΔJr が許容範囲ε内にあるか否かを判断する(ステップ121)。許容範囲ε内にあれば本調整のステップ123に進み、許容範囲ε内になければステップ122に進む。
【0068】
ステップ122では、電流密度差ΔJr が許容範囲ε内に入る方向に、全ての引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve を一律に制御して、上記電位差Vd を一律に制御する。即ち、平均電流密度Jr が設定電流密度Jset よりも大きい場合は電位差Vd を一律に小さくし、平均電流密度Jr が設定電流密度Jset よりも小さい場合は電位差Vd を一律に大きくする制御を行う。より具体例を挙げると、一律制御前の電位差をVd 、一律制御後の新たな電位差をVd′とすると、新たな電位差Vd′を次式から求めてそれになるように制御する。
【0069】
[数6]
Vd′=αVd(Jset /Jr )2/3 +β
【0070】
ステップ122の後はステップ110に戻り、電流密度差ΔJr が許容範囲ε内に入るまで、ステップ120〜122の制御を繰り返す。
【0071】
本調整のステップ123〜128の制御内容は、それぞれ、図7に示したステップ100〜105の制御内容とほぼ同じである。相違点を説明すると、ここでは、iの取り得る範囲は、1〜nの内の、代表とした上記r以外の残り全てとする。例えば、r=1とした場合は、iは2〜nまでとする。
【0072】
制御装置60における制御機能を上記のような粗調整と本調整とに分けると、粗調整によってビーム電流密度分布全体を代表値(即ち測定領域Mi の平均電流密度Jr )を用いて素早く設定電流密度Jset に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度Jset に近づけると共に許容範囲ε内に収めることができる。しかも、本調整時は、粗調整時に用いた測定領域Mr 以外の測定領域についての制御を行えば良いので、そのぶん、制御内容が簡単になり、制御に要する時間を短縮することができる。
【0073】
引出し電極系10が上記抑制電極14を有しておらず、上記引出し電極13に抑制電極を兼ねさせている、即ち引出し電極13が下流側からの逆流電子を抑制する働きもするようにしている例を図10〜図13に示す。このようにすると、引出し電極系10を構成する電極が1枚少なくて済む。なお、図10、図12では、引出し電源42は一つしか図示していないが、実際は、図4を参照して先に説明したとおりである。
【0074】
図10は、図1、図4に示した場合と同様に引出し電源42を接続している例である。
【0075】
この場合の引出し電極系10の電位の一例を図11に示す。上記電位差Vd は、この例でも、Vd =Ve である。但し、引出し電極13の電位設定可能範囲Ps は、下流側からの逆流電子抑制のために負電位である必要があるために、図1、図5の場合よりも狭い。
【0076】
図12は、接地電位部と引出し電極13(より具体的にはその各引出し電極片30)との間に、引出し電極13を負極側にして引出し電源42を接続している例である。
【0077】
この場合の引出し電極系10の電位の一例を図13に示す。上記電位差Vd は、この例では、Vd =Va +Ve となる。引出し電極13の電位設定可能範囲Ps は、図10、図11の場合と同じである。
【0078】
ところで、ターゲット50は、この実施形態では、前述したように、イオンビーム8の主面8aと交差する方向に機械的に走査される。これをイオンビーム8の進行方向Zに平面的に見ると、例えば図15に示すように、ターゲット50はX方向に沿って走査される(矢印C参照)。引出し電極13の各引出し電極片30は、図4、図14に示した例のようにX方向に沿って配置しておいても良いけれども、図15に示す例のように、X方向に対して斜めに配置しておいても良い。
【0079】
斜めに配置しておくと、仮に分割部32の影響で分割部32の下流においてビーム電流密度に乱れが生じたとしても、その乱れのパターンは、ターゲット50上にそのまま転写されることはなく、ターゲット50の機械的走査によってターゲット50上では平均化される。換言すれば、緩和または薄められる。従って、ターゲット50上では上記乱れの影響を小さく抑えることができる。その結果、ターゲット50に対する注入均一性の乱れを小さく抑えることができる。イオン引出し孔17が前述したスリット状の場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【図2】図1に示すイオンビームを拡大して部分的に示す概略斜視図である。
【図3】図1に示す引出し電極系を拡大して示す概略斜視図であり、各電極の板厚は省略している。
【図4】図1に示す引出し電極、引出し電源および制御装置をより詳しく示す図である。
【図5】図1に示す引出し電極系の電位の一例を示す図である。
【図6】ビームモニタで測定されるビーム電流密度分布の一例を示す図である。
【図7】図1に示す制御装置における制御内容の一例を示すフローチャートである。
【図8】図1に示す制御装置における制御内容の他の例を示すフローチャートである。
【図9】図1に示す制御装置における制御内容の更に他の例を示すフローチャートである。
【図10】引出し電極系周りの他の例を示す図である。
【図11】図10に示す引出し電極系の電位の一例を示す図である。
【図12】引出し電極系周りの更に他の例を示す図である。
【図13】図12に示す引出し電極系の電位の一例を示す図である。
【図14】引出し電極の他の例を示す正面図である。
【図15】引出し電極の更に他の例をターゲットと共に示す正面図である。
【符号の説明】
【0081】
2 イオン源
4 プラズマ生成部
6 プラズマ
8 イオンビーム
10 引出し電極系
12 プラズマ電極
13 引出し電極
30 引出し電極片
32 分割部
42 引出し電源
50 ターゲット
54 ターゲット駆動装置
56 ビームモニタ
60 制御装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン源から、X方向の寸法よりも当該X方向と実質的に直交するY方向の寸法が大きい、いわゆるリボン状(これはシート状または帯状とも呼ばれることがある。以下同様)のイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン源から、X方向の寸法よりも当該X方向と実質的に直交するY方向の寸法が大きい、いわゆるリボン状のイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置は、従来から種々提案されている。例えば、特許文献1参照。
【0003】
イオン源は、プラズマを生成するプラズマ生成部と、当該プラズマ生成部内のプラズマから電界の作用でイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えている。引出し電極系は、通常、複数枚の電極を有している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−115511号公報(段落0029−0039、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のイオン注入装置では、そのイオン源の引出し電極系を構成する各電極は、それぞれ、Y方向に長い1枚の電極であり、そのような構成の引出し電極系を用いて、Y方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを引き出している。
【0006】
ここで、Y方向に着目すると、イオン源のプラズマ生成部内で生成するプラズマ密度のY方向における分布は、必ずしも均一ではない。従って、上記のような構成の引出し電極系を有するイオン源からY方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを引き出す場合、プラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布の不均一性の影響を受けて、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性が良くないという課題がある。これは、ターゲットに対するY方向における注入均一性悪化の原因となる。
【0007】
そこでこの発明は、イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができるイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るイオン注入装置は、イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、プラズマを生成するプラズマ生成部と、当該プラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系であって最プラズマ側に配置されたプラズマ電極およびその下流側に配置されていてプラズマ電極との間の電位差によってプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極を有する引出し電極系とを備えるイオン源から、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、前記引出し電極をY方向において複数の引出し電極片に分割して構成しており、かつ、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を各引出し電極片ごとに独立して制御することができる引出し電源と、前記イオンビームを受けて当該イオンビームのY方向のビーム電流密度分布を測定するビームモニタと、前記ビームモニタからの測定データに基づいて前記引出し電源を制御して、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御することによって、前記ビームモニタで測定するビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴としている。
【0009】
イオン源から引き出されるイオンビームのビーム電流密度は、プラズマ電極と引出し電極との間の電位差に大きく依存している。従って、この発明のように、イオン源の引出し電極をY方向において複数の引出し電極片に分割しておき、ビームモニタからの測定データに基づいて制御装置によって、プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御して、ビームモニタで測定するビーム電流密度分布を均一に近づけることによって、イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。
【0010】
前記制御装置は、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する機能を有していても良い。
【0011】
前記制御装置は、(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、全測定電流密度の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有していても良い。
【0012】
前記制御装置は、(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の内の一つの測定領域の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記複数の測定領域の内の残りの各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記残りの各測定領域に対応する前記各引出し電極片とプラズマ電極との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有していても良い。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、イオン源の引出し電極を上記のように複数の引出し電極片に分割して構成しており、かつ上記のようなビームモニタおよび制御装置を備えているので、イオン源のプラズマ生成部内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が上記のような制御機能を有しているので、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布を、設定電流密度に近づけると共に許容範囲内に収めることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が上記のような本調整機能に加えて上記のような粗調整機能を有していて、粗調整によってビーム電流密度分布全体を平均的に素早く設定電流密度に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度に近づけると共に許容範囲内に収めることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が上記のような本調整機能に加えて上記のような粗調整機能を有していて、粗調整によってビーム電流密度分布全体を代表値を用いて素早く設定電流密度に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビームのY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度に近づけると共に許容範囲内に収めることができる。しかも、本調整時は、粗調整時に用いた測定領域以外の測定領域についての制御を行えば良いので、そのぶん、制御内容が簡単になり、制御に要する時間を短縮することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、引出し電極の各分割部をX方向に対して斜めに配置しているので、仮に分割部の影響で分割部の下流においてビーム電流密度に乱れが生じたとしても、その乱れのパターンは、ターゲットの機械的走査によってターゲット上では平均化される。換言すれば、緩和または薄められる。従って、ターゲット上では上記乱れの影響を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略側面図である。この明細書および図面においては、イオンビーム8の進行方向をZ方向とし、このZ方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。また、イオンビーム8を構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
【0019】
このイオン注入装置は、イオン源2から、図2にも示すように、X方向の寸法WX よりもY方向の寸法WY が大きいリボン状のイオンビーム8を引き出して、当該イオンビーム8をターゲット50に照射する構成をしている。イオン源2からターゲット50およびビームモニタ56までのイオンビーム8の輸送経路は、図示しない真空容器内にあって真空雰囲気に保たれる。
【0020】
イオンビーム8は、リボン状と言ってもX方向の寸法WX が紙や布のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム8のX方向の寸法WX は30mm〜80mm程度、Y方向の寸法WY は、ターゲット50の寸法にも依るが、300mm〜500mm程度である。このイオンビーム8の大きい方の面、即ちYZ面に沿う面が主面8aである。
【0021】
ターゲット50は、例えば、半導体基板、ガラス基板、その他の基板である。その平面形状は円形でも良いし、四角形等でも良い。
【0022】
ターゲット50は、この実施形態では、ターゲット駆動装置54の保持部52に保持されて、ターゲット駆動装置54によって、矢印Cに示すように、イオンビーム8の主面8aと交差する方向に、例えばX方向に沿う方向に、機械的に走査(往復駆動)される。イオン源2から引き出すイオンビーム8のY方向の寸法WY はターゲット50のY方向の寸法よりも大きく、これとターゲット50の上記走査とによって、ターゲット50の全面にイオンビーム8を入射させてイオン注入を行うことができる。
【0023】
イオン源2は、例えばアーク放電、高周波放電等によってガス(蒸気の場合を含む)を電離させてプラズマ6を生成するプラズマ生成部4と、このプラズマ生成部4内のプラズマ6から電界の作用でイオンビーム8を引き出す引出し電極系10とを備えている。
【0024】
引出し電極系10は、少なくともプラズマ電極12および引出し電極13を有している。より具体的にはこの実施形態では、図3も参照して、最プラズマ側から下流側にかけて配置されたプラズマ電極12、引出し電極13、抑制電極14および接地電極15を有している。この実施形態では、プラズマ電極12はプラズマ生成部(より具体的にはそれを構成する容器)4と同電位にされている。図1に示す引出し電極系10は、図3のA−A視図に相当する。
【0025】
各電極12〜15は、図3に示すように、相対応する位置に、イオンビーム8を引き出すためのイオン引出し孔16〜19をそれぞれ有している。各イオン引出し孔16〜19は、図3に示す例ではスリット状のものであるが、それに限らない。例えば、図14、図15に示すイオン引出し孔17のように、一列または複数列に配置された多数の孔(例えば円孔)でも良い。
【0026】
各イオン引出し孔16〜19をスリット状にする場合、それらを図3に示す例のように各電極12〜15のY方向の上端から下端まで設けても良いし、そのようにせずに上端付近および下端付近には設けないようにしても良い。図3に示す例の場合は、各電極12〜15のX方向の左右の電極片は、導体21〜24でそれぞれ電気的に導通させておく(導体22については図4参照)。
【0027】
プラズマ電極12は、引き出すイオンビーム8のエネルギーを決めるための電極であり、直流の加速電源40から接地電位を基準にして正の加速電圧Va が印加される。引出し電極13は、プラズマ電極12のすぐ下流に配置されていてプラズマ電極12との間の電位差Vd によってプラズマ6からイオンビーム8を引き出す電極であり、この例では直流の引出し電源42からプラズマ電極12の電位を基準にして負の引出し電圧Ve が印加される。即ち、プラズマ電極12と引出し電極13との間に、引出し電極13を負極側にして引出し電源42を接続している。抑制電極14は、下流側からの逆流電子を抑制する電極であり、直流の抑制電源44から接地電位を基準にして負の抑制電圧Vs が印加される。接地電極15は、接地電位の位置を定める電極であり、電気的に接地されている。
【0028】
そして、このイオン注入装置は、図4も参照して、引出し電極13を、Y方向において複数n個の引出し電極片30に分割して構成している。図示例では七つに分割しているので、n=7であるが、これに限られるものではない。Y方向において隣り合う二つの引出し電極片30間には分割部32がそれぞれあり、ここでは電気的に分離されている。X方向にイオン引出し孔17を挟んで並んでいる二つの引出し電極片30が導体22でそれぞれ電気的に導通されているのは前述したとおりであり、この二つは電気的には一つの電極片である。このことは図14の例を参照すればより明らかである。
【0029】
引出し電源42は、この実施形態では、複数(引出し電極片30と同数)あって各引出し電極片30にそれぞれ接続されていて、各引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve をそれぞれ独立して制御することができる。それによって、プラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を、各引出し電極片30ごとに独立して制御することができる。但し、複数の引出し電源42は、必ずしも別個のものである必要はなく、それらを一つにまとめて、各引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve をそれぞれ独立して制御することのできる一つの引出し電源としても良い。
【0030】
なお、このイオン注入装置は、上記のように引出し電極13を複数の引出し電極片30に分割し、各引出し電極片30とプラズマ電極12との間の電位差Vd を各引出し電極片30ごとに独立して制御することができるようにしているので、上記電位差Vd および引出し電圧Ve は、各引出し電極片30ごとに値が異なる場合がある。そこで、この電位差Vd 、引出し電圧Ve を各引出し電極片30ごとに特に区別して説明する必要がある場合は、電位差Vdi、引出し電圧Veiというように添字iを付すことにし、特に区別して説明する必要がない場合は添字iは付さない。iは1からnの自然数である。nは、上述した引出し電極13の分割数である。
【0031】
この実施形態の引出し電極系10の電位の一例を図5に示す。上記電位差Vd は、この実施形態では、各引出し電源42から出力する引出し電圧Ve によってそのまま決定される。即ちVd =Ve である。引出し電極13の電位設定可能範囲Ps は、プラズマ電極12の電位と抑制電極14の電位との間である。即ち、引出し電極13の電位は、接地電位より高く設定することも低く設定することも可能であるので、その電位設定可能範囲Ps は広い。
【0032】
なお、上記引出し電源42を引出し電極13と接地電位部との間に接続して、引出し電極13を正電位にすることは好ましくない。そのようにすると、イオンビーム8を引き出すときにイオンが引出し電極13に当たると、引出し電源42に逆電流が流れることになるからである。
【0033】
引出し電極系10から引き出されるイオンビーム8のエネルギーは、プラズマ電極12と接地電極15との電位差である加速電圧Va で決まるため、各引出し電極片30とプラズマ電極12との間の電位差Vd が各引出し電極片30ごとに異なっても、引き出されるイオンビーム8のエネルギーはどこも同じ(即ち均一)である。
【0034】
再び図1を参照して、このイオン注入装置は、更に、イオンビーム8を受けて当該イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を測定するビームモニタ56を備えている。ビームモニタ56は、この実施形態では、ターゲット50にイオンビーム8を入射させてイオン注入を行う注入位置の近傍に設けられていて、当該注入位置に相当する位置におけるイオンビーム8のY方向のビーム電流密度分布を測定するものである。
【0035】
ビームモニタ56が図示例のように注入位置の下流側に設けられている場合は、測定時はターゲット50および保持部52を測定の邪魔にならない位置に移動させれば良い。ビームモニタ56が注入位置の上流側に設けられている場合は、ターゲット50へのイオン注入時には、ビームモニタ56を注入の邪魔にならない位置に移動させれば良い。
【0036】
ビームモニタ56は、この例では、イオンビーム8のビーム電流密度を測定する多数の測定器(例えばファラデーカップ)をY方向に並設して成る多点ビームモニタであるが、一つまたは複数の測定器を移動機構によってY方向に移動させる構造のものでも良い。
【0037】
このイオン注入装置は、更に、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて上記各引出し電源42を制御して、各引出し電源42から引き出す引出し電圧Ve をそれぞれ制御することによって、即ちプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd をそれぞれ制御することによって、ビームモニタ56で計測するY方向のビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う機能を有している制御装置60を備えている。この制御装置60からの制御信号ラインはn本あり、制御装置60からの制御信号は各引出し電源42にそれぞれ与えられる(図4参照)。
【0038】
イオン源2から引き出されるイオンビーム8のビーム電流密度は、プラズマ電極12と引出し電極13との間の電位差Vd に大きく依存している。より具体的には、上記ビーム電流密度は、公知のチャイルド・ラングミュアの式より、上記電位差Vd の3/2乗に比例する(このことは3/2乗の法則とも呼ばれる)。
【0039】
従って、このイオン注入装置のように、イオン源2の引出し電極13をY方向において複数の引出し電極片30に分割しておき、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて制御装置60によって、プラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd をそれぞれ制御して、ビームモニタ56で測定するビーム電流密度分布を均一に近づけることによって、イオン源2のプラズマ生成部4内におけるプラズマ密度分布が均一でない場合でも、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。より具体的には、ターゲット50に対する注入位置付近でのイオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布の均一性を良くすることができる。
【0040】
制御装置60が有している制御機能のより具体例を以下に説明する。
【0041】
まず、ビームモニタ56で測定するイオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布の一例を図6に示す。以下においては、ビームモニタ56による測定領域を、各引出し電極片30に対応しているY方向の複数の測定領域Mi に分けて考える。i=1からnである(以下同様)。nは前述したように引出し電極13の分割数である。例えば、図1、図6に示す例のように、七つの測定領域M1 〜M7 に分ける。
【0042】
制御装置60は、図6を参照して、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、各測定領域Mi ごとの平均電流密度Ji と所定の設定電流密度Jset との電流密度差ΔJi をそれぞれ求めて、当該電流密度差ΔJi に応じて、当該電流密度差ΔJi が全て所定の許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vdiをそれぞれ制御する機能を有している。上記設定電流密度Jset および許容範囲εは、制御装置60に設定される。許容範囲εは、例えば、設定電流密度Jset に対して±何%というような範囲のものである。
【0043】
制御装置60における上記制御内容をフローチャートで示すと図7に示すようになる。一番目の測定領域M1 から測定・制御を始めるとして、i=1とする(ステップ100)。
【0044】
次に、i番目の測定領域Mi における電流密度差ΔJi を次式に従って求める(ステップ101)。Ji は、i番目の測定領域Mi における平均のビーム電流密度(平均電流密度)である。測定領域Mi 内の1点のビーム電流密度ではなく、当該測定領域Mi 内の複数点の平均のビーム電流密度を用いるのは、その方が、各引出し電極片30との対応が取りやすいからである。
【0045】
[数1]
ΔJi =Ji −Jset
【0046】
次に、上記電流密度差ΔJi が許容範囲ε内にあるか否かを判断する(ステップ102)。許容範囲ε内にあればステップ104に進み、許容範囲ε内になければステップ103に進む。
【0047】
ステップ103では、電流密度差ΔJi が許容範囲ε内に入る方向に、測定領域Mi に対応している引出し電極片30に印加する引出し電圧Veiを制御して、上記電位差Vdiを制御する。即ち、平均電流密度Ji が設定電流密度Jset よりも大きい場合は電位差Vdiを小さくし、平均電流密度Ji が設定電流密度Jset よりも小さい場合は電位差Vdiを大きくする制御を行う。より具体例を挙げると、制御前の電位差をVdi、制御後の新たな電位差をVdi′とすると、新たな電位差Vdi′を次式から求めてそれになるように制御する。次式は、前述したチャイルド・ラングミュアの式を応用したものである。後述する数4も同様である。
【0048】
[数2]
Vdi′=αVdi(Jset /Ji )2/3 +β
【0049】
αは、イオンビーム8中のイオン存在比に依存する補正係数である。βは、イオン源2からビームモニタ56までの距離やレンズの有無等の、ビームラインの構造に依存する補正係数である。イオン源2の直近で測定する場合は、通常はα=1、β=0となる。後述する数4においても同様である。
【0050】
ステップ103の後はステップ101に戻り、電流密度差ΔJi が許容範囲ε内に入るまで、ステップ101〜103の制御を繰り返す。
【0051】
ステップ104では、iがn(即ち最終番目)か否かを判断し、nでなければステップ105に進んでiを1増やした後にステップ101に戻って、iがnになるまで上記制御を繰り返す。
【0052】
上記のような制御によって、全ての測定領域Mi の電流密度差ΔJi を許容範囲ε内に入れることができる。即ち、全ての測定領域Mi の平均電流密度Ji を、設定電流密度Jset に対して許容範囲ε内に入れることができる。このようにして、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を、設定電流密度Jset に近づけると共に許容範囲ε内に収めることができる。
【0053】
制御装置60を、(a)ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、全測定電流密度(即ち、ビームモニタ56によって測定する全ての測定点の電流密度)の平均電流密度Jave と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJave を求めて、当該電流密度差ΔJave に応じて、当該電流密度差ΔJave が許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)当該粗調整後に、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、各測定領域Mi ごとの平均電流密度Ji と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJi をそれぞれ求めて、当該電流密度差ΔJi に応じて、当該電流密度差ΔJi が全て前記許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vdiをそれぞれ制御する本調整機能とを有しているものにしても良い。
【0054】
この場合の制御装置60における制御内容をフローチャートで示すと図8に示すようになる。ステップ110〜112が粗調整、ステップ113〜118が本調整である。
【0055】
粗調整では、まず、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、全測定電流密度の平均電流密度Jave と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJave を次式に従って求める(ステップ110)。
【0056】
[数3]
ΔJave =Jave −Jset
【0057】
次に、上記電流密度差ΔJave が許容範囲ε内にあるか否かを判断する(ステップ111)。許容範囲ε内にあれば本調整のステップ113に進み、許容範囲ε内になければステップ112に進む。
【0058】
ステップ112では、電流密度差ΔJave が許容範囲ε内に入る方向に、全ての引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve を一律に制御して、上記電位差Vd を一律に制御する。即ち、平均電流密度Jave が設定電流密度Jset よりも大きい場合は電位差Vd を一律に小さくし、平均電流密度Jave が設定電流密度Jset よりも小さい場合は電位差Vd を一律に大きくする制御を行う。より具体例を挙げると、一律制御前の電位差をVd 、一律制御後の新たな電位差をVd′とすると、新たな電位差Vd′を次式から求めてそれになるように制御する。
【0059】
[数4]
Vd′=αVd(Jset /Jave )2/3 +β
【0060】
ステップ112の後はステップ110に戻り、電流密度差ΔJave が許容範囲ε内に入るまで、ステップ110〜112の制御を繰り返す。
【0061】
本調整のステップ113〜118の制御内容は、それぞれ、図7に示したステップ100〜105の制御内容と同じであるので、重複説明を省略する。
【0062】
制御装置60における制御機能を上記のように粗調整と本調整とに分けると、粗調整によってビーム電流密度分布全体を平均的に素早く設定電流密度Jset に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度Jset に近づけると共に許容範囲ε内に収めることができる。
【0063】
制御装置60を、(a)ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、上記複数の測定領域の内の任意の一つの測定領域Mr の平均電流密度Jr と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJr を求めて、当該電流密度差ΔJr に応じて、当該電流密度差ΔJr が許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御してプラズマ電極12と各引出し電極片30との間の電位差Vd を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、(b)当該粗調整後に、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、上記複数の測定領域の内の残りの各測定領域Mi ごとの平均電流密度Ji と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJi をそれぞれ求めて、当該電流密度差ΔJi に応じて、当該電流密度差ΔJi が全て許容範囲ε内に入るように、引出し電源42を制御して前記残りの各測定領域Mi に対応する各引出し電極片30とプラズマ電極12との間の電位差Vdiをそれぞれ制御する本調整機能とを有しているものにしても良い。
【0064】
この場合の制御装置60における制御内容をフローチャートで示すと図9に示すようになる。ステップ120〜122が粗調整、ステップ123〜128が本調整である。
【0065】
粗調整では、まず、ビームモニタ56からの測定データDAに基づいて、複数の測定領域の内の任意の一つの測定領域Mr の平均電流密度Jr と設定電流密度Jset との電流密度差ΔJr を次式に従って求める(ステップ120)。なお、図9では、一例として、上記任意の一つの測定領域Mr を、一番端の測定領域M1 とした場合、即ちr=1の場合を示している。
【0066】
[数5]
ΔJr =Jr −Jset
【0067】
次に、上記電流密度差ΔJr が許容範囲ε内にあるか否かを判断する(ステップ121)。許容範囲ε内にあれば本調整のステップ123に進み、許容範囲ε内になければステップ122に進む。
【0068】
ステップ122では、電流密度差ΔJr が許容範囲ε内に入る方向に、全ての引出し電極片30に印加する引出し電圧Ve を一律に制御して、上記電位差Vd を一律に制御する。即ち、平均電流密度Jr が設定電流密度Jset よりも大きい場合は電位差Vd を一律に小さくし、平均電流密度Jr が設定電流密度Jset よりも小さい場合は電位差Vd を一律に大きくする制御を行う。より具体例を挙げると、一律制御前の電位差をVd 、一律制御後の新たな電位差をVd′とすると、新たな電位差Vd′を次式から求めてそれになるように制御する。
【0069】
[数6]
Vd′=αVd(Jset /Jr )2/3 +β
【0070】
ステップ122の後はステップ110に戻り、電流密度差ΔJr が許容範囲ε内に入るまで、ステップ120〜122の制御を繰り返す。
【0071】
本調整のステップ123〜128の制御内容は、それぞれ、図7に示したステップ100〜105の制御内容とほぼ同じである。相違点を説明すると、ここでは、iの取り得る範囲は、1〜nの内の、代表とした上記r以外の残り全てとする。例えば、r=1とした場合は、iは2〜nまでとする。
【0072】
制御装置60における制御機能を上記のような粗調整と本調整とに分けると、粗調整によってビーム電流密度分布全体を代表値(即ち測定領域Mi の平均電流密度Jr )を用いて素早く設定電流密度Jset に近づけることができるので、本調整での制御が容易になり、その結果、イオンビーム8のY方向におけるビーム電流密度分布を、より速やかに、設定電流密度Jset に近づけると共に許容範囲ε内に収めることができる。しかも、本調整時は、粗調整時に用いた測定領域Mr 以外の測定領域についての制御を行えば良いので、そのぶん、制御内容が簡単になり、制御に要する時間を短縮することができる。
【0073】
引出し電極系10が上記抑制電極14を有しておらず、上記引出し電極13に抑制電極を兼ねさせている、即ち引出し電極13が下流側からの逆流電子を抑制する働きもするようにしている例を図10〜図13に示す。このようにすると、引出し電極系10を構成する電極が1枚少なくて済む。なお、図10、図12では、引出し電源42は一つしか図示していないが、実際は、図4を参照して先に説明したとおりである。
【0074】
図10は、図1、図4に示した場合と同様に引出し電源42を接続している例である。
【0075】
この場合の引出し電極系10の電位の一例を図11に示す。上記電位差Vd は、この例でも、Vd =Ve である。但し、引出し電極13の電位設定可能範囲Ps は、下流側からの逆流電子抑制のために負電位である必要があるために、図1、図5の場合よりも狭い。
【0076】
図12は、接地電位部と引出し電極13(より具体的にはその各引出し電極片30)との間に、引出し電極13を負極側にして引出し電源42を接続している例である。
【0077】
この場合の引出し電極系10の電位の一例を図13に示す。上記電位差Vd は、この例では、Vd =Va +Ve となる。引出し電極13の電位設定可能範囲Ps は、図10、図11の場合と同じである。
【0078】
ところで、ターゲット50は、この実施形態では、前述したように、イオンビーム8の主面8aと交差する方向に機械的に走査される。これをイオンビーム8の進行方向Zに平面的に見ると、例えば図15に示すように、ターゲット50はX方向に沿って走査される(矢印C参照)。引出し電極13の各引出し電極片30は、図4、図14に示した例のようにX方向に沿って配置しておいても良いけれども、図15に示す例のように、X方向に対して斜めに配置しておいても良い。
【0079】
斜めに配置しておくと、仮に分割部32の影響で分割部32の下流においてビーム電流密度に乱れが生じたとしても、その乱れのパターンは、ターゲット50上にそのまま転写されることはなく、ターゲット50の機械的走査によってターゲット50上では平均化される。換言すれば、緩和または薄められる。従って、ターゲット50上では上記乱れの影響を小さく抑えることができる。その結果、ターゲット50に対する注入均一性の乱れを小さく抑えることができる。イオン引出し孔17が前述したスリット状の場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【図2】図1に示すイオンビームを拡大して部分的に示す概略斜視図である。
【図3】図1に示す引出し電極系を拡大して示す概略斜視図であり、各電極の板厚は省略している。
【図4】図1に示す引出し電極、引出し電源および制御装置をより詳しく示す図である。
【図5】図1に示す引出し電極系の電位の一例を示す図である。
【図6】ビームモニタで測定されるビーム電流密度分布の一例を示す図である。
【図7】図1に示す制御装置における制御内容の一例を示すフローチャートである。
【図8】図1に示す制御装置における制御内容の他の例を示すフローチャートである。
【図9】図1に示す制御装置における制御内容の更に他の例を示すフローチャートである。
【図10】引出し電極系周りの他の例を示す図である。
【図11】図10に示す引出し電極系の電位の一例を示す図である。
【図12】引出し電極系周りの更に他の例を示す図である。
【図13】図12に示す引出し電極系の電位の一例を示す図である。
【図14】引出し電極の他の例を示す正面図である。
【図15】引出し電極の更に他の例をターゲットと共に示す正面図である。
【符号の説明】
【0081】
2 イオン源
4 プラズマ生成部
6 プラズマ
8 イオンビーム
10 引出し電極系
12 プラズマ電極
13 引出し電極
30 引出し電極片
32 分割部
42 引出し電源
50 ターゲット
54 ターゲット駆動装置
56 ビームモニタ
60 制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、プラズマを生成するプラズマ生成部と、当該プラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系であって最プラズマ側に配置されたプラズマ電極およびその下流側に配置されていてプラズマ電極との間の電位差によってプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極を有する引出し電極系とを備えるイオン源から、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、
前記引出し電極をY方向において複数の引出し電極片に分割して構成しており、
かつ、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を各引出し電極片ごとに独立して制御することができる引出し電源と、
前記イオンビームを受けて当該イオンビームのY方向のビーム電流密度分布を測定するビームモニタと、
前記ビームモニタからの測定データに基づいて前記引出し電源を制御して、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御することによって、前記ビームモニタで測定するビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する機能を有している請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、全測定電流密度の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、
(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有している請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の内の一つの測定領域の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、
(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記複数の測定領域の内の残りの各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記残りの各測定領域に対応する前記各引出し電極片とプラズマ電極との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有している請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記ターゲットは、前記イオンビームの主面と交差する方向に機械的に走査されるものであり、
前記引出し電極の各分割部は、X方向に対して斜めに配置されている請求項1ないし4記載のイオン注入装置。
【請求項1】
イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、プラズマを生成するプラズマ生成部と、当該プラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系であって最プラズマ側に配置されたプラズマ電極およびその下流側に配置されていてプラズマ電極との間の電位差によってプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極を有する引出し電極系とを備えるイオン源から、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいイオンビームを引き出して、当該イオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、
前記引出し電極をY方向において複数の引出し電極片に分割して構成しており、
かつ、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を各引出し電極片ごとに独立して制御することができる引出し電源と、
前記イオンビームを受けて当該イオンビームのY方向のビーム電流密度分布を測定するビームモニタと、
前記ビームモニタからの測定データに基づいて前記引出し電源を制御して、前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御することによって、前記ビームモニタで測定するビーム電流密度分布を均一に近づける制御を行う機能を有している制御装置とを備えていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する機能を有している請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、全測定電流密度の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、
(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有している請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
(a)前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記各引出し電極片に対応しているY方向の複数の測定領域の内の一つの測定領域の平均電流密度と所定の設定電流密度との電流密度差を求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が所定の許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記プラズマ電極と各引出し電極片との間の電位差を一律に制御する粗調整を行う粗調整機能と、
(b)前記粗調整後に、前記ビームモニタからの測定データに基づいて、前記複数の測定領域の内の残りの各測定領域ごとの平均電流密度と前記設定電流密度との電流密度差をそれぞれ求めて、当該電流密度差に応じて、当該電流密度差が全て前記許容範囲内に入るように、前記引出し電源を制御して前記残りの各測定領域に対応する前記各引出し電極片とプラズマ電極との間の電位差をそれぞれ制御する本調整機能とを有している請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記ターゲットは、前記イオンビームの主面と交差する方向に機械的に走査されるものであり、
前記引出し電極の各分割部は、X方向に対して斜めに配置されている請求項1ないし4記載のイオン注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−305666(P2008−305666A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151731(P2007−151731)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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