インクジェットヘッド
【課題】独立チャネル、ハーモニカ型の複数チャネル列のヘッドチップ後面の端部に、各インクチャネルから引き出した各接続電極を並設させ、FPC等との電気的接続時の容易化を図る。
【解決手段】インクチャネル12と空気チャネル13を交互に配置したチャネル列を複数有するヘッドチップ1の端部側のいずれかのチャネル列をA列、該A列に隣接するチャネル列をB列とするとき、ヘッドチップ1の後面に、A列の空気チャネル13の駆動電極14と導通する共通電極15AをB列側に引き出し、B列の空気チャネル13の駆動電極14と導通する共通電極15BをA列側又は該A列の反対側に引き出し、A列のインクチャネル12の駆動電極14と導通する接続電極16Aを、ヘッドチップ1の端部に向けて引き出し、B列のインクチャネル12の駆動電極14と導通する接続電極161B,162BをA列側に引き出し、且つ該A列の共通電極15A及び該A列を跨いで、該A列の接続電極16Aと並列するように配線する。
【解決手段】インクチャネル12と空気チャネル13を交互に配置したチャネル列を複数有するヘッドチップ1の端部側のいずれかのチャネル列をA列、該A列に隣接するチャネル列をB列とするとき、ヘッドチップ1の後面に、A列の空気チャネル13の駆動電極14と導通する共通電極15AをB列側に引き出し、B列の空気チャネル13の駆動電極14と導通する共通電極15BをA列側又は該A列の反対側に引き出し、A列のインクチャネル12の駆動電極14と導通する接続電極16Aを、ヘッドチップ1の端部に向けて引き出し、B列のインクチャネル12の駆動電極14と導通する接続電極161B,162BをA列側に引き出し、且つ該A列の共通電極15A及び該A列を跨いで、該A列の接続電極16Aと並列するように配線する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しない空気チャネルとが交互に並設された複数のチャネル列を有するヘッドチップの駆動電極と駆動回路との間の電気的接続を容易に行い得るようにしたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チャネルを区画する駆動壁に形成した電極に電圧を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのとき発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたシェアモード型のインクジェットヘッドとして、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が配置された所謂ハーモニカ型のヘッドチップを有するものが知られている。
【0003】
このようなハーモニカ型のヘッドチップでは、如何にして各駆動電極と駆動回路との電気的接続を行うかが課題となる。
【0004】
例えば、従来、チャネルの上部を閉蓋するヘッドチップのカバー基板に貫通電極を設けることにより、各チャネル内の駆動電極をヘッドチップのカバー基板表面に引き出し、このカバー基板の表面においてFPC等によって各駆動電極と駆動回路との電気的接続を図るようにしたインクジェットヘッドが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、カバー基板に貫通電極を設けることは、貫通孔の開設作業、貫通孔内への導電材の埋設作業等といった困難な作業を必要とする。このため、インクが吐出される面と反対側の面であるヘッドチップ後面に各駆動電極と導通する接続電極を引き出し形成し、このヘッドチップ後面に配線基板を接合させ、配線基板の端部にFPCを接合することにより、各駆動電極と駆動回路との電気的接続を行うようにしたインクジェットヘッドも提案されている(特許文献2)。
【0006】
このようにヘッドチップの後面に接続電極を引き出し形成することは、一般的な金属薄膜のパターニング方法を用いて行うことができるため、カバー基板に貫通電極を設けるものに比べ、簡単且つ高精度に接続電極を引き出し形成することが可能である。
【0007】
ところで、シェアモード型のインクジェットヘッドは、一つの駆動壁を両隣のチャネルで共用しているため、隣接する1つおきのチャネル毎に、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しない空気チャネルとに分けた独立チャネルタイプのインクジェットヘッドとしたものが知られている。
【0008】
このような独立チャネルタイプのインクジェットヘッドの場合、各インクチャネルの駆動電極にはそれぞれ個別に電圧印加を行うが、各空気チャネルの駆動電極は一括して接地されるか、または共通の駆動電極に接続されるため、1つの共通電極によって配線することが可能である。従って、インクチャネルと空気チャネルが交互に並設されたチャネル列を挟んで、各接続電極と1つの共通電極とをヘッドチップ後面の両端部に振り分けて引き出し形成することにより、各接続電極のみをヘッドチップ後面の一方端部に並設されるようにし、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能となる。
【特許文献1】特開2004−90374号公報
【特許文献2】特開2006−82396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、インクチャネルと空気チャネルとが交互に並設されたチャネル列が2列以上並設されることにより高密度化が図られたヘッドチップの場合、チャネル列が隣接しているために、接続電極をヘッドチップの端部まで引き出すことができないことがある。例えばA列及びB列の2列のチャネル列を有するヘッドチップの場合、B列のインクチャネルからの接続電極は、A列を越えた側のヘッドチップの端部に引き出すことが難しい問題がある。A列のチャネル列を越えなくてはならないためである。
【0010】
B列のインクチャネルからの接続電極をA列のチャネル列を越えて引き出す場合、A列のインクチャネルと空気チャネルとの間を通して引き出すことも考えられるが、この隙間は極めて狭小であるため、電気的短絡や断線のおそれなく引き出し形成することは極めて困難を要する。
【0011】
従って、チャネル列が複数列設けられた独立チャネルタイプのハーモニカ型のヘッドチップにおいても、インクチャネルからの接続電極をヘッドチップ後面の端部にまとめて並設させることにより、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが望まれている。
【0012】
そこで、本発明は、チャネル列が複数列設けられた独立チャネルタイプのハーモニカ型ヘッドチップ後面の端部に、各インクチャネルから引き出し形成された各接続電極を並設させることにより、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能なインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
請求項1記載の発明は、チャネルと圧電素子からなる駆動壁が交互に並設されると共に、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に駆動電極が形成され、前記チャネルは、インク吐出を行うインクチャネルとインク吐出を行わない空気チャネルとが交互に配置されてチャネル列を構成し、該チャネル列が複数並設されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することによって前記駆動壁をせん断変形させ、前記インクチャネル内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドであって、前記複数のチャネル列のうちのヘッドチップの端部側に位置するいずれかのチャネル列をA列、該A列に隣接するチャネル列をB列とするとき、前記ヘッドチップの後面に、前記A列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が前記B列側に向けて引き出し形成されており、前記B列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が、前記A列側又は該A列とは反対側に向けて引き出し形成されていると共に、前記A列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記ヘッドチップの端部に向けて引き出し形成されており、前記B列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記A列側に向けて引き出し形成され、且つ、該A列の前記共通電極及び該A列を跨いで、該A列の前記接続電極と並列するように配線されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記チャネル列は4列であり、前記ヘッドチップの端部側に位置する2つのチャネル列をそれぞれA列、内側に位置する2つのチャネル列をそれぞれB列とすることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、前記ヘッドチップの後面に臨む全空気チャネルの開口部のうち、少なくとも前記A列の各空気チャネルの開口部は、絶縁層と金属膜層とを有する積層体が、前記絶縁層を前記ヘッドチップの後面側に位置させて接着されることにより閉塞され、且つ、該積層体は、前記第1の接続電極から前記第2の接続電極に亘る長さで形成されており、前記第1の接続電極と前記第2の接続電極とが前記積層体の金属膜層によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、それぞれ前記絶縁層を貫通する貫通電極が設けられており、該貫通電極によって前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0019】
請求項5記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記絶縁層の少なくとも一部が除去されており、該絶縁層が除去された部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域に、前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通するように、導電性接着剤又は半田が塗布され、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0021】
請求項7記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記積層体の端部が前記ヘッドチップの後面側に向けて折り曲げられ、該折り曲げられた部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0022】
請求項8記載の発明は、前記積層体の絶縁層は、ドライエッチング可能な有機フィルムからなることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0023】
請求項9記載の発明は、前記積層体は、前記A列の空気チャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0024】
請求項10記載の発明は、前記積層体は、その両面がパラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0025】
請求項11記載の発明は、前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、該第1の接続電極と第2の接続電極とがワイヤーボンディング法による配線によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0026】
請求項12記載の発明は、前記ヘッドチップは、前記ワイヤーボンディング法による配線のボンディング部に相当する領域が、非圧電材料で形成されていることを特徴とする請求項11記載のインクジェットヘッドである。
【0027】
請求項13記載の発明は、前記ワイヤーボンディング法による配線が、パラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項11又は12記載のインクジェットヘッドである。
【0028】
請求項14記載の発明は、前記ヘッドチップの後面に臨む各インクチャネルの開口部には、該開口部の開口面積を絞るように流路を規制する流路規制部材が、該インクチャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0029】
請求項15記載の発明は、前記流路規制部材は、前記各インクチャネルの開口部の上端又は下端の少なくとも一方が開口するように開口面積を絞っていることを特徴とする請求項14記載のインクジェットヘッドである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、チャネル列が複数列設けられた独立チャネルタイプのハーモニカ型ヘッドチップ後面の端部に、各インクチャネルから引き出し形成された各接続電極を並設させることにより、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【0031】
特に本発明によれば、4列のチャネル列を有するインクジェットヘッドでも、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能であり、高解像度且つ高速なインクジェットヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0033】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た分解斜視図、図2(a)は、図1の(i)−(i)線断面図、図2(b)は図1の(ii)−(ii)線断面図である。
【0034】
図中、1はヘッドチップ、2はヘッドチップ1の前面に接合されたノズルプレートである。
【0035】
なお、本明細書においては、ヘッドチップからインクが吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。また、ヘッドチップにおいて並設されるチャネルを挟んで図示上下に位置する外側面をそれぞれ「上面」及び「下面」という。
【0036】
ヘッドチップ1には、圧電素子からなる駆動壁11とチャネル12、13とが交互に並設されたチャネル列が、図示上下に2列に並設されている。ここでは各チャネル列はそれぞれ9つのチャネル12、13を有するものを例示しているが、各チャネル列のチャネル数は何ら限定されない。
【0037】
ここでは、図示下側に位置するチャネル列をA列、上側に位置するチャネル列をB列とする。
【0038】
このヘッドチップ1は、各チャネル列が、チャネル一つおきにインクを吐出するインクチャネル12とインクを吐出しない空気チャネル13とが並設されることにより構成された独立チャネルタイプのヘッドチップである。各チャネル12、13の形状は、両側壁がヘッドチップ1の上面及び下面に対してほぼ垂直方向に延びており、そして互いに平行である。
【0039】
ヘッドチップ1の前面及び後面には、それぞれ各チャネル12、13の前面側の開口部121、131と後面側の開口部122、132とが対向している。各チャネル12、13は、その後面側の開口部122、132から前面側の開口部121、131に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0040】
また、A列とB列とは、各インクチャネル12と各空気チャネル13とが1ピッチずれて形成されている。すなわち、図1及び図2に示されるように、ヘッドチップ1を図示上下方向に見た場合、A列のインクチャネル12とB列の空気チャネル13が同一線上に配置され、A列の空気チャネル13とB列のインクチャネル12が同一線上に配置される関係となっている。
【0041】
各チャネル12、13の内面全面には、それぞれNi、Au、Cu、Al等の金属膜からなる駆動電極14が密着形成されている。
【0042】
また、ヘッドチップ1の後面には、A列の全ての空気チャネル13内の駆動電極14と電気的に接続する1つの共通電極15Aが、チャネル列と直交する方向(図示上下方向)のうちの図示上方のB列側に向けて引き出し形成され、A列とB列との間においてチャネル列方向(図示左右方向)に沿うように延びていると共に、B列の全ての空気チャネル13内の駆動電極14と電気的に接続する1つの共通電極15Bが、A列の共通電極15Aの引き出し方向と同一方向である図示上方のヘッドチップ1の後面の上端部に向けて引き出し形成され、該上端部側においてチャネル列方向(図示左右方向)に沿うように延びている。
【0043】
なお、A列及びB列の各共通電極15A、15Bは、図1のようにチャネル列毎に個別に形成せず、図示しないが、A列及びB列に共通な1本の共通電極とすることもできる。この場合、A列の共通電極をB列側に向けて引き出し形成すると共に、B列の共通電極をA列側に向けて引き出し形成し、互いの引き出し先を1つにまとめ、A列とB列の間においてチャネル列方向(図示左右方向)に沿って1本の共通電極を形成すればよい。
【0044】
更に、ヘッドチップ1の後面には、A列の各インクチャネル12内の駆動電極14と電気的に接続する接続電極16Aが、共通電極15Aの引き出し方向であるB列側とは反対方向である図示下方のヘッドチップ1の後面の下端部に向けてそれぞれ個別に引き出し形成され、該下端部側において並列している。
【0045】
一方、B列の各インクチャネル12には、内部の駆動電極14と電気的に接続する第1の接続電極161Bが、共通電極15Bの引き出し方向と反対方向である図示下方のA列側に向けて個別に引き出し形成され、該A列の共通電極15Aの手前まで延びて並列している。
【0046】
また、A列の各空気チャネル13よりもヘッドチップ1の後面の下端部側で、A列の各接続電極16Aの間に位置するように、B列の各インクチャネル12に対応する第2の接続電極162Bが個別に形成されてA列の接続電極16Aと並列している。これら第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bは、B列の各インクチャネル12内の駆動電極14に電圧印加を行うためにヘッドチップ1の後面に引き出し形成された接続電極である。すなわち、ヘッドチップ1の後面において、B列の各インクチャネル12内の駆動電極14と電気的に接続される接続電極は、これら第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとに分割されている。
【0047】
従って、第1の接続電極161Bと該第1の接続電極161Bに対応する第2の接続電極162Bとを電気的に接続する必要がある。このため、第1の接続電極161BからA列の共通電極15A及びA列を跨いで、第2の接続電極162Bに亘って配線3が形成されている。
【0048】
配線3は、インクチャネル12及び空気チャネル13の幅よりも若干広幅の帯状に形成されており、第1の接続電極161BからA列の共通電極15A及びA列の空気チャネル13を跨いで、該第1の接続電極161Bにそれぞれ対応する第2の接続電極162Bに亘る長さを有している。
【0049】
この配線3は、B列の各インクチャネル12に対応して個別に設けられており、図2(b)に示すように、それぞれ絶縁層31と金属膜層32とからなる積層体により構成され、そのうちの絶縁層31がヘッドチップ1の後面側に位置するように、第1の接続電極161Bから共通電極15A及びA列の空気チャネル13を跨いで第2の接続電極162Bに掛け渡され、該ヘッドチップ1の後面に接着されている。このとき、配線3は、A列の各空気チャネル13の後面側の開口部132を完全に閉塞するように接着され、該A列の各空気チャネル13へのインクの流入を阻止するように流路を規制している。従って、配線3によって、A列の各空気チャネル13へのインク流入を規制する流路規制部材を兼ねることができるため、このように配線3をA列の各空気チャネル13の開口部132を完全に閉塞するように接着することは好ましい態様である。
【0050】
配線3には、第1の接続電極161Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域及び第2の接続電極162Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域において、それぞれ絶縁層31を貫通する貫通電極33、34が形成されている。従って、配線3の金属膜層32は、これら貫通電極33、34によってそれぞれ第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bと導通し、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続している。貫通電極33、34は、導通の信頼性を上げるため、それぞれ複数個ずつ形成してもよい。
【0051】
この結果、B列の各インクチャネル12内の駆動電極14は、第1の接続電極161B、配線3の貫通電極33、金属膜層32及び貫通電極34を経て第2の接続電極162Bと電気的に接続され、該第2の接続電極162BによってA列の各インクチャネル12の接続電極16Aと並列してヘッドチップ1の後面の下端部側に引き出されている。
【0052】
なお、B列の各空気チャネル13の後面側の開口部132にも、A列の各空気チャネル13と同様にインクの流入を阻止するための流路規制部材4がそれぞれ個別に設けられ、各空気チャネル13の開口部132を完全に閉塞している。この流路規制部材4は本発明において必須のものではないが、好ましく設けることができる。
【0053】
流路規制部材4も、配線3と同様、絶縁層41と金属膜層42とからなる積層体によって構成し、そのうちの絶縁層41がヘッドチップ1の後面側に配置されるように接着する構成とすることが好ましい。このように構成することにより、後述するように、配線3と同時に流路規制部材4をヘッドチップ1の後面に設けることができる。
【0054】
ヘッドチップ1の前面には、ノズルプレート2が接合されている。ノズルプレート2には、A列及びB列の各インクチャネル12に対応する位置にのみノズル21が開設されている。従って、インクを吐出しない各空気チャネル13の前面側の開口部131はノズルプレート2によって閉塞されている。
【0055】
次に、このようなインクジェットヘッドにおけるヘッドチップ1の製造例を図3〜図7に基づいて以下に説明するが、何らこれに限定されるものではない。
【0056】
まず、1枚の基板100上に、分極処理されたPZT等からなる圧電素子基板101をエポキシ系接着剤を用いて接合し、更に、その圧電素子基板101の表面にドライフィルム102を貼着する(図3(a))。
【0057】
次いで、そのドライフィルム102の側から、ダイシングブレード等を用いて複数の平行な溝103を研削する。各溝103は圧電素子基板101の一方の端から他方の端に亘り、且つ、基板100にほぼ至る程度の一定の深さで研削することで、長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレート状に形成する(図3(b))。
【0058】
次いで、溝103を研削した側から、Ni、Au、Cu、Al等の電極形成用金属をスパッタリング法、蒸着法等によって適用し、削り残されたドライフィルム102の上面及び各溝103の内面に金属膜104を形成する(図3(c))。
【0059】
その後、ドライフィルム102をその表面に形成された金属膜104と共に除去することにより、各溝103の内面のみに金属膜104が形成された基板105を得る。そして、同様に形成された基板105を2枚用意し、各基板105の溝103同士が互いに合致するように位置合わせして、エポキシ系接着剤等を用いて接合する(図3(d))。
【0060】
次いで、このようにして得られたヘッド基板106を2枚用意して重ね合わせて接着し、溝103の長さ方向と直交する方向に沿って切断することにより、2列のチャネル列を有する複数個のハーモニカ型のヘッドチップ1を一度に作成する。各溝103はチャネル12又は13となり、各溝103内の金属膜104は駆動電極14となり、隣接する溝103の間は駆動壁11となる。カットラインC、C…間の幅は、それによって作製されるヘッドチップ1、1…のインクチャネル12の駆動長(L長)を決定するものであり、この駆動長に応じて適宜決定される(図3(e))。
【0061】
次いで、これにより得られたヘッドチップ1の後面にドライフィルム200を貼着し、共通電極15A、15Bを形成するための開口201A、201Bと、接続電極16Aを形成するための開口202Aと、第1の接続電極161Bを形成するための開口202Bと、第2の接続電極162Bを形成するための開口203Bとを露光、現像により形成する(図4)。
【0062】
そして、このドライフィルム200の側から、真空蒸着により電極形成用金属として例えばAlを適用し、各開口201A、201B、202A、202B、203B内にそれぞれAl膜を選択的に形成する。このAl膜により、ヘッドチップ1の後面に、それぞれ共通電極15A、15B、接続電極16A、第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bが形成される。
【0063】
各インクチャネル12内の駆動電極14及び各空気チャネル13内の駆動電極14との接続を確実にするためには、蒸着は方向を変えて2度行うことが望ましい。具体的には、図示面に垂直な方向から、上下に各30度の方向から行うことが望ましい。更に、図3(d)に示すように上下に分かれている金属膜104同士の接続を確実にするためには、右又は左30度の方向からの蒸着を行うことが望ましい。
【0064】
また、Al膜の形成方法としては蒸着に限らず、一般の薄膜形成方法を採用することができる。また、導電性ペーストをインクジェットで塗布する方法を用いることもできる。特にスパッタ法が、飛来する金属粒子の方向がランダムなため、特に方向を変えなくてもチャネル内部まで金属膜を形成できるので好適である。Al膜の形成後、溶剤でドライフィルム200を溶解剥離することで、ドライフィルム200上に形成されていたAl膜は除去され、ヘッドチップ1の後面には、共通電極15A、15B、接続電極16A、第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bのみが残存する(図5)。
【0065】
なお、ドライフィルム200の現像工程・水洗工程での作業性を考え、ドライフィルム200はチャネル12、13の全面においても開口していることが望ましい。全面において開口していることにより、チャネル12、13内の現像液、洗浄水の除去が容易となる。
【0066】
次いで、B列の各空気チャネル13を完全に塞ぐ大きさを有する金属膜301と、B列の各第1の接続電極161B及び第2の接続電極162Bに亘る長さを有する金属膜302と、この金属膜302の第1の接続電極161Bと重なる領域の貫通電極303と、金属膜302の第2の接続電極162Bと重なる領域の貫通電極304とが形成された絶縁フィルム300を、該絶縁フィルム300の側がヘッドチップ1の後面に接するように、エポキシ系接着剤を用いて接着する(図6)。
【0067】
ここで、絶縁フィルム300としては、一般的なドライエッチングによってパターニングが可能な有機フィルムを用いることが好ましく、例えばポリイミド、液晶ポリマー、アラミド、ポリエチレンテレフタレート等の種々の樹脂からなるフィルムが挙げられる。中でも、エッチング性の良好なポリイミドフィルムが好ましい。また、ドライエッチングを容易にするためには、できるだけ薄いフィルムを用いることが望ましいが、強度が高くて薄くても強度を保つことができるアラミドフィルムを使用することも好ましい。
【0068】
また、ドライエッチング可能な絶縁層として、シリコン基板を用いることもできる。但し、シリコンのドライエッチングにはCF4やSF6等の特殊ガスを使用する必要があり、装置も特殊になるので一般的にはコスト高となる。
【0069】
絶縁フィルム300の厚さは、強度の確保とドライエッチングの容易性の観点から、10〜100μmとすることが好ましい。
【0070】
この絶縁フィルム300の一面に形成される金属膜302は、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続するための配線3の金属膜層32として機能すると同時に、金属膜301と共に、後工程であるドライエッチング工程時におけるマスク材としても機能する。これら金属膜301、302に使用可能な金属としては、Al、Cu、Ni、W、Ti、Au等が挙げられるが、中でも、Alは安価であり、パターニングも容易であることから好ましく、Alをスパッタで形成し、通常の薄膜パターニング技術によりパターニングを行うことで形成することができる。
【0071】
この金属膜301、302の厚さは、耐ドライエッチング性とパターニングの容易性の観点から、0.1〜50μmとすることが好ましい。
【0072】
ここでは、絶縁フィルム300として、予め貫通電極303、304を形成した厚さ25μmのポリイミドフィルムにAlをスパッタ装置で5μm形成した。
【0073】
貫通電極303、304の形成方法としては、予め絶縁フィルム300にレーザードドリリングで貫通孔を形成しておき、スルーホールめっきすることにより形成することができる。これにレジストを塗布し、通常のフォトリソグラフィー工程でレジストのパターニングを行い、燐酸でAlをエッチングして、図6に示されるような絶縁フィルム300上にAlの金属膜301、302を孤立パターンで形成した。
【0074】
これをエポキシ系接着剤(エポキシテクノロジー社製、エポテック353ND)でヘッドチップ1の後面に位置合わせして接着した。硬化条件は温度100℃、30分で、圧力10kg/cm2とした。
【0075】
なお、この他に、ポリイミドフィルム上に銅膜が形成されたFPC基板を用いることもできる。この場合、貫通電極は、銅膜と反対側からレーザードドリリングでポリイミドフィルムに銅膜に達する孔を開け、めっき法により銅膜から銅を貫通孔内に成長させることにより形成できる。貫通電極は、ポリイミドフィルム上面より飛び出して成長させ、いわゆるバンプとすることが、以下に示す加圧接着で電気的接続を取る場合に、接続を確実とすることができるので好ましい。銅のバンプの表面は酸化を防ぐために金めっきを行うことが好ましい。図7に、かかる方法によって作成された配線3におけるバンプの形成された貫通電極33、34の部分の断面拡大図を示す。
【0076】
絶縁フィルム300の接着時における貫通電極303、304と第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bとの導通は、金属膜同士を接着剤で加圧接着することにより電気的接続をとるNCP法(Non Conductive Paste:非導電性ペースト法)によってなされる。この場合、エポキシ系接着剤が、絶縁フィルム300の接着剤として機能すると共に、NCPとしても機能する。NCP法の場合、金属膜の表面が酸化していると接続が困難な場合もあるので、第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bの表面はAu、Pt等の金属であることが望ましく、金属膜を複層にすることで実現できる。
【0077】
また、接着剤中に金属粒子を分散した接着剤を用いるACP法(Anisotropic Conductive Paste:異方性導電ペースト法)を用いることもできる。この場合、金属粒子が金属膜の表面の酸化膜を突き破って接続を取るので、第1の接続電極161B、第2の接続電極162BがAl等の表面が酸化し易い金属でも、確実な電気的接続を取り易い。
【0078】
本実施形態では、Alの酸化に注意して作製することで、Alの表面にAuを形成したり、ACP法を用いたりしなくても、NCP法により電気的接続が可能であった。
【0079】
なお、このように各金属膜301、302をパターニングした後の絶縁フィルム300をヘッドチップ1の後面に接着する方法の他に、Al等の金属膜が一面に形成されているパターニング前のポリイミドフィルム等の絶縁フィルムをヘッドチップ1の後面に接着してから、金属膜301、302をエッチングによりパターニングしてもよい。この場合でも貫通電極303、304は予め形成しておく。
【0080】
この場合、フォトマスクを用いてパターンを転写するが、ヘッドチップ1に対するフォトマスクの位置合わせは、露光装置を用いて行い、数μの位置精度で合わせることが可能であり、他の方法では得られない高い精度が得られる。しかも、この方法によれば、一面に形成されている金属膜の存在によって、絶縁フィルム300の接着時の加熱、加圧によって該絶縁フィルム300に伸びが発生しても、その後に金属膜301、302を所定位置にパターニングするので各空気チャネル13や第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bとの位置ずれが生ずるおそれがない利点がある。
【0081】
次に、このヘッドチップ1の後面に対してドライエッチングを行い、不要な絶縁フィルム300を除去する。具体的なドライエッチングの手段としては、絶縁フィルム300に用いられる樹脂に応じて適宜選択できる。例えば本実施形態のようにポリイミドフィルムを用いた場合は酸素プラズマを用いてドライエッチングすることが可能である。ここでは酸素プラズマ装置として平行平板型RFプラズマ装置を用い、真空排気後、酸素ガスを50sccm導入し、バルブを調整して圧力を10Paにした。周波数13.56MHz、パワー500Wの高周波を投入し、発生する酸素プラズマによりポリイミドを分解し除去
した。約10分でポリイミドを除去することができる。このとき、表面の金属膜301、302は酸素プラズマによっては分解されないため、これら金属膜301、302がマスクとなって、その下側の絶縁フィルム300はエッチングされないで残存する。
【0082】
エッチングにはウェットエッチングも使用可能であるが、一般にウェットエッチング液は酸性やアルカリ性であり、駆動電極14を侵すおそれがあるため、ドライエッチングが好ましい。しかも、万一、絶縁フィルム300の接着時に接着剤の滲み出し等が発生しても、ドライエッチングする際に同時に不要な接着剤も分解除去できるので、余剰の接着剤がチャネルを塞いだり、電極表面を覆ったりする問題も解消する。
【0083】
また、金属膜301、302でマスクされた部位以外の絶縁フィルム300はドライエッチングによって全て除去されるため、ヘッドチップ1の後面に対して接着する段階では、絶縁フィルム300の外形はヘッドチップ1の後面よりも大きくすることが可能であり、格段に作業性に優れる利点がある。
【0084】
更に、ドライエッチング方法は以上の方法に限定されず、適宜選択することができる。
【0085】
ヘッドチップ1の後面には、ドライエッチングにより残存した絶縁フィルム300、金属膜302、貫通電極303、304によって、絶縁層31、金属膜層32及び貫通電極33、34を有する配線3が個別に形成され、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続する。また、B列の各空気チャネル13にも、これと同時に、絶縁フィルム300、金属膜301によって、絶縁層41と金属膜層42からなる矩形状の流路規制部材4がそれぞれ独立して個別に形成され、開口部132を完全に閉塞する(図8)。
【0086】
なお、図4〜図6及び図8では駆動電極14は図示省略している。
【0087】
このように本発明によれば、複数のチャネル列(A列、B列)の各インクチャネル12内の駆動電極14から引き出し形成される接続電極16Aと配線3を介した第1の接続電極161B及び第2の接続電極162Bとが、ヘッドチップ1の後面の端部に一列に配線されるので、各チャネル列の各インクチャネル12内の駆動電極14と駆動回路との電気的接続は、FPC等を用いてヘッドチップ1の後面の端部のみに対して行うだけで可能となる。
【0088】
しかも、配線3は、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとの電気的接続を行うと同時に、A列の各空気チャネル13の開口部132を完全に閉塞することによって流路規制部材としての機能を同時に果たすので、B列の各空気チャネル13の開口部132も同様に流路規制部材4で閉塞することにより、全ての空気チャネル13へのインクの流入を阻止する構成を簡単に得ることができる。
【0089】
以上の実施形態では、第1の接続電極161Bと配線3の金属膜層32との導通及び第2の接続電極162Bと配線3の金属膜層32との導通を貫通電極33、34によって確保するようにしたが、これに限定されず、両者の導通が確保できれば、その他の様々な方法を採ることもできる。
【0090】
例えば、図9、図10に示すように第1の接続電極161Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域及び第2の接続電極162Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域において、配線3の絶縁層31の少なくとも一部を除去し、該絶縁層31が除去された除去部31aを形成するようにしてもよい。
【0091】
図9(a)は絶縁層31の一部を分断するように除去することにより除去部31aを形成した例の配線3の断面図、図9(b)はその部分平面図を示しており、図10(a)は絶縁層31の一部に矩形状の開口を形成するように除去することにより除去部31aを形成した例の配線3の断面図、図10(b)はその部分平面図である。このように配線3に除去部31aを形成することにより、除去部31aには絶縁層31の上面の金属膜層32が絶縁層31の下面に臨むようになる。
【0092】
除去部31aは、金属膜層32をパターン形成した後に、絶縁層31側から選択的にエッチングを行うことで形成することができる。
【0093】
このような除去部31aを有する配線3によって第1の接続電極161Bとの導通を図る方法を図11に示す。
【0094】
まず、配線3の除去部31aを第1の接続電極161B上に位置合わせして重ねた後(図11(a))、除去部31aの上方を加熱、加圧して、除去部31aを通して金属膜層32と第1の接続電極161Bとを接触させる(図11(b))。その後、ドライエッチングして、不要な絶縁層31を除去する(図11(c))。第2の接続電極162Bとの導通も同様に行えばよい。
【0095】
絶縁層31をヘッドチップ1の後面に貼り付ける際の接着剤としては、エポキシ系接着剤が、耐インク性、接着力等の点から適している。除去部31aにおける金属膜層32と第1の接続電極161Bとの電気的接続は、金属膜同士を接着剤で加圧接着することにより電気的接続を取るNCP法(Non Conductive Paste:非導電性ペースト法)によってなされる。この場合、エポキシ系接着剤が、絶縁層31の接着剤として機能すると共に、NCPとしても機能する。NCP法の場合、金属膜の表面が酸化していると接続が困難な場合もあるので、第1の接続電極161B、第2の接続電極162B及び金属膜層32の表面はAu、Pt等の金属であることが望ましく、金属膜を複層にすることで実現できる。
【0096】
また、接着剤中に金属粒子を分散した接着剤を用いるACP法(Anisotropic Conductive Paste:異方性導電ペースト法)を用いることもできる。この場合、金属粒子が金属膜層32等の表面の酸化膜を突き破って接続を取るので、Al等の表面が酸化し易い金属でも、確実な電気的接続を取り易い。
【0097】
この除去部31aを形成する方法では、絶縁層31に除去部31aを形成すると、該除去部31aには金属膜層32だけが残った状態となるため、金属膜層32にはある程度の膜厚と強度が必要となる。この場合の金属膜層32としては、AlよりもCuを20μm程度の膜厚で形成することが好ましい。更に接続の信頼性を向上させるためには、Ni/Auめっきが施されていることが好ましい。
【0098】
また、他の方法として、図12に示すように、配線3をヘッドチップ1の後面に接着し、ドライエッチングして不要な絶縁層31を除去した後、配線3の端部に、金属膜層32と第1の接続電極161Bとに亘って導電性接着剤400を塗布することによって両者の導通を図ることもできる。導電性接着剤400としては、耐溶剤性があるものが好ましく、エポキシ系接着剤を成分とするものが好ましい。また、導電性接着剤400に代えて、低融点半田を同様に塗布することによって導通を図ることもできる。第2の接続電極162Bとの導通も同様に行えばよい。
【0099】
更に、他の方法として、図13に示すように、配線3の端部を、表面に金属膜層32が露出するように絶縁層31を内側にして折り曲げて折曲部3aを形成してもよい。第1の接続電極161B上に折曲部3aを位置合わせして接続することで、図11の場合と同様に、導通を図ることができる。この場合は、第1の接続電極161Bから第2の接続電極162Bにほぼ至る長さの金属膜がパターニングされた絶縁フィルムの端部を折り曲げて折曲部3aを形成する必要があるため、B列の各空気チャネル13の流路規制部材4は別個に形成する必要がある。第2の接続電極162Bとの導通も同様に行えばよい。
【0100】
このようなヘッドチップ1の後面の各接続電極16A、各第2の接続電極162Bと駆動回路(図示せず)との電気的接続を行う具体的手段は特に問わず、様々な手段を採用することができる。例えば図14に示すような配線基板5を接合することにより、ヘッドチップ1の後面に引き出し形成された各接続電極16A及び各第2の接続電極162Bと駆動回路(図示せず)との間の電気的接続を行うことができる。
【0101】
図14は、配線基板5を接合した状態のヘッドチップ1を、図1の(ii)−(ii)線と同様の断面で示す断面図である。
【0102】
配線基板5は、非分極のPZTやAlN−BN、AlN等のセラミックス材料からなる板状の基板によって形成されている。また、低熱膨張のプラスチックやガラス等を用いることもできる。更には、ヘッドチップ1に使用されている圧電素子基板と同一の基板材料を脱分極して用いると好ましい。また、熱膨張率の差に起因するヘッドチップ1の歪み等の発生を抑えるため、ヘッドチップ1との熱膨張係数の差が±1ppm以内となるように材料を選定することが更に好ましい。配線基板5を構成する材料は1枚板に限らず、薄板状の基板材料を複数枚積層して所望の厚みとなるように形成してもよい。
【0103】
配線基板5は、ヘッドチップ1のチャネル列方向と直交する方向(図14における上下方向)に延び、ヘッドチップ1の上面及び下面からそれぞれ大きく張り出した張り出し部51a、51bを有している。また、ヘッドチップ1の後面と接合される配線基板5の一面には、その幅方向(チャネル列方向)に亘って延びる1本の凹部52が形成されている。この凹部52は、ヘッドチップ1のA列及びB列の両チャネル列方向に沿って全てのチャネル12、13の後面側の開口部122、132を覆うことができる大きさに溝加工されており、A列及びB列の各インクチャネル12(図14ではA列のインクチャネル12は図示されていない。)に対して共通にインクを供給するインク共通室を構成している。
【0104】
すなわち、凹部52の図示上下方向の高さは、ヘッドチップ1後面のA列とB列とに亘る高さよりも大きく、ヘッドチップ1のチャネル列方向と直交する方向の厚さよりも小さい。これにより、配線基板5をヘッドチップ1の後面に接合すると、凹部52内にA列及びB列の各チャネル列が全て収まるような状態となる。
【0105】
ヘッドチップ1後面の各配線3及び各流路規制部材4(図14では示されていない。)はこの凹部52内に収まっている。すなわち、配線基板5は、ヘッドチップ1の後面における上下両端部の配線3及び流路規制部材4が形成されていない極めて狭小な領域に接合されている。この領域は、A列及びB列の各チャネル12、13に極めて近接しており(例えば0〜200μm)、流路規制部材を従来のように1枚のプレート状の部材を接合することによって形成する場合では極めて高精度で困難な位置合わせ作業が要求されることになる。しかし、本実施形態によれば、パターニング技術を用いることにより配線3及び流路規制部材4を形成できるので、上述したように高い位置精度を確保でき、このように各チャネル12、13に極めて近接して形成することも容易であり、各接続電極16A(図14においては示されていない。)や各第2の接続電極162B及び共通電極15A、15Bとの電気的接続のための領域を容易に確保することができる。もちろん、この領域に接着剤がはみ出しても、ドライエッチング時に分解除去されるので、電気的接続に支障は生じない。
【0106】
配線基板5の一方の張り出し部51aには、ヘッドチップ1の後面の下端部に並設された接続電極16A及び第2の接続電極162Bと同数及び同ピッチで配線電極53が形成されている。配線基板5は、各配線電極53の一端と接続電極16A及び第2の接続電極162Bとが電気的に接続するように異方性導電ペースト等によってヘッドチップ1の後面に接合される。駆動回路と各インクチャネル12の駆動電極14とは、配線基板5の張り出し部51aにおいて各配線電極53の他端にFPC6等を電気的に接合することによって行うことができる。駆動回路と各共通電極15A、15Bとは、例えば配線基板5の側方において電気的に接続すればよい。
【0107】
インク共通室となる凹部52へのインクの供給は、配線基板5をヘッドチップ1の後面に接合した際に凹部52の両端又はいずれか一方端から行うことができるが、図14に示すように、凹部52の底部からヘッドチップ1との接合面と反対面に貫通する開口54を形成し、凹部52よりも大容量のインクを貯留可能な箱形状のインクマニホールド55を更に接合することもできる。
【0108】
ところで、ヘッドチップ1において、インクチャネル12内の駆動電極14は、インクと直に接触するため、水系のインクを使用する場合は駆動電極14の表面に保護膜が必要となる。また、配線3や流路規制部材4も直にインクと接触するため、溶剤系のインクを使用する場合には、これらを溶剤から保護するために保護膜が必要となる。そこで、ヘッドチップ1の後面に配線3や流路規制部材4を形成した後は、ヘッドチップ1の全面、すなわち各駆動電極14の表面及び配線3、流路規制部材4の表面に対して保護膜を形成することが好ましい。
【0109】
保護膜としては、パラキシリレン及びその誘導体からなる被膜(以下、パリレン膜という。)を用いてコーティングすることが好ましい。パリレン膜は、ポリパラキシリレン樹脂及び/又はその誘導体樹脂からなる樹脂被膜であり、固体のジパラキシリレンダイマー又はその誘導体を蒸着源とする気相合成法(Chemical Vaper Deposition:CVD法)により形成する。すなわち、ジパラキシリレンダイマーが気化、熱分解して発生したパラキシリレンラジカルが、ヘッドチップ1の表面に吸着して重合反応し、被膜を形成する。
【0110】
パリレン膜には、種々のパリレン膜があり、必要な性能等に応じて、各種のパリレン膜やそれら種々のパリレン膜を複数積層したような多層構成のパリレン膜等を所望のパリレン膜として適用することもできる。
【0111】
このようなパリレン膜の膜厚は、1μm〜10μmとすることが好ましい。
【0112】
パリレン膜は微細な領域にも浸透し、被膜を形成することができるので、ノズルプレート2を接合する前のヘッドチップ1に対して被覆形成することで、駆動電極14はもちろんのこと、配線3及び流路規制部材4も、空気チャネル13内に面する内面及びヘッドチップ1の後面に露呈する外面の両面がパリレン膜によって被覆されてインクから保護される。
【0113】
このパリレン膜の形成により、配線3及び流路規制部材4はその両面から保護され、その耐久性を大きく向上させることができる。
【0114】
また、万一、配線3及び流路規制部材4を被覆するパリレン膜にピンホールが発生して溶剤系のインクが浸透しても、パリレン膜自体は溶解せず、配線3及び流路規制部材4の両面に存在し続けるため、空気チャネル13を閉塞する機能は容易には失われず、長期に亘って信頼性を保つことができる。
【0115】
しかも、本実施形態のように、配線3及び流路規制部材4を空気チャネル13毎に独立して個別に閉塞するように形成することにより、パリレン膜にピンホール等が発生した場合の影響は、その空気チャネル13だけにとどまり、他の空気チャネル13には及ばないため、被害を最小限にとどめることができるという利点もある。
【0116】
このようにしてパリレン膜を形成する場合は、その後にノズルプレート2を接合する。
【0117】
また、図14のように、ヘッドチップ1の後面に配線基板5を接合する場合は、ノズルプレート2をヘッドチップ1に接合する前であって、配線基板5をヘッドチップ1に接合した後に、上述したパリレン膜を形成する。これにより、各電極同士の電気的接続を確保できると共に、配線基板5とヘッドチップ1の接着層を保護することができる。
【0118】
以上説明した態様は、各インクチャネル12の開口部122には何らインクの流入を規制する部材が設けられていないが、図15に示すように、A列及びB列の各インクチャネル12の後面側の開口部に、該開口部の開口面積を絞るように流路規制部材7をそれぞれ独立して個別に形成するようにしてもよい。
【0119】
この流路規制部材7は、チャネル列方向に沿う幅方向が各インクチャネル12の幅よりも若干大きく、幅方向に直交する上下方向は各インクチャネル12の高さよりも小さい。このため、各流路規制部材7は、各インクチャネル12の後面側の開口部を一部残して該開口部の中央部を塞ぐことにより開口面積を絞っており、各開口部はその上端及び下端だけが開口した状態となっている。
【0120】
これにより、各インクチャネル12は、後面側の開口部の開口面積が流路規制部材7によって絞られるので、従来のインク供給口が開いた流路規制部材を用いる場合と同様、ヘッドを高速で駆動する場合のノズルのインクメニスカスの振動を有効に抑えることができる。
【0121】
しかも、この流路規制部材7は、従来の流路規制部材のようにインクチャネルの開口部の中央部にインク供給口を形成するものとは異なり、図16に示すように、インクチャネル12の開口部122の上端及び下端が開口してそれぞれ開口部122a、122bを形成しているので、インクaの吐出方向が重力方向gに対して斜めとなるようにインクジェットヘッドを傾斜させて設置すると、インクチャネル12は、流路規制部材7によって閉塞されていない例えば開口部122aが最上部に位置することになるため、インクチャネル12内に発生した気泡bはこの最上部に集まり、開口部122aから容易にヘッドチップ1外のインク共通室へ抜けていく。インク共通室内に気泡bが存在していても、もはや射出には影響しないため、気泡bに起因する不具合が発生することはない。
【0122】
このように各インクチャネル12の後面側の開口部122を絞るように形成される流路規制部材7によって、該開口部122の上端及び下端を開口させるようにすることにより、泡抜け性に優れ、射出信頼性の高いヘッドとすることができる。
【0123】
各インクチャネル12が流路規制部材7によって絞られた後の後面側の開口部122の開口面積は、ノズルプレート2に形成されたノズル21の吐出側の開口面積の1〜10倍とすることが好ましく、より好ましくは2〜5倍とすることである。最適な数値は射出テストを行った結果から得ることが望ましいが、本発明者の実験によれば、ノズル径28μm(開口面積615μm2)のヘッドチップの場合、流路規制部材7によって絞られた後の後面側の開口部122の開口面積は2000μm2が適切であった。
【0124】
なお、ここでは、インクチャネル12の開口部122の上端及び下端が共に開口してそれぞれ開口部122a、122bが形成されるように流路規制部材7を形成した。これによれば、ヘッドチップ1の上面及び下面のいずれの側を上方に位置させも気泡bを抜くことができるため、インクジェットヘッドを斜めに設置する場合の規制がないために好ましい。しかし、本発明はこれに限らず、インクチャネル12の後面側の開口部122における上端又は下端のいずれか一方のみが開口するように流路規制部材7を形成してもよい。この場合は、後面側の開口部122のうち流路規制部材7によって閉塞されずに開口している側が上方に位置するようにインクジェットヘッドを斜めに設置することで、気泡bを抜くことができる。
【0125】
この流路規制部材7の形成方法は特に問わないが、配線3、流路規制部材4と同様の構成とすることが好ましい。すなわち、図16に示すように、流路規制部材7を絶縁層71と金属膜層72とからなる積層体によって構成し、そのうちの絶縁層71がヘッドチップ1の後面に配置されるように接着することが好ましい。これによれば、この流路規制部材7も配線3や流路規制部材4と同時にドライエッチングすることによって高精度に独立した個別のパターン形成が可能となる。
【0126】
図17は、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続するための他の態様を示しており、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとが、ワイヤーボンディング法による配線8によってそれぞれ電気的に接続されている。このような配線8をワイヤーボンディング法によって形成することによって、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとの間を所定のループ高さで配線することができるので、その間に存在する共通電極15A等との電気的短絡を簡単に防ぐことができる。
【0127】
ワイヤーボンディング法としては、ボールボンディング、ウェッジボンディングのいずれでもよい。
【0128】
また、配線8には、これらのワイヤーボンディングが可能な一般的な金属線を用いることができ、例えば、Al、Cu、Au、Ni等が挙げられる。
【0129】
このように配線8をワイヤーボンディング法によって形成する場合、ヘッドチップ1において、配線8の端部が第1の接続電極161B及び第2の接続電極162Bとそれぞれ接合しているボンディング部8aに相当する領域が、非圧電材料で形成されていることが好ましい。これらボンディング部8aは、ボンディング時にキャピラリーやウェッジツールが衝突することにより形成されるため、この領域が衝撃に弱い圧電材料である場合、ヘッドチップ1の損傷を招くおそれがあるためである。
【0130】
図17に示す態様では、A列及びB列の2列のチャネル列を有するヘッドチップ1が、A列のチャネル列を有するヘッドチップ1AとB列のチャネル列を有するヘッドチップ1Bとを接合してなり、ヘッドチップ1Aは、接続電極16A及び第2の接続電極162Bが並設された下端部の領域1aが非圧電材料で形成され、ヘッドチップ1Bは、第1の接続電極161Bが並設された下端部の領域1bが非圧電材料で形成されている。
【0131】
これらはヘッドチップ1A、1Bの製造時、図3に示す基板100に非圧電材料を用いることによって形成することができる。
【0132】
非圧電材料としては、一般にはセラミックス材料からなる板状の基板を用いることができるが、低熱膨張のプラスチックやガラス等を用いることもできる。更に、熱膨張率の差に起因するヘッドチップ1の歪み等の発生を抑えるため、各チャネル12、13を形成している圧電材料との熱膨張係数の差が±1ppm以内となるように材料を選定することが更に好ましい。
【0133】
このように配線8をワイヤーボンディング法によって形成した場合も、これら配線8の表面に、前述したパラキシリレン及びその誘導体による膜をコーティングすることによって保護膜を形成しておくことが好ましい。
【0134】
なお、図17に示す態様においても、図1と同様に、そのヘッドチップ1の後面に臨む各空気チャネル13の開口部132を閉塞する流路規制部材4を設けるようにしてもよく、更に、図15と同様に、各インクチャネル12の開口部122の開口面積を絞るように流路規制部材7を設けるようにしてもよい。この場合、配線8は、これら流路規制部材4、7を設けた後に形成すればよい。
【0135】
以上の実施形態では、2列のチャネル列を有するヘッドチップ1を例示したが、本発明は2列のチャネル列を有するものに限らず、3列以上の複数のチャネル列を有するハーモニカ型の独立チャネルタイプのヘッドチップにも同様に適用することができる。
【0136】
例えば、図18は、4列のチャネル列を有するハーモニカ型の独立チャネルタイプのヘッドチップ100を示している。図1と同一符号の部位は同一構成の部位を示しているので詳細な説明は省略する。
【0137】
4列のチャネル列を有するヘッドチップ100は、例えば、図3(e)に示されるヘッド基板106を4枚積層することによって作成することができる。
【0138】
このヘッドチップ100では、4列のチャネル列のうち、ヘッドチップ100の上端部側及び下端部側からそれぞれ隣接する2列ずつのチャネル列を1つのグループとみなすことにより本発明を適用することができる。すなわち、4列のチャネル列は、図示上端部側の隣接する2列のチャネル列のグループと図示下端部側の隣接する2列のチャネル列のグループとに分けられる。そして、各グループの2列のチャネル列を図1と同様にそれぞれA列及びB列とすることにより、ヘッドチップ100の後面の上下両端側にそれぞれ駆動電極14と電気的に接続する接続電極16A、第2の接続電極162Bを並設させることができる。従って、4列のチャネル列を有するヘッドチップ100でも、各インクチャネル12の駆動電極14と駆動回路との電気的接続は、接続電極16A、第2の接続電極162Bによってヘッドチップ100の上端部側及び下端部側において容易に行うことが可能となる。
【0139】
図19は、図18に示されるヘッドチップ100の後面に配線基板500を接合した状態の断面図である。
【0140】
この配線基板500は、上下両端の張り出し部501a、501bにそれぞれ配線電極503が形成され、その一端がヘッドチップ100の後面の上端部側及び下端部側にそれぞれ引き出されている接続電極16A、第2の接続電極162Bと電気的に接続している。従って、FPC6は、配線基板500の各張り出し部501a、501bにおいて配線電極503の他端とそれぞれ接合され、駆動回路と接続電極16A及び第2の接続電極162Bとを電気的に接続している。
【0141】
なお、この配線基板500の凹部502は、ヘッドチップ100の2列ずつのチャネル列をそれぞれ含むように2つ形成されている。各凹部502、502には、それぞれ開口504、504が設けられ、この開口504、504によって、独立したインクマニホールド505、505からインクがそれぞれ供給されるようになっている。このため、2つのインクマニホールド505、505内に異なる色のインクを供給すれば、1つのヘッドチップ100から2色のインクを吐出することができる。
【0142】
しかし、ヘッドチップ100が1色のインクを吐出するだけでよい場合は、ヘッドチップ100の4列のチャネル列の全てを含む大きさの凹部502を、配線基板500に1つだけ形成するようにするか、あるいは、配線基板500の後面に、2つの凹部502、502とそれぞれ連通する2つの開口504、504を含む大きなインクマニホールド505を1つだけ接合するようにすればよい。
【0143】
このヘッドチップ100にも、図15と同様の流路規制部材7を設けることができる。また、図17と同様に、ワイヤーボンディング法によって形成される配線8を採用することもできる。
【0144】
更に4列を超えるチャネル列を有するヘッドチップに対しても、ヘッドチップのチャネル列と直交する方向の端部側に位置する隣接する2列ずつのチャネル列に対して本発明を適用することにより、そのチャネル列のインクチャネルから引き出された接続電極をヘッドチップの端部に並設させることができ、多列のチャネル列を有するヘッドチップに対するFPC等との電気的接続の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た斜視図
【図2】(a)は図1の(i)−(i)線断面図、(b)は図1の(ii)−(ii)線断面図
【図3】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図4】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図5】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図6】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図7】他の態様に係る配線のバンプの形成された貫通電極の部分を示す断面拡大図
【図8】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図9】(a)は除去部を形成した配線を示す断面図、(b)はその平面図
【図10】(a)は除去部を形成した配線の他の態様を示す断面図、(b)はその平面図
【図11】(a)〜(c)は配線の他の導通の態様を示す断面図
【図12】配線の他の導通の態様を示す断面図
【図13】配線の他の導通の態様を示す断面図
【図14】配線基板を設けたインクジェットヘッドの一例を示す断面図
【図15】インクチャネルに流路規制部材を設けたインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た図
【図16】図15に示すヘッドチップを斜めに設置した状態を示す部分断面図
【図17】第1の接続電極と第2の接続電極とを電気的に接続するための他の態様を示すインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た斜視図
【図18】4列のチャネル列を有するヘッドチップ部分を後面側から見た斜視図
【図19】図18に示されるヘッドチップの後面に配線基板を接合した状態を示す断面図
【符号の説明】
【0146】
1、100:ヘッドチップ
11:駆動壁
12:インクチャネル
121:前面側の開口部
122:後面側の開口部
122a:上端の開口部
122b:下端の開口部
13:空気チャネル
131:前面側の開口部
132:後面側の開口部
14:駆動電極
15A、15B:共通電極
16A:接続電極
161B:第1の接続電極
162B:第2の接続電極
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線
31:絶縁層
32:金属膜層
33、34:貫通電極
4、7:流路規制部材
41、71:絶縁層
42、72:金属膜層
5:配線基板
51a、51b:張り出し部
52:凹部
53:配線電極
54:開口
55:インクマニホールド
6:FPC
8:配線
8a:ボンディング部
500:配線基板
501a、501b:張り出し部
502:凹部
503:配線電極
504:開口
505:インクマニホールド
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しない空気チャネルとが交互に並設された複数のチャネル列を有するヘッドチップの駆動電極と駆動回路との間の電気的接続を容易に行い得るようにしたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チャネルを区画する駆動壁に形成した電極に電圧を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのとき発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたシェアモード型のインクジェットヘッドとして、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が配置された所謂ハーモニカ型のヘッドチップを有するものが知られている。
【0003】
このようなハーモニカ型のヘッドチップでは、如何にして各駆動電極と駆動回路との電気的接続を行うかが課題となる。
【0004】
例えば、従来、チャネルの上部を閉蓋するヘッドチップのカバー基板に貫通電極を設けることにより、各チャネル内の駆動電極をヘッドチップのカバー基板表面に引き出し、このカバー基板の表面においてFPC等によって各駆動電極と駆動回路との電気的接続を図るようにしたインクジェットヘッドが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、カバー基板に貫通電極を設けることは、貫通孔の開設作業、貫通孔内への導電材の埋設作業等といった困難な作業を必要とする。このため、インクが吐出される面と反対側の面であるヘッドチップ後面に各駆動電極と導通する接続電極を引き出し形成し、このヘッドチップ後面に配線基板を接合させ、配線基板の端部にFPCを接合することにより、各駆動電極と駆動回路との電気的接続を行うようにしたインクジェットヘッドも提案されている(特許文献2)。
【0006】
このようにヘッドチップの後面に接続電極を引き出し形成することは、一般的な金属薄膜のパターニング方法を用いて行うことができるため、カバー基板に貫通電極を設けるものに比べ、簡単且つ高精度に接続電極を引き出し形成することが可能である。
【0007】
ところで、シェアモード型のインクジェットヘッドは、一つの駆動壁を両隣のチャネルで共用しているため、隣接する1つおきのチャネル毎に、インクを吐出するインクチャネルとインクを吐出しない空気チャネルとに分けた独立チャネルタイプのインクジェットヘッドとしたものが知られている。
【0008】
このような独立チャネルタイプのインクジェットヘッドの場合、各インクチャネルの駆動電極にはそれぞれ個別に電圧印加を行うが、各空気チャネルの駆動電極は一括して接地されるか、または共通の駆動電極に接続されるため、1つの共通電極によって配線することが可能である。従って、インクチャネルと空気チャネルが交互に並設されたチャネル列を挟んで、各接続電極と1つの共通電極とをヘッドチップ後面の両端部に振り分けて引き出し形成することにより、各接続電極のみをヘッドチップ後面の一方端部に並設されるようにし、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能となる。
【特許文献1】特開2004−90374号公報
【特許文献2】特開2006−82396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、インクチャネルと空気チャネルとが交互に並設されたチャネル列が2列以上並設されることにより高密度化が図られたヘッドチップの場合、チャネル列が隣接しているために、接続電極をヘッドチップの端部まで引き出すことができないことがある。例えばA列及びB列の2列のチャネル列を有するヘッドチップの場合、B列のインクチャネルからの接続電極は、A列を越えた側のヘッドチップの端部に引き出すことが難しい問題がある。A列のチャネル列を越えなくてはならないためである。
【0010】
B列のインクチャネルからの接続電極をA列のチャネル列を越えて引き出す場合、A列のインクチャネルと空気チャネルとの間を通して引き出すことも考えられるが、この隙間は極めて狭小であるため、電気的短絡や断線のおそれなく引き出し形成することは極めて困難を要する。
【0011】
従って、チャネル列が複数列設けられた独立チャネルタイプのハーモニカ型のヘッドチップにおいても、インクチャネルからの接続電極をヘッドチップ後面の端部にまとめて並設させることにより、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが望まれている。
【0012】
そこで、本発明は、チャネル列が複数列設けられた独立チャネルタイプのハーモニカ型ヘッドチップ後面の端部に、各インクチャネルから引き出し形成された各接続電極を並設させることにより、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能なインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
請求項1記載の発明は、チャネルと圧電素子からなる駆動壁が交互に並設されると共に、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に駆動電極が形成され、前記チャネルは、インク吐出を行うインクチャネルとインク吐出を行わない空気チャネルとが交互に配置されてチャネル列を構成し、該チャネル列が複数並設されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することによって前記駆動壁をせん断変形させ、前記インクチャネル内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドであって、前記複数のチャネル列のうちのヘッドチップの端部側に位置するいずれかのチャネル列をA列、該A列に隣接するチャネル列をB列とするとき、前記ヘッドチップの後面に、前記A列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が前記B列側に向けて引き出し形成されており、前記B列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が、前記A列側又は該A列とは反対側に向けて引き出し形成されていると共に、前記A列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記ヘッドチップの端部に向けて引き出し形成されており、前記B列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記A列側に向けて引き出し形成され、且つ、該A列の前記共通電極及び該A列を跨いで、該A列の前記接続電極と並列するように配線されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記チャネル列は4列であり、前記ヘッドチップの端部側に位置する2つのチャネル列をそれぞれA列、内側に位置する2つのチャネル列をそれぞれB列とすることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、前記ヘッドチップの後面に臨む全空気チャネルの開口部のうち、少なくとも前記A列の各空気チャネルの開口部は、絶縁層と金属膜層とを有する積層体が、前記絶縁層を前記ヘッドチップの後面側に位置させて接着されることにより閉塞され、且つ、該積層体は、前記第1の接続電極から前記第2の接続電極に亘る長さで形成されており、前記第1の接続電極と前記第2の接続電極とが前記積層体の金属膜層によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0018】
請求項4記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、それぞれ前記絶縁層を貫通する貫通電極が設けられており、該貫通電極によって前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0019】
請求項5記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記絶縁層の少なくとも一部が除去されており、該絶縁層が除去された部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域に、前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通するように、導電性接着剤又は半田が塗布され、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0021】
請求項7記載の発明は、前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記積層体の端部が前記ヘッドチップの後面側に向けて折り曲げられ、該折り曲げられた部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドである。
【0022】
請求項8記載の発明は、前記積層体の絶縁層は、ドライエッチング可能な有機フィルムからなることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0023】
請求項9記載の発明は、前記積層体は、前記A列の空気チャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0024】
請求項10記載の発明は、前記積層体は、その両面がパラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0025】
請求項11記載の発明は、前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、該第1の接続電極と第2の接続電極とがワイヤーボンディング法による配線によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0026】
請求項12記載の発明は、前記ヘッドチップは、前記ワイヤーボンディング法による配線のボンディング部に相当する領域が、非圧電材料で形成されていることを特徴とする請求項11記載のインクジェットヘッドである。
【0027】
請求項13記載の発明は、前記ワイヤーボンディング法による配線が、パラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項11又は12記載のインクジェットヘッドである。
【0028】
請求項14記載の発明は、前記ヘッドチップの後面に臨む各インクチャネルの開口部には、該開口部の開口面積を絞るように流路を規制する流路規制部材が、該インクチャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のインクジェットヘッドである。
【0029】
請求項15記載の発明は、前記流路規制部材は、前記各インクチャネルの開口部の上端又は下端の少なくとも一方が開口するように開口面積を絞っていることを特徴とする請求項14記載のインクジェットヘッドである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、チャネル列が複数列設けられた独立チャネルタイプのハーモニカ型ヘッドチップ後面の端部に、各インクチャネルから引き出し形成された各接続電極を並設させることにより、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【0031】
特に本発明によれば、4列のチャネル列を有するインクジェットヘッドでも、FPC等との電気的接続時の容易化を図ることが可能であり、高解像度且つ高速なインクジェットヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0033】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た分解斜視図、図2(a)は、図1の(i)−(i)線断面図、図2(b)は図1の(ii)−(ii)線断面図である。
【0034】
図中、1はヘッドチップ、2はヘッドチップ1の前面に接合されたノズルプレートである。
【0035】
なお、本明細書においては、ヘッドチップからインクが吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。また、ヘッドチップにおいて並設されるチャネルを挟んで図示上下に位置する外側面をそれぞれ「上面」及び「下面」という。
【0036】
ヘッドチップ1には、圧電素子からなる駆動壁11とチャネル12、13とが交互に並設されたチャネル列が、図示上下に2列に並設されている。ここでは各チャネル列はそれぞれ9つのチャネル12、13を有するものを例示しているが、各チャネル列のチャネル数は何ら限定されない。
【0037】
ここでは、図示下側に位置するチャネル列をA列、上側に位置するチャネル列をB列とする。
【0038】
このヘッドチップ1は、各チャネル列が、チャネル一つおきにインクを吐出するインクチャネル12とインクを吐出しない空気チャネル13とが並設されることにより構成された独立チャネルタイプのヘッドチップである。各チャネル12、13の形状は、両側壁がヘッドチップ1の上面及び下面に対してほぼ垂直方向に延びており、そして互いに平行である。
【0039】
ヘッドチップ1の前面及び後面には、それぞれ各チャネル12、13の前面側の開口部121、131と後面側の開口部122、132とが対向している。各チャネル12、13は、その後面側の開口部122、132から前面側の開口部121、131に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0040】
また、A列とB列とは、各インクチャネル12と各空気チャネル13とが1ピッチずれて形成されている。すなわち、図1及び図2に示されるように、ヘッドチップ1を図示上下方向に見た場合、A列のインクチャネル12とB列の空気チャネル13が同一線上に配置され、A列の空気チャネル13とB列のインクチャネル12が同一線上に配置される関係となっている。
【0041】
各チャネル12、13の内面全面には、それぞれNi、Au、Cu、Al等の金属膜からなる駆動電極14が密着形成されている。
【0042】
また、ヘッドチップ1の後面には、A列の全ての空気チャネル13内の駆動電極14と電気的に接続する1つの共通電極15Aが、チャネル列と直交する方向(図示上下方向)のうちの図示上方のB列側に向けて引き出し形成され、A列とB列との間においてチャネル列方向(図示左右方向)に沿うように延びていると共に、B列の全ての空気チャネル13内の駆動電極14と電気的に接続する1つの共通電極15Bが、A列の共通電極15Aの引き出し方向と同一方向である図示上方のヘッドチップ1の後面の上端部に向けて引き出し形成され、該上端部側においてチャネル列方向(図示左右方向)に沿うように延びている。
【0043】
なお、A列及びB列の各共通電極15A、15Bは、図1のようにチャネル列毎に個別に形成せず、図示しないが、A列及びB列に共通な1本の共通電極とすることもできる。この場合、A列の共通電極をB列側に向けて引き出し形成すると共に、B列の共通電極をA列側に向けて引き出し形成し、互いの引き出し先を1つにまとめ、A列とB列の間においてチャネル列方向(図示左右方向)に沿って1本の共通電極を形成すればよい。
【0044】
更に、ヘッドチップ1の後面には、A列の各インクチャネル12内の駆動電極14と電気的に接続する接続電極16Aが、共通電極15Aの引き出し方向であるB列側とは反対方向である図示下方のヘッドチップ1の後面の下端部に向けてそれぞれ個別に引き出し形成され、該下端部側において並列している。
【0045】
一方、B列の各インクチャネル12には、内部の駆動電極14と電気的に接続する第1の接続電極161Bが、共通電極15Bの引き出し方向と反対方向である図示下方のA列側に向けて個別に引き出し形成され、該A列の共通電極15Aの手前まで延びて並列している。
【0046】
また、A列の各空気チャネル13よりもヘッドチップ1の後面の下端部側で、A列の各接続電極16Aの間に位置するように、B列の各インクチャネル12に対応する第2の接続電極162Bが個別に形成されてA列の接続電極16Aと並列している。これら第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bは、B列の各インクチャネル12内の駆動電極14に電圧印加を行うためにヘッドチップ1の後面に引き出し形成された接続電極である。すなわち、ヘッドチップ1の後面において、B列の各インクチャネル12内の駆動電極14と電気的に接続される接続電極は、これら第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとに分割されている。
【0047】
従って、第1の接続電極161Bと該第1の接続電極161Bに対応する第2の接続電極162Bとを電気的に接続する必要がある。このため、第1の接続電極161BからA列の共通電極15A及びA列を跨いで、第2の接続電極162Bに亘って配線3が形成されている。
【0048】
配線3は、インクチャネル12及び空気チャネル13の幅よりも若干広幅の帯状に形成されており、第1の接続電極161BからA列の共通電極15A及びA列の空気チャネル13を跨いで、該第1の接続電極161Bにそれぞれ対応する第2の接続電極162Bに亘る長さを有している。
【0049】
この配線3は、B列の各インクチャネル12に対応して個別に設けられており、図2(b)に示すように、それぞれ絶縁層31と金属膜層32とからなる積層体により構成され、そのうちの絶縁層31がヘッドチップ1の後面側に位置するように、第1の接続電極161Bから共通電極15A及びA列の空気チャネル13を跨いで第2の接続電極162Bに掛け渡され、該ヘッドチップ1の後面に接着されている。このとき、配線3は、A列の各空気チャネル13の後面側の開口部132を完全に閉塞するように接着され、該A列の各空気チャネル13へのインクの流入を阻止するように流路を規制している。従って、配線3によって、A列の各空気チャネル13へのインク流入を規制する流路規制部材を兼ねることができるため、このように配線3をA列の各空気チャネル13の開口部132を完全に閉塞するように接着することは好ましい態様である。
【0050】
配線3には、第1の接続電極161Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域及び第2の接続電極162Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域において、それぞれ絶縁層31を貫通する貫通電極33、34が形成されている。従って、配線3の金属膜層32は、これら貫通電極33、34によってそれぞれ第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bと導通し、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続している。貫通電極33、34は、導通の信頼性を上げるため、それぞれ複数個ずつ形成してもよい。
【0051】
この結果、B列の各インクチャネル12内の駆動電極14は、第1の接続電極161B、配線3の貫通電極33、金属膜層32及び貫通電極34を経て第2の接続電極162Bと電気的に接続され、該第2の接続電極162BによってA列の各インクチャネル12の接続電極16Aと並列してヘッドチップ1の後面の下端部側に引き出されている。
【0052】
なお、B列の各空気チャネル13の後面側の開口部132にも、A列の各空気チャネル13と同様にインクの流入を阻止するための流路規制部材4がそれぞれ個別に設けられ、各空気チャネル13の開口部132を完全に閉塞している。この流路規制部材4は本発明において必須のものではないが、好ましく設けることができる。
【0053】
流路規制部材4も、配線3と同様、絶縁層41と金属膜層42とからなる積層体によって構成し、そのうちの絶縁層41がヘッドチップ1の後面側に配置されるように接着する構成とすることが好ましい。このように構成することにより、後述するように、配線3と同時に流路規制部材4をヘッドチップ1の後面に設けることができる。
【0054】
ヘッドチップ1の前面には、ノズルプレート2が接合されている。ノズルプレート2には、A列及びB列の各インクチャネル12に対応する位置にのみノズル21が開設されている。従って、インクを吐出しない各空気チャネル13の前面側の開口部131はノズルプレート2によって閉塞されている。
【0055】
次に、このようなインクジェットヘッドにおけるヘッドチップ1の製造例を図3〜図7に基づいて以下に説明するが、何らこれに限定されるものではない。
【0056】
まず、1枚の基板100上に、分極処理されたPZT等からなる圧電素子基板101をエポキシ系接着剤を用いて接合し、更に、その圧電素子基板101の表面にドライフィルム102を貼着する(図3(a))。
【0057】
次いで、そのドライフィルム102の側から、ダイシングブレード等を用いて複数の平行な溝103を研削する。各溝103は圧電素子基板101の一方の端から他方の端に亘り、且つ、基板100にほぼ至る程度の一定の深さで研削することで、長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレート状に形成する(図3(b))。
【0058】
次いで、溝103を研削した側から、Ni、Au、Cu、Al等の電極形成用金属をスパッタリング法、蒸着法等によって適用し、削り残されたドライフィルム102の上面及び各溝103の内面に金属膜104を形成する(図3(c))。
【0059】
その後、ドライフィルム102をその表面に形成された金属膜104と共に除去することにより、各溝103の内面のみに金属膜104が形成された基板105を得る。そして、同様に形成された基板105を2枚用意し、各基板105の溝103同士が互いに合致するように位置合わせして、エポキシ系接着剤等を用いて接合する(図3(d))。
【0060】
次いで、このようにして得られたヘッド基板106を2枚用意して重ね合わせて接着し、溝103の長さ方向と直交する方向に沿って切断することにより、2列のチャネル列を有する複数個のハーモニカ型のヘッドチップ1を一度に作成する。各溝103はチャネル12又は13となり、各溝103内の金属膜104は駆動電極14となり、隣接する溝103の間は駆動壁11となる。カットラインC、C…間の幅は、それによって作製されるヘッドチップ1、1…のインクチャネル12の駆動長(L長)を決定するものであり、この駆動長に応じて適宜決定される(図3(e))。
【0061】
次いで、これにより得られたヘッドチップ1の後面にドライフィルム200を貼着し、共通電極15A、15Bを形成するための開口201A、201Bと、接続電極16Aを形成するための開口202Aと、第1の接続電極161Bを形成するための開口202Bと、第2の接続電極162Bを形成するための開口203Bとを露光、現像により形成する(図4)。
【0062】
そして、このドライフィルム200の側から、真空蒸着により電極形成用金属として例えばAlを適用し、各開口201A、201B、202A、202B、203B内にそれぞれAl膜を選択的に形成する。このAl膜により、ヘッドチップ1の後面に、それぞれ共通電極15A、15B、接続電極16A、第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bが形成される。
【0063】
各インクチャネル12内の駆動電極14及び各空気チャネル13内の駆動電極14との接続を確実にするためには、蒸着は方向を変えて2度行うことが望ましい。具体的には、図示面に垂直な方向から、上下に各30度の方向から行うことが望ましい。更に、図3(d)に示すように上下に分かれている金属膜104同士の接続を確実にするためには、右又は左30度の方向からの蒸着を行うことが望ましい。
【0064】
また、Al膜の形成方法としては蒸着に限らず、一般の薄膜形成方法を採用することができる。また、導電性ペーストをインクジェットで塗布する方法を用いることもできる。特にスパッタ法が、飛来する金属粒子の方向がランダムなため、特に方向を変えなくてもチャネル内部まで金属膜を形成できるので好適である。Al膜の形成後、溶剤でドライフィルム200を溶解剥離することで、ドライフィルム200上に形成されていたAl膜は除去され、ヘッドチップ1の後面には、共通電極15A、15B、接続電極16A、第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bのみが残存する(図5)。
【0065】
なお、ドライフィルム200の現像工程・水洗工程での作業性を考え、ドライフィルム200はチャネル12、13の全面においても開口していることが望ましい。全面において開口していることにより、チャネル12、13内の現像液、洗浄水の除去が容易となる。
【0066】
次いで、B列の各空気チャネル13を完全に塞ぐ大きさを有する金属膜301と、B列の各第1の接続電極161B及び第2の接続電極162Bに亘る長さを有する金属膜302と、この金属膜302の第1の接続電極161Bと重なる領域の貫通電極303と、金属膜302の第2の接続電極162Bと重なる領域の貫通電極304とが形成された絶縁フィルム300を、該絶縁フィルム300の側がヘッドチップ1の後面に接するように、エポキシ系接着剤を用いて接着する(図6)。
【0067】
ここで、絶縁フィルム300としては、一般的なドライエッチングによってパターニングが可能な有機フィルムを用いることが好ましく、例えばポリイミド、液晶ポリマー、アラミド、ポリエチレンテレフタレート等の種々の樹脂からなるフィルムが挙げられる。中でも、エッチング性の良好なポリイミドフィルムが好ましい。また、ドライエッチングを容易にするためには、できるだけ薄いフィルムを用いることが望ましいが、強度が高くて薄くても強度を保つことができるアラミドフィルムを使用することも好ましい。
【0068】
また、ドライエッチング可能な絶縁層として、シリコン基板を用いることもできる。但し、シリコンのドライエッチングにはCF4やSF6等の特殊ガスを使用する必要があり、装置も特殊になるので一般的にはコスト高となる。
【0069】
絶縁フィルム300の厚さは、強度の確保とドライエッチングの容易性の観点から、10〜100μmとすることが好ましい。
【0070】
この絶縁フィルム300の一面に形成される金属膜302は、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続するための配線3の金属膜層32として機能すると同時に、金属膜301と共に、後工程であるドライエッチング工程時におけるマスク材としても機能する。これら金属膜301、302に使用可能な金属としては、Al、Cu、Ni、W、Ti、Au等が挙げられるが、中でも、Alは安価であり、パターニングも容易であることから好ましく、Alをスパッタで形成し、通常の薄膜パターニング技術によりパターニングを行うことで形成することができる。
【0071】
この金属膜301、302の厚さは、耐ドライエッチング性とパターニングの容易性の観点から、0.1〜50μmとすることが好ましい。
【0072】
ここでは、絶縁フィルム300として、予め貫通電極303、304を形成した厚さ25μmのポリイミドフィルムにAlをスパッタ装置で5μm形成した。
【0073】
貫通電極303、304の形成方法としては、予め絶縁フィルム300にレーザードドリリングで貫通孔を形成しておき、スルーホールめっきすることにより形成することができる。これにレジストを塗布し、通常のフォトリソグラフィー工程でレジストのパターニングを行い、燐酸でAlをエッチングして、図6に示されるような絶縁フィルム300上にAlの金属膜301、302を孤立パターンで形成した。
【0074】
これをエポキシ系接着剤(エポキシテクノロジー社製、エポテック353ND)でヘッドチップ1の後面に位置合わせして接着した。硬化条件は温度100℃、30分で、圧力10kg/cm2とした。
【0075】
なお、この他に、ポリイミドフィルム上に銅膜が形成されたFPC基板を用いることもできる。この場合、貫通電極は、銅膜と反対側からレーザードドリリングでポリイミドフィルムに銅膜に達する孔を開け、めっき法により銅膜から銅を貫通孔内に成長させることにより形成できる。貫通電極は、ポリイミドフィルム上面より飛び出して成長させ、いわゆるバンプとすることが、以下に示す加圧接着で電気的接続を取る場合に、接続を確実とすることができるので好ましい。銅のバンプの表面は酸化を防ぐために金めっきを行うことが好ましい。図7に、かかる方法によって作成された配線3におけるバンプの形成された貫通電極33、34の部分の断面拡大図を示す。
【0076】
絶縁フィルム300の接着時における貫通電極303、304と第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bとの導通は、金属膜同士を接着剤で加圧接着することにより電気的接続をとるNCP法(Non Conductive Paste:非導電性ペースト法)によってなされる。この場合、エポキシ系接着剤が、絶縁フィルム300の接着剤として機能すると共に、NCPとしても機能する。NCP法の場合、金属膜の表面が酸化していると接続が困難な場合もあるので、第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bの表面はAu、Pt等の金属であることが望ましく、金属膜を複層にすることで実現できる。
【0077】
また、接着剤中に金属粒子を分散した接着剤を用いるACP法(Anisotropic Conductive Paste:異方性導電ペースト法)を用いることもできる。この場合、金属粒子が金属膜の表面の酸化膜を突き破って接続を取るので、第1の接続電極161B、第2の接続電極162BがAl等の表面が酸化し易い金属でも、確実な電気的接続を取り易い。
【0078】
本実施形態では、Alの酸化に注意して作製することで、Alの表面にAuを形成したり、ACP法を用いたりしなくても、NCP法により電気的接続が可能であった。
【0079】
なお、このように各金属膜301、302をパターニングした後の絶縁フィルム300をヘッドチップ1の後面に接着する方法の他に、Al等の金属膜が一面に形成されているパターニング前のポリイミドフィルム等の絶縁フィルムをヘッドチップ1の後面に接着してから、金属膜301、302をエッチングによりパターニングしてもよい。この場合でも貫通電極303、304は予め形成しておく。
【0080】
この場合、フォトマスクを用いてパターンを転写するが、ヘッドチップ1に対するフォトマスクの位置合わせは、露光装置を用いて行い、数μの位置精度で合わせることが可能であり、他の方法では得られない高い精度が得られる。しかも、この方法によれば、一面に形成されている金属膜の存在によって、絶縁フィルム300の接着時の加熱、加圧によって該絶縁フィルム300に伸びが発生しても、その後に金属膜301、302を所定位置にパターニングするので各空気チャネル13や第1の接続電極161B、第2の接続電極162Bとの位置ずれが生ずるおそれがない利点がある。
【0081】
次に、このヘッドチップ1の後面に対してドライエッチングを行い、不要な絶縁フィルム300を除去する。具体的なドライエッチングの手段としては、絶縁フィルム300に用いられる樹脂に応じて適宜選択できる。例えば本実施形態のようにポリイミドフィルムを用いた場合は酸素プラズマを用いてドライエッチングすることが可能である。ここでは酸素プラズマ装置として平行平板型RFプラズマ装置を用い、真空排気後、酸素ガスを50sccm導入し、バルブを調整して圧力を10Paにした。周波数13.56MHz、パワー500Wの高周波を投入し、発生する酸素プラズマによりポリイミドを分解し除去
した。約10分でポリイミドを除去することができる。このとき、表面の金属膜301、302は酸素プラズマによっては分解されないため、これら金属膜301、302がマスクとなって、その下側の絶縁フィルム300はエッチングされないで残存する。
【0082】
エッチングにはウェットエッチングも使用可能であるが、一般にウェットエッチング液は酸性やアルカリ性であり、駆動電極14を侵すおそれがあるため、ドライエッチングが好ましい。しかも、万一、絶縁フィルム300の接着時に接着剤の滲み出し等が発生しても、ドライエッチングする際に同時に不要な接着剤も分解除去できるので、余剰の接着剤がチャネルを塞いだり、電極表面を覆ったりする問題も解消する。
【0083】
また、金属膜301、302でマスクされた部位以外の絶縁フィルム300はドライエッチングによって全て除去されるため、ヘッドチップ1の後面に対して接着する段階では、絶縁フィルム300の外形はヘッドチップ1の後面よりも大きくすることが可能であり、格段に作業性に優れる利点がある。
【0084】
更に、ドライエッチング方法は以上の方法に限定されず、適宜選択することができる。
【0085】
ヘッドチップ1の後面には、ドライエッチングにより残存した絶縁フィルム300、金属膜302、貫通電極303、304によって、絶縁層31、金属膜層32及び貫通電極33、34を有する配線3が個別に形成され、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続する。また、B列の各空気チャネル13にも、これと同時に、絶縁フィルム300、金属膜301によって、絶縁層41と金属膜層42からなる矩形状の流路規制部材4がそれぞれ独立して個別に形成され、開口部132を完全に閉塞する(図8)。
【0086】
なお、図4〜図6及び図8では駆動電極14は図示省略している。
【0087】
このように本発明によれば、複数のチャネル列(A列、B列)の各インクチャネル12内の駆動電極14から引き出し形成される接続電極16Aと配線3を介した第1の接続電極161B及び第2の接続電極162Bとが、ヘッドチップ1の後面の端部に一列に配線されるので、各チャネル列の各インクチャネル12内の駆動電極14と駆動回路との電気的接続は、FPC等を用いてヘッドチップ1の後面の端部のみに対して行うだけで可能となる。
【0088】
しかも、配線3は、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとの電気的接続を行うと同時に、A列の各空気チャネル13の開口部132を完全に閉塞することによって流路規制部材としての機能を同時に果たすので、B列の各空気チャネル13の開口部132も同様に流路規制部材4で閉塞することにより、全ての空気チャネル13へのインクの流入を阻止する構成を簡単に得ることができる。
【0089】
以上の実施形態では、第1の接続電極161Bと配線3の金属膜層32との導通及び第2の接続電極162Bと配線3の金属膜層32との導通を貫通電極33、34によって確保するようにしたが、これに限定されず、両者の導通が確保できれば、その他の様々な方法を採ることもできる。
【0090】
例えば、図9、図10に示すように第1の接続電極161Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域及び第2の接続電極162Bと配線3の金属膜層32とが重なる領域において、配線3の絶縁層31の少なくとも一部を除去し、該絶縁層31が除去された除去部31aを形成するようにしてもよい。
【0091】
図9(a)は絶縁層31の一部を分断するように除去することにより除去部31aを形成した例の配線3の断面図、図9(b)はその部分平面図を示しており、図10(a)は絶縁層31の一部に矩形状の開口を形成するように除去することにより除去部31aを形成した例の配線3の断面図、図10(b)はその部分平面図である。このように配線3に除去部31aを形成することにより、除去部31aには絶縁層31の上面の金属膜層32が絶縁層31の下面に臨むようになる。
【0092】
除去部31aは、金属膜層32をパターン形成した後に、絶縁層31側から選択的にエッチングを行うことで形成することができる。
【0093】
このような除去部31aを有する配線3によって第1の接続電極161Bとの導通を図る方法を図11に示す。
【0094】
まず、配線3の除去部31aを第1の接続電極161B上に位置合わせして重ねた後(図11(a))、除去部31aの上方を加熱、加圧して、除去部31aを通して金属膜層32と第1の接続電極161Bとを接触させる(図11(b))。その後、ドライエッチングして、不要な絶縁層31を除去する(図11(c))。第2の接続電極162Bとの導通も同様に行えばよい。
【0095】
絶縁層31をヘッドチップ1の後面に貼り付ける際の接着剤としては、エポキシ系接着剤が、耐インク性、接着力等の点から適している。除去部31aにおける金属膜層32と第1の接続電極161Bとの電気的接続は、金属膜同士を接着剤で加圧接着することにより電気的接続を取るNCP法(Non Conductive Paste:非導電性ペースト法)によってなされる。この場合、エポキシ系接着剤が、絶縁層31の接着剤として機能すると共に、NCPとしても機能する。NCP法の場合、金属膜の表面が酸化していると接続が困難な場合もあるので、第1の接続電極161B、第2の接続電極162B及び金属膜層32の表面はAu、Pt等の金属であることが望ましく、金属膜を複層にすることで実現できる。
【0096】
また、接着剤中に金属粒子を分散した接着剤を用いるACP法(Anisotropic Conductive Paste:異方性導電ペースト法)を用いることもできる。この場合、金属粒子が金属膜層32等の表面の酸化膜を突き破って接続を取るので、Al等の表面が酸化し易い金属でも、確実な電気的接続を取り易い。
【0097】
この除去部31aを形成する方法では、絶縁層31に除去部31aを形成すると、該除去部31aには金属膜層32だけが残った状態となるため、金属膜層32にはある程度の膜厚と強度が必要となる。この場合の金属膜層32としては、AlよりもCuを20μm程度の膜厚で形成することが好ましい。更に接続の信頼性を向上させるためには、Ni/Auめっきが施されていることが好ましい。
【0098】
また、他の方法として、図12に示すように、配線3をヘッドチップ1の後面に接着し、ドライエッチングして不要な絶縁層31を除去した後、配線3の端部に、金属膜層32と第1の接続電極161Bとに亘って導電性接着剤400を塗布することによって両者の導通を図ることもできる。導電性接着剤400としては、耐溶剤性があるものが好ましく、エポキシ系接着剤を成分とするものが好ましい。また、導電性接着剤400に代えて、低融点半田を同様に塗布することによって導通を図ることもできる。第2の接続電極162Bとの導通も同様に行えばよい。
【0099】
更に、他の方法として、図13に示すように、配線3の端部を、表面に金属膜層32が露出するように絶縁層31を内側にして折り曲げて折曲部3aを形成してもよい。第1の接続電極161B上に折曲部3aを位置合わせして接続することで、図11の場合と同様に、導通を図ることができる。この場合は、第1の接続電極161Bから第2の接続電極162Bにほぼ至る長さの金属膜がパターニングされた絶縁フィルムの端部を折り曲げて折曲部3aを形成する必要があるため、B列の各空気チャネル13の流路規制部材4は別個に形成する必要がある。第2の接続電極162Bとの導通も同様に行えばよい。
【0100】
このようなヘッドチップ1の後面の各接続電極16A、各第2の接続電極162Bと駆動回路(図示せず)との電気的接続を行う具体的手段は特に問わず、様々な手段を採用することができる。例えば図14に示すような配線基板5を接合することにより、ヘッドチップ1の後面に引き出し形成された各接続電極16A及び各第2の接続電極162Bと駆動回路(図示せず)との間の電気的接続を行うことができる。
【0101】
図14は、配線基板5を接合した状態のヘッドチップ1を、図1の(ii)−(ii)線と同様の断面で示す断面図である。
【0102】
配線基板5は、非分極のPZTやAlN−BN、AlN等のセラミックス材料からなる板状の基板によって形成されている。また、低熱膨張のプラスチックやガラス等を用いることもできる。更には、ヘッドチップ1に使用されている圧電素子基板と同一の基板材料を脱分極して用いると好ましい。また、熱膨張率の差に起因するヘッドチップ1の歪み等の発生を抑えるため、ヘッドチップ1との熱膨張係数の差が±1ppm以内となるように材料を選定することが更に好ましい。配線基板5を構成する材料は1枚板に限らず、薄板状の基板材料を複数枚積層して所望の厚みとなるように形成してもよい。
【0103】
配線基板5は、ヘッドチップ1のチャネル列方向と直交する方向(図14における上下方向)に延び、ヘッドチップ1の上面及び下面からそれぞれ大きく張り出した張り出し部51a、51bを有している。また、ヘッドチップ1の後面と接合される配線基板5の一面には、その幅方向(チャネル列方向)に亘って延びる1本の凹部52が形成されている。この凹部52は、ヘッドチップ1のA列及びB列の両チャネル列方向に沿って全てのチャネル12、13の後面側の開口部122、132を覆うことができる大きさに溝加工されており、A列及びB列の各インクチャネル12(図14ではA列のインクチャネル12は図示されていない。)に対して共通にインクを供給するインク共通室を構成している。
【0104】
すなわち、凹部52の図示上下方向の高さは、ヘッドチップ1後面のA列とB列とに亘る高さよりも大きく、ヘッドチップ1のチャネル列方向と直交する方向の厚さよりも小さい。これにより、配線基板5をヘッドチップ1の後面に接合すると、凹部52内にA列及びB列の各チャネル列が全て収まるような状態となる。
【0105】
ヘッドチップ1後面の各配線3及び各流路規制部材4(図14では示されていない。)はこの凹部52内に収まっている。すなわち、配線基板5は、ヘッドチップ1の後面における上下両端部の配線3及び流路規制部材4が形成されていない極めて狭小な領域に接合されている。この領域は、A列及びB列の各チャネル12、13に極めて近接しており(例えば0〜200μm)、流路規制部材を従来のように1枚のプレート状の部材を接合することによって形成する場合では極めて高精度で困難な位置合わせ作業が要求されることになる。しかし、本実施形態によれば、パターニング技術を用いることにより配線3及び流路規制部材4を形成できるので、上述したように高い位置精度を確保でき、このように各チャネル12、13に極めて近接して形成することも容易であり、各接続電極16A(図14においては示されていない。)や各第2の接続電極162B及び共通電極15A、15Bとの電気的接続のための領域を容易に確保することができる。もちろん、この領域に接着剤がはみ出しても、ドライエッチング時に分解除去されるので、電気的接続に支障は生じない。
【0106】
配線基板5の一方の張り出し部51aには、ヘッドチップ1の後面の下端部に並設された接続電極16A及び第2の接続電極162Bと同数及び同ピッチで配線電極53が形成されている。配線基板5は、各配線電極53の一端と接続電極16A及び第2の接続電極162Bとが電気的に接続するように異方性導電ペースト等によってヘッドチップ1の後面に接合される。駆動回路と各インクチャネル12の駆動電極14とは、配線基板5の張り出し部51aにおいて各配線電極53の他端にFPC6等を電気的に接合することによって行うことができる。駆動回路と各共通電極15A、15Bとは、例えば配線基板5の側方において電気的に接続すればよい。
【0107】
インク共通室となる凹部52へのインクの供給は、配線基板5をヘッドチップ1の後面に接合した際に凹部52の両端又はいずれか一方端から行うことができるが、図14に示すように、凹部52の底部からヘッドチップ1との接合面と反対面に貫通する開口54を形成し、凹部52よりも大容量のインクを貯留可能な箱形状のインクマニホールド55を更に接合することもできる。
【0108】
ところで、ヘッドチップ1において、インクチャネル12内の駆動電極14は、インクと直に接触するため、水系のインクを使用する場合は駆動電極14の表面に保護膜が必要となる。また、配線3や流路規制部材4も直にインクと接触するため、溶剤系のインクを使用する場合には、これらを溶剤から保護するために保護膜が必要となる。そこで、ヘッドチップ1の後面に配線3や流路規制部材4を形成した後は、ヘッドチップ1の全面、すなわち各駆動電極14の表面及び配線3、流路規制部材4の表面に対して保護膜を形成することが好ましい。
【0109】
保護膜としては、パラキシリレン及びその誘導体からなる被膜(以下、パリレン膜という。)を用いてコーティングすることが好ましい。パリレン膜は、ポリパラキシリレン樹脂及び/又はその誘導体樹脂からなる樹脂被膜であり、固体のジパラキシリレンダイマー又はその誘導体を蒸着源とする気相合成法(Chemical Vaper Deposition:CVD法)により形成する。すなわち、ジパラキシリレンダイマーが気化、熱分解して発生したパラキシリレンラジカルが、ヘッドチップ1の表面に吸着して重合反応し、被膜を形成する。
【0110】
パリレン膜には、種々のパリレン膜があり、必要な性能等に応じて、各種のパリレン膜やそれら種々のパリレン膜を複数積層したような多層構成のパリレン膜等を所望のパリレン膜として適用することもできる。
【0111】
このようなパリレン膜の膜厚は、1μm〜10μmとすることが好ましい。
【0112】
パリレン膜は微細な領域にも浸透し、被膜を形成することができるので、ノズルプレート2を接合する前のヘッドチップ1に対して被覆形成することで、駆動電極14はもちろんのこと、配線3及び流路規制部材4も、空気チャネル13内に面する内面及びヘッドチップ1の後面に露呈する外面の両面がパリレン膜によって被覆されてインクから保護される。
【0113】
このパリレン膜の形成により、配線3及び流路規制部材4はその両面から保護され、その耐久性を大きく向上させることができる。
【0114】
また、万一、配線3及び流路規制部材4を被覆するパリレン膜にピンホールが発生して溶剤系のインクが浸透しても、パリレン膜自体は溶解せず、配線3及び流路規制部材4の両面に存在し続けるため、空気チャネル13を閉塞する機能は容易には失われず、長期に亘って信頼性を保つことができる。
【0115】
しかも、本実施形態のように、配線3及び流路規制部材4を空気チャネル13毎に独立して個別に閉塞するように形成することにより、パリレン膜にピンホール等が発生した場合の影響は、その空気チャネル13だけにとどまり、他の空気チャネル13には及ばないため、被害を最小限にとどめることができるという利点もある。
【0116】
このようにしてパリレン膜を形成する場合は、その後にノズルプレート2を接合する。
【0117】
また、図14のように、ヘッドチップ1の後面に配線基板5を接合する場合は、ノズルプレート2をヘッドチップ1に接合する前であって、配線基板5をヘッドチップ1に接合した後に、上述したパリレン膜を形成する。これにより、各電極同士の電気的接続を確保できると共に、配線基板5とヘッドチップ1の接着層を保護することができる。
【0118】
以上説明した態様は、各インクチャネル12の開口部122には何らインクの流入を規制する部材が設けられていないが、図15に示すように、A列及びB列の各インクチャネル12の後面側の開口部に、該開口部の開口面積を絞るように流路規制部材7をそれぞれ独立して個別に形成するようにしてもよい。
【0119】
この流路規制部材7は、チャネル列方向に沿う幅方向が各インクチャネル12の幅よりも若干大きく、幅方向に直交する上下方向は各インクチャネル12の高さよりも小さい。このため、各流路規制部材7は、各インクチャネル12の後面側の開口部を一部残して該開口部の中央部を塞ぐことにより開口面積を絞っており、各開口部はその上端及び下端だけが開口した状態となっている。
【0120】
これにより、各インクチャネル12は、後面側の開口部の開口面積が流路規制部材7によって絞られるので、従来のインク供給口が開いた流路規制部材を用いる場合と同様、ヘッドを高速で駆動する場合のノズルのインクメニスカスの振動を有効に抑えることができる。
【0121】
しかも、この流路規制部材7は、従来の流路規制部材のようにインクチャネルの開口部の中央部にインク供給口を形成するものとは異なり、図16に示すように、インクチャネル12の開口部122の上端及び下端が開口してそれぞれ開口部122a、122bを形成しているので、インクaの吐出方向が重力方向gに対して斜めとなるようにインクジェットヘッドを傾斜させて設置すると、インクチャネル12は、流路規制部材7によって閉塞されていない例えば開口部122aが最上部に位置することになるため、インクチャネル12内に発生した気泡bはこの最上部に集まり、開口部122aから容易にヘッドチップ1外のインク共通室へ抜けていく。インク共通室内に気泡bが存在していても、もはや射出には影響しないため、気泡bに起因する不具合が発生することはない。
【0122】
このように各インクチャネル12の後面側の開口部122を絞るように形成される流路規制部材7によって、該開口部122の上端及び下端を開口させるようにすることにより、泡抜け性に優れ、射出信頼性の高いヘッドとすることができる。
【0123】
各インクチャネル12が流路規制部材7によって絞られた後の後面側の開口部122の開口面積は、ノズルプレート2に形成されたノズル21の吐出側の開口面積の1〜10倍とすることが好ましく、より好ましくは2〜5倍とすることである。最適な数値は射出テストを行った結果から得ることが望ましいが、本発明者の実験によれば、ノズル径28μm(開口面積615μm2)のヘッドチップの場合、流路規制部材7によって絞られた後の後面側の開口部122の開口面積は2000μm2が適切であった。
【0124】
なお、ここでは、インクチャネル12の開口部122の上端及び下端が共に開口してそれぞれ開口部122a、122bが形成されるように流路規制部材7を形成した。これによれば、ヘッドチップ1の上面及び下面のいずれの側を上方に位置させも気泡bを抜くことができるため、インクジェットヘッドを斜めに設置する場合の規制がないために好ましい。しかし、本発明はこれに限らず、インクチャネル12の後面側の開口部122における上端又は下端のいずれか一方のみが開口するように流路規制部材7を形成してもよい。この場合は、後面側の開口部122のうち流路規制部材7によって閉塞されずに開口している側が上方に位置するようにインクジェットヘッドを斜めに設置することで、気泡bを抜くことができる。
【0125】
この流路規制部材7の形成方法は特に問わないが、配線3、流路規制部材4と同様の構成とすることが好ましい。すなわち、図16に示すように、流路規制部材7を絶縁層71と金属膜層72とからなる積層体によって構成し、そのうちの絶縁層71がヘッドチップ1の後面に配置されるように接着することが好ましい。これによれば、この流路規制部材7も配線3や流路規制部材4と同時にドライエッチングすることによって高精度に独立した個別のパターン形成が可能となる。
【0126】
図17は、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとを電気的に接続するための他の態様を示しており、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとが、ワイヤーボンディング法による配線8によってそれぞれ電気的に接続されている。このような配線8をワイヤーボンディング法によって形成することによって、第1の接続電極161Bと第2の接続電極162Bとの間を所定のループ高さで配線することができるので、その間に存在する共通電極15A等との電気的短絡を簡単に防ぐことができる。
【0127】
ワイヤーボンディング法としては、ボールボンディング、ウェッジボンディングのいずれでもよい。
【0128】
また、配線8には、これらのワイヤーボンディングが可能な一般的な金属線を用いることができ、例えば、Al、Cu、Au、Ni等が挙げられる。
【0129】
このように配線8をワイヤーボンディング法によって形成する場合、ヘッドチップ1において、配線8の端部が第1の接続電極161B及び第2の接続電極162Bとそれぞれ接合しているボンディング部8aに相当する領域が、非圧電材料で形成されていることが好ましい。これらボンディング部8aは、ボンディング時にキャピラリーやウェッジツールが衝突することにより形成されるため、この領域が衝撃に弱い圧電材料である場合、ヘッドチップ1の損傷を招くおそれがあるためである。
【0130】
図17に示す態様では、A列及びB列の2列のチャネル列を有するヘッドチップ1が、A列のチャネル列を有するヘッドチップ1AとB列のチャネル列を有するヘッドチップ1Bとを接合してなり、ヘッドチップ1Aは、接続電極16A及び第2の接続電極162Bが並設された下端部の領域1aが非圧電材料で形成され、ヘッドチップ1Bは、第1の接続電極161Bが並設された下端部の領域1bが非圧電材料で形成されている。
【0131】
これらはヘッドチップ1A、1Bの製造時、図3に示す基板100に非圧電材料を用いることによって形成することができる。
【0132】
非圧電材料としては、一般にはセラミックス材料からなる板状の基板を用いることができるが、低熱膨張のプラスチックやガラス等を用いることもできる。更に、熱膨張率の差に起因するヘッドチップ1の歪み等の発生を抑えるため、各チャネル12、13を形成している圧電材料との熱膨張係数の差が±1ppm以内となるように材料を選定することが更に好ましい。
【0133】
このように配線8をワイヤーボンディング法によって形成した場合も、これら配線8の表面に、前述したパラキシリレン及びその誘導体による膜をコーティングすることによって保護膜を形成しておくことが好ましい。
【0134】
なお、図17に示す態様においても、図1と同様に、そのヘッドチップ1の後面に臨む各空気チャネル13の開口部132を閉塞する流路規制部材4を設けるようにしてもよく、更に、図15と同様に、各インクチャネル12の開口部122の開口面積を絞るように流路規制部材7を設けるようにしてもよい。この場合、配線8は、これら流路規制部材4、7を設けた後に形成すればよい。
【0135】
以上の実施形態では、2列のチャネル列を有するヘッドチップ1を例示したが、本発明は2列のチャネル列を有するものに限らず、3列以上の複数のチャネル列を有するハーモニカ型の独立チャネルタイプのヘッドチップにも同様に適用することができる。
【0136】
例えば、図18は、4列のチャネル列を有するハーモニカ型の独立チャネルタイプのヘッドチップ100を示している。図1と同一符号の部位は同一構成の部位を示しているので詳細な説明は省略する。
【0137】
4列のチャネル列を有するヘッドチップ100は、例えば、図3(e)に示されるヘッド基板106を4枚積層することによって作成することができる。
【0138】
このヘッドチップ100では、4列のチャネル列のうち、ヘッドチップ100の上端部側及び下端部側からそれぞれ隣接する2列ずつのチャネル列を1つのグループとみなすことにより本発明を適用することができる。すなわち、4列のチャネル列は、図示上端部側の隣接する2列のチャネル列のグループと図示下端部側の隣接する2列のチャネル列のグループとに分けられる。そして、各グループの2列のチャネル列を図1と同様にそれぞれA列及びB列とすることにより、ヘッドチップ100の後面の上下両端側にそれぞれ駆動電極14と電気的に接続する接続電極16A、第2の接続電極162Bを並設させることができる。従って、4列のチャネル列を有するヘッドチップ100でも、各インクチャネル12の駆動電極14と駆動回路との電気的接続は、接続電極16A、第2の接続電極162Bによってヘッドチップ100の上端部側及び下端部側において容易に行うことが可能となる。
【0139】
図19は、図18に示されるヘッドチップ100の後面に配線基板500を接合した状態の断面図である。
【0140】
この配線基板500は、上下両端の張り出し部501a、501bにそれぞれ配線電極503が形成され、その一端がヘッドチップ100の後面の上端部側及び下端部側にそれぞれ引き出されている接続電極16A、第2の接続電極162Bと電気的に接続している。従って、FPC6は、配線基板500の各張り出し部501a、501bにおいて配線電極503の他端とそれぞれ接合され、駆動回路と接続電極16A及び第2の接続電極162Bとを電気的に接続している。
【0141】
なお、この配線基板500の凹部502は、ヘッドチップ100の2列ずつのチャネル列をそれぞれ含むように2つ形成されている。各凹部502、502には、それぞれ開口504、504が設けられ、この開口504、504によって、独立したインクマニホールド505、505からインクがそれぞれ供給されるようになっている。このため、2つのインクマニホールド505、505内に異なる色のインクを供給すれば、1つのヘッドチップ100から2色のインクを吐出することができる。
【0142】
しかし、ヘッドチップ100が1色のインクを吐出するだけでよい場合は、ヘッドチップ100の4列のチャネル列の全てを含む大きさの凹部502を、配線基板500に1つだけ形成するようにするか、あるいは、配線基板500の後面に、2つの凹部502、502とそれぞれ連通する2つの開口504、504を含む大きなインクマニホールド505を1つだけ接合するようにすればよい。
【0143】
このヘッドチップ100にも、図15と同様の流路規制部材7を設けることができる。また、図17と同様に、ワイヤーボンディング法によって形成される配線8を採用することもできる。
【0144】
更に4列を超えるチャネル列を有するヘッドチップに対しても、ヘッドチップのチャネル列と直交する方向の端部側に位置する隣接する2列ずつのチャネル列に対して本発明を適用することにより、そのチャネル列のインクチャネルから引き出された接続電極をヘッドチップの端部に並設させることができ、多列のチャネル列を有するヘッドチップに対するFPC等との電気的接続の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た斜視図
【図2】(a)は図1の(i)−(i)線断面図、(b)は図1の(ii)−(ii)線断面図
【図3】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図4】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図5】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図6】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図7】他の態様に係る配線のバンプの形成された貫通電極の部分を示す断面拡大図
【図8】ヘッドチップの製造例を説明する図
【図9】(a)は除去部を形成した配線を示す断面図、(b)はその平面図
【図10】(a)は除去部を形成した配線の他の態様を示す断面図、(b)はその平面図
【図11】(a)〜(c)は配線の他の導通の態様を示す断面図
【図12】配線の他の導通の態様を示す断面図
【図13】配線の他の導通の態様を示す断面図
【図14】配線基板を設けたインクジェットヘッドの一例を示す断面図
【図15】インクチャネルに流路規制部材を設けたインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た図
【図16】図15に示すヘッドチップを斜めに設置した状態を示す部分断面図
【図17】第1の接続電極と第2の接続電極とを電気的に接続するための他の態様を示すインクジェットヘッドのヘッドチップ部分を後面側から見た斜視図
【図18】4列のチャネル列を有するヘッドチップ部分を後面側から見た斜視図
【図19】図18に示されるヘッドチップの後面に配線基板を接合した状態を示す断面図
【符号の説明】
【0146】
1、100:ヘッドチップ
11:駆動壁
12:インクチャネル
121:前面側の開口部
122:後面側の開口部
122a:上端の開口部
122b:下端の開口部
13:空気チャネル
131:前面側の開口部
132:後面側の開口部
14:駆動電極
15A、15B:共通電極
16A:接続電極
161B:第1の接続電極
162B:第2の接続電極
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線
31:絶縁層
32:金属膜層
33、34:貫通電極
4、7:流路規制部材
41、71:絶縁層
42、72:金属膜層
5:配線基板
51a、51b:張り出し部
52:凹部
53:配線電極
54:開口
55:インクマニホールド
6:FPC
8:配線
8a:ボンディング部
500:配線基板
501a、501b:張り出し部
502:凹部
503:配線電極
504:開口
505:インクマニホールド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネルと圧電素子からなる駆動壁が交互に並設されると共に、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に駆動電極が形成され、前記チャネルは、インク吐出を行うインクチャネルとインク吐出を行わない空気チャネルとが交互に配置されてチャネル列を構成し、該チャネル列が複数並設されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することによって前記駆動壁をせん断変形させ、前記インクチャネル内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドであって、
前記複数のチャネル列のうちのヘッドチップの端部側に位置するいずれかのチャネル列をA列、該A列に隣接するチャネル列をB列とするとき、
前記ヘッドチップの後面に、前記A列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が前記B列側に向けて引き出し形成されており、前記B列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が、前記A列側又は該A列とは反対側に向けて引き出し形成されていると共に、
前記A列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記ヘッドチップの端部に向けて引き出し形成されており、前記B列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記A列側に向けて引き出し形成され、且つ、該A列の前記共通電極及び該A列を跨いで、該A列の前記接続電極と並列するように配線されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記チャネル列は4列であり、前記ヘッドチップの端部側に位置する2つのチャネル列をそれぞれA列、内側に位置する2つのチャネル列をそれぞれB列とすることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、
前記ヘッドチップの後面に臨む全空気チャネルの開口部のうち、少なくとも前記A列の各空気チャネルの開口部は、絶縁層と金属膜層とを有する積層体が、前記絶縁層を前記ヘッドチップの後面側に位置させて接着されることにより閉塞され、且つ、該積層体は、前記第1の接続電極から前記第2の接続電極に亘る長さで形成されており、
前記第1の接続電極と前記第2の接続電極とが前記積層体の金属膜層によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、それぞれ前記絶縁層を貫通する貫通電極が設けられており、該貫通電極によって前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記絶縁層の少なくとも一部が除去されており、該絶縁層が除去された部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域に、前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通するように、導電性接着剤又は半田が塗布され、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記積層体の端部が前記ヘッドチップの後面側に向けて折り曲げられ、該折り曲げられた部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記積層体の絶縁層は、ドライエッチング可能な有機フィルムからなることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記積層体は、前記A列の空気チャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記積層体は、その両面がパラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、
該第1の接続電極と第2の接続電極とがワイヤーボンディング法による配線によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記ヘッドチップは、前記ワイヤーボンディング法による配線のボンディング部に相当する領域が、非圧電材料で形成されていることを特徴とする請求項11記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
前記ワイヤーボンディング法による配線が、パラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項11又は12記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
前記ヘッドチップの後面に臨む各インクチャネルの開口部には、該開口部の開口面積を絞るように流路を規制する流路規制部材が、該インクチャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項15】
前記流路規制部材は、前記各インクチャネルの開口部の上端又は下端の少なくとも一方が開口するように開口面積を絞っていることを特徴とする請求項14記載のインクジェットヘッド。
【請求項1】
チャネルと圧電素子からなる駆動壁が交互に並設されると共に、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に駆動電極が形成され、前記チャネルは、インク吐出を行うインクチャネルとインク吐出を行わない空気チャネルとが交互に配置されてチャネル列を構成し、該チャネル列が複数並設されてなるヘッドチップを有し、前記駆動電極に電圧を印加することによって前記駆動壁をせん断変形させ、前記インクチャネル内のインクをノズルから吐出させるインクジェットヘッドであって、
前記複数のチャネル列のうちのヘッドチップの端部側に位置するいずれかのチャネル列をA列、該A列に隣接するチャネル列をB列とするとき、
前記ヘッドチップの後面に、前記A列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が前記B列側に向けて引き出し形成されており、前記B列の空気チャネルの駆動電極と導通する共通電極が、前記A列側又は該A列とは反対側に向けて引き出し形成されていると共に、
前記A列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記ヘッドチップの端部に向けて引き出し形成されており、前記B列のインクチャネルの駆動電極と導通する接続電極が、前記A列側に向けて引き出し形成され、且つ、該A列の前記共通電極及び該A列を跨いで、該A列の前記接続電極と並列するように配線されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記チャネル列は4列であり、前記ヘッドチップの端部側に位置する2つのチャネル列をそれぞれA列、内側に位置する2つのチャネル列をそれぞれB列とすることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、
前記ヘッドチップの後面に臨む全空気チャネルの開口部のうち、少なくとも前記A列の各空気チャネルの開口部は、絶縁層と金属膜層とを有する積層体が、前記絶縁層を前記ヘッドチップの後面側に位置させて接着されることにより閉塞され、且つ、該積層体は、前記第1の接続電極から前記第2の接続電極に亘る長さで形成されており、
前記第1の接続電極と前記第2の接続電極とが前記積層体の金属膜層によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、それぞれ前記絶縁層を貫通する貫通電極が設けられており、該貫通電極によって前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記絶縁層の少なくとも一部が除去されており、該絶縁層が除去された部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域に、前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通するように、導電性接着剤又は半田が塗布され、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記積層体は、前記第1の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域及び前記第2の接続電極と前記積層体の金属膜層とが重なる領域において、前記積層体の端部が前記ヘッドチップの後面側に向けて折り曲げられ、該折り曲げられた部位において前記金属膜層が前記第1の接続電極及び前記第2の接続電極とそれぞれ導通し、該第1の接続電極と第2の接続電極とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記積層体の絶縁層は、ドライエッチング可能な有機フィルムからなることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記積層体は、前記A列の空気チャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記積層体は、その両面がパラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記B列の各接続電極は、該B列の各インクチャネルから引き出された第1の接続電極と、前記A列の各接続電極と並列するように配設された第2の接続電極とに分割されており、
該第1の接続電極と第2の接続電極とがワイヤーボンディング法による配線によってそれぞれ電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記ヘッドチップは、前記ワイヤーボンディング法による配線のボンディング部に相当する領域が、非圧電材料で形成されていることを特徴とする請求項11記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
前記ワイヤーボンディング法による配線が、パラキシリレン及びその誘導体による膜によってコーティングされていることを特徴とする請求項11又は12記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
前記ヘッドチップの後面に臨む各インクチャネルの開口部には、該開口部の開口面積を絞るように流路を規制する流路規制部材が、該インクチャネル毎に独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項15】
前記流路規制部材は、前記各インクチャネルの開口部の上端又は下端の少なくとも一方が開口するように開口面積を絞っていることを特徴とする請求項14記載のインクジェットヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−143167(P2008−143167A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249008(P2007−249008)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
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