説明

インクジェット記録装置

【課題】インクジェットヘッドへ供給するインク中に発生するキャビテーションを未然に防止すること。
【解決手段】
インクジェットヘッドと、インク検査室と、インク検査室に圧力振動を発生させる圧力振動発生手段と、圧力振動を検知する圧力振動検知手段と、インク検査室にインクを導入するインク入口と、インク検査室からインクを排出するインク出口とを有するインク検査手段とを備えたインクジェット記録装置。インク検査手段でキャビテーション核を検出し、インクジェットヘッドに供給するインクからキャビテーション核を含むインクを除くことで、吐出不良を未然に防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吐出不良を予防するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置では、インク滴を正常に吐出できない吐出不良を起こす課題が知られている。インクジェット記録装置を電子デバイスの製造に用いた場合、吐出不良は製造不良に直結するため、その損失は甚大である。吐出不良を予測し、未然に防止することができれば、このような損失の発生を回避できる。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1には、インクを吐出するための圧力を発生する圧力室(特許文献1ではキャビティ)内のインクの圧力振動を、振動板を介して検知し、圧力振動のパターンからインク粘度の増加やキャビティ内への気泡の混入などによる吐出不良を予測することにより吐出不良を未然に防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−314459
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吐出不良を起こす原因の一つとして、インク滴を吐出させるためにインクジェットヘッドの圧力室に圧力振動を発生させた時に、インクの圧力が低下することにより発生するキャビテーションが挙げられる。このキャビテーションは、インク中にキャビテーションの原因となる核が存在し、なおかつインクの圧力が大きく低下した時に発生する。
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、以下に述べる理由により、このキャビテーションによる吐出不良を防止できないという課題がある。インク中にキャビテーションの核が存在しても、検知する圧力振動の振幅が小さい場合、その圧力振動はインク中に核が存在しない場合と実質的に変わらないため、核の存在は検知できない。また、検知する圧力振動の振幅が大きい場合、検知する対象のインクがノズルから吐出してしまうため、インクを吐出させる前にキャビテーションの発生を予測することができない。
【0006】
本発明は、インク中に発生するキャビテーションによる吐出不良を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置は、
インクを吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室にインクを供給するインク供給手段と、前記圧力室の容積を可変させるアクチュエータとを有するインクジェットヘッドと、
インク検査室と、前記インク検査室に圧力振動を発生させる圧力振動発生手段と、前記圧力振動を検知する圧力振動検知手段と、前記インク検査室にインクを導入するインク入口と、前記インク検査室からインクを排出するインク出口とを有するインク検査手段と、
前記インク供給手段と前記インク出口を流体的に接続する接続手段とをしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インク中のキャビテーションの核をインク吐出前に検知できるので、インク吐出不良による印刷不良を起こしにくいインクジェット記録装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明でいうインクとは、単に文字や画像を形成する色材材料だけでなく、例えば電気回路の配線パターン形成に用いられる導電性材料などを含む、インクジェット記録装置が印刷媒体に対して吐出する液体のことをいう。また、本発明でいう印刷媒体とは、単にその表面に文字や画像などの情報を保持する紙などの記録媒体だけでなく、電気回路の基板などを含む、インクジェット記録装置が吐出した液体を付着させる部材のことをいう。
【0010】
本発明のインクジェット記録装置の構成について説明する。
【0011】
図1乃至図3に示すように、インクジェット記録装置1は、インクを吐出するインクジェットヘッド2が集積されたインクジェットユニット48と、印刷媒体15を搬送する搬送手段と、インクジェットユニット48へ供給するインクを検査するインク検査手段3a、3bと、不要なインクを排出するインク排出手段と、インクジェットユニット48のノズルからインクを回収するノズルキャップ14と、インクジェットユニット48とノズルキャップ14を可動する可動手段と、インクジェットユニット48及びノズルキャップ14に接続されたインク供給系と、これらの構成要素を駆動制御する電気回路から構成されている。
【0012】
図1に示すように、搬送手段は、搬送ベルト16と、搬送ローラ17と、搬送ローラを駆動する搬送モータ56とから構成されている。搬送ベルト16の近傍に帯電器65を備え、印刷媒体15を搬送ベルト16に静電気力で吸着させて搬送している。
【0013】
図1(a)に示すように、インクジェット記録装置1が印刷状態にある時は、インクジェットユニット48は搬送ベルト16に近接する位置に保持される。そのとき、ノズルキャップ14は印刷動作を阻害しない位置に退避している。
【0014】
図1(b)に示すように、インクジェット記録装置1がメンテナンス状態になると、可動手段60、61によりインクジェットユニット48は搬送ベルト16から離されるとともに、ノズルキャップ14がインクジェットユニット48のノズル34を覆う位置に移動する。この状態でノズルキャップ14はノズル34から排出されるインクを回収することができる。
【0015】
図2に示すように、インク供給系は、インクを貯蔵するインクタンク12と、インクを検査する2つのインク検査手段3a、3bと、インクの流れを切り替える電磁バルブ5a、5b、5c、5dと、不要なインクを排出するインク排出ポンプ10と、排出されたインクを貯蔵する廃インク貯蔵タンク13と、インクジェットユニット48に供給されるインクの静的圧力を調整する圧力調整ポンプ11とから構成されている。インク検査手段3a、3bは並列に設けられ、電磁バルブ5a、5b、5c、5dを介して不要インクの排出とインクジェットユニット48へのインク供給を切り替えるようになっている。図中の矢印は、インクあるいは空気が流れる方向を示している。
【0016】
電磁バルブ5a、5bは一組でインク排出手段を構成している。また電磁バルブ5c、5d一組で別のインク排出手段を構成している。
【0017】
圧力調整ポンプ11は、インクジェットユニット48に設けられた圧力センサ25が検知した静的圧力の値に基づいてインクタンク12内の圧力を調整する。これにより、インクジェットユニット48に供給されるインクの静的圧力は、ノズル34からインクが流出せず、なおかつノズルから空気を吸い込まない値に制御される。
【0018】
図3に示すように、インクジェットユニット48は、複数のインクジェットヘッド2と、インクジェットヘッド2を保持するフレーム49と、インクジェットユニットの外部から供給されたインクを各々のインクジェットヘッド2に分岐するインク分岐手段62と、インクジェットユニット48に供給されるインクの静的圧力を検知する圧力センサ25で構成されている。
【0019】
インクジェットヘッド2はフレーム49により印字走査方向に対して所定の角度で保持されている。これにより、インクジェットヘッド2のノズル34の配列間隔の制約を受けることなく、高い解像度の印字を1回の走査で行うことができる。
【0020】
インクジェット記録装置1を制御する電気回路は、図4に示すように、インクジェットヘッドを制御する回路、インク検査手段を制御する回路、インク供給を制御する回路、印刷媒体15を搬送する搬送モータ56を駆動する搬送モータ駆動回路57とこれらの回路を統括制御する記録装置制御回路26で構成されている。インクジェットヘッド制御回路は、インクジェットヘッド2の駆動信号を発生するヘッド駆動回路18と、印字パターンに応じてヘッド駆動回路18を制御する印字制御回路51で構成されている。インク検査手段の制御回路は、インク検査手段3a、3bに具備された圧力振動発生手段54を駆動するインク検査手段駆動回路19a、19bと、インク検査手段3に具備された圧力振動検出手段55が発生した電気信号を評価し、インクの検査結果を判定する圧力振動評価回路21a、21bで構成されている。インク供給制御回路は、電磁バルブ5a、5b、5c、5d、5eを各々開閉するバルブ駆動回路23と、インク排出ポンプ10および圧力調整ポンプ11を各々駆動するポンプ駆動回路24で構成されている。
【0021】
図5及び図6に示すように、インクジェットヘッド2は、インクを吐出する複数のノズル34と、各々のノズルに連通する複数の圧力室35と、各々の圧力室35の内面に形成された複数の電極39と、圧力室35の間に設けられた複数のアクチュエータ38a、38bと、各々の圧力室35に連通してインクを補給する共通圧力室31と、インクを共通圧力室31に送るインク供給口30とから構成される。アクチュエータ38a、38bは、下部圧電部材36と上部圧電部材37とから構成される。下部圧電部材36は、アクチュエータの直立方向に平行に分極されている。上部圧電部材37は下部圧電部材36とは反対方向に分極されている。電極39は電気的に各々独立してヘッド駆動回路18に接続されている。インク供給口30と共通圧力室31は圧力室35にインクを供給するインク供給手段を構成している。
【0022】
インクが圧力室35とノズル34の内部に充填された状態で、例えば電極39bにヘッド駆動回路18からの駆動信号が印加されると、電界の作用によりアクチュエータがせん断変形し、圧力室35の容積が可変する。これにより圧力室35の内部に充填されたインクは加圧され、圧力室内に圧力振動が発生する。この圧力振動により、ノズル34からインク滴が吐出する。
【0023】
インクジェットヘッド2は、ヘッド駆動回路18から連続的に複数の駆動信号が印加されると、その数のインク滴を連続的に吐出する。連続的に吐出した複数のインク滴は、印刷媒体15に付着すると、合体してインク滴の数に応じた大きさの1つのドットを形成する。従って、ヘッド駆動回路18が出力する駆動信号の数を制御することにより、いわゆる階調制御が可能である。
【0024】
ノズル34からインク滴が吐出すると、ノズル34に自然に発生するインクのリフィル作用によりインクタンク12からインク検査手段3を経てインクジェットヘッド2にインクが補給される。
【0025】
インク検査手段3の構成を図7および図8を参照して説明する。図7は正面図、図8は図7のA−A断面図を示している。インク検査手段3は、内部にインク検査室52が形成されたフレーム49と、フレーム49の一方の面に固定された振動板43aと、フレーム49の他面に固定された振動板43bと、振動板43aに固定された圧電部材45aと、振動板43bに固定された圧電部材45bと、振動板43aに形成されたインク入口41とインク出口42とから構成されている。
【0026】
インク入口41とインク出口42はチューブ27に接続されている。このチューブ27は柔軟性を有する材料で形成されている。この柔軟性によりインク検査室52で発生する圧力振動がチューブ27を介してインクジェットヘッド2に伝わるのが防止される。
【0027】
フレーム49と振動板43a、43bは導電性部材であり、これらは互いに導電性が維持された状態で接合され、インクジェット記録装置1の電気回路の基準電位に接地されている。
【0028】
圧電部材45a、45bはZ軸方向に分極された圧電部材である。この圧電部材45aの振動板43aと反対の面には電極が形成されている。同様に、圧電部材45bの振動板43bと反対の面には電極が形成されている。圧電部材45aに形成された電極はインク検査手段駆動回路19に、圧電部材45bに形成された電極は圧力振動評価回路21に電気的に接続している。
【0029】
振動板43aと圧電部材45aはインク検査室内部に充填されたインクに圧力振動を発生させる圧力振動発生手段54を構成している。インク検査手段駆動回路19からの駆動信号により、圧電部材45aはZ方向に伸縮するとともにY方向にも伸縮する。このY方向の伸縮により振動板43aはZ方向に湾曲する。この湾曲によりインク検査室52内部のインクが加圧されて圧力振動が発生する。
【0030】
振動板43bと圧電部材45bはインク検査室52の内部に充填されたインクの圧力振動を検知する圧力振動検知手段55を構成している。圧電部材45aの伸縮によりインク検査室52内に発生するインクの圧力は、振動板43bを湾曲させる。この湾曲により、圧電部材45bがY方向に伸縮するとともに、Z方向にも伸縮する。このZ方向の伸縮により、圧電部材45bは、インク検査室52内の圧力振動に応じ、図9に示すような電圧振動を発生する。
【0031】
圧力振動評価回路21は、この電圧振動の振幅を検知してインクの検査を行う。圧力振動評価回路21は、電圧振動の振幅があらかじめ設定された閾値より大きいか小さいかを評価し、大きければキャビテーションによる吐出不良を起こさない正常インクであると判断し、小さければキャビテーションによる吐出不良を起こす異常インクであると判断する。
【0032】
例えば、インク検査室52内部のインクにキャビテーションの核が存在しない場合、圧力振動発生手段54が発生する圧力振動によりインク検査室52内で負圧が生じても、キャビテーションが発生しない。キャビテーションが発生しないため、インク検査室52内の圧力振動の振幅は大きい。この場合、圧力振動検出手段55が発生する電圧振動の振幅が閾値より大きいため、圧力振動評価回路21はインク検査室52の内部にあるインクを正常インクと判定する。
【0033】
一方、インク検査室52内部のインクにキャビテーションの核が存在する場合、圧力振動発生手段54が発生する圧力振動の負圧によりインク検査室52内でキャビテーションが発生する。キャビテーションが発生すると、キャビテーションにより発生した気泡がインク検査室3内の圧力振動を吸収するため、圧力振動の振幅が小さくなる。この場合、圧力振動検出手段55が発生する電圧振動の振幅が閾値より小さくなるため、圧力振動評価回路21はインク検査室52の内部にあるインクを異常インクと判定する。
【0034】
上記インク検査手段は、圧電振動発生手段54と圧電振動検知手段55をそれぞれ別に備えた構成となっている。この構成に代えて、図10に示すように、インク検査手段3の圧力振動発生手段54は、圧力振動検知手段55と兼用させることも可能である。この場合、回路切替手段58を設け、まずインク検査手段3をインク検査手段駆動回路19に接続してインク検査室52内に圧力振動を発生させ、続いてインク検査手段3を圧力振動評価回路21に接続してインク検査室52内の残留圧力振動の振幅を評価すれば良い。
【0035】
本実施例では圧力振動発生手段54及び圧力振動検知手段55に圧電部材45を用いている。圧電部材に代えて、例えば静電気力を用いてこれらの発生手段あるいは検知手段を構成することも可能である。
【0036】
次に、本発明のインクジェット記録装置1の動作について説明する。なお、インク検査手段3とインクジェットユニット48にはすでにインクが充填されているとする。
【0037】
インクジェット記録装置1が印字動作を行う時、インクジェットユニット48とノズルキャップ14は印刷状態に配置される。電磁バルブ5b、5cは開かれ、電磁バルブ5a、5dは閉じられている。
【0038】
記録装置制御回路26に印刷パターンのデータが送られると、記録装置制御回路26は印字制御回路51にデータを転送するとともに搬送モータ53を駆動して印刷媒体15を搬送する。また、インク検査手段3の圧力振動発生手段54を駆動する。
【0039】
印刷媒体15がインクジェットユニット48の下を通過する時に、印字制御回路51はヘッド駆動回路18に印刷パターンの階調値に応じた制御信号を送り、ヘッド駆動回路18はインクジェットヘッド2に対して階調値に応じた数の駆動信号を送る。
【0040】
駆動信号が送られると、インクジェットヘッド2はノズル34から階調値に応じた数のインク滴を連続的に吐出して印刷を行う。自然のリフィル作用により、吐出した分のインクがインクタンク12からインク検査手段3を通ってノズル34に供給される。
【0041】
インクがノズル34に供給される時、インク検査手段3のインク入口41からインクがインク検査室52に流入し、検査済みのインクがインク検査室52からインク出口42に流出する。
【0042】
圧力振動検知手段55は、圧力振動発生手段54が発生した圧力振動を検知することにより、インク検査室52を通過するインクを検査して、そのインクがキャビテーションの核を含む異常インクか、そうではない正常インクかを判断する。
【0043】
例えば、インク検査手段3aでは異常インクが検出されないが、インク検査手段3bで異常インクが検出された場合、電磁バルブ5dを開き、電磁バルブ5cを閉じることにより、インク検査手段3bをインク排出ポンプ10に接続する。インク検査手段3aでは異常インクが検出されないので、電磁バルブ5aは閉じられたままであり、電磁バルブ5bは開かれたままである。さらに、電磁バルブ5eが閉じられるとともに、インク排出ポンプ10が作動する。この結果、インク検査手段3bで検出された異常インクは、電磁バルブ5dからインク排出ポンプ10を経て廃インク貯蔵タンク13に廃棄される。このインク廃棄動作中もインク検査手段3bは異常インクの検知を続けて、異常インクが検知されなくなった後にインク排出ポンプを停止して電磁バルブ5cを開き電磁バルブ5dを閉じる。
【0044】
この一連の動作により、インク検査手段3bで検出された異常インクはインクジェットユニット48に流入することなく廃インク貯蔵タンク13に排出される。また、この一連の動作の間、インク検査手段3aで正常と判断されたインクは電磁バルブ5bを経由してインクジェットユニット48に供給され続ける。したがって、インクジェット記録装置1は印刷を中断することなく異常インクを廃棄することができる。
【0045】
また、例えば、インク検査手段3aとインク検査手段3bで同時に異常インクが検出された場合、電磁バルブ5a、5dが開かれ、電磁バルブ5b、5cが閉じられる。さらに、電磁バルブ5eが閉じられるとともに、インク排出ポンプ10が作動する。この結果、インク検査手段3a、3bで検出された異常インクは、各々バルブ5a、5dからインク排出ポンプ10を経て廃インク貯蔵タンク13に廃棄される。このインク廃棄動作中もインク検査手段3a、3bは異常インクの検知を続けて、異常インクが検知されなくなった後にインク排出ポンプを停止して電磁バルブ5b、5cを開き電磁バルブ5a、5dを閉じる。
【0046】
この一連の動作により、インク検査手段3a、3bで検出された異常インクはインクジェットユニット48に流入することなく廃インク貯蔵タンク13に排出される。インク検査手段3a、3b両方で異常インクが検出されたときには、インクジェットユニット48へのインク供給が断たれるため、インクジェット記録装置1は印刷を中断しなければならない。しかし、2つのインク検査手段3a、3bで同時に異常インクを検出する確率はきわめて低いため、インクジェット記録装置1が印刷を中断することはほとんどない。また、本実施例ではインク検査手段3の数が2つであるが、この数を増やすことにより、さらに印刷が中断される確率を減らすことも可能である。
【0047】
インクが異常であるか否かを判断するために、インク検査室52で発生する圧力振動の下限値は、図9に示すように、インクジェットヘッド2の圧力室35で発生する圧力振動の下限値Pmin(図11)より低くなるようにインク検査手段駆動回路19の駆動信号が設定される。キャビテーションは、圧力が低い程発生しやすいため、インク検査室52で発生する圧力振動の下限値を圧力室35で発生する圧力振動の下限値より低くすることにより、より確実に圧力室35で発生するキャビテーションによるインク吐出不良を防止できる。
【0048】
本発明の効果について説明する。
【0049】
第1に、本発明のインクジェット記録装置では、インクを吐出するための圧力振動を発生させる圧力室35と、インクを検査するための圧力振動を発生させるインク検査室52とを分離させたため、インクを検査するための圧力振動が、ノズル34からインクを吐出させることはない。したがって、インクを検査するために発生させる圧力振動の振幅を大きくすることが可能である。これにより、十分に圧力が低下しないと発生しないようなキャビテーションを起こすインクを、インク吐出動作を行う前に検知することが可能となり、キャビテーションによる吐出不良を未然に防止できる。
【0050】
さらに、インクを検査するために発生させる圧力振動の圧力の下限値を、インクを吐出するために発生させる圧力振動の下限値より低くすることにより、より確実にキャビテーションによる吐出不良を防止できる。
【0051】
第2に、本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出するインクジェットヘッド2と、インクを検査するインク検査手段3a、3bとの間に、インク検査手段3a、3bの検査結果に基づいてインクを排出するインク排出手段を設けたので、インク検査手段3a、3bで吐出不良を引き起こすと判断されたインクを、インクジェットヘッド2を経由することなく排出できる。インクジェットヘッド2は微細で複雑な構造を有するため、一度吐出不良を起こすインクがインクジェットヘッド2の内部に入り込むと、このインクを完全に除去するのは困難になる。吐出不良を起こすインクを予めインクジェットヘッド2の内部に入る前に排出することにより、吐出不良を未然に防止することが可能になる。また、インクジェットヘッド2の内部にあるインクを排出する必要がないので、排出するインクの量を減らすことができ、インクを無駄に消費しないインクジェット記録装置を提供できる。
【0052】
さらに、インク検査手段3a、3bと、インク排出手段を並列に設けることにより、インクジェットヘッド2による印刷を継続したまま吐出不良を引き起こすインクを排出することができる。
【0053】
なお、本発明の第2の効果に関しては、インク検査手段3は本実施例のように圧力振動を発生させるものに限らず、例えば光学的に粒子を検知するパーティクルカウンタや溶存酸素計など、他の方式の検知手段であっても同様の効果が得られる。
【0054】
上記実施例では、インク排出手段により排出されたインクを貯留する廃インク貯蔵タンクを備えたインクジェット記録装置を説明した。この他に、図12に示すようにインク排出手段により排出されたインクをインク再生手段を用いて再生させ、再びインク供給系に戻しても良い。この構成では、インク再生手段として真空脱気装置66を備え、再生されたインクを電磁バルブ5fを通してインクタンク12に戻している。インク再生手段として他に、超音波発生装置、フィルタを用いたろ過装置などを用いることも可能である。インク排出手段3により排出されたインクのみを再生させることにより、インク再生手段が処理するインクの量を減らすことができる。そのため、インク再生手段を小型化できる効果や、インク再生手段が消費するエネルギーを節約できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施例のインクジェット記録装置の概略図。
【図2】本実施例のインク供給系の概略図。
【図3】本実施例のインクジェットユニットの概略図。
【図4】本実施例の駆動回路のブロック図。
【図5】本実施例のインクジェットヘッドの縦断面図。
【図6】本実施例のインクジェットヘッドの横断面図。
【図7】本実施例のインク検査装置の外観図。
【図8】本実施例のインク検査装置の断面図。
【図9】本実施例のインク検査装置に生じる圧力振動と電圧振動を示した図。
【図10】本発明のインク検査装置の変形例を示した図。
【図11】本実施例のインクジェットヘッドの圧力室に生じる圧力振動を示した図。
【図12】本発明のインクジェット記録装置の変形例を示した図。
【符号の説明】
【0056】
1 インクジェット記録装置
2 インクジェットヘッド
3 インク検査手段
5 電磁バルブ
10 インク排出ポンプ
11 気圧調整ポンプ
12 インクタンク
13 廃インク貯蔵タンク
14 ノズルキャップ
15 印刷媒体
16 搬送ベルト
17 搬送ローラ
18 ヘッド駆動回路
19 インク検査手段駆動回路
21 圧力振動評価回路
23 バルブ駆動回路
24 ポンプ駆動回路
25 圧力センサ
26 インクジェット記録装置制御回路
27 チューブ
28 天板蓋
29 インク
30 インク供給口
31 共通圧力室
32 天板枠
33 ノズルプレート
34 ノズル
35 圧力室
36 下部圧電部材
37 上部圧電部材
38 アクチュエータ
39 電極
40 基板
41 インク入口
42 インク出口
43 振動板
45 圧電部材
48 インクジェットユニット
49 フレーム
50 ノズル面
51 印字制御回路
52 インク検査室
53 インクジェットユニット可動手段
54 圧力振動発生手段
55 圧力振動検出手段
56 搬送モータ
57 搬送モータ駆動回路
58 回路切替手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室にインクを供給するインク供給手段と、前記圧力室の容積を可変させるアクチュエータとを有するインクジェットヘッドと、
インク検査室と、前記インク検査室に圧力振動を発生させる圧力振動発生手段と、前記圧力振動を検知する圧力振動検知手段と、前記インク検査室にインクを導入するインク入口と、前記インク検査室からインクを排出するインク出口とを有するインク検査手段と、
前記インク供給手段と前記インク出口を流体的に接続する接続手段と
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。

【請求項2】
前記インク検査室に発生する圧力振動の圧力の下限値を前記圧力室に発生する圧力振動の圧力の下限値より低く設定したことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。

【請求項3】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに供給するインクを検査するインク検査手段と、前記インクジェットヘッドと前記インク検査手段との間に流体的に接続し、前記インク検査手段の検査結果に基づき前記インクを排出する排出手段とを有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インク検査手段と前記排出手段を複数個並列に設けたことを特徴とする請求項3記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記排出手段から排出されたインクを再生するインク再生手段を有し、前記インク再生手段で再生されたインクを前記インクジェットヘッドに供給することを特徴とする請求項3または4記載のインクジェット記録装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−326271(P2007−326271A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158434(P2006−158434)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】