説明

インゴット切断装置および切断方法

【課題】切断テーブルの隙間部分の段差に影響を受けず、インゴットの切り終わり部分の欠けを防止することで、前記切断テーブルの調整のためのメンテナンスをなくし、製品歩留りを向上させることができるインゴット切断装置およびそれを用いた切断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】インゴット切断装置において、少なくとも、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分を下方から支持するためのインゴット支えパッドと、前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させるためのパッド上昇機構とを有するものであることを特徴とするインゴット切断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴット、特にはチョクラルスキー法(CZ法)等により引き上げられたシリコンインゴットを切断するインゴット切断装置およびこれを用いた切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法等によって製造されたシリコンインゴットは円柱状の胴体部にコーン状の端部(トップ部およびテイル部)を有している。シリコンインゴットの加工においては、これらコーン状の端部を切り離し円柱状の胴体部のみとし、胴体部を必要に応じて複数のブロックに切断する。次いで前記ブロックをウェーハとするための加工を行うことになる。
前記コーン状の端部の切断加工や胴体部を複数のブロックに切断加工する場合には、内周刃スライサー、外周刃スライサーなどが多く用いられてきた。近年のウェーハの大口径化に伴ってバンドソーも多く使用されるようになってきた。
【0003】
これらの切断加工において、切断時のシリコンインゴットの支持手段が切断精度に影響を与えることが知られており、コーン状の端部の切断加工においては、インゴットの切断前に、インゴットの下面側からの溝入れを完了させておくことによって、コーン状の端部を支持するための支持手段を設けることなく、後工程でウェーハとしてスライスされるブロック側に割れが発生することのない、シリコンインゴットのコーン状端部の切断方法が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、真空吸引装置を用い、真空吸着カップ内を減圧することでコーン状の端部を吸着して保持しながらインゴットを切断する切断方法、及びその装置が開示されている(特許文献2)。
一方、前記コーン状の端部を切断した後の前記胴体部のブロックの切断においては、切断するインゴットを切断テーブル上に水平に載置し、前記切断テーブルでインゴットを支持することによってインゴットを切断する。
【0005】
ここで、図4にインゴット切断装置をバンドソーとした場合の前記ブロックの切断方法についての概要を示す。
図4(A)に示すように、インゴット切断装置101には切断時にインゴットを支持するための切断テーブル105が設置されている。そして、切断前において、インゴット104を前記切断テーブル105上に水平に配置する。切断テーブル105は切断テーブル105aと切断テーブル105bから構成され、その間にインゴット104を切断するためのブレード102が前記切断テーブル105に接触しないようにするための隙間106を有している。
そして、切断するインゴットの切断する位置を前記隙間106に合わせるようにインゴットの位置を調整する。
【0006】
また、インゴット切断装置101は、薄いブレード台金の端部にダイヤモンドの砥粒を糊着してなるブレード砥粒部で構成されるエンドレスベルト状のブレード(バンドソー)102がプーリー103、103’間に張設されている。
そして、ブレード102はプーリー103、103’の回転により周回駆動され、該ブレード102を前記切断テーブル105の隙間の位置で相対的に上方から下方に送り出すことによってインゴット104を切断する。
図4(B)は前記切断テーブルの支持面にインゴットが載置されている様子を示した概要図である。図4(B)に示すように、前記切断テーブル105の隙間部分には、テーブル105aとテーブル105bとの段差が存在する。この段差はテーブル105aとテーブル105bの位置を調整することによって小さくすることはできるが、完全になくすことは困難である。
図4(C)はインゴットの切断完了時における、図4(B)の点線の部分を拡大した図である。
上記のような従来の切断テーブル105上にインゴット104を載置してインゴット104を切断した場合、前記段差があると、インゴット104の切断終了時に切断面が長手方向で左右に動いたり、上下動してしまい、インゴット104の切り終わり部分(図4(C)の点線で囲まれた部分)に欠けが発生してしまうことがあった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−347019号公報
【特許文献2】特開2003−224090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記切断テーブルの隙間部分の段差は、主に、切断テーブルのヘタリ、摩耗などの経時変化や、インゴットを切断テーブルに搬入する際にできる歪みなどから発生する。
前記の通り、切断テーブルの隙間部分の段差が発生している状態でインゴットをブロックに切断すると、切断後のブロックに欠けが発生してしまい、シリコンインゴットの製品歩留りを低下させる原因となっていた。そして、この欠け問題の対策のために、定期的に切断テーブルの隙間部分の段差をなくすように調整するためのメインテナンスをする必要があった。また、たとえメインテナンスをしても、段差を完全になくすことは困難である。
そこで、本発明者は、前記段差とインゴットの切断時に発生する欠けの関係について詳細に調査したところ、前記段差が、少なくとも、10μm以上であれば、インゴットの切断後のブロックに欠けが発生してしまうことが判明した。
【0009】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたもので、切断テーブルの隙間部分の段差に影響を受けず、インゴットの切り終わり部分の欠けを防止することで、製品歩留りを向上させ、前記切断テーブルの調整のためのメンテナンスをなくすことができるインゴット切断装置およびそれを用いた切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、切断テーブルにインゴットが水平に載置され、前記切断テーブルはインゴットを切断するためのブレードが前記切断テーブルに接触しないようにするための隙間を有し、前記ブレードを前記切断テーブルの隙間の位置で相対的に上方から下方に送り出すことによって前記インゴットを切断するインゴット切断装置であって、少なくとも、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分を下方から支持するためのインゴット支えパッドと、前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させるためのパッド上昇機構とを有するものであることを特徴とするインゴット切断装置を提供する(請求項1)。
【0011】
このように、本発明のインゴット切断装置は、少なくとも、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分を下方から支持するためのインゴット支えパッドと、前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させるためのパッド上昇機構とを有するので、少なくとも、インゴット支えパッドが切断時の支点となり、切断テーブルの隙間部分の段差による影響を抑えることができる。これによって、インゴットの切り終わり部分に欠けが発生するのを防止できる。
【0012】
このとき、前記インゴット切断装置のブレードはバンドソーとすることができる(請求項2)。
このように、前記インゴット切断装置のブレードがバンドソーであれば、本発明を適用して、近年の大口径のシリコンインゴットを欠けを発生させることなく効率良く切断することができる。
【0013】
またこのとき、前記パッド上昇機構は、少なくとも、移動部と固定部を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにするために前記移動部と固定部を挟み込む一対の固定板を具備するものとすることができる(請求項3)。
このように、前記パッド上昇機構は、少なくとも、移動部と固定部を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにするために前記移動部と固定部を挟み込む一対の固定板を具備することで、簡単な構造でインゴット支えパッドを下方から上昇させてインゴットに密着させることができる。また、インゴットの切断中にインゴット支えパッドのインゴット支持面が動かないようにすることができる。これによって、インゴットの切り終わり部分に欠けが発生するのをより確実に防止できる。
【0014】
またこのとき、前記インゴット支えパッドの材質は合成樹脂とすることができる(請求項4)。
このように、前記インゴット支えパッドの材質が合成樹脂であれば、インゴットに傷を付けることなく支持することができるとともに、インゴットの切断時にブレードがインゴット支えパッドと接触しても、ブレードの摩耗や変形に影響を与えることなく切断することができる。また、前記接触によって、インゴット支えパッドの一部が切断されても、インゴットの保持力が不十分となることを防ぐことができる。
【0015】
また、このとき、前記パッド上昇機構は、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が前記切断テーブルのインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブルのインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が切断テーブルの支持面と同じか高くしてインゴットを切断することができる(請求項5)。
このように、前記パッド上昇機構は、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が前記切断テーブルのインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブルのインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が切断テーブルの支持面と同じか高くしてインゴットを切断することで、インゴットの切り終わり部分を確実に支持することができ、インゴット支えパッドを支点としてインゴットを切断するので、切断テーブルの隙間部分の段差による影響をより確実に排除することができる。これによって、インゴットの切り終わり部分に欠けが発生するのをより確実に防止できる。
【0016】
また、本発明は、切断テーブルにインゴットを水平に載置し、前記切断テーブルにインゴットを切断するためのブレードが前記切断テーブルに接触しないようにするための隙間を設け、前記ブレードを前記切断テーブルの隙間の位置で相対的に上方から下方に送り出すことによって前記インゴットを切断するインゴットの切断方法であって、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分をインゴット支えパッドにより下方から支持し、パッド上昇機構により前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させてインゴットを切断するインゴットの切断方法を提供する(請求項6)。
【0017】
このように、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分をインゴット支えパッドにより下方から支持し、パッド上昇機構により前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させてインゴットを切断することで、少なくとも、インゴット支えパッドが切断時の支点となり、切断テーブルの隙間部分の段差による影響を抑えることができる。これによって、インゴットの切り終わり部分に欠けが発生するのを防止できる。
【0018】
このとき、前記インゴットの切断はバンドソーによる切断とすることができる(請求項7)。
このように、前記インゴットの切断はバンドソーによる切断であれば、大口径のシリコンインゴットを欠けを発生させることなく効率良く切断することができる。
【0019】
またこのとき、前記パッド上昇機構として、少なくとも、移動部と固定部を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにするために前記移動部と固定部を挟み込む一対の固定板を具備するものを用いることができる(請求項8)。
このように、前記パッド上昇機構として、少なくとも、移動部と固定部を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにするために前記移動部と固定部を挟み込む一対の固定板を具備するものを用いることで、簡単な構造でインゴット支えパッドを下方から上昇させインゴットと密着させることができる。また、インゴットの切断中にインゴット支えパッドのインゴット支持面が動かないようにすることができる。これによって、インゴットの切り終わり部分に欠けが発生するのをより確実に防止できる。
【0020】
またこのとき、前記インゴット支えパッドの材質を合成樹脂とすることができる(請求項9)。
このように、前記インゴット支えパッドの材質が合成樹脂であれば、インゴットに傷を付けることなく支持することができるとともに、インゴットの切断時にブレードがインゴット支えパッドと接触しても、ブレードの摩耗や変形に影響を与えることなく切断することができる。また、前記接触によって、インゴット支えパッドの一部が切断されても、インゴットの保持力が不十分となることを防ぐことができる。
【0021】
またこのとき、前記パッド上昇機構で、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が前記切断テーブルのインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブルのインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面を切断テーブルの支持面と同じか高くして、インゴットを切断することができる(請求項10)。
このように、前記パッド上昇機構は、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が前記切断テーブルのインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブルのインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が切断テーブルの支持面と同じか高くしてインゴットを切断することで、インゴットの切り終わり部分を確実に支持することができ、インゴット支えパッドを支点としてインゴットを切断するので、切断テーブルの隙間部分の段差による影響をより確実に抑えることができる。これによって、インゴットの切り終わり部分に欠けが発生するのをより確実に防止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、インゴット切断装置において、インゴットをブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分をインゴット支えパッドにより下方から支持し、パッド上昇機構により前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させてインゴットを切断するので、少なくとも、インゴット支えパッドが切断時の支点となり、切断テーブルの隙間部分の段差による影響を抑えることができる。これによって、
インゴットの切り終わり部分に欠けが発生することを防止することができ、製品歩留りを向上させ、切断テーブルの位置調整のためのメンテナンスを実質上なくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
従来のシリコンインゴットの円柱状の胴体部のブロックの切断において、切断するインゴットを切断テーブル上に水平に載置し、切断テーブルにある隙間の位置でブレードを相対的に上方から下方に送り出し、前記切断テーブルでインゴットを支持しながらインゴットを切断している。
【0024】
しかし、インゴットの切断を繰り返していくうちに、切断テーブルとインゴットとの接触により切断テーブルが摩耗してしまう。また、近年の大口径化したインゴットを切断テーブルに搬入する際にできる切断テーブルの歪みの影響などから、前記切断テーブルの隙間部分に段差が発生してしまう。この状態でインゴットをブロックに切断すると、切り終わり時に切断面が長手方向で左右に動いたり、上下動してしまい、切断後のブロックに欠けが発生してしまう。このことが、シリコンインゴットの製品歩留りの低下の原因となっていた。そして、この欠け問題の対策のために、定期的(約半年に1度)に切断テーブルを調整し、前記段差を無くすためのメインテナンスをする必要があった。しかし、高精度に調整しても完全に段差を無くすことは困難である。
【0025】
このような問題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を重ねた。その結果、前記ブロックの切断において、切断テーブルの隙間部分の段差による影響を抑えるためには、インゴットの切り終わり部分を下方から支持し、その支持面を下方から上昇させて切断を行えば良いことに想到し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明のインゴット切断装置において、インゴットをブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分をインゴット支えパッドにより下方から支持し、パッド上昇機構により前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させてインゴットを切断することで、切断テーブルの隙間部分の段差による影響を抑えることができ、それによって、前記インゴットの切り終わり部分の欠けの発生を防止できることが判明した。
【0026】
図1に本発明で使用することができるインゴット切断装置の一例の概略図を示す。
図1(A)はインゴット切断装置の上面概略図である。
図1に示すように、インゴット切断装置1のブレードはバンドソーとなっている。
インゴット切断装置1には切断時にインゴットを載置するための切断テーブル5が設置されている。切断テーブル5は切断テーブル5aと切断テーブル5bから構成され、その間にインゴットを切断するためのブレード2が前記切断テーブル5に接触しないようにするための隙間6を有している。
また、インゴット切断装置1は、薄いブレード台金の端部にダイヤモンドの砥粒を糊着してなるブレード砥粒部で構成されるエンドレスベルト状のブレード(バンドソー)2がプーリー3、3’間に張設されている。
【0027】
図1(B)はインゴット切断装置1の側面概略図である。
図1(B)に示すように、切断テーブル5にインゴット4が水平に載置される。
また、インゴット4の下方で切断テーブル5の隙間6の位置にインゴット支えパッド10が設置されている。そして、その下方にパッド上昇機構7が設置されている。
また、パッド上昇機構7の上昇量を制御するための制御装置12を設置することができ、パッド上昇機構7に接続されている。
【0028】
図2は本発明のインゴット切断装置のインゴット支えパッドおよびパッド上昇機構部の一例を示めす正面概略図である。
図2(A)に示すように、切断テーブル5はインゴット4を安定して載置させるためにV字型に形成されている。
また、図2(B)に示すように、切断テーブル5の隙間ではインゴット4はインゴット支えパッド10により下方から支持されている。そして、インゴット支えパッド10は、パッド上昇機構7上に設置されている。
【0029】
ここで、図3に本発明で使用することができるインゴット支えパッドとパッド上昇機構の一例の概略図を示す。
図3(A)はパッド上昇機構7の上方にインゴット支えパッド10を配置した様子を示す概要図である。また、図3(B)はこれを上方から見た概要図である。
図3(A)に示すように、インゴット支えパッド10は移動部8と固定部9と固定板11、11’とで構成されたパッド上昇機構7の上方に設置される。
【0030】
また、切断時にインゴット4を安定して支持するために、インゴット支えパッド10のインゴット支持面は、曲線状に凹んだ形状とすると良いが、特にこれに限定されるわけではない。
ここで、例えば、パッド上昇機構7とインゴット支えパッド10は、図3に示すように、ビス13により固定することができる。
このように、前記移動部8とインゴット支えパッド10をビスにより固定することでインゴット支えパッドを簡単に取り付けあるいは交換することができる。
【0031】
また、前記移動部8は上方に移動することによって、インゴット支えパッド10を下方から上昇させることができる。
このとき、図3(C)に示すように、例えば、前記移動部8の移動は、固定部9に設置されたバネにより前記移動部を上方に押し上げることによって行うようにすることができる。あるいは、空気圧や油圧によって前記移動部を上方に押し上げても良い。本発明においては、前記移動部を上方に移動させることができれば良く、これに限定されるわけではない。
【0032】
また、移動部を上方に移動させた後、前記固定板で前記移動部と前記固定部を挟み込むことによって、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにすることができるようになっている。
このとき、例えば、前記固定板での挟み込みは油圧によって行うことができる。
また、固定板を、移動時には滑り易くしつつ、挟み込みの効果を発揮させるためには、例えば、前記固定板を弗素樹脂とすると良いが、材質は特に限定されない。
また、パッド上昇機構7及びインゴット支えパッド10の最大荷重は500Kg程度までとすることができるが、特にこれに限定されない。切断するインゴットの重量に従って適宜決定すればよい。
【0033】
次に、本発明のインゴット切断装置1を使用したインゴット4の切断方法について説明する。
まず、ブロックに切断するインゴット4が切断テーブル5に水平に載置される。そして、切断するブロックの切断する位置を切断テーブル5の隙間6に合わせるようにインゴット4の位置を調整する。
そして、インゴット4の載置が完了後、パッド上昇機構7によりインゴット支えパッド10を下方から上昇させて、インゴット4に密着させる。
このとき、制御装置12をパッド上昇機構7に接続し、制御装置12のNCプログラムにより予め所定の高さまでパッド上昇機構7の移動部8を上昇させるようにプログラムしておくことができるが、本発明においてはこれに限定されない。
【0034】
その後、ブレード2はプーリー3、3’の回転により周回駆動され、該ブレード2を前記切断テーブルの隙間の位置で相対的に上方から下方に送り出すことによってインゴット4を切断する。この場合、ブレードを上から下に送り出しても良いし、インゴットを下から上に送り出すようにしても良い。
このように、本発明のインゴット切断装置1は、少なくとも、インゴット4をブレード2で切断する位置にて前記インゴット4の切り終わり部分を下方から支持するためのインゴット支えパッド10と、前記インゴット支えパッド10を下方から上昇させて前記インゴット4に密着させるためのパッド上昇機構7とを有するので、少なくとも、インゴット支えパッドが切断時の支点となり、たとえ切断テーブル5の隙間部分の段差が20μm程度あったとしても、その影響を抑えることができる。これによって、インゴット4の切り終わり部分に欠けが発生するのを防止できる。
【0035】
このとき、前記パッド上昇機構7は、少なくとも、移動部8と固定部9を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴット4の切断中に動かないようにするために前記移動部8と固定部9を挟み込む一対の固定板11、11’を具備するものとすることができる。
このように、パッド上昇機構7は、少なくとも、移動部8と固定部9を有し、前記固定部9の上部に設置された移動部8が上方に移動し、前記移動部がインゴット4の切断中に動かないようにするために前記移動部8と固定部9を挟み込む一対の固定板11、11’を具備することで、簡単な構造でインゴット支えパッド10を下方から上昇させることができ、また、インゴット4の切断中にインゴット支えパッド10のインゴット支持面が動かないようにすることができる。これによって、インゴット4の切り終わり部分に欠けが発生するのをより確実に防止できる。
【0036】
またこのとき、前記インゴット支えパッド10の材質は合成樹脂とすることができる。
このように、前記インゴット支えパッド10の材質は合成樹脂であれば、載置されたインゴットに傷を付けることがないし、インゴット4の切断時にブレード2がインゴット支えパッド10と接触してもブレード2の摩耗や変形に影響を与えることなく、切断することができる。また、前記接触によって、インゴット支えパッド10の一部が切断されても幅1mm程度の損傷であり、パッドのインゴット支持幅を十分に設けておけばインゴット4の保持力が不十分となることはない。
【0037】
またこのとき、前記パッド上昇機構7は、前記インゴット支えパッド10のインゴット支持面が前記切断テーブル5のインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブル5のインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッド10のインゴット支持面が切断テーブル5の支持面と同じか高くしてインゴット4を切断することができる。
このように、前記パッド上昇機構7は、前記インゴット支えパッド10のインゴット支持面が前記切断テーブル5のインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブル5のインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッド10のインゴット支持面が切断テーブル5の支持面と同じか高くしてインゴット4を切断することで、インゴットの切り終わり部分を確実に支持することができ、インゴット支えパッド10を支点としてインゴット4を切断するので、切断テーブル5の隙間部分の段差による影響をより確実に抑えることができる。これによって、インゴット4の切り終わり部分に欠けが発生するのをより確実に防止できる。
【0038】
このようにして、インゴット4をブロックに切断し、切断後のブロックを切断テーブル5から搬出する。さらに、インゴット4からサンプルを採取する場合、あるいは、インゴット4の残り部分をブロックに分割する場合には、切断位置を切断テーブル5の隙間6に合わせるように再度インゴット4の位置を調整し、前記の手順でインゴットを切断する。
このように、インゴット4を繰返し切断していくことによって、次第にインゴット支えパッド10の損傷は大きくなってくるが、損傷具合を確認し、定期的に交換すれば良い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
(実施例1)
図1に示すようなバンドソーによるインゴット切断装置を用い、直径12インチ(300mm)のシリコンインゴットをブレードの送り速度が35mm/minで切断した。ブレードはブレード台金の厚さが0.5mmのものを使用した。
また、インゴット支えパッドは図3(A)に示すようなものを使用した。インゴット支えパッドの材質は合成樹脂とし、インゴット支持面の幅を35mmとした。
また、パッド上昇機構は図3(C)に示すようなもので、移動部の上昇を空気圧によって上昇させるものを使用した。このときの空気圧を0.3MPaとした。
【0040】
また、固定板は弗素樹脂のものを使用し、移動部と固定部の締め付けは3MPaの油圧によって行った。
このようにして、インゴットを切断したところ、従来のバンドソーでインゴットを切断した場合と比べ、製品歩留りが0.2%程度向上した。また、このような本発明のインゴット切断装置を使用することによって、切断テーブルの隙間部分の段差をなくす調整のためのメインテナンスを行う必要がなくなった。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
例えば、上記ではインゴット切断装置のブレードとしてバンドソーを具体的に挙げて示したが、本発明はこれに限定されない。インゴットをテーブル上に水平に置きブレードを相対的に上方から下方に送り出して切断する切断装置におけるブレードは同様に適用することができる。すなわち、いわゆる外周刃、内周刃であっても、本発明を適用でき、同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のインゴット切断装置の一例を示す概略図である。(A)上面概略図である。(B)インゴット切断装置の一例を示す側面概略図である。
【図2】本発明のインゴット切断装置のインゴット支えパッドおよびパッド上昇機構部の一例を示す正面概略図である。(A)正面概略図である。(B)インゴットがインゴット支えパッドにより支えられている様子を示す概略図である。
【図3】本発明で使用することができるインゴット支えパッドおよびパッド上昇機構の一例を示す概略図である。(A)パッド上昇機構の上方にインゴット支えパッドを配置した様子を示す概要図である。(B)パッド上昇機構の上方にインゴット支えパッドを配置した様子を上から見た概要図である。(C)パッド上昇機構の移動部が上方に移動する様子および、固定板により移動部と固定部を挟みこむ様子を示した概要図である。
【図4】従来のインゴット切断装置の一例を示す概要図である。
【符号の説明】
【0044】
1…インゴット切断装置、 2…ブレード、 3、3’…プーリー、
4…インゴット、 5、5a、5b…切断テーブル、 6…隙間、
7…パッド上昇機構、8…パッド上昇機構の移動部、
9…パッド上昇機構の固定部、10…インゴット支えパッド、
11、11’…固定板、12…制御装置、13…ビス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断テーブルにインゴットが水平に載置され、前記切断テーブルはインゴットを切断するためのブレードが前記切断テーブルに接触しないようにするための隙間を有し、前記ブレードを前記切断テーブルの隙間の位置で相対的に上方から下方に送り出すことによって前記インゴットを切断するインゴット切断装置であって、少なくとも、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分を下方から支持するためのインゴット支えパッドと、前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させるためのパッド上昇機構とを有するものであることを特徴とするインゴット切断装置。
【請求項2】
前記インゴット切断装置のブレードはバンドソーであることを特徴とする請求項1に記載のインゴット切断装置。
【請求項3】
前記パッド上昇機構は、少なくとも、移動部と固定部を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにするために前記移動部と固定部を挟み込む一対の固定板を具備するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインゴット切断装置。
【請求項4】
前記インゴット支えパッドの材質は合成樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のインゴット切断装置。
【請求項5】
前記パッド上昇機構は、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が前記切断テーブルのインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブルのインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が切断テーブルの支持面と同じか高くしてインゴットを切断するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のインゴット切断装置。
【請求項6】
切断テーブルにインゴットを水平に載置し、前記切断テーブルにインゴットを切断するためのブレードが前記切断テーブルに接触しないようにするための隙間を設け、前記ブレードを前記切断テーブルの隙間の位置で相対的に上方から下方に送り出すことによって前記インゴットを切断するインゴットの切断方法であって、前記インゴットを前記ブレードで切断する位置にて前記インゴットの切り終わり部分をインゴット支えパッドにより下方から支持し、パッド上昇機構により前記インゴット支えパッドを下方から上昇させて前記インゴットに密着させてインゴットを切断することを特徴とするインゴットの切断方法。
【請求項7】
前記インゴットの切断はバンドソーによる切断であることを特徴とする請求項6に記載のインゴットの切断方法。
【請求項8】
前記パッド上昇機構として、少なくとも、移動部と固定部を有し、前記固定部の上部に設置された移動部が上方に移動し、前記移動部がインゴットの切断中に動かないようにするために前記移動部と固定部を挟み込む一対の固定板を具備するものを用いることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のインゴットの切断方法。
【請求項9】
前記インゴット支えパッドの材質を合成樹脂とすることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載のインゴットの切断方法。
【請求項10】
前記パッド上昇機構で、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面が前記切断テーブルのインゴット支持面と同じ高さか、あるいは、前記切断テーブルのインゴット支持面より3mm以内の高さで高い位置に上昇させることによって、前記インゴット支えパッドのインゴット支持面を切断テーブルの支持面と同じか高くして、インゴットを切断することを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれか1項に記載のインゴットの切断方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−160825(P2009−160825A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−913(P2008−913)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】