説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】インホイールモータ駆動装置をトレーリングアーム等のサスペンション部材に連結する場合であっても、駆動モータの変形を回避することができるインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】インホイールモータ駆動装置21は、基本構成として、同軸かつ直列に順次配置されたモータ部Aと、減速部Bと、車輪ハブ軸受部Cを備える。さらにインホイールモータ駆動装置21は、根元側が車輪ハブ軸受部Cの車輪ハブ軸受部ケーシング22cに固定され、先端側が軸線Oより外径方向へ突出して車体側メンバに連結されるための連結部63,64を有する連結部材61,62を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を駆動するインホイールモータ駆動装置に関し、特にトレーリングアーム、ロアアーム、またはショックアブソーバといったサスペンション部材との取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の技術分野において、車輪のロードホイールの内空領域に一部あるいは全部配置されて、車輪を駆動するインホイールモータ駆動装置が注目を浴びている。従来のインホイールモータ駆動装置は、例えば、特開2008−44537号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載されているインホイールモータ駆動装置は、駆動モータと、この駆動モータから駆動力を入力されて回転数を減速して車輪側に出力する減速機と、減速機の出力軸と結合する車輪のハブ部材とが同軸かつ直列に配置されている。この減速機はサイクロイド減速機構であり、従来の減速機として一般的な遊星歯車式減速機構と比較して高減速比が得られる。したがって、駆動モータの要求トルクを小さくすることができ、インホイールモータ駆動装置のサイズおよび重量を低減することができるという点で頗る有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−44537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車輪を車体に取り付ける必要から、車輪と結合するインホイールモータ駆動装置は、車体側メンバと結合する。具体的には、車輪をサスペンション装置で車体に懸架するため、車輪と結合するインホイールモータ駆動装置を、サスペンション装置のサスペンション部材と結合する。これにより、車輪は車体に懸架される。車輪の懸架方式として、トーションビーム方式、セミトレーリングアーム方式、フルトレーリングアーム方式、ストラッド方式、ダブルウィッシュボーン方式といったものがあり、選択された懸架方式に応じて、トーションビーム、トレーリングアーム、ロアアーム、アッパアーム、ショックアブソーバといったサスペンション部材に、インホイールモータ駆動装置を結合する。
【0005】
車両自体の重量や走行中の路面からの外乱、旋回時のモーメント荷重などタイヤにかかる輪荷重によってサスペンション部材は上下方向にストロークする。その際、サスペンション部材およびインホイール駆動装置それぞれに変形が発生するが、この変形によってインホイール駆動装置内部の部材に悪影響が及ぶ懸念がある。
【0006】
トレーリングアームを例に具体的に説明すると、かかるインホイールモータ駆動装置を備えた車両の走行安定性を実現するため、トレーリングアームの基端と車体とを連結し、トレーリングアームの遊端と各車輪に設けられたインホイールモータ駆動装置とを連結する。具体的には、インホイールモータ駆動装置のうち、ロードホイールの内空領域から突出する部位ないしは内空領域に存在するものの内空領域の開口部近傍の部位と、トレーリングアームの遊端とを結合する。すなわち、インホイールモータ駆動装置の駆動モータ部分およびサイクロイド減速機部分が、車両前後方向に延在するトレーリングアームの後端部に取り付けられるのが一般的である。
【0007】
しかし、上記のような取り付け構造にあっては、車輪からハブ部材に入力する輪荷重によって、トレーリングアームおよびそれに連結されているインホイール駆動装置全体に変形が発生する。そのため、駆動装置内部においても減速機や駆動モータに変形が発生する。駆動モータはモータケーシング両端面に設けられた軸受によって軸両端部で支持され高速回転するロータと、ケーシング側に固定されるステータとが僅かな半径方向隙間を介して対面しているためインホイール駆動装置の変形の影響を受けやすく、ロータがステータと接触するという問題が生じやすい。また減速機が変形すると減速機を構成する歯車同士の噛合に悪影響が及ぶ。この問題を解決するには、ケーシングを鋼製にしたり肉厚にしたりして剛性を高めることが考えられる。
【0008】
一方、走行安定性の更なる向上のため、サスペンション装置よりも路面側に配置されるインホイールモータ駆動装置を含めた下部構造を軽量化する要求がある。インホイール駆動装置自体の軽量化手段としてケーシング部材の薄肉化が挙げられるが、上記の問題から実施が難しい。
【0009】
本発明は、上述の実情に鑑み、インホイールモータ駆動装置の薄肉化、軽量化の要求のもとで、インホイールモータ駆動装置をサスペンション部材等の車体側メンバに連結する場合であっても、駆動モータの変形を回避することができるインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため本発明によるインホイールモータ駆動装置は、モータ回転軸と、外郭を形成するモータ部ケーシングとを有するモータ部を備える。また、モータ回転軸の回転を減速して出力する出力軸と、外郭を形成する減速部ケーシングとを有し、モータ部の軸線方向一方に配置される減速部を備える。また、出力軸に連結固定される車輪ハブと、車輪ハブを回転自在に支持する車輪ハブ軸受部ケーシングとを有し、減速部の軸線方向一方に配置される車輪ハブ軸受部を備える。また、根元側が車輪ハブ軸受部ケーシングおよび減速部ケーシングの少なくとも一方に固定され、先端側が外径方向へ突出して車体側メンバに連結されるための連結部を有する連結部材を備える。
【0011】
かかる本発明によれば、車体側メンバに連結されるための連結部を有する連結部材が、車輪ハブ軸受部ケーシングおよび減速部ケーシングの少なくとも一方に固定されることから、輪荷重が、車輪ハブと、車輪ハブ軸受部ケーシングと、連結部材とを経由し、モータ部を経由しない。したがって、モータ部には輪荷重が入力することなく、モータ部は変形せず、モータ内部でロータとステータとが接触することを防止することができる。ここでいう、車輪ハブ軸受部ケーシングおよび減速部ケーシングの少なくとも一方に固定される連結部材とは、連結部材が車輪ハブ軸受部ケーシングに固定される場合、あるいは連結部材が車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとの間に介挿固定される場合、あるいは連結部材が減速部ケーシングに固定される場合、あるいは連結部材が減速部ケーシングとモータ部ケーシングとの間に介挿固定される場合を含むと理解されたい。
【0012】
また本発明によれば、連結部材が車輪ハブ軸受部ケーシングに固定され、あるいは連結部材が車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとの間に介挿固定されることから、輪荷重がモータ部および減速部のいずれも経由しない。したがって、減速部にも輪荷重が入力することなく、減速部も変形せず、減速部内部で歯車同士の噛合が変化することを防止することができる。
【0013】
本発明は、車体側に取り付けられる車体側メンバであれば、その適用範囲は限定されない。本発明は、車体側に取り付けられて車輪およびインホイールモータ駆動装置を懸架するサスペンション部材に連結されることにより、路面からの外力および加減速時のショックがインホイールモータ駆動装置に入力されても、モータ部および減速部の変形を防止することができる。またモータ部の構造は、ラジアルギャップであっても、アキシャルギャップであってもよく、特に限定されない。減速部の構造は、遊星歯車機構であっても、サイクロイド減速機構であってもよく、特に限定されない。
【0014】
また本発明は、あらゆるサスペンション部材に対して適用可能である。例えばサスペンション部材としてストラットおよびロアアームを備えるストラット式サスペンション装置に対して適用可能である。かかる実施形態として、連結部材は、軸線よりも上部に配置される上部連結部材と、軸線よりも下部に配置される下部連結部材とを含む。かかる実施形態によれば、上部連結部材の連結部をストラットの下端に連結し、下部連結部材の連結部をロアアームの遊端に連結することにより、ストラット式サスペンション装置に適用可能となる。
【0015】
本発明の他の実施形態は、例えばサスペンション部材としてアッパアーム、ロアアーム、およびショックアブソーバを備えるダブルウィッシュボーン式サスペンション装置に対して適用可能である。かかる実施形態として、減速部ケーシングは、車体側メンバに連結されるための連結部を外周に有する。かかる実施形態によれば、上部連結部材の連結部にアッパアームの遊端を連結し、下部連結部材の連結部にロアアームの遊端を連結し、減速部ケーシングの連結部をショックアブソーバに連結することにより、ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置に適用可能となる。
【0016】
本発明のさらに他の実施形態は、例えばサスペンション部材としてトレーリングアームおよびショックアブソーバを備えるトレーリングアーム式サスペンション装置に対して適用可能である。かかる実施形態として、連結部材は、軸線よりも下部に配置される下部連結部材を含み、減速部ケーシングは、車体側メンバに連結されるための連結部を外周に有する。かかる実施形態によれば、下部連結部材の連結部をトレーリングアームの遊端に連結し、減速部ケーシングの連結部をショックアブソーバに連結することにより、トレーリングアーム式サスペンション装置に適用可能となる。またトレーリングアームが変形する場合であっても、インホイールモータ駆動装置のうち下部連結部材が変形するのみである。したがって、モータ部および減速部の変形を防止することができる。
【0017】
本発明は一実施形態に限定されるものではないが、例えば、車輪ハブ軸受部ケーシングおよび減速部ケーシングの一方は、他方へ向かって突出するケーシング突出部を有し、車輪ハブ軸受部ケーシングおよび減速部ケーシングの他方は、ケーシング突出部と嵌合する。そして、連結部材は、ケーシング突出部よりも外径側で、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとの間に介挿固定される。かかる実施形態によれば、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングが互いに嵌合することから、インホイールモータ駆動装置の剛性を高めることが可能になる。
【0018】
好ましくは、連結部材は、根元側端部のうちケーシング突出部と接触する内径側の面と、車輪ハブ軸受部ケーシングと接触する軸線方向一方面との境界部分に面取りが形成される。かかる実施形態によれば、内径側の面と車輪ハブ軸受部ケーシングと接触する面との境界部分に面取りが形成されることから、輪荷重の応力が連結部材の根元側端部に集中しないよう緩和することができる。
【0019】
本発明は一実施形態に限定されるものではないが、例えば、車輪ハブ軸受部ケーシングおよび減速部ケーシングの一方は、残る他方と対面する端部に、当該一方ケーシングの外周面から内径側に向かって延びる切り欠き部を有し、連結部材の根元部は、切り欠き部と嵌合する。かかる実施形態によれば、車輪ハブ軸受部ケーシングの外周面から内周面まで延びる切り欠き部を設けて、連結部材の根元部を嵌合させることから、車輪ハブ軸受部ケーシングと連結部材との結合箇所の剛性を高くすることができる。あるいは、減速部ケーシングに切り欠き部を設ける場合も、減速部ケーシングと連結部材との結合箇所の剛性を高くすることができる。なお、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとは直接に結合してもよいし、連結部材を介して連結してもよい。
【0020】
本発明は一実施形態に限定されるものではないが、例えば、連結部材は、根元部に貫通孔を有し、出力軸または入力軸が貫通孔を通過する。かかる実施形態によれば、連結部材が根元部に貫通孔を有することから、連結部材の根元部をリング形状にすることができる。しかも、出力軸または入力軸が通過することから、リング形状の根元部の全周を隣接するケーシングに結合することが可能になる。したがって、ケーシングと連結部材との結合箇所の剛性を高くすることができる。なお、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとの間に連結部材を配置する場合、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとは直接に結合してもよいし、連結部材を介して連結してもよい。また、減速部ケーシングとモータ部ケーシングとの間に連結部材を配置する場合、減速部ケーシングとモータ部ケーシングとは直接に結合してもよいし、連結部材を介して連結してもよい。
【0021】
好ましくは、連結部材の根元部は、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとの間に介挿されて、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとを互いに離隔する。かかる実施形態によれば、減速部ケーシングが車輪ハブケーシングから離隔することから、輪荷重が車輪ハブ軸受部ケーシングと連結部材を経由し、減速部ケーシングを全く経由しない。したがって、モータ部および減速部には輪荷重が入力せず、モータ部および減速部の変形を好適に防止することができる。
【0022】
好ましくは、出力軸は、軸線方向における少なくとも一箇所が中空である。かかる実施形態によれば、出力軸の重量を軽くすることが可能となり、腕状の連結部材を付設したことによるインホイールモータ駆動装置の重量増加を解消することができる。
【0023】
好ましくは、連結部材は、車輪ハブ軸受部ケーシングと減速部ケーシングとの間に介挿されて、これら車輪ハブ軸受部ケーシングと連結部材とが互いに面接触し、当該面接触は、軸線に対し直角な平面であって、外径側の平面と内径側の平面との間に段差を伴う2段の平面を含む。かかる実施形態によれば、接触面にインロー部を設けることから、車輪ハブ軸受部ケーシングと連結部材との結合を強固にすることができる。また、インホイールモータ駆動装置の組立作業において、連結部材の位置決めが容易となり、組立作業の効率化を図ることができる。
【0024】
好ましくは、連結部材は、根元部と先端部との間の中央領域にブレーキキャリパを取り付け固定するための座部を有する。かかる実施形態によれば、連結部材にブレーキキャリパを連結固定することが可能となり、ブレーキキャリパのレイアウト配置に資することができる。
【0025】
好ましくは、減速部は、モータ回転軸に連結固定される入力軸と、入力軸の端部に該入力軸の回転軸線から偏心して結合した円盤形状の偏心部材と、内周が偏心部材の外周に相対回転可能に取り付けられ、入力軸の回転に伴って回転軸線を中心とする公転運動を行う公転部材と、公転部材の外周部に係合して公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、公転部材の自転のみを取り出して出力軸に伝達する運動変換機構とをさらに有し、入力軸の回転を減速して出力軸に伝達するサイクロイド減速機構である。かかるサイクロイド減速機構を有する実施形態によれば、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0026】
運動変換機構は一実施形態に限定されるものではないが、例えば公転部材に、自転軸心を中心として周方向等間隔に形成される複数の孔と、出力軸の端部に、出力軸の軸線を中心として周方向等間隔に設けられ、孔とそれぞれ係合する複数の内側係合部材とで構成される。
【0027】
あるいは他の実施形態として、運動変換機構は、出力軸の端部に、出力軸の軸線を中心として周方向等間隔に形成される複数の孔と、公転部材に、自転軸心を中心として周方向等間隔に設けられて孔とそれぞれ係合する複数の内側係合部材とで構成される。
【発明の効果】
【0028】
このように本発明は、根元側が車輪ハブ軸受部ケーシング固定され、先端側が外径方向へ突出して車体側メンバに連結されるための連結部を有する連結部材とを備える。これにより、モータ部および減速部に輪荷重が入力することがなく、モータ部および減速部の変形を好適に防止することができる。さらに、モータ部ケーシングおよび減速部ケーシングに薄肉部材を使用するなどしてモータ部および減速部の軽量化を図ることができる。
【0029】
あるいは本発明は、根元側が減速部ケーシングに固定され、先端側が外径方向へ突出して車体側メンバと連結固定されるための連結部を有する連結部材とを備える。これにより、モータ部に輪荷重が入力することがなく、モータ部の変形を好適に防止することができる。さらに、モータ部ケーシングに薄肉部材を使用するなどしてモータ部の軽量化を図ることができる。この結果、サスペンション装置のばね下重量を軽減して車両の乗り心地性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図2】同実施例の減速部を示す横断面図である。
【図3】同実施例の連結部材の根元部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】本発明の変形例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図5】本発明の他の実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。図2は、同実施例の減速部を示す横断面図である。図3は、同実施例の連結部材の根元部を拡大して示す縦断面図である。
【0032】
車輪のロードホイール内空領域に配置されて、当該車輪を駆動するインホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を図示しない駆動輪に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備える。そして、モータ部A、減速部B、車輪ハブ軸受部Cの順に直列かつ同軸に配置される。インホイールモータ駆動装置21は、例えば電気自動車またはハイブリッド駆動車両のホイールハウジング内に取り付けられる。
【0033】
モータ部Aは、外郭を形成するモータ部ケーシング22aと、モータ部ケーシング22aに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向に開いた隙間を介して対面する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ回転軸35とを有するラジアルギャップモータである。
【0034】
モータ部ケーシング22aは、円筒形状であり、軸線O方向一方(図1の左方)で減速部ケーシング22bの他端と結合する。モータ部ケーシング22aの内周はステータ23を支持する。モータ回転軸35は、モータ部Aの両端で転がり軸受36a,36bによって支持される。
【0035】
減速部Bは、外郭を形成する減速部ケーシング22bと、モータ回転軸35の回転を減速して出力する出力軸28とを有し、モータ部Aの軸線O方向一方に配置される。具体的には、減速部Bはサイクロイド減速機構である。減速部Bの入力軸25は、軸線Oに沿って延び、モータ部A側へ突出して、突出端がモータ回転軸35の軸線方向一方端に連結固定される。モータ部Aのモータ回転軸35および減速部Bの入力軸25は、一体回転することから、モータ側回転部材とも称する。モータ部Aとは反対側に位置する入力軸25の一方端部は、減速部B内で転がり軸受36cによって支持される。
【0036】
入力軸25の外周には、2枚の円盤形状の偏心部材25a,25bが固定される。モータ回転軸35および入力軸25はインホイールモータ駆動装置21の回転軸線Oと一致して延在するが、偏心部材25a,25bの中心は軸線Oと一致しない。さらに、2つの偏心部材25a,25bは、偏心運動による遠心力で発生する振動を互いに打ち消し合うために、180°位相を変えて設けられている。
【0037】
偏心部材25a,25bの外周には、公転部材としての曲線板26a,26bがそれぞれ回転自在に保持される。波状に屈曲した形状である曲線板26a,26bの外周部は、外周係合部材としての複数の外ピン27が係合する。外ピン27は減速部ケーシング22bの内周に取り付けられる。曲線板26a,26bの隙間には、これら曲線板26a,26bの傾きを防止するセンターカラー29が設けられる。
【0038】
減速部ケーシング22bは、モータ部ケーシング22aよりも小さな径の円筒形状であり、軸線O方向他方(図1の右方)でモータ部ケーシング22aの一端と結合し、軸線O方向一方(図1の左方)で車輪ハブ軸受部ケーシング22cの他端と結合する。これらケーシング22a,22b,22cは1つのケーシング22を構成する。ケーシング22は、前述した転がり軸受36aや、後述する車輪ハブ軸受33等の各種軸受を介してケーシング22内部の回転要素を回転自在に支持する。したがって減速部ケーシング22bの内周は、後述する曲線板26a,26b等の回転要素と離隔しており、回転要素と接触しない。
【0039】
減速部Bの出力軸28は、回転軸線Oに一致して減速部Bから軸線O方向一方へ突出して車輪ハブ軸受部Cまで延在し、フランジ部28aと軸部28bとを有する。減速部Bに配置されるフランジ部28aの端面には、出力軸28の回転軸線Oを中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。車輪ハブ軸受部Cに配置される軸部28bの外周面には、車輪ハブ32が連結固定されている。減速部Bの出力軸28および車輪ハブ軸受部Cの車輪ハブ32は、一体回転することから、車輪側回転部材とも称する。フランジ部28aに植設された内ピン31は、軸線O方向他方へ向かって突出し、先端部が曲線板26a,26bの径方向中央領域と係合する。フランジ部28aの中心穴28cは、入力軸25の一方端部を受け入れるとともに、転がり軸受36cを介して入力軸25の一端を相対回転自在に支持する。
【0040】
図2を参照して、曲線板26aは、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30a,30bを有する。貫通孔30aは、曲線板26aの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、曲線板26aの外周縁と内周縁との間になる径方向中央領域に形成されて、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26aの中心(自転軸心)に設けられており、曲線板26aの内周になる。曲線板26aは、偏心部材25aの外周に相対回転可能に取り付けられる。
【0041】
すなわち曲線板26aは、転がり軸受41によって偏心部材25aに対して回転自在に支持されている。この転がり軸受41は、内周面が偏心部材25aの外周面に嵌合し、外周面に内側軌道面42aを有する内輪部材42と、曲線板26aの貫通孔30bの内周面に直接形成された外側軌道面43と、内側軌道面42aおよび外側軌道面43の間に配置される複数の円筒ころ44と、周方向で隣り合う円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。あるいは深溝玉軸受であってもよい。内輪部材42は、円筒ころ44が転走する内輪部材42の内側軌道面42aを軸線方向に挟んで向かい合う1対の鍔部をさらに有し、円筒ころ44を1対の鍔部間に保持する。曲線板26bについても同様である。
【0042】
外ピン27は、入力軸25の回転軸線Oを中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。外ピン27は、軸線Oと平行に延び、その両端が、ケーシング22のうち減速部Bを収容する減速部ケーシング22bの内壁面に嵌合固定されている外ピン保持部45に保持されている。より具体的には、外ピン27の軸線O方向両端部が、外ピン保持部45に取り付けられた針状ころ軸受27aによって回転自在に支持されている。
【0043】
曲線板26a,26bが入力軸25の回転軸線Oを中心に公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。また外ピン27の両端に設けられた針状ころ軸受27aにより、外ピン27が曲線板26a,26bの外周面に当接する際、曲線板26a,26bとの摩擦抵抗が低減される。
【0044】
運動変換機構は、出力軸28のフランジ部28aに植設された内側係合部材としての複数の内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成される。内ピン31は、出力軸28の回転軸線を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、出力軸28の軸線と平行に延び、内ピン31の基端が出力軸28に固定されている。また内ピン31の外周には中空円筒体および針状ころからなる針状ころ軸受31aが設けられている。かかる針状ころ軸受31aにより、内ピン31が曲線板26a,26bの貫通孔30aの内周面に当接する際、曲線板26a,26bとの摩擦抵抗が低減される。
【0045】
内ピン31の先端には、内ピン31を補強する内ピン補強部材31bが圧入で連結固定されている。内ピン補強部材31bは、複数の内ピン31先端同士を連結する円環形状のフランジ部31cと、フランジ部31cの内径部と結合し内ピン31から離れるよう軸線方向に延びる円筒形状の筒状部31dとを含む。複数の内ピン31を補強する内ピン補強部材31bは、曲線板26a,26bから一部の内ピン31に負荷された荷重を全ての内ピン31に均一に分散する。
【0046】
内ピン31は、曲線板26a,26bのうち外周部と入力軸25の軸線との間の径方向部位に設けられた貫通孔30aを貫通する。貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられる。また、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受31aを含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。したがって、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aを貫通して延びる内ピン31は、貫通孔30aとそれぞれ係合する内側係合部材になる。
【0047】
筒状部31dは、潤滑油ポンプ51を駆動結合する。複数の内ピン31が出力軸28とともに回転すると、内ピン31に連れ回される筒状部31dが潤滑油ポンプ51を駆動する。ケーシング22の内部に設けられる潤滑油ポンプ51は、モータ部Aの出力によって駆動され、インホイールモータ駆動装置21の内部に潤滑油を循環させる。
【0048】
車輪ハブ軸受部Cは、出力軸28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を回転自在に支持する車輪ハブ軸受部ケーシング22cと、車輪ハブ32を車輪ハブ軸受部ケーシング22cに対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受33とを有する。また、車輪ハブ軸受部Cは、減速部Bの軸線方向一方に配置される。これにより、モータ部A、減速部B、および車輪ハブ軸受部Cは、軸線Oに沿って同軸かつ直列に順次配置される。
【0049】
車輪ハブ軸受33は複列アンギュラ玉軸受であって、その内輪が車輪ハブ32の外周面に嵌合固定される。車輪ハブ軸受33の外側軌道面は、ケーシング22のうち略円筒形状の車輪ハブ軸受部ケーシング22cの内周面に形成される。車輪ハブ32は、出力軸28の一方端と結合する円筒形状の中空部32aと、減速部Bから遠い側の端部に形成されるフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって図示しない車輪のロードホイールが固定連結される。
【0050】
車輪ハブ軸受部ケーシング22cには、上部連結部材61および下部連結部材62が固定される。上部連結部材61は、ケーシング22に固定された根元側61nから軸線Oよりも外径方向へ突出する腕状の連結部材である。そして上部連結部材61の先端側は、図示しない車体側メンバと連結固定されるための連結部63を有する。連結部63は、ケーシング22よりも上方に位置し、上側連結部65uおよび下側連結部65lを含む。
【0051】
根元側61nよりも内径側には、車輪ハブ軸受部ケーシング22cから減速部Bに向かって軸線O方向に突出するケーシング突出部22dが挿通される。ケーシング突出部22dの先端は、減速部ケーシング22bと嵌合する。ケーシング突出部22dは、軸線Oを中心とする円筒形状である。あるいはケーシング突出部22dは、軸線Oを中心として周方向に間隔を開けて配置される。車輪ハブ軸受部ケーシング22cは、ケーシング突出部22dよりも外径方向に突出するケーシングフランジ部22fを有する。連結部材61の根元側61nは、ケーシング突出部22dの外周面とケーシングフランジ部22fとにそれぞれ突き当てられて、車輪ハブ軸受部ケーシング22cに固定される。
【0052】
下部連結部材62は、ケーシング22に固定された根元側62nから軸線Oよりも外径方向へ突出する腕状の連結部材である。そして下部連結部材62の先端側は、図示しない車体側メンバと連結固定されるための連結部64を有する。連結部64は、ケーシング22よりも下方に位置する。下部連結部材62の根元側62nは、ケーシング突出部22dの外周面とケーシングフランジ部22fとにそれぞれ突き当てられて、車輪ハブ軸受部ケーシング22cに固定される。
【0053】
図1に示す実施例では、上部連結部材61および下部連結部材62がストラット部材およびロアアームを有する公知のストラット式サスペンション装置に取り付けられる。具体的には、上部連結部材61の上側連結部65uおよび下側連結部65lが、上下方向に延びる図示しないストラット部材の下端部に連結固定される。一例としてストラット部材は伸縮自在であり、ストラット部材の上端は車体側に連結される。なおストラット部材がやや傾斜して上下方向に延びる場合、図1に示すように、上側連結部65uの軸線O方向位置と下側連結部65lの軸線O方向位置とを異ならせる。これにより、傾斜して延びるストラット部材にも好適に取り付けられる。
【0054】
また、下部連結部材62の連結部64が、車幅方向に延びる図示しないロアアームの遊端に連結される。連結にはボールジョイントが利用可能である。一例としてロアアームは上下方向に揺動可能であり、ロアアームの基端は車体側に連結される。
【0055】
図1に示す実施例によれば、インホイールモータ駆動装置21が車体側メンバに連結される連結部材として上部連結部材61および下部連結部材62を備える。これにより、インホイールモータ駆動装置21は、車輪ハブ32に連結固定される車輪とともに、車体に懸架される。
【0056】
車体を支持する車輪が受け持つ輪荷重は、車体側から上側連結部65uおよび下側連結部65lを経由し、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと、車輪ハブ軸受33と、車輪ハブ32とを順次介して支えられる。これにより、モータ部Aおよび減速部Bに輪荷重が入力されない。また、急激な加減速や路面の凹凸による外力も、モータ部Aおよび減速部Bに入力されない。したがって、モータ部Aおよび減速部Bの変形を好適に防止することができる。さらに、モータ部ケーシング22aおよび減速部ケーシング22bに薄肉部材を使用するなどしてインホイールモータ駆動装置21の軽量化を図ることができる。この結果、サスペンション装置のばね下重量を軽減して車両の乗り心地性能を向上させることができる。
【0057】
また図1に示す実施例によれば、インホイールモータ駆動装置21が、軸線Oよりも上部に配置される上部連結部材61と、軸線Oよりも下部に配置される下部連結部材62とを備えることから、ストラット式サスペンションに好適に取り付けられる。
【0058】
また図1に示す実施例によれば、車輪ハブ軸受部ケーシング22cは、減速部ケーシング22bへ向かって突出するケーシング突出部22dを有し、減速部ケーシング22cは、ケーシング突出部22dと嵌合する。そして、連結部材61,62は、ケーシング突出部22dよりも外径側で、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと減速部ケーシング22bとの間に介挿される。これにより、ケーシング22全体を強固にしてインホイールモータ駆動装置21の剛性を高めることが可能になる。
【0059】
図3を参照して、上部連結部材61の根元側61nの端部は、ケーシング突出部22dと面接触する内径側の内周面61iと、車輪ハブ軸受部ケーシング22cのケーシングフランジ部22fと面接触する軸線方向一方端面61cと、減速部ケーシング22bと接触する軸線方向他方端面61bとを有する。端面61bおよび端面61cは平面である。そして、内周面61iと端面61cの境界部分に面取り61eが形成される。面取り61eは、一例として、互いに直交する端面61cと内周面61iとを滑らかに接続するよう、丸みを帯びた形状である。
【0060】
図3に示す実施例によれば、内径側の内周面61iと車輪ハブ軸受部ケーシング22cと接触する端面61cとの境界部分に面取り61eが形成されることから、輪荷重の応力が上側連結部材61の根元側61nの端部に集中しないよう緩和することができる。
【0061】
また、内径側の内周面61iと減速部ケーシング22bと接触する端面61bとの境界部分に面取り61fが形成される。面取り61fによれば、減速部ケーシング22bと車輪ハブ軸受部ケーシング22cとの間で作用する応力が上側連結部材61の根元側61nの端部に集中しないよう緩和することができる。
【0062】
上部連結部材61および下部連結部材62は、根元側61nおよび62nで一体結合し、根元部61n,62nに共通する貫通孔65を有する。内周面61iは、貫通孔65の内周面を構成する。そして出力軸28および車輪ハブ32は、貫通孔65を通過する。
【0063】
本実施例によれば、連結部材が根元部に貫通孔65を有することから、連結部材の根元部をリング形状にすることができる。しかも、出力軸28が通過することから、根元部の全周を隣接するケーシング22に結合することが可能になる。したがって、ケーシング22と連結部材61,62との結合箇所の剛性を高くすることができる。
【0064】
あるいは変形例として、上部連結部材61および下部連結部材62が別体であってもよい。変形例では、車輪ハブ軸受部ケーシング22cのうち減速部ケーシング22bと対面する端部に、車輪ハブ軸受部ケーシング22cの外周面から内径側に向かって延びる切り欠き部を有する。切り欠き部は上部および下部にそれぞれ形成される。そして、連結部材61,62の根元部61n,62nは、切り欠き部とそれぞれ嵌合する。
【0065】
かかる変形例によれば、車輪ハブ軸受部ケーシング22cの外周面から内径側に向かって延びる切り欠き部を設けて、連結部材61および連結部材62の根元部を嵌合させる場合、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと連結部材61,62との結合箇所の剛性を高くすることができる。なお、減速部ケーシング22bに同様の切り欠き部を設けてもよい。
【0066】
上記構成のインホイールモータ駆動装置21の作動原理を詳しく説明する。
【0067】
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。
【0068】
これにより、ロータ24に接続されたモータ回転軸35は回転を出力し、モータ回転軸35および入力軸25が回転すると、曲線板26a,26bは入力軸25の回転軸線Oを中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a,26bの曲線形状の波形と転がり接触するよう係合して、曲線板26a,26bを入力軸25の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0069】
貫通孔30aに挿通される内ピン31は、貫通孔30aの内径よりも十分に細く、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの孔壁面と当接する。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが出力軸28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。かくして、貫通孔30aおよび内ピン31は運動変換機構としての役目を果たす。
【0070】
この運動変換機構を介して、入力軸25と同軸に配置された出力軸28は、曲線板26a,26bの自転を減速部Bの出力として取り出す。この結果、入力軸25の回転が減速部Bによって減速されて出力軸28に伝達される。したがって、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、駆動輪に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0071】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZ、曲線板26a,26bの波形の数をZとすると、(Z−Z)/Zで算出される。図2に示す実施例では、Z=12、Z=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0072】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができるサイクロイド減速機構を減速部Bに採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。
【0073】
次に本発明の変形例を説明する。図4は本発明の変形例を示す縦断面図である。この変形例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この変形例では、根元部61nが車輪ハブ軸受部ケーシング22cと減速部ケーシング22bとの間に介挿されて、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと減速部ケーシング22bとは互いに離隔する。上部連結部材61および下部連結部材62は根元部61nで互いに一体結合する。
【0074】
図4に示す変形例では、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと減速部ケーシング22bとが互いに離隔することから、図1に示す実施例と比較してケーシング突出部22dを省略して、車輪ハブ軸受部ケーシング22cの軸線寸法を短くすることができる。そして、輪荷重が車輪ハブ軸受部ケーシング22cと連結部材61,62を経由し、減速部ケーシング22bを全く経由しない。したがって、モータ部Aおよび減速部Bには輪荷重が入力せず、モータ部Aおよび減速部Bの変形を好適に防止することができる。
【0075】
また図4に示す変形例では、図1に示す実施例と比較して、出力軸28に形成されてフランジ部28aから軸部28bへ向かって延びる中心穴28cを軸線方向に長くする。具体的には、少なくとも根元側61n,62nの軸線方向位置まで中心穴28cの穴底を深くする。かかる変形例によれば、出力軸28のうち軸線O方向における少なくとも一箇所が中空になることから、出力軸28の重量を軽くすることが可能となり、腕状の連結部材61,62を付設したことによるインホイールモータ駆動装置21の重量増加を解消することができる。
【0076】
また図4に示す変形例では、連結部材61,62と車輪ハブ軸受部ケーシング22cとの接触面にインロー部を設ける。根元部61nは、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと減速部ケーシング22bとの間に介挿されて、これら車輪ハブ軸受部ケーシング22cの軸線方向減速部B側の端面と連結部材61,62の端面61cが互いに面接触する。
【0077】
かかる面接触は、軸線Oに対し直角な平面である。そして端面61cのうち外径側の平面61coと内径側の平面61ciとの間に段差61cdを伴う。すなわち面接触する端面61cは、2段の平面61coおよび平面61ciを含む。車輪ハブ軸受部ケーシング22cの端面にも、対応する段差および2段の平面が形成される。
【0078】
図4に示す変形例では、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと根元部61nとの接触面にインロー部を設けることから、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと連結部材61,62との結合を強固にすることができる。また、インホイールモータ駆動装置21の組立作業において、連結部材61,62の位置決めが容易となり、組立作業の効率化を図ることができる。
【0079】
次に本発明の他の実施例を説明する。図5は本発明の他の実施例を示す縦断面図である。他の実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。他の実施例では、上部連結部材61先端の連結部63を1個とする。そして、減速部ケーシング22bは、車体側メンバと連結固定するための連結部71を外周に有する、連結部71は、軸線Oよりも上方かつ軸線O方向中央部に設けられる。
【0080】
図5に示す実施例では、上部連結部材61、下部連結部材62、および連結部71がアッパアーム、ロアアーム、およびショックアブソーバを有する公知のダブルウィッシュボーン式サスペンション装置に取り付けられる。具体的には、上部連結部材61の連結部63が、車幅方向に延びる図示しないアッパアームの遊端に連結される。連結にはボールジョイントが利用可能である。一例としてアッパアームは上下方向に揺動可能であり、アッパアームの基端は車体側に連結される。
【0081】
また、下部連結部材62の連結部64が、車幅方向に延びる図示しないロアアームの遊端に連結される。連結にはボールジョイントが利用可能である。一例としてロアアームは上下方向に揺動可能であり、ロアアームの基端は車体側に連結される。
【0082】
また連結部71が上下方向に延びる図示しないショックアブソーバの下端部に連結される。連結にはボールジョイントが利用可能である。一例としてショックアブソーバの上端は車体側に連結される。
【0083】
図5に示す実施例によれば、インホイールモータ駆動装置21が車体側メンバに連結される連結部材として上部連結部材61、下部連結部材62、および連結部71を備える。これにより、インホイールモータ駆動装置21は、車輪ハブ32に連結固定される車輪とともに、車体に懸架される。
【0084】
車体を支持する車輪が受け持つ輪荷重は、車体側から上部連結部材61、下部連結部材62、および連結部71を経由し、減速部ケーシング22bと、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと、車輪ハブ軸受33と、車輪ハブ32とを順次介して支えられる。これにより、モータ部Aに輪荷重が入力されない。また、急激な加減速や路面の凹凸による外力も、モータ部Aに入力されない。したがって、モータ部Aの変形を好適に防止することができる。さらに、モータ部ケーシング22aに薄肉部材を使用するなどしてインホイールモータ駆動装置21の軽量化を図ることができる。この結果、サスペンション装置のばね下重量を軽減して車両の乗り心地性能を向上させることができる。
【0085】
また図5に示す実施例によれば、インホイールモータ駆動装置21が、軸線Oよりも上部に配置される上部連結部材61と、軸線Oよりも下部に配置される下部連結部材62とを備えるだけでなく、減速部ケーシング22bが車体側メンバと連結するための連結部71を外周に有することから、ダブルウィッシュボーン式サスペンションに好適に取り付けられる。
【0086】
次に本発明のさらに他の実施例を説明する。図6は本発明のさらに他の実施例を示す縦断面図である。さらに他の実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。さらに他の実施例では、上部連結部材61を備えておらず、連結部材として下部連結部材62を備える。そして、減速部ケーシング22bは、車体側メンバと連結固定するための連結部71を外周に有する、連結部71は、軸線Oよりも上方かつ軸線O方向中央部に設けられる。
【0087】
図6に示す実施例では、下部連結部材62および連結部71がトレーリングアームおよびショックアブソーバを有する公知のトレーリングアーム式サスペンション装置に取り付けられる。具体的には、下部連結部材62の連結部64が、車両前後方向に延びる図示しないトレーリングアームの遊端に連結される。連結にはボールジョイントが利用可能である。一例としてトレーリングアームは上下方向に揺動可能であり、トレーリングアームの基端は車体側に連結される。
【0088】
また連結部71が上下方向に延びる図示しないショックアブソーバの下端部に連結される。連結にはボールジョイントが利用されてもよい。一例としてショックアブソーバの上端は車体側に連結される。
【0089】
図6に示す実施例によれば、インホイールモータ駆動装置21が車体側メンバに連結される連結部材として下部連結部材62および連結部71を備える。これにより、インホイールモータ駆動装置21は、車輪ハブ32に連結固定される車輪とともに、車体に懸架される。
【0090】
車体を支持する車輪が受け持つ輪荷重は、車体側から下部連結部材62および連結部71を経由し、減速部ケーシング22bと、車輪ハブ軸受部ケーシング22cと、車輪ハブ軸受33と、車輪ハブ32とを順次介して支えられる。これにより、モータ部Aに輪荷重が入力されない。また、急激な加減速や路面の凹凸による外力も、モータ部Aに入力されない。したがって、モータ部Aの変形を好適に防止することができる。さらに、モータ部ケーシング22aに薄肉部材を使用するなどしてインホイールモータ駆動装置21の軽量化を図ることができる。この結果、サスペンション装置のばね下重量を軽減して車両の乗り心地性能を向上させることができる。
【0091】
また図6に示す実施例によれば、インホイールモータ駆動装置21が、軸線Oよりも下部に配置される下部連結部材62を備えるだけでなく、減速部ケーシング22bが車体側メンバと連結するための連結部71を外周に有することから、トレーリングアーム式サスペンションに好適に取り付けられる。
【0092】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【0093】
例えば図には示さなかったが、上述した連結部材61,62の根元部は、モータ部ケーシング22aと減速部ケーシング22bとの間に介挿固定されてもよい。かかる実施例によっても、モータ部Aに輪荷重が入力されず、モータ部Aの変形を好適に防止することができる。
【0094】
また、連結部材61,62は、根元部と先端部との間の中央領域にブレーキキャリパを取り付け固定するための座部を有してもよい。ブレーキキャリパは車輪ハブ32に連結固定される図示しないブレーキディスクを制動する。これにより、連結部材61,62にブレーキキャリパを連結固定することが可能となり、ブレーキキャリパのレイアウト配置に資することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
この発明になるインホイールータ駆動装置は、電気自動車およびハイブリッド車両において有利に利用される。
【符号の説明】
【0096】
21 インホイールータ駆動装置、22 ケーシング、22a モータ部ケーシング、22b 減速部ケーシング、22c 車輪ハブ軸受部ケーシング、22d ケーシング突出部、23 ステータ、24 ロータ、25 入力軸、25a,25b 偏心部材、26a,26b 曲線板、27 外ピン、28 出力軸、28c 中心穴、31 内ピン、32 車輪ハブ、33 車輪ハブ軸受、35 モータ回転軸、61 上部連結部材、62 下部連結部材、61n 根元部 63,64 連結部、65 貫通孔、71 連結部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ回転軸と、外郭を形成するモータ部ケーシングとを有するモータ部と、
前記モータ回転軸の回転を減速して出力する出力軸と、外郭を形成する減速部ケーシングとを有し、前記モータ部の軸線方向一方に配置される減速部と、
前記出力軸に連結固定される車輪ハブと、前記車輪ハブを回転自在に支持する車輪ハブ軸受部ケーシングとを有し、前記減速部の軸線方向一方に配置される車輪ハブ軸受部と、
根元側が前記車輪ハブ軸受部ケーシングおよび前記減速部ケーシングの少なくとも一方に固定され、先端側が外径方向へ突出して車体側メンバに連結されるための連結部を有する連結部材とを備える、インホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記連結部材は、軸線よりも上部に配置される上部連結部材と、軸線よりも下部に配置される下部連結部材とを含む、請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記減速部ケーシングは、車体側メンバに連結されるための連結部を外周に有する、請求項2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記連結部材は、軸線よりも下部に配置される下部連結部材を含み、
前記減速部ケーシングは、車体側メンバに連結されるための連結部を外周に有する、請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記車輪ハブ軸受部ケーシングおよび前記減速部ケーシングの一方は、他方へ向かって突出するケーシング突出部を有し、前記車輪ハブ軸受部ケーシングおよび前記減速部ケーシングの他方は、前記ケーシング突出部と嵌合し、
前記連結部材は、前記ケーシング突出部よりも外径側で、前記車輪ハブ軸受部ケーシングと前記減速部ケーシングとの間に介挿固定される、請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記連結部材は、根元側端部のうち、前記ケーシング突出部と接触する内径側の面と前記車輪ハブ軸受部ケーシングと接触する軸線方向一方面との境界部分に面取りが形成される、請求項5に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記車輪ハブ軸受部ケーシングおよび前記減速部ケーシングの一方は、残る他方と対面する端部に、当該一方ケーシングの外周面から内径側に向かって延びる切り欠き部を有し、
前記連結部材の根元部は、前記切り欠き部と嵌合する、請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記連結部材は、根元部に貫通孔を有し、前記出力軸または前記入力軸が前記貫通孔を通過する、請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記連結部材の根元部は、車輪ハブ軸受部ケーシングと前記減速部ケーシングとの間に介挿されて、前記車輪ハブ軸受部ケーシングと前記減速部ケーシングとを互いに離隔する、請求項8に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項10】
前記出力軸は、軸線方向における少なくとも一箇所が中空である、請求項1〜9のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項11】
前記連結部材は、前記車輪ハブ軸受部ケーシングと前記減速部ケーシングとの間に介挿されて、これら車輪ハブ軸受部ケーシングと連結部材とが互いに面接触し、
前記面接触は、軸線に対し直角な平面であって、外径側の前記平面と内径側の前記平面との間に段差を伴う2段の平面を含む、請求項1〜10のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項12】
前記連結部材は、根元部と先端部との間の中央領域にブレーキキャリパを取り付け固定するための座部を有する、請求項1〜11のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項13】
前記減速部は、前記モータ回転軸に連結固定される入力軸と、
前記入力軸の端部に該入力軸の回転軸線から偏心して結合した円盤形状の偏心部材と、
内周が前記偏心部材の外周に相対回転可能に取り付けられ、前記入力軸の回転に伴って前記回転軸線を中心とする公転運動を行う公転部材と、
前記公転部材の外周部に係合して前記公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、
前記公転部材の自転のみを取り出して前記出力軸に伝達する運動変換機構とをさらに有し、前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するサイクロイド減速機構である、請求項1〜12のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項14】
前記運動変換機構は、前記公転部材に、自転軸心を中心として周方向等間隔に形成される複数の孔と、
前記出力軸の端部に、出力軸の軸線を中心として周方向等間隔に設けられ、前記孔とそれぞれ係合する複数の内側係合部材とで構成される、請求項13に記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105068(P2011−105068A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260012(P2009−260012)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】