説明

インライン式成膜装置及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】キャリアに保持された基板に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う際に処理ムラが生じることを防止したインライン式成膜装置を提供する。
【解決手段】キャリアは、基板を内側に配置する孔部29が設けられたホルダ27と、ホルダ27の孔部29の周囲に弾性変形可能に取り付けられた複数の支持部材30とを備え、複数の支持部材30に基板の外周部を当接させながら、これら支持部材30の内側に嵌め込まれた基板を着脱自在に保持することが可能であり、キャリアに保持された基板に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うチャンバ内において、ホルダ27が接地されると共に、複数の支持部材30の内側には、外径が100mm以下である円盤状の基板が嵌め込まれ、なお且つ、この基板とホルダ27の孔部29との間に形成される隙間Sが、半径方向に少なくとも11mm以上ある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアに保持された基板を複数のチャンバの間で順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置及びこのインライン式成膜装置を用いた磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特に、MRヘッドやPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇は更に激しさを増し、近年ではGMRヘッドやTMRヘッドなども導入されて、1年に約100%ものペースで増加を続けている。
【0003】
これらの磁気記録媒体については、今後更に高記録密度を達成することが要求されている。このため、磁性層の高保磁力化、高信号対雑音比(SNR)、及び高分解能を達成することが要求されている。また、近年では線記録密度の向上と同時にトラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0004】
最新の磁気記録装置においては、トラック密度110kTPIにも達している。しかしながら、トラック密度を上げていくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となりSNRを損なうという問題が生じ易くなっており、このことはそのままビット・エラー・レートの低下につながるため、記録密度の向上に対して障害となっている。
【0005】
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットに可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。その一方で、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じてしまう。
【0006】
また、トラック密度を上げていくと、トラック間距離が近づくために、磁気記録装置では極めて高精度のトラックサーボ技術が要求されると同時に、記録を幅広く実行し、再生は隣接トラックからの影響をできるだけ排除するために記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。しかしながら、この方法ではトラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を十分得ることが困難であり、その結果十分なSNRを確保することが難しいという問題がある。
【0007】
このような熱揺らぎの問題やSNRの確保、十分な出力の確保を達成する方法の一つとして、記録媒体表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラック同士を物理的に分離することによってトラック密度を上げようとする試みがなされている。このような技術は、一般にディスクリートトラック法と呼ばれており、それによって製造された磁気記録媒体のことをディスクリートトラック媒体と呼んでいる。また、同一トラック内のデータ領域を更に分割した、いわゆるパターンドメディアを製造しようとする試みもある。
【0008】
ディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンを形成した非磁性基板に磁気記録媒体を形成して、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンを形成してなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0009】
この磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成されており、その表面に保護膜を形成したものである。この磁気記録媒体では、凸部領域に周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。
【0010】
この磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体を形成できるとされている。
【0011】
ディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、予め基板表面に直接、或いはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2,3を参照。)。
【0012】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、予め形成した磁性層に窒素、酸素等のイオンを注入し、または、レーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させて形成する方法が開示されている(例えば、特許文献4〜6を参照。)。
【0013】
また、ディスクリートトラック媒体の製造方法としては、例えば、非磁性基板の上に、軟磁性層、中間層、記録磁性層等を形成した後、その表面にフォトリソグラフィー技術を用いて磁気記録領域を形成するためのマスク層を形成し、記録磁性層のうちマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ等に曝して該箇所の磁気特性を改質し、マスク層を除去し、その上に保護層及び潤滑剤膜を形成する方法がある。
【0014】
この製造方法の場合、なるべく1つの成膜装置を用いて連続的に行うことが、ハンドリングに際して基板が汚染されることを防ぎ、またハンドリング工程等を少なくして製造工程を効率化や製品歩留まりを良くし磁気記録媒体の生産性を高める上で好ましい。
【0015】
そこで、このようなディスクリートトラック媒体の製造に際し、複数枚の非磁性基板を保持したキャリアを複数のチャンバの間で順次搬送させながら、これら非磁性基板の両面に、軟磁性層、中間層、記録磁性層、及び保護層を順次成膜するインライン式成膜装置を用いることが提案されている(例えば、特許文献7を参照。)。
【0016】
なお、プラズマエッチング装置の中には、可動式基板支持部材にクランプされた被エッチング基板が被エッチング基板面鉛直方向に可動することで、被エッチング基板を装着した可動式基板支持部材を、バイアス電圧を印加した電極側に密着させ、被エッチング基板に効率よくバイアスを印加しながら、基板の両面を同時に処理するものもある(例えば、特許文献8を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【特許文献7】特開平8−274142号公報
【特許文献8】特開2008−153249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、上述したインライン式成膜装置を用いてディスクリートトラック媒体を製造する場合には、記録磁性層を成膜した後に、この記録磁性層の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所に反応性プラズマ処理又はイオン照射処理に行うことによって、記録磁性層の一部の磁気特性を改質し、残存した磁性体からなる磁気記録パターンを形成することが行われる。
【0019】
しかしながら、このようなインライン式成膜装置では、キャリアに保持された非磁性基板の記録磁性層に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行った際に処理ムラが生じることがあった。
【0020】
具体的に、図16に示す従来のキャリア400は、非磁性基板Dを内側に配置する孔部401aが設けられたホルダ401と、ホルダ401の孔部401aの周囲に弾性変形可能に取り付けられた複数の支持部材402とを備えている。そして、このキャリア400では、複数の支持部材402に非磁性基板Dの外周部を当接させながら、これら支持部材402の内側に嵌め込まれた非磁性基板Dを着脱自在に保持することが可能となっている。
【0021】
上述した処理ムラは、この支持部材402に当接された非磁性基板Dの外周付近に発生する。これは、上述した反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を、チャンバ内のプラズマ発生装置により発生させたイオンをマイナス電位が印加された非磁性基板に加速衝突させることにより行うが、マイナス電位は非磁性基板Dの外周部に当接される複数の支持部材を介して供給されるため、非磁性基板Dと支持部材との間で接触抵抗が生じ、この非磁性基板に加わるバイアス電圧に分布が生じ、また、場合によっては接触部分にアーキングが発生するためと考えられる。
【0022】
そこで、本発明は、このような従来の問題を解決するために提案されたものであり、キャリアに保持された基板に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う際に処理ムラが生じることを防止したインライン式成膜装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのようなインライン式成膜装置を用いて、磁気記録媒体の生産性を高めると共に、キャリアに保持された非磁性基板の記録磁性層に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う際の処理ムラの発生を防止することで、ディスクリートトラック媒体等の磁気記録パターンを有する磁気記録媒体の更なる品質の向上を可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 成膜処理を行う複数のチャンバと、
前記複数のチャンバ内で成膜対象となる基板を保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数のチャンバの間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記キャリアは、前記基板を内側に配置する孔部が設けられたホルダと、前記ホルダの孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた複数の支持部材とを備え、前記複数の支持部材に前記基板の外周部を当接させながら、これら支持部材の内側に嵌め込まれた基板を着脱自在に保持することが可能であり、
前記複数のチャンバのうち少なくとも1つは、前記キャリアに保持された基板の両面に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を同時に行うチャンバであって、このチャンバ内のホルダが接地されると共に、前記複数の支持部材の内側には、外径が100mm以下である円盤状の基板が嵌め込まれ、なお且つ、この基板と前記ホルダの孔部との間に形成される隙間が、半径方向に少なくとも11mm以上あることを特徴とするインライン式成膜装置。
(2) 前記キャリアに保持された基板の両面に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を同時に行う際には、前記基板に対応した位置に開口部を有するリング部材が、前記キャリアに保持された基板の少なくとも一方又は両方の面に対向して配置され、なお且つ、このリング部材にマイナス電位が印加されることを特徴とする請求項1に記載のインライン式成膜装置。
(3) 前記リング部材には、前記開口部を覆うメッシュ部材が取り付けられていることを特徴とする前項(2)に記載のインライン式成膜装置。
(4) 前記複数の支持部材の先端部には、前記基板の外周部が係合される溝部が設けられていることを特徴とする前項(1)〜(3)の何れか一項に記載のインライン式成膜装置。
(5) 前項(1)〜(4)の何れか一項に記載のインライン式成膜装置を用いて、前記キャリアに保持された非磁性基板を前記複数のチャンバの間で順次搬送させながら、この非磁性基板の両面に、少なくとも軟磁性層、中間層、記録磁性層、及び保護層を順次成膜する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記記録磁性層を成膜した後に、前記反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うチャンバにおいて、前記リング部材にマイナス電位を印加すると共に、前記ホルダを接地した状態で、前記ホルダに保持された非磁性基板の記録磁性層に対して、前記反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うことによって、前記記録磁性層の一部の磁気特性を改質し、残存した磁性体からなる磁気記録パターンを形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、キャリアに保持された基板に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う際の処理ムラの発生を防止したインライン式成膜装置を提供することが可能である。したがって、このようなインライン式成膜装置を用いた場合には、磁気記録媒体の生産能力を高めると共に、高品質の磁気記録媒体を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明を適用して製造される磁気記録媒体の他例を示す断面図である。
【図3】磁気記録再生装置の一例を示す断面図である。
【図4】本発明を適用したインライン式成膜装置の構成を示す平面図である。
【図5】本発明を適用したインライン式成膜装置のキャリアを示す側面図である。
【図6】本発明を適用したインライン式成膜装置の要部を示す側面図である。
【図7】本発明を適用したインライン式成膜装置の要部を示す断面図である。
【図8】キャリアに保持された基板及びリング部材を示す平面図である。
【図9】リング部材にメッシュ部材が取り付けられた構成を示す平面図である。
【図10】本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を工程順に示す断面模式図である。
【図11】本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を工程順に示す断面模式図である。
【図12】本発明の実施形態である磁気記録媒体の製造方法を工程順に示す断面模式図である。
【図13】実施例1の磁気記録媒体を撮影した光学顕微鏡写真である。
【図14】比較例1の磁気記録媒体を撮影した光学顕微鏡写真である。
【図15】実施例1及び比較例1の磁気記録媒体のエッチング量の分布を示すグラフである。
【図16】従来のインライン式成膜装置のキャリアを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、複数の成膜室の間で成膜対象となる基板を順次搬送させながら成膜処理を行うインライン式成膜装置を用いて、ハードディスク装置に搭載される磁気記録媒体を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
(磁気記録媒体)
現在、磁気記録媒体としては、主にデスクトップパソコンに使用される外径3.5インチの円盤状のもの、ノートブックパソコンに使用される外径2.5インチのもの、パームトップパソコンやハンディータイプの録画機器等に使用される2インチ以下のものがある。本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、これらに使用される外径が100mm以下の円盤状の基板を対象とするものである。
【0028】
本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、例えば図1に示すように、非磁性基板80の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83及び保護層84が順次積層された構造を有し、更に最表面に潤滑膜85が形成されてなる。また、軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83によって磁性層810が構成されている。
【0029】
非磁性基板80としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0030】
その中でも、Al合金基板や、結晶化ガラス等のガラス製基板、シリコン基板を用いることが好ましく、また、これら基板の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5nm以下であり、その中でも特に0.1nm以下であることが好ましい。
【0031】
磁性層810は、面内磁気記録媒体用の面内磁性層でも、垂直磁気記録媒体用の垂直磁性層でもかまわないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。また、磁性層810は、主としてCoを主成分とする合金から形成するのが好ましい。例えば、垂直磁気記録媒体用の磁性層810としては、例えば軟磁性のFeCo合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCuなど)、FeTa合金(FeTaN、FeTaCなど)、Co合金(CoTaZr、CoZrNB、CoBなど)等からなる軟磁性層81と、Ru等からなる中間層82と、60Co−15Cr−15Pt合金や70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金からなる記録磁性層83とを積層したものを利用できる。また、軟磁性層81と中間層82との間にPt、Pd、NiCr、NiFeCrなどからなる配向制御膜を積層してもよい。一方、面内磁気記録媒体用の磁性層810としては、非磁性のCrMo下地層と強磁性のCoCrPtTa磁性層とを積層したものを利用できる。
【0032】
磁性層810の全体の厚さは、3nm以上20nm以下、好ましくは5nm以上15nm以下とし、磁性層810は使用する磁性合金の種類と積層構造に合わせて、十分なヘッド出入力が得られるように形成すればよい。磁性層810の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るにはある程度以上の磁性層の膜厚が必要であり、一方で記録再生特性を表す諸パラメーターは出力の上昇とともに劣化するのが通例であるため、最適な膜厚に設定する必要がある。
【0033】
保護層84としては、炭素(C)、水素化炭素(HC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO、Zr、TiNなど、通常用いられる保護層材料を用いることができる。また、保護層84は、2層以上の層から構成されていてもよい。保護層84の膜厚は、10nm未満とする必要がある。保護層84の膜厚が10nmを越えるとヘッドと記録磁性層83との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるからである。
【0034】
潤滑膜85に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等を挙げることができ、通常は1〜4nmの厚さで潤滑層85を形成する。
【0035】
このような磁気記録媒体の製造に際して、磁性層810に反応性プラズマ処理やイオン照射処理を施し、磁性層810の磁気特性の改質を行うことができる。例えば図2に示す本発明を適用して製造される磁気記録媒体は、上記記録磁性層83に形成された磁気記録パターン83aが非磁性領域83bによって分離されてなる、いわゆるディスクリート型の磁気記録媒体である。
【0036】
また、ディスクリート型の磁気記録媒体については、磁気記録パターン83aが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターン83aがトラック状に配置されたメディア、その他、磁気記録パターン83aがサーボ信号パターン等を含んでいてもよい。
【0037】
このようなディスクリート型の磁気記録媒体は、記録磁性層83の表面にマスク層を設け、このマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ処理やイオン照射処理等に曝すことによって記録磁性層83の一部の磁気特性を改質し、好ましくは磁性体から非磁性体に改質して、非磁性領域83bを形成することにより得られる。
【0038】
(磁気記録再生装置)
また、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置としては、例えば図3に示すようなハードディスク装置を挙げることができる。このハードディスク装置は、上記磁気記録媒体である磁気ディスク96と、磁気ディスク96を回転駆動させる媒体駆動部97と、磁気ディスク96に情報を記録再生する磁気ヘッド98と、ヘッド駆動部99と、記録再生信号処理系100とを備えている。そして、磁気再生信号処理系100は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド98に送り、磁気ヘッド98からの再生信号を処理してデータを出力する。
【0039】
(インライン式成膜装置)
上記磁気記録媒体を製造する際は、例えば図4に示すような本発明を適用したインライン式成膜装置(磁気記録媒体の製造装置)を用いて、成膜対象となる非磁性基板80の両面に、少なくとも軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83、保護層を順次積層し、磁性層810を形成する工程と、保護層84を形成する工程と、その上に潤滑剤膜85を形成する工程とを経ることによって、品質の高い磁気記録媒体を安定して得ることができる。
【0040】
具体的に、本発明を適用したインライン式成膜装置は、ロボット台1と、ロボット台1上に截置された基板カセット移載ロボット3と、ロボット台1に隣接する基板取付けロボット室2と、基板取付けロボット室2内に配置された基板取付けロボット34と、基板取付けロボット室2に隣接する基板取付け取外し室3Aと、キャリア25を回転させるコーナー室4、7、14、17と、各コーナー室4、7、14、17の間に配置された複数のチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20と、基板取付け取外し室3Aに隣接して配置された基板取外しロボット室22と、基板取外しロボット室22内に設置された基板取外しロボット49と、これら各室の間で搬送される複数のキャリア25とを有して概略構成されている。
【0041】
また、各室は、隣接する2つの壁部にそれぞれ接続されており、これら各室の接続部には、ゲートバルブ55〜72が設けられ、これらゲートバルブ55〜72が閉状態のとき、各チャンバ内は、それぞれ独立の密閉空間となる。
【0042】
また、各室には、それぞれ真空ポンプ(図示せず。)が接続されており、これらの真空ポンプの動作によって減圧状態となされた各室内に、後述する搬送機構によりキャリア25を順次搬送させながら、各室内において、キャリア25に保持された非磁性基板80の両面に、上述した軟磁性層81、中間層82及び記録磁性層83、及び保護層84を順次成膜することによって、最終的に上記図1に示す磁気記録媒体が得られるように構成されている。また、各コーナー室4、7、14、17は、キャリア25の移動方向を変更する室であり、その内部にキャリア25を回転させて次のチャンバに移動させる機構が設けられている。
【0043】
基板カセット移載ロボット3は、成膜前の非磁性基板80が収納されたカセットから、基板取り付け室2に非磁性基板80を供給するとともに、基板取付取外室3Aで取り外された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)を取り出す。この基板取付取外室3Aの一側壁には、外部に開放された開口と、この開口を開閉する51、54が設けられている。
【0044】
基板取付けロボット室2の内部では、基板取付けロボット34を用いて成膜前の非磁性基板80がキャリア25に保持される。一方、基板取外しロボット室22の内部では、基板取り外しロボット49を用いて、キャリア25に保持された成膜後の非磁性基板80(磁気記録媒体)が取り外される。
【0045】
ここで、上記図2に示すディスクリート型の磁気記録媒体を上記インライン式成膜装置を用いて製造する場合は、例えば、複数のチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20のうち、チャンバ6、8によってパターニングチャンバが構成されている。パターニングチャンバには、マスク層をパターニングする機構が備えられている。一方、チャンバ10、11、12によって改質チャンバが構成されている。改質チャンバには、記録磁性層83のうち、パターンニング後のマスク層によって覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行って非磁性体に改質させ、残存した磁性体からなる磁気記録パターン83aを形成する機構が備えられている。一方、チャンバ16、18によって除去チャンバが構成されている。除去チャンバには、マスク層を除去する機構が備えられている。一方、チャンバ19、20によって保護層形成チャンバが構成されている。保護層形成チャンバには、記録磁性層83上に保護層84を形成する機構が備えられている。
【0046】
また、各チャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、処理用ガス供給管が設けられ、供給管には、図示しない制御機構によって開閉が制御されるバルブが設けられ、これらバルブ及びポンプ用ゲートバルブを開閉操作することにより、処理用ガス供給管からのガスの供給、チャンバ内の圧力及びガスの排出が制御される。
【0047】
キャリア25は、図5及び図6に示すように、支持台26と、支持台26の上面に設けられた複数のホルダ27とを有している。これらホルダ27は、第1及び第2成膜用基板23、24が縦置き(基板23,24の主面が重力方向と平行となる状態)に保持されるように、すなわち第1及び第2成膜用基板23、24の主面が支持台26の上面に対して略直交し、且つ、略同一面上となるように、支持台26の上面に並列して設けられている。なお、本実施形態では、ホルダ27を2基搭載した構成のため、これらホルダ27に保持される2枚の非磁性基板80を、それぞれ第1成膜用基板23及び第2成膜用基板24として扱うものとする。
【0048】
各ホルダ27は、第1及び第2成膜用基板23,24の厚さの1〜数倍程度の厚さを有する板体28からなる。また、各ホルダ27には、保持された成膜用基板23、24の外周端面から半径方向に11mm以上の隙間Sを形成するように、これら成膜用基板23、24よりも大径となる円形状の孔部29が穿設されている。
【0049】
また、各ホルダ27の孔部29の周囲には、複数の支持部材30が弾性変形可能に取り付けられている。これら支持部材30は、孔部29の内側に配置された第1及び第2成膜用基板23,24の外周部を、その外周上の最下位に位置する下部側支点と、この下部側支点を通る重力方向に沿った中心線に対して対称となる外周上の上部側に位置する一対の上部側支点との3点で支持するように、ホルダ27の孔部29の周囲に120゜の角度範囲で等間隔に3つ並んで設けられている。
【0050】
これにより、キャリア25は、3つの支持部材30に第1及び第2成膜用基板23、24の外周部を当接させながら、これら支持部材30の内側に嵌め込まれた第1及び第2成膜用基板23、24を着脱自在にホルダ27に保持することが可能となっている。また、ホルダ27に対する第1及び第2成膜用基板23、24の着脱は、上記基板供給ロボット34又は基板取り外しロボット49が下部側支点の支持部材30を下方に押し下げることにより行われる。
【0051】
各支持部材30は、図6に示すように、L字状に折り曲げられたバネ部材からなり、その基端側がホルダ27に固定支持されると共に、その先端側が孔部29の内側に向かって突出された状態で、それぞれホルダ27の孔部29の周囲に形成されたスリット31内に配置されている。また、各支持部材30の先端部には、図7に示すように、それぞれ第1及び第2成膜用基板23,24の外周部が係合されるV字状の溝部30aが設けられている。
【0052】
上述したチャンバ5、6、8〜13、15、16、18〜20には、図7に示すように、キャリア25を挟んだ両側に2つの処理装置72がある。この場合、例えば、図5中の実線で示す第1処理位置にキャリア25が停止した状態において、このキャリア25の左側の第1成膜用基板23に対して成膜処理等を行い、その後、キャリア25が図5中の破線で示す第2処理位置に移動し、この第2処理位置にキャリア25が停止した状態において、キャリア25の右側の第2成膜用基板24に対して成膜処理等を行うことができる。
【0053】
なお、キャリア25を挟んだ両側に、それぞれ第1及び第2成膜用基板23、24に対向した4つの処理装置72がある場合は、キャリア25の移動は不要となり、キャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して同時に成膜処理等を行うことができる。
【0054】
インライン式成膜装置は、このようなキャリア25を搬送させる搬送機構として、例えば図6に示すようなキャリア25を非接触状態で駆動するリニアモータ駆動機構201を備えている。このリニアモータ駆動機構201は、キャリア25の下部に複数の磁石202をN極とS極とが交互に並ぶように配置し、その下方に隔壁203を介してN極とS極とが螺旋状に交互に並ぶ回転磁石204を搬送路に沿って配置し、キャリア25側の磁石202と回転磁石204とを非接触で磁気的に結合させながら、回転磁石204を軸回りに回転させることにより、キャリア25を搬送させる。
【0055】
ところで、本発明を適用したインライン式成膜装置は、図7及び図8に示すように、上述したキャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うチャンバ内に、処理ムラの発生を防止するためのリング部材32を備えている。
【0056】
このリング部材32は、例えば、ステンレスや、モリブデン、タングステン、タンタルなどからなり、キャリア25に保持された第1又は第2成膜用基板23、24板の両面に対向して一対配置されている。また、一対のリング部材32は、第1又は第2成膜用基板23、24に対応した位置に、これら基板23、24の外周より大径となされた円形状の開口部32aを有している。
【0057】
また、この改質チャンバには、リング部材32にマイナス電位を印加するバイアス電源301が設けられている。バイアス電源108は、−電極側が一対のリング部材32に、+電極側がホルダ27に接続された直流電源であり、改質処理時に一対のリング部材32にマイナス電位を印加する。また、ホルダ27は、接地導線302を介してグランドと接地されるようになっている。
【0058】
以上のような構造を有するインライン式成膜装置では、一対のリング部材32にマイナス電位を印加することによって、改質チャンバ内の処理装置72により発生させたイオンをリング部材32の開口部32aを通して第1又は第2成膜用基板23、24に加速衝突させることができる。一方、ホルダ27は接地されているため、第1及び第2成膜用基板23、24と支持部材30との接触部分にアーキングが発生することはない。特に、図8に示すように、複数の支持部材30の内側に保持された第1及び第2成膜用基板23,24と、ホルダ27の孔部29との間に形成される隙間Sを半径方向に少なくとも11mm以上設けることによって、キャリア25に保持された第1及び第2成膜用基板23、24に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う際の処理ムラの発生を防止することが可能である。
【0059】
また、本発明を適用したインライン式成膜装置では、図9に示すように、上述した処理ムラの発生を防止するため、更に開口部32aを覆うメッシュ部材33をリング部材32に取り付けた構成とすることも可能である。この場合、改質チャンバ内の処理装置72により発生させたイオンをリング部材32の開口部32a及びメッシュ部材33を通して第1又は第2成膜用基板23、24の面内に均一に加速衝突させることができる。したがって、この構成の場合、更に処理ムラの発生を防止することが可能である。なお、メッシュ部材33については、メッシュの間隔が5〜30mmの範囲のものを用いることが好ましい。
【0060】
以上のように、本発明によれば、キャリア25に保持された第1又は第2成膜用基板23、24に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う際の処理ムラの発生を防止したインライン式成膜装置を提供することが可能である。したがって、このようなインライン式成膜装置を用いた場合には、磁気記録媒体の生産能力を高めると共に、高品質の磁気記録媒体を製造することが可能である。
【0061】
(磁気記録媒体の製造方法)
本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法は、上記インライン式成膜装置を用いて、キャリア25に保持された第1又は第2成膜用基板23、24(非磁性基板80)を複数のチャンバ2、52、4〜20、54、3Aの間で順次搬送させながら、この非磁性基板80の両面に、軟磁性層81、中間層82、記録磁性層83により構成される磁性層810と、保護層84とを順次積層し、更に最表面に潤滑膜85を形成することによって、磁気記録媒体を製造する。
【0062】
そして、本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法は、記録磁性層83を成膜した後に、磁性層83の表面にマスクパターンを形成し、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行う改質チャンバにおいて、リング部材32にマイナス電位を印加すると共に、ホルダ27を接地した状態で、ホルダ27に保持された非磁性基板80の記録磁性層83に対して、反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うことによって、記録磁性層83の一部の磁気特性を改質し、好ましくは磁性体から非磁性体に改質して、残存した磁性体からなる磁気記録パターン83aを形成する工程を含むことを特徴とする。
【0063】
具体的に、本実施形態では、記録磁性層83と記録磁性層83をパターニングするマスク層とが少なくとも積層された非磁性基板80をキャリア25に装着する装着工程と、マスク層をパターニングするパターニング工程と、記録磁性層83のうち、パターン化マスク層に覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理またはイオン照射処理を行って非磁性体に改質することで、磁気記録パターン83aを形成する改質工程と、マスク層を除去する除去工程と、記録磁性層83上に保護層84を形成する保護層形成工程と、キャリアから非磁性基板80を取り外す取外し工程とをこの順で有し、改質工程、除去工程または保護層形成工程の何れか一つ以上の工程を複数のチャンバに分けて連続処理する。
【0064】
本実施形態の各工程の内、装着工程と取り外し工程は基板1枚当たり1秒程度の処理時間で行うことが可能であるが、改質工程、除去工程はそれぞれ数十秒程度、保護層形成工程は数秒から30秒程度の処理時間を要する。これらの工程を、各工程1つのチャンバで処理する場合は、改質工程及び除去工程が律速となり、他の工程を改質工程及び除去工程の速度に合わせる必要がある。
【0065】
本実施形態では、改質工程から保護層形成工程の中で処理速度が律速となる工程を複数のチャンバで処理することにより、各工程間での処理時間をなるべく均等にすることで、磁気記録媒体の生産性を向上させる。例えば、一つのチャンバにおける基板1枚あたりの装着工程と取り外し工程の処理時間が1秒、改質工程と除去工程の処理時間が60秒、保護層形成工程の処理時間が30秒の場合で、各工程のチャンバがそれぞれ1つづつである場合の全体の処理時間は、基板1枚あたり60秒となる。ここで本実施形態のように、改質工程と除去工程のチャンバを各2チャンバとした場合、基板1枚あたりの処理時間は30秒となる。また、改質工程と除去工程のチャンバを各4チャンバ、保護層形成工程のチャンバを2チャンバとした場合、基板1枚あたりの処理時間は15秒となる。
【0066】
本発明では、上述した反応性プラズマ、または、イオンを照射する処理を、非磁性基板80の両面同時に行うのが好ましい。一般的に磁気記録媒体は、その両面に記録磁性層83を有するため、磁気記録媒体の両面同時に処理するのが好ましいからである。
【0067】
通常、記録磁性層83はスパッタ法により薄膜として形成する。例えば、図10に示すように、非磁性基板80に、軟磁性層81及び中間層82を順次積層した後に、少なくともスパッタ法により記録磁性層83を形成し(図10(a))、次に記録磁性層83の上にマスク層840を形成し(図10(b))、マスク層840の上にレジスト層850を形成する(図10(c))。
【0068】
次に、図11に示すように、レジスト層850に磁気記録パターン83aのネガパターンを、スタンプ86を用いて転写する(図11(a))。なお、図11(a)における矢印はスタンプ86の動きを示している。
【0069】
次に、ここまで処理した非磁性基板80を上記基板取り付け室52内のキャリア25に装着する。そして、キャリア25によって非磁性基板80を順次搬送し、上記2つのチャンバ(パターニングチャンバ)6,8において、ネガパターンが転写されたレジスト層850を用いてマスク層をパターニングする(図11(b))。
【0070】
次に、チャンバ9において、マスク層840のパターニングによって露出された記録磁性層83の表面を部分的にイオンミリング処理することによって凹部83cを形成する(図11(c))。なお、図11(c)における符号dは、記録磁性層83に設けた凹部83cの深さを示す。
【0071】
次に、図12に示すように、上記3つのチャンバ(改質チャンバ)10、11、12において、記録磁性層83のうち、マスク層840に覆われていない箇所に対し、反応性プラズマ処理またはイオン照射処理を行って記録磁性層83を構成する磁性体を非磁性体に改質する(図12(a))。これにより、図12(a)に示すように、記録磁性層83に磁気記録パターン83aと非磁性領域83bとを形成する。
【0072】
次に、上記2つのチャンバ13、15において、レジスト層850を除去し、次いで2つのチャンバ(除去チャンバ)16、18において、マスク層840を除去する(図12(b))。
次に、上記2つのチャンバ19、20において、記録磁性層83の表面を保護層84で覆う(図12(c))。
以上の工程を順次行うことで、本実施形態の磁気記録媒体を製造できる。
【0073】
なお、図10(b)における工程では、記録磁性層83の上に形成するマスク層840として、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO、Ta、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれた何れか一種以上を含む材料で形成するのが好ましい。このような材料を用いることにより、マスク層840によるミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、記録磁性層83に凹部83cを設けることができる。
【0074】
また、マスク層840による磁気記録パターン83aの形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチングが容易であるため、図12(b)に示すマスク層840の除去工程において、残留物を減らし、磁気記録媒体表面の汚染を減少させることができる。
【0075】
また、マスク層840としては、これらの物質の中で、As、Ge、Sn、Gaを用いることが好ましく、Ni、Ti、V、Nbを用いることがより好ましく、Mo、Ta、Wを用いることが最も好ましい。
【0076】
また、図11(a)に示す工程において、スタンプ86によるレジスト層850へのネガパターン転写後の、レジスト層850の残部850aの厚みを、0〜10nmの範囲内とするのが好ましい。
【0077】
この場合、レジスト層850の残部850aの厚みをこの範囲とすることにより、図11(b)におけるマスク層840のパターニング工程において、マスク層840のエッジ部分のダレを無くし、マスク層840によるミリングイオンに対する遮蔽性を向上させ、記録磁性層83に凹部83cを設けることができる。また、マスク層840による磁気記録パターン83aの形成特性を向上させることができる。
【0078】
また、レジスト層850の構成材料は、放射線照射により硬化性を有する材料とし、レジスト層850にスタンプ86を用いてパターン転写する工程に際して、または、パターン転写工程の後に、レジスト層850に放射線を照射することが好ましい。
【0079】
このような製造方法を用いることにより、レジスト層850に、スタンプ86の形状を精度良く転写することが可能となり、図11(b)におけるマスク層840のパターニング工程において、マスク層840のエッジの部分のダレを無くし、マスク層840に対する注入イオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層840による磁気記録パターン83aの形成特性を向上させることができる。
【0080】
なお、ここで言う放射線とは、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波のことである。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0081】
特に、レジスト層850にスタンプ86を用いてパターンを転写する工程に際しては、レジスト層の流動性が高い状態で、レジスト層850にスタンプを押圧し、その押圧した状態で、レジスト層850に放射線を照射することによりレジスト層850を硬化させ、その後、スタンプ86をレジスト層850から離すことにより、スタンプ86の形状を精度良く、レジスト層850に転写することが可能となる。
【0082】
レジスト層850にスタンプ86を押圧した状態で、レジスト層850に放射線を照射する方法としては、スタンプ86の反対側、すなわち非磁性基板80側から放射線を照射する方法、スタンプ86の構成材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ86側から放射線を照射する方法、スタンプ86の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ86または非磁性基板80を介しての熱伝導により放射線を照射する方法を用いることができる。
【0083】
この中で特に、レジスト層850の構成材料として、ノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ86の構成材料として、紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いるのが好ましい。
【0084】
このような方法を用いることにより、磁気記録パターン83aの保磁力及び残留磁化を極限まで低減させることが可能になり、磁気記録の際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0085】
前記のプロセスで用いられるスタンプ86は、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したものが使用でき、材料としてはプロセスに耐えうる硬度、耐久性が要求される。たとえばNiなどが使用できるが、前述の目的に合致するものであれば材料は問わない。スタンプ86には、通常のデータを記録するトラックの他にバーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成できる。
【0086】
また、上記本実施形態では、図11(c)に示すように、イオンミリング等により記録磁性層83の表層の一部を除去して凹部83cを設ける。このように、凹部83cを設けてからその表面を反応性プラズマや反応性イオンに曝して記録磁性層83の磁気特性を改質させた方が、凹部83cを設けなかった場合に比べて、磁気記録パターン83aと非磁性領域83bとのパターンのコントラストがより鮮明になり、また磁気記録媒体のS/Nを向上できる。この理由としては、記録磁性層83の表層部を除去することにより、その表面の清浄化・活性化が図られ、反応性プラズマや反応性イオンとの反応性が高まったこと、また記録磁性層83の表層部に空孔等の欠陥が導入され、その欠陥を通じて記録磁性層83に反応性イオンが侵入しやすくなったことが考えられる。
【0087】
また、イオンミリング等により記録磁性層83の表層の一部を除去する深さdは、好ましくは、0.1nm〜15nmの範囲内、より好ましくは、1〜10nmの範囲内とする。イオンミリングによる除去深さが0.1nmより少ない場合は、上述した記録磁性層83の除去効果が現れず、また、除去深さが15nmより大きくなると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を製造した際の磁気ヘッドの浮上特性が悪くなる。
【0088】
本実施形態では、例えば磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を磁気的に分離する領域を、すでに成膜された記録磁性層を反応性プラズマや反応性イオンにさらして記録磁性層の磁気特性を改質することにより形成することを特徴とする。
【0089】
本発明において、磁気記録パターン83aとは、図12(a)に示すように、磁気記録媒体を表面側から見た場合、記録磁性層83の一部の磁気特性を改質した、好ましくは非磁性化した非磁性領域83bにより分離された状態のものを言う。すなわち、記録磁性層83が表面側から見て分離されていれば、記録磁性層83の底部において分離されていなくとも、本発明の目的を達成することが可能であり、本発明において磁気記録パターン83aの概念に含まれる。また、本発明における磁気記録パターン83aとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアや、その他、サーボ信号パターン等を含んでいる。
【0090】
この中で、磁気記録パターン83aが磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、いわゆるディスクリート型磁気記録媒体に本発明を適用するのが、その製造における簡便性から好ましい。
【0091】
また、磁気記録パターン83aを形成するための記録磁性層83の改質とは、記録磁性層83をパターン化するために、記録磁性層83の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指し、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを指す。
【0092】
特に、磁気特性の改質として、反応性プラズマや反応性イオンにさらした箇所の記録磁性層83の磁化量を当初(未処理)の75%以下、より好ましくは50%以下、保磁力を当初の50%以下、より好ましくは20%以下とする方法を採用するのが好ましい。このような方法を用いてディスクリートトラック型磁気記録媒体を製造することにより、本媒体に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0093】
さらに、本発明では、磁気記録トラック及びサーボ信号パターン部を分離する箇所(非磁性領域83b)を、すでに成膜された記録磁性層を反応性プラズマや反応性イオンにさらして記録磁性層83を非晶質化することにより実現することも可能である。すなわち、本発明における記録磁性層の磁気特性の改質は、記録磁性層の結晶構造の改変によって実現することも含む。
【0094】
本発明において、記録磁性層83を非晶質化するとは、記録磁性層83の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指し、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指す。そしてこの原子配列状態を分析手法により確認する場合は、X線回折または電子線回折により、結晶面を表すピークが認められず、また、ハローが認められるのみの状態とする。
【0095】
反応性プラズマとしては、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)や反応性イオンプラズマ(RIE;Reactive Ion Plasma)が例示できる。また、反応性イオンとしては、上述した誘導結合プラズマ、反応性イオンプラズマ内に存在する反応性のイオンが例示できる。
【0096】
誘導結合プラズマとしては、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化し、さらに高周波数の変動磁場によってそのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることによって得られる高温のプラズマを例示できる。誘導結合プラズマは、電子密度が高く、従来のイオンビームを用いてディスクリートトラックメディアを製造する場合に比べ、広い面積の磁性膜において、高い効率で磁気特性の改質を実現することができる。
【0097】
反応性イオンプラズマとは、プラズマ中にO、SF、CHF、CF、CCl等の反応性ガスを加えた反応性の高いプラズマである。このようなプラズマを用いることにより、記録磁性層83の磁気特性の改質をより高い効率で実現することが可能となる。
【0098】
本発明では、成膜された記録磁性層83を反応性プラズマにさらすことにより記録磁性層83を改質するが、この改質は、記録磁性層83を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の原子またはイオンとの反応により実現するのが好ましい。
【0099】
この場合、反応とは、磁性金属に反応性プラズマ中の原子等が侵入し、磁性金属の結晶構造が変化すること、磁性金属の組成が変化すること、磁性金属が酸化すること、磁性金属が窒化すること、磁性金属が珪化すること等が例示できる。
【0100】
特に、反応性プラズマとして酸素原子を含有させ、記録磁性層83を構成する磁性金属と反応性プラズマ中の酸素原子とを反応させることにより、記録磁性層83を酸化させることが好ましい。記録磁性層83を部分的に酸化させることにより、酸化部分の残留磁化及び保磁力等を効率よく低減させることが可能となるため、短時間の反応性プラズマ処理により、磁気記録パターンを有する磁気記録媒体を製造することが可能となるからである。
【0101】
また、反応性プラズマには、ハロゲン原子を含有させることが好ましい。特に、ハロゲン原子として、F原子を用いることが好ましい。ハロゲン原子は、酸素原子と一緒に反応性プラズマ中に添加して用いてもよく、また酸素原子を用いずに反応性プラズマ中に添加してもよい。上述したように、反応性プラズマに酸素原子等を加えることにより、記録磁性層83を構成する磁性金属と酸素原子等が反応して記録磁性層83の磁気特性を改質させることが可能となる。この際、反応性プラズマにハロゲン原子を含有させることにより、この反応性をさらに高めることが可能となる。
【0102】
また、反応性プラズマ中に酸素原子を添加していない場合においても、ハロゲン原子が磁性合金と反応して、記録磁性層83の磁気特性を改質させることが可能となる。この理由の詳細は明らかではないが、反応性プラズマ中のハロゲン原子が、記録磁性層83の表面に形成している異物をエッチングし、これにより記録磁性層83の表面が清浄化し、記録磁性層83の反応性が高まることが考えられる。
【0103】
また、清浄化した磁性層表面とハロゲン原子とが高い効率で反応することが考えられる。このような効果を有するハロゲン原子としてF原子を用いるのが特に好ましい。
【0104】
本実施形態では、その後、図12(b)に示すように、レジスト層850及びマスク層840を除去し、次いで図12(c)に示すように、保護層84を形成後、潤滑材(図示せず)を塗布して磁気記録媒体を製造する工程を採用することが好ましい。
【0105】
レジスト層850及びマスク層840の除去は、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を用いることができる。
【0106】
保護層84の形成は、一般的にはDiamond Like Carbonの薄膜をP−CVDなどを用いて成膜する方法が行われるが特に限定されるものではない。この場合、保護層84としては、炭素(C)、水素化炭素(HC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO、Zr、TiNなど、通常用いられる保護層材料を用いることができる。また、保護層84が2層以上の層から構成されていてもよい。
【0107】
保護層84の膜厚は10nm未満とする必要がある。保護層84の膜厚が10nmを越えるとヘッドと記録磁性層83との距離が大きくなり、十分な出入力信号の強さが得られなくなるからである。
【0108】
保護層84の上には潤滑膜85を形成することが好ましい。潤滑層85に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられ、通常1〜4nmの厚さで潤滑層85を形成する。
【0109】
上記の製造方法及び製造装置によれば、磁気記録層83の改質から保護層84の形成までを1つの装置を用いて連続的に行うことができ、処理基板のハンドリングに際して基板が汚染されることが無く、またハンドリング工程等を少なくして製造工程を効率化し、製品歩留まりを良くして磁気記録媒体の生産性を高めることができる。
【0110】
また、上記の製造方法及び製造装置によれば、記録磁性層でマスク層に覆われていない箇所を反応性プラズマ等に曝して該箇所の磁気特性を改質する工程及びマスク層を除去する工程を複数のチャンバによって分担して行うので、インライン式の成膜装置に容易に導入することができる。
【0111】
すなわち、記録磁性層等の成膜工程は、基板一枚あたり十秒程度の時間で処理できるのに対し、記録磁性層の磁気特性を部分的に改質する工程や、マスク層を除去する工程はその時間内に処理するのが難しいところ、これらの改質工程、除去工程をそれぞれ、複数のチャンバによって分担して行うことで、これらの工程の処理時間を、記録磁性層等の成膜工程の処理時間に合わせることができ、これにより各工程を連続して行うことができる。
【0112】
また、記録磁性層表面のマスク層をパターニングする工程では、記録磁性層の表面に液体状のレジストを塗布し、その表面にモールドをスタンプしてモールドパターンを転写する湿式のプロセスを含むところ、上記の製造方法及び製造装置では、レジストの塗布以外はすべて乾式プロセスで行うので、同じく乾式プロセスである記録磁性層のスパッタ工程と組み合わせて、1つの製造装置で連続して行うことができる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0114】
(実施例1)
実施例1では、先ず、非磁性基板としてHD用ガラス基板を用意し、このガラス基板をセットした真空チャンバを予め1.0×10−5Pa以下に真空排気した。ここで使用したガラス基板の材質は、LiSi、Al−KO、Al−KO、MgO−P、Sb−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスであり、このガラス基板の外径は65mm、内径は20mm、平均表面粗さ(Ra)は2オングストロームである。
【0115】
次に、このガラス基板にDCスパッタリング法を用いて、軟磁性層としてFeCoBと、中間層としてRuと、記録磁性層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金とをこの順で積層することによって、ガラス基板の両面に磁性層を形成した。各層の厚は、軟磁性層を600Å、中間層を100Å、記録磁性層を150Åとした。
【0116】
次に、この磁性層の上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した、マスク層には、Taを用い、その膜厚を60nmとした。そして、このマスク層の上に、レジストをスピンコート法により塗布することによりレジスト層を形成した。レジストには、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用い、レジスト層の厚みを100nmとした。
【0117】
次に、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用意し、このスタンプを1MPa(約8.8kgf/cm)の圧力で、レジスト層に押圧した。そして、この状態で、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上であるガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジスト層を硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離することによって、レジスト層に磁気記録パターンに対応する凹凸パターンを転写した。
【0118】
なお、レジスト層に転写した凹凸パターンは、その凸部の幅が120nmの円周状、凹その部の幅が60nmの円周状である。また、硬化後のレジスト層の厚みは80nm、レジスト層の凹部を構成する残部の厚みは約5nmであった。また、レジスト層の凹部を構成する側壁面の基板面に対する角度は、ほぼ90度であった。
【0119】
以上のようにして作製された処理基板を、上記図4に示す本発明のインライン式成膜装置に投入した。そして、この装置においては、キャリア25に処理基板を搭載する工程を1つの処理チャンバ52で行い、レジスト層の凹部の残部の除去を1つの処理チャンバ5で行い、マスク層のパターニング工程を2つの処理チャンバ6、8(パターニングチャンバ)で行い、記録磁性層の表面を部分的に除去する工程を1つの処理チャンバ9で行うこととした。また、この装置においては、記録磁性層を部分的に改質する工程を3つの処理チャンバ10、11、12(改質チャンバ)で行い、レジストを除去する工程を2つのチャンバ13、15で行い、マスク層を除去する工程を2つの処理チャンバ16、18(除去チャンバ)で行い、カーボン保護層の成膜工程を2つの処理チャンバ19、20(保護層形成チャンバ)で行う構成とした。さらに、この装置においては、キャリア25から処理基板を取り外す工程を1つの処理チャンバ54で行う構成とした。なお、各チャンバでの処理時間を15秒以内で実現した。
【0120】
ここで、除去チャンバでは、上記図8に示すように、キャリア25に搭載された処理基板とホルダ27の孔部29との間に、半径方向に15mmの隙間(クリアランス)Sを設けた。また、除去チャンバには、上記図9に示すように、メッシュ部材33が取り付けられた一対のリング部材32を処理基板の両面と対向する位置に配置し、この除去チャンバでの処理に際しては、処理基板を接地し、一対のリング部材32にはイオン源又はプラズマ源に対して負のDCバイアスを印加した。なお、リング部材32は、SUS304からなり、内径は80mm、厚さは2mmである。メッシュ部材33は、SUS304からなる直径0.3mmのワイヤーをメッシュ状に配置したものであり、そのメッシュ間隔は20mmである。また、一対のリング部材と処理基板との間の距離は、約8mmとした。
【0121】
以下、各工程の詳細について説明する。
先ず、キャリア25に処理基板を搭載する工程では、このキャリア25に処理基板を1.5秒/枚の速度でチャンバ52に搭載した。
【0122】
次に、レジスト層の凹部の除去工程では、処理基板を搭載したキャリア25を、コーナー室4で回転させて処理チャンバ5に移動させ、この処理チャンバ5内でレジスト層の凹部の箇所をドライエッチングで除去した。ドライエッチング条件は、レジスト層のエッチングに関しては、Oガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、DCバイアスを30W、エッチング時間を15秒とした。
【0123】
次に、マスク層のパターニング工程では、エッチング処理された処理基板を、マスク層のパターニング工程を行う2つの処理チャンバ6、8に順に移動させ、これら処理チャンバ6、8内でTaのマスク層のうち、レジストに覆われていない箇所をドライエッチングで除去した。ドライエッチング条件は、レジスト層のエッチングに関しては、Oガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、DCバイアスを30W、エッチング時間を10秒とし、マスク層のエッチングに関しては、CFガスを50sccm、圧力を0.6Pa、高周波プラズマ電力を500W、DCバイアスを60W、エッチング時間を1チャンバあたり15秒とし、合計で30秒間とした。
【0124】
次に、記録磁性層の表面を部分的に除去する工程では、ドライエッチング処理された処理基板を、記録磁性層を部分的に除去する処理チャンバ9に移動させ、この処理チャンバ9内で記録磁性層のマスク層に覆われていな箇所について、その表面をイオンミリングにより除去した。イオンミリングにはArイオンを用い、イオンの量は、5×1016原子/cm、イオン源とリング部材との加速電圧を20keVとし、記録磁性層のミリング深さを0.1nmとし、イオンミリング時間は5秒とした。
【0125】
次に、記録磁性層を部分的に改質する工程では、イオンミリング処理された処理基板を、記録磁性層を部分的に改質する3つの処理チャンバ10、11、12に順に移動させ、これら処理チャンバ10、11、12内で、記録磁性層のうちマスク層に覆われていない箇所の表面を反応性プラズマに曝して磁気特性の改質を行った。記録磁性層の反応性プラズマ処理は、アルバック社製の誘導結合プラズマ装置を用いた。プラズマの発生に用いるガス及び条件としては、O(90cc/分)を用い、プラズマ発生のための投入電力を200W、チャンバ内の圧力を0.5Paとし、磁性層に対する処理時間を1つのチャンバあたり15秒とし、合計で45秒とした。
【0126】
次に、レジスト層を除去する工程では、改質処理された処理基板を、レジスト層を除去する2つの処理チャンバ13、15に移動させ、これら処理チャンバ13、15内でレジスト層をドライエッチングにより除去した。ドライエッチングの条件は、レジスト層のエッチングに関しては、Oガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、DCバイアスを30W、エッチング時間を15秒とした。
【0127】
次に、マスク層を除去する工程では、レジスト層が除去処理された処理基板を、マスク層を除去する2つの処理チャンバ16、18に移動させ、この処理チャンバ16、18内でマスク層をドライエッチングで除去した。ドライエッチングの条件は、レジスト層のエッチングに関しては、Oガスを40sccm、圧力を0.3Pa、高周波プラズマ電力を300W、DCバイアスを30W、エッチング時間を10秒とし、Ta層のエッチングに関しては、CFガスを50sccm、圧力を0.6Pa、高周波プラズマ電力を500W、DCバイアスを60W、エッチング時間を1つのチャンバあたり15秒間、合計で30秒間とした。
【0128】
次に、カーボン保護層の形成工程では、マスク層の除去処理された処理基板を2つの処理チャンバ19、20に順に移動させ、この処理チャンバ19、20内で磁性層の上にCVD法にてカーボン保護層を5nm成膜した。成膜時間は、15秒間とした。
【0129】
次に、キャリア25から処理基板を取り外す工程では、成膜処理された処理基板を、キャリア25から取り外す処理チャンバ54に移動させ、この処理チャンバ54内でキャリア25から処理済み基板を1.5秒/枚の速度で取り外した。
【0130】
以上の製造工程を経ることによって、実施例1の磁気記録媒体を作製した。そして、この実施例1の磁気記録媒体について撮影した光学顕微鏡写真を図13に示す。
【0131】
図13に示すように、実施例1の磁気記録媒体では、基板の外周付近にほとんど処理ムラは発生しておらず、面内で良好な成膜状態を維持していることがわかる。
【0132】
(比較例1)
比較例1では、上記除去チャンバにおいて、キャリア25に搭載された処理基板とホルダ27の孔部29との間に形成される隙間(クリアランス)Sを半径方向に3mmとした以外は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。そして、この比較例1の磁気記録媒体について撮影した光学顕微鏡写真を図14に示す。
【0133】
図14に示すように、比較例1の磁気記録媒体では、支持部材に当接された非磁性基板の外周付近に処理ムラが発生していることがわかる。
【0134】
図15は、実施例1(クリアランス15mm)、比較例1(クリアランス3mm)において、基板表面に形成したレジストをプラズマエッチングした時のエッチング量の分布を調べた測定結果である。なお、図15に示すグラフにおいて、横軸は、基板主表面の中心からの半径位置を示し、縦軸は、その箇所におけるレジストのエッチング量を示している。図15に示すように、本発明の基板ホルダを用いた場合、反応性プラズマ処理等を行う際のエッチング分布が無くなり、処理ムラの発生を防止できることがわかる。
【0135】
また、基板ホルダのクリアランス量を変化させて基板の中心からの半径位置16mm(MD)と22mm(OD)でのエッチング量を比較((OD/MD)×100)した測定結果を表1に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
表1に示す測定結果から、クリアランス3mm(比較例1)、8mm(比較例2)、11mm(実施例2)、15mm(実施例1)、20mm(実施例3)の場合のエッチング量を比較しても分かるように、クリアランスを11mm以上とするとMDとODでのエッチング分布が無くなることがわかる。
【符号の説明】
【0138】
1…ロボット台
2…基板供給ロボット室
3…基板カセット移載ロボット
3A…基板取付け取外し室
4、7、14、17…コーナー室
5、6、8〜13、15、16、18〜20…チャンバ
22…基板取外しロボット室
23…第1成膜用基板
24…第2成膜用基板
25…キャリア
26…支持台
27…ホルダ
28…板体
29…円形状の孔部
30…支持部材
30a…溝部
31…スリット
32…リング部材
33…メッシュ部材
34…基板取付けロボット
49…基板取外しロボット
72…処理装置
80…非磁性基板
81…軟磁性層
82…中間層
83…記録磁性層
84…保護層
85…潤滑膜
810…磁性層
201…リニアモータ駆動機構(搬送機構)
202…磁石
203…隔壁
204…回転磁石
301…バイアス電源
302…接地導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理を行う複数のチャンバと、
前記複数のチャンバ内で成膜対象となる基板を保持するキャリアと、
前記キャリアを前記複数のチャンバの間で順次搬送させる搬送機構とを備え、
前記キャリアは、前記基板を内側に配置する孔部が設けられたホルダと、前記ホルダの孔部の周囲に弾性変形可能に取り付けられた複数の支持部材とを備え、前記複数の支持部材に前記基板の外周部を当接させながら、これら支持部材の内側に嵌め込まれた基板を着脱自在に保持することが可能であり、
前記複数のチャンバのうち少なくとも1つは、前記キャリアに保持された基板の両面に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を同時に行うチャンバであって、このチャンバ内のホルダが接地されると共に、前記複数の支持部材の内側には、外径が100mm以下である円盤状の基板が嵌め込まれ、なお且つ、この基板と前記ホルダの孔部との間に形成される隙間が、半径方向に少なくとも11mm以上あることを特徴とするインライン式成膜装置。
【請求項2】
前記キャリアに保持された基板の両面に対して反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を同時に行う際には、前記基板に対応した位置に開口部を有するリング部材が、前記キャリアに保持された基板の少なくとも一方又は両方の面に対向して配置され、なお且つ、このリング部材にマイナス電位が印加されることを特徴とする請求項1に記載のインライン式成膜装置。
【請求項3】
前記リング部材には、前記開口部を覆うメッシュ部材が取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載のインライン式成膜装置。
【請求項4】
前記複数の支持部材の先端部には、前記基板の外周部が係合される溝部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のインライン式成膜装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のインライン式成膜装置を用いて、前記キャリアに保持された非磁性基板を前記複数のチャンバの間で順次搬送させながら、この非磁性基板の両面に、少なくとも軟磁性層、中間層、記録磁性層、及び保護層を順次成膜する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記記録磁性層を成膜した後に、前記反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うチャンバにおいて、前記リング部材にマイナス電位を印加すると共に、前記ホルダを接地した状態で、前記ホルダに保持された非磁性基板の記録磁性層に対して、前記反応性プラズマ処理又はイオン照射処理を行うことによって、前記記録磁性層の一部の磁気特性を改質し、残存した磁性体からなる磁気記録パターンを形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−192056(P2010−192056A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36935(P2009−36935)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】