説明

ウェーブスプリングの挟持構造および摩擦係合装置

【課題】相対回転する相手部材への潜り込みを回避できるウェーブスプリングの挟持構造を提供する。
【解決手段】周方向に交互に形成された複数の山部91および谷部92と、周方向の一部に形成された開口部93とを有するウェーブスプリング90は、底板部材50bおよびスナップリング10によって挟持される。スナップリング10の周方向の一部が分断され隙間12が形成されている。ウェーブスプリング90およびスナップリング10は、互いに相対回転可能に設けられている。ウェーブスプリング90は、山部91が底板部材50b側に突起し谷部92がスナップリング10側に突起するように、底板部材50bおよびスナップリング10によって挟持されている。開口部93は、山部91に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーブスプリングの挟持構造および摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの自動変速機に使用される摩擦係合装置では、クラッチ接続時のショック吸収用として、多板クラッチと多板クラッチの係合を制御するピストンとの間にリング状の皿ばねが設置されている。従来の皿ばねに関する技術は、たとえば特許文献1または特許文献2に開示されている。
【0003】
従来の皿ばねは、円周方向に切断面のない完全リングであり、プレス装置などを使用した打抜き加工により製造されていたため、材料歩留まりがきわめて悪く、コストアップの原因となっていた。そこで、帯状のばね材料を曲げ加工によりC形に成形し、このばね材料の円周方向に山部と谷部とを交互に成形したばね(いわゆるウェーブスプリング)が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。ウェーブスプリングは、適宜長さに切断された帯状のばね材料を用いて成形することができるため、従来のプレス打抜きにより成形された皿ばねに比較して材料歩留まりを著しく向上させることが可能である。
【特許文献1】特開2005−282807号公報
【特許文献2】特開平9−303455号公報
【特許文献3】特開平7−248035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウェーブスプリングを挟持する二つの相手部材のうち一方に、周方向の一部が分断され隙間が形成された円弧形状のスナップリングを用いる場合がある。このとき、ウェーブスプリングがスナップリングに対し相対回転すると、ウェーブスプリングの端部がスナップリングに形成された隙間に潜り込み、ウェーブスプリングの機能を損なうという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ウェーブスプリングを挟持する相手部材への潜り込みを回避できる、ウェーブスプリングの挟持構造を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該ウェーブスプリングの挟持構造を備えた摩擦係合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るウェーブスプリングの挟持構造は、周方向に交互に形成された複数の山部および谷部と、周方向の一部に形成された開口部とを有するウェーブスプリングを挟持する構造であって、円形部材と、スナップリングとを備える。円形部材は、軸心回りに回転可能に設けられている。スナップリングは、周方向の一部が分断され隙間が形成された円弧形状を有している。スナップリングは、円形部材の軸心方向の移動を規制する。ウェーブスプリングおよびスナップリングは、円形部材と軸心を共有するように配置され、互いに相対回転可能に設けられている。ウェーブスプリングは、山部が円形部材側に突起し谷部がスナップリング側に突起するように円形部材とスナップリングとの間に配置されて、円形部材およびスナップリングによって挟持されている。開口部は、山部に形成されている。
【0007】
上記ウェーブスプリングの挟持構造において、ウェーブスプリングには、開口部に対向する端部の外周側が切断された切欠き部が形成されていてもよい。
【0008】
本発明に係る摩擦係合装置は、自動変速機の摩擦係合装置であって、複数枚の摩擦プレートで構成される摩擦係合要素を押圧するクラッチピストンを備える。クラッチピストンは、両端が開口する円筒状の第一ピストン部材と、第一ピストン部材の内部に取り付けられた円板状の第二ピストン部材とを有する。クラッチピストンはまた、第一ピストン部材の内周面に形成された環状溝に嵌入されて第二ピストン部材の軸心方向の移動を規制する、スナップリングを有する。クラッチピストンはまた、上記のいずれかの局面の挟持構造によって第二ピストン部材およびスナップリングの間に挟持された、ウェーブスプリングを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のウェーブスプリングの挟持構造によると、円形部材側に突起したウェーブスプリングの山部に開口部を形成することで、開口部とスナップリングとの間隔を常に確保することができる。そのため、ウェーブスプリングがスナップリングに対し相対回転しても、スナップリングに形成された隙間へウェーブスプリングが潜り込むことを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0011】
なお、以下に説明する実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下の実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、上記個数などは例示であり、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る摩擦係合装置が適用される自動変速機の構成を示すスケルトン図である。本実施の形態では、動力伝達装置としての自動変速機1が、車両に搭載される自動変速機である例を示している。図1に示すように、自動変速機1は、クランクシャフトに連結された入力軸110と出力軸120とを含むトルクコンバータ100と、遊星歯車機構である第1セット200,第2セット300と、出力ギヤ400と、ギヤケース500とを備える。また自動変速機1は、ギヤケース500に固定されたB1ブレーキ610、B2ブレーキ620およびB3ブレーキ630と、C1クラッチ710およびC2クラッチ720と、ワンウェイクラッチ730とを備える。
【0013】
第1セット200は、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。第1セット200は、サンギヤS(UD)210と、ピニオンギヤ220と、リングギヤR(UD)230と、キャリアC(UD)240とを含む。
【0014】
サンギヤS(UD)210は、トルクコンバータ100の出力軸120に連結されている。ピニオンギヤ220は、キャリアC(UD)240に回転自在に支持されている。ピニオンギヤ220は、サンギヤS(UD)210およびリングギヤR(UD)230と係合している。
【0015】
リングギヤR(UD)230は、B3ブレーキ630によりギヤケース500に固定される。キャリアC(UD)240は、B1ブレーキ610によりギヤケース500に固定される。
【0016】
第2セット300は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。第2セット300は、サンギヤS(D)310と、ショートピニオンギヤ320と、キャリアC(1)321と、ロングピニオンギヤ330と、キャリアC(2)331と、サンギヤS(S)340と、リングギヤR(1)(R(2))350とを含む。
【0017】
サンギヤS(D)310は、キャリアC(UD)240に連結されている。ショートピニオンギヤ320は、キャリアC(1)321に回転自在に支持されている。ショートピニオンギヤ320は、サンギヤS(D)310およびロングピニオンギヤ330と係合している。キャリアC(1)321は、出力ギヤ400に連結されている。
【0018】
ロングピニオンギヤ330は、キャリアC(2)331に回転自在に支持されている。ロングピニオンギヤ330は、ショートピニオンギヤ320、サンギヤS(S)340およびリングギヤR(1)(R(2))350と係合している。キャリアC(2)331は、出力ギヤ400に連結されている。
【0019】
サンギヤS(S)340は、C1クラッチ710によりトルクコンバータ100の出力軸120に連結される。リングギヤR(1)(R(2))350は、B2ブレーキ620により、ギヤケース500に固定され、C2クラッチ720によりトルクコンバータ100の出力軸120に連結される。また、リングギヤR(1)(R(2))350は、ワンウェイクラッチ730に連結されており、1速ギヤ段の駆動時に回転不能となる。
【0020】
図2は、図1に示す自動変速機における、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表である。図2において、「○」は係合を表している。「×」は解放を表している。「◎」はエンジンブレーキ時のみの係合を表している。「△」は駆動時のみの係合を表している。この作動表に示された組合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、1速〜6速の前進ギヤ段と、後進ギヤ段が形成される。
【0021】
図3は自動変速機1の第2セット300を詳細に説明する要部断面図である。なお、第2セット300は軸心Cに対して略対称であるため、その下側半分が省略されている。図3に示すように、自動変速機1は、出力軸120を備える。出力軸120は、ギヤケース500内にベアリングを介してギヤケース500に対し相対回転可能に支持され、軸心Cを中心に回転駆動する。
【0022】
出力軸120の径方向外側には、複数個のブッシュを介して相対回転可能に支持されている、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置28が設けられている。C1クラッチ710およびC2クラッチ720は、出力軸120の回転を第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28に選択的に伝達するように配置されている。第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28の径方向外側には、第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28のリングギヤR(1)(R(2))350を選択的に回転停止させるB2ブレーキ620と、一方向の回転を阻止するワンウェイクラッチ730とが配置されている。
【0023】
出力軸120には、軸心Cに対して垂直に伸びる鍔部120aが形成されている。この鍔部120aの外周縁には、その外周縁に一体に溶接接合されると共に、ギヤケース500に対して相対回転可能に支持されている円環状の基部材42が配置されている。この基部材42の第2遊星歯車装置26に接近する側の外周面には、クラッチドラム48が一体に溶接接合されている。クラッチドラム48は、C1クラッチの構成部材である第1摩擦係合要素44およびC2クラッチの構成部材である第2摩擦係合要素46を支持する。そのクラッチドラム48を覆うように、第2クラッチピストン50が基部材42の外周面にシールを介して嵌め付けられている。
【0024】
クラッチドラム48は、軸心方向(軸心Cの延びる方向であって、図3中の左右方向)の一方に開口する有底円筒状部材である。クラッチドラム48は、内周縁が基部材42の外周面に溶接接合されている略円板状の底部48aと、その底部48aの外周縁に連結される円筒状の筒部48bとで構成されている。
【0025】
筒部48bの内周面には、長手状にスプライン歯が設けられている。筒部48bの底部48a側には、C1クラッチを構成する第1摩擦係合要素44の一方の摩擦プレート52が、複数枚スプライン嵌合されている。筒部48bの開口側には、第2クラッチC2を構成する第2摩擦係合要素46の一方の摩擦プレート52が、複数枚スプライン嵌合されている。
【0026】
第1摩擦係合要素44は、複数枚の一方の摩擦プレート52と、複数枚の他方の摩擦プレート56とで構成されている。他方の摩擦プレート56は、一方の摩擦プレート52の間に介在させられ、第2遊星歯車装置26のリングギヤに回転を伝達する第1クラッチハブ54の外周面にスプライン嵌合されている。
【0027】
第2摩擦係合要素46は、複数枚の一方の摩擦プレート52と、他方の複数枚の摩擦プレート56とで構成されている。他方の摩擦プレート56は、一方の摩擦プレート52の間に介在させられ、第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28のリングギヤに回転を伝達する第2クラッチハブ58の外周面にスプライン嵌合されている。また、第2クラッチハブ58の外周面には、ワンウェイクラッチ730が接続されると共に、B2ブレーキ620の構成部材である第3摩擦係合要素60の一方の摩擦プレート56がスプライン嵌合されている。
【0028】
第3摩擦係合要素60は、複数枚の一方の摩擦プレート56と、複数枚の他方の摩擦プレート52とで構成されている。他方の摩擦プレート52は、一方の摩擦プレート56の間に介在させられ、ギヤケース500にスプライン嵌合されている。ブレーキピストン61は、第3摩擦係合要素60に対しワンウェイクラッチ730とは反対側に位置し、ギヤケース500に摺動可能に嵌め付けられている。ブレーキピストン61が第3摩擦係合要素60を押圧することによって、B2ブレーキ620が係合する。
【0029】
クラッチドラム48と第1クラッチハブ54との間には、第1摩擦係合要素44を押圧するための第1クラッチピストン62およびバネ受板64が配置されている。第1クラッチピストン62の内周面は、シールを介して出力軸120に対して軸心方向に摺動可能に嵌め付けられている。第1クラッチピストン62は、第1摩擦係合要素44の方向に伸びる押圧部62aを外周面に備える。バネ受板64は、スナップリング66によって軸心方向に移動不能に、出力軸120に嵌め付けられている。第1クラッチピストン62とバネ受板64との間には、第1クラッチピストン62をクラッチドラム48側の方向に移動するように付勢するリターンスプリング68が介在されている。
【0030】
第2クラッチピストン50に対しクラッチドラム48側と反対側には、バネ受板70が配置されている。バネ受板70は、スナップリング72によって軸心方向に摺動不能に、基部材42の外周面に嵌め着けられている。第2クラッチピストン50とバネ受板70との間には、第2クラッチピストン50をクラッチドラム48の底部48aに接近する方向に移動するように付勢する、リターンスプリング74が介在されている。
【0031】
第2クラッチピストン50は、第一ピストン部材の一例としての、両端が開口する円筒状のシリンダ部材50aを有する。第2クラッチピストン50はまた、第二ピストン部材の一例としての、シリンダ部材50aの一端部内に嵌め入れられる円板状の底板部材50bを有する。円形部材の一例としての底板部材50bは、シリンダ部材50aの内部に取り付けられている。第2クラッチピストン50は、基部材42の外周面にシールを介して嵌め付けられる。第2クラッチピストン50は、クラッチドラム48に対して相対回転不能に支持され、クラッチドラム48と一体的に回転する。第2クラッチピストン50は、基部材42と一体接合されたクラッチドラム48と共に、軸心C回りに回転可能に設けられている。
【0032】
第2クラッチピストン50の第2摩擦係合要素46を押圧する側であって、シリンダ部材50aの上記一端部と反対側の端部である他端部には、円環状の押圧突部82が設けられている。押圧突部82は、シリンダ部材50aの他端部から軸心Cに向かって内周側に突き出すと共に、その内周縁からシリンダ部材50aの一端部に向かって突き出すように形成されている。
【0033】
底板部材50bに対し他端部側のシリンダ部材50aの内周面には、周方向に沿った環状溝が形成されており、この環状溝にスナップリング10が嵌め入れられている。また、底板部材50bに対し一端部側のシリンダ部材50aの内周面には、周方向に沿った他の環状溝が形成されており、この他の環状溝にスナップリング76が嵌め入れられている。スナップリング10,76の間には、底板部材50bの外周縁部が配置されているとともに、所定の予加重が付与されたウェーブスプリング90が介挿されている。ウェーブスプリング90は、底板部材50bおよびスナップリング10の間に挟持されている。
【0034】
スナップリング76は、シリンダ部材50a内に嵌合されている底板部材50bがシリンダ部材50aから外れること、すなわち、軸心方向に沿う図3中の左側への底板部材50bの動きを規制するための、ストッパとして機能する。スナップリング10は、ウェーブスプリング90の一端を固定するばね受けとして機能するとともに、底板部材50bがシリンダ部材50a内へ入り込むこと、すなわち、軸心方向に沿う図3中の右側への底板部材50bの動きを規制するための、ストッパとして機能する。これにより、底板部材50bがシリンダ部材50aの一方の端部内に嵌め入れられた状態で、シリンダ部材50aおよび底板部材50bが一体的に組み付けられている。
【0035】
このように構成される油圧式の摩擦係合装置において、ギヤケース500の作動油供給油路84から作動油が供給されると、作動油は基部材42に設けられている作動油供給孔85を通り、第2クラッチピストン50とクラッチドラム48の間に形成される油室86に供給される。この油室86はシール部材87によって油密とされており、供給された作動油の油圧によって、第2クラッチピストン50はリターンスプリング74側に前進する。この第2クラッチピストン50の前進によって、第2クラッチピストン50の押圧突部82が、第2摩擦係合要素46を押圧する。
【0036】
第2摩擦係合要素46の押圧突部82に対し反対側では、第2摩擦係合要素46の摩擦プレート52,56の移動を阻止するスナップリング88が筒部48bの内周面に嵌め着けられている。そのため、第2クラッチピストン50により第2摩擦係合要素46が押圧されたとき、スナップリング88と押圧突部82との間に挟まれて、第2摩擦係合要素46は係合する。
【0037】
シリンダ部材50aに取り付けられたスナップリング10と底板部材50bとは、ウェーブスプリング90の付勢力によって互いに密着し、面接触している。そのため、第2クラッチピストン50の移動時にシリンダ部材50aおよび底板部材50bの間に生じるがたつきが好適に防止され、シリンダ部材50aと底板部材50bとは一体として軸心方向に円滑に移動可能とされている。その結果、変速ショックが低減され、変速フィーリングおよび変速時間を向上することができるとともに、曲げ加工により成形された安価なウェーブスプリング90を用いることで第2クラッチピストン50の製造コストの低減を可能としている。
【0038】
次に、本実施の形態のウェーブスプリング90の挟持構造について詳細に説明する。図4は、スナップリング10の平面図である。図4に示すスナップリング10は、帯状の薄い平板材料を曲げ加工することにより成形されており、リングプレート部11を有する。リングプレート部11の平面形状は、円弧形状に形成されている。リングプレート部11の円弧形状の一部が周方向に分断され切り取られた形状に、隙間12が形成されている。
【0039】
図5は、ウェーブスプリング90の平面図である。図5に示すように、ウェーブスプリング90は、平角線材などの帯状のばね材料を曲げ加工して、周方向の一部に開口部93の形成された略C字形状の平面形状を有するように成形されている。このC字形状の円周方向に波付けして、複数の山部91および谷部92がウェーブスプリング90の周方向に交互に成形されている。ウェーブスプリング90は板材を曲げ加工して成形されており、打抜き加工により成形される円環形状の皿ばねに対して材料に無駄がなく、材料の歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0040】
ウェーブスプリング90の、開口部93に対向する一対の端部95,96のうちの一方には、ウェーブスプリング90の外周97側の一部が切断され、切欠き部94が形成されている。切欠き部94は、ウェーブスプリング90の端部96の外周97側が斜めに切り取られて形成されている。
【0041】
切欠き部94は、端部96のみに形成されており、端部95には形成されていない。そのため、ウェーブスプリング90の表裏の判別が容易に可能とされている。たとえば、ウェーブスプリング90の組立時に、切欠き部94に対応する形状を有する治具を準備し、その治具にウェーブスプリング90をはめ込んでウェーブスプリング90を組み付け、ウェーブスプリング90を表裏逆に治具に設置できないようにすることで、ウェーブスプリング90が誤って表裏逆に組み付けられることを防止することができる。また、遠隔監視カメラを使用してウェーブスプリング90の組付け状況を監視することで、ウェーブスプリング90が表裏正しく組み付けられているか否かを確認することが可能である。
【0042】
ウェーブスプリング90の表裏判別は、切欠き部94を用いる以外に、たとえばウェーブスプリング90の表面のみにマーキングを施すなどによっても可能であるが、マーキングが剥がれ落ちると異物が発生し、その異物が装置に悪影響を与える可能性がある。これに対し、本実施の形態のように、切欠き部94を形成してウェーブスプリング90の表裏判別を行なうようにすれば、異物発生の問題も発生せず、ウェーブスプリング90の表裏を確実に合わせて組み付けることができる。したがって、ウェーブスプリング90の組立時の品質管理を容易に可能とし、ウェーブスプリング90の組付け品質を向上させることができる。
【0043】
加えて、切欠き部94の形成はウェーブスプリング90の機械加工によって行なうことができる。ウェーブスプリング90に表裏判別用のマーキングを追加するためには、新たな製造設備および製造工程を必要とし、製造コストの増大を招来する。これに対し、切欠き部94によりウェーブスプリング90の表裏を判別するようにすれば、マーキングと比較してウェーブスプリング90の製造コストを低減することができる。
【0044】
図4および図5に示すように、スナップリング10とウェーブスプリング90とは、いずれも略円環形状に形成されている。スナップリング10の形成する円環形状の中心が図3に示す軸心Cと一致するように、スナップリング10は配置されている。ウェーブスプリング90の形成する円環形状の中心が軸心Cと一致するように、ウェーブスプリング90は配置されている。ウェーブスプリング90およびスナップリング10は、軸心方向に対し直交するように配置されており、底板部材50bと軸心Cを共有するように配置されている。
【0045】
図6は、ウェーブスプリング90の側面図である。図6では、図5に示すウェーブスプリング90の平面形状の上側半分が抜き出され、側面視された場合のウェーブスプリング90が図示されている。また図6では、底板部材50bおよびスナップリング10によりウェーブスプリング90が挟持された後述する挟持構造からウェーブスプリング90のみを抜き出した場合の、ウェーブスプリング90の側面図が図示されている。つまり図6では、底板部材50bおよびスナップリング10からウェーブスプリング90に対しウェーブスプリング90の厚み方向に荷重が負荷された状態の、ウェーブスプリング90が図示されている。
【0046】
図6に示すように、山部91は、ウェーブスプリング90の厚み方向の一方側に突起するように形成されており、谷部92はウェーブスプリング90の厚み方向の他方側に突起するように形成されている。山部91は、ウェーブスプリング90の表面側に凸となるように形成されており、谷部92は裏面側に凸となるように形成されている。ウェーブスプリング90は、底板部材50bおよびスナップリング10の間に挟持された状態において、谷部92の裏面側(図6の右側)から山部91の表面側(図6の左側)までが距離L分離れるように形成されている。
【0047】
ウェーブスプリング90の周方向の一部が分断された開口部93は、山部91に形成されている。そのため、開口部93は谷部92の裏面側に対し距離L分離れており、谷部92の裏面側と開口部93との間には、ウェーブスプリング90の厚み方向に距離L分の間隔(クリアランス)が形成されている。
【0048】
図7は、ウェーブスプリング90の挟持構造を示す断面図である。図3を参照して説明したように、ウェーブスプリング90は、底板部材50bとスナップリング10との間に配置されて、底板部材50bおよびスナップリング10によって挟持されている。図7に示すように、ウェーブスプリング90は、山部91が底板部材50b側に突起し、谷部92がスナップリング10側に突起するように配置されて、底板部材50bとスナップリング10との間に挟持されている。山部91の表面側(図7の上側)が底板部材50bに当接し、谷部92の裏面側(図7の下側)がスナップリング10に当接するように、ウェーブスプリング90は配置されている。
【0049】
スナップリング10は、図3を参照して説明したように、シリンダ部材50aの内周面に形成された環状溝に嵌入されて保持されている。ウェーブスプリング90は、底板部材50bおよびスナップリング10の間に挟まれることによって保持されている。スナップリング10およびウェーブスプリング90は、平面形状の外周面および内周面がいずれも円弧形状であって、周方向の移動を妨げる位置決めのための構造を有しておらず、軸心C回りに回転可能に設けられている。そのため、ウェーブスプリング90およびスナップリング10は、互いに相対回転可能に設けられている。
【0050】
図8は、ウェーブスプリング90がスナップリング10に対し相対回転した状態の一例を示す断面図である。図9は、ウェーブスプリング90がスナップリング10に対し相対回転した状態の他の例を示す断面図である。上述したように、ウェーブスプリング90の厚み方向において、山部91と谷部92との間には図6に示す距離L分のクリアランスが形成されている。底板部材50b側に突起したウェーブスプリング90の山部91に開口部93を形成することで、開口部93とスナップリング10との間には、常に距離L分の間隔が確保されている。
【0051】
そのため、図8および図9に示すように、ウェーブスプリング90がスナップリング10に対して相対回転した場合でも、常にスナップリング10に形成された隙間12とウェーブスプリング90の開口部93との間のクリアランスを維持することができる。したがって、隙間12にウェーブスプリング90の端部95,96が潜り込んでウェーブスプリング90の機能を損なうことを、回避することができる。
【0052】
一方、ウェーブスプリング90に対向する底板部材50bの面は、切欠きや隙間の形成されていない平坦な面として形成されている。これにより、ウェーブスプリング90が底板部材50bに対して相対回転し、開口部93の形成された山部91が底板部材50bに対して摺動しても、ウェーブスプリング90の端部95,96が相手部材である底板部材50bに潜り込むことのない構造とされている。
【0053】
図10は、図3に示すX−X線に沿う、第2クラッチピストン50の断面図である。図10に示す破断線は、底板部材50bの一部を破った境界を示しており、破断線の内側(上側)には底板部材50bに対しシリンダ部材50aの他端部側(図3の右側)に設置されているウェーブスプリング90およびスナップリング10が図示されている。上述したように、スナップリング10はシリンダ部材50aの内周面に形成された環状溝に嵌合されて保持されているのに対し、ウェーブスプリング90は底板部材50bおよびスナップリング10に挟まれることのみによって保持されている。ウェーブスプリング90は周方向の位置決めはされておらず、そのためウェーブスプリング90はシリンダ部材50aに対して相対回転が可能とされている。
【0054】
図5を参照して説明したように、ウェーブスプリング90の端部96には切欠き部94が形成されており、ウェーブスプリング90は表裏を容易に判別可能とされている。ウェーブスプリング90の表裏判別を行なうためには、切欠き部94に限らず任意の異形形状をウェーブスプリング90に形成してもよい。但し、この切欠き部94は、ウェーブスプリング90の表裏判別を容易に可能とする機能に加えて、ウェーブスプリング90がシリンダ部材50aに対して相対回転を持った場合の干渉の発生を抑制する機能をも有している。
【0055】
つまり、図10に示すように、ウェーブスプリング90の外周側に設置された円筒形状のシリンダ部材50aには、径方向内側へ突起する複数の突起部51が形成されている。この突起部51がクラッチドラム48の筒部48b(図3参照)の外周面に形成された図示しないスプライン形状に対しスプライン嵌合することで、シリンダ部材50aはクラッチドラム48に対して周方向の移動を規制されて軸心C回りに一体回転し、かつシリンダ部材50aはクラッチドラム48に対して軸心方向の往復動可能に設けられている。
【0056】
ウェーブスプリング90がシリンダ部材50aに対し、図10に示すDR1方向に相対回転するとき、端部95がシリンダ部材50aの突起部51と干渉すると、ウェーブスプリング90の円滑な回転が妨げられる。一方、ウェーブスプリング90が図10に示すDR2方向にシリンダ部材50aに対して相対回転するとき、切欠き部94が形成されているために、端部96と突起部51との干渉の発生が抑制されている。また、切欠き部94が突起部51に接触した場合でも、切欠き部94は突起部51に対し傾斜を有する形状に形成されているために、切欠き部94が突起部51を乗り越えるように、ウェーブスプリング90はシリンダ部材50aに対し摺動可能である。
【0057】
つまり、切欠き部94を外周97側(図5参照)へ形成することにより、ウェーブスプリング90の、シリンダ部材50aに対するDR2方向への相対回転が妨げられることを抑制することができる。ここで、出力軸120の回転開始に伴って発生するウェーブスプリング90のシリンダ部材50aに対する相対回転の方向を、DR2方向のみとするように、ウェーブスプリング90の配置を調整することができる。このようにすれば、エンジンのクランクシャフトに連結された出力軸120は片方向にのみ回転可能な部材であるために、ウェーブスプリング90のシリンダ部材50aに対する干渉の発生を、より効果的に抑制することができる。
【0058】
なお、これまでの説明においては、ウェーブスプリング90を挟持する相手部材である底板部材50bとスナップリング10との両方に対して、ウェーブスプリング90が相対回転可能である例を示した。開口部93(合口構造)の形成されたウェーブスプリング90が、隙間12(合口構造)の形成されたスナップリング10に対して相対回転するような構成の挟持構造であれば、ウェーブスプリング90の端部95,96がスナップリング10に潜り込むことを回避できる効果を同様に得ることができる。つまり、ウェーブスプリング90は、隙間12の形成されたスナップリング10と対になって挟持構造を構成する他の相手部材(底板部材50b)に対し、一体となって回転するような構造であってもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、自動変速機1のC2クラッチを押圧する第2クラッチピストン50に適用されたウェーブスプリング90の挟持構造について説明したが、他のクラッチやブレーキに、本実施の形態のウェーブスプリングの挟持構造を適用してもよいのは勿論である。
【0060】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のウェーブスプリングの挟持構造および摩擦係合装置は、車両に搭載された自動変速機に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に係る摩擦係合装置が適用される自動変速機の構成を示すスケルトン図である。
【図2】図1に示す自動変速機における、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表である。
【図3】自動変速機の第2セットを詳細に説明する要部断面図である。
【図4】スナップリングの平面図である。
【図5】ウェーブスプリングの平面図である。
【図6】ウェーブスプリングの側面図である。
【図7】ウェーブスプリングの挟持構造を示す断面図である。
【図8】ウェーブスプリングがスナップリングに対し相対回転した状態の一例を示す断面図である。
【図9】ウェーブスプリングがスナップリングに対し相対回転した状態の他の例を示す断面図である。
【図10】図3に示すX−X線に沿う、第2クラッチピストンの断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 自動変速機、10 スナップリング、12 隙間、46 摩擦係合要素、50 第2クラッチピストン、50a シリンダ部材、50b 底板部材、51 突起部、52,56 摩擦プレート、82 押圧突部、90 ウェーブスプリング、91 山部、92 谷部、93 開口部、94 切欠き部、95,96 端部、97 外周、120 出力軸、C 軸心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に交互に形成された複数の山部および谷部と、周方向の一部に形成された開口部とを有するウェーブスプリングを挟持する、ウェーブスプリングの挟持構造であって、
軸心回りに回転可能に設けられた円形部材と、
周方向の一部が分断され隙間が形成された円弧形状を有し、前記円形部材の前記軸心方向の移動を規制するスナップリングとを備え、
前記ウェーブスプリングおよび前記スナップリングは、前記円形部材と前記軸心を共有するように配置され、互いに相対回転可能に設けられており、
前記ウェーブスプリングは、前記山部が前記円形部材側に突起し前記谷部が前記スナップリング側に突起するように前記円形部材と前記スナップリングとの間に配置されて、前記円形部材および前記スナップリングによって挟持されており、
前記開口部は、前記山部に形成されている、ウェーブスプリングの挟持構造。
【請求項2】
前記ウェーブスプリングには、前記開口部に対向する端部の外周側が切断された切欠き部が形成されている、請求項1に記載のウェーブスプリングの挟持構造。
【請求項3】
複数枚の摩擦プレートで構成される摩擦係合要素を押圧するクラッチピストンを備える、自動変速機の摩擦係合装置であって、
前記クラッチピストンは、両端が開口する円筒状の第一ピストン部材と、前記第一ピストン部材の内部に取り付けられた円板状の第二ピストン部材と、前記第一ピストン部材の内周面に形成された環状溝に嵌入されて前記第二ピストン部材の軸心方向の移動を規制するスナップリングと、請求項1または請求項2に記載の挟持構造によって前記第二ピストン部材および前記スナップリングの間に挟持されたウェーブスプリングとを有する、摩擦係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−127341(P2010−127341A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300901(P2008−300901)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】