説明

エステル基含有テトラカルボン酸二無水物、ポリエステルポリイミド前駆体、ポリエステルイミドおよびこれらの製造方法

【課題】本発明は、高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持ち、FPC、COF用基材およびハードディスクドライブ回路付サスペンション用絶縁材料等として有益なポリエステルイミドを提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(3):


(式中、P〜P、n〜n、X、XおよびYは、明細書に定義のとおりである)
で表される、ポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、ならびにこれらの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持つ、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基材、チップオンフィルム(COF)用基材、テープオートメーションボンディング(TAB)用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC、COF用基材およびハードディスクドライブ(HDD)回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、現在FPCおよびCOF用基板、TAB用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはこれらの特性以外にも、製造方法の簡便さ、極めて高い膜純度、入手可能な種々のモノマーを用いた物性改良のしやすさといったことから、近年益々その重要性が高まっている。
【0003】
電子機器の軽薄短小化が進むにつれてポリイミドへの要求特性も年々厳しさを増し、ハンダ耐熱性だけに留まらず、熱サイクルや吸湿に対するポリイミドフィルムの寸法安定性、透明性、金属基板との接着性、成型加工性、ビアホール等の微細加工性、エッチング特性等、複数の特性を同時に満足する多機能性ポリイミド材料が求められるようになってきている。
【0004】
近年、FPC用ベースフィルムとしてのポリイミドの需要が飛躍的に増加している。FPC用の原反(銅張積層板、以下、CCLと称する)の構成は主に3つの様式に分類される。即ち、1)ポリイミドフィルムと銅箔とをエポキシ系接着剤等を用いて貼り付ける3層タイプ、2)銅箔にポリイミドワニスを塗付後、乾燥するか、または銅箔にポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニスを塗布後、乾燥・イミド化するか、あるいは蒸着・スパッタ等によりポリイミドフィルム上に金属シード層を形成後、銅層をメッキにより形成する無接着剤2層タイプ、3)接着層として熱可塑性ポリイミドを用いる擬似2層タイプが知られている。ポリイミドフィルムに高度な寸法安定性が要求される用途では接着剤を使用しない2層タイプあるいは擬似2層タイプのCCLが有利である。
【0005】
FPC基板としてのポリイミドは実装工程において様々な熱サイクルに曝されて寸法変化が起こる。これをできるだけ抑えるためには、ポリイミドのガラス転移温度(Tg)が工程温度よりも高いことに加えて、Tg以下での線熱膨張係数ができるだけ低いことが望ましい。後述するようにポリイミド層の線熱膨張係数の制御は2層CCL製造工程中に発生する残留応力の低減の観点からも極めて重要である。
【0006】
多くのポリイミドは有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成型加工することは通常容易ではない。そのためポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸二無水物と4,4’−オキシジアニリン等の芳香族ジアミンとをN−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を重合し、このワニスを銅箔上に塗付し、250〜400℃で加熱脱水閉環(イミド化)して製膜される。
【0007】
残留応力は、高温でのイミド化反応後にポリイミド/金属基板積層体を室温へ冷却する過程で発生し、CCLの反り、剥離、膜の割れ等、深刻な問題がしばしば起こる。
【0008】
熱応力低減の方策として、絶縁膜であるポリイミド自身を低熱膨張化することが有効である。殆どのポリイミドでは線熱膨張係数が40〜100ppm/Kの範囲にあり、金属基板、例えば銅の線熱膨張係数17ppm/Kよりもはるかに大きいため、銅の値に近い、およそ20ppm/K以下を示す低熱膨張性ポリイミドの研究開発が行われている。
【0009】
現在実用的な低熱膨張性ポリイミド材料としては3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンから形成されるポリイミドが最もよく知られている。このポリイミドフィルムは、膜厚や作製条件にもよるが、5〜10ppm/Kと非常に低い線熱膨張係数を示すことが知られている(例えば非特許文献1参照)が、低吸水性は示さない。
【0010】
ポリイミドの寸法安定性は、熱サイクルだけでなく吸湿に対しても要求される。従来のポリイミドでは2〜3重量%も吸湿する。絶縁層の吸湿による寸法変化に伴う回路の位置ずれは高密度配線や多層配線にとって深刻な問題である。ポリイミド/導体界面でのコロージョン、イオンマイグレーション、絶縁破壊等、電気特性の低下によって更に深刻な問題を引き起こす恐れがある。そのため絶縁膜としてのポリイミド層はできるだけ吸水率が低いことが求められている。
【0011】
低吸水率を実現するための分子設計として、例えばトリメリット酸無水物とヒドロキノンから誘導される式(4)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を使用してポリイミド骨格へのパラ芳香族エステル結合を導入することが有効であると報告されている(例えば非特許文献2参照)。
【化4】

【0012】
しかしながら更なる低吸水率化を目論み、ポリイミド中のパラ芳香族エステル基の含有率を更に増加すれば、ポリイミド最大の特長である耐熱性、前駆体の溶解性(溶液キャスト製膜性)、重合反応性(重合時に沈殿しないこと)等の悪化が懸念される。
【0013】
近年のHDDの記憶容量の大容量化、データ転送速度の高速化等に対応して、磁気ディスクへの読み書きを行うヘッドを搭載したステンレス製スプリング部材であるサスペンションの構造が、従来のワイヤ配線付サスペンションからワイヤレス(回路付)サスペンションへと大きく変化している。
【0014】
回路付サスペンションの製造プロセス技術が開示されており(例えば非特許文献3および4参照)、主に次の3種類に大別される。即ち1)FPCとサスペンションを貼り付けて一体化するもので、まず銅箔/ポリイミドフィルムから成る片面銅貼積層板を準備し、これにフォトレジストを用いて銅回路を作成しその回路基板とステンレス製サスペンションとを最後に貼り付ける方法、2)各構成層をエッチングで形成するものであり、まずステンレス(SUS)箔/ポリイミドフィルム/銅箔から成る積層板を準備し、フォトレジストを用いて露光・現像・エッチング工程を経て銅層に回路形成を行う方法、3)各構成層をSUS箔上に回路を積み上げて形成するもので、まずSUS箔を準備し、この上に絶縁層として感光性または非感光性ポリイミド層を形成し、その絶縁層上にシード層を形成した後、メッキにより銅回路を形成していく方法である。
【0015】
低コストの点で有利な、非感光性ポリイミドと金属箔で構成されている市販の銅貼積層板等を使用する場合や、金属箔上に絶縁層としてより低価格な非感光性ポリイミドをキャスト法で形成する場合では、上記のいずれの方式においても、ポリイミドのエッチング工程が必要となる。エッチング工程には酸素プラズマ等を用いた乾式プロセスとエッチング液を用いた湿式プロセスがあるが、設備、処理コスト、生産性の点で湿式法が優れている。しかしながら従来用いられていたヒドラジン系エッチング溶液は有害で扱いが難しいという問題があった。また近年エタノールアミンによるポリイミドのエッチングが検討されているが、コストや後処理の問題が指摘されている。ポリイミド中のイミド基は水酸化ナトリウム水溶液等の無機の強塩基により加水分解を受けるため、アルカリ加水分解によりエッチングすることは可能であるが、しばしばエッチング速度が十分でないという問題があった。
【0016】
HDD用回路付サスペンションにおける絶縁膜としてポリイミドを適用する場合、ポリイミドの線熱膨張係数は金属箔に一致していることが望ましい。即ち低線熱膨張係数が要求される。HDDにおけるヘッドと磁気ディスクとの間隙はわずか数十nmであり、熱膨張係数の差によるステンレス箔の変形はディスクのクラッシュ等の重大な問題を引き起こす恐れがある。またポリイミド層の吸湿による膨張も同様な観点から好ましくない。
【0017】
ポリイミドを湿式法でエッチングした際、パターンの端面に層状痕が生じ、これが原因で洗浄等の工程中に一部が剥離・脱落し、HDDの故障原因になりうる。この層状痕はエッチング温度が高いほど激しくなると報告されている(例えば非特許文献5参照)。従って、より低い温度でエッチングできれば、端面からの脱落粒子発生を抑制することができるが、エッチング温度を下げすぎると、エッチング速度が急激に低下する恐れがある。
【0018】
イミド基よりもよりアルカリ加水分解しやすいと期待されるエステル基を含有し、低線熱膨張係数、低吸水率、低吸湿膨張係数、耐熱性を有するポリイミド、即ち剛直な骨格を持つポリエステルイミドを使用すれば上記産業分野に有益な材料を提供しうるが、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ殆ど知られていないのが現状である。
【非特許文献1】Macromolecules,29,7897(1996)
【非特許文献2】High Performance Polymers,18,697(2006)
【非特許文献3】フジクラ技報、99号、72(2000)
【非特許文献4】富士通技報、53、145(2002)
【非特許文献5】フジクラ技報、105号、33(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、十分な膜強度、アルカリエッチング特性を併せ持つ、FPC用基材、COF用基材およびTAB用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機ELディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC、COF用基材およびHDD回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、ならびにこれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、下記一般式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と、芳香族又は脂肪族ジアミンより下記一般式(2)で表されるポリエステルイミド前駆体、およびこれを熱的に又脱水試薬等を用いてイミド化することにより形成される下記一般式(3)で表されるポリエステルイミドが、上記産業分野において極めて有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち本発明の要旨は以下に示すものである。
1.一般式(1):
【化5】


(式中、置換基P〜Pは、各々独立に、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはフェニル基を表し、置換基数n〜nは、各々独立に、0〜4であり、XおよびXは、各々独立に、エステル基:−C(O)O−または−OC(O)−である)で表される、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物。
2.一般式(2):
【化6】


(式中、P〜P、n〜n、XおよびXは、要旨1と同義であり、Yは、2価の芳香族基または脂肪族基を表し、Rは、水素原子、シリル基または炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す)で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
3.固有粘度が0.1〜10.0dL/gの範囲である、要旨2に記載のポリエステルイミド前駆体。
4.一般式(3):
【化7】


(式中、P〜P、n〜n、X、XおよびYは、要旨2と同義である)で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
5.要旨2または3に記載のポリエステルイミド前駆体を加熱あるいは脱水試薬を用いて脱水環化反応(イミド化)させることを特徴とする、要旨4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
6.要旨1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン:HN−Y−NH(式中、Yは、要旨2と同義である)とを溶媒中、高温下、一段階で重縮合反応することを特徴とする、要旨4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
7.要旨2または3に記載のポリエステルイミド前駆体のワニスを金属箔上に塗布、乾燥後、加熱あるいは脱水試薬を用いてイミド化させることを特徴とする、金属層と要旨4に記載のポリエステルイミド樹脂層とを含む積層板の製造方法。
8.要旨7に記載の積層板の金属層をエッチングすることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高いガラス転移温度、低い線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、および十分な膜強度を併せ持つ、FPC、COFおよびTAB用基材、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機ELディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC、COF用基材およびHDD回路付サスペンション用絶縁材料として有益なポリエステルイミド、その前駆体およびこれらの原料であるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、ならびにこれらの製造方法を提供することができる。
【0023】
ポリイミドを低熱膨張化するための分子設計として、主鎖骨格をできるだけ直線状で剛直に(内部回転により多様なコンホメーションをとりにくく)する必要がある。しかし一方で、これによりポリマー鎖の絡み合いが減少し、得られるポリイミドフィルムが脆弱化する恐れがある。また、ポリイミド骨格へのエーテル結合等の屈曲性単位の過大な導入は、得られるポリイミドフィルムの膜靭性の向上には大きく寄与するが、低熱膨張特性の発現を妨げる
【0024】
本発明において着目したパラ芳香族エステル結合はエーテル結合に比べて内部回転障壁が高く、コンホメーション変化が比較的妨げられるため、主鎖骨格は剛直構造単位として振舞う一方、ポリイミド主鎖にある程度の柔軟さも付与することもでき、可撓性のポリイミドフィルムを与えることが期待される。
【0025】
またエステル結合はアミド結合やイミド結合よりも単位体積当たりの分極率が低いため、ポリイミドへのエステル結合の導入は低吸水率化にも有利である。
【0026】
本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の特徴の一つはその分子内に疎水基として振舞う5つの芳香族基と4つのエステル基を含有し、これらが全てパラ結合である点にある。これにより、本発明のポリエステルイミドは、低吸水率、低吸湿膨張係数および低熱膨張係数を同時に実現することが可能となる。
【0027】
また、本発明のポリエステルイミドは、特に一般式(3)中、P〜Pとして、アルキル基、アルコキシ基、あるいはフェニル基のような嵩高い置換基を導入した場合、ポリマー鎖間のパッキングを乱し、結晶化を妨げてポリエステルイミド膜の脆弱化を防ぐ効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0029】
本発明は下記一般式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を原料とし、各種芳香族または脂肪族ジアミンと組み合わせて重合反応させることにより産業上極めて有用なポリエステルイミドを提供することができる。該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の反応性、剛直性、疎水性、置換基の立体的嵩高さという構造上の特徴から、樹脂とした際に低線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、高ガラス転移温度、アルカリエッチング特性という従来の材料では得ることのできなかった物性を有する材料とすることができる。
【化8】


(式中、置換基P〜Pは、各々独立に、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはフェニル基を表し、置換基数n〜nは、各々独立に、0〜4であり、XおよびXは、各々独立に、エステル基:−C(O)O−または−OC(O)−である。)
【0030】
上記一般式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のうち、合成のしやすさ、原料の入手の可否および原料コスト等の観点から、好適に用いられる具体例を以下に示すがこれらに限定されない。
【化9】


【化10】

【0031】
ポリイミドの低吸水率化のためにしばしばフッ素化モノマーが使用されるが、本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物はフッ素基を一切含有しないため、フッ素化モノマー使用時にしばしば見られるガラス転移温度や金属箔との密着性が低下する懸念がなく、更にポリイミドを低コストで製造できるといった利点もある。
【0032】
該テトラカルボン酸二無水物の特徴の一つは、分子内に疎水基として振舞う5つの芳香環と4つのエステル基を含有し、これらが全てパラ結合している点である。これにより、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、低線熱膨張係数および高弾性率を同時に実現することが可能になる。
【0033】
該テトラカルボン酸二無水物モノマー中の酸無水物基の重合反応性は、得られるポリエステルイミドフィルムの靭性に大きな影響を及ぼす。酸無水物基の求電子性即ちジアミンとの重合反応性が十分高くないと、高重合体が得られず、結果としてポリマー鎖同士の絡み合いが低くなり、ポリエステルイミドフィルムが脆弱になる恐れがある。本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物は高い重合反応性を有するためそのような懸念がない。
【0034】
本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物に対して、更なる低吸水化を目論み、パラ芳香族エステル結合を更に増加(追加)しようとすると、合成経路が著しく煩雑になり、製造コストの観点から不利である。それに加えそのようなモノマーを使用してポリエステルイミド前駆体を重合する際、モノマーおよび生成物の溶媒溶解性が低下して、重合が進行しなくなる恐れがあるため、好ましくない。
【0035】
本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物は置換基を含有しなくても(即ち、置換基数n〜nが0である場合でも)大きな支障はないが、適当な置換基を導入することで、ポリエステルイミドのポリマー鎖間のパッキングが適度に乱され、フィルムの結晶化が妨害されて、結果として要求特性を保持したままで膜靭性が改善される場合がある。
【0036】
その際、適用可能な置換基として、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基、フェニル基が挙げられるが、メチル基およびメトキシ基がより好ましく、製造コストの観点からメチル基が更に好ましい。
【0037】
該テトラカルボン酸二無水物と、極めて剛直な構造のジアミンとを用いた場合、本発明のポリエステルイミドフィルムは、銅等の金属箔より低い線熱膨張係数を示すことがある。この場合、適当量の4,4’−オキシジアニリン等の屈曲性モノマーを共重合成分として併用することで、ポリエステルイミドフィルムの線熱膨張係数を金属箔の値に完全に一致させることができる。屈曲性モノマーの併用によりポリエステルイミドフィルムの靭性も大幅に改善することができる。
【0038】
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法>
一般式(1)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、下記式(11)で表されるエステル基含有ジカルボン酸またはその活性誘導体と、下記式(12)で表される4−ヒドロキシフタル酸無水物(以下、4−HPA称する)とのエステル化反応により該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物を製造する。
【化11】


(式(11)中、P〜Pは、各々独立に、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基、フェニル基を表し、置換基数n〜nは、各々独立に、0〜4であり、XおよびXは、各々独立に、エステル基:−C(O)O−または−OC(O)−である。)
【化12】

【0039】
エステル化反応は公知の方法を適用することができる。例えば、エステル基含有ジカルボン酸中のカルボキシル基と4−HPA中のヒドロキシ基を直接脱水反応させるか、あるいはエステル基含有ジカルボン酸と4−HPAのアセテート化体とを高温で反応させ脱酢酸してエステル化する方法、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法、エステル基含有ジカルボン酸をジハライドに変換し、これと4−HPAを脱酸剤(塩基)の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)、トシルクロリド/N,N−ジメチルホルムアミド/ピリジン混合物を用いてエステル基含有ジカルボン酸を活性化し、4−HPAと反応させてエステル化する方法等が挙げられる。上記の方法の中でも、酸ハライド法が、経済性、反応性の点で好ましく適用できる。
【0040】
次に本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の酸ハライド法による合成方法について具体的に説明するが、特に限定されない。
【0041】
式(11)で表されるエステル基含有ジカルボン酸には、下記式(13)〜(15)で表される、エステル基Xの結合順序の異なる3種類のジカルボン酸異性体が含まれる。
【化13】

【0042】
上記式(13)〜(15)で表されるエステル基含有ジカルボン酸またはこれらの活性誘導体のうち、合成のしやすさ(簡便さ)、素原料の入手のしやすさ、および製造コストの観点から式(13)で表されるジカルボン酸またはその活性誘導体が好適に用いられる。その際、ジカルボン酸の活性誘導体として酸ハライド、特に酸クロリドが好適に用いられる。
【0043】
以下に一例として式(13)で表されるエステル基含有ジカルボン酸のジクロリド体の合成方法について説明する。これは下記式(16)で表されるジオールと大過剰のテレフタル酸クロリド(以下、TPCと称する)とのエステル化反応により容易に製造することができる。
【化14】


式(16)中、置換基Pは、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはフェニル基を表し、置換基数nは0〜4である。nが2〜4の場合、置換基の種類は同一であっても、異なっていてもよい。
【0044】
式(16)で表されるジオールとして具体的には、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、エチルヒドロキノン、n−プロピルヒドロキノン、イソプロピルヒドロキノン、n−ブチルヒドロキノン、tert−ブチルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、エトキシヒドロキノン、フェニルヒドロキノン等が挙げられる。これらは市販されており、東京化成工業(株)のような供給業者から入手可能である。
【0045】
より具体的には、まず大過剰のTPCを脱水溶媒に溶解してキャップで密栓する。この溶液に式(16)で表されるジオールおよび適切な量の塩基(脱酸剤)を同一溶媒に溶解したものをシリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。この際の反応温度は−20〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。反応時間は滴下終了後0.5〜72時間であるが、生産性の観点から好ましくは1〜24時間である。この反応により、沈殿物が生成するが、これは目的物である式(13)のジカルボン酸のジクロリド体と副生成物である塩基の塩酸塩の混合物である。
【0046】
この反応の際のTPCの使用量はジオールの2.5〜10倍モル量であり、3〜5倍モル量が好ましい。3倍モル量を下回ると、目的物より分子量の高い生成物が不純物として混入しやすくなり、10倍モル量を越えると過剰量のTPCを完全に分離するのに時間を要し、更にコストの観点からも好ましくない。
【0047】
上記反応は溶質濃度5〜40重量%、好ましくは7〜30重量%の範囲で行われる。5重量%以下で反応を行うと、生成物の収率が著しく低下する恐れがあり、また40重量%を越えると素原料が溶媒に十分溶解せず、収率の低下に加え未反応原料が不純物として混入しやすくなる恐れがあるため好ましくない。
【0048】
この反応の際、使用可能な溶媒として特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が例として挙げられる。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。素原料の溶解性や溶媒の留去のしやすさの観点から、テトラヒドロフランが好適に用いられる。
【0049】
上記反応の際に使用可能な塩基(脱酸剤)として特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が用いられる。副生する塩酸塩の分離のしやすさの観点から脱酸剤としてピリジンやトリエチルアミンが好適に用いられる。
【0050】
上記反応により生成する沈殿物は、式(13)で表されるジカルボン酸のジクロリド体、過剰量のTPCおよび副生成物である塩基の塩酸塩の混合物である。脱酸剤としてピリジンを使用した場合、この副生成物は水溶性のピリジン塩酸塩である。以下に一例としてピリジン塩酸塩を分離する方法について説明する。
【0051】
上記沈殿物に含まれるピリジン塩酸塩は水溶性であるが、目的のジクロリド体は油溶性であるため、沈殿物を水で洗浄することで、ピリジン塩酸塩のみ溶解除去することが可能である。この工程により、目的のジクロリド体の一部または殆どが加水分解してジカルボン酸に変換されるが、場合によっては該エステル基含有ジカルボン酸の溶解性が乏しく、再度ジハライド体に変換することが困難となることがあるため、そのような懸念がある場合は、水洗浄による塩酸塩分離工程は採用せずに以下のような方法で目的物を精製することができる。
【0052】
即ち、反応溶液から沈殿物を濾別した後、これをトルエン等の無極性溶媒で洗浄して目的の生成物即ち式(13)で表されるジカルボン酸のジクロリド体およびTPCを溶解抽出する。この際ピリジン塩酸塩は上記無極性溶媒には殆ど溶解しない。この溶解抽出工程において、溶解度を高めるため、抽出溶媒を50〜120℃に加熱して溶解してもよい。この抽出溶液をエバポレーターで溶媒留去して残留物をn−ヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒で洗浄することで、過剰量のTPCのみを溶解除去して目的とするジクロリド体を高純度の粉末として得ることができる。得られたジクロリド体はこのままでも次の反応工程、即ち4−HPAと反応させて本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成工程に供することができるが、更にトルエン等の溶媒で再結晶を行い、より高純度化することもできる。
【0053】
上記塩酸塩を水で洗浄して溶解抽出する分離工程を採用した場合に得られる、ジクロリド体が加水分解したエステル基含有ジカルボン酸は、例えば以下のように酸ハライドに再変換することができる。ハロゲン化剤として塩化チオニルを用いる方法、オキサリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などが挙げられる。中でも過剰に使用する試剤の除去のしやすさの点から塩化チオニルを用いる方法が好適に用いられる。この際、塩化チオニルの使用量は特に制限はないが溶剤としての働きも有するため、ジカルボン酸に対して大過剰に使用することが望ましい。塩素化の触媒としてN,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等を塩化チオニルに添加してもよい。反応は室温でも行えるが、通常50〜90℃に加熱還流して行うことが好ましい。反応後は過剰な塩素化試剤を常圧あるいは減圧下にて留去するが、塩素化試剤と共沸組成物を形成するベンゼンやトルエン等の溶媒を添加することもできる。得られたジクロリド体はヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、そのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
【0054】
式(14)で表されるエステル基含有ジカルボン酸またはその活性化誘導体は、例えばテレフタル酸またはその活性誘導体と、p−ヒドロキシ安息香酸またはそのエステル誘導体とのエステル化反応により、容易に製造することができ、その合成の際上記に詳述した式(13)で表されるエステル基含有ジカルボン酸およびそのジクロリド体の合成における好ましい実施態様を適宜参照することもできる。同様に、式(15)で表されるエステル基含有ジカルボン酸またはその活性化誘導体は、例えばp−ヒドロキシ安息香酸、あるいはそのエステルまたは活性化誘導体と、テレフタル酸あるいはそのエステルまたは活性化誘導体とのエステル化反応により、容易に製造することができ、その合成の際上記に詳述した式(13)で表されるエステル基含有ジカルボン酸およびそのジクロリド体の合成における好ましい実施態様を適宜参照することができる。
【0055】
以上のようにして得られたジカルボン酸ジクロリドと4−HPAを反応させてエステル化し、式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を合成する。まずジカルボン酸ジクロリド(A mol)を溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓する。この溶液に、4−HPA(2×A mol)および適切な量の塩基(例えば、ピリジン)を同一溶媒に溶解したものをシリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応混合物を1〜24時間撹拌する。目的物の溶解度が高い場合は、反応混合物からまず生成した塩基の塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去し、100〜200℃で24時間真空乾燥して粉末状の粗生成物を得ることができる。一方、目的物の溶解度が低い場合には、まず目的物と塩基の塩酸塩の混合物を濾別し、これを大量の水で洗浄して塩酸塩のみ溶解除去する。次にこの水洗浄工程で一部加水分解を受けて酸無水物基が部分的に開環した粗生成物を100〜200℃で真空乾燥して閉環処理する。このようにして得られた粗生成物を適切な溶媒で再結晶、洗浄、加熱真空乾燥することにより、重合に供することのできる高純度の該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物が得られる。
【0056】
この反応の際、使用可能な溶媒として特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が例として挙げられる。またこれらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。素原料の溶解性、反応後の溶媒留去のしやすさから、テトラヒドロフラン(以下、THFと称する)が好適に用いられる。
【0057】
また本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成は−20〜50℃で行われるが、より好ましくは0〜30℃で行われる。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0058】
該テトラカルボン酸二無水物を得る反応は、溶質濃度5〜50重量%の範囲で行われるが、副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、10〜40重量%の範囲で行うことが好ましい。
【0059】
反応に用いる塩基(脱酸剤)として特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が用いられる。副生する塩酸塩の除去のしやすさからピリジンやトリエチルアミンが好適に使用される。
【0060】
例えば溶媒としてTHF、塩基としてピリジンを用いた場合、副生成物のピリジン塩酸塩はTHFに殆ど溶解しない。したがって、目的物の溶解度が高く、目的物が溶媒に溶解している場合は、反応終了後、溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。更にこの濾液から溶媒を留去し、適切な溶媒から再結晶するだけで高収率で十分高い純度の目的物が得られるが、痕跡量の塩素成分を分離除去するために、目的物をクロロホルムや酢酸エチル等に再溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗してもよい。一方、目的物の溶解度が低い場合は、目的物と共に塩酸塩が沈殿するため、これを濾別して水で十分洗浄することで、塩酸塩のみを溶解除去することができる。塩酸塩の除去は洗浄液を1%硝酸銀水溶液を用いて塩化銀の白色沈殿の生成の有無をもって、容易に判断することができる。水洗操作の際、該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物が一部加水分解を受けて、ジカルボン酸に変化するが、80〜250℃、好ましくは120〜200℃で真空乾燥することで、酸無水物基に容易にもどすことができる。また加熱法の他に有機酸の酸無水物と処理する方法も適用可能である。使用可能な有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、除去の容易さの点で無水酢酸が好適に用いられる。
【0061】
<ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明に係るポリエステルイミド前駆体(ポリアミド酸即ち、式(2)中、R=水素原子)を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、以下の方法により得られる。まずジアミン:HN−Y−NH(式中、Yは、2価の芳香族基または脂肪族基を表す)を重合溶媒に溶解し、これに一般式(1)で表される本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加し、メカニカルスターラーを用い、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間好ましくは1〜24時間攪拌する。この際モノマー濃度は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
【0062】
重合の際、ピリジン等の脱酸剤の存在下、該テトラカルボン酸二無水物の代わりに、テトラカルボン酸ジアルキルエステルジクロリドを使用することで、ポリアミド酸のアルキルエステル(式(2)中、R=アルキル基)が得られる。
【0063】
また、重合の際、ジアミンをあらかじめジシリル化体に変換しておき、これに該テトラカルボン酸二無水物を添加することで、ポリアミド酸のシリルエステル(式(2)中、R=シリル基)を得ることができる。ジアミンのシリル化の際に使用可能なシリル化剤として特に限定されないが、トリメチルシリルクロリド等のハロゲン化アルキルシランの他、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド等が例として挙げられる。したがって、式(2)中のRにおけるシリル基は、−Si(R)(R)(R)基(ここで、R、RおよびRは、各々独立に、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはフェニル基を表す)を意味し、例として、トリメチルシリル、トリエチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル等が挙げられる。
【0064】
ポリエステルイミドフィルムの靭性の観点からポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。上記モノマー濃度範囲より低濃度で重合を行うと、ポリエステルイミド前駆体の重合度が十分高くならず、最終的に得られるポリエステルイミドフィルムが脆弱になる恐れがあり、好ましくない。また、上記モノマー濃度範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となり、重合が進行しない恐れがある。
【0065】
一方、重合度が高すぎると、ワニスが扱いにくくなる恐れがある。従ってポリエステルイミドフィルムの靭性およびワニスのハンドリングの観点から、ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は好ましくは0.1〜10.0dL/gの範囲であり、0.5〜5.0dL/gの範囲であることがより好ましい。
【0066】
本発明に係るポリエステルイミドフィルムの要求特性およびポリエステルイミド前駆体の重合反応性を損なわない範囲で、該ポリエステルイミド前駆体重合の際に式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物を共重合成分として部分的に使用することができる。使用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン−ビス(トリメリテート アンハイドライド)等が例として挙げられる。また、これらを2種類以上用いてもよい。
【0067】
また、共重合成分として脂肪族テトラカルボン酸二無水物を部分的に使用することもできる。特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’ ,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0068】
本発明のポリエステルイミド前駆体の製造に使用されるジアミン:HN−Y−NH(式中、Yは、2価の芳香族基または脂肪族を表す)は、本発明のポリエステルイミドの要求特性の観点から、ジアミン成分として少なくとも1成分は剛直な構造のものを用いる必要がある。剛直なジアミンとはジアミン中2つのアミノ基がパラ配置若しくはそれに相当する配置であり、ジアミンが複数のベンゼン環から成る場合これらを連結する基としてエーテル基、スルホン基、スルフィド基、カルボニル基等の屈曲性基を含有せず、アミド基、エステル基、フェニレン基等の剛直性基を含有するジアミンを指す。したがって、式(2)または(3)中のYにおける芳香族基または脂肪族基は、単環または二環式の、炭素数6〜12の芳香族または脂環式炭化水素基であるか、あるいは同一または異なる2つの前記芳香族または脂環式炭化水素基が、単結合であるか、あるいはアミド基、エステル基またはフェニレン基のような連結基を介して結合している環式基である。2価の基の結合位置関係が、「パラ配置若しくはそれに相当する配置である」とは、ジアミン中の2つのアミノ基と、場合により連結基とを含む相互の結合位置関係の少なくとも一つ、好ましくは全てがパラ配置であるか、または一方の結合位置に対して、他方の結合位置が点対称または線対称にあるような配置を意味する。そのようなジアミンとして特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、2,5−ジアミノトルエン、ベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4−アミノ−2−メチルフェニル−4’−アミノベンゾエート、p−ターフェニレンジアミン等が例として挙げられる。
【0069】
本発明に係るポリエステルイミド前駆体の重合反応性、ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、上記の剛直なジアミン以外に屈曲構造を有するジアミンを共重合成分として部分的に使用することができる。特に限定されないが、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン例として挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。上記屈曲性ジアミンは剛直なジアミンと共に共重合成分として適当量使用することでポリエステルイミドフィルムに適度な柔軟性を与えることができる。重合反応性およびコストの観点から4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好適に用いられる。
【0070】
重合反応の際に使用される溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく特に限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチルーγ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。
【0071】
本発明のポリエステルイミド前駆体はその重合溶液を適度に希釈後、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、析出物を濾別、乾燥することにより、粉末として単離することもできる。
【0072】
<ポリエステルイミドの製造方法>
本発明のポリエステルイミドは、上記の方法で得られたポリエステルイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属箔/ポリエステルイミドフィルム積層体、粉末、成型体および溶液(ワニス)である。
【0073】
まずポリエステルイミドフィルムを製造する方法について述べる。ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコン、ステンレス等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、200〜430℃、好ましくは250〜400℃で加熱することで本発明のポリエステルイミドフィルムを製造することができる。加熱温度はこれ以下だとイミド化の閉環反応が不完全となる恐れがあるため好ましくなく、また高すぎると生成したポリエステルイミドフィルムが一部熱分解する可能性があるため好ましくない。またイミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【0074】
またイミド化反応は、熱処理に代えて、ポリエステルイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である
【0075】
本発明のポリエステルイミド前駆体のワニスをそのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後、150〜200℃に加熱することで、ポリエステルイミド自体が用いた溶媒に溶解する場合、本発明のポリエステルイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することができる。一方、ポリエステルイミド自体が溶媒に不溶な場合は、沈殿物を濾別することにより、本発明のポリエステルイミドを粉末として得ることができる。この際、イミド化の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、析出物を濾別、乾燥することにより、該ポリエステルイミドを粉末として単離することもできる。また該ポリエステルイミドが溶媒に可溶である場合、その粉末を上記重合溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることもできる。
【0076】
本発明のポリエステルイミドは、本発明のポリエステルイミド前駆体を単離することなしに、該ポリエステルイミド前駆体の原料である、一般式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミン:HN−Y−NH(式中、Yは、上記のとおりである)とを溶媒中、130〜250℃、好ましくは150〜200℃で反応させることにより一段階で重合することによっても得られる。この際、ポリエステルイミドが用いた溶媒に不溶な場合、ポリエステルイミドは沈殿として得られ、可溶な場合はポリエステルイミドのワニスとして得られる。重合溶媒は特に限定されず、上述のポリエステルイミド前駆体の重合反応の際に使用される溶媒として挙げたものから選択することができ、m−クレゾール等のフェノール系溶媒やN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒が好適に用いられる。イミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、これらの溶媒中にトルエンやキシレン等を添加することができる。またイミド化触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することもできる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、析出物を濾別、乾燥することにより、該ポリエステルイミドを粉末として単離することができる。またそのポリエステルイミドが溶媒に可溶である場合はその粉末を上記溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることもできる。
【0077】
上記ポリエステルイミドワニスを基板上に塗布し、40〜400℃、好ましくは100〜300℃で乾燥するによってもポリエステルイミドフィルムを形成することができる。
【0078】
上記のように得られたポリエステルイミド粉末を200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでポリエステルイミドの成型体を作製することができる。
【0079】
ポリエステルイミド前駆体溶液中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリエステルイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリエステルイミド前駆体フィルムを浸漬することでも行うことができる。ポリエステルイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリエステルイミドへ容易に変換することができる。
【0080】
金属箔例えば銅箔上に該ポリエステルイミド前駆体ワニスを塗付・乾燥後、上記の条件によりイミド化することで、無接着剤型(2層)銅張積層板を得ることができる。また、あらかじめ該ポリエステルイミドフィルムを作製しておき、エポキシ系接着剤等の汎用接着剤を用いて銅箔と貼りあせて接着剤型(3層)銅張積層板を作製することもできる。更に、汎用接着剤の代わりに熱可塑性ポリイミドを使用して擬似2層銅張積層板を作製することもできる。このようにして得られた銅張積層板を塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いて銅層を所望する回路状にエッチングすることで、フレキシブルプリント配線回路を製造することができる。
【0081】
本発明のポリエステルイミドおよびその前駆体溶液中に、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、末端封止剤、架橋剤、および増感剤等の添加物を加えることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外線吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300またはFT−IR350)を用い、KBr法にてエステル基含有ジカルボン酸誘導体およびエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収(FT−IR)スペクトルを測定した。また透過法にてポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜(膜厚約5μm)のFT−IRスペクトルを測定した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d)中でエステル基含有ジカルボン酸誘導体およびエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
エステル基含有ジカルボン酸誘導体およびエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、ブルカーエイエックスエス社製示差走査熱量分析(DSC)装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
<固有粘度>
0.5重量%のポリエステルイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリエステルイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、膜厚1μm当たり0.5gの静荷重をかけ、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックスエス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリエステルイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
<吸湿膨張係数:CHE>
ポリエステルイミドフィルム(5mm×20mm×膜厚20μm)を100℃で数時間真空乾燥後、これをブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)に速やかにセット(チャック間:15mm)して膜厚1μm当たり0.5gの静荷重を試験片にかけ、室温で乾燥窒素を1時間流した後、神栄社製精密湿度供給装置(SRG−1R−1)を用いて相対湿度(RH)80%のウエットガスをTMA4000装置内に導入して、室温における試験片の伸びより、ポリエステルイミドフィルムの吸湿膨張係数を求めた。この値が低いほど吸湿寸法安定性が高いことを意味する。
<弾性率、破断強度、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−II)を用いて、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを意味する。また破断強度は試験片が破断したときの応力から求めた。
【0083】
(実施例1)
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成>
エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成に先立ち、まずその原料であるエステル基含有ジカルボン酸ジクロリドを以下のように合成した。メチルヒドロキノン(東京化成工業(株)製)10mmolを脱水THFに溶解し、これにピリジン40mmolを加えてセピタムキャップシールしてA液とした(溶質濃度:15重量%)。次に別のフラスコ中でTPC(東京化成工業(株)製)40mmolを脱水THFに溶解してB液とした(溶質濃度:15重量%)。B液を氷浴中で冷却、攪拌しながら、これにA液をシリンジにてゆっくりと滴下し、滴下終了後、数時間0℃で攪拌した後、更に室温で12時間攪拌した。生成した白色沈殿を濾別してTHFで洗浄し、過剰なTPCを大部分溶解除去した。得られたピリジン塩酸塩を含む粗生成物粉末にトルエン150mLを加えて100℃で加熱溶解し、不溶のピリジン塩酸塩を濾過して除去した。最後にn−ヘキサンで洗浄して痕跡量のTPCを溶解除去し、白色粉末を室温にて12時間真空乾燥して目的のエステル基含有ジカルボン酸ジクロリドを得た(収率34%)。この化合物の赤外線吸収スペクトルにおいて1779cm−1に酸クロリドのC=O伸縮振動吸収帯および1738cm−1に芳香族エステル基のC=O伸縮振動吸収帯が観測された。また2600cm−1付近に加水分解によるカルボン酸のC=O伸縮振動吸収帯は全く観測されなかった。H−NMRスペクトルはδ2.2ppm付近にメチルプロトン(3H,実測相対強度3.00H)、δ8.4〜8.2ppmに末端の2つの芳香環上のプロトン(8H,相対強度7.61H)、7.3〜7.1ppmに中央の芳香環上のプロトン(3H,相対強度3.07H)を示した。また低磁場領域(δ10〜15ppm)には加水分解生成物であるカルボン酸のプロトンは全く観測されなかった。示差走査熱量分析(DSC)によりシャープな吸熱ピーク(融点)が231℃に観測された。以上の結果から生成物は下式(17)で表される目的のエステル基含有ジカルボン酸ジクロリドであることがわかった。
【化15】


次に上記のようにして得られたエステル基含有ジカルボン酸ジクロリド(以下、TPMHQと称する)と4−HPAよりエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を以下のように合成した。まず、4−HPA(マナック(株)製)6.64mmolを脱水THFに溶解し、これにピリジン20mmolを加えてセピタムキャップシールしてA液とした(溶質濃度:15重量%)。次に別のフラスコ中でTPMHQ3.32mmolを脱水THFに溶解してB液とした(溶質濃度:10重量%)。B液を氷浴中で冷却、攪拌しながら、これにA液をシリンジにてゆっくりと滴下し、滴下終了後、数時間0℃で攪拌した後、更に室温で12時間攪拌した。生成した白色沈殿物をTHF、次いで大量の水で洗浄してピリジン塩酸塩を溶解除去し、180℃で12時間真空乾燥して閉環処理を行い、テトラカルボン酸二無水物の粗生成物を得た(収率75%)。更に高純度化するためγ−ブチロラクトンで再結晶し、THFで洗浄後180℃で12時間真空乾燥した。この化合物の赤外線吸収スペクトルにおいて2926cm−1にメチル基のC−H伸縮振動吸収帯、1850cm−1および1786cm−1に酸無水物基のC=O伸縮振動吸収帯、および1734cm−1に芳香族エステル基のC=O伸縮振動吸収帯が観測された。H−NMRスペクトルはδ2.2ppm付近にメチルプロトン(3H,実測相対強度3.00H)およびδ8.4〜7.3ppmに芳香族プロトン(17H,相対強度16.94H)を示した。また低磁場領域(δ10〜15ppm)には加水分解生成物であるカルボン酸のプロトンは全く観測されなかった。示差走査熱量分析(DSC)によりシャープな吸熱ピーク(融点)が262℃に観測された。これらの結果から生成物は下式(18)で表される目的のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物であることがわかった。
【化16】

【0084】
(実施例2)
<ポリエステルイミド前駆体の重合、イミド化およびポリエステルイミドの膜特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート(以下、APABと称する)5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと称する)に溶解した後、この溶液に実施例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の粉末5mmolを徐々に加えた。全モノマー濃度30重量%で重合を開始し、反応と共に溶液粘度が急激に増加したため、徐々に同一溶媒で希釈して最終的にモノマー濃度23重量%まで希釈した。室温で72時間撹拌し透明、均一で粘稠なポリエステルイミド前駆体溶液を得た。このポリエステルイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリエステルイミド前駆体の固有粘度は0.52dL/gであった。このポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、80℃、2時間で乾燥して得られたポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上、減圧下150℃で30分、200℃で30分、更に350℃で1時間段階的に熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして310℃で1時間、熱処理を行い、膜厚約20μmのポリエステルイミドフィルムを得た。このポリエステルイミドフィルムは180°折曲試験によっても破断せず、可撓性を示した。また如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このポリエステルイミドフィルムについて動的粘弾性測定を行った結果、283℃にガラス転移点が観測された。また線熱膨張係数は27.1ppm/Kと比較的低い線熱膨張係数を示した。また5%重量減少温度は窒素中で465℃、空気中で423℃であった。また、吸水率0.19%と極めて低く、更に吸湿膨張係数(CHE)も0.77ppm/RH%と極めて低い値であった。この値は市販ポリイミドフィルム(KAPTON−H)のCHE=22ppm/RH%と比較すると約1/30であり、本発明のポリエステルイミドフィルムが如何に吸湿寸法安定性に優れているか明らかである。引張弾性率(ヤング率)は4.66GPa、破断強度は0.119GPa、破断伸びは4.2%であった。このようにこのポリエステルイミドは低線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、高い熱安定性、十分な膜靭性を示した。表1に物性値をまとめる。得られたポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図1、図2にそれぞれ示す。
【0085】
(実施例3)
ジアミンとしてAPABの代わりに1,4-フェニレンジアミン(以下、PDAと称する)および4,4’−オキシジアニリン(4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)(以下、4,4’−ODAと称する)を併用した以外は実施例2に記載の方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、物性評価した。共重合組成(ジアミンのモル比)はPDA:4,4’−ODA=70:30である。物性値を表1に示す。実施例2に記載のポリエステルイミドと同様に、低線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、高い熱安定性、および十分な膜靭性を示した。ポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図3、図4に示す。
【0086】
(比較例1)
実施例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いた以外は実施例2に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は2.81dL/gであった。実施例2に記載した方法に従って、製膜、熱イミド化および熱処理を行い、得られた膜(膜厚=20μm)の物性を評価した。物性値を表1に示す。低線熱膨張係数、高い熱安定性、および十分な膜靭性を示したが、吸水率は0.75%と実施例2に記載のポリエステルイミドフィルムより高い値であった。これは実施例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を使用しなかったためである。
【0087】
(比較例2)
実施例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン成分としてPDAを用いて、実施例2に記載した方法に準じて、ポリイミド前駆体を重合した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリイミド前駆体の固有粘度は5.19dL/gであった。実施例2に記載した方法に準じて、製膜、熱イミド化および熱処理を行い、得られた膜(膜厚=20μm)の物性を評価した。物性値を表1にまとめた。低線熱膨張係数、高い熱安定性を示したが、吸水率は1.6%と実施例3に記載のポリエステルイミドより高い値であった。これは実施例1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を使用しなかったためである。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のポリエステルイミドは、低線熱膨張係数、極めて低い吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、高ガラス転移温度および十分な膜靭性を有するため、特にFPC、COF用基材およびHDD回路付サスペンション用絶縁材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は実施例2に記載のポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図2】図2は実施例2に記載のポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】図3は実施例3に記載のポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルである。
【図4】図4は実施例3に記載のポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】


(式中、置換基P〜Pは、各々独立に、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルコキシ基またはフェニル基を表し、置換基数n〜nは、各々独立に、0〜4であり、XおよびXは、各々独立に、エステル基:−C(O)O−または−OC(O)−である)
で表される、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
一般式(2):
【化2】


(式中、P〜P、n〜n、XおよびXは、請求項1と同義であり、Yは、2価の芳香族基または脂肪族基を表し、Rは、水素原子、シリル基または炭素原子数1〜6の直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表す)
で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【請求項3】
固有粘度が0.1〜10.0dL/gの範囲である、請求項2に記載のポリエステルイミド前駆体。
【請求項4】
一般式(3):
【化3】



(式中、P〜P、n〜n、X、XおよびYは、請求項2と同義である)
で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のポリエステルイミド前駆体を加熱あるいは脱水試薬を用いて脱水環化反応(イミド化)させることを特徴とする、請求項4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と、ジアミン:HN−Y−NH(式中、Yは、請求項2と同義である)とを溶媒中、高温下、一段階で重縮合反応することを特徴とする、請求項4に記載のポリエステルイミドの製造方法。
【請求項7】
請求項2または請求項3に記載のポリエステルイミド前駆体のワニスを金属箔上に塗布、乾燥後、加熱あるいは脱水試薬を用いてイミド化させることを特徴とする、金属層と請求項4に記載のポリエステルイミド樹脂層とを含む積層板の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の積層板の金属層をエッチングすることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−149799(P2009−149799A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329945(P2007−329945)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月4日 社団法人高分子学会発行の「第56回(2007年)高分子討論会 高分子学会予稿集 56巻2号」に発表 平成19年9月20日 社団法人高分子学会主催の「第56回高分子討論会」においてポスターをもって発表
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】