説明

エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステル、チオエステル、アルコール、またはチオールの製造方法

本発明は、隣接する少なくとも2つのキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルの製造方法であって、第二アルコールまたは第二チオール部分を形成する第1キラル中心を、1個の水素置換基を有する第2キラル中心に対してベータ位に含む構造を有する第二アルコールまたはチオールの立体異性体混合物を、エピマー化触媒および立体選択的アシル化触媒の存在下にアシル供与体と反応させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、隣接する少なくとも2つのキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルの製造方法に関する。本発明は、さらに、そのようにして得られたエステルもしくはチオエステル、または、それぞれのアルコールもしくはチオールの、他の製品を製造するための使用に関する。
【0002】
S.Liuら(Angew.Chem.Int.Ed.、2007、46、7506)は、ラセミ体ケトンのRu−触媒不斉水素化による、エナンチオマー過剰率(e.e)およびジアステレオマー過剰率(d.e)が大きい、1,2−アミノアルコールの合成について記載しているが、この技術を用いて、cis−ジアステレオマーのみが入手可能である。さらに、この方法では第3アミンのみが製造される。
【0003】
I.Schiffersら(J.Org.Chem.2006、71、2320)は、古典的な分割法(例えば、ジアステレオアイソマー塩沈殿法により沈殿させる、ジアステレオアイソマー塩の製造など)に基づいた、光学的に純粋なtrans−2−アミノ−1−シクロヘキサノール誘導体の製造について記載しているが、これは理論的最大収率が50%に過ぎないという欠点を有する。
【0004】
K.Araiら(Angew.Chem.Int.Ed.2007、46、955)およびF.Carreeら(Org.Lett.2005、7(6)、1023)は、アニリンによるエポキシドのエナンチオ選択的開環によるe.eおよびd.eが大きい1,2−アミノアルコールの合成について記載しているが、この方法はmeso−エポキシドにのみ適用することができ、かつ、この方法ではトランス−ジアステレオマーのみが入手可能である。
【0005】
本発明の目的は、それらに代わる、少なくとも2つの隣接したキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルの製造方法、特に、それらの欠点の1つ以上を解決する製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明によれば、動的速度論的分割(DKR)を使用することにより、2つ以上の隣接したキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルもしくはチオエステル、または、それぞれのアルコールもしくはチオールを製造できることが、今や明らかとなった。隣接したとは、キラル中心が、1,2ジオールで水酸基が結合している炭素原子、1−アミノ−2−ヒドロキシ化合物でアミノ基または水酸基がそれぞれ結合している炭素原子のような、直接隣り合った炭素原子であることを意味する。
【0007】
したがって、本発明は、少なくとも1対の2個の隣接キラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルの製造方法であって、エピマー化触媒および立体選択的アシル化触媒の存在下、1個の水素置換基を有する第2キラル中心のベータ位に第二アルコールまたはチオール部分を形成する第1キラル中心を含む構造を有する、第二アルコールまたはチオールの立体異性体混合物を、アシル供与体と反応させる方法に関する。
【0008】
本発明は、また、少なくとも1対の2個の隣接キラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルから、アルコールまたはチオールを製造する方法に関する。
【0009】
本発明の方法の利点は、必要に応じて、ワンポット法またはワンポット法に近い方法で、少なくとも2個の隣接キラル中心を有する生成物を、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富む形態で製造できる点にある。本発明では、対応する立体異性体を任意の相対量で含有する混合物を、初めに存在する立体異性体の相対量から予測される収率より高い収率で分割することができる。
【0010】
本発明の目的のためには、「DKR」は、残留エナンチオマー基質のin−situラセミ化と組み合わされる速度論的分割を意味する。DKRは、例えば、Perssonら、J.Am.Chem.Soc.1999、121、1645−1650で、知られている。この刊行物には、1個のキラル中心を有するあるラセミ体第二アルコールから、それらのエナンチオマーに富むエステルへの転換について記載されているが、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むキラルエステルまたはキラル第二アルコールの製造において、DKRにより、少なくとも1対の2個の隣接キラル中心を構成する例は示されていない。
【0011】
発明者らは、立体選択的アシル化触媒により、立体異性体混合物からエナンチオマー的および/またはジアステレオマー的に高純度の1つの立体異性体を選択的に分割できることを見出した。したがって、そのような2個の隣接キラル中心(または、複数対の隣接キラル中心)を含むDKRを、「タンデムDKR」(TDKR)と称する。
【0012】
以下、特に明記しなければ、アシル化触媒によりアシル化する特定のアルコールまたはチオールの立体異性体を「基質」と呼ぶ。
【0013】
本発明は、富化すべき立体異性体の選択に関して高い柔軟性を有している。
【0014】
さらに、本発明は、所望の立体異性体を高収率で製造できるという利点を有している。
【0015】
有利なことに、本発明においては、アルコールまたはチオール基質を、それぞれ対応するケトン/チオンから、その場で生成することができる。これにより、本発明の方法においては、ケトン/チオン、あるいは、それぞれのアルコールもしくはチオール、またはそれらの混合物の使用に対して、高い柔軟性が与えられる。
【0016】
アルコールまたはチオール基質のそれぞれの取り得る立体異性体の組成が、原理上は、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーの過剰率に関するTDKRの結果に影響を及ぼさないことも、本発明の利点である。
【0017】
本発明により得られる、エステルもしくはチオエステル、または、アルコールもしくはチオールの各生成物は、エナンチオマーに富み、かつ/または、ジアステレオマーに富む。以下、これを「立体富化生成物」と呼ぶ。
【0018】
「エナンチオマーに富む」とは、エナンチオマーの一方が、他方のエナンチオマーより多く、場合により他方のエナンチオマーを含まずにさえ、生成されることを意味する。
【0019】
「ジアステレオマーに富む」とは、立体異性体の1つが他の立体異性体より多く、場合により他の立体異性体を含まずにさえ、生成されることを意味する。
【0020】
「ジアステレオマーに富み、かつエナンチオマーに富む」とは、生成物中の立体異性体の1つが、他の立体異性体より多く、場合により他の立体異性体の1つ以上を含まずにさえ、生成されることを意味する。
【0021】
本発明の目的では、「立体異性体」は、同じ分子式および同じ共有結合原子配列を有するが、これらの原子の立体的配置が異なる化合物を意味する。
【0022】
本発明の目的では、「キラル中心」は、中心原子と識別可能な共有結合原子からなり、そのような共有結合原子の任意の2つの原子を交換することにより立体異性体が形成されるような原子団を意味する。典型的には、キラル中心は4個の異なる共有結合原子を有する炭素原子である。
【0023】
本発明の目的では、「エナンチオマー」は、互いに重ね合わせることができない完全な鏡像である立体異性体を意味する。
【0024】
本発明の目的では、「ジアステレオアイソマー」(または「ジアステレオマー」)は、エナンチオマーではない立体異性体を意味する。
【0025】
本発明の目的では、「エピマー化」は、1つ以上のキラル中心が構造的に不安定であるために、2つ以上のキラル中心を有する立体異性体が相互変換することを意味し、それにより多数の立体異性体が熱力学的安定性を反映した割合で生成する。
【0026】
本発明においては、エピマー化触媒は、本発明の方法でアシル化される特定の立体異性体を少なくとも含有する立体異性体の混合物が、本発明の方法で適用される条件下で生成されるように選択される。例えば、対称面を持たない分子が、エピマー化される2つのキラル中心を有する場合、そのようなエピマー化プロセスにより、一般に、4種の立体異性体:2つのジアステレオマー対のエナンチオマーが生成される。しかしながら、例えばエナンチオマーの他方のジアステレオマー対が熱力学的に生成され難いときには、例外的に、1対のエナンチオマーのみの生成もあり得る。以下、適切なエピマー化触媒についてさらに詳細に説明する。
【0027】
本発明の方法では、第1キラル中心のアルコールまたはチオール部分は、第2キラル中心に対してベータ位にある。すなわち、2つのキラル炭素原子は隣接している。DKR条件下で、隣接キラル中心がエピマー化されるDKR法を使用できることを理解したのは、本発明者らが最初である。
【0028】
本発明によれば、1対以上の隣接キラル中心をエピマー化することができる。3つの連続したキラル中心をエピマー化し得る可能性もあると思われる。
【0029】
[基質]
第二アルコールまたはチオール基質の選択は、所望する生成物に応じて決定される。また、異なる第二アルコールの混合物または異なるチオールの混合物を使用してもよい。第二アルコールまたはチオールは、例えば、次式(1)で示される。
【化1】



式中、1は第1キラル中心を表し、2は第2キラル中心を表し、R、RおよびRはHではない。
【0030】
およびRは、特に、それぞれ独立して有機部分を表し、より特には、例えば1〜20個のC原子、好ましくは1〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルキル基、例えば2〜20個のC原子、好ましくは2〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルケニル基、例えば2〜20個のC原子、好ましくは2〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルキニル基、例えば3〜20個のC原子、好ましくは3〜7個のC原子を有する、場合により置換されていてもよいシクロアルキル基、または、例えば4〜20個のC原子、好ましくは5〜10個のC原子を有する、場合により置換されていてもよいアリール基を表す。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基またはアリール基は、場合により1つ以上のヘテロ原子、特には1つ以上のO、SもしくはNの原子を含んでいてもよい。あるいは、RおよびRは一緒に、例えばC原子が3〜20個の、場合により置換されていてもよい飽和もしくは不飽和の環構造を形成していてもよく、この環構造は、1つ以上のヘテロ原子、例えばO、SもしくはNを含んでいてもよい。
【0031】
およびRのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基もしくはアリール基、またはそれぞれの環構造は、反応系において不活性な置換基を含んでいてもよい。適切な置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニル基、アシル化反応に不活性な、場合により置換されていてもよいアミン基、ハロゲン、ニトリル基、ニトロ基、アシル基、アロイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、またはスルホネート基が挙げられる。置換基は、例えば、0〜19個のC原子、特に0〜10個のC原子を含んでいてもよく、1個もしくそれ以上のヘテロ原子、特に1個以上のO、SまたはNの原子を含んでいてもよい。
【0032】
第二アルコールまたは第二チオールの特別のクラスは、式(1)のキラル中心1および2がシクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアルケニル部分の1部となるように、RおよびRが一緒に環構造を形成するクラスである。
【0033】
およびRが一緒に環構造を形成する第二アルコールまたは第二チオールの好ましい例としては、式(1)のキラル中心1および2が、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、ピロリジル、ピペリジニルまたはテトラヒドロフリル部分の一部を構成する第二アルコールまたは第二チオールが挙げられる。
【0034】
一実施態様においては、式(1)の置換基Rは電子吸引基を表す。そのような基は、特に、第一、第二もしくは第三アミン部分、第二アルコール部分、第二チオール部分、ホスフィン部分、またはニトリル部分から選択し得るが、それらの中でも第1アミンおよびアルコールが好ましい。そのようなR置換基は、場合により、第1キラル中心の第二アルコールまたはチオールがアシル供与体と反応する前または反応する間保護され、反応後に脱保護される。
【0035】
一実施態様においては、本発明は、少なくとも1対の隣接キラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルの製造方法であって、第二アルコールまたは第二チオール部分を形成する第1キラル中心を、1個の水素置換基を有し、かつ第二アルコール部分を形成しない第2キラル中心に対してベータ位に含む構造を有する第二アルコールまたはチオールの立体異性体混合物を、エピマー化触媒および立体選択的アシル化触媒の存在下にアシル供与体と反応させる方法に関する。
【0036】
M.Edinら(Tetrahedron:Asymmetry 2006、17(4)、708)は、分子内アシル基移動とルテニウムを触媒としたエピマー化反応とを組み合わせたリパーゼを触媒とした位置選択的反応速度論的分割による、4種のジオール異性体混合物からジアセテートへのエナンチオ選択的転換について記載している。Edinらは、第2のアルコール部分の酵素による直接アシル化が、第1のアルコール部分の酵素によるアシル化に比べ、はるかに低い程度でしか生じないことを教示している。Edinらの動的速度論的不斉転換プロセスは、syn−ジオールモノアセテートのアシル基移動がanti−ジオールモノアセテートのアシル基移動より速いことを利用している。対照的に、本発明ではそのようなメカニズムは起こり得ない。意外なことに、第2キラル中心が第二アルコール部分を形成しないプロセスでも富化が生じている。
【0037】
一実施態様においては、置換基Rは、有機部分、特に、例えば1〜20個のC原子、好ましくは1〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルキル基、例えば1〜20個のC原子、好ましくは1〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルコキシ基、例えば2〜20個のC原子、好ましくは2〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルケニル基、例えば2〜20個のC原子、好ましくは2〜6個のC原子を有する、場合により置換されていてもよい線状もしくは分岐アルキニル基、または場合により置換されていてもよいアリール基を表す。置換基は、例えば、4〜20個のC原子、好ましくは5〜10個のC原子を含んでいてもよく、場合により、1個もしくそれ以上のヘテロ原子、特に1個以上のO、SまたはNの原子を含んでいてもよい。
【0038】
のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基およびアリール基は、反応系で不活性な置換基を含んでいてもよい。適切な置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニル基、アシル化反応に不活性な、場合により置換されていてもよいアミン基、ハロゲン、ニトリル基、ニトロ基、アシル基、アロイル基、カルボキシル基、カルバモイル基、またはスルホネート基が挙げられる。置換基は、例えば、0〜19個のC原子、特に0〜10個のC原子を含んでいてもよく、また、1個もしくそれ以上のヘテロ原子、特に1個以上のO、SまたはNの原子を含んでいてもよい。
【0039】
特別の場合には、第二アルコールまたはチオールの第2キラル中心は3個の炭素原子に結合している。そのような場合、式(1)中の置換基Rは、アルキルまたはアリール基であることが好ましく、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニルまたはベンジル基であることがより好ましい。
【0040】
本発明の方法において基質として使用し得る特定の第二アルコールまたはチオールは、2対以上のキラル中心を含み、各対は、第二アルコールまたはチオール部分を形成する第1キラル中心を、1個の水素置換基を有する第2キラル中心に対してベータ位に有する、すなわち、その第二アルコールまたはチオールは、エピマー化され得る少なくとも2対の隣接キラル中心を有し、例えば、1,4−ジヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチル−シクロヘキサンが挙げられる。
【0041】
[アシル供与体]
アルコールまたはチオール基質をアシル供与体と反応させる。アシル供与体は、アシル供与体自身が触媒によるエピマー化反応を阻害しないよう選択することが好ましい。
【0042】
本発明の方法において使用し得るアシル供与体は、例えば、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis.A comprehensive Handbook、全面改訂増補第2版、(K.DrauzおよびH.Waldmann編)、第II巻、2002、472、544、Wiley−VHS、およびそこで引用された文献、並びに、U.T.BomscheuerおよびR.J.KazlauskasによるハンドブックHydrolases in Organic Synthesis−Regio−and Stereoselective Biotransformations、1999、Wiley−VHS、第4.2.3章に記載されているような、よく知られたアシル供与体である。例えば、アシル供与体は、カルボン酸エステル、アミドおよび無水物の群、好ましくは、カルボン酸エステルの群から選択され得る。特に好適なアシル供与体としては、C〜C20のカルボン酸エステルおよびC〜Cのアルコールエステルが挙げられ、より特には、C〜C20のカルボン酸とC〜Cのアルコールとのエステルが挙げられる。そのようなアシル供与体としては、イソプロピルアセテート、イソプロペニルアセテート、イソブチルアセテート、ビニルアセテート、エチルアセテート、イソプロピルラウレート、イソプロピルブチレート、イソプロピルオクタノエート、イソプロピルミリステートおよびイソプロペニルラウレートの群から選択されるアシル供与体が挙げられる。
【0043】
アシル供与体は、アシル供与体自身は反応条件下で低揮発性であり、アシル供与体残渣は高揮発性であり、かつアシル供与体残渣の酸化が反応条件下で可能な限り起こらないものを選択することが好ましい。そのようなアシル供与体の好ましい例は、1〜4個のC原子を有するアルコールと4〜20個のC原子を有するカルボン酸とのカルボン酸エステルである。これらの中でも、イソプロピルブチレート、イソプロピルラウレート、イソプロピルオクタノエート、イソプロピルミリステート、イソプロペニルアセテートおよびイソプロペニルラウレートが特に好適である。アセトンおよびイソプロピルアルコールは、高揮発性アシル供与体残渣の好ましい例である。アセトンまたはイソプロピルアルコールを生成する好ましいアシル供与体は、イソプロピルラウレート、イソプロピルオクタノエート、イソプロピルミリステートおよびイソプロペニルアセテートである。
【0044】
アシル供与体残渣は反応混合物から除去することが好ましく、例えば、アシル供与体および他の反応成分とは別の相へ選択的に移すことにより、連続的に除去することがより好ましい。これは、物理的もしくは化学的方法により、またはそれらの組み合わせにより達成することができる。立体選択的アシル化反応が生じている相からアシル供与体残渣を除去し得る物理的方法の例としては、選択的結晶化、気化、蒸留、抽出、不溶性複合体の生成、吸収および吸着が挙げられる。
【0045】
アシル供与体残渣を除去するために、減圧を使用することができる。圧力は(所与の温度で)、混合物が還流するよう、または還流に近づくように選択することが好ましい。さらに、混合物の沸点は、混合物の共沸組成とすることにより低下させることができる。これを達成する好適な手段は、当該技術分野では公知である。除去の化学的方法の例としては、共有結合、化学的誘導体化または酵素的誘導体化が挙げられる。
【0046】
[触媒−概要]
本発明のTDKRにおいては、エピマー化触媒および立体選択的アシル化触媒を使用する。これらは互いに両立できるよう選択することが好ましく、これは、それらが、直接的または間接的に互いを、少なくとも許容されない程度には、失活させないことを意味する。当業者であれば、周知の一般的知識と、場合により行うルーチンの実験と、本明細書中に開示された情報により、いかなるエピマー化触媒およびアシル化触媒の組み合わせが、特定の立体異性に富む生成物を得るのに特に適しているかを確立することができる。
【0047】
アシル化触媒の必要量は、使用するエピマー化触媒の量に関係し、アシル化触媒の量は、反応全体が効率的に連続して進行するように、すなわち、エピマー化反応に対して、アシル化触媒の基質として働いている立体異性体が、アシル化触媒による立体選択性が許容されるのに十分な量で存在するような速度で、アシル化反応が進行するように調節することが好ましい。所与の反応/触媒系におけるエピマー化触媒とアシル化触媒の好適な比は、周知の一般的知識と本明細書中に開示された情報を基に、通常の実験的手段により決定することができる。通常、アシル化触媒の量(エピマー化触媒に対して)は、アシル化されるアルコールまたはチオールの立体異性体基質の相対的な量(混合物中の立体異性体の全量に対して)が、アシル化反応が十分な速度で進行するのに十分な量に維持されるよう選択される。さらに、アシル化触媒の量は、通常、目的とするアシル化反応に関与しないアルコールまたはチオールの立体異性体の相対量が、目的とするエステルまたはチオエステルのエナンチオマー過剰率またはジアステレオマー過剰率が悪影響を受けないか、または、少なくとも許容されない範囲にならないような十分に少ない量に維持されるよう選択される。経験からいって、目的のエステルまたはチオエステルに対するアシル化触媒のエナンチオ選択性が高いほど、反応を良好に進めるために、目的としないアルコールまたはチオールの立体異性体の最大相対量は多くなる。
【0048】
[エピマー化触媒]
エピマー化触媒は、不均一系触媒の形態であっても、均一系触媒の形態であってもよい。
【0049】
エピマー化触媒は、酵素、金属酵素、有機触媒、または金属をベースとする触媒であってよい。
【0050】
好ましいエピマー化触媒としては(遷移)金属化合物をベースとする触媒が挙げられる。金属は、特に、Handbook of Chemistry and Physics)、第82版、CRC press、2001−2002のカバーに印刷された表に示されているような、新IUPAC版周期律表の3、8、9、10、13族またはランタニド金属から選択することができる。金属は、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、パラジウム、白金またはサマリウム(これらの組み合わせを含む)の群から選択することが好ましい。これらの中でも、ルテニウム、イリジウム、アルミニウム、サマリウムおよびスカンジウムの群から選択される金属が非常に好ましい。特に好ましい方法では、金属は、ルテニウム、イリジウムおよびアルミニウムの群から選択される。好ましい金属の選択は、以下に記載するように、使用するアルコールまたはチオールに依存する。
【0051】
好適な遷移金属化合物は、例えば、Comprehensive Organometallic Chemistry 「The Synthesis,Reactions and Structures of Organometallic Compounds」、編集者:Sir Geoffrey Wilkinson、FRS、副編集者:F.Gordon A.Stone、FRS、編集主幹:Edward W.Abelの第1〜9巻、好ましくは、第4、5、6および8巻、並びに、Comprehensive Organometallic Chemistry 「A review of the literature 1982−1994」、編集長:Edward W.Abel、Geoffrey Wilkinson、F.Gordon A.Stone、好ましくは、第4巻(Scandium,Yttrium,Lanthanides and Actinides,and Titanium Group)、第7巻(Iron,Ruthenium,and Osmium)、第8巻(Cobalt,Rhodium,and Iridium)、第9巻(Nickel,Palladium,and Platinum)、第11巻(Main−group Metal Organometallics in Organic Synthesis)および第12巻(Transition Metal Organometallics in Organic Synthesis)に記載されている。
【0052】
特に、金属をベースとするエピマー化触媒は、1つ以上の中性配位子、例えば、1つ以上の転換されるべき化合物(アルコール、チオール、ケトン、チオン)または得られたエステルもしくはチオエステルが錯体を作る金属中心を有する。そして、この金属中心にはアニオン型の配位子が結合する。触媒は、得られたエステルまたはチオエステルが触媒と錯体を形成しないか、または、少なくとも、アルコールまたはチオール基質に比べて、金属に対する親和性が低い(錯体生成定数が小さい)ように選択することが好ましい。好適なエピマー化触媒は、特に、式(2)で示すことができる。
(2)
【0053】
各Mは独立して酸化状態nの金属を表す。整数nは≧1である。特に、Mは先に特定した金属から選択することができる。
【0054】
整数pは触媒中の金属原子の数を表し、≧1である。pは1以上のいずれかの値をとり得、例えば、pは100までの値をとり得る。p>1のとき、触媒はクラスターの形態にある。そのようなクラスターは、多くの、例えば100個までの金属原子を含有することができる。実際、多くの場合、1〜10個である。アルミニウムアルコキシド触媒のクラスターについては、例えば、(a)Jeromeら「Catalytic applications of aluminum isopropoxide in organic synthesis」、Chattem Chemicals,Inc.、Chattenooga、テネシー州(TN)、米国(USA)、(b)Chemical Industries(Dekker)(2003)、89(Catalysis of Organic Reactions)、97−114、およびこれらが引用している文献に記載されている。エピマー化触媒の活性種は、例えばMPV触媒について記載されているような、当該技術分野で知られた方法、例えば、(a)Yamamoto,H.;Organometallics in Synthesis,A Manual、第2版(Manfred Schlosser(編)、2002、535−577、John Wiley & Sons Ltd.)、およびそこで引用されている文献、並びに、(b)Eisch.J.J;Comprehensive Organometallic Chemistry II、a review of the literature 1982−1994(Wilkinson,G.、Stone,G.G.A.、Abel,E.W.編)、第1巻、1995、431−502、Pergamon Press、オックスフォード(Oxford)に記載されているような方法で調製することができる。活性化が必要ならば、エピマー化触媒の活性化は、別の場で、またはその場で行うことができる。
【0055】
L、X、YおよびSは配位子を表し、これらは個々の分子(少なくとも金属に結合する前には)であるか、または、金属に対して2つ以上の結合部位を有するより大きな分子(すなわち、多座配位子、例えば、2座配位子、3座配位子、4座配位子など)の1部を形成し得る。
【0056】
各Lは独立して中性の配位子を表す。Lは特にケトンまたはアルコールであり、変換される1つ以上の化合物を含んでいてもよい。
【0057】
整数mは≧0であり、プロセスの過程で変動し得る。整数mは任意の値、例えば100までの値をとり得る。
【0058】
各Xは独立してアニオン性配位子を表す。Xの好適な例としては、水素化物;テトラフルオロボレート;ハロゲン化物(特に、ClまたはBr);例えば1〜12個のC原子を有するアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル(Pr)基またはi−ブチル(Bu)基など);例えば1〜12個のC原子を有するアルコキシ基(例えば、n−ペントキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基など);例えば1〜12個のC原子を有するアルカノエート基(例えば、エタノエート基、n−ブタノエート基、n−ペンタノエート基、n−オクタノエート基など);アミド、アミノ酸アミド、アミノ酸、アミノアミド、アミノアルコールまたはアミンから誘導されるアニオン;CN基;アニオン性芳香族配位子(特に、シクロペンタジエニル(Cp)、ペンタメチルシクロペンタジエニル(Cp)またはインデニル)が挙げられる。上記アルコキシ基は、第二アルコールから誘導されるものであることが好ましい。
【0059】
整数qは配位子Xの数を表し、≧1であるが、任意の値、例えば100までの値をとり得る。
【0060】
各Yは独立していわゆるスペクテーター配位子、すなわち、金属との結合に利用できる3個以上のπ電子を有する中性の配位子(例えば、芳香族もしくはアリル化合物、または少なくとも2個のC=C結合を有するオレフィンなど)を表す。芳香族化合物の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメン、ナフタレン、アニソール、クロロベンゼン、インデン、シクロペンタジエニル誘導体、テトラフェニルシクロペンタジエノン、ジヒドロインデン、テトラヒドロナフタレン、没食子酸、安息香酸およびフェニルグリシンが挙げられる。オレフィンの例としては、ジエン(特に、ノルボルナジエン、1,5シクロオクタジエンおよび1,5−ヘキサジエン)が挙げられる。
【0061】
Yが配位子Sおよび/またはXと共有結合することも可能である。
【0062】
整数rは配位子Yの数を表し、≧0、例えば100までの値である。
【0063】
各Sは独立して中性配位子を表す。特に、Sは、他の配位子との交換が比較的容易な孤立電子対供与体とすることができる。Sは、例えば、ホスフィン(特に、PPhもしくはPCy)、ニトリル、COもしくは配位性溶剤分子(特に、テトラヒドロフラン(THF))、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アルコール、ピリジン、N−メチルピロリドンまたはアミン(特に、EtNなどの第3アミン)であってよい。配位子Sは、オレフィン、水素分子、または、架橋形成において第2金属中心に孤立電子対結合を形成して、2量体または多量体の金属化合物を作るXタイプの架橋配位子などの、単一のπ−またはσ−結合供与体であってよい。
【0064】
整数tは配位子Sの数を表し、≧0、例えば100までの値である。
【0065】
必要ならば、エピマー化触媒は、例えば、中性配位子Sを別の配位子S’と交換する(これにより、式(2)で示される金属錯体は、式(3)
t−iS’ (3)
で示されるものに変わる)か、あるいは、遷移金属化合物を配位子S’と錯体化させることによって得ることができる。金属錯体(2)と配位子S’とをベースとする触媒は、一方が金属錯体(2)で他方が配位子S’という別々の成分の形態で加えてもよく、あるいは、例えば式(3)で示されるもののように、既にS’を含む錯体の形態で加えてもよい。好適なエピマー化触媒を生成するS’の例としては、例えば、第一もしくは第二アミン、アルコール、ジオール、アミノアルコール、ジアミン、モノ−アシル化ジアミン、O−アシル化アミノアルコール、モノ−トシル化ジアミン、モノ−トシル化アミノアルコール、アミノ酸、アミノ酸アミド、アミノ−チオエーテル、ホスフィン、ビスホスフィン、アミノホスフィンが挙げられ、好ましくは、アミノアルコール、モノ−アシル化ジアミン、モノ−トシル化ジアミン、アミノ酸、アミノ酸アミド、アミノチオエーテルまたはアミノホスフィンである。
【0066】
第8、9および10族の金属に対して特に適した配位子類は、EP−A−916637号明細書およびTetrahedron:Asymmetry 10(1999)2045−2061に記載されている(但し、記載されている光学活性配位子との錯体化は必ずしも起こらない。しかし、それに対応するラセミ化合物とは場合により起こる)。配位子は、金属に対して0.5〜8当量、特に、1〜3当量の量で使用することが好ましい。2座配位子の場合には、0.3〜8、特に0.5〜3当量で使用することが好ましい。
【0067】
周期律表の第8、9または10族の金属をベースとするエピマー化触媒で特に適したXおよび/またはSの配位子類としては、例えば、式(4)で示されるアミノ酸アミド類が挙げられる。
【化2】



ここで、RおよびRはそれぞれ独立してH、または、例えば1〜9個のC原子を有する置換もしくは非置換のアルキルもしくはアリール基を表し;RおよびRはそれぞれ独立してH、または、例えば1〜9個のC原子を有する置換もしくは非置換のアルキルもしくはアリール基を表す。2つのR基は、環、特に5〜12員環を形成していてもよい。例えば、RおよびRが一緒に、それらが結合するNおよびC原子を含む環を形成していてもよく、RおよびRが一緒に、それらがそれぞれ結合するN原子を含む環を形成していてもよく、あるいは、RおよびRが一緒に環を形成していてもよい。
【0068】
第3、13族およびランタニド金属に対して特に適した配位子類としては、例えば、アリールアルコール、特に、2座配位子のアリールアルコールが挙げられる。
【0069】
殆どの場合、エピマー化触媒、例えば、遷移金属化合物と配位子との錯体化により得られた触媒の活性化は、例えば、遷移金属化合物または遷移金属化合物と配位子との錯体を別の工程で塩基(例えば、KOH、KOtBuなど)により処理し、その後、塩基、および塩基の添加により生成した塩を除去することにより、あるいは、遷移金属化合物または遷移金属と配位子との錯体を、アシル化/エピマー化が生じるときにその場で、温和な塩基(例えば、不均一系塩基、特に、KHCOもしくはKCO、または均一系塩基、特に、トリエチルアミンなどの有機アミン)で活性化させることにより行うことができる。遷移金属化合物を還元剤(例えば、H、ギ酸およびその塩、Zn、並びにNaBHなど)を使用して活性化することも可能である。
【0070】
特に、式(1)で示される第二アルコールまたはチオールの第2キラル中心が3個の炭素原子と結合している場合、エピマー化触媒は第3、13族、またはランタニド族の金属をベースとするものが好ましい。アルミニウム、スカンジウムまたはサマリウムをベースとする触媒が特に好ましい。
【0071】
特に、式(1)中のRがアミン部分、第二アルコール部分または第二チオール部分を表す場合、エピマー化触媒は第8、9または10族の金属(特に、イリジウム、ルテニウムまたはロジウム)をベースとするものが好ましい。
【0072】
特に、Rが、例えば(置換)ベンジルまたは(置換)ベンジリデン部分などのN−保護基により保護されているアミン部分を表す場合、あるいは、Rが保護されていないアルコール部分を表す場合、TDKRは、第8、9または10族の金属(特に、イリジウム、ルテニウムまたはロジウム、好ましくはイリジウム)をベースとするエピマー化触媒を使用することにより有利に実施することができる。
【0073】
使用するエピマー化触媒の相対的な量は、特に重要というものではなく、コスト、活性、所望する反応速度、生成物の所望する(光学的)純度などを考慮して選択することができる。適用される相対的な量は、エピマー化反応開始時において、アルコールまたはチオールの立体異性体混合物に対して計算すると、一般に、少なくとも0.001モル%、特には、少なくとも0.01モル%、少なくとも0.1モル%、少なくとも0.5モル%、または少なくとも1モル%である。適用される相対量は、アルコールまたはチオールの立体異性体混合物に対して、一般に、100モル%未満、特には、50モル%未満、20モル%未満、10モル%未満、または5モル%未満である。
【0074】
第8、9または10族の金属(特に、ルテニウムまたはイリジウム)をベースとする触媒は、エピマー化反応開始時において、アルコールまたはチオールの立体異性体混合物に対して、好ましくは0.01〜5モル%、より特には0.1〜1モル%の相対量で使用される。
【0075】
第3、13族またはランタニドの金属をベースとする触媒、特に、アルミニウム、スカンジウムまたはサマリウムをベースとする触媒は、エピマー化反応開始時において、アルコールまたはチオールの立体異性体混合物に対して、好ましくは0.1〜50モル%、特には1〜20モル%、より特には5〜10モル%の濃度で使用される。
【0076】
[アシル化触媒]
第二アルコールまたは第二チオールから対応するエステルまたはチオエステルへの立体選択的変換は、公知の立体選択的アシル化触媒、例えば、クリスティン・イー・ギャレット(Christine E Garret)ら、J.Am.Chem.Soc.120、(1998)7479−7483、およびそこで引用されている文献、並びに、Gregory C.Fu、Chemical Innovation/1月号、2000、3−5に記載されているような触媒を用いて行うことができる。
【0077】
好ましくは、第二アルコールまたは第二チオールから対応するエステルまたはチオエステルへの立体選択的変換は、酵素を用いて行うことが好ましい。
【0078】
本発明の方法で使用することができる好適な酵素は、例えば、エステルまたはチオエステルからそれぞれ第二アルコールまたはチオールへの加水分解反応において、加水分解活性と高い立体選択性を有し、かつ、有機環境においても活性である公知の酵素である。
【0079】
好適な酵素は、特に、加水分解酵素(E.C.3)の群から特に選択することができ、例えば、リパーゼまたはエステラーゼ活性を有する酵素、あるいは、アシル供与体としてアミドが使用される場合は、アミダーゼ活性と、エステラーゼまたはリパーゼ活性とを有する酵素を使用することができる。
【0080】
特に好ましい方法においては、立体選択的アシル化触媒は、カルボン酸エステラーゼ(E.C.3.1.1)、チオエステルヒドロラーゼ(E.C.3.1.2)およびペプチドヒドロラーゼ(E.C.3.4)の群から選択される加水分解酵素である。
【0081】
酵素は、特に、シュードモナス属(Pseudomonas)、特にシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi);ブルクホルデリア属(Burkholderia)、例えばブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia);クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、特にクロモバクテリウム・ビスコスム(Chromobacterium viscosum);バチルス属(Bacillus)、特にバチルス・サーモカテヌラトゥス(Bacillus thermocatenulatus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis);アルカリゲネス属(Alcaligenes)、特にアルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis);アスペルギルス属(Aspergillus)、特にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger);カンジダ属(Candida)、特にカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、カンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)、カンジダ・シリンドラケア(Candida cylindracea);ゲオトリクム属(Geotrichum)、特にゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum);フミコラ属(Humicola)、特にフミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginosa);ペニシリウム属(Penicillium)、特にペニシリウム・シクロピウム(Penicillium cyclopium)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roquefortii)、ペネシリウム・カメンベルティ(Penicillium camembertii);リゾムコル属(Rhizomucor)、特にリゾムコル・ジャバニクス(Rhizomucor javanicus)、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei);ムコル属(Mucor)、特にムコル・ジャバニクス(Mucor javanicus);リゾプス属(Rhizopus)、特にリゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・アルヒズス(Rhizopus arrhizus)、リゾプス・デレマール(Rhizopus delemar)、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾプス・ジャポニクス(Rhizopus japonicus)、リゾプス・ジャバニクス(Rhizopus javanicus)に由来するもの、ブタ膵臓リパーゼ、小麦胚芽リパーゼ、ウシ膵臓リパーゼ、ブタ肝臓エステラーゼであってよい。
【0082】
シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、ブタ膵臓、リゾムコル・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、フミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginosa)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)またはカンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来の酵素を使用することが好ましい。
【0083】
非常に好ましくは、カンジダ・アンタルクチカ(Candida Antarctica)リパーゼB(CAL−B)、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)リパーゼおよびサブチリシンの群から選択される酵素である。サブチリシンの中では、サブチリシン・カールスバーグ(Carlsberg)が特に好ましい。
【0084】
例えば、カンジダ・アンタルクチカ(Candida antarctica)由来の、R−選択性酵素を使用する場合は、R−エステルの1つが生成物として得られる。例えば、サブチリシン・カールスバーグなどの、S−選択性酵素を使用する場合は、S−エステルの1つが生成する。可能な2つのR−またはS−エステルのいずれが生成するかは、R−またはS−選択性酵素の選択によって決まる。そのような酵素は、商業的に入手可能であるか、または一般に知られた技術により得ることができる。1つの実施態様では、使用可能な酵素は、由来する細胞から分離される。1つの実施態様では、所望の活性を有する(透過性および/または固定化)細胞、または、そのような活性を有する細胞ホモジネートが使用され得る。酵素は、また、固定化形態でも、または化学的に修飾された形態でも使用することができる。本発明の枠組みでは、遺伝子組み換え微生物由来の酵素を使用することも可能である。
【0085】
[アシル化の反応条件]
必要に応じて、基質として使用する第二アルコールまたはチオールは、対応するケトンまたはチオンから、還元助剤を使用して別の工程(原理上は、立体選択性である必要はない)で予め生成することができる。還元はエピマー化触媒により触媒されることが好ましい。揮発性アルコール、またはギ酸の揮発性塩、好ましくはそのアンモニウム塩を還元助剤として使用することが好ましい。すなわち、非立体選択的(移動)水素化によるものである。還元剤として水素を使用することも可能である。
【0086】
立体異性体の混合物は、必要に応じて、対応するケトン/チオンから還元助剤を使用してその場で生成することができる。それぞれアルコールまたはチオールをその場でケトン/チオンから生成させる場合は、水素分子または水素供与体もまた助剤として添加される。助剤として、第二アルコールまたはチオールを反応混合物に加えることが好ましい。それらは、ケトン/チオンのアルコールまたはチオールへの変換を加速するが、それ自身はアシル化触媒により変換されることはない。助剤は、(1)アシル供与体残渣を除去するのと同じ除去方法で反応混合物から除去されず、(2)この助剤はアシル化触媒によってアシル化されず、かつ(3)ケトン/チオンに比べ、レドックス平衡を達成するための十分な還元能力を有するように選択することが好ましい。当然ながら、アルコール/チオール以外の還元剤も助剤として使用することができる。いかなる化合物がこの反応系に助剤として使用するのに適しているかは、当業者であれば、実験的手段によって容易に決定することができる。
【0087】
上述したように、当業者であれば、周知の一般的知識と、場合により行うルーチンの実験と、本明細書中に開示された情報により、いかなるエピマー化−アシル化触媒の組み合わせがこの特定の系に特に適しているかを決定することができる。
【0088】
そのような組み合わせで使用する温度は、基本的には、酵素が十分な活性を示す限り、特に重要というものではない。一般に、温度は、0℃以上、特に15℃以上とし得る。必要な最高温度は酵素に依存する。一般に、そのような最高温度は当該技術分野では知られており、例えば、商業的に入手可能な酵素の場合には製品データシートに示されているか、または、周知の一般的知識と、本明細書中に開示された情報に基づき、ルーチン的に決定することができる。通常、温度は70℃以下であり、特に60℃以下または50℃以下である。特に好熱性加水分解酵素を使用する場合には、温度は比較的高く、例えば40〜100℃、あるいは40〜90℃の範囲に設定される。
【0089】
当業者であれば、周知の一般的知識と本明細書中に開示された情報を基にルーチンの実験を行うことにより、エピマー化触媒およびアシル化触媒の特定の組み合わせに対する適切な温度条件を決定することができる。例えば、サブチリシン、特にサブチリシン・カールスバーグ(例えば、アルカラーゼ(Alcalase)中)では、温度は25〜60℃の範囲が有利であろう。
【0090】
アルコールまたはチオールの濃度は、特に重要というものではない。反応は、比較的高濃度、例えば、0.4M以上、特に0.8M以上の濃度で行うことが適切である。好ましくは、アルコールまたはチオールの濃度は、1M以上、例えば2M以上である。
【0091】
特に、周期率表の第8、9および10族の金属をベースとするエピマー化触媒を活性化するために、比較的極性の大きいアルコールまたはチオールを不均一系塩基と組み合わせて使用する場合、得られる反応混合物の極性が比較的小さいことが好ましい。極性が小さい場合、不均一系塩基が過剰溶解する結果、副反応が低く抑えられ、場合により、生じることさえない。当業者であれば、ルーチンの実験と、周知の一般的知識と、本明細書中に開示された情報から、この要求を満たす条件を決定することができる。
【0092】
特に、第3族、第13族またはランタニドの金属をベースとするエピマー化触媒を使用する場合は、エピマー化過程における水の濃度は低くすることが望ましい。そのような触媒を使用する場合、エピマー化およびアシル化がワンポット法で行われ、アシル化触媒が十分な活性を有するならば、エピマー化は基本的に無水条件下で行うことが好ましい。
【0093】
特に、水の濃度は、少なくともエピマー化およびアシル化が主に生じる液相に対して4重量%未満とすることができる。ある1つの方法は、実質的に所望のアシル化触媒の活性を維持し、かつ望ましくない加水分解を少なく、または検知できない程度にも維持しながら、2重量%未満の水、特に1重量%以下の水、さらには0.5重量%以下の水、0.2重量%以下の水、0.1重量%以下の水、例えば、約0.05重量%以下の水、または約0.01重量%以下の水を含有する相で実施されることが有利である。
【0094】
アシル化触媒が良好な活性を示すためには、特にアシル化触媒が酵素である場合、酵素にも依るが、微量の水、例えば、液相に対して少なくとも0.005重量%、または少なくとも0.01重量%の水を存在させることが望ましい。特に、(微量の)水の存在が好ましいアシル化触媒を使用する場合、アシル化活性を高めるため、水の濃度は、液相に対して少なくとも0.02重量%、または少なくとも0.05重量%とすることができる。
【0095】
反応時間は特に重要というものではない。それは、一般に、触媒および反応物質の相対量と、所望する転化率に依る。
【0096】
得られたエステル生成物は、その後、エステルの性質に応じた一般的な分離技術の方法、例えば、抽出、蒸留、クロマトグラフィまたは結晶化により、反応混合物から分離することができる。生成物が結晶化によって分離される場合は、さらに、立体異性体濃縮物を得ることができる。必要に応じて、上澄み液(反応に関与するそれぞれアルコールもしくはチオール、エステルもしくはチオエステルおよび/またはケトン/チオンを含有する)を、非立体選択的還元、例えば(移動)水素化過程へ、あるいは、アルコールまたはチオールの立体異性体混合物をそれぞれエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルへ変換する過程へ、リサイクルすることができる。通常、不純物の蓄積を防止するために、リサイクル前に上澄み液から固体を除去し、一般的方法により、パージを行う。必要に応じて、エナンチオマーおよびジアステレオマー過剰率に悪影響を及ぼすことのないよう、最初に上澄み液中のエステルまたはチオエステルを加水分解させることができる。
【0097】
本発明の方法によれば、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルを、場合により行われる(再)結晶化後において、80%超、好ましくは90%超、より好ましくは95%超、より一層好ましくは98%超、特には99%超のエナンチオマー過剰率(e.e.)で得ることができる。
【0098】
本発明の方法によれば、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルを、場合により行われる(再)結晶化後において、80%超、好ましくは90%超、より好ましくは95%超、より一層好ましくは98%超、特に99%超のジアステレオマー過剰率(d.e.)で得ることができる。
【0099】
得られたエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルは、そのまま使用するか、または、例えば、対応するアルコールもしくはチオールに変換させることができる。
【0100】
[エステル/チオエステルの用途]
エステルまたはチオエステルは、必要に応じて対応する第二アルコールまたは第二チオールへ変換(詳細は後述する)した後、例えば、液晶、農薬、食品もしくは飼料用添加物、芳香剤、化粧品成分または医薬品成分の製造に使用することができる。エステルまたはチオエステルをそれぞれアルコールまたはチオールへ変換する適切な方法は、当該技術分野では一般に知られており、加水分解、エステル交換、アミド化およびアルコール分解などが挙げられる。
【0101】
[アルコールまたはチオールを調製するための反応条件]
アルコールまたはチオールが所望する生成物ならば、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルを、その後、公知の手順により、対応するエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むアルコールまたはチオールへそれぞれ変換することができる。これは、例えば、酸、塩基または酵素により触媒される変換により行うことができる。立体選択的酵素を使用する場合は、アルコールまたはチオール生成物それぞれのエナンチオマーまたはジアステレオマー過剰率を増加させることができる。本発明の立体選択的アシル化を、酵素を使用して行った場合には、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルをエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むアルコールまたはチオールにそれぞれ変換するのに、その同じ酵素を使用することが非常に好ましい。アルコールまたはチオールを調製することが最終の目的であるならば、アシル供与体およびアシル供与体残渣の物理的または化学的特性が、アシル供与体残渣の除去および反応混合物の処理に適したものであるように、アシル供与体を自由に選択することができる。
【0102】
本発明の方法においては、必要に応じて再結晶化および/または立体選択的酵素による加水分解を行った後、エナンチオマー過剰率が、95%超、好ましくは98%超、より好ましくは99%超のエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むアルコール/チオールを得ることができる。
【0103】
本発明の方法においては、必要に応じて再結晶化および/または立体選択的酵素、特に立体選択的加水分解酵素を用いるエステルまたはチオエステルのアルコールまたはチオールそれぞれへの変換を行った後、ジアステレオマー過剰率が、95%超、好ましくは98%超、より好ましくは99%超のエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むアルコール/チオールを得ることができる。
【0104】
[アルコール/チオールの用途]
本発明は、また、得られたエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルからの、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むそれぞれのアルコールまたはチオールの調製に関する。こうして得られたアルコールまたはチオールは、例えば、液晶、農薬、食品もしくは飼料用添加物、芳香剤、化粧品成分、または医薬品成分の製造に使用することができる。
【0105】
本発明を実施例により説明する。
【0106】
[実施例]
[概要]
特に明記しない限り、薬品は商業的販売元から入手したものであり、さらに精製は行わずに使用した。タンデムDKR反応に直接使用した全ての物質は、シュレンクチューブ中、真空下で乾燥させた。
【0107】
反応混合物を脱気する場合には、真空中、室温で穏やかに還流させた後、窒素によるパージ(5回)を行った。
【0108】
[実施例I−trans−およびcis−2−メチルシクロヘキサノールのラセミ体混合物のタンデムDKR]
[エピマー化触媒1の調製]
【化3】



使用した触媒1(メールワイン・ポンドルフ・バーレイ(Meerwein−Pondorff−Verley)シリーズから)は、AlMeおよび2,2’−ビフェノールから調製した。磁気攪拌子を備えた50mLのシュレンクチューブ中で、内部標準ヘキサメチルベンゼン(56.2mg、0.346mmol)をトルエン(20mL)に溶解させ、この溶液の脱気を行った。続いて、トルエン(0.5mL、1mmol)および2,2’−ビフェノール(186.4mg、1mmol)中にAlMeを溶解した2Mの溶液を加え、メタンガスを放出させた。反応混合物を70℃で15分間加熱し、室温にまで冷却した。
【0109】
[タンデムDKR]
【化4】



微量の水を除去するために、ノボザイム(Novozym)(登録商標)435(5g)を、イソプロペニルアセテート(5g、0.05mmol)のトルエン(100mL)溶液中、70℃で1時間攪拌した。続いて、固体酵素をろ過により分離し、N雰囲気下で乾燥させた。
【0110】
transおよびcis(trans/cis=4.0)−2−メチルシクロヘキサノール混合物2(0.57g、5mmol)(トランス/シス=4.0)を触媒溶液(上述のように調製)に溶解し、メタンを発生させた。ガスの発生が終わった後、2−メチルシクロヘキサノン3(5mmol)およびイソプロピルオクタノエート(20mmol、2当量)を加えた。続いて、乾燥させたノボザイム(登録商標)435(100mg)を加え、70℃まで徐々に昇温させた。70℃の一定温度で、圧力を約180mbarまで6時間かけて徐々に低下させた(イソプロパノールおよびアセトンを除去するため)。反応をさらに18時間行い、CP−Chirasil−Dex CBカラム(長さ25m)(250bar、流量3.8mL/分)およびFID検出器を使用したキラルGCによりモニターした。次の温度勾配を使用した:100℃で13分、20℃/分で100℃から150℃へ、150℃で8.5分。内部標準としてヘキサメチルベンゼンを使用した。保持時間:(S)−3(3.29分)、(R)−3(3.37分)、トランス−2(5.23分)、シス−2(5.98分)、(S,S)−4(22.28分)、(R,R)−4(22.44分)、(R,S)−(22.15分)、(S,R)−4(22.02分)、ヘキサメチルベンゼン(17.46分)。
【0111】
2と3の量は、2の4つの立体異性体および3の2つの立体異性体のピーク面積(内部標準に対して)をタンデムDKR開始時の値と比較することにより算出した。4の量は、2および3の転化率から算出した。結果を下表に示す。
【0112】
【表1】



【0113】
これらの結果から結論できるように、2の4つのジアステレオマー混合物およびラセミ体3は、基本的に4の1つの立体異性体に高い率(73%)で変換されている。
【0114】
[実施例II−trans−N−ベンジル−2−アミノ−シクロヘキサノール(5)のタンデムDKR]
【化5】



温度計、蒸留ユニットおよび磁気攪拌子を備えた100mLの3首丸底フラスコ中で、[RuClシメン](30.6mg、0.05mmol)および(R,S)−2−フェニル−2−アミノプロピオンアミド(32.8mg、0.2mmol)をトルエン(20mL)に溶解した。混合物をN雰囲気下、70℃で15分間加熱し、部分的に溶解した黄色の錯体を得た。続いて、ラセミ体trans−N−ベンジル−2−アミノ−シクロヘキサノール(5)(Synthetic Comm.,31(21),2001,3295−3302により調製;2.05g、10mmol)を加え、錯体を完全に溶解した。
【0115】
その後、イソプロペニルアセテート(2.0g、20mmol)、ノボザイム(登録商標)435(150mg)および乾燥KCO(1g)を加えた。GC分析用にヘキサメチルベンゼン(80mg、0.494mmol)を内部標準として加えた。反応混合物を脱気し、大気圧、70℃で2時間加熱した。この条件下では、イソプロペニルアセテートによるアセチル化で生成したアセトンが反応混合物中に蓄積された。続いて、圧力を約260mbarまで徐々に減圧した(アセトンを除去するため)。260mbar、70℃で反応を26時間継続し、サンプリングした。
【0116】
転化率を、CP−Sil5−CBコーティング(DF1.2μm)を施したWCOTヒューズドシリカカラム(長さ25m、内径0.32mm)およびFID検出器を使用したGCにより測定した。次の温度勾配を使用した:50℃で3分、15℃/分で50℃から250℃へ、250℃で15分。内部標準としてヘキサメチルベンゼンを使用した。保持時間は次のようであった:ヘキサメチルベンゼン(14.26分)、5(16.95分)、cis−6(17.68分)、trans−6(17.85分)、7(20.74分)、8(22.18分)。
【0117】
キラルGCにより、trans−6のe.e.を測定した。この目的のために、反応混合物のアリコット約20μLをCHCl(1mL)で希釈し、コーティングしたCP−Chirasil−Dex CBカラム(長さ25m、DF=0.25)に注入した。次の温度勾配を使用した:120℃で30分、20℃/分で120℃から200℃へ、200℃で6分。保持時間は次のようであった:(S,S)−6 31.6分、(R,R)−6 31.96分。
【0118】
出発物質の91%が主に対応する生成物(1R,2R)−6に変換されたことが観察された(e.e.>99%)。また、7および8も生成した。
【0119】
生成物をSiOでろ過し、固体分をエチルアセテート(25mL)で洗浄し、ろ液はまとめて真空下で濃縮し、粗生成物(2.34g)を得た。
【0120】
[実施例III−trans−N−ベンジル−2−アミノ−シクロヘキサノール(5)のタンデムDKR]
【化6】



温度計、蒸留ユニットおよび磁気攪拌子を備えた50mLの3首丸底フラスコ中で、[RuClシメン](15.3mg、0.025mmol)および(R,S)−2−フェニル−2−アミノプロピオンアミド(16.4mg、0.1mmol)をトルエン(20mL)に溶解した。混合物を70℃で15分間加熱し、部分的に溶解した黄色の錯体沈殿物を得た。イソプロパノール(3mL)を加え、錯体を完全に溶解し、得られた均一な黄色溶液を70℃で30分間攪拌した。続いて、ヘキサメチルベンゼン(80mg;GC用内部標準)およびラセミ体trans−N−ベンジル−2−アミノシクロヘキサノール(5)(Synthetic comm.,31(21),2001,3295−3302により調製;1.03g、5mmol)を反応混合物に溶解させ、70℃、減圧下でトルエン/イソプロパノールを完全に蒸留した。得られた残渣をトルエン(10mL)に再溶解させ、サンプルはGCにより分析した。
【0121】
続いて、イソプロペニルアセテート(10mmol)、ノボザイム(登録商標)435(40mg)およびKCO(0.5g、3.6mmol)を加えた。反応混合物を脱気し、圧力を265mbarまで徐々に低下させた。反応混合物を70℃、265mbarで18時間攪拌した。その後、ノボザイム(登録商標)435(20mg)を新たに加え、反応混合物を70℃、265mbarでさらに48時間攪拌した。得られた最終混合物をGCにより分析した。下記の表を参照されたい。
【0122】
【表2】



【0123】
反応混合物をSiOでろ過し、固体分をEtOAc(25mL)で洗浄した。ろ液はまとめて真空下で濃縮し、残渣を6N−HCl水溶液(50mL)中、90℃で24時間の加水分解に供した。これにより、それぞれ84%および62%のe.e.のtrans−およびcis−5の混合物を得た。
【0124】
5および7のe.e.は、Chiralpak ADカラム(250×4.6mm)を使用し、n−ヘプタン/メタノール/エタノール/ジエチルアミン(90/3/2/0.05、v/v/v/v)を溶離液とし、カラム温度50℃、流量0.8mL/分で、キラルHPLCにより測定した。検出はUV(210nm)によって行った。注入量は5μL(サンプルを溶離液に溶解した溶液)とした。保持時間:(1R,2S)−5および(1S,2R)−5(いずれもcis−5エナンチオマー)7.27および8.04分;(1S,2S)−5および(1R,2R)−5(いずれもtrans−5エナンチオマー)9.09および9.80分;(1S,2S)−7および(1R,2R)−7(いずれもtrans−7エナンチオマー)17.84および22.97分。
【0125】
[実施例IV−trans−N−ベンジル−2−アミノ−シクロヘキサノール(5)のタンデムDKR
【化7】



温度計、蒸留ユニットおよび磁気攪拌子を備えた50mLの3首丸底フラスコ中で、[RuClシメン](15.3mg、0.025mmol)、(R,S)−2−フェニル−2−アミノプロピオンアミド(16.4mg、0.1mmol)およびヘキサメチルベンゼン(80mg;内部標準)をトルエン(17mL)およびイソプロパノール(3mL)に溶解した。混合物を窒素雰囲気下、70℃で15分間加熱し、透明な黄色溶液を得た。続いて、ラセミ体trans−N−ベンジル−2−アミノシクロヘキサノール(5)(Synthetic comm.,31(21),2001,3295−3302により調製;1.03g、5mmol)を反応混合物に溶解させ、70℃、減圧下でトルエン/イソプロパノールを完全に蒸留した。得られた残渣をトルエン(10mL)に再溶解させ、サンプルをGCにより分析した。
【0126】
その後、イソプロペニルアセテート(10mmol)、ノボザイム(登録商標)435(50mg)およびKCO(0.5g、3.6mmol)を加えた。反応混合物を脱気し、70℃、大気圧で3時間攪拌した。この間に、色は黄色からオレンジ色に変化した。蓄積したアセトンを、圧力を徐々に低下(約300mbarに)させて除去し、これにより色は深赤色に変化した。反応混合物を70℃、300mbarで5時間攪拌し、追加分のイソプロペニルアセテート(10mmol)を加えた。反応混合物を70℃、300mbarでさらに18時間攪拌し、GCにより分析した(実施例IIで記載したように)。結果を下表に示す。5および7のe.e.はキラルHPLCにより測定した(実施例IIIで記載したように)。
【0127】
【表3】



【0128】
[実施例V−trans−N−ベンジリデン−2−アミノ−シクロヘキサノール(9)のタンデムDKR]
【化8】



【0129】
[タンデムDKR]
温度計、蒸留ユニットおよび磁気攪拌子を備えた250mLの3首丸底フラスコ中で、[IrCpCl(ジクロロ(ペンタメチルシクロペンタジエニル)イリジウム(III)ダイマー;200mg、0.025mmol)および2−メチル−2−アミノプロピオンアミド(62mg、0.61mmol)をアセトニトリル(50mL)に溶解した。混合物を70℃で15分間加熱した後、KCO(5.4g、0.039mol)を加え、70℃でさらに15分間加熱した。その間に色が黄色から赤色に変化した。減圧下でアセトニトリルを完全に蒸留除去し、残渣にトルエン(60mL)を加え、不均一混合物を得た。続いて、標準物質としてヘキサメチルベンゼン(0.4g)を加えた。減圧下、70℃でトルエン(10mL)を部分的に蒸留除去し、微量のアセトニトリルを除去した。得られた溶液にラセミ体trans−9(0.1mol)を溶解させ、混合物のサンプルをGCにより分析した。
【0130】
反応混合物を70℃で2時間加熱し(エピマー化)、その後、イソプロペニルアセテート(20g、0.2mol)およびノボザイム(登録商標)435(250mg)を加えた。生成したアセトンを除去するために、温度を70℃に維持しながら165mbarまで徐々に減圧した。5、23および26時間後、ノボザイム(登録商標)435を新たに、それぞれ250mg、100mgおよび100mg部加えた。29時間後、追加分のイソプロペニルアセテート(10g、0.1mol)を加えた。GCおよびHPLC(下記参照)により反応過程をモニターした。結果を下表に示す。
【0131】
【表4】



【0132】
[GCおよびHPLC分析]
実施例IIで記載したGC条件で、内部標準にヘキサメチルベンゼンを使用し、GCにより、反応過程をモニターした。保持時間:ヘキサメチルベンゼン(14.22分)、cis−9(16.69分)、trans−9(16.79分)、cis−10(17.44分)、trans−10(17.59分)。
【0133】
cis−およびtrans−9のe.e.は、3本のカラム:2本の50×4.6mm内径Chiralcel ODカラム、および1本の250×4.6mm内径Lichrosphere Diolカラムを直列に使用したキラルHPLCにより測定した。溶離液はn−ヘプタン/2−プロパノール90/10(v/v)、カラム温度は40℃、流量は1.0mL/分とした。検出にはUV(210nm)を使用した。サンプルは、20μlの反応混合物を溶離液(1mL)で希釈して調製した。注入量は5μLとした。保持時間は次のようであった:(1R,2S)−9および(1S,2R)−9(いずれもcis−9エナンチオマー)12.2および15.1分;(1R,2R)−9および(1S,2S)−9(いずれもtrans−9エナンチオマー)で13.3および15.3分。
【0134】
分離した(R,R)−2−アミノシクロヘキサノールのHCl塩のe.e.を、同じキラルHPLC法により測定したが、次のサンプル調製法を使用した:固体生成物(76mg)をアセトニトリル(2mL)、KCO(276mg)およびベンズアルデヒド(42mg)の混合物中、70℃で15分間加熱した。得られた溶液のうち20μLを溶離液(1mL)に溶解させた。
【0135】
[生成物の分離および脱保護]
COおよび酵素をろ過により反応混合物から除去し、水(20mL)および濃HCl水溶液(37重量%)(10mL)をろ液に加え、混合物を70℃で数時間加熱した。加水分解反応をGCによりモニターし、中間体のO−アセチル−2−アミノシクロヘキサノールがすべて最終生成物の2−アミノシクロヘキサノールに変換されるまで実施した。水性層をトルエン(3×50mL)で洗浄し、真空下で濃縮して茶色の粘凋な油性残渣(15.5g)を得た。イソプロパノール(50mL)を使用し、共沸蒸留により微量の水を除去し、茶色の固体(13.5g)を得た。これをアセトニトリル(100mL)中で攪拌して白色乃至灰色の固体残渣を得た。固体をろ過により分離し、アセトニトリル(3×25mL)で洗浄し、N下で乾燥させた。この結果、オフホワイト色の固体として、所望の(R,R)−2−アミノシクロヘキサノールのHCl塩(10.42g、0.069mol)が得られ、これはラセミ体trans−9に対して69%の収率に相当した。e.e.は>99%であった。
【0136】
[実施例VI−trans−N−ベンジリデン−2−アミノ−シクロヘキサノール(9)のタンデムDKR]
【化9】



【0137】
[タンデムDKR]
温度計、蒸留ユニットおよび磁気攪拌子を備えた100mLの丸底フラスコ中で、[IrCpCl(19.9mg、0.25mmol)、2−メチル−2−アミノプロピオンアミド(7.1mg、0.07mmol)をイソプロパノール(5mL)およびトルエン(10mL)に溶解し、この溶液を70℃で15分間加熱した。揮発分を減圧下で除去して黄色の固体を得、これにヘキサメチルベンゼン(内部標準;80mg)、トルエン(10mL)、イソプロペニルアセテート(20mmol)、ラセミ体trans−9(5mmol)、KCO(0.5g、0.0036mol)およびリパーゼAK(200mg)を室温で加えた。反応混合物を脱気し、大気圧下、70℃で1時間加熱した後、圧力を270mbarまで連続的に減じた。22時間後、リパーゼAKの別の1部(100mg)を反応混合物に加え、反応を8時間継続した。
【0138】
反応混合物を室温まで冷却し、SiOでろ過して固体を除去し、トルエン(3×10mL)で洗浄した。黄色のろ液をまとめて真空下で濃縮して残渣(1.15g)を得、それをメタノール(10mL)および1N−HCl水溶液(10mL)に再溶解させて、17時間の還流を行った。真空下で濃縮した後、残渣を水(10mL)に再溶解させ、トルエン(2×10mL)で洗浄した。水性の層を真空下で濃縮し、微量の水をイソプロパノール(2×10mL)との共沸蒸留により除去した。得られた残渣をアセトニトリル(10mL)中で攪拌し、結晶化させた。ろ過により固体を分離し、窒素中で乾燥させて僅かに黄色味を帯びた(R,R)−2−アミノ−シクロヘキサノール生成物の結晶(0.51g)を得た。これはラセミ体trans−9に対して67%の収率に相当した。e.e.は>99%であり、trans/sis比は17であった。
【0139】
反応は、実施例Vに従ってキラルHPLCおよびGCによりモニターした。サンプル調製およびそれに続く分離生成物のe.e.の測定も、実施例Vと同様に行った。結果を下表に示す。
【0140】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対の2個の隣接キラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルの製造方法であって、第二アルコールまたは第二チオール部分を形成する第1キラル中心を、1個の水素置換基を有し、かつ第二アルコール部分を形成しない第2キラル中心に対してベータ位に含む構造を有する第二アルコールまたはチオールの立体異性体混合物を、エピマー化触媒および立体選択的アシル化触媒の存在下にアシル供与体と反応させる方法。
【請求項2】
第二アルコールまたはチオールは、2対以上の隣接キラル中心を含み、各対は、第二アルコールまたはチオール部分を形成する第1キラル中心を、請求項1に記載したような1個の水素置換基を有する第2キラル中心に対してベータ位に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2キラル中心が、アミン部分、アルキル部分または第2チオール部分を形成する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1キラル中心の第二アルコールまたはチオールがアシル供与体と反応する前または反応する間、第2キラル中心のアミン部分または第2チオール部分が保護され、反応後に脱保護される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第2キラル中心が3個の炭素原子と結合している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
第1キラル中心および第2キラル中心が、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロシクロアルケニル部分の一部である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1および第2キラル中心が、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、ピロリジル、ピペリジニルまたはテトラヒドロフリル部分である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エピマー化触媒が、周期律表の第3、8、9、10、13族またはランタニド族の金属をベースとしており、その金属は酸化状態が1以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
エピマー化触媒が、ルテニウム、イリジウム、アルミニウム、サマリウムおよびスカンジウムの群から選択される金属をベースとしている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
立体選択的アシル化触媒が、加水分解酵素、好ましくはカルボン酸エステラーゼ、チオエステルヒドロラーゼおよびペプチドヒドロラーゼの群から選択される加水分解酵素、より好ましくはカンジダ・アンタルクチカ(Candida Antarctica)リパーゼB(CAL−B)、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)リパーゼおよびサブチリシンから選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
立体異性体の混合物が、1個の水素置換基を有し、カルボニルまたはチオカルボニル部分に対してアルファ位にあるキラル中心を有するケトンまたはチオンをその場で還元することによって調製される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
隣接する少なくとも2つのキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富む第2アルコールまたはチオールの製造方法であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法で得られたエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルを、好ましくは加水分解、エステル交換またはアミド化により、より好ましくは加水分解により、第2アルコールまたはチオールに変換する方法。
【請求項13】
エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステルが立体選択的に変換される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法で得られた、少なくとも2つのキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富むエステルまたはチオエステル、あるいは、請求項12または13に記載の方法で得られた、少なくとも2つのキラル中心を有する、エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーに富む第2アルコールまたはチオールの、液晶、農薬、食品もしくは飼料用添加物、芳香剤、化粧品成分または医薬品成分の製造における使用。

【公表番号】特表2011−502471(P2011−502471A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529379(P2010−529379)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063915
【国際公開番号】WO2009/050216
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】