説明

エポキシ樹脂無機複合シート、回路基板、立体回路基板

【課題】加熱することなしに容易にキャリア材から剥離することができ、キャリア材なしで取り扱うことができ、樹脂流動性が低いエポキシ樹脂無機複合シートを提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)エラストマー成分、(C)無機充填材を含有するエポキシ樹脂組成物を、離型処理を施したキャリア材2の表面に塗布した後、これを半硬化状態になるまで乾燥させることによって形成されるエポキシ樹脂無機複合シート1に関する。(B)として、(B1)ポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴム、(B2)ハードセグメントとソフトセグメントを有する共重合体であって、ソフトセグメントがポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴムであるものの中から選ばれ、かつ、重量平均分子量が20000〜1000000であるものを用いる。(B)が0.5〜4.5重量%、(C)が70〜90重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に多層プリント配線板を製造する用途に用いられるエポキシ樹脂無機複合シート並びに、これを用いて製造される回路基板及び立体回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型高機能化要求に伴い、半導体の高集積化、配線距離の短縮化、プリント配線板の小型化等を図るために、ビルドアップ工法等によるプリント配線板の製造が盛んに行われている。
【0003】
ビルドアップ工法によってプリント配線板を製造するにあたっては、絶縁シート材が用いられているが、この絶縁シート材としては、現状、アディティブ用プリプレグ、樹脂付き銅箔、ビルドアップ用樹脂フィルムなどが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの絶縁シート材においては、それぞれに一長一短がある。
【0004】
アディティブ用プリプレグは、ガラス等の基材を含んでいることから、温度変化に伴う寸法性(低線膨張化)には優れているものの、ビア形成におけるレーザー加工性については劣っている。また、成形後の基板表面平滑性についても、クロスのうねりが生じやすいという問題を有している。さらに、ガラス基材の存在により、電気特性の面でも、誘電率、誘電正接が高くなり、高速化、高周波化には不利といえる。
【0005】
一方、樹脂付き銅箔やビルドアップ用樹脂フィルムにおいては、ガラス基材が含まれていないことから、線膨張係数が大きくなり、導通信頼性や実装信頼性の面で不利なものとなる。
【0006】
そこで、両者の長所を併せ持たせるコンセプトとしてQ値(誘電正接の逆数)の高いシリカやアルミナなどの無機充填材をガラスクロスの代わりに用い、ガラス基材レスのプリプレグとすることが考えられる。
【特許文献1】特開2004−123874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ガラスクロスと同等のXY方向の線膨張係数にするためには、無機充填材は80重量%程度添加する必要がある。しかしながら、このような材料をポリエステル等のフィルム状のキャリア材の表面に塗布し、これを乾燥させて未硬化状態の絶縁シート材にすることは非常に困難であり、また、このようにして製造された絶縁シート材は脆く、可撓性に乏しいものとなる。また、仮に乾燥の度合いを弱くすることにより絶縁シート材の可撓性を保持することができたとしても、剥がして扱うことは困難であり、剥がした際に絶縁シート材が伸びたりちぎれたりするなどして、成形用の絶縁シート材として扱えるものにはならない。すなわち、キャリア材から剥がして扱えるようにするには、柔軟性と強度を併せ持ったシート機械特性が求められることになる。
【0008】
一方、絶縁シート材においては、成形時のフローの低い材料の方が成形圧力を高く設定できることから、ペーストビアの導通信頼性の面で有利である。このことからローフロー材が求められることになる。さらに、キャビティ付きの回路基板の製造においても、ローフローでなければ直圧成形での立体回路基板の製造が困難であることが分かっている。
【0009】
そこで、成形時においてローフローな絶縁シート材となるように設計する方法が求められることになるが、一般的に行われている手法としては、(1)無機充填材の増量、(2)アスペクト比の高い無機充填材の添加、(3)高軟化点エポキシ成分の添加などがある。ところが、このような手法で未硬化状態の絶縁シート材を製造した場合はいずれも、ローフロー材が実現できる見返りとして絶縁シート材が硬く脆く、可撓性の低い材料となって、取り扱い性の悪いものとなり、ローフローと取り扱い性の両立は実現不可能であった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、キャリア材から剥がして単独で取り扱うことができると共に、樹脂流動性が低いエポキシ樹脂無機複合シート、回路基板、立体回路基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係るエポキシ樹脂無機複合シートは、(A)エポキシ樹脂、(B)エラストマー成分、(C)無機充填材を含有するエポキシ樹脂組成物を、離型処理を施したキャリア材2の表面に塗布した後、これを半硬化状態になるまで乾燥させることによって形成されるエポキシ樹脂無機複合シート1において、(B)エラストマー成分として、(B1)ポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴム、(B2)ハードセグメントとソフトセグメントを有する共重合体であって、ソフトセグメントがポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴムであるものの中から選ばれ、かつ、重量平均分子量が20000〜1000000であるものを用いると共に、エポキシ樹脂組成物全量に対して、(B)エラストマー成分の含有量が0.5〜4.5重量%であり、(C)無機充填材の含有量が70〜90重量%であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、沸点100℃以下の溶剤でエポキシ樹脂組成物を希釈して得られるスラリー状ワニスをキャリア材2に塗布すると共に、エポキシ樹脂無機複合シート1全量に対して、乾燥後に残存する溶剤の量が3重量%未満であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、(B1)ブタジエン系ランダム共重合ゴムが、アクリロニトリルブタジエンゴムであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、(C)無機充填材として、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウムの中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項5に係る回路基板は、請求項1乃至4のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シート1を積層成形すると共に、回路を形成して成ることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の請求項6に係る立体回路基板は、請求項1乃至4のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シート1の一部を打ち抜いて開口部4を設け、このエポキシ樹脂無機複合シート1を積層成形して開口部4でキャビティ部5を形成すると共に、キャビティ部5に回路を形成して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に係るエポキシ樹脂無機複合シートによれば、無機充填材が比較的高い割合で含有されていることから、高周波特性、低吸湿化、寸法安定性(特にZ方向)、高弾性率化、熱時強度、熱時弾性、低イオン性などの物性が付与され、その結果、硬化物は信頼性(接続信頼性、絶縁信頼性、耐熱信頼性、実装信頼性)に極めて優れたものとなる。また、無機充填材を高充填した従来の絶縁シートでは今まで十分な強靭性を実現し得なかったが、本発明によれば、その強靭性を得ることができるものであり、半硬化状態でキャリア材から剥がした際にエポキシ樹脂無機複合シートが伸びたりちぎれたりせず、キャリア材レスで扱うことができ、良好なハンドリング性を得ることができるものである。つまり、加熱することなしに容易にエポキシ樹脂無機複合シートをキャリア材から剥離することができると共に、キャリア材なしで取り扱うことが可能である。また、成形時のローフロー化(樹脂流動性の低下)と、エポキシ樹脂無機複合シートの強靭化とを両立させることができることから、ビアペーストの初期接続性や立体基板などキャビティ付き基板を簡便に製造することができるものである。
【0018】
請求項2の発明によれば、乾燥条件をマイルドにすることができ、エポキシ樹脂と硬化剤の反応を進めずに効率的に溶剤を除去することができ、より良好なエポキシ樹脂無機複合シートを得ることができるものである。
【0019】
請求項3の発明によれば、エポキシ樹脂との相溶性が良く、乾燥後のゴム相の分離状態が良好であるので、硬化物が高い強靭性を得ることができるものである。
【0020】
請求項4の発明によれば、次のような効果を得ることができる。すなわち、シリカを用いる場合にあっては、低線膨張化、低吸湿化、低誘電率化、低誘電正接化、高強度高弾性率化を図ることができると共に、耐熱性、表面平滑性を高く得ることができるものである。また、アルミナを用いる場合にあっては、シリカと同様の効果を得ることができるほか、放熱性を高く得ることができるものである。また、チタン酸バリウムを用いる場合にあっては、高誘電率化を図ることができ、コンデンサを内蔵した基板を製造することができるものである。
【0021】
本発明の請求項5に係る回路基板によれば、ガラスクロス等の基材を含んでいないことから、ビア形成におけるレーザー加工性に優れているものである。また、成形後の基板表面平滑性にも優れており、電気特性の面でも、基材の不存在により、高速化、高周波化に有利である。
【0022】
本発明の請求項6に係る立体回路基板によれば、キャビティ部を形成するための開口部の打抜き加工が容易で立体加工性が良好であり、しかも成形時の流動性が低くキャビティ付き基板形成性に優れている。また、ガラスクロス等の基材を含んでいないことから、ビア形成におけるレーザー加工性に優れているものである。また、成形後の基板平滑性にも優れており、電気特性の面でも、基材の不存在により、高速化、高周波化に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、本発明に係るエポキシ樹脂無機複合シートは、(A)エポキシ樹脂、(B)エラストマー成分、(C)無機充填材を含有するエポキシ樹脂組成物を、離型処理を施したキャリア材2の表面に塗布した後、これを半硬化状態になるまで乾燥させることによって形成されている。図1はエポキシ樹脂無機複合シート1をキャリア材2の片面に形成したものを示すが、エポキシ樹脂無機複合シート1をキャリア材2の両面に形成してもよい。なお、エポキシ樹脂無機複合シート1の表面にカバーフィルム(図示省略)を設けてもよい。
【0025】
本発明において(A)エポキシ樹脂としては、好ましくは、液状エポキシ樹脂、軟化温度が80℃以下のエポキシ樹脂、より好ましくは、軟化温度が60℃以下のエポキシ樹脂を用いる。このようなエポキシ樹脂は、無機充填材の高充填化に適しているからである。また、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂を用いると、優れた信頼性を得ることができると共に、耐落下衝撃性を高く得ることができる。さらに(A)エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂などを用いることができるが、これらのものに限定されるものではない。
【0026】
本発明において(B)エラストマー成分としては、後述する(B1)成分と(B2)成分の中から選ばれるものを用いる。ただし、いずれの成分も重量平均分子量が20000〜1000000であるものを用いる。重量平均分子量が20000より低いと、エポキシ樹脂無機複合シート1のフィルム特性が悪化し、逆に、重量平均分子量が1000000より高いと、チクソ性が非常に高くなり、エポキシ樹脂無機複合シート1を製造する際に塗膜の成膜性が悪化するものである。
【0027】
上記(B1)成分としては、ポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴムを用いる。ここで、ブタジエン系ランダム共重合ゴムとしては、特に限定されるものではないが、アクリロニトリルブタジエンゴムを用いるのが好ましい。(B1)成分のブタジエン系ランダム共重合ゴムの中で、アクリロニトリルブタジエンが特に好ましいのは、エポキシ樹脂との相溶性が良く、乾燥後のゴム相の分離状態が良好であることにより、硬化物が高い強靭性を得ることができるからである。
【0028】
一方、上記(B2)成分としては、ハードセグメントとソフトセグメントを有する共重合体であって、ソフトセグメントがポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴムであるものを用いる。ハードセグメントは、特に限定されるものではないが、例えば、アミドやポリアミドである。また、ソフトセグメントのブタジエン系ランダム共重合ゴムは、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴムである。(B2)成分の具体例としては、ポリアミド液状ゴム共重合体などを挙げることができる。
【0029】
そして、エポキシ樹脂組成物全量に対して、(B)エラストマー成分の含有量は0.5〜4.5重量%である。これにより、(C)無機充填材を70重量%以上という高い割合で含有するエポキシ樹脂無機複合シート1をあたかも熱可塑性のフィルムのように取り扱うことができ、ハンドリング性を高く得ることができるものである。さらに、エポキシ樹脂無機複合シート1の厚みが100μm以下という薄いものであっても、キャリア材2から剥がして単独で取り扱うことができると共に、このように単独で取り扱っていても、破れたり割れたりすることがないものである。しかし、(B)エラストマー成分の含有量が0.5重量%より少ないと、エポキシ樹脂無機複合シート1の一部を打ち抜いたり切断したりする場合に、打ち抜いた箇所や切断した箇所の周辺にクラックや粉落ちが発生するものである。逆に、(B)エラストマー成分の含有量が4.5重量%より多いと、樹脂流動性が低くなり過ぎて、FRグレード等の積層板に対する密着性や成形時のシート間の密着性を高く得ることができないものである。
【0030】
本発明において(C)無機充填材(無機フィラー)としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶融シリカ(SiO)、結晶シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)等を用いることができ、また、チタン酸バリウムや酸化チタンのような高誘電率フィラー、ハードフェライトのような磁性フィラー、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母粉などを用いることができる。これらのものは一種単独で用いたり、あるいは二種以上を組み合わせて用いたりすることができる。また、これらの無機充填材は、熱伝導性、比誘電率、難燃性、粒度分布、色調の自由度が高く、所望の機能を選択的に発揮させる場合に適宜配合及び粒度設計を行って容易に高充填化を行うことができる。また、無機充填材としては、最大粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下のものを用いると、レーザー加工やドリル加工により貫通孔を精度良く正確に形成することができると共に、ドリルの磨耗を防止することができるものである。
【0031】
特に、(C)無機充填材としては、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウムの中から選ばれるものを用いるのが好ましい。シリカを用いる場合にあっては、低線膨張化、低吸湿化、低誘電率化、低誘電正接化、高強度高弾性率化を図ることができると共に、耐熱性、表面平滑性を高く得ることができるものである。また、アルミナを用いる場合にあっては、シリカと同様の効果を得ることができるほか、放熱性を高く得ることができるものである。また、チタン酸バリウムを用いる場合にあっては、高誘電率化を図ることができ、コンデンサを内蔵した基板を製造することができるものである。すなわち、コンデンサとして機能するコンデンサ層を基板内に付与することができるものである。
【0032】
そして、エポキシ樹脂組成物全量に対して、(C)無機充填材の含有量は70〜90重量%である。これにより、エポキシ樹脂無機複合シート1の線膨張係数が小さくなり、導通信頼性や実装信頼性の面で有利なものとなる。しかし、(C)無機充填材の含有量が70重量%より少ないと、エポキシ樹脂無機複合シート1の強度が低下し、キャリア材2から剥がすことが困難となり、無理に剥がすとエポキシ樹脂無機複合シート1が伸びたり破壊したりするものである。このような剥離時におけるエポキシ樹脂無機複合シート1の伸びは、ビアペーストの充填後にマスクフィルムを剥がす工程での伸びにつながり、この伸びが発生すると、多層積層板製造時の致命的な問題である寸法のずれを生じる原因となる。逆に、(C)無機充填材の含有量が90重量%より多いと、エポキシ樹脂無機複合シート1が脆くなり、取り扱うことが困難となる。
【0033】
本発明においては、エポキシ樹脂組成物中における無機充填材の分散性を向上させるために、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系などのカップリング剤や、アルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、アルキルポリエーテルアミン系、高分子系などの分散剤を適宜添加するのが好ましい。
【0034】
また、本発明においては、硬化剤として、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、酸無水物などをエポキシ樹脂組成物に含有することができる。フェノール樹脂としては、ノボラック型、アラルキル型、テルペン型などのものを用いることができるが、特に、上記エポキシ樹脂と同様に、軟化温度が80℃以下のものを用いるのが好ましい。また、アラルキル型フェノール、特に、フェノールフェニルアラルキル樹脂又はフェノールビフェニルアラルキル樹脂を用いる場合には、耐衝撃性を著しく向上させることができると共に、低吸湿率、高密着性を併せ持ち、プリント回路基板用材料、IC及び部品保護用コーティング材料として信頼性の高い成形物(硬化物)を得ることができる。また、酸無水物系のものに関しては、液状、結晶のどちらでも使用可能であるが、常温で液状のものや低分子量のものを用いることで、無機充填材を増量しても、エポキシ樹脂無機複合シート1の可撓性を保持することができる。
【0035】
そして、本発明に係るエポキシ樹脂無機複合シートは、次のようにして製造することができる。すなわち、(A)エポキシ樹脂、(B)エラストマー成分、(C)無機充填材、必要に応じて硬化剤などを配合することによってエポキシ樹脂組成物を調製し、このエポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトン(MEK)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶剤に溶解・分散させることによってスラリー状ワニスを調製する。このとき溶剤としては、メチルエチルケトンのように沸点100℃以下の溶剤のみを用いるのが好ましく、これにより、乾燥条件をマイルドにすることができ、エポキシ樹脂と硬化剤の反応を進めずに効率的に溶剤を除去することができ、より良好なエポキシ樹脂無機複合シート1を得ることができるものである。次に、上記のように溶剤でエポキシ樹脂組成物を希釈して得られたスラリー状ワニスを、離型処理を施したキャリア材2の片面に塗布した後、これを熱風吹き付け等により加熱することによって、半硬化状態になるまで乾燥させる。そうすると、図1に示すようなエポキシ樹脂無機複合シート1を得ることができるものである。
【0036】
ここで、キャリア材2としては、片面又は両面に離型処理を施した高分子フィルムあるいは金属フィルム等を用いることができる。高分子フィルムとしては、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、アセチルセルロース、テトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を用いることができる。また、金属フィルムとしては、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔などの金属箔を用いることができる。キャリア材2としては、価格、耐熱性の面で、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いるのが好ましい。キャリア材2の厚みは10〜200μmが一般的である。
【0037】
また、離型処理は、例えば、オルガノポリシロキサン、変性オルガノポリシロキサン、フッ素系ポリマー等をキャリア材2の表面にコートすることによって施すことができる。離型性の指標として、エポキシ樹脂無機複合シート1とキャリア材2との剥離強度を用いることができるが、この剥離強度は、50mm/分の引張速度の条件下において0.6〜100N/mの範囲であることが好ましい。剥離強度が0.6N/mより小さい場合においては、塗工乾燥後の巻き取り段階においてエポキシ樹脂無機複合シート1がキャリア材2から剥がれてしまうなどの問題が生じやすい。逆に、剥離強度が100N/mより大きい場合においては、剥離が困難となり、エポキシ樹脂無機複合シート1の強度との兼ね合いにもよるが、無理にキャリア材2から剥がそうとすると、エポキシ樹脂無機複合シート1が破壊するという懸念がある。また、エポキシ樹脂無機複合シート1の引張強度は0.5〜30MPaの範囲であることが好ましく、この範囲であれば、巻き取り時において破れにくくすることができるものである。
【0038】
本発明に係るエポキシ樹脂無機複合シートは、離型処理を施したキャリア材2の表面上において半硬化状態である。半硬化状態とは、いわゆるBステージ状態のことであり、エポキシ樹脂組成物を加熱することにより、エポキシ樹脂組成物の反応を一部行わせた状態である。従って、エポキシ樹脂無機複合シート1は、従来のプリプレグと同様に、積層成形の加熱加圧によって一旦溶融した後に硬化する性質を備えているものである。また、エポキシ樹脂無機複合シート1全量に対して、乾燥後に残存する溶剤の量が3重量%未満(下限は0重量%)であることが好ましい。乾燥後の溶剤量が3重量%以上であると、成形時にボイドが発生しやすくなるおそれがある。
【0039】
また、エポキシ樹脂無機複合シート1の厚みは5〜500μmであることが好ましい。この厚みが5μmより薄いと、コーティング時においては用いることのできる無機充填材の粒子径が微細化してくることから充填性に問題が生じやすくなり、また、エポキシ樹脂無機複合シート1の強度が低下することとなり、事実上、キャリア材2からの剥離が不可能となる。逆に、上記厚みが500μmより厚いと、エポキシ樹脂無機複合シート1の表面や内部に発泡やボイドを発生させないようにするためには、乾燥時間に莫大な時間を要することとなる。よって、500μmより厚いものを得る場合には、500μmより薄いエポキシ樹脂無機複合シート1を複数枚重ねる方が実用上好適であるといえる。
【0040】
そして、本発明に係るエポキシ樹脂無機複合シートでは、従来のプリント回路基板に用いられているガラスクロス等の基材を含まず、この基材の代わりに無機充填材のみにより信頼性の向上を図ると共に、可撓性を確保し、樹脂流動性を低くすることができるものである。また、キャリア材2の表面にはあらかじめ離型処理が施されているので、エポキシ樹脂無機複合シート1を加熱することなくキャリア材2から容易に剥離することができるものである。このようにキャリア材2から剥がして単独で取り扱うことができるという特性を有していることから、例えば、ラミネートする前にあらかじめキャリア材2から剥がしておくことにより、図2(a)に示すように数枚を一度に重ねてプレスすることが可能である。これにより、仮に1枚のエポキシ樹脂無機複合シート1のある一部分に欠陥(ボイド、へこみ、ピンホール、異物の混入など)が存在していたとしても、2枚以上重ねることにより欠陥の確率を著しく低下させ、絶縁不良の防止を図ることができるものである。また、重ねる枚数を調整することにより、厚みを調整することができるが、特に多くの枚数を重ねて厚膜化を容易に行うことができるので、背の高い受動部品の封止や立体回路基板6の用途に好適に用いることができるものである。従来のビルドアップ用樹脂フィルムでは、キャリア材2から剥がして単独で取り扱うことが不可能であり、数枚を一度に重ねてプレスすることができず、1枚ずつプレスして硬化させた後キャリア材2を剥がすという工程を複数回繰り返さなければならない。よって、所望の厚みが厚くなればなるほど指数的に比例して乾燥時間を長くしなければならず、生産性が低下する傾向にあった。これは、乾燥時に内包されるボイド発生確率が高くなることから、マイルドな条件で長時間乾燥させなければ厚膜化は困難であったためである。
【0041】
本発明において成形品は、エポキシ樹脂無機複合シート1をプレス成形により成形した硬化物であるが、エポキシ樹脂無機複合シート1は、例えば、プレス圧力0.1〜20MPa、温度100〜200℃、10〜240分間の加熱により硬化させることができる。成形品の具体例としては、後述する回路基板3や立体回路基板6などを挙げることができる。
【0042】
図2(b)は本発明に係る回路基板の一例を示すものであるが、この回路基板3は、複数枚のエポキシ樹脂無機複合シート1を積層成形すると共に、回路(図示省略)を形成することによって製造することができる。回路はあらかじめエポキシ樹脂無機複合シート1に転写して形成することができ、また、アディティブ法などにより形成することもできる。そして、図2(b)に示す回路基板3にあっては、ガラスクロス等の基材を含んでいないことから、ビア形成におけるレーザー加工性に優れているものである。また、成形後の基板表面平滑性にも優れており、電気特性の面でも、基材の不存在により、高速化、高周波化に有利である。
【0043】
また、図3は本発明に係る立体回路基板の一例を示すものであるが、この立体回路基板6(キャビティ付き基板)は、次のようにして製造することができる。まずエポキシ樹脂無機複合シート1の一部を打ち抜いて開口部4を設ける。図3に示すものにあっては、2枚のエポキシ樹脂無機複合シート1にそれぞれ大きな開口部4a及び小さな開口部4bを設けてあるが、枚数や開口部4の大きさは特に限定されるものではない。次にこれらのエポキシ樹脂無機複合シート1を積層成形する。図3に示すものにあっては、開口部4を設けていないエポキシ樹脂無機複合シート1の上に、小さな開口部4bを設けたエポキシ樹脂無機複合シート1を重ね、さらにこの上に、大きな開口部4aを設けたエポキシ樹脂無機複合シート1を重ね、これらのものを加熱加圧して積層成形している。そうすると、開口部4でキャビティ部5が形成されることとなるが、本発明に係るエポキシ樹脂無機複合シート1は樹脂流動性が低いので、プレス後においてもキャビティ部5の形状が崩れていないものである。そして、キャビティ部5に回路(図示省略)を形成すると共に、キャビティ部5に各種実装部品(図示省略)を搭載することによって、立体回路基板6を得ることができる。回路はあらかじめエポキシ樹脂無機複合シート1に転写して形成することができ、また、アディティブ法などにより形成することもできる。そして、図3(b)に示す立体回路基板6にあっても、ガラスクロス等の基材を含んでいないことから、ビア形成におけるレーザー加工性に優れているものである。また、成形後の基板表面平滑性にも優れており、電気特性の面でも、基材の不存在により、高速化、高周波化に有利である。
【0044】
上述のように、本発明に係るエポキシ樹脂無機複合シートにあっては、無機充填材が比較的高い割合で含有されていることから、高周波特性、低吸湿化、寸法安定性(特にZ方向)、高弾性率化、熱時強度、熱時弾性、低イオン性などの物性が付与され、その結果、硬化物は信頼性(接続信頼性、絶縁信頼性、耐熱信頼性、実装信頼性)に極めて優れたものとなる。また、無機充填材を高充填した従来の絶縁シートでは今まで十分な強靭性を実現し得なかったが、本発明によれば、その強靭性を得ることができるものであり、半硬化状態でキャリア材2から剥がした際にエポキシ樹脂無機複合シート1が伸びたりちぎれたりせず、キャリア材レスで扱うことができ、良好なハンドリング性を得ることができるものである。また、成形時のローフロー化(樹脂流動性の低下)と、エポキシ樹脂無機複合シート1の強靭化とを両立させることができることから、ビアペーストの初期接続性や立体基板などキャビティ付き基板を簡便に製造することができるものである。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0046】
(A)エポキシ樹脂として、(A1)ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC3000」)、(A2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成社製「YDF8170」)を用いた。
【0047】
(B)エラストマー成分として、(B1)アクリロニトリルブタジエンゴム(Mw=300000)(JSR社製「PNR1H」)、(B2)ポリアミド液状ゴム共重合体(Mw=50000)(日本化薬社製「カヤフレックス」)を用いた。
【0048】
(C)無機充填材として、(C1)球状シリカ(電気化学工業社製「FB3LDX」)、(C2)球状アルミナ(龍森社製「TS10」)、(C3)チタン酸バリウム(堺化学社製「BTZ−09」)を用いた。
【0049】
そして、まず下記[表1]に示す配合量で(A)〜(C)成分をプラネタリーミキサーにて混練した後、これにメチルエチルケトンを配合して希釈することによって、粘度を3000cpsに調整したスラリー状ワニスを得た。ただし、実施例6、7、10にあっては、メチルエチルケトンとN,N−ジメチルホルムアミドを重量比2:1で混合した溶媒を用いて希釈した。次に、このワニスを厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムからなるキャリア材2に塗布した。なお、キャリア材2としては、あらかじめ表面にオルガノポリシロキサンを用いて離型処理が施されているものを用いた。その後、スラリー状ワニスを塗布したキャリア材2を120℃で8分間加熱乾燥することにより、キャリア材2の片面に厚み100μmで半硬化状態(Bステージ状態)のエポキシ樹脂組成物からなる図1に示すようなエポキシ樹脂無機複合シート1を製造した。ただし、実施例8〜11にあっては、エポキシ樹脂無機複合シート1の厚みをそれぞれ20μm、500μm、300μm、40μmとした。
【0050】
上記のようにして製造したエポキシ樹脂無機複合シート1を用いて、次のような測定を行った。
【0051】
(残存溶剤量)
シート重量5g相当を163℃/15分間乾燥機中に入れ、揮発分(溶剤)を除去した。乾燥機投入前後でのシート重量減量を測定することにより、シート重量(キャリア材2は除く)に対する揮発分量を算出し、これを残存溶剤量とした。
【0052】
(樹脂流動性)
100mmφの円形に加工したシートを130℃/3MPaの条件でプレス成形し、もとの100mmφの円形からはみ出した樹脂分の量を測定することにより、流出率を求めた。
【0053】
(打抜き・切断時耐クラック性)
エポキシ樹脂無機複合シート1を110℃、20分間乾燥機で予備乾燥した後、トムソン刃で内径2mmφの打抜きを25℃の条件下で行った。そして、打抜き部の周囲を目視にて観察してクラックの有無を確認し、クラック無しを「○」、クラック有りを「×」とした。
【0054】
(剥離時のシート伸び)
キャリア材2付きの状態で、複数のビアホールを形成し、これらに導電性ペーストを充填してからキャリア材2を剥離した後、成形した。そして、成形後基準位置からのずれ(ペースト−ペースト間の距離)を光学顕微鏡にて測定し、平均値を剥離時のシート伸びとした。
【0055】
(吸湿半田耐熱でのデラミネーション)
図4に示すように、FR−4基板7の両面にエポキシ樹脂無機複合シート1を175℃、2時間の条件で成形硬化させた。このようにして得た基板を85℃、湿度85%の条件下に3日間放置した後、260℃の半田槽に20秒間浸漬させた。そして、浸漬後において、FR−4基板7とエポキシ樹脂無機複合シート1との界面の剥離状態を観察し、デラミネーション無しを「○」、デラミネーション有りを「×」とした。
【0056】
以上の結果を下記[表1]に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜3及び比較例1、2は、エラストマー成分の含有量を変化させた場合の結果を示しているが、エラストマー成分の量としては、0.5〜4.5重量%が最も適量であることが確認される。一方、エラストマー成分が0.5重量%より少ない比較例1のものにあっては、シートの柔軟性に悪影響を及ぼし、打抜き時にクラックが発生することが確認される。また、エラストマー成分が4.5重量%より多い比較例2のものにあっては、樹脂流動性が低下し過ぎ、密着性が低下することとなり、デラミネーション(層間剥離)が発生することが確認される。
【0059】
また、実施例4、5は、エラストマー成分の含有量を2重量%にして、無機充填材の含有量を変化させた場合の結果を示しているが、打抜き時にクラックは発生せず、また、デラミネーションも発生していないことから、良好なものであることが確認される。なお、実施例4のものにあっては、剥離時のシート伸びが大きいものの、実質的には問題の無いものである。
【0060】
また、エラストマー成分の種類をポリアミド液状ゴム共重合体に変え、溶剤をメチルエチルケトンとN,N−ジメチルホルムアミドの混合溶剤に変えた実施例6、7のものにあっては、それぞれ実施例2、4と比較しても、何ら問題の無いものであることが確認される。
【0061】
さらに、実施例8〜11は、シートの厚み、無機充填材の種類を変えた場合の結果を示しているが、いずれも問題の無いものであることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】同上の他の一例を示すものであり、(a)(b)は断面図である。
【図3】同上の他の一例を示すものであり、(a)(b)は断面図である。
【図4】同上の他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 エポキシ樹脂無機複合シート
2 キャリア材
3 回路基板
4 開口部
5 キャビティ部
6 立体回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)エラストマー成分、(C)無機充填材を含有するエポキシ樹脂組成物を、離型処理を施したキャリア材の表面に塗布した後、これを半硬化状態になるまで乾燥させることによって形成されるエポキシ樹脂無機複合シートにおいて、(B)エラストマー成分として、(B1)ポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴム、(B2)ハードセグメントとソフトセグメントを有する共重合体であって、ソフトセグメントがポリブタジエン又はブタジエン系ランダム共重合ゴムであるものの中から選ばれ、かつ、重量平均分子量が20000〜1000000であるものを用いると共に、エポキシ樹脂組成物全量に対して、(B)エラストマー成分の含有量が0.5〜4.5重量%であり、(C)無機充填材の含有量が70〜90重量%であることを特徴とするエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項2】
沸点100℃以下の溶剤でエポキシ樹脂組成物を希釈して得られるスラリー状ワニスをキャリア材に塗布すると共に、エポキシ樹脂無機複合シート全量に対して、乾燥後に残存する溶剤の量が3重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項3】
(B1)ブタジエン系ランダム共重合ゴムが、アクリロニトリルブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項4】
(C)無機充填材として、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウムの中から選ばれるものを用いて成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シートを積層成形すると共に、回路を形成して成ることを特徴とする回路基板。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のエポキシ樹脂無機複合シートの一部を打ち抜いて開口部を設け、このエポキシ樹脂無機複合シートを積層成形して開口部でキャビティ部を形成すると共に、キャビティ部に回路を形成して成ることを特徴とする立体回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−118323(P2007−118323A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311970(P2005−311970)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】