説明

エポキシ樹脂組成物の製造方法

【課題】フィレットの形成に優れ、プリプレグの剥離接着強度を高め、有孔圧縮強度等の機械強度が高く、タック性およびドレープ性等の作業性に優れるエポキシ樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を15〜40重量%、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)を10〜35重量%、前記(A)および(B)成分を除くエポキシ樹脂(C)を25〜75重量%からなるエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、硬化剤(D)を15〜40重量部配合するエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、(A)成分の全量と、(C)成分の少なくとも一部とを、触媒を共存させて溶融混合する工程(1)、この生成物へ(B)および(D)成分の少なくとも一部を配合して、溶融混合する工程(2)、この生成物へ(B)〜(D)成分の残量を配合し、溶融混練する工程(3)よりなるエポキシ樹脂組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、航空機用ハニカムパネルの面板用自己接着性プリプレグに使用するエポキシ樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、その優れた力学物性などから、航空機、自動車、産業用途に幅広く使われている。特に航空機用構造材料や内装材においては、軽量化の観点から、繊維強化複合材料を面板としてハニカムパネルに用いるケースが増加している。
【0003】
一般に、ハニカムパネルは、ハニカムコアとしてアラミドハニカム、ガラスハニカムやアルミニウムハニカムを使用し、それらの両面に面板となるプリプレグを積層し、プリプレグを構成する樹脂の硬化とハニカムコアとの接着とを同時に行なう、いわゆるコキュア成形によって製造される。従来は、コキュア成形に当たり、フィルム状の接着剤をハニカムコアとプリプレグとの間に挟みこみ成形する方法が多用されてきたが、近年、ハニカムパネルのより一層の軽量化及び成形コスト低減のため、ハニカムコアとプリプレグを直接接着させる、いわゆる自己接着技術が求められている。しかし、接着剤を用いない場合には、プリプレグを構成する樹脂がハニカムコアとの接着を担う必要があり、高い接着性を確保するのが困難であった。
【0004】
ハニカムコアとプリプレグとの接着性を高めるためには、ハニカムコアとプリプレグの間に形成されるフィレットの良好な形成が重要である。フィレットは、プリプレグからハニカムコアの厚み方向に、ハニカムの壁に沿って樹脂が垂れ、またはせり上がった部分である。プリプレグを構成する樹脂の粘度が低すぎると、上面のプリプレグからハニカムの壁に沿って樹脂が流れ落ちすぎてしまい、上面のプリプレグとハニカムコアとの接着力が、不十分となる。逆に樹脂の粘度が高すぎると、樹脂がハニカム壁を十分に濡らすことができずに、特に下面のプリプレグとハニカムコアとの接着力が、不十分となりやすい。
【0005】
一方、プリプレグを取り扱うときの作業性に大きな影響を与える重要な特性として、プリプレグのタック性(粘着性)およびドレープ性(しなやかさ)がある。プリプレグのタック性が小さすぎると、プリプレグの積層工程において、重ねて押さえつけたプリプレグがすぐに剥離してしまい、積層作業性に支障をきたす。逆にプリプレグのタック性があまり大きすぎると、プリプレグの自重で張り付いてしまい、例えば修正のため、あとで剥離することが困難になってしまう。また、プリプレグのドレープ性が乏しいと、プリプレグが堅いため積層作業性が著しく低下すると共に、積層したプリプレグが金型の曲面やマンドレルの形状に正確に沿わず、しわ状になったり、強化繊維が折れ、成形品に欠陥が生じてしまう不具合が起こりやすい。
【0006】
従来のエポキシ樹脂組成物では、ハニカムの引張強度等の機械的特性は高いものの、ハニカムコアとプリプレグとの自己接着性において、剥離接着強度が不十分であることが多かった。
【0007】
このため、特許文献1および2は、剥離接着強度が高い自己接着性プリプレグに使用するエポキシ樹脂組成物を提案するものである。
【0008】
特許文献2は、自己接着性プリプレグに使用するエポキシ樹脂組成物において、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂を例示する。ビフェニル型2官能エポキシ樹脂は、主として半導体用パッケージ製品用途に用いられるエポキシ樹脂であり、高接着性を有する樹脂成分として知られている。しかしビフェニル型2官能エポキシ樹脂は、一般に分子量が低くエポキシ樹脂組成物全体の粘度を下げてしまうために、良好なフィレットを形成できないという問題があった。
【0009】
このように従来の自己接着性エポキシ樹脂組成物では、特にビフェニル型2官能エポキシ樹脂を使用した場合に、エポキシ樹脂組成物の粘度が低く良好なフィレットを形成できずにハニカムコアとの接着性が不十分である場合があり、しかもタック性、ドレープ性等のプリプレグの作業性が不十分である場合があった。さらに剥離接着強度を高めることに相反して、有孔圧縮強度等の機械強度が低下してしまう弊害が起きることが多く、良好なフィレットを安定して得ることが難しい状況とともに大きな課題となっている。
【0010】
したがって、フィレット形成に優れて接着強度および有孔圧縮強度等の機械強度が高く、しかもタック性およびドレープ性等の作業性に優れるエポキシ樹脂組成物は、未だ開発されていない。
【特許文献1】特開2001− 31838号公報
【特許文献2】特開2001−323046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂を使用しても、樹脂組成物に適正な粘度を与えてフィレットの形成に優れ、プリプレグの剥離接着強度を高めるとともに、有孔圧縮強度等の機械強度が高く、しかもタック性およびドレープ性等の作業性に優れるエポキシ樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を15〜40重量%、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)を10〜35重量%、前記(A)および(B)成分を除くエポキシ樹脂(C)を25〜75重量%から構成されるエポキシ樹脂成分100重量部に対して、硬化剤(D)を15〜40重量部配合するエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、(A)成分の全量と、(C)成分の少なくとも一部とを、触媒を共存させて溶融混合する工程(1)、この生成物へ、(B)および(D)成分の少なくとも一部を配合して、溶融混合する工程(2)、この生成物へ、(B)〜(D)成分の残量を配合し、溶融混練する工程(3)よりなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、最終的な溶融混練の工程(3)の前に、予め触媒により予備重合する工程(1)および硬化剤により予備反応させる工程(2)により、低分子量成分であるビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を、他のエポキシ樹脂成分と予備重合および予備反応させて、適正な粘度を有するエポキシ樹脂組成物を得ることが特徴である。したがって、このように製造されたエポキシ樹脂組成物は、フィレットの形成に優れ、プリプレグの剥離接着強度が高いとともに、タック性およびドレープ性等の作業性に優れた特性を有しており、さらにビフェニル型2官能エポキシ樹脂以外の高接着性エポキシ樹脂を多用する必要がなことから、有孔圧縮強度等の機械強度が高い特徴を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法に使用するビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)は、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂である。
【0015】
【化1】

【0016】
ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)は、主に半導体用パッケージ製品用途に用いられるエポキシ樹脂であり、高接着性を有するとともに硬化後には剛直な特性を与えるエポキシ樹脂として広く知られている。しかし、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)は、一般に分子量が低く、プリプレグに使用するエポキシ樹脂組成物の粘度を下げてしまうため、良好なフィレットを形成できなかった。そのため、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を使用するとプリプレグの自己接着性も十分に発現することができなかった。
【0017】
本発明の製造方法は、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を使用する場合のこのような問題を解決し、適正な粘度を与えることができ、プリプレグのフィレットの形成に優れ、剥離接着強度および機械強度に優れたエポキシ樹脂組成物を製造するものである。
【0018】
本発明の製造方法において、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)の配合量は、15〜40重量%、好ましくは20〜35重量%である。(A)成分の配合量が、上記範囲未満であるとプリプレグにおける剥離接着強度が低くなり、上記範囲を超えるとエポキシ樹脂組成物の粘度が低くなりすぎる傾向があり、好ましくない。
【0019】
本発明において、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)は、エポキシ樹脂組成物の耐熱性を向上させる役割を果たすものである。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール等を好ましく挙げることができる。
【0020】
本発明の製造方法において、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)の配合量は、10〜35重量%、好ましくは15〜30重量%である。(B)成分の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の耐熱性が損なわれる虞があり、上記範囲を超えると樹脂硬化物の伸びや耐湿性に劣る虞があり、好ましくない。
【0021】
本発明において、(C)成分に使用するエポキシ樹脂は、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)を除く、エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂(C)は、1分子中にエポキシ基を2個有するエポキシ樹脂、エポキシ基を3個以上有する3官能以上のエポキシ樹脂およびゴム変性エポキシ樹脂を、好ましく挙げることができる。2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂等を、好ましく挙げることができる。
【0022】
3官能エポキシ樹脂又は4官能エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等を、好ましく挙げることができる。また2〜5官能のエポキシ樹脂として、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を、好ましく挙げることができる。
【0023】
また、ゴム変性エポキシ樹脂は、末端カルボキシル基を有する分子量が1000くらいの液状ゴムと、上記の2官能エポキシ樹脂との変性物である。ゴムの種類は、ポリブチレン、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、あるいはシリコンゴム等が好ましく挙げられるが、ブタジエン−アクリロニトリルゴムがより好ましい。特にゴム変性エポキシ樹脂として、エポキシ樹脂と末端カルボキシル変性ブタジエン−アクリロニトリルゴムからなるゴム変性エポキシ樹脂であるCTBN変性エポキシ樹脂が、好ましい。
【0024】
特に、本発明の製造方法に使用するエポキシ樹脂(C)は、上記のエポキシ樹脂を単独で、または2種以上の混合物として使用することができる。特に、(C)成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、エポキシ樹脂(C)の合計の配合量は、25〜75重量%、好ましくは35〜65重量%である。(C)成分の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の伸びおよび耐湿性に劣る傾向があり、上記範囲を超えると樹脂硬化物の耐熱性が損なわれる傾向があり、好ましくない。
【0026】
本発明の製造方法において、上記エポキシ樹脂(A)〜(C)の配合量の合計は、100重量%となる。硬化剤およびその他の任意成分は、エポキシ樹脂(A)〜(C)の合計100重量部に対して、それぞれの配合量を重量部を用いて規定するものとする。
【0027】
本発明において、硬化剤(D)は、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であれば、特に限定されない。具体的には、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、ポリメルカプタン等が挙げられる。とりわけ樹脂硬化物の耐熱性向上の観点からジアミノジフェニルスルホンを使用することが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において、硬化剤(D)の配合量は、上記エポキシ樹脂(A)〜(C)の合計100重量部に対して、15〜40重量部、好ましくは20〜35重量部である。硬化剤(D)の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の十分な耐熱性を得ることができない虞があり、上記範囲を超えるとエポキシ樹脂の架橋点数は増加するが、架橋密度が低下して、樹脂硬化物の剛性および耐熱性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0029】
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂(E)または固形ゴム(F)を任意成分として使用することができる。
【0030】
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂(E)は、主鎖に炭素炭素結合、アミド結合、イミド結合(ポリエーテルイミド等)、エステル結合、エーテル結合、シロキサン結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルフォン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有する熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、ウレタン結合を有する熱可塑性樹脂が、硬化物や、得られる複合材料において、靭性等の物性の向上とタック性、ドレープ性等のプリプレグ作業性が向上する観点から好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂(E)を配合する方法は特に制限はないが、工程(1)に配合して、ビフェニル型エポキシ樹脂(A)および(C)成分とともに、触媒により予備重合を行なうことが好ましい。工程(1)に配合することにより、熱可塑性樹脂中の反応性官能基とエポキシ樹脂の反応、または熱可塑性樹脂分子の分子配列によって樹脂の架橋点が増加し靭性を向上する効果が大きく、好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂(E)の配合量は、上記エポキシ樹脂(A)〜(C)の合計100重量部に対して、1〜15重量部、好ましくは2〜10重量部である。熱可塑性樹脂(E)の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の十分な靭性が得られず、上記範囲を超えるとプリプレグを作製する際の繊維基材への含浸性、及びプリプレグのタック性、ドレープ性を低下させるため、好ましくない。
【0033】
本発明の製造方法において、固形ゴム(F)は、好ましくはブタジエンアクリロニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルアクリレート等が使用でき、なかでもブタジエンアクリロニトリルゴムが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、固形ゴム(F)を配合する方法は特に制限はないが、工程(3)に配合して、加圧ロールにより溶融混練することが好ましい。これは、固形ゴム(F)の粘度が高いために、工程(1)および(2)に使用する反応槽では、均一に混合することができないためである。
【0035】
本発明の製造方法において、固形ゴム(F)の配合量は、上記エポキシ樹脂(A)〜(C)の合計100重量部に対して、4〜15重量部、好ましくは5〜10重量部である。固形ゴム(F)の配合量が、上記範囲未満であると樹脂硬化物の十分な靭性が得られず、上記範囲を超えるとプリプレグを作製する際の繊維基材への含浸性、及びプリプレグのタック性、ドレープ性を低下させるため、好ましくない。
【0036】
また、本発明の製造方法に使用する予備重合触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素アミン錯体、三塩化ホウ素アミン錯体、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のような、いわゆるルイス酸触媒が好ましく使用でき、特に三フッ化ホウ素アミン錯体または三塩化ホウ素アミン錯体を使用することが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法において、予備重合触媒は、工程(1)において、上記エポキシ樹脂(A)〜(C)の合計100重量部に対して、好ましくは0.25〜0.50重量部、より好ましくは0.30〜0.40重量部を配合することが好ましい。予備重合触媒の配合量が、上記範囲未満であると予備重合を十分に進めることができず、上記範囲を超えると過剰反応によるゲル化の進行を促進する虞があり、好ましくない。
【0038】
本発明の製造方法は、上記(A)〜(D)成分、および任意成分である(E)、(F)成分を最終的な溶融混練の工程(3)の前に、予め触媒により予備重合する工程(1)および硬化剤により予備反応させる工程(2)により、低分子量成分であるビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を、他のエポキシ樹脂成分と選択的に予備重合および予備反応させることにより、適正な粘度を有するエポキシ樹脂組成物を得ることが特徴である。具体的には、下記の工程(1)〜(3)を含む製造方法である。
【0039】
工程(1):(A)成分の全量と、(C)成分の少なくとも一部、任意成分として(E)成分とを、触媒を共存させて溶融混合する工程
工程(1)は、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)の全量および他のエポキシ樹脂(C)の少なくとも一部と、熱可塑性樹脂(E)とを、予備重合触媒、好ましくは三フッ化ホウ素アミン錯体または三塩化ホウ素アミン錯体である触媒を共存させて、溶融混合により予備重合させる工程である。ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)と、他のエポキシ樹脂(C)を選択的に予備重合することにより、低分子量成分であるビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)が、(C)成分と選択的に重合反応し、分子量を高め、粘度を高くすることができる。また予備重合は、配合する触媒の量および温度により制御することができるため、過度に重合が進むことはない。
【0040】
工程(1)における予備重合は、温度が、好ましくは120〜140℃、より好ましくは125〜135℃であり、時間が、好ましくは1〜3時間、より好ましくは1.5〜2.5時間である。工程(1)の温度が、上記範囲未満であると目的に対して十分な粘度の予備重合物を得ることができない傾向があり、上記範囲を超えると過剰反応によるゲル化の進行を促進する可能性が高くなり、好ましくない。また、工程(1)の時間が、上記範囲未満であると目的に対して十分な粘度の予備重合物を得ることができない傾向があり、上記範囲を超えるとエポキシ樹脂間の自己重合を促進する可能性があるため、好ましくない。
【0041】
工程(2):工程(1)の生成物へ、(B)および(D)成分の少なくとも一部を、配合して、溶融混合する工程
工程(2)は、工程(1)の生成物の入った反応槽に、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)および硬化剤(D)の少なくとも一部を配合して、溶融混合させて、予備反応させる工程である。ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)が、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)および硬化剤(D)と選択的に反応して、その粘度をさらに高めることができる。
【0042】
工程(2)における予備反応は、温度が、好ましくは120〜140℃、より好ましくは125〜135℃であり、時間が、好ましくは1〜2時間、より好ましくは1.5時間前後である。工程(2)の温度が、上記範囲未満であると目的に対して十分な粘度の予備反応物を得ることができない傾向があり、上記範囲を超えると硬化反応が加速し樹脂粘度が増加しすぎる場合があり、好ましくない。また、工程(2)の時間が、上記範囲未満であると目的に対して十分な粘度の予備反応物を得ることができない傾向があり、上記範囲を超えると過剰反応により樹脂粘度が増加しすぎる傾向があり、好ましくない。
【0043】
工程(3):工程(2)の生成物へ、(B)〜(D)成分の残量と、任意成分として(F)成分とを、配合し溶融混練する工程
工程(3)は、エポキシ樹脂組成物の全ての構成成分を配合し、溶融混練によりエポキシ樹脂組成物を得るものである。具体的には、工程(2)の生成物に対して、(B)〜(D)成分の残量と、任意成分である(F)成分とを、配合して、加熱ロール等により、溶融混合する工程である。工程(3)における溶融混練は、温度が、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃であり、時間が、好ましくは0.5〜3時間、より好ましくは1〜2時間である。工程(3)の温度が、上記範囲未満であると樹脂の粘度が高いため相溶性が不十分となることがあり、上記範囲を超えると樹脂間の反応を過剰に促進する可能性があるため、好ましくない。また、工程(3)の時間が、上記範囲未満であると十分に混練して相溶した樹脂組成物が得られない傾向があり、上記範囲を超えると十分な相溶状態が得られるが作業時間が長期化して生産性が低下し、また樹脂間の反応が促進し過ぎる可能性があり、好ましくない。
【0044】
ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を含む工程(2)の生成物に対して、エポキシ樹脂組成物の残量を配合して、溶融混練することにより、エポキシ樹脂組成物の粘度が、最終的に良好なフィレットを形成するための適正な粘度となるように、調製することができる。本発明の製造法により得られるエポキシ樹脂組成物の粘度は、好ましくは5〜15[Pa・s]、より好ましくは6〜11[Pa・s]である。エポキシ樹脂組成物の粘度が、上記未満であるとフィレット形成時の樹脂粘度が低すぎて、特に上面のプリプレグから樹脂が垂れ下がりすぎる傾向があり、上記範囲を超えると樹脂が固すぎて、ハニカムコアの壁面に伝わらず十分なフィレットを形成できない傾向があり、好ましくない。なお、エポキシ樹脂組成物の粘度は、温度25℃から180℃まで昇温速度2.8℃/分で昇温させながら測定した動的粘弾性測定により得られる複素粘性率における最低粘度である。動的粘弾性は、パラレルプレ−ト法(直径25.4mm)により、周波数10rad/秒、ひずみ1%により測定されるものである。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法は、最終的な溶融混練の工程(3)の前に、予め触媒により予備重合する工程(1)および硬化剤により予備反応させる工程(2)により、低分子量成分であるビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を、他のエポキシ樹脂成分と予備重合および予備反応させることにより、適正な粘度を有するエポキシ樹脂組成物を得ることが特徴である。したがって、このように製造されたエポキシ樹脂組成物は、フィレットの形成に優れ、プリプレグの剥離接着強度が高いとともに、タック性およびドレープ性等の作業性に優れ、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂以外の高接着性エポキシ樹脂を多用する必要がなく、有孔圧縮強度等の機械強度が高い特徴を有するものである。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例および比較例中に示されるプリプレグおよびハニカムの作製方法は次のとおりである。
【0048】
〔プリプレグの作製方法〕
各エポキシ樹脂組成物を、リバ−スロ−ルコ−タ−を用いて離型紙上に塗布して、樹脂目付65g/mの樹脂フィルムを作製した。次いでこの樹脂フィルム2枚を平織状に織られた炭素繊維(東レ社製T300−3K)の両面から重ね合わせて、加熱加圧してエポキシ樹脂組成物を炭素繊維に含浸させた。エポキシ樹脂組成物を含浸させた後、離型紙を剥離して、剥離面の片面にポリエチレンフィルムを配して巻き取り、プリプレグシ−トを得た。
【0049】
〔ハニカムの作製方法〕
各エポキシ樹脂組成物からなるプリプレグを2枚積層し、これをハニカムコア(昭和飛行機工業社製ノーメックスハニカムSAH−1/8−8.0)の両面に配置した後、バッグに入れ、これをオ−トクレ−ブ内で温度180℃、2時間(昇温速度2.8℃/分)加熱し、硬化させてハニカムパネルを作製した。この間、オ−トクレ−ブ内を圧空で0.32MPaに加圧した。
【0050】
実施例および比較例中に示されるエポキシ樹脂組成物の最低粘度の測定方法、プリプレグのタック性およびドレープ性、およびハニカムの剥離接着強度および有孔圧縮強度は、次のように測定した。
【0051】
〔エポキシ樹脂組成物の最低粘度〕
レオメトリックス社製の動的粘弾性装置(ARES−II)を使用して、パラレルプレ−ト法(直径25.4mm)により、測定温度範囲25〜180℃、昇温速度2.8℃/分、周波数10rad/秒、ひずみ1%の条件の下でそれぞれの樹脂の複素粘性率の最低粘度(Pa・s)を測定し、その結果を表1に記載した。
【0052】
〔プリプレグのフィレット形成性〕
各プリプレグを、ハニカムコア(昭和飛行機工業社製ノーメックスハニカムSAH−1/8−8.0)の両面に配置した後、オ−トクレ−ブ内で180℃、2時間(昇温速度2.8℃/分)加熱、硬化させたハニカムパネルを目視することによりフィレット形成性を以下の三段階基準により、評価した。
○: ハニカムコアの両端面に十分なフィレットが形成されている
△: ハニカムコアの両端面、または片面に部分的に偏ってフィレットが形成されている
×: ハニカムコアに十分なフィレットが形成されていない
【0053】
〔プリプレグのタック性〕
各プリプレグのタック性を、触手により、以下の三段階基準により、評価した。
○: 十分な粘着性が感じられたもの
△: やや粘着性が感じられたもの
×: ほぼ粘着性が感じられなかったもの
【0054】
〔プリプレグのドレープ性〕
各プリプレグのドレープ性を、触手により、以下の三段階基準により、評価した。
○: 十分な柔軟性が感じられたもの
△: やや柔軟性が感じられたもの
×: ほぼ柔軟性が感じられなかったもの
【0055】
〔有孔圧縮強度〕
それぞれの樹脂組成物からなるプリプレグを16枚積層してバッグに入れ、これをオ−トクレ−ブ内で温度180℃、2時間(昇温速度2.8℃/分)加熱し、硬化させて成形板を作製した。この間、オ−トクレ−ブ内を圧空で0.32MPaに加圧した。
【0056】
得られた成形板を所定の寸法に加工して各試験片を作製し、SACMA−SRM3に準拠して、試験条件を(1)23℃における乾燥状態、及び(2)93℃における吸湿状態、とした場合の各試験片の有孔圧縮強度(MPa)を測定した。なお、吸湿状態における各試験片としては、70℃の温水に2週間浸した後、取り出した試験片を用いた。
【0057】
〔ハニカムの剥離強度〕
得られたハニカムパネルを所定の寸法に加工し、ASTM D1781に準拠して、温度23℃(乾燥状態)における各試験片の剥離強度(lb−in/3in)を測定した。
【0058】
実施例1、2および比較例1〜3において、以下に示す原材料を使用した。
・ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)
樹脂A−1:ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製YX−4000)
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)
樹脂B−1:グリシジルアミン型エポキシ樹脂(住友化学社製ELM−434)
・エポキシ樹脂(C)
樹脂C−1:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ社製HP−7200)
樹脂C−2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製YD−128)
樹脂C−3:ナフタレン骨格型エポキシ樹脂(大日本インキ社製HP−4032)
樹脂C−4:ゴム変性型エポキシ樹脂(大日本インキ社製TR−601)
・硬化剤(D)
硬化剤D−1:4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化社製セイカキュアーS)
・熱可塑性樹脂(E)
樹脂E−1:ウレタン樹脂(ダウ・ケミカル日本社製Pelethene 90A)
・固形ゴム(F)
樹脂F−1:カルボキシル変性NBR(日本ゼオン社製Nipol 1072)
・触媒
触媒−1:BClアミン錯体(ハンツマン・アドバンスト・アテリアルズ社製DY−9577)
【0059】
実施例1
表1に示すエポキシ樹脂組成物を下記の方法で調整した。なお、(A)〜(C)のエポキシ樹脂成分の配合単位は、重量%であり、これらの合計は、最終的に100重量%である。また、(D)〜(F)成分の配合単位は、(A)〜(C)のエポキシ樹脂成分の最終的な配合量100重量部に対する重量部により表した。
【0060】
(第1工程)
樹脂A−1を27重量%、樹脂C−1を11.7重量%、樹脂C−4を5.4重量%、樹脂E−1を5.4重量部、温度185℃に設定した反応槽にて撹拌した。次に、均一に混合されていることを確認後、反応槽の温度設定を130℃に設定し、液温が130〜135℃になった時点で触媒−1を0.4重量部投入し、2時間撹拌しながら予備重合を行なった。
【0061】
(第2工程)
得られた生成物の入った反応槽へ、樹脂B−1を13.5重量%および硬化剤D−1を1.4重量部投入した後、温度130℃において1.5時間撹拌して、予備硬化反応を行なった。
【0062】
(第3工程)
第2工程により得られた生成物と、樹脂B−1を9.0重量%と、樹脂C−2の9.0重量%を、プラネタリミキサにて加温混合した。その後、これらの中間生成物を混練ロールにて、樹脂C−1を24.3重量%、硬化剤D−1を21.6重量部、および樹脂F−1を8.1重量部投入して、温度50℃において、2時間、混練を行ない、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0063】
(エポキシ樹脂組成物の評価)
得られたエポキシ樹脂組成物の最低粘度を上記の方法で測定した。その測定結果を表1に示す。
【0064】
得られたエポキシ樹脂組成物を使用して、上記の方法でプリプレグを作製した。
【0065】
得られたプリプレグにおけるタック性、ドレープ性、フィレット形成性および有孔圧縮強度を上記の方法で測定した。その測定結果を表1に示す。
【0066】
得られたプリプレグを使用して、上記の方法でハニカムパネルを作製した。
【0067】
得られたハニカムパネルの剥離接着強度を上記の方法で測定した。その測定結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例2
BClアミン錯体(触媒−1)を0.3重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0070】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、エポキシ樹脂組成物の評価、プリプレグの作成および評価、ハニカムパネルの作製および評価も実施例1と同様にして行なった。その評価結果を表1に示す。
【0071】
比較例1
表1の最終組成の欄に記載された原材料を、第1工程および第2工程を実施せずに、ロール混練機に投入して、温度50℃において、2時間、混練を行ない、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0072】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、エポキシ樹脂組成物の評価、プリプレグの作成および評価、ハニカムパネルの作製および評価を、実施例1と同様にして行なった。その評価結果を表1に示す。
【0073】
比較例2
ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)の代わりに、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂(C−3)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0074】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、エポキシ樹脂組成物の評価、プリプレグの作成および評価、ハニカムパネルの作製および評価を実施例1と同様にして行なった。その評価結果を表1に示す。
【0075】
比較例3
ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)の代わりに、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂(C−3)を使用したこと以外は、比較例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0076】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、エポキシ樹脂組成物の評価、プリプレグの作成および評価、ハニカムパネルの作製および評価を実施例1と同様にして行なった。その評価結果を表1に示す。
【0077】
表1の特性評価結果より、本発明のエポキシ樹脂組成は、適正な最低粘度を有し、プリプレグとしたときのタック性およびドレープ性に優れ、フィレット形成性も良好であった。またハニカムパネルにおいても、有孔圧縮強度が比較例と同等でありながら、剥離接着強度が高く優れた自己接着性を示すことが認められた。これに対して比較例に示すエポキシ樹脂は、プリプレグにおけるタック性、ドレープ性に優れまたはフィレット形成性のいずれかに劣り、ハニカムパネルにおける剥離接着強度が低く、十分な自己接着性が認められなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニル型2官能エポキシ樹脂(A)を15〜40重量%、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B)を10〜35重量%、前記(A)および(B)成分を除くエポキシ樹脂(C)を25〜75重量%から構成されるエポキシ樹脂成分100重量部に対して、硬化剤(D)を15〜40重量部配合するエポキシ樹脂組成物の製造方法であって、下記の工程(1)〜(3)よりなるエポキシ樹脂組成物の製造方法。
(A)成分の全量と、(C)成分の少なくとも一部とを、触媒を共存させて溶融混合する工程(1)、
工程(1)の生成物へ、(B)および(D)成分の少なくとも一部を配合して、溶融混合する工程(2)、
工程(2)の生成物へ、(B)〜(D)成分の残量を配合し、溶融混練する工程(3)
【請求項2】
前記工程(1)において、さらに熱可塑性樹脂(E)を前記エポキシ樹脂の合計100重量部に対して1〜15重量部配合する請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(3)において、さらに固形ゴム(F)を前記エポキシ樹脂の合計100重量部に対して4〜15重量部配合する請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記触媒が、三フッ化ホウ素アミン錯体または三塩化ホウ素アミン錯体である請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−274060(P2006−274060A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95645(P2005−95645)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】