説明

エラストマー改質ケミカルメカニカル研磨パッド

【課題】 半導体、光学及び磁性基材の少なくとも一つを研磨するのに適したケミカルメカニカル研磨パッドを得る。
【解決手段】 研磨パッドは、エラストマー性ポリマーを中に分散させたポリマーマトリックスを含む。ポリマーマトリックは、室温を超えるガラス転移温度を有し、エラストマー性ポリマーは、少なくとも一つの方向に少なくとも0.1μmの平均長さを有し、研磨パッドの1〜45容量%を構成し、室温未満のガラス転移温度を有する。研磨パッドは、エラストマー性ポリマーなしのポリマーマトリックスから形成された研磨パッドと比較して増大したダイヤモンドコンディショナ切削レートを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、基材、たとえば半導体基材又は磁気ディスクを研磨し、平坦化するのに有用な研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー研磨パッド、たとえばポリウレタン、ポリアミド、ポリブタジエン及びポリオレフィン研磨パッドは、急速に進化するエレクトロニクス産業における基材平坦化のための市販材料を代表するものである。平坦化を要するエレクトロニクス産業用の基材としては、シリコンウェーハ、パターン付きウェーハ、フラットパネルディスプレー及び磁気記憶ディスクがある。平坦化に加えて、研磨パッドは、過度な数の欠陥、たとえばスクラッチ又は他のウェーハに不均一性を生じさせないことが不可欠である。さらには、エレクトロニクス産業の絶え間ない進歩が、研磨パッドの平坦化及び欠陥率能力に対し、より大きな要求を課している。
【0003】
たとえば、半導体の製造は通常、いくつかのケミカルメカニカルプラナリゼーション(CMP)工程を含む。各CMP工程で、研磨パッドが、研磨溶液、たとえば砥粒含有研磨スラリー又は砥粒なしの反応性液と組み合わさって、後続の層の受容に備えて平坦化する、又は平坦さを維持するようなやり方で、余剰材料を除去する。これらの層の積み重ねが、集積回路を形成するようなやり方で組み合わさる。これらの半導体素子の製造は、作動速度を高め、漏れ電流を減らし、消費電力を削減する素子に対する要求のために、より複雑化し続けている。素子アーキテクチャの点では、これは、より微細なフィーチャの形状及び増大したメタライゼーションレベル数と言い換えることができる。これらのますます厳しくなる素子設計要求が、ますます小さなライン間隔及び対応するパターン密度の増大の採用を強要している。素子のより小さなスケール及び増大した複雑さが、CMP消費材、たとえば研磨パッド及び研磨溶液に対し、より大きな要求を招くに至った。加えて、集積回路のフィーチャサイズが縮小するにつれ、CMP誘発欠陥、たとえばスクラッチがより大きな問題になる。さらに、集積回路の膜厚さの減少は、ウェーハ基材に対して受け入れられるトポグラフィーを提供すると同時に欠陥率を改善することを要求する。これらのトポグラフィー要件が、ますます厳格な平坦性、ラインディッシング及び小さなフィーチャにおけるアレイエロージョンについての研磨規格を要求する。
【0004】
数年にわたり、ポリウレタン研磨パッド、たとえばRohm and Haas Electronic Materials CMP TechnologiesのIC1000(商標)研磨パッドがパターン付き半導体ウェーハの優れた平坦化を提供してきたが、ポリマーマイクロバルーンは、均一に分散させにくく、広い粒度分布を有する。これらの研磨パッドは、硬質セグメント及び軟質セグメントを含有するポリウレタンマトリックスを有する。化学的に、軟質セグメントは、配合物の、高分子量長鎖グリコール成分を含む。一般に使用されるグリコール類として、ポリエーテルグリコール(たとえばポリテトラメチレングリコール又はポリプロピレングリコール)又はポリエステルグリコール(たとえばポリエチレンアジペートグリコール)がある。化学的性質及び鎖長に依存する、軟質セグメント中の分子鎖の移動性が、増大した可撓性、靱性及び耐衝撃性を生じさせる。軟質セグメントの鎖長の増大及び極性の低下とともに、硬質セグメント/軟質セグメントの相互作用の減少に起因して、相分離が増す。好ましい分子量は1,000〜4,000の範囲である。高めの分子量では、特に硬質セグメントの量が低いと、軟質セグメントが結晶化し、軟質セグメントによって付与されるエラストマー的利点を損なわせる傾向がある。軟質セグメントは、反応したイソシアネート及び連鎖延長剤部分で主に構成される剛性オリオウレタン単位である硬質セグメントと交互に存在する。硬質セグメントは、擬似架橋結合として働き、ポリウレタンの寸法熱安定性を制御する。したがって、硬質セグメントは、高温における強度及び剛性のような性質を制御する。
【0005】
高分子量長鎖グリコール類は、イソシアネートと反応してウレタン結合を形成する反応性基で終端する。したがって、グリコール類は、ポリウレタン分子構造の必須部分になり、それ自体が、大きな別個のドメインに相分離する能力を制限する。したがって、グリコール鎖は、十分に画定された相ドメインとして存在するのではなく、硬質セグメントの間の接続リンクになる。Polyurethane Handbook, 2nd Edition(Oertel編)の40ページに示されているように、硬質ドメインと軟質ドメインとは、100nm未満の長さスケールで密接に混合している。これらの硬質ドメイン及び軟質ドメインは優れた研磨性を提供することができるが、それらのスケールは、大規模な形態に関連する性質に影響を及ぼすには小さすぎる。
【0006】
ポリウレタン代替パッド、たとえばHasegawaらへの米国特許第6,645,264号に開示されている、シクロデキストリン粒子を含有するポリブタジエンパッドは制限的な工業的適用性を達成した。しかし、Hasegawaらは従来の粉砕技術によって固体シクロデキストリン粒子を導入しているため、均一な粒度を有する良好な分散を達成することは困難であり、凝集が問題となる。
【0007】
Huhは、米国特許第7,029,747号で、ポリウレタンマトリックス中に分散した液状無機質相を含む研磨パッドを開示している。鉱油は液体として添加され、まずまず均一に分散させやすいが、最終的なパッド中に液相として残留し、研磨中にパッドから浸出し、研磨されるウェーハ面を汚染するおそれがある。
【0008】
Shiroらは、米国特許第6,362,107号で、第二の別個の製造工程で重合されるアクリレートモノマーで含浸されたポリウレタンパッドを開示している。この方法の欠点は、最初のポリウレタンフォーム形成、アクリルモノマーでの含浸及びその後のモノマーのラジカル重合を含む複雑な多工程の連続製造過程である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
多様なエレクトロニクス用途に関して、優れた平坦化能力を改善された欠陥率性能と併せ持つ、改良された研磨パッドが今も要望されている。さらには、高いウェーハ処理能力を確保するため、高い除去速度及び短いパッドならし期間(Pad break-in times)が求められる。さらには、半導体製造が温度上昇の方向に進むにつれ、高温かつより広い温度範囲で安定な研磨性能を示す研磨パッドがより強く要望される。最後に、これらの研磨パッドはいずれも大量生産性、パッド間一貫性及びパッド内均一さを要する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様は、半導体、光学及び磁性基材の少なくとも一つを研磨するのに適したケミカルメカニカル研磨パッドであって、エラストマー性ポリマーを中に分散させた、室温を超えるガラス転移温度を有するポリマーマトリックスを含み、エラストマー性ポリマーが、少なくとも一つの方向に少なくとも0.1μmの平均長さを有し、研磨パッドの1〜45容量%を構成し、室温未満のガラス転移温度を有するものであり、エラストマー性ポリマーなしのポリマーマトリックスから形成された研磨パッドと比較して、増大したダイヤモンドコンディショナ切削レート(diamond conditioner cut rate)を有する研磨パッドを提供する。
【0011】
本発明のもう一つの態様は、半導体、光学及び磁性基材の少なくとも一つを研磨するのに適した研磨パッドを形成する方法であって、液状エラストマー性ポリマー又は液状重合性モノマーを、液状ポリマー前駆体中に分散させる工程、液状ポリマー前駆体中で、液状エラストマー性ポリマー又は液状重合性モノマーをゲル化させる工程、及び固体ポリマーマトリックス中で固体エラストマー性ポリマーを形成する工程を含み、エラストマー性ポリマーが室温未満のガラス転移温度を有するものであり、ポリマーマトリックスが室温を超えるガラス転移温度を有するものである方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、液状エラストマー性ポリマー(又は液状重合性モノマー)を一種以上のポリマー前駆体に添加して、ポリマー又は重合性モノマーが、ポリマー前駆体中ではじめは混和性であるか、少なくともポリマー前駆体中で安定な分散系を形成するようにすることを含む。本発明に関して、エラストマーとは、室温未満のガラス転移温度を有し、変形後、形状を回復する能力を有する非晶質ポリマーと定義される。ポリウレタン前駆体の重合中、液状ポリマー相が分離して、ポリマーマトリックス中に別個の固体エラストマードメインを形成する。同様に、重合性モノマーの場合、これは急速に重合し、その後、ポリマーマトリックスの形成と同時にただちに相分離する。加える液状エラストマー性ポリマー及びポリマーマトリックスの賢明な選択により、加えられるポリマーとポリマーマトリックスとの比を制御することにより、又は重合速度を制御することにより、パッド特性を広い範囲で制御し、また、相分離したエラストマー性ポリマーのドメインサイズを制御することが可能である。後者によって、研磨の前(パッドならし期間)又は研磨中のダイヤモンドコンディショニングの必要性を減らすことができる固有のテキスチャを有するパッドを生成することができる。さらに、加えられるエラストマー性ポリマーは、好ましくは、ポリウレタンマトリックスのようなポリマーマトリックスと結合を形成することを可能にする、何らかの化学官能基を含有する。
【0013】
液状エラストマー性ポリマーは、液状ポリマーマトリックス(たとえばポリエーテル又はポリエステルグリコール)よりも疎水性であるべきであるが、ポリマーマトリックス前駆体、特にポリウレタン前駆体のポリオール成分と不安定な分散系を形成するほど疎水性であってはならない。好ましいエラストマー性ポリマーの例は、ブタジエンと極性コモノマー、たとえばアクリロニトリルとのコポリマーである。ブタジエンとアクリロニトリルとの比を制御することにより、ポリマー主鎖の疎水性を最適化して所望の相分離の挙動を確保することができる。場合によっては、液状エラストマー性ポリマーはまた、ポリマー前駆体、たとえばイソシアネート類と反応することができる官能基を含有する。官能基の例は、ヒドロキシル、アミン及びカルボン酸基を含む。官能基は、末端基であってもよいし、ポリマー鎖に沿って離間していてもよい。
【0014】
液状エラストマー性ポリマーは、エラストマー的挙動を達成するのには十分な大きさであるが、分散性が問題になるほどの大きさではない分子量を有するべきである。好ましい分子量範囲は、1,000〜50,000、もっとも好ましくは2,000〜10,000である。本明細書に関して、分子量は、ゲル透過クロマトグラフィーによって測定される重量平均分子量を表す。
【0015】
形成される液状エラストマー性ポリマーは、非晶質であるべきであり、好ましくは、室温未満、好ましくは−20℃未満、もっとも好ましくは−40℃未満のガラス転移温度を有する。本明細書に関して、ガラス転移温度は、ポリマーがガラス質固体からゴム状固体に転移する温度を表す。ガラス転移温度を決定する簡便な方法は、図1に示すように、動的機械分析によって計測されるタンデルタピークの温度から決定する方法である。加えて、液状エラストマー性ポリマーの濃度は、ポリマーマトリックスに対して1〜45容量%の範囲、好ましくは2〜40容量%の範囲、もっとも好ましくは5〜35容量%の範囲にあるべきである。ポリマーの残りは通常、ポリマーマトリックスであるが、充填材、たとえば中空のポリマー球体、砥粒又は水溶性粒子を含んでもよい。
【0016】
適切な液状エラストマー性ポリマーの例は、Emerald Performance MaterialsのHycar(登録商標)シリーズのポリマーを含む。これらは、−77℃の低さのガラス転移温度を有するブタジエン−アクリロニトリルコポリマー又はブタジエンホモポリマーの固形分100%液状ゴムである。ポリマーは、エラストマー性ポリマーをその場で形成しやすくする、カルボキシル、アミン及びエポキシをはじめとする末端官能基を有する。特に、官能基は、ポリマーマトリックスと結合してエラストマー性ポリマーを固定する。他の可能なポリマーはSartomerのPolybd(登録商標)樹脂である。これらは、ヒドロキシル末端ポリブタジエンホモポリマーである。第三の好ましいエラストマー添加物は、Rohm and HaasのParaloid(商標)TS-7300液状ゴムである。「Paraloid」は、Rohm and Haas社及びその系列会社の商標である。これは、室温では粘稠な液体として存在し、−56℃のガラス転移温度を有する官能化アクリレートコポリマーである。液状エラストマー性ポリマーの典型的な例は、ブタジエン、アクリレート、メタクリレート、シロキサン又はオレフィン系主鎖から誘導されるポリマー及びコポリマーから選択される少なくとも一つを含む。
【0017】
液状エラストマー性ポリマーは、反応射出成形工程の第一流、すなわちポリウレタンの場合のジオール流に加えられる。これが液状ポリマーのエラストマーをポリマーマトリックス中に分散させる。分散工程の後又は最中に、液状エラストマー性ポリマー、又は液状重合性モノマーから形成した液状エラストマー性ポリマーが液状ポリマーマトリックス中でゲル化する。エラストマー性ポリマーのゲル化の後又は最中に、ゲル化したエラストマー性ポリマー及び液状ポリマーマトリックスが硬化して固体ポリマーマトリックス中に固体エラストマー性ポリマーを形成する。あるいはまた、エラストマー粒子を固体として直接導入する、又はシェル構造内の固体として導入することも可能である。
【0018】
本発明の研磨パッドは、ゴム状エラストマー相及び非エラストマー剛性マトリックス相を含有する。エラストマー相ドメインの長さは、少なくとも一つの方向、たとえば長さ又は幅方向で計測して少なくとも0.1μmである。典型的には、ゴム状エラストマー相の長さは、少なくとも一つの方向で計測して0.1〜100μmである。好ましくは、長さは、少なくとも一つの方向で計測して0.15〜100μm、もっとも好ましくは0.5〜50μmである。これらのドメインは、有利には、ポリウレタンマトリックス中で均一に分散し、ほぼ球形の形状を有する。最終的なパッドでは、エラストマードメインは固体であり、場合によっては架橋させることもできる。エラストマードメインのヤング率は、0.1〜100MPa、好ましくは1〜50MPa、もっとも好ましくは5〜10MPaである。耐衝撃性改良材の弾性率を計測することはしばしば困難であるため、本明細書に関して、二つの成分の弾性率の差違の測定は3工程法である。第一の工程は、たとえばASTM D5418又はD412に基づくマトリックス成分の体積弾性率(bulk modulus)の測定を含む。そして、次の工程は、耐衝撃性改良材を含有する最終材料(これは、溝のない試料を指す)の体積弾性率を測定する工程である。最後に、以下の式を解いて耐衝撃性改良材の弾性率を計算する。
E′ファイナル=E′マトリックス×容量%マトリックス+E′耐衝撃性改良材×容量%耐衝撃性改良材
【0019】
エラストマードメインの硬さは、典型的には、マトリックスポリマーの硬さよりも十分に低い。ポリウレタンマトリックス中のエラストマードメインの濃度は、付加的な非エラストマー充填材を除いて、1〜45容量%、好ましくは2〜40容量%、もっとも好ましくは5〜35容量%である。パッド全体のバルク物性は、50〜2000MPaのヤング引張り弾性率(Young's tensile modulus)、20〜80D、好ましくは40〜60DのショアD硬さ及び50〜400%の破断点伸びである。
【0020】
場合によっては、本発明の研磨パッドはまた、他のプラスチック用添加物、たとえばロウ、顔料、不透明剤、充填材、剥離粘土、トナー、帯電防止剤、金属、難燃剤、熱安定剤、補助安定剤、酸化防止剤、セルロース材料、他の耐衝撃性改良材、加工助剤、潤滑加工助剤、内部潤滑剤、外部潤滑剤、油、レオロジー改質剤、粉末流動助剤、メルトフロー助剤、分散剤、UV安定剤、可塑剤、充填材、光学改質剤、表面粗さ改質剤、表面化学改質剤、接着改質剤、表面硬化剤、相溶化剤、拡散バリヤ改質剤、補強剤、可撓性付与剤、離型剤、加工改質剤、発泡剤、断熱材、伝熱材、電子絶縁材、電子導体、生分解剤、帯電防止剤、内部用離型剤、カップリング剤、難燃剤、煙抑制剤、滴下防止剤、着色剤及びそれらの組み合わせを含むことができる。これら任意のプラスチック用添加物は、種々の粉末加工法、たとえば粉末ポストブレンド法、同時噴霧乾燥法及び同時凝集法により、後で加えることができる。加えて、さらなる構造、たとえば中空のポリマー微小球、水溶性粒子、砥粒及び繊維を研磨パッドに導入して研磨性能をさらに調節することも可能である。
【0021】
エラストマー改質構造は、顕微鏡、たとえば透過型又はタッピングモード走査型プローブ顕微鏡をはじめとする電子顕微鏡を通して視覚化することができる。耐衝撃性改良材及びマトリックス材料の体積分率を測定するのに好ましい方法は、評価されるポリマー系によって異なる。
【0022】
典型的なポリマー研磨パッド材料としては、ポリカーボネート、ポリスルホン、ナイロン、エチレンコポリマー、ポリエーテル、ポリエステル、ポリエーテル−ポリエステルコポリマー、アクリル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンコポリマー、ポリブタジエン、ポリエチレンイミン、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、エポキシ樹脂、シリコーン類、それらのコポリマー及びそれらの混合物がある。好ましくは、ポリマー材料はポリウレタンである。本明細書に関して、「ポリウレタン」とは、二官能性又は多官能性イソシアネート類から誘導される生成物、たとえばポリエーテルウレア、ポリイソシアヌレート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンウレア、それらのコポリマー及びそれらの混合物である。
【0023】
キャスト成形ポリウレタンマトリックス材料は、半導体、光学及び磁性基材を平坦化するのに適している。ポリウレタンマトリックスは、熱可塑性(非架橋状態)であることもできるし、好ましくは熱硬化性(架橋状態)であることもできる。パッドの具体的な研磨性は、一部には、プレポリマーポリオールと多官能性イソシアネートとのプレポリマー反応生成物から生じる。研磨パッドを形成するためには、プレポリマー生成物を、硬化剤ポリアミン、硬化剤ポリオール、硬化剤アルコールアミン類及びそれらの混合物からなる群より選択される硬化剤で硬化させる。ポリウレタンマトリックスは、ポリウレタンマトリックスの軟化点が室温を超える、好ましくは75℃を超える、もっとも好ましくは110℃を超えるよう、室温で非エラストマー状態であるべきである。
【0024】
本発明のポリウレタンマトリックスは、ポリウレタン形成で一般に使用されている長鎖ポリエーテル及びポリエステルグリコールから形成することができるが、本発明の利点を実現するためには、はじめは液状であるが、ポリウレタンの重合中に相分離して、より大きく、より明確に別個の相をポリウレタンマトリックス中に形成する、本質的に分散性の長鎖エラストマー性ポリマーを加えることが必要である。したがって、好ましい加えられるポリマーは、ポリウレタン主鎖を形成するために使用されるポリエーテル及びポリエステルグリコールよりも疎水性である。
【0025】
研磨パッドは、場合によっては、少なくとも0.1容量%の気孔濃度(porosity concentration)を含有することができる。気孔としては、ガス充填粒子、ガス充填球体及び他の手段、たとえばガスで粘稠系を機械的に泡立てる、ガスをポリウレタン溶融体に注入する、ガス状生成物との化学反応を使用してガスをその場で導入する、又は圧力を下げて溶解ガスによって気泡を形成させることによって形成される空隙がある。この気孔が、研磨中に研磨流体を移動させる研磨パッドの能力に寄与する。好ましくは、研磨パッドは、0.2〜70容量%の気孔濃度を有する。もっとも好ましくは、研磨パッドは、0.3〜65容量%の気孔濃度を有する。好ましくは、気孔粒子(pores particles)は、1〜100μmの重量平均直径を有する。もっとも好ましくは、気孔粒子は、10〜90μmの重量平均直径を有する。膨張した中空ポリマー微小球の重量平均直径の公称範囲は15〜90μmである。さらには、高い気孔率と小さな孔径との組み合わせが欠陥率を下げるのに特に利点を有することができる。たとえば、研磨層の25〜65容量%を構成する2〜50μmの孔径が欠陥率の低下を促進する。
【0026】
いくつかの半導体ウェーハ研磨用途では、非孔性研磨パッドが優れた研磨性能を提供する。研磨中、連続的又は「その場での(in situ)」コンディショニング、たとえばダイヤモンドコンディショニングが、一貫したウェーハ間研磨性能のための一貫した研磨パッドテキスチャを維持する。あるいはまた、周期的又は「他の場所での(ex situ)」ダイヤモンドコンディショニングが研磨パッドの性能を改善することもできる。
【0027】
好ましくは、ポリマー材料は、コポリマーの一つ以上のブロック又はセグメントを多く含む相に分離することができるブロック又はセグメント化コポリマーである。もっとも好ましくは、ポリマー材料はポリウレタンである。パッドの研磨性を制御する手法は、その化学組成を変化させることである。加えて、原料及び製造法の選択が、ポリマーのモルフォロジー及び研磨パッドを製造するために使用される材料の最終的性質に影響する。
【0028】
好ましくは、ウレタン製造は、多官能性芳香族イソシアネート及びプレポリマーポリオールからのイソシアナト末端ウレタンプレポリマーの調製を含む。本明細書に関して、プレポリマーポリオールという語は、ジオール、ポリオール、ポリオールジオール、それらのコポリマー及びそれらの混合物を含む。好ましくは、プレポリマーポリオールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール[PTMEG]、ポリプロピレンエーテルグリコール[PPG]、エステル系ポリオール、たとえばエチレン又はブチレンアジペート、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群より選択される。多官能性芳香族イソシアネート類の例としては、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート及びそれらの混合物がある。多官能性芳香族イソシアネートは、脂肪族イソシアネート類、たとえば4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びシクロヘキサンジイソシアネートを20重量%未満しか含有しない。好ましくは、多官能性芳香族イソシアネートは、脂肪族イソシアネート類を15重量%未満、より好ましくは12重量%未満しか含有しない。
【0029】
典型的なプレポリマーポリオールの例としては、ポリエーテルポリオール、たとえばポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリ(オキシプロピレン)グリコール及びそれらの混合物、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール及びそれらの混合物がある。例示されたポリオールは、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びこれらの混合物をはじめとする低分子量ポリオール類と混合していることができる。
【0030】
好ましくは、プレポリマーポリオールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、それらのコポリマー及びそれらの混合物からなる群より選択される。プレポリマーポリオールがPTMEG、そのコポリマー又はその混合物であるならば、イソシアナト末端反応生成物は、好ましくは、8.0〜20.0重量%の範囲の未反応NCOの重量%を有する。PTMEG又はPPGとブレンドしたPTMEGで形成されたポリウレタンの場合、好ましいNCOの重量%は8.75〜12.0の範囲であり、もっとも好ましくは8.75〜10.0の範囲である。PTMEG系ポリオールの具体例は、InvistaのTerathane(登録商標)2900、2000、1800、1400、1000、650及び250、LyondellのPolymeg(登録商標)2900、2000、1000、650、BASFのPolyTHF(登録商標)650、1000、2000ならびに低分子量種、たとえば1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール及び1,4−ブタンジオールである。プレポリマーポリオールがPPG、そのコポリマー又はその混合物であるならば、イソシアナト末端反応生成物は、もっとも好ましくは、7.9〜15.0重量%の未反応NCO範囲を有する。PPGポリオールの具体例は、BayerのArcol(登録商標)PPG-425、725、1000、1025、2000、2025、3025及び4000、DowのVoranol(登録商標)1010L、2000L及びP400、いずれもBayerの製品ラインであるDesmophen(登録商標)1110BD、Acclaim(登録商標)Polyol 12200、8200、6300、4200、2200である。プレポリマーポリオールがエステル、そのコポリマー又はその混合物である場合、イソシアナト末端反応生成物は、もっとも好ましくは、6.5〜13.0重量%の未反応NCO範囲を有する。エステルポリオールの具体例は、Polyurethane Specialities社のMillester 1、11、2、23、132、231、272、4、5、510、51、7、8、9、10、16、253、BayerのDesmophen(登録商標)1700、1800、2000、2001KS、2001K2、2500、2501、2505、2601、PE65B、BayerのRucoflex S-1021-70、S-1043-46、S-1043-55である。
【0031】
典型的には、プレポリマー反応生成物を、硬化剤ポリオール、ポリアミン、アルコールアミン又はそれらの混合物と反応又は硬化させる。本明細書に関して、ポリアミンは、ジアミン及び他の多官能性アミンを含む。硬化剤ポリアミンの例としては、芳香族ジアミン又はポリアミン、たとえば4,4′−メチレン−ビス−o−クロロアニリン[MBCA]、4,4′−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)[MCDEA]、ジメチルチオトルエンジアミン、トリメチレングリコールジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシドジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシドモノ−p−アミノベンゾエート、ポリプロピレンオキシドジ−p−アミノベンゾエート、ポリプロピレンオキシドモノ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4′−メチレン−ビス−アニリン、ジエチルトルエンジアミン、5−tert−ブチル−2,4−及び3−tert−ブチル−2,6−トルエンジアミン、5−tert−アミル−2,4−及び3−tert−アミル−2,6−トルエンジアミンならびにクロロトルエンジアミンがある。場合によっては、プレポリマーの使用を回避させる単一混合工程で研磨パッド用のウレタンポリマーを製造することも可能である。
【0032】
研磨パッドを製造するために使用されるポリマーの成分は、好ましくは、得られるパッドのモルフォロジーが安定であり、再現しやすくなるように選択される。たとえば、4,4′−メチレン−ビス−o−クロロアニリン[MBCA]をジイソシアネートと混合してポリウレタンポリマーを形成する場合、モノアミン、ジアミン及びトリアミンのレベルを制御することがしばしば有利である。モノ−、ジ−及びトリアミンの割合を制御することは、化学比及び得られるポリマー分子量を一貫した範囲内に維持することに貢献する。加えて、一貫した製造のためには、酸化防止剤のような添加物及び水のような不純物を制御することがしばしば重要である。たとえば、水はイソシアネートと反応して気体の二酸化炭素を形成するため、水の濃度を制御すると、ポリマーマトリックス中に気孔を形成する二酸化炭素気泡の濃度に影響を加えることができる。外からの水とのイソシアネートの反応はまた、連鎖延長剤との反応に利用可能なイソシアネートを減らし、したがって、化学量論比ならびに架橋のレベル(過剰なイソシアナト基がある場合)及び得られるポリマー分子量を変化させる。
【0033】
ポリウレタンポリマー材料は、好ましくは、トルエンジイソシアネート及びポリテトラメチレンエーテルグリコールと芳香族ジアミンとのプレポリマー反応生成物から形成される。もっとも好ましくは、芳香族ジアミンは、4,4′−メチレン−ビス−o−クロロアニリン又は4,4′−メチレン−ビス−(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)である。好ましくは、プレポリマー反応生成物は、6.5〜15.0重量%の未反応NCOを有する。この未反応NCO範囲内の適切なプレポリマーの例は、Air Products and Chemicals社製のAirthane(登録商標)プレポリマーPET-70D、PHP-70D、PET-75D、PHP-75D、PPT-75D、PHP-80D及びChemtura製のAdiprene(登録商標)プレポリマーLFG740D、LF700D、LF750D、LF751D、LF753D、L325である。加えて、上記に挙げたもの以外の他のプレポリマーのブレンドを使用して、そのブレンドの結果として未反応NCOレベルの適切なパーセンテージを達成してもよい。上述のプレポリマーの多く、たとえばLFG740、LF700D、LF750D、LF751D及びLF753Dは、遊離TDIモノマーを0.1重量%未満しか有さず、従来のプレポリマーよりも一貫したプレポリマー分子量分布を有する低遊離イソシアネートプレポリマーであり、したがって、優れた研磨特性を有する研磨パッドを形成することを容易にする。この改善されたプレポリマー分子量一貫性及び低遊離イソシアネートモノマーが、より規則的なポリマー構造を与え、研磨パッドの一貫性の改善に寄与する。大部分のプレポリマーの場合、低遊離イソシアネートモノマーは、好ましくは0.5重量%未満である。さらに、典型的には、より高いレベルの反応を有する「従来の」プレポリマー(すなわち、各末端がジイソシアネートによってキャップされた二つ以上のポリオール)及びより高いレベルの遊離トルエンジイソシアネートプレポリマーが同様な結果を出すはずである。加えて、低分子量ポリオール添加物、たとえばジエチレングリコール、ブタンジオール及びトリプロピレングリコールが、プレポリマー反応生成物の未反応NCOの重量%の制御を容易にする。
【0034】
未反応NCOの重量%を制御することに加えて、硬化剤・プレポリマー反応生成物は、典型的には、未反応NCOに対するOH又はNH2の化学量論比85〜115%、好ましくは90〜110%を有し、もっとも好ましくは、未反応NCOに対するOH又はNH2の化学量論比95超〜109%を有する。たとえば、101〜108%の範囲で、未反応NCOを用いて形成されたポリウレタンが優れた結果を提供するように見受けられる。この化学量論比は、原料の化学量論レベルを提供することによって直接的に達成することもできるし、意図的に、又は外からの水分への暴露によってNCOの一部を水と反応させることによって間接的に達成することもできる。
【0035】
図1は、本発明のパッド組成物の好ましいDMA挙動を示す。パッドは二つの主要な相を含む。第一の相は、非エラストマー性高軟化温度ポリウレタンマトリックスであり、110℃を超えるまで弾性率又は強度を実質的に失わない。第二の相は、−40℃未満のガラス転移温度を有する、別個のエラストマー相である。エラストマー相の濃度が増すにつれ、パッド全体の弾性率及び硬さは低下する。したがって、パッド特性は、ウェーハ面の除去速度、欠陥率及びトポグラフィー制御の間の所望のバランスを達成するために、特定の研磨用途に合わせて最適化することができる。パッド全体の望ましいバルク物性は、50〜2,000MPaのヤング引張り弾性率、20〜80D、好ましくは30〜60DのショアD硬さ及び50〜400%の破断点伸びである。
【0036】
研磨は広い温度範囲(室温〜約100℃)で行われるため、フラットな弾性率−温度応答を有することが望ましい。これは、30℃で計測される弾性率と90℃で計測される弾性率との比によって好都合に得られる。3未満、好ましくは2未満、理想的には可能な限り1に近い値が安定な研磨性能にとって好ましい。
【0037】
このタイプのDMA挙動は、以下の実施例で示すように、ポリエーテル又はポリエステルジオールの選択を通じて硬−軟セグメントの比を制御することによって達成することができるが、このようなジオールは、本発明のきわだった差別的特徴である好ましいテキスチャを与えない。
【0038】
低温エラストマー相は、好ましくは、イソシアネートと反応することができる基を含有するブタジエン−アクリロニトリルコポリマーから形成される。液状ゴムは、ポリジオール流と混合されて、それと混和性であるか、少なくとも安定な分散系を形成するようになる。液状ゴムの混和性又は疎水性は、液状ゴムの主鎖中の極性基と非極性基との比を制御することによって調節することができる。たとえば、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマーの場合、より極性が強いアクリロニトリル基の濃度を増大させると混和性が高まり、また、最終的なパッド中のエラストマードメインのサイズが減る。ポリウレタンマトリックスの重合中、液状ゴム相が分離して、別個のゴム状ドメインを形成する。これらのドメインは、従来のポリエーテル又はポリエステルジオールから形成される軟質セグメントドメインよりも大きく、パッド表面及び本体に有意なテキスチャを付与する。したがって、パッド表面は、エラストマー相の非存在では成形面よりも粗い。したがって、パッドならし期間が短縮され、研磨性能が向上する。
【0039】
本発明のさらなる利点は、エラストマー相がはじめに液体として加えられるため、固体粒子よりも易分散性であること、そして第二に、ポリウレタンの硬化中に別個のドメインに分離するため、その反応の速度を制御することにより、得られるエラストマードメインの粒度を制御することが可能であることである。
【実施例】
【0040】
例に記載されるすべてのパッドは、反応射出成形によって製造した。比較例1は、商品名OXP4000(商標)として知られる市販品パッドであり、他の二つの比較例は実験用パッドであった。実施例4及び5は、比較例に対する利点を示す本発明の実験用配合物である。実施例6は概念的であり、重合するとエラストマー性ポリマーを与えるモノマーの添加による別個のエラストマー相の形成を示す。
【0041】
比較例1
この例は、米国特許第6,022,268号及び第6,860,802号で開示されている従来技術パッド(パッド2A)に関する。研磨パッドを形成するために、二つの液流を混合し、目的のパッドの形状を有する密閉型に射出した。第一流は、ポリマージオールとポリマージアミンとの混合物をアミン触媒とともに含むものであった。第二流はジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含むものであった。ジイソシアネートの使用量は、ジオール及びジアミン基との完全な反応ののち、わずかな過剰分が出るような量であった。
【0042】
混合流を約70℃に加熱した金型に射出して相分離したポリウレタン−ウレアポリマー材料を形成した。所要の重合期間が経過したのち、ネット形のパッドの形態にある固体部分を離型させた。
【0043】
パッドの組成及び主要な物性を表1及び2にそれぞれ示す。
【0044】
比較例2
例1で使用した手順と同様な手順を使用して、比較例2のパッドを製造した。パッドの組成及び主要な物性を同じく表1及び2にそれぞれ示す。
【0045】
比較例3
例1で使用した手順と同様な手順を使用して、比較例3のパッドを製造した。パッドの組成及び主要な物性を同じく表1及び2にそれぞれ示す。
【0046】
実施例4
実施例4は、例1で使用した手順と同様な手順を使用しての、液状エラストマーを含有する本発明のパッドの製造を示す。パッドの組成及び主要な物性を同じく表1及び2にそれぞれ示す。
【0047】
実施例5
実施例5は、例1で使用した手順と同様な手順を使用しての、液状エラストマーを含有する本発明のパッドの製造を示す。パッドの組成及び主要な物性を同じく表1及び2にそれぞれ示す。
【0048】
実施例6
この概念的例は、後で重合してポリウレタンマトリックス中に相分離したエラストマー相を形成する液状モノマーを加える可能性を実証する。
【0049】
ブチルアクリレート又はブチルアクリレートと他の不飽和モノマーとの混合物を熱活性化ラジカル触媒とともにポリオール流に加えた。そして、この流れ及びイソシアネート流を混合し、金型に射出した。金型の温度は、アクリレートモノマーがポリウレタン重合の前又はそれと同時に急速に重合して、ポリウレタンマトリックス中に分散したポリブチルアクリレートホモポリマー又はコポリマーのエラストマー相を含む相分離構造を与えるように選択した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
物性計測
1.動的機械分析
DMAデータは、ASTM D5418−05にしたがって、Rheometrics RSAII計器(TA Instruments製)をソフトウェアバージョン6.5.8で使用し、デュアルカンチレバー固定具を10rad/secの周波数及び0.2%のひずみで使用して計測した。試料の温度は−100℃から150℃まで毎分3℃で傾斜させた。
いずれも40℃で計測したE′弾性率(パスカル単位)及びタンデルタ値から、以下の式を使用してエネルギー損失係数(Energy Loss Factor, KEL)を計算した。
KEL=tanδ×1012/[E′×(1+tan2δ)]
【0053】
2.硬さ
硬さ(ショアDスケール)は、修正ASTM D2240−05にしたがって、Instronから市販されているタイプDデジタルスケール付きショアレバーローダを使用して計測した。計測は、4kgの荷重を15秒の遅延で使用して実施した。
【0054】
3.引張り性
引張り性(引張り強さ及び破断点伸び)は、ASTM D412−98a(2002)e1にしたがって、Alliance RT/5機械テスタ(MTS製)を使用して計測した。使用した試料形状はタイプCであり、クロスヘッド速度は20インチ/分(50.8cm/分)であった。
【0055】
4.切削レート
パッドの切削レート又は耐摩耗性は、修正ASTM D1044−05にしたがって計測した。使用した摩耗テスタはTaber Abraserモデル5150であり、Calibrade H22ホイール及び1,000gのホイール荷重で使用した。耐摩耗性は、1,000サイクル後の試料重量損失を計測することによって測定した。
【0056】
5.表面粗さ
得られたままの状態のパッド面の表面粗さは、Veeco製のWyko NT8000光学プロファイリングシステムを使用して計測した。データは、50倍の対物レンズを0.55倍のFOVで使用して2.61倍の有効倍率及び181×242ミクロンの有効視野を得ることによって計測した。データはフィルタリングせず、表面粗さは平均表面粗さRaとして報告した。
【0057】
例の考察
比較例1及び2は、ポリジオール及びポリアミンの混合物とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを反応させてポリウレアポリウレタンを形成して作られたパッドを表す。これらのパッドは硬質セグメント及び軟質セグメントの両方を含むが、軟質セグメントドメインは小さく、十分に画定された別個のモルフォロジーを有していない。これは、図2及び3に示すこれらのパッドの断面の走査型電子顕微鏡写真から明らかである。断面の表面の研磨くずは別として、従来技術の例1及び2の断面は、この倍率では、相分離をもテキスチャをも示さない。
【0058】
比較例3は、−62℃のガラス転移温度を有するポリテトラメチレンジオールから形成された軟質セグメントを含む実験用ポリウレア−ウレタン配合物である。図4は、このパッドの断面のSEM顕微鏡写真を示す。図1及び2に見られるよりも多くのテキスチャが明らかであるが、この倍率では、軟質セグメントドメインが非常に小さく、十分に画定されていないことが明白である。この程度の相分離は、研磨パッドに使用される従来技術ポリウレタンでは一般的である。
【0059】
実施例4及び5は本発明を示す。反応性アミン基を含み、−59℃のガラス転移温度を有するエラストマーブタジエン−アクリロニトリルコポリマーが例3の配合物に加えられ、正しい化学量論的バランスを維持するためにジイソシアネートレベルが調節されたものである。図5及び6は、それぞれ実施例4及び5の匹敵するSEM顕微鏡写真を示す。これらの写真から、有意な相分離が存在し、エラストマードメインが認められることが明らかである。相分離ドメインは、実施例4よりも高レベルのエラストマーを含有する実施例5でさらに明らかである。
【0060】
このように、図2〜6に示すSEM顕微鏡写真から、本発明の明らかな特徴は、エラストマードメインの有意な相分離にあり、十分に画定された二相構造を提供する。
【0061】
パッド断面のSEM顕微鏡写真から、相構造が認められるだけでなく、パッド表面にテキスチャが存在することがわかる。表2は、5個のパッドの例の表面粗さを比較したものである。成形パッドの場合、パッドの表面粗さは通常、金型面の粗さを模倣する。例3、4及び5の表面を比較すると、エラストマー成分のレベルの増大がパッド表面の粗さを比較例(例3)のに対して有意に増すということがわかる。パッド表面及びパッド本体内の増大したテキスチャの存在は、研磨前のパッドならしに要する時間を減らし、研磨中のダイヤモンドコンディショニングの必要性を減らす。これは、パッドがすでに固有の微小テキスチャを有し、したがって、効果的な研磨に必要な微小テキスチャのすべてがダイヤモンドコンディショニング工程によって形成されなければならないわけではないことに起因する。
【0062】
エラストマー相からの固有のテキスチャの利点は、切削レート試験を使用して定量化することができる。切削レートは、パッド表面をダイヤモンドコンディショニングし、テキスチャを形成する能力の尺度である。研磨重量損失に換算して計測され、損失が多ければ多いほど、切削レートは高くなる。表2は、例3、4及び5の切削レートデータを示す。エラストマーのレベルが増すと、明らかに、切削レートは、比較例3及び市販の従来技術パッドの例1よりも高くなる。
【0063】
研磨パッドの場合、パッド特性を広い範囲で制御することが望ましい。特に対象となる特性は、弾性率及びエネルギー損失の動的機械的性質、硬さならびに引張り特性である。理想的には、これらを互いに独立して制御して、最適な研磨性能ための特性の正しいバランスを達成可能なことが望ましい。この独立性は、存在する種々の相の性質及びモルフォロジーの操作からさらなる自由度が利用可能である多相ポリマー系において可能である。
【0064】
これは表2に示されている。例3、4及び5は同程度の弾性率及び硬さを有するが、引張り強さ及び破断点伸びはエラストマー含量の増加とともに低下している。これは、パッド弾性率又は硬さを逆に落とすことなく、増大した切削レートが得られる利点と言い換えることができる。
【0065】
技術的かつ工業的に重要である弾性率の第二の側面は、温度に対するパッド弾性率の依存性である。研磨温度が室温から100℃に近づくとき、パッド特性がこの範囲で可能な限り安定したままであることが重要である。パッド弾性率は、ウェーハのトポグラフィーを制御するパッドの能力を決定するため、特に重要である。弾性率−温度を定量化する一つの方法は、30℃で計測される弾性率と90℃で計測される弾性率との比による方法である。3未満、好ましくは2未満、理想的には可能な限り1に近い値が安定な研磨性能にとって好ましい。表2は、この比の値が、市販品パッド(例1)の場合には非常に高いが、実施例4及び5の場合にはずっと低いことを示す。図7は、例1及び4のDMA弾性率データを研磨温度範囲にわたって比較したものである。例1の弾性率が50℃超で急速に低下するが、実施例4の弾性率は室温〜100℃で非常にフラットであることが注目される。
【0066】
要するに、以下のように、実施例4及び5は従来技術の例1、2及び3に対して進歩性がある。
1.エラストマー相の添加がより大きな相分離を生じさせ、それが、切削レートを増大させ、ならし期間及び研磨中のダイヤモンドコンディショニングを減らす。
2.エラストマー相の存在が可能な自由度の数を増し、それにより、パッド特性を広い範囲で変化させ、互いに独立して制御し、具体的な研磨用途に合わせて最適化することができるようになる。
3.エラストマー相が広い温度範囲で弾性率を均等化し、高温で弾性率の安定性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】エラストマー改質研磨パッドの好ましいDMA弾性率及びタンデルタ曲線を示す図である。
【図2】比較例1の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例2の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例3の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例4の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例5の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例4対比較例1のDMAデータのプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体、光学及び磁性基材の少なくとも一つを研磨するのに適したケミカルメカニカル研磨パッドであって、エラストマー性ポリマーを中に分散させた、室温を超えるガラス転移温度を有するポリマーマトリックスを含み、前記エラストマー性ポリマーが、少なくとも一つの方向に少なくとも0.1μmの平均長さを有し、研磨パッドの1〜45容量%を構成し、室温未満のガラス転移温度を有するものであり、前記エラストマー性ポリマーなしのポリマーマトリックスから形成された研磨パッドと比較して、増大したダイヤモンドコンディショナ切削レートを有する研磨パッド。
【請求項2】
前記エラストマー性ポリマーが、前記ポリマーマトリックスに結合する官能基を含む、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記エラストマー性ポリマーが、少なくとも一つの方向で計測して0.15〜100μmの平均長さを有する、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが、二官能性又は多官能性イソシアネート類から誘導されるポリマーを含み、前記ポリマーマトリックスが、ポリエーテルウレア、ポリイソシアヌレート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンウレア、それらのコポリマー及びそれらの混合物から選択される少なくとも一種を含む、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記エラストマー性ポリマーが、ブタジエン、アクリレート、メタクリレート、シロキサン又はオレフィン系主鎖から誘導されるポリマー及びコポリマーから選択される少なくとも一種を含む、請求項4記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記エラストマー性ポリマーがその場で形成される、請求項1記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記エラストマー性ポリマーが、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー又はブタジエンホモポリマーの少なくとも一種を含有する、請求項6記載の研磨パッド。
【請求項8】
半導体、光学及び磁性基材の少なくとも一つを研磨するのに適した研磨パッドを形成する方法であって、
液状エラストマー性ポリマー又は液状重合性モノマーを、液状ポリマー前駆体中に分散させる工程、
前記液状ポリマー前駆体中で、前記液状エラストマー性ポリマー又は液状重合性モノマーをゲル化させる工程、及び
固体ポリマーマトリックス中で固体エラストマー性ポリマーを形成する工程
を含み、前記エラストマー性ポリマーが室温未満のガラス転移温度を有するものであり、前記ポリマーマトリックスが室温を超えるガラス転移温度を有するものである、方法。
【請求項9】
前記液状エラストマー性ポリマー又は液状重合性ポリマーが官能基を含むものであり、前記官能基を前記ポリマーマトリックスに結合させる工程をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記液状エラストマー性ポリマーが前記液状ポリマー前駆体よりも疎水性であり、前記液状エラストマー性ポリマーを前記液状ポリマー前駆体中で相分離させる工程をさらに含む、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−173760(P2008−173760A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−329820(P2007−329820)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(504089426)ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ シーエムピー ホウルディングス インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】