エレベータのファン異常検出装置
【課題】複数の冷却ファンを有する冷却フィンにおいて、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常の有無を正しく検出する。
【解決手段】エレベータ運転前に行先階と積載荷重の情報に基づいてインバータ装置4のスイッチング素子4aに通電される電流パターンを予測する電流パターン予測回路13と、電流パターンからスイッチング素子4aの発熱パターンを予測する発熱パターン予測回路14と、冷却フィンの温度検出器9,10が設置された箇所における温度を予測する温度差分予測回路15と、エレベータ運転時に上記各箇所における温度の実測値予測値とを比較して冷却ファンの異常判定を行う異常判定回路19とを備える。
【解決手段】エレベータ運転前に行先階と積載荷重の情報に基づいてインバータ装置4のスイッチング素子4aに通電される電流パターンを予測する電流パターン予測回路13と、電流パターンからスイッチング素子4aの発熱パターンを予測する発熱パターン予測回路14と、冷却フィンの温度検出器9,10が設置された箇所における温度を予測する温度差分予測回路15と、エレベータ運転時に上記各箇所における温度の実測値予測値とを比較して冷却ファンの異常判定を行う異常判定回路19とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ装置に備えられたスイッチング素子を冷却するための冷却ファンの異常を検出するエレベータのファン異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの駆動装置であるインバータ装置は、多数の半導体スイッチング素子を備えており、これらをON/OFF動作させて、エレベータの駆動に必要な信号を生成出力している。通常、このインバータ装置には、筐体端部に並設された2つの冷却ファンを有する冷却フィンが設けられている。インバータ装置の駆動時に、この2つの冷却ファンの回転させることで、上記半導体スイッチング素子のON/OFF動作によって発生する熱を冷却している。
【0003】
ここで、冷却ファンの異常を検出する方法として、冷却ファンの回転数を検出する方法がある。また、別の方法として、冷却ファンの正常時と異常時との風量差で電気抵抗値が変化するファン側温度検知部と、冷却ファンの周囲温度で電気抵抗値が変化する周囲温度検知部とを設け、これらの温度検知部の電気抵抗値の変化に基づいて冷却ファンの異常を検出する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−346251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数の冷却ファンが並設された構造では、その一部の冷却ファンに異常が発生して停止しても、動作中の他の冷却ファンの風の影響を受けて回転してしまうことがある。上述した方法では、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していると、異常発生を正しく検出することができない。
【0006】
そこで、複数の冷却ファンを有する冷却フィンにおいて、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常の有無を正しく検出することのできるエレベータのファン異常検出装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態におけるエレベータのファン異常検出装置は、インバータ装置のスイッチング素子を冷却するための少なくとも2つの冷却ファンを有する冷却フィンを備えたエレベータのファン異常検出装置において、上記冷却フィンに上記各冷却ファンに対応して設けられ、上記冷却フィンの異なる少なくとも2つの箇所の温度を検出する複数の温度検出手段と、エレベータ運転前に行先階と積載荷重の情報に基づいて上記スイッチング素子に通電される電流パターンを予測する電流パターン予測手段と、この電流パターン予測手段によって予測された電流パターンから上記スイッチング素子の発熱パターンを予測する発熱パターン予測手段と、この発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度を予測する温度予測手段と、エレベータ運転時に上記各温度検出手段によって検出された温度の実測値と上記温度予測手段によって予測された温度の予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定する異常判定手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は第1の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図2】図2は同実施形態におけるエレベータのインバータ装置に設けられた冷却フィンの構成を示す図である。
【図3】図3は同実施形態における通常運転時に2つの温度検出器で検出される温度の実測値と予測値との関係を示す図である。
【図4】図4は同実施形態における2つの冷却ファンの一方に異常が生じている場合の温度の実測値と予測値との関係を示す図である。
【図5】図5は同実施形態における温度差分の実測値と予測値との比較結果を示す図である。
【図6】図6は第2の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図7】図7は同実施形態における2つの温度検出器の一方で検出される温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。
【図8】図8は同実施形態におけるファン異常時の温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。
【図9】図9は第3の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図10】図10は同実施形態における温度差分の実測値と初期値との比較結果を示す図である。
【図11】図11は第4の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図12】図12は第5の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図13】図13は第6の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【0011】
エレベータの駆動系として、商用三相交流電源1、この商用三相交流電源1の交流電力を直流電力に変換するコンバータ2、このコンバータ2によって変換された直流電力を平滑化する平滑コンデンサ3、この平滑コンデンサ3によって平滑化された直流電力を任意の電圧、周波数に変換するインバータ装置4、このインバータ装置4の出力電流を検出する電流検出器5などを備える。
【0012】
商用三相交流電源1から供給される交流電力は、コンバータ2および平滑コンデンサ3を介して直流電力に変換されてインバータ装置4に与えられる。インバータ装置4では、この直流電力をPWM(Pulse Width Modulation)制御により任意の周波数、電圧値の交流電圧に変換し、これを駆動電力としてモータ6に供給する。このとき、インバータ装置4の出力電流が電流検出器5によって検出され、所要の電流値となるようにインバータ装置4がフィードバック制御される。
【0013】
このような電力供給により、モータ6が回転駆動され、これに伴い、モータ6のシーブに巻き掛けられたロープを介して乗りかご7とカウンタウェイト8が昇降路内をつるべ式に昇降動作する。
【0014】
図2はエレベータのインバータ装置4に設けられた冷却フィン23の構成を示す図である。
【0015】
インバータ装置4は、半導体スイッチング素子4aをON/OFF動作させて、インバータ装置4に所要の電力を供給している。図1では、1つの半導体スイッチング素子4aしか図示されていないが、実際にはインバータ装置4に多数の半導体スイッチング素子4aが備えられており、インバータ装置4の駆動時にON/OFF動作を繰り返す。このときに発生する発熱を冷却するために、図2に示すような冷却フィン23がインバータ装置4に設けられている。
【0016】
冷却フィン23の端部には、少なくとも2つの冷却ファン24,25が並設されており、それぞれに独立して回転する。この冷却ファン24,25に対応させて、冷却フィン23に2つの温度検出器9,10が設けられている。この温度検出器9,10は、冷却フィン23の異なる箇所、具体的には冷却ファン24,25の近傍に互いに離間させて設置され、そこでの温度を線形的に測定する。
【0017】
なお、温度検出器9,10としては、一般的にサーミスタが用いられるが、例えば赤外線等を用いて温度を検出するものであっても良い。
【0018】
また、乗りかご7内には、乗客がボタン操作により行先階を登録するための行先階登録装置11が設置されている。乗りかご7の底部には、積載荷重を検出するための荷重検出装置12が設置されている。
【0019】
ここで、本実施形態におけるエレベータのファン異常検出装置は、電流パターン予測回路13、発熱パターン予測回路14、温度差分予測回路15、記憶回路16、温度検出回路17、温度差分算出回路18、異常判定回路19、基準値設定回路20、エレベータ制御用マイコン21、異常発報回路22からなる。
【0020】
電流パターン予測回路13は、エレベータ運転前に行先階登録装置11によって登録された行先階と荷重検出装置12によって検出された荷重とに基づいてインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを予測する。
【0021】
発熱パターン予測回路14は、電流パターン予測回路13によって予測された電流パターンから半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測する。温度差分予測回路15は、発熱パターン予測回路14によって予測された半導体スイッチング素子4aの発熱パターンから上記温度検出器9,10が設置された2箇所の温度の差分を予測する。記憶回路16は、温度差分予測回路15によって予測された温度差分の予測値を記憶する。
【0022】
温度検出回路17は、温度検出器9,10を通じて冷却フィン23の異なる2箇所の温度を線形的に検出する。温度差分算出回路18は、温度検出回路17によって検出された上記2箇所における温度の差分を算出する。
【0023】
異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度差分の予測値と温度差分算出回路18によって算出された温度差分の実測値とを比較し、両者の差が基準値設定回路20によって設置された基準値以上である場合に冷却ファン24,25に異常が発生しているものと判定する。基準値設定回路20は、異常判定回路19に対して異常判定のための基準値を設定する。
【0024】
エレベータ制御用マイコン21は、エレベータの運転を制御するための制御装置である。本実施形態において、このエレベータ制御用マイコン21は、異常判定回路19の判定結果に応じてインバータ装置4の駆動を制御する。
【0025】
異常発報回路22は、冷却フィン23の冷却ファン24,25の異常が検出された場合に、その旨を外部に発報する。ここで言う外部とは、ビルの管理室22aの他、通信ネットワークを介して接続された遠隔地に存在する監視センタ22bなどを含む。
【0026】
図3は通常運転時に2つの温度検出器9,10で検出される温度の実測値と予測値との関係を示す図である。図4は2つの冷却ファン24,25の一方に異常が生じている場合の温度の実測値と予測値との関係を示す図である。図5は温度差分の実測値と予測値との比較結果を示す図である。
【0027】
図中のa1は第1の温度検出器9(温度検出器a)が設置された箇所における温度の予測値、b1は第2の温度検出器10(温度検出器b)が設置された箇所における温度の予測値である。a2はエレベータ運転時に実際に第1の温度検出器9(温度検出器a)で検出された温度の実測値、b2はエレベータ運転時に実際に第2の温度検出器10(温度検出器b)で検出された温度の実測値である。
【0028】
ΔT1は温度検出器9,10が設置された2箇所における温度予測値a1とb1の差分、ΔT2は温度検出器9,10が設置された2箇所における温度実測値a2とb2の差分を示している。また、ΔT21はΔT1とΔT2との差分、ΔTrefは異常判定の基準値を示している。
【0029】
このような構成において、乗りかご7の移動距離と乗客数が分かっていれば、実際に運転が開始されたときにインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aにどのくらいの電流が流れ、それに伴い、半導体スイッチング素子4aがどのくらい発熱するのかを事前に予測することができる。
【0030】
そこで、まず、エレベータ(乗りかご7)の運転前に行先階登録装置11に登録された乗りかご7の行先階と荷重検出装置12により検出された積載荷重の情報を電流パターン予測回路13に与え、これらの情報からインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aへ通電される電流パターンを予測する。この電流パターン予測回路13によって予測した電流パターンを基に発熱パターン予測回路14で半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測する。
【0031】
このようにして、エレベータ運転前に半導体スイッチング素子4aの発熱パターンが予測されると、その発熱パターンに伴う冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1を温度差分予測回路15で算出し、これを記憶回路16に記憶しておく。
【0032】
次に、エレベータの運転時、つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているときに、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で上記2箇所における温度実測値a2、b2を算出すると共に、温度差分算出回路18で上記2箇所における温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0033】
ここで、第1の実施形態では、基準値設定回路20によって予め温度差分に対する基準値ΔTrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と上記基準値ΔTrefとを比較する。
【0034】
図5に示すように、この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常として検出される。
【0035】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、その旨が異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bに発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0036】
このように第1の実施形態によれば、冷却フィン23の2箇所に設置された温度検出器9,10を用いて、エレベータ運転前に予測された当該2箇所の温度差の予測値と実際に検出された当該2箇所の温度差の実測値との比較から冷却ファン24,25の異常の有無が検出される。この場合、単に2つの温度検出器9,10の温度差だけで異常を検出するのではなく、エレベータ運転前に行先階と積載荷重を基に予測した温度差との比較により異常を検出するので、冷却ファン24,25の一方が異常停止した状態で、動作中の他方の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常発生を正確に検出することができる。
【0037】
なお、図1の例では、各温度検出器9,10が設置された2箇所の温度の差分を算出し、その温度差分の実測値と予測値とを比較する構成としたが、必ずしも温度の差分を算出する必要はなく、上記2箇所のうちの一箇所の温度の実測値が予測値よりも基準値以上大きい場合に異常と判定するような構成であっても良い。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0039】
上記第1の実施形態では、温度検出器9.10が設置された2箇所の温度差の予測値と実際の温度差と実測値との比較により冷却ファン24,25の異常を検出していた。これに対し、第2の実施形態では、上記2箇所の温度変化の傾きを算出して冷却ファン24,25の異常を検出する。
【0040】
図6は第2の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0041】
第2の実施形態では、温度差分予測回路15に代えて傾き予測回路27が設けられ、温度差分算出回路18に代えて傾き算出回路28が設けられている。
【0042】
傾き予測回路27は、発熱パターン予測回路14によって予測された半導体スイッチング素子4aの発熱パターンから冷却フィン23の異なる2箇所(温度検出器9,10の設置箇所)の温度変化の傾きを予測する。傾き算出回路28は、エレベータの運転時に温度検出回路17によって検出された冷却フィン23の異なる2箇所の温度変化の傾きを算出する。
【0043】
図7は2つの温度検出器9,10の一方で検出される温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。図8はファン異常時の温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。
【0044】
図中のa1は第1の温度検出器9(温度検出器a)が設置された箇所における温度の予測値、a2は温度検出器9(温度検出器a)が設置された箇所における温度の実測値である。c1は任意の時間t1における温度予測値a1の傾き、c2は時間t1における温度実測値a2の傾きである。また、ΔKrefは温度変化の傾きの基準値である。
【0045】
なお、図示していないが、第2の温度検出器10(温度検出器b)が設置された箇所における温度予測値をb1、温度実測値をb2とし、b1、b2の温度変化の傾きをそれぞれd1、d2とする。
【0046】
このような構成において、上記第1の実施形態で説明したように、乗りかご7の移動距離と乗客数が分かっていれば、実際に運転が開始されたときにインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aにどのくらいの電流が流れ、それに伴い、半導体スイッチング素子4aがどのくらい発熱するのかを事前に予測することができる。
【0047】
そこで、まず、エレベータ(乗りかご7)の運転前に行先階登録装置11に登録された乗りかご7の行先階と荷重検出装置12により検出された積載荷重の情報を電流パターン予測回路13に与え、これらの情報からインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aへ通電される電流パターンを予測する。この電流パターン予測回路13によって予測した電流パターンを基に発熱パターン予測回路14で半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測する。
【0048】
このようにして、エレベータ運転前に半導体スイッチング素子4aの発熱パターンが予測されると、第2の実施形態では、傾き予測回路27により冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の任意の時刻t1における傾きc1、d1を算出し、これを記憶回路16で記憶しておく。
【0049】
次に、エレベータの運転時、つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているときに、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で上記2箇所における温度実測値a2、b2を算出すると共に、傾き検出回路25によって任意の時刻t1における温度実測値a2、b2の傾きc2、d2を算出して異常判定回路19に与える。
【0050】
ここで、第2の実施形態では、基準値設定回路20によって予め温度変化の傾きに対する基準値ΔKrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の傾きc1、d1と傾き算出回路28で得られた温度実測値a2、b2の傾きc2、d2との差分をそれぞれ算出する。
【0051】
図8に示すように、傾きc1−c2の差分が基準値ΔKref以上であった場合に、異常判定回路19は一方の冷却ファン24に異常が生じているものと判定する。また、図示していないが、傾きd1−d2の差分が基準値ΔKref以上であった場合に、異常判定回路19は他方の冷却ファン25に異常が生じているものと判定する。
【0052】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0053】
このように第2の実施形態によれば、冷却フィン23の2箇所に設置された温度検出器9,10によって検出される温度変化の傾きと運転前に予測された温度変化の傾きとの比較結果から冷却ファン24,25の異常の有無が検出される。これにより、上記第1の実施形態と同様に、冷却ファン24,25の一方が異常停止した状態で、動作中の他方の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常発生を正確に検出することができる。
【0054】
また、通常、エレベータでは、走行中に異常を検出した場合に減速して安全に停止させための安全機能が備えられている。このような安全機能が働いてしまうと、上記第1の実施形態の方法では、温度の実測値が運転前に予測していた温度の予測値と違ってくるため、冷却ファン24,25の異常を正しく検出できないことがある。これに対し、第2の実施形態の方法では、時刻t1の温度変化の傾きから異常判定を行うので、安全機能が働く前に冷却ファン24,25の異常を正しく検出することができるといったメリットがある。
【0055】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0056】
第3の実施形態では、冷却ファン24,25の異常を検出するための運転条件を任意に設定できる機能を備える。
【0057】
図9は第3の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0058】
第3の実施形態では、遠隔運転装置29と運転条件設定回路30が設けられている。遠隔運転装置29は、管理室22aや監視センタ22bなどの外部から遠隔操作によってエレベータを運転させるための装置である。運転条件設定回路30は、エレベータの運転条件を任意に設定する。
【0059】
図10は2つの温度検出器9,10が設置された2箇所の温度差分の実測値と初期値との比較結果を示す図である。図中のΔT0は初期時における冷却フィン23の温度初期値a0、b0の差分、ΔT2は点検運転時における冷却フィン23の温度実測値a2、b2の差分を示す。
【0060】
このような構成において、インバータ装置4に設けられた冷却フィン23を点検するための初期設定として、運転条件設定回路30を通じてエレベータの運転条件を設定する。上記運転条件は、例えば「積載荷重ゼロ(無人状態)、1階〜5まで上方向に運転」といったように、保守員が所定の操作により任意に設定できる。
【0061】
エレベータ制御用マイコン21は、上記設定された運転条件でインバータ装置4を駆動制御してエレベータ(乗りかご7)を運転する。このとき、温度検出器9,10で冷却フィン23の異なる2箇所の温度を検出する。そして、温度検出回路17で冷却フィン23の温度初期値a0、b0を算出し、温度差分算出回路18でその温度初期値a0、b0の差分ΔT0を算出して記憶回路16に記憶しておく。
【0062】
ここで、例えば定期点検のときに、遠隔運転装置29を通じて上記運転条件設定回路30で初期時に設定された同じ運転条件でエレベータの運転を行う。そして、温度検出回路17で冷却フィン23の温度実測値a2、b2を算出し、温度差分算出回路18でその温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0063】
異常判定回路19では、記憶回路16に記憶された温度初期値a0、b0の差分ΔT0と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT20を算出する。そして、異常判定回路19は、この差分ΔT20と基準値設定回路20によって予め設定された基準値ΔTrefとを比較する。
【0064】
図10に示すように、この差分ΔT20が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT20が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0065】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0066】
このように第3の実施形態によれば、冷却フィン23の点検に際し、予め運転条件を設定しておくことで、その運転条件でエレベータを運転したときに検出される冷却フィン23の2箇所の温度差の実測値と初期値との比較から冷却ファン24,25の異常を検出する。この場合、上記第1の実施形態のように上記2箇所の温度差を予測するのではなく、初期時と同じ運転条件で実際にエレベータを動かしたときに得られる温度の情報を用いるので、より正確な異常検出を行うことができる。
【0067】
なお、この第3の実施形態は、上記第2の実施形態で説明したような温度変化の傾きから冷却ファン24,25の異常を検出する構成であっても適用可能である。
【0068】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0069】
商用三相交流電源1からコンバータ2を介してインバータ装置4に供給される電圧(直流電圧)は常に固定ではなく、実際には多少の電圧変動がある。また、インバータ装置4の周囲の温度も、常に固定というわけでなく、エレベータの稼働状態やビルの環境、季節などによっても異なる。インバータ装置4に設けられた半導体スイッチング素子4aの発熱パターン(発熱量)は、このような電圧や温度などの環境条件に左右される。通常、電圧や温度が高ければ、その分、半導体スイッチング素子4aの発熱も高くなる。
【0070】
そこで、第4の実施形態では、上記第1の実施形態の構成において、エレベータの運転前に予測されたインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を電圧と周囲温度に応じて補正する機能を追加する。
【0071】
図11は第4の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0072】
第4の実施形態では、電源電圧測定回路31、周囲温度検出器32、周囲温度測定回路33、記憶回路16a、差分検出回路34、基準値設定回路35、補正回路36が設けられている。
【0073】
電源電圧測定回路31は、商用三相交流電源1からコンバータ2を介してインバータ装置4に供給される電圧(直流電圧)を測定する。周囲温度検出器32は、インバータ装置4の周囲に少なくとも1つ設置され、そこでの温度を検出する。周囲温度測定回路33は、周囲温度検出器32によって検出された温度を測定する。記憶回路16aは、電源電圧測定回路31と周囲温度測定回路33の測定結果を記憶する。
【0074】
差分検出回路34は、記憶回路16aに記憶された電圧と周囲温度の測定値と予め設定された電圧と周囲温度の初期値との差分をそれぞれ検出する。補正回路36は、電圧または周囲温度の測定値とその初期値との差分が基準値設定回路35によって予め設定された基準値以上であった場合に発熱パターン予測回路14によって予測された発熱パターンを補正する。
【0075】
このような構成において、まず、冷却ファン24,25の異常検出のための環境条件として、電源電圧測定回路31により測定された電圧の値を電圧の初期値として記憶回路16aに記憶すると共に、周囲温度検出器32により検出された周囲温度の値を周囲温度測定回路33を介して周囲温度の初期値として記憶回路16aに記憶する。
【0076】
続いて、エレベータ運転前に発熱パターン予測回路14により半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測するときにも、上記同様にして電圧と周囲温度を検出する。
【0077】
ここで、差分検出回路34では、このときに検出された電圧と周囲温度の測定値を記憶回路16aに記憶された電圧と周囲温度の初期値と比較する。その結果、電圧と周囲温度のうちの少なくとも一方の初期値との差分が基準値設定回路35によって設定された基準値以上であった場合に差分検出回路34から補正回路36に対して補正指示が出される。
【0078】
これにより、補正回路36は、発熱パターン予測回路14によって算出される半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を上記差分に応じて補正する。この場合、電圧または周囲温度の測定値が初期値よりも高ければ、半導体スイッチング素子4aが通常よりも高く発熱している状況にあるので、発熱パターン予測回路14の予測値もその分だけ高く上げるように補正する。
【0079】
以後は、上記補正された発熱パターンを用いて、温度差分予測回路15により半導体スイッチング素子4aの発熱に伴う冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1を算出し、これを記憶回路16に記憶しておく。
【0080】
一方、エレベータの運転時(つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているとき)、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で温度実測値a2、b2を算出すると共に、温度差分算出回路18によって温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0081】
上記第1の実施形態で説明したように、異常判定回路19には、基準値設定回路20によって予め温度差分に対する基準値ΔTrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と上記基準値ΔTrefとを比較する。
【0082】
この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0083】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0084】
このように第4の実施形態によれば、電圧や温度などの環境条件に応じて、半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値が補正される。この補正後の発熱パターンを用いて冷却フィン23の2箇所の温度を予測することにより、冷却ファン24,25の異常をより正確に検出できるようになる。
【0085】
なお、この第3の実施形態は、上記第2の実施形態で説明したような温度変化の傾きから冷却ファン24,25の異常を検出する構成であっても適用可能である。
【0086】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。
【0087】
インバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流は、例えばモータ6の機械的な摩耗などに応じて変動する。第5の実施形態では、このような電流変動を考慮して、半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を補正するものである。
【0088】
図12は第5の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0089】
第5の実施形態では、記憶回路16b、電流検出回路37、基準値設定回路38、差分検出回路39、補正回路40が設けられている。
【0090】
記憶回路16bは、電流パターン予測回路13によって予測されたインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを記憶する。電流検出回路37は、電流検出器5を通じてインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを検出する。
【0091】
基準値設定回路38は、記憶回路16bに記憶された電流パターンの予測値と電流検出回路37によって検出された電流パターンの実測値との差分を補正するための基準値を設定する。差分検出回路39は、電流パターンの予測値と電流パターンの実測値との差分を算出する。補正回路40は、差分検出回路39によって算出された差分が基準値設定回路38によって設定された基準値以上の場合に発熱パターン予測回路14によって予測された発熱パターンを補正する。
【0092】
このような構成において、エレベータの運転前に行先階登録装置11に登録された乗りかご7の行先階の情報と荷重検出装置12により検出された積載荷重の情報を電流パターン予測回路13に与え、これらの情報からインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aへ通電される電流パターンを予測する。このときの電流パターンの予測値は、記憶回路16bに記憶される。
【0093】
ここで、エレベータ運転時に実際にインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを電流検出器5および電流検出回路37により検出して差分検出回路39に与える。差分検出回路39では、この電流パターンの実測値と上記記憶回路16bに記憶された電流パターンの予測値とを比較する。その結果、両者の差分が基準値設定回路38によって設定された基準値以上であった場合に差分検出回路39から補正回路40に対して補正指示が出される。
【0094】
これにより、補正回路40は、発熱パターン予測回路14によって算出される半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を上記差分に応じて補正する。この場合、電流パターンの実測値が予測値よりも高ければ、半導体スイッチング素子4aが通常よりも高く発熱している状況にあるので、発熱パターン予測回路14の予測値もその分だけ高く上げるように補正する。
【0095】
以後は、上記補正された発熱パターンを用いて、温度差分予測回路15により半導体スイッチング素子4aの発熱に伴う冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1を算出し、これを記憶回路16に記憶しておく。
【0096】
一方、エレベータの運転時(つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているとき)、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で温度実測値a2、b2を算出すると共に、温度差分算出回路18によって温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0097】
上記第1の実施形態で説明したように、異常判定回路19には、基準値設定回路20によって予め温度差分に対する基準値ΔTrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と上記基準値ΔTrefとを比較する。
【0098】
この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0099】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0100】
このように第5の実施形態によれば、例えばモータ6の機械的な摩耗などを起因とした電流変動を考慮して、インバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに実際に通電される電流パターンの実測値とその予測値との差分に応じて、発熱パターン予測回路14によって予測される半導体スイッチング素子4aの発熱パターンが補正される。この補正後の発熱パターンを用いて冷却フィン23の2箇所の温度を予測することにより、冷却ファン24,25の異常をより正確に検出できるようになる。
【0101】
なお、この第3の実施形態は、上記第2の実施形態で説明したような温度変化の傾きから冷却ファン24,25の異常を検出する構成であっても適用可能である。
【0102】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。
【0103】
第6の実施形態では、冷却ファン24,25の異常が検出された際に、エレベータの運転を停止するのではなく、運転条件を切り替えてエレベータの運転を継続するようにしたものである。
【0104】
図13は第6の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。また、図13では、部分的に図示を省略してある。
【0105】
第6の実施形態では、運転条件切替回路41が設けられている。この運転条件切替回路41は、異常発報回路22から異常の発報を受けたときに、温度検出器9,10によって検出される各箇所の温度が予め設定された値以下となるようにエレベータの運転条件(速度,積載荷重等)を切り替える。
【0106】
このような構成において、上記第1の実施形態で説明したように、エレベータ運転前に発熱パターンが予測され、その発熱パターンから冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1が算出されて記憶回路16に記憶される。
【0107】
また、エレベータの運転時、つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているときに、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10を通じて温度検出回路17で温度実測値a2、b2が算出され、温度差分算出回路18によって温度実測値a2、b2の差分ΔT2が算出されて異常判定回路19に与えられる。
【0108】
異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と基準値設定回路20によって設定された基準値ΔTrefとを比較する。
【0109】
この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0110】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。
【0111】
この異常発報は、運転条件切替回路41に対しても送られる。これにより、運転条件切替回路41では、次回のエレベータ運転より温度検出器9,10が設置された2箇所の温度が予め設定された値以下となるようにエレベータの速度、積載量等を制限するように運転条件の切り替えを行う。具体的には、エレベータの速度を定格速度の半分、積載量を定格荷重の半分にして、できるだけインバータ装置4の負荷を軽くする。
【0112】
エレベータ制御用マイコン21は、この運転条件切替回路41によって切り替えられた運転条件に従ってインバータ装置4を駆動制御して、保守員が到着するまでの間、速度、積載量等を制限してエレベータの運転を継続する。
【0113】
なお、どの程度制限して運転を継続するのかは、上記異常判定回路19で算出された差分ΔT21の値による。当然の事ながら、差分ΔT21の値が予め設定された許容値を超えていれば、エレベータの運転を停止するものとする。
【0114】
このように第6の実施形態によれば、冷却ファン24,25の異常が検出された際に、保守員が到着するまでの間、運転条件を変えてエレベータの運転を継続することで、できるだけエレベータ利用者に迷惑をかけずに対処することができる。
【0115】
なお、上記各実施形態において、冷却フィン23に2つの冷却ファン24,25が設けられている場合を想定して説明したが、3つ以上の冷却ファンが設けられている場合でも適用可能である。この場合、各冷却ファンに対応させて温度検出器が設けられ、これらの温度検出器が設置された箇所の温度に基づいて上記各実施形態の方法により異常の有無が検出される。
【0116】
以上のように、これらの実施形態によれば、複数の冷却ファンを有する冷却フィンにおいて、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常の有無を正しく検出することができるエレベータのファン異常検出装置を提供することができる。
【0117】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0118】
1…商用三相交流電源、2…コンバータ、3…平滑コンデンサ、4…インバータ装置、4a…半導体スイッチング素子、5…電流検出器、6…モータ、7…乗りかご、8…カウンタウェイト、9,10…温度検出器、11…行先階登録装置、12…荷重検出装置、13…電流パターン予測回路、14…発熱パターン予測回路、15…温度差分予測回路、16…記憶回路、17…温度検出回路、18…温度差分算出回路、19…異常判定回路、20…基準値設定回路、21…エレベータ制御用マイコン、22…異常発報回路、22a…管理室、22b…監視センタ、23…冷却フィン、24,25…冷却ファン、27…傾き予測回路、28…傾き算出回路、29…遠隔運転装置、30…運転条件設定回路、31…電源電圧測定回路、32…周囲温度検出器、33…周囲温度測定回路、34…差分検出回路、35…基準値設定回路、36…補正回路、37…電流検出回路、38…基準値設定回路、39…差分検出回路、40…補正回路、41…運転条件切替回路。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ装置に備えられたスイッチング素子を冷却するための冷却ファンの異常を検出するエレベータのファン異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの駆動装置であるインバータ装置は、多数の半導体スイッチング素子を備えており、これらをON/OFF動作させて、エレベータの駆動に必要な信号を生成出力している。通常、このインバータ装置には、筐体端部に並設された2つの冷却ファンを有する冷却フィンが設けられている。インバータ装置の駆動時に、この2つの冷却ファンの回転させることで、上記半導体スイッチング素子のON/OFF動作によって発生する熱を冷却している。
【0003】
ここで、冷却ファンの異常を検出する方法として、冷却ファンの回転数を検出する方法がある。また、別の方法として、冷却ファンの正常時と異常時との風量差で電気抵抗値が変化するファン側温度検知部と、冷却ファンの周囲温度で電気抵抗値が変化する周囲温度検知部とを設け、これらの温度検知部の電気抵抗値の変化に基づいて冷却ファンの異常を検出する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−346251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数の冷却ファンが並設された構造では、その一部の冷却ファンに異常が発生して停止しても、動作中の他の冷却ファンの風の影響を受けて回転してしまうことがある。上述した方法では、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していると、異常発生を正しく検出することができない。
【0006】
そこで、複数の冷却ファンを有する冷却フィンにおいて、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常の有無を正しく検出することのできるエレベータのファン異常検出装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態におけるエレベータのファン異常検出装置は、インバータ装置のスイッチング素子を冷却するための少なくとも2つの冷却ファンを有する冷却フィンを備えたエレベータのファン異常検出装置において、上記冷却フィンに上記各冷却ファンに対応して設けられ、上記冷却フィンの異なる少なくとも2つの箇所の温度を検出する複数の温度検出手段と、エレベータ運転前に行先階と積載荷重の情報に基づいて上記スイッチング素子に通電される電流パターンを予測する電流パターン予測手段と、この電流パターン予測手段によって予測された電流パターンから上記スイッチング素子の発熱パターンを予測する発熱パターン予測手段と、この発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度を予測する温度予測手段と、エレベータ運転時に上記各温度検出手段によって検出された温度の実測値と上記温度予測手段によって予測された温度の予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定する異常判定手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は第1の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図2】図2は同実施形態におけるエレベータのインバータ装置に設けられた冷却フィンの構成を示す図である。
【図3】図3は同実施形態における通常運転時に2つの温度検出器で検出される温度の実測値と予測値との関係を示す図である。
【図4】図4は同実施形態における2つの冷却ファンの一方に異常が生じている場合の温度の実測値と予測値との関係を示す図である。
【図5】図5は同実施形態における温度差分の実測値と予測値との比較結果を示す図である。
【図6】図6は第2の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図7】図7は同実施形態における2つの温度検出器の一方で検出される温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。
【図8】図8は同実施形態におけるファン異常時の温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。
【図9】図9は第3の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図10】図10は同実施形態における温度差分の実測値と初期値との比較結果を示す図である。
【図11】図11は第4の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図12】図12は第5の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【図13】図13は第6の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。
【0011】
エレベータの駆動系として、商用三相交流電源1、この商用三相交流電源1の交流電力を直流電力に変換するコンバータ2、このコンバータ2によって変換された直流電力を平滑化する平滑コンデンサ3、この平滑コンデンサ3によって平滑化された直流電力を任意の電圧、周波数に変換するインバータ装置4、このインバータ装置4の出力電流を検出する電流検出器5などを備える。
【0012】
商用三相交流電源1から供給される交流電力は、コンバータ2および平滑コンデンサ3を介して直流電力に変換されてインバータ装置4に与えられる。インバータ装置4では、この直流電力をPWM(Pulse Width Modulation)制御により任意の周波数、電圧値の交流電圧に変換し、これを駆動電力としてモータ6に供給する。このとき、インバータ装置4の出力電流が電流検出器5によって検出され、所要の電流値となるようにインバータ装置4がフィードバック制御される。
【0013】
このような電力供給により、モータ6が回転駆動され、これに伴い、モータ6のシーブに巻き掛けられたロープを介して乗りかご7とカウンタウェイト8が昇降路内をつるべ式に昇降動作する。
【0014】
図2はエレベータのインバータ装置4に設けられた冷却フィン23の構成を示す図である。
【0015】
インバータ装置4は、半導体スイッチング素子4aをON/OFF動作させて、インバータ装置4に所要の電力を供給している。図1では、1つの半導体スイッチング素子4aしか図示されていないが、実際にはインバータ装置4に多数の半導体スイッチング素子4aが備えられており、インバータ装置4の駆動時にON/OFF動作を繰り返す。このときに発生する発熱を冷却するために、図2に示すような冷却フィン23がインバータ装置4に設けられている。
【0016】
冷却フィン23の端部には、少なくとも2つの冷却ファン24,25が並設されており、それぞれに独立して回転する。この冷却ファン24,25に対応させて、冷却フィン23に2つの温度検出器9,10が設けられている。この温度検出器9,10は、冷却フィン23の異なる箇所、具体的には冷却ファン24,25の近傍に互いに離間させて設置され、そこでの温度を線形的に測定する。
【0017】
なお、温度検出器9,10としては、一般的にサーミスタが用いられるが、例えば赤外線等を用いて温度を検出するものであっても良い。
【0018】
また、乗りかご7内には、乗客がボタン操作により行先階を登録するための行先階登録装置11が設置されている。乗りかご7の底部には、積載荷重を検出するための荷重検出装置12が設置されている。
【0019】
ここで、本実施形態におけるエレベータのファン異常検出装置は、電流パターン予測回路13、発熱パターン予測回路14、温度差分予測回路15、記憶回路16、温度検出回路17、温度差分算出回路18、異常判定回路19、基準値設定回路20、エレベータ制御用マイコン21、異常発報回路22からなる。
【0020】
電流パターン予測回路13は、エレベータ運転前に行先階登録装置11によって登録された行先階と荷重検出装置12によって検出された荷重とに基づいてインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを予測する。
【0021】
発熱パターン予測回路14は、電流パターン予測回路13によって予測された電流パターンから半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測する。温度差分予測回路15は、発熱パターン予測回路14によって予測された半導体スイッチング素子4aの発熱パターンから上記温度検出器9,10が設置された2箇所の温度の差分を予測する。記憶回路16は、温度差分予測回路15によって予測された温度差分の予測値を記憶する。
【0022】
温度検出回路17は、温度検出器9,10を通じて冷却フィン23の異なる2箇所の温度を線形的に検出する。温度差分算出回路18は、温度検出回路17によって検出された上記2箇所における温度の差分を算出する。
【0023】
異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度差分の予測値と温度差分算出回路18によって算出された温度差分の実測値とを比較し、両者の差が基準値設定回路20によって設置された基準値以上である場合に冷却ファン24,25に異常が発生しているものと判定する。基準値設定回路20は、異常判定回路19に対して異常判定のための基準値を設定する。
【0024】
エレベータ制御用マイコン21は、エレベータの運転を制御するための制御装置である。本実施形態において、このエレベータ制御用マイコン21は、異常判定回路19の判定結果に応じてインバータ装置4の駆動を制御する。
【0025】
異常発報回路22は、冷却フィン23の冷却ファン24,25の異常が検出された場合に、その旨を外部に発報する。ここで言う外部とは、ビルの管理室22aの他、通信ネットワークを介して接続された遠隔地に存在する監視センタ22bなどを含む。
【0026】
図3は通常運転時に2つの温度検出器9,10で検出される温度の実測値と予測値との関係を示す図である。図4は2つの冷却ファン24,25の一方に異常が生じている場合の温度の実測値と予測値との関係を示す図である。図5は温度差分の実測値と予測値との比較結果を示す図である。
【0027】
図中のa1は第1の温度検出器9(温度検出器a)が設置された箇所における温度の予測値、b1は第2の温度検出器10(温度検出器b)が設置された箇所における温度の予測値である。a2はエレベータ運転時に実際に第1の温度検出器9(温度検出器a)で検出された温度の実測値、b2はエレベータ運転時に実際に第2の温度検出器10(温度検出器b)で検出された温度の実測値である。
【0028】
ΔT1は温度検出器9,10が設置された2箇所における温度予測値a1とb1の差分、ΔT2は温度検出器9,10が設置された2箇所における温度実測値a2とb2の差分を示している。また、ΔT21はΔT1とΔT2との差分、ΔTrefは異常判定の基準値を示している。
【0029】
このような構成において、乗りかご7の移動距離と乗客数が分かっていれば、実際に運転が開始されたときにインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aにどのくらいの電流が流れ、それに伴い、半導体スイッチング素子4aがどのくらい発熱するのかを事前に予測することができる。
【0030】
そこで、まず、エレベータ(乗りかご7)の運転前に行先階登録装置11に登録された乗りかご7の行先階と荷重検出装置12により検出された積載荷重の情報を電流パターン予測回路13に与え、これらの情報からインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aへ通電される電流パターンを予測する。この電流パターン予測回路13によって予測した電流パターンを基に発熱パターン予測回路14で半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測する。
【0031】
このようにして、エレベータ運転前に半導体スイッチング素子4aの発熱パターンが予測されると、その発熱パターンに伴う冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1を温度差分予測回路15で算出し、これを記憶回路16に記憶しておく。
【0032】
次に、エレベータの運転時、つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているときに、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で上記2箇所における温度実測値a2、b2を算出すると共に、温度差分算出回路18で上記2箇所における温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0033】
ここで、第1の実施形態では、基準値設定回路20によって予め温度差分に対する基準値ΔTrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と上記基準値ΔTrefとを比較する。
【0034】
図5に示すように、この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常として検出される。
【0035】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、その旨が異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bに発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0036】
このように第1の実施形態によれば、冷却フィン23の2箇所に設置された温度検出器9,10を用いて、エレベータ運転前に予測された当該2箇所の温度差の予測値と実際に検出された当該2箇所の温度差の実測値との比較から冷却ファン24,25の異常の有無が検出される。この場合、単に2つの温度検出器9,10の温度差だけで異常を検出するのではなく、エレベータ運転前に行先階と積載荷重を基に予測した温度差との比較により異常を検出するので、冷却ファン24,25の一方が異常停止した状態で、動作中の他方の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常発生を正確に検出することができる。
【0037】
なお、図1の例では、各温度検出器9,10が設置された2箇所の温度の差分を算出し、その温度差分の実測値と予測値とを比較する構成としたが、必ずしも温度の差分を算出する必要はなく、上記2箇所のうちの一箇所の温度の実測値が予測値よりも基準値以上大きい場合に異常と判定するような構成であっても良い。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0039】
上記第1の実施形態では、温度検出器9.10が設置された2箇所の温度差の予測値と実際の温度差と実測値との比較により冷却ファン24,25の異常を検出していた。これに対し、第2の実施形態では、上記2箇所の温度変化の傾きを算出して冷却ファン24,25の異常を検出する。
【0040】
図6は第2の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0041】
第2の実施形態では、温度差分予測回路15に代えて傾き予測回路27が設けられ、温度差分算出回路18に代えて傾き算出回路28が設けられている。
【0042】
傾き予測回路27は、発熱パターン予測回路14によって予測された半導体スイッチング素子4aの発熱パターンから冷却フィン23の異なる2箇所(温度検出器9,10の設置箇所)の温度変化の傾きを予測する。傾き算出回路28は、エレベータの運転時に温度検出回路17によって検出された冷却フィン23の異なる2箇所の温度変化の傾きを算出する。
【0043】
図7は2つの温度検出器9,10の一方で検出される温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。図8はファン異常時の温度変化の傾きの実測値と予測値との関係を示す図である。
【0044】
図中のa1は第1の温度検出器9(温度検出器a)が設置された箇所における温度の予測値、a2は温度検出器9(温度検出器a)が設置された箇所における温度の実測値である。c1は任意の時間t1における温度予測値a1の傾き、c2は時間t1における温度実測値a2の傾きである。また、ΔKrefは温度変化の傾きの基準値である。
【0045】
なお、図示していないが、第2の温度検出器10(温度検出器b)が設置された箇所における温度予測値をb1、温度実測値をb2とし、b1、b2の温度変化の傾きをそれぞれd1、d2とする。
【0046】
このような構成において、上記第1の実施形態で説明したように、乗りかご7の移動距離と乗客数が分かっていれば、実際に運転が開始されたときにインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aにどのくらいの電流が流れ、それに伴い、半導体スイッチング素子4aがどのくらい発熱するのかを事前に予測することができる。
【0047】
そこで、まず、エレベータ(乗りかご7)の運転前に行先階登録装置11に登録された乗りかご7の行先階と荷重検出装置12により検出された積載荷重の情報を電流パターン予測回路13に与え、これらの情報からインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aへ通電される電流パターンを予測する。この電流パターン予測回路13によって予測した電流パターンを基に発熱パターン予測回路14で半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測する。
【0048】
このようにして、エレベータ運転前に半導体スイッチング素子4aの発熱パターンが予測されると、第2の実施形態では、傾き予測回路27により冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の任意の時刻t1における傾きc1、d1を算出し、これを記憶回路16で記憶しておく。
【0049】
次に、エレベータの運転時、つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているときに、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で上記2箇所における温度実測値a2、b2を算出すると共に、傾き検出回路25によって任意の時刻t1における温度実測値a2、b2の傾きc2、d2を算出して異常判定回路19に与える。
【0050】
ここで、第2の実施形態では、基準値設定回路20によって予め温度変化の傾きに対する基準値ΔKrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の傾きc1、d1と傾き算出回路28で得られた温度実測値a2、b2の傾きc2、d2との差分をそれぞれ算出する。
【0051】
図8に示すように、傾きc1−c2の差分が基準値ΔKref以上であった場合に、異常判定回路19は一方の冷却ファン24に異常が生じているものと判定する。また、図示していないが、傾きd1−d2の差分が基準値ΔKref以上であった場合に、異常判定回路19は他方の冷却ファン25に異常が生じているものと判定する。
【0052】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0053】
このように第2の実施形態によれば、冷却フィン23の2箇所に設置された温度検出器9,10によって検出される温度変化の傾きと運転前に予測された温度変化の傾きとの比較結果から冷却ファン24,25の異常の有無が検出される。これにより、上記第1の実施形態と同様に、冷却ファン24,25の一方が異常停止した状態で、動作中の他方の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常発生を正確に検出することができる。
【0054】
また、通常、エレベータでは、走行中に異常を検出した場合に減速して安全に停止させための安全機能が備えられている。このような安全機能が働いてしまうと、上記第1の実施形態の方法では、温度の実測値が運転前に予測していた温度の予測値と違ってくるため、冷却ファン24,25の異常を正しく検出できないことがある。これに対し、第2の実施形態の方法では、時刻t1の温度変化の傾きから異常判定を行うので、安全機能が働く前に冷却ファン24,25の異常を正しく検出することができるといったメリットがある。
【0055】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0056】
第3の実施形態では、冷却ファン24,25の異常を検出するための運転条件を任意に設定できる機能を備える。
【0057】
図9は第3の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0058】
第3の実施形態では、遠隔運転装置29と運転条件設定回路30が設けられている。遠隔運転装置29は、管理室22aや監視センタ22bなどの外部から遠隔操作によってエレベータを運転させるための装置である。運転条件設定回路30は、エレベータの運転条件を任意に設定する。
【0059】
図10は2つの温度検出器9,10が設置された2箇所の温度差分の実測値と初期値との比較結果を示す図である。図中のΔT0は初期時における冷却フィン23の温度初期値a0、b0の差分、ΔT2は点検運転時における冷却フィン23の温度実測値a2、b2の差分を示す。
【0060】
このような構成において、インバータ装置4に設けられた冷却フィン23を点検するための初期設定として、運転条件設定回路30を通じてエレベータの運転条件を設定する。上記運転条件は、例えば「積載荷重ゼロ(無人状態)、1階〜5まで上方向に運転」といったように、保守員が所定の操作により任意に設定できる。
【0061】
エレベータ制御用マイコン21は、上記設定された運転条件でインバータ装置4を駆動制御してエレベータ(乗りかご7)を運転する。このとき、温度検出器9,10で冷却フィン23の異なる2箇所の温度を検出する。そして、温度検出回路17で冷却フィン23の温度初期値a0、b0を算出し、温度差分算出回路18でその温度初期値a0、b0の差分ΔT0を算出して記憶回路16に記憶しておく。
【0062】
ここで、例えば定期点検のときに、遠隔運転装置29を通じて上記運転条件設定回路30で初期時に設定された同じ運転条件でエレベータの運転を行う。そして、温度検出回路17で冷却フィン23の温度実測値a2、b2を算出し、温度差分算出回路18でその温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0063】
異常判定回路19では、記憶回路16に記憶された温度初期値a0、b0の差分ΔT0と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT20を算出する。そして、異常判定回路19は、この差分ΔT20と基準値設定回路20によって予め設定された基準値ΔTrefとを比較する。
【0064】
図10に示すように、この差分ΔT20が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT20が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0065】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0066】
このように第3の実施形態によれば、冷却フィン23の点検に際し、予め運転条件を設定しておくことで、その運転条件でエレベータを運転したときに検出される冷却フィン23の2箇所の温度差の実測値と初期値との比較から冷却ファン24,25の異常を検出する。この場合、上記第1の実施形態のように上記2箇所の温度差を予測するのではなく、初期時と同じ運転条件で実際にエレベータを動かしたときに得られる温度の情報を用いるので、より正確な異常検出を行うことができる。
【0067】
なお、この第3の実施形態は、上記第2の実施形態で説明したような温度変化の傾きから冷却ファン24,25の異常を検出する構成であっても適用可能である。
【0068】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0069】
商用三相交流電源1からコンバータ2を介してインバータ装置4に供給される電圧(直流電圧)は常に固定ではなく、実際には多少の電圧変動がある。また、インバータ装置4の周囲の温度も、常に固定というわけでなく、エレベータの稼働状態やビルの環境、季節などによっても異なる。インバータ装置4に設けられた半導体スイッチング素子4aの発熱パターン(発熱量)は、このような電圧や温度などの環境条件に左右される。通常、電圧や温度が高ければ、その分、半導体スイッチング素子4aの発熱も高くなる。
【0070】
そこで、第4の実施形態では、上記第1の実施形態の構成において、エレベータの運転前に予測されたインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を電圧と周囲温度に応じて補正する機能を追加する。
【0071】
図11は第4の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0072】
第4の実施形態では、電源電圧測定回路31、周囲温度検出器32、周囲温度測定回路33、記憶回路16a、差分検出回路34、基準値設定回路35、補正回路36が設けられている。
【0073】
電源電圧測定回路31は、商用三相交流電源1からコンバータ2を介してインバータ装置4に供給される電圧(直流電圧)を測定する。周囲温度検出器32は、インバータ装置4の周囲に少なくとも1つ設置され、そこでの温度を検出する。周囲温度測定回路33は、周囲温度検出器32によって検出された温度を測定する。記憶回路16aは、電源電圧測定回路31と周囲温度測定回路33の測定結果を記憶する。
【0074】
差分検出回路34は、記憶回路16aに記憶された電圧と周囲温度の測定値と予め設定された電圧と周囲温度の初期値との差分をそれぞれ検出する。補正回路36は、電圧または周囲温度の測定値とその初期値との差分が基準値設定回路35によって予め設定された基準値以上であった場合に発熱パターン予測回路14によって予測された発熱パターンを補正する。
【0075】
このような構成において、まず、冷却ファン24,25の異常検出のための環境条件として、電源電圧測定回路31により測定された電圧の値を電圧の初期値として記憶回路16aに記憶すると共に、周囲温度検出器32により検出された周囲温度の値を周囲温度測定回路33を介して周囲温度の初期値として記憶回路16aに記憶する。
【0076】
続いて、エレベータ運転前に発熱パターン予測回路14により半導体スイッチング素子4aの発熱パターンを予測するときにも、上記同様にして電圧と周囲温度を検出する。
【0077】
ここで、差分検出回路34では、このときに検出された電圧と周囲温度の測定値を記憶回路16aに記憶された電圧と周囲温度の初期値と比較する。その結果、電圧と周囲温度のうちの少なくとも一方の初期値との差分が基準値設定回路35によって設定された基準値以上であった場合に差分検出回路34から補正回路36に対して補正指示が出される。
【0078】
これにより、補正回路36は、発熱パターン予測回路14によって算出される半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を上記差分に応じて補正する。この場合、電圧または周囲温度の測定値が初期値よりも高ければ、半導体スイッチング素子4aが通常よりも高く発熱している状況にあるので、発熱パターン予測回路14の予測値もその分だけ高く上げるように補正する。
【0079】
以後は、上記補正された発熱パターンを用いて、温度差分予測回路15により半導体スイッチング素子4aの発熱に伴う冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1を算出し、これを記憶回路16に記憶しておく。
【0080】
一方、エレベータの運転時(つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているとき)、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で温度実測値a2、b2を算出すると共に、温度差分算出回路18によって温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0081】
上記第1の実施形態で説明したように、異常判定回路19には、基準値設定回路20によって予め温度差分に対する基準値ΔTrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と上記基準値ΔTrefとを比較する。
【0082】
この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0083】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0084】
このように第4の実施形態によれば、電圧や温度などの環境条件に応じて、半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値が補正される。この補正後の発熱パターンを用いて冷却フィン23の2箇所の温度を予測することにより、冷却ファン24,25の異常をより正確に検出できるようになる。
【0085】
なお、この第3の実施形態は、上記第2の実施形態で説明したような温度変化の傾きから冷却ファン24,25の異常を検出する構成であっても適用可能である。
【0086】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。
【0087】
インバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流は、例えばモータ6の機械的な摩耗などに応じて変動する。第5の実施形態では、このような電流変動を考慮して、半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を補正するものである。
【0088】
図12は第5の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。
【0089】
第5の実施形態では、記憶回路16b、電流検出回路37、基準値設定回路38、差分検出回路39、補正回路40が設けられている。
【0090】
記憶回路16bは、電流パターン予測回路13によって予測されたインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを記憶する。電流検出回路37は、電流検出器5を通じてインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを検出する。
【0091】
基準値設定回路38は、記憶回路16bに記憶された電流パターンの予測値と電流検出回路37によって検出された電流パターンの実測値との差分を補正するための基準値を設定する。差分検出回路39は、電流パターンの予測値と電流パターンの実測値との差分を算出する。補正回路40は、差分検出回路39によって算出された差分が基準値設定回路38によって設定された基準値以上の場合に発熱パターン予測回路14によって予測された発熱パターンを補正する。
【0092】
このような構成において、エレベータの運転前に行先階登録装置11に登録された乗りかご7の行先階の情報と荷重検出装置12により検出された積載荷重の情報を電流パターン予測回路13に与え、これらの情報からインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aへ通電される電流パターンを予測する。このときの電流パターンの予測値は、記憶回路16bに記憶される。
【0093】
ここで、エレベータ運転時に実際にインバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに通電される電流パターンを電流検出器5および電流検出回路37により検出して差分検出回路39に与える。差分検出回路39では、この電流パターンの実測値と上記記憶回路16bに記憶された電流パターンの予測値とを比較する。その結果、両者の差分が基準値設定回路38によって設定された基準値以上であった場合に差分検出回路39から補正回路40に対して補正指示が出される。
【0094】
これにより、補正回路40は、発熱パターン予測回路14によって算出される半導体スイッチング素子4aの発熱パターンの予測値を上記差分に応じて補正する。この場合、電流パターンの実測値が予測値よりも高ければ、半導体スイッチング素子4aが通常よりも高く発熱している状況にあるので、発熱パターン予測回路14の予測値もその分だけ高く上げるように補正する。
【0095】
以後は、上記補正された発熱パターンを用いて、温度差分予測回路15により半導体スイッチング素子4aの発熱に伴う冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1を算出し、これを記憶回路16に記憶しておく。
【0096】
一方、エレベータの運転時(つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているとき)、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10で温度を検出する。そして、温度検出回路17で温度実測値a2、b2を算出すると共に、温度差分算出回路18によって温度実測値a2、b2の差分ΔT2を算出して異常判定回路19に与える。
【0097】
上記第1の実施形態で説明したように、異常判定回路19には、基準値設定回路20によって予め温度差分に対する基準値ΔTrefが設定されている。異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と上記基準値ΔTrefとを比較する。
【0098】
この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0099】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。そして、エレベータの運転を休止するべく、エレベータ制御用マイコン21を通じてインバータ装置4の駆動が停止制御される。
【0100】
このように第5の実施形態によれば、例えばモータ6の機械的な摩耗などを起因とした電流変動を考慮して、インバータ装置4の半導体スイッチング素子4aに実際に通電される電流パターンの実測値とその予測値との差分に応じて、発熱パターン予測回路14によって予測される半導体スイッチング素子4aの発熱パターンが補正される。この補正後の発熱パターンを用いて冷却フィン23の2箇所の温度を予測することにより、冷却ファン24,25の異常をより正確に検出できるようになる。
【0101】
なお、この第3の実施形態は、上記第2の実施形態で説明したような温度変化の傾きから冷却ファン24,25の異常を検出する構成であっても適用可能である。
【0102】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。
【0103】
第6の実施形態では、冷却ファン24,25の異常が検出された際に、エレベータの運転を停止するのではなく、運転条件を切り替えてエレベータの運転を継続するようにしたものである。
【0104】
図13は第6の実施形態に係るエレベータの駆動系とファン異常検出装置の構成を示す図である。なお、上記第1の実施形態における図1の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略するものとする。また、図13では、部分的に図示を省略してある。
【0105】
第6の実施形態では、運転条件切替回路41が設けられている。この運転条件切替回路41は、異常発報回路22から異常の発報を受けたときに、温度検出器9,10によって検出される各箇所の温度が予め設定された値以下となるようにエレベータの運転条件(速度,積載荷重等)を切り替える。
【0106】
このような構成において、上記第1の実施形態で説明したように、エレベータ運転前に発熱パターンが予測され、その発熱パターンから冷却フィン23の2箇所の温度の予測値a1、b1の差分ΔT1が算出されて記憶回路16に記憶される。
【0107】
また、エレベータの運転時、つまり、乗りかご7が行先階に向けて移動しているときに、冷却フィン23の2箇所に設けられた温度検出器9,10を通じて温度検出回路17で温度実測値a2、b2が算出され、温度差分算出回路18によって温度実測値a2、b2の差分ΔT2が算出されて異常判定回路19に与えられる。
【0108】
異常判定回路19は、記憶回路16に記憶された温度予測値a1、b1の差分ΔT1と温度差分算出回路18で得られた温度実測値a2、b2の差分ΔT2との差分ΔT21を算出し、その差分ΔT21と基準値設定回路20によって設定された基準値ΔTrefとを比較する。
【0109】
この差分ΔT21が基準値ΔTref以上であった場合に、異常判定回路19は冷却ファン24,25に異常が生じているものと判定する。この場合、冷却ファン24,25のうちの一方が異常で停止しているときでも、両方が異常で停止しているときでも、差分ΔT21が基準値ΔTref以上となり、異常と判定される。
【0110】
冷却ファン24,25の異常が検出されると、異常発報回路22を通じて管理室22aあるいは監視センタ22bへ異常が発報される。
【0111】
この異常発報は、運転条件切替回路41に対しても送られる。これにより、運転条件切替回路41では、次回のエレベータ運転より温度検出器9,10が設置された2箇所の温度が予め設定された値以下となるようにエレベータの速度、積載量等を制限するように運転条件の切り替えを行う。具体的には、エレベータの速度を定格速度の半分、積載量を定格荷重の半分にして、できるだけインバータ装置4の負荷を軽くする。
【0112】
エレベータ制御用マイコン21は、この運転条件切替回路41によって切り替えられた運転条件に従ってインバータ装置4を駆動制御して、保守員が到着するまでの間、速度、積載量等を制限してエレベータの運転を継続する。
【0113】
なお、どの程度制限して運転を継続するのかは、上記異常判定回路19で算出された差分ΔT21の値による。当然の事ながら、差分ΔT21の値が予め設定された許容値を超えていれば、エレベータの運転を停止するものとする。
【0114】
このように第6の実施形態によれば、冷却ファン24,25の異常が検出された際に、保守員が到着するまでの間、運転条件を変えてエレベータの運転を継続することで、できるだけエレベータ利用者に迷惑をかけずに対処することができる。
【0115】
なお、上記各実施形態において、冷却フィン23に2つの冷却ファン24,25が設けられている場合を想定して説明したが、3つ以上の冷却ファンが設けられている場合でも適用可能である。この場合、各冷却ファンに対応させて温度検出器が設けられ、これらの温度検出器が設置された箇所の温度に基づいて上記各実施形態の方法により異常の有無が検出される。
【0116】
以上のように、これらの実施形態によれば、複数の冷却ファンを有する冷却フィンにおいて、異常停止した冷却ファンが他の冷却ファンの風の影響を受けて回転していても、異常の有無を正しく検出することができるエレベータのファン異常検出装置を提供することができる。
【0117】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0118】
1…商用三相交流電源、2…コンバータ、3…平滑コンデンサ、4…インバータ装置、4a…半導体スイッチング素子、5…電流検出器、6…モータ、7…乗りかご、8…カウンタウェイト、9,10…温度検出器、11…行先階登録装置、12…荷重検出装置、13…電流パターン予測回路、14…発熱パターン予測回路、15…温度差分予測回路、16…記憶回路、17…温度検出回路、18…温度差分算出回路、19…異常判定回路、20…基準値設定回路、21…エレベータ制御用マイコン、22…異常発報回路、22a…管理室、22b…監視センタ、23…冷却フィン、24,25…冷却ファン、27…傾き予測回路、28…傾き算出回路、29…遠隔運転装置、30…運転条件設定回路、31…電源電圧測定回路、32…周囲温度検出器、33…周囲温度測定回路、34…差分検出回路、35…基準値設定回路、36…補正回路、37…電流検出回路、38…基準値設定回路、39…差分検出回路、40…補正回路、41…運転条件切替回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ装置のスイッチング素子を冷却するための少なくとも2つの冷却ファンを有する冷却フィンを備えたエレベータのファン異常検出装置において、
上記冷却フィンに上記各冷却ファンに対応して設けられ、上記冷却フィンの異なる少なくとも2つの箇所の温度を検出する複数の温度検出手段と、
エレベータ運転前に行先階と積載荷重の情報に基づいて上記スイッチング素子に通電される電流パターンを予測する電流パターン予測手段と、
この電流パターン予測手段によって予測された電流パターンから上記スイッチング素子の発熱パターンを予測する発熱パターン予測手段と、
この発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度を予測する温度予測手段と、
エレベータ運転時に上記各温度検出手段によって検出された温度の実測値と上記温度予測手段によって予測された温度の予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定する異常判定手段と
を具備したことを特徴とするエレベータのファン異常検出装置。
【請求項2】
上記各温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度の差分を算出する温度差分算出手段を備え、
上記温度予測手段は、
上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度の差分を予測し、
上記異常判定手段は、
エレベータ運転時に上記温度差分算出手段によって算出された温度差分の実測値と上記温度予測手段によって予測された温度差分の予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項3】
上記各温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度変化の傾きを算出する傾き算出手段を備え、
上記温度予測手段は、
上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度変化の傾きを予測し、
上記異常判定手段は、
エレベータ運転時に上記傾き算出手段によって算出された温度変化の傾きの実測値と上記温度予測手段によって予測された温度変化の傾きの予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項4】
エレベータの運転条件を設定する運転条件設定手段と、
初期時に上記運転条件設定手段によって設定された運転条件で上記インバータ装置を駆動制御したときに上記各温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度を初期値として記憶する記憶手段とを備え、
上記異常判定手段は、
上記初期時と同じ運転条件で上記インバータ装置を駆動制御したときに上記温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度の実測値と上記記憶手段に記憶された初期値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項5】
上記インバータ装置に供給される電圧を測定する電圧測定手段と、
上記インバータ装置の周囲温度を測定する周囲温度測定手段と、
上記電圧測定手段または上記周囲温度測定手段の測定結果に応じて上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンの予測値を補正する補正手段とを備え、
上記温度予測手段は、
上記補正手段による補正後の発熱パターンから上記各箇所における温度を予測することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項6】
上記インバータ装置の上記スイッチング素子に通電される電流を検出する電流検出手段と、
この電流検出手段によって検出された電流の測定値と上記電流パターン予測手段によって予測された電流パターンの予測値との比較結果に応じて上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンの予測値を補正する補正手段とを備え、
上記温度予測手段は、
上記補正手段による補正後の発熱パターンから上記各箇所における温度を予測することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項7】
上記異常判定手段によって異常が検出された場合にその旨を外部に発報する異常発報手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項8】
上記異常判定手段によって異常が検出された場合に、上記各箇所における温度が予め設定された値以下となるようにエレベータの運転条件を切り替える運転条件切替手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項9】
上記運転条件には、エレベータの速度、積載荷重のうちの少なくも1つが含まれることを特徴とする請求項8記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項1】
インバータ装置のスイッチング素子を冷却するための少なくとも2つの冷却ファンを有する冷却フィンを備えたエレベータのファン異常検出装置において、
上記冷却フィンに上記各冷却ファンに対応して設けられ、上記冷却フィンの異なる少なくとも2つの箇所の温度を検出する複数の温度検出手段と、
エレベータ運転前に行先階と積載荷重の情報に基づいて上記スイッチング素子に通電される電流パターンを予測する電流パターン予測手段と、
この電流パターン予測手段によって予測された電流パターンから上記スイッチング素子の発熱パターンを予測する発熱パターン予測手段と、
この発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度を予測する温度予測手段と、
エレベータ運転時に上記各温度検出手段によって検出された温度の実測値と上記温度予測手段によって予測された温度の予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定する異常判定手段と
を具備したことを特徴とするエレベータのファン異常検出装置。
【請求項2】
上記各温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度の差分を算出する温度差分算出手段を備え、
上記温度予測手段は、
上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度の差分を予測し、
上記異常判定手段は、
エレベータ運転時に上記温度差分算出手段によって算出された温度差分の実測値と上記温度予測手段によって予測された温度差分の予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項3】
上記各温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度変化の傾きを算出する傾き算出手段を備え、
上記温度予測手段は、
上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンから上記各箇所における温度変化の傾きを予測し、
上記異常判定手段は、
エレベータ運転時に上記傾き算出手段によって算出された温度変化の傾きの実測値と上記温度予測手段によって予測された温度変化の傾きの予測値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項4】
エレベータの運転条件を設定する運転条件設定手段と、
初期時に上記運転条件設定手段によって設定された運転条件で上記インバータ装置を駆動制御したときに上記各温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度を初期値として記憶する記憶手段とを備え、
上記異常判定手段は、
上記初期時と同じ運転条件で上記インバータ装置を駆動制御したときに上記温度検出手段によって検出された上記各箇所における温度の実測値と上記記憶手段に記憶された初期値とを比較し、その比較結果に応じて上記各冷却ファンに異常が生じているか否かを判定することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項5】
上記インバータ装置に供給される電圧を測定する電圧測定手段と、
上記インバータ装置の周囲温度を測定する周囲温度測定手段と、
上記電圧測定手段または上記周囲温度測定手段の測定結果に応じて上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンの予測値を補正する補正手段とを備え、
上記温度予測手段は、
上記補正手段による補正後の発熱パターンから上記各箇所における温度を予測することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項6】
上記インバータ装置の上記スイッチング素子に通電される電流を検出する電流検出手段と、
この電流検出手段によって検出された電流の測定値と上記電流パターン予測手段によって予測された電流パターンの予測値との比較結果に応じて上記発熱パターン予測手段によって予測された発熱パターンの予測値を補正する補正手段とを備え、
上記温度予測手段は、
上記補正手段による補正後の発熱パターンから上記各箇所における温度を予測することを特徴とする請求項1記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項7】
上記異常判定手段によって異常が検出された場合にその旨を外部に発報する異常発報手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項8】
上記異常判定手段によって異常が検出された場合に、上記各箇所における温度が予め設定された値以下となるようにエレベータの運転条件を切り替える運転条件切替手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載のエレベータのファン異常検出装置。
【請求項9】
上記運転条件には、エレベータの速度、積載荷重のうちの少なくも1つが含まれることを特徴とする請求項8記載のエレベータのファン異常検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−115081(P2012−115081A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263397(P2010−263397)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
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