説明

エンジンの制御装置

【課題】アイドルストップ期間中のスロットル動作応答を迅速にして、エンジンの再始動時間を短縮する。
【解決手段】エンジン冷却水温、車速、ブレーキ情報等を入力し、ISSの実施判定を行うISS判定手段5と、ISS制御期間中の目標開度を設定する目標開度設定手段6から成るISS制御部3、ISS制御期間中は、スロットル開度フィードバック制御演算で用いられる比例ゲインをISS制御期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正する比例ゲイン補正係数演算手段9と、補正された比例ゲインを含めた制御ゲインを用いて目標開度と実開度の開度偏差に基づきスロットル開度フィードバック制御演算を行うスロットル開度フィードバック制御手段7と、スロットル開度フィードバック制御手段7から出力される操作量に比例した電圧をモータ20へ出力するPWM駆動手段8から成るスロットル制御部4を備えたエンジンの制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのアイドルストップ・スタート(以下、ISSとも称す。)期間中のスロットル応答動作を迅速にするとともに、エンジンの再始動時間を短縮するエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、アイドルストップ車両のエンジンの再始動時間を短縮するために、スタータモータの駆動トルクを大きくして始動時間を短縮したり、吸気管に設置されたスロットルバルブによる吸気抵抗(ポンピングロス)を小さくするため、エンジンの再始動時にスロットル開度を通常のアイドル運転時のスロットル開度より開き側に設定して始動時間を短縮する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されたエンジンの吸気制御装置には、エンジン始動時にスロットル開度をアイドル運転時のスロットル開度より大きい第1開度に設定してクランキングを開始し、1回目の圧縮工程の終了後にスロットル開度を第1開度より小さい第2開度に設定してクランキングを行うことが記載されている。
【0004】
この特許文献1に開示された従来の装置によれば、エンジン始動時の吸気抵抗を小さくして1回目の乗り越しトルクを低減することができると共に、圧縮工程の気筒における圧縮抵抗を小さくして平均クランキングトルクを低減することができ、スタータモータやバッテリーなどの小型化を図ることができるとされている。
【0005】
また、特許文献2に開示された車両用エンジンの制御装置には、機関の運転条件に応じてスロットル弁を目標開度になるように電動アクチュエータで開閉する電制スロットルシステムと、停車時に機関のアイドル運転を強制的に停止し、該停止後のアクセル操作により電動機を駆動させて機関を再始動して車両を発進させるアイドルストップ・再始動システムと、を備えた車両用エンジンにおいて、電制スロットルシステムを、スロットル弁の弁軸に連結されたレバーを電動アクチュエータで駆動してスロットル弁の開度を制御するように構成する一方、前記レバーの両側に2つのスプリングを連結し、電制スロットルシステムの電源OFF時のスロットル弁の開度位置を、前記2つのスプリングの付勢力がバランスする位置で、機関の再始動に必要な空気量を機関に供給する開度に設定する再始動時開度設定手段と、機関の強制的な停止後、スロットル弁の開度を漸減し、設定時間の経過後に、電制スロットルシステムの電源をOFFとする電源シャットオフ手段と、を含んで構成していることが記載されている。
【0006】
この特許文献2に開示された従来の装置によれば、停車時にアイドル運転を強制的に停止した後、設定時間経過後に電制スロットルシステムの電源をOFFにしてスロットル弁の開度を機械的に機関再始動に必要な開度に設定し、アクセル操作して再発進条件が成立すると、電動機が駆動されてクランキングと共に燃料噴射が再開されて機関が再始動され
、完爆後スロットル弁の開度をアクセル操作量に応じた目標開度に徐々に近づける制御が行われる。これにより、機関停止状態でのバッテリ過放電を防止でき、燃費も向上する。
【0007】
また、特許文献3に開示された内燃機関のスロットル制御装置には、スロットルバルブの作動状態に応じて制御ゲインを切り換えるスロットル制御装置において、制御ゲインの切り換え直後に生じるスロットル開度の変動を抑制して内燃機関を常に安定して運転できるようにすることが記載されている。
【0008】
この特許文献3に開示された従来の装置によれば、スロットルバルブの実開度であるセンサ値と、その目標開度である指令値との偏差が零になるように、バルブ開閉用のDCモータをフィードバック制御する装置において、偏差が所定範囲(±2°)内であれば定常状態を、そうでなければ過渡状態を、それぞれ判定して、各状態毎に使用する制御ゲイン(比例ゲインKp、積分ゲインKi)を切り換えることにより、制御の応答性と安定性を両立する。また、定常状態判定時には、制御ゲインをゆっくりと変化させて、スロットル開度が指令値からオーバーシュートするのを防止し、逆に過渡状態判定時には、制御ゲインを速やかに変化させて、過渡時の応答性を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−127550号公報
【特許文献2】特許第3978959号公報
【特許文献3】特開平10−47135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に示された従来のエンジンの吸気制御装置を用いて、アイドルストップ・スタート期間中のエンジンの再始動を行う場合、エンジン再始動時のスロットル開度をアイドル運転時のスロットル開度より大きい第1開度を目標開度値として設定し、スロットル開度フィードバック制御演算によりスロットルアクチュエータへ出力する操作量の演算を行う。この場合、エンジンの運転状態が変わってもスロットルアクチュエータへの上記操作量(モータへの供給電圧)は同じ値になるが、モータ巻線温度が低温時に比べて高温時ではモータ巻線抵抗値が大きくなるため、モータに流れる電流値が小さくなり、モータ駆動トルクも小さくなる。このため、アイドル運転時のスロットル開度より大きい第1開度位置へのスロットル動作応答遅れが大きくなり、このスロットル動作応答遅れにより吸気抵抗(スロットル開度値に反比例してポンピングロスが小さくなる)が小さくなる開度位置への到達時間が長くなり、吸気抵抗低減効果が速やかに得られず、エンジンの再始動時間が長くなるという問題点がある。(後述の図7の時間T1からT3の期間。)
【0011】
また、アイドルストップ・スタート期間中のエンジンの再始動を行う場合に、エンジンを再始動する前の期間に予めスロットルバルブを吸気抵抗(ポンピングロス)が小さい全開位置に保持して始動待機する方法が考えられるが、特許文献2に示された従来のエンジンの制御装置を用いた場合、アイドルストップ期間中は電制スロットルシステムの電源がOFFされ、スロットル弁が2つのスプリングによる付勢力により機械的に固定された中間開度位置に保持される。このため、エンジン再始動はスロットル弁を上記中間開度位置から吸気抵抗(ポンピングロス)が小さい全開位置に開度フィードバック制御により駆動することになるが、上記のようにモータ巻線温度が低温時に比べて高温時ではモータ巻線抵抗値が大きくなるため、モータに流れる電流値が小さくなり、モータ駆動トルクも小さくなって、スロットル動作応答遅れにより吸気抵抗が小さいスロットル全開位置への到達時間が長くなり、吸気抵抗低減効果が速やかに得られず、エンジンの再始動時間が長くなるという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献3に示された従来の内燃機関のスロットル制御装置を用いて、アイドルストップ・スタート(ISS)期間中のエンジンの再始動を行う場合、再始動指令前のスロットル開度状態は一般的に開度偏差が所定範囲(±2°)内で実開度が目標開度に一致した状態であり、定常状態の比例ゲインに切り換えられている。再始動指令によりスロットル目標開度が吸気抵抗(ポンピングロス)の小さいスロットル開度位置に設定されると、開度偏差が所定範囲(±2°)外となると同時に、過渡状態の比例ゲイン(請求項3によれば定常状態の比例ゲインより大きい比例ゲイン値に設定)に切り換えられるが、エンジン暖機後にISSが実施されモータ巻線温度が高温状態でモータ電流が流れ難い(モータトルクが大きくなり難い)スロットルアクチュエータの動作状態で、エンジン再始動時のスロットル開度動作応答を速くするため定常状態の比例ゲインに対して過渡状態の比例ゲインを大きく設定した場合には、低温始動時のようにモータ巻線温度が低温状態でモータ電流が流れやすい(モータトルクが大きくなりやすい)スロットルアクチュエータの動作状態では、実開度が目標開度に収束時にオーバーシュートやアンダーシュートを発生しやすくなる。
【0013】
これにより、開度偏差が所定範囲(±2°)近傍で変動し、比例ゲインが過渡状態の比例ゲインから定常状態の比例ゲイン、再度、過渡状態の比例ゲインへと切り換り、スロットル開度ハンチングが発生する可能性があるため、開度制御の安定性を考えると過渡状態の比例ゲインの設定値を定常状態の比例ゲインの設定値に対して大きく設定することは困難であり、スロットルアクチュエータの動作温度範囲内でスロットル開度制御の安定性と応答性が両立するように比例ゲインは適合されるのが一般的である。
このためISS実施時のようにモータ巻線温度が高温状態でモータ電流が流れ難い(モータトルクが大きくなり難い)スロットルアクチュエータの動作状態では、スロットル開度ハンチングが発生する比例ゲイン値に対し設定されている比例ゲイン値のゲイン余裕代は過剰に設定されていることになる。従って、ISS実施時のようにモータ巻線温度が高温になる運転状態では、モータ巻線抵抗値も大きくなってモータ電流が流れ難くなる分、モータトルクも小さくなるため、スロットル動作応答遅れが発生し、吸気抵抗が小さいスロットル全開位置への到達時間が長くなり、吸気抵抗低減効果が速やかに得られずエンジンの再始動時間が長くなるという問題がある。
【0014】
以上のように、スロットルアクチュエータの運転温度に対し比例ゲインが固定の場合、エンジンの運転状態によりモータ温度が変化しモータ巻線抵抗値が変化すると、モータ制御電圧値が同一値でもモータ電流値は同一値とはならない。このため、同一開度偏差(=目標開度−実開度)発生時に、PID制御演算により算出される制御DUTY値およびモータ制御電圧値が同一値で制御されても、モータ温度によるモータ巻線抵抗値の変化によりモータ電流値も変化するため、モータ電流に比例するモータ駆動トルクも同一値に制御されない。つまり同一開度偏差発生時に制御出力されるモータ駆動トルクは低温時ほど大きく、高温時ほど小さくなる。
従って、低温になるほどモータ制御系のゲインが高くなるため、低温時に制御ハンチングが発生しないように制御ゲインの適合を行うのが一般的である。この場合、図4(a)、
(b)に示すように、高温時の動作においてはモータ巻線抵抗値の増大によりモータ制御系のゲインが低下するため、スロットルバルブを駆動するのに必要なトルクが直ぐ出力されず実開度の応答が遅れ(図4(a)参照)、また、高温時に速やかなバルブ駆動が得られるように制御ゲインを適合すると、低温時ではゲイン過剰となって実開度のハンチングが発生する(図4(b)参照)。このため、一般的には高温運転時の開度応答性を犠牲にしつつ低温時の開度ハンチングを回避するようにPID制御ゲインを適合しなければならないという問題が発生する。なお、図4において、Lは、目標値、Mは、低温時の制御量応答、Nは、高温時の制御量応答を示している。
【0015】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、スロットル開度フィードバック制御用の比例ゲイン値を、ISS期間中はISS期間中以外の比例ゲイン値より大きくして、エンジン再始動時のスロットル動作応答遅れを小さくし、エンジンクランキング時のポンピングロスが小さいスロットル開度位置に迅速にスロットル開度を設定して、エンジン再始動時間の短縮化とスタータモータの小型化を図ることができるようにしたエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係るエンジンの制御装置は、スロットルバルブの開閉を駆動するスロットルアクチュエータと、スロットルバルブの実開度を検出するスロットル開度検出手段と、該スロットル開度検出手段で検出されたスロットルバルブの実開度が目標開度となるように
所定の制御ゲインを用いて前記スロットルアクチュエータをフィードバック制御する制御手段を備えたエンジンの制御装置であって、前記制御手段は、少なくともエンジン冷却水温、車速、ブレーキ情報を入力し、アイドルストップ・スタートの実施判定を行うアイドルストップ・スタート判定手段と、アイドルストップ・スタート制御期間中の目標開度を設定する目標開度設定手段とから成るアイドルストップ・スタート制御部と、
前記アイドルストップ・スタート判定手段により判定されたエンジンのアイドルストップ・スタート制御期間中は、スロットル開度フィードバック制御演算で用いられる比例ゲインを、アイドルストップ・スタート制御期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正する比例ゲイン補正係数演算手段と、前記補正された比例ゲインを含めた制御ゲインを用いて目標開度と実開度の開度偏差に基づいてスロットル開度フィードバック制御演算を行うスロットル開度フィードバック制御手段と、前記スロットル開度フィードバック制御手段から出力されるモータへの操作量を入力し、該操作量に比例した電圧をモータへ出力するPWM駆動手段とから成るスロットル制御部、とを備えたものである。
【0017】
また、前記スロットル開度フィードバック制御手段は、今回のサンプリングタイミング(n)でサンプリングされた目標開度(n)と実開度(n)より開度偏差(目標開度−実開度)(n)の絶対値を求め、この開度偏差の絶対値に基づいて予め設定されたPID制御ゲインマップにより、開度偏差(i)に応じたPID制御ゲイン(比例ゲインKP(i)、積分ゲインKI(i)、微分ゲインKD(i))を読み込み、
前記比例ゲインKP(i)と前記比例ゲイン補正係数演算手段により算出された今回の制御周期時の比例ゲイン補正係数Gcと前記開度偏差との積により比例(P)項を算出し、前記積分ゲインKIと開度偏差の積分値との積により積分(I)項を算出し、前記微分ゲインKDと実開度変化分{実開度(n)−実開度(n-1)}との積により微分(D)項を算出し、それぞれの加算によりスロットル開度フィードバック(F/B)制御演算を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明のエンジンの制御装置によれば、アイドルストップ・スタート期間中のスロットル開度フィードバック制御用の比例ゲイン値を、アイドルストップ・スタート期間中以外の比例ゲイン値より大きい値に補正することにより、エンジン再始動時のスロットル動作応答遅れ時間を縮小することができ、エンジン再始動時のポンピングロスの小さいスロットル開度位置に迅速にスロットル開度を設定することができるため、エンジンクランキング時のスタータモータの負荷トルク及び消費電力が低減され、エンジン再始動時間の短縮化とスタータモータやバッテリーの小型化が図れる効果が得られる。
【0019】
上述した、またその他の、この発明の目的、特徴、効果は、以下の実施の形態における詳細な説明および図面の記載からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1によるエンジンの制御装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1のエンジンの制御装置における、開度偏差と制御ゲイン設定値の関係を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるエンジンの制御装置のスロットル制御処理のフローチャートである。
【図4】スロットルバルブの動作特性を示す図で、(a)は低温時に制御ゲインを適合した場合のスロットルバルブ動作、(b)は高温時に制御ゲインを適合した場合のスロットルバルブ動作、(c)は高温時に比例ゲインを補正した場合のスロットルバルブ動作を示す図である。
【図5−a】この発明の実施の形態1のエンジンの制御装置におけるISS制御処理のフローチャートである。
【図5−b】この発明の実施の形態1のエンジンの制御装置におけるISS制御処理のフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1のエンジンの制御装置におけるISS期間中の比例ゲインを補正した場合の、始動時のスロットルバルブ動作と始動時間の関係を示したタイムチャートである。
【図7】エンジンの制御装置のISS期間中の比例ゲインを補正しなかった場合の、始動時のスロットルバルブ動作と始動時間の関係を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1によるエンジンの制御装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明の実施の形態1のエンジンの制御装置の概略構成図であって、エンジン(図示しない)の制御ユニット(ECU)1と、スロットルアクチュエータ2とからなる制御装置の、ISS制御部とスロットル制御部の概略構成図を示したものである。
図1において、エンジンの制御ユニット(ECU)1は、アイドルストップ・スタート(以下、ISSともいう。)制御部3と、スロットル制御部4から構成されている。
ISS制御部3は、車速(図示しない)信号、ブレーキスイッチ(図示しない)信号、アクセルポジションセンサ(APS)信号12、エンジン回転信号13、エンジン冷却水温度(エンジン水温)信号14などを入力し、アイドルストップ・スタートの判定を行うアイドルストップ・スタート判定手段5と、アイドルストップ・スタート判定手段5によって出力されるスロットル目標開度設定モード信号16に応じて、アイドルストップ期間中のスロットルの目標開度を設定するISS期間中目標開度設定手段6とから構成されている。
【0022】
アイドルストップ・スタート判定手段5は、ISS期間中のスロットル開度フィードバック制御演算用の比例ゲインを、ISS期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正するためのISS期間中フラグ15を出力する。
また、アイドルストップ・スタート判定手段5によりアイドルストップが判定されると、エンジン燃焼室へ燃料供給を行うインジェクタ(図示しない)の駆動信号の遮断(OFF)、燃焼室内の燃料と空気からなる混合気に点火プラグ(図示しない)により点火するためのイグナイタ(図示しない)への駆動信号の遮断(OFF)を行う。
【0023】
スロットル制御部4は、アイドルストップ・スタート判定手段5から出力されたISS期間中フラグ15に応じて、比例ゲインを補正する比例ゲイン補正係数Gcを演算する比例ゲイン補正係数演算手段9と、比例ゲイン補正係数演算手段9により出力された比例ゲイン補正係数(Gc)17と、ISS制御部3のISS期間中目標開度設定手段6により設定されたISS期間中のスロットルの目標開度11と、スロットルポジションセンサ(TPS)22で検出された実開度10とを入力し、目標開度11と実開度10の開度偏差に基づいて公知のPID制御演算を用いてスロットル開度フィードバック(F/B)制御演算を行い、モータ電圧を制御するDUTY値18を算出するスロットル開度F/B制御手段7と、前記DUTY値18を入力し、PWM駆動により制御されたモータ制御電圧19を出力するPWM駆動手段8とから構成されている。
【0024】
スロットルアクチュエータ2は、PWM駆動手段19から出力されたモータ制御電圧19によりDCモータ20が駆動され、DCモータ20の駆動力が減速機(図示しない)を介してスロットルバルブ21に伝達され、スロットルバルブ軸に設けられたスロットルポジションセンサ(TPS)22により実開度10が検出される構成である。
【0025】
次に動作について説明する。
図3は内燃機関のスロットル制御に関する処理内容を示したフローチャートである。
スロットル制御部4では、所定の制御周期(例えば2.5ms)毎に以下の処理を行う。
【0026】
ステップS1でアイドルストップ・スタート(ISS)制御処理(処理内容の詳細は後述する)を行い、アイドルストップ・スタート期間(エンジンの自動停止からエンジン再始動によりエンジンが所定回転数まで到達するまでの期間)中であれば、ISS期間中フラグがセットされ、アイドルストップ・スタート期間中以外ではクリアされる。
【0027】
ステップS2で、ISS期間中フラグがセットされている場合は、後述のPID制御演算用の比例ゲインを、比例ゲイン補正係数Gcにより見かけ上大きくしてスロットル開度F/B制御演算を行うためステップS3に進む。
ステップS3では、比例ゲインを補正するための補正係数Gcを第2の所定値Gc2に設定するため、今回の制御周期におけるPID制御演算用の比例ゲインの補正係数Gc(n)を、第1の所定値Gc1(この場合は1.0)より値が大きい第2の所定値Gc2(例えば1.5)に設定(Gc(n)=Gc2)してステップS7に進む。
これにより、ISS期間中以外からISS期間中のスロットル制御に移行すると同時に、PID制御演算用の比例ゲインがISS期間中以外の設定値より大きい(例えば1.5倍)ゲイン値に速やかに切り換り、スロットル動作応答遅れが縮小される。
【0028】
ステップS2でISS期間中フラグがクリアされている場合は、ステップS4で、前回制御周期時の比例ゲインの補正係数Gc(n−1)が第1の所定値Gc1と一致しているかどうかを判定し、一致していない場合は、ステップS5で今回の制御周期時の比例ゲインの補正係数Gc(n)を前回の制御周期時の比例ゲインの補正係数Gc(n−1)+(第1の補正係数Gc1−第2の補正係数Gc2)/補正係数更新定数Cr(例えば32
)として算出して設定し、ステップS7に進む。
これにより、ISS期間中からISS期間中以外のスロットル制御に移行する場合は、PID制御演算用の比例ゲインがISS期間中以外の設定値に徐々に補正され、不必要な速度での比例ゲインの補正を防止し、制御安定性を確保している。
ステップS4で、前回制御周期時の比例ゲインの補正係数Gc(n−1)が第1の所定値Gc1と一致している場合は、ステップS6で今回の制御周期での比例ゲインの補正係数Gc(n)を第1の所定値Gc1に設定(Gc(n)=Gc1)して、ステップS7に進む。
【0029】
ステップS7では、スロットルバルブ21の実開度位置に比例した電圧を出力するスロットルポジションセンサ(TPS)22の出力電圧値をA/D変換して実開度10として読み込む。
【0030】
ステップS8では、エンジン制御部で、例えばエンジン始動後にアクセルペダル踏み込み量に比例した電圧を出力するアクセルポジションセンサ(APS)12の出力値や、エンジン回転速度13、エンジン水温14などのエンジン運転情報に基づいて予め設定された目標開度設定マップを用いて、エンジンの通常運転(ISS期間中以外)時の目標開度値として算出された目標開度値と、ISS期間中のエンジン停止時にスロットルアクチュエータのモータ通電遮断により機械的に位置決めされるデフォルト開度位置、又はエンジン再始動指令に伴うエンジンクランキング時の吸気抵抗(ポンピングロス)が小さいスロットル開度位置のどちらかが設定されたISS期間中の目標開度値と、のいずれかを目標開度11として読み込む。
【0031】
次に、ステップS9では、スロットル開度F/B制御手段7で、制御周期毎にサンプリングされた目標開度11と実開度10に基づいてPID制御演算処理を行う。
まず、今回のサンプリングタイミングnでサンプリングされた目標開度11(n)と実開度10(n)より、開度偏差(=目標開度11−実開度10)(n)の絶対値を求める。
次に、上記開度偏差の絶対値ERROR(i)に基づいて予め設定された、図2に示すようなPID制御ゲインマップにより、開度偏差(i)に応じたPID制御ゲイン{比例ゲインKP(i)、積分ゲインKI(i)、微分ゲインKD(i)}を読み込み、比例ゲインKP(i)と今回の制御周期時の比例ゲインの補正係数Gc(n)と開度偏差との積により比例(P)項を算出し、積分ゲインKIと開度偏差の積分値との積により積分(I)項を算出し、微分ゲインKDと実開度変化分{実開度(n)−実開度(n−1)}の積により微分(D)項を算出する。
そして上記算出された比例(P)項と、積分(I)項と、微分(D)項の加算演算により算出した値を、ステップS10でDUTY値18として出力設定する。
これにより、上記開度偏差が同じ値でも、ISS期間中はISS期間中以外より比例ゲインKPが大きく補正される分、上記DUTY値18は大きい値が出力される。
【0032】
次にステップS11では、上記DUTY値18をPWM駆動手段8に入力する。PWM駆動手段8ではPWM駆動DUTY比を上記DUTY値に設定し、DUTY値に比例した電圧19が駆動モータ20に供給され、スロットルバルブ21の実開度10が目標開度11に一致するようにF/B制御される。
【0033】
以上の処理により、ISS期間中の再始動時に実開度10をポンピングロスが小さいスロットル開度位置へ迅速に動作させる(図4(c)参照)ことができ、クランキング時のスタータモータの負荷トルクが低減する分、始動時間の短縮化が図れる。(図6参照)
【0034】
図5−a、図5-bは、アイドルストップ・スタート(ISS)制御処理の概略フローを示したものである。
まず、ステップS50で、アイドルストップ・スタート制御が実行中であるか否かをISS期間中フラグがセットされているかどうかで判定(ステップS50)する。
フラグがセットされていなければ、ステップS51で、アイドルストップ(IS)条件(例えば、エンジン水温が60℃以上、かつ、車速が0、かつ、ブレーキスイッチ(SW)がON)が成立しているかどうかを判定する。IS条件成立時は、ステップS52でエンスト処理(例えば、インジェクタ(図示しない)への駆動信号遮断による燃料カットや、イグナイタ(図示しない)への点火信号OFFによる点火の遮断の実施や、スロットルモータへの通電遮断など)を行い、ステップS53でISS期間中フラグをセットし、ステップS54で目標開度設定モードを0にして、さらにモータ通電遮断時にスロットルバルブがリターンスプリング(図示しない)力により機械的に中間開度位置に位置決めされるデフォルト開度位置を目標開度11として設定する。
そしてステップS57で再始動フラグをクリアして処理を終わる。
【0035】
ステップS51でIS条件不成立の場合は、ステップS55で、ISS期間中フラグをクリアし、ステップS56で、目標開度設定モードを2にして、さらに通常のエンジン運転時の目標開度を、例えばアクセル開度、エンジン回転数、水温などのエンジン運転情報に基づいて予め設定されたスロットル目標開度マップを用いて演算し、目標開度11として設定する。そして前記ステップS57の処理を行って処理を終わる。
【0036】
ステップS50でISS期間中フラグがセットされている場合は、ステップS58でエンジンの再始動処理を実施中かどうかを再始動フラグがセットされているかどうかで判定する。再始動フラグがセットされていなければ、ステップS59で再始動要求の有無を例えばブレーキスイッチのON/OFF状態により判定し、ブレーキスイッチがONで再始動要求がない場合は、前記ステップS57の処理を行って処理を終わる。
ブレーキスイッチがOFFでエンジン再始動要求があった場合は、ステップS60でエンジン始動処理(例えば、スタータモータ駆動によりエンジンのクランク軸を回転駆動するとともに、スロットルバルブをポンピングロスが小さい開度位置にF/B制御する)を行い、ステップS61で再始動フラグをセットし、ステップS62で目標開度設定モードを1にして、さらにスタータモータによるエンジンクランキング時のスタータモータ負荷トルクが小さくなるポンピングロスの小さいスロットル開度位置(例えば全開位置)を目標開度11として設定して処理を終わる。
【0037】
ステップS58で再始動フラグがセットされている場合は、ステップS63でエンジン回転速度Neが所定値(例えば200rpm)以上に到達したかどうかを判定する。
回転速度Neが所定値以下の場合は、そのまま処理を終わり、回転速度Neが所定値以上の場合は、ステップS64でエンジン運転処理(例えば、燃料噴射量制御や点火時期制御など)行い、ステップS65でISS期間中フラグをクリアし、ステップS66で再始動フラグをクリアしてISS期間中の処理を終わる。
【0038】
図6、図7は、上記処理により、スロットル開度F/B制御演算に用いられる比例ゲインKPを、ISS期間中はISS期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正した場合(図6参照)と、補正しなかった場合(図7参照)の、エンジン再始動時のスロットル応答動作とエンジン再始動に要する時間の関係を示したタイムチャートである。
図6、図7の時間T0で、ISS期間中フラグがセット状態でエンジン停止状態(エンジン回転速度=0)において、時間T1でブレーキペダルから足を離すと、ブレーキスイッチ(ブレーキSW)がOFFし、エンジン再始動指令フラグがセットされると同時に、アクセルペダルが踏み込まれるとアクセル開度(APS)信号が増加し、アイドルスイッチ(アイドルSW)信号がOFFし、エンジン再始動時のスロットル目標開度が、モータ通電遮断時のデフォルト開度位置(目標開度設定モード=0)から吸気抵抗(ポンピングロス)が小さいスロットル全開位置(目標開度設定モード=1)に設定される。そして、スタータモータ(図示しない)によりクランキングが始まるとエンジン回転速度Neが増大を始め、時間T2(図6)、T3(図7)で、所定回転数(この場合は200rpm)以上に到達すると、通常のエンジン運転処理に移行する。これによって、ISS期間中フラグおよび再始動指令フラグをクリアして、スロットルの目標開度はアクセル開度やエンジン回転速度、水温などのエンジン運転状態入力情報に基づいて設定される通常運転時の目標開度位置(目標開度設定モード=2)に設定される。
【0039】
図7に対して、図6に示すように、スロットル開度F/B制御演算に用いられる比例ゲインKPを、ISS期間中はISS期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正(比例ゲイン補正係数Gc=Gc2)することにより、エンジン再始動時のスロットル動作応答が迅速になり、スロットルバルブをポンピングロスの小さいスロットル開度位置に速やかに到達させることができる。このため、スタータモータ駆動時のポンピングロスを速く小さくすることができ、エンジン回転の立ち上がり速度が速くなって、結果として、エンジン再始動時間(図6ではT2−T1、図7ではT3−T1)の短縮を図ることができる。
【0040】
以上、詳細に説明したように、この発明の実施の形態1のエンジンの制御装置によれば、スロットル開度F/B制御演算に用いられる比例ゲインKPを、ISS期間中はISS期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正して、エンジン再始動時のスロットル動作応答を迅速にすることにより、スタータモータ駆動時のポンピングロスを速く小さくすることができるため、エンジン回転の立ち上がり速度が速くなって、結果としてエンジン始動時間の短縮化が図れるとともに、スタータモータの駆動力を小さくすることができスタータモータの小型化が得られる特徴を備えるものである。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン制御ユニット(ECU)、2 スロットルアクチュエータ、
3 ISS制御部、4 スロットル制御部、 5 ISS判定手段、
6 目標開度設定手段、7 スロットル開度F/B制御手段、
8 PWM駆動手段、9 比例ゲイン補正係数演算手段、10 実開度、
11 目標開度、12 APS、13 エンジン回転、14 水温、
20 モータ、21 スロットルバルブ、22 TPS。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットルバルブの開閉を駆動するスロットルアクチュエータと、スロットルバルブの実開度を検出するスロットル開度検出手段と、該スロットル開度検出手段で検出されたスロットルバルブの実開度が目標開度となるように、所定の制御ゲインを用いて前記スロットルアクチュエータをフィードバック制御する制御手段を備えたエンジンの制御装置であって、前記制御手段は、
少なくともエンジン冷却水温、車速、ブレーキ情報を入力し、アイドルストップ・スタートの実施判定を行うアイドルストップ・スタート判定手段と、アイドルストップ・スタート制御期間中の目標開度を設定する目標開度設定手段とから成るアイドルストップ・スタート制御部と、
前記アイドルストップ・スタート判定手段により判定されたエンジンのアイドルストップ・スタート制御期間中は、スロットル開度フィードバック制御演算で用いられる比例ゲインを、アイドルストップ・スタート制御期間中以外の比例ゲインより大きい値に補正する比例ゲイン補正係数演算手段と、前記補正された比例ゲインを含めた制御ゲインを用いて目標開度と実開度の開度偏差に基づいてスロットル開度フィードバック制御演算を行うスロットル開度フィードバック制御手段と、前記スロットル開度フィードバック制御手段から出力されるモータへの操作量を入力し、該操作量に比例した電圧をモータへ出力するPWM駆動手段とから成るスロットル制御部、
とを備えたことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記スロットル開度フィードバック制御手段は、今回のサンプリングタイミング(n)でサンプリングされた目標開度(n)と実開度(n)より開度偏差(目標開度−実開度)
(n)の絶対値を求め、この開度偏差の絶対値に基づいて予め設定されたPID制御ゲインマップにより、開度偏差(i)に応じたPID制御ゲイン(比例ゲインKP(i)、積分ゲインKI(i)、微分ゲインKD(i))を読み込み、
前記比例ゲインKP(i)と前記比例ゲイン補正係数演算手段により算出された今回の制御周期時の比例ゲイン補正係数Gcと前記開度偏差との積により比例(P)項を算出し、前記積分ゲインKIと開度偏差の積分値との積により積分(I)項を算出し、前記微分ゲインKDと実開度変化分{実開度(n)−実開度(n-1)}との積により微分(D)項を算出し、それぞれの加算によりスロットル開度フィードバック(F/B)制御演算を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−a】
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【図5−b】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159045(P2012−159045A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19686(P2011−19686)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】