説明

エンジンの潤滑構造

【課題】シリンダやピストンの強度を高めるエンジンの潤滑構造を提供する。
【解決手段】V型エンジンのシリンダ11内を摺動するピストン12と、ピストン12を冷却するようオイルを噴射する潤滑手段13,14とを備えるエンジンの潤滑構造であって、
潤滑手段13,14を、ピストン12の摺動面に対応するシリンダ11の反スラスト荷重側に配置すると共に、潤滑手段13,14の配置により構成されるピストン12の切欠き部18を、シリンダ11の反スラスト荷重側に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2、図3に示す如く、一般にV型エンジン1は、複数のシリンダ2が左右両側に所定の角度で配置されるよう左右のバンク3を形成し、シリンダ2内には夫々ピストン4を往復動自在に配置して、複数のピストン4の動力をコンロッド5を介しクランク軸(図示せず)に伝達するようにしている。
【0003】
又、シリンダ2内には、ピストン4の摺動面においてクランク軸の回転により側圧を多く受ける側を、スラスト荷重側の面2aとすると共に、ピストン4の摺動面においてクランク軸の回転により側圧の少ない側を、反スラスト荷重側の面2bとしており、図3、図4では、クランク軸の回転方向を時計回りにし、左側のシリンダ2の下方面、右側のシリンダ2の上方面をスラスト荷重側の面2aにし、左側のシリンダ2の上方面、右側のシリンダ2の下方面を反スラスト荷重側の面2bにしている。
【0004】
更に、シリンダ2内には、図3に示す如く、ピストン4を冷却するよう、左右のバンク3の間の天井部2cに複数の潤滑手段6を備えており、潤滑手段6は、図3に示す如く、ピストン4のスカート部4aへ向かうよう噴射ノズル7を配置するクーリングジェット8と、クーリングジェット8にオイルを供給するようシリンダ2の天井部2cに流路を形成するオイルサブホイール9とを備えている。又、潤滑手段6の他例には、図4に示す如く、シリンダ2内の側部2dに配置されるものがあり、他例の潤滑手段6は、ピストン4の内部へ向かうよう噴射ノズル7を配置するクーリングジェット8と、クーリングジェット8にオイルを供給するようシリンダ2の側部2dに流路を形成するオイルサブホイール9とを備えるものがある。
【0005】
一方、ピストン4のスカート部4aには、シリンダ2内での摺動時に潤滑手段6の噴射ノズル7に接触しないよう切欠き部10を備えており、図3の一例の場合の切欠き部10は、シリンダ2の天井部寄り位置(上方位置)に形成されており、図4の他例の場合の切欠き部10は、シリンダ2の側方寄り位置(下方位置)に形成されている。
【0006】
このようなエンジンの潤滑構造でピストン4を冷却する際には、潤滑手段6のオイルサブホイール9、クーリングジェット8を介して噴射ノズル7よりオイルをピストン4の内部へ噴射している。
【0007】
ここで、エンジンの潤滑手段に関連する先行技術文献としては、下記の特許文献1、2がある。
【特許文献1】実開平2−27144号公報
【特許文献2】特開平6−101473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、潤滑手段6やピストン4の切欠き部10を構成した場合には、シリンダ2やピストン4の強度が低下するため、シリンダ2やピストン4の強度を一層高めることが求められていた。又、V型エンジン1では、ピストン4の切欠き部10等の構成が両側のバンク3で左右非対称となるため、ピストン4の種類が増加し、製造コストが上昇するという問題があった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、シリンダやピストンの強度を高めるエンジンの潤滑構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、V型エンジンのシリンダ内を摺動するピストンと、ピストンを冷却するようオイルを噴射する潤滑手段とを備えるエンジンの潤滑構造であって、
前記潤滑手段を、ピストンの摺動面に対応するシリンダの反スラスト荷重側に配置すると共に、前記潤滑手段の配置により構成されるピストンの切欠き部を、シリンダの反スラスト荷重側に形成したことを特徴とするエンジンの潤滑構造、に係るものである。
【0011】
本発明において、潤滑手段は、ピストンへオイルを噴射するクーリングジェットと、該クーリングジェットにオイルを供給するオイルサブホイールとを備えたことが好ましい。
【0012】
このように、本発明によれば、シリンダ内に設ける潤滑手段を、ピストンの摺動により側圧を受けて強度が低いスラスト荷重側でなく、側圧が少なく強度が高い反スラスト荷重側に配置するので、シリンダの強度が低下することを抑制し、シリンダ全体の強度を高めてシリンダの信頼性を向上することができる。又、ピストンの切欠き部を、側圧を受けるスラスト荷重側でなく、側圧が少ない反スラスト荷重側に形成するので、ピストンの側圧を受ける側の強度が低下することを抑制し、ピストン全体の強度を高めてピストンの信頼性を向上することができる。更に、V型エンジンの左右のバンクで複数のピストンを配する場合であっても、ピストンの切欠き部を反スラスト荷重側に配置してピストンを共通化し得るので、製造コストを低減することができる。
【0013】
本発明において、潤滑手段は、ピストンへオイルを噴射するクーリングジェットと、該クーリングジェットにオイルを供給するオイルサブホイールとを備えると、オイルサブホイールとクーリングジェットを反スラスト荷重側に好適に構成し得るので、シリンダの強度が低下することを容易に抑制し、シリンダ全体の強度を適切に高めてシリンダの信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明のエンジンの潤滑構造によれば、潤滑手段及びピストンの切欠き部を反スラスト荷重側に備えるので、シリンダやピストンの強度を高めることができるという種々の優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は本発明を実施する形態例を示すものであり、図3、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0017】
本発明の形態例は、V型エンジン1のシリンダ11内において、ピストン12の摺動面においてクランク軸(図示せず)の回転により側圧を多く受ける側を、スラスト荷重側の面11aとすると共に、ピストン12の摺動面においてクランク軸の回転により側圧の少ない側を、反スラスト荷重側の面11bとしており、図1では、クランク軸の回転方向を時計回りにし、左側のシリンダ11の下方面、右側のシリンダ11の上方面をスラスト荷重側の面11aにし、左側のシリンダ11の上方面、右側のシリンダ11の下方面を反スラスト荷重側の面11bにしている。
【0018】
又、シリンダ11内には、V型エンジン1の左右両側のピストン12に対応して、反スラスト荷重側に位置する天井部11cに第一の潤滑手段13を備えると共に、反スラスト荷重側に位置する側部11dに第二の潤滑手段14を備えており、第一の潤滑手段13及び第二の潤滑手段14は、夫々、ピストン12の内部へ向かうよう噴射ノズル15を配置するクーリングジェット16と、クーリングジェット16にオイルを供給するようシリンダ11に流路を形成するオイルサブホイール17とを備えている。ここで、図1の例の場合には、左側のピストン12に対する第一の潤滑手段13を、反スラスト荷重側であるシリンダ11内の天井部11cに配し、右側のピストン12に対する第二の潤滑手段14を、反スラスト荷重側であるシリンダ11内の側部11dに配している。
【0019】
一方、ピストン12のスカート部12aには、シリンダ11内での摺動時に潤滑手段13,14の噴射ノズル15に接触しないよう、シリンダ11内の反スラスト荷重側に切欠き部18を備え、ピストン12を左右のバンク3で共通化している。又、図1の例の場合に、左側のピストン12のスカート部12aに形成される切欠き部18は、第一の潤滑手段13の噴射ノズル15に対応するよう、シリンダ11の天井部寄り位置(上方位置)に形成されており、右側のピストン12のスカート部12aに形成される切欠き部18は、第二の潤滑手段14の噴射ノズル15に対応するよう、シリンダ11の側方寄り位置(下方位置)に形成されている。
【0020】
以下、本発明を実施する形態例の作用を説明する。
【0021】
ピストン12を冷却する際には、第一の潤滑手段13及び第二の潤滑手段14のオイルサブホイール17、クーリングジェット16を介して噴射ノズル15よりオイルをピストン12の内部へ噴射する。
【0022】
このように、実施の形態例によれば、シリンダ11内に設ける第一の潤滑手段13及び第二の潤滑手段14を、ピストン12の摺動により側圧を受けて強度が低いスラスト荷重側の面11aでなく、側圧が少なく強度が高い反スラスト荷重側の面11bに配置するので、シリンダ11の強度が低下することを抑制し、シリンダ11全体の強度を高めてシリンダ11の信頼性を向上することができる。又、ピストン12の切欠き部18を、側圧を受けるスラスト荷重側でなく、側圧が少ない反スラスト荷重側に形成するので、ピストン12の側圧を受ける側の強度が低下することを抑制し、ピストン12全体の強度を高めてピストン12の信頼性を向上することができる。更に、V型エンジン1の左右のバンク3で複数のピストン12を配する場合であっても、全てのピストン12の切欠き部18を反スラスト荷重側に配置してピストン12を共通化し得るので、製造コストを低減することができる。
【0023】
実施の形態例において、第一の潤滑手段13、第二の潤滑手段14は、ピストン12へオイルを噴射するクーリングジェット16と、クーリングジェット16にオイルを供給するオイルサブホイール17とを備えると、オイルサブホイール17とクーリングジェット16を反スラスト荷重側に好適に構成し得るので、シリンダ11の強度が低下することを容易に抑制し、シリンダ11全体の強度を適切に高めてシリンダ11の信頼性を向上することができる。
【0024】
尚、本発明のエンジンの潤滑構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、V型エンジンは6気筒、8気筒、10気筒、12気筒等のいずれでも良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のエンジンの潤滑構造を実施する形態例を示す概念図である。
【図2】V型エンジンの外形を示す概念図である。
【図3】従来のエンジンの潤滑構造の一例を示す概念図である。
【図4】従来のエンジンの潤滑構造の他例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0026】
1 V型エンジン
11 シリンダ
12 ピストン
13 第一の潤滑手段
14 第二の潤滑手段
16 クーリングジェット
17 オイルサブホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
V型エンジンのシリンダ内を摺動するピストンと、ピストンを冷却するようオイルを噴射する潤滑手段とを備えるエンジンの潤滑構造であって、
前記潤滑手段を、ピストンの摺動面に対応するシリンダの反スラスト荷重側に配置すると共に、前記潤滑手段の配置により構成されるピストンの切欠き部を、シリンダの反スラスト荷重側に形成したことを特徴とするエンジンの潤滑構造。
【請求項2】
潤滑手段は、ピストンへオイルを噴射するクーリングジェットと、該クーリングジェットにオイルを供給するオイルサブホイールとを備えた請求項1記載のエンジンの潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−146780(P2007−146780A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343805(P2005−343805)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】