説明

エンジンシステム

【課題】失火判定の学習機会をより確実に確保し、経年変化に拘わらずエンジンの失火の判定をより適正に行なう。
【解決手段】ユーザーによりレディオフが指示されたときには(S200)、エンジンを目標回転数Ne*で自立運転すると共に特定気筒への燃料カットを実施して擬似失火状態をつくり(S210〜S270)、擬似失火状態で検出されるエンジンの回転変動RFに基づいて失火判定用の閾値を学習する。そして、学習が完了したときに(S280)、エンジンを停止してレディオフとする(S310,S320)。これにより、失火判定の学習機会をより確実に確保することができ、経年変化に拘わらずエンジンの失火を適正に判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力軸がねじれ要素を介して後段に接続されたエンジンと、該エンジンの回転変動を検出する回転変動検出手段と、前記検出されたエンジンの回転変動が失火判定値以上のときに該エンジンに失火が生じていると判定する失火判定手段と、を備えるエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジンシステムとしては、エンジンのクランクシャフトの回転変動と判定用閾値とを比較することによりエンジンのいずれかの気筒が失火しているか否かを判定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムは、エンジンとモータとを備えるハイブリッド自動車に搭載されており、走行モード(ハイブリッド走行優先モード,電動機走行優先モード)に応じて判定用閾値を変更することにより、エンジンの失火を適正に判定することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−221897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したシステムでは、エンジンの回転変動に基づいて失火の判定を行なうため、エンジンやトランスアクスル系の経年変化によりエンジンの回転変動が変化すると、失火の判定精度が悪化してしまう。
【0005】
本発明のエンジンシステムは、失火判定の学習機会をより確実に確保し、経年変化に拘わらずエンジンの失火の判定をより適正に行なうことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジンシステムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジンシステムは、
出力軸がねじれ要素を介して後段に接続されたエンジンと、該エンジンの回転変動を検出する回転変動検出手段と、前記検出されたエンジンの回転変動が失火判定値以上のときに該エンジンに失火が生じていると判定する失火判定手段と、を備えるエンジンシステムにおいて、
システム停止が指示されたとき、前記エンジンを自立運転すると共に特定気筒への燃料の供給を制限することにより擬似失火状態をつくり、該擬似失火状態で前記検出されるエンジンの回転変動に基づいて前記失火判定値を学習し、該学習が完了したときに前記エンジンを停止する失火学習手段
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明のエンジンシステムでは、システム停止が指示されたとき、エンジンを自立運転すると共に燃料の供給を制限することにより擬似失火状態をつくり、擬似失火状態で検出されるエンジンの回転変動に基づいて失火判定値を学習し、学習が完了したときにエンジンを停止する。これにより、失火判定値の学習機会をより確実に確保することができるから、学習後の失火判定値を用いることにより経年変化に拘わらずエンジンの失火を適正に判定することができる。ここで、「擬似失火状態」とは、エンジンの特定気筒への燃料の供給を不足させて、エンジンを意図的に失火状態とすることをいう。
【0009】
こうした本発明のエンジンシステムにおいて、前記失火学習手段は、システム停止が指示される度に、前記エンジンを第1の回転数で自立運転させた状態で前記擬似失火状態をつくり前記失火判定値を学習する処理と、前記エンジンを前記第1の回転数よりも高い第2の回転数で自立運転させた状態で前記擬似失火状態をつくり前記失火判定値を学習する処理とを交互に行なうものとすることもできる。
【0010】
また、本発明のエンジンシステムにおいて、前記失火学習手段は、前記失火判定値の学習が完了する前に、操作者により強制終了が指示されたときには、前記学習の完了の有無に拘わらず前記エンジンを停止する手段であるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】エンジンECU24により実行される失火判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】エンジンECU24により実行される失火判定用閾値学習処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図6】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力する4気筒のエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にねじれ要素としてのダンパ28を介してキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、インバータ41,42とバッテリ50との間に介在するシステムメインリレー54と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという)70と、を備える。
【0014】
エンジン22は、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)134を介して外気へ排出される。
【0015】
エンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、例えば、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションθcrやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサからの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジションθca,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットル開度TH,吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温Ta,排気系に取り付けられた空燃比センサ135aからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサ135bからの酸素信号O2などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。なお、エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションθcrに基づいてクランクシャフト26の回転数即ちエンジン22の回転数Neを演算したり、クランクポジションθcrに基づいてクランクシャフト26が30度回転する毎に回転に要した時間としての30度回転所要時間T30を演算したりしている。ここで、30度回転所要時間T30は、その逆数を取るとクランクシャフト26が30度回転する毎のエンジン22の回転数としての30度回転数N30となるから、エンジン22の回転変動を時間の単位を用いて表わしたものとなる。
【0016】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0017】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vbやバッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、電流センサにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0018】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。HVECU70には、パワースイッチ80からのプッシュ信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、HVECU70からは、システムメインリレー54への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。HVECU70は、システムが停止しているときにブレーキオンの状態でパワースイッチ80からプッシュ信号を入力したときには、システムメインリレー54をオンとすると共に初期化処理を実行し、必要に応じてエンジン22を始動してシステムを起動状態、即ち、レディオン(READYON)とする。また、HVECU70は、システムが起動状態にあるときに停車時にパワースイッチ80からプッシュ信号を入力したときには、エンジン22を停止して起動処理を終了、即ち、レディオフ(READYOFF)とする。
【0019】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2との運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード,エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードとは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようエンジン22とモータMG1とモータMG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0020】
エンジン運転モードでは、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrv*を計算すると共に計算した走行用パワーPdrv*からバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によってモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行ない、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0021】
モータ運転モードでは、HVECU70は、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0022】
また、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジンECU24により、エンジン22で失火が生じているか否かを判定する。図3は、エンジンECU24により実行される失火判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22の運転中に所定時間毎に繰り返し実行する。
【0023】
失火判定処理ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、エンジン22の回転変動RFを入力し(ステップS100)、入力したエンジン22の回転変動RFを失火判定用の閾値RFrefと比較する(ステップS110)。ここで、エンジン22の回転変動RFは、実施例では、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションθcrに基づいて演算される30度回転所要時間T30がクランクシャフト26の2回転(エンジン22の1サイクル)の間で変動することを踏まえて、クランクシャフト26の2回転における30度回転所要時間T30の最大値と最小値との差分を入力するものとした。また、閾値RFrefは、エンジン22に失火が生じていないときのエンジン22の回転変動RFより大きく且つエンジン22に失火が生じているときのエンジン22の回転変動RF以下の値として実験や解析などによって得られた値を用いるものとした。エンジン22の回転変動RFが閾値RFref未満のときには、エンジン22で失火は生じていないと判定してそのまま本ルーチンを終了する。
【0024】
エンジン22の回転変動RFが閾値RFref以上のときには、初期値として値0が設定されるカウンタCを値1だけインクリメントして更新すると共に(ステップS120)、更新したカウンタCを、エンジン22の回転変動RFが閾値RFref以上であると確定するための閾値(失火確定用の閾値)Cref(例えば、値5や値7,値10など)と比較し(ステップS130)、カウンタCが閾値Cref未満のときには本ルーチンを終了する。一方、カウンタCが閾値Cref以上のときには、エンジン22の回転変動RFが閾値RFref以上であると確定し、エンジン22に失火が生じていると判定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。こうした処理により、エンジン22に失火が生じているか否かを判定することができる。なお、失火している気筒は、30度回転所要時間T30が極大となるときのクランクポジションθcrに応じて特定したり、30度回転所要時間T30の変化の様子(波形)に応じて特定したりすることができる。
【0025】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、前述したエンジン22の失火判定に用いる閾値RFrefを学習する処理について説明する。図4は、エンジンECU24により実行される失火判定用閾値学習処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、システムが起動されたときに実行される。
【0026】
失火判定用閾値学習処理ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、システムが起動状態で停車時にパワースイッチ80からのプッシュ信号が入力されるのを待つ、即ち、レディオフの指示がなされるまで待つ(ステップS200)。レディオフの指示がなされると、エンジン22の自立運転を開始し(ステップS210)、前回の学習に用いた自立運転時の回転数Ne*が高回転数Nhiであるか否かを判定し(ステップS220)、前回学習の自立運転時の回転数Ne*が高回転数Nhiのときには目標回転数Ne*に低回転数Nloを設定すると共に設定した目標回転数Ne*で自立運転するようエンジン22を運転制御し(ステップS230)、擬似失火条件が成立しているか否かを判定する(ステップS240)。一方、前回学習の自立運転時の回転数が低回転数Nloのときには目標回転数Ne*に高回転数Nhiを設定すると共に設定した目標回転数Ne*で自立運転するようエンジン22を運転制御し(ステップS250)、擬似失火条件が成立しているか否かを判定する(ステップS260)。ここで、低回転数Nloは、失火の判定が困難なアイドリング時の回転数に対応するものであり、例えば、1000rpmなどのように定められている。また、高回転数Nhiは、失火の判定が困難な高回転数低負荷時の回転数に対応するものであり、例えば、3000rpmなどのように定められている。実施例では、レディオフが指示される度に、アイドリング運転と高回転数低負荷運転の2種類の運転を交互に切り替えて学習を行なう。また、擬似失火条件は、実施例では、エンジン22の各種異常(例えば、燃焼系や点火系,スロットル系,可変バルブタイミング機構150,触媒134,図示しないEGR,各種センサなどの異常)が検出されていないことや、空燃比学習値やアイドル空気量学習値が所定値以上乖離していること,レディオン時(システム起動時)からのエンジン22の運転時間が所定時間以下であることなどを挙げることができる。擬似失火条件が成立していないときには、閾値RFrefの学習を行なうことなく、エンジン22を停止すると共に(ステップS310)、システムメインリレー54をオフしレディオフとして(ステップS320)、本ルーチンを終了する。
【0027】
擬似失火条件が成立していると判定されると、擬似失火制御を開始する(ステップS270)。ここで、擬似失火制御は、失火を意図的に発生させる制御であり、実施例では、特定気筒に対する燃料カットを行なうことにより擬似失火を実現するものとした。こうして擬似失火をつくりだすと、この擬似失火状態でクランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションθcrに基づいてエンジン22の回転変動RFを演算し、演算した回転変動RFと現在の失火判定用の閾値RFrefとのズレ量を導出し、導出したズレ量に基づいて閾値RFrefを補正することにより失火学習を行なう。そして、失火学習が完了したか否かを判定し(ステップS280)、失火学習が完了したときには、エンジン22を停止すると共に(ステップS310)、システムメインリレー54をオフしレディオフとして(ステップS320)、本ルーチンを終了する。一方、失火学習が完了していないときには、所定時間Trefが経過したか否か(ステップS290)、強制停止要求がなされているか否か(ステップS300)を判定する。ここで、所定時間Trefは、失火学習に通常要する時間よりも長い時間として設定されている。また、強制停止は、失火学習を中止して強制的にレディオフとする処理であり、例えば、パワースイッチ80からもう一度プッシュ信号が入力されたときなどになされる。所定時間Trefが経過しておらず且つ強制停止要求もなされていないと判定されたときには、ステップS280に戻って失火学習が完了するのを待ち、所定時間が経過したと判定されたときや強制停止要求がなされていると判定されたときには、失火学習の完了を待つことなく、エンジン22を停止すると共に(ステップS310)、システムメインリレー54をオフしレディオフとして(ステップS320)、本ルーチンを終了する。
【0028】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、レディオフが指示されたときには、エンジン22を目標回転数Ne*で自立運転すると共に特定気筒への燃料カットを実施して擬似失火状態をつくり、擬似失火状態で検出されるエンジン22の回転変動RFに基づいて失火判定用の閾値RFrefを学習し、学習が完了したときにエンジン22を停止してレディオフとするから、失火判定の学習機会をより確実に確保することができる。この結果、学習した失火判定用の閾値RFrefを用いることにより経年変化に拘わらずエンジン22の失火を適正に判定することができる。しかも、レディオフが指示される度に、低回転数Nloでのエンジン22の自立運転と高回転数Nhiでのエンジン22の自立運転の2種類の運転を交互に切り替えて学習を行なうから、失火判定用の閾値RFrefをより精度よく学習することができる。
【0029】
実施例のハイブリッド自動車20では、レディオフが指示される度に、低回転数Nloでのエンジン22の自立運転(アイドリング運転)と高回転数Nhiでのエンジン22の自立運転(高回転数低負荷運転)の2種類の運転を交互に切り替えて学習を行なうものとしたが、例えばアイドリング運転時の回転数を用いた1種類の運転だけで学習を行なうものとしてもよいし、自立運転時の回転数が異なる3種類以上の運転を順次切り替えて学習を行なうものとしてもよい。
【0030】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の失火は、エンジン22の回転変動RFが閾値RFref以上で且つカウンタCが閾値Cref以上となったときに確定するものとしたが、エンジン22の回転変動RFが閾値RFref以上となったときに直ちに確定するものとしてもよい。
【0031】
実施例のハイブリッド自動車20では、失火学習が完了する前に強制停止要求がなされたときには、直ちにエンジン22を停止してレディオフとしたが、こうした強制停止の処理を実行しないものとしてもよい。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、クランクシャフト26が30度回転するのに要する時間である30度回転所要時間T30を用いて失火を判定するものとしたが、30度回転所要時間T30はクランクシャフト26の30度毎の回転数である30度回転数N30の逆数であるから、30度回転数N30を用いて失火を判定するものとしても構わない。
【0033】
実施例のハイブリッド自動車20では、クランクシャフト26が30度回転するのに要する時間としての30度回転所要時間T30をベースとしてエンジン22の失火を判定するものとしたが、クランクシャフト26が5度回転するのに要する時間として5度所要時間T5や10度回転するのに要する時間として10度所要時間T10など種々の所要時間を用いてエンジン22の失火を判定するものとしてもかまわない。また、5度毎のクランクシャフト26の回転数である5度回転数N5や10度毎のクランクシャフト26の回転数である10度回転数N10など種々の回転数を用いてエンジン22の失火を判定するものとしても構わない。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、4気筒のエンジン22を用いるものとしたが、2気筒や6気筒,8気筒など、気筒数はいくつであっても構わない。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図5の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸36が接続された車軸(駆動輪38a,38bが接続された車軸)とは異なる車軸(図5における車輪39a,39bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力するものとしたが、図6の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪38a,38bに動力を出力する駆動軸36に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン22からの動力の一部を駆動軸36に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図7の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に変速機330を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。あるいは、図8の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22からの動力を変速機430を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪38a,38bが接続された車軸とは異なる車軸(図8における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0038】
実施例では、本発明をエンジン22からの動力とモータMG2からの動力とを用いて走行するハイブリッド自動車20に適用するものとしたが、走行用の動力を出力するモータを備えずにエンジンからの動力だけを用いて走行する自動車に適用するものとしてもよい。
【0039】
また、本発明をこうしたハイブリッド自動車に適用するものに限定されるものではなく、自動車以外の車両や船舶,航空機などの移動体に搭載されるエンジンシステムの形態や建設設備などの移動しない設備に組み込まれたエンジンシステムの形態としても構わない。
【0040】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、図3の失火判定処理ルーチンを実行するエンジンECU24が「失火判定手段」に相当し、図4の失火判定用閾値学習処理ルーチンを実行するエンジンECU24が「失火学習手段」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0041】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、エンジンシステムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
20,120,220,320,420 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、39a,39b 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 パワースイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136,スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330,430 変速機、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸がねじれ要素を介して後段に接続されたエンジンと、該エンジンの回転変動を検出する回転変動検出手段と、前記検出されたエンジンの回転変動が失火判定値以上のときに該エンジンに失火が生じていると判定する失火判定手段と、を備えるエンジンシステムにおいて、
システム停止が指示されたとき、前記エンジンを自立運転すると共に特定気筒への燃料の供給を制限することにより擬似失火状態をつくり、該擬似失火状態で前記検出されるエンジンの回転変動に基づいて前記失火判定値を学習し、該学習が完了したときに前記エンジンを停止する失火学習手段
を備えることを特徴とするエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−47493(P2013−47493A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186272(P2011−186272)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】