説明

エンジン出力調整システムおよびそれを備えた車両

【課題】車両の快適な走行を可能にするエンジン出力調整システムおよびそれを備えた車両を提供する。
【解決手段】自動二輪車は、エンジン、CPU、クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWを備える。運転者によりシフト操作が行われた場合に、CPUはエンジンの出力調整を行う。CPUによりエンジンの出力調整が行われている場合には、シフトスイッチSWによりクラッチレバー106bの回動動作が阻害される。それにより、CPUによってエンジンの出力調整が行われている際にクラッチが切断されることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションのシフト動作を補助するエンジン出力調整システムおよびそれを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
マニュアルトランスミッションを備えた車両においてギアシフトを行う場合、通常、運転者は、まずクラッチを切断する。これにより、エンジンのクランクシャフトからトランスミッションのメインシャフトへの動力の伝達が停止され、ギアの切り離しが容易になる。この状態で、運転者はシフト操作を行い、ギアポジションを変更する。最後に、運転者は、クラッチを接続し、クランクシャフトからメインシャフトへ動力を伝達させる。これにより、ギアシフトが完了する。
【0003】
ところで、レース等においては、迅速なギアシフトが求められる。そのため、運転者は、クラッチ操作を行わずにギアシフト(以下、クラッチレスシフトと称する)を行う場合がある。この場合、クランクシャフトからメインシャフトへ動力が伝達されている状態でギアシフトが行われるので、ギアの切り離しが困難である。そのため、運転者は、ギアの切り離しを容易に行うことができるように、エンジンの出力を調整しなければならない。
【0004】
このようなエンジンの出力の調整は、熟練度の低い運転者にとっては困難な操作である。したがって、熟練度の低い運転者がクラッチレスシフトを行った場合、円滑にギアシフトを行えない場合がある。
【0005】
そこで、従来より、クラッチレスシフトにおいてエンジンの出力を制御する装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に記載されているエンジン出力制御装置においては、運転者がシフト操作を行った場合に、点火制御装置によりエンジンの点火時期が遅らされる。それにより、変速機の出力軸側のギアと入力軸側のギアとの間に作用する駆動力が低減される。その結果、運転者は、円滑なシフト操作を行うことができる。
【0007】
また、上記のエンジン出力制御装置には、手動式のON−OFFスイッチが設けられている。このON−OFFスイッチを操作することにより、点火制御装置による点火時期の制御を禁止することができる。それにより、状況に応じてエンジンの出力制御を行うか否かを選択することができる。
【特許文献1】特開平6−146941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、点火制御装置によるエンジンの出力調整中にクラッチが切断された場合、エンジン側のクランクシャフトと変速機側のメインシャフトとの回転数に差が生じる場合がある。その状態で、クラッチを再び接続すると車両にショックが発生し走行フィーリングが低下するおそれがある。
【0009】
上記のエンジン出力制御装置の構成では、点火制御装置によるエンジンの出力調整中においても、クラッチレバーを容易に操作することができる。したがって、点火制御装置によるエンジンの出力制御が行われていることに気付かずに運転者が誤ってクラッチを切断するおそれがある。この場合、クラッチを接続する際に運転者にとって想定外のショックが車両に発生し、車両の走行フィーリングが低下する。
【0010】
本発明の目的は、車両の快適な走行を可能にするエンジン出力調整システムおよびそれを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)第1の発明に係るエンジン出力調整システムは、エンジンにより発生される回転力をクラッチおよび変速機を介して駆動輪に伝達する車両においてエンジンの出力調整を行うエンジン出力調整システムであって、運転者により変速機のシフト操作が行われた場合にエンジンの出力調整を行うエンジン出力調整部と、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている場合に、運転者によるクラッチの切断を阻害する阻害機構とを備えるものである。
【0012】
このエンジン出力調整システムによれば、運転者により変速機のシフト操作が行われた場合にエンジンの出力調整が行われる。それにより、変速機の入力軸側のギアと出力軸側のギアとの係合力が低下し、それらのギアを容易に離間させることが可能となる。その結果、運転者は、クラッチレスシフトを容易に行うことができる。
【0013】
また、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている場合には、阻害機構により運転者によるクラッチの切断が阻害される。この場合、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている最中に運転者によりクラッチが切断されることを防止することができる。それにより、シフト操作時に運転者にとって想定外のショックが車両に発生することを防止することができる。その結果、車両の走行フィーリングの低下を防止できる。
【0014】
また、阻害機構によりクラッチの切断が阻害されるので、運転者は、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われていることを容易に認識することができる。それにより、運転者がエンジンの出力調整中に誤ってクラッチを切断しようとした場合にも、運転者は即座にその操作を中断することができる。その結果、車両の走行フィーリングの低下を確実に防止できる。
【0015】
以上の結果、車両の快適な走行が可能になる。
【0016】
(2)阻害機構は、運転者によりクラッチが切断されている場合には、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整を阻害してもよい。
【0017】
この場合、クラッチが切断されている状態でエンジン出力調整部によるエンジンの出力調整が行われることを防止することができる。それにより、クラッチの接続時に運転者にとって想定外のショックが車両に発生することを防止することができる。その結果、車両のより快適な走行が可能となる。
【0018】
(3)阻害機構は、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整および運転者によるクラッチの切断のうち一方を可能にしてもよい。
【0019】
この場合、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整および運転者によるクラッチの切断が同時に行われることを防止することができる。それにより、運転者にとって想定外のショックが車両に発生することを確実に防止することができる。
【0020】
(4)エンジン出力調整システムは、運転者により操作されるスイッチ機構をさらに備え、エンジン出力調整部は、スイッチ機構が操作され、かつ変速機のシフト操作が行われた場合に、エンジンの出力調整を行ってもよい。
【0021】
この場合、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整を行うためには、運転者は、スイッチ機構の操作およびシフト操作の2つの動作を行わなければならない。これにより、運転者の意思に反してエンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われることを防止することができる。
【0022】
(5)エンジン出力調整システムは、クラッチを操作する際に運転者に操作されるクラッチ操作部材をさらに備え、阻害機構は、運転者によりスイッチ機構が操作されている場合に、運転者によるクラッチ操作部材の操作を阻害してもよい。
【0023】
この場合、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整が行われている場合に、運転者が誤ってクラッチ操作部材を操作しようとした場合にも、クラッチが切断されることを防止することができる。それにより、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整中にクラッチが切断されることを防止することができる。また、運転者によるクラッチ操作が阻害されるので、運転者は即座にその操作を中断することができる。これらの結果、車両の走行フィーリングの低下をより確実に防止することができる。
【0024】
(6)阻害機構は、運転者によりクラッチ操作部材が操作されている場合に、運転者によるスイッチ機構の操作を阻害してもよい。
【0025】
この場合、運転者がクラッチ操作中に誤ってスイッチ機構を操作しようとした場合にも、スイッチ機構が操作されることを防止することができる。それにより、クラッチが切断されている状態でエンジンの出力調整が行われることを防止することができる。また、運転者によるスイッチ機構の操作が阻害されるので、運転者は即座にその操作を中断することができる。これらの結果、車両の走行フィーリングの低下を十分に防止することができる。
【0026】
(7)阻害機構は、スイッチ機構およびクラッチ操作部材を含み、スイッチ機構は運転者の操作に連動して移動する第1の移動部を含み、クラッチ操作部材は運転者の操作に連動して移動する第2の移動部を含み、第1の移動部は、運転者によりスイッチ機構が操作された場合に第2の移動部の移動を阻害する位置に移動し、第2の移動部は、運転者によりクラッチ操作部材が操作された場合に第1の移動部の移動を阻害する位置に移動してもよい。
【0027】
この場合、運転者がスイッチ機構を操作した場合には、スイッチ機構の第1の移動部によりクラッチ操作部材の第2の移動部の移動が阻害される。したがって、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整が行われている場合に、運転者が誤ってクラッチ操作部材を操作しようとした場合にも、クラッチが切断されることを防止することができる。それにより、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整中にクラッチが切断されることを防止することができる。また、運転者によるクラッチ操作が阻害されるので、運転者は即座にその操作を中断することができる。これらの結果、車両の走行フィーリングの低下を十分に防止することができる。
【0028】
また、運転者がクラッチ操作部材を操作した場合には、クラッチ操作部材の第2の移動部によりスイッチ機構の第1の移動部の移動が阻害される。したがって、運転者がクラッチ操作中に誤ってスイッチ機構を操作しようとした場合にも、スイッチ機構が操作されることを防止することができる。それにより、クラッチが切断されている状態でエンジンの出力調整が行われることを防止することができる。また、運転者によるスイッチ機構の操作が阻害されるので、運転者は即座にその操作を中断することができる。これらの結果、車両の走行フィーリングの低下を確実に防止することができる。
【0029】
(8)阻害機構は、スイッチ機構およびクラッチ操作部材を含み、スイッチ機構は運転者の操作に連動して第1の方向に移動する第3の移動部を含み、クラッチ操作部材は運転者の操作に連動して第2の方向に移動する第4の移動部を含み、第3の移動部は、運転者によりスイッチ機構が操作された場合に第4の移動部を第2の方向と逆方向に付勢し、第4の移動部は、運転者によりクラッチ操作部材が操作された場合に第3の移動部を第1の方向と逆方向に付勢してもよい。
【0030】
このエンジン出力調整システムにおいては、スイッチ機構を操作する際には、運転者は、スイッチ機構の第3の移動部を第1の方向に移動させる。また、クラッチ操作部材を操作する際には、運転者は、クラッチ操作部材の第4の移動部を第2の方向に移動させる。
【0031】
ここで、運転者がスイッチ機構を操作した場合には、スイッチ機構の第3の移動部によりクラッチ操作部材の第4の移動部が第2の方向と逆方向に付勢される。したがって、エンジン出力調整部によるエンジンの出力調整が行われている場合に、運転者が誤ってクラッチ操作部材を操作しようとした場合にも、運転者は即座にその操作を中断することができる。
【0032】
また、運転者がクラッチ操作部材を操作した場合には、クラッチ操作部材の第4の移動部によりスイッチ機構の第3の移動部が第1の方向と逆方向に付勢される。したがって、運転者がクラッチ操作中に誤ってスイッチ機構を操作しようとした場合にも、運転者は即座にその操作を中断することができる。
【0033】
以上の結果、車両の走行フィーリングの低下を十分に防止することができる。
【0034】
(9)エンジン出力調整部は、運転者により変速機のシフト操作が行われた場合に、回転力がエンジンから変速機へ伝達されている駆動状態における回転力が第1の値以上である場合にはエンジンの出力を低下させ、駆動状態における回転力が第1の値よりも小さい場合には出力低下を行わなくてもよい。
【0035】
この場合、駆動状態において運転者がシフト操作を行ったときに回転力が第1の値以上である場合に、エンジンの出力が低下される。それにより、変速機の入力軸と出力軸との間で伝達される回転力が低下し、変速機の入力軸側のギアと出力軸側のギアとの係合力が低下する。その結果、変速機の入力軸側のギアと出力軸側のギアとを容易に離間させることが可能となり、運転者は、クラッチレスシフトを容易に行うことができる。
【0036】
また、駆動状態における回転力が第1の値より小さい場合には、上記の出力低下は行われない。ここで、駆動状態における回転力が第1の値より小さい場合には、変速機の入力軸と出力軸との間で伝達される回転力は小さい。この場合、変速機の入力軸側のギアと出力軸側のギアとに大きな係合力は発生しない。したがって、エンジンの出力低下が行われなくても、運転者はクラッチレスシフトを容易に行うことができる。この場合、エンジンの出力低下によるショックが車両に発生しない。それにより、車両の走行フィーリングの低下が防止され、運転者が不快感を感じることを防止することができる。
【0037】
以上の結果、車両の快適な走行が可能となる。
【0038】
(10)第2の発明に係る車両は、駆動輪と、駆動輪を回転させるための回転力を発生するエンジンと、エンジンにより発生される回転力を駆動輪に伝達する変速機と、エンジンと変速機との間に設けられるクラッチと、第1の発明に係るエンジン出力調整システムとを備えたものである。
【0039】
この車両においては、エンジンにより発生される回転力がクラッチおよび変速機を介して駆動輪に伝達される。エンジンの出力は、第1の発明に係るエンジン出力調整システムにより調整される。
【0040】
この場合、運転者により変速機のシフト操作が行われた場合にエンジンの出力調整が行われる。それにより、変速機の入力軸側のギアと出力軸側のギアとの係合力が低下し、それらのギアを容易に離間させることが可能となる。その結果、運転者は、クラッチレスシフトを容易に行うことができる。
【0041】
また、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている場合には、阻害機構により運転者によるクラッチの切断が阻害される。この場合、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている最中に運転者によりクラッチが切断されることを防止することができる。それにより、シフト操作時に運転者にとって想定外のショックが車両に発生することを防止することができる。その結果、車両の走行フィーリングの低下を防止できる。
【0042】
また、阻害機構によりクラッチの切断が阻害されるので、運転者は、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われていることを容易に認識することができる。それにより、運転者がエンジンの出力調整中に誤ってクラッチを切断しようとした場合にも、運転者は即座にその操作を中断することができる。その結果、車両の走行フィーリングの低下を確実に防止できる。
【0043】
以上の結果、車両の快適な走行が可能になる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、運転者により変速機のシフト操作が行われた場合にエンジンの出力調整が行われる。それにより、変速機の入力軸側のギアと出力軸側のギアとの係合力が低下し、それらのギアを容易に離間させることが可能となる。その結果、運転者は、クラッチレスシフトを容易に行うことができる。
【0045】
また、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている場合には、阻害機構により運転者によるクラッチの切断が阻害される。この場合、エンジン出力調整部によりエンジンの出力調整が行われている最中に運転者によりクラッチが切断されることを防止することができる。それにより、シフト操作時に運転者にとって想定外のショックが車両に発生することを防止することができる。その結果、車両の走行フィーリングの低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態に係るエンジン出力調整システムおよびそれを備える車両について図面を用いて説明する。なお、以下の説明においては、車両の一例として自動二輪車について説明する。
【0047】
(A)第1の実施の形態
(1)自動二輪車の概略構成
図1は、第1の実施の形態に係るエンジン出力調整システムが適用された自動二輪車を示す概略側面図である。
【0048】
図1の自動二輪車100においては、本体フレーム101の前端にヘッドパイプ102が設けられる。ヘッドパイプ102にフロントフォーク103が回動可能に設けられる。フロントフォーク103の下端に前輪104が回転可能に支持される。ヘッドパイプ102の上端にはハンドル105が設けられる。
【0049】
ハンドル105には、固定グリップ106a、クラッチレバー106b、アクセルグリップ106c、ブレーキレバー(図示せず)、アクセル開度センサSE1および報知ランプ60が設けられる。固定グリップ106aとクラッチレバー106bとの間には、シフトスイッチSWが設けられる。
【0050】
シフトスイッチSWは、運転者によりオンにされている場合には、オン状態を示す信号(以下、シフト信号と称する)を出力する。シフトスイッチSWの詳細は後述する。アクセル開度センサSE1は、運転者によるアクセルグリップ106cの操作量(以下、アクセル開度と称する)を検出する。報知ランプ60については後述する。
【0051】
本体フレーム101の中央部には、エンジン107が設けられる。エンジン107には、吸気管79および排気管118が取り付けられる。エンジン107の下部には、クランクケース109が取り付けられる。クランクケース109内には、クランク角センサSE2が設けられる。クランク角センサSE2は、エンジン107の後述するクランク2(図2および図15参照)の回転角度を検出する。
【0052】
また、吸気管79内には、スロットルセンサSE3が設けられる。スロットルセンサSE3は、後述する電子制御式スロットルバルブ(ETV)82(図15参照)の開度を検出する。
【0053】
本体フレーム101の下部には、クランクケース109に連結されるミッションケース110が設けられる。ミッションケース110内には、シフトカム回転角センサSE4、ドライブ軸回転速度センサSE5、後述する変速機5(図2参照)および後述するシフト機構7(図2参照)が設けられる。
【0054】
シフトカム回転角センサSE4は、後述するシフトカム7b(図2参照)の回転角度を検出する。ドライブ軸回転速度センサSE5は、後述するドライブ軸5b(図2参照)の回転速度を検出する。変速機5およびシフト機構7の詳細は後述する。
【0055】
ミッションケース110の側部には、変速操作機構111が設けられる。変速操作機構111は、シフトペダル11、第1の連結アーム12、荷重センサSE6、第2の連結アーム13、回動アーム14および回動軸15を備える。回動軸15の一端は回動アーム14に固定され、他端は後述するシフト機構7(図2参照)に連結されている。
【0056】
例えば、変速機5をシフトアップさせる場合には、運転者は、シフトペダル11を踏み込んでシフトペダル11を時計回り(図1に矢印で示す方向)に回動させる。これにより、第1および第2の連結アーム12,13が自動二輪車100の後方側に向かって移動し、回動アーム14および回動軸15が時計回りに回動する。その結果、シフト機構7が操作され、変速機5のシフトアップが行われる。なお、変速機5をシフトダウンさせる場合には、シフトペダル11を反時計回りに回動させる。それにより、回動軸15が上記の場合と逆の方向(反時計回り)に回動する。その結果、シフト機構7が操作され、変速機5のシフトダウンが行われる。
【0057】
荷重センサSE6は、例えば弾性式(歪ゲージ式、静電容量式等)または磁歪式のロードセルからなり、荷重センサSE6に働く引張荷重および圧縮荷重を検出する。運転者が、シフトペダル11を時計回りに回動させた場合(シフトアップ操作)には、荷重センサSE6に引張荷重が働く。また、運転者が、シフトペダル11を反時計回りに回動させた場合(シフトダウン操作)には、荷重センサSE6に圧縮荷重が働く。
【0058】
エンジン107の上部には燃料タンク112が設けられ、燃料タンク112の後方にはシート113が設けられる。シート113の下部には、ECU50(Electronic ControlUnit;電子制御ユニット)が設けられる。
【0059】
ECU50は、後述するI/F(インターフェース)501(図15参照)、CPU(中央演算処理装置)502(図15参照)、ROM(リードオンリメモリ)503(図15参照)およびRAM(ランダムアクセスメモリ)504(図15参照)を含む。シフトスイッチSWのシフト信号および上記のセンサSE1〜SE6の検出値は、I/F501を介してCPU502に与えられる。
【0060】
CPU502は、後述するように、シフトスイッチSWのシフト信号および各センサSE1〜SE6の検出値に基づいてエンジン107の動作を制御する。ROM503は、CPU502の制御プログラム等を記憶する。RAM504は、後述する第1〜第6のしきい値等を記憶するとともに、CPU502の作業領域として機能する。
【0061】
エンジン107の後方に延びるように、本体フレーム101にリアアーム114が接続される。リアアーム114は、後輪115および後輪ドリブンスプロケット116を回転可能に保持する。後輪ドリブンスプロケット116には、チェーン117が取り付けられる。
【0062】
エンジン107の排気ポートには、排気管118の一端側が取り付けられる。排気管118の他端側には、マフラー119が取り付けられる。
【0063】
(2)変速機構
図2は、図1のミッションケース110内に設けられる変速機およびシフト機構の構成を説明するための図である。
【0064】
図2に示すように、変速機5は、メイン軸5aおよびドライブ軸5bを備える。メイン軸5aには複数の変速ギア5cが装着されており、ドライブ軸5bには複数の変速ギア5dおよび後輪ドライブスプロケット5eが装着されている。後輪ドライブスプロケット5eには、図1のチェーン117が取り付けられる。
【0065】
図1のエンジン107により発生される回転力(駆動力)は図2のクランク2を介してクラッチ3に伝達される。クラッチ3に伝達された回転力は、変速機5のメイン軸5aに伝達される。メイン軸5aに伝達された回転力は、変速ギア5c,5dを介してドライブ軸5bに伝達される。ドライブ軸5bに伝達された回転力は、後輪ドライブスプロケット5e、チェーン117(図1)および後輪ドリブンスプロケット116(図1)を介して後輪115(図1)に伝達される。それにより、後輪115が回転する。
【0066】
図3は、メイン軸5aに伝達された回転力がドライブ軸5bに伝達される構成を示す概略模式図である。
【0067】
なお、図3(a),(b)においては、複数の変速ギア5cのうちの変速ギア5c1および変速ギア5c2が示され、複数の変速ギア5dのうちの変速ギア5d1および変速ギア5d2が示されている。
【0068】
変速ギア5c1は、セレーション構造によりメイン軸5aに装着されている。すなわち、変速ギア5c1は、メイン軸5aの軸方向においては移動自在であるが、メイン軸5aの回転方向においてはメイン軸5aに固定されている。そのため、変速ギア5c1は、メイン軸5aが回転することにより回転する。変速ギア5c2は、メイン軸5aの軸方向における移動が禁止された状態でメイン軸5aに回転自在に装着されている。
【0069】
変速ギア5d1は、ドライブ軸5bの軸方向における移動が禁止された状態でドライブ軸5bに回転自在に装着されている。図3(a)に示すように、変速ギア5c1と変速ギア5d1とが噛み合っている場合には、メイン軸5aが回転することにより変速ギア5d1が回転する。
【0070】
変速ギア5d2は、セレーション構造によりドライブ軸5bに装着されている。すなわち、変速ギア5d2は、ドライブ軸5bの軸方向においては移動自在であるが、ドライブ軸5bの回転方向においてはドライブ軸5bに固定されている。そのため、ドライブ軸5bは、変速ギア5d2が回転することにより回転する。
【0071】
図3(a)に示すように、変速ギア5d2が変速ギア5d1から離間している場合には、変速ギア5d1は、ドライブ軸5bの回転方向においてドライブ軸5bに固定されていない。この場合、メイン軸5aが回転することにより、変速ギア5d1が回転するが、ドライブ軸5bは回転しない。このように、メイン軸5aからドライブ軸5bに回転力(駆動力)が伝達されない状態をギアがニュートラルポジションにあると呼ぶ。
【0072】
図3(b)に示すように、変速ギア5d2が変速ギア5d1に近接するように軸方向に移動することにより、変速ギア5d2の側面に設けられた凸状のドッグ5fが、変速ギア5d1の側面に設けられた凹状のドッグ穴(図示せず)に係合する。それにより、変速ギア5d1と変速ギア5d2とが固定される。この場合、メイン軸5aが回転することにより、変速ギア5d1とともに変速ギア5d2が回転する。それにより、ドライブ軸5bが回転する。
【0073】
なお、図3(a)の状態から、変速ギア5c1を変速ギア5c2に近接させ、変速ギア5c1と変速ギア5c2とを固定した場合には、変速ギア5c2は変速ギア5c1とともに回転する。この場合、変速ギア5d2は、変速ギア5c2の回転に基づいて回転する。それにより、ドライブ軸5bが回転する。以下、変速ギア5c1,5d2のように、メイン軸5aまたはドライブ軸5b上を軸方向に移動する変速ギアをスライドギアと称する。また、変速ギア5c2,5d1のように、メイン軸5aまたはドライブ軸5bの軸方向における移動が禁止された変速ギアをフィックスギアと称する。
【0074】
このように、変速機5においては、スライドギアを移動させ、スライドギアとフィックスギアとの組み合わせを変更することにより、メイン軸5aからドライブ軸5bへの回転力(駆動力)の伝達経路を変更することができる。それにより、ドライブ軸5bの回転速度を変更することができる。なお、スライドギアは、後述のシフトアーム7aにより移動される。
【0075】
図2に示すように、シフト機構7は、シフトアーム7a、シフトカム7bおよび複数のシフトフォーク7cを備える。シフトアーム7aの一端側は、回動軸15に固定され、他端側はシフトカム7bの一端に連結されている。シフトカム7bには、複数のカム溝7dが形成されている。この複数のカム溝7dに複数のシフトフォーク7cがそれぞれ装着されている。シフトカム7bの他端には、シフトカム回転角センサSE4が設けられている。
【0076】
上述したように、回動軸15は、運転者がシフトペダル11を回動させることにより回動する。回動軸15が回動することにより、シフトアーム7aが一端側を中心として回動する。それにより、シフトカム7bが回動する。
【0077】
シフトカム7bが回動することにより、各シフトフォーク7cがカム溝7dに沿って移動する。それにより、スライドギアが移動され、メイン軸5aからドライブ軸5bへの回転力(駆動力)の伝達経路が変更される。すなわち、変速機5の変速比が変更される。
【0078】
(3)シフトスイッチ
シフトスイッチSW(図1)がオンの状態で運転者によりシフトペダル11(図1)が操作された場合(以下、シフト操作と称する)には、CPU502(図15参照)によりエンジンの出力調整が行われる。それにより、運転者は、容易にクラッチレスシフトを行うことができる。
【0079】
ここで、本実施の形態においては、シフトスイッチSWがオンになっている状態では運転者はクラッチ操作を行うことができない。これにより、CPU502によるエンジン107の出力調整中にクラッチ3が切断されることが防止される。その結果、シフト操作時に自動二輪車100に大きなショックが発生することを防止することができる。以下、図面を用いてシフトスイッチSWの構成を説明する。
【0080】
まず、固定グリップ106a、クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWの位置関係について説明する。
【0081】
図4および図5は、固定グリップ106a、クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWを上方から見た図である。なお、図4は通常時の状態(クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWが操作されていない状態)を示し、図5は運転者がシフトスイッチSWを操作せずにクラッチ操作を行っているときの状態を示している。
【0082】
図4に示すように、シフトスイッチSWは、ハンドル105の本体部105aに固定されている。固定グリップ106aは、本体部105aに固定されている。クラッチレバー106bは棒状部61および略方形の幅広部62を有する。幅広部62は連結ピン63によって本体部105aに回動可能に取り付けられている。また、幅広部62には、固定ピン64によってクラッチワイヤ65の一端が連結されている。クラッチワイヤ65の他端はクラッチ3(図2)に連結されている。
【0083】
図5に示すように、運転者が固定グリップ106aに手を掛けた状態で棒状部61を握ることにより、クラッチレバー106bは、連結ピン63を中心として回動する。それにより、クラッチワイヤ65が引っ張られ、クラッチ3が切断される。
【0084】
次に、シフトスイッチSWの構成について説明する。図6は、図4のシフトスイッチSWのA−A線縦断面図である。また、図7および図8は、固定グリップ106a、クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWを上方から見た図である。
【0085】
図4〜図6に示すように、固定部材80内には、空間部81が形成されている。空間部81の一端側において、固定部材80にボタン82が設けられている。シフトスイッチSWは、ボタン82が押下されている場合にシフト信号を出力する。
【0086】
空間部81内にはバネ部材83が設けられている。バネ部材83の一端は、空間部81の一端側において固定部材80に固定されている。固定部材80の一端部は、本体部105aに埋設されている。固定部材80の他端部には、鍔状の係合部84が形成されている。
【0087】
図6に示すように、移動部材90は、ボタン押下部91および支持部92を有する。ボタン押下部91の一端部には鍔状の係合部93が形成され、他端部には鍔状の係合部94が形成されている。ボタン押下部91の一端部は、空間部81に摺動可能に嵌入されている。ボタン押下部91の一端部にはバネ部材83の他端が当接する。これにより、ボタン押下部91は、バネ部材83によりボタン82から離間する方向に付勢される。なお、クラッチレバー106bは、幅広部62の下端部62aが固定部材80の下端部より低くかつ支持部92の下端部より高くなるように設けられる。
【0088】
図4および図6に示すように、通常時には、ボタン押下部91は、係合部93と固定部材80の係合部84とが係合する位置までバネ部材83により押し出される。この場合、ボタン押下部91によりボタン82は押下されていないので、シフトスイッチSWからシフト信号は出力されない。
【0089】
図7に示すように、運転者によりボタン押下部91が押下された場合には、ボタン押下部91は、係合部94が固定部材80の係合部84に当接する位置まで押し込まれる。これにより、ボタン押下部91によりボタン82(図4参照)が押下され、シフトスイッチSWからシフト信号が出力される。
【0090】
ここで、本実施の形態においては、図7に示すように、ボタン押下部91によりボタン82が押下されている場合には、クラッチレバー106bの回動動作が支持部92により阻害される。詳細には、幅広部62が支持部92の側面に当接することにより、クラッチレバー106bの回動が阻害される。したがって、本実施の形態においては、CPU502(図15参照)によりエンジン107の出力調整が行われている場合には、運転者はクラッチ3を切断することができない。
【0091】
また、図8に示すように、運転者によりクラッチ操作が行われている場合には、ボタン押下部91によるボタン82の押下が阻害される。詳細には、支持部92が幅広部62に当接することにより、ボタン押下部91の移動が阻害される。したがって、本実施の形態においては、運転者がクラッチ操作を行っている場合には、CPU502によるエンジン107の出力調整は行われない。
【0092】
なお、CPU502によるエンジン107の出力調整については後述する。
【0093】
(4)効果
以上のように、本実施の形態においては、CPU502によりエンジン107の出力調整が行われている場合には、運転者はクラッチ3を切断することができない。それにより、シフト操作時に運転者にとって想定外のショックが自動二輪車100に発生することを防止することができる。その結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0094】
また、運転者によりクラッチ3が切断されている場合には、運転者はシフトスイッチSWをオンにすることができない。それにより、運転者がクラッチ操作を行っている最中にシフトスイッチSWを誤ってオンにすることを防止することができる。この場合、クラッチ3が切断されている状態でCPU502によるエンジン107の出力調整が行われることを防止することができる。それにより、クラッチ3の接続時に運転者にとって想定外のショックが自動二輪車100に発生することを防止することができる。その結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0095】
また、本実施の形態においては、CPU502によるエンジン107の出力調整が行われている状態においては、シフトスイッチSWによりクラッチレバー106bの回動が阻害される。それにより、運転者はCPU502によってエンジン107の出力調整が行われていることを容易に認識することができる。その結果、運転者が誤ってクラッチレバー106bを操作しようとした場合に、その操作を即座に中断することができる。
【0096】
また、運転者によりクラッチレバー106bが操作されている状態においては、クラッチレバー106bにより、シフトスイッチSWの押下が阻害される。したがって、運転者がクラッチ操作中に誤ってシフトスイッチSWを押下しようとした場合、その操作を即座に中断することができる。
【0097】
(B)第2の実施の形態
第2の実施の形態に係る自動二輪車が第1の実施の形態に係る自動二輪車100と異なるのは以下の点である。
【0098】
図9〜図13は、第2の実施の形態に係るシフトスイッチSWを説明するための図である。なお、図9および図10は、固定グリップ106a、クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWを上方から見た図である。また、図11〜図13は、図9および図10の固定グリップ106a、クラッチレバー106bおよびシフトスイッチSWのB−B線縦断面図である。
【0099】
図9に示すように、本実施の形態においては、クラッチレバー106bの幅広部62は、棒状部61から最も離間する角部において、連結ピン63を介して本体部105aに回動可能に取付けられている。幅広部62の後部は、本体部105a内に収容されている。
【0100】
図10に示すように、運転者が固定グリップ106aに手を掛けた状態で棒状部61を握ることにより、クラッチレバー106bは、幅広部62を本体部105a内に進入させつつ連結ピン63を中心として水平面内で回動する。それにより、クラッチワイヤ65が引っ張られ、クラッチ3が切断される。
【0101】
図11〜図13に示すように、本実施の形態においては、シフトスイッチSWは、棒状の被押下部材200、遊動部材300および固定部材400を含む。
【0102】
図9〜図13に示すように、被押下部材200は、クラッチレバー106bの幅広部62と反対側の本体部105aの背面から幅広部62に向かって本体部105a内に挿入されている。被押下部材200は、本体部105a内において前後方向に移動可能に設けられている。被押下部材200の後端部には鍔状部201が形成され、前端部には鍔状部202が形成されている。
【0103】
図11〜図13に示すように、遊動部材300は、断面直角三角形状の第1の被押下部材301、断面直角三角形状の第2の被押下部材302および棒状の押下部材303により構成される。押下部材303の下端部には鍔状の係合部31が形成されている。
【0104】
第1の被押下部材301は、斜面が被押下部材200の先端部に面するとともに、下面が水平方向になるように設けられる。第2の被押下部材302の斜面がクラッチレバー106bの幅広部62に面するように第1の被押下部材301の下面に第2の被押下部材302の他の一面が固定される。また、第1の被押下部材301の下面には、押下部材303の上端部が固定される。
【0105】
固定部材400は、鉛直方向に延びるように本体部105aに固定される。固定部材400の上端部には、筒状部401が設けられている。筒状部401内の底部の略中央部には、ボタン402が設けられている。シフトスイッチSWは、ボタン402が押下されている場合にシフト信号を出力する。
【0106】
筒状部401内の底部には、バネ部材403の下端が固定されている。筒状部401内の内周面の略中央部には、環状の係合部404が形成されている。筒状部401内には、押下部材303の下部が鉛直方向に摺動可能に挿入される。これにより、遊動部材300は鉛直方向に移動することはできるが、水平方向の移動が禁止される。押下部材303の下端部にはバネ部材403の上端が当接する。これにより、押下部材303は、バネ部材403によりボタン402から離間する方向に付勢される。
【0107】
図11に示すように、通常時には、押下部材303は、係合部31と固定部材400の係合部404とが係合する位置までバネ部材403により押し上げられる。この場合、押下部材303によりボタン402は押下されていないので、シフトスイッチSWからシフト信号は出力されない。
【0108】
図12に矢印X1で示すように、運転者により被押下部材200の後端部の鍔状部201が前方に押下された場合には、前端部の鍔状部202により遊動部材300の第1の被押下部材301の斜面が押される。遊動部材300は、水平方向に移動できないので、鍔状部201に押されることにより鉛直下方に移動する。それにより、矢印Y1で示すように、押下部材303の下端部が固定部材400の筒状部401内の底部近傍まで押し込まれる。その結果、鍔状部31によりボタン402(図11参照)が押下され、シフトスイッチSWからシフト信号が出力される。
【0109】
また、図13に矢印X2で示すように、運転者によりクラッチ操作が行われている場合には、クラッチレバー106bの幅広部62により第2の被押下部材302の斜面が押される。遊動部材300は水平方向に移動できないので、幅広部62に押されることにより鉛直上方に移動する。それにより、押下部材303は、係合部31と固定部材400の係合部404とが係合する位置まで押し上げられる。この場合、押下部材303によりボタン402は押下されていないので、シフトスイッチSWからシフト信号は出力されない。
【0110】
ここで、本実施の形態においては、図12に示すように、運転者により被押下部材200が前方に押下されている状態においては、クラッチレバー106bの回動動作が第2の被押下部材302により阻害される。詳細には、幅広部62が第2の被押下部材302の斜面に当接することにより、クラッチレバー106bの回動が阻害される。
【0111】
したがって、本実施の形態においては、CPU502(図15参照)によりエンジン107の出力調整が行われている状態においては、クラッチ3の切断が禁止される。それにより、シフト操作時に運転者にとって想定外のショックが自動二輪車100に発生することを防止することができる。その結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0112】
また、図13に示すように、運転者によりクラッチ3が切断されている状態においては、被押下部材200の前方への押下が阻害される。詳細には、被押下部材200の鍔状部202が第1の被押下部材301の斜面に当接することにより、被押下部材200の移動が阻害される。
【0113】
したがって、本実施の形態においては、運転者によりクラッチ3が切断されている状態においては、CPU502によるエンジン107の出力調整が禁止される。この場合、クラッチ3が切断されている状態でCPU502によるエンジン107の出力調整が行われることを防止することができる。それにより、クラッチ接続時に運転者にとって想定外のショックが自動二輪車100に発生することを防止することができる。その結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0114】
また、運転者により被押下部材200が前方へ押下されている状態(図12参照)においては、被押下部材200を押下している力を超える力でクラッチレバー106bを操作しなければ、押下部材303を上方に移動させることができない。したがって、CPU502(図15参照)によるエンジン107の出力調整中に運転者が誤ってクラッチ操作を行った場合、ある程度大きな力でクラッチレバー106bを操作していなければクラッチ3(図2)は切断されない。
【0115】
この場合、CPU502によるエンジン107の出力調整中に運転者が誤ってクラッチ3を切断することが防止される。シフト操作時に運転者にとって想定外のショックが自動二輪車100に発生することを防止することができる。また、運転者は、CPU502によりエンジン107の出力調整が行われていることを容易に認識することができる。それにより、運転者が誤ってクラッチレバー106bを操作しようとした場合に、その操作を即座に中断することができる。これらの結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0116】
また、運転者によりクラッチレバー106bが操作されている状態(図13参照)においては、クラッチレバー106bを操作している力を超える力で被押下部材200を押下しなければ、押下部材303を下方に移動させることができない。したがって、運転者がクラッチ操作中に誤って被押下部材200を押下しようとした場合、ある程度大きな力で被押下部材200を押下していなければ、シフトスイッチSWはオンされない。
【0117】
この場合、クラッチ操作中に運転者が誤ってシフトスイッチSWをオンすることが防止されるので、クラッチ接続時に運転者にとって想定外のショックが自動二輪車100に発生することを防止することができる。その結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0118】
(C)他の実施の形態
上記実施の形態においては、エンジン出力調整システムが適用された車両の一例として自動二輪車100について説明したが、自動三輪車および自動四輪車等の他の車両にエンジン出力調整システムを適用してもよい。
【0119】
(D)エンジンの出力調整例
以下、ECU50(図1)のCPU502(図15参照)によるエンジン107の出力調整について説明する。
【0120】
(1)エンジン出力と変速ギアとの関係
まず、エンジン107の出力と変速ギアとの関係について説明する。
【0121】
一般に、変速機5のギアを切り替える場合(以下、ギアシフトと称する)には、運転者は、図示しないクラッチレバーを操作して、クラッチ3(図2)を切断する。これにより、クランク2(図2)とメイン軸5aとの間における回転力の伝達が停止される。運転者は、この状態でシフトペダル11を操作する(以下、シフト操作と称する)。それにより、円滑なギアシフトを行うことが可能となる。以下、その理由を図面を用いて説明する。
【0122】
上述したように、複数の変速ギア5c,5dのスライドギアには凸状のドッグが形成され、複数の変速ギア5c,5dのフィックスギアにはドッグが係合される凹状のドッグ穴が形成される。
【0123】
図14は、スライドギアのドッグとフィックスギアのドッグ穴との関係を示す図である。なお、図14においては、スライドギアおよびフィックスギアのドッグおよびドッグ穴が形成されている部分の断面図が模式的に示されている。また、スライドギアおよびフィックスギアの図14に示す部分は、矢印で示す方向に移動(回転)しているもとのとする。
【0124】
図14(a)は、クランク2(図2)からメイン軸5a(図2)に回転力が与えられている場合を示し、図14(b)は、メイン軸5aからクランク2に回転力が与えられている場合を示す。以下、クランク2からメイン軸5aに回転力が与えられている場合(図14(a)の状態)を駆動状態と称し、その逆の場合(図14(b)の状態)を被駆動状態と称する。例えば、自動二輪車100が加速している場合にエンジン107が駆動状態となり、自動二輪車100が減速している場合にエンジン107が被駆動状態となる。すわなち、エンジン107の被駆動状態は、エンジンブレーキがかかっている状態である。
【0125】
図14に示すように、フィックスギア51には、底面に向かって幅広となる断面台形のドッグ穴52が形成されている。また、スライドギア53には、先端部に向かって幅広となる断面逆台形のドッグ54が形成されている。
【0126】
エンジン107の駆動状態においては、図14(a)に示すように、ドッグ54の移動方向における前方側の側面がドッグ穴52の移動方向における前方側の側面に当接する。これにより、スライドギア53の回転力がドッグ54を介してフィックスギア51に伝達される。この場合、ドッグ穴52とドッグ54との接触面において大きな圧力(係合力)が発生する。したがって、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に移動させることは困難である。
【0127】
ここで、運転者がクラッチ3(図2)を切断した場合、クランク2(図2)からメイン軸5a(図2)への回転力の伝達が停止される。この場合、メイン軸5aは惰性で回転する。それにより、図14(c)に示すように、ドッグ穴52とドッグ54との係合が解除される。その結果、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に移動させることが可能となり、ギアシフトを円滑に行うことができる。
【0128】
また、エンジン107の被駆動状態においては、図14(b)に示すように、ドッグ54の移動方向における後方側の側面がドッグ穴52の移動方向における後方側の側面に当接する。これにより、フィックスギア51の回転力がドッグ54を介してスライドギア53に伝達される。上述したように、エンジン107の被駆動状態においてはエンジンブレーキがかかっているので、フィックスギア51の回転は、スライドギア53によって規制される。この場合、ドッグ穴52とドッグ54との接触面において大きな圧力(係合力)が発生する。したがって、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に移動させることは困難である。
【0129】
ここで、運転者がクラッチ3(図2)を切断した場合、クランク2(図2)とメイン軸5a(図2)との間の回転力の伝達が停止される。この場合、エンジンブレーキが解除され、メイン軸5aは惰性で回転する。それにより、図14(c)に示すように、ドッグ穴52とドッグ54との係合が解除される。その結果、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に移動させることが可能となり、ギアシフトを円滑に行うことができる。
【0130】
なお、上記においては、スライドギアに凸状のドッグが形成され、フィックスギアに凹状のドッグ穴が形成される場合を例に挙げたが、スライドギアに凹状のドッグ穴が形成され、フィックスギアに凸状のドッグが形成されてもよい。
【0131】
(2)エンジンの出力制御
本例においては、ECU50(図1)のCPU502(図15)は、上記のシフトスイッチSW(図1)のシフト信号およびセンサSE1〜SE6(図1)の検出値に基づいてエンジン107の出力を調整する。それにより、クラッチ3(図2)を切断することなく、フィックスギア51およびスライドギア53を図14(c)に示す状態にすることができる。その結果、運転者は、クラッチ3を切断することなく円滑にギアシフトを行うことができる。すなわち、クラッチレスシフトを円滑に行うことができる。以下、詳細に説明する。
【0132】
(2−1)エンジンと各部との関係
図15は、エンジン107およびエンジン107の出力制御に関連する各部の概略構成を示す図である。
【0133】
図15に示すように、エンジン107はシリンダ71を有し、シリンダ71内には、ピストン72が上下動可能に設けられる。また、シリンダ71内の上部には燃焼室73が形成される。燃焼室73は吸気ポート74および排気ポート75を介してエンジン107の外部に連通する。
【0134】
吸気ポート74の下流側の開口端74aに吸気弁76が開閉自在に設けられ、排気ポート75の上流側の開口端75aに排気弁77が開閉自在に設けられる。吸気弁76および排気弁77は、通常のカム機構により駆動される。燃焼室73の上部には、燃焼室73内で火花点火を行うための点火プラグ78が設けられる。
【0135】
エンジン107には、吸気ポート74と連通するように吸気管79が取り付けられ、排気ポート75と連通するように排気管118が取り付けられる。吸気管79には、シリンダ71内に燃料を供給するためのインジェクタ108が設けられる。また、吸気管79内には、電子制御式スロットルバルブ(ETV)82が設けられる。
【0136】
エンジン107の作動時には、空気が吸気管79を通して吸気ポート74から燃焼室73内に吸入されるとともに、インジェクタ108により燃焼室73内に燃料が供給される。それにより、燃焼室73内で混合気が生成され、点火プラグ78により混合気に火花点火が行われる。燃焼室73内において混合気の燃焼により生じた既燃ガスは、排気ポート75から排気管118を通して排出される。
【0137】
ECU50には、シフトスイッチSWの出力信号ならびにアクセル開度センサSE1、クランク角センサSE2、スロットルセンサSE3、シフトカム回転角センサSE4、ドライブ軸回転速度センサSE5および荷重センサSE6の検出値が与えられる。
【0138】
(2−2)CPUの制御動作
(a)概略
本実施の形態においては、ECU50(図15)のCPU502は、通常時には、アクセル開度センサSE1の検出値に基づいてETV82のスロットル開度を調整する。それにより、エンジン107の出力がアクセル開度に応じた値に調整される。なお、アクセル開度とスロットル開度(エンジン出力)との関係は、図15のROM503またはRAM504に記憶されている。
【0139】
また、CPU502は、シフトスイッチSWがオンの場合に、荷重センサSE6の検出値に基づいて運転者のシフト操作を検知する。そして、CPU502は、運転者のシフト操作を検知したときに、クランク角センサSE2およびスロットルセンサSE3の検出値に基づいて、エンジン107が駆動状態、被駆動状態および後述する境界状態(駆動状態と被駆動状態との間の状態)のうちどの状態であるかを判別する。この判別結果に基づいて、CPU502は、エンジン107の出力を調整する。さらに、CPU502は、シフトカム回転角センサSE4の検出値に基づいてギアシフトが完了したか否かを判別し、ギアシフトが完了した場合には、エンジン107の出力調整を終了する。
【0140】
例えば、エンジン107が駆動状態である場合に運転者によりシフトアップ操作またはシフトダウン操作が行われたときには、CPU502によりエンジン107の出力が一時的に低下される。詳細には、CPU502は、エンジン107の出力を、そのときのアクセル開度に基づいて決定されるエンジン107の出力よりも一時的に低下させる。
【0141】
また、エンジン107が被駆動状態である場合に運転者によりシフトダウン操作が行われた場合には、CPU502によりエンジン107の出力が一時的に増加される。詳細には、CPU502は、エンジン107の出力を、そのときのアクセル開度に基づいて決定されるエンジン107の出力よりも一時的に増加させる。なお、境界状態である場合には、CPU502によるエンジン107の出力調整は行われない。
【0142】
なお、CPU502は、例えば、点火プラグ78(図15)による混合気への火花点火を停止すること、点火時期を遅角させること、またはETV82(図15)のスロットル開度を小さくすることにより、エンジン107の出力を低下させる。また、CPU502は、例えば、ETV82のスロットル開度を大きくすることによりエンジン107の出力を増加させる。
【0143】
以下、図面を用いてCPU502の制御動作を詳細に説明する。
【0144】
(b)駆動状態、境界状態および被駆動状態の判別方法
まず、エンジン107の状態(駆動状態、境界状態および被駆動状態)の判別方法について説明する。本例においては、CPU502は、無負荷時のエンジン107(図15)の回転速度とETV82(図15)のスロットル開度との関係を示すデータ(以下、駆動状態判別データと称する)に基づいて、エンジン107が駆動状態、境界状態および被駆動状態のうちどの状態であるかを判別する。
【0145】
図16は、ECU50のRAM504(ROM503)に記憶される駆動状態判別データの一例を示す図である。図16において、縦軸はエンジン107の回転速度を示し、横軸はETV82のスロットル開度を示す。
【0146】
図16において、点線aは、変速ギア5c,5d(図2)がニュートラルポジションである場合のエンジン107の回転速度とスロットル開度との関係を示している。図16に示すように、変速ギア5c,5dがニュートラルポジションである場合、エンジン107の回転速度とスロットル開度との関係はヒステリシスループを形成する。なお、点線aに示す関係は、例えば、実験またはコンピュータを用いたシミュレーション等により導出することができる。
【0147】
本例においては、点線aに外接する2本の平行な直線の内側の帯状の領域(一点鎖線bと一点鎖線cとの間の領域)を境界領域Aと定義するとともに、一点鎖線bより下の領域を駆動領域Bと定義し、一点鎖線cより上の領域を被駆動領域Cと定義する。
【0148】
エンジン107の状態(駆動状態、境界状態および被駆動状態)を判別する際には、CPU502は、クランク角センサSE2の検出値に基づいてエンジン107の回転速度を算出する。そして、算出した回転速度とスロットルセンサSE3の検出値とに基づいて、エンジン107とスロットル開度との関係が上記3つの領域のうちのどの領域に含まれているかを判別する。それにより、エンジン107が駆動状態、境界状態および被駆動状態状態のうちのどの状態であるか判別する。
【0149】
例えば、エンジン107の回転速度が6000rpmでスロットル開度が12degである状態は駆動領域Bに含まれる。この場合、CPU502は、エンジン107が駆動状態であると判別する。
【0150】
また、例えば、エンジン107の回転速度が6000rpmでスロットル開度が2degである状態は被駆動領域Cに含まれる。この場合、CPU502は、エンジン107が被駆動状態であると判別する。
【0151】
また、例えば、エンジン107の回転速度が6000rpmでスロットル開度が6degである状態は境界領域Aに含まれる。この場合、CPU502は、エンジン107が境界状態であると判別する。
【0152】
なお、境界状態とは、クランク2(図2)からメイン軸5a(図2)に伝達される回転力が所定値以下である場合、またはメイン軸5aからクランク2に伝達される回転力が所定値以下である場合のエンジン107の状態を示す。すなわち、エンジン107が境界状態である場合には、クランク2とメイン軸5aとの間で回転力がほとんど伝達されていない。この場合、ドッグ穴52(図14)とドッグ54(図14)との接触面において大きな圧力(係合力)は発生しない。そのため、エンジン107の出力調整が行われなくても、運転者はシフトペダル11を操作することにより、クラッチ3(図2)を切断することなくスライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることができる。
【0153】
(c)エンジンの出力調整時期
次に、CPU502によるエンジンの出力調整時期について図面を用いて説明する。
【0154】
図17は、エンジン107が駆動状態である場合に運転者がシフトアップ操作を行ったときのCPU502によるエンジン107の出力調整時期を説明するための図である。また、図18は、エンジン107が被駆動状態である場合に運転者がシフトダウン操作を行ったときのCPU502によるエンジン107の出力調整時期を説明するための図である。
【0155】
なお、図17(a)および図18(a)は、荷重センサSE6の出力波形(検出値)を示し、図17(b)および図18(b)は、シフトカム回転角センサSE4の出力波形(検出値)を示している。図17(a),(b)および図18(a),(b)において、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。また、図17(c)および図18(c)は、エンジン107の回転速度を示している。図17(c)および図18(c)において、縦軸は回転速度を示し、横軸は時間を示す。
【0156】
まず、図17について説明する。エンジン107が駆動状態である場合には、図17(c)に示すように、エンジン107の回転速度は時間の経過とともに増加する。図17の例においては、エンジン107の回転速度が増加している期間の時点t1において運転者がシフトアップ操作を開始する。
【0157】
荷重センサSE6の検出値(電圧値)は、図17(a)に示すように、運転者のシフトペダル11(図2)の操作量の増加に従って増加する。そして、荷重センサSE6の検出値は、フィックスギア51(図14)とスライドギア53(図14)との係合が解除される直前の時点t3において最大値aとなる。
【0158】
フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されることにより、運転者はシフトペダル11から足を放す。それにより、荷重センサSE6の検出値は、図17(a)に示すように、最大値aから0へと低下する。
【0159】
また、シフトカム回転角センサSE4の検出値(電圧値)は、図17(b)に示すように、運転者のシフトペダル11の操作量の増加に従って徐々に低下し、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されることにより急激に低下する。
【0160】
なお、変速操作機構111(図2)およびシフト機構7(図2)の各構成要素には、たわみおよび遊び等が存在する。そのため、荷重センサSE6およびシフトカム回転角センサSE4の検出値が時点t1と時点t3との間において不安定に変化している。
【0161】
ここで、本例においては、荷重センサSE6の検出値(電圧値)が値bに達した時点t2においてエンジン107の出力調整が開始され、エンジン107の出力が低下される。それにより、図17(c)に示すように、エンジン107の回転速度が低下し、フィックスギア51(図14)のドッグ穴52(図14)とスライドギア53(図14)のドッグ54(図14)との接触面における圧力(係合力)が低下する。その結果、フィックスギア51とスライドギア53とが、図14(a)で示した係合状態から図14(c)で説明した解除状態に変化する。それにより、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることが可能となり、運転者はクラッチ3(図2)を切断することなくギアシフトを行うことができる。
【0162】
なお、図17(a)の例においては、荷重センサSE6の検出値が値bに達するときに変速操作機構111およびシフト機構7の各構成要素の遊びがほぼ無くなる。すなわち、荷重センサSE6の検出値が値bに達したときにドッグ穴52およびドッグ54の解除動作が開始される。したがって、本例においては、ドッグ穴52およびドッグ54の解除動作が開始されるときにエンジン107の出力調整が開始される。
【0163】
また、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除され、シフトカム回転角センサSE4の検出値(図17(b))が値dとなる時点t4においてエンジン107の出力調整が終了され、エンジン107の出力が再び増加する。それにより、図17(c)に示すように、エンジン107の回転速度が再び増加する。その後、フィックスギア51とスライドギア53とが係合し(図14(a)の係合状態)、ギアシフトが完了する。
【0164】
なお、時点t4においては、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されているので、荷重センサSE6の検出値は、図17(a)に示すように、最大値aよりわずかに低下した値a1となっている。
【0165】
次に、図18について説明する。エンジン107が被駆動状態である場合には、図18(c)に示すように、エンジン107の回転速度は時間の経過とともに低下する。図18の例においては、エンジン107の回転速度が低下している期間の時点t5において運転者がシフトダウン操作を開始する。
【0166】
荷重センサSE6の検出値は、図18(a)に示すように、運転者のシフトペダル11(図2)の操作量の増加に従って低下する。そして、荷重センサSE6の検出値は、フィックスギア51(図14)とスライドギア53(図14)との係合が解除される直前の時点t7において最小値−aとなる。
【0167】
フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されることにより、運転者はシフトペダル11から足を放す。それにより、荷重センサSE6の検出値は、図18(a)に示すように、最小値−aから0へと増加する。
【0168】
また、シフトカム回転角センサSE4の検出値(電圧値)は、図18(b)に示すように、運転者のシフトペダル11の操作量の増加に従って徐々に増加し、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されることにより急激に増加する。
【0169】
ここで、本例においては、荷重センサSE6の検出値(電圧値)が値−bに達した時点t6においてエンジン107の出力調整が開始され、エンジン107の出力が増加される。それにより、図18(c)に示すように、エンジン107の回転速度が増加し、フィックスギア51(図14)のドッグ穴52(図14)とスライドギア53(図14)のドッグ54(図14)との接触面における圧力(係合力)が低下する。その結果、フィックスギア51とスライドギア53とが、図14(b)で示した係合状態から図14(c)で説明した解除状態に変化する。その結果、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることが可能となり、運転者はクラッチ3(図2)を切断することなくギアシフトを行うことができる。
【0170】
なお、図18(a)の例においては、荷重センサSE6の検出値が値−bに達するときに変速操作機構111およびシフト機構7の各構成要素の遊びがほぼ無くなる。すなわち、荷重センサSE6の検出値が値−bに達したときにドッグ穴52およびドッグ54の解除動作が開始される。したがって、本例においては、ドッグ穴52およびドッグ54の解除動作が開始されるときにエンジン107の出力調整が開始される。
【0171】
また、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除され、シフトカム回転角センサSE4の検出値(図18(b))が値eとなる時点t8においてエンジン107の出力調整が終了され、エンジン107の出力が再び減少する。それにより、図18(c)に示すように、エンジン107の回転速度が再び低下する。その結果、フィックスギア51とスライドギア53とが再び係合し(図14(b)の係合状態)、ギアシフトが完了する。
【0172】
なお、時点t8においては、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されているので、荷重センサSE6の検出値は、図18(a)に示すように、最小値−aよりわずかに増加した値−a1となっている。
【0173】
以上のように、本例においては、荷重センサSE6の検出値(電圧値)の絶対値が値b以上になった場合にエンジン107の出力調整が開始される。また、シフトアップ操作時には、シフトカム回転角センサSE4の検出値が値d以下になった場合にエンジン107の出力調整が終了される。シフトダウン操作時には、シフトカム回転角センサSE4の検出値が値e以上になった場合にエンジン107の出力調整が終了される。また、CPU502は、荷重センサSE6の検出値の絶対値が値bより小さい値c以下になった場合にギアシフトが完了したと判別する。
【0174】
(d)制御フロー
次に、CPU502の制御動作をフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0175】
なお、以下の説明においては、エンジン107の出力調整が開始されるときの荷重センサSE6の検出値の絶対値を第1のしきい値と称する。また、シフトアップ操作時にエンジン107の出力調整が終了されるときのシフトカム回転角センサSE4の検出値を第2のしきい値と称する。また、シフトダウン操作時にエンジン107の出力調整が終了されるときのシフトカム回転角センサSE4の検出値を第3のしきい値と称する。さらに、ギアシフトが完了したと判別される荷重センサSE6の検出値の絶対値を第4のしきい値と称する。図17および図18の例では、値bが第1のしきい値に相当し、値dが第2のしきい値に相当し、値eが第3のしきい値に相当し、値cが第4のしきい値に相当する。
【0176】
なお、シフトカム回転角センサSE4の検出値はギアポジションによって異なる。図19は、ギアポジションを1速と6速との間で変化させたときのシフトカム回転角センサSE4の検出値(電圧値)の一例を示す図である。なお、図19において、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。
【0177】
図19に示すように、シフトカム回転角センサSE4の検出値は、ギアポジションが低速位置にある場合には高くなり、高速位置になるほど低くなる。したがって、第2および第3のしきい値は、ギアポジションによって異なる値となる。
【0178】
なお、第1〜第4のしきい値ならびに後述する第5および第6のしきい値はECU50(図15)のRAM504に記憶されている。
【0179】
図20〜図22は、CPU502の制御動作の一例を示すフローチャートである。
【0180】
図20に示すように、CPU502は、まず、シフトスイッチSW(図1)がオンであるか否かを判別する(ステップS1)。シフトスイッチSWがオンである場合、CPU502は、荷重センサSE6の検出値の絶対値が第1のしきい値(図17(a)および図18(a)の値bに相当)以上であるか否かを判別する(ステップS2)。なお、荷重センサSE6の検出値はノイズを含む場合があるので、ステップS2においては、荷重センサSE6の検出値の絶対値が第1のしきい値を所定時間以上超えているか否かを判別してもよい。
【0181】
荷重センサSE6の検出値の絶対値が第1のしきい値以上である場合、CPU502は、エンジン107の回転速度が第5のしきい値(例えば、1500rpm)以上でかつ車体速度が第6のしきい値(例えば、15km/h)以上であるか否かを判別する(ステップS3)。なお、自動二輪車100の車体速度は、ドライブ軸回転速度センサSE5の検出値に基づいてCPU502により算出される。ステップS3の処理を設ける効果については後述する。
【0182】
エンジン107の回転速度が第5のしきい値以上でかつ車体速度が第6のしきい値以上である場合、CPU502は、運転者によりシフトアップ操作が行われたか否かを判別する(ステップS4)。なお、CPU502は、荷重センサSE6の検出値が正の値である場合にはシフトアップ操作が行われたと判別し、荷重センサSE6の検出値が負の値である場合にはシフトダウン操作が行われたと判別する。
【0183】
運転者によりシフトアップ操作が行われた場合、図21に示すように、CPU502は、エンジン107が駆動状態であるか否かを判別する(ステップS5)。エンジン107が駆動状態である場合には、CPU502は、点火プラグ78による混合気の点火を停止することにより、エンジン107の出力を低下させる(ステップS6)。上述したように、このステップS6の処理においてエンジン107の出力が低下されることにより、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることが可能となる。
【0184】
次に、CPU502は、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第2のしきい値(図17(b)の値dに相当)以下であるか否かを判別する(ステップS7)。なお、シフトカム回転角センサSE4の検出値はノイズを含む場合があるので、ステップS7においては、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第2のしきい値より所定時間以上小さいか否かを判別してもよい。
【0185】
シフトカム回転角センサSE4の検出値が第2のしきい値以下である場合には、CPU502は、フィックスギア51(図14)とスライドギア53(図14)との係合が解除されたと判断し、ステップS6において開始したエンジン107の出力調整を終了する(ステップS8)。
【0186】
次に、CPU502は、荷重センサSE6の検出値の絶対値が第4のしきい値以下であるか否かを判別する(ステップS9)。なお、荷重センサSE6の検出値はノイズを含む場合があるので、ステップS9においては、荷重センサSE6の検出値の絶対値が第4のしきい値より所定時間以上小さいか否かを判別してもよい。
【0187】
荷重センサSE6の検出値の絶対値が第4のしきい値以下である場合、図20に示すように、CPU502は、ギアシフトが完了したと判断して、通常の制御を行う(ステップS10)。ステップS10の通常の制御においては、CPU502は、アクセル開度センサSE1の検出値に基づいてETV82のスロットル開度を調整する。したがって、通常の制御においては、運転者のアクセルグリップ106cの操作量に応じてエンジン107の出力が調整される。
【0188】
図21のステップS5においてエンジン107が駆動状態でない場合、CPU502は、エンジン107が境界状態であるか否かを判別する(ステップS11)。
【0189】
エンジン107が境界状態である場合、CPU502は、エンジン107の出力調整を行うことなくステップS9へ進む。なお、上述したように、境界状態においては、スライドギア53(図14)とフィックスギア51(図14)との係合力はそれ程大きくない。したがって、エンジン107の出力調整を行わなくても、運転者はスライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることができる。
【0190】
ステップS11において、エンジン107が境界状態ではない場合、すなわちエンジン107が被駆動状態である場合、CPU502は、エンジン107の出力調整を行うことなく報知ランプ60(図1)を点灯させる(ステップS12)。
【0191】
なお、この場合、エンジン107の出力が調整されないので、フィックスギア51(図14)とスライドギア53(図14)とは図14(a)に示す係合状態を維持する。したがって、フィックスギア51とスライドギア53との係合の解除は困難である。このように、ステップS11においてエンジン107が被駆動状態である場合には、CPU502の制御によりギアシフトが困難な状態にされる。それにより、減速時に変速機5がシフトアップされることが防止される。その結果、減速時に自動二輪車100の速度が急激に上昇することが防止され、自動二輪車100の操作性が向上する。
【0192】
また、報知ランプ60が点灯されるので、運転者は、CPU502の制御によりギアシフトが困難な状態にされていることを容易に認識することができる。それにより、運転者はシフト操作を迅速に中断することができる。その結果、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止される。
【0193】
ステップS12において報知ランプ60を点灯した後、CPU502は、ステップS9に進む。
【0194】
ステップS7において、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第2のしきい値より大きい場合、CPU502は、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第2のしきい値以下になるまで待機する。すなわち、フィックスギア51とスライドギア53との係合の解除されるまで、CPU502はエンジン107の出力調整を継続する。
【0195】
ステップS9において、荷重センサSE6の検出値の絶対値が第4のしきい値より大きい場合、CPU502は、荷重センサSE6の検出値の絶対値が第4のしきい値以下になるまで待機する。
【0196】
図20のステップS4において、運転者によりシフトアップ操作が行われていない場合、すなわち運転者によりシフトダウン操作が行われた場合、図22に示すように、CPU502は、エンジン107が駆動状態であるか否かを判別する(ステップS13)。エンジン107が駆動状態である場合には、CPU502は、点火プラグ78による混合気の点火を停止することにより、エンジン107の出力を低下させる(ステップS14)。上述したように、このステップS14の処理においてエンジン107の出力が低下されることにより、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることが可能となる。
【0197】
次に、CPU502は、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第3のしきい値(図18(b)の値eに相当)以上であるか否かを判別する(ステップS15)。なお、シフトカム回転角センサSE4の検出値はノイズを含む場合があるので、ステップS15においては、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第3のしきい値を所定時間以上超えているか否かを判別してもよい。
【0198】
シフトカム回転角センサSE4の検出値が第3のしきい値以上である場合には、CPU502は、フィックスギア51(図14)とスライドギア53(図14)との係合が解除されたと判断し、ステップS14または後述するステップS18において開始したエンジン107の出力調整を終了する(ステップS16)。その後、CPU502は、図21のステップS9に進む。
【0199】
図22のステップS13においてエンジン107が駆動状態でない場合、CPU502は、エンジン107が境界状態であるか否かを判別する(ステップS17)。
【0200】
エンジン107が境界状態である場合、CPU502は、エンジン107の出力調整を行うことなく図21のステップS9へ進む。なお、上述したように、境界状態においては、エンジン107の出力調整を行わなくても、運転者はスライドギア53(図14)をフィックスギア51(図14)から離間する方向に容易に移動させることができる。
【0201】
図22のステップS17において、エンジン107が境界状態ではない場合、すなわちエンジン107が被駆動状態である場合、CPU502は、ETV82のスロットル開度を大きくし、エンジン107の出力を増加させる(ステップS18)。上述したように、このステップS18の処理においてエンジン107の出力が増加されることにより、スライドギア53をフィックスギア51から離間する方向に容易に移動させることが可能となる。その後、CPU502は、ステップS15に進む。
【0202】
ステップS15において、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第3のしきい値より小さい場合、CPU502は、シフトカム回転角センサSE4の検出値が第3のしきい値以上になるまで待機する。すなわち、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除されるまで、CPU502はエンジン107の出力調整を継続する。
【0203】
図20のステップS1においてシフトスイッチSW(図1)がオフの場合、CPU502は、エンジン107の出力調整が運転者により許可されていないと判断し、ステップS10に進み、通常の制御を行う。
【0204】
ステップS2において荷重センサSE6の検出値の絶対値が第1のしきい値より小さい場合、CPU502は、運転者によるシフト操作が開始されていないと判断し、ステップS10に進み、通常の制御を行う。
【0205】
また、ステップS3において、エンジン107の回転速度が第5のしきい値より小さいか、あるいは車体速度が第6のしきい値より小さい場合には、CPU502は、図21のステップS12に進み、エンジン107の出力制御を行うことなく報知ランプ60(図1)を点灯させる。
【0206】
なお、この場合、エンジン107の出力が調整されないので、低速走行時にエンジン107の出力が急激に変化することが防止される。それにより、後輪115(図1)のスリップが防止され、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止される。
【0207】
また、この場合、フィックスギア51(図14)とスライドギア53(図14)とは図14(a)に示す係合状態を維持する。したがって、フィックスギア51とスライドギア53との係合の解除は困難であるので、ギアシフトが防止される。それにより、低速走行時に自動二輪車100の速度が急激に変化することが防止され、自動二輪車100の操作性が向上する。
【0208】
また、報知ランプ60が点灯されるので、運転者は、CPU502の制御によりギアシフトが困難な状態にされていることを容易に認識することができる。それにより、運転者はシフト操作を迅速に中断することができる。その結果、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止される。
【0209】
(3)効果
(a)以上のように、本例においては、運転者がシフトアップ操作またはシフトダウン操作を行った際に、エンジン107が駆動状態である場合には、CPU502によりエンジン107の出力が低下される。また、運転者がシフトダウン操作を行った際にエンジン107が被駆動状態である場合には、CPU502によりエンジン107の出力が増加される。これらにより、フィックスギア51とスライドギア53との接触面に発生する圧力(係合力)が低減されるので、運転者は円滑にクラッチレスシフトを行うことができる。
【0210】
また、運転者によりシフトアップ操作が行われた際に、エンジン107が被駆動状態である場合には、CPU502の制御によりギアシフトが困難な状態にされる。それにより、自動二輪車100の減速時に変速機5がシフトアップされることを防止することができる。その結果、減速時に自動二輪車100の速度が急激に上昇することが防止され、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止される。
【0211】
また、上記ギアシフトが困難な状態にされる場合には、CPU502により報知ランプ60が点灯される。この場合、運転者は、CPU502によりギアシフトが困難な状態にされていることを容易に認識することができる。それにより、運転者はシフト操作を迅速に中断することができる。その結果、自動二輪車100の操作性がさらに向上する。また、クラッチレスシフトを行うことができない場合でも、報知ランプ60の状態を確認することにより、自動二輪車100に故障が発生しているか否かを容易に判断することができる。
【0212】
以上の結果、自動二輪車100の快適な走行が可能となる。
【0213】
(b)また、自動二輪車100の低速走行時には、CPU502の制御によりギアシフトが困難な状態にされる。それにより、低速走行時に自動二輪車100の速度が急激に変化することが防止される。その結果、後輪115のスリップを防止することができ、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止される。また、この場合も、上記と同様に、報知ランプ60の状態を確認することにより、運転者はシフト操作を迅速に中断することができるとともに、自動二輪車100に故障が発生しているか否かを容易に判断することができる。
【0214】
(c)また、運転者がシフトアップ操作またはシフトダウン操作を行った際に、エンジン107が境界状態である場合には、CPU502により通常の制御が行われる。すなわち、エンジン107(クランク2)と変速機5(メイン軸5a)との間で所定値以上の回転力が伝達されていない場合には、エンジン107の出力が調整されない。
【0215】
ここで、上述したように、エンジン107と変速機5との間で伝達される回転力が小さい場合には、フィックスギア51とスライドギア53との接触面において大きな圧力(係合力)は発生しない。したがって、エンジン107の出力が調整されなくても、運転者はクラッチレスシフトを容易に行うことができる。この場合、エンジン107の出力調整によるショックの発生を防止することができるので、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止され、運転者は快適な自動二輪車100の走行を楽しむことができる。
【0216】
(d)また、境界状態が設けられることにより、被駆動状態において行われるべきエンジン107の出力調整が駆動状態において行われること、および駆動状態において行われるべきエンジン107の出力調整が被駆動状態において行われることを防止することができる。それにより、駆動状態と被駆動状態との境界近傍で、エンジン107が駆動状態であるか被駆動状態であるかを適切に判別することができない場合にも、エンジン107の出力調整が不適切に行われることを防止することができる。その結果、クラッチレスシフトを円滑に行うことが可能になるとともに、自動二輪車100の走行フィーリングの低下が防止される。
【0217】
(e)なお、エンジン107の回転速度またはシフト操作後の経過時間等を基準にエンジン107の出力調整を終了させた場合には、適切な出力調整時間を確保することができない場合がある。それにより、クラッチレスシフトを円滑に行えない場合がある。
【0218】
これに対して、本例においては、シフトカム回転角センサSE4の検出値に基づいて、エンジン107の出力調整の終了が決定される。それにより、運転者によるシフトペダル11の操作量および操作速度にかかわらず、最適な時期にエンジン107の出力調整を終了させることができる。それにより、より迅速なクラッチレスシフトが可能となるとともに、エンジン107の出力を容易に安定させることができる。
【0219】
(f)また、本例においては、点火プラグ78による混合気の点火を停止することにより、エンジン107の出力が低下される。この場合、エンジン107の出力を迅速に低下させることができる。それにより、クラッチレスシフトを迅速に行うことが可能となる。
【0220】
(g)また、本例においては、RAM504(ROM503)に記憶される駆動状態判別データに基づいてエンジン107の状態(駆動状態、境界状態および被駆動状態)が判別される。この場合、回転力の伝達状態を検出するためのセンサを設ける必要が無いので、自動二輪車100の製品コストを低減することができる。
【0221】
(4)エンジン出力調整の他の例
上記においては、図21のステップS6および図22のステップS14において、点火プラグ78による混合気の点火を停止することによりエンジン107の出力を低下させているが、点火時期を遅角させることによりエンジン107の出力を低下させてもよい。また、ETV82を制御することによりエンジン107の出力を低下させてもよい。
【0222】
また、上記においては、フィックスギア51とスライドギア53との係合が解除された直後(図17においては時点t4、図18においては時点t8)にエンジン107の出力調整が終了されているが、他の時点でエンジン107の出力調整を終了してもよい。例えば、スライドギア53が移動し、他のフィックスギア51と係合する時点付近でエンジン107の出力調整を終了してもよい。この場合、第2のしきい値(図17(b)の値d)は低下し、第3のしきい値(図18(b)の値e)は増加する。
【0223】
また、上記においては、駆動状態判別データに基づいてエンジン107の状態(駆動状態、境界状態および被駆動状態)を判別しているが、他の方法でエンジン107の状態(駆動状態、境界状態および被駆動状態)を判別してもよい。
【0224】
例えば、ECU50のRAM504(ROM503)にエンジン107の回転速度、ETV82のスロットル開度およびエンジン107により発生される回転力(駆動力)の関係が示される3次元マップを記憶させてもよい。この場合、エンジン107の回転速度およびETV82のスロットル開度に基づいて3次元マップからエンジン107により発生される回転力を導出することができる。そして、導出された回転力が所定値以上の正の値である場合はエンジン107が駆動状態であると判別し、導出された回転力の絶対値が所定値より小さい場合はエンジン107が境界状態であると判別し、導出された回転力の絶対値が所定値以上となる負の値である場合はエンジン107が被駆動状態であると判別してもよい。
【0225】
(E)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0226】
上記実施の形態では、CPU502がエンジン出力調整部の例であり、シフトスイッチSWおよびクラッチレバー106bが阻害機構の例であり、クラッチレバー106bがクラッチ操作部材の例であり、シフトスイッチSWがスイッチ機構の例であり、移動部材90が第1の移動部の例であり、幅広部62が第2の移動部または第4の移動部の例であり、被押下部200が第3の移動部の例であり、後輪115が駆動輪の例である。
【0227】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0228】
本発明は種々の車両のエンジン出力調整システムとして有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】自動二輪車を示す概略側面図である。
【図2】図1のミッションケース内に設けられる変速機およびシフト機構の構成を説明するための図である。
【図3】メイン軸に伝達された回転力がドライブ軸に伝達される構成を示す概略模式図である。
【図4】固定グリップ、クラッチレバーおよびシフトスイッチを上方から見た図である。
【図5】固定グリップ、クラッチレバーおよびシフトスイッチを上方から見た図である。
【図6】図4のシフトスイッチのA−A線縦断面図である。
【図7】固定グリップ、クラッチレバーおよびシフトスイッチを上方から見た図である。
【図8】固定グリップ、クラッチレバーおよびシフトスイッチを上方から見た図である。
【図9】第2の実施の形態に係るシフトスイッチを説明するための図である。
【図10】第2の実施の形態に係るシフトスイッチを説明するための図である。
【図11】第2の実施の形態に係るシフトスイッチを説明するための図である。
【図12】第2の実施の形態に係るシフトスイッチを説明するための図である。
【図13】第2の実施の形態に係るシフトスイッチを説明するための図である。
【図14】スライドギアのドッグとフィックスギアのドッグ穴との関係を示す図である。
【図15】エンジンおよびエンジンの出力制御に関連する各部の概略構成を示す図である。
【図16】ECUのRAMに記憶される駆動状態判別データの一例を示す図である。
【図17】エンジンが駆動状態である場合に運転者がシフトアップ操作を行ったときのCPUによるエンジンの出力調整時期を説明するための図である。
【図18】エンジンが被駆動状態である場合に運転者がシフトダウン操作を行ったときのCPUによるエンジンの出力調整時期を説明するための図である。
【図19】ギアポジションを1速と6速との間で変化させたときのシフトカム回転角センサの検出値の一例を示す図である。
【図20】CPUの制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図21】CPUの制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図22】CPUの制御動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0230】
3 クラッチ
5 変速機
7 シフト機構
50 ECU
62 幅広部
80 固定部材
90 移動部材
100 自動二輪車
104 前輪
105 ハンドル
106a 固定グリップ
106b クラッチレバー
106c アクセルグリップ
107 エンジン
111 変速操作機構
115 後輪
200 被押下部材
300 遊動部材
400 固定部材
502 CPU
SW シフトスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより発生される回転力をクラッチおよび変速機を介して駆動輪に伝達する車両において前記エンジンの出力調整を行うエンジン出力調整システムであって、
運転者により前記変速機のシフト操作が行われた場合に前記エンジンの出力調整を行うエンジン出力調整部と、
前記エンジン出力調整部により前記エンジンの出力調整が行われている場合に、運転者による前記クラッチの切断を阻害する阻害機構とを備えることを特徴とするエンジン出力調整システム。
【請求項2】
前記阻害機構は、運転者により前記クラッチが切断されている場合には、前記エンジン出力調整部による前記エンジンの出力調整を阻害することを特徴とする請求項1記載のエンジン出力調整システム。
【請求項3】
前記阻害機構は、前記エンジン出力調整部による前記エンジンの出力調整および運転者による前記クラッチの切断のうち一方を可能にすることを特徴とする請求項1または2記載のエンジン出力調整システム。
【請求項4】
運転者により操作されるスイッチ機構をさらに備え、
前記エンジン出力調整部は、前記スイッチ機構が操作され、かつ前記変速機のシフト操作が行われた場合に、前記エンジンの出力調整を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエンジン出力調整システム。
【請求項5】
前記クラッチを操作する際に運転者に操作されるクラッチ操作部材をさらに備え、
前記阻害機構は、運転者により前記スイッチ機構が操作されている場合に、運転者による前記クラッチ操作部材の操作を阻害することを特徴とする請求項4記載のエンジン出力調整システム。
【請求項6】
前記阻害機構は、運転者により前記クラッチ操作部材が操作されている場合に、運転者による前記スイッチ機構の操作を阻害することを特徴とする請求項5記載のエンジン出力調整システム。
【請求項7】
前記阻害機構は、前記スイッチ機構および前記クラッチ操作部材を含み、
前記スイッチ機構は運転者の操作に連動して移動する第1の移動部を含み、
前記クラッチ操作部材は運転者の操作に連動して移動する第2の移動部を含み、
前記第1の移動部は、運転者により前記スイッチ機構が操作された場合に前記第2の移動部の移動を阻害する位置に移動し、
前記第2の移動部は、運転者により前記クラッチ操作部材が操作された場合に前記第1の移動部の移動を阻害する位置に移動することを特徴とする請求項5または6記載のエンジン出力調整システム。
【請求項8】
前記阻害機構は、前記スイッチ機構および前記クラッチ操作部材を含み、
前記スイッチ機構は運転者の操作に連動して第1の方向に移動する第3の移動部を含み、
前記クラッチ操作部材は運転者の操作に連動して第2の方向に移動する第4の移動部を含み、
前記第3の移動部は、運転者により前記スイッチ機構が操作された場合に前記第4の移動部を前記第2の方向と逆方向に付勢し、
前記第4の移動部は、運転者により前記クラッチ操作部材が操作された場合に前記第3の移動部を前記第1の方向と逆方向に付勢することを特徴とする請求項5または6記載のエンジン出力調整システム。
【請求項9】
前記エンジン出力調整部は、運転者により前記変速機のシフト操作が行われた場合に、回転力が前記エンジンから前記変速機へ伝達されている駆動状態における回転力が第1の値以上である場合には前記エンジンの出力を低下させ、前記駆動状態における回転力が第1の値よりも小さい場合には前記出力低下を行わないことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のエンジン出力調整システム。
【請求項10】
駆動輪と、
前記駆動輪を回転させるための回転力を発生するエンジンと、
前記エンジンにより発生される回転力を前記駆動輪に伝達する変速機と、
前記エンジンと前記変速機との間に設けられるクラッチと、
請求項1〜9のいずれかに記載のエンジン出力調整システムとを備えたことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−174220(P2008−174220A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312414(P2007−312414)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】