説明

エンジン及びその制御方法

【課題】エンジン始動時のクランキングトルクを低減したエンジンの提供と、その制御方法の提供。
【解決手段】本発明のエンジンは、排気弁(10)と、該排気弁(10)を開閉する機構とを備え、排気弁(10)を開閉する機構は、エンジン作動時には圧縮行程で排気弁(10)を閉鎖するが、エンジン始動時には圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランキングトルクを低減する技術に関する。特に、エンジン始動時のクランキングトルクを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図7及び図8により、ターボチャージャ5を備えた大型自動車用エンジンの吸気行程、圧縮行程及びクランキングトルクを説明する。
吸気行程を示す図7において、吸気弁9は開弁され、排気弁10は閉鎖されている。
シリンダ6内に新気Aを吸気するためには、吸気マニフォールド2、吸気管2a、吸気弁9及び図示しないエアフィルタ等による吸気抵抗よりも、クランキングトルクを大きくする必要がある。
図7において、符号3aは排気管、符号3は排気マニフォールドである。
【0003】
圧縮行程を示す図8において、吸気弁9及び排気弁10は閉鎖されている。吸気行程らおいて、シリンダ6に充填された新気Aは、ピストン8の上昇と共に、圧縮される。新気Aの圧縮には、ピストン8を介したクランキングトルクを必要とする。
ここで、ターボチャージャ5は加給作用をしてシリンダ6内の新気Aを増加するので、クランキングトルクを増加させる方向に作用する。
【0004】
上記の吸気行程、圧縮行程において、クランキングトルクは、冷却系のファン、ウオータポンプ、燃料供給系の燃料噴射ポンプその他の補機を駆動するのに必要なトルクとなる。
始動時には、補機駆動用のクランキングトルクを、スタータモータによって発生させている。
ここで、従来は、上述した補機駆動用のクランキングトルクを発生させるための容量を備えたスタータモータが必要であった。
しかし、始動時だけに必要とするスタータモータの容量を大きくする事は、自動車の限られたレイアウトでは困難であり、車両軽量化の要請に反してしまう。
また、公知のデコンプ構造は、装置が複雑であり、重量の増加、設置のためのコストの増加が問題となっている。
【0005】
その他の従来技術として、エンジン始動時に排気バルブを開き、始動クランキング圧力を低減して、抵抗を減少させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術では、エンジンそのものを改造して、バルブリフト時にロッカアームの基端側に駒を挿入してロッカアームの復帰を規制する様に構成しなければならない。すなわち、大幅な改良が必要であり、実施するためには莫大なコストが必要となってしまう。
【特許文献1】特開2003−106124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、エンジン始動時のクランキングトルクを低減したエンジンの提供と、その制御方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエンジンは、排気弁(10)と、該排気弁(10)を開閉する機構とを備え、排気弁(10)を開閉する機構は、エンジン作動時には圧縮行程で排気弁(10)を閉鎖するが、エンジン始動時には圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する機能を有していることを特徴とする(請求項1)。
【0008】
前記排気弁(10)を開閉する機構は、手動により、圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する様に切り換えられる機能を有する(請求項2)。
【0009】
本発明のエンジンは、制御装置(21)を有し、該制御装置(21)は、エンジン作動時とエンジンの始動時とを判断し、エンジン始動時に圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する機能を有する(請求項3)。
【0010】
排気弁(10)を開閉する機構はロッカアーム(12)を有し、該ロッカアーム(12)は、エンジン始動時に圧縮行程で排気弁(10)の弁棒(11)をシリンダ(6)側に僅かに押し込む機能を有している(請求項4)。
【0011】
本発明において、圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する機能を有する機構として圧縮圧開放式ブレーキの機構を採用し、当該圧縮圧開放式ブレーキをエンジン始動時に作動するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上述する構成を具備する本発明によれば、エンジン始動時には圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する様に構成されているので、圧縮行程の際にシリンダ(6)内部の圧縮された混合気は排気弁(10)からシリンダ(6)外に排気される。
その結果、圧縮行程における混合気の圧縮比が低くなり、混合気の圧縮比が低くなった分だけクランキングトルクを低減する事が出来る。
【0013】
ここで、本発明によれば、エンジン作動時には圧縮行程で排気弁(10)を閉鎖し、圧縮行程における混合気の圧縮比は通常レベルまで回復するので、始動時にクランキングトルクが低減しても、エンジンの通常の運転時において、エンジン性能が低下してしまう事はない。
【0014】
さらに本発明によれば、圧縮行程で排気弁(10)を僅かに開放する機能を有する機構として圧縮圧開放式ブレーキの機構を採用し、当該圧縮圧開放式ブレーキをエンジン始動時に作動する様に構成することが可能である。その様に構成すれば、エンジンの構造を新規なものに変更することなく、既存の圧縮圧開放式ブレーキを適用する事により、エンジン始動時のクランキングトルクを低減して、エンジン始動時の各種負荷を低減することが可能である。
その結果、本発明を実施するのに必要なコストを、低く抑えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1〜図4は、本発明の第1実施形態を示している。
図1において、シリンダヘッド16の下部に、シリンダ6に通じる排気孔14が設けられている。排気孔14は、排気管3aを介して排気マニフォールド3に連通している。
排気孔14の下端部に、弁座13が形成されている。
【0016】
弁座13に着座あるいは脱座する様に、排気弁10が配置されている。排気弁10の上部に、弁棒11が連結されている。弁棒11は、シリンダヘッド16の上部に延在している。弁棒11の上端部は、排気弁用のロッカアーム12の一端部に、接離自在に接している。ロッカアーム12の他端部に、ボルト12aが上下方向に延びて取り付けられている。
【0017】
ボルト12aの下端部は、プッシュロッド15の上部に、密接に且つ揺動自在に接している。プッシュロッド15の下端部は、明示しない動弁機構用のカム軸に接している。
ロッカアーム12の中央部に、回動用の孔12bが設けられている。
ロッカアーム12の構成を示す図2及び図3において、孔12bに、偏芯ブッシュ18が嵌合されている。
【0018】
図3において、通常運転の際における閉弁時のロッカアーム12の位置を、点線で示している。一方、図3において、排気弁10に隙間Dを形成させて、始動を容易にさせる状態のロッカアーム12の位置が、実線で示されている。
図3に示すように、偏芯ブッシュ18は、ロッカシャフト17に対して偏芯している。
図3において、符号Crはロッカシャフト17の中心であり、符号Cbは実線で示す状態における偏芯ブッシュ18の外周の中心である。
【0019】
偏芯ブッシュ18が、ロッカシャフト17を中心に回転すると、偏芯ブッシュ18の外周の中心、つまりロッカアーム12の中心が下側にずれる。したがって、ロッカアーム12が下方に押し下げられて、閉弁時の隙間Dが形成される。
【0020】
図1に示すように、ロッカシャフト17は支持部22によって支持されており、支持部22はシリンダヘッド16の上部に取り付けられている。
図1及び図2に示すように、偏芯アーム20は、ロッカシャフト17の軸線に対して直角方向に取り付けられている。
このように構成されているので、始動時には、図3に示すように、矢印Y方向に偏芯アーム20を回転させる。偏芯アーム20の回転によって、ロッカシャフト17を回転する。ロッカシャフト17の回転により、偏芯ブッシュ18を介して支点15aまわりにロッカアーム12を回動し、ロッカアーム12を下げる。そしてロッカアーム12が下がると、弁棒11がシリンダ6側に移動して(下がり)、排気弁10を脱座させる。
【0021】
上記構成による第1実施形態における制御を、図4を参照して説明する。
図4において、エンジンを始動させるためのスタータモータ(図示を省略)が、作動しているか否かを判断する(ステップS1)。
スタータモータが作動していれば(ステップS1がyes)、ステップS2に進む。スタータモータが作動していなければ(ステップS1がno)、ステップS3に進む
【0022】
ステップS2では、圧縮行程において、弁棒11をシリンダ6側に僅かに押し込んで、排気弁10を僅かに開放させる。圧縮行程で排気弁10を僅か開放することによって、始動時のクランキングトルクが低減される。
ステップS2において、「EEB」なる表記は、圧縮行程と膨張行程で排気弁10を開放して、エンジンブレーキ力を増加させるための、公知の技術を指している。大型のエンジンでは係る「EEB」技術が多く採用されている。そのため、ステップS2では、「EEB→ON」なる表現で、排気弁10を僅かに開放させる旨を記述している。
そして、圧縮行程で排気弁10を僅か開放してクランキングトルクを低減した状態で、エンジンを始動させて、「Return」となる。
【0023】
ステップS3では、スタータモータが作動していないので、圧縮行程で排気弁10を開放させる制御は行わない。したがって、「EEB→OFF」である。
そして「Return」となる。
【0024】
図5、図6は、本発明の第2実施形態を示している。
以下、図5、図6を参照して、本発明の第2実施形態について、主として、図1〜図4の第1実施形態とは異なる点を説明する。
図5において、偏芯アーム20の端部に、油圧アクチュエータ23(図6参照)の上部36が係合されている。
アクチュエータ23の下部は、圧油管25に接続されている。
圧油管25は、電磁弁26、油圧ポンプP1及びP0を介してオイルパン24に連結されている。
【0025】
電磁弁26は、信号ライン21Lを介して、制御装置21に連結されている。
制御装置21は、信号ライン19Lを介して、始動レバー19のON―OFFスイッチに連結されている。そして、始動レバー19のON―OFFスイッチは、ステアリングコラム17に取り付けられている。
【0026】
制御装置21は、始動時には、始動レバー19からの始動信号を受信して、電磁弁26を介して、高圧油をアクチュエータ23に送油する機能を有している。
また、エンジン作動状態、例えばエンジン回転速度がクランキング回転速度以上にある状態では、アクチュエータ23への送油をやめる機能を有している。
【0027】
図6は、アクチュエータ23の断面を示す構成図である。
外筒部33の内部にシリンダ部37が形成され、シリンダ部37は上部が開放された形状となっている。シリンダ部37内に、プランジャ34が配置されている。プランジャ34の下部には、プランジャ部35が形成されている。
プランジャ34の上部には凹部36が形成されており、凹部36は偏芯アーム20の端部に係合する。
【0028】
シリンダ部37の底部には、2つの弁用孔40、42が形成されている。一方の弁用孔40は、球形一方弁を構成しており、圧油管25からの圧油をシリンダ部37に導くものである。他方の弁用孔42は、圧油管25からの圧油の供給がなくなったときに、シリンダ部37内の圧油を外部に排出するためのフリーピストン42である。
アクチュエータ23の底部と圧油管25との連結は明示していないが、通常の管接合によって行われている。
この構成によって、始動時には、プランジャ34により、偏芯アーム20が図3の矢印Y方向に回転する。そして、弁棒11をシリンダ6側に僅かに押し込んで、開放させる。
【0029】
図5、図6の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、図1〜図4に示した第1実施形態と同様である。
【0030】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
例えば、排気バルブを開放する機構は、図示の油圧システムに限定される訳ではなく、圧縮エア供給機構と作動用及び非作動用エアシリンダを有するシステムや、その他の公知のシステムを用いて、排気バルブを開閉する場合においても、本発明を適用する事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態の構成図。
【図2】図1の排気弁用のロッカアームを示す斜視図。
【図3】図2のロッカアームの構成と機能を示す側面図。
【図4】第1実施形態の制御作用を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2実施形態の構成図。
【図6】図5のアクチュエータの構成を示す断面図。
【図7】従来のエンジンの吸気行程におけるクランキングトルク発生の説明用図。
【図8】従来のエンジンの圧縮行程におけるクランキングトルク発生の説明用図。
【符号の説明】
【0032】
P0・・・・・・・油ポンプ
P1・・・・・・・始動用ポンプ
6・・・・・・・・シリンダ
8・・・・・・・・ピストン
9・・・・・・・・吸気弁
10・・・・・・・排気弁
11・・・・・・・弁棒
12・・・・・・・ロッカアーム
12a・・・・・・ボルト
13・・・・・・・弁座
15・・・・・・・プッシュロッド
16・・・・・・・シリンダヘッド
17・・・・・・・ロッカシャフト
18・・・・・・・偏芯ブッシュ
19・・・・・・・始動レバー
20・・・・・・・偏芯アーム
21・・・・・・・制御装置
22・・・・・・支持部
23・・・・・・アクチュエータ
24・・・・・・オイルパン
25・・・・・・圧油管
26・・・・・・・電磁弁
27・・・・・・・ステアリングコラム
33・・・・・・・外筒部
34・・・・・・・プランジャ
35・・・・・・・プランジャ部
36・・・・・・・嵌合部
37・・・・・・・シリンダ部
38・・・・・・・チェック弁
40、41・・・・往路油孔
42・・・・・・・フリーピストン
44・・・・・・・復路油孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気弁と、該排気弁を開閉する機構とを備え、排気弁を開閉する機構は、エンジン作動時には圧縮行程で排気弁を閉鎖するが、エンジン始動時には圧縮行程で排気弁を僅かに開放する機能を有していることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
排気弁を開閉する機構は、手動により、圧縮行程で排気弁を僅かに開放する様に切り換えられる機能を有する請求項1のエンジン。
【請求項3】
制御装置を有し、該制御装置は、エンジン作動時とエンジンの始動時とを判断し、エンジン始動時に圧縮行程で排気弁を僅かに開放する機能を有する請求項1のエンジン。
【請求項4】
排気弁を開閉する機構はロッカアームを有し、該ロッカアームは、エンジン始動時に圧縮行程で排気弁の弁棒をシリンダ側に僅かに押し込む機能を有している請求項1〜3の何れか1項のエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−74465(P2009−74465A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245127(P2007−245127)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】