説明

エンボスキャリアテープ及びその製造方法

【課題】
透明性が良好で、かつ形状精度および座屈強度の優れたエンボス部を有するエンボスキャリアテープ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
(a)スチレン系樹脂組成物を二軸延伸してなるシートをテープ状にスリットする工程と、(b)回転する円筒状の加熱器によりスリットしたテープを巻き取り、テープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱する工程と、(c)回転する円筒状の成形金型により加熱されたテープを巻き取り、ロータリー真空成形によりエンボス部を形成する工程と、を具備するエンボスキャリアテープの製造方法、及び該製造方法によって得られるエンボスキャリアテープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品のためのエンボスキャリアテープ、並びに該キャリアテープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品を電子機器に実装するためのキャリアテープとしては、塩化ビニル樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂で構成されたシートをエンボス形状に熱成形したエンボスキャリアテープが用いられている。
かかるエンボスキャリアテープには、電子部品への静電気障害防止対策を取ることが必要であり、例えばICやLSIのような高度の帯電防止性が要求される電子部品用として用いる場合は、前記の熱可塑性樹脂にカーボンブラック等の導電性フィラーを含有させた樹脂組成物からなるシートや、前記の樹脂シート表面に導電性塗料等を塗布した一般的には不透明なシートが用いられていた。
【0003】
一方で、電子部品のなかでも、例えばコネクターのように静電気障害によって破壊する可能性が少ないものを収納するエンボスキャリアテープには、外から内容物の電子部品の詳細を目視や検査機で確認することや、該部品に記載された文字を検知する点で有利なことから、従来、前記の樹脂のなかでも比較的透明性の良好な熱可塑性樹脂を基材とした透明タイプのエンボスキャリアテープが用いられ、その需要が増加してきている。
更に、これら電子部品の小型化が進んでいることから、この種の透明タイプのキャリアテープには、前記の透明性に加えて、薄肉であって且つ形状精度や座屈強度の優れた微少なエンボス部(電子部品収納ポケット、キャビティーとも言う。)を有していることが要求されてきている。
【0004】
このような透明タイプのエンボスキャリアテープ用のシートとしては、例えばスチレン系樹脂シートとして、汎用ポリスチレン樹脂とスチレン−ブタジエンブロック共重合体とを混合したシートや(特許文献1又は2参照)、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含有するゴム変性スチレン系重合体からなるシート(特許文献3又は4参照)が知られている。
これらのシートを成形する方法としては、プレス成形、真空成形、圧空成形、ロータリー真空成形等が挙げられるが、いずれの成形方法においても、前記のように透明性、形状精度および座屈強度のいずれも優れた微少なエンボス部を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−332392号公報
【特許文献2】特開2003−055526号公報
【特許文献3】特開平10−279755号公報
【特許文献4】特開2003−253069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明性が良好で、かつ形状精度および座屈強度の優れたエンボス部を有するエンボスキャリアテープ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエンボスキャリアテープの製造方法では、(a)スチレン系樹脂組成物を二軸延伸してなるシートをテープ状にスリットする工程と、(b)回転する円筒状の加熱器によりスリットしたテープを巻き取り、テープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱する工程と、(c)回転する円筒状の成形金型により加熱されたテープを巻き取り、ロータリー真空成形によりエンボス部を形成する工程と、を具備する。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記製造方法において、工程(b)及び(c)において、テープの部分的に加熱された部分にエンボス部が形成されるように、テープのエンボス部が形成される部分を加熱するための部分加熱部が円筒外周部に配置された円筒状の加熱器と、成形金型の方向にテープを真空吸引してエンボス部を形成するためのエンボス成形部が円筒外周部に配置された円筒状の成形金型とが同期して回転する。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、前記製造方法において、シート厚さ0.15〜0.5mmの二軸延伸シートからなるテープを、エンボス部に相当する形状を有する110〜180℃に加熱された加熱部を有する円筒状の加熱器と0.5〜5.0秒接触させることによって加熱する。また、テープに押し当てられる加熱部の面積が、エンボス部が形成される部分の面積に対して90〜120%である。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、前記製造方法において、前記二軸延伸されたシートのASTM D−1504に準拠して測定される配向緩和応力値が0.2〜0.8MPaである。また、前記スチレン系樹脂組成物が、前記ポリスチレン樹脂(A)を7〜79.5質量%、前記ハイインパクトポリスチレン樹脂(B)を0.5〜3質量%、前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20〜90質量%含有する。また、前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)が、スチレンを70〜90質量%、共役ジエンを10〜30質量%含有する共重合体である。
【0011】
また、本発明によれば、スチレン系樹脂組成物を二軸延伸してなるシートをテープ状にスリットし、回転する円筒状の加熱器によりスリットしたテープを巻き取り、テープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱した後に、回転する円筒状の成形金型により加熱されたテープを巻き取り、ロータリー真空成形によりエンボス部を形成したエンボスキャリアテープが提供される。
【0012】
本発明の一態様によれば、前記エンボスキャリアテープは、テープの部分的に加熱された部分にエンボス部が形成されるように、テープのエンボス部が形成される部分を加熱するための部分加熱部が円筒外周部に配置された円筒状の加熱器と、成形金型の方向にテープを真空吸引してエンボス部を形成するためのエンボス成形部が円筒外周部に配置された円筒状の成形金型とが同期して回転する。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、前記エンボスキャリアテープは、シート厚さ0.15〜0.5mmの二軸延伸シートからなるテープを、エンボス部に相当する形状を有する110〜180℃に加熱された加熱部を有する円筒状の加熱器と0.5〜5.0秒接触させることによって加熱する。また、本発明の一態様によれば、加熱部の面積が、エンボス部が形成される部分の面積に対して90〜120%である。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、前記二軸延伸されたシートのASTM D−1504に準拠して測定される配向緩和応力値が0.2〜0.8MPaである。また、前記スチレン系樹脂組成物が、前記ポリスチレン樹脂(A)を7〜79.5質量%、前記ハイインパクトポリスチレン樹脂(B)を0.5〜3質量%、前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20〜90質量%含有する。また、前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)が、スチレンを70〜90質量%、共役ジエンを10〜30質量%含有する共重合体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明性が良好で、かつ形状精度および座屈強度の優れたエンボス部を有するエンボスキャリアテープ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るエンボスキャリアテープの製造方法を説明するための概略図である。
【図2】本発明に係るエンボスキャリアテープの製造方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係るエンボスキャリアテープは、スチレン系樹脂組成物を二軸延伸してシートにして、さらに該シートをテープ状にスリットして、エンボス部を形成することにより得られる。
ここで、スチレン系樹脂とは、スチレン系単量体の単独重合体又は共重合体を意味し、スチレンユニットを主成分とした、一般タイプのポリスチレン樹脂(以下「GPPS樹脂」という)、ハイインパクトポリスチレン樹脂(以下「HIPS樹脂」という)、スチレン−共役ジエンブロック共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の各種の樹脂、およびそれらの一種以上の混合物を指す。
【0018】
一実施形態では、前記シートを製造するための前記スチレン系樹脂の原料としては、スチレン系樹脂のなかでもGPPS、HIPSが特に用いられ、また場合によっては任意成分樹脂としてスチレン−共役ジエンブロック共重合体を含んでなる樹脂が併用される。
【0019】
樹脂組成物の配合例を挙げると、GPPS樹脂(A)7〜79.5質量%、HIPS樹脂(B)0.5〜3質量%、及びスチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)20〜90質量%である。
よって、代表的な実施形態では、エンボスキャリアテープは、GPPS樹脂(A)7〜79.5質量%、HIPS樹脂(B)0.5〜3質量%、及びスチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)20〜90質量%を含有する樹脂組成物を原料として製造される。
【0020】
上記において、GPPS樹脂(A)は、基本的にスチレンユニットで構成される樹脂であって、特に限定するものではないが、エンボスキャリアテープの強度と透明性を維持するために、その重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で、例えば、20万〜40万、好ましくは22万〜35万、特に好ましくは22万〜26万である。
【0021】
また、HIPS(B)は、前述のように一般に「ハイインパクトポリスチレン樹脂」と呼ばれている樹脂であって、ジエンゴム等のゴム分の存在下でスチレンをグラフト重合させたものが挙げられる。
透明性と強度の観点から、ゴム分はHIPSを100質量%としたときに4〜10質量%で、ゴム粒子径が0.5〜4μmのものが好ましく、更に樹脂流動性が5g/10min以上の流動性に優れたものが好ましい。更に好ましくは5〜10g/10minである。
尚、ゴム粒子径は体積基準の平均粒子径を意味し、流動性はJIS K7210に準拠して測定した値である。
【0022】
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)は、前述のように任意樹脂成分であり、その構造中にスチレン系単量体を主体とする重合体ブロックと共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックを含有する重合体である。
【0023】
スチレン系単量体としては、スチレン、ο−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等があり、なかでもスチレンは好適である。スチレン系単量体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。共役ジエン単量体とは、その構造中に共役二重結合を有する化合物であり、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンは好適である。共役ジエン単量体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は一種類あるいは二種類以上を用いることができ、また市販のものをそのまま用いることもできる。特に好ましくは、スチレン−ブタジエンブロック共重合体である。
【0024】
またスチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)のブロック構造としては、エンボスキャリアテープの透明性や加工性を損なわない限り、様々なブロック構造のスチレン−共役ジエンブロック共重合体を採用できるが、エンボスキャリアテープの透明性、強度、シートからのスリット工程、打ち抜き工程、穴空け工程等での切り粉抑制が良好であることから、スチレン含有率が70〜90質量%、ブタジエン含有率が10〜30質量%であり、かつ、スチレンブロック部の分子量が1万〜13万である共重合体が例示される。
ここで、スチレンブロック部の分子量が1万以上であれば、エンボスキャリアテープの透明性が下がり、成形品での外観を損なうことがない。また、スチレンブロック部の分子量が13万以下であれば、押出成形工程における流動性が良好であり、高温に押出温度を高めることを必要とせず、高い成形性を得ることができる。更には高温度での押出加工が必要ではないため、延伸温度が低く、好ましい強度のエンボスキャリアテープを得ることができる。
【0025】
尚、本発明においてスチレンブロック部の分子量とは、ブロック共重合体をオゾン分解して〔Y.TANAKA、et al.,RUBBER CHEMISTRY AND TECHNOLGY, 59,16(1986)に記載の方法〕得たビニル芳香族炭化水素重合体成分のGPC測定(検出器として波長254nmに設定した紫外分光検出器を使用)において、各ピークに対応する分子量を標準ポリスチレン及びスチレンオリゴマーを用いて作成した検量線から求めたものである。
ここで、分子量の異なる複数のスチレンブロック部が含まれているブロック共重合体では、ブロック毎に複数のスチレンブロック部の分子量が得られることとなる。この場合、いずれかのスチレンブロック部が1万から13万の分子量を有していればよいが、全てのスチレンブロック部が1万から13万の分子量を有しているのが好ましい。
【0026】
よって、二軸延伸スチレン系樹脂シートは、その樹脂原料として、スチレン系樹脂のなかでも、GPPS(A)を7〜79.5質量%、ゴム分を4〜10質量%含有するHIPS(B)0.5〜3質量%、及びスチレンブロック部の分子量が1万〜13万であるスチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20〜90質量%含有するスチレン樹脂組成物を用いる。
上記において、GPPS(A)の含有量が7質量%以上であれば、シートの引張弾性率が高く、キャリアテープに成形したときに十分なエンボス部の座屈強度を得ることができる。一方で、後述するように、HIPS(B)を0.5質量%含有することは、スチレン系樹脂の二軸延伸シートにおいては重要であるので、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20質量%含有させた場合には、GPPS(A)の最大の含有量は、79.5質量%である。
樹脂原料の中でHIPS(B)の含有量は、エンボスキャリアテープの表面の滑り性の観点から最低でも0.5質量%以上が好ましく、透明性と強度の観点から最大でも3質量%以下が好ましい。特に、良好な透明性を得るという観点からは0.5〜2質量%が好ましい。
【0027】
一方、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)は任意樹脂成分であり、含有させなくともよいが、GPPS(A)及びHIPS(B)を少なくする場合は、最大90質量%まで含有させることができる。
そして本発明の前述の課題を全て満足させるという観点からは、スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20〜90質量%有するスチレン系樹脂が好ましく、更に好ましくは40〜90質量%であり、これに対応して、GPPS(A)の含有量が、好ましくは7〜79.5質量%、更に好ましくは7〜59.5質量%となる。
このような範囲とすることで、このシートをキャリアテープに成形する際に行われる穴開け加工や、このシートをテープ状にスリットする際に発生する切り粉を低いレベルに抑えることができる。
【0028】
また、前記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、種々の添加剤、例えば、安定剤(リン系,硫黄系又はヒンダードフェノール系等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、可塑剤(ミネラルオイル等)、帯電防止剤、滑剤(ステアリン酸、脂肪酸エステル等)、離型剤等を添加することができる。さらに、無機粒子(リン酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、ゼオライト、シリカ等)も用いることができる。
【0029】
前記二軸延伸スチレン系樹脂シートは、前記樹脂組成物から慣用の方法で製造することができる。例えば、一実施形態では、前記原料樹脂組成物を、押出機により、溶融混練(例えば、170〜240℃の温度で混練)してダイ(特にTダイ)から押出し、次いで、例えば85〜135℃の温度で、二軸方向にそれぞれ1.5〜5倍、好ましくは1.5〜4倍、さらに好ましくは2〜3倍の延伸倍率で逐次または同時二軸延伸することによって形成できる。
【0030】
延伸倍率が1.5倍以上であれば、エンボスキャリアテープの強度、特に、強靭性が良好となり、5倍以下であれば真空成形/圧空成形等の熱成形工程で成形された容器の偏肉を抑制することができる。
そのため、延伸倍率を5倍以下に抑えて、シート全体に亘りほぼ均一に延伸された二軸延伸シートとするのが好ましい。逐次2軸延伸法としては、例えば、Tダイ又はカレンダーを用いて押出成形された原反シートを、90〜135℃の加熱状態で一軸方向に1.5〜4倍の倍率で延伸し、次いで、90〜135℃の加熱状態で上記延伸方向に直交する方向に1.5〜4倍の倍率で延伸する方法等が挙げられる。
【0031】
上述のようにして得られるキャリアテープ用の二軸延伸シートの配向緩和応力は、用いるスチレン系樹脂組成物の組成、前記の延伸温度、延伸倍率等の条件によって変化するが、これらの条件を調整することによって、所定の配向緩和応力(収縮応力)を有するシートとすることができる。
【0032】
即ち、本発明の一実施形態に係るキャリアテープ用の二軸延伸シートは、かかる諸条件が調整されて、ASTM D−1504に準拠して測定される配向緩和応力(130℃での収縮応力)が、0.2〜0.8MPaであり、好ましくは0.3〜0.6MPaとなる。
配向緩和応力が0.2MPa以上であれば十分な透明性が得られ、0.8MPa以下であればキャリアテープへの成形が容易となる。
【0033】
また上述のようにして得られるキャリアテープ用の二軸延伸シートの厚みは、本発明のロータリー真空成形においては、シートの透明性、強度、成形性、切り粉抑制及びバリ抑制効果の観点から、0.15〜0.5mmの範囲であり、好ましくは、0.16〜0.4mm、さらに好ましくは0.18〜0.3mmである。
【0034】
本発明の一実施形態に係るエンボスキャリアテープの製造方法は、(a)スチレン系樹脂組成物を延伸してなるシートをテープ状にスリットする工程と、(b)回転する円筒状の加熱器によりスリットしたテープを巻き取り、テープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱する工程と、(c)回転する円筒状の成形金型により加熱されたテープを巻き取り、ロータリー真空成形によりエンボス部を形成する工程と、を具備する。
【0035】
図1に示すように、二軸延伸シートをスリットしたテープ1を、円筒状の加熱器2によって加熱を行い、その後、円筒状の成形金型3によってロータリー真空成形することによりエンボス部を形成する。
【0036】
円筒状の加熱器2には、その円筒外周部に沿って部分加熱部4が配置され、該加熱器2が回転することによりテープ1を巻き取り、テープ1を部分的に加熱することで、高精度なエンボスキャリアテープ5の成形が可能となる。
また、円筒状の成形金型3は、前記加熱器2によって部分的に加熱されたテープを巻き取り、エンボス成形部5によって真空吸引することで、テープにエンボス部を形成する。
【0037】
二軸延伸シートからなるテープ1は、連続的に加熱器2及び成形金型3へと送り込まれる。テープの送り構造は、リール等による巻き取りによるものであってもよいし、例えば、テープ長手方向の両側、もしくは、片側に設けられた送り穴により搬送されるようにしてもよい。
このとき、回転同期装置6により、テープの部分的に加熱された部分にエンボス成形部5が位置するようになる。
【0038】
加熱器2の部分加熱部4がテープと接触する面積は、エンボス部の大きさにもよるが、エンボス部の開口面と略同形状で、エンボス開口面積の90〜120%の範囲の大きさであり、また、部分加熱部4のテープとの接触面は、平面、あるいは、加熱器2と同心円を描く曲面形状に設けられていることが好ましい。この範囲であれば、形状精度および座屈強度の優れたエンボス部を有するエンボスキャリアテープを得ることができる。
部分加熱部4がテープと接触する面積は、好ましくはエンボス開口面積の95〜118%、より好ましくは98〜115%である。この範囲であれば、より精度の高い加工が可能となる。
【0039】
エンボス部の形成工程では、図1に示すように、成形金型3のエンボス成形部5の内部(凹型の内部)を真空とすることにより、テープの加熱された部分を凹型の内部へ引き込み、エンボス部を形成する。
【0040】
また、図2に示すように、成形金型3の凸型のエンボス成形部5の周囲に設けた真空孔によりテープを真空吸引することにより、テープの加熱された部分をエンボス成型部5の周囲に賦形させて、エンボス部を形成するようにしてもよい。
なお、ロータリー真空成形によるエンボス部の形成後、冷却工程を経てもよい。
【0041】
本発明のエンボスキャリアテープは、前記のキャリアテープ用の二軸延伸シートを狭幅のテープ状にスリットし、該テープのエンボス部が形成される部分を所定の温度及び所定の時間で部分的に加熱した後にロータリー真空成形することによって、テープの長さ方向に連続した小型の電子部品を収納するエンボス部を形成することができる。
【0042】
一般にロータリー真空成形は、回転ドラムが回転して一周毎に同じ成形がくり返されるので、連続するキャビティーやスプロケットの累積誤差が無いという大きな特徴があり、高い精度が要求されるエンボスキャリアテープの成形に適しているが、本発明で用いる二軸延伸されたスチレン系樹脂シートでは、前記のように熱成形する際に熱収縮する傾向があるため、キャリアテープのような高精度の要求される成形には使用されていなかった。
【0043】
しかしながら、エンボスキャリアテープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱することによって、キャリアテープに要求される高精度な成形が可能となる。ここで、エンボス部が形成される部分とは、真空成形によって形成されるエンボスキャリアテープのエンボス部の開口部に相当する。
【0044】
加熱に用いられる加熱器は円筒状であり、その円周部上に、エンボスキャリアテープのエンボス部の開口部に略相似の形状に部分加熱部(突出部)を有し、該部分加熱部のテープに接触する面が平面形状、あるいは、加熱器2と同心円を描く曲面形状に設けられている。
【0045】
このような部分加熱部を備える加熱器により二軸延伸シートからなるテープを部分的に加熱することで、キャリアテープに要求される高精度な成形が可能となる。
このような部分加熱部を持たない加熱器によってテープ全面を加熱すると、二軸延伸されたスチレン系樹脂シートからなるテープは熱収縮する傾向にあるため、キャリアテープに要求される高精度な成形は難しくなる。
【0046】
部分加熱は、エンボス部が形成される部分を含むように、所定の面積で行われることが好ましい。そのため、前記部分加熱部は、前記開口部形状と相似の形状であれば、前記開口部形状が成す面積を100%としたとき、90〜120%の面積であることが好ましい。
前記部分加熱部の面積が90%以上であれば、成形のために必要な加熱範囲としては十分であり、求めている形状にエンボス部が成形される。また、前記部分加熱部の面積が120%以下であれば、上述のような熱収縮が抑制され、キャリアテープに要求される高精度な成形が可能となる。
また、前記部分加熱部の面積は前記開口部形状が成す面積に対して、好ましくは95〜118%の面積、より好ましくは98〜115%の面積である。このような範囲にすることにより、キャリアテープに要求されるより高精度な成形が可能となる。
【0047】
前記部分加熱部を持つ加熱器による加熱は、二軸延伸シートの厚みに対して所定の加熱温度と時間を調節することが好ましい。具体的には、110〜180℃に加熱された加熱器を前記シートに0.5〜5.0秒接触させて加熱することが好ましい。
加熱器による加熱が110℃以上であれば、テープをロータリー真空成形するのに十分な柔軟性を持つために成形することが容易となり、180℃以下であれば、加熱器へのテープの溶着を防ぐことができる。
【0048】
テープへの接触加熱時間は、二軸延伸シートの厚みと加熱温度により最適値が異なり、一般的にシート厚みが厚くなるほど加熱時間を長く、加熱温度が低くなるほど加熱時間を長くする必要があるため、成形状態を観察しながら調整する必要がある。テープへの接触加熱時間は、テープの送り速度、即ちドラムの回転速度を調節することにより設定することができる。
【0049】
テープの加熱時間を0.5秒以上とすれば、ロータリー真空成形をするのに十分な熱量をテープの厚み方向に与えることができ、テープがロータリー真空成形するのに十分な柔軟性を与え、エンボス部が精度良く形成可能となる。また、加熱時間を5秒以下とすれば部分加熱部以外の部分への、加熱器からの輻射熱による加熱を抑制することができ、熱収縮を抑制することができる。
【0050】
ロータリー真空成型の工程において、成形金型は円筒状であり、その円周部上に、テープにエンボス部を形成するためのエンボス成形部を有している。該エンボス成形部は、円筒状である成形金型の回転軸(中心)方向に向かって略凹型の形状をしている雌型金型(図1)と、略凸型の形状をしている雄型金型(図2)がある。
【0051】
前記加熱器によって部分的に加熱されたテープは、成形金型の円周部へ巻き取られ、エンボス成形部を真空状態とすることにより、雌型金型では、略凹型部内に設けられた真空孔により、略凹型部内が減圧されるため、テープがエンボス成形部の内部に引き込まれ、エンボス部が形成される。
また、雄型金型では、略凸型部周辺に設けられた真空孔により、略凸型部周辺が減圧されるため、テープが略凸型部に引き寄せられ、エンボス部が形成される。
【0052】
雌型金型は、深さのあるエンボスを成形するのに適している。一方、雄型金型は、深さのあるエンボスの成形には向いていない反面、エンボス内側面(電子部品が収納される側)の寸法精度を高精度に出すことができるという特徴を有する。そのため、雄型金型は、厚さが1mm程度以下の電子部品収納用のエンボス成形に用いることが好ましく、雌型金型は、それより大きい電子部品収納用のエンボス成形に用いることが好ましい。
【0053】
エンボス部が形成された後、温調された金型により部分的に加熱されたテープは冷却され、金型からテープが剥離される際には、形成されたエンボス部の形状を維持することができる。
【0054】
金型のエンボス成形部形状を維持すること、金型の温調精度を良くするために、熱伝導率の高いものを用いることから、金型の材質は、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、真鍮などの金属を用いることが好ましいが、金型のエンボス成形部形状を維持でき、金型の温調精度を良くするための熱伝導率を有するものであれば、これに拘るものではない。
【0055】
エンボス部が形成されたテープは、金型から剥離する際には、剥離を補助するような剥離治具を用いることもできる。この場合、金型およびテープに傷が付かないような、例えば、樹脂製の剥離治具を用いることが好ましいが、これに拘るものではない。また、剥離治具の形状も、例えば略くさび形形状のものを用い、テープを金型から徐々に剥離できる形状とすることもできるが、これに拘るものではない。
【0056】
また、エンボス形成を補助する目的で、エンボス成型部以外の円周部上に接する形で、ローラーを当てることもできる。この場合、ローラーの大きさや個数に制限はなく、また、ローラーの材質についても、テープに傷が付かないものであれば特に制限はない。また、ローラーを温調することもできる。ローラーの温調温度としては、金型の温調温度と同様である。
【0057】
なお、テープの部分的に加熱された部分にエンボス部が形成されるように、テープのエンボス部が形成される部分を加熱するための部分加熱部が円筒外周部に配置された円筒状の加熱器と、成形金型の方向にテープを真空吸引してエンボス部を形成するためのエンボス成形部が円筒外周部に配置された円筒状の成形金型とが同期して回転させることが好ましい。
【0058】
同期する方法としては特に制限はないが、ギアを用いて同期をとる方法、タイミングベルトを用いて同期をとる方法、成形金型に設けた回転を検出するセンサー(ロータリーエンコーダーなど)から得た信号を元に加熱器の回転を制御する方法など、どのような方法で同期をとってもかまわない。
また、成形金型の直径や、加熱器の直径についても、同期がとれる直径の組み合わせであれば、特に制限はない。
【0059】
成形金型と加熱器の配置については、加熱器で加熱されたシートが加熱器から離れ、成形金型に接触して真空成形されるまでに、ロータリー真空成形が不可能となる温度まで冷却されないように、極力近づける必要がある。
これが不可能な場合には、加熱されたシートが加熱器から離れ、成形金型に接触するまでの間でテープが冷却されないように、断熱材で囲った筒内を通すとか、遠赤外線ヒーターを照射するなどの、工夫をする必要がある。
【0060】
さらに、加熱器によるテープへの加熱が終了した後、速やかに成形金型によりロータリー真空成形が行われるが、この成形金型の温度は、40℃〜100℃の範囲であることが好ましい。
成形金型の温度が40℃以上であれば、ロータリー真空成形中にテープの温度が低下せず、ロータリー真空成形をするためにテープに十分な柔軟性を与えられる。また、成形金型の温度が100℃以下であれば、成形金型からロータリー真空成形後のシートを取り出した後に、エンボス部を含め、テープの後収縮を抑制でき、キャリアテープに要求される高精度な成形性が向上する。
【0061】
本発明のエンボスキャリアテープは、二軸延伸スチレン系樹脂から製造したものであるので、後記する実施例からも確認できるように、透明性が高い。よって、包装容器で成形部分、非成形部分の厚み差による透明性の差を少なくすることができ、内容物の視認性を高めることができる。
また、本発明のエンボスキャリアテープは所定のシート厚みと配向緩和応力を有しているので、薄肉化することができる上、シートスリット工程や成形品の打ち抜き加工、穴空け加工等の後加工時の切り粉(樹脂粉)の生成を大きく抑制できる。
【0062】
なお、二軸延伸シートは、単層であってもよいし、複数層であってもよい。
例えば複数層を有する二軸延伸シートを得る場合は各構成層に用いる樹脂組成物を複数の押出機により成形し、得られたシートを加熱積層して一体化するヒートラミネーション法等で製造してもよく、また、各構成層用の樹脂組成物を、汎用のフィードブロック付きダイやマルチマニホールドダイ等を使用して共押出する方法等で製造してもよい。共押出する方法では薄い表面層を得ることができ、量産性に優れるため好ましい。このようにして積層したシートを前記の方法で二軸延伸することによっても、本発明の二軸延伸された積層シートが得られる。
【0063】
また、ICのように静電気により破壊され易い電子部品を収納する場合、キャリアテープの表面には帯電防止処理を施すことが望ましい。帯電防止処理は例えばキャリアテープ用シートの表面に帯電防止剤を塗布することによりできる。
【0064】
また、キャリアテープ用シートは、離型剤、帯電防止剤等の表面処理剤を塗布し、乾燥工程を得て、ロールに巻き取ることができる。この表面処理剤を塗布する前には、表面処理剤の塗れ適性を高めるためにコロナ処理等を行うのが好ましい。また、前述のように帯電防止剤を樹脂組成物に添加して帯電防止処理を施すことも可能である。
【0065】
本発明のキャリアテープに収納する電子部品としては、特に限定されないが、例えば、IC、LED(発光ダイオード)、抵抗、液晶、コンデンサー、トランジスター、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、ダイオード、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー、インダクタ等がある。ICの形式は特に限定されない。例えば、SOP、HEMT、SQFP、BGA、CSP、SOJ、QFP,PLCC等がある。
【0066】
以上、実施形態を挙げて本発明に係るキャリアテープ及びその製造方法について説明したが、本発明はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0068】
以下の実施例、比較例及び実験例においてはスチレン系樹脂として以下の樹脂1〜6を原料として用いた。ここで、樹脂1はGPPS樹脂(A)、樹脂2はHIPS樹脂(B)、樹脂3〜5はスチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を含む樹脂、樹脂6は(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含有するゴム変性スチレン系重合体を含む樹脂である。
【0069】
樹脂1・・重量平均分子量が24万のGPPS樹脂(東洋スチレン社製トーヨースチロールGP HRM61)
樹脂2・・スチレン/ゴムの質量比が95/5、ゴム粒径2.9μm、流動性7.0g/10minのHIPS樹脂(東洋スチレン社製トーヨースチロール HI H370)
樹脂3・・スチレン/ブタジエンの質量比が85/15、スチレンブロック部の分子量が2.4万と12.5万のスチレン−ブタジエンブロック共重合体を含む樹脂(電気化学工業社製クリアレン850L)
樹脂4・・スチレン/ブタジエンの質量比が75/25、スチレンブロック部の分子量が4.8万と7.6万のスチレン−ブタジエンブロック共重合体を含む樹脂(電気化学工業社製クリアレン730L)
樹脂5・・スチレン/ブタジエンの質量比が76/24、スチレンブロック部の分子量が1.5万と7.1万のスチレン−ブタジエンブロック共重合体を含む樹脂(電気化学工業社製クリアレン210M)
樹脂6・・スチレン/ブタジエン/メチルメタクリレート/n−ブチルアクリレートの質量比が、50.5/6.0/36.5/7.0であるスチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含有するゴム変性スチレン系重合体を含む樹脂
【0070】
[実施例1〜8]
GPPS樹脂(A)として樹脂1、HIPS樹脂(B)として樹脂2をそれぞれ用い、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(C)を含む樹脂としてスチレン/ブタジエン質量比とスチレンブロック部の分子量の異なる樹脂3〜5を選択して、表1に示す配合比にて混合して種々の樹脂組成物を調製した。
【0071】
次いで、各樹脂組成物を押出機で溶融混練して、Tダイスから押し出して、無延伸シートを得た。次に、この無延伸シートを、縦延伸機にて90〜135℃の加熱状態で縦方向に2.3倍延伸した後、横延伸機を用いて90〜135℃の加熱状態で横方向に2.3倍延伸して実施例1〜8に係る二軸延伸シートを得た。
【0072】
次いで、得られたシートの配向緩和応力、ヘーズ、引張弾性率、シートインパクト、耐折強度を後述の測定方法によって測定した。
【0073】
また、得られた二軸延伸シートを16mm幅のテープ状にスリットした。次いで、部分加熱部を有する円筒状の加熱器及びエンボス成形部を有する円筒状の成形金型を備える自社製ロータリー真空成形機に該テープを供給し、表1に示す成形条件で加熱成形を行った後に、スプロケットホールの打ち抜きを行い、縦(テープの長手方向)3mm×横(同幅方向)2mm×深さ1.5mmのエンボス部、及びスプロケットホールを備えたエンボスキャリアテープを作成した。
【0074】
ここで、テープの部分加熱部にエンボスが形成されるように、エンボス部と略同形状の部分加熱部を円筒外周部に等間隔に配置した加熱器とエンボス成形部を円筒外周部に等間隔に配置した成形金型とを同期させて回転させた。
これらのエンボスキャリアテープの成形性と座屈強度を後述の評価方法に従って評価するとともに、そのスプロケットホール部中における切り粉の発生状態、成形品の耐熱性等を調べた。その結果を表1に併せて示す。
【0075】
[実施例9]
実施例1と同様にして、実施例1と同じ樹脂組成、樹脂配合比、シート厚を有する樹脂組成物からなる同じシート厚の無延伸シートを調製した。
次にこれを縦延伸機にて90〜135℃の加熱状態で縦方向に1.5倍延伸し、次いで、横延伸機を用いて90〜135℃の加熱状態で横方向に1.5倍延伸して、実施例9に係る二軸延伸シートを得た。
次いで、得られたシートの各種物性を後述の測定方法によって測定した。また、実施例1〜8と同様の方法でエンボスキャリアテープに成形し、その成形性等を調べた。その結果を表1に併せて示す。
【0076】
[実施例10]
実施例1と同様にして、実施例1と同じ樹脂組成、樹脂配合比、シート厚を有する樹脂組成物からなる同じシート厚の無延伸シートを調製した。
次にこれを縦延伸機にて90〜135℃の加熱状態で縦方向に4.5倍延伸し、次いで、横延伸機を用いて90〜135℃の加熱状態で横方向に4.5倍延伸して、実施例10に係る二軸延伸シートを得た。
次いで、得られたシートの各種物性を後述の測定方法によって測定した。また、実施例1〜8と同様の方法でエンボスキャリアテープに成形し、その成形性等を調べた。その結果を表1に併せて示す。
【0077】
[比較例1]
実施例1と同様にして、実施例1と同じ樹脂組成、樹脂配合比を有する樹脂組成物からなる同じシート厚の無延伸シートを調製した。次にこれを縦延伸機にて縦方向に、次いで横延伸機にて横方向に実施例1と同様に延伸して比較例1に係る二軸延伸シートを得た。次いで、得られたシートの各種物性を後述の測定方法によって測定した。
また、実施例1と同様の方法でエンボスキャリアテープに成形し、その成形性等を調べた。その結果を表2に併せて示す。
但し、比較例1においては、エンボス部に相当する部分を部分的に加熱するのではなく、加熱器にある部分加熱部を無くした形状の加熱器で、テープ全体を加熱する方法で加熱成形した。
【0078】
[比較例2]
実施例1と同様にして、実施例1と同じ樹脂組成、樹脂配合比、シート厚を有する無延伸シートを調製し、比較例2に係るシートとした。次いで、得られたシートの各種物性を後述の測定方法によって測定した。
また、実施例1と同様の方法でエンボスキャリアテープに成形し、その成形性等を調べた。結果を表2に併せて示す。比較例2では、シートの延伸は行わなかった。
【0079】
[比較例3]
実施例1と同様にして、実施例1と同じ樹脂組成、樹脂配合比を有する樹脂組成物からなる同じシート厚の無延伸シートを調製した。次にこれを縦延伸機にて縦方向に、次いで横延伸機にて横方向に実施例1と同様に延伸して比較例3に係る二軸延伸シートを得た。次いで、得られたシートの各種物性を後述の測定方法によって測定した。
比較例3では、シートの成形を通常の圧空成型機により実施した。この圧空成型機は、テープ全体を赤外線加熱器で加熱した後、凹型のエンボス成型部が複数個平面上に配置されている成形金型部に送られ、エンボス成型部を覆う形で凹みを有する上型で狭持されたのち、上型の凹み内に開口部を持つ加圧エアー供給孔より加圧エアーが供給され、エンボス部を成形する。その成形性等を調べた結果を表2に併せて示す。
【0080】
キャリアテープ用シート及びエンボスキャリアテープの各種性能の評価は下記の方法により行った。
1.配向緩和応力
ASTM D−1504に準拠して、シートのMDおよびTDの配向緩和応力を測定した。尚、MDはシートの巻取り方向、TDはシートの幅方向である。
2.ヘーズ
日本電色工業社製ヘーズメーターNDH2000を用いて、JIS K 7105に準拠して、シートのヘーズを測定した。
3.引張弾性率
引張試験機を用いて、JIS K 7127に準拠して、シートの引張弾性率を測定した。
4.シートインパクト
テスター産業社製フィルムインパクトテスターを用いて、先端形状(R10)の撃子を使用して、シートインパクト強度を測定した。
5.耐折強度
耐折強度測定機を用いて、JIS P8115に準拠して、シート試験片が切れるまでの往復折り曲げ回数を測定した。
6.穴空け加工時の切り粉の発生状態
自社製ロータリー真空成形機に付随するスプロケットホール穴開け加工部によりスプロケットホール部の穴開け加工を行い、スプロケットホール部を測定顕微鏡(ミツトヨ社製)で観察した。切り粉の無い状態を0%とし、スプロケットホール中に占める切り粉の面積の割合を計算した。
7.成形性の評価
各実施例及び比較例のキャリアテープ用シートを16mm幅にスリットし、上記の自社製ロータリー真空成形機により縦(テープの長手方向)3mm×横(テープの幅方向)2mm×深さ1.5mmのエンボス部を有するエンボスキャリアテープを成形し、シートの賦形性を目視観察した。賦形性の評価は、賦形性が良好なものを○、賦形性は甘いがエンボス成形はできるものを△、穴あき、シート収縮等でエンボス成形できないものを×とする3段階評価を行った。
8.成形品の座屈強度
前記の成形によって得たエンボスキャリアテープについて、引張試験機を用いてエンボス部の底面から圧縮し、エンボス部が座屈する座屈強度を測定した。
9.成形品の耐熱性
前記の成形によって得たエンボスキャリアテープについて、60℃のオーブンに24時間保管する前後の、4mm間隔で穴あけされたスプロケットホール21穴分の長さ(80mm)の変化量を測定した。変化量が0.3mmいないであれば○、0.3mmより大きい場合を×とした。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
上表の結果から分かるように、GPPS樹脂(A)、HIPS樹脂(B)、及び場合によってはスチレン−ブタジエンブロック共重合体(C)を所定量含む樹脂組成物から製造され、シート厚と配向緩和応力値が所望範囲に制御された実施例1〜10に係る二軸延伸シートを、加熱温度、加熱時間等を所望範囲に制御しながら部分加熱した後に、ロータリー真空成型して得られたエンボスキャリアテープは、ヘーズ(透明性)、引張弾性率、シートインパクト強度、耐折強度に優れ、また、成形性及び成形品のエンボス部の座屈強度に優れ、穴空け加工時の切り粉発生状態も抑制されている。
【0084】
[他の実験例]
次に、他の実験例を示す。この実験例では、実施例1の二軸延伸シートについて、樹脂組成、シート厚さ、テープの部分加熱の加熱温度、テープの部分加熱の加熱時の接触時間、配向緩和応力値等を変えて行った。なお、実験例10については、樹脂6のみを用いて樹脂組成物を調製した。
【0085】
【表3】

【0086】
上表からは、シート厚さや、テープを部分加熱する時の種々の条件により、得られるキャリアテープの特性が影響を受けることが分かる。
【符号の説明】
【0087】
1 テープ
2 加熱器
3 成形金型
4 部分加熱部
5 エンボス成形部
6 回転同期装置
7 エンボスキャリアテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)スチレン系樹脂組成物を二軸延伸してなるシートをテープ状にスリットする工程と、
(b)回転する円筒状の加熱器によりスリットしたテープを巻き取り、テープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱する工程と、
(c)回転する円筒状の成形金型により加熱されたテープを巻き取り、ロータリー真空成形によりエンボス部を形成する工程と、を具備するエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項2】
工程(b)及び(c)において、
テープの部分的に加熱された部分にエンボス部が形成されるように、テープのエンボス部が形成される部分を加熱するための部分加熱部が円筒外周部に配置された円筒状の加熱器と、成形金型の方向にテープを真空吸引してエンボス部を形成するためのエンボス成形部が円筒外周部に配置された円筒状の成形金型とが同期して回転する請求項1に記載のエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項3】
シート厚さ0.15〜0.5mmの二軸延伸シートからなるテープを、エンボス部に相当する形状を有する110〜180℃に加熱された加熱部を有する円筒状の加熱器と0.5〜5.0秒接触させることによって加熱する請求項1又は2に記載のエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項4】
テープに押し当てられる加熱部の面積が、エンボス部が形成される部分の面積に対して90〜120%である請求項2又は3に記載のエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項5】
前記二軸延伸されたシートのASTM D−1504に準拠して測定される配向緩和応力値が0.2〜0.8MPaである請求項1ないし4に記載のエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項6】
前記スチレン系樹脂組成物が、前記ポリスチレン樹脂(A)を7〜79.5質量%、前記ハイインパクトポリスチレン樹脂(B)を0.5〜3質量%、前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20〜90質量%含有する請求項1ないし5のいずれかに記載のエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項7】
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)が、スチレンを70〜90質量%、共役ジエンを10〜30質量%含有する共重合体である請求項6に記載のエンボスキャリアテープの製造方法。
【請求項8】
スチレン系樹脂組成物を二軸延伸してなるシートをテープ状にスリットし、回転する円筒状の加熱器によりスリットしたテープを巻き取り、テープのエンボス部が形成される部分のみを部分的に加熱した後に、回転する円筒状の成形金型により加熱されたテープを巻き取り、ロータリー真空成形によりエンボス部を形成したエンボスキャリアテープ。
【請求項9】
テープの部分的に加熱された部分にエンボス部が形成されるように、テープのエンボス部が形成される部分を加熱するための部分加熱部が円筒外周部に配置された円筒状の加熱器と、成形金型の方向にテープを真空吸引してエンボス部を形成するためのエンボス成形部が円筒外周部に配置された円筒状の成形金型とが同期して回転する請求項8に記載のエンボスキャリアテープ。
【請求項10】
シート厚さ0.15〜0.5mmの二軸延伸シートからなるテープを、エンボス部に相当する形状を有する110〜180℃に加熱された加熱部を有する円筒状の加熱器と0.5〜5.0秒接触させることによって加熱する請求項8又は9に記載のエンボスキャリアテープ。
【請求項11】
加熱部の面積が、エンボス部が形成される部分の面積に対して90〜120%である請求項9又は10に記載のエンボスキャリアテープ。
【請求項12】
前記二軸延伸されたシートのASTM D−1504に準拠して測定される配向緩和応力値が0.2〜0.8MPaである請求項8ないし11のいずれかに記載のエンボスキャリアテープ。
【請求項13】
前記スチレン系樹脂組成物が、前記ポリスチレン樹脂(A)を7〜79.5質量%、前記ハイインパクトポリスチレン樹脂(B)を0.5〜3質量%、前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)を20〜90質量%含有する請求項8ないし12のいずれかに記載のエンボスキャリアテープ。
【請求項14】
前記スチレン−共役ジエンブロック共重合体(C)が、スチレンを70〜90質量%、共役ジエンを10〜30質量%含有する共重合体である請求項13に記載のエンボスキャリアテープ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−1113(P2011−1113A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147403(P2009−147403)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】