説明

オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法

【課題】TiやNbを含有するオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する場合であっても、結晶組織で混粒を抑制すると同時に、細粒化を実現できるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】オーステナイト系ステンレス鋼の鋼塊を熱間で穿孔し、得られた素管に加熱および押抜き加工からなる熱間押抜き処理を複数回繰り返し施して継目無鋼管を製造する際、複数回繰り返す熱間押抜き処理のうちの少なくとも最終回の熱間押抜き処理において、被処理管を再結晶温度以上で1〜3時間保持する加熱を行った後、この被処理管に下記(1)式で表される断面減少率Rが20%以上となる押抜き加工を行う。
R=(1−S2/S1)×100[%] ・・・(1)
ただし、上記(1)式中、
S1:熱間押抜き処理前における被処理管の断面積、
S2:熱間押抜き処理後における被処理管の断面積。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる継目無鋼管の製造方法に関し、特に、エルハルト・プッシュベンチ製管法によるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電用ボイラや化学プラントに設けられる大径の配管には、機械的特性や加工性や溶接性に優れると同時に、耐食性にも優れることが要求されるため、オーステナイト系ステンレス鋼管が適する。オーステナイト系ステンレス鋼からなる大径で厚肉の継目無鋼管は、エルハルト・プッシュベンチ製管法により製造することができる。
【0003】
図1は、エルハルト・プッシュベンチ製管法による継目無鋼管の製造工程を説明する図であり、同図(a)〜(c)はエルハルト穿孔工程の状況を、同図(d)はプッシュベンチによる熱間押抜き工程の状況をそれぞれ示す。この製管法の主要な工程は、前工程のエルハルト穿孔と、後工程の熱間押抜きに区分される。
【0004】
エルハルト穿孔工程は、竪型プレスを使用し、次のステップからなる:
(1)図1(a)に示すように、所定温度に加熱された鋼塊(インゴット)1を壺(コンテナ)2に装入し、壺2の上端の開口にマンドレルガイド4を装着するとともに、鋼塊1の中心線上にマンドレル3を配置する;
(2)図1(b)に示すように、マンドレル3をマンドレルガイド4により案内しながら下降させて鋼塊1を穿孔し、カップ状の底付き素管6を成形する;
(3)図1(c)に示すように、マンドレル3およびマンドレルガイド4を壺2から退避させた後、底付き素管6を突き上げ棒5により突き上げて壺2から取り出す。
【0005】
これに続いて、熱間押抜き工程は、次のステップからなる:
(1)図1(d)に示すように、エルハルト穿孔によって得られた底付き素管6を加熱炉で所定温度に加熱した後、この底付き素管6にマンドレル7を挿入した状態で、底付き素管6をリングダイス8内に進入させて押抜く;
(2)このような加熱および押抜き加工からなる熱間押抜き処理を複数回繰り返し施し、最終的に所定寸法に仕上げた底付き仕上管9を成形する。
【0006】
熱間押抜き工程を経て得られた底付き仕上管9は、固溶化熱処理が施される。そして、底付き仕上管9は、底部を含む両端部が切断されるとともに、内外周面が切削され、これにより、所望の表面性状および寸法を有する製品としての継目無鋼管となる。
【0007】
オーステナイト系ステンレス鋼管は、上記の優れた諸特性を確保するために、結晶粒が微細である必要がある。一般に、結晶組織を細粒化するには、比較的低温で高加工度の熱間加工を行うのが有効である。しかし、エルハルト・プッシュベンチ製管法では、大径で厚肉の鋼管を製造対象とする上、その素材に大型の鋼塊を用いることから、マンネスマン製管法や熱間押出製管法などの他の製管法と比べて、加工温度や加工度が著しく制限される。このため、エルハルト・プッシュベンチ製管法により得られた鋼管は、結晶粒が不均一になり易い。
【0008】
この問題に対処する従来技術は、下記のものがある。特許文献1には、オーステナイト系またはフェライト系のステンレス鋼を熱間加工するに際し、熱間加工を2回以上繰り返すとともに、2回目以降の加工時の加熱温度を、その直前の加工によって生じた加工組織が鋼の全位置で均一に再結晶整粒化する温度(以下、「再結晶温度」という)の最低値に設定する熱間加工法が開示されている。さらに、同文献には、上記の再結晶温度の最低値に保持した後、続く加工が可能な最低温度まで冷却してから加工を行う熱間加工方法も開示されている。
【0009】
図2は、特許文献1に開示される熱間加工方法を適用してエルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する際のヒートパターンの一例を示す図である。同図は全ての処理で1段加熱を採用する場合を示す。同図に示すヒートパターンでは、エルハルト穿孔によって得られた素管に対し、熱間押抜き処理(加熱および押抜き加工)を4回繰り返し施し、仕上加工である最終回(4回目)の熱間押抜き処理の後に固溶化熱処理を施す状況を例示している。同図中の折れ線は、各段階の加工、すなわち穿孔または押抜きの実行期を示す。
【0010】
図2に示すヒートパターンでは、2回目以降の熱間押抜き処理時、加熱温度を再結晶温度の最低値に設定する1段加熱を行い、その後に押抜きを実行する。また特許文献1には、2段階加熱を採用する場合は、2回目以降の一部の熱間押抜き処理時、再結晶温度の最低値に加熱保持した後に低温に冷却する2段加熱を行い、その後に押抜きを実行する処理も開示されている。特許文献1では、これらの方法を適用することにより、結晶組織の均一な細粒化が図れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−167725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、従来、エルハルト・プッシュベンチ製管法によるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造においては、結晶組織の細粒化が図られている。しかし、Tiを含有するSUS321や、Nbを含有するSUS347などのオーステナイト系ステンレス鋼の場合は、結晶組織に粗大粒を交えた混粒が発生し易い。これは、SUS321やSUS347では、TiやNbを含有することに起因し、他のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて再結晶温度が高くなることによる。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、TiやNbを含有するオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する場合であっても、結晶組織で混粒を抑制すると同時に、細粒化を実現できるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の通り、結晶組織を細粒化する観点からは、比較的低温で高加工度の熱間加工を行うのが有効である。しかし、熱間押抜き処理の際に、加熱温度とともに加工温度を低下させると、使用する設備に過大な負荷を強いるため、場合によっては操業が困難になる。しかも、加熱温度を低下させると、結晶組織の再結晶整粒化が不十分となるため、結晶組織に混粒が発生するおそれがある。これらのことから、熱間押抜き処理の際に加熱温度を低下させるのは、上記目的を達成する上でも実用的といえない。
【0015】
そこで、本発明者は、実用性を踏まえつつ上記目的を達成するために、熱間押抜き処理時の加熱の保持時間に着目し、種々の条件で試験を行った結果、以下に示す知見を得た。
【0016】
図3は、エルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する試験を行った結果として、仕上加工である最終回の熱間押抜き処理時における加熱の保持時間と平均結晶粒度との関係を示す図である。試験条件は次の通りである。
・被処理管の材質:SUS321、SUS347
・製造対象の継目無鋼管の外径:276〜508mm
・製造対象の継目無鋼管の肉厚:15〜50mm
・熱間押抜き処理(加熱および押抜き加工)の回数:4回
・仕上押抜き処理時の加熱温度:再結晶温度以上の1130℃
・仕上押抜き処理時の加工度:断面減少率Rで23.0〜27.2%
・固溶化熱処理の温度:SUS321では1070℃、SUS347では1130℃
・結晶粒度の測定方法:底付き仕上管の端部を切断して試片を採取し、JIS G 0551(2005)に準拠して、試片の肉厚中央部を含む10箇所の視野にて測定。
【0017】
ここでいう断面減少率Rは、熱間押抜き処理前における被処理管の断面積をS1とし、熱間押抜き処理後における被処理管の断面積をS2とした場合に、下記(1)式で表されるものである。
R=(1−S2/S1)×100[%] ・・・(1)
【0018】
図3に示す試験結果から、仕上加工(最終回の熱間押抜き処理)時に、加熱温度を再結晶温度以上とし、その加熱の保持時間を1〜3時間とすれば、結晶粒度が小さくて安定し、一方、加熱の保持時間が3時間を超えると、結晶粒度の大きいものが現れ、結晶組織で混粒が発生することがわかる。すなわち、結晶組織で混粒を抑制すると同時に、細粒化を実現するには、少なくとも仕上加工である最終回の熱間押抜き処理時に、加熱温度とともにその保持時間を厳格に管理するのが有効である。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法にある。すなわち、オーステナイト系ステンレス鋼の鋼塊を熱間で穿孔し、得られた素管に加熱および押抜き加工からなる熱間押抜き処理を複数回繰り返し施してオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管を製造する方法であって、複数回繰り返す熱間押抜き処理のうちの少なくとも最終回の熱間押抜き処理において、被処理管を再結晶温度以上で1〜3時間保持する加熱を行った後、この被処理管に下記(1)式で表される断面減少率Rが20%以上となる押抜き加工を行うことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法である。
R=(1−S2/S1)×100[%] ・・・(1)
ただし、上記(1)式中、
S1:熱間押抜き処理前における被処理管の断面積、
S2:熱間押抜き処理後における被処理管の断面積。
【0020】
上記の製造方法において、少なくとも最終回の熱間押抜き処理での前記押抜き加工は、被処理管を再結晶温度以上に加熱して1〜3時間保持した後、押抜き加工の可能な温度まで冷却してから行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法によれば、TiやNbを含有するオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する場合であっても、複数回繰り返す熱間押抜き処理のうちの少なくとも最終回の熱間押抜き処理の際、加熱温度とともにその保持時間を厳格に管理することにより、結晶組織で混粒を抑制すると同時に、細粒化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】エルハルト・プッシュベンチ製管法による継目無鋼管の製造工程を説明する図であり、同図(a)〜(c)はエルハルト穿孔工程の状況を、同図(d)はプッシュベンチによる熱間押抜き工程の状況をそれぞれ示す。
【図2】特許文献1に開示される熱間加工方法を適用してエルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する際のヒートパターンの一例を示す図である。
【図3】エルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する試験を行った結果として、仕上加工である最終回の熱間押抜き処理時における加熱の保持時間と平均結晶粒度との関係を示す図である。
【図4】本発明の製造方法を適用してエルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する際のヒートパターンの具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法は、上記の通り、エルハルト・プッシュベンチ製管法により、オーステナイト系ステンレス鋼の鋼塊を熱間で穿孔し、得られた素管に加熱および押抜き加工からなる熱間押抜き処理を複数回繰り返し施してオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管を製造する方法であって、複数回繰り返す熱間押抜き処理のうちの少なくとも最終回の熱間押抜き処理において、被処理管を再結晶温度以上で1〜3時間保持する加熱を行った後、この被処理管に上記(1)式で表される断面減少率Rが20%以上となる押抜き加工を行うことを特徴とする。以下に、本発明の製造方法を上記のように規定した理由および好ましい態様について説明する。
【0024】
熱間押抜き処理時の加熱温度は、再結晶温度以上とする。その直前の熱間押抜き処理の押抜き加工によって生じた結晶組織を一度再結晶させ、整粒化するためである。加熱温度の上限は特に規定しないが、あまりに高すぎると結晶粒が粗大化することから、これを抑制する理由で、1270℃を上限とするのが好ましい。
【0025】
少なくとも最終回の熱間押抜き処理時の加熱の保持時間は、1〜3時間の範囲とする必要がある。製造される厚肉管の肉厚全体を均一な細粒組織にするためには、被処理管の肉厚中央部まで所定温度に加熱する必要があり、そのためには、加熱の保持時間を1時間以上確保する必要があるからである。一方、加熱の保持時間が3時間を超えて長くなると、前記図3に示すように、結晶組織が部分的に粗大化し混粒が発生するからである。最終回以外の加熱保持時間は特に規定しないが、1〜5時間とするのが好ましい。
【0026】
熱間押抜き処理時の押抜き加工の加工度は、断面減少率Rで20%以上とする。これは以下の理由による。断面減少率Rが20%以上の高い加工度で押抜き加工を行うことにより、被処理管に大きな加工ひずみを与えて結晶組織を細粒化し、後の最終的な固溶化熱処理により、均一な細粒組織を得ることができるからである。ただし、エルハルト・プッシュベンチ製管法では、押抜き加工に使用する設備の能力に限界があるため、あまりに高い加工度を与えることができない。このため、加工度の上限は、設備能力に依存して変化するため特に規定しないが、汎用的には、断面減少率Rで60%以下とするのが好ましい。
【0027】
以上説明した本発明の製造方法は、熱間押抜き処理時に、被処理管に対し、一定の再結晶温度以上に加熱し所定時間にわたって保持する1段加熱を行った後、直ちに押抜き加工を実行する態様であっても、その1段加熱の後に押抜き加工の可能な温度まで冷却する2段加熱を行い、その後に押抜き加工を実行する態様であってもよい。後者の2段加熱の態様は、次に示す優位点があることから好ましい。
【0028】
本発明の製造方法で対象とするオーステナイト径ステンレス鋼、特にSUS321やSUS347などのオーステナイト系ステンレス鋼は、TiやNbを含有することに起因し、他のオーステナイト系ステンレス鋼と比べて再結晶温度が高くなる。このため、熱間押抜き処理の際、再結晶細粒化を十分に行える加工度にて加工するのに必要な加熱温度よりも、前加工組織を再結晶整粒化させるのに必要な温度の方が高くなる。このため、1段加熱では結晶粒の細粒化が不十分になるおそれがあるが、2段階加熱にすることにより、再結晶に要する温度が低下し、結晶粒をより確実に細粒化することが可能となる。
【0029】
このような2段階加熱の態様も、複数回繰り返す熱間押抜き処理のうちの最終回の熱間押抜き処理に適用するのが好ましいが、これに加え、最終回以外の2回目以降の熱間押抜き処理に適用することも可能である。なお、2段階加熱における2段目の加熱、すなわち押抜き加工の可能な温度まで冷却した後は、被処理管の均熱を考慮すると、実用的には、その保持時間を1時間以上確保するのが望ましい。
【0030】
図4は、本発明の製造方法を適用してエルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する際のヒートパターンの具体例を示す図である。同図(a)は全ての処理で1段加熱を採用する場合を、同図(b)は一部の処理で2段加熱を採用する場合をそれぞれ示す。同図に示すいずれのヒートパターンも、エルハルト穿孔によって得られた素管に対し、熱間押抜き処理(加熱および押抜き加工)を4回繰り返し施し、仕上加工である最終回(4回目)の熱間押抜き処理の後に固溶化熱処理を施す状況を例示している。同図中の折れ線は、各段階の加工、すなわち穿孔または押抜きの実行期を示す。
【0031】
図4(a)に示すヒートパターンでは、最終回の熱間押抜き処理時、被処理管に対し、再結晶温度以上の1180℃に加熱し2時間にわたって保持する1段加熱を行った後、直ちに押抜き加工を実行する。一方、図4(b)に示すヒートパターンでは、最終回の熱間押抜き処理時、被処理管に対し、再結晶温度以上の1180℃に加熱し2時間にわたって保持した後に、押抜き加工の可能な1130℃まで冷却してその温度に1時間保持する2段加熱を行い、その後に押抜き加工を実行する。
【実施例】
【0032】
本発明の製造方法による効果を確認するため、エルハルト・プッシュベンチ製管法によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する試験を行った。試験には、下記表1に代表組成を示す2鋼種のオーステナイト系ステンレス鋼(Tiを含有するSUS321、およびNbを含有するSUS347)の鋼塊を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
各鋼種の鋼塊をエルハルト穿孔し、得られた底付き素管に対して熱間押抜き処理を4回繰り返し施し、その後に固溶化熱処理を実施して底付き仕上管を作製した。その際、鋼種ごとに2種類のサイズの底付き仕上管を作製した。具体的には、底付き仕上管のサイズは、SUS321の場合、外径377mm×肉厚47mmの鋼管、および外径276mm×肉厚15mmの鋼管をそれぞれ製造するための2種類とし、SUS347の場合は、外径508mm×肉厚50mmの鋼管、および外径377mm×肉厚20mmの鋼管をそれぞれ製造するための2種類とした。
【0035】
各鋼種のそれぞれのサイズの底付き仕上管を作製するにあたり、熱間押抜き処理時の加熱を1段加熱または2段加熱のヒートパターンとし、最終回(4回目)の熱間押抜き処理時に加熱の保持時間を1〜5時間の範囲で変更した。なお、2段加熱のヒートパターンの場合、1段目の加熱の保持時間を1〜5時間の範囲で変更し、その後の2段目の加熱の保持時間は2時間とした。その他の試験条件は下記表2〜表5に示す通りである。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
次に、作製した各底付き仕上管の端部を切断して試片を採取し、結晶粒度を調査した。結晶粒度は、JIS G 0551(2005)に準拠して、各試片の肉厚中央部を含む10箇所の視野にて測定した。下記表6〜表9にその調査結果を示す。なお、表6〜9には最終回(4回目)の熱間押抜き処理時の加熱保持時間を合わせて示すが、2段加熱の場合は1段目での加熱保持時間であり、2段目の加熱保持時間は2時間で行った。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
【表9】

【0045】
表6〜表9中で、「結晶粒度」の欄の「混粒」は、上記のJIS規格に準じ、1視野内において、最大頻度をもつ粒度番号の粒から概ね3以上異なった粒度番号の粒が偏在し、これらの粒が約20%以上の面積を占める状態にあるもの、または、視野間において3以上異なった粒度番号の視野が存在するものを意味する。また、「評価」の欄の記号の意味は次の通りである。
◎:優。粒度番号が6.5以上であることを示す。
○:良。粒度番号が5.0以上で6.5未満であることを示す。
×:不可。粒度番号が5.0未満であること、または混粒が認められたことを示す。
【0046】
これらの表6〜表9に示すように、試験番号11〜13、21〜23、31〜33および41〜43では、いずれも最終回の熱間押抜き処理における加熱の保持時間が本発明で規定する範囲(1〜3時間)を満足するため、結晶粒が微細であり、混粒も発生しなかった。さらに、そのうちの試験番号11、12、22、32および42では、2段加熱を採用したことにより、より結晶粒が微細であった。一方、試験番号14、24、34および44では、いずれも最終回の熱間押抜き処理における加熱の保持時間が本発明で規定する範囲(1〜3時間)を超えているため、結晶粒が粗大化し、混粒も発生した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法によれば、TiやNbを含有するオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管をエルハルト・プッシュベンチ製管法により製造する場合であっても、結晶組織で混粒を抑制すると同時に、細粒化を実現することができる。したがって、本発明の製造方法は、機械的特性や耐食性などの諸特性に優れた大径で肉厚のオーステナイト系ステンレス鋼管を製造できる技術として極めて有用である。
【符号の説明】
【0048】
1:鋼塊(インゴット)、 2:壺(コンテナ)、 3:マンドレル、
4:マンドレルガイド、 5:突き上げ棒、 6:底付き素管、
7:マンドレル、 8:リングダイス、 9:底付き仕上管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼の鋼塊を熱間で穿孔し、得られた素管に加熱および押抜き加工からなる熱間押抜き処理を複数回繰り返し施してオーステナイト系ステンレス鋼の継目無鋼管を製造する方法であって、
複数回繰り返す熱間押抜き処理のうちの少なくとも最終回の熱間押抜き処理において、被処理管を再結晶温度以上で1〜3時間保持する加熱を行った後、この被処理管に下記(1)式で表される断面減少率Rが20%以上となる押抜き加工を行うことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
R=(1−S2/S1)×100[%] ・・・(1)
ただし、上記(1)式中、
S1:熱間押抜き処理前における被処理管の断面積、
S2:熱間押抜き処理後における被処理管の断面積。
【請求項2】
少なくとも最終回の熱間押抜き処理での前記押抜き加工は、被処理管を再結晶温度以上に加熱して1〜3時間保持した後、押抜き加工の可能な温度まで冷却してから行うことを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−200762(P2012−200762A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67628(P2011−67628)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】