説明

オーバヘッドカムエンジン

【課題】シリンダヘッドカバーの膜振動の振幅が大きくなる部位がカム軸直上にないエンジンでも、シリンダヘッドに対するシリンダヘッドカバーのボルト締結部の適切な設定によってシリンダヘッドカバーの膜振動を効果的に低減すること。
【解決手段】シリンダヘッド10に固定されたカムキャップ90に、当該カムキャップ90より横方向に延出するアーム部92を一体形成し、アーム部92の先端部分に形成したねじ孔92Bを用いてシリンダヘッドカバー68をシリンダヘッド10に対して固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバヘッドカムエンジン(内燃機関)に関し、特に、オーバヘッドカムエンジンにおけるシリンダヘッドカバーの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
オーバヘッドカム(OHC)エンジンは、シリンダヘッドの上部にカム軸を含む動弁機構を有し、シリンダヘッドに取り付けられたシリンダヘッドカバーによって動弁機構を覆う構造になっている。シリンダヘッドに対するシリンダヘッドカバーの取り付けは、一般的に、シリンダヘッドの外郭に沿って形成されたヘッドカバー取付フランジ面に、弾性シール部材を挟んで複数個のボルトによって取り付けられる。
【0003】
また、シリンダヘッドカバーの取付構造として、カム軸をシリンダヘッドに回転可能に取り付けるためのカムキャップの上部にねじ孔を有するボルト締結ボス部が突出形成され、シリンダヘッドカバーを貫通したボルトがボルト締結ボス部のねじ孔にねじ締結されることにより、カム軸直上にシリンダヘッドに対するシリンダヘッドカバーのボルト締結部を設定したものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−87951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダヘッドカバーは上下反転したバット形状をしているから、天井壁が膜振動を生じる傾向がある。このことは、シリンダヘッドカバーの薄肉化や合成樹脂化により顕著になり、NVH特性を悪化する原因になる。
【0006】
カム軸直上にシリンダヘッドに対するシリンダヘッドカバーのボルト締結部を設定したものは、シリンダヘッドカバーの上壁部の膜振動を抑制する効果を生じる。このボルト締結部による膜振動の抑制は、膜振動の振幅(一次振動の振幅)が最大になる部位で行われることが最も効果的であるが、シリンダヘッドカバーの膜振動の振幅がカム軸直上部位で最大になるとは限らない。特に、カム軸が吸気弁用と排気弁用とで個別に2列に配置されるダブルオーバヘッドカム(DOHC)エンジンでは、シリンダヘッドカバーの一次振動の振幅が最大になる部位が、カム軸直上部位でなく、吸気弁用カム軸と排気弁用カム軸との間のヘッドカバー幅方向(平面視で気筒配列方向に直交する方向)の中央領域に存在するため、カム軸直上にシリンダヘッドに対するシリンダヘッドカバーのボルト締結部を設定したものでは、シリンダヘッドカバーの膜振動を効果的に低減することができない。
【0007】
加えて、3気筒や2気筒の小型エンジンにおいては、特に振動の問題が大きく、シリンダヘッド自体のシール性や、シリンダヘッドカバーを貫通してエンジン内部に装着される点火プラグや燃料噴射弁の挿入部のシール性が厳しい。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、シリンダヘッドカバーの膜振動の振幅が大きくなる部位がカム軸直上にないエンジンでも、シリンダヘッドに対するシリンダヘッドカバーのボルト締結部の適切な設定によってシリンダヘッドカバーの膜振動を効果的に低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、動弁機構のカム軸(36、42)がシリンダヘッド(10)に形成された半割り形状の軸受部(10H、10J)と当該シリンダヘッド(10)にボルト締結によって固定された半割り形状のカムキャップ(32、38、90)によって回転可能に支持され、前記シリンダヘッド(10)の外郭に沿って形成されたヘッドカバー取付フランジ面(10L)にシール部材(70)を挟んでシリンダヘッドカバー(68)がボルト締結によって取り付けられるオーバヘッドカムエンジンであって、前記カムキャップ(90)に、当該カムキャップ(90)より横方向に延出するアーム部(92)が一体形成され、前記アーム部(92)の先端部分にねじ孔(92B)が形成され、前記シリンダヘッドカバー(68)には前記ねじ孔(92B)に対応する位置にボルト通し孔(68D)が形成され、前記シリンダヘッドカバー(68)の外部より前記ボルト通し孔(68D)に通された頭付きボルト(94)が前記アーム部(92)の前記ねじ孔(92B)にねじ係合している。
【0010】
この構成によれば、頭付きボルト(94)によるシリンダヘッドカバー(68)の固定位置は、アーム部(92)の先端部分のねじ孔(92B)の配置位置、つまり、アーム部(92)の延出方向と長さにより高い自由度をもって決まり、動弁機構等、動弁室(86)に配置されている部材と干渉せずに、シリンダヘッドカバー(68)の固定位置をシリンダヘッドカバー(68)の膜振動の振幅が大きくなる部位に設けることができる。
【0011】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、一つの実施形態として、前記カム軸(36、42)が吸気弁用と排気弁用とで個別に2列に配置されており、前記アーム部(92)は吸気弁用と排気弁用の前記カム軸(36、42)の少なくとも何れか一方の前記カムキャップ(90)に一体形成されていて他方の前記カム軸の側に向けて延出している。
【0012】
この構成によれば、頭付きボルト(94)によるシリンダヘッドカバー(68)の固定位置が、吸気弁用と排気弁用のカム軸の中間部に設定され、当該固定位置をシリンダヘッドカバー(68)の膜振動の振幅(一次振動の振幅)が大きくなる部位に設けることができる。
【0013】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、一つの実施形態として、前記カム軸(36、42)が吸気弁用と排気弁用とで個別に2列に配置されており、吸気弁用と排気弁用の一方の前記カム軸のみにクランク角に対するバルブ開閉タイミングを可変設定するバルブ開閉タイミング可変設定装置(60)が連結されており、前記アーム部(92)は前記バルブ開閉タイミング可変設定装置(60)が連結されていない前記カム軸の前記カムキャップ(90)に一体形成されている。
【0014】
この構成によれば、バルブ開閉タイミング可変設定装置(60)の動作による振動が頭付きボルト(94)によるシリンダヘッドカバー(68)の固定部を介してシリンダヘッドカバー(68)に伝わることがない。
【0015】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、更に、前記シリンダヘッド(10)には点火プラグあるいは燃料噴射弁の挿入孔(28)を画成する筒状部(30)が一体形成され、前記アーム部(92)は前記筒状部(30)の近傍へ向けて延出している。
【0016】
この構成によれば、アーム部(92)を用いたボルト(94)によるシリンダヘッドカバー(68)の固定部が点火プラグあるいは燃料噴射弁のレイアウトを阻害することがない。
【0017】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、好ましくは、前記アーム部(92)は前記シリンダヘッド(10)と前記シリンダヘッドカバー(68)とによって画定される動弁室(86)内にあって前記シリンダヘッド(10)の壁面に非接触である。
【0018】
この構成によれば、アーム部(92)とシリンダヘッド(10)との間で直接的な振動伝達が行われることがなく、アーム部(92)を用いたボルト(94)によるシリンダヘッドカバー(68)の固定部が動弁機構等、動弁室(86)に配置されている部材と干渉することもない。
【0019】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、好ましくは、前記カムキャップ(90)は、カム軸(42)を支持する半割り形状部(90A)の両側に、当該カムキャップ(90)を前記シリンダヘッド(10)に固定するためのボルト(40)を挿入されるボルト通し孔(90C)を形成されたボルト締結ボス部(90B)を一体に有し、前記アーム部(92)は片側の前記ボルト締結ボス部(90B)から横方向に延出している。
【0020】
この構成によれば、アーム部(92)の長さを最短に設定でき、剛性を高めるためにアーム部(92)を厚肉に形成しなくても、シリンダヘッドカバー(68)の締結力を充分受け止めることが可能になる。
【0021】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンは、好ましくは、更に、前記頭付きボルト(94)の頭部と前記アーム部(92)との間に前記頭付きボルト(94)を挿入された筒状のディスタンス部材(98)が設けられている。
【0022】
この構成によれば、ディスタンス部材(98)によって頭付きボルト(94)の最大ねじ込み量が規定され、締め付け過ぎによってシリンダヘッドカバー(68)にへこみが生じることを回避できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるオーバヘッドカムエンジンによれば、頭付きボルトによるシリンダヘッドカバーの固定位置は、アーム部の延出方向と長さにより高い自由度をもって決まり、動弁機構等、動弁室に配置されている部材と干渉せずに、シリンダヘッドカバーの固定位置をシリンダヘッドカバーの膜振動の振幅が大きくなる部位に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるオーバヘッドカムエンジンの一つの実施形態のシリンダヘッドの平面図。
【図2】本実施形態によるオーバヘッドカムエンジンの縦断面図(図1の線II-II断面図)
【図3】本実施形態によるオーバヘッドカムエンジンに用いられる特別なカムキャップの拡大斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明によるオーバヘッドカムエンジンの一つの実施形態を、図1〜図3を参照して説明する。本実施形態によるオーバヘッドカムエンジンは、火花点火式エンジン(ガソリンエンジン)で、3気筒ダブルオーバヘッドカムエンジンである。なお、以下の説明において、水平、垂直(上下)は、図2に示されているように、エンジンのシリンダ軸線Xが鉛直になるエンジン配置の場合についての便宜上の方向であり、また、平面視で気筒配列方向を前後方向、気筒配列方向に直交する方向を幅方向あるいは左右方向と云うことがある。
【0026】
シリンダヘッド10は、軽合金製で、図示されてないシリンダブロックに燃焼室(図示省略)の上死点側を閉じるように取り付けられるものであり、下側に燃焼室天井壁部10Aを有する。シリンダヘッド10は、気筒配列方向に直交する面で見て、一方の側(図1で見て左側)に図示されていない吸気ポートに連通する吸気通路12を、他方の側(図1で見て右側)に図示されていない排気ポートに連通する排気通路14を、各々、気筒数分、有している。
【0027】
シリンダヘッド10には、各気筒に2個ずつ、吸気ポート(図示省略)を開閉する吸気弁16と、排気ポート(図示省略)を開閉する排気弁18とが取り付けられている。吸気弁16は当該吸気弁16のバルブステムの先端部に取り付けられたばねリテーナ20とシリンダヘッド10の燃焼室天井壁部10Aの上方に形成された上壁部10Bとの間に取り付けられた圧縮コイルばね22によって閉弁方向に付勢されている。排気弁18は当該排気弁18のバルブステムの先端部に取り付けられたばねリテーナ24とシリンダヘッド10の上壁部10Bとの間に取り付けられた圧縮コイルばね26によって閉弁方向に付勢されている。
【0028】
シリンダヘッド10の幅方向の中央部には、シリンダヘッド10の燃焼室天井壁部10Aより上壁部10Bを貫通する形態で上方に突出して内側に点火プラグ挿入孔28を画成する円筒状部30が、気筒数分、気筒配列方向に所定間隔をおいて一体形成されている。
【0029】
各気筒の円筒状部30の左側外壁部分とシリンダヘッド10の左側壁10Cとの間にはこれらを接続する吸気側立壁10Dが上壁部10Bより垂直に一体形成されている。また、各気筒の円筒状部30の右側外壁部分とシリンダヘッド10の右側壁10Eとの間にはこれらを接続する排気側立壁10Fが上壁部10Bより垂直に一体形成されている。吸気側立壁10Dと排気側立壁10Fは、各気筒毎にあって円筒状部30を挟んで左右方向に一直線に存在する。なお、吸気側立壁10Dと排気側立壁10Fには、シリンダヘッド10内に溜まったオイルをオイルパンへ戻すためのオイル流通用開口10Gが気筒配列方向に貫通形成されている。
【0030】
シリンダヘッド10の前部壁10Kの上端部と吸気側立壁10Dの上端部には、半割り形状の軸受部10H、つまり、前部壁10K、吸気側立壁10Dの上面に開いた半円形凹部による軸受部10Hが形成されている。前部壁10Kの上面と吸気側立壁10Dの上面には、半割り形状のカムキャップ32が六角頭付きのボルト34によって固定されている。カムキャップ32は下底面に開いた半円形凹部による軸受部32Aを有し、シリンダヘッド10の軸受部10Hと協働して吸気弁用カム軸36を回転可能に支持している。
【0031】
シリンダヘッド10の前部壁10Kの上端部と排気側立壁10Fの上端部には、半割り形状の軸受部10J、つまり、前部壁10K、排気側立壁10Fの上面に開いた半円形凹部による軸受部10Jが形成されている。前部壁10Kの上面と排気側立壁10Fの上面には、半割り形状の軽合金製のカムキャップ38が六角頭付きのボルト40によって固定されている。カムキャップ38は下底面に開いた半円形凹部による軸受部38Aを有し、シリンダヘッド10の軸受部10Jと協働して排気弁用カム軸42を回転可能に支持している。
【0032】
排気弁用カム軸42を支持する複数個のカムキャップ(38)のうちの一つは、符号90によって示されている後述する特別なカムキャップになっている。それ以外のカムキャップ32、38は、軽合金製の同一部品で、各々、上下反転の半円形凹部による軸受部32A、38Aを形成するアーチ形部分を有していて、軸受部32A、38Aの両側にボルト34、40を挿入されるボルト通し孔(図示省略)を貫通形成されたボルト締結ボス部32B、38Bを一体に有している。
【0033】
吸気弁用カム軸36と排気弁用カム軸42とは、気筒配列方向に沿って互いに平行且つ水平に同一高さ位置に2列に配置されている。吸気弁用カム軸36は吸気弁16の開閉のためのカム形状部36Aを各吸気弁16ごとに有している。排気弁用カム軸42は排気弁18の開閉のためのカム形状部42Aを各排気弁18ごとに有している。
【0034】
シリンダヘッド10の吸気弁用カム軸36側には、一端がシリンダヘッド10に固定の支点部材44に当接し、他端が吸気弁16のステム先端に当接した吸気側スイングアーム46が各吸気弁16ごとに配置されている。吸気側スイングアーム46は中間部に軸48によってカムフォロワローラ50を回転自在に支持している。カムフォロワローラ50は吸気弁用カム軸36の対応するカム形状部36Aの外周面に当接している。
【0035】
シリンダヘッド10の排気弁用カム軸42側には、一端がシリンダヘッド10に固定配置の支点部材52に当接し、他端が排気弁18のステム先端に当接した排気側スイングアーム54が各排気弁18ごとに配置されている。排気側スイングアーム54は中間部に軸56によってカムフォロワローラ58を回転自在に支持している。カムフォロワローラ58は排気弁用カム軸42の対応するカム形状部42Aの外周面に当接している。
【0036】
このように、スイングアーム式DOHCの動弁機構が構成され、吸気弁用カム軸36の回転によって各気筒の吸気弁16が開閉し、排気弁用カム軸42の回転によって各気筒の排気弁18が開閉する。
【0037】
吸気弁用カム軸36の前端部はバルブ開閉タイミング可変設定装置(VTC)60を介してカム駆動スプロケット(図示省略)とトルク伝達関係で連結されている。排気弁用カム軸42の前端部にはカム駆動スプロケット(図示省略)が固定されている。吸気弁用カム軸36のカム駆動スプロケット(図示省略)と、排気弁用カム軸42のカム駆動スプロケット(図示省略)と、クランク軸(図示省略)に固定されたクランク軸スプロケット(図示省略)とには、一つの無端チェーン62が架け渡されている。これにより、吸気弁用カム軸36と排気弁用カム軸42のカム駆動スプロケットは、ともにクランク軸によって一斉駆動される。
【0038】
VTC60は、公知の油圧式のものであってよく、クランク角に対するバルブ開閉タイミング(進角・遅角)を定量的に可変設定する。なお、吸気弁用カム軸36のカムキャップ32のうち、最もVTC60に近い位置にあるカムキャップ32、つまり、吸気弁用カム軸36の軸線方向で見て最前端のカムキャップ32は、VTC60に対する油圧の給排を行うための油路(図示省略)を内側に形成された幅広のものになっている。
【0039】
シリンダヘッド10の前部にはチェーンケース取付部64が一体形成されている。チェーンケース取付部64の前部には、VTC60、無端チェーン62の配置部の前側と底部と左右両側を覆うように合成樹脂製のチェーンケース66が液体シール(図示省略)を挟んで図示されていない複数個のボルト(図示省略)によってフランジ面接合で取り付けられている。
【0040】
シリンダヘッド10には、当該シリンダヘッド10の外郭に沿ってヘッドカバー取付フランジ面10Lが形成されている。本実施例ではシリンダヘッド10の左側壁10Cと右側壁10Eと後部壁10Mとチェーンケース取付部64の上面は同一高さ位置にあり、更に上方開放のチェーンケース66の上面はチェーンケース取付部64の上面と同一高さ位置にあってチェーンケース取付部64の上面に連続し、前部壁10Kにカム軸36、42の軸受部10H、10Jが形成されてカムキャップ32、38が取り付けられていることから、左側壁10Cと右側壁10Eと後部壁10Mとチェーンケース取付部64とチェーンケース66の上面が連続したループ状(略四角枠状)のヘッドカバー取付フランジ面10Lをなしている。
【0041】
ヘッドカバー取付フランジ面10Lには合成樹脂製のシリンダヘッドカバー68がゴム状弾性体製の弾性シール部材70を挟んで気密に取り付けられている。シリンダヘッドカバー68は上下反転の浅底バッド形状をしていて、シリンダヘッド10の上部とチェーンケース66の上部とに連続して存在し、カム軸36、42を含む動弁機構と、VTC60、無端チェーン62を配置部の上側を一括して覆うものである。なお、図示されていないが、シリンダヘッドカバー68には、各点火プラグ挿入孔28に連通するアクセス孔を画定する円筒状部が天井壁部68Aより垂下された形態で一体形成されている。この円筒状部の下端面は円筒状部30の上端面と対向しており、両端面間にはゴム状弾性体製の弾性シール部材72(図2参照)が挟まれている。
【0042】
なお、弾性シール部材70、72によるシリンダヘッド10およびチェーンケース66とシリンダヘッドカバー68とのシール面は、図1に網掛けにより示されている。
【0043】
次に、シリンダヘッド10に対するシリンダヘッドカバー68の取付構造について説明する。
【0044】
シリンダヘッド10の左側壁10Cと右側壁10Eと後部壁10Mの上部には複数個のねじ止めボス部74が一体形成されている。また、チェーンケース66の前壁部66Aの上部にも複数個のねじ止めボス部76が一体形成されている。ねじ止めボス部74、76には、これらを上下に貫通したねじ孔78、80が形成されている。
【0045】
シリンダヘッドカバー68の外周部の下部には、ねじ止めボス部74、76の各々に上下に対応する位置にボルト締結ボス部82が一体形成されている。ボルト締結ボス部82にはボルト通し孔(図示省略)が上下に貫通形成されている。
【0046】
シリンダヘッドカバー68は、ボルト締結ボス部82のボルト通し孔(図示省略)に通された六角頭付きのボルト84がねじ止めボス部74、76のねじ孔78、80にねじ係合することにより、シリンダヘッド10およびチェーンケース66の上部に着脱可能に固定され、シリンダヘッド10と協働して上述の動弁機構を収容する動弁室86を画定している。
【0047】
排気弁用カム軸42を支持するための特別なカムキャップ90は、図3によく示されているように、カムキャップ90は、軽合金製の同一部品で、上下反転の半円形凹部による軸受部90Aを形成するアーチ形部分と、軸受部90Aの両側にボルト40を挿入されるボルト通し孔90Cを貫通形成されたボルト締結ボス部90Bとを一体に有している。カムキャップ90は、他のカムキャップ38と同様に、ボルト通し孔90Cに通されたボルト40によって排気側立壁10Fの上面に固定され、シリンダヘッド10の軸受部10Jと協働して排気弁用カム軸42を回転可能に支持する。
【0048】
カムキャップ90には、更に、一方のボルト締結ボス部90Bの側部外壁より横方向に延出するアーム部92が一体形成されている。アーム部92は、基端を一方のボルト締結ボス部90Bに連結された片持ち梁であり、一方のボルト締結ボス部90Bより他方のボルト締結ボス部90Bより遠ざかる方向に延出している。アーム部92は先端にポット形状のねじ止めボス部92Aを一体に有している。ねじ止めボス部92Aにはねじ止めボス部92Aの上面に開口したねじ孔92Bが形成されている。
【0049】
カムキャップ90がシリンダヘッド10に固定された状態では、アーム部92は、吸気弁用カム軸36の側(図1、図2で見て左側)のボルト締結ボス部90Bより吸気弁用カム軸36の側に向けて、つまり、シリンダヘッド10の幅方向の中央側へ向けて斜め前方に水平に延出し、動弁室86内にあってシリンダヘッド10、シリンダヘッドカバー68の内壁面に非接触で、動弁室86内に浮かんだように存在している。
【0050】
カムキャップ90は、気筒配列方向の中央部、3気筒エンジンの場合には、2番気筒の近傍に取り付けられるカムキャップに適用され、アーム部92は、2番気筒のための点火プラグ挿入孔28の円筒状部30の外壁近傍へ向けて延出している。
【0051】
シリンダヘッドカバー68の天井壁部68Aがアーム部92のねじ止めボス部92Aの真上に位置する部位には、円筒状のボルト締結ボス部68Cが天井壁部68Aより垂下した形態で一体形成されている。ボルト締結ボス部68Cには当該ボルト締結ボス部68Cを軸線方向(上下方向)に貫通するボルト通し孔68Dが形成されている。ボルト通し孔68Dにはシリンダヘッドカバー68の外側(外部)より六角頭付きのボルト94が通され、ボルト94がアーム部92の先端のねじ孔92Bにねじ係合している。
【0052】
ボルト締結ボス部68Cの下端面とねじ止めボス部92Aの上面との間にゴム状弾性体製の弾性シール部材96が挟まれている。ボルト94の頭部底面とねじ止めボス部92Aの上面との間にはボルト通し孔68Dに挿入されてボルト94を通された筒状のディスタンス部材98が設けられている。ディスタンス部材98は、ボルト94のねじ孔92Bに対する最大ねじ込み量を規定し、天井壁部68Aのボルト締結ボス部68C部分の過剰なへこみと弾性シール部材96の過剰初期変形を防止する。
【0053】
上述の取付構造により、シリンダヘッドカバー68は、複数個のボルト84によって外周縁部の複数箇所をシリンダヘッド10とチェーンケース66に固定されること加えて、ボルト94によって天井壁部68Aの前後左右の略中央部分をシリンダヘッド10に固定される。これにより、シリンダヘッドカバー68の特に天井壁部68Aのシリンダヘッド10に対する取付強度、剛性が高くなり、天井壁部68Aが変形し難くなると共に振動し難くなる。
【0054】
このようにして、シリンダヘッドカバー68が振動し難くなることにより、弾性シール部材70によるシリンダヘッド10とシリンダヘッドカバー68との間のシール性能が、振動を生じ易い3気筒や2気筒の小型エンジンでも良好になり、シール性能の信頼性が向上する。
【0055】
ボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定位置は、アーム部92のねじ止めボス部92Aの配置位置(ねじ孔92Bの位置)、つまり、アーム部92の延出方向と長さにより高い自由度をもって決まり、これらの最適設定によって、動弁機構等、動弁室86に配置されている部材と干渉せず、シリンダヘッド10、シリンダヘッドカバー68の内壁面に接触しない範囲で、シリンダヘッドカバー68の固定位置を天井壁部68Aの膜振動の振幅(一次振動の振幅)が大きくなる部位に設けることができる。
【0056】
これにより、シリンダヘッドカバー68の膜振動の振幅が大きくなる部位がカム軸直上にないエンジンでも、シリンダヘッド10の構成を複雑化することなくシリンダヘッドカバー68の膜振動(共振)を効果的に低減することができる。なお、アーム部92を用いたボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定部は、シリンダヘッドカバー68の一次振動と二次振動の双方の節部を避けた部位に設定し、一次振動と二次振動の双方の低減を図ることもできる。
【0057】
また、アーム部92を用いたボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定部は、シリンダヘッド10の上壁部10Bより突出形成したボルト取付座部によって設定するものでないから、アーム部92の重量増加だけで、重量増加を最小限に抑えて軽量コンパクトに、しかも、動弁機構等、動弁室86に配置される部材のレイアウトを阻害することなく、シリンダヘッドカバー68の共振を効果的に防止することができる。アーム部92は動弁室86内にあってシリンダヘッド10の壁面に非接触であるから、アーム部92とシリンダヘッド10との間で直接的な振動伝達が行われることがなく、アーム部92を用いたボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定部が動弁機構等、動弁室86に配置されている部材と干渉することもない。
【0058】
ねじ止めボス部92Aの上面はシリンダ軸線方向(上下方向)で見てカムキャップ90の最上面以下に位置していることが好ましく、この設定により、シリンダ軸線方向のエンジン高さに影響がなく、且つシリンダヘッド10に対するシリンダヘッドカバー68の取付面に近い位置でボルト94による締結を行うことができ、振動防止がより効果的になる。また、アーム部92はカムキャップ90のボルト締結ボス部90Bより延出しているから、アーム長を最短に設定でき、剛性を高めるために厚肉に形成しなくても、シリンダヘッドカバー68の締結力を充分受け止めることが可能である。
【0059】
また、アーム部92を用いたボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定部は、円筒状部30の外壁近傍にあるから、点火プラグのレイアウトを阻害することがなく、しかも、円筒状部30の上端の弾性シール部材72に与えるシール圧(圧縮量)を適正に設定する効果も得られる。これにより、振動の問題が大きい小型エンジンにおいても、簡単な構造で点火プラグ挿入孔28のシール性能を高め、シール性能の信頼性を向上することができる。
【0060】
また、VTC60の動作による振動がボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定部を介してシリンダヘッドカバー68に伝わらないよう、アーム部92付きのカムキャップ90は、VTC60が取り付けられていない側のカム軸、本実施例では、排気弁用カム軸42のカムキャップに適用されている。VTC60が付かないエンジンでは、基本的に排気側のほうが吸気側よりバルブ開度(バルブリフト量)が小さいので、動弁系部品との干渉を避けて、より低い位置に、アーム部92を用いたボルト94によるシリンダヘッドカバー68の固定部を形成するうえで、アーム部92付きのカムキャップ90は、排気弁用カム軸42のカムキャップに適用されることが好ましい。
【0061】
以上、本発明を、その好適形態実施例について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0062】
例えば、吸気弁16と排気弁18とで共通のカム軸を用いるシングルオーバヘッドカムエンジンにも適用可能であり、気筒数も3気筒に限られることも、火花点火式のガソリンエンジンに限られることもなく、オーバヘッドカム型であれば、ディーゼルエンジンにも適用できる。ディーゼルエンジンの場合、円筒状部30による点火プラグ挿入孔28は、直噴のための燃料噴射弁の挿入孔になる。
【0063】
動弁機構もスイングアーム式のものに限られることなく、ロッカアーム式、直接駆動式のものであってもよい。シリンダヘッドカバー68は、合成樹脂製のものに限られることなく、軽合金ダイキャスト製のものでもよい。また、アーム部92を有するカムキャップ90の個数は、1個に限れることはなく、気筒数等に応じて複数個設けられていてもよい。
【0064】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 シリンダヘッド
10H 軸受部
10J 軸受部
10L ヘッドカバー取付フランジ面
16 吸気弁
18 排気弁
28 点火プラグ挿入孔
30 円筒状部
32 カムキャップ
34 ボルト
36 吸気弁用カム軸
38 カムキャップ
40 ボルト
42 排気弁用カム軸
46 吸気側スイングアーム
54 排気側スイングアーム
56 軸
58 カムフォロワローラ
60 バルブ開閉タイミング可変設定装置(VTC)
66 チェーンケース
68 シリンダヘッドカバー
68D ボルト通し孔
70 弾性シール部材
86 動弁室
90 カムキャップ
90A 軸受部
90B ボルト締結ボス部
90C ボルト通し孔
92 アーム部材
92 アーム部
92A ボス部
92B ねじ孔
94 ボルト
98 ディスタンス部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動弁機構のカム軸がシリンダヘッドに形成された半割り形状の軸受部と当該シリンダヘッドにボルト締結によって固定された半割り形状のカムキャップによって回転可能に支持され、前記シリンダヘッドの外郭に沿って形成されたヘッドカバー取付フランジ面にシール部材を挟んでシリンダヘッドカバーがボルト締結によって取り付けられるオーバヘッドカムエンジンであって、
前記カムキャップに、当該カムキャップより横方向に延出するアーム部が一体形成され、前記アーム部の先端部分にねじ孔が形成され、前記シリンダヘッドカバーには前記ねじ孔に対応する位置にボルト通し孔が形成され、前記シリンダヘッドカバーの外部より前記ボルト通し孔に通された頭付きボルトが前記アーム部の前記ねじ孔にねじ係合しているオーバヘッドカムエンジン。
【請求項2】
前記カム軸が吸気弁用と排気弁用とで個別に2列に配置されており、前記アーム部は吸気弁用と排気弁用の前記カム軸の少なくとも何れか一方の前記カムキャップに一体形成されていて他方の前記カム軸の側に向けて延出している請求項1記載のオーバヘッドカムエンジンのシリンダヘッドカバー取付構造。
【請求項3】
前記カム軸が吸気弁用と排気弁用とで個別に2列に配置されており、吸気弁用と排気弁用の一方の前記カム軸のみにクランク角に対するバルブ開閉タイミングを可変設定するバルブ開閉タイミング可変設定装置が連結されており、前記アーム部は前記バルブ開閉タイミング可変設定装置が連結されていない前記カム軸の前記カムキャップに一体形成されている請求項1記載のオーバヘッドカムエンジン。
【請求項4】
前記シリンダヘッドには点火プラグあるいは燃料噴射弁の挿入孔を画成する筒状部が一体形成され、前記アーム部は前記筒状部の近傍へ向けて延出している請求項1から3の何れか一項に記載のオーバヘッドカムエンジン。
【請求項5】
前記アーム部は前記シリンダヘッドと前記シリンダヘッドカバーとによって画定される動弁室内にあって前記シリンダヘッドの壁面に非接触である請求項1から4の何れか一項に記載のオーバヘッドカムエンジン。
【請求項6】
前記カムキャップは、カム軸を支持する半割り形状部の両側に、当該カムキャップを前記シリンダヘッドに固定するためのボルトを挿入されるボルト通し孔を形成されたボルト締結ボス部を一体に有し、前記アーム部は片側の前記ボルト締結ボス部から横方向に延出している請求項1から5の何れか一項に記載のオーバヘッドカムエンジン。
【請求項7】
前記頭付きボルトの頭部と前記アーム部との間に前記頭付き締結ボルトを挿入された筒状のディスタンス部材が設けられている請求項1から6の何れか一項に記載のオーバヘッドカムエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−87701(P2013−87701A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229722(P2011−229722)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】