説明

カップシールおよびこれを用いたマスタシリンダ

【課題】前述のシール機能およびポンピング機能を有しつつ、軸方向移動をより確実に防止する。
【解決手段】第1カップシール21のインナーリップ部21bの先端に設けられた突起21b4が凹部20の第2側壁20cに当接されるとともに、第1カップシール21の第1テーパ内周面21b1に、プライマリピストン4の後方側テーパ面4b2から軸方向に大きな軸力が加えられる。こにより、第1カップシール21をこの軸力で軸方向に確実に保持することができる。したがって、第1カップシール21が軸方向に移動するのを抑制することができる。特に、第1カップシール21の突起21b4が第2側壁20cのテーパ面20c′に当接することで、より一層大きな軸力を得ることができるので、第1カップシール21の保持をより一層確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両におけるブレーキやクラッチのマスタシリンダ等のシリンダとこのシリンダ内にその軸方向に相対移動可能に配設される摺動部材とからなるシリンダ装置に用いられるカップシールおよびこのカップシールを備えたプランジャ型のマスタシリンダの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の液圧ブレーキシステムや液圧クラッチシステムにおいては、ブレーキやクラッチを作動するために、ブレーキペダルあるいはクラッチペダルの踏力に応じた液圧を発生するマスタシリンダが用いられている。このマスタシリンダとして、シリンダ孔を有するシリンダ本体と、シリンダ孔内に摺動可能に挿入された液圧室を区画するピストンと、シリンダ本体に設けられリザーバに連通する連通路と、ピストンに形成されてこの連通路と液圧室とを連通するリリーフポートと、シリンダ本体のシリンダ孔内周面の凹部に収容されるとともにピストンが摺動可能に貫通して、シリンダ孔内周面とピストン外周面との間をシールするシール部材とを備えた、プランジャ型マスタシリンダが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
この特許文献1および特許文献2に開示のプランジャ型マスタシリンダは、非作動時、ピストンのリリーフポートと連通路とがシール部材で遮断されず、液圧室がリリーフポートおよび連通路を介してリザーバに連通している。したがって、非作動時、液圧室内は大気圧となっていて、液圧は発生していない。ブレーキペダルあるいはクラッチペダルの踏込みでピストンが液圧室側へ前進すると、リリーフポートと連通路とがシール部材で遮断されて、液圧室がリザーバから遮断される。これにより、ピストンの前進にともなって、液圧室には液圧が発生するようになっている。
【0004】
このプランジャ型マスタシリンダに用いられているシール部材には、ピストン前進による液圧発生時に液圧が漏出するのを防止のためのシール機能と、ピストン後退時の応答性向上のためにリザーバのブレーキ液を液圧室へ補給する液補給機能であるポンピング機能とが求められる。そこで、シール部材にこれらの両機能を発揮させるために、シール部材としてカップシールが採用されている。このカップシールは、ベース部、インナーリップ部、およびアウターリップ部から径方向断面コ字状(あるいは、C字状)に形成されたカップシールである。
【0005】
これらのベース部、インナーリップ部、およびアウターリップ部は、いずれも連続した円環状に形成されている。そして、シリンダ側に形成された凹部にカップシールが収容され、液圧室に液圧発生時には、アウターリップ部が凹部の底壁に密着するとともにベース部が凹部の側壁に密着することで、液圧の漏出が防止される。また、作動液補給時には、アウターリップ部が凹部の底壁から離間するとともにベース部が凹部の側壁から離間することで、液圧が補給される。
【0006】
【特許文献1】特開2000−108878号公報。
【特許文献2】特開2005−273714号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のカップシールでは、そのインナリップ部が全周にわたって凹部の側壁に当接されている。このため、カップシールの軸方向移動は阻止されるものの、インナーリップ側からの液補給を十分に行うことは難しいという問題がある。
また、特許文献2に記載のカップシールでは、インナリップ部と凹部の側壁との間およびベース部と凹部の側壁との間に、それぞれ間隙が生じている。このため、インナーリップ側からの液補給を十分に行うことは可能であるが、カップシールの軸方向移動を阻止することは難しい。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、前述のシール機能およびポンピング機能を有しつつ、軸方向移動をより確実に防止することのできるカップシールを提供することである。
本発明の他の目的は、液圧発生が確実であり、しかもピストン後退時の応答性をより一層向上できるマスタシリンダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、請求項1に係る発明のカップシールは、凹部に収容され、径方向に延設されかつ摺動部材が摺動可能に貫通する環状のベース部、このベース部の内周側端部から軸方向に延設されかつ前記摺動部材が摺動可能に貫通する環状のインナーリップ部、およびベース部の外周側端部から軸方向に延設されかつ前記凹部の底壁に離間可能に当接する環状のアウターリップ部から断面コ字状に形成されているカップシールにおいて、前記インナーリップ部が、内径が前記ベース部の内周端部から軸方向前方に進むにしたがって次第に小さくなるようにして延設された第1テーパ内周面と、この第1テーパ内周面から、内径が軸方向前方に進むにしたがって次第に大きくなるようにして延設された第2テーパ内周面とを少なくとも有する内周面を有しており、前記インナーリップ部の先端に、前記インナーリップ部の先端が対向する前記凹部の側壁に当接されて軸方向の位置決めをする突起が軸方向に突設されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に係る発明のカップシールは、前記内周面が、前記第1テーパ内周面から、内径が軸方向前方に進むにしたがって次第に大きくなるようにして延設された第2テーパ内周面を有していることを特徴としている。
更に、請求項3に係る発明のカップシールは、前記突起が当接する前記凹部の側壁の開口端部が開口端に向かって拡がるテーパ面とされており、この凹部内に収容されることを特徴としている。
【0011】
更に、請求項4に係る発明のマスタシリンダは、シリンダ孔を有するシリンダ本体と、前記シリンダ孔内に摺動可能に挿入された液圧室を区画するピストンと、前記シリンダ本体に設けられリザーバに連通する連通路と、前記ピストンに形成されて前記液圧室と常時連通するとともに前記連通路と前記液圧室とを連通するリリーフポートと、前記シリンダ本体のシリンダ孔内周面のシリンダ側凹部に収容されるとともに前記ピストンが摺動可能に貫通して、前記シリンダ孔内周面と前記ピストンの外周面との間をシールするシール部材とを備え、非作動時に前記連通路と前記リリーフポートとが連通し、作動時に前記ピストンが移動して前記シール部材により前記連通路と前記リリーフポートとが遮断されるようになっているマスタシリンダにおいて、前記ピストンの外周面に、テーパ面を有するピストン側凹部が形成されており、前記シール部材が請求項1ないし3のいずれか1記載のカップシールで構成されており、前記インナーリップ部の先端が対向する前記凹部の側壁に前記インナーリップ部の前記突起が当接されることで、前記カップシールが軸方向に位置決めされかつ軸方向に移動不能とされているとともに、前記ピストン側凹部のテーパ面が前記インナーリップ部の前記第1テーパ内周面に軸方向に当接可能とされていることを特徴としている。
また、請求項5に係る発明のマスタシリンダは、前記突起が当接する前記凹部の側壁における開口端部が開口端に向かって拡がるテーパ面とされており、前記突起がこのテーパ面に当接されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明に係るカップシールによれば、インナーリップ部の先端に設けられた突起が凹部の側壁に当接されるとともに、大きな軸力がカップシールの第1テーパ内周面に軸方向に加えられることで、カップシールをこの軸力で軸方向に確実に保持することができる。したがって、カップシールが軸方向に移動するのを抑制することができる。特に、カップシールの突起が凹部の側壁のテーパ面に当接させることで、より一層大きな軸力を得ることができるので、カップシールの保持をより一層確実に行うことができる。
【0013】
しかも、ベース部に関しインナーリップ側に液圧発生時には、アウターリップ部が凹部の底壁に密着するとともにベース部が凹部の側壁に密着することで、液圧の漏出を防止できる。また、作動液補給時には、アウターリップ部が凹部の底壁から離間するとともにベース部が凹部の側壁から離間することで、液圧を補給できる。こうして、本発明のカップシールは液圧のシール機能と作動液補給のためのポンピング機能とを確保しつつ、軸方向移動を防止することができる。
【0014】
一方、本発明のカップシールを用いたマスタシリンダによれば、カップシールの保持をピストンからの軸力で行うことができるので、カップシールが軸方向に移動するのを防止することができる。これにより、ピストンの無効ストロークを抑制することができる。したがって、ピストンの前進移動時に液圧室に液圧を迅速に発生しかつ増大させることができる。これにより、作動開始時のマスタシリンダの応答性を向上することができる。
特に、カップシールの突起が凹部の側壁のテーパ面に当接させることで、カップシールの保持をより一層確実に行うことができることから、カップシールの軸方向移動をより一層確実に防止することができる。
【0015】
また、液圧室への作動液補給時に、カップシールのベース部およびアウターリップ部がともに弾性的に撓み、かつインナーリップ部の突起が凹部の側壁に当接することで、インナーリップ部の先端と凹部の側壁との間に間隙が形成されているので、大きな流路面積の作動液流通路を形成することができる。これにより、作動液補給時に、多量の作動液を液圧室に補給することができ、液補給性を向上することができる。
【0016】
更に、カップシールにより液圧室への多量の作動液が補給できることから、作動解除におけるピストンの後退をスムーズにかつ迅速に行うことができる。したがって、ピストンの後退時の応答性を向上することができる。
このように、本発明に係るマスタシリンダによれば、カップシールにおける液圧のシール機能と作動液補給のためのポンピング機能とを確保しつつ、作動開始時の応答性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は本発明に係るカップシールを備えるマスタシリンダの実施の形態の一例を示す縦断面図、図2(a)および(b)は図1にける第1カップシール部分の部分拡大断面図である。なお、以下の説明におけるマスタシリンダに関しての前、後は、それぞれ図面において左、右をいう。
【0018】
図1に示すように、プランジャ型マスタシリンダ1はブレーキシステムのマスタシリンダとして用いられており、シリンダ本体2を備えている。このシリンダ本体2内には、シリンダ孔3が形成されている。
【0019】
シリンダ孔3内には、プライマリピストン4と、セカンダリピストン5とが摺動可能に挿入されている。プライマリピストン4は、図示しないブレーキペダルあるいはこのブレーキペダルの踏力を倍力して出力するブレーキ倍力装置によって左方へ移動するようになっている。これらのプライマリピストン4およびセカンダリピストン5により、シリンダ孔3内には、第1液圧室6がプライマリピストン4とセカンダリピストン5との間に区画形成され、また第2液圧室7がセカンダリピストン5とシリンダ孔3の底部3aとの間に区画形成されている。
【0020】
図1に示すようにプライマリピストン4はその前側に前端側筒状部4aを有しているとともに、図2(a)および(b)に示すようにこの前端側筒状部4aの外周面に形成されかつ前方側テーパ面4b1と後方側テーパ面4b2とからなる径方向断面三角形状の円環状の凹部4b(本発明のピストン側凹部に相当)を有している。また、図1に示すようにセカンダリピストン5もその前側に前端側筒状部5aを有しているとともに、この前端側筒状部5aの外周面に形成された、プライマリピストン4の凹部4bと同じ径方向断面三角形状の円環状の凹部を有している。
【0021】
第1液圧室6には第1軸部材8が設されており、この第1軸部材8には左右一対の第1および第2リテーナ9,10が設けられている。第1リテーナ9は第1軸部材8に固定されているが、第2リテーナ10は第1軸部材8に摺動可能とされている。その場合、第2リテーナ10が第1軸部材8の右端に形成されたフランジ8aに当接することで、第1および第2リテーナ9,10は互いに図1に示す最大に離間した状態に設定される。これらの第1および第2リテーナ9,10の間には、第1リターンスプリング11が縮設されている。第1リテーナ9はセカンダリピストン5に常時当接されるととも第2リテーナ10はプライマリピストン4に常時当接されており、図1に示すマスタシリンダ1の非作動時には、プライマリピストン4とセカンダリピストン5は最大に離間した状態に設定される。
【0022】
また、第2液圧室7には第2軸部材12が配設されており、この第2軸部材12に第3リテーナ13が摺動可能に嵌合されている。その場合、第3リテーナ13の左端の内周フランジが第2軸部材12の右端に形成されたフランジ12aに当接することで、第2軸部材12および第3リテーナ13は互いに図1に示す最大に伸張した状態に設定される。第2軸部材12の左端に形成されたフランジ12bと第3リテーナ13との間には、第2リターンスプリング14が縮設されている。第3リテーナ13はセカンダリピストン5に常時当接されるとともに、第2軸部材12はシリンダ孔3の底部3aに常時当接されており、図1に示すマスタシリンダ1の非作動時には、セカンダリピストン5は底部3aから最大に離間した状態に設定される。
【0023】
シリンダ本体2には、作動液であるブレーキ液を蓄えるリザーバ15が設けられている。このリザーバ15は、リザーバ15に連通する第1連通路16、第1連通路16とを連通する軸方向通路22およびプライマリピストン4に形成され第1液圧室6に常時連通する第1リリーフポート17を介して第1液圧室6に連通可能にされている。第1リリーフポート17は、プライマリピストン4の前端側筒状部4aにおける凹部4bの後方側テーパ面4b2に位置するようにして穿設されかつプライマリピストン4の内周側の第1液圧室6とプライマリピストン4の外周側の軸方向通路22とを連通する径方向の連通孔から構成されている。軸方向通路22は第1カップシール21のベース部21aの右面に常時連通している。
【0024】
また、リザーバ15は、第2連通路18、軸方向通路22と同様の軸方向通路、およびセカンダリピストン5に形成された第2リリーフポート19を介して第2液圧室7に連通可能にされている。第1リリーフポート17と同様に、第2リリーフポート19も、セカンダリピストン5の筒状部5aに穿設されてセカンダリピストン5の内周側の第2液圧室7と外周側の第2連通路18とを連通する径方向の連通孔から構成されている。軸方向通路22と同様の軸方向通路は第2カップシール23のベース部の右面に常時連通している。
【0025】
プライマリピストン4が配設されるシリンダ孔3の内周面には、径方向断面ほぼ矩形状の凹部20(本発明のシリンダ側凹部に相当)が形成されている。この凹部20は、底部20aと、底部20aの後端から直立する第1側壁20bと、底部20aの前端から直立する第2側壁20cとから構成されている。その場合、前方側の第2側壁20cの開口端部はその開口端に向かって拡がるテーパ面20c′とされている。図1に示すようにこの凹部20には、円環状の第1カップシール21が収容されているとともに、プライマリピストン4がこの第1カップシール21を液密にかつ摺動可能に貫通している。第1カップシール21が凹部20に収容された状態では、テーパ面20c′を含む第2側壁20cにインナーリップ部21bの先端21b3が対向するようになる。
【0026】
図3(a)ないし(c)に示すように、この環状の第1カップシール21は、径方向に延設されかつプライマリピストン4が摺動可能に貫通する円環状のベース部21a、このベース部21aの内周側端部から軸方向前方に延設されかつプライマリピストン4が摺動可能に貫通する円環状のインナーリップ部21bと、ベース部21aの外周側端部から軸方向前方に延設されかつ凹部20の底壁20aに離間可能に当接する円環状のアウターリップ部21cとを有している。したがって、第1カップシール21は、径方向断面コ字状の部分が円環状にされて形成されている。
【0027】
インナーリップ部21bは、内径がベース部21aの内周端部から軸方向前方に進むにしたがって次第に小さくなるようにして延設された第1テーパ内周面21b1と、この第1テーパ内周面21b1から、内径が軸方向前方に進むにしたがって次第に大きくなるようにして延設された第2テーパ内周面21b2と、この第2テーパ内周面21b2から、内径が軸方向前方に延設された一定の内径の内周面21b5とからなる内周面を有している。その場合、この例の第1カップシール21では、第1テーパ内周面21b1が形成されるインナーリップ部21bの部分全体の径が軸方向前方に進むにしたがって次第に小さくなるようにされるとともに、第2テーパ内周面21b2が形成されるインナーリップ部21bの部分全体の径が軸方向前方に進むにしたがって次第に大きくなるようにされている。しかし、本発明のカップシールでは、インナーリップ部21bの少なくとも内周面が前述のように形成されていればよい。第1テーパ内周面21b1の傾斜角は、プライマリピストン4の外周面の径方向断面三角形状の円環状の凹部4bにおける後方側テーパ面4b2の傾斜角と等しく設定されている(もちろん、これらの傾斜角は互いに異ならせることもできる)。
【0028】
また、インナーリップ部21bの先端21b3には、所定数(図示例では、5個;数は任意である。)の位置決め用の突起21b4が周方向に等間隔にかつ軸方向前方に突設されている。これらの突起21b4の先端は第1カップシール21の軸方向に対して傾斜した傾斜面とされている。この突起21b4の先端の傾斜面の傾斜角は凹部20のテーパ面20c′の傾斜角と等しく設定されている(もちろん、これらの傾斜角は互いに異ならせることもできる)。
【0029】
アウターリップ部21cは、その肉厚がインナーリップ部21bのそれより小さく設定されているとともに、ベース部21aの外周端部から、外径が軸方向前方に進むにしたがって次第に大きくなるようにして延設されている。また、アウターリップ部21cは弾性的に撓み易くされていて、リザーバ15からのブレーキ液を吸込み易くされている。更に、アウターリップ部21cの軸方向長さはインナーリップ部21bの長さとほぼ等しく形成されている。なお、インナーリップ部21bの長さとアウターリップ部21cの軸方向長さとの関係は異なるように設定することもできる。その場合、インナーリップ部21bおよびアウターリップ部21cのどちらの軸方向長さ長くするかは任意である。
【0030】
図2(a)および(b)に示すように、第1カップシール21が凹部20内に収容された状態でマスタシリンダ1の非作動時には、インナーリップ部21bの突起21b4の先端が凹部20のテーパ面20c′に面接触で当接されている。また、ベース部20aの後面は凹部20の第1側壁20bに面接触で当接している。これにより、第1カップシール21は凹部20内で軸方向に移動しなく、軸方向に位置決めされるようになっている。更に、図2(b)に示すようにインナーリップ部21bの先端21b3は凹部20のテーパ面20c′から離間している。これにより、インナーリップ部21bの内周側と外周側との間とが、インナーリップ部21bの先端21b3と凹部20のテーパ面20c′との間の間隙を通して常時連通し、ブレーキ液が流動可能とされている。
【0031】
そして、プライマリピストン4の非作動時には、第1カップシール21のインナーリップ部21bの第1テーパ内周面21b1が、プライマリピストン4の凹部4bの後方側テーパ面4b2に当接している。このとき、プライマリピストン4の後方側テーパ面4b2が第1カップシール21の第1テーパ内周面21b1を軸方向前方に若干押圧するようになっている。これにより、第1カップシール21はプライマリピストン4の軸力で軸方向に保持される。また、第1リリーフポート17は、その後縁が第1カップシール21の後面より後方に位置していて、リザーバ15に連通する第1連通路16に連通している。
【0032】
一方、アウターリップ部21cの先端21c1は凹部20の前方側の第2側壁20cに対向している。また、アウターリップ部21cの先端部外周面にはシール部21c2が形成されており、このシール部21c2は、第1液圧室6に液圧が発生したとき凹部20の底壁20aに当接することで、この底壁20aとの間をシールするようになっている。そして、図2(a)および(b)に示すように第1カップシール21が凹部20内に収容された状態でのマスタシリンダ1の非作動時には、シール部21c1が凹部20の底面20aに当接する。
【0033】
セカンダリピストン5が配設されるシリンダ孔3の内周面にも、前述の凹部20と同じ凹部(符号省略)が形成されている。この凹部には、環状の第2カップシール23が収容されているとともに、セカンダリピストン5がこの第2カップシール23を液密にかつ摺動可能に貫通している。この第2カップシール23は第1カップシール21とまったく同じに形成されている。したがって、その詳細な説明は省略する。
【0034】
そして、セカンダリピストン5の非作動時には、第2カップシール23のインナーリップ部の第1テーパ内周面が、プライマリピストン4の凹部4bと同じセカンダリピストン5の凹部における後方側テーパ面に当接している。このとき、このとき、セカンダリピストン5の後方側テーパ面が第2カップシール23の第1テーパ内周面を軸方向前方に若干押圧するようになっている。これにより、第2カップシール23はセカンダリピストン5の軸力で軸方向に保持される。また、第2リリーフポート19は、その後縁が第2カップシール23の後面より後方に位置していて、リザーバ15に連通する第2連通路18に連通している。
【0035】
更に、図1には明りょうに示されないが、この第2カップシール23の後方近傍にも、第2連通路18と第2リリーフポート19とを連通する、軸方向通路22とまったく同じ軸方向通路が形成されている。そして、この軸方向通路も第2カップシール23のベース部の右面(第1カップシール21のベース部21aの右面と同じ)に常時連通している。
【0036】
第1液圧室6は第1出力ポート24に連通されているとともに、この第1出力ポート24を介して図示しない2ブレーキ系統のうち、一方のブレーキ系統の車輪のホイールシリンダに接続されている。また、第2液圧室7は第2出力ポート25に連通されているとともに、この第2出力ポート25を介して図示しない二ブレーキ系統のうち、他方のブレーキ系統の車輪のホイールシリンダに接続されている。
【0037】
シリンダ本体2のシリンダ孔3の後端部内周にはカップシール26が設けられており、このカップシール26をプライマリピストン4が摺動可能に貫通している。カップシール26は前述の第1および第2カップシール21,23と異なる従来公知のカップシールからなり、シリンダ本体2のシリンダ孔3の内周面とプライマリピストン4の外周面との間の液密を確保している。これにより、第1連通路16のブレーキ液がシリンダ本体2から外部に漏出するのが防止されている。
【0038】
同様に、シリンダ本体2のシリンダ孔3の、第2連通路18より後方近傍部にはカップシール27が設けられており、このカップシール27をセカンダリピストン5が摺動可能に貫通している。カップシール27も前述の第1および第2カップシール21,23と異なる従来公知のカップシールからなり、シリンダ本体2のシリンダ孔3の内周面とセカンダリピストン4の外周面との間の液密を確保している。これにより、第1液圧室6の液圧が保持される。
【0039】
次に、このように構成されたこの例のマスタシリンダ1の動作について説明する。
図1、図2(a)および(b)に示すブレーキ非作動状態では、プライマリピストン4およびセカンダリピストン5がともに図示の非作動位置に設定される。この非作動位置は両ピストン4,5の後退限位置となっている。プライマリピストン4の後退限位置では、その第1リリーフポート17の後端側の一部が第1カップシール21のベース部21aの後端より後方に位置して所定の間隙α(図1(b)に図示)が形成される。そして、この間隙αにより、第1リリーフポート17と第1連通路16とが軸方向通路22を介して連通する。したがって、第1液圧室6がリザーバ15に連通し、第1液圧室6内は液圧が発生していなく、大気圧となっている。同様に、セカンダリピストン5の後退限位置では、第2液圧室7がリザーバ15に連通し、第2液圧室7内は液圧が発生していなく、大気圧となっている。
【0040】
ブレーキペダルが踏み込まれてプライマリピストン4が前進すると、プライマリピストン4の後方側テーパ面4b2が第1カップシール21の第1テーパ内周面21b1を軸方向前方に大きな軸力で押圧する。このとき、第1カップシール21の突起21b4が凹部20のテーパ面20c′に当接しているので、第1カップシール21はプライマリピストン4のこの軸力で軸方向に確実に保持される。したがって、第1カップシール21は軸方向前方に移動することはない。特に、第1カップシール21の突起21b4が凹部20のテーパ面20c′に当接することから、第1カップシール21に加えられるプライマリピストン4からの軸力がより一層大きくなり、第1カップシール21はより一層確実に保持される。
【0041】
そして、第1リリーフポート17の全体が第1カップシール21のベース部21aおよびインナーリップ部21bによって閉塞される。このとき、第1カップシール21が軸方向前方に移動しないので、プライマリピストン4の無効ストロークが抑制される。つまり、ブレーキペダルの無効ストロークが抑制される。第1リリーフポート17の全体が第1カップシール21によって閉塞されると、第1リリーフポート17と第1連通路16とが遮断されて第1液圧室6がリザーバ15から遮断され、第1液圧室6にペダル踏力に応じた液圧が発生する。
【0042】
また、プライマリピストン4の前進による第1リターンスプリング11を介して伝達されるペダル踏力によってセカンダリピストン5が前進する。すると、セカンダリピストン5の後方側テーパ面が第2カップシール23の第1テーパ内周面を軸方向前方に大きな軸力で押圧する。このとき、第2カップシール23の突起が凹部テーパ面に当接しているので、第2カップシール23はセカンダリピストン5のこの軸力で軸方向に確実に保持される。したがって、第2カップシール23は軸方向前方に移動することはなく、セカンダリピストン5の無効ストロークが抑制される。そして、同様にして、第2液圧室7がリザーバ15から遮断され、第2液圧室7内に液圧が発生する。
【0043】
第1液圧室6内の液圧により、第1カップシール21が凹部20内で後方に押圧され、ベース部21aの後端面が凹部20の第1側壁20bに密着される。そして、ベース部21aは凹部20の第1側壁20bとの間をシールする。また、第1カップシール21のインナーリップ部21bの内周面がプライマリピストン4の外周面に密着されるとともに、第1カップシール21のアウターリップ部21cのシール部21c2が凹部20の底壁20aに密着される。そして、シール部21c2は凹部20の底壁20aとの間をシールする。すなわち、ベース部21aおよびシール部21c1は、アウターリップ部21cの外周面と凹部20の底壁20aとの間およびベース部21aの後端面と凹部20の第1側壁20bとの間を通して第1液圧室6からリザーバ15に向かうブレーキ液の流れに対して直列に配設されて2重のシール部を構成する。
【0044】
これにより、第1液圧室6はリザーバ15から密封され、第1液圧室6のブレーキ液がリザーバ15へ漏出しなく、第1液圧室6の液圧が確保される。このとき、仮にシール部21c2のシール面圧が部分的に小さく、第1液圧室6のブレーキ液がシール部21c2と凹部20の底壁20aとの間のシール部分のうち、このシール面圧の小さい部分から漏出したとする。しかし、シール部21c2を漏出したブレーキ液は、ベース部21aと凹部20の第1側壁20bとの間のシール部分で遮断され、軸方向通路22の方へ漏出しない。
【0045】
このように、ブレーキ液の流れ方向に直列に配設されたシール部21c2とベース部21aとによる2重シールにより、第1液圧室6のブレーキ液の漏出が確実に防止されて、第1液圧室6の液圧が高度に確保される。
プライマリピストン4が更に前進すると、第1液圧室6の液圧が上昇する。この第1液圧室6の液圧は、第1出力ポート24から一方のブレーキ系統のホイールシリンダに送給され、一方のブレーキ系統のブレーキが作動する。
【0046】
一方、セカンダリピストン5が前進すると、第2液圧室7に液圧が発生する。同様にして、第2カップシール23のベース部およびシール部による2重シールにより、第2液圧室7のブレーキ液の漏出が確実に防止されて、第2液圧室7の液圧が高度に確保される。
セカンダリピストン5が更に前進すると、第2液圧室7の液圧が上昇する。この第2液圧室7の液圧は、第2出力ポート25から他方のブレーキ系統のホイールシリンダに送給され、他方のブレーキ系統のブレーキが作動する。
【0047】
ブレーキが作動した状態から、ブレーキペダルの踏み込みを解除すると、プライマリピストン4が第1リターンスプリング11のばね力で後退して非作動位置に戻ろうとするので、第1液圧室6の液圧が低下して瞬間的に負圧ぎみになる。アウターリップ部21cの後端側がリザーバ15に連通していて大気圧となっているため、第1カップシール21のベース部21a押圧されて前方に弾性的に撓んで、第1カップシール21のベース部21aの後端面と凹部20の第1側壁20bとの間に間隙が形成される。また、第1液圧室6の液圧が瞬間的に負圧ぎみになることで、アウターリップ部21cの先端側が内側に撓んで、凹部20の底壁20aとアウターリップ部21cのシール部21c2との間に間隙が形成される。
【0048】
これにより、リザーバ15のブレーキ液が第1連通路16、軸方向通路22、ベース部21aの後端面と凹部20の第1側壁20bとの間の間隙、および底壁20aとアウターリップ部21cとの間の間隙を通って第1カップシール21の前側に流入する。
【0049】
第1カップシール21の前側に流入したブレーキ液は、更に第1液圧室6に流入する。その場合、この例の第1カップシール21では、インナーリップ21bの先端21b3に設けられた突起21b4が凹部20における第2側壁20cのテーパ面20c′に当接して第1カップシール21が位置決めされているが、インナーリップ21bにおける先端21b3の突起21b4のない部分とテーパ面20c′とが離間してこれらの間に間隙が形成されているので、第1カップシール21の前側の多量のブレブレーキ液はこの間隙を通ってスムーズに第1液圧室6に流入する。
これにより、リザーバ15からブレーキ液が第1液圧室6に確実に補給され、プライマリピストン4は第1リターンスプリング11の付勢力でスムーズにかつ迅速に後退し、第1液圧室6の液圧が低下する。
【0050】
プライマリピストン4の後退および第1液圧室6の液圧の低下により、セカンダリピストン5が第2リターンスプリング14の付勢力で後退しようとする。このとき、前述の第1液圧室6と同様に、第2液圧室7にリザーバ15の多量のブレーキ液が補給される。したがって、セカンダリピストン5もスムーズにかつ迅速に後退し、第2液圧室7の液圧が低下する。
【0051】
プライマリピストン4が後退して、図1、図2(a)および(b)に示すように第1リリーフポート17の後端側の一部が第1カップシール21のベース部21aの後端より後方に位置すると、第1リリーフポート17と第1連通路16とが軸方向通路22を介して連通する。これにより、第1液圧室6のブレーキ液が第1リリーフポート17および第1連通路16を通ってリザーバ15に排出され、第1液圧室6の液圧が更に低下する。
【0052】
同様にして、セカンダリピストン5が後退することで、第2リリーフポート19と第2連通路18とが連通し、第2液圧室7のブレーキ液が第2リリーフポート19および第2連通路18を通ってリザーバ15に排出され、第2液圧室7の液圧が更に低下する。
【0053】
両ピストン4,5が図1に示す後退限位置になると、両ピストン4,5が停止し、第1および第2液圧室6,7が大気圧となり、マスタシリンダ1が非作動状態になり、ブレーキが解除される。
【0054】
このように、この例の第1カップシール21によれば、インナーリップ部21bの先端に設けられた突起21b4が凹部20の第2側壁20cに当接されるとともに、第1カップシール21の第1テーパ内周面21b1に、プライマリピストン4の後方側テーパ面4b2から軸方向に大きな軸力が加えられるので、第1カップシール21をこの軸力で軸方向に確実に保持することができる。したがって、第1カップシール21が軸方向に移動するのを抑制することができる。特に、第1カップシール21の突起21b4が第2側壁20cのテーパ面20c′に当接することで、より一層大きな軸力を得ることができるので、第1カップシール21の保持をより一層確実に行うことができる。また、この例の第2カップシール23によっても、第1カップシール21のこの効果と同様の効果を得ることができる。
【0055】
また、第1および第2液圧室6,7への作動液補給時に、第1および第2カップシール21,23のベース部およびアウターリップ部がともに弾性的に撓み、かつインナーリップ部の突起が凹部の第2側壁に当接することで、インナーリップ部の先端と凹部の第2側壁との間に間隙が形成されているので、大きな流路面積の作動液流通路を形成することができる。これにより、作動液補給時に、多量の作動液を液圧室に補給することができ、液補給性を向上することができる。
【0056】
しかも、第1および第2カップシール21,23によれば、ベース部に関しインナーリップ側に液圧発生時には、アウターリップ部が凹部の底壁に密着するとともにベース部が凹部の側壁に密着することで、液圧の漏出を防止できる。また、作動液補給時には、アウターリップ部が凹部の底壁から離間するとともにベース部が凹部の側壁から離間することで、液圧を補給できる。こうして、本発明のカップシールは液圧のシール機能と作動液補給のためのポンピング機能とを確保しつつ、軸方向移動を防止することができる。
【0057】
一方、この例の第1および第2カップシール21,23を用いたこの例のマスタシリンダ1によれば、プライマリピストン4およびセカンダリピストン5の前進移動(作動)開始時に、第1および第2カップシール21,23が軸方向前方に移動するのを防止されるので、プライマリピストン4およびセカンダリピストン5の無効ストロークを抑制することができる。したがって、プライマリピストン4およびセカンダリピストン5の前進移動時に第1および第2液圧室6,7にブレーキ液圧を迅速に発生しかつ増大させることができる。
【0058】
しかも、この例のマスタシリンダによれば、第1液圧室6へのブレーキ液補給時に、第1カップシール21のベース部21aおよびアウターリップ部21cがともに弾性的に撓み、かつインナーリップ部21bの突起21b4が凹部20の第2側壁20cのテーパ面20c′に当接することで、インナーリップ部21bの先端21b3と凹部20の第2側壁20cとの間に間隙が形成されるので、大きな流路面積のブレーキ液流通路を形成することができる。これにより、ブレーキ液補給時に、多量のブレーキ液を第1液圧室6に補給することができ、液補給性を向上することができる。
第2液圧室7へのブレーキ液補給時も、前述の第1液圧室6へのブレーキ液補給時と同じである。
【0059】
更に、第1および第2カップシール21,23によりそれぞれ第1および第2液圧室6,7への多量のブレーキ液が補給できることから、作動解除におけるプライマリピストン4およびセカンダリピストン5の後退をスムーズにかつ迅速に行うことができる。したがって、これらのプライマリピストン4およびセカンダリピストン5の後退時の応答性を向上することができる。
このように、この例のマスタシリンダ1によれば、液圧のシール機能と作動液補給のためのポンピング機能とを確保しつつ作動開始時の応答性を向上することができる。
【0060】
なお、本発明のカップシールは、前述の例のようにブレーキ装置のマスタシリンダに限定されることはなく、シリンダとこのシリンダ内にその軸方向に相対移動可能に配設される摺動部材とからなるシリンダ装置で、カップシールの軸方向一側から軸方向他側への作動液の流れを阻止しかつカップシールの軸方向他側から軸方向一側への作動液の流れを許容するようになっているシリンダ装置であれば、どのようなシリンダ装置にも用いることができる。
【0061】
更に、本発明のマスタシリンダは、前述の例のようにブレーキ装置のマスタシリンダに限定されることはなく、クラッチ装置のマスタシリンダを始め、ピストンの前進で液圧室に液圧を発生するものであれば、どのような液圧装置にも適用することができる。また、前述の例では、2つのピストンが直列に配置されたタンデムマスタシリンダについて説明しているが、プランジャ型マスタシリンダであれば、シングルマスタシリンダを始めどのようなマスタシリンダにも、本発明のマスタシリンダを適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るマスタシリンダは、カップシールを備え、ピストンの前進時に液圧室に液圧を発生し、かつピストンの後退時に液圧室に作動ブレーキ液を補給するプランジャ型のマスタシリンダに好適に利用可能である。特に、自動車等の車両におけるブレーキやクラッチのマスタシリンダに好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】(a)は本発明に係るカップシールを備えるマスタシリンダの実施の形態の一例を示す縦断面図、(b)は(a)における第1カップシール部の部分拡大図dearu.
【図2】(a)および(b)は図1に示す例のマスタシリンダのカップシールの部分の部分拡大断面図である。
【図3】(a)は図1に示す例のマスタシリンダに用いられる第1カップシールの正面図、(b)は(a)におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図、(c)は(a)におけるIIIC−IIIC線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…マスタシリンダ、2…シリンダ本体、3…シリンダ孔、4…プライマリピストン、4b…凹部、4b1…前方側テーパ面、4b2…後方側テーパ面、5…セカンダリピストン、6…第1液圧室、7…第2液圧室、15…リザーバ、16…第1連通路、17…第1リリーフポート、18…第2連通路、19…第2リリーフポート、20…凹部、20a…底壁、20b…第1側壁、20c…第2側壁、20c′…テーパ面、21…第1カップシール、21a…ベース部、21b…インナーリップ部、21b1…第1テーパ内周面、21b2…第2テーパ内周面、21b3…先端、21b4…突起、21c…アウターリップ部、21c2…シール部、23…第2カップシール、24…第1出力ポート、25…第2出力ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部に収容され、径方向に延設されかつ摺動部材が摺動可能に貫通する環状のベース部、このベース部の内周側端部から軸方向に延設されかつ前記摺動部材が摺動可能に貫通する環状のインナーリップ部、およびベース部の外周側端部から軸方向に延設されかつ前記凹部の底壁に離間可能に当接する環状のアウターリップ部から断面コ字状に形成されているカップシールにおいて、
前記インナーリップ部が、内径が前記ベース部の内周端部から軸方向前方に進むにしたがって次第に小さくなるようにして延設された第1テーパ内周面を少なくとも有する内周面を有しており、
前記インナーリップ部の先端に、前記インナーリップ部の先端が対向する前記凹部の側壁に当接されて軸方向の位置決めをする突起が軸方向に突設されていることを特徴とするカップシール。
【請求項2】
前記内周面が、前記第1テーパ内周面から、内径が軸方向前方に進むにしたがって次第に大きくなるようにして延設された第2テーパ内周面を有していることを特徴とする請求項1記載のカップシール。
【請求項3】
前記突起が当接する前記凹部の側壁の開口端部が開口端に向かって拡がるテーパ面とされており、この凹部内に収容されることを特徴とする請求項1または2記載のカップシール。
【請求項4】
シリンダ孔を有するシリンダ本体と、前記シリンダ孔内に摺動可能に挿入された液圧室を区画するピストンと、前記シリンダ本体に設けられリザーバに連通する連通路と、前記ピストンに形成されて前記液圧室と常時連通するとともに前記連通路と前記液圧室とを連通するリリーフポートと、前記シリンダ本体のシリンダ孔内周面のシリンダ側凹部に収容されるとともに前記ピストンが摺動可能に貫通して、前記シリンダ孔内周面と前記ピストンの外周面との間をシールするシール部材とを備え、非作動時に前記連通路と前記リリーフポートとが連通し、作動時に前記ピストンが移動して前記シール部材により前記連通路と前記リリーフポートとが遮断されるようになっているマスタシリンダにおいて、
前記ピストンの外周面に、テーパ面を有するピストン側凹部が形成されており
前記シール部材が請求項1ないし3のいずれか1記載のカップシールで構成されており、
前記インナーリップ部の先端が対向する前記凹部の側壁に前記インナーリップ部の前記突起が当接されることで、前記カップシールが軸方向に位置決めされかつ軸方向に移動不能とされているとともに、前記ピストン側凹部のテーパ面が前記インナーリップ部の前記第1テーパ内周面に軸方向に当接可能とされていることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項5】
前記突起が当接する前記凹部の側壁における開口端部が開口端に向かって拡がるテーパ面とされており、前記突起がこのテーパ面に当接されていることを特徴とする請求項4記載のマスタシリンダ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−56922(P2009−56922A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225448(P2007−225448)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】