説明

カムフォロア及びカムフォロアの製造方法

【課題】 切削加工によるファイバーフローの切断がなく、各部位に亘って連続するファイバーフローを有する強度の高いカムフォロアスタッドをしようすることにより、カムフォロアのコンパクト化と低コスト化を実現する。
【解決手段】 内周に外側軌道面34を有する外輪31と、前記外側軌道面34に対向する内側軌道面20を有し、前記内側軌道面20の一方の側に隣接する鍔部12と前記内側軌道面20の他方の側に順に隣接する側板圧入部17及び取付軸部18が形成され、前記鍔部12から外周に前記内側軌道面20が形成された軌道部16にかけて表面に沿ってファイバーフローが連続して形成されているカムフォロアスタッド11と、前記外側軌道面34と前記内側軌道面32の間に配列された転動体32と、前記側板圧入部17に圧入され前記鍔部12と協働で前記外輪31と前記転動体32の軸方向の移動を制限する側板33と、によってカムフォロアを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カムフォロア及びカムフォロアの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カムフォロアは、カムフォロアスタッドの一端部に転動体を介して、内周に外側軌道面を有する外輪を回転自在に装着したものであり、前記カムフォロアスタッドによって片持ち式に支持された外輪が軌道(トラック)上を転がり運動するものであり、トラックローラとも呼ばれる(特許文献1及び2)。
【0003】
前記のカムフォロアスタッド1は、図15に示すように、外輪の外側軌道面に対向する内側軌道面を有する軌道部4と、前記内側軌道面の一方の側に隣接する鍔部3と、前記内側軌道面の他方の側に順に隣接する側板圧入部5及び取付軸部6とによって形成されている。前記軌道部4、側板圧入部5及び取付軸部6は、順次小径に形成され、軌道部4と側板圧入部5の間、側板圧入部5と取付軸部6の間は、段差形状になっている。前記の取付軸部6は、側板圧入部5側の挿通軸部7と先端側のネジ部8とに区分されている。前記軌道部4の内側軌道面と外輪の外側軌道面との間には、転動体が配列される。前記側板圧入部5には、前記鍔部3と対向する側板が圧入固定され、鍔部3と側板との協働により、外輪と転動体の軸方向の移動を制限している。
【0004】
カムフォロアは、カムフォロアスタッド1の取付軸部6を取付対象となる機械装置のハウジングに差し込み、ハウジングの反対面に突き出たネジ部8にナットを締結することにより、片持ち式に固定される。前記転動体は、保持器付きのころタイプと、保持器を用いない総ころタイプとがある。
【0005】
前記カムフォロアスタッド1は、一般に、金属棒材に切削加工を施すことにより、前記の各部を形成している。そして、その切削加工の前に、一方の端面となる鍔部の外端面に六角穴、他方の端面となる取付軸部の外端面にセンター穴を、鍛造によって加工することが知られている(特許文献2)。
【0006】
また、前記軌道部に対する給油構造として、カムフォロアスタッドの取付軸部の外端面のセンターから前記軌道部のセンターに至る軸方向の給油穴を設け、その軸方向の給油穴の先端に連通し、かつ軌道部外径面に至る径方向の給油穴を設けることが知られている。軸方向の給油穴の開放端部には、グリースニップルが取付けられている(特許文献1又は2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−257036号公報(図3、図4、図9)
【特許文献2】特許第3874479公報(段落0037)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来、カムフォロアスタッド1は、金属線材を所要長さに切断した金属棒材を切削加工することにより製造されている。
【0009】
金属棒材の金属組織は、何本もの繊維が集まったような繊維状の組織になっており、この繊維状の組織の流れはファイバーフローと呼ばれている。例えば、引き抜き加工によって製造された金属線材は、長さ方向に繊維状の流れ、即ち長さ方向にファイバーフローが現れる。
【0010】
このような長さ方向にファイバーフローが揃った金属棒材を、外周面から切削加工して、カムフォロアスタッド1を形成した場合、図15の模式図に細線で示すように、外周側の切削部分はファイバーフロー2が切断されることになる。
【0011】
このようにして切削加工されたカムフォロアスタッド1の一端部の鍔部3の部分は、軌道部4側の端面においてファイバーフロー2が外周から順次切断されて形成される。したがって、鍔部3は、端面に向って切断されたファイバーフロー2の目が揃ったように並ぶため、鍔部3が、切断されたファイバーフロー2の目に沿って破断し易い。
【0012】
特に、鍔部3の付け根部分に、鍔部に凹入するヌスミ9を形成した場合には、この付け根部分の強度がより弱くなるという問題がある。
【0013】
また、軌道部4、側板圧入部5及び取付軸部6においても、外周部のファイバーフロー2は、切削加工により、切断された状態になるため、各部の外周部は、ファイバーフロー2の目に沿って破断し易い。
【0014】
このため、切削加工により、カムフォロアスタッド1を形成した場合、鍔部3や各部位の外周部分の強度が弱くなるので、所定の強度のカムフォロアスタッド1を得るためには、厚さや径を大きくしなければならず、それによりカムフォロアが大型化し、コストアップになるという問題があった。
【0015】
そこで、この発明は、切削加工によるファイバーフローの切断がなく、各部位に亘って連続するファイバーフローを有する強度の高いカムフォロアスタッドを得ることにより、カムフォロアのコンパクト化と低コスト化を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するために、この発明は、内周に外側軌道面を有する外輪と、前記外側軌道面に対向する内側軌道面を有し、前記内側軌道面の一方の側に隣接する鍔部と前記内側軌道面の他方の側に順に隣接する側板圧入部及び取付軸部が形成され、前記鍔部から外周に前記内側軌道面が形成された軌道部にかけて表面に沿ってファイバーフローが連続して形成されているカムフォロアスタッドと、前記外側軌道面と前記内側軌道面の間に配列された転動体と、前記側板圧入部に圧入され前記鍔部と協働で前記外輪と前記転動体の軸方向の移動を制限する側板と、によってカムフォロアを構成したものである。
【0017】
前記軌道部、側板圧入部及び取付軸部は、順次小径に形成され、軌道部と側板圧入部の間、側板圧入部と取付軸部の間にそれぞれ段差部が形成されている。
【0018】
前記鍔部の付け根部分には、鍔部に凹入するヌスミを形成している。
【0019】
また、前記内側軌道面と側板圧入部との間に形成される段差部のコーナーに、アールを付与している。
【0020】
また、前記鍔部の外端面に穴底にセンター穴を有する六角穴及び前記取付軸部の外端面にセンター穴をそれぞれ形成している。
【0021】
前記取付軸部には、取付軸部の先端面から前記軌道部に至る軸方向給油穴と、その軸方向給油穴に連続し、かつ前記軌道部の軌道面に至る径方向給油穴とを形成し、前記軸方向給油穴がカムフォロアの非負荷域へ偏心した位置に形成する。
【0022】
前記取付軸部は、前記側板圧入側の挿通軸部と、その挿通軸部に段差部を介して軸方向に隣接したネジ部とからなり、前記段差部に所要のテーパを付与している。
【0023】
この発明に係るカムフォロアは、前記外輪の両端にシール部材が設置され、前記シール部材のうちの一方が前記鍔部の外周面に摺接し、他方が前記側板の外周面に摺接している。
【0024】
前記カムフォロアスタッドは、軸方向に沿ってファイバーフローが形成された金属棒材を前記軌道部、側板圧入部、取付軸部の基になる形状に形成する筒状のキャビティを有するダイスにセットして前記金属棒材の長手方向にパンチで加圧し、前記鍔部の基になる形状を有する一次成形品を成形する冷間鍛造工程と、前記一次成形品の外周面を研削して前記鍔部、前記軌道部、側板圧入部、前記側板取付部の一部を成形する研削加工工程と、を含む製造方法によって製造することができる。
【0025】
前記鍔部の前記軌道部側の付け根を形成する前記ダイスの部分には、ヌスミを形成する突状型を設けている。
【0026】
また、前記ダイスの前記挿通軸部と前記ネジ部となる箇所の間の前記段差部に所要のテーパの型が形成されている。
【0027】
前記パンチは、前記鍔部を形成する成形キャビティを備えており、加圧によって変形した前記金属棒材の肉を前記成形キャビティに流し込んで前記鍔部の形状に形成している。
【0028】
前記冷間鍛造の際に、前記鍔部外端面に、穴底にセンター穴を有する六角穴、及び前記取付軸部外端面にセンター穴を形成することができる。
【0029】
前記冷間鍛造工程の後、転造によって前記取付軸部にネジ部を成形する転造工程を備えることができる。
【0030】
前記のようにして製造したカムフォロアスタッドは、前記鍔部から外周に前記内側軌道面が形成された軌道部にかけて表面に沿ってファイバーフローが連続して形成されている。
【0031】
したがって、同程度の強度を有するものであれば、この発明に係るカムフォロアスタッドは、従来の切削加工により形成したカムフォロアスタッドよりも、形状を小さくすることが可能である。
【発明の効果】
【0032】
前記のように、この発明のカムフォロアに使用するカムフォロアスタッドは、鍔部から外周に前記内側軌道面が形成された軌道部にかけて表面に沿ってファイバーフローが連続して形成されているので、ファイバーフローの切断による強度低下がない。
【0033】
このため、カムフォロアスタッドの強度が向上し、その分だけ、幅や径を小さく形成することができ、カムフォロアスタッドのコンパクト化を図ることができる。
【0034】
また、前記のカムフォロアスタッドを用いたカムフォロアは、カムフォロアスタッドのコンパクト化にともなって、全体としてのコンパクト化を図ることができる。
【0035】
前記段差部をテーパとすることによりこの部分の応力集中が緩和され、カムフォロアスタッドの強度が向上する。ネジ部を介して相手部材に取付けるときに加わる締め付けトルクに対する効果は特に大きく、この箇所に加わる応力を最大で約50%減少させることができた。また、通常のカムフォロア使用時にカムフォロアスタッドに曲げモーメントが発生した場合に加わる応力も低減することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明に係るカムフォロアの一実施形態を示す断面図である。
【図2】この発明に係るカムフォロアに使用するカムフォロアスタッドの一実施形態を示す一部切り欠き正面図である。
【図3】(a)は、図2の一部拡大断面図、(b)は、図2の他の部分の一部断面図、(c)は、図2の変形例の一部を示す正面図である。
【図4】冷間鍛造により形成したカムフォロアスタッドの一次成形品のファイバーフローを模式的に現した断面図である。
【図5】冷間鍛造により形成したカムフォロアスタッドの一次成形品の一部切り欠き正面図である。
【図6】冷間鍛造を行う金型のパンチを開いた状態を示す断面図である。
【図7】冷間鍛造を行う金型のダイスに金属棒材をセットした状態を示す断面図である。
【図8】パンチで加圧して冷間鍛造を行う途中の状態を示す断面図である。
【図9】パンチで加圧して冷間鍛造が終了した時点の状態を示す断面図である。
【図10】パンチの六角穴形成パンチで六角穴を形成する状態を示す断面図である。
【図11】冷間鍛造後にパンチを開いてカムフォロアスタッドの一次成形品をダイスのノックアウトピンにより取り出す状態を示す断面図である。
【図12】冷間鍛造により形成したカムフォロアスタッドの一次成形品に転造によりネジ部を形成した一部切り欠き正面図である。
【図13】アンギュラ円筒研削砥石によりカムフォロアスタッドの一次成形品に側板圧入部の段差を形成する状態を示す部分正面図である。
【図14】アンギュラ円筒研削砥石によりカムフォロアスタッドの一次成形品に側板圧入部の段差を形成する状態を示す全体正面図である。
【図15】切削加工により形成した従来例のカムフォロアスタッドのファイバーフローを現した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明に係るカムフォロアは、図1に示すように、内周に外側軌道面34を有する外輪31と、前記外側軌道面34に対向する内側軌道面20を有し、前記内側軌道面20の一方の側に隣接する鍔部12と前記内側軌道面20の他方の側に順に隣接する側板圧入部17及び取付軸部18が形成され、前記鍔部12から外周に前記内側軌道面20が形成された軌道部16にかけて表面に沿ってファイバーフローが連続して形成されているカムフォロアスタッド11と、前記外側軌道面34と前記内側軌道面20の間に配列された転動体32と、前記側板圧入部17に圧入され前記鍔部12と協働で前記外輪31と前記転動体32の軸方向の移動を制限する側板33とを備えている。
【0038】
前記の鍔部12と軌道部16の間の段差部13においては、軌道部16側のコーナー部において鍔部12側(軸方向)に凹入するヌスミ27が形成される(図3(a)参照)。従来の場合のこの部分におけるヌスミは径方向に凹入するものであったが(図15のヌスミ9参照)、この発明の場合は、後述のように、冷間鍛造によって加工されるものであるから、冷間鍛造の際に型抜きの方向(軸方向)に凹入させる必要がある。
【0039】
なお、ヌスミ27は、転動体32が、総ころタイプの場合、ころ32a(図3(a)参照)が、段差部13のコーナー部に接触する不具合を回避するために設けられる。
【0040】
前記軌道部16、側板圧入部17及び取付軸部18は、順次小径に形成され、軌道部16と側板圧入部17の間に段差部14、側板圧入部17と取付軸部18の間に段差部15がそれぞれ形成されている。
【0041】
前記内側軌道面20と側板圧入部17との間に形成される段差部14のコーナー部28には、図3(b)に示すように、アール(R)が付与され、集中荷重による欠け等の損傷を防ぐようにしている。
【0042】
前記鍔部12の外端面には、穴底にセンター穴26を有する六角穴24が形成されている。また、前記取付軸部18の外端面には、センター穴25が形成されている。
【0043】
前記取付軸部18は、前記側板圧入側の挿通軸部19と、その挿通軸部19に段差部22を介して軸方向に隣接したネジ部21とからなり、前記段差部22に所要のテーパが付与されている。
【0044】
前記外輪31の両端には、シール部材36が設置され、前記シール部材36のうちの一方が前記鍔部12の外周面12’に摺接し、他方が前記側板33の外周面に摺接している。前記シール部材36は、外輪31の内周面に形成された外側軌道面34と同芯でこれより大径の凹入段部35、35に装着されている。
【0045】
前記鍔部12及び側板33は、外輪31と転動体32の軸方向の移動を阻止し、シール部材36は内部の潤滑油の漏出を防止し、また外部からの塵埃の侵入を防止している。
【0046】
前記のカムフォロアスタッド11に設けられる給油穴37は、ネジ部21側の外端面から軌道部16の中心部に達する軸方向給油穴39と、その先端部に連通して軌道面20に達する径方向給油穴40とによって構成され、その軸方向給油穴39の入口が給油ポート38となる。給油ポート38には使用時においてはグリースニップルが取付けられる。
【0047】
カムフォロアの外輪31には、一定の負荷荷重方向(図1び白抜き矢印参照)が定められる。このため、カムフォロアスタッド11には、その中心線を基準に負荷域αと非負荷域βに区分できるが、前記軸方向給油穴39は、その中心線から非負荷域βの方向に一定距離rだけ偏芯した位置に設けられる。これにより、カムフォロアスタッド11の負荷域αにおける強度の向上を図っている。
【0048】
図1の場合は、転動体32としてのころが保持器41によって保持される場合を示しているが、保持器41を使用しない総ころタイプでもよい。この場合のころを図3(a)に符合32aで示している。
【0049】
その他、前記カムフォロアスタッド11の変形例として、前記のネジ部21を省略し、挿通軸部19だけで構成してもよい。チャンファ23が挿通軸部19を相手機械の取付穴に挿入する場合のガイドとなる。その取付穴に挿通軸部19を圧入することにより固定される。また、六角穴24に代えてマイナスドライバ係合用の溝を形成する場合もある。
【0050】
また、シール部材36を省略する場合もある。その場合、凹入段部35は省略される。給油穴37(給油ポート38、軸方向給油穴39、径方向給油穴40)を省略する場合もある。
【0051】
次に、この発明に係るカムフォロアに使用するカムフォロアスタッド11の製造方法について説明する。
この発明に係るカムフォロアに使用するカムフォロアスタッド11は、以下の工程によって製造することができる。
【0052】
[鍛造工程]
まず、図4及び図5に示すカムフォロアスタッドの一次成形品11aを冷間鍛造によって成形する。一次成形品11aは、カムフォロアスタッド11の側板圧入部17と取付軸部18の間に段差部15がない形状のものであり、段差部15は後述する研削工程により形成される。
【0053】
冷間鍛造工程は、軸方向に沿ってファイバーフローが形成された金属棒材Aを前記軌道部16、側板圧入部17、取付軸部18の基になる形状に形成する筒状のキャビティを有するダイス50にセットして、前記金属棒材Aの長手方向にパンチ52で加圧し、前記鍔部12の基になる形状を有する一次成形品11aを成形する工程である。
【0054】
図6に示す金型を用いて、軸心方向に沿ってファイバーフロー30が連続する金属棒材Aを室温で加圧成形する冷間鍛造により成形すると、ファイバーフロー30は、図4の模式図に示すように、段差部分13、14でファイバーフロー30が密になり、前記鍔部12から外周に前記内側軌道面20が形成された軌道部16にかけて表面に沿ってファイバーフロー30が連続して形成される。
【0055】
上記金型は、図6に示すように、カムフォロアスタッド11の軌道部16、取付軸部18の筒状の成形用キャビティ51を備えるダイス50と、鍔部12の成形用キャビティ53を下面に備えるパンチ52とからなる。ダイス50の中心には、成形品をダイス50から押し出すノックアウトピン54が設けられている。このノックアウトピン54の上面には、センター穴を形成する円錐形の突部59を設けている。また、パンチ52の中心には、鍔部12の六角穴24を形成する六角穴形成パンチ55のガイド孔56が設けている。
【0056】
上記ダイス50の成形用キャビティ51の開口周縁には、鍔部12の付け根のヌスミ27を形成する突状型57を設けている。
【0057】
また、ダイス50の成形用のキャビティ51における取付軸部18を成形する部分には、取付軸部18とネジ部21となる箇所の間に、テーパ状の段差部22を成形するテーパ58が設けられている。
【0058】
上記金型を使用してカムフォロアスタッド11の一次成形品11aを成形するには、まず、図7に示すように、パンチ52をダイス50に対して上方に開いた状態で、軸方向にファイバーフローが連続する金属棒材Aをダイス50にセットする。次いで、パンチ52を打ち下ろして金属棒材Aを、図8、図9に示すように、ダイス50内の成形用キャビティ51と、パンチ52の成形用キャビティ53の形状に沿うように、金属棒材Aを塑性変形させる。
【0059】
この後、図10に示すように、パンチ52の六角穴形成パンチ55を鍔部12に圧入し、鍔部12に、底部にセンター穴を有する六角穴24を形成する。
このようにして、カムフォロアスタッド11の一次成形品11aを冷間鍛造により成形した後、図11に示すように、六角穴形成パンチ55を上方に開き、ダイス50のノックアウトピン54を押し上げて、一次成形品11aをダイス50から取り出す。
【0060】
金属棒材Aは、例えば、肌焼鋼を用いることができるが、これに限定されるものではなく、この発明の効果を損なわない材料であれば、特に指定はない。
【0061】
なお、上記図6〜図11に示す金型では、パンチ52の下面に鍔部12の成形用キャビティ53を設けたが、ダイス50側に鍔部12を成形する成形用キャビティを形成し、加圧面が平らなパンチでダイスにセットした金属棒材を加圧成形するようにしてもよい。
【0062】
図4は、前記一次成形品11aの軸方向に沿った断面の組織表面に現れたファイバーフロー30を示した図面である。前記軸芯の周りにおいては、全体としてほぼ平行、かつ同程度の密度で現れる。これは、軸芯の周りの肉部分には鍛造による塑性変形の影響が少ないことを示している。これに対して、表面に近い部分では、ファイバーフロー30の流れに変化があり、かつ高密度となっている。表面に近い部分には、鍛造による塑性変形が強く影響していることを示している。
【0063】
表面に近い部分のファイバーフロー30を詳細に見ると、鍔部12においては、中心部分の六角穴24の回りから高密度のファイバーフロー30が鍔部12の外表面に沿って外径方向に流れ、鍔部12の先端から途切れることなく逆U字形に湾曲して折り返している。また、鍔部12の厚さ方向の中心部分の流れは相対的に低密度であるが、途切れることなく狭い間隔の逆U字形に湾曲して折り返している。
【0064】
鍔部12の外表面に近い部分の高密度のファイバーフロー30は、ヌスミ27の部分においてその凹入形状に沿って一層高密度に変形した状態で湾曲し、途切れることなく軌道部16に向かって拡がりながら流れている。
【0065】
鍔部12のファイバーフロー30が途切れることなく逆U形に湾曲して折り返しているのは、金属棒材の先端部分が軸方向に加圧されることによって、パンチ52の成形用キャビティ53に金属の肉が径方向外向きに流れ込んで成形されることによるものと推測される。
【0066】
また、ヌスミ27の部分においてファイバーフロー30が一層高密度となっているのは、ダイス50の突状型57が当たることにより、この成形部分がより圧縮された為である。
【0067】
段差部14においてもコーナー部28のアールに沿って湾曲し、やや高密度化して取付軸部19に向かって流れる。また、テーパ状の段差部22においては、これに沿って緩やかに傾斜して未加工部21aに向かって流れている。
【0068】
未加工部21aの先端部においては、その先端方向に延び出した金属の肉の流れが、底部のセンター穴25を成形する円錐形の突部59によって成形され、外周部のファイバーフロー30と中心部のファイバーフロー30とがほぼU字形に連続するものと考えられる。
【0069】
[ネジ転造工程]
前記のようにして成形された一次成形品11aは、ダイス50のテーパ58によって取付軸部18の先端側が、テーパ状の段差部22を介して小径に形成されている。この小径の部分を転造によって、図12に示すように、ネジ部21を形成する。
【0070】
[研削工程]
次に、図12に示すように、ネジ部21を形成した一次成形品11aを、防浸炭処理、高周波焼入れ等の熱処理を適宜施した後、図13、図14に示すような、アンギュラ円筒研削機を使用して、側板圧入部17の段差部15を形成して、図2に示すような、カムフォロアスタッド11を完成させる。
【0071】
この研削工程において研削を行う箇所は、図13に示すように、鍔部12の外周面12’、鍔部12の軌道部16側の段差部13、軌道部16の内側軌道面20、段差部14、側板圧入部17、段差部15、側板圧入部17と段差部15間のコーナーのアール(アールのサイズ:R0.1〜0.3mm)、取付軸部18の挿通軸部19であり、円筒砥石60の周面はこの研削箇所に対応する形状になっている。
【0072】
このアンギュラ型の円筒砥石60は、図14に示すように、周囲の研削面が砥石軸60aに対して所定の角度傾斜しており、図13、図14に白抜き矢印で示すように、一次成形品11aに対して斜めに押し当てることにより、軸、径、両方向の研削を一工程で行うことができる。
【0073】
図14において、符号61は、円筒砥石60の旋回ユニット、62は旋回軸を示している。また、図13、図14において、符号63は、一次成形品11aの支持軸を示している。
【0074】
前記の研削工程において形成される側板圧入部17の幅は、鍔部12の幅より若干小さい程度であり、また、挿通軸部19は、取付対象となる機器のハウジングの厚さと等しく形成される。側板圧入部17の段差部15は、ここに圧入される側板33(図1参照)の圧入代に相当する微小なものである。前記の段差部22にテーパを付与しているのは、応力緩和を図ると共に、取付軸部18を機械の取付穴に挿入する際に、その取付穴に引っ掛かる不具合を防止し、円滑に挿入できるようにするためである。
【0075】
前記鍔部12の端面中央部には、六角穴24が設けられ、取付軸部18の先端面中央部に浅いセンター穴25が設けられている。前記の六角穴24は、ネジ部21にナットを締め付ける際の共回りを防ぐために六角レンチを差し込む穴である。六角穴24の穴底にセンター穴26が形成され、研削加工時に他方のセンター穴25とで、図13、図14に示すように、支持軸63によってアンギュラ円筒研削機に回転自在に支持される。六角穴24に代えてマイナスドライバを差し込む溝が設けられる場合がある。その場合も溝に前記のセンター穴26が設けられる。
【符号の説明】
【0076】
11 カムフォロアスタッド
11a 一次成形品
12 鍔部
12’ 外周面
13 段差部
14 段差部
15 段差部
16 軌道部
17 側板圧入部
18 取付軸部
19 挿通軸部
20 内側軌道面
21 ネジ部
21a 未加工部
22 段差部
23 チャンファ
24 六角穴
25 センター穴
26 センター穴
27 ヌスミ
28 コーナー部
30 ファイバーフロー
31 外輪
32 転動体
32a ころ
33 側板
34 外側軌道面
35 凹入段部
36 シール部材
37 給油穴
38 給油ポート
39 軸方向給油穴
40 径方向給油穴
41 保持器
50 ダイス
51 成形用キャビティ
52 パンチ
53 成形用キャビティ
54 ノックアウトピン
55 六角穴形成パンチ
56 ガイド孔
57 突状型
58 テーパ
59 突部
60 円筒砥石
60a 砥石軸
61 旋回ユニット
62 旋回軸
63 支持軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に外側軌道面を有する外輪と、
前記外側軌道面に対向する内側軌道面を有し、前記内側軌道面の一方の側に隣接する鍔部と前記内側軌道面の他方の側に順に隣接する側板圧入部及び取付軸部が形成され、前記鍔部から外周に前記内側軌道面が形成された軌道部にかけて表面に沿ってファイバーフローが連続して形成されているカムフォロアスタッドと、
前記外側軌道面と前記内側軌道面の間に配列された転動体と、
前記側板圧入部に圧入され、前記鍔部と協働で前記外輪と前記転動体の軸方向の移動を制限する側板と、
を備えるカムフォロア。
【請求項2】
前記鍔部の付け根部分に、鍔部に凹入するヌスミが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のカムフォロア。
【請求項3】
前記内側軌道面と側板圧入部との間に形成される段差部のコーナーに、アールが付与されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のカムフォロア。
【請求項4】
前記鍔部の外端面に穴底にセンター穴を有する六角穴及び前記取付軸部の外端面にセンター穴がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項5】
前記取付軸部の先端面から前記軌道部に至る軸方向給油穴と、その軸方向給油穴に連続し、かつ前記軌道部の軌道面に至る径方向給油穴とが形成され、前記軸方向給油穴がカムフォロアの非負荷域へ偏心した位置に形成されていることを特徴とする請求1から4のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項6】
前記取付軸部が、前記側板圧入側の挿通軸部と、その挿通軸部に段差部を介して軸方向に隣接したネジ部とからなり、前記段差部に所要のテーパが付与されたことを特徴とする請求1から5のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項7】
前記外輪の両端にシール部材が設置され、前記シール部材のうちの一方が前記鍔部の外周面に摺接し、他方が前記側板の外周面に摺接していることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のカムフォロアの製造方法であって、
前記カムフォロアスタッドが、軸方向に沿ってファイバーフローが形成された金属棒材を前記軌道部、側板圧入部、取付軸部の基になる形状に形成する筒状のキャビティを有するダイスにセットして前記金属棒材の長手方向にパンチで加圧し、前記鍔部の基になる形状を有する一次成形品を成形する冷間鍛造工程と、前記一次成形品の外周面を研削して前記鍔部、前記軌道部、側板圧入部、前記側板取付部の一部を成形する研削加工工程とによって製造されることを特徴とするカムフォロアの製造方法。
【請求項9】
前記鍔部の前記軌道部側の付け根を形成する前記ダイスの部分に、ヌスミを形成する突状型が設けられていることを特徴とする請求項8に記載のカムフォロアの製造方法。
【請求項10】
前記ダイスの前記挿通軸部と前記ネジ部となる箇所の間の前記段差部に所要のテーパの型が形成されていることを特徴とする請求項8または9に記載のカムフォロアの製造方法。
【請求項11】
前記パンチは、前記鍔部を形成する成形キャビティを備えており、加圧によって変形した前記金属棒材の肉を前記成形キャビティに流し込んで前記鍔部の形状に形成することを特徴とする請求項9乃至10のいずれかに記載のカムフォロアの製造方法。
【請求項12】
前記冷間鍛造の際に、前記鍔部外端面に、穴底にセンター穴を有する六角穴、及び前記取付軸部外端面にセンター穴を形成することを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載のカムフォロアの製造方法。
【請求項13】
前記冷間鍛造工程の後、転造によって前記取付軸部にネジ部を成形する転造工程を備えた請求項9乃至12のいずれかに記載のカムフォロアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−27154(P2011−27154A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172169(P2009−172169)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】