説明

カルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液、粉体およびそれらの製造方法

【課題】 得られる硬化物の耐熱性、線膨張係数などの各種物性を低下させることなく、低沸点有機溶剤で希釈する際にも樹脂析出を抑制することが可能な製造中間物およびその製造方法、さらには、低温・短時間の乾燥工程でも「わき」、「ふくれ」、「はがれ」等の塗膜欠陥が少なく、かつ耐熱性、線膨張係数などの各種物性に優れるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂含有硬化性樹脂組成物および硬化物を提供すること。
【解決手段】樹脂を粉末化することによって低沸点有機溶剤への希釈安定性が格段に向上し、その結果、低沸点有機溶剤に溶解したカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷の低い低沸点有機溶媒に溶解したカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法に関する。また、本発明は前記製造方法により得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液に関する。さらに本発明は該樹脂溶液を製造するために有用な製造中間物であるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉末およびその製造方法に関する。さらに本発明は、前記樹脂溶液を含む硬化性樹脂組成物、および各種耐熱性コーティング材料や電気絶縁材料、例えばプリント配線基板の層間絶縁材料、ビルドアップ材料、半導体の絶縁材料等、耐熱性接着剤等の分野に有用な硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、エンジニアリングプラスチックとしてその優れた耐熱性、機械特性、摺動特性などのために、近年、電気・電子機器用途、自動車部品用途、航空・宇宙産業用途、事務用機器用途などにおいて急速に需要が高まってきている。特に電気・電子機器分野においては、従来のエポキシ樹脂硬化系以上の耐熱性、信頼性、機械物性等を有する面から基材フィルム等に幅広く使用されている。このため近年、こうしたポリイミド樹脂を層間絶縁材料や接着剤、あるいは表面保護コーティング剤、各種レジストなどに使用する検討が進んでいる。電気・電子用途への展開においては、塗装などの工程が必要な為、前駆体であるポリアミック酸の溶液を塗布して溶剤蒸発と脱水によるイミド化によるポリイミド層の形成を行う検討がなされている。しかしながらポリアミック酸は安定性が悪く、かつイミド化には高温が必要な為、使用できる基材、用途等の制限があったり、安定した性能を再現することが難しかったり問題が多い。
【0003】
一方、こうしたポリアミック酸からのアプリケーションではなく、溶剤可溶性ポリイミド樹脂による検討が行われている。一般に、溶剤可溶性ポリイミドは、既にイミド化され有機溶剤に可溶化した構造を有している為、上記の問題点を解決することができる。
【0004】
この様な溶剤可溶性ポリイミド樹脂として、エーテル系有機溶剤中で分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させて得られるカルボキシ基含有アミドイミド樹脂が知られている(特許文献1)。エーテル系溶剤に溶解した該カルボキシ基含有アミドイミド樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化塗膜は、耐熱性が高く、機械的強度(高破断強度、高破断伸度)に優れ、かつPCT耐性、はんだ耐熱性に優れるという効果を有する。
しかし、該カルボキシ基含有アミドイミド樹脂は、イミド化反応を進める温度(一般的には140〜160℃)の面で、少なくともイミド化反応の反応温度よりも高沸点の極性溶剤(「高沸点有機溶剤」ということがある)を使用しなければならず、塗装−乾燥−硬化などの工程で、残留溶剤等の問題がある。例えば、乾燥工程が不十分で有機溶剤が残留していると、硬化塗膜に「わき」、「ふくれ」、「はがれ」等の塗膜欠陥が引き起こることから、乾燥条件が高温・長時間となり、工業上さまざまな制約を受けていた。
【0005】
そこで、本発明者らはイミド化反応の反応温度より低沸点の有機溶剤(「低沸点有機溶剤」ということがある)に溶解した樹脂溶液の検討を行った。しかしながら、上記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂は希釈安定性が低く、その結果、単純に高沸点有機溶剤から低沸点有機溶剤へ溶剤置換しても希釈時に溶解していた樹脂が析出する等の問題が生じ、析出物を除去する工程が必要であったり、樹脂溶液中の樹脂濃度をコントロールすることができず、所定の物性値を得られない等の問題があった。また、カルボキシ基含有ポリイミド樹脂に対して、各種変性を行い、溶解性を向上させる方法も、得られた硬化物の耐熱性(Tg、はんだ耐熱性)、線膨張係数などの各種物性が低下し、問題を解決するには至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−316469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、低沸点有機溶剤に溶解したカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液、その製造方法を提供することにある。また、本発明は低沸点有機溶剤への希釈安定性に優れたカルボキシ基含有ポリイミド樹脂およびその製造方法を提供することを課題とする。さらに本発明は、低温・短時間の乾燥工程でも「わき」、「ふくれ」、「はがれ」等の塗膜欠陥が少なく、かつ耐熱性(Tg、はんだ耐熱性)、線膨張係数などの各種物性に優れるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含有する硬化性樹脂組成物および硬化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、樹脂の物理的形状、具体的には、樹脂を粉末化することによって低沸点有機溶剤への希釈安定性が格段に向上し、その結果、低沸点有機溶剤に溶解したカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液を提供できることを見いだし上記課題を解決するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂と有機溶剤(B)とを含むカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法であって、
(1)有機溶剤(A)中または無溶剤中で、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とを反応させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を得る合成工程と、
(2)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)を噴霧させながら該有機溶剤(A)を揮発させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を得る造粒工程と、
(3)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を、有機溶剤(B)に溶解させる溶剤溶解工程とを有することを特徴とするカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法を提供する。
また、本発明は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂と有機溶剤とを含むカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液であって、全有機溶剤中の沸点130℃以下の有機溶剤の割合が99重量%以上であることを特徴とするカルボキシ含有ポリイミド樹脂溶液を提供する。
また、本発明は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とを反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を提供する。
また、本発明は、前記のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体の製造方法であって、
(1)有機溶剤(A)中で、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を得る合成工程、
(2)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)を噴霧させながら溶剤を揮発させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を得る造粒工程と、を有することを特徴とするカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を、有機溶剤(B)に溶解させる溶剤溶解工程を有することを特徴とするカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記製造方法により得られたカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液と、硬化性樹脂成分とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、前記硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、低沸点有機溶剤に溶解したカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液、その製造方法を提供することができる。また、本発明は得られる硬化物の耐熱性(Tg、はんだ耐熱性)、線膨張係数などの各種物性を低下させることなく、低沸点有機溶剤で希釈する際にも樹脂析出を抑制することが可能な製造中間物およびその製造方法を提供することができる。さらに本発明は、低温・短時間の乾燥工程でも「わき」、「ふくれ」、「はがれ」等の塗膜欠陥が少なく、かつ耐熱性(Tg、はんだ耐熱性)、線膨張係数などの各種物性に優れるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂含有硬化性樹脂組成物および硬化物を提供することができる。
前記のとおり硬化させる際、低温・短時間の乾燥工程で済むため、環境負荷を低減させることができる。また本発明の樹脂溶液の製造方法は、連続的に製造することができるので工業的に有利である。また、イミド化反応に用いた有機溶剤を回収して再度利用することも可能なため環境負荷をより低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に用いるスプレードライを用いたポリイミド樹脂粉末の製造装置の概略図である。
【図2】本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉末の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
・カルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法
本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を有機溶剤に溶解させてなるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法であって、
(1)有機溶剤(A)中で、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とを反応させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を得る合成工程と、
(2)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)を噴霧させながら該有機溶剤(A)を揮発させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を得る造粒工程と、
(3)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を、有機溶剤(B)に溶解させる溶剤溶解工程とを有することを特徴とする。以下、各工程を詳述する。
【0013】
(1)合成工程
第1の工程は、有機溶剤(A)あるいは無溶剤中で、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とをイミド化反応させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を得る合成工程である。
【0014】
イミド化反応は、溶剤中あるいは無溶剤中で、イソシアネート化合物(a)の一種類以上と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)のl種以上とを混合し、撹拌を行いながら昇温して行うことが好ましい。反応温度は、好ましくは50℃〜250℃、より好ましくは70℃〜180℃、工業的にはイミド化率(反応率)が高くなる140〜160℃の範囲で行うことが特に好ましい。反応温度が低い場合は反応速度が遅くなりやすく、また反応温度が高い場合は副反応や分解等が起こりやすい。反応は、脱炭酸を伴いながら酸無水物基とイソシアネート基がイミド基を形成する。反応の進行は、赤外スベクトルや、酸価、イソシアネート基の定量等の分析手段により追跡することができる。赤外スペクトルでは、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が反応とともに減少し、さらに1860cm−1と850cm−1に特性吸収を有する酸無水物基が減少する。一方、725cm−1と1780cm−1と1720cm−1にイミド基の吸収が増加する。反応は、目的とする酸価、粘度、分子量等を確認しながら、温度を下げて終了させても良い。しかしながら、経時の安定性等の面からイソシアネート基が消失するまで反応を続行させることがより好ましい。また、反応中や反応後は、合成される樹脂の物性を損なわない範囲で、触媒、酸化防止剤、界面活性剤、その他溶剤等を添加してもよい。なお、本発明において酸無水物基とは、カルボン酸2分子が分子内脱水縮合して得られた−CO−O−CO−基を指す。
【0015】
本発明に用いるカルボキシ基含有イミド樹脂において、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物、脂環族ソシアネート化合物(a)は、汎用の溶剤に対する溶解性を向上させる必須の材料であり、全イソシアネート原料の70重量%以上あることが好ましい。また、反応時、経時的に結晶化することを考慮すると、全イソシアネート原料の80重量%以上あることが特に好ましい。
【0016】
かかる脂肪族イソシアネート化合物、脂環族イソシアネート化合物としては、例えば2官能イソシアネートモノマー(a1)として、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート(HXDI)、ノルボヌレンジイソシアネート(NBDI)、リジンジイソシアネート等の脂肪族、脂環族イソシアネート類が挙げられる。また、かかるジイソシアネート類のヌレート体等のイソシアヌレート化物(ポリイソシアネート、(a2))、例えばIPDI3N(イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート型トリイソシアネート)、HDI3N(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型トリイソシアネート)、HXDI3N(水添キシレンジイソシアネートのイソシアヌレート型トリイソシアネート)、NBDI3N(ノルボルナンジイソシアネートのイソシアヌレート型トリイソシアネート)等が挙げられる。さらに、上記イソシアネート化合物のビュレット体や上記イソシアネート化合物と各種ポリオールとのウレタン化反応によって得られるアダクト体も使用できる。特に耐熱性やTg等熱的物性や溶剤溶解性の面で、2官能イソシアネートモノマー(a1)とイソシアヌレート型ポリイソシアネート(a2)との併用、あるいはイソシアヌレート型ポリイソシアネート(a2)の単独使用が好ましい。
【0017】
また、系の非結晶性を損なわない範囲で芳香族のイソシアネート類(a3)も併用可能であるが、その量としては、全イソシアネート化合物の30%以下、特に20%以下が好ましい。すなわち、「W−NCO」(全イソシアネート化合物(重量))=W(a1)+W(a2)+W(a3)、ただし、W(a1)、W(a2)、W(a3)は、(a1)、(a2)、(a3)それぞれの重量、芳香族のイソシアネート類の使用範囲(重量割合)は、好ましくはW(a3)/{W(al)+W(a2)+W(a3)}≦0.3であり、特に好ましくはW(a3)/{W(a1)+W(a2)+W(a3)}≦0.2である。かかる芳香族のイソシアネート類の代表例としては、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等挙げられる。同様にこうしたイソシアネートモノマーの一種類以上のビュレット体、またはヌレート体等のポリイソシアネート原料も使用可能であり、さらに上記イソシアネート化合物と各種ポリオールとのウレタン化反応によって得られるアダクト体も使用できる。
【0018】
本発明では、上述のイソシアネート化合物と特定の酸無水物から直接イミド結合を形成させることにより、安定性等に問題のあるポリアミック酸中間体を経ずに、再現性良く、溶解性の良好な樹脂系を合成できる。
【0019】
本発明に使用されるトリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)としては、芳香族系の酸無水物化合物が好ましい。具体的には、無水トリメリット酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸無水物等のトリカルボン酸無水物;ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンセン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,3’4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,2’3,3’−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェテントレン−1,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1一ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等の分子内に芳香族有機基を有するテトラカルボン酸の無水物が挙げられ、これらを1種又は2種以上を用いることが可能である。また、トリカルボン酸の無水物とテトラカルボン酸の無水物を混合して使用してもよい。また場合により、2官能のジカルボン酸化合物、例えばアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸及びこれらの酸無水物等を併用することも可能である。
トリカルボン酸無水物と、イソシアネート化合物とのイミド化反応ではアミド結合とイミド結合とを有するポリイミド樹脂を生成する。したがって、本発明のポリイミド樹脂には、アミド結合とイミド結合とを有するポリアミドイミド樹脂も含まれるものとする。
【0020】
前記有機溶剤(A)としては、イミド化反応の反応温度よりも高沸点の極性溶剤であれば公知慣用のものを用いることができ、イミド化反応の反応温度の好適温度範囲との兼ね合いで、沸点70℃以上の有機溶剤を用いることが好ましく、さらに、沸点140℃以上の有機溶剤を用いることがより好ましい。この様な有機溶剤としては窒素原子及び硫黄原子のいずれかを含有する極性溶剤、窒素原子及び硫黄原子のいずれも含有しない極性溶剤のどちらも用いることができる。ただし、窒素原子及び硫黄原子のいずれかを含有する極性溶剤が存在すると、作業環境上の問題が生じやすく、またかかるイソシアネート化合物とトリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)との反応に於いて、分子の成長が妨げられやすくなる傾向にあることから、窒素原子及び硫黄原子のいずれも含有しない極性溶剤が好ましい。
【0021】
本発明において窒素原子及び硫黄原子のいずれかを含有する極性溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)、ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、ジメチルホルムアミド(153℃)等のアミド類、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、スルホラン(沸点285℃)等のイオウ類、ニトロメタン(101℃)、ニトロエタン等のニトロ類、アセトニトリル(沸点82℃)、プロピオニトリル(沸点97℃)等のニトリル類、テトラメチルウレア(沸点177℃)等の溶剤が挙げられる。
このうち、イミド化反応を140℃以上で行える点で、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)、ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、ジメチルホルムアミド(153℃)等のアミド類、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、スルホラン(沸点285℃)等のイオウ類、テトラメチルウレア(沸点177℃)等の溶剤を用いることが好ましい。
【0022】
本発明において、窒素原子及び硫黄原子のいずれも含有しない極性溶剤は、プロトン性溶剤と非プロトン性溶剤が挙げられ、このうち非プロトン性溶剤であることがより好ましい。例えばクレゾール系溶剤は、プロトンを有するフェノール性溶剤であるが、環境面でやや好ましくなく、イソシアネート化合物と反応して分子成長を阻害しやすい。また、クレゾール溶剤は、イソシアネート基との反応を起こしブロック化剤となりやすい。したがって、熱硬化時に他の硬化成分(例えばエポキシ樹脂など)と反応することで良好な物性が得られ難い。さらにブロック化剤がはずれる場合、使用機器や他の材料の汚染を起こしやすい。またアルコール系溶剤については、イソシアネートあるいは酸無水物と反応するため好ましくない。非プロトン性溶剤としては、例えば水酸基を有さないエーテル系、エステル系、ケトン系等の溶剤が挙げられ、このうち水酸基を有さないエーテル系溶剤が特に好ましい。
【0023】
本発明において、窒素原子及び硫黄原子のいずれも含有しない極性溶剤は、エーテル系溶剤であることがより好ましい。エーテル系溶剤は、弱い極性を有し、上述の分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)との反応において優れた反応場を提供する。かかるエーテル系溶剤としては、公知慣用のものが使用可能であるが、例えばテトラヒドロフラン(沸点66℃)等の環状エーテル類、エチレングリコールジメチルエーテル(沸点82℃)、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル(沸点121.4℃)等のエチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点256℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217.4℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点246.8℃)等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃)トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点215℃)等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146.0℃)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;あるいは低分子のエチレン−プロピレン共重合体の如き共重合ポリエーテルグリコールのジアルキルエーテルや、共重合ポリエーテルグリコールのモノアセテートモノアルキルエーテル類;あるいはこうしたポリエーテルグリコールのアルキルエステル類;ポリエーテルグリコールのモノアルキルエステルモノアルキルエーテル類などである。
このうち、イミド化反応を140℃以上で行える点で、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点256℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217.4℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点246.8℃)等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃)等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146.0℃)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類あるいは低分子のエチレン−プロピレン共重合体の如き共重合ポリエーテルグリコールのジアルキルエーテルや、共重合ポリエーテルグリコールのモノアセテートモノアルキルエーテル類;あるいはこうしたポリエーテルグリコールのアルキルエステル類;ポリエーテルグリコールのモノアルキルエステルモノアルキルエーテル類などのうち、沸点が140℃以上のものが好ましいものとして挙げられる。
【0024】
ケトン系有機溶剤としては、公知慣用のものが使用可能であるが、例えばシクロヘキサノン(沸点155.7℃)、メチルエチルケトン(沸点79.5℃)等のケトン類が挙げられる。このうち、イミド化反応を140℃以上で行える点で、シクロヘキサノン(沸点155.7℃)、が好ましいものとして挙げられる。
【0025】
エステル系有機溶剤としては、公知慣用のものが使用可能であるが、例えば酢酸エチル(沸点78℃)、酢酸プロピル(沸点102℃)、酢酸ブチル(沸点126℃)、酢酸イソブチル(沸点118℃)、酢酸ペンチル(沸点148℃)、酢酸イソペンチル(沸点143℃)、プロピオン酸メチル(沸点78℃)、プロピオン酸エチル(沸点99℃)、プロピオン酸ブチル(沸点145℃)等のエステル類が挙げられる。このうち、イミド化反応を140℃以上で行える点で、酢酸ペンチル(沸点148℃)、酢酸イソペンチル(沸点143℃)、プロピオン酸ブチル(沸点145℃)が好ましいものとして挙げられる。
【0026】
分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とを反応させる場合は、脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)のイソシアネート基のモル数(N)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)のカルボキシ基のモル数(M1)及び酸無水物基モル数(M2)が以下の式を満足させることが好ましい。
3>((M1)+(M2))/(N))>1.1。特に好ましくは、2>((M1)+(M2))/(N))>1.2である。このとき、カルボキシ基のモル数(M1)と酸無水物基モル数(M2)の和が、イソシアネート基のモル数(N)より過剰となるように配合すると、反応系中の極性が高くなり反応が潤滑に進行する。上記比率をはずれた場合、例えば1.1以下の場合は、イソシアネート基が残存し安定性等がやや悪くなる傾向がある。また3以上の場合は、酸無水物含有化合物が残存し再結晶等の分離の状態になりやすくなる。
【0027】
テトラカルボン酸無水物(b2)とトリカルボン酸無水物(b1)の配合割合((b2)/(b1))は、0〜2の割合であることが好ましい。テトラカルボン酸無水物(b2)の配合割合がこの範囲を超えて大きい場合は、イミド結合の濃度が上昇し溶剤溶解性や非結晶性が必ずしも十分でなくなる場合がある。
【0028】
分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)が、イソシアヌレート型ポリイソシアネート(a2)を含んでなる組成で構成された場合、さらに優れた硬化物性や溶解性の性能を示し好ましい。具体的には、ジイソシアネートモノマー(a1)とイソシアヌレート型ポリイソシアネート(a2)の重量割合がW(a1)/W(a2)が0〜0.5、特に0〜0.3であるとき優れた性能を発揮し好ましい。W(a1)/W(a2)=0の場合は、イソシアネート成分がすべてイソシアヌレート型ポリイソシアネート(a2)であることを意味し、上記テトラカルボン酸無水物(b2)とトリカルボン酸無水物(b1)のモル比((b2)/(b1))が0〜1の範囲で合成が可能である。
【0029】
本発明の方法により得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂としては、例えば以下のものが挙げられる。
(例1)脂肪族、脂環族ジイソシアネート類と芳香族トリカルボン酸無水物(b1)の反応により得られる(式1)で表されるイミド樹脂。
【0030】
【化1】

【0031】
(Raは、2価の脂肪族、脂環族ジイソシアネート類の残基を示す。nは、繰り返し単位で0〜30である。また、Rbは、以下の構造式(式2)または(式3)で示される構造単位である。
【0032】
【化2】

【0033】
【化3】

【0034】
(Rは、炭素数6〜20の置換基を有しても良い芳香族トリカルボン酸残基である。)Rcは、以下の構造式(式4)で示される構造単位である。
【0035】
【化4】

【0036】
(Rは、前記と同一である。))
【0037】
(例2)例1において芳香族トリカルボン酸無水物(b1)とテトラカルボン酸無水物(b2)を併用した場合、(式5)で表されるイミド樹脂。
【0038】
【化5】

【0039】
(Rb’は、上記(式2)、(式3)、又は以下の(式6)で表される構造単位であり、
【0040】
【化6】

【0041】
(Rは、炭素数6〜20の置換基を有していてもよい芳香族テトラカルボン酸無水物残基を示す。)Rc’は、上記(式4)、又は以下の(式7)、(式8)で表される構造単位のものであり、
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
(Rは前記と同一である。)Ra及びnは前記と同一である。)
【0045】
(例3)脂肪族、脂環族のイソシアヌレート型トリイソシアネートと芳香族トリカルボン酸無水物(b1)の反応により得られる(式9)で表されるイミド樹脂。
【0046】
【化9】

【0047】
(Rdは、以下の(式10)で表される3価の有機基であり、
【0048】
【化10】

【0049】
(Raは前記と同一である。)Rb、Rc、nは前記と同一である。)
【0050】
(例4)脂肪族、脂環族のイソシアヌレート型トリイソシアネートと、芳香族トリカルボン酸無水物(b1)及びテトラカルボン酸無水物(b2)との反応により得られる(式11)で表されるイミド樹脂。
【0051】
【化11】

【0052】
(Rb’、Rc’、Rdは前記と同一である。)
【0053】
また、ジイソシアネート化合物とイソシアヌレート型トリイソシアネートを併用した場合は、上記(式1)と(式9)の複合の構造を有することになり、その末端構造としては、(式1)でのRc−Ra−と(式9)での(Rc)2−Rd−の構造が分子末端に存在する。また、主鎖骨格の構造も(式1)での−Ra−Rb−の単位と〈式9)での−Rd(Rc)−Rb−の構造が存在する。さらに非結晶性や溶解性を損なわない程度に芳香族イソシアネート化合物を併用することが可能であるが、その場合は、上記式中のRaが一部2価の芳香族基となる。
【0054】
本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の酸価は、60〜200KOHmg/gであることが好ましく、80〜180KOHmg/gであることが特に好ましい。60〜200KOHmg/gであれば、硬化物性として優れた性能を発揮する。
【0055】
本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の分子量は、溶剤への溶解性が良好であるという事と機械強度に優れる硬化物が得られるという点で、数平均分子量1000〜20000が好ましく、1000〜8000がより好ましい。分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)や末端の官能基量の定量分析で測定することができる。
本発明で、数平均分子量の測定は、GPCを用いて、以下の条件により求めた。
測定装置:東ソー株式会社製 HLC−8120GPC、UV8020
カラム :東ソー株式会社製 TFKguardcolumnHXL-L、TFKgel(G1000HXL、G2000HXL、G3000HXL、G4000HXL)
検出器 :RI(示差屈折計)及びUV(254nm)
測定条件:カラム温度 40℃
溶媒 THF
流束 1.0ml/min
標準 :ポリスチレン標準試料にて検量線作成
試料 :樹脂固形分換算で0.1重量%のTHF溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(注入量:200μl)
【0056】
(2)造粒工程
続く第2の工程は、前記工程で得られた、カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)の樹脂溶液を噴霧させながら該有機溶剤(A)を揮発させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を得る造粒工程である。前記合成工程において、無溶剤下で合成された場合は、有機溶剤(A)に一旦溶解させカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)の樹脂溶液を得て、前記造粒工程に供する。
【0057】
造粒工程において、カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)の樹脂溶液を噴霧させながら該有機溶剤(A)を揮発させる方法としては、公知慣用の種々の方法が利用可能である。例えば、スプレードライヤー、薄膜蒸発機、ニーダー等が挙げられるが、スプレードライヤー等を用いて噴霧乾燥する方法が好ましい。
【0058】
この噴霧乾燥に用いるスプレードライヤーとしては、ディスク式アトマイザーや二流体ノズルを噴霧装置として持っている形式のものが好ましく使用できる。スプレードライヤーの噴霧条件としては、ディスク式アトマイザーの場合、回転数は25000〜30000rpm、流量は30〜70ml/minが好ましい。二流体ノズルの場合、樹脂溶液の粘度は10〜3000mPa・s、流量は0.1〜5Kg/hが好ましい。また、樹脂溶液の温度を30〜130℃の範囲に加熱しておくことが好ましい。
スプレードライヤーの乾燥条件としては、50〜350℃の温度範囲が挙げられる。このようなスプレードライヤー装置としては、スプレードライヤーFGA、スプレードライヤーCL(大川原化工機株式会社製)等が挙げられる。
【0059】
上記造粒条件により得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂中に含まれる有機溶剤(A)の含有率は、0〜20重量%、0〜10重量%とすることが好ましい。もし該含有率が高い場合には、さらに別途乾燥工程を設けて、粒子中の有機溶剤(A)を脱溶媒して、有機溶剤を完全に除去することが好ましい。
【0060】
上記造粒工程により得られたカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉末を、光学顕微鏡(株式会社キーエンス製「DIGITAL MICROSCOPE VHX」)により定方向径を測定したところ、粒径が0.01〜2000μm、好ましくは1〜100μmの繊維状、球状、楕円状および不定形のいずれかの粒子を90%以上含むことが確認された。
【0061】
(3)再溶解工程
続く第3の工程は、前工程で得られたカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉末を、有機溶剤(B)に溶解させる溶解工程である。
【0062】
上記有機溶剤(B)としては、ポリマー組成によってイミド化反応の反応温度が異なってくるが、イミド化反応の反応温度よりも沸点の低い有機溶剤を挙げることができる。たとえばイミド化反応の反応温度より低沸点の有機溶剤(B)としてはメチルエチルケトン(沸点79.5℃)、メチルイソブチルケトン(沸点116℃)、アセトン(沸点56.5℃)等のケトン類、酢酸エチル(沸点77.1℃)、酢酸ブチル(沸点126℃)等のエステル類、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、ジオキサン(沸点101℃)等のエーテル類、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点78.4℃)、イソプロピルアルコール(沸点82.4℃)、ブタノール(沸点117℃)等のアルコール類、ヘキサン(沸点69℃)等の脂肪族系有機溶剤、ベンゼン(沸点80.1℃)、トルエン(沸点110.6℃)等の芳香族系有機溶剤、これらの一種又は二種以上の混合溶剤が好ましいものとして挙げられ、イミド化反応の反応温度よりも低い溶媒を適宜選択することができる。
これらのうちで、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフランを好ましい有機溶剤として挙げることができる。
【0063】
上記有機溶剤(B)としては、イミド化反応の合成溶媒(有機溶剤(A))として使用するのに適さない有機溶剤を使用する事が可能である。例えば該有機溶剤がイミド化反応温度付近で熱分解を生じ、副生成物等を生成するため有機溶剤(A)として使用するのに適さない場合がある有機溶剤として、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン等が挙げられる。
【0064】
なお、本発明において「希釈安定性」とは、樹脂への有機溶剤の入りやすさを意味し、樹脂を有機溶剤で希釈する際の分散系の安定性を指す。本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉末は、希釈安定性に優れ、驚くべきことに、室温(18〜35℃)にて前記低沸点有機溶剤で希釈しても、樹脂を析出させることなく、かつ溶液の透明度の変化(濁り)もなく、流動性にも優れる。希釈する際の樹脂溶液の温度は、前記の通り室温で可能であるが、概ね室温から希釈に使用する有機溶剤の沸点以下の範囲で可能であり、高温であるほど再溶解工程を短時間に終了させることができる。
【0065】
・カルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液
本発明のカルボキシ含有ポリイミド樹脂溶液は、前記第1(合成工程)、第2(造粒工程)、第3(再溶解工程)を有する製造方法により製造される、カルボキシ含有ポリイミド樹脂と沸点130℃以下の有機溶剤(B)とを含むことを特徴とする。全有機溶剤に占める沸点130℃以下の有機溶剤(B)の割合は、99重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上、もっとも好ましいものでは100重量%(有機溶剤(B)以外の有機溶剤の検出限界以下)である。
また、カルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液に対するカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の含有率は0.1〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%である。
【0066】
なお、本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉末は、前記有機溶剤(A)に対しても優れた希釈安定性を有するため、一旦製造したカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を、一旦、有機溶剤(A)に溶解させ、有機溶剤(A)とカルボキシ基含有ポリイミド樹脂とを含む樹脂溶液として製造しておき、保管等しておくことも可能である。この場合、再度、前記した造粒工程と再溶解工程を経ることによって、有機溶剤(B)とカルボキシ基含有ポリイミド樹脂とを含む、本発明のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液を製造することができる。
【0067】
・硬化性樹脂組成物
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記カルボキシ基含有アミドイミド樹脂溶液(C)と硬化性樹脂成分(D)とを含有する。硬化性樹脂成分(D)としては、公知慣用のものが挙げられ、特に限定されるものではないが、たとえば、エポキシ樹脂(D1)、メラミン樹脂(D2)、イソシアネート化合物(D3)、シリケート(D4)、アルコキシシラン化合物(D5)などが挙げられるが、このうちエポキシ樹脂(D1)が好ましい。(C)成分と(D)成分とを含んでなる硬化性樹脂組成物は、被塗装物に塗装、キャスティング等施した後に、乾燥を行い、さらに加熱により硬化させることができる。
乾燥温度は、30〜150℃、乾燥時間は、1〜120(分)の範囲である。特に30〜60℃、1〜5(分)といった低温・短時間の乾燥でも構わない。従来のように高沸点有機溶剤に溶解した樹脂溶液の場合よりも、低温・短時間の乾燥で有機溶剤を除去できるため、硬化塗膜に「わき」、「ふくれ」、「はがれ」等の塗膜欠陥を低減させることができる。
硬化温度は、80℃〜300℃、特に120℃〜250℃が好ましい。また、各種温度でのステップ硬化を行っても良い。また、50℃〜170℃程度の温度で半硬化させたシート状あるいは塗膜状の組成物を貯蔵して、必要な時に上述の硬化温度にて処理を施してもよい。(C)成分と(D)成分との硬化反応は、基本的にカルボキシ基とエポキシ基やアルコキシ基などとの縮合反応であり、かかる(C)成分と(D)成分の種類や配合割合、硬化条件等を選択することにより、優れた物性等を有する硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0068】
ここで、前記エポキシ樹脂(D1)としては、分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含んでなるものであれば公知慣用のエポキシ樹脂を挙げることができる。エポキシ化合物成分は、軟化点50℃以上であることが特に好ましい。軟化点が50℃以上であれば、本発明の硬化性樹脂組成物の物性がより優れたものとなる。
【0069】
かかるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールS型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンと各種フェノール類とを反応させて得られる各種ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物、2,2’,6,6’−テトラメチルビフェノールのエポキシ化物、4,4‘−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)のエポキシ化物、ナフトールやビナフトールあるいはナフトールやビナフトールのノボラック変性等ナフタレン骨格から誘導されたエポキシ、フルオレン骨格のフェノール樹脂をエポキシ化して得られるエポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂等が挙げられる。またネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1、6−へキサンジオールジグリシジルエーテルのごとき脂肪族エポキシ樹脂や、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシビシクロヘキシル)アジペートのごときシクロヘキセンを酸化させてえられる脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートのごときヘテロ環含有のエポキシ樹脂も使用可能である。
【0070】
また、(メタ)アクリロイル基やビニル基等重合性不飽和二重結合を有するエポキシ化合物の不飽和基を重合させて得られるエポキシ基含有重合系樹脂及びその他の重合性不飽和結合を有するモノマー類との共重合体も使用可能である。
【0071】
かかる(メタ)アクリロイル基とエポキシ基を併せ持つ化合物として、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、4−ヒドロキジブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、5−ヒドロキシ−3−メチルペンチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシル、ラクトン変成(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシル、ビニルシクロヘキセンオキシドなどが挙げられる。
【0072】
前記本発明で用いるポリイミド樹脂とエポキシ樹脂との配合量は、樹脂分の重量比として(ポリイミド樹脂)/(エポキシ樹脂)が1/100から50/1の割合で使用することができ、さらに好ましくは、1/10から20/1である。
【0073】
上述の(C)成分と(D1)成分は、各種目的とする物性に対応して自由に配合することが可能であるが、ガラス転移温度(以下、単にTgという)等の熱的物性、耐水性、機械物性等の面で(C)成分のカルボキシ基のモル数n(COOH)と(D1)成分のエポキシ基のモル数n(EPOXY)が、4>n(EPOXY)/n(COOH)>0.8の範囲で配合されることが好ましい。n(EPOXY)/n(COOH)が4以上の場合は硬化塗膜の特性としてTgが得られにくく、また0.8以下の場合は耐水性等で問題を生じる場合がある。
【0074】
熱硬化させる場合は、エポキシ−カルボン酸系の硬化触媒等の併用を行っても良い。かかるエポキシ−カルボン酸系硬化触媒としては、反応促進のための第1級から第3級までのアミンや第4級アンモニュウム塩、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物類等の窒素系化合物類、TPP(トリフェニルホスフィン)、アルキル置換されたトリアルキルフォニルホスフィン等のフォスフィン系化合物やその誘導体、これらのフォスホニュウム塩、あるいはジアルキル尿素類、カルボン酸類、フェノール類、またはメチロール基含有化合物類などの公知のエポキシ硬化促進剤等が挙げられ、これらを少量併用する事が可能である。
【0075】
前記メラミン樹脂(D2)としては、例えば、アルコキシ化メラミン樹脂が挙げられる。アルコキシ化メラミン樹脂は、メラミンやベンゾグアナミン等のトリアジン環含有のアミノ化合物とホルムアルデヒドとの反応により得られるメチロール化物の一部乃至全部をアルコール化合物との反応により得られるアルコキシ化メラミン樹脂を使用することができる。
【0076】
ここで用いるアルコール化合物としては、炭素原子数が1〜4程度の低級アルコールが使用することができ、具体的には、メトキシメチロール化メラミン樹脂、ブチル化メチロール化メラミン樹脂等使用することができる。分子構造としては、完全にアルコキシ化されても良く、メチロール基が残存していても良く、さらにはイミノ基が残存していても良い。
【0077】
本発明で用いるアルコキシ化メラミン樹脂の樹脂構造としては、メトキシメチロール化メラミン樹脂がポリイミド樹脂との相溶性と硬化時の硬化性が良好となることから好ましく、さらに好ましくは、メトキシ化率80%以上のメトキシメチロール化メラミン樹脂がより好ましい。
【0078】
また、メラミン樹脂の樹脂構造としては、自己縮合して多核体であっても良い。この時の重合度は相溶性や安定性の面で1〜5程度が好ましく、さらに1.2〜3程度がより好ましい。
【0079】
本発明で用いるアルコキシ化メラミン樹脂の数平均分子量としては、100〜10000のものが使用できる。好ましくは、300〜2000がポリイミド樹脂との相溶性と硬化時の硬化性の面で好ましく、さらに400〜1000がより好ましい。
【0080】
本発明で用いるアルコキシ化メラミン樹脂としては、メラミンやベンゾグアナミン、ホルマリン及びアルコールを同時に仕込んで反応させても、メラミンやベンゾグアナミンとホルマリンを予め反応させてメチロール化メラミン化合物を得てからアルコール化合物とのアルコキシ化を行っても良い。
【0081】
本発明で用いるアルコキシ化メラミン樹脂の市販品としては、例えば、メトキシメチロール化メラミン樹脂としては、具体的には、例えば、日本サイテックインダストリーズ製の商品サイメル300、301、303、305等が挙げられる。また、メチロール基含有のメトキシメチロール化メラミン樹脂としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ製の商品サイメル370、771等が挙げられる。イミノ基含有メトキシ化メラミン樹脂としては、例えば、三井サイテック(株)製の商品サイメル325、327、701、703、712等が挙げられる。メトキシ化ブトキシ化メラミン樹脂としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ製の商品サイメル232、235、236、238、266、267、285等が挙げられる。ブトキシ化メラミン樹脂としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ製の商品ユーバン20SE60等が挙げられる。
【0082】
本発明で用いるアルコキシ化メラミン樹脂の使用量は、ポリイミド樹脂の物性とアルコキシ化メラミン樹脂の硬化による相乗効果が得られ、特段優れた機械物性と高Tgを両立することができることからポリイミド樹脂の樹脂固形分換算で100重量部に対し、1〜30重量部配合するのが好ましく、1〜20重量部がより好ましく、1〜10重量部が更に好ましく、2〜7重量部が特に好ましい。
【0083】
前記イソシアネート化合物(D3)としては、例えば、芳香族系のイソシアネート化合物、脂肪族系のイソシアネート化合物および脂環族系のイソシアネート化合物等が使用できる。好ましくは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が好ましい。また、ブロックイソシアネート化合物も使用可能である。
【0084】
前記シリケート(D4)としては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、ブチルシリケート等が使用可能である。
【0085】
上述のアルキルアルコキシシラン(D5)としては、例えば、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン等が挙げられる。
【0086】
前記アルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0087】
前記ジアルキルジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジプロポキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルエチルジプロポキシシラン、メチルエチルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジプロポキシシラン、メチルフェニルジブトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等が挙げられる。
【0088】
また、アルキルアルコキシシランの縮合物も使用可能であり例えば、前記したアルキルトリアルコキシシランの縮合物や、ジアルキルジアルコキシシランの縮合物等が挙げられる。
【0089】
さらに本発明の樹脂にはポリエステル、フェノキシ樹脂、PPS樹脂、PPE樹脂、ポリアリレーン樹脂等のバインダー樹脂、フェノール樹脂、多塩基酸無水物、シアネート化合物等の硬化剤あるいは反応性化合物やメラミン、ジシアンジアミド、グアナミンやその誘導体、イミダゾール類、アミン類、水酸基を1個有するフェノール類、有機フォスフィン類、ホスホニュウム塩類、4級アンモニュウム塩類、光カチオン触媒等の硬化触媒や硬化促進剤、さらにフィラー、その他の添加剤として消泡材、レベリング剤、スリップ剤、ぬれ改良剤、沈降防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等添加し、ポリイミド樹脂組成物することも可能である。
【0090】
また、本発明のポリイミド樹脂には、更に必要に応じて、種々の充填材、有機顔料、無機顔料、体質顔料、防錆剤等を添加し、樹脂組成物とすることができる。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0091】
前記充填材としては、例えば、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化けい素酸粉、微粒状酸化けい素、シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルムニウム、雲母、アルミナ等が挙げられる。
【0092】
充填材としては、各種粒子径のものが使用可能であり、本樹脂やその組成物の物性を阻害しない程度に添加することが可能である。かかる適正な量としては、固形分重量で5〜80%重量程度の範囲であり、好ましくは均一に分散してから使用することが好ましい。分散方法としては、公知のロールによる分散やビーズミル、高速分散等により行うことが可能であり、粒子表面を予め分散処理剤で表面改質しても良い。
【0093】
前記有機顔料としては、アゾ顔料;フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーンの如き銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。
【0094】
前記無機顔料としては、例えば、黄鉛、ジンククロメート、モリブデート・オレンジの如きクロム酸塩;紺青の如きフェロシアン化物、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、酸化鉄;炭化クロムグリーンの如き金属酸化物、カドミウムイエロー、カドミウムレッド;硫化水銀の如き金属硫化物、セレン化物;硫酸鉛の如き硫酸塩;群青の如き珪酸塩;炭酸塩、コバルト・バイオレッド;マンガン紫の如き燐酸塩;アルミニウム粉、亜鉛末、真鍮粉、マグネシウム粉、鉄粉、銅粉、ニッケル粉の如き金属粉;カーボンブラック等が挙げられる。
【0095】
また、その他の着色、防錆、体質顔料のいずれも使用することができる。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0096】
本発明のポリイミド樹脂ならびに熱硬化性樹脂組成物等の樹脂組成物は本発明のポリイミド樹脂あるいはその樹脂組成物を調製し塗工や成形物とした後、100〜300℃で加熱することで乾燥あるいは硬化させることができる。
【0097】
前記塗膜の形成方法で用いる基材は特に制限無く用いることができる。基材としては、例えば、プラスチック、金属、木材、ガラス、無機材、およびこれら複合材料等が挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を示した本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
(実施例1)
・合成工程
撹拌装置、温度計、コンデンサーを付けたフラスコにPGMAC(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/沸点146℃)1496部、IPDI(イソホロンジイソシアネート)888部(4mol)及び無水トリメリット酸960部(5mol)を加え、140℃まで昇温した。反応は、発泡とともに進行した。この温度で4時間反応させ、ポリイミド樹脂溶液(X1)を得た。系内は薄茶色のクリア液体となり、赤外スペクトルにて特性吸収を測定した結果、イソシアネート基の特性吸収である2270cm−1が完全に消滅し、725cm−1、1780cm−1、1720cm−1にイミド基の吸収が確認された。酸価は、固形分換算で85KOHmg/gで、分子量はポリスチレン換算で数平均分子量1600であった。また、不揮発分35%の薄茶色透明の液体であった。
【0100】
・造粒工程
次にこの樹脂溶液(X1)をスプレードライ(大川原化工機株式会社製「スプレードライヤーCL−8i型」、操作条件:液温70℃、乾燥温度85℃、窒素雰囲気、樹脂溶液の粘度150mPa・s、送り量3.6kg/h)を用いて溶剤乾燥した。得られた樹脂粉体を光学顕微鏡(株式会社キーエンス製「DIGITAL MICROSCOPE VHX」)で定方向径を測定したところ、0.1〜100μの大きさが90%以上を占める繊維状、球状、楕円状、不定形な粉であった。また、該樹脂粉末の不揮発分は100%であった。この樹脂粉体(Y1)の溶融温度(T1/2)は、275℃であった。
【0101】
・再溶解工程
次に、得られたイミド樹脂粉末を25mlガラス瓶に入れ、樹脂粉体(Y1)1部に対してMEK5部を加えた後、室温(25℃)にて攪拌機(株式会社シンキー製「あわとり練太郎 AR−250」)で溶解・希釈してイミド樹脂溶液(Z1)を作製した。
(実施例2)
再溶解工程において、MEKの代わりに酢酸エチルを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂溶液(Z2)を得た。
(実施例3)
再溶解工程において、MEKの代わりにアセトンを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂溶液(Z3)を得た。
【0102】
(比較例1)
実施例1で得られた不揮発分35%のポリイミド樹脂溶液(X1)を25mlガラス瓶に入れ、樹脂溶液(X1)1部に対してMEK5部を加えた後、実施例1と同様に溶解・希釈してイミド樹脂溶液(Z4)を作製した。
(比較例2)
MEKの代わりに酢酸エチルを用いた以外は比較例1と同様にして、ポリイミド樹脂溶液(Z5)を得た。
(比較例3)
MEKの代わりにアセトンを用いた以外は比較例1と同様にして、ポリイミド樹脂溶液(Z6)を得た。
【0103】
(測定例1 希釈安定性の評価)
溶解・希釈後のポリイミド樹脂溶液(Z1〜Z6)の外観、樹脂等の析出物の有無、溶液の色、溶液の流動性を観察し、以下の評価基準によって希釈安定性を評価した。その結果を表1に記載した。
【0104】
(希釈安定性の評価基準)
○:樹脂溶液が透明であり、析出物がなく、流動性があった。
△:流動性があるが、樹脂溶液に析出物があり濁りが発生した。
×:流動性がなく、樹脂溶液に析出物があり濁りが発生した。
【0105】
【表1】

【0106】
(実施例4) 熱硬化性樹脂溶液の調製
実施例1で得られた不揮発分35%のポリイミド樹脂溶液(Z1)100部、クレゾールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量215、軟化点80℃)7.2部(固形分重量比で70/30)、トリフェニルホスフィン(硬化触媒)0.24部を混合して熱硬化性樹脂溶液(W1)を調製した。得られた熱硬化性樹脂溶液(W1)について以下の方法で各種物性を評価した。
【0107】
(比較例4)
比較例1で得られた不揮発分5.8%のポリイミド樹脂溶液(Z4)100部、クレゾールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ当量215、軟化点80℃)2.5部(固形分重量比で70/30)、トリフェニルホスフィン(硬化触媒)0.08部を混合して熱硬化性樹脂溶液(W2)を調製した。
【0108】
(測定例2 希釈安定性の評価)
熱硬化性樹脂溶液(W1、W2)を、各々、25mlガラス瓶に入れ、樹脂溶液(W1、W2)1部に対して表2に記載した溶剤4部を加えた後、実施例1と同様に溶解・希釈して熱硬化性樹脂溶液を作製し、その際の希釈安定性を測定例1と同様の方法により評価した。その結果を表2に記載した。
【0109】
【表2】

【0110】
(測定例3 塗装性の評価)
熱硬化性樹脂溶液(W1、W2)を、各々、ブリキ板に0.152ミルのアプリケーターで室温にて塗装した。塗装外観について以下の評価基準で評価した。その結果を表3に記載した。
【0111】
(塗装性の評価基準)
○:透明で表面に光沢がありフラットな面である。
△:不透明であるがフラットな面である。
×:不透明で表面がフラットな面ではない。
【0112】
【表3】

【0113】
(測定例5 硬化物の塗膜造膜性)
熱硬化性樹脂溶液(W1、W2)を、各々、乾燥後の膜厚が30μmになるようにブリキ板にアプリケーターにて塗布後、110℃で30分間乾燥させて得た試験片を、室温にて24時間放置し、塗膜外観を以下の評価基準で評価した。その結果を表4に記載した。
【0114】
(塗膜造膜性の評価基準)
○:塗膜にクラック等の異常は見られない。
△:塗膜に若干クラックが見られる。
×:塗膜全面にクラックが発生した。
【0115】
(測定例6 硬化物のはんだ耐熱性)
熱硬化性樹脂溶液(W1、W2)を、各々、硬化後の膜厚が30μmになるように18ミクロンの銅泊に塗装し、150℃で5分間予備乾燥を行い、Bステージサンプルを作成した。ついで樹脂面に同じ18ミクロンの銅箔を載せ、真空プレス機にて最高到達温度175℃圧力2MPaで60分ラミネートを行った後、室温まで冷却し硬化塗膜を作成した。
【0116】
銅貼硬化塗膜を260℃の溶融ハンダ浴に30秒浸漬し、室温に冷却した。このハンダ浴の浸漬操作を合計3回行い、硬化塗膜の外観について以下の評価基準で評価した。その結果を表4に記載した。
【0117】
(はんだ耐熱性の評価基準)
○:塗膜に外観異常は見られない。
△:塗膜にフクレ、はがれ等異常が若干見られる。
×:塗膜全面にフクレ、はがれ等異常が見られる。
【0118】
(測定例7 硬化物のTgおよび線膨張係数の測定)
熱硬化性樹脂溶液(W1、W2)を、各々、硬化後の膜厚が30μmになるようにブリキ基板上に塗装し、70℃の乾燥機で20分間乾燥した後、200℃で1時間硬化させ冷却した後、剥離した硬化塗膜を幅5mm、長さ30mmに切り出し、測定用試料とした。
【0119】
続いて、セイコー電子株式会社製「熱分析システムTMA−SS6000」を用いて、試料長10mm、昇温速度10℃/分、荷重30mNの条件でTMA(Thermal Mechanical Analysis)法により測定した。なお、Tgは、TMA測定での温度−寸法変化曲線からその変極点を求め、その温度をTgとした。さらに線膨張係数に使用した温度域は50〜60℃、及び110〜120℃での試料長の変位より求めた。Tgが高いほど耐熱性に優れ線膨張係数が小さいほど寸法安定性に優れることを示す。その結果を表4に記載した。
【0120】
【表4】

【符号の説明】
【0121】
1・・・ドライヤ本体
2・・・ディスク式アトマイザー
3・・・原料ポンプ
4・・・サイクロン
5・・・バックフィルター
6・・・循環ファン
7・・・有機溶剤回収装置
8・・・冷凍機
9・・・窒素ガスヒーター
10・・・酸素濃度計
A・・・ポリイミド粉体
B・・・窒素ガス
C・・・原液
D・・・排気
E・・・窒素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂と有機溶剤(B)とを含むカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法であって、
(1)有機溶剤(A)中または無溶剤中で、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とを反応させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を得る合成工程と、
(2)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)を噴霧させながら該有機溶剤(A)を揮発させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を得る造粒工程と、
(3)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂の粉体を、有機溶剤(B)に溶解させる溶剤溶解工程とを有することを特徴とするカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項2】
有機溶剤(A)が、前記合成工程の反応温度よりも沸点が高い有機溶剤であり、かつ有機溶剤(B)が、前記合成工程の反応温度よりも沸点が低い有機溶剤である請求項1記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項3】
有機溶剤(B)が、沸点130℃以下の有機溶剤である請求項1記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項4】
有機溶剤(B)が、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤および芳香族系有機溶剤からなる群から選ばれる一種以上の有機溶剤である請求項1記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項5】
有機溶剤(B)が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン、Nメチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトンからなる群から選ばれる一種以上の有機溶剤である請求項1記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項6】
前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液中のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の含有率が0.1〜90%(重量基準)である請求項1〜5のいずれか一項記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項7】
分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂と有機溶剤とを含むカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液であって、全有機溶剤中の沸点130℃以下の有機溶剤の割合が99重量%以上であることを特徴とするカルボキシ含有ポリイミド樹脂溶液。
【請求項8】
ポリイミド樹脂溶液に対するカルボキシ基含有ポリイミド樹脂の含有率が0.1〜90%(重量基準)である請求項7のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液。
【請求項9】
分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)とを反応させて得られるカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体。
【請求項10】
粒径0.01〜2000(μm)の繊維状、球状、楕円状および不定形のいずれかの粒子を90%以上含む請求項9記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体。
【請求項11】
請求項9記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体の製造方法であって、
(1)有機溶剤(A)中で、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物(a)と、トリカルボン酸無水物(b1)及び/又はテトラカルボン酸無水物(b2)と、を反応させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂を得る合成工程、
(2)前記カルボキシ基含有ポリイミド樹脂を含む有機溶剤(A)を噴霧させながら溶剤を揮発させてカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を得る造粒工程と、を有することを特徴とするカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂粉体を、有機溶剤(B)に溶解させる溶剤溶解工程を有することを特徴とするカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液の製造方法。
【請求項13】
請求項1または請求項12に記載の製造方法により得られたカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液、あるいは請求項9に記載のカルボキシ基含有ポリイミド樹脂溶液と、硬化性樹脂成分とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項13記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168743(P2011−168743A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35944(P2010−35944)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】