説明

カード用コネクタ

【課題】スライド部材を付勢する付勢部材の長さ寸法を比較的長く設定した場合でも、この付勢部材と、カードの凹部と係合する係合片とを干渉することなく配置できる。
【解決手段】スライド部材8をカード6の排出方向に付勢する付勢部材9と、カード6の凹部6bと係合する係合片16と、カム溝13と係合部材15とから成るスライド部材8のロック機構とを備え、スライド部材8が、カード収容部1aの上下方向に突出する突出部11を有すると共に、ハウジング1に、スライド部材8の突出部11が収納される突出部収納部3を形成し、突出部11の上面にカム溝13を形成し、この上面側において係合片16をスライド部材8に装着し、突出部11の直下に位置するスライド部材8の部分に、付勢部材9が収納される付勢部材収納部14を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カードの挿入または排出に活用されるスライド部材を備えたカード用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この従来技術は、カードが収容されるカード収容部を有するハウジングすなわちボディと、カードの挿入または排出に伴って、カードの挿入または排出方向にスライド移動するスライド部材すなわちスライダとを備えている。また、スライダをカードの排出方向に付勢する付勢部材すなわちカード排出用ばね体と、カードに形成される凹部すなわち凹入部と係合する係合片、すなわちハーフロック用ばね体とを備えている。さらに、カム溝すなわちカム部と、このカム部に係合する係合部材すなわちピン部材とから成り、スライダを所定位置に保持するロック機構すなわちカム機構とを備えている。
【0003】
上述したスライダには、このスライダを付勢するカード排出用ばね体が収納可能な収納部が形成され、上述したカード排出用ばね体の伸設方向の延長上に、カードの凹部に係合するハーフロック用ばね体の湾曲状の突起が位置するように、このハーフロック用ばね体がスライダに装着されている。
【0004】
また、カム機構を形成するカム溝すなわちカム部は、スライダの側面に形成され、カム機構を形成するピン部材の一端がボディに保持され、他端がカム部に係合するように配置されている。すなわち、上述した従来技術にあっては、スライダを所定位置にロックするカム機構が、スライダの側方部分に配置されている。
【特許文献1】特開平11−135192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上述した従来技術におけるように、スライダすなわちスライド部材、及びカードをハーフロックするばね体、すなわち係合片を備えたカード用コネクタにあっては、カードの排出性能を高めるために、カードを排出方向に付勢するカード排出用ばね体、すなわち付勢部材の弾性力を強くしたいという要望がある。この要望に応えるためには、例えばカード排出用ばね体すなわち付勢部材の長さ寸法を長く設定することが必要になる。
【0006】
しかしながら上述した従来技術では、カード排出用ばね体の伸設方向の延長上に、ハーフロックばね体が位置しているので、カード排出用ばね体の長さ寸法を長くすると、このカード排出用ばね体すなわち付勢部材が、ハーフロックばね体すなわち係合片に干渉する虞がある。結局のところ、カード排出用ばね体の長さ寸法を余り長くすることができない。これに伴って従来技術では、カード排出用ばね体の弾性力の強化には限界がある。このため、より優れたカード排出性能を確保することが困難な状況となっている。
【0007】
なお、上述した従来技術は、スライダを所定位置にロックするカム機構、すなわちロック機構がスライダの側方に配置されていることから、装置全体の幅寸法が大きくなりやすい。
【0008】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、スライド部材を付勢する付勢部材の長さ寸法を比較的長く設定した場合でも、この付勢部材と、カードに形成された凹部と係合する係合片とを互いに干渉することなく配置できるカード用コネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、カードが収容されるカード収容部を有するハウジングと、上記カードの挿入または排出に伴って上記カードの挿入または排出方向にスライド移動するスライド部材と、このスライド部材を上記カードの排出方向に付勢する付勢部材と、上記カードに形成される凹部と係合する係合片と、カム溝とこのカム溝に係合する係合部材とから成り、上記スライド部材を所定位置に保持するロック機構とを備え、上記スライド部材が、上記カード収容部の上下方向に突出する突出部を有すると共に、上記ハウジングに、上記スライド部材の上記突出部が収納される突出部収納部を形成したことを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明は、スライド部材が、カード収容部の上下方向に突出する突出部を有することから、この突出部の部分の高さ寸法を大きくすることができる。その高さ方向の大きな領域を、スライド部材を付勢する付勢部材と、カードに形成される凹部と係合する係合片の配置領域とすることができる。すなわち、突出部の部分に形成される大きな配置領域において、付勢部材と係合片とを互いに離隔させて配置することができる。これにより、付勢部材の長さ寸法を比較的長く設定した場合でも、これらの付勢部材と係合片とを、互いに干渉することなく配置することができ、付勢部材の弾性力の強化を実現できる。
【0011】
また、本発明は上記発明において、上記ハウジングは、回路基板に取付けられた際に上記回路基板との間に隙間を形成させるための複数の突起を有し、上記スライド部材の上記突出部を上記回路基板側に突出するように配置し、上記スライド部材に上記係合片を装着すると共に、上記スライド部材は、上記付勢部材が収納される付勢部材収納部と、上記突出部に設けられ、上記ロック機構を形成するカム溝とを有し、これらの付勢部材収納部とカム溝とを互いに上下方向に重ねるように配置したことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明は、ハウジングの突起によって回路基板との間に形成される隙間を、回路基板との接続空間として活用できる。また、スライド部材の上下方向の一方の側にスライド部材を付勢する付勢部材が収納される付勢部材収納部が配置され、他方の側にロック機構を形成するカム溝が配置されるので、スライド部材をロック保持するロック機構を上下方向に位置させることができる。これによって、装置全体の幅寸法を小さく設定できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、スライド部材が、カード収容部の上下方向に突出する突出部を有することから、この突出部の部分の高さ方向において、スライド部材を付勢する付勢部材と、カードに形成される凹部に係合する係合片の大きな配置領域を確保することができる。すなわち、この大きな配置領域において、付勢部材と係合片とを互いに離隔させて配置することができる。これにより、スライド部材を付勢する付勢部材の長さ寸法を比較的長く設定した場合でも、これらの付勢部材と係合片とを互いに干渉することなく配置でき、付勢部材の弾性力の強化を実現でき、従来に比べて優れたカード排出性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,本発明に係るカード用コネクタを実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
[本実施形態の基本構成]
図1は本発明に係るカード用コネクタの一実施形態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、図2は本実施形態にカードが挿入された状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、図3は本実施形態において上面を形成するカバー部材を除いた状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【0016】
これらの図1〜3に示すように、本実施形態は、本体を形成しカード6が収容されるカード収容部1aを有するハウジング1を備えている。このハウジング1には、カード6が挿入されるカード挿入口4と、カード6に形成される接触部材と電気的に接続される接続端子7とを設けてある。また、図示しない回路基板に取付けられた際に、その回路基板との間に隙間を形成させるための複数の突起5を備えている。さらに、このハウジング1の上部を形成するカバー部材2には、図1,2に示すように、図示しない回路基板側に突出するように配置される突出部収納部3を形成してある。この突出部収納部3に収納される突出部11については後述する。なお、突出部収納部3は例えば断面コ字形状に形成してある。
【0017】
また本実施形態は、図3に示すように、カード6の挿入または排出に伴ってカード6の挿入または排出方向にスライド移動するスライド部材8と、このスライド部材8をカード6の排出方向、すなわちカード挿入口4方向に付勢するねじりコイルばねから成る付勢部材9とを備えている。さらに、ハートカムから成るカム溝13と、このカム溝13に係合する係合部材15とを含み、スライド部材8を所定位置にロック保持するロック機構を備えている。
【0018】
[本実施形態に備えられるスライド部材等の構成]
図4は本実施形態に備えられるスライド部材を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、(d)図は正面図、(e)図は裏面図、(f)図は背面図、図5は本実施形態に備えられるスライド部材に、付勢部材を収納させ、係合片を装着させた状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、(d)図は正面図、(e)図は裏面図、(f)図は背面図である。
【0019】
上述したスライド部材8は、図4に示すように、カード6の先端に係合する係合部10を有すると共に、カード収容部1aの上下方向に突出し、上述したカバー部材2に形成した突出部収納部3に摺動自在に収納される突出部11を有している。
【0020】
この突出部11の上面には、上述したカム溝13を形成してある。このカム溝13は、同図4の(a)図に示すように、往路13aと、復路13bと、ロック部13cとを備えている。なお、このカム溝13に係合する上述の係合部材15は、図3に示すように、一端15aがハウジング1に揺動自在に保持され、他端15bがカム溝13に係合するように配置してある。
【0021】
また、図4の(a)図、及び図5の(a)図に示すように、突出部11の上面側には、カード6の側面に形成される後述の凹部6bと係合する突部16aを有する係合片16を収納する係合片収納部12を形成してある。
【0022】
さらに、図4の(e)(f)図、及び図5の(e)(f)図等に示すように、突出部11の直下に位置するスライド部材8の部分には、上述した付勢部材9が収納される付勢部材収納部14を形成してある。この付勢部材収納部14は、スライド部材8の長さに相応する程の十分な長さ寸法に設定してある。したがって、付勢部材収納部14に収納される付勢部材9の長さ寸法も十分に長く設定してあり、比較的大きな弾性力を保有している。
【0023】
[本実施形態の動作]
図6はカード挿入時の状態を、カバー部材を除いて示した図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、図7はカード挿入途中の状態を、カバー部材を除いて示した図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、図8はカードが所定の装着位置に装着された状態を、カバー部材を除いて示した図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【0024】
図6に示すように、カード6がカード挿入口4から挿入され、押し込まれると、カード6の先端がスライド部材8の係合部10に係合し、スライド部材8に保持された係合片16の突部16aがカード6の側部に形成された凹部6bに係合し、このカード6が係合片16の弾性力によって保持される。
【0025】
引き続いて行われるカード6の押し込み動作に伴って、図7に示すように、付勢部材9の付勢力に抗して、カード6の先端に係合する係合部10を介してスライド部材10が装置の奥側に向って摺動し、ロック機構に含まれる係合部材15の他端15bがカム溝13の往路13a上を相対的に摺動する。
【0026】
図8に示すように、カード6が所定の装着位置に至ったとき、ロック機構に含まれる係合部材15の他端15bが、カム溝13のロック部13cに係止され、これによってスライド部材8は所定位置にロックされる。すなわち、このスライド部材8のロックによって、カード6は所定の装着位置に安定した状態に保持される。この所定の装着位置に保持されたカード6の接触部材が、図6,7等に示すハウジング1に備えられる接続部材7に電気的に接続し、本実施形態を介して、カード6と、本実施形態と接続される図示しない回路基板との間の信号の送受信が可能となる。
【0027】
図8に示すように所定の装着位置に保持されているカード6の排出時には、再びカード6が装置の奥側に向って押される。これによりカード6が装置の奥側にオーバストロークし、これに伴ってスライド部材8もわずかに装置の奥側に摺動し、係合部材15の他端15bがカム溝13のロック部13cから離脱する。これによってスライド部材8のロックが解除される。
【0028】
ここでカード6に加えていた押圧力を除くと、係合部材9の付勢力によってスライド部材8がカード挿入口4の方向に摺動し、このスライド部材8の係合部10を介してカード6が排出され、図6に示す状態に至る。この間、ロック機構に含まれる係合部材15の他端15bは、スライド部材8に形成されたカム溝13の復路13b上を相対的に摺動する。
【0029】
この図6に示す状態から、カード6を手前に引き抜くと、係合片16の突部16aとカード6の凹部6bとの係合が解かれ、カード6が取り出される。
【0030】
[本実施形態の効果]
このように構成した本実施形態によれば、スライド部材8が、カード収容部1aの上下方向に突出する突出部11を有することから、この突出部11の部分の高さ寸法を大きくすることができる。その高さ方向の大きな領域を、スライド部材8を付勢する付勢部材9と、カード6に形成される凹部6bと係合する係合片16の配置領域とすることができる。すなわち、突出部11の部分に形成される大きな配置領域において、付勢部材9と係合片16とを互いに上下方向に離隔させて配置することができる。これにより、付勢部材9の長さ寸法を比較的長く設定した場合でも、これらの付勢部材9と係合片16とを、互いに干渉することなく配置できる。したがって、付勢部材9の弾性力の強化を実現でき、優れたカード排出性能を確保することができる。
【0031】
また、ハウジング1に形成した突起5によって図示しない回路基板との間に形成される隙間を、回路基板との接続空間として活用できる。
【0032】
さらに、スライド部材8の上下方向の一方の側、すなわち下側にスライド部材8を付勢する付勢部材9が収納される付勢部材収納部14が配置され、他方の側すなわち上側にロック機構を形成するカム溝13が配置され、このカム溝13の上方に、このカム溝13に係合する係合部材15が配置されるので、スライド部材8をロック保持するロック機構をスライド部材8の上方向に位置させることができる。これによってハウジング1の幅寸法、すなわち装置全体の幅寸法を小さく設定することができる。
【0033】
[その他の構成]
上記実施形態では、スライド部材8の突出部11をハウジング1の上部を形成するカバー部材2側に形成したが、ハウジング1の底部側に形成してもよい。また、カバー部材2側とハウジング1の底部側の双方に突出するように形成してもよい。要するに、スライド部材8を付勢する付勢部材9と、カード6の凹部6bに係合する係合片16とを互いに離隔させて配置可能な大きな高さ領域を形成し得る突出部11であればよい。
【0034】
また上記では、カバー部材2に形成される突出部収納部3を断面コ字形状に、すなわち閉空間を形成するように設けたが、本発明は、このように突出部収納部3を断面コ字形状に形成することには限られず、例えば上面にスリット等の空隙部が形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るカード用コネクタの一実施形態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【図2】本実施形態にカードが挿入された状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【図3】本実施形態において上面を形成するカバー部材を除いた状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【図4】本実施形態に備えられるスライド部材を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、(d)図は正面図、(e)図は裏面図、(f)図は背面図である。
【図5】本実施形態に備えられるスライド部材に、付勢部材を収納させ、係合片を装着させた状態を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図、(d)図は正面図、(e)図は裏面図、(f)図は背面図である。
【図6】カード挿入時の状態を、カバー部材を除いて示した図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【図7】カード挿入途中の状態を、カバー部材を除いて示した図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【図8】カードが所定の装着位置に装着された状態を、カバー部材を除いて示した図で、(a)図は平面図、(b)図は左側面図、(c)図は右側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ハウジング
1a カード収容部
2 カバー部材
3 突出部収納部
4 カード挿入口
5 突起
6 カード
6a 切欠き部
6b 凹部
7 接続部材
8 スライド部材
9 付勢部材
10 係合部
11 突出部
12 係合片収納部
13 カム溝(ロック機構)
13a 往路
13b 複路
13c ロック部
14 付勢部材収納部
15 係合部材(ロック機構)
15a 一端
15b 他端
16 係合片
16a 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードが収容されるカード収容部を有するハウジングと、上記カードの挿入または排出に伴って上記カードの挿入または排出方向にスライド移動するスライド部材と、このスライド部材を上記カードの排出方向に付勢する付勢部材と、上記カードに形成される凹部と係合する係合片と、カム溝とこのカム溝に係合する係合部材とから成り、上記スライド部材を所定位置に保持するロック機構とを備え、
上記スライド部材が、上記カード収容部の上下方向に突出する突出部を有すると共に、上記ハウジングに、上記スライド部材の上記突出部が収納される突出部収納部を形成したことを特徴とするカード用コネクタ。
【請求項2】
上記請求項1記載の発明において、
上記ハウジングは、回路基板に取付けられた際に上記回路基板との間に隙間を形成させるための複数の突起を有し、
上記スライド部材の上記突出部を上記回路基板側に突出するように配置し、
上記スライド部材に上記係合片を装着すると共に、
上記スライド部材は、上記付勢部材が収納される付勢部材収納部と、上記突出部に設けられ、上記ロック機構を形成するカム溝とを有し、これらの付勢部材収納部とカム溝とを互いに上下方向に重ねるように配置したことを特徴とするカード用コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−114442(P2006−114442A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303138(P2004−303138)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】