説明

ガスエンジン制御装置

【課題】経時変化よらず、混合気の燃焼時間を一定の時間に制御することができるガスエンジン制御装置の提供を目的とする。
【解決手段】エンジン回転数Neとエンジン回転数指令値NeOとの偏差に基づいてスロットル弁23の開度を制御するエンジン回転数制御部111bと、負荷Ld、およびエンジン回転数指令値NeOから混合気流量指令値QmixOを決定し、混合気温度Tmix、混合気圧力Pmix、エンジン回転数Ne、に粘度補正実混合気流量QmixRを算出し、混合気流量指令値QmixOと粘度補正実混合気流量QmixRとの偏差に基づいて燃料ガス制御弁42の開度を制御する混合気流量制御部111cと、混合気流量指令値QmixOから排気温度指令値TgOを決定し、排気温度指令値TgOと排気温度Tgとの偏差に基づいて点火プラグ16が放電する時期を制御する放電時期制御部111dとを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ガス、都市ガス等の燃料ガスを用いて燃焼運転するガスエンジンは、ノッキングが発生したり失火したりしない最適な燃焼状態を維持し、排気に含まれるNOx等を抑制するために、使用される燃料ガスの特性に応じて最適な外気(空気)の流量と燃料ガスの流量との比(外気の流量/燃料ガスの流量)(以下、単に「空燃比」という)に調整するガスエンジン制御装置が知られている。
【0003】
このようなガスエンジン制御装置において、例えば特許文献1のように、ガスエンジンが目標とする回転数、および出力から決定される燃料ガスの流量(以下、単に「燃料ガス流量指令値」という)に、最適な空燃比で外気が混合された給気(以下、単に「混合気」という)の流量(以下、単に「混合気流量指令値」という)を算出し、混合気温度や混合気圧力から算出される混合気の流量(以下、単に「実混合気流量」という)と混合気流量指令値との偏差に基づいて、スロットルバルブの目標開度を設定する空燃比制御行程を備えるものがある。このように、ガスエンジン制御装置によって混合気を適正な空燃比に制御することで、排気中に含まれるNOx等を抑制するものである。
【0004】
しかし、一般にガスエンジンは、経時変化によって、点火プラグのプラグギャップが拡大したり、シリンダ内に堆積するスス等によってシリンダの容積が減少したりする。これにより、点火プラグによる混合気への点火性が向上するとともに、ピストンの圧縮行程における燃焼室内の温度が上昇するため、混合気の燃焼が急速になり燃焼時間が短くなる。よって、ピストンが上死点近傍の位置(高圧縮比の状態)にある間に混合気が急速に燃焼するため、燃焼時における燃焼室の圧力、および温度は、経時変化前の燃焼時における燃焼室の圧力、および温度よりも高温、高圧になる。この結果、混合気中の酸素と窒素との反応が促進されNOxの排出量が増加する。
【0005】
この場合、混合気の空燃比を希薄側に制御し、燃焼時における燃焼室の圧力、および温度の上昇を抑制することで、NOxの排出量を低減させることができる。一方、混合気が短時間で燃焼を完了するため、排気温度は、経時変化前の排気温度よりも低下する。さらに、混合気の空燃比を希薄側に制御して燃焼時の温度を低下させることで排気温度がさらに低下する。従って、排気の熱によって加熱されている触媒の温度も低下し、触媒がNOx等を還元する能力が低下する点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−57872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は係る課題を鑑みてなされたものであり、経時変化によって混合気への点火性が向上したり、圧縮行程における燃焼室の温度が上昇したりしても、混合気の燃焼時間を一定の時間に制御することができるガスエンジン制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1の発明は、混合気温度を検出する混合気温度検出手段と、混合気圧力を検出する混合気圧力検出手段と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、排気温度を検出する排気温度検出手段と、エンジンに駆動される負荷装置に投入された負荷からエンジン回転数指令値を決定し、検出されたエンジン回転数と決定されたエンジン回転数指令値との偏差に基づいてスロットル弁の開度を制御するエンジン回転数制御手段と、前記負荷装置に投入された負荷、および決定されたエンジン回転数指令値から混合気流量指令値を決定し、検出された混合気温度、検出された混合気圧力、検出されたエンジン回転数、に基づいて実混合気流量を算出し、決定された混合気流量指令値と算出された実混合気流量との偏差に基づいて燃料ガス制御弁の開度を制御する混合気流量制御手段と、決定された混合気流量指令値から排気温度指令値を決定し、決定された排気温度指令値と検出された排気温度との偏差に基づいて点火プラグが放電する時期を制御する放電時期制御手段と、を具備するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、燃料ガス制御弁の開度を制御することで混合気流量を制御するとともに、排気温度が所定の温度になるように点火プラグの放電時期を制御することで、混合気の燃焼時間を一定の時間に制御することができる。この結果、経時変化によって混合気への点火性が向上したり、圧縮行程における燃焼室の温度が上昇したりしても、混合気の燃焼時における燃焼室の圧力、および温度の上昇が抑制される。これにより、ガスエンジンから排出されるNOx濃度を目標NOx濃度に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るガスエンジンの構成を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置の制御行程を示すフローチャート図。
【図3】本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置のエンジン回転数制御行程を示すフローチャート図。
【図4】本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置の混合気流量制御行程を示すフローチャート図。
【図5】本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置の放電時期制御行程を示すフローチャート図。
【図6】(a)本発明の一実施形態に係るガスエンジンの経時変化による排気温度の変化を表すグラフを示す図。(b)本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置の放電時期制御行程による燃焼時間の変化を表すグラフを示す図。
【図7】(a)本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置による放電時期制御行程において排気温度を維持する制御態様を表すグラフを示す図。(b)本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置による放電時期制御行程においてNOx濃度を維持する制御態様を表すグラフを示す図。
【図8】本発明の一実施形態に係るガスエンジン制御装置の放電時期制御行程によるNOx濃度の変化を表すグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図1を用いて、本発明のガスエンジン制御装置の一実施形態に係るガスエンジン制御装置100と、このガスエンジン制御装置100を適用した内燃機関であるガスエンジン1とについて説明する。なお、本実施形態における「上流側」とは混合気の流れ方向における上流側を示し、「下流側」とは混合気の流れ方向における下流側を示す。またピストン13が混合気を圧縮する方向を上方向として上下を規定する。
【0014】
図1に示すように、ガスエンジン1は、単気筒エンジンまたは多気筒エンジンであり、天然ガス等の燃料ガスを用いて燃焼運転するものである。ガスエンジン1は、主にエンジン本体10、給気経路20、排気経路30、燃料ガス供給経路40、を具備する。ガスエンジン1は、その図示しない出力軸が外部アプリケーションである発電機50と連結され、発電機50を稼動させるように構成される。なお、ガスエンジン1が稼動させる外部アプリケーションは、本実施形態において、発電機50に限定するものではない。
【0015】
エンジン本体10は、その主たる構成部材であるシリンダブロック11の上部にシリンダヘッド12が固設される。エンジン本体10は、シリンダブロック11に形成されるシリンダ10a内にピストン13が摺動自在に収納され、シリンダ10a内におけるピストン13の上側方に燃焼室14が構成される。シリンダヘッド12には、給気経路20と燃焼室14とを連通又は遮断する給気バルブ15、燃焼室14に供給された混合気に着火する点火プラグ16、および排気経路30と燃焼室14とを連通又は遮断する排気バルブ17が具備される。また、エンジン本体10には、ピストン13とコンロッド18を介して連結されるクランク軸19が回動自在に支持される。エンジン本体10は、クランク軸19によってピストン13の往復運動を回転運動に変換し、図示しない出力軸を介して発電機50に出力可能に構成される。
【0016】
給気経路20は、エンジン本体10に、外気と燃料ガスとの混合気を供給するものである。給気経路20は、給気管21、ベンチュリ22、およびスロットル弁23等を具備する。
【0017】
給気管21は、給気経路20の主たる構造部材である。給気管21は、一方が給気バルブ15を介してエンジン本体10の燃焼室14と連通され、他方が大気解放される。よって、給気管21は、外気を燃焼室14内に供給可能に構成される。給気管21には、その途中部に燃料ガス供給経路40が接続される。
【0018】
ベンチュリ22は、燃料ガス供給経路40内の燃料ガスと給気管21内の空気(外気)との間に差圧を生じさせるものである。ベンチュリ22は、給気管21内の燃料ガス供給経路40の接続部分に備えられる。ベンチュリ22は、給気管21内に生じさせた差圧によって燃料ガス供給経路40内の燃料ガスを給気管21内に供給可能に構成される。
【0019】
スロットル弁23は、混合気の流量を変更するものである。スロットル弁23は、給気管21内のベンチュリ22の下流側方に備えられる。スロットル弁23は、電動モータ等のアクチュエータにより開閉可能な自動弁から構成される。スロットル弁23は、その開度を調整することで、エンジン本体10に供給される混合気の流量を変更することができる。
【0020】
排気経路30は、エンジン本体10から排出される排気を、NOxの還元処理等を施した後に、外部に排出するものである。排気経路30は、排気管31、図示しないフィルタ、および酸化触媒等を具備する。
【0021】
排気管31は、排気経路30の主たる構造部材である。排気管31は、一方が排気バルブ17を介してエンジン本体10の燃焼室14と連通され、他方が図示しないフィルタ、および酸化触媒等を介して大気解放される。よって、排気管31は、燃焼室14内の排気を外部に排出可能に構成される。
【0022】
燃料ガス供給経路40は、給気経路20に燃料ガスを供給するものである。燃料ガス供給経路40は、燃料ガス供給管41、燃料ガス制御弁42等を具備する。
【0023】
燃料ガス供給管41は、給気経路20の主たる構造部材である。燃料ガス供給管41は、一方が給気経路20の給気管21に接続され、他方が燃料ガスを貯蔵している図示しない燃料ガスタンクに接続される。よって、燃料ガス供給管41は、図示しない燃料ガスタンク内の燃料ガスを給気管21内に供給可能に構成される。
【0024】
燃料ガス制御弁42は、燃料ガスを供給、または供給停止し、燃料ガスの流量を変更するものである。燃料ガス制御弁42は、燃料ガス供給管41の途中部に備えられる。燃料ガス制御弁42は、電動モータ等のアクチュエータにより開閉可能な自動弁から構成される。燃料ガス制御弁42は、弁の開閉により給気経路20に燃料ガスを供給、または供給停止し、弁の開度を調整することで供給される燃料ガスの流量を変更することができる。
【0025】
図1に示すように、ガスエンジン制御装置100は、ガスエンジン1の運転を制御するものである。ガスエンジン制御装置100は、主としてECU110、エンジン回転数検出手段であるエンジン回転数検出センサー120、混合気温度検出手段である混合気温度検出センサー130、混合気圧力検出手段である混合気圧力検出センサー140、および排気温度検出手段である排気温度検出センサー150を具備する。
【0026】
ECU110は、ガスエンジン1の制御を行うための種々のプログラムや空燃比マップM1、排気温度マップM2、排気温度Tgと点火プラグ16が放電するクランク軸19の角度である放電角度Degとの関係を示す放電角度マップM3、充填効率η、およびガスエンジン1の行程容積V等のデータが格納され、これらのプログラム等を展開することができ、これらのプログラム等に従って所定の演算を行うことができ、当該演算の結果等を記憶することができる。
【0027】
ECU110は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。本実施形態においては専用品で達成することも、市販のパーソナルコンピュータやワークステーション等に上記プログラム等を格納したもので達成することも可能である。ECU110は、主として制御部111、入力部112、出力部113、等を具備する。
【0028】
制御部111は、機能的には記憶部111a、エンジン回転数制御手段であるエンジン回転数制御部111b、混合気流量制御手段である混合気流量制御部111c、および放電時期制御手段である放電時期制御部111dを具備する。実体的には、制御部111が、記憶部111aに格納されたプログラムに従って所定の演算等を行うことにより、記憶部111a、エンジン回転数制御部111b、および混合気流量制御部111c、および放電時期制御部111dとしての機能を果たす。
【0029】
制御部111のうち、記憶部111a、およびエンジン回転数制御部111bが協働することにより、本発明に係るガスエンジン制御装置100の実施の一形態を構成する各行程が行われる。制御部111のうち、記憶部111a、および混合気流量制御部111cが協働することにより、本発明に係るガスエンジン制御装置100の実施の一形態を構成する各行程が行われる。制御部111のうち、記憶部111a、および放電時期制御部111dが協働することにより、本発明に係るガスエンジン制御装置100の実施の一形態を構成する各行程が行われる。
記憶部111a、エンジン回転数制御部111b、混合気流量制御部111c、および放電時期制御部111dのそれぞれの具体的な機能については、後述する。
【0030】
入力部112は、制御部111と接続され、制御部111にエンジン回転数検出センサー120、混合気温度検出センサー130、混合気圧力検出センサー140、および指令値設定手段である発電機50からの信号や指令値等が入力されるものである。
【0031】
出力部113は、制御部111と接続され、燃料ガス制御弁42、およびスロットル弁23、点火プラグ16に対して制御部111からの信号を出力するものである。
【0032】
エンジン回転数検出センサー120は、エンジン回転数Neを検出するものである。エンジン回転数検出センサー120は、ロータリーエンコーダ等から構成され、ガスエンジン1のクランク軸19に設けられる。また、エンジン回転数検出センサー120は、同時にクランク軸19の角度、すなわちクランク角度を検出することが可能に構成される。なお、エンジン回転数検出センサー120は、本実施形態において、ロータリーエンコーダとしているが、これに特に限定するものではなく、エンジン回転数Ne、およびクランク角度を検出することができるものであればよい。
【0033】
混合気温度検出センサー130は、混合気温度Tmixを検出するものである。混合気温度検出センサー130は、給気管21の途中部であってスロットル弁23よりも下流側に配置される。なお、混合気温度検出センサー130を配置する位置や混合気温度検出センサー130の数は、本実施形態において、特に限定するものではなく、混合気温度Tmixを適宜検出することができる構成であればよい。
【0034】
混合気圧力検出センサー140は、混合気圧力Pmixを検出するものである。混合気圧力検出センサー140は、給気管21の途中部であって混合気温度検出センサー130の近傍に配置される。なお、混合気圧力検出センサー140を配置する位置や混合気圧力検出センサー140の数は、本実施形態において、特に限定するものではなく、混合気圧力Pmixを適宜検出することができる構成であればよい。
【0035】
排気温度検出センサー150は、排気温度Tgを検出するものである。排気温度検出センサー150は、排気管31の途中部に配置される。なお、排気温度検出センサー150を配置する位置や排気温度検出センサー150の数は、本実施形態において、特に限定するものではなく、排気温度Tgを適宜検出することができる構成であればよい。
【0036】
図1に示すように、ECU110の入力部112は、エンジン回転数検出センサー120と接続され、エンジン回転数検出センサー120が検出するエンジン回転数Ne、およびクランク角度を取得することが可能である。
【0037】
ECU110の入力部112は、混合気温度検出センサー130と接続され、混合気温度検出センサー130が検出する混合気温度Tmixを取得することが可能である。
【0038】
ECU110の入力部112は、混合気圧力検出センサー140と接続され、混合気圧力検出センサー140が検出する混合気圧力Pmixを取得することが可能である。
【0039】
ECU110の入力部112は、排気温度検出センサー150と接続され、排気温度検出センサー150が検出する排気温度Tgを取得することが可能である。
【0040】
ECU110の入力部112は、負荷装置である発電機50と接続され、発電機50に投入された負荷Ldを取得することが可能である。
【0041】
ECU110の出力部113は、図示しない点火装置を介して点火プラグ16と接続され、点火プラグ16の放電信号を送信することが可能である。
【0042】
ECU110の出力部113は、スロットル弁23と接続され、スロットル弁23の開度の設定信号を送信することが可能である。
【0043】
ECU110の出力部113は、燃料ガス制御弁42と接続され、燃料ガス制御弁42の開度の設定信号を送信することが可能である。
【0044】
以下では、図2、図3、図4、および図5を用いて、本発明に係るガスエンジン制御装置100の制御態様について説明する。
【0045】
図2に示すように、本発明に係るガスエンジン制御装置100の制御態様は、エンジン回転数制御行程A、混合気流量制御行程B、および点火時期制御行程Cから構成される。
【0046】
エンジン回転数制御行程Aは、制御部111のうち、記憶部111a、およびエンジン回転数制御部111bが協働することにより、負荷Ldからエンジン回転数指令値NeOを決定し、エンジン回転数Neとエンジン回転数指令値NeOとの偏差に基づいてスロットル弁23の開度を制御する行程である。
【0047】
混合気流量制御行程Bは、制御部111のうち、記憶部111a、および混合気流量制御部111cが協働することにより、負荷Ld、およびエンジン回転数指令値NeOから混合気流量指令値QmixOを決定する。次に、混合気温度Tmix、および0℃における混合気粘度μに基づいて以下の数1に示す混合気粘度μTmixを算出する。さらに、算出した混合気粘度μTmix、混合気温度Tmix、混合気圧力Pmix、エンジン回転数Ne、充填効率η、および行程容積Vに基づいて以下の数2に示す粘度補正実混合気流量QmixRを算出する。そして、混合気流量指令値QmixOと粘度補正実混合気流量QmixRとの偏差に基づいて燃料ガス制御弁42の開度を制御する行程である。
【0048】
点火時期制御行程Cは、制御部111のうち、記憶部111a、および放電時期制御部111dが協働することにより、排気温度指令値TgOと排気温度Tgとの偏差に基づいて点火プラグ16が放電する時期を補正する行程である。
【数1】

【数2】

【0049】
以下では、ECU110によるスロットル弁23と燃料ガス制御弁42と点火プラグ16との制御態様について説明する。
【0050】
ステップS100において、ECU110は、エンジン回転数制御行程Aを開始して、制御段階をステップS110(図3参照)へ移行する。
図3に示すように、ステップS110において、ECU110は、入力部112によって、負荷装置である発電機50に投入された負荷Ld、およびエンジン回転数検出センサー120が検出するエンジン回転数Neを取得する。ECU110は、入力部112が取得した負荷Ld、およびエンジン回転数Neを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS120へ移行する。
【0051】
ステップS120において、ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、制御部111の記憶部111aが記憶している負荷Ldと空燃比マップM1とに基づいてエンジン回転数指令値NeOを決定する。ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bが決定したエンジン回転数指令値NeOを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS130へ移行する。
【0052】
ステップS130において、ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、制御部111の記憶部111aが記憶しているエンジン回転数Neがエンジン回転数指令値NeOと等しいか否か判定する。
その結果、エンジン回転数Neがエンジン回転数指令値NeOと等しいと判定した場合、ECU110はエンジン回転数制御行程Aを終了して、制御段階をステップS200(図2参照)へ移行する。
また、エンジン回転数Neがエンジン回転数指令値NeOと等しくないと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS140へ移行する。
【0053】
ステップS140において、ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、制御部111の記憶部111aが記憶しているエンジン回転数Neがエンジン回転数指令値NeOより大きいか否か判定する。
その結果、エンジン回転数Neがエンジン回転数指令値NeOより大きいと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS150へ移行する。
また、エンジン回転数Neがエンジン回転数指令値NeOより小さいと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS160へ移行する。
【0054】
ステップS150において、ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、制御部111の記憶部111aが記憶しているエンジン回転数Neとエンジン回転数指令値NeOとの偏差に基づいてスロットル弁23の開度補正量SvHを算出する。ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、出力部113を介してスロットル弁23の開度を開度補正量SvHだけ減少するように制御した後、エンジン回転数制御行程Aを終了して、制御段階をステップS200(図2参照)へ移行する。
【0055】
ステップS160において、ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、制御部111の記憶部111aが記憶しているエンジン回転数Neとエンジン回転数指令値NeOとの偏差に基づいてスロットル弁23の開度補正量SvHを算出する。ECU110は、制御部111のエンジン回転数制御部111bによって、出力部113を介してスロットル弁23の開度を開度補正量SvHだけ増加するように制御した後、エンジン回転数制御行程Aを終了して、制御段階をステップS200(図2参照)へ移行する。
【0056】
図2に示すように、ステップS200において、ECU110は、混合気流量制御行程Bを開始して、制御段階をステップS210(図4参照)へ移行する。
【0057】
図4に示すように、ステップS210において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶している負荷Ldとエンジン回転数指令値NeOと空燃比マップM1とに基づいて混合気流量指令値QmixOを決定する。ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cが決定した混合気流量指令値QmixOを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS220へ移行する。
【0058】
ステップS220において、ECU110は、入力部112によって、エンジン回転数検出センサー120が検出するエンジン回転数Ne、混合気温度検出センサー130が検出する混合気温度Tmix、および混合気圧力検出センサー140が検出する混合気圧力Pmixを取得する。ECU110は、入力部112が取得したエンジン回転数Ne、混合気温度Tmix、および混合気圧力Pmixを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS230へ移行する。
【0059】
ステップS230において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶しているエンジン回転数Ne、混合気温度Tmix、および0℃における混合気粘度μに基づいて前述の数1に示す混合気粘度μTmixを算出する。ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cが算出した混合気粘度μTmixを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS240へ移行する。
【0060】
ステップS240において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶している混合気粘度μTmix、エンジン回転数Ne、混合気温度Tmix、混合気圧力Pmix、充填効率η、および行程容積Vに基づいて前述の数2に示す粘度補正実混合気流量QmixRを算出する。ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cが算出した粘度補正実混合気流量QmixRを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS250へ移行する。
【0061】
ステップS250において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶している粘度補正実混合気流量QmixRが混合気流量指令値QmixOと等しいか否か判定する。
その結果、粘度補正実混合気流量QmixRが混合気流量指令値QmixOと等しいと判定した場合、ECU110は混合気流量制御行程Bを終了して、制御段階をステップS300(図2参照)へ移行する。
また、粘度補正実混合気流量QmixRが混合気流量指令値QmixOと等しくないと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS260へ移行する。
【0062】
ステップS260において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶している粘度補正実混合気流量QmixRが混合気流量指令値QmixOより大きいか否か判定する。
その結果、粘度補正実混合気流量QmixRが混合気流量指令値QmixOより大きいと判定した場合、すなわち、混合気を構成する燃料ガスの流量と外気(空気)の流量との割合(空燃比)が適正値に対して過少(リーン側)であり、必要な燃料ガスの流量を維持するために混合気流量が増加している場合、ECU110は制御段階をステップS270へ移行する。
また、粘度補正実混合気流量QmixRが混合気流量指令値QmixOより小さいと判定した場合、すなわち、混合気を構成する燃料ガスの流量と外気(空気)の流量との割合(空燃比)が適正値に対して過大(リッチ側)であり、必要な燃料ガスの流量を維持するために混合気流量が減少している場合、ECU110は制御段階をステップS280へ移行する。
【0063】
ステップS270において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶している粘度補正実混合気流量QmixRと混合気流量指令値QmixOとの偏差に基づいて燃料ガス制御弁42の開度補正量FvHを算出する。ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、出力部113を介して燃料ガス制御弁42の開度を開度補正量FvHだけ増加するように制御した後、混合気流量制御行程Bを終了して、制御段階をステップS300(図2参照)へ移行する。
【0064】
ステップS280において、ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、制御部111の記憶部111aが記憶している粘度補正実混合気流量QmixRと混合気流量指令値QmixOとの偏差に基づいて燃料ガス制御弁42の開度補正量FvHを算出する。ECU110は、制御部111の混合気流量制御部111cによって、出力部113を介して燃料ガス制御弁42の開度を開度補正量FvHだけ減少するように制御した後、混合気流量制御行程Bを終了して、制御段階をステップS300(図2参照)へ移行する。
【0065】
図2に示すように、ステップS300において、ECU110は、点火時期制御行程Cを開始して、制御段階をステップS310(図5参照)へ移行する。
【0066】
図5に示すように、ステップS310において、ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、制御部111の記憶部111aが記憶している混合気流量指令値QmixOと排気温度マップM2とに基づいて排気温度指令値TgO(排気温度目標値)を決定する。ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって決定された排気温度指令値TgOを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS320へ移行する。
【0067】
ステップS320において、ECU110は、入力部112によって、エンジン回転数検出センサー120が検出するクランク角度を取得する。そして、ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、前記クランク角度が制御部111の記憶部111aが記憶している放電角度Degと一致する時、出力部113、および図示しない点火装置を介して、点火プラグ16に放電させた後、制御段階をステップS330へ移行する。
【0068】
ステップS330において、ECU110は、入力部112によって、排気温度検出センサー150が検出する排気温度Tgを取得する。ECU110は、入力部112が取得した排気温度Tgを制御部111の記憶部111aに記憶した後、制御段階をステップS340へ移行する。
【0069】
ステップS340において、ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、制御部111の記憶部111aが記憶している排気温度Tgが排気温度指令値TgOと等しいか否か判定する。
その結果、排気温度Tgが排気温度指令値TgOと等しいと判定した場合、ECU110は点火時期制御行程Cを終了して、制御段階をステップS100(図2参照)へ繰り返し移行する。
また、排気温度Tgが排気温度指令値TgOと等しくないと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS350へ移行する。
【0070】
ステップS350において、ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、制御部111の記憶部111aが記憶している排気温度Tgが排気温度指令値TgOよりも小さいか否か判定する。
その結果、排気温度Tgが排気温度指令値TgOよりも小さいと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS360へ移行する。
また、排気温度Tgが排気温度指令値TgOよりも小さくないと判定した場合、ECU110は制御段階をステップS370へ移行する。
【0071】
ステップS360において、ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、記憶部111aが記憶している排気温度Tgと排気温度指令値TgOとの偏差、および放電角度マップM3に基づいて放電角度Degの角度補正量DegHを算出する。ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、出力部113を介して放電角度Degを角度補正量DegHだけ進角するように補正した後、点火時期制御行程Cを終了して、制御段階をステップS100(図2参照)へ繰り返し移行する。
【0072】
ステップS370において、ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、記憶部111aが記憶している排気温度Tgと排気温度指令値TgOとの偏差、および放電角度マップM3に基づいて放電角度Degの角度補正量DegHを算出する。ECU110は、制御部111の放電時期制御部111dによって、出力部113を介して放電角度Degを角度補正量DegHだけ遅角するように補正した後、点火時期制御行程Cを終了して、制御段階をステップS100(図2参照)へ繰り返し移行する。
【0073】
上記の如く、ガスエンジン制御装置100は、図6(a)に示すように、経時変化により点火プラグ16のプラグギャップが拡大した状態で混合気を燃焼させた場合の排気温度Tgと、経時変化前のプラグギャップが拡大していない状態で混合気を燃焼させた場合の排気温度Tgとが略同一になるよう放電時期制御を行う。これにより、図6(b)に示すように、経時変化により点火プラグ16のプラグギャップが拡大した状態で混合気を燃焼させた場合の混合気の燃焼時間である燃焼質量割合(10%−90%)(混合気中の燃料ガス質量の10%が燃焼してから90%が燃焼するまでクランク角度)が、経時変化前のプラグギャップが拡大していない状態で混合気を燃焼させた場合の燃焼質量割合(10%−90%)と略同一にすることができる。
【0074】
従って、図7(a)に示すように、放電角度DegをDeg0とするガスエンジン1は、経時変化により混合気の燃焼時間が短縮されることから、X時間運転後の排気温度Tgが排気温度指令値TgOからTgXに低下する。この際、燃焼時における燃焼室14の圧力、および温度は、経時変化による混合気の急速な燃焼によって、経時変化前の燃焼時における燃焼室14の圧力、および温度よりも高温、高圧になる。この結果、混合気中の酸素と窒素との反応が促進され、図7(b)に示すように、X時間運転後のガスエンジン1の排気に含まれるNOx濃度Dsは、目標NOx濃度DsTからDsXまで増加する。
ここで、ガスエンジン制御装置100は、図7(a)に示すように、排気温度TgがTgXから排気温度指令値TgOまで上昇するように、点火プラグ16の放電角度Degを遅角してDegXとする。これに伴い、X時間運転後の燃焼質量割合(10%−90%)が経時変化前の燃焼質量割合(10%−90%)と略同一になることで、混合気の燃焼時における燃焼室14の圧力、および温度が低下し、図7(b)に示すように、NOx濃度Dsは、DsXから目標NOx濃度DsTまで低下させることができる。
【0075】
続いて、図7(a)に示すように、放電角度DegをDegXとするガスエンジン1は、Y時間運転後の排気温度Tgが排気温度指令値TgOからTgYに低下する。この際、図7(b)に示すように、Y時間運転後のガスエンジン1の排気に含まれるNOx濃度Dsは、目標NOx濃度DsTからDsYまで増加する。
ここで、ガスエンジン制御装置100は、図7(a)に示すように、排気温度TgがTgYから排気温度指令値TgOまで上昇するように、放電角度Degをさらに遅角してDegYとする。これに伴い、Y時間運転後の燃焼質量割合(10%−90%)が経時変化前の燃焼質量割合(10%−90%)と略同一になることで、図7(b)に示すように、NOx濃度Dsは、DsYから目標NOx濃度DsTまで低下させることができる。
【0076】
よって、図8に示すように、ガスエンジン制御装置100は、各正味平均有効圧力(各エンジン出力)において、経時変化により点火プラグ16のプラグギャップが拡大しても、適正な空燃比の混合気が燃焼され、かつその排気温度Tgに基づいて放電角度Degが変更されるので、ガスエンジン1から排出されるNOx濃度は経時変化前と略同一に維持される。
【0077】
以上のごとく、本実施形態に係るガスエンジン制御装置100は、混合気温度Tmixを検出する混合気温度検出手段である混合気温度検出センサー130と、混合気圧力Pmixを検出する混合気圧力検出手段である混合気圧力検出センサー140と、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数検出手段であるエンジン回転数検出センサー120と、排気温度Tgを検出する排気温度検出手段である排気温度検出センサー150と、ガスエンジン1に駆動される負荷装置である発電機50に投入された負荷Ldからエンジン回転数指令値NeOを決定し、エンジン回転数Neとエンジン回転数指令値NeOとの偏差に基づいてスロットル弁23の開度を制御するエンジン回転数制御手段であるエンジン回転数制御部111bと、負荷Ld、およびエンジン回転数指令値NeOから混合気流量指令値QmixOを決定し、混合気温度Tmix、混合気圧力Pmix、エンジン回転数Ne、に基づいて粘度補正実混合気流量QmixRを算出し、混合気流量指令値QmixOと粘度補正実混合気流量QmixRとの偏差に基づいて燃料ガス制御弁42の開度を制御する混合気流量制御手段である混合気流量制御部111cと、混合気流量指令値QmixOから排気温度指令値TgOを決定し、排気温度指令値TgOと排気温度Tgとの偏差に基づいて点火プラグ16が放電する時期を制御する放電時期制御手段である放電時期制御部111dと、を具備するものである。
【0078】
このように構成することにより、燃料ガス制御弁42の開度FvOを制御することで粘度補正実混合気流量QmixRを制御するともに、、排気温度Tgが所定の温度になるように放電時期である放電角度Degを調整することで、混合気の燃焼時間である燃焼質量割合(10%−90%)を一定の値に制御することができる。この結果、経時変化によって混合気への点火性が向上したり、圧縮行程における燃焼室14の温度が上昇したりしても、混合気の燃焼時における燃焼室14の圧力、および温度の上昇が抑制される。これにより、ガスエンジン1から排出されるNOx濃度を目標NOx濃度DsTに維持することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 ガスエンジン
23 スロットル弁
42 燃料ガス制御弁
50 発電機
100 ガスエンジン制御装置
120 エンジン回転数検出センサー
130 混合気温度検出センサー
140 混合気圧力検出センサー
150 排気温度検出センサー
Ne エンジン回転数
Tmix 混合気温度
Pmix 混合気圧力
Tg 排気温度
Ld 負荷
TgO 排気温度指令値
LdO エンジン出力指令値
NeO エンジン回転数指令値
GsO 燃料ガス流量指令値
QmixO 混合気流量指令値
QmixR 粘度補正実混合気流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気温度を検出する混合気温度検出手段と、
混合気圧力を検出する混合気圧力検出手段と、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
排気温度を検出する排気温度検出手段と、
エンジンに駆動される負荷装置に投入された負荷からエンジン回転数指令値を決定し、検出されたエンジン回転数と決定されたエンジン回転数指令値との偏差に基づいてスロットル弁の開度を制御するエンジン回転数制御手段と、
前記負荷装置に投入された負荷、および決定されたエンジン回転数指令値から混合気流量指令値を決定し、検出された混合気温度、検出された混合気圧力、検出されたエンジン回転数、に基づいて実混合気流量を算出し、決定された混合気流量指令値と算出された実混合気流量との偏差に基づいて燃料ガス制御弁の開度を制御する混合気流量制御手段と、
決定された混合気流量指令値から排気温度指令値を決定し、決定された排気温度指令値と検出された排気温度との偏差に基づいて点火プラグが放電する時期を制御する放電時期制御手段と、
を具備するガスエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−127544(P2011−127544A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287906(P2009−287906)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】