説明

ガスセンサの製造方法

【課題】ガス検知層が剥離することを防止し、特定ガスの濃度変化を良好に検知するガスセンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】まず、検知電極形成工程にて、基体15上にガス検知層4における電気的特性の変化を検出するための検知電極6を形成し、続く薄膜形成工程にて、ガス検知層4の主成分をなす金属元素からなる薄膜を、検知電極6を覆うよう形成する。その後、密着層形成工程において、薄膜形成工程にて形成された薄膜を酸素雰囲気中で熱処理して酸化し、薄膜を形成する金属粒子が成長した粗い凹凸を有する密着層7を形成する。その後、ガス検知層形成工程にて、密着層形成工程において形成された密着層7上に、ガス検知層4を形成する。以上の製造方法で形成したガスセンサ1は、アンカー効果により、密着層7を介して基体15とガス検知層4との密着性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を有するガスセンサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化スズ(SnO)等の金属酸化物半導体に、プラチナ等の貴金属を触媒として担持させ、被検知ガスによって電気的特性(例えば、抵抗値)が変化することを利用して、被検知ガスの濃度変化を検知するガスセンサが知られている。このようなガスセンサのガス検知層は、その製造工程において、貴金属元素を含む溶液中に金属酸化物半導体粉末を含浸させた後、焼成することにより、貴金属を金属酸化物半導体表面上に分散させた状態で担持させている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、金属酸化物半導体に触媒として塩基性金属酸化物を担持させたガス検知層を用いると、硫化水素やメルカプタン類などに起因すると思われる各種の臭い(特に悪臭)に対して高いガス感度を示すことが知られている(例えば特許文献2参照)。しかし、塩基性金属酸化物は電気抵抗値が高く、特許文献1のように金属酸化物半導体粉末に塩基性金属酸化物を触媒として担持させた場合、ガス検知層自体の電気抵抗値が高くなり、ガスセンサの回路設計は困難となる。そこで、金属酸化物半導体粉末よりなるガス検知層を焼結させた後にその焼結体(ガス検知層)の表面上に塩基性金属酸化物を担持すれば、ガス検知層の電気抵抗値の増加を抑制することができる(例えば特許文献3参照)。
【0004】
一方、このようなガスセンサのガス検知層は、常温では被検知ガスと反応せず、例えば200〜400℃に加熱されることで活性化されて被検知ガスに反応することから、ガス検知層が形成される半導体基板等の基体内に発熱抵抗体が設けられるのが一般的である。しかしながら、発熱抵抗体を用いてガスセンサを高温で駆動した場合、ガス検知層と基体との熱膨張差に起因して界面での剥離が生ずるおそれがある。また、このようなガスセンサでは、高信頼性を得るために、ガス検知層と基体との機械的な密着強度を高めることも当然に求められる。そこで、ガス検知層と基体との間に、密着層を形成するものが種々提案されている。例えば、厚膜金属酸化物半導体被膜とセラミック基板との境界領域に凹凸状のアルミナ結晶を用いて付着強度を向上させているセラミック基板(例えば特許文献4参照)や、発熱抵抗体が付与された基板上に金属酸化物半導体製のガス検知層を設ける際に、基板上にガス検知層と同じ金属酸化物半導体製の下地層を形成しつつ、ガス検知層と導通する電極およびリード部の一部を下地層の端部上に形成した上で、これら電極およびリード部の一部を介してガス検知層と下地層とを接触させたガスセンサが提案されている(例えば特許文献5参照)。
【特許文献1】特開昭63−279150号公報
【特許文献2】特公平6−27719号公報
【特許文献3】特公平5−51096号公報
【特許文献4】特開平1−132947号公報
【特許文献5】欧州特許第1192452号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4において提案されたセラミック基板では、アルミナ結晶を形成するためには900℃以上の高温の熱処理が必要である。また、ガス検知層の剥離は、ガス検知層の端部から生じることが多いが、特許文献5に提案されたガスセンサでは、下地層の端部上に電極およびリード部の一部が位置するため、ガス検知層の端部と下地層との接触が良好に確保できず、ガスセンサの長期間の使用によりガス検知層の端部から剥離が生じる可能性が高いものであった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガス検知層が剥離することを防止し、特定ガスの濃度変化を良好に検知するガスセンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明のガスセンサの製造方法は、基体上に形成されるとともに、被検知ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を有するガスセンサの製造方法において、前記基体上に、前記ガス検知層における電気的特性の変化を検出するための検知電極を形成する検知電極形成工程と、前記検知電極形成工程後に行われ、前記ガス検知層の主成分をなす金属元素からなる薄膜を、前記検知電極を覆うよう形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程において形成された前記薄膜を酸素雰囲気中で熱処理して酸化し、凹凸を有する密着層を形成する密着層形成工程と、前記密着層形成工程において形成された前記密着層上に、前記ガス検知層を形成するガス検知層形成工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明のガスセンサの製造方法によれば、薄膜形成工程及び密着層形成工程を検知電極形成工程後に行い、検知電極を覆うように密着層を形成しているため、密着層とガス検知層との間に検知電極が介在することがなくなり、ガス検知層の基体に対向する側の対向面のうち周縁部(端部)を含めた略全面を密着層に接触させることができる。また、密着層形成工程において、薄膜形成工程にて形成した薄膜を酸素雰囲気中で熱処理して酸化して、密着層を構成する金属の粒子径を大きくしているため、密着層の凹凸を効果的に得ることができ、その凹凸によるアンカー効果により、密着層とガス検知層との密着性をより向上させることができる。これにより、基体に対するガス検知層の密着性を高め、剥離を防止したガスセンサを確実に製造することができる。また、良好なガス感度を有するガスセンサを得るには、ガス感度に重要な役割を果たすガス検知層に過剰な熱処理を加えないことが望ましいが、本発明においては、ガス検知層の製造工程は密着層形成工程後に行えばよく、過剰な熱処理を加えることを回避することができる。このため、特定ガスの濃度変化を良好に検知するガスセンサを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体化したガスセンサの一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1乃至図4を参照して、ガスセンサ1の構造について説明する。図1は、ガスセンサ1の平面図であり、図2は、ガスセンサ1の図1に示すA−A線における矢視方向断面図である。また、図3は、ガスセンサ1が備える発熱抵抗体5の平面図であり、図4は、ガスセンサ1の図1に示すB−B線における矢視方向断面図である。尚、図2において、上下方向を上下方向と言い、図1乃至4において、左右方向を左右方向と言う。
【0010】
ガスセンサ1は、図1に示すように、縦が2.6mm、横が2mmの矩形状の平面形状を有するガスセンサであり、図2に示すように、シリコン基板2の上面に絶縁被膜層3が形成され、この絶縁被膜層3には、発熱抵抗体5が内包されるとともに、その上面には密着層7およびガス検知層4が形成された構造を有する。ガス検知層4は、被検知ガス中の特定ガスによって自身の抵抗値が変化する性質を有する。ここで、本ガスセンサ1では、二酸化スズに0.2重量%の酸化カルシウムを触媒として含有させてガス検知層4が設けられており、このガス検知層4を用いて被検知ガス中のアンモニア(NH)、硫化水素(HS)、二硫化メチル((CH)、メチルメルカプタン(CHSH)、トリメチルアミン((CH)N)などの特定ガスを検知するように構成されている。なお、本発明における「検知」とは、被検知ガスに含まれる特定ガスの有無を検知するのみならず、当該特定ガスの濃度変化を検知することも含む趣旨である。また、シリコン基板2が、本発明における「半導体基板」に相当し、シリコン基板2および絶縁被膜層3が、本発明における「基体」に相当する。以下、ガスセンサ1を構成する各部材について詳述する。
【0011】
シリコン基板2は、所定の厚みを有するシリコン製の平板である。また、図2に示すように、シリコン基板2の下面はシリコン基板2の一部が除去され、絶縁層31の一部が隔壁部39として露出された開口部21が形成されている。即ち、ガスセンサ1では、開口部21を有するシリコン基板2と絶縁被膜層3とにより、ダイヤフラム構造を有する基体15をなすものである。この開口部21は、隔壁部39の位置が、開口部21の開口側から平面視したとき、絶縁層33,34内に埋設された発熱抵抗体5が配置される位置となるように形成されている。
【0012】
絶縁被膜層3は、シリコン基板2の上面に形成された絶縁層31,32,33,34および保護層35から構成される。シリコン基板2の上面に形成された絶縁層31は、所定の厚みを有する酸化ケイ素(SiO)膜であり、この絶縁層31の下面の一部は、シリコン基板2の開口部21に露呈している。また、この絶縁層31の上面に形成された絶縁層32は、所定の厚みを有する窒化ケイ素(Si)膜であり、この絶縁層32の上面に形成された絶縁層33は、所定の厚みを有する酸化ケイ素(SiO)膜である。この絶縁層33の上面には、後述する発熱抵抗体5および、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12の他、絶縁層34が形成されている。この絶縁層34は、所定の厚みを有する酸化ケイ素(SiO)膜である。この絶縁層34の上面には、所定の厚みを有する窒化ケイ素(Si)膜からなる保護層35が形成されている。この保護層35は、後述する発熱抵抗体5および、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12を覆うように配設されることでこれらの汚染や損傷を防ぐ役割を果たす。
【0013】
発熱抵抗体5は、シリコン基板2の開口部21の上部に対応する部位であって、絶縁層33と絶縁層34の間に、平面視渦巻き状に形成されている(図3参照)。また、絶縁層33と絶縁層34との間には、発熱抵抗体5に接続され、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12が埋設されており、図1および4に示すように、このリード部12の末端にて、外部回路と接続するための発熱抵抗体コンタクト部9が形成されている。発熱抵抗体5およびリード部12は、白金(Pt)層とタンタル(Ta)層とから構成された2層構造を有する。また、発熱抵抗体コンタクト部9は、白金(Pt)層とタンタル(Ta)層とから構成された引き出し電極91の表面上に、金(Au)からなるコンタクトパッド92が形成された構造を有する。尚、発熱抵抗体コンタクト部9は、ガスセンサ1に一対設けられている。
【0014】
保護層35の上面には、検知電極6と、検知電極6に通電するためのリード部10(図1および図4参照)とが、それぞれシリコン基板2と平行な同一平面上に形成されている。この検知電極6は、発熱抵抗体5上に位置するように設置されるとともに、櫛歯状の平面形状を有し、ガス検知層4における電気的特性の変化を検出するための一対の電極である。この検知電極6およびリード部10は、発熱抵抗体コンタクト部9の引き出し電極91と同様に、保護層35の上に形成されるタンタル(Ta)層と、その表面上に形成された白金(Pt)層とから構成されている。また、図1および4に示すように、リード部10の末端には、その表面上に金(Au)からなるコンタクトパッド11が形成され、外部回路と接続するための酸化物半導体コンタクト部8として構成されている。尚、酸化物半導体コンタクト部8は、図1および図4に示すように、ガスセンサ1に一対設けられている。
【0015】
本発明の重要な構成要素である密着層7は、基体15とガス検知層4との間の密着性を向上させるための薄膜である。この密着層7は、ガス検知層4の主成分をなす金属元素を用いて形成した層からなる。また、密着層7は、後述する密着層形成工程において、ガス検知層の主成分をなす金属元素からなる薄膜を酸素雰囲気中で熱処理して酸化することにより、当該金属の粒径を成長させて形成される。このため、酸素雰囲気中で熱処理する前の薄膜に比べ、熱処理後の密着層は粗い凹凸を有し、密着層7を介したガス検知層4と基体15との密着性は、凹凸によるアンカー効果により向上している。
【0016】
この密着層7は、検知電極6を覆うように形成され、図2に示す縦断面図のように、検知電極6とガス検知層4との間に形成されている。ここで、ガス検知層4と密着層7との熱膨張係数が異なる場合には、発熱抵抗体5に加熱された場合に熱膨張係数の違いから剥離が生じやすくなるが、本発明の密着層7は、前述の通りガス検知層4の主成分をなす金属元素を用いて形成され、ガス検知層4および密着層7の熱膨張係数は、ほぼ等しい値である。このため、ガス検知層4および密着層7の熱膨張係数の相違に起因する剥離を防ぐことができる。さらに、ガス検知層4が剥離する場合には、ガス検知層4の端部から剥離することが多いが、本実施形態の密着層7は、検知電極6を覆っており、その上面においてガス検知層4の端部を含む下面の略全面と接しているため、ガス検知層4の端部から剥離することを、より確実に防止することができる。
【0017】
[実施例1]
次に、実施例1として、上記構造を有するガスセンサ1の製造工程を、図5乃至図17を参照して説明する。尚、作製途中のガスセンサ1の中間体を、基板と称する。図5は、洗浄後のシリコン基板2の断面図であり、図6は、図5に示すシリコン基板2の上面に絶縁層31を形成した後の基板である基板201の断面図であり、図7は、図6に示す基板201の上面に絶縁層32を形成した後の基板である基板202の断面図である。また、図8は、図7に示す基板202の上面に絶縁層33を形成した後の基板である基板203の断面図であり、図9は、図8に示す基板203の上面に発熱抵抗体5およびリード部12を形成した後の基板である基板204の断面図であり、図10は、図9に示す基板204の上面に絶縁層34を形成した後の基板である基板205の断面図である。また、図11は、図10に示す基板205の上面に保護層35を形成した後の基板である基板206の断面図であり、図12は、図11に示す基板206に発熱抵抗体コンタクト部9の開口の形成後、本発明における検知電極形成工程を行った後の基板である基板207の断面図であり、図13は、図12に示す基板207に、コンタクトパッド11,92の形成した後、開口部21を形成した基板である基板208の断面図である。また、図14は、図13に示す基板208の上面に、本発明における薄膜形成工程にて薄膜107を形成した後の基板である基板209の断面図であり、図15は、図14に示す基板209を、本発明における密着層形成工程において焼成した後の基板である基板210の断面図である。また、図16は、図15に示す基板210を所定の大きさに切断した後の基板である基板211の断面図であり、図17は、図16に示す基板211の上面に、本発明におけるガス検知層形成工程にて酸化物半導体ペーストからなるペースト層104を形成した後の基板である基板212断面図である。
【0018】
(1) シリコン基板2の洗浄
まず、図5に示すような厚みが400μmのシリコン基板2を洗浄液中に浸し、洗浄処理を行った。
【0019】
(2) 絶縁層31の形成
上記シリコン基板2を熱処理炉に入れ、図6に示すように、熱酸化処理にて厚さが100nmの酸化ケイ素(SiO)膜からなる絶縁層31をシリコン基板2の全面に形成した。
【0020】
(3) 絶縁層32の形成
次に、LP−CVDにてジクロルシラン(SiHCl)、アンモニア(NH)をソースガスとし、図7に示すように、絶縁層31の表面上に、厚さが200nmの窒化ケイ素膜(Si)膜からなる絶縁層32を形成した。
【0021】
(4) 絶縁層33の形成
次に、プラズマCVDにてテトラエトキシシラン(TEOS)、酸素(O)をソースガスとし、図8に示すように、絶縁層32の表面上に厚さが100nmの酸化ケイ素(SiO)膜からなる絶縁層33を形成した。
【0022】
(5) 発熱抵抗体5およびリード部12の形成
その後、DCスパッタ装置を用い、絶縁層33の表面上に厚さ20nmのタンタル(Ta)層を形成し、その層上に厚さ220nmの白金(Pt)層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理にて、図9に示すように、発熱抵抗体5およびリード部12のパターンを形成した。
【0023】
(6) 絶縁層34の形成
そして、(4)と同様に、プラズマCVDにてテトラエトキシシラン(TEOS)、酸素(O)をソースガスとし、絶縁層33,発熱抵抗体5およびリード部12の表面上に厚さが100nmの酸化ケイ素(SiO)膜からなる絶縁層34を形成した。このようにして、図10に示すように、厚さ200nmの絶縁層34内に発熱抵抗体5およびリード部12を埋設した。
【0024】
(7) 保護層35の形成
さらに、(3)と同様に、LP−CVDにてジクロルシラン(SiHCl)、アンモニア(NH)をソースガスとし、図11に示すように、絶縁層34の上面に、厚さが200nmの窒化ケイ素(Si)膜からなる保護層35を形成した。
【0025】
(8) 発熱抵抗体コンタクト部9の開口の形成
次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ドライエッチング法で保護層35および絶縁層34のエッチングを行い、発熱抵抗体コンタクト部9を形成する部分に穴をあけ、リード部12の末端の一部を露出させた。
【0026】
(9) 検知電極6,リード部10および引き出し電極91の形成
次に、DCスパッタ装置を用い、保護層35の表面上に厚さ20nmのタンタル(Ta)層を形成し、さらにその表面上に厚さ40nmの白金(Pt)層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理にて、図12に示すように、櫛歯状の平面形状を有する検知電極6,リード部10および引き出し電極91のパターンを形成した。尚、本工程が、本発明における検知電極形成工程に相当する。
【0027】
(10) コンタクトパッド11,92の形成
そして、DCスパッタ装置を用い、上記電極部分の作製された基板207の電極側の表面上に、厚さ400nmの金(Au)層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理でコンタクトパッド11,92を形成した。
【0028】
(11) 開口部21の形成
次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、マスクとなる絶縁膜をドライエッチング処理により形成した。そして水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液中に基板を浸し、シリコン基板2の異方性エッチングを行うことで、下面が開口され、図13に示すように、発熱抵抗体5の配置位置に対応する部分の絶縁層31の隔壁部39となる部分が露出されるように、開口部21を形成した。
【0029】
(12) 薄膜107の形成
櫛歯状の検知電極間およびその周囲の保護層35上に、RFスパッタ装置を用いて、図14に示すように、厚さ200nmのスズ(Sn)からなる薄膜107を形成した。尚、本工程が、本発明における薄膜形成工程に相当する。
【0030】
(13) 密着層7の形成
上記スズ(Sn)層を550℃、3時間、酸素(O)雰囲気中にて焼成し、図15に示すように、密着層7を形成した。尚、本工程が、本発明における密着層形成工程に相当する。
【0031】
(14) 基板210の切断
ダイシングソーを用いて基板210を切断し、図16に示すように、2.6mm×2mmの矩形の平面形状を有する大きさの基板211を得た。
【0032】
(15) ガス検知層4の形成
さらに、密着層7の表面上に、酸化スズを主成分とし、酸化カルシウムを添加した酸化物半導体ペーストを厚膜印刷により塗布し、図17に示すように、厚さ30μmのペースト層104を形成した。尚、酸化物半導体ペーストは以下の手順により作製した。まず、純水に塩化スズ(SnCl)を加え、十分に撹拌して溶解させた後、アンモニア水を滴下して、水酸化スズを析出させた。その後、沈殿粉末を純水で数回洗浄してアンモニウムイオンおよび塩素イオンを除去し、乾燥させた。乾燥後、純水に沈殿粉末と水酸化カルシウム(Ca(OH))を分散させ、十分に攪拌させた後、乾燥させた。このときの、水酸化カルシウムの添加量は、酸化カルシウム(CaO)換算で0.2重量%となるように添加した。乾燥後、800℃、5時間の条件で焼成し、得られた粉末5gをらいかい機で1時間粉砕後、有機溶剤を混合し、らいかい機(もしくはポットミルでもよい)で4時間粉砕した。さらにバインダーおよび粘度調製剤を添加して4時間粉砕を行い、25℃にて粘度140Pa・sのペーストに調製した。尚、本工程および後段の「(16) 基板212の焼成」が、本発明におけるガス検知層形成工程に相当する。
【0033】
(16) 基板212の焼成
基板212を熱処理炉に挿入し、650℃で1時間の焼成条件にて焼成した。当該処理により、図2に示すガスセンサ1が完成する。
【0034】
次に、上記製造工程に従ってガスセンサ1を作製した本発明の効果を確認するため、以下に示す評価および検証を行った。以下、各評価の結果について、図18乃至図23を参照して説明する。図18は、密着層7形成後の密着層7の表面を走査電子顕微鏡により拡大して撮影した写真であり、図19は、密着層7形成後の密着層7の縦断面を走査電子顕微鏡により拡大して撮影した断面写真である。また、図20は、評価2及び評価3の評価結果を示す表であり、図21は、比較例の基体の表面のうち、検知電極近傍を撮影した写真であり、図22は、ガスセンサ1表面のうち、検知電極6近傍を撮影した写真である。また、図23は、高さ150cmの条件の落下試験後のガスセンサ1の表面のうち、検知電極近傍を撮影した写真である。
【0035】
[評価1]
まず、上述の製造工程において、「(13) 密着層7の形成」後の密着層7の表面および縦断面を走査電子顕微鏡(SEM)により5万倍の倍率で撮影した。図18の写真に示すように、密着層7形成後の密着層7の表面には、酸化スズからなる粒子径数百nmの粒子が基体一面に配置され、薄膜を形成していることが確認できる。焼成前のスズの粒子径は通常数十nmであることから、「(13) 密着層7の形成」において、スズ(Sn)層を550℃、3時間、酸素(O)雰囲気中の条件にて焼成することにより、スズ(Sn)が酸化され、粒子が成長したことが確認された。一方、図19に示す断面写真のように、密着層7の表面には酸化スズ粒子による凹凸が確認された。このため、このような凹凸を有する密着層7の表面にガス検知層4を形成することにより、密着層7(下層)とガス検知層4(上層)との界面は複雑に入り組むため、密着層7とガス検知層4とをより強固に密着させることが可能である。
【0036】
[評価2]
次に、本発明に係る密着層7を有するガスセンサ1と、比較例として、密着層を有さず、検知電極を覆うように平坦な基板上にガス検知層が形成されたことを除いて、ガスセンサ1と同様な構成を有するガスセンサとについて、上述の製造工程に従って各ガスセンサ10個ずつ作製し、「(16) 基板の焼成」後にガス検知層の剥離又はクラックが生じているか否かを確認した。尚、比較例のガスセンサは、密着層を有しないため、上述の製造工程の「(12) 薄膜の形成」および「(13) 密着層7の形成」は省略して作製した。この評価2の結果を図20に示す。
【0037】
まず、図20に示す表の「表面状態」について、本実施例のガスセンサ1は、凹凸を有する密着層7上にガス検知層4が形成されているため、ガス検知層4と密着層7との接触面は凹凸状になっている。一方、比較例のガスセンサは、検知電極及び平坦な基体上にガス検知層が形成されているため、ガス検知層と検知電極との接触面及び、ガス検知層と基体との接触面は平坦である。
【0038】
次に、図20に示す表の「焼成後の剥離・クラック数」において、各ガスセンサについて、「(16) 基板の焼成」後にガス検知層の剥離又はクラックが生じているか否かを確認した。図20中、下段に「焼成後にガス検知層が剥離又はクラックした試料数/評価に供した試料数」を示し、上段に「○」(可)又は「×」(不可)の判定結果を示している。図20に示すように、密着層を有しない比較例においては、評価に供した10個中10個全てのガスセンサが、図21の比較例の基体の表面のうち検知電極近傍を撮影した写真のように、焼成後にガス検知層が基体から完全に剥離してしまったり、ガス検知層にクラックが生じたりしていた。一方、密着層7を有する本実施例のガスセンサ1は、評価に供した10個のガスセンサ1中、ガス検知層4が基体15から剥離したり、ガス検知層4にクラックが生じたりしたガスセンサは1つもなく、図22のガスセンサ1の表面のうち検知電極6近傍を撮影した写真のように、ガス検知層4が所定の位置に形成された。以上より、ガス検知層と基体との間に本実施例の密着層を設けることにより、ガス検知層にクラックを生じさせることなく、ガス検知層と基体とを密着させることができることが確認された。
【0039】
[評価3]
次に、上述の製造方法にて作製したガスセンサ1について、落下試験を行った。この評価3では、上述の製造方法にて作製したガスセンサ1を10個用意し、各ガスセンサについて、図20の表に示す高さから3回ずつ自然落下させた後、ガス検知層が剥離したり、ガス検知層にクラックが生じたりしていないかを確認した。尚、評価2の比較例は、焼成後の段階で剥離又はクラックが生じているため、落下試験を行うことができなかった。
【0040】
図20中、評価結果は、「落下試験後にガス検知層が剥離又はクラックした試料数/評価に供した試料数」のように記載している。図20に示すように、150cmの高さから3回落下させた後においても、ガス検知層4が剥離したり、ガス検知層4にクラックが生じたりしていたガスセンサ1は1つもなく、全ての条件においてガス検知層4の剥離やクラックは確認されなかった。また、図22に示す、ガスセンサ1表面のうち検知電極近傍を撮影した写真(評価試験前の条件)と、図23に示すガスセンサ1が備えるガス検知層4の近傍の拡大写真とを比較すると、評価試験前後で、両者の外観は変わらず、落下試験後もガス検知層4と基体15との密着性は良好に維持されていたことが確認された。この結果から、本実施例の密着層を有するガスセンサ1は、150cmの高さから3回落下させた条件においても、ガス検知層4と基体15との密着性を良好に維持することができるため、振動が生じる場所や、衝撃が加わる場所に設置しされた場合にも、ガス検知層4が基体15から剥離したり、ガス検知層にクラックが生じたりすることを防ぐことができることが示唆された。
【0041】
以上詳述した、本実施例の製造方法により製造したガスセンサ1よれば、検知電極形成工程後に行う薄膜形成工程及び密着層形成工程において、検知電極6を覆うように密着層7を形成しているため、密着層7とガス検知層4との間に検知電極6が介在することがなくなり、ガス検知層4の基体15に対向する側の対向面のうち周縁部(端部)を含めた略全面を密着層に密着させることができる。また、密着層形成工程において、薄膜形成工程にて形成した薄膜107を酸素雰囲気中で熱処理して酸化し、密着層7を構成するスズ(Sn)の粒子径を大きくしている。このため、薄膜107を熱処理しない場合に比べ、酸化スズ粒子により形成される凹凸によるアンカー効果を向上させることができ、密着層7とガス検知層4との間の密着性を向上させることができる。したがって、基体15とガス検知層4との間の密着性を高め、剥離を防止したガスセンサ1を確実に製造することができる。さらに、発熱抵抗体5は、シリコン基板2に形成された開口部21に対応する位置に形成されるため、ガス検知層4を効率よく加熱して活性化することができ、被検知ガス中の特定ガスの濃度変化を良好に検知することができる。また、実施例1では、密着層形成工程において、550℃の条件で基板を焼成すればよく、密着層としての役割を果たすアルミナ結晶を形成するためには900℃以上の高温の熱処理を要する従来技術のように、基板に高温の熱処理を加えることを回避することができる。このため、特定ガスの濃度変化を良好に検知するガスセンサ1を製造することができる。
【0042】
尚、本発明は上記実施の形態に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、基体15をなすシリコン基板2はシリコンにより作製したが、アルミナ(Al)や半導体材料から作製してもよい。また、作製されたガスセンサ1の平面形状は矩形に限らず、多角形や円形であってもよく、その大きさ、厚み、各部材の配置も限定されるものではない。
【0043】
また、絶縁被膜層3は酸化ケイ素および窒化ケイ素からなる複層構造としたが、酸化ケイ素又は窒化ケイ素からなる単層構造としてもよい。また、本実施の形態では、絶縁層33,34内に発熱抵抗体5を埋設させたが、これに限定されない。例えば、絶縁層32内に発熱抵抗体5を埋設させるようにしてもよい。
【0044】
また、ガス検知層4は、主成分として金属酸化物半導体である酸化スズを用いたが、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化チタン(TiO)、酸化バナジウム(VO2)など、その他の金属酸化物半導体を用いてもよい。また、金属酸化物半導体に添加する塩基性金属酸化物としては、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ベリリウム(Be)などのアルカリ土類金属の酸化物、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)などのアルカリ金属の酸化物、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、その他、ランタノイド系元素などの希土類の酸化物を用いてもよい。同様に、密着層7の材料は、本実施例に用いたスズに限定されず、ガス検知層4の主成分をなす金属元素を採用すればよい。
【0045】
また、上述の実施例1では、密着層7の形成に際して、スズ(Sn)層を550℃、3時間、酸素(O)雰囲気中にて焼成するようにしていたが、これに限定されず、密着層7の材料により、反応時間や温度は適宜変更可能である。また、密着層7の形状や厚みは、密着層7に用いる材料や所望の密着強度、あるいは、検知電極6やガス検知層4の形状等を考慮して、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、半導体式ガスセンサに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ガスセンサ1の平面図である。
【図2】ガスセンサ1の図1に示すA−A線における矢視方向断面図である。
【図3】ガスセンサ1の発熱抵抗体5の平面図である。
【図4】ガスセンサ1の図1に示すB−B線における矢視方向断面図である。
【図5】洗浄後のシリコン基板2の断面図である。
【図6】図5に示すシリコン基板2の上面に絶縁層31を形成した後の基板である基板201の断面図である。
【図7】図6に示す基板201の上面に絶縁層32を形成した後の基板である基板202の断面図である。
【図8】図7に示す基板202の上面に絶縁層33を形成した後の基板である基板203の断面図である。
【図9】図8に示す基板203の上面に発熱抵抗体5およびリード部12を形成した後の基板である基板204の断面図である。
【図10】図9に示す基板204の上面に絶縁層34を形成した後の基板である基板205の断面図である。
【図11】図10に示す基板205の上面に保護層35を形成した後の基板である基板206の断面図である。
【図12】図11に示す基板206に発熱抵抗体コンタクト部9の開口の形成後、本発明における検知電極形成工程を行った後の基板である基板207の断面図である。
【図13】図12に示す基板207にコンタクトパッド11,92の形成した後、開口部21を形成した基板である基板208の断面図である。
【図14】図13に示す基板208の上面に、本発明における薄膜形成工程にて薄膜107を形成した後の基板である基板209の断面図である。
【図15】図14に示す基板209を、本発明における密着層形成工程において焼成した後の基板である基板210の断面図である。
【図16】図15に示す基板210を所定の大きさに切断した後の基板である基板211の断面図である。
【図17】図16に示す基板211の上面に、本発明におけるガス検知層形成工程にて酸化物半導体ペーストからなるペースト層104を形成した後の基板である基板212断面図である。
【図18】密着層7形成後の密着層7の表面を走査電子顕微鏡により拡大して撮影した写真である。
【図19】密着層7形成後の密着層7の縦断面を走査電子顕微鏡により拡大して撮影した断面写真である。
【図20】評価2及び評価3の評価結果を示す表である。
【図21】比較例の基体の表面のうち、検知電極近傍を撮影した写真である。
【図22】ガスセンサ1の表面のうち、検知電極近傍を撮影した写真である。
【図23】高さ150cmの条件の落下試験後のガスセンサ1の表面のうち、検知電極近傍を撮影した写真である。
【0048】
1 ガスセンサ
2 シリコン基板
3 絶縁被膜層
4 ガス検知層
6 検知電極
7 密着層
15 基体
31,32,33,34 絶縁層
35 保護層
107 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に形成されるとともに、被検知ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を有するガスセンサの製造方法において、
前記基体上に、前記ガス検知層における電気的特性の変化を検出するための検知電極を形成する検知電極形成工程と、
前記検知電極形成工程後に行われ、前記ガス検知層の主成分をなす金属元素からなる薄膜を、前記検知電極を覆うよう形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜形成工程において形成された前記薄膜を酸素雰囲気中で熱処理して酸化し、凹凸を有する密着層を形成する密着層形成工程と、
前記密着層形成工程において形成された前記密着層上に、前記ガス検知層を形成するガス検知層形成工程と
を有することを特徴とするガスセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−333676(P2007−333676A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168689(P2006−168689)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】