説明

ガスセンサ及びガスセンサの製造方法

【課題】製造時に効率よくセンサチップをセンサベースに固定することができるガスセンサを提供することにある。
【解決手段】センサベース5と、センサベース5の主表面に対してその主表面が垂直になっている加熱型センサチップ1を備えたガスセンサであり、別の態様として、センサベース5と、加熱型センサチップ1と、前記センサチップ1に接続された複数のワイヤ2と、前記センサベース5に一列又は二列に立設され、前記ワイヤ2を介してセンサチップ1を保持する複数のピン3とを備えたガスセンサであり、前記ガスセンサにおいて前記加熱型センサチップ1を覆うセンサカバーを備えたこと、又は前記センサベースの主表面が方形であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱型センサに関し、詳しくは高密度実装が容易でかつ生産性の高いセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に存在するガスの濃度を検知する手法としては、酸化スズなどの金属酸化物半導体からなるセンサチップを用いればよいことが知られている。
【0003】
センサチップとしてはバルクタイプや厚膜タイプのセンサが製造されており、最近では生産性の良さから厚膜タイプのセンサに重点が置かれている。検知材料としては酸化スズがもっとも一般的であり、スクリーン印刷法などによりアルミナ基板上に形成して製造される。
【0004】
このようなセンサチップの裏面には検知部を過熱するためのヒータが設けられており、センサチップは通常200℃以上(300℃〜500℃)の高温に加熱して用いられる。このため、センサチップは回路基板に直接実装することができないので、空中に吊るして使われる。
【0005】
たとえば特許文献1に記載のセンサチップは、センサ面がセンサベースと平行になるように配置され、ワイヤ等によりセンサチップとピンとが固定され、センサチップは空中に吊された構造になっている。更に、センサチップを保護するために円柱状又は半球状のセンサキャップをかぶせた構造も開示されている。したがって、このようなセンサチップを回路基板に実装する場合には、基板を同心円状にピン穴加工しなければならない。しかし、基板を同心円状にピン穴加工することは、スペース的にも無駄が多く電子回路を製造する上でも問題になっている。
【0006】
また、センサチップは表面に検知部、裏面にヒータが形成されているため、センサチップを吊るすにはチップの表面と裏面からワイヤを取り出し固定する必要がある。ワイヤを固定する方法としては、溶接法などが用いられるが、センサチップを空中に固定したまま両面にワイヤを溶接することは非常に難しく、チップとピンの位置ズレやワイヤの断線などにより製造工程の歩留まりも悪い。
【0007】
このような問題を解決するために特許文献2では、チップの表面と裏面の電極パッドをスルーホールで結合し、チップの主面にワイヤと結合部を集結させる方法が開示されている。しかしながら、この方法でもピンとチップを連続して溶接、固定することは困難であり、生産性が大きく改善されるとはいえない。また、スルーホールを均一に形成することも技術的には難しく、抵抗値の不均一や場合によっては断線に至ることもある。
【0008】
そして、そのような不良箇所を工程の中で検査・選別することは現実的には困難である。本来、加熱型センサの一例として用いられるガスセンサは不完全燃焼の検知やガス漏れ検知など人命に関わるところで用いられるものであり、このような不具合は重大な事故につながる可能性もある。こうしたことから断線がなく安心して製造でき、さらに、生産性の高いセンサの開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開平6−258266号公報
【特許文献2】特開平8−94563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、上述の事情を背景にしてなされたものであり、その課題は製造時に効率よくセンサチップをセンサベースに固定することができる加熱型センサを提供することであり、もう一つの課題は、高密度にセンサチップを回路基板に実装することにより小型化された加熱型センサを提供することにある。
【0011】
また、他の課題として、上記の加熱型センサを製造するために用いることが可能なガスセンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明者らは、生産性や実装密度を向上すべく鋭意検討した。即ち、上記課題を解決するガスセンサは、センサベースと、センサベースの主表面に対してその主表面が垂直になっている加熱型センサチップとを備えたことを特徴とする。また、別の態様として、ガスセンサが、センサベースと、加熱型センサチップと、前記センサチップに接続された複数のワイヤと、前記センサベースに一列又は二列に立設され、前記ワイヤを介してセンサチップを保持する複数のピンとを備えたことを特徴とする。センサベースにピンを直線的に立設することにより、センサの生産性が大幅に改善できる。
【0013】
上記の態様において、前記加熱型センサチップを覆うセンサカバーを備えたこと、前記センサベースの主表面が方形であることが好ましい。センサチップを保持するピンがセンサベースに直線的に立設することにより、センサキャップの形状を従来の円柱状や半球状から角形にすることが可能となり回路基板への実装密度も高められることがわかった。
【0014】
さらに別の態様として、センサベースに一列又は二列に複数のピンを立設する工程と、ピンとワイヤの一端側とを溶接する工程と、前記ピンとセンサチップとを平行に載置した状態で、前記ワイヤの他端側を該加熱型センサチップに溶接する工程とを備えたガスセンサの製造方法が挙げられる。また、センサベースに複数のピンを一列又は二列に立設する工程と、ピンと加熱型センサチップとを平行に載置した状態で、ワイヤの一端側を該加熱型センサチップに溶接する工程と、前記ピンと前期ワイヤの他端側とを溶接する工程とを備えたガスセンサの製造方法も挙げられる。センサベースにピンを一列又は二列に立設し、ワイヤを溶接法で固定することにより、センサの生産性が大幅に改善できる。
【0015】
本明細書においては、加熱型のガスセンサを例に説明する。このようなガスセンサに限らず、例えば加熱リフレッシュ型湿度センサや赤外線センサなどセンサ部を加熱してセンサチップを空中に吊るす構造のものであれば、応用可能である。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、製造時に効率よくセンサチップをセンサベースに固定することができるガスセンサを提供すること、高密度にセンサチップを回路基板に実装することにより小型化されたガスセンサを提供することができる。さらに、上記のガスセンサを製造するために用いることが可能なガスセンサの製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明のガスセンサ及びガスセンサの製造方法の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明によるガスセンサの内部構造の一例を示す図である。図2は本発明のガスセンサに用いることができるセンサチップの構成の一例を示す図であり、図2(a)は、センサチップの表面側の構成を示し、図2(b)はセンサチップの裏面側の構成を示す。
【0019】
本発明のガスセンサは図1に示すように、センサベース5に複数のピン3がほぼ一列又は二列に立設されている。基本的に、ピン3はおおむね一列に並んでいればよく、センサチップ1の両側にピン3が2本ずつあるようにすることも可能であり、ここでいう一列又は二列に立設された構成に含まれる。ただ、ピン3が直線上に一列に並んでいると下に説明する効果があるので好ましい。センサチップ1はワイヤ2を介してピン3に溶接ポイント4で溶接されることにより固定されている。
【0020】
センサチップ1は、図2(a)に示す表面側がセンサチップの検知面となり、図2(b)に示す裏面側がヒータ面となるように構成される。なお、図1では、検知面が手前に示されており、裏面がヒータ面となるように示されている。
【0021】
センサチップ1の検知面には、ガス検知部6、ボンディングパッド7a、7b、1組の電極8a、8bが設けられている。ボンディングパッド7a、7bはワイヤを固定化するために用いられ、電極8a、8bは電気信号を取り出すために用いられる。電極8a、8b及びボンディングパッド7a、7bとしては金の合金を用いることができる。
【0022】
また、ガス検知部6は、ワイヤ2を介して通電が可能なようにボンディングパッド7a、7b及び電極8a、8bが電気的に接続されている。即ち、センサチップ1の検知面では、ワイヤ2からの電流が、ボンディングパッド7aから電極8aを介してガス検知部6に通電し、ガス検知部6を通過した電流が電極8bからボンディングパッド7bへと通電することが可能な構成となっている。
【0023】
ガス検知部6は、WO3、SnO2、ZnO、In23、Fe23等の金属酸化物をアルミナ基板等で構成されたセンサチップ1に溶射法、スクリーン印刷法、薄膜形成法等により形成することによって設けられる。かかる金属酸化物は、所定の温度において、検知対象ガスの存在の有無により電気抵抗が変化する。ガス検知部6に通電された電流値の変化によりガスの濃度を検知することができる。ガス検知部6は、裏面に設けられたヒータ9により加熱されることにより所定の温度に保持される。
【0024】
また、センサチップ1のヒータ面には、ガスの検知が可能となるようにガス検知部6を加熱するヒータ9が設けられる。検知面と同様に2極のボンディングパッド11a、11bから電極10a、10bを介してヒータ9に通電可能な構成とされる。ヒータ温度は、例えば、300℃〜500℃となるように制御することが好ましい。
【0025】
図2に示すようなセンサチップを用いて図1に示すようなガスセンサを製造する工程について説明する。尚、図3は、ピンとセンサチップとを溶接する工程における状態図であり、図3(a)は正面図であり、図3(b)は平面図である。
【0026】
まず、センサベース5に複数のピン3をほぼ直線上に一列又は二列に立設する(第一工程)。例えば図3(b)に示すように、ピン3の立設位置を上面から見たときに直線上に配列されるように立設する。
【0027】
立設の方法としては、例えばセンサベース5にピン3の断面と略等しい穴を穿孔し、ピン3を挿入して嵌合する方法を採用することができる。また、量産においては、インサート成形によりピンを立設してセンサベースを作製することもできる。
【0028】
次いで、ピン3とワイヤ2の一端側とを溶接する(第二工程)。ワイヤ2の一端側とは、後述するワイヤ2の他端側に対応するものであり、必ずしも端部に限定されるものではない。ワイヤ2としては、白金(Pt)材料又は白金系合金材料を用いることができるが、その太さあるいは強度はセンサチップ1の重量を十分に支持できる程度のものである必要がある。ピン3としては、ニッケル(Ni)系合金材料又はステンレス材料を用いることができる。溶接方法は、抵抗溶接、光ビーム溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接、溶射、アーク溶接、ガス溶接のいずれでもよく、特に限定されない。
【0029】
次いで、センサチップ1を前記センサベース5に立設されたピン3と平行に載置した状態でワイヤ2との溶接を行う(第三工程)。即ち、図3(b)に示すように、センサチップ1の長手方向の辺がピン3の延伸方向と平行となるように載置した状態で溶接を行う。溶接は、一端側が前記ピン3に溶接されたワイヤ2の他端側とセンサチップ1のボンディングパッド7a、7b、11a、11bとを溶接する。
【0030】
また、裏面についても、上記第二工程及び第三工程の溶接を行うことにより、検知面とヒータ面の両面を固定することができる。さらに、本発明のセンサチップの製造方法において、以上の実施態様における第二工程と第三工程との順番を逆に行ってもよい。
【0031】
以上の製造方法によれば、溶接により固定できるので十分な強度があり、センサチップ1をセンサベース5の上面と略垂直方向に吊るした状態でも安定して固定できる。更に、溶接がセンサチップ1とピン3とが平行になるように載置して行われるので、安定した状態で溶接作業を行うことができる。また、センサチップ1がセンサベース5の上面と略垂直方向に配置されるため、センサベース5の横方向の面積が縮小でき、ひいてはガスセンサ自体のサイズ縮小ができる。
【0032】
センサチップ1を固定するピンをセンサベース5上で直線的に配置し、センサチップ1はピン3とほぼ同一面、センサチップ1をベース5の上面の垂直方向に配置させることで、センサチップ1上のボンディングパッド7a、7bを上方から押し付けて溶接することが可能になる。また、センサチップ1とピン3を同時に移動して溶接することで、一台の溶接機でピン、ボンディングパッドを連続して溶接できるため、生産性は大幅に向上し、位置ズレなどによる不良も低減でき、歩留まりは向上する。また、溶接設備も小型化が可能となる。
【0033】
また、センサチップを保護するためのセンサキャップの形状をピンと平行にした方形状にすることで、無駄なスペースが減少され、約50%の省スペース化が実現できる。最近の電子回路の設計においては高密度実装が重要な課題であり、センサキャップの形状を角形にすることは実装密度からすれば、センサの大きさを半分にするのと同等となり、これは特筆すべき効果といえる。
【0034】
また、回路の設計においても、従来の円柱状や半球状の製品は部品配置の際、設計ルール上での制約が発生し、問題となっていた。ところが、センサケースを角形にすることで、他の電子部品と同一の設計ルールが適用でき、設計効率が大幅に改善できることは言うまでもない。
【0035】
また、回路基板にセンサチップを実装する工程においても既存の自動機が使えるなど製造設備の面でもメリットがある。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
先ず、上面に基板が形成された方形状のセンサベース5の上面から下面に貫通するように直径が1.0mmの穴を4つ穿孔した。穴の位置は、直線上に1つ目と2つ目の穴の間隔及び3つ目と4つ目の穴の間隔が1.0mm、2つ目と3つ目の穴の間隔が3.5mmとなるようにした。当該穴に長さ8.2mm、直径1.0mmのピンを挿入して勘合させることにより立設した。(以下、各ピンに関し、1つ目の穴に立設したピンを第1のピン、2つ目の穴に立設したピンを第2のピン、同様に第3のピン、第4のピンともいう。)
【0037】
次いで、4本のピンが重力方向と垂直方向に延伸するように配置し、直径60μm、2.0mmの2本のワイヤそれぞれの一端側を第1のピンと第4のピンの上端部分にそれぞれ溶接する。
【0038】
溶接したワイヤの溶接部が下になるように配置し、ワイヤの他端側と図2に示すようなセンサチップのヒータ面のボンディングパッドとを溶接した。図2に示すように検知面とヒータ面とを有するセンサチップとしては、検知面の短辺が2.5mm、長辺が3.2mmのものを用いた。
【0039】
次に、直径60μm、1.0mmの2本のワイヤそれぞれの一端側を第2のピンと第3のピンの上端部分と溶接し、他端側を検知面のボンディングパッドと溶接した。
【0040】
溶接の際、ピンを横向きにして溶接することができるので、安定して溶接を行うことができた。その生産性と歩留まりを表1に示す。
【0041】
(比較例1)
図4に示すようにセンサベース13の上面に4つの穴を穿孔し、それぞれにピン12を立設した。
【0042】
予め所定の長さにカットしたワイヤをチップの表とウラに溶接し、その後、ワイヤの施したチップをベースのピンに溶接して作製した。なお、ピンとセンサチップの溶接は手で保持して行った。
その生産性と歩留まりを表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1は溶接工程での生産性と歩留まりを示す図である。表1の結果からも明らかなように実施例1では歩留まり、生産性ともに比較例を大きく上回り、実施例1の製品及び製造方法が優れていることがわかる。
【0045】
また、実施例1のセンサベースと比較例1のセンサベースの実装面積を比較したものを面積比として表1に示した。表1からも明らかなように実施例1のセンサベースは実装面積が格段に小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明によるガスセンサの内部構造の一例を示す図。
【図2】センサチップの構成例を示す図であり、図2(a)は、センサチップの表面側の構成を示し、図2(b)はセンサチップの裏面側。
【図3】図3は、ピンとセンサチップとを溶接する工程における状態図であり、図3(a)は正面図、図3(b)は平面図。
【図4】従来のセンサベースを示す平面図
【符号の説明】
【0047】
1 センサチップ
2 ワイヤ
3 ピン
4 溶接ポイント
5 センサベース
6 ガス検知部
7a、7b ボンディングパッド
8a、8b 電極
9 ヒータ
10a、10b ボンディングパッド
11a、11b 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサベースと、
センサベースの主表面に対してその主表面が垂直になっている加熱型センサチップと、
を備えたガスセンサ。
【請求項2】
センサベースと、
加熱型センサチップと、
前記センサチップに接続された複数のワイヤと、
前記センサベースに一列又は二列に立設され、前記ワイヤを介してセンサチップを保持する複数のピンと、
を備えたガスセンサ。
【請求項3】
前記加熱型センサチップを覆うセンサカバーを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記センサベースの主表面が方形であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のガスセンサ。
【請求項5】
センサベースに複数のピンを一列又は二列に立設する工程と、
ピンとワイヤの一端側とを溶接する工程と、
前記ピンと加熱型センサチップとを平行に載置した状態で、前記ワイヤの他端側を該加熱型センサチップに溶接する工程と、
を備えたガスセンサの製造方法。
【請求項6】
センサベースに複数のピンを一列又は二列に立設する工程と、
ピンと加熱型センサチップとを平行に載置した状態で、ワイヤの一端側を該加熱型センサチップに溶接する工程と、
前記ピンと前期ワイヤの他端側とを溶接する工程と、
を備えたガスセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−105880(P2006−105880A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295489(P2004−295489)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000102223)ウチヤ・サーモスタット株式会社 (24)
【Fターム(参考)】