説明

ガスタンク及びガスタンクの製造方法

【課題】ガスタンクを重量化することなく、ガスタンクの強度を確保する。
【解決手段】高圧ガスタンク2は、円筒状の胴部2aと、胴部2aの両側に接続され先端側が縮径するドーム部2bを有し、外周面に複数層からなるFRP層21が形成されている。胴部2aとドーム部2bとの境界部Rには、FRP層21を貫通するピン30が設けられている。ピン30は、境界部RのFRP層21の表面を覆う弾性体の台座31に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタンク及びガスタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として高圧ガスタンクが用いられている。この種のガスタンクは、円筒状の胴部と、当該胴部の両側に接続され先端側が縮径するドーム部を有する略楕円体状に形成され、その外周面には、例えばフィラメントワイディング(FW)法により複数層からなる補強層が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−83500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、使用時にガスタンクに高圧のガスが充填されると、ガスタンクに大きな内圧がかかる。この内圧によりガスタンクが僅かに変形するが、胴部とドーム部では、変形量、変形方向が異なるため、胴部とドーム部の境界部の補強層に歪みが生じる。この歪みにより、補強層の各層の間に層間せん断応力が生じ、補強層の層間で剥離が生じて、ガスタンクの強度が低下する恐れがある。このガスタンクの強度の低下を抑制するために、例えば補強層をより厚く形成することが考えられるが、この場合ガスタンクが重量化し、またコストも上昇する。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ガスタンクを重量化することなく、ガスタンクの強度を確保することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、円筒状の胴部と、当該胴部の両側に接続され先端側が縮径するドーム部を有し、外周面に複数層からなる補強層が形成されているガスタンクであって、前記胴部と前記ドーム部との境界部に前記補強層を貫通するピンが設けられていることを特徴とする。なお、境界部は、胴部とドーム部の境界線を少なくとも含む部分である。
【0007】
本発明によれば、胴部とドーム部との境界部に補強層を貫通するピンが設けられているので、補強層の層間せん断力を低減させて層間の剥離が生じるのを防止できる。また、ピンは軽量である。よって、ガスタンクを重量化することなく、ガスタンクの強度を確保できる。
【0008】
前記ピンは、前記境界部の補強層の表面を覆う台座に固定されていてもよい。また、前記台座は、弾性体により形成されていてもよい。
【0009】
前記ピンは、前記胴部と前記ドーム部の境界線から、前記ドーム部の軸方向の長さの半分の長さ分、タンク軸方向の前後にずれた位置までの範囲に設けられていてもよい。
【0010】
前記補強層は、フィラメントワイディング法により形成され、タンク軸に対する巻回角度が異なる複数層からなり、前記境界部には、前記補強層の少なくとも1つの層の巻回端部があってもよい。
【0011】
前記補強層は、タンク軸に対し直角未満の巻回角度を有するヘリカル層と、タンク軸に対し直角の巻回角度を有するフープ層と有し、前記境界部には、少なくとも前記フープ層の巻回端部があってもよい。
【0012】
前記ヘリカル層は、タンク軸に対し巻回角度が相対的に大きい高角度ヘリカル層と、当該高角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい中角度ヘリカル層と、当該中角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい低角度ヘリカル層を有し、前記ピンは、前記高角度ヘリカル層と前記フープ層の前記ドーム部の先端側の端部に設けられていてもよい。
【0013】
前記ヘリカル層は、タンク軸に対し巻回角度が相対的に大きい高角度ヘリカル層と、当該高角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい中角度ヘリカル層と、当該中角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい低角度ヘリカル層を有し、前記ピンは、前記高角度ヘリカル層と前記フープ層の前記ドーム部の先端側の端部からさらにドーム部先端側に所定距離離れた位置に設けられていてもよい。
【0014】
別の観点による本発明は、円筒状の胴部と、当該胴部の両側に接続され先端側が縮径するドーム部を有するガスタンクの製造方法であって、フィラメントワイディング法により外周面に補強繊維を巻回して、タンク軸に対して巻回角度が異なる複数層からなる補強層を形成する工程と、前記胴部と前記ドーム部との境界部の補強層にピンを貫通させる工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
前記ピンは、台座に立設されており、前記ピンを前記補強層に押し込んで貫通させ、前記台座により前記境界部の補強層の表面を覆うようにしてもよい。
【0016】
前記台座は、弾性体により形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガスタンクを重量化することなく、ガスタンクの強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】高圧ガスタンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【図2】高圧ガスタンクの構成の概略を示す縦断面図である。
【図3】高圧ガスタンクの胴部とドーム部の境界部の拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
燃料電池自動車1には、例えば3つの高圧ガスタンク2が車体のリア部に搭載されている。高圧ガスタンク2は、燃料電池システム3の一部を構成し、ガス供給ライン4を通じて各高圧ガスタンク2から燃料電池5に燃料ガスが供給可能になっている。高圧ガスタンク2に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば水素ガスである。なお、高圧ガスタンク2は、燃料電池自動車1のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0020】
図2は、高圧ガスタンク2の構成の概略を示す縦断面図である。高圧ガスタンク2は、例えば略楕円体状に形成され、径の同じ円筒状の胴部2aと、当該胴部2aの両端に接続され当該胴部2aから離れるにつれて縮径する略半球体状のドーム部2bを有している。両ドーム部2bの中央部、つまり高圧ガスタンク2のタンク軸上の両端部には、口金10が設けられている。
【0021】
高圧ガスタンク2は、内側に略楕円体状の樹脂製のライナ20を有している。ライナ20は、例えばナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド系樹脂、及び、ポリエチレン系樹脂により成形されている。なお、本実施の形態では、高圧ガスタンク2のライナは、樹脂製であるが、アルミ製であってもよい。ライナ20の外周面のほぼ全面(口金10を除いた部分)には、複数層からなる補強層としてのFRP(Fiber Reinforced Plastics)層21が形成されている。
【0022】
FRP層21は、FW法によるフープ巻きとヘリカル巻きを用いて、樹脂繊維をライナ20の外周面に巻き付けることにより形成されている。概して胴部2a側のFRP層21には、タンク軸に対し直角の巻回角度を有するフープ巻きや、タンク軸に対し大きい巻回角度を有する高角度ヘリカル巻きが多用されて、フープ層や高角度ヘリカル層等が形成されている。またドーム部2b側のFRP層21には、タンク軸に対し高角度ヘリカル巻きより相対的に巻回角度が小さい中角度ヘリカル巻き、中角度ヘリカル巻きより巻回角度が相対的に小さい低角度ヘリカル巻きが多用されて、中角度ヘリカル層、低角度ヘリカル層等が形成されている。胴部2aとドーム部2bとの境界部Rは、例えば図3に示すようにフープ巻きによるフープ層、高角度ヘリカル巻きによる高角度ヘリカル層、中角度ヘリカル巻きによる中角度ヘリカル層、低角度ヘリカル巻きによる低角度ヘリカル層が混在して形成されている。
【0023】
なお、FRP層21の樹脂として、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂などが用いられている。また、繊維としては、例えば炭素繊維が用いられている。
【0024】
胴部2aとドーム部2bの境界部Rには、FRP層21の表面から最内層まで貫通する複数のピン30が設けられている。ピン30は、胴部2aとドーム部2bの境界線Pから、ドーム部2bの軸方向の長さLの半分の長さL/2分、タンク軸方向の前後にずれた範囲に配置されている。この範囲には、FRP層21の特定の層の巻回端部、例えばフープ層の巻回端部、高角度ヘリカル層の巻回端部が形成されている。なお、境界部Rをこの範囲に設定してもよい。
【0025】
複数のピン30の一部は、高角度ヘリカル層とフープ層の口金10側(ドーム部2bの先端側)の端部Eを貫通して設けられている。また、複数のピン30の一部は、高角度ヘリカル層とフープ層のドーム部2bの先端側の端部Eからさらに先端側に所定距離離れた位置に設けられている。
【0026】
ピン30は、例えば境界部RのFRP層21の表面を周方向に覆うベルト状の台座31に固定されている。つまり、ピン30は、台座31に立設された状態で、境界部RのFRP層21に押し込まれている。台座31は、例えばゴムなどの弾性体により形成されている。
【0027】
以上のように構成された高圧ガスタンク2の製造方法は、まずFW法を用いてライナ20の外周面に補強繊維を巻回して、タンク軸に対して巻回角度が異なる複数層からなるFRP層21を形成する。その後、胴部2aとドーム部2bとの境界部RのFRP層21に、台座31の複数のピン30を押し込んで貫通させる。このとき、台座31により境界部RのFRP層21の表面が覆われる。その後、FRP層21が加熱硬化される。
【0028】
以上の実施の形態によれば、胴部2aとドーム部2bとの境界部RにFRP層21を貫通するピン30が設けられているので、複数層からなるFRP層21の層間せん断力を低減させて層間に剥離が生じるのを防止できる。また、ピン30は軽量である。よって、高圧ガスタンク2を重量化することなく、高圧ガスタンク2の強度を確保できる。
【0029】
ピン30は、境界部RのFRP層21の表面を覆う台座31に固定されているので、ピン30の取り付けを簡単に行うことができる。また、台座31が弾性体により形成されているので、衝撃吸収材として機能し、例えば高圧ガスタンク2の落下時の破損を防止できる。
【0030】
ピン30は、胴部2aとドーム部2bの境界線Pから、ドーム部2bのタンク軸方向の長さLの半分の長さL/2分、タンク軸方向の前後にずれた位置までの範囲に設けられているので、胴部2aとドーム部2bの境界部Rの層間の剥離が生じやすい部分に適正にピン30を配置できる。
【0031】
また、境界部Rには、FRP層21のフープ層の巻回端部、高角度ヘリカル層の巻回端部があり、この部分にピン30が挿入されるので、層の巻回端部がせん断方向にずれて空間が生じて層間剥離が起きることを効果的に防止できる。
【0032】
複数のピン30の一部は、高角度ヘリカル層とフープ層のドーム部2bの先端側の端部Eに設けられているので、層間で生じるせん断応力を効率的に低減できる。
【0033】
また、複数のピン30の一部は、高角度ヘリカル層とフープ層のドーム部2bの先端側の端部Eからさらに先端側に所定距離離れた位置に設けられているので、高角度ヘリカル層又はフープ層自体の厚みに起因して端部Eの先端側に形成される空間による層間剥離を防止できる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0035】
例えば本実施の形態における高圧ガスタンク2のFRP層21の複数層の構成は、他の構成であってもよい。また、以上の実施の形態では、燃料電池自動車1に搭載される高圧ガスタンク2の例であったが、本発明は、他の用途のガスタンクにも適用できる。
【符号の説明】
【0036】
2 高圧ガスタンク
20 ライナ
21 FRP層
30 ピン
31 台座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部と、当該胴部の両側に接続され先端側が縮径するドーム部を有し、外周面に複数層からなる補強層が形成されているガスタンクであって、
前記胴部と前記ドーム部との境界部に前記補強層を貫通するピンが設けられていることを特徴とする、ガスタンク。
【請求項2】
前記ピンは、前記境界部の補強層の表面を覆う台座に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載のガスタンク。
【請求項3】
前記台座は、弾性体により形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のガスタンク。
【請求項4】
前記ピンは、前記胴部と前記ドーム部の境界線から、前記ドーム部の軸方向の長さの半分の長さ分、タンク軸方向の前後にずれた位置までの範囲に設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のガスタンク。
【請求項5】
前記補強層は、フィラメントワイディング法により形成され、タンク軸に対する巻回角度が異なる複数層からなり、
前記境界部には、前記補強層の少なくとも1つの層の巻回端部があることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のガスタンク。
【請求項6】
前記補強層は、タンク軸に対し直角未満の巻回角度を有するヘリカル層と、タンク軸に対し直角の巻回角度を有するフープ層と有し、
前記境界部には、少なくとも前記フープ層の巻回端部があることを特徴とする、請求項5に記載のガスタンク。
【請求項7】
前記ヘリカル層は、タンク軸に対し巻回角度が相対的に大きい高角度ヘリカル層と、当該高角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい中角度ヘリカル層と、当該中角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい低角度ヘリカル層を有し、
前記ピンは、前記高角度ヘリカル層と前記フープ層の前記ドーム部の先端側の端部に設けられていることを特徴とする、請求項6に記載のガスタンク。
【請求項8】
前記ヘリカル層は、タンク軸に対し巻回角度が相対的に大きい高角度ヘリカル層と、当該高角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい中角度ヘリカル層と、当該中角度ヘリカル層よりも巻回角度が相対的に小さい低角度ヘリカル層を有し、
前記ピンは、前記高角度ヘリカル層と前記フープ層の前記ドーム部の先端側の端部からさらにドーム部先端側に所定距離離れた位置に設けられていることを特徴とする、請求項6又は7に記載のガスタンク。
【請求項9】
円筒状の胴部と、当該胴部の両側に接続され先端側が縮径するドーム部を有するガスタンクの製造方法であって、
フィラメントワイディング法により外周面に補強繊維を巻回して、タンク軸に対して巻回角度が異なる複数層からなる補強層を形成する工程と、
前記胴部と前記ドーム部との境界部の補強層にピンを貫通させる工程と、を有することを特徴とする、ガスタンクの製造方法。
【請求項10】
前記ピンは、台座に立設されており、
前記ピンを前記補強層に押し込んで貫通させ、前記台座により前記境界部の補強層の表面を覆うことを特徴とする、請求項9に記載のガスタンクの製造方法。
【請求項11】
前記台座は、弾性体により形成されていることを特徴とする、請求項10に記載のガスタンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−249146(P2010−249146A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95788(P2009−95788)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】