説明

ガスバリア層付フィルム

【課題】位相差機能を持つ環状ポリオレフィン樹脂からなるベースフィルムを用いた構成で、ガスバリア層中の各膜同士の親和性を向上させ、良好なガスバリア性を発揮することが可能なガスバリア層付フィルムを提供する。
【解決手段】ベースフィルム10を、HO透過率が10g/m/day以下のバリア性と、ガラス転移温度が130℃以上の特性を有し、且つ、リターデーションが波長0以上550nm以下の位相差を持つ透明ポリオレフィン樹脂で構成する。ガスバリア層を、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂の少なくともいずれかよりなるポリマー膜12と、Siからなる無機膜11とで構成する。xは0.35以上0.55以下であり、y/zは0.4以上2.0以下であり、x+y+z=1を満たすものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界発光ディスプレイやLCD等のディスプレイに利用されるガスバリア層付フィルムに関し、特にガスバリア特性の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)、無機ELディスプレイ(IELD)や有機ELディスプレイ(OELD)等の電界発光ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)は、既存の冷陰極管(CRT)等に比べて優れた画像表示性能、低消費電力性、軽量等の優れた特性を有しており、次世代のデバイスとして近年において急速な普及が拡大している。
【0003】
LCDは、液晶層本体の両面をパネルガラスで挟設してなる。また、OELDは、キナクリドン等の有機発光材料を含有してなる発光層をTFT基板上に形成し、これを透明樹脂層で封入してなる構造を持つ。パネルガラス及びTFT基板には、それぞれマトリクス状に電極が形成されており、駆動時において階調表示による所定の画像表示駆動がなされるようになっている。
【0004】
このような構成を持つFPDでは、前記液晶層や前記発光層が大気中に含まれる水分(水蒸気)や酸素成分を含むと変質して画像劣化を起こすため、これを防止するために、ガスバリア層付フィルムが利用されている。
【0005】
ガスバリア層付フィルムは、例えば特許文献1又は2に示されるように、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂をベースフィルムとし、これにアルミナ、ジルコニア、シリカ等の無機材料からなる無機薄膜層からなるガスバリア層を積層して構成され、前記液晶層或いは前記発光層に積層或いは介層することで、これらを外部大気より良好に隔離するようになっている。
【0006】
また、公知技術として、単一の材料から構成される単一層の他、互いに材料の異なる複数の層を積層してなる多層積層化ガスバリア層も存在する。具体的には、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂のいずれかよりなるポリマー膜に対し、組成にSi、O、Nを含む無機膜を積層させた構成が例示できる。
【0007】
このようなガスバリア層付フィルムは、FPDに限らず、タッチパネル、液晶(LC)シャッター、加工食品の袋等、嫌気性を保つ必要がある用途で幅広く利用されている。
【特許文献1】特開平6−316025号公報
【特許文献2】特開平7−80986号公報
【特許文献3】特許第3484094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、複数の膜の積層体からなるガスバリア層を備えるガスバリア層付フィルムでは、構成要素の各膜の密着性の問題がある。
【0009】
具体的にはポリマー膜と、無機膜との親和性が十分でないと、両膜の界面において剥離が生じ、密着性が損なわれてガスバリア特性が低下する。また、フィルム全体としての強度の低下にも繋がる。
【0010】
このような問題は、良好な画像表示性能が求められるFPD用のガスバリア層付フィルムを製造する上で、特に解決すべき課題である。
【0011】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであって、第一の目的として、複数の膜の積層体からなるガスバリア層の各膜同士の親和性を向上させることにより、従来に比べて良好なガスバリア性を発揮することが可能なガスバリア層付フィルムを提供する。
【0012】
また、第二の目的として、ベースフィルムにポリオレフィン材料を用いる場合でも、良好な位相差特性とガスバリア性を発揮することが可能なガスバリア層付フィルムを提供する。
【0013】
さらに第三の目的として、前記ガスバリア層付フィルムを用いることにより、経時的に良好な画像表示性能を発揮する事が可能なFPDを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、ベースフィルムの少なくとも一方の面に、直接または間接的にガスバリア層が積層されてなるガスバリア層付フィルムであって、ベースフィルムは、HO透過率が10g/m・day・atm以下のバリア性と、ガラス転移温度が130℃以上の特性を有し、且つ、リターデーションが波長0以上550nm以下の位相差を持つ透明ポリオレフィン樹脂で構成され、ガスバリア層は、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂の少なくともいずれかよりなるポリマー膜と、組成式がSiで表される材料からなる無機膜を有する積層体で構成するものとした。但し、xは0.35以上0.55以下であり、y/zは0.4以上2.0以下の関係を有する。但し、x+y+z=1を満たすものとする。
【0015】
ここで、前記ポリオレフィン樹脂には、付加重合型又は開環重合型を用いることができる。
【0016】
また、ベースフィルムの少なくとも一方の面には、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂のいずれかよりなる樹脂層が直接被着された構成とすることもできる。
【0017】
さらに、前記ガスバリア層において、ポリマー膜と無機膜との間に、Siからなる膜が積層された構成とすることもできる。
【0018】
ここで、前記ガスバリア層は、ベースフィルムに最も近接する面が、ポリマー膜となるように構成することもできる。また、ベースフィルムから最も遠い表面に無機膜が積層されるように配することもできる。さらに、前記積層体において、ポリマー膜と無機膜とが2単位以上繰り返し積層することも可能である。
【0019】
また本発明は、フロントパネル及びバックパネルにより液晶層を挟設してなる液晶デバイスであって、前記フロントパネルおよび前記バックパネルの少なくともいずれかは、前記いずれかの本発明のガスバリア層付フィルムからなる構成とした。
【0020】
この場合、前記液晶デバイスは、液晶シャッター或いは液晶ディスプレイパネルとすることができる。
【0021】
また、本発明は、第一電極と、発光層と、透明電極材料からなる第二電極とが順次積層されてなる有機または無機発光素子が基板上に配設され、各発光素子がガスバリア手段で被覆されてなる電界発光デバイスであって、前記ガスバリア手段として、前記いずれかの本発明のガスバリア層付フィルムを備える構成とした。
【0022】
また、本発明は、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂の少なくともいずれかよりなるポリマー膜と、Si膜とを有する積層体の各膜の厚みを適宜調整することで、ガスバリア層付フィルムからの光反射を低減できる構成とした。
【0023】
具体的には、前記積層体は、波長450nm〜700nmの範囲における光反射率が2%以下の光反射低減機能を有するように積層することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成を有する本発明では、ベースフィルムとして、波長0〜500nmの位相差を有し、HO透過率が10g/m・day・atm以下、ガラス転位温度130℃以上の特性を持つ透明ポリオレフィン樹脂フィルムを用いる。さらにガスバリア層として、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂のいずれかよりなるポリマー膜と、Si膜とを有する積層体を用いる。ここで、xは0.35以上0.55以下であり、y/zは0.4以上2.0以下の関係を有するように調整されている。但し、x+y+z=1を満たすものとする。このx、y、zの各値の範囲は、ガスバリア層付フィルムにおいて良好なガスバリア性が発揮されるとともに、ポリマー膜と無機膜との確実な親和性(密着性)を得るために、本願発明者らが見出したものである。
【0025】
本発明では、このようにガスバリア層において、前記両膜の高い親和性を得たことにより、ポリマー膜と無機膜との膜界面において、特にポリマー膜の緻密化が図られ、ポリマー膜と無機膜との親和性が向上され、両膜の優れた密着性による剥離防止効果が発揮される。従って、積層体構造のガスバリア層として、従来よりも優れたガスバリア特性が発揮されるようになっている。
【0026】
このような良好な密着性による剥離防止効果は、例えば携帯電話やPDA等のディスプレイへの用途や野外用途など、使用中のガスバリア層付フィルムに外圧や振動、急激な湿度変化、温度変化又は紫外線による負荷が加わる可能性のある用途において、特に有用である。
【0027】
また、本発明では、ベースフィルムが所定の位相差機能を有しており、これによって当該ガスバリア層付フィルムをFPDに適用した場合に、ディスプレイ内部からの反射光をベースフィルムにおいて低減できる。ここで本発明では、ベースフィルム自体が位相差機能を有しているので、従来のようにガスバリア層付フィルムやFPDに対して別途、位相差フィルムや粘着層等を配設する必要が無い。
【0028】
従って、本発明を適用すれば、ガスバリア層付フィルムを液晶デバイスや電界発光デバイス等のFPDにおいて、薄型化・軽量化が実現されるとともに、良好なガスバリア特性により発光層等の長寿命化が図られる。また、構成要素の合理化により製造効率が改善され、コスト低減を期待することもできる。
【0029】
なお、本発明では特別な断りのない限り、本発明において言及する「ガスバリア性」とは、水蒸気(HO)及び酸素(O)に関する透過率の程度を表すものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、当然ながら本発明はこれらの実施形式に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0031】
<実施の形態1>
図1(a)は、本実施の形態1におけるガスバリア層付フィルムの積層構造を示す断面図である。
【0032】
当図に示されるガスバリア層付フィルム1(以下、単に「フィルム1」と称する。)は、樹脂性のベースフィルム10に対し、その一方の主面に無機膜11、ポリマー膜12、透明電極13が順次成膜されて構成される。
【0033】
ベースフィルム10は、透明なポリオレフィン樹脂からなり、ガラス転位温度が130℃以上、且つ、HO透過率が10g/m・day・atm以下の特性を有する。さらに、リターデーション(位相差)が波長0〜550nmの範囲である特性を持つ。厚みは10〜500μmの範囲が適当であり、ここでは一例として100μmとしている。
【0034】
ポリオレフィン樹脂材料としては、リターデーションを付与するのに都合の良い環状オレフィン系樹脂が最適である。環状オレフィンからベースフィルムを製造する方法は限定されず、例えば公知の溶液流延法、押し出し法、カレンダー法等のいずれかが例示できる。また、その製造の際には当該樹脂成分に紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、滑剤、静電気防止剤、安定剤等、各種添加剤を目的に合わせて添加することもできる。
【0035】
環状オレフィン樹脂の屈折率は、1.49〜1.55程度が望ましい。また、光線透過率は90.8〜93.0%程度が好適である。
【0036】
なお、リターデーションの調整方法としては、公知のロール延伸法、テンタークリップ延伸法、圧延法等が例示できる。
【0037】
具体的には、ノルボルネンとエチレン共重合体(ガラス転位点180℃)をベースフィルム材料とし、これを溶融成形Tダイ法にて、樹脂温度270℃、引き取りロール温度140℃の条件下で処理することにより、厚さ200μmのフィルム素材が得られる。これをクリップテンター方式の横延伸装置を用いて、180℃にて幅方向に2倍延伸し、光学異方性を付与すると、厚み100μm、リターデーション138nmの位相差を持つベースフィルム10が得られる。
【0038】
ここで「環状ポリオレフィン」とは一般総称であって、具体的には以下のものが例示できる。
【0039】
(a)環状オレフィンの開環(共)重合体を必要に応じ、水素添加した重合体
(b)環状オレフィンの付加(共)重合体
(c)環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα-オレフィンとのランダム共重合体
(d)前記(a)〜(c)を不飽和カルボン酸や誘導体等で変性したグラフト変性体等が例示できる。環状オレフィンとしては特に限定されず、例えばノルボルネン、テトラシクロドデセンや、それらの誘導体(例えばカルボキシル基やエステル基を有するもの)が例示できる。
【0040】
環状オレフィン系樹脂の市販製品としては、例えばTopas Advanced Polymersの付加重合型ポリオレフィンである「TOPAS」(登録商標)が好適である。その他、日本ゼオン株式会社の開環重合型ポリオレフィンである「ZEONOR(ゼオノア)」または「ZEONEX」(いずれも登録商標)、JSR株式会社の「ARTON」(登録商標)、三井化学株式会社の脂環重合型ポリオレフィンである「APEL」(登録商標)等も挙げることができる。
【0041】
なお、ベースフィルム10において、無機膜11が配設される面には、予めグロー放電処理やコロナ放電処理を行い、当該無機膜11との密着性を向上させておくことが望ましい。
【0042】
無機膜11は、組成式がSiで表される材料であり、乾式法(真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などの乾式の薄膜形成法)で、厚さ20〜100nm程度で成膜して構成されている。前記組成式において、xは0.35以上0.55以下であり、y/zは0.4以上2.0以下の関係を有する。但し、x+y+z=1を満たすものとする。
【0043】
x、y、zの各値は、良好な透明性とガスバリア性を発揮し、且つ、ポリマー膜12との間の確実な親和性(密着性)を得るために、本願発明者らが鋭意検討して見出したものである。なお、x、y、zの各値は、成膜後にX線光電子分析装置(XPS)等を用いて実際に測定が可能である。またx、y、zの各値が上記範囲を超えると、透明性・バリア性が低下する別の問題が生じうることが分かっている。すなわち、xが0.35以上0.55以下においてy/zが0.4以下となると、可視光領域での光吸収が生じるために得られた膜が黄色味を帯びはじめ、さらにy/zの値が小さくなると茶色から不透明に近づく。また、xが0.35以上0.55以下においてy/zが2.0以上になると、透明性は良好であるが良好なガスバリア性が得られにくくなる。
【0044】
ポリマー膜12は、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂の少なくともいずれかよりなるポリマーを用いて、湿式(ウエットコート)法で形成した厚み0.01〜10μmの膜である。
【0045】
なお、当該ポリマー膜の構成と製造方法は公知であり、例示するならば、アクリル系樹脂(例えば、JSR株式会社の「デソライト(登録商標)Z7524」)、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ゾル-ゲル液(例えば、日本精化株式会社のNSC2451やコルコート株式会社の「コルコート N−103X」)、ペルヒドロポリシラザン(クラリアントジャパン株式会社のポリシラザン)などが出発原料となる。これらの樹脂をウェットコート法でフィルムに塗布した後、コート膜中の溶媒を乾燥除去し、最終的に紫外線や熱を加えて硬化させる。ペルヒドロポリシラザンの場合は、溶媒の乾燥除去後、例えば特許文献3(特許第3484094号公報)に示す方法で硬化させる。
【0046】
ウェットコート法は従来知られた方法を用いることができる。例示するならば、グラビア法、ダイコーティング法、スピンコート法、バーコート法、コンマコートTM法などである。
【0047】
このような湿式の方法でポリマー膜12を形成することにより、当該膜表面をナノレベルで平坦にすることができる。
【0048】
本実施の形態1のフィルム1では、ガスバリア層が、無機膜11とポリマー膜12との積層体(複合膜)によって形成されている。このガスバリア層の積層順は逆であってもよいし、後に述べるように複数層にわたり積層してもよい。フィルム1ではこのガスバリア層において、HO透過率0.01g/m・day・atm以下、O透過率0.01cm/m・day・atm以下の各特性が実現される。
【0049】
透明電極13は、インジウム錫酸化物の粉末材料を、ポリマー膜12と同様に薄膜形成法に基づき、厚み10〜150nmでスパッタリング法や真空蒸着法を用いて成膜されたもの(ITO膜)であって、フィルム1をLCD等のFPDに適用した場合に、透明電極として作用する。
【0050】
なお透明電極13は、本発明のガスバリア層付フィルムに必須の構成ではなく、フィルム1の用途に合わせて適宜形成する。フィルム1をディスプレイに用いるためには透明電極は高い透明性を有することが必要である。また、有機ELディスプレイに用いる場合では凹凸が数nm以下の平坦性が求められる。これらの特性を満たす透明電極材料として代表的なものはITOであるが、その他にも各社から販売されているものを用いることができる(例えば、住友金属鉱山株式会社のIWO、出光興産株式会社のIXOなどが例示出来る)。
【0051】
以上の構成を持つフィルム1では、第一に、無機膜11とポリマー膜12の積層体からなるガスバリア層において、両膜の特性を活かして優れたガスバリア特性が発揮される。また、無機膜11の組成がポリマー膜12に対して十分な親和性(密着性)を有するように調節されている。このためポリマー膜12に対する無機膜の濡れ性が優れており、無機膜11とポリマー膜12との膜界面において、特にポリマー膜12の緻密化が図られる。これにより、従来において両膜11、12の界面で剥離を生じうる微少な空隙が排除され、密着度が極めて高くなる。また、ポリマー膜12が緻密化することで、当該膜中でのピンホールの発生も防止する効果が奏される。これによりガスバリア層では、両膜11,12の剥離の発生を抑制して、従来よりも優れたガスバリア特性(有機ELデバイス等においても十分に水分の遮断が行えるハイレベルのガスバリア特性)が継続的に発揮されるようになっている。
【0052】
また第二に、ベースフィルム10を波長0〜550nmのリターデーションを有する環状ポリオレフィン樹脂で構成したことから、フィルム1ではベースフィルム10自体で位相差特性が実現されている。従って従来のように、ガスバリア層付フィルムに別途、位相差フィルムを粘着層等を介して積層する必要がなく、歩留まりの低下や構成要素が厚みを増すのを防止できる。これにより本発明では、非常に薄型且つ軽量でありながら、位相差機能を発揮でき、且つ、良好な製造効率のFPD用のガスバリア層付フィルムを提供することができるものである。
【0053】
また、フィルム1では、無機膜11とポリマー膜12の厚みを調整することで、良好な光反射作用を発揮できる。詳細な各膜厚みの数値は後の実験で述べるが、本発明のガスバリア層付フィルムではこの調整によって、波長450nm〜700nmの範囲における光反射率を2%以下にまで抑えることができる。これにより、フィルム1をFPD等に適用する場合において、ディスプレイ面に差し込む不要な外光の反射が防止されるので、特に低階調の画像表示時に良好な画像表示性能が期待できるようになっている。
【0054】
<変形例>
以下、フィルム1の変形例について、その差異点を中心に説明する。
【0055】
(変形例1)
図1(b)の断面図に示されるフィルム1bは、ガスバリア層が、無機膜(以下、「A膜」とも称する)11a、・・・、11aとポリマー膜(以下、「B膜」とも称する)12a、・・・、12aを、「A膜/B膜」を同順の積層単位として繰り返し積層した特徴を持つ。この「A膜/B膜」構造の積層単位数(n)は限定されず、例えば2〜3単位以上、又はそれ以上の数で繰り返すことができる。
【0056】
このような構成によっても、実施の形態1と同様の効果が奏される。さらにフィルム1bでは、製造上、当該膜の厚み方向に生じうる微細な孔(ピンホール)の端部が、これに積層される無機膜及び別のポリマー膜によって閉塞される。このため、前記ピンホールを通じた膜厚方向のガスの流通が遮断され、さらに良好なガスバリア特性が発揮される。
【0057】
なお、積層順はベースフィルム10側から、単純に「A膜/B膜」構造を同順に繰り返して形成するほか、ベースフィルム10に一旦有機成分からなるポリマー膜12を直接積層し、その後、「A膜/B膜」構造を同順に繰り返して形成することもできる。また、透明電極13を形成する場合には、無機膜11の上に透明電極13を形成するのが、互いの密着性を良好に得る上で好適である。
【0058】
すなわち、無機膜11、ポリマー膜12は、それぞれ無機成分、有機成分を主体として構成されている。この性質上、同順に透明電極13、ベースフィルム10と成分が類似している。従って、上記のような配置関係とすることにより、無機膜11と透明電極、ポリマー膜12とベースフィルム10との各密着性を特に向上させることができ、好適な構成を得ることができる。
【0059】
一方、ポリマー膜12は一般に、アルカリ溶液に弱い性質がある。そこで、ベースフィルム10から最も遠いガスバリア層の表面を無機膜11で構成し、この無機膜11の上に透明電極13を形成すれば、透明電極13をエッチングする際にポリマー膜12がエッチング溶液に触れるのを無機膜11において遮断し、これを保護する効果が得られる。さらに、無機膜11と透明電極13はいずれも薄膜形成法で形成されるため、これらを同順に形成するようにすれば、製造効率を高めることができ、好適である。
【0060】
(変形例2)
図2(a)は、実施の形態1の別の構成(変形例2)を示す断面図である。当図に示すフィルム1bは、ベースフィルム10の両主面に、厚み2μm程度の平坦な樹脂層14A、14Bをそれぞれ直接積層し、この樹脂層14A、14Bを介してベースフィルム10に間接的にガスバリア層が積層された構成を持つ。樹脂層14A、14Bは、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等の電離線硬化樹脂、或いはシリコーン系樹脂等の熱硬化樹脂で構成することができる。
【0061】
このような構成のフィルム1bにおいても、実施の形態1と同様の効果が奏される。又、硬度の高い樹脂層14A、14Bを形成すれば、ベースフィルム10の表面保護が図れるほか、製造時の巻き取り工程におけるブロッキングを防止する手段にもなる。また、光学特性を有する樹脂層14A、14Bを設ければ、アンチグレア(AG)特性を発現させることも可能となる。
【0062】
なお変形例2において、14Aと14Bは、少なくともいずれかを設けるようにしてもよい。又、互いに異なる種類の樹脂層を設けるようにしてもよい。
【0063】
(変形例3)
図2(b)は、実施の形態1の別の構成(変形例3)を示す断面図である。
【0064】
当図に示すフィルム1cの主たる特徴は、無機膜11とポリマー膜12との間に、平均膜厚が0.5〜3.0nmからなるSi膜15が介設されている点にある。
【0065】
Si膜15は、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンビーム法等の薄膜形成法により成膜された薄膜であって、高純度のSiにより構成され、良好な画像表示性能を得るために十分な透明性を有している。Si膜15の膜厚は、0.5nm以下であると薄すぎて効果が小さく、3.0nm以上になると光吸収により透明度が低下する。従って、実際には0.8〜2.5nmの平均膜厚の範囲がさらに好適である。
【0066】
なお、Si膜15は非常に薄い膜であるため、上記「平均膜厚」は以下の方法で定義するものとする。すなわち、触針法や繰り返し干渉法等に基づき、100nm以上の十分に厚い既知の膜厚のサンプルを複数用意し、その厚みのデータをスパッタ電力やフィルムスピードととともに測定して、その関係をグラフ化する。次に、前記得られたグラフにおいて、フィルムスピードを大きく、または電力を小さくした場合に、当該グラフ上で外挿して求められる厚みで定義するものとする。
【0067】
ポリマー膜12の出発材料にゾル-ゲル液やペルヒドロポリシラザンを用いる場合ではポリマー膜12中にSi成分が含まれており、無機膜11にもSi成分が含まれている。従ってフィルム1cにおいて、Si膜15は、これらの両膜11、12のいずれにも良好な親和性を有しており、双方に対してさらに高い密着性を発揮することができる。
【0068】
従ってフィルム1cでは、実施の形態1の効果に加え、Si膜15の配設により、特にポリマー膜12と無機膜11との密着性があらゆる使用環境下やデバイス製造工程の通過に対しても効果的に維持することができる。例えば、フィルム1cに外圧が加わって撓むような使用態様であっても、非常に良好なガスバリア特性が継続的に安定して得られるようになっている。
【0069】
なお、本発明では変形例1と3の各構成を組み合わせることも可能であるが、その場合、Si膜15は、全ての無機膜11とポリマー膜12の間に介設するのが、密着性を得る点で望ましい。
【0070】
(透明電極の平坦性について)
例えば、本実施の形態1のフィルム1を有機ELデバイスに応用する場合、非常に高い透明性が要求される等の理由から、透明電極13の表面粗さを約3nm以下に抑える必要がある。
【0071】
一般に、スパッタリング法等の薄膜形成法のみでガスバリア層を形成すると、層の厚み方向に粒が成長し、nmオーダーでの十分な平坦性の実現は難しい。しかしながら、本発明のように、ウェットコーティングで形成したB膜と、スパッタリング法で形成したA膜とを交互に組み合わせてガスバリア層を形成する場合には、B膜を上面に位置させることによって、優れた平坦性が実現される。従って、本発明は透明電極を表面に形成する場合であっても、非常に高い優位性を発揮できるようになっている。
【0072】
<スパッタリング法による無機膜の形成法について>
図3は、本発明における無機膜の形成方法と、これに用いるスパッタリング装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0073】
図3に示す装置は、いわゆるロール・ツー・ロール方式を採用するものであって、真空チャンバーを兼ねる筐体内部に、加熱ドラム、ボビン、巻出しロール、巻き取りロール、カソード等が配されている。ここでは反応性スパッタリング法に基づいて無機膜を作製するため、カソードにはSiターゲットを装着している。また、当該チャンバー内には外部から所定の反応ガス(Ar、O、N)を導入するための導入経路と、チャンバー外部へガス排気を促すための排出経路等が設けられている。巻出しロールから繰り出される帯状のフィルムには、ここでは変形例2に示したように、ベースフィルムの両面に樹脂層(HC層)が形成されたものを用いている。
【0074】
なお、各ボビンは通常、順逆いずれの方向へのフィルムの搬送・巻き取りも可能であるが、ここでは図3及び上記に示すような配置関係になっている。
【0075】
このような構成を持つスパッタリング装置によれば、成膜時には装置内部は減圧状態に保たれる。そして、巻出しロールから帯状のHC層付ベースフィルムが繰り出され、加熱ドラムの周面を摺動した後、当該加熱ドラムの周面に対抗配置されたカソードとの間に搬送される。ここで、HC層付ベースフィルムの表面には、カソードに配置されたターゲットによるスパッタリングによって、無機膜が成膜される。その後は、フィルムは下流側に搬送され、巻き取りロールのボビンに巻き取られる。
【0076】
なお、本発明はこの成膜方法に限定するものではなく、他の一般的な薄膜形成方法(例えば真空蒸着法、イオンビーム法、化学気相成長法(CVD)等)を用いることも可能である。食品包装用ガスバリア層の製造方法としては、真空蒸着法やCVD法が利用されている。
【0077】
ガスバリア層付フィルムを食品包装分野で使用する場合の構成は、有機ELほど高いガスバリア性が必要ではなく、低コスト性が優先され、例えば100m/minオーダーの生産速度で製造される。スパッタリング法の膜堆積速度は真空蒸着法と比較するとかなり遅いが、膜組成など膜質の厳密制御が可能で、ガスバリア性や透明性等に関しても高品質な膜が得られる。
<性能測定実験>
(実験1)
本発明のガスバリア層付フィルムの性能を確認すべく、以下の実施例を作製し、ガスバリア性の評価を行った。
【0078】
ベースフィルム、無機膜(A膜)、ポリマー膜(B膜)の積層構造は、以下のサンプルの通りとした。
【0079】
サンプルNo.1(変形例2に対応) ベースフィルム/A膜/B膜
サンプルNo.2 ベースフィルム/A膜/B膜/A膜/B膜
サンプルNo.3 B膜/A膜/ベースフィルム/A膜/B膜
これらのサンプルNo1〜3の各々について、透明電極(ITO膜)を付けた構成と付けない構成を作製した。
【0080】
ベースフィルムは、日本ゼオン株式会社の「ゼオノア ZF-16」(厚み100μm、Re2.1nm、HO透過率1〜2g/m・day・atm)の両面に、紫外線硬化樹脂(JSR株式会社の「デソライトZ7524」)からなる厚み2μmの樹脂層を形成したもの(基材)を用いた。
【0081】
各サンプルでA膜/B膜の積層構造からなるガスバリア層を得る場合は、まず所定の樹脂層の表面に反応性スパッタ法を実施し、Si、O、Nを含む本発明の無機膜(厚み80nm)を形成した。次に、形成した無機膜の表面に、グラビア法でゾル-ゲル膜の材料(日本精化株式会社の「NSC−2451」)を塗工した。これを、80℃の熱風乾燥で溶媒を除去した後、140℃の熱風乾燥炉を約1min通過させることによって、緻密性の高いゾル-ゲル膜(厚み2.0μm)を得た。
【0082】
なお、上記とは逆に、「B膜/A膜」の積層構造からなるガスバリア層を得る場合には、上記と逆の手順とした。
【0083】
このような作製方法でサンプルNo.1〜3を作製した。サンプルNo.1については、特性の再現性を確保するため、別のロットに分けて2回同じ構成のサンプルを作製した(サンプルNo.1-1、1-2)。
【0084】
そして、作製した各サンプルについて、公知のMOCON法に基づき、O透過率(測定環境23℃90%RH)、HO透過率(40℃100%RH)をそれぞれ測定し、評価した。
【0085】
各サンプルのガスバリア特性について得られたデータを表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
この表1に示されるデータでは、基本的にいずれのサンプルも酸素及び水蒸気の透過率が0.1以下の良好なガスバリア特性を発揮することが分かった。
【0088】
本発明で最も基本的な構成を持つサンプルNo.1では、No.1-1及びNo.1-2のいずれの製造ロットでも比較的良好なガスバリア特性を発揮している。当該サンプルNo.1の特性は、製造ロットによって若干の差が生じているが、これは単純に製造誤差の範囲に収まるものであり、実際的な使用への影響は極めて小さいものである。
【0089】
サンプルNo.2では、酸素透過率、水蒸気透過率のいずれも、ITO膜の有無にかかわらず、極めて高いガスバリア特性を発揮することが分かった。これは、「A膜/B膜」構造の繰り返しによって構成されたガスバリア層が、優れたガスバリア特性を有することを示している。なお、サンプルNo.3でも非常に良好な特性を示しており、ベースフィルムの両面にガスバリア層を形成する構成でも、高いガスバリア特性が得られることが明らかになった。
【0090】
このサンプルNo.1〜3に関する実験結果から、実施の形態1及びその変形例1、3は、少なくとも酸素及び水蒸気透過率において、いずれも良好なガスバリア特性を発揮できるものと考えられる。
【0091】
なお、ガスバリア層付フィルムは、一般にITO膜が存在すると、これによりガスバリア特性が向上する。この性質が今回のデータにも表れている。
【0092】
なお、ITO膜はデバイスへの実装の際にエッチングされて所定の透明電極のパターンに加工されるので、これによってガスバリア特性が変化する。従って、ガスバリア特性の評価は、全てのサンプルで同一パターンのITO膜を配設するか、ITO膜を配設しないようにするのが好適である。
【0093】
(実験2)
次に、Si膜を用いた変形例2のフィルムについて、ガスバリア層の密着性を調べる実験を行った。
【0094】
サンプルNo.4として、ベースフィルムの上にA膜とB膜を順次形成した。一方、実施例のサンプルNo.5として、ベースフィルムの上にA膜、Si膜、B膜を順次形成した。
【0095】
この作製中において、サンプルNo.4で形成したB膜の表面を顕微鏡で観察したところ、塗膜表面にところどころはじきやピンホールが確認された。これは、A膜の表面に存在する何らかの欠点(ピンホールや微細な突起)が核となって生じているものと推察される。一方、サンプルNo.5の場合は、サンプルNo.4と比較してはじきやピンホールの大幅な低減が確認できた。この理由は、Si膜を設けることでB膜のA膜に対する親和性が増したことを意味する。勿論、このようなはじきやピンホールが存在しても、前述の如く、A膜とB膜とを繰り返し積層することによって、十分なガスバリア性が得られるようになる。
【0096】
次に、各サンプルをそれぞれ幅1cmの短冊に切り出し、2wt%-NaOH水溶液に浸漬させて、膜の剥離の有無を観察した。
【0097】
その結果、サンプルNo.4では、浸漬後約2.5分で膜の剥離が目視で確認できた。これに対し、サンプルNo.5では、浸漬後約10分を経過しても剥離は生じず、ガスバリア層の強固な密着性が発揮されていることが確認された。これにより、Si膜を無機膜とポリマー膜との間に介設すれば、ガスバリア層の密着構造が飛躍的に向上されると考えられる。
【0098】
なお、この実験は現実的な環境よりも相当に過酷な条件において実施しており、サンプルNo.4が低い性能しか持たないことを意味するものではない。いずれのサンプルも本発明の一形態であり、従来のガスバリア層付フィルムに対して優れた密着性と耐久性を有するものである。
【0099】
(実験3)
本発明のガスバリア層付フィルムの光反射防止性能を確認すべく、以下の実施例を作製し、ガスバリア性の評価を行った。
【0100】
ベースフィルム、無機膜(A膜)、ポリマー膜(B膜)の積層構造は、以下のサンプルの通りとした。
【0101】
サンプルNo.6 ベースフィルム/A1膜/B1膜/A2膜/B2膜
ベースフィルムは、Topas Advanced Polymersの「TOPAS」(厚み100μm、Re0.8nm、HO透過率1〜2g/m・day・atm)の両面に、紫外線硬化樹脂(JSR株式会社の「デソライトZ7524」)からなる厚み2μmの樹脂層を形成したもの(基材)を用いた。
【0102】
前記サンプルでA膜/B膜の積層構造からなるガスバリア層を得る場合は、まず所定の樹脂層の表面に反応性スパッタ法を実施し、Si、O、Nを含む本発明の透明無機膜を形成した。
【0103】
ここで、A1膜が30nm、A2膜が92nmとなるように、予めスパッタ時間を調整して厚みをコントロールした。得られた該A膜のXPSによる組成分析結果は、Si/O/N=37/42/21(x=0.37、y/z=0.50)であり、屈折率は1.68であった。ここで、屈折率はエリプソメーターを用いて測定した値であるが、本測定のためには、厚み1mmの石英ガラスにガスバリア層付フィルムと同じ条件でSi、O、Nを含む膜を作製したサンプルを別途用意した。
【0104】
次に、形成した無機膜の表面に、メイヤーバーを用いてゾル-ゲル膜の材料(日本精化株式会社の「NSC−2451」)を塗工した。これを、80℃の熱風乾燥で溶媒を除去した後、140℃で約1minかけて硬化させ、緻密性の高いゾル-ゲル膜を得た。ここで、硬化後のB1膜が24nm、B2膜が96nmとなるように予め条件を決めておいた。
【0105】
得られたガスバリア層付フィルムのガスバリア特性はサンプルNo.2とほぼ同様であり、O透過率は0.005cm/m・day・atm、HO透過率は0.005g/m・day・atmであった。
【0106】
また、該フィルムの光反射防止作用を分光光度計で測定したところ、波長500〜700nmの範囲における光反射率は1.5%以下であった。ここで、測定にあたっては、ガスバリア層からの光反射を測定するために、フィルムの裏面を黒く塗りつぶしておいた。一方、ガスバリア層を設けなかった場合の基材のみの反射率を同様に測定したところ、波長550nmにおける光反射率は4.3%であった。
【0107】
このように、本発明のガスバリア層付フィルムはA膜とB膜の厚みを調整することで光反射作用を兼ね備えることができる。
【0108】
以下、本発明の別の実施の形態について説明する。
【0109】
<実施の形態2>
本発明のガスバリア層付フィルムは、以下に示すような液晶デバイス、有機EL(電界発光)デバイス等の各用途に利用することができる。
【0110】
図4は、TFT型液晶ディスプレイ(LCD)の構成を示す模式的な断面図である。当図に示すLCD4は、液晶層52に直径28μmのビーズスペーサーを介し、フロントパネル4a、バックパネル4bが厚み方向に対称的に配されてなる。当該LCD4は、全体的には公知の構成とほぼ同様であり、ガスバリア層付フィルムの使用部分のみが異なる。
【0111】
フロントパネル4a(バックパネル4b)は、ポリマーネットワーク型液晶(PNLC)からなる液晶層52を中心とし、これに近接配置された順に、配向膜51a(51b)、ガスバリア層付フィルム40a(40b)、フロントパネルガラス41a(バックパネルガラス41b)、偏光板42a(42b)が積層されてなる。
【0112】
ガスバリア層付フィルム40a(40b)は、実施の形態1のフィルム1と同様の構成であり、ベースフィルム402a(402b)上に、液晶層52に向かって無機膜403a(403b)、ポリマー膜404a(404b)が積層されてなる。
【0113】
なお、実際には配向膜51a、51b中には複数の透明電極(不図示)が互いにマトリクス状に配設されており、当該マトリクスの各交点に対応してセルが形成されるように、配向膜51a及びフロントパネルガラス41aの間にRGBいずれかの色のカラーフィルターが配される。駆動時には隣接するRGB各セルが1ピクセルを構成し、各セル及び各ピクセルにおいて色表示と階調表示を行うことで、パネル全体としてカラー表示をなすようになっている。
【0114】
このような構成を持つLCD4によれば、駆動時にはガスバリア層付フィルム40a(40b)の採用により、液晶層52が効果的に外部空気からガスバリアされ、酸素や水分の侵入による変性が効果的に防止される。その結果、長期にわたり良好な画像表示性能が発揮されることとなる。
【0115】
また、LCD4では、ガスバリア層付フィルム40a(40b)におけるガスバリア層が良好な密着性を有しているため、剥離しにくい構造となっている。このため、LCD4を例えば野外で使用される携帯電話やPDA等に適用し、これらの機器に外圧や振動、急激な湿度変化、温度変化又は紫外線等による各種負荷が加わっても、優れた耐久性を維持でき、安定した画像表示の発揮が期待できるものである。
【0116】
また、LCD4では、ガスバリア層付フィルム40a(40b)に含まれるベースフィルム402a(402b)自体が所定のリターデーションを有するので、ディスプレイの内部からの反射光を当該ベースフィルム402a(402b)の円偏光機能で低減できる。このため、LCD4に対して別途、位相差フィルムを配設しなくても良く、LCD4の薄型・軽量化とコスト低減を図れるようになっている。
【0117】
さらに、ガスバリア層をなす無機膜403a(403b)、ポリマー膜404a(404b)がそれぞれ適切な厚みに調整されているので、実施の形態1のフィルム1と同様に外光の反射が適度抑制され、特に暗い画像など、低階調度の画像表示を行う場合に優れた画像表示がなされるようになっている。
【0118】
なお、本発明の液晶デバイスはLCDに限定されず、液晶シャッター等のその他のデバイスにも適用が可能である。当該液晶シャッターとは、二枚の液晶ディスプレイを並べて配置し、両ディスプレイに所定のフレーム又はタイミングで駆動させることにより、立体画像を表示する用途に利用される。具体的には、当該2枚の液晶ディスプレイを眼鏡のレンズとして眼鏡枠に配設し、これをユーザが装着することで個人的に映像を鑑賞できる構成(例えばNuVision社製液晶シャッターメガネ「60GX-G1」)が知られている。本発明のガスバリア層付フィルムは、このような液晶シャッターへの適用においても同様に高い効果が期待できる。
【0119】
<実施の形態3>
次に示す図5は、本発明の実施の形態3である、有機ELディスプレイ(OELD)の構成を示す模式的な断面図である。図5(a)は低分子有機EL5、図5(b)は高分子有機EL6の構成をそれぞれ示す。
【0120】
図5(a)に示す低分子有機EL5は、ガラス基板50の上に透明陽極層51、正孔注入層52、正孔輸送層53、発光層54、電子輸送層55、金属陰極56を同順に積層し、一定の空間60を置いて、これらを封止用キャップ59で被覆した構造を持つ。正孔注入層52と金属陰極56には、外部より配線61、62を介して直流電源DCが供給されるようになっている。直流電源封止用キャップ59の周囲はキャップ64によりガラス基板50側と密着封止されている。各当該封止用キャップ59の内側には、内部に進入した水分を捕らえるための乾燥剤58及びテーピング57が配設されている。
【0121】
一方、図5(b)に示す高分子有機EL6の構成は、全体的には低分子有機EL5と同様であるが、発光層54の材質の違いにより正孔輸送層53及び電子輸送層55が省略された構成を持つ。
【0122】
上記有機EL5、6は、いずれも封止用キャップ59以外は従来構成と同様である。当該有機EL5、6は、いずれも駆動時には発光層からの発光がガラス基板50側から取り出せる。
【0123】
ここにおいて有機EL5、6では、いずれもガスバリア対策として、実施の形態1のフィルム1を、前記封止用キャップ59として設けている。一般に有機EL表示装置では、発光層が酸素や水分に対して弱く、経時的に外部より侵入した酸素や水分により変質して発光効率が低下する問題があるが、有機EL5、6では上記構造により、封止用キャップ59に囲まれた密閉空間60において、実施の形態1で述べた良好なガスバリア特性が発揮され、長期間にわたり有機層に対するガスバリア効果が発揮される。このため、発光層の変質劣化を効果的に防止して、良好な画像表示性能を長く保つことができるようになっている。
【0124】
また、図5(a)、(b)に示す有機EL5、6は、ここでは2種類のデバイスの単一構造のみを示しているが、本発明はこれに限定されない。例えば当該デバイスをガラス基板上にマトリクス状に複数にわたり形成し、各セルに所定のタイミングで電圧印加することにより、階調表示(モノクロ、フルカラー表示を含む)を行う構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のガスバリア層付フィルムは、食品包装フィルムの他、特に高いガスバリア性が要望されるLCD、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ等の各種FPDに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】実施の形態1及びその変形例に係るガスバリア層付フィルムの断面図である。
【図2】実施の形態1の変形例に係るガスバリア層付フィルムの構成を示す断面図である。
【図3】本発明における無機膜の形成方法と、これに用いるスパッタリング装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】実施の形態2の液晶ディスプレイパネルの断面図である。
【図5】実施の形態3の有機ELディスプレイパネルの断面図である。
【符号の説明】
【0127】
1、1a〜1c ガスバリア層付フィルム
4 LCD
4a フロントパネル
4b バックパネル
5 低分子有機EL
6 高分子有機EL
10、402a、402b ベースフィルム
11、11a、11a、404a、404b 無機膜
12、12a、12a、403a、403b ポリマー膜
13 透明電極
14A、14B 樹脂層
15 Si膜
40a、40b ガスバリア層付フィルム
50 ガラス基板
52 液晶層
53 ビーズスペーサー
59 封止用キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムの少なくとも一方の面に、直接または間接的にガスバリア層が積層されてなるガスバリア層付フィルムであって、
ベースフィルムは、HO透過率が10g/m・day・atm以下のバリア性と、ガラス転移温度が130℃以上の特性を有し、且つ、リターデーションが波長0以上550nm以下の位相差を持つ透明ポリオレフィン樹脂で構成され、
ガスバリア層は、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂の少なくともいずれかよりなるポリマー膜と、組成式がSiで表される材料からなる無機膜とを有する積層体で構成されている
ことを特徴とするガスバリア層付フィルム。
但し、xは0.35以上0.55以下であり、y/zは0.4以上2.0以下の関係を有する。但し、x+y+z=1を満たすものとする。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂は、付加重合型又は開環重合型である
ことを特徴とする請求項1に記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項3】
ベースフィルムの少なくとも一方の面には、電離線硬化樹脂または熱硬化樹脂のいずれかよりなる樹脂層が直接被着されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項4】
前記ガスバリア層において、前記無機膜と前記ポリマー膜との間に、Siからなる膜が積層されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア層は、ベースフィルムに最も近接する面が、ポリマー膜となるように構成されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項6】
前記ガスバリア層は、ベースフィルムから最も遠い表面に無機膜が積層されるように配されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項7】
前記積層体において、ポリマー膜と無機膜とが2単位以上繰り返し積層されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項8】
前記積層体は、波長450nm〜700nmの範囲における光反射率が2%以下の光反射低減機能を有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリア層付フィルム。
【請求項9】
フロントパネル及びバックパネルにより液晶層を挟設してなる液晶デバイスであって、
前記フロントパネルおよび前記バックパネルの少なくともいずれかは、
請求項1〜8のいずれかに記載のガスバリア層付フィルムからなる
ことを特徴とする液晶デバイス。
【請求項10】
前記液晶デバイスは、液晶シャッター或いは液晶ディスプレイパネルである
ことを特徴とする請求項9に記載の液晶デバイス。
【請求項11】
第一電極と、発光層と、透明電極材料からなる第二電極とが順次積層されてなる有機または無機発光素子が基板上に配設され、各発光素子がガスバリア手段で被覆されてなる電界発光デバイスであって、
前記ガスバリア手段として、請求項1〜8のいずれかに記載のガスバリア層付フィルムを備えることを特徴とする電界発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−190186(P2009−190186A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30374(P2008−30374)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】