説明

ガスバリア性プラスチック容器及びその製造方法

【課題】ガスバリア性薄膜で被覆されているプラスチック容器において、ガスバリア性を低下させることなく透明性を高めることができるプラスチック容器を提供する。
【解決手段】本発明のガスバリア性プラスチック容器は、プラスチック容器の表面にプラズマエッチング処理を施すことにより二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下にする工程、次にプラズマCVD法によりプラスチック容器の表面に膜厚が5〜35nmのガスバリア性薄膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)を形成することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性プラスチック容器及びその製造方法に関し、より詳しくはダイヤモンドライクカーボン膜が被覆されたガスバリア性プラスチック容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば飲食品、医薬品及び化粧品等の収容容器として合成プラスチック容器が使用されている。かかるプラスチック容器は、金属成形体及びガラス成形体に比べ、透明性が高く、軽量で加工成形性が容易という長所がある一方、酸素透過率が高いという問題があった。そのため、例えば炭酸ガスが発生する飲料、酸素や水(水蒸気)との接触を嫌う医薬品・食品等においては容易に利用することはできなかった。その一方、単にプラスチック容器の厚みを厚くしたり、さらに金属皮膜を積層させたり等の方法を用いることによりガスバリア性を高めようとすると、上述したプラスチック容器の長所が失われるという問題があった。
【0003】
このような事情から、従来より特許文献1及び2に記載されるようなプラスチック容器の表面にダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon、以下「DLC」という。)被膜を形成することによりガスバリア性を高めたプラスチック容器が知られている。DLC被膜は、例えば減圧条件下において炭素源ガス導入後、高周波印加することによりプラスチック容器の表面に被覆することができる。DLC被膜は、ナノメートル単位の皮膜であるため、プラスチック容器の重量を上げることなく、かつ、ガスバリア性を向上させることができた。
【特許文献1】特許第3545305号公報
【特許文献2】特開2003−321031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DLC被膜は一般に茶色から黒色を呈するため、DLC被膜の膜厚を厚くするとプラスチック容器の透明性が低下するという問題があった。その一方、DLC被膜の膜厚を薄くしたのではプラスチック容器のガスバリア性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、被覆対象であるプラスチック容器の内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)を所定値以下にしてDLC被膜を形成することによりガスバリア性を低下させることなく透明性が向上することを見出したことによりなされたものである。本発明の目的とするところは、DLC被膜により被覆されるプラスチック容器において、ガスバリア性を低下させることなく透明性を高めることができるプラスチック容器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、プラスチック容器の内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下とし、該内面に膜厚5〜35nmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成する。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のガスバリア性プラスチック容器において、全光線透過率を80%以上とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載のガスバリア性プラスチック容器において、黄色度(YI値)を4.5以下とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器において、ガスバリア性薄膜をダイヤモンドライクカーボンで構成する。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器において、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂でプラスチック容器を形成し、かつその厚みを100〜400μmとする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器において、23℃、80%RH条件下での酸素透過率を0.5cc/m/24hr以下とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器において、ダイヤモンドライクカーボン膜の二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器の製造方法であって、プラスチック容器の表面にプラズマエッチング処理を施すことにより表面の二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下にする工程、プラズマCVD法によりプラスチック容器の表面に膜厚が5〜35nmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、DLC被膜により被覆されるプラスチック容器において、ガスバリア性を低下させることなく透明性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のガスバリア性プラスチック容器を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のガスバリア性プラスチック容器(以下「本実施形態のプラスチック容器」ともいう。)は、合成樹脂によりプラスチック容器に成形された基材と、その内面に所定厚みを有するDLC被膜が被覆された構成を有している。
【0016】
プラスチック容器の樹脂材料としては、特に限定されず樹脂成形品に適用される公知の合成樹脂材料が適用される。具体的には、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、シクロオレフィンコポリマ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ−4−メチルペンテン−1 樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、アイオノマ樹脂、ポリスルホン樹脂及び4−フッ化エチレン樹脂(TFE)、ポリ乳酸樹脂(PLA)等が挙げられる。これらのうちで、珪素含有DLC膜との密着性及び成形性が良好である点、透明性が高く飲食品等の収容容器に好適に使用することができる点よりポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。
【0017】
プラスチック容器は、上記合成樹脂材料を原料として公知の方法により製造することができる。本実施形態におけるプラスチック容器はポリエチレンテレフタレート樹脂を使用したものであり、その製造方法は周知の方法である2軸延伸ブロー成形法により製造される。
【0018】
プラスチック容器の厚さは、目的・用途、機械強度、可撓性、透明性等の観点より適宜設定することができる。本実施形態のプラスチック容器が、例えば飲食品、医薬品及び化粧品等の収容容器として使用される場合、厚みは好ましくは100μm以上、好ましくは150μm以上であり、500μm以下、好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下の範囲に設定される。また、プラスチック容器の幅や高さは特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
【0019】
プラスチック容器の内面(すなわちガスバリア性薄膜の被覆面)平坦部は、二乗平均粗さ(Rms、「自乗平均平方根粗さ」ともいう)が2nm以下、好ましくは1.5nm以下になるように形成されている。二乗平均粗さ(Rms)が2nmを超えると酸素透過率が増加するおそれがある。また、黄色度(YI値)が上昇するとともに全光線透過率が低下するおそれがある。二乗平均粗さ(Rms)の下限は酸素透過率の低下、黄色度(YI値)の低下及び全光線透過率の向上の観点より特に限定されないが、加工性、製造コストの観点より0.5nm以上が好ましく、1.0nm以上がより好ましい。
【0020】
二乗平均粗さ(Rms)は、通常市販されている原子間力顕微鏡(以下「AFM」という。)により測定したAFM凹凸像を粗さ解析により求めた粗さ(Rms)の値である。AFMとしては、Digital Instruments社、セイコー電子工業社Topometrix社等から市販されている装置をそのまま使用することができる。この粗さRmsの測定では、Q.Zong,D.Innis,K.Kjoller and V.B.Elings, Surf.Sci.Letter,(1993) Vol.290,P688〜692に説明のある共振モードに相当する測定モードが採用される。例えば、Digital Instruments社製の装置NanoScope(C)を使用した場合にはタッピングモードで、また、セイコー電子工業社製SPI3800Nを使用した場合にはダイナミックフォースモードで測定を実施することができる。
【0021】
二乗平均粗さの測定では、プラスチック容器内面を基準長さ(l)1μm×1μmの面積を測定したAFM凹凸像についてフラット処理を行った後、粗さ解析を行って二乗平均粗さ(Rms)の値を求める。フラット処理とは、2次元データにつき、基準面に対して1次、2次又は3次元の関数で傾きの補正を処理することをいう。粗さ解析により求めた二乗平均粗さ(Rms)は以下の式(1)により求めることができる。走査速度、1測定領域中の測定点数、傾斜補正は、表面状態を明確に測定できる条件を適宜選択することができる。例えば、走査速度0.1Hz、数式(1)において、Zi=f(x,y)で、x,yの座標は0から511の512点ずつ、即ち、N=512×512、約25万点で、高さ(粗さ)の二乗平均粗さ(Rms)を求めることができる。プラスチック容器の二乗平均粗さ(Rms)測定個所は、プラスチック容器の肩部又はパネル部の平坦な個所において測定する。プラスチック容器の底部や湾曲度の高い個所においては、二乗平均粗さ(Rms)は表面粗さ測定が困難であり、測定値も2nmより大きくなる傾向にある。
【0022】
【数1】

【0023】
プラスチック容器内面平坦部における被コーティング面の二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下とする具体的な方法としては、例えば、プラズマエッチングにより表面処理を施す手法が挙げられる。
【0024】
プラズマエッチングの手法としては、真空中において希ガスを放電させてプラズマ状態にし、この時発生する ラジカル(反応種)とイオンを基材表面に衝突させることにより行うことができる。プラズマエッチング法は、通常基材表面の粗面化に用いられるが、その処理条件をコントロールすることにより平滑化も可能となる。プラズマエッチングに用いられる希ガスとしては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)が好ましい。
【0025】
その他、二乗平均粗さ(Rms)の増大に起因する要因を取り除くことにより二乗平均粗さ(Rms)を低下させることができる。例えば、二乗平均粗さ(Rms)を低下させる方法としては、プラスチック容器に添加剤が配合されることにより二乗平均粗さ(Rms)が増大する場合には、添加剤の配合量の低減等の方法が挙げられる。また、鏡面加工により二乗平均粗さ(Rms)を低減させた金型を転写させることによっても二乗平均粗さ(Rms)を低下させることもできる。
【0026】
本実施形態のプラスチック容器は、二乗平均粗さ(Rms)が2nm以下の内面に膜厚5〜35nmのガスバリア性薄膜が形成される。このガスバリア性薄膜を形成する材料は、所望の酸素透過率を実現できるものであれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、DLC、珪素化合物、酸化アルミなどが挙げられる。この中で、珪素化合物は屈曲や伸縮応力により被膜の応力破壊が容易に発生するため、下地層の形成が必要でありプラスチック容器への適応は困難である。また、酸化アルミにおいてもX線による異物検査に使用できず、アルカリ性の食品等と直接触れることにより剥離する欠点を持つためプラスチック容器への適応は困難である。これに対して、DLCは屈曲や伸縮応力に対して柔軟性が高く、X線等の異物検査にも使用できるため適している。
【0027】
本実施態様のプラスチック容器では、内面にDLC被膜を好適に形成することができる。DLC被膜は、炭素間のSP3結合を主体としたアモルファな炭素膜で、高ガスバリア性、高硬度、高耐食性等の特性を有する硬質炭素膜である。DLC被膜を樹脂成形体表面に形成する方法の一例として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。プラズマCVD法を用いたDLC被膜の形成は、市販のプラズマCVD装置を用いて行なうことが可能である。プラズマCVD装置を用いた具体的なDLC被膜の形成方法は、まず真空チャンバー内にプラスチック成形体をセットする。真空チャンバー内には二対の電極があり、片方に所定(例えば13.56MHz)の高周波(RF)電源が接続され、もう一方はアースとなる。この真空チャンバー内を真空ポンプを用いて所定の圧力(例えば1〜50Pa)まで減圧し、ガス導入口から原料ガスを真空チャンバー内に導入する。高周波電力を印加することによりプラスチック容器内面にプラズマを発生させガスバリア性薄膜を形成させる。なお、DLC被膜の形成方法はこれに限定されるものではなくプラスチック容器の種類・大きさ、厚み等に応じ公知の方法を適宜用いることができる。
【0028】
また、プラズマCVD法によるDLC被膜形成の際に使用される原料ガスとしては、アセチレン、エチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素化合物、メタン、エタン、プロパン等の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素化合物等を挙げることができる。前記原料ガスは、前記各化合物を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。また、原料ガスをアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)等の希ガスで希釈して使用してもよい。
【0029】
プラスチック容器に被覆されるガスバリア性薄膜の膜厚はガスバリア性薄膜を形成する材料によって多少異なるが、5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは13nm以上であり、35nm以下、好ましくは18nm以下、より好ましくは17nm以下の範囲とすることが重要である。ガスバリア性薄膜の膜厚が5nm未満であると酸素透過率の上昇を招くおそれがある。一方、ガスバリア性薄膜の膜厚が35nmを超えると黄色度(YI値)が上昇するとともに全光線透過率の低下を招くおそれがある。ガスバリア性薄膜がDLC被膜の場合、その膜厚は、プラズマCVD法を使用する場合、出力、原料ガスの圧力・濃度、プラズマ発生時間等を調節することにより変化させることができる。
【0030】
本実施形態のプラスチック容器は、好ましくは全光線透過率が80%以上に設定される。全光線透過率が80%以上であると、ガスバリア性プラスチック容器を飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に適用した場合に内容物の確認及び変色等を容易かつ正確に確認することができる。全光線透過率はプラスチック容器を構成する合成樹脂材料、膜厚、プラスチック容器内面の二乗平均粗さ(Rms)、ガスバリア性薄膜の膜厚に依存する。全光線透過率(%)は、JISK7105に準じて分光光度計を用いて測定することができる。
【0031】
本実施形態のプラスチック容器は、好ましくは黄色度(YI値)が4.5以下、さらに好ましくは3以下に設定される。黄色度(YI)は、JISZ7103の準拠して測定した。具体的には、市販の色差計によって測定することができ、三刺激値X、Y、Zを求め、これらを次の式を用いて計算する。
【数2】

黄色度(YI)とは無色または白色から色相が黄色向に離れる度合いであり、プラスの量として表示される。従って、黄色度がマイナスの値で表示される時は色相が青方向へ移向することを示している。例えば、透明合成樹脂を原料としてガスバリア性プラスチック容器を成形した場合、黄色度(YI)が低いことはDLC被膜由来の着色が少ないことを示す。黄色度(YI)が2.5〜5.0の範囲内であると、ガスバリア性プラスチック容器を飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に適用した場合に内容物の確認及び変色等を容易且つ正確に確認することができる。黄色度(YI)はプラスチック容器を構成する合成樹脂材料、膜厚、ガスバリア層の膜厚・膜組成に依存する。
DLC被膜の膜厚を薄くすることにより黄色度(YI)は小さくなるが、薄膜化に伴いガスバリア性も低下する。ガスバリア性に対して有効なDLC被膜の膜厚は、プラスチック容器内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)が大きいほど厚くなる傾向にある。そのため、プラスチック容器内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)を小さくすることにより、DLC被膜を薄膜化することが可能となる。ただし、プラスチック容器内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)を必要以上の小さくすると、DLC被膜とプラスチック容器との密着性が低下し、DLC被膜の剥離が発生する。
【0032】
酸素透過率は0.5cc/m/24h以下であることが好ましく、より好ましくは0.2cc/m/24h以下である。酸素透過率が0.5cc/m/24h以下であると、プラスチック容器内に内容する飲料や調味料等の劣化や香味成分の十分なバリア効果が得られる。しかし、DLC被膜の膜厚を厚くすることにより、酸素透過率を向上することができるが、膜厚を厚くすると黄色度(YI)も大きくなる。
【0033】
本実施形態のガスバリア性プラスチック容器によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、プラスチック容器について、内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下に形成するとともに、その表面に膜厚が5〜35nmのDLC膜を被覆することによりガスバリア性を付与した。したがって、ガスバリア性を維持した状態でプラスチック容器の透明性を高めることができる。
【0034】
また、ガスバリア性薄膜、特にDLC被膜の場合、膜厚が5〜35nmと薄いため、基材としてのプラスチック容器との密着性が低下することがない。
(2)本実施形態では、ガスバリア性プラスチック容器について好ましくは全光線透過率が80%以上である。また、好ましくは黄色度(YI値)が4.5以下である。したがって、飲食品、医薬品、化粧品等の収容容器に適用した場合に内容物の確認及び変色等を容易且つ正確に確認することができる。
【0035】
本実施形態のプラスチック容器の用途は、特に限定されず、ガスバリア性が要求される飲食品、医薬品及び化粧品等の収容容器等に適用することができる。上記実施形態では、本発明の効果を損なわない範囲において基材としてのプラスチック容器に添加剤として紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、増感剤等を配合してもよい。
【実施例】
【0036】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
プラスチック容器として厚さ約300μmのブロー成形により作製したポリエチレンテレフタレートボトル(PETボトル)を使用した。プラスチック容器の内面は、13.56MHzの高周波プラズマ装置を用い、15Paの減圧下において放電出力400W、処理ガスArの条件において2.0秒間プラズマエッチング処理することにより平坦化した。その後、13.56MHzの高周波プラズマ装置を用いDLC被膜形成処理を行なった。具体的には内面処理を行ったプラスチック容器を大気に暴露することなく真空中(15Paの減圧下)、放電出力720Wの条件下において行なった。原料ガスとしてアセチレン(C)を使用した。プラズマCVD法の原理により0.5秒間プラズマを照射してDLC膜を形成し、ガスバリア性プラスチック容器を得た。実施例1の得られたガスバリア性プラスチック容器について、酸素透過率、全光線透過率、DLC被膜の膜厚、密着性、黄色度、DLC膜表面の二乗平均粗さ(Rms)及び耐アルカリ性について測定した。また、DLC被膜形成前及び形成剥離後のプラスチック容器内面の二乗平均粗さ(Rms)について測定した。各測定及び評価の方法は以下の通りである。尚、以下の実施例及び比較例も同様の測定及び評価方法にて行なった。測定結果を表1に示す。
【0037】
(プラスチック容器内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms))
走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製SPI3800N)の非接触モード(ダイナミックフォースモード)で測定した。走査速度、1測定領域中の測定点数、傾斜補正は、表面状態を明確に測定できる条件を選択した。プラスチック容器の表面形状の表面粗さ(Rms)は、走査型プローブ顕微鏡SPI3800N付属ソフトの「CROSSSECTION」解析のAREA解析で求めた。
【0038】
実施例で得られたガスバリア性プラスチック容器のDLC被膜形成面を1μm×1μm の面積を測定したAFM凹凸像について、フラット処理を行った後、粗さ解析を行って、Rmsを求めた。また、測定する箇所は、滑剤やフィラー等による高さ数10nmの突起のない箇所とした。
【0039】
(ガスバリア性薄膜剥離後の二乗平均粗さ(Rms))
DLC被膜の成膜前後におけるプラスチック容器内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)を求めるため、DLC成膜後1日放置したものについて、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をガスバリア性プラスチック容器中に充填した状態で、室温に48時間放置することにより、ガスバリア性プラスチック容器内面からDLC被膜を剥離し、二乗平均粗さ(Rms)を同様に測定した。
【0040】
(酸素透過率)
酸素透過測定装置(MOCON社製、OXTRAN2/21)を使用し、温度25℃、相対湿度80%の条件下で測定した。1日当たり1平方メートルでいくら透過したかを表わした。
【0041】
(全光線透過率)
JIS K7105に準じて光度計(日本電色社製NDH−300A)を用いて全光線透過率を測定した。
【0042】
(DLC被膜の膜厚)
シリコンウエハー上に黒色インキ等でマスキングを行ったものをプラスチック容器内面に貼り付けた状態において、ガスバリア性薄膜としてDLC被膜を被覆した後、ジエチルエーテル等でシリコンウエハーのマスキングを除去し、米国sloan社製、表面形状測定器DEKTAK3030によって膜厚を測定した。
【0043】
(密着性)
ガスバリア性薄膜としてDLC被膜を形成した後、ガスバリア性プラスチック容器について、DLC被膜形成面を碁盤の目状にナイフで切り込みを入れ、粘着テープによる剥離試験を行った。1mm×1mmのマス目100個のうち、剥離せずに残ったマス目の個数により下記の判定を行った。剥離せずに残ったマス目の個数100個;〇、99〜75個;△、74〜0個;×として評価した。
【0044】
(黄色度)
色差計(日本電色社製ZE2000)により垂直に光を通過させてb*値を測定することにより、前記被膜による着色の程度を評価した。
【0045】
(耐アルカリ性)
水酸化ナトリウムを10質量%となるように添加したアルカリ溶液をガスバリア性プラスチック容器を用いて成形した容器内部に充填し、75℃の湯浴中に24時間浸漬し、DLC被膜の形状変化、剥離の有無を確認した。結果は24 時間以上浸漬して変化のないものを○、24時間未満12時間以上の浸漬で変化のないものを△として評価した。
【0046】
(実施例2)
プラズマエッチング放電出力を400W、処理時間を2.0秒間、プラズマCVD法によるDLC被膜の形成条件を0.8秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0047】
(実施例3)
プラズマエッチング放電出力を300W、処理時間を2.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を0.5秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0048】
(実施例4)
プラズマエッチング放電出力を300W、処理時間を2.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を0.8秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0049】
(比較例1)
プラズマエッチング放電出力を500W、処理時間を2.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を0.5秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0050】
(比較例2)
プラズマエッチング放電出力を500W、処理時間を2.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を0.8秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0051】
(比較例3)
プラズマエッチング放電出力を300W、処理時間を5.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を0.5秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0052】
(比較例4)
プラズマエッチング放電出力を300W、処理時間を4.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を0.8秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0053】
(比較例5)
プラズマエッチング放電出力を300W、処理時間を2.0秒間、プラズマCVD法によるDLC膜の形成条件を1.0秒間とした以外は実施例1と全く同一として、ガスバリア性プラスチック容器を得た。
【0054】
(比較例6)
プラズマエッチング処理、DLC成膜を実施せずにプラスチック容器の各物性の評価を行った。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の各実施例及び比較例に示されるように、二乗平均粗さ(Rms)が2nm以下にすると35nm以下のガスバリア性薄膜(DLC被膜)であっても高いガスバリア性を有すると同時にガスバリア性プラスチック容器の透明度が向上することができる。特に実施例3の二乗平均粗さ(Rms)が1.6nmの場合、比較例1の二乗平均粗さ(Rms)が6.2nmのガスバリア性プラスチック容器よりも高いガスバリア性を発揮すると同時に、比較例4のDLC被膜を形成しないプラスチック容器に近い透明度を有することが確認された。また、比較例に示されるように二乗平均粗さが2nmを超えると急激に酸素透過量が上昇することが確認される。プラスチック容器内面平坦部の二乗平均粗さが2nmを超える場合、十分なガスバリア性を得るためにはDLC被膜の膜厚をさらに高くする必要があると思料される。それにより、ガスバリア性プラスチック容器の透明度が低下することが予想される。
【0057】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)プラスチック容器の内面に膜厚が5〜35nmであるDLC膜が形成されたガスバリア性プラスチック容器であって、前記プラスチック容器の内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)が2nm以下であることを特徴とするガスバリア性プラスチック容器。従って、この(a)に記載の発明によれば、ガスバリア性が要求される飲食品等のプラスチック容器に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック容器の内面に膜厚5〜35nmのガスバリア性薄膜が形成されたガスバリア性プラスチック容器であって、前記プラスチック容器の内面平坦部の二乗平均粗さ(Rms)が2nm以下であることを特徴とするガスバリア性プラスチック容器。
【請求項2】
全光線透過率が80%以上である請求項1記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項3】
黄色度(YI値)が4.5以下である請求項1記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項4】
前記ガスバリア性薄膜が、ダイヤモンドライクカーボン膜である請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項5】
前記プラスチック容器が、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂で形成され、かつ厚みが100〜400μmである請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項6】
23℃、80%RH条件下での酸素透過率が、0.5cc/m/24hr以下である請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項7】
前記ダイヤモンドライクカーボン膜の二乗平均粗さ(Rms)が2nm以下である請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性プラスチック容器。
【請求項8】
プラスチック容器の表面にプラズマエッチング処理を施すことにより表面の二乗平均粗さ(Rms)を2nm以下にする工程と、プラズマCVD法によりプラスチック容器の表面に膜厚が5〜35nmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成する工程を有することを特徴とするガスバリア性プラスチック容器の製造方法。

【公開番号】特開2008−230648(P2008−230648A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71048(P2007−71048)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】