説明

ガスバリア性樹脂基材および有機エレクトロルミネッセンスデバイス

【課題】高いガスバリア性能を有し、かつ接着剤との接着性が充分なガスバリア性樹脂基材を提供し、またこれを用いたガスバリア耐性に優れた有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELあるいはOLEDと称す)を提供する。
【解決手段】透明樹脂基材の少なくとも1面に、酸化珪素を含有するガスバリア層を有するガスバリア性樹脂基材において、該ガスバリア層が、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第一の層3と、炭素含有率が0.1at%以下である酸化珪素を含有する第二の層4と、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第三の層5を、物理気相成長法または化学気相成長法により、順次少なくとも1組以上形成した、積層構成を有していることを特徴とするガスバリア性樹脂基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された酸化珪素層を有するガスバリア性樹脂基材に関し、該ガスバリア性樹脂基材を用い形成した有機エレクトロルミネッセンスデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック基板やフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物の薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素等、各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装用途等に広く用いられている。また、包装用途以外にも液晶表示素子、太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイス等で使用されている。特に、液晶表示素子、有機ELデバイスなどへの応用が進んでいる透明基材には、近年、軽量化、大型化という要求に加え、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の高度な要求因子が加わり、重く割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって、透明プラスチック等のフィルム基材が採用され始めている。
【0003】
また、プラスチックフィルムは上記要求に応えるだけでなく、ロールトゥロール方式が可能であることから、ガラス基板よりも生産性に優れ、経済性の面からも有利である。
【0004】
しかしながら、透明プラスチック等のフィルム基材は、ガラス等の基材に対しガスバリア性が劣るという問題を抱えている。ガスバリア性が劣る基材を用いると、水蒸気や空気が浸透し、例えば、液晶セル内の液晶を劣化させ、表示欠陥となって表示品位の劣化を招く結果となる。
【0005】
この様な問題を解決するための方法の一つとして、フィルム基板上に金属酸化物薄膜を形成して、ガスバリア性を付与したフィルム基材とする方法が知られている。
【0006】
包装材料や液晶表示素子に使用されるガスバリア性フィルムとしては、例えば、プラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照。)や酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照。)が知られており、いずれも水蒸気透過率で1g/m2/day程度の水蒸気バリア性を備えている。
【0007】
さらに近年では、さらなるガスバリア性が要求される有機ELディスプレイや、液晶ディスプレイの大型化、高精細ディスプレイ等の開発により、フィルム基板へのガスバリア性能についての要求は、水蒸気バリアで10-2g/m2/day程度まで上がってきている。これら高い水蒸気遮断性の要望に応える方法の1つとして、緻密なセラミック層と、柔軟性を有し、外部からの衝撃を緩和するポリマー層とを交互に繰り返し積層した構成のガスバリア性フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、セラミック層とポリマー層とでは、一般に組成が大きく異なるため、それぞれの接触界面部での密着性が劣化し、を引き起こすことがある。特に、この密着性の劣化は、高温高湿等の過酷な環境下や紫外線の照射を長期間にわたり受けた際に顕著に現れ、早急な改良が求められている。
【0008】
一方、膜剥離等の品質劣化が少なく、密着性が優れたガスバリア性樹脂基材として、炭素含有量のことなる酸化珪素を積層する方法が開示されている(特許文献4〜6参照)。
【0009】
しかしながら、これらのガスバリア性樹脂基材を用いても、フラットパネルディスプレイ、たとえば有機ELディスプレイの基板として用いる場合等、基板と封止部材とを接着剤を用い接着させる際に、基材間の接着が充分ではないことが判明した。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報
【特許文献2】特開昭58−217344号公報
【特許文献3】米国特許第6,268,695号明細書
【特許文献4】特開2003−257619号公報
【特許文献5】特開平8−48369号公報
【特許文献6】特開2003−257619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、高いガスバリア性能を有し、かつ接着剤との接着性が充分なガスバリア性樹脂基材を提供し、またこれを用いたガスバリア耐性に優れた有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、有機ELあるいはOLEDと称す)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は以下の手段によって達成される。
【0012】
1.透明樹脂基材の少なくとも1面に、酸化珪素を含有するガスバリア層を有するガスバリア性樹脂基材において、該ガスバリア層が、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第一の層と、炭素含有率が0.1at%以下である酸化珪素を含有する第二の層と、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第三の層を、物理気相成長法または化学気相成長法により、順次少なくとも1組以上形成した、積層構成を有していることを特徴とするガスバリア性樹脂基材。
【0013】
2.前記第一の層の膜密度が、1.80以上2.05以下であることを特徴とする前記1記載のガスバリア性樹脂基材。
【0014】
3.前記第一の層が、異なる周波数の電界を2つ以上印加する大気圧プラズマ法によって形成されることを特徴とする前記1または2いずれかに記載のガスバリア性樹脂基材。
【0015】
4.前記第二の層の膜密度が、2.15以上2.50以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【0016】
5.前記第二の層が、異なる周波数の電界を2つ以上印加する大気圧プラズマ法によって形成されることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【0017】
6.前記第三の層の膜密度が、1.80以上2.05以下であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【0018】
7.前記第三の層が、異なる周波数の電界を2つ以上印加する大気圧プラズマ法によって形成されることを特徴とする前記1〜6のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【0019】
8.前記1〜7のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材において、0.01g/m2/day未満、1×10-7g/m2/day以上の水蒸気透過率を有することを特徴とするガスバリア性樹脂基材。
【0020】
9.前記1〜8のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材上に、少なくとも電極及び有機化合物層を形成し、かつ、該電極と該有機化合物層を覆う様に封止部材を配置し、該封止部材と前記ガスバリア性樹脂基材とを貼合わせて、封止したことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【0021】
10.前記封止部材が、前記1〜8のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材であることを特徴とする請求項9記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、フラットパネルディスプレイ、たとえば有機ELディスプレイ等の基板、またその封止部材として用いても、高いガスバリア性能を有し、また、接着剤を用い基板と封止部材とを接着させる際に接着性がよいガスバリア性樹脂基材をうることができ、またこれを用いることで、ガスバリア耐性に優れた有機エレクトロルミネッセンスデバイスを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0024】
本発明は、ガスバリア性樹脂基材に関し、酸化珪素を含有し、それぞれ炭素含有率が異なり、従って、膜密度が異なる、3つの層を一組のユニットとして、これを少なくとも1組以上、透明樹脂基材上に順次形成した積層構成をもつガスバリア性の樹脂基材に関するものである。
【0025】
即ち、透明樹脂基材の少なくとも1面に、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第一の層と、炭素含有率が0.1at%以下である酸化珪素を含有する第二の層と、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第三の層(からなる一組のユニット)を、物理気相成長法または化学気相成長法により、順次少なくとも1組以上形成した、積層構成を有していることを特徴とするガスバリア性樹脂基材である。
【0026】
酸化珪素膜においては、炭素含有率が低下することで、ガスバリア性能が向上し、また、炭素含有率が高くなると、ガスバリア性能が低下し、また、このとき、膜の柔軟性は増すことが知られている。
【0027】
これ等の性質を用い、炭素含有率の低い緻密な酸化珪素(層)膜をガスバリア層として、これに、やや炭素含有率が低い柔軟な酸化珪素膜(層)を応力緩和層として組あわせ交互に積層したガスバリア性樹脂基材は既に提案されている。各層が同じ気相成長法によって、同一の装置で容易に作製できる等の製造上の利点もある。
【0028】
しかしながら、これらガスバリア性の樹脂基材は、これを、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子基板として、また更に封止用のガスバリアフィルムとして用いる際において、樹脂基板同士、或いは他の基材との接着という観点も、有機EL素子を封止して外気から遮断する場合においては重要である。例えば、基材上に有機EL素子を形成した後、ガスバリア性フィルムでこれを覆い、密着・接着して、外気から素子を遮断、封止するためには、ガスバリア性樹脂基材同士、また、他のガスバリアフィルムとの密着、特に接着剤を用い接着したとき、接着性がよくまた、その後の剥がれ等がないことが、実際上は重要である。
【0029】
本発明においては、炭素含有率の低い第二の酸化珪素層を、樹脂基材表面側を、応力緩和層となる前記炭素含有率がこれよりも高い第一の酸化珪素層、また、ガスバリア層の反対側表面を同じく応力緩和作用を有する第一の酸化珪素層と同様の炭素含有率を有する第三の酸化珪素層とした積層体構造をもたせることで、本発明に係わるガスバリア性樹脂基材間、また他のガスバリアフィルムと接着したとき、フィルム間において剥がれが大きく改善され、互いの接着が向上することをみいだした。
【0030】
即ち、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する層は、酸化珪素層としてはやや柔軟性のある密度の低い(好ましくは1.80以上2.05以下である)、曲げ、引っ掻き等に耐性のある応力緩和層としての性質を有すると同時に、接着性の良好な層であり、この層によって、水蒸気、酸素等のガスバリア性の高い、炭素含有率が0.1at%以下である密度の高い(2.15以上2.50以下であることが好ましい)酸化珪素を含有する、緻密で弾性率が高い第二の層を挟持する積層構造とすることで、柔軟で、かつガスバリア性が高く、かつ表面に傷がつきにくいと同時に、本発明に係わるガスバリア性樹脂基材間、また他のガスバリアフィルムと接着したときに、接着性が良好であると共に、接着後においても剥がれにくい、樹脂基材間の接着が大きく向上したガスバリア性樹脂基材が得られる。
【0031】
本発明に係わるガスバリア性樹脂基材は、最表面の第三の酸化珪素層が接着剤との接着を向上させるのみでなく、効果として、本発明に係わるガスバリア層が形成される樹脂基材と直接接する第一の酸化珪素層と樹脂基材間の接着がよいことも含まれている。本発明に用いられる樹脂基材(具体的には後述するが)と、前記炭素含有率が0.2〜4.9at%の範囲にある酸化珪素層の場合、炭素含有率がこれよりも多い応力緩和層よりも樹脂基材との密着性が強固である。おそらくは、接着剤層の硬化による伸縮の応力が酸化珪素層とて樹脂基材間の接着にも影響を与えるものと思われる。これにより、基材と酸化珪素膜との剥がれも改善され、これも基材間の接着性向上に寄与すると思われる。
【0032】
従って、前記第一の酸化珪素層、また、第三の酸化珪素層は、炭素含有率が0.2〜4.9at%であると共に、その膜密度が、1.80以上2.05以下であることが好ましい。
【0033】
また、前記第二の酸化珪素層は、炭素含有率が0.1at%以下であると同時に、その膜密度が、2.15以上2.50以下であることが好ましい。
【0034】
これら本発明に係わる酸化珪素膜については、物理気相成長法または化学気相成長法を用いることでこれを成膜することができる。
【0035】
また、物理気相成長法または化学気相成長法を用いると、膜原料、また、その条件等を変更するのみで、前記第一、第二、及び第三の酸化珪素層を、順次、樹脂基材上に成膜可能であり、同じ製造方法を用いて、連続的にこれを形成することもできる。
【0036】
物理的気相成長法は、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質(この場合酸化珪素)の薄膜を堆積する方法であり、これらの方法としては、蒸着(抵抗加熱法、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー)法、また、イオンプレーティング法、スパッタ法等があり、いずれの方法でもよいが、これらの方法のうちでは、高融点の材料にも適用が容易なスパッタ法等が酸化珪素膜には好ましい。
【0037】
また、化学気相成長法は、基板物質上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面或いは気相での化学反応により膜を堆積する方法であり、また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがある。
【0038】
これらの化学気相成長法としては、原料ガスの変更調整により容易に異なった酸化珪素膜の成膜が可能な熱CVD法、プラズマCVD(真空、大気圧)法等があるが、これらのうちでは、成膜速度が速い大気圧プラズマCVD法が、特に好ましい方法である。
【0039】
また、大気圧プラズマCVD法のなかでも、異なる周波数の電界を二つ以上印加する、所謂2周波大気圧プラズマCVD法が特に好ましく、これについては後に詳述する。
【0040】
従って、前記前記第一の酸化珪素層、第二の酸化珪素層、第三の酸化珪素層は、それぞれ、大気圧プラズマCVD法、中でも2周波の大気圧プラズマCVD法を用いて成膜されることが特に好ましい。
【0041】
この様に気相成長法、特に大気圧プラズマCVD法を用いて、透明樹脂基材上に、順次、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第一の層、炭素含有率が0.1at%以下である酸化珪素を含有する第二の層、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第三の層を、順次形成して、これらから構成される一組のガスバリア性薄膜積層体を、少なくとも1組以上形成したガスバリア性樹脂基材によって、少なくとも、0.01g/m2/day未満、1×10-7g/m2/day以上の水蒸気透過率を有し、前記封止の際に接着性の優れたガスバリア性樹脂基材を得ることができる。
【0042】
本発明において、水蒸気透過率は、JIS K 7129Bに記載された方法により測定する。なお、測定にはMOCON社製 水蒸気透過率測定装置 PERMATRAN−W 3/33 MGモジュールを使用することが出来る[g/m2/day]。
【0043】
また、酸素透過率についても同じく、JIS K 7126Bに従って、MOCON社製 酸素透過率測定装置 OX−TRAN 2/21 MLモジュールを使用して測定することが出来る[cm3/m2/day/atm]。
【0044】
本発明における前記、第一の酸化珪素層(膜)、第二の酸化珪素層(膜)、第三の酸化珪素層(膜)からなるガスバリア層(薄膜積層体)は、従って、いずれも同一組成物を含有する層である。本発明でいう同一組成物を含有するとは、各膜を構成している物質の50%以上が同一の化合物(この場合酸化珪素)により構成されていることを意味し、好ましくは70%以上である。
【0045】
本発明の炭素含有率の異なる酸化珪素膜からなるガスバリア層積層体の厚さは、用いられる材料の種類、構成により最適条件が異なり、適宜選択されるが、1〜5000nmの範囲内であることが好ましく、更に好ましいのは5〜500nmの範囲内である。ガスバリア性薄膜積層体の厚さが、上記の範囲より薄い場合には、均一な膜が得られず、ガスに対するバリア性を得ることが困難であるからである。また、特に第二の酸化珪素膜の厚さは、1〜5000nmの範囲内、更には5〜500nmの範囲が好ましい。第二の酸化珪素膜が上記の範囲より厚い場合には、樹脂基材(フィルム)にフレキシビリティを保持させることが困難であり、成膜後に折り曲げ、引っ張り等の外的要因により、ガスバリア性樹脂基材に亀裂が生じる等のおそれがあるからである。
【0046】
第一又第三の酸化珪素膜は、本発明の構成において、応力緩和の役割をもつ層であるが、基材とバリア膜間の密着性を改善する密着膜としても用いられる場合、1〜500nmが好ましく、さらに好ましいのは20〜200nmである。
【0047】
また、最上層にある酸化珪素膜は同じく炭素含有率が0.2〜4.9at%である応力緩和膜であるが、また、保護膜として用いられ、このとき酸化珪素膜は、1〜1000nmの厚みが、さらには20nm〜800nmの厚みが好ましい。
【0048】
本発明において、酸化珪素を含有する前記第一、第二、第三の層(膜)からなる前記ガスバリア層は、珪素化合物を原料として、物理、又化学気相成長法によって、又、特にはプラズマCVD法、更には大気圧プラズマCVD法を用いて樹脂基材上に形成することが好ましい。
【0049】
尚、大気圧プラズマCVD法による酸化珪素膜の形成条件の詳細については後述する。
【0050】
次に、本発明における酸化珪素層(膜)の原子数濃度(at%)について説明する。
【0051】
〈原子数密度(at%)〉
本発明において、酸化珪素膜を緻密な密度の高い膜とするには、例えば、本発明において、ガスバリア層となる第二の酸化珪素膜の場合、炭素含有量が0.1at%以下(0at%以上)である炭素原子の含有量が少ない膜であることが好ましく。これにより酸化珪素膜はガスバリア性の高い膜となる。また、第一、第三の酸化珪素膜は、応力緩和作用をもつ緩衝膜(応力緩和層)であり、ガスバリア層と同一組成物を含有しかつ柔軟な層とするには、炭素含有量のより高い膜とすればよく、本発明においては、炭素含有量が0.2at%〜4.9at%の範囲にある酸化珪素膜であることが好ましい。ここでat%は、原子数濃度%(atomic concentration)を表す。
【0052】
酸化珪素膜の原子数濃度%は、公知の分析手段を用いて求めることができるが、本発明においては下記のXPS法によって算出されるもので、以下に定義されるものである。
【0053】
原子数濃度(atomic concentration)=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置としては、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いる。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定する。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定する。
【0054】
測定としては、先ず、結合エネルギ0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求める。
【0055】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンをおこない、各元素のスペクトルを測定する。
【0056】
得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理をおこない、分析ターゲットの元素(炭素、酸素、ケイ素等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求める。
【0057】
定量処理をおこなう前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションをおこない、5ポイントのスムージング処理をおこなう。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps×eV)を用いる。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いる。また、Shirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることができる。
【0058】
本発明の第一、第三の酸化珪素膜、また第二の酸化珪素膜は、同一の組成物を含有すると共に密度が異なる膜である。これは、同一組成物といっても、気相成長法を用いて薄膜を形成する場合、例えば、大気圧プラズマCVD法の場合において、製造条件、又用いる薄膜形成ガス(原料ガス、添加ガス等の種類、比率等)によって、酸化珪素粒子の充填の程度、また混入する微量の不純物粒子等に差が生じることでそれに伴う物性、例えば密度等は異なってくることによる。
【0059】
本発明の第一、第三の酸化珪素膜は、前記の如く、膜密度が1.80以上、2.05以下の膜であることが好ましく、また第二の酸化珪素膜は、2.15以上、2.50以下の膜密度を有することが好ましい。
【0060】
本発明において、これらの膜密度は、X線反射率法により求めた値を用いる。
【0061】
〈X線反射率法〉
X線反射率法の概要は、X線回折ハンドブック 151ページ(理学電機株式会社編 2000年 国際文献印刷社)や化学工業1999年1月No.22を参照して行うことができる。
【0062】
本発明に有用な測定方法の具体例を以下に示す。
【0063】
これは、表面が平坦な物質に非常に浅い角度でX線を入射させ測定を行う方法で、測定装置としては、マックサイエンス社製MXP21を用いて行う。X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させる。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いる。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用いる。2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行う。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィティングを行い、実測値とフッティングカーブの残差平方和が最小になるように各パラメータを求める。各パラメータから積層膜の厚さ及び密度を求めることができる。本発明における積層膜の膜厚評価も上記X線反射率測定より求めることができる。
【0064】
酸化珪素膜の密度は、前記の炭素含有量と密接に相関があり、例えば、ガスバリア性の高い第二の酸化珪素膜は、炭素原子濃度が低い膜であるが、密度が高く、また、第一、第三の酸化珪素膜は、炭素原子濃度がこれよりも高い膜であり、より柔らかい組成物であり、膜密度もより低い膜である。
【0065】
本発明に係る前記第一、第二、或いは第三の酸化珪素膜を製造する方法において、気相成長法のうち、特に大気圧プラズマCVD法による製造方法で用いられる原料化合物について説明する。
【0066】
本発明の酸化珪素膜は、大気圧プラズマCVD法において、原料(原材料ともいう)である有機金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、酸化珪素、また酸化珪素を主体とした金属酸化物、また、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物等との混合物(金属酸窒化物、金属酸化ハロゲン化物など)等の組成を作り分けることができる。
【0067】
例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。また、シラザン等を原料化合物として用いれば、酸化窒化珪素が生成する。これはプラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0068】
このような酸化珪素膜の形成原料としては、珪素化合物であれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール、エタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用できる。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0069】
このような珪素化合物としては、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
【0070】
また、これら珪素を含む原料ガスを分解して酸化珪素膜を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気、フッ素ガス、フッ化水素、トリフルオロアルコール、トリフルオロトルエン、硫化水素、二酸化硫黄、二硫化炭素、塩素ガスなどが挙げられる。
【0071】
珪素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、酸化珪素、また、窒化物、炭化物等を含有する酸化珪素膜を得ることができる。
【0072】
プラズマCVD法においては、これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。このような放電ガスとしては、窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも特に、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられる。
【0073】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、薄膜形成(混合)ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0074】
本発明に係るガスバリア性樹脂基材を構成する積層された酸化珪素膜においては、例えば、上記有機珪素化合物に、更に酸素ガスや窒素ガスを所定割合で組み合わせて、O原子とN原子の少なくともいずれかと、Si原子とを含む本発明に係る酸化珪素を主体とした酸化珪素膜を得ることができる。
【0075】
本発明に係わるガスバリア性透明樹脂基材は、前記第一、第二、また第三の酸化珪素膜からなる一組のユニットを、一組以上透明樹脂基材上に形成したものであり、二組、またこれ以上のユニットが形成されていてもよい。例としては、樹脂基材、第一の酸化珪素膜、第二の酸化珪素膜、第3の酸化珪素膜といった一組のユニットのみを有する形態があり、また、例えば、樹脂基材上に、第一の、第二の、また第三の酸化珪素膜、更にこの第三の酸化珪素膜を、別の第一の酸化珪素膜とみなしてこれに更に第二の酸化珪素膜、また第三の酸化珪素膜と積層した形態とすれば、これは前記ユニットを二つ有するものとみなすことができる。同様に、三或いはこれ以上のユニットから構成される形態でもよい。
【0076】
図1(1)及び(2)は、本発明に係わるガスバリア性樹脂基材の層構成例を示す断面図である。樹脂基材としては例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムをもちい、また此処では後述するポリマー膜を、平滑性、また本発明に係わる第一、第二、第三の酸化珪素膜からなるユニットと樹脂基材(フィルム)との接着性の向上の為に、また平滑性の確保の為に、形成している。
(1)樹脂基材1(125μm)/ポリマー膜2(6μm)/第一の酸化珪素層3(100nm)/第二の酸化珪素層4(50nm)/第三の酸化珪素層5(500nm)
(2)樹脂基材1/ポリマー膜2/第一の酸化珪素層3(100nm)/第二の酸化珪素層4(50nm)/第三または第一の酸化珪素層5(100nm)/第二の酸化珪素膜4(50nm)/第三の酸化珪素層5(100nm)
以上において( )は各膜の厚みを示す。また、それぞれにおいて最表面層となる第三の酸化珪素層(膜)は保護膜を兼ねる。またポリマー層は、第一の酸化珪素層(膜)と基材との密着性を更に向上させる役割をもっている。
【0077】
本発明においては、第一の酸化珪素層3と樹脂基材(後述する樹脂フィルム基材)の間に、ポリマー膜を有することがより好ましい。これは、樹脂基材と酸化珪素膜の密着性、接着性の向上を目的として、また平滑性の確保のために形成される。
【0078】
ポリマー膜としては、厚みで0.1〜10μmの範囲にあるポリマー膜であり、好ましくは1〜10μmの範囲である。
【0079】
ポリマー膜としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂コート層が好ましく、ロールコート、グラビアコート、ディップコート等公知の方法により樹脂基材上に相当する樹脂溶液をコーティングして容易に形成できる。
【0080】
又、本発明においては、これらポリマー層は、熱硬化樹脂または活性線硬化樹脂から形成することが好ましく、特に紫外線硬化樹脂を用いて樹脂硬化層を形成することが好ましい。なお、これらの層を形成する前に樹脂基材(フィルム)の表面をコロナ放電処理またはグロー放電処理することは好ましい。
【0081】
樹脂硬化層は、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを1種以上含む成分を重合させて形成した層であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを含む成分を重合させて形成した樹脂層としては、活性線硬化樹脂または熱硬化樹脂を硬化させて形成された層が好ましく用いられるが、特に好ましく用いられるのは活性線硬化樹脂層である。ここで、活性線硬化樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。
【0082】
活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。
【0083】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂または紫外線硬化型エポキシ樹脂等あげられるが、アクリルを主成分とした、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂等が好ましい。
【0084】
具体例としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0085】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させる容易に形成されるものを挙げることができ、特開昭59−151110号に記載のものを用いることができる。
【0086】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させる容易に形成されるものを挙げることができ、特開昭59−151112号に記載のものを用いることができる。
【0087】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることができ、特開平1−105738号に記載のものを用いることができる。
【0088】
これらの光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及び誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。光増感剤と共に使用してもよい。
【0089】
上記光反応開始剤は光増感剤としても使用できる。また、エポキシアクリレート系の光反応剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。
【0090】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることができる。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることができる。
【0091】
本発明において使用し得る市販品の紫外線硬化樹脂としては、アデカオプトマーKR・BYシリーズ:KR−400、KR−410、KR−550、KR−566、KR−567、BY−320B(旭電化(株)製);コーエイハードA−101−KK、A−101−WS、C−302、C−401−N、C−501、M−101、M−102、T−102、D−102、NS−101、FT−102Q8、MAG−1−P20、AG−106、M−101−C(広栄化学(株)製);セイカビームPHC2210(S)、PHC X−9(K−3)、PHC2213、DP−10、DP−20、DP−30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(大日精化工業(株)製);KRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(ダイセル・ユーシービー(株)製);RC−5015、RC−5016、RC−5020、RC−5031、RC−5100、RC−5102、RC−5120、RC−5122、RC−5152、RC−5171、RC−5180、RC−5181(大日本インキ化学工業(株)製);オーレックスNo.340クリヤ(中国塗料(株)製);サンラッドH−601(三洋化成工業(株)製);SP−1509、SP−1507(昭和高分子(株)製);RCC−15C(グレース・ジャパン(株)製)、アロニックスM−6100、M−8030、M−8060(東亞合成(株)製)等を適宜選択して利用できる。
【0092】
これらの活性線硬化樹脂層は公知の方法で塗設することができる。
【0093】
紫外線硬化性樹脂を光硬化反応により硬化させるための光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20〜10000mJ/cm2程度あればよく、好ましくは、50〜2000mJ/cm2である。近紫外線領域〜可視光線領域にかけてはその領域に吸収極大のある増感剤を用いることによって効率よく形成することができる。
【0094】
紫外線硬化樹脂層組成物塗布液の有機溶媒としては、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他の有機溶媒の中から適宜選択し、またはこれらを混合し利用できる。例えば、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)またはプロピレングリコールモノアルキルエーテル酢酸エステル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)等を5質量%以上、より好ましくは5〜80質量%以上含有する上記有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0095】
紫外線硬化性樹脂組成物塗布液の塗布量は、ウェット膜厚として0.1〜30μmが適当で、好ましくは0.5〜15μmである。紫外線硬化性樹脂組成物は塗布乾燥中または後に、紫外線を照射するのがよく、照射時間としては0.5秒〜5分が好ましく、紫外線硬化性樹脂の硬化効率または作業効率の観点から3秒〜2分がより好ましい。
【0096】
また、本発明に係わるポリマー膜として、化学気相成長法である大気圧プラズマCVD法を用いて形成されたプラズマ重合膜も好ましい。即ち、大気圧プラズマCVD法を用いて、薄膜形成ガス中に少なくとも1種類以上の有機化合物を含有させ、有機化合物をプラズマ重合することによりポリマー膜を形成してもよい。
【0097】
大気圧プラズマCVD法を用いたプラズマ重合の原料成分となる有機化合物としては、公知の有機化合物を用いることができるが、その中でも、分子内に少なくとも1つ以上の不飽和結合または環状構造を有する有機化合物が好ましく用いることができ、特に(メタ)アクリル化合物、エポキシ化合物、またはオキセタン化合物のモノマーまたはオリゴマー等が好ましく用いることができるが、特に好ましいのは、アクリル、メタアクリル化合物等アクリルを主成分とするものである。
【0098】
有用な(メタ)アクリル化合物としては特に限定はないが、代表例として以下のような化合物があげられる。2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、グリセロールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルオキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルオキシヘキサノリドアクリレート、1,3−ジオキサンアルコールのε−カプロラクトン付加物のアクリレート、1,3−ジオキソランアクリレート等の単官能アクリル酸エステル類、或いはこれらのアクリレートをメタクリレートに代えたメタクリル酸エステル、例えば、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングルコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ハイドロキノンジアクリレート、レゾルシンジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのジアクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートのジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物のジアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−5−ヒドロキシメチル−5−エチル−1,3−ジオキサンジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールアクリレート、トリシクロデカンジメチロールアクリレートのε−カプロラクトン付加物、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテルのジアクリレート等の2官能アクリル酸エステル類、或いはこれらのアクリレートをメタクリレートに代えたメタクリル酸エステル、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートのε−カプロラクトン付加物、ピロガロールトリアクリレート、プロピオン酸・ジペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピオン酸・ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヒドロキシピバリルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリアクリレート等の多官能アクリル酸エステル酸、或いはこれらのアクリレートをメタクリレートに代えたメタクリル酸等。前記活性線硬化樹脂としてもあげられた化合物も含まれる。
【0099】
放電ガスとしては、酸化珪素層を形成する場合と同様であり、窒素、希ガス、空気などがあり、希ガスとしては、周期表の第18属元素、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等から選ばれ、本発明において、放電ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましく、更に好ましくは窒素であることも同様である。
【0100】
放電ガス量は、プラズマ重合においては、放電空間内に供給する薄膜形成ガス量に対して70〜99.99体積%含有することが好ましい。
【0101】
プラズマ重合法においても、前記原料ガス、放電ガスに加えて、添加ガスを、反応や膜質を制御するために導入してもよく、水素、酸素、窒素酸化物、アンモニア、メタン等の炭化水素類、アルコール類、有機酸類または水分を該ガスに対して0.001体積%〜30体積%混合させて使用してもよい。
【0102】
《樹脂フィルム》
本発明に係るガスバリア性樹脂基材で用いられる樹脂(フィルム)基材は、上述したガスバリア層を保持することができる樹脂フィルムであれば特に限定されるものではない。
【0103】
具体的には、エチレン、ポリプロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0104】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを樹脂フィルムとして用いることも可能である。
【0105】
これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することもできる。中でもゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)などの市販品を好ましく使用することができる。
【0106】
また、樹脂フィルムは透明であることが好ましい。樹脂フィルムが透明であり、樹脂フィルム上に形成するガスバリア層も透明であることにより、透明なガスバリア性フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0107】
また、上記に挙げた樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
【0108】
本発明に係る樹脂フィルムは、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
【0109】
また、本発明に係る樹脂フィルム基材においては、前記ガスバリア膜、またポリマー膜等を形成する前にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理などの表面処理を行ってもよい。
【0110】
樹脂フィルムは、ロール状に巻き上げられた長尺品が便利である。樹脂フィルムの厚さは、得られるガスバリア性フィルムの用途によって異なるので一概には規定できないが、ガスバリア性フィルムを包装用途とする場合には、特に制限を受けるものではなく、包装材料としての適性から、3〜400μm、中でも6〜30μmの範囲内とすることが好ましい。
【0111】
また、本発明に用いられる樹脂フィルムは、フィルム形状のものの膜厚としては10〜200μmが好ましく、より好ましくは50〜200100μmである。
【0112】
本発明のガスバリア性フィルムの水蒸気透過度としては、有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイ等の高度の水蒸気バリア性を必要とする用途に用いる場合、JIS K7129 B法に従って測定した水蒸気透過率が、0.01g/m2/day以下であり、より好ましくは1×10-3g/m2/day以下であり、さらに有機ELディスプレイ用途の場合、極わずかであっても、成長するダークスポットが発生し、ディスプレイの表示寿命が極端に短くなる場合があるため、水蒸気透過度が、1×10-5g/m2/day未満であることが好ましい。
【0113】
つぎに本発明に係る大気圧プラズマCVD法について説明する。
【0114】
本発明に係る酸化珪素膜からなる緩衝膜やバリア膜、またこれらの積層体の形成には、物理、或いは化学気相成長法が用いられる。中でも、これらのうち最も好ましい方法である、大気圧プラズマCVD法について、以下説明する。
【0115】
大気圧プラズマCVD法は、例えば、特開平10−154598号公報や特開2003−49272号公報、WO02/048428号パンフレットなどに記載されているが、特に、特開2004−68143号公報に記載されている薄膜形成方法が、緻密でガスバリア性が高い酸化珪素膜を形成するには好ましい。また、ロール状の元巻きからウエブ状の基材を繰り出して、組成の異なる酸化珪素膜を連続的に形成することが出来る。
【0116】
本発明に係る上記の大気圧プラズマCVD法は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で行われるプラズマCVD法であり、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20kPa〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPa〜104kPaが好ましい。
【0117】
本発明における放電条件は、放電空間に異なる周波数の電界を2つ以上印加するものが好ましく、第1の高周波電界と第2の高周波電界とを重畳し、電界を印可する。
【0118】
前記第1の高周波電界の周波数ω1より前記第2の高周波電界の周波数ω2が高く、且つ、前記第1の高周波電界の強さV1と、前記第2の高周波電界の強さV2と、放電開始電界の強さIVとの関係が、
V1≧IV>V2
または V1>IV≧V2 を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm2以上である。
【0119】
高周波とは、少なくとも0.5kHzの周波数を有するものを言う。
【0120】
重畳する高周波電界が、ともにサイン波である場合、第1の高周波電界の周波数ω1と該周波数ω1より高い第2の高周波電界の周波数ω2とを重ね合わせた成分となり、その波形は周波数ω1のサイン波上に、それより高い周波数ω2のサイン波が重なった鋸歯状の波形となる。
【0121】
本発明において、放電開始電界の強さとは、実際の薄膜形成方法に使用される放電空間(電極の構成など)および反応条件(ガス条件など)において放電を起こすことの出来る最低電界強度のことを指す。放電開始電界強度は、放電空間に供給されるガス種や電極の誘電体種または電極間距離などによって多少変動するが、同じ放電空間においては、放電ガスの放電開始電界強度に支配される。
【0122】
上記で述べたような高周波電界を放電空間に印加することによって、薄膜形成可能な放電を起こし、高品位な薄膜形成に必要な高密度プラズマを発生することが出来ると推定される。
【0123】
ここで重要なのは、このような高周波電界が対向する電極間に印加され、すなわち、同じ放電空間に印加されることである。特開平11−16696号公報のように、印加電極を2つ併置し、離間した異なる放電空間それぞれに、異なる高周波電界を印加する方法は好ましくない。
【0124】
上記でサイン波等の連続波の重畳について説明したが、これに限られるものではなく、両方パルス波であっても、一方が連続波でもう一方がパルス波であってもかまわない。また、更に周波数の異なる第3の電界を有していてもよい。
【0125】
上記本発明の高周波電界を、同一放電空間に印加する具体的な方法としては、例えば、対向電極を構成する第1電極に周波数ω1であって電界強度V1である第1の高周波電界を印加する第1電源を接続し、第2電極に周波数ω2であって電界強度V2である第2の高周波電界を印加する第2電源を接続した大気圧プラズマ放電処理装置を用いる。
【0126】
上記の大気圧プラズマ放電処理装置には、対向電極間に、放電ガスと薄膜形成ガスとを供給するガス供給手段を備える。更に、電極の温度を制御する電極温度制御手段を有することが好ましい。
【0127】
また、第1電極、第1電源またはそれらの間の何れかには第1フィルタを、また第2電極、第2電源またはそれらの間の何れかには第2フィルタを接続することが好ましく、第1フィルタは第1電源から第1電極への第1の高周波電界の電流を通過しやすくし、第2の高周波電界の電流をアースして、第2電源から第1電源への第2の高周波電界の電流を通過しにくくする。また、第2フィルタはその逆で、第2電源から第2電極への第2の高周波電界の電流を通過しやすくし、第1の高周波電界の電流をアースして、第1電源から第2電源への第1の高周波電界の電流を通過しにくくする機能が備わっているものを使用する。ここで、通過しにくいとは、好ましくは、電流の20%以下、より好ましくは10%以下しか通さないことをいう。逆に通過しやすいとは、好ましくは電流の80%以上、より好ましくは90%以上を通すことをいう。
【0128】
例えば、第1フィルタとしては、第2電源の周波数に応じて数10pF〜数万pFのコンデンサ、もしくは数μH程度のコイルを用いることが出来る。第2フィルタとしては、第1電源の周波数に応じて10μH以上のコイルを用い、これらのコイルまたはコンデンサを介してアース接地することでフィルタとして使用出来る。
【0129】
更に、本発明の大気圧プラズマ放電処理装置の第1電源は、第2電源より高い電界強度
を印加出来る能力を有していることが好ましい。
【0130】
ここで、本発明でいう印加電界強度と放電開始電界強度は、下記の方法で測定されたものをいう。
【0131】
印加電界強度V1及びV2(単位:kV/mm)の測定方法:
各電極部に高周波電圧プローブ(P6015A)を設置し、該高周波電圧プローブの出力信号をオシロスコープ(Tektronix社製、TDS3012B)に接続し、所定の時点の電界強度を測定する。
【0132】
放電開始電界強度IV(単位:kV/mm)の測定方法:
電極間に放電ガスを供給し、この電極間の電界強度を増大させていき、放電が始まる電界強度を放電開始電界強度IVと定義する。測定器は上記印加電界強度測定と同じである。
【0133】
なお、上記測定に使用する高周波電圧プローブとオシロスコープによる電界強度の測定位置については、後述の図1に示してある。
【0134】
本発明で規定する放電条件をとることにより、例え窒素ガスのように放電開始電界強度が高い放電ガスでも、放電を開始し、高密度で安定なプラズマ状態を維持出来、高性能な薄膜形成を行うことが出来る。
【0135】
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電界強度IV(1/2Vp−p)は3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の印加電界強度を、V1≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることが出来る。
【0136】
ここで、第1電源の周波数としては、200kHz以下が好ましく用いることが出来る。またこの電界波形としては、連続波でもパルス波でもよい。下限は1kHz程度が望ましい。
【0137】
一方、第2電源の周波数としては、800kHz以上が好ましく用いられる。この第2電源の周波数が高い程、プラズマ密度が高くなり、緻密で良質な薄膜が得られる。上限は200MHz程度が望ましい。
【0138】
このような2つの電源から高周波電界を印加することは、第1の高周波電界によって高い放電開始電界強度を有する放電ガスの放電を開始するのに必要であり、また第2の高周波電界の高い周波数および高い出力密度によりプラズマ密度を高くして緻密で良質な薄膜を形成することが本発明の重要な点である。
【0139】
また、第1の高周波電界の出力密度を高くすることで、放電の均一性を維持したまま、第2の高周波電界の出力密度を向上させることができる。これにより、更なる均一高密度プラズマが生成でき、更なる製膜速度の向上と、膜質の向上が両立出来る。
【0140】
本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置は、上述のように、対向電極の間で放電させ、前記対向電極間に導入したガスをプラズマ状態とし、前記対向電極間に静置あるいは電極間を移送される基材を該プラズマ状態のガスに晒すことによって、該基材の上に薄膜を形成させるものである。また他の方式として、大気圧プラズマ放電処理装置は、上記同様の対向電極間で放電させ、該対向電極間に導入したガスを励起しまたはプラズマ状態とし、該対向電極外にジェット状に励起またはプラズマ状態のガスを吹き出し、該対向
電極の近傍にある基材(静置していても移送されていてもよい)を晒すことによって該基材の上に薄膜を形成させるジェット方式の装置がある。
【0141】
図2は、本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0142】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図2では図示してない(後述の図3に図示してある)が、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0143】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加し、また第1電源21の第1の周波数ω1は第2電源22の第2の周波数ω2より低い周波数を印加する。
【0144】
第1電極11と第1電源21との間には、第1フィルタ23が設置されており、第1電源21から第1電極11への電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0145】
また、第2電極12と第2電源22との間には、第2フィルター24が設置されており、第2電源22から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0146】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、後述の図3に図示してあるようなガス供給手段から前述した薄膜形成ガスGを導入し、
第1電源21と第2電源22により第1電極11と第2電極12間に、前述した高周波電界を印加して放電を発生させ、前述した薄膜形成ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、後述の図3に図示してあるような電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、基材の幅手方向あるいは長手方向での温度ムラが出来るだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0147】
また、図2に前述の印加電界強度と放電開始電界強度の測定に使用する測定器と測定位置を示した。25及び26は高周波電圧プローブであり、27及び28はオシロスコープである。
【0148】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置を、基材Fの搬送方向と平行に複数台並べ、同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることにより、同一位置に複数層の薄膜を形成可能となり、短時間で所望の膜厚を形成可能となる。また基材Fの搬送方向と平行に複数台並べ、各装置に異なる薄膜形成ガスを供給して異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層の積層薄膜を形成することも出来る。
【0149】
図3は本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0150】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60を有している装置である。
【0151】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)(以下角筒型固定電極群を固定電極群と記す)36との対向電極間32(以下対向電極間を放電空間32とも記す)で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。
【0152】
ロール回転電極35と固定電極群36との間に形成された放電空間32に、ロール回転電極35には第1電源41から周波数ω1、電界強度V1、電流I1の第1の高周波電界を、また固定電極群36には第2電源42から周波数ω2、電界強度V2、電流I2の第2の高周波電界をかけるようになっている。
【0153】
ロール回転電極35と第1電源41との間には、第1フィルタ43が設置されており、第1フィルタ43は第1電源41から第1電極への電流を通過しやすくし、第2電源42からの電流をアースして、第2電源42から第1電源への電流を通過しにくくするように設計されている。また、固定電極群36と第2電源42との間には、第2フィルタ44が設置されており、第2フィルター44は、第2電源42から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源41からの電流をアースして、第1電源41から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0154】
なお、本発明においては、ロール回転電極35を第2電極、また角筒型固定電極群36を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より高い高周波電界強度(V1>V2)を印加することが好ましい。また、周波数はω1<ω2となる能力を有している。
【0155】
また、電流はI1<I2となることが好ましい。第1の高周波電界の電流I1は、好ましくは0.3mA/cm2〜20mA/cm2、さらに好ましくは1.0mA/cm2〜2
0mA/cm2である。また、第2の高周波電界の電流I2は、好ましくは10mA/c
2〜100mA/cm2、さらに好ましくは20mA/cm2〜100mA/cm2である。
【0156】
ガス供給手段50のガス発生装置51で発生させた薄膜形成ガスGは、不図示のガス流量調整手段により流量を制御して給気口52よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。
【0157】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されて来るか、または前工程から矢印方向に搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極群36との間に移送する。
【0158】
移送中にロール回転電極35と固定電極群36との両方から電界をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。基材Fはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。
【0159】
なお、角筒型固定電極の数は、上記ロール電極の円周より大きな円周上に沿って複数本設置されており、該電極の放電面積はロール回転電極35に対向している全ての角筒型固
定電極のロール回転電極35と対向する面の面積の和で表される。
【0160】
基材Fは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。
【0161】
放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。
【0162】
薄膜形成中、ロール回転電極35及び固定電極群36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0163】
図4は、図3に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0164】
図4において、ロール電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。プラズマ放電処理中の電極表面温度を制御し、また、基材Fの表面温度を所定値に保つため、温度調節用の媒体(水もしくはシリコンオイル等)が循環できる構造となっている。
【0165】
図5は、角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0166】
図5において、角筒型電極36aは、導電性の金属質母材36Aに対し、図4同様の誘電体36Bの被覆を有しており、該電極の構造は金属質のパイプになっていて、それがジャケットとなり、放電中の温度調節が行えるようになっている。
【0167】
図5に示した角筒型電極36aは、円筒型電極でもよいが、角筒型電極は円筒型電極に比べて、放電範囲(放電面積)を広げる効果があるので、本発明に好ましく用いられる。
【0168】
図4及び図5において、ロール電極35a及び角筒型電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A及び36Aの上に誘電体35B及び36Bとしてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度被覆あればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0169】
導電性の金属質母材35A及び36Aとしては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料を挙げることが出来るが、後述の理由からはチタン金属またはチタン合金が特に好ましい。
【0170】
対向する第1電極および第2の電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言う。双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界強度の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2mmである。
【0171】
本発明に有用な導電性の金属質母材及び誘電体についての詳細については後述する。
【0172】
プラズマ放電処理容器31はパイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けても良く、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。図1において、平行した両電極の両側面(基材面近くまで)を上記のような材質の物で覆うことが好ましい。
【0173】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することが出来る。
【0174】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用出来る。
【0175】
なお、上記電源のうち、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。それ以外は連続サイン波のみ印加可能な高周波電源である。
【0176】
本発明においては、このような電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことが出来る電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0177】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ
、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm2、より好ましくは20W/cm2である。下限値は、好ましくは1.2W/cm2である。なお、放電面積(cm2)は、電極間において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0178】
また、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm2以上の電力(出力密度)を供
給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることが出来る。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成出来、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立出来る。好ましくは5W/cm2以上である。第1電極に供給する電
力の上限値は、好ましくは50W/cm2である。
【0179】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発
振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0180】
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0181】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10-6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10-6/℃以下、更に好ましくは5×10-6/℃以下、更に好ましくは2×10-6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0182】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項または2項および5〜8項が好ましく、特に1項が好ましい。
【0183】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが出来る。
【0184】
本発明に有用な電極の金属質母材は、チタンを70質量%以上含有するチタン合金またはチタン金属である。本発明において、チタン合金またはチタン金属中のチタンの含有量は、70質量%以上であれば、問題なく使用出来るが、好ましくは80質量%以上のチタンを含有しているものが好ましい。本発明に有用なチタン合金またはチタン金属は、工業用純チタン、耐食性チタン、高力チタン等として一般に使用されているものを用いることが出来る。工業用純チタンとしては、TIA、TIB、TIC、TID等を挙げることが出来、何れも鉄原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、水素原子等を極僅か含有しているもので、チタンの含有量としては、99質量%以上を有している。耐食性チタン合金としては、T15PBを好ましく用いることが出来、上記含有原子の他に鉛を含有しており、チタン含有量としては、98質量%以上である。また、チタン合金としては、鉛を除く上記の原子の他に、アルミニウムを含有し、その他バナジウムや錫を含有しているT64、T325、T525、TA3等を好ましく用いることが出来、これらのチタン含有量としては、85質量%以上を含有しているものである。これらのチタン合金またはチタン金属はステンレススティール、例えばAISI316に比べて、熱膨張係数が1/2程度小さく、金属質母材としてチタン合金またはチタン金属の上に施された後述の誘電体との組み合わせがよく、高温、長時間での使用に耐えることが出来る。
【0185】
一方、誘電体の求められる特性としては、具体的には、比誘電率が6〜45の無機化合
物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等がある。この中では、後述のセラミックスを溶射したものやガラスライニングにより設けたものが好ましい。特にアルミナを溶射して設けた誘電体が好ましい。
【0186】
または、上述のような大電力に耐える仕様の一つとして、誘電体の空隙率が10体積%以下、好ましくは8体積%以下であることで、好ましくは0体積%を越えて5体積%以下である。なお、誘電体の空隙率は、BET吸着法や水銀ポロシメーターにより測定することが出来る。後述の実施例においては、島津製作所製の水銀ポロシメーターにより金属質母材に被覆された誘電体の破片を用い、空隙率を測定する。誘電体が、低い空隙率を有することにより、高耐久性が達成される。このような空隙を有しつつも空隙率が低い誘電体としては、後述の大気プラズマ溶射法等による高密度、高密着のセラミックス溶射被膜等を挙げることが出来る。更に空隙率を下げるためには、封孔処理を行うことが好ましい。
【0187】
上記、大気プラズマ溶射法は、セラミックス等の微粉末、ワイヤ等をプラズマ熱源中に投入し、溶融または半溶融状態の微粒子として被覆対象の金属質母材に吹き付け、皮膜を形成させる技術である。プラズマ熱源とは、分子ガスを高温にし、原子に解離させ、更にエネルギーを与えて電子を放出させた高温のプラズマガスである。このプラズマガスの噴射速度は大きく、従来のアーク溶射やフレーム溶射に比べて、溶射材料が高速で金属質母材に衝突するため、密着強度が高く、高密度な被膜を得ることが出来る。詳しくは、特開2000−301655号に記載の高温被曝部材に熱遮蔽皮膜を形成する溶射方法を参照することが出来る。この方法により、上記のような被覆する誘電体(セラミック溶射膜)の空隙率にすることが出来る。
【0188】
また、大電力に耐える別の好ましい仕様としては、誘電体の厚みが0.5〜2mmであることである。この膜厚変動は、5%以下であることが望ましく、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0189】
誘電体の空隙率をより低減させるためには、上記のようにセラミックス等の溶射膜に、更に、無機化合物で封孔処理を行うことが好ましい。前記無機化合物としては、金属酸化物が好ましく、この中では特に酸化ケイ素(SiOx)を主成分として含有するものが好ましい。
【0190】
封孔処理の無機化合物は、ゾルゲル反応により硬化して形成したものであることが好ましい。封孔処理の無機化合物が金属酸化物を主成分とするものである場合には、金属アルコキシド等を封孔液として前記セラミック溶射膜上に塗布し、ゾルゲル反応により硬化する。無機化合物がシリカを主成分とするものの場合には、アルコキシシランを封孔液として用いることが好ましい。
【0191】
ここでゾルゲル反応の促進には、エネルギー処理を用いることが好ましい。エネルギー処理としては、熱硬化(好ましくは200℃以下)や、紫外線照射などがある。更に封孔処理の仕方として、封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、よりいっそう無機質化が向上し、劣化の無い緻密な電極が出来る。
【0192】
本発明に係る誘電体被覆電極の金属アルコキシド等を封孔液として、セラミックス溶射膜にコーティングした後、ゾルゲル反応で硬化する封孔処理を行う場合、硬化した後の金属酸化物の含有量は60モル%以上であることが好ましい。封孔液の金属アルコキシドとしてアルコキシシランを用いた場合には、硬化後のSiOx(xは2以下)含有量が60モル%以上であることが好ましい。硬化後のSiOx含有量は、XPS(X線光電子分光法)により誘電体層の断層を分析することにより測定する。
【0193】
本発明の薄膜形成方法に係る電極においては、電極の少なくとも基材と接する側のJIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が10μm以下になるように調整することが、本発明に記載の効果を得る観点から好ましいが、更に好ましくは、表面粗さの最大値が8μm以下であり、特に好ましくは、7μm以下に調整することである。このように誘電体被覆電極の誘電体表面を研磨仕上げする等の方法により、誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことが出来、放電状態を安定化出来ること、更に熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、且つ、高精度で、耐久性を大きく向上させることが出来る。誘電体表面の研磨仕上げは、少なくとも基材と接する側の誘電体において行われることが好ましい。更にJIS B 0601で規定される中心線平均表面粗さ(Ra)は0.5μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。
【0194】
本発明に使用する誘電体被覆電極において、大電力に耐える他の好ましい仕様としては、耐熱温度が100℃以上であることである。更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。また上限は500℃である。なお、耐熱温度とは、大気圧プラズマ処理で用いられる電圧において絶縁破壊が発生せず、正常に放電出来る状態において耐えられる最も高い温度のことを指す。このような耐熱温度は、上記のセラミックス溶射や、泡混入量の異なる層状のガラスライニングで設けた誘電体を適用したり、上記金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差の範囲内の材料を適宜選択する手段を適宜組み合わせることによって達成可能である。
【0195】
基板上に形成された電子デバイスの封止においては、何らかの形で接着剤等を用い、基板となるガスバリア性樹脂基材と、他の封止材料とを接着或いは密着することになる。例えば、有機EL素子の封止に用いる場合には、本発明に係わるガスバリア性樹脂基材を有機EL素子の基板として用い、別の封止材料(本発明のガスバリア性樹脂基材でもよいが)と接着して、素子を外気から遮断する封止構造とする。本発明に係わるガスバリア性樹脂基材は、接着剤との接着がよく、また、接着された基材同士の剥離が少ないことが特徴である。
【0196】
本発明のガスバリア性樹脂基材は、本発明の趣旨に反しない限り、ガラス、また、プラスチック基板等に対して一般に使用されている接着剤を制限なく用いることができる。
【0197】
接着剤として、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマー等反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型のアクリル系接着剤、エポキシ樹脂接着剤、2−シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型等の接着剤、エチレン共重合体系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノ−ル樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、ゴム系接着剤等を挙げることが出来、これらによりその効果を発揮できるが、特に好ましい接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤等を挙げることが出来る。中でも硬化時の収縮の小さいエポキシ系接着剤は好ましい。
【0198】
エポキシ系接着剤として、具体的には、例えば、低温時の硬化性を得るために特開昭63−63716に開示されるような、エポキシ樹脂とメルカプタン系硬化剤との組み合わせからなるエポキシ樹脂組成物、複素環状ジアミン硬化剤との組み合わせからなるエポキシ樹脂組成物、また、高強度を得るためには芳香族ポリアミン硬化剤との組み合わせからなるエポキシ樹脂等があり、また、作業環境特性、基材との接着性、接着安定性を得るために特開平10−120764に開示されているような、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン系硬化剤として(C)ポリアミドアミン、(D)芳香族変性アミン、及び(E)脂肪族変性ポリアミンとの組み合わせによるエポキシ樹脂組成物、また、特開2000−229927に記載のエポキシ樹脂とアミンイミド化合物系硬化剤との組み合わせからなる硬化速度が早いエポキシ樹脂組成物等がある。その他、特開平6−87190、特開平5−295272には特殊変性シリコーンプレポリマーを硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物がある。
【0199】
いずれも主剤としてのエポキシ樹脂と、硬化剤からなるエポキシ樹脂組成物であり、
エポキシ基を含有する化合物(主剤)と、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤とを混ぜ合わせ、硬化反応によって接着する接着剤をいう。
【0200】
エポキシ基を含有する化合物には、上記のように、ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ノボラック型、ビスフェノールF型、ブロム化エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン系樹脂、グリシジルエステル系樹脂などがあり、また、硬化剤としては、やはり上記の如く、脂肪族第1・第2アミン(トリエチレンテトラミン、ジプロピルトリアミン等)、脂肪族第3アミン(トリエタノールアミン、脂肪族第1・第2アミンとエポキシの反応生成物等)、脂肪族ポリアミン(ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン等)、芳香族アミン(メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノフェニルスルフォン等)、アミンアダクト(ポリアミンとエポキシ基との反応生成物等)、芳香族酸無水物(無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等)、ジシアンジアミド及びその誘導体、イミダゾール類等が用いられる。
【0201】
これらのエポキシ系接着剤としては1液タイプ、また、2液タイプのものがあり、2液性のエポキシ系接着剤は、一般的に、エポキシ基を含有する化合物(主剤)と、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤とを混ぜ合わせ、硬化反応によって接着する接着剤をいう。
【0202】
本発明で用いることができるエポキシ系接着剤としては、具体的には、例えば、セメダイン株式会社製、セメダインEP−001、株式会社スリーボンド社製、3950シリーズ、3950,3951,3952、2080シリーズ、2083,2086、2087、また、2230シリーズ、2230、2230B、3124C、コニシ株式会社製ボンドMOSシリーズ、MOS07、MOS10、東邦化成工業株式会社ウルタイト1500シリーズ、ウルタイト1540等、また、ナガセケムテックス(株)製XNR5576/5576LV、XNR5516/5516HV、XNR5570、T470/UR7116、T470/UR7134、T470/UR7132、T470/UR7124E−LV等がある。
【0203】
これらの接着剤は、ポッティング、塗布、噴射、印刷等、特に制限なく補強構造物上、例えば有機EL基板上に設けることができる。ポッティングで設ける場合、ポッティングノズル数を多くすることが好ましい。塗布で設ける場合、平滑に設けることが好ましい。
【0204】
これらのエポキシ系接着剤は、紫外線、電子線等のエネルギー線、また熱の照射により重合硬化させる。
【0205】
また、アクリル系接着剤の具体例としては、例えば、アクリル系粘着剤成分と、エネルギー線硬化性成分と、熱硬化型接着成分とからなる接着剤をあげることができる。
【0206】
アクリル系粘着剤としては、たとえば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして、特に好ましくはアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が用いられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、たとえば(メタ)アクリル酸グリシジル等を挙げることができる。
【0207】
上記のようなアクリル系粘着剤としては、特に、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸グリシジルと、少なくとも1種類の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体が好ましい。この場合、共重合体中における(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導される成分単位の含有率は通常は0〜80モル%、好ましくは5〜50モル%である。共重合体中における(メタ)アクリル酸から誘導される成分単位の含有率は通常は0〜40モル%である。また(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等、また、アクリル酸ヒドロキシエチルを用いることが好ましい。
【0208】
アクリル系粘着剤の分子量は、重量平均分子量で好ましくは150000〜1000000である。
【0209】
エネルギー線硬化性成分は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物である。このエネルギー線重合性化合物の例としては、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの環状脂肪族骨格含有アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が用いられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、分子量が300〜10000程度である。
【0210】
一般的にはアクリル系接着剤成分100質量部に対して、エネルギー線硬化性成分は好ましくは50〜150質量部程度の割合で用いられる。
【0211】
上記のような接着剤組成物は、エネルギー線照射により硬化する。エネルギー線としては、具体的には、紫外線、電子線等が用いられる。
【0212】
また、エネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤(例えばベンゾフェノン)を混入することにより、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。光重合開始剤は、前記成分の合計100質量部に対して0.5〜3.0質量部程度の割合で用いることが好ましい。
【0213】
上記成分のほか、エネルギー線によっては硬化しないが、加熱を受けると三次元網状化する、ビスフェノール系グリシジル型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂、またユリア樹脂等の熱硬化型接着成分、および、熱硬化型接着成分に対し1〜10質量部、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤を含有することが好ましい。
【0214】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤とは、室温ではエポキシ樹脂と反応せず、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。
【0215】
上記接着剤組成物は、熱硬化型接着成分100質量部に対し、通常18〜70質量部の量で用いられる。
【0216】
これらアクリル系接着剤にも1液タイプ、2液タイプがあるが、これらの具体例としては、株式会社スリーボンド社製、3003、3027B、3033B、3042B等、また、セメダイン株式会社製、セメダインY600、Y600H等が挙げられる。
【0217】
その他、ゴム系接着剤としては、例えば、シス−1,4−ポリイソプレンを主成分とする天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソブチレン、ブチルゴム等を主成分とする合成ゴム、又は、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合ゴム(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合ゴム(SIS)等を主成分とするブロックゴム等から少なくとも一種選択される接着性エラストマーに、常温で液体又は固体で分子量が数百から約1万までの無定形オリゴマー(2量体以上の中分子量重合体)の熱可塑性樹脂であるロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、クロマン・インデン樹脂等の接着付与剤、及び、鉱油、液状ポリブテン、液状ポリイソブチレン、液状ポリアクリル酸エステル等の軟化剤等を配合したものが挙げられる。
【0218】
ビニルエーテル系接着剤としては、例えば、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のホモポリマー又はアクリレートとのコポリマー(接着性エラストマー)で、場合によっては上記接着付与剤、軟化剤等を配合したものが挙げられる。
【0219】
また、シリコン系接着剤としては、例えば、高分子量のポリジメチルシロキサン又はポリジメチルジフェニルシロキサンで代表されるポリマー連鎖の末端に残存シラノール基(SiOH)を持つポリマー(又は接着性エラストマー)と上記接着付与剤、軟化剤等を配合したものがある。
【0220】
また、2液性の接着剤として、ポリイソシアネート化合物、例えば、芳香族多価イソシアナート化合物、脂肪族多価イソシアナート化合物、脂環族多価イソシアナート化合物およびこれらの多価イソシアナート化合物の三量体、ならびにこれら多価イソシアナート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマー等、さらに具体的な例としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシレンジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアナート等の主剤と、ポリオール類、アミン類や酸無水物を含有する硬化剤とを混ぜ合わせる、2液タイプの、例えばウレタン系接着剤も挙げられる。
【0221】
また、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤も挙げることが出来る。
【0222】
前記酸化珪素膜の積層体を有する本発明に係わるガスバリア性樹脂基材上に有機EL素子を形成したのち、更に封止材料を、不活性ガスによりパージされた環境下で、有機EL素子全体を覆うように配置し、前記接着剤を用い、前記封止材料と、基板であるガスバリア性樹脂基材とを接着して、素子を封止することが出来る。
【0223】
封止材料としては、例えば包装材等に使用される公知のガスバリア性フィルム、例えばプラスチックフィルム上に酸化珪素や、酸化アルミニウムを蒸着したもの、セラミック層と衝撃緩和ポリマー層を交互に積層した構成を有するもの等、更にはポリマーフィルムをラミネートした金属箔等を封止フィルムとして用いて、有機EL素子を形成したガスバリア性樹脂基材とこれを重ね、接着剤により接着することで有機EL素子を封止することができる。
【0224】
封止材料としては、ガスバリア性の高い材料であればよく、例えば、ガラス製の封止缶等を、有機EL素子を形成したガスバリア性樹脂基材と重ね、有機EL素子各層が形成された領域の周囲において接着し封止してもよい。
【0225】
有機EL素子を封止する場合、封止材料としては、前記包装材等に使用される公知のガスバリア性フィルムを用いることができるが、本発明に係わる酸化珪素の積層膜からなるガスバリア性フィルムは、接着性が改良され封止材料としても、特に好ましいものである。
【0226】
公知のガスバリア性フィルムの中でも、樹脂ラミネート(ポリマー膜)された金属箔は、光取りだし側のガスバリアフィルムとして用いることはできないが、低コストで更に透湿性の低い封止材料であり光取り出しを意図しない(透明性を要求されない)場合には封止フィルムとして好ましいものである。
【0227】
本発明において金属箔とはスパッタや蒸着等で形成された金属薄膜や、導電性ペースト等の流動性電極材料から形成された導電膜と異なり、圧延等で形成された金属の箔またはフィルムを指す。
【0228】
金属箔としては、金属の種類に特に限定はなく、例えば銅(Cu)箔、アルミニウム(Al)箔、金(Au)箔、黄銅箔、ニッケル(Ni)箔、チタン(Ti)箔、銅合金箔、ステンレス箔、スズ(Sn)箔、高ニッケル合金箔等が挙げられる。これらの各種の金属箔の中で特に好ましい金属箔としてはAl箔が挙げられる。
【0229】
金属箔の厚さは6〜50μmが好ましい。6μm未満の場合は、金属箔に用いる材料によっては使用時にピンホールが空き、必要とするバリアー性(透湿度、酸素透過率)が得られなくなる場合がある。50μmを越えた場合は、金属箔に用いる材料によってはコストが高くなったり、有機EL素子が厚くなりフィルムのメリットが少なくなる場合がある。
【0230】
樹脂フィルム(ポリマー膜)がラミネートされた金属箔において樹脂フィルムとしては、機能性包装材料の新展開(株式会社 東レリサーチセンター)に記載の各種材料を使用することが可能であり、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体系樹脂、セロハン系樹脂、ビニロン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂、ナイロン系樹脂等の樹脂は、延伸されていてもよく、さらに塩化ビニリデン系樹脂をコートされていてもよい。また、ポリエチレン系樹脂は、低密度あるいは高密度のものも用いることができる。
【0231】
上記の高分子材料の中で、ナイロン(Ny)、塩化ビニリデン(PVDC)をコートしたナイロン(KNy)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、延伸ポリプロピレン(OPP)、PVDCをコートしたポリプロピレン(KOP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PVDCをコートしたセロハン(KPT)、ポリエチレン−ビニルアルコール共重合体(エバール)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いることが好ましい。また、これら熱可塑性フィルムは、必要に応じて異種フィルムと共押し出しで作った多層フィルム、延伸角度を変えて張り合わせ積層した多層フィルム等も当然使用できる。さらに必要とする包装材料の物性を得るために使用するフィルムの密度、分子量分布を組み合わせて作ることも当然可能である。
【0232】
ポリマー膜の厚さは一概には規定できないが3〜400μmが好ましく、10〜200μmがより好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。
【0233】
金属箔の片面にポリマー膜をコーティング(ラミネート)する方法としては、一般に使用されているラミネート機を使用することができる。接着剤としてはポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系等の接着剤を用いることができる。必要に応じて硬化剤を併用してもよい。ドライラミネート方式、ホットメルトラミネーション法やエクストルージョンラミネート法も使用できるがドライラミネート方式が好ましい。
【0234】
金属箔の片面がポリマー膜でコーティングされたフィルムは、包装材用に市販されている。例えば、接着剤層/アルミフィルム9μm/ポリエチレンテレフタレート(PET)38μmの構成のドライラミネートフィルム(接着剤層としては2液反応型のウレタン系接着剤、厚みは1.5μm)が入手でき、これを用いて有機EL素子の陰極側の封止を行うことができる。
【0235】
本発明に係わる前記ガスバリア性薄膜積層体を有する樹脂フィルム基材(ガスバリア性樹脂基材)上に、有機EL素子各層を形成した後、上記封止材料を用いて封止するには、不活性ガスによりパージされた環境下で、上記封止フィルムで陰極面を覆うようにして、接着剤を用い、硬化・接着することができる。
【0236】
硬化には、当該封止材料と前記ガスバリア性樹脂基材との間に臨ましめた接着剤を高圧水銀灯やハロゲンランプにより得られる、紫外領域から可視領域の光により基材側から照射し、光硬化型接着剤を硬化させる。また、熱接着する場合には50〜150℃の範囲で加熱することができる。これによって、基材と封止材料との一体化を図ることができる。
【0237】
本発明に係わるガスバリア性樹脂基材の場合、酸化珪素膜から構成されるため、紫外〜青色領域での吸収が少ないため、基板越しに光照射し、封止する場合、照射量が低い場合でも充分に硬化するため生産性がよい。
【0238】
なお、本願明細書における「紫外領域(の光)」とは、250nm〜400nmの範囲の波長の光をいい、また、「可視領域(の光)」とは、400nm〜700nmの範囲の波長の光をいう。
【0239】
不活性ガスとしては、N2の他、He、Ar等の希ガスが好ましく用いられるが、HeとArを混合した希ガスも好ましく、気体中に占める不活性ガスの割合は、90〜100体積%であることが好ましい。不活性ガスによりパージされた環境下で封止することにより、保存性が改良される。
【0240】
また、例えば、封止用のフィルムとして、前記の樹脂フィルム(ポリマー膜)がラミネートされた金属箔を用いて、有機EL素子を封止するにあたっては、ラミネートされた樹脂フィルム面を有機EL素子の陰極面と対向させ封止することができる。
【0241】
また、樹脂フィルム(ポリマー膜)がラミネートされた金属箔を用いる場合、ポリマー膜と反対側の金属箔上に、酸化珪素等のセラミック膜を形成し、このセラミック膜面を有機EL素子の陰極に対向させ、接着、貼り合わせることが好ましい。封止フィルムのポリマー膜面を有機EL素子の陰極に貼り合わせると、部分的に導通が発生したり、それに伴う電飾が発生し、これによってダークスポットが発生することがある。金属箔上に形成するセラミック膜としては酸化珪素、酸化窒化珪素等が好ましく、また本発明に係わるバリア膜、また緩衝膜であってもよい。これらのセラミック膜は、前記のように蒸着や、プラズマCVD等によって形成してもよくその製造法は問わない。膜厚としては、1〜2000nm、好ましくは20〜1000nmの範囲である。
【0242】
以下、本発明に係わる、封止された有機ELデバイスの具体的な例を示す。
【0243】
図6は、本発明のガスバリア性樹脂基材を用いて封止した有機ELデバイスの一例を示す。本発明のガスバリア性樹脂基材上に陽極、発光層等、有機層、陰極からなる有機EL素子各層を形成したのち、更に、封止材料として、本発明に係わる前記第一の酸化珪素層、第二の酸化珪素層及び第三の酸化珪素層を有するガスバリア性樹脂基材を陰極上に重ね、密着し、接着剤を用いて素子周囲において接着し、封止した有機ELデバイス例を断面構成図にて示している。図において、本発明に係わる第一、第二、第三の酸化珪素層を順次形成したガスバリア性樹脂基材B上にITOからなる陽極6、有機層(正孔輸送層、発光層、電子輸送層等からなる)7、陰極8が順次、積層され、有機EL素子が構成され、更にこの上に、同じく本発明のガスバリア性樹脂基材Bが、素子の周囲においてガスバリア層同士接着剤Cにより接着され、封止されている。なお矢印は光取り出しの方向を示す。
【0244】
また、図7には、本発明のガスバリア性樹脂基材を用いて封止した別の有機ELデバイスの一例を示す。即ち、同じく本発明のガスバリア性樹脂基材上に陽極、発光層等、有機層、陰極からなる有機EL素子各層を同じく形成したのち、これを更に別の封止フィルムS、この場合、樹脂ラミネート(ポリマー膜)された金属箔(アルミ箔)で覆って接着封止した、有機EL素子の例を示す断面構成図である。
【0245】
封止フィルムSとして、金属(アルミ)箔S2の上に、酸化珪素膜S1が形成されており、酸化珪素膜S1側が陰極に接するように接着されている。尚、矢印は光の取り出し方向を示す。
【0246】
本発明に係わる有機EL素子の封止はまた、前記封止フィルム等の基材のほか、水蒸気透過率、ガス透過率の低いガラス等の無機材料を用いることができる。
【0247】
図8にガラス製の封止缶を使用し有機EL素子の封止を行った有機ELデバイスの例を示した。
【0248】
図において、101は透明電極を設けた、本発明に係わるガスバリア性樹脂基材であり、この上に正孔注入/輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層等からなる有機EL層102を、そして陰極103を形成し有機EL素子を作製し、更にこれをガラス製封止缶104と紫外線硬化型接着剤107を用い紫外線ランプを照射、接着し作製した封止素子を示す。なお、105は捕水剤の酸化バリウムである。ガラス製封止缶の厚みは0.1〜1.0mm程度である。
【0249】
なお、捕水剤である酸化バリウムとしては、例えば、アルドリッチ社製の高純度酸化バリウム粉末を、粘着剤付きのフッ素樹脂系半透過膜(ミクロテックス S−NTF8031Q 日東電工製)等を用いて貼り付けることで作製できる。その他、ジャパンコアテックス(株)、双葉電子(株)などで市販されている補水剤も好ましく使用できる。
【0250】
これら、ガラス製封止缶による封止、また他の封止材料を用いた場合でも、ガスバリア性樹脂基材上にこれらの有機EL層、陰極を形成した後、これらを大気に接触させることなく、例えば、窒素雰囲気下(例えば、純度99.999%以上の高純度窒素ガスで置換したグローブボックスを用いる)において、内部を窒素置換した後、封止構造とすることが好ましい。
【0251】
また、封止構造を形成するにあたっては、前記ガラス製の封止缶をもちいた封止構造に限らず、封止空間に吸水性の物質を配置したり、また、構造中に吸水層等の水蒸気を吸収する層を設けてもよい。
【0252】
〔有機EL素子〕
次いで、本発明に係わる有機EL素子の構成層について詳細に説明する。本発明において、有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0253】
(1)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(5)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(陽極)
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In23−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング、又前述の(大気圧)プラズマCVD法等の方法により、薄膜を形成させる。フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいは形成時にマスクを介してパターンを形成してもよい。陽極より発光を取り出す場合、透過率は10%より大きくする。また陽極のシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0254】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0255】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0256】
本発明に係わるガスバリア性薄膜積層体を樹脂基材上に有する前記ガスバリア性樹脂基材にこれら陽極となる透明導電膜或いは陰極となる金属薄膜等を形成し、透明導電膜付きガスバリア性樹脂基材を予め作製してもよい、これを用いれば、以下の有機薄膜層およびもう一方の電極を形成することで同様に有機EL素子を形成することが出来る。樹脂基材上に形成する電極物質としては、どちらでもよいが、作製上、或いは、構成上は、陽極となる透明導電膜を作製することが好ましい。
【0257】
次に、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0258】
(注入層:電子注入層、正孔注入層)
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0259】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0260】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0261】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0262】
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0263】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0264】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。
【0265】
(発光層)
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0266】
本発明の有機EL素子の発光層には、以下に示すホスト化合物とドーパント化合物が含有されることが好ましい。これにより、より一層発光効率を高くすることができる。
【0267】
発光ドーパントは、大きく分けて、蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの2種類がある。
【0268】
前者(蛍光性ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0269】
後者(リン光性ドーパント)の代表例としては、好ましくは元素の周期表で8属、9属、10属の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくは、イリジウム化合物、オスミウム化合物であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。具体的には以下の特許公報に記載されている化合物である。
【0270】
国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等。
【0271】
その具体例の一部を下記に示す。
【0272】
【化1】

【0273】
【化2】

【0274】
【化3】

【0275】
【化4】

【0276】
発光ドーパントは複数種の化合物を混合して用いてもよい。
【0277】
〈発光ホスト〉
本発明に用いられる発光ホストとは、発光層に含有される化合物のうちで、その質量比が20%以上であり、また、室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.01未満の化合物である。
【0278】
本発明に用いられる発光層においては、ホスト化合物として、公知のホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種もちいることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。これらの公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0279】
本発明に用いられる発光ホストとしては、構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、または、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0280】
中でもカルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等が好ましく用いられる。
【0281】
以下に、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0282】
【化5】

【0283】
【化6】

【0284】
また、本発明に用いられる発光ホストは低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもいい。
【0285】
発光ホストとしては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
発光ホストの具体例としては、前記の他、以下の文献に記載されている化合物が好適である。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0286】
さらに公知のホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。また、ドーパント化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。リン光性化合物の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明、バックライトへの応用もできる。
【0287】
本発明の有機EL素子の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0288】
発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により成膜して形成することができる。発光層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。この発光層はこれらのリン光性化合物やホスト化合物が1種または2種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0289】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0290】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0291】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0292】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0293】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0294】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0295】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0296】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0297】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0298】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0299】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0300】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0301】
本発明に係わる有機EL素子に用いることのできるガスバリアフィルムを構成する樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)或いはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0302】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0303】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0304】
(有機EL素子の作製方法)
有機EL素子の作製方法について以下に詳しく説明する。
有機EL素子の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0305】
まず基体(本発明のガスバリア性樹脂基材(フィルム))上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング、又前記プラズマCVD等の方法により形成させ、陽極を作製する。次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層の有機化合物薄膜を形成させる。
【0306】
この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましい。さらに層毎に異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10-6〜10-2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0307】
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0308】
また作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0309】
〔表示装置〕
本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような1種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を3種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。または、一色の発光色、例えば、白色発光をカラーフィルターを用いてBGRにし、フルカラー化することも可能である。さらに有機ELの発光色を色変換フィルターを用いて他色に変換しフルカラー化することも可能であるが、その場合、有機EL発光のλmaxは480nm以下であることが好ましい。
【0310】
本発明の有機EL素子から構成される表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
【0311】
図9は、有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0312】
ディスプレイ111は、複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。
【0313】
制御部Bは、表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0314】
図10は、表示部Aの模式図である。
【0315】
表示部Aは基板上に、複数の走査線115及びデータ線116を含む配線部と、複数の画素113等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。図9においては、画素113の発光した光が、白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0316】
配線部の走査線115及び複数のデータ線116は、各々導電材料からなり、走査線115とデータ線116は格子状に直交して、直交する位置で画素113に接続している(詳細は図示せず)。
【0317】
画素113は、走査線115から走査信号が印加されると、データ線116から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を、適宜、同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0318】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
【0319】
図11は、画素の模式図である。
【0320】
画素は、有機EL素子120、スイッチングトランジスタ121、駆動トランジスタ122、コンデンサ123等を備えている。複数の画素に有機EL素子120として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0321】
図11において、制御部Bからデータ線116を介してスイッチングトランジスタ121のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線115を介してスイッチングトランジスタ121のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ121の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサ123と駆動トランジスタ122のゲートに伝達される。
【0322】
画像データ信号の伝達により、コンデンサ123が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ122の駆動がオンする。駆動トランジスタ122は、ドレインが電源ライン117に接続され、ソースが有機EL素子120の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン117から有機EL素子120に電流が供給される。
【0323】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線115に移ると、スイッチングトランジスタ121の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ121の駆動がオフしてもコンデンサ123は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ122の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子120の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ122が駆動して有機EL素子120が発光する。
【0324】
すなわち、有機EL素子120の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子120に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ121と駆動トランジスタ122を設けて、複数の画素113それぞれの有機EL素子120の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリックス方式と呼んでいる。
【0325】
ここで、有機EL素子120の発光は、複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。
【0326】
また、コンデンサ123の電位の保持は、次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0327】
本発明においては、上述したアクティブマトリックス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリックス方式の発光駆動でもよい。
【0328】
図12は、パッシブマトリックス方式による表示装置の模式図である。図12において、複数の走査線115と複数の画像データ線116が画素113を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0329】
順次走査により走査線115の走査信号が印加されたとき、印加された走査線115に接続している画素113が画像データ信号に応じて発光する。パッシブマトリックス方式では画素113にアクティブ素子がなく、製造コストの低減が計れる。
【0330】
〔照明装置〕
本発明に係わる有機EL材料は、また、照明装置として、実質白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得る。複数の発光色の組み合わせとしては、青色、緑色、青色の3原色の3つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0331】
また、複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光または蛍光を発光する材料(発光ドーパント)を、複数組み合わせたもの、蛍光またはリン光を発光する発光材料と、該発光材料からの光を励起光として発光する色素材料とを組み合わせたもののいずれでもよいが、本発明に係わる白色有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせる方式が好ましい。
【0332】
複数の発光色を得るための有機EL素子の層構成としては、複数の発光ドーパントを、一つの発光層中に複数存在させる方法、複数の発光層を有し、各発光層中に発光波長の異なるドーパントをそれぞれ存在させ、非発光性の中間層を各発光層間に適宜配する方法、異なる波長に発光する微小画素をマトリックス状に形成する方法等が挙げられる。
【0333】
本発明に係わる白色有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもいいし、電極と発光層をパターニングしてもいいし、素子全層をパターニングしてもいい。
【0334】
発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係わる白金錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
【0335】
このように、白色発光有機EL素子は、前記表示デバイス、ディスプレイに加えて、各種発光光源、照明装置として、家庭用照明、車内照明、また、露光光源のような1種のランプとして、液晶表示装置のバックライト等、表示装置にも有用に用いられる。
【0336】
その他、看板広告、信号機、光記憶媒体等の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等、さらには表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられる。
【実施例】
【0337】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0338】
実施例1
〔試料1の作製〕
図3に記載の装置を用いて大気圧プラズマCVD法により、樹脂基材(きもと社製クリアハードコート層(CHC)付ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(PETの厚さ125μm、CHCの厚さ6μm))上に、以下の作製条件で第一の酸化珪素膜(100nm)、第二の酸化珪素膜(50nm)、第三の酸化珪素膜膜(500nm)と順次薄膜形成を行い、試料1を得た。
(第一の酸化珪素膜の作製)
〈第一の酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.92体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.08体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第一酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 90℃
(第二の酸化珪素膜の作製)
〈第二の酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.99体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.01体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第二酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは2kVであった)
電極温度 90℃
(第三の酸化珪素膜の作製)
〈第三の酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.90体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.10体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第三酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 90℃
〔試料2の作製;比較例〕
上記試料1の作製において作製条件を以下のように変更し、試料2を得た。
(第一の酸化珪素膜の作製)
〈第一酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.75体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.25体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第一酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 90℃
(第二の酸化珪素膜の作製)
〈第二酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.99体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.01体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第二酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは2kVであった)
電極温度 90℃
(第三の酸化珪素膜の作製)
〈第三酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.75体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.25体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第三酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 90℃
〔試料3の作製;比較例〕
上記試料1の作製において作製条件を以下のように変更し、試料3を得た。
(第一の酸化珪素膜の作製)
〈第一酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:ヘリウムガス 98.90体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.10体積%
添加ガス:酸素ガス 1.0体積%
〈第一酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 不使用(アース)
(第二の酸化珪素膜の作製)
〈第二酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:窒素ガス 94.99体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.01体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈第二酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 ハイデン研究所 100kHz(連続モード) PHF−6k
周波数 100kHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは7kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 10W/cm2(この時の電圧Vpは2kVであった)
電極温度 90℃
(第三の酸化珪素膜の作製)
〈第三酸化珪素膜混合ガス組成物〉
放電ガス:ヘリウムガス 98.90体積%
薄膜形成ガス:ヘキサメチルジシロキサン 0.10体積%
添加ガス:酸素ガス 1.0体積%
〈第三酸化珪素膜成膜条件〉
第1電極側 電源種類 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
周波数 13.56MHz
出力密度 5W/cm2(この時の電圧Vpは1kVであった)
電極温度 120℃
第2電極側 不使用(アース)
〔試料4の作製;比較例〕
上記試料1の作製において作製条件を以下のように変更し、試料4を得た。
【0339】
即ち、製法を大気圧プラズマCVD法から、特開2002−127294号公報の実施例1記載のプラズマ化学気相蒸着装置(図13に記載)に準じた装置を用いた真空プラズマCVD法に変更した。
【0340】
用いたプラズマ化学気相蒸着装置101は、図13に示すように、チャンバー102内に樹脂基材の送り出し、巻取り機構が備えられており、また、チャンバー内102内を油回転ポンプおよび油拡散ポンプ103により、到達真空度1×10-3Pa程度までの減圧にできる。また、コーティングドラム105近傍に、コーティングドラム105と対向するように電極106を配置し、このコーティングドラム105と電極106との間に高周波電力が印加できる。
【0341】
原料ガス104は、チャンバー102内の電極106近傍に設けられたガス導入口107から、励起ガス、また添加ガスと共に導入され、印加された高周波電力によって、原料ガスはプラズマ化し、基材フィルム上に膜形成を行うことができる。また、真空ポンプ103とチャンバー102との間にあるバルブ108の開閉度を制御することにより、成膜チャンバー内を6.7Pa〜0.134Pa程度に保つことができる。また膜厚を所望の厚みとするよう基材フィルム200の走行速度は調整・設定することができる。
【0342】
樹脂基材を、プラズマ化学気相蒸着装置のチャンバー内に装着した。次に化学気相蒸着装置のチャンバー内内を油回転ポンプおよび油拡散ポンプにより、到達真空度4.0×10-3Paまで減圧した。
【0343】
また、原料ガスとしては、テトラメトキシシラン(TMOS、信越化学工業(株)、KBM−04)、および酸素ガス(太陽東洋酸素(株)、純度99.9999%以上)、ヘリウムガス(太陽東洋酸素(株)、純度99.9999%以上)を準備した。
【0344】
次に、コーティングドラム近傍に、コーティングドラムと対向するように電極を配置し、このコーティングドラムと電極との間に周波数40kHzの高周波電力を印可した。
そしてチャンバー内の電極近傍に設けられたガス導入口から、それぞれ以下のガス流量条件で、混合ガスを導入し、また真空ポンプとチャンバーとの間にあるバルブの開閉度を制御することにより、成膜チャンバー内を6.7Paに保って、基材フィルム上に酸化珪素膜を順次形成した。
(第一の酸化珪素膜の作製)
以下のガス流量条件で行った。
TMOSガス500sccm、水素ガス20sccm、ヘリウムガス1000sccm。
膜厚;10nm
ここで、1sccm=1cm3/min。
(第二の酸化珪素膜の作製)
TMOSガス50sccm、酸素ガス50sccm、ヘリウムガス1000sccm
膜厚;5nm
(第三の酸化珪素膜の作製)
TMOSガス500sccm、酸素ガス50sccm、ヘリウムガス1000sccm
膜厚;50nm
《各試料の特性値の評価》
〔膜密度の評価〕
X線反射率測定法により測定した。
【0345】
測定装置としては、マックサイエンス社製MXP21を用いて行い、X線源のターゲットには銅を用い、42kV、500mAで作動させた。インシデントモノクロメータには多層膜パラボラミラーを用いた。入射スリットは0.05mm×5mm、受光スリットは0.03mm×20mmを用い、2θ/θスキャン方式で0から5°をステップ幅0.005°、1ステップ10秒のFT法にて測定を行った。得られた反射率曲線に対し、マックサイエンス社製Reflectivity Analysis Program Ver.1を用いてカーブフィティングを行い、実測値とフッティングカーブの残差平方和が最小になるように各パラメータを求め、各パラメータから積層膜の厚さ及び密度を求めた。
【0346】
〔炭素含有量の評価〕
作製した第一、第二、また第三の酸化珪素層の炭素含有量はXPSにて測定した(原子数濃度%)。炭素含有率は下記のXPS法によって算出される原子数濃度%であり、以下に定義される。
【0347】
原子数濃度%(atomic concentration(at%))=炭素原子の個数/全原子の個数×100
XPS表面分析装置は、本発明では、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。具体的には、X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5eV〜1.7eVとなるように設定した。
【0348】
測定としては、先ず、結合エネルギー0eV〜1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで測定し、いかなる元素が検出されるかを求めた。
【0349】
次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンをおこない、各元素のスペクトルを測定した。
【0350】
得られたスペクトルは、測定装置、あるいは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いを生じせしめなくするために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM (Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同ソフトで処理をおこない、各分析ターゲットの元素(炭素、酸素、ケイ素、チタン等)の含有率の値を原子数濃度(atomic concentration:at%)として求めた。
【0351】
定量処理をおこなう前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレーションをおこない、5ポイントのスムージング処理をおこなった。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。
【0352】
〔評価1:ガスバリア性の評価〕
上記作製した各ガスバリア性樹脂基材、各試料について、下記の各評価を行った。
【0353】
(水蒸気透過率の測定)
水蒸気透過率は、JIS K 7129Bで規定の方法(40℃、90%RH)に準拠して、MOCON社製 水蒸気透過率測定装置 PERMATRAN−W 3/33 MGモジュールにより測定を行った。
【0354】
〔評価2:密着性の評価(強制剥離試験)〕
上記作製した各ガスバリア樹脂基材を、20mm幅の短冊状に切り出し、図14のように2枚を、エポキシ系接着剤(スリーボンド3124C)を用いUV及び熱で硬化して、接着させた(接着面積20×20mm)。これを接着直後、また、60℃90%RH500hr保管後において、それぞれフィルムを一定負荷で両方向に引っ張った。これにより基材が破断したものは「剥離なし」、膜が剥離したものは「剥離あり」と判断した。
【0355】
結果を表1に示した。
【0356】
【表1】

【0357】
本発明の試料は、接着直後、高温高湿条件での保管後においても良好な接着を示し、剥離がないことがわかる。
【0358】
実施例2
〔試料5の作製〕
樹脂基材(帝人デュポンフィルム社製ポリエステルナフタレート、厚さ125μm)の両面に、下記条件で平滑化層を形成した後、上記試料1の作製条件で、樹脂基材両面に第一酸化珪素膜(100nm)、第二酸化珪素膜(50nm)、第三酸化珪素膜膜(500nm)とそれぞれ順次薄膜形成を行い、試料5を得た。
【0359】
(平滑化層の形成)
上記樹脂基材の片面上に、下記平滑化層組成物を、乾燥膜厚が6.5μmとなるように塗布し、80℃にて5分間乾燥した。次に80W/cm高圧水銀灯を12cmの距離から4秒間照射して硬化させた。さらにもう片面上に同様な手順で平滑化層を設け、両面に平滑化層を有する樹脂基材を作製した。
【0360】
〈平滑化層組成物〉
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3量体以上の成分 20質量部
ジエトキシベンゾフェノン(UV光開始剤) 2質量部
メチルエチルケトン 50質量部
酢酸エチル 50質量部
イソプロピルアルコール 50質量部
上記組成物を撹拌しながら溶解した。
【0361】
〔試料6の作製;比較例〕
上記試料5の作製において薄膜作製条件を試料2と同様に変更し、試料6を得た。
【0362】
〔試料7の作製;比較例〕
上記試料5の作製において薄膜作製条件を試料3と同様に変更し、試料7を得た。
【0363】
〔試料8の作製;比較例〕
上記試料5の作製において薄膜作製条件を試料4と同様に変更し、試料8を得た。
【0364】
《各試料の特性の評価》
試料5〜8のガスバリア性樹脂基材をそれぞれ有機EL用ディスプレイ基板として用い、その上に陽極電極を構成する透明電極、正孔輸送性を有する正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、および陰極となる背面電極を積層した。
透明電極 ; ITO 150nm
正孔輸送層 ; m−MTDATXA 40nm
発光層 ;
発光層A CDBP:Ir−15(3%) 25nm
中間層1 L−98 3nm
発光層B CDBP:Ir−16(8%) 10nm
正孔阻止層 ; L−98 10nm
電子輸送層 ; Alq3 35nm
陰極バッファー層; フッ化リチウム 0.5nm
陰極 ; アルミニウム 110nm
【0365】
【化7】

【0366】
さらにこれら各層の上にUV(熱)硬化型エポキシ系封止接着材料(スリーボンド3124C)を介して、それぞれ基板として用いたものと同じガスバリア性樹脂基材を重ね、密着、接着・封止した有機EL素子(OLED)試料5〜8を作製し、それぞれ60℃、90%RH、500時間保存した後の50倍の拡大写真を撮影した。その結果、本発明である試料5では、エッジ部分の非発光領域の発生は認められなかったが、比較例である試料6〜8では、エッジの一部分に非発光領域の存在が観察された。これは、比較例である試料6〜8は接着性が悪いため、ガスバリア性樹脂基材同士が貼り合わせられている部分の膜剥離による部分的なバリア性劣化により劣化が起こっているものと推察される。以上のように本発明のガスバリア性樹脂基材は、比較例に対し、水蒸気遮断効果、酸素遮断効果に優れた性能が維持されていた。
【図面の簡単な説明】
【0367】
【図1】本発明に係わるガスバリア性樹脂基材の層構成例を示す断面図である。
【図2】ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【図3】対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図4】ロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【図5】角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明のガスバリア性樹脂基材を用いて封止した有機ELデバイスの一例を示す断面構成図である。
【図7】本発明のガスバリア性樹脂基材を用いて封止した別の有機ELデバイスの一例を示す。
【図8】ガラス製の封止缶を使用し有機EL素子の封止を行った有機ELデバイスの例を示す図である。
【図9】有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。
【図10】表示部Aの模式図を示す。
【図11】画素の模式図を示す。
【図12】パッシブマトリックス方式による表示装置の模式図を示す。
【図13】実施例で用いたプラズマ化学気相蒸着装置の模式図を示す。
【図14】強制剥離試験の実施の態様を示す図である。
【符号の説明】
【0368】
1 樹脂基材
2 ポリマー膜
3 第一の酸化珪素層
4 第二の酸化珪素層
5 第三の酸化珪素層
B ガスバリア性樹脂基材
C 接着剤
10 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
21 第1電源
30 プラズマ放電処理装置
32 放電空間
35 ロール回転電極
35a ロール電極
35A 金属質母材
35B 誘電体
36 角筒型固定電極群
40 電界印加手段
41 第1電源
42 第2電源
50 ガス供給手段
51 ガス発生装置
52 給気口
53 排気口
60 電極温度調節手段
G 薄膜形成ガス
G° プラズマ状態のガス
G′ 処理排ガス
101 陽極付きガスバリア性樹脂基材
102 有機EL層
103 陰極
104 ガラス製封止缶
105 酸化バリウム
107 接着剤
111 ディスプレイ
113 画素
115 走査線
116 データ線
117 電源ライン
120 有機EL素子
121 スイッチングトランジスタ
122 駆動トランジスタ
123 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基材の少なくとも1面に、酸化珪素を含有するガスバリア層を有するガスバリア性樹脂基材において、該ガスバリア層が、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第一の層と、炭素含有率が0.1at%以下である酸化珪素を含有する第二の層と、炭素含有率が0.2〜4.9at%である酸化珪素を含有する第三の層を、物理気相成長法または化学気相成長法により、順次少なくとも1組以上形成した、積層構成を有していることを特徴とするガスバリア性樹脂基材。
【請求項2】
前記第一の層の膜密度が、1.80以上2.05以下であることを特徴とする請求項1記載のガスバリア性樹脂基材。
【請求項3】
前記第一の層が、異なる周波数の電界を2つ以上印加する大気圧プラズマ法によって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア性樹脂基材。
【請求項4】
前記第二の層の膜密度が、2.15以上2.50以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【請求項5】
前記第二の層が、異なる周波数の電界を2つ以上印加する大気圧プラズマ法によって形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【請求項6】
前記第三の層の膜密度が、1.80以上2.05以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【請求項7】
前記第三の層が、異なる周波数の電界を2つ以上印加する大気圧プラズマ法によって形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材において、0.01g/m2/day未満、1×10-7g/m2/day以上の水蒸気透過率を有することを特徴とするガスバリア性樹脂基材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材上に、少なくとも電極及び有機化合物層を形成し、かつ、該電極と該有機化合物層を覆う様に封止部材を配置し、該封止部材と前記ガスバリア性樹脂基材とを貼合わせて、封止したことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスデバイス。
【請求項10】
前記封止部材が、請求項1〜8のいずれか1項記載のガスバリア性樹脂基材であることを特徴とする請求項9記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−190844(P2007−190844A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12249(P2006−12249)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】