説明

キャビテーション壊食量予測方法及び予測装置

【課題】簡単にキャビテーション壊食量を予測することが可能な流体機械のキャビテーション壊食量の予測方法及び予測装置を構築する。
【解決手段】流体機械に振動加速度センサを取りつけ、振動加速度センサにより計測された振動加速度の値からキャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧を算出し、このキャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧から流体機械に生じているキャビテーション強さを算出し、キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定し、このエネルギー分布の中で流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、キャビテーションエネルギーの総和と、予め求めた最大壊食速度の関係から流体機械における最大壊食速度を算出し、この最大壊食速度と流体機械の運転時間とからキャビテーションによる最大壊食量を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機械のキャビテーション壊食量予測方法及び予測装置に係り、特にポンプや水車などの流体機械におけるキャビテーション壊食量の予測方法及びその予測システムに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年の流体機械の小型・軽量化に伴い、液体用ターボポンプ(以下、ポンプと称する)の運転条件はますます過酷になってきている。これは、ポンプをより高速度で運転することによって、低コストな小型のポンプで大流量を発生させることができるからである。
【0003】
ところが、ポンプを高速で運転した場合、ポンプ内部の液体には下に説明するキャビテーションと呼ばれる現象が生じ、それに伴って発生するキャビテーション壊食によってポンプ内部が損傷を受ける場合がある。
【0004】
キャビテーションとは、液体中にその液体の蒸気圧よりも低圧の部分が生じた際に、その部分に蒸気の気泡が発生する現象である。キャビテーションによる気泡が高圧部分で急激に液体に戻る場合、その箇所に局部的に衝撃的な圧力が生じ、その圧力がポンプの内壁や翼面に作用してその箇所の表面を侵食する場合がある。これがキャビテーション壊食である。ポンプ内に生じるキャビテーションの強度はポンプ羽根の周速の3乗に比例するとも言われているため、前述の通りポンプを高速運転する場合のキャビテーション壊食は、ポンプの性能維持や寿命管理などの観点から非常に重要な問題となる。
【0005】
従来の流体機械のキャビテーション壊食量を予測する方法としては、特開2003−269313号公報(特許文献1)に示された方法がある。このキャビテーション壊食量の推定法は、水車及びポンプ水車の実機、相似模型あるいは類似模型のランナ、または流水部表面に運転時に加わる衝撃圧の大きさを、ランナまたは流水部表面に設置される衝撃圧力センサ、水中マイクロフォンまたはAEセンサーで検出し、その衝撃圧の大きさからキャビテーション壊食量を推定する方法が用いられてきた。
【0006】
また、他のキャビテーション壊食量の予測方法として、特開2007−327455号公報(特許文献2)に示されるものがある。このキャビテーション壊食量の予測法は、予測したキャビテーション壊食位置を軟質金属で構成し、模型流体機械を運転することによって軟質金属の表面にキャビテーション崩壊圧力による窪み状変形を生じさせ、計測手段により窪み状変形量を定量的に測定し、計測した窪み状変形量に基いてキャビテーション壊食量を予測するものである。
【0007】
さらに、振動加速度センサを用いてキャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧を算出する従来の方法としては、特開2007−170981号公報(特許文献3)に示された方法がある。この方法は、作動流体中でキャビテーションが生じる機器に複数の振動加速度センサを取りつけ、キャビテーション発生位置から各振動加速度センサ位置まで伝播する圧力波の減衰率や異種媒質界面での透過率、センサ設置部の壁厚さと密度等を考慮して算出される所定の抵抗係数を用い、計測された複数の振動加速度の値を最小自乗近似処理してキャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧を抽出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−269313号公報
【特許文献2】特開2007−327455号公報
【特許文献3】特開2007−170981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1に開示された従来技術は、実機、相似模型または類似模型の運転時に検出した衝撃圧の大きさに基づいてキャビテーション壊食量を推定する方法であるために、短時間に且つ簡便に壊食量を求めることが困難であるという課題があった。即ち、実機、相似模型または類似模型の運転時に衝撃圧力センサ、水中マイクロフォンまたはAEセンサなどで衝撃圧を検出する作業は一般的に面倒である。
【0010】
また、上記の特許文献2に開示された従来技術は、模型流体機械に軟質金属を設けて、軟質金属の表面の窪み状変形量を計測し、その窪み状変形量に基いてキャビテーション壊食量を予測するものであるため、軟質金属の設置や窪み状変形量の計測の作業は面倒である。
【0011】
また、上記特許文献3に開示された従来技術は、振動加速度センサを用いてキャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧を算出するのみであり、流体機械におけるキャビテーションによる壊食量を予測することができない。
【0012】
本発明の目的は短時間に、簡単にキャビテーション壊食量を予測することが可能な流体機械のキャビテーション壊食量の予測方法及び予測装置を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成するための本発明の第一の態様は、キャビテーションによる壊食量を予測する対象となる流体機械に、振動加速度センサを取りつけ、前記振動加速度センサにより計測された振動加速度の値から、特定の周波数領域を除去し、
キャビテーション発生位置から振動加速度センサ取付け位置まで伝播する圧力波の減衰率や異種媒質界面での透過率及びセンサ取付け部の壁厚さと密度を考慮して算出される所定の抵抗係数を用い、キャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧を算出し、
前記キャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧から前記流体機械に生じているキャビテーション強さを算出し、
前記算出した流体機械に生じているキャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定し、
前記キャビテーションエネルギー分布の中で前記流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、
前記材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和と、予め求めた最大壊食速度の関係から前記流体機械における最大壊食速度を算出し、
前記最大壊食速度と前記流体機械の運転時間とから前記流体機械におけるキャビテーションによる最大壊食量を予測することを特徴とする。
【0014】
また、上記記載のキャビテーション壊食量の予測法において、
材料毎のしきい値のデータベースに基づいて、前記キャビテーションエネルギー分布の中で前記流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベースに基づいて前記流体機械における最大壊食速度を求めることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第二の態様は、振動加速度センサと、
前記振動加速度センサの出力信号を増幅するアンプと、
前記アンプの出力信号を高速サンプリングするAD変換器と、
このAD変換器から出力される振動加速度の波形を高速フーリエ変換して特定の周波数域を除去した振動加速度値を算出する高速フーリエ変換器と、
この高速フーリエ変換器から出力される振動加速度値を記録するコンピュータを備え、
前記コンピュータは、記録された振動加速度の値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出する抽出手段と、前記キャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを求める強さ算出手段と、このキャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定する推定手段と、このキャビテーションエネルギー分布の中で材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出する総和算出手段と、この材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和と予め求めた最大壊食速度の関係から最大壊食速度を求める壊食速度算出手段と、流体機械の運転時間を入力することにより前記最大壊食速度から最大壊食量を求める壊食量算出手段からなるデータ処理手段を有することを特徴とする。
【0016】
また、上記記載の上記キャビテーション壊食量の予測装置において、
更に、材料毎のしきい値のデータベースと材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベースを備え、上記総和算出手段は、上記材料毎のしきい値のデータベースに基いて前記キャビテーションエネルギー分布の中で前記流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、上記壊食速度算出手段は、上記材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベースに基づいて、前記流体機械における最大壊食速度を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による流体機械のキャビテーション壊食量の予測方法によれば、予測の対象となる流体機械を分解することなく、流体機械に対しては、その外面に振動加速度センサを取りつけるだけで、キャビテーション気泡衝撃圧から直接キャビテーション強さを算出することができるので、簡単にキャビテーション壊食量を予測することが可能である。
【0018】
本発明におけるキャビテーション壊食量の予測装置によれば、測定した流体機械の振動加速度値から、コンピュータに内蔵された、振動加速度値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出するデータ処理手段、前記キャビテーション気泡衝撃圧とキャビテーション強さを求めるデータ処理手段、キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定するデータ処理手段、このキャビテーションエネルギー分布の中で材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出するデータ処理手段、この材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和と予め求めた最大壊食速度の関係から最大壊食速度を求めるデータ処理手段により、キャビテーションによる最大壊食速度を予測することが可能となり、当該流体機械の運転時間と、この最大壊食速度によりキャビテーションの最大壊食量が予測できる装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例の適用対象の一例である、水を作動流体とするポンプの断面図である。
【図2】同じく信号処理の系統を示すブロック図である。
【図3】同じくデータ処理手段を示すブロック図である。
【図4】同じく実施例から得られた振動加速度分布の説明図である。
【図5】異なる媒質の界面を平面圧力波が透過する際の圧力波の様子を表す説明図である。
【図6】他の実施例の気泡衝撃圧の圧力伝播経路の一例を示す図である。
【図7】振動加速度を、圧力伝播係数を用いてプロットした図である。
【図8】一実施例で測定したキャビテーション衝撃力と頻度の関係の説明図である。
【図9】同じくキャビテーション衝撃力と頻度の関係でキャビテーション壊食に関与するエネルギーを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例を、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明実施例の適用対象の一例である、水を作動流体とするポンプ5の断面図であり、気泡衝撃圧の圧力伝播経路の一例を示す図でもある。図1では、羽根車1は主軸2によって回転し、吸込管3から水を吸い込んで吐出ケーシング4に吐出して揚水し、振動加速度センサ4個を取付けた場合の例を示す。炭素鋼製の吸込管3や鋳鉄製の吐出ケーシング4の外面には4個の振動加速度センサ10a〜10dが設置されている。ポンプ5のある運転条件においては、羽根車1の前縁付近において図示しないキャビテーションが発生し、羽根車1の羽根面上でキャビテーション気泡が崩壊して衝撃圧を生じる。
【0022】
ここで気泡衝撃圧の発生位置を1点Pとし、点Pから各振動加速度センサ10a〜10dまでの圧力伝播経路を点線で示す1次元の直線的な経路で仮定する。例えば振動加速度センサ10cの場合、経路途中における吐出ケーシング4の流水面上の点をQ、振動加速度センサ10cの吐出ケーシング4表面での設置位置をRとすると、圧力波は水中伝播経路PQ、固体伝播経路QRを経て振動加速度センサ10cに到達する。
【0023】
図2は本発明実施例の信号処理の系統を示すブロック図である。なお、取り付ける振動加速度センサは1つでも評価可能である。図1におけるポンプ5の吸込管3や吐出ケーシング4の外面に設置された振動加速度センサ10a〜10dの出力信号は、それぞれアンプ11a〜11dに取り込まれて増幅される。この振動加速度センサ10a〜10dの共振周波数は20 kHz以上である。アンプ11a〜11dからの出力信号はA/D変換器20により、 40 kHz以上のサンプリング周波数で高速サンプリングされる。A/D変換器20からの出力信号は高速フーリエ変換器21に取り込まれ、高速フーリエ変換処理が行われる。また、フーリエ変換後の20 kHz以下の周波数成分に対し、特定の周波数帯域がフィルタリングされる。このフィルタリングには 1 kHzのハイパスフィルターと 10 kHzのローパスフィルターを用いているが、キャビテーションの様相に応じて別の周波数帯域に対応したフィルターに変更することも可能である。さらに高速フーリエ変換器21では、フィルタリングした信号のオーバーオール値が算出され、振動加速度の計測値として出力される。この振動加速度はコンピュータ22に記録される。
【0024】
コンピュータ22は、図3に示す各種プログラム31〜36、及び各種のデータベース41〜42からなるデータ処理手段23を搭載している。データ処理手段23には、上記した各種プログラム31〜36をそれぞれ実行する各手段31a〜36a(詳細は後述)を内蔵している。
【0025】
上記各種プログラムは、『振動加速度計測値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出するプログラム31』、『キャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを算出するプログラム32』、『キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定するプログラム33』、『しきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を求めるプログラム34』、『最大壊食速度の計算プログラム35』、および『壊食量の計算プログラム36』からなる。
【0026】
上記各種データベースは『材料毎のしきい値のデータベース41』、『材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベース42』からなっている。
【0027】
以下では、本発明のデータ処理手段23の基本的な考え方について説明する。はじめに、図3に示すステップS31の『振動加速度計測値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出するプログラム31』を用いて、説明する。図4は、図1、2で説明した本発明の適用対象、信号処理方法から得られた振動加速度分布の例である。吸込管3や吐出ケーシング4の構造や材質の影響を受け、振動加速度センサ10a〜10dから得られた振動加速度の値は大きくばらついている。また、各振動加速度の計測誤差も大きい。振動加速度センサ10bの振動加速度α2は振動加速度センサ10cの振動加速度α3の約4倍であり、1つのセンサの振動加速度を元にキャビテーション気泡衝撃圧を評価するのは不適当である。そこで、以下の考えに基づいてキャビテーション気泡衝撃圧を抽出する。図1に示したように、1点Pにおいて気泡衝撃圧 p が生じ、初期振幅 p 、 周波数 f (一定)の平面圧力波として伝播すると仮定する。この圧力波が経路長 L の媒質 i (水や固体)の中を音速 C で伝播する際、経路長 L の中に含まれる波数は L / C となる。この媒質の減衰係数をδとすると、経路長 L を伝播した後に圧力波の振幅
【0028】
【数1】

【0029】
倍に減衰する。一方、図5に示すように異なる媒質 i、 i+1 の界面を平面圧力波が透過する際、その振幅は
【0030】
【数2】

【0031】
倍になる。ここでτは透過率であり、Z=ρは音響インピーダンスである。従って、複数(n 種類)の媒質の中を伝播する場合、加速度センサに到達する圧力波の振幅は、
【0032】
【数3】

【0033】
で表される。図1の場合、n= 2、 i=1 (水中伝播経路PQ)、i=2 (固体伝播経路QR)である。また、図6に示すような図1とは異なる圧力伝播経路を考えると、点Pから点Rまで複数の異なる経路をそれぞれ伝播してきた圧力波の振幅の最大値は、
【0034】
【数4】

【0035】
で表せる。圧力伝播経路は多数仮定することが可能であるため j=1、2、… であるが、図1、6で示した圧力伝播経路のみを仮定する場合、j=1 は図1、j=2 は、図6の場合に対応する。
【0036】
一方、センサを設置した固体部(n 番目の媒質)密度および経路長をρ、L(図1のPQ間距離)、計測された振動加速度をα (m=1、2、…)とすると、本模型ポンプではセンサを設置した固体部内でほとんど圧力波が減衰しないため、その固体部はρ×L×G の圧力を受けて振動する。この圧力は式(4)で表される圧力と等価であるため、
【0037】
【数5】

【0038】
と表せる。ここで、圧力伝播係数 R を次式で定義すると、
【0039】
【数6】

【0040】
【数7】

【0041】
となる。式(6)が示すように、圧力伝播係数 R は材料の物性や形状に依存する抵抗係数である。気泡衝撃圧 p はある運転条件において一定であると仮定すると、本理論上では式(7)より、R の値に応じて比例的な α が計測されることになる。
【0042】
本模型ポンプではモータの振動やキャビテーション以外の流動現象等に起因する振動加速度βも加わるため、式(7)は
【0043】
【数8】

【0044】
の形に修正される。これを図7に示すように横軸に R 、縦軸に α を取ってプロットすると、理論上では各計測点は切片βを通る直線上に位置し、その傾きが p に相当する。
【0045】
次に、図3のステップS32で、『キャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを算出するプログラム32』を用いてキャビテーション気泡衝撃圧をキャビテーション強さに換算する。ここでキャビテーション強さとは、単位時間・単位面積当たりのキャビテーションエネルギーを言う。キャビテーション強さ I (W/m)は、キャビテーション気泡の崩壊の崩壊に伴い発生する単位面積、単位時間あたりのエネルギーであり、(8)式で得られた気泡衝撃圧 p の値から、次式を用いて算出できる。
【0046】
【数9】

【0047】
ここで、ρ (kg/m)は水の密度、c (m/s)は水中音速である。
【0048】
このように、図3のステップS32では、プログラム32によってキャビテーション気泡衝撃圧から直接キャビテーション強さを算出することができるので、流体機械の外面に振動加速度センサを取りつけるだけで簡単にキャビテーション強さが得られる。
【0049】
次に、図3のステップS33で、『キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定するプログラム33』を用いてキャビテーション強さから流体機械に発生しているキャビテーション衝撃力のエネルギー分布を推定する。
【0050】
本プログラムを構築するには、キャビテーション試験機などにより、流体中にて強さの異なるキャビテーションを発生させ、キャビテーション強さとキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布の近似式を求める必要がある。この目的に合致する試験機としては、例えばASTM(American Society for Testing and Materials)のG134−95に規定されている噴流試験装置やASTMのG32−03に規定されている磁わい振動装置などが挙げられる(図示しない)。本装置において、図示しないセンサにキャビテーション衝撃力を負荷することにより、キャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を測定する。この測定結果の例を図8に示す。図8に示すキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を種々のキャビテーション強さに関して取得することにより、キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布の関係を推定するプログラム33を構築する。
【0051】
以上で流体機械に作用するキャビテーションエネルギーが推定できるが、このキャビテーションエネルギーのすべてがキャビテーション壊食に関与するわけではない。これは、それぞれの材質に対してキャビテーション壊食を発生する最低限のキャビテーション衝撃力が存在するためであり、その衝撃力を『しきい値』と呼称する。これを図9中に例示する。この『しきい値』は前述の噴流試験等で測定することができ、材料毎の値が図3の『しきい値データベース41』に蓄積されている。上記のデータベース41から、流体機械の材質における『しきい値』を確定する。すなわち、図3のステップS34で、『しきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を求めるプログラム34』を用いて前記プログラム33で推定されたエネルギー分布のうち、この『しきい値』以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出する。
【0052】
なお、図8は測定したキャビテーション衝撃力と頻度の関係の説明図であり、図9は同じくキャビテーション衝撃力と頻度の関係でキャビテーション壊食に関与するエネルギーを示す説明図である。
【0053】
次に、図3のステップS35で、『しきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベース42』と『最大壊食速度の計算プログラム35』により、キャビテーション衝撃力のエネルギー分布の中で流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和から最大壊食速度を求める。
【0054】
更に、図3のステップS36で、『壊食量の計算プログラム36』を用いて流体機械の運転時間を入力すると、壊食量の予測値が計算される。
【0055】
このように実施例の本予測法を用いることにより、設計した流体機械の寿命を正確に予測することが可能である。またポンプの点検時期や補修または交換時期を容易かつ正確に決定することも可能となる。しかも、予測の対象となる流体機械を分解することなく、流体機械の外面に振動加速度センサを取りつけるだけで簡単にキャビテーション壊食量を予測することができる。
【実施例2】
【0056】
実施例2は、図2に示す本発明の信号処理方法ブロック図の一例において、振動加速度センサ10a〜10dと、その信号を増幅するアンプ11a〜11dと、増幅された出力信号をサンプリングするためのA/D変換器20と、A/D変換器20からの出力信号を高速フーリエ変換処理及びフィルタリング処理したオーバーオール値(振動加速度値)を算出するための高速フーリエ変換器21と、高速フーリエ変換器21から出力される振動加速度計測値を記録するコンピュータ22を組合わせて、キャビテーション壊食量の予測装置を構築したものである。そして、上記コンピュータ22は図2に示すように、データ処理手段23を内蔵し、このデータ処理手段23は次の各手段を備えている。
【0057】
すなわち、図3のステップS31で『振動加速度計測値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出するプログラム31』を実行する、振動加速度計測値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出する抽出手段31aと、ステップS32で『キャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを算出するプログラム32』を実行するキャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを算出する強さ算出手段32aと、ステップS33で『キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定するプログラム33』を実行するキャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定する推定手段33aと、ステップS34で『材料毎のしきい値のデータベース41』と『しきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を求めるプログラム34』により、しきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を求める総和算出手段34aと、ステップ35で『材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベース42』と『最大壊食速度の計算プログラム35』によって最大壊食速度を求める壊食速度算出手段35aと、ステップ36で『壊食量の計算プログラム36』を用いて流体機械の運転時間を入力することにより前記最大壊食速度から最大壊食量を求める壊食量算出手段36aからなっている。
【0058】
本実施例によれば、予測の対象となる流体機械を分解することなく、流体機械の外面に振動加速度センサを取りつけるだけで、振動加速度センサからの振動加速度計測値に基いて簡単にキャビテーション壊食量を予測することが可能である。
【0059】
また、本計測装置は持ち運び可能であるため、ポンプ機場など実際にポンプを使用している場所に持ち込み、稼動中のポンプの壊食量を計測することが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1…羽根車、2…主軸、3…吸込管、4…吐出ケーシング、10a〜10d…振動加速度センサ、11a〜11d…アンプ、20…A/D変換器、21…高速フーリエ変換器、22…コンピュータ、23…データ処理手段、31…振動加速度計測値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出するプログラム、32…キャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを求めるプログラム、33・・・キャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定するプログラム、34…しきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を求めるプログラム、35・・・最大壊食速度の計算プログラム、36…壊食量の計算プログラム、41…材料毎のしきい値データベース、42…材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベース、31a…抽出手段、32a…強さ算出手段、33a…推定手段、34a…総和算出手段、35a…壊食速度算出手段、36a…壊食量算出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビテーションによる壊食量を予測する対象となる流体機械に、振動加速度センサを取りつけ、前記振動加速度センサにより計測された振動加速度の値から、特定の周波数領域を除去し、
キャビテーション発生位置から振動加速度センサ取付け位置まで伝播する圧力波の減衰率や異種媒質界面での透過率及びセンサ取付け部の壁厚さと密度を考慮して算出される所定の抵抗係数を用い、振動加速度の値からキャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧を算出し、
前記キャビテーションの気泡崩壊による衝撃圧から前記流体機械に生じているキャビテーション強さを算出し、
前記算出した流体機械に生じているキャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定し、
前記キャビテーションエネルギー分布の中で前記流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、
前記材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和と、予め求めた最大壊食速度の関係から前記流体機械における最大壊食速度を算出し、
前記最大壊食速度と前記流体機械の運転時間とから前記流体機械におけるキャビテーションによる最大壊食量を予測することを特徴としたキャビテーション壊食量の予測方法。
【請求項2】
請求項1記載のキャビテーション壊食量の予測方法において、
材料毎のしきい値のデータベースに基づいて、前記キャビテーションエネルギー分布の中で前記流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベースに基づいて前記流体機械における最大壊食速度を求めることを特徴としたキャビテーション壊食量の予測方法。
【請求項3】
振動加速度センサと、
前記振動加速度センサの出力信号を増幅するアンプと、
前記アンプの出力信号を高速サンプリングするAD変換器と、
このAD変換器から出力される振動加速度の波形を高速フーリエ変換して特定の周波数域を除去した振動加速度値を算出する高速フーリエ変換器と、
この高速フーリエ変換器から出力される振動加速度値を記録するコンピュータを備え、
前記コンピュータは、記録された振動加速度の値からキャビテーション気泡衝撃圧を抽出する抽出手段と、前記キャビテーション気泡衝撃圧からキャビテーション強さを求める強さ算出手段と、このキャビテーション強さからキャビテーション衝撃力をパラメータにしたキャビテーションエネルギー分布を推定する推定手段と、このキャビテーションエネルギー分布の中で材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出する総和算出手段と、この材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和と予め求めた最大壊食速度の関係から最大壊食速度を求める壊食速度算出手段と、流体機械の運転時間を入力することにより前記最大壊食速度から最大壊食量を求める壊食量算出手段からなるデータ処理手段を有することを特徴としたキャビテーション壊食量の予測装置。
【請求項4】
請求項3記載の上記キャビテーション壊食量の予測装置において、
更に、材料毎のしきい値のデータベースと材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベースを備え、上記総和算出手段は、上記材料毎のしきい値のデータベースに基いて前記キャビテーションエネルギー分布の中で前記流体機械の材料に壊食を生じさせるしきい値以上のキャビテーションエネルギーの総和を算出し、上記壊食速度算出手段は、上記材料毎のキャビテーションエネルギーの総和と最大壊食速度の関係のデータベースに基づいて、前記流体機械における最大壊食速度を求めることを特徴としたキャビテーション壊食量の予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−157894(P2011−157894A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21115(P2010−21115)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】